説明

ワクチン製剤およびその使用

改変されたワクシニアアンカラ(modified vaccinia Ankara)(MVA)ウイルス、またはその改変体もしくは誘導体、およびマンニトールを含む、液体組成物または液体凍結組成物であって、ここで、マンニトールがその組成物の唯一の安定化剤である。上記マンニトールは、0〜+10℃での、または液体凍結組成物中において、例えば、−10℃と−30℃との間もしくは−20℃と−23.5℃との間での安定化効果を提供し得る。上記MVAは、ワクチンとして使用され得るか、または哺乳動物、好ましくは、ヒトにおける遺伝子療法、ウイルス療法、免疫療法、もしくはがん療法での使用のためであり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定した、ウイルス製剤およびウイルスを基にしたワクチンに関連する。水の凍結点より下の温度でウイルスを安定化することに関して難しいのは、凍結および融解の間、構造構成要素および機能構成要素の物理的な崩壊を防ぐことである。保存の間、安定性を確実にするために、一般に感染性ウイルスのストックは≦−60℃で保存されていた。その上、チルド冷却された(chilled)(例えば、5−8℃)ウイルスの調製物は、限定された安定性を有し得る。
【背景技術】
【0002】
改変されたワクシニアアンカラ(Modified Vaccinia Ankara)(MVA)は、高度に弱毒化された、ポックスウイルス科オルトポックスウイルス属の一員である。外来遺伝子を発現するように操作されたポックスウイルスは、生物医学的研究における、標的タンパク質の合成およびワクチン開発のための確立されたツールである。その有利な特性としては、組換えDNAをパッケージングする大きな収容力、標的遺伝子発現についての正確なウイルス特異的制御、宿主内での持続性の欠如または宿主内でのゲノム組込みの欠如、ワクチンとしての高い免疫原性、ならびにベクターおよびワクチン生産の容易さが挙げられる。
【0003】
安全性についての懸念により、ヒトの細胞での複製に欠陥のあるウイルスの開発が開始された後、MVAは、ワクシニアウイルス(VV)痘瘡(smallpox)ワクチンに代わるものとして現れた。ニワトリ胚線維芽細胞における570回より多い回数の継代培養後、MVAは、ヒトの細胞を含む哺乳類に由来する多くの細胞で有効には増殖できず、VVの広い細胞宿主域を失った。MVAは、深刻な問題なく100,000人より多くの人の一次痘瘡(smallpox)ワクチン接種に使用されており、かつ、実験動物において試験後、毒性がないとみなされた。
【0004】
ほとんどの目的のために、MVAベクターの生成には、VV特異的プロモーターの制御下で配置された1つまたは2つの組換え遺伝子を有するプラスミドからの、単一のゲノムの挿入が必要である。MVAゲノム内でか、またはVVタンパク質チミジンキナーゼもしくは血球凝集素をコードする遺伝子座内で天然に存在する欠失部位が、組換え遺伝子配列の挿入部位として機能する。
【0005】
多くの先行研究が、ヒトについての複数のウイルス感染に対するMVA組換えワクチンの候補の開発に捧げられている。このウイルス感染としては、AIDSを引き起こすもの、インフルエンザ、学齢期前呼吸器疾患(early childhood respiratory disease)、麻疹、日本脳炎、デング熱、またはマラリアが挙げられる。AIDSに対して有効なワクチンが緊急に必要とされているので、免疫不全ウイルス抗原を生産する組換えMVAは、ヒトにおける候補ワクチンとして評価されるべき最初のベクターウイルスの中の1つである。
【0006】
ウイルスは、細胞区画と細胞外液との間でかなり変動し得るそのウイルスのネイティブ環境外でしばしば不安定である。特定の条件が維持されない場合、精製されたウイルスは、適切に機能しないことがあり得、または可溶性のままでいられないことがあり得る。さらに、ウイルスタイターは、タンパク質分解、凝集、および最適に及ばない緩衝条件によって影響され得る。例えば、ワクチン接種での使用のための精製されたウイルスは、そのウイルスのもともとの構造の完全性および/または活性を保持しながら、長期間保存されることがしばしば必要である。保存の程度「貯蔵寿命」は、数週間と1年より長い期間との間で変動し得、かつウイルスの性質および使用される保存条件に依存している。
【0007】
安定性を確実にするために、治療のためのウイルス製剤は、別個にパッケージされた水溶性希釈剤中で使用直前に溶解されるべき凍結乾燥された物質として一般に供給される;しかしながら、このプロセスは、製造原価を増大させ、かつ、その凍結乾燥されたタンパク質は、使用直前に溶解されることが必要であるので不適当な投与の危険性が高まることを包含し、そして、通例、その凍結乾燥プロセス後に、感染タイターの損失が見られる。あるいは、治療のためのウイルス製剤は、安定性を改良するための添加物を含む液剤として供給され得る。例えば、タンパク質液剤を製剤にするのに有用な遊離アミノ酸(例えば、ロイシン、トリプトファン、セリン、アルギニンおよびヒスチジン)のような添加物が提案されてきた。現在、市場で入手することができるある種のウイルス製剤は、安定剤としてタンパク質を含む。ヒト血清アルブミン(HSA)または精製されたゼラチンが、ウイルス液剤中での化学変化および物理変化を抑えるために使用され得る。しかしながら、これらのタンパク質の添加は、ウイルスコンタミネーションを除去する複雑なプロセスを包含する。さらに、それらは、それらの使用を限定する強いアナフィラキシー反応をもたらし得る。
【0008】
液体ウイルス製剤は、一般に凍結された固体として保存される。従来の低温保存(cryopreservation)は、ガラス化を促進するためにある範囲の添加物を利用する。ガラス化は、熱のすばやい除去もしくは添加によるか、または添加物と混ぜることによって物質をあらゆる結晶性構造のないガラスのようなアモルファス固体に変えるプロセスである。ガラス状固体の凝固は、ガラス転移温度(過冷却に起因して融解温度、Tより低い温度)で起こる。低温生物学で使用される添加物、または極地に生息する生物によって天然に生産される添加物は、凍害防御物質(cryoprotectant)と呼ばれる。従来の凍害防御(cryoprotection)は、生物学的物質の長期保存に最も有利である固体状態を達成すること、すなわち液体状態から固体状態への転移に焦点を合わせる。
【0009】
しかしながら、一旦、固体凍結状態が達成されると、ウイルス組成物が不安定であり得るのは、本研究の驚くべき発見である。
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の局面は、液体組成物または液体凍結組成物を提供し、その組成物は、以下:
(a)改変されたワクシニアアンカラ(modified vaccinia Ankara)(MVA)ウイルス、またはその改変体もしくは誘導体;
および
(b)マンニトール
を含み、
ここで、(b)はその組成物の唯一の安定化剤である。
本発明の上記組成物は、安定である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
マンニトールは、凍結乾燥されたウイルスワクチン製剤中で、充填剤またはケーキング(caking)剤としてたびたび使用される。例えば、Maa et al.(2004、J.Pharm.Sci.、93(7):1912−1923)は、マンニトール、デキストランおよびイノシトールを含む噴霧凍結乾燥(spray−freeze−dried)インフルエンザワクチン製剤を開示する。著者らは、初めはマンニトールを吸湿性の薬剤として使用していたが、さらに、ワクチンの安定性が脱水された粒子の機械的な強さの増大によって改良されるとも仮定した。
【0012】
凍結乾燥された、MVAを基にしたワクチン中での安定剤としてのマンニトールの使用は、当該分野において公知である。Zang et al.(2007、Chem.Res.Chinese U.、23(3):329−332)は、トレハロース、マンニトール、デキストランおよびイノシトールを含む、安定した、凍結乾燥されたMVAワクチン組成物を記載した。トレハロースおよびデキストランは、ネイティブタンパク質構造の保護を促進すると報告された。他方、マンニトールおよびイノシトールはフリーラジカル酸化インヒビターとして作用すると言われていた。
【0013】
マンニトールはまた、MVAを基にしたワクチンを含む液体ワクチン製剤中でも使用されてきた。米国特許出願第11/202,516号は、トレハロースおよび/またはデキストランと一緒にマンニトールを可能性のある賦形剤として、その概括的な開示において列挙した。しかしながら、マンニトールについて所望される特性は、ひとつも記載されなかった。同様に、米国特許出願第10/379,572号は、AFFA(栄養等級の魚油)、ヘタスターチ、およびグリセロールを含む他の賦形剤とともにマンニトールを必要に応じて含む、経口MVA−痘瘡(smallpox)ワクチン製剤を開示した。ここでもまた、マンニトールの所望する機能上の特性は、ひとつも記載されなかった。米国特許第7,256,037号は、等張剤としてマンニトールを必要に応じて含むMVA液体製剤を記載した。
【0014】
液体ウイルスワクチン組成物および液体凍結ウイルスワクチン組成物中での安定化剤としてのマンニトールの使用もまた報告されてきた。国際公開第2001/066137号および国際公開第2005/052116号において、マンニトールは、凍害防御物質およびフリーラジカルスカベンジャーの両方であるとの理由で、ウイルス安定剤として言及された。国際公開第2001/066137号はまた、その組成物(複数)のウイルスは、必要に応じてワクシニアウイルスであり得るとも述べた。さらに、米国特許第4,147,772号もまた、液体ワクチン製剤の安定剤としてマンニトールに言及した。しかしながら、これらの開示のどれも唯一の安定化剤としてマンニトールを利用しなかった。むしろ、安定性は、マンニトールを含み得る賦形剤の組合せを用いて達成された。
【0015】
用語「改変体」は、本明細書において、ウイルスゲノムが、改変されたワクシニアアンカラ(modified vaccinia Ankara)(MVA)(GenBankアクセッション番号AY603355、VRL2004年5月15日)の核酸配列と100%の核酸配列の同一性を共有しないが、依然として痘瘡(smallpox)に対する免疫を与え得、かつニワトリ胚線維芽細胞を感染させ得、他方ヒトHeLa細胞系において複製し得ないことを意味する。例えば、そのゲノムは、MVAの核酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸配列を含み得、より好ましくは、上記核酸(nucleic)配列に対して、少なくとも91%の同一性、少なくとも92%の同一性、少なくとも93%の同一性、少なくとも94%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも96%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、または少なくとも99%の同一性を有する核酸配列を含み得る。
【0016】
同一性%は、当該分野において周知である方法によって決定され得る。例えば、グローバルアライメントオプション、スコアリングマトリックスBLOSUM62、オープニングギャップペナルティ−14、エクステンディングギャップペナルティ−4をパラメーターとして用いるExpasyファシリティーサイトのLALIGNプログラム(Huang and Miller、Adv.Appl.Math.(1991)12:337−357)を用いて決定され得る。
【0017】
用語「誘導体」は、本明細書において、ゲノムの挿入、ゲノムの欠失および/またはゲノムの置換を含む組換えMVAを意味する。
【0018】
用語「安定である」は、本明細書において、8℃±2℃または−23℃±5℃で4週間の保存後の組成物についてのウイルスタイターが、保存前の、その組成物のもともとのウイルスタイターの少なくとも20%であることを意味し、好ましくは、もともとの感染力の、少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%を意味し、そして、最も好ましくは、もともとのウイルスタイターの、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%を意味する。好ましくは、その組成物のウイルスタイターは、少なくとも3ヶ月の保存後にこの/これらのレベルで維持され、好ましくは、6ヶ月の保存後に、1年の保存後に、2年の保存後に、3年の保存後に、または4年の保存後にこの/これらのレベルで維持され、最も好ましくは、5年の保存後またはそれより長い年数の保存後にこの/これらのレベルで維持される。
【0019】
用語「安定化剤」は、本明細書において、薬剤であって、その薬剤を欠いている同等の組成物と比較して、ウイルスタイターの維持を促進する薬剤を意味する。代表的に、不安定性は、凍結保存1ヶ月〜複数月以内に比較研究において検出され得る。しかしながら、本発明の薬剤によって提供される安定化効果は、5年またはそれより長い年数であり得る組成物の全寿命に及び得る。好ましくは、安定化剤を含む組成物が、8℃±2℃または−23℃±5℃での4週間の保存後にその安定化剤を欠いている同等の組成物より少なくとも20%大きなウイルスタイターを有し、より好ましくは、少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、より大きなウイルスタイターを有する。好ましくは、その安定剤を含む組成物のウイルスタイターが、その安定化剤を欠いている同等の組成物と比較して、少なくとも3ヶ月の保存後にこの/これらのレベルで維持され、そして、好ましくは、6ヶ月の保存後に、1年の保存後に、2年の保存後に、3年の保存後に、または4年の保存後にこの/これらのレベルで維持され、そして、最も好ましくは、5年の保存後またはそれより長い年数の保存後にこの/これらのレベルで維持される。用語「安定化剤」は、本明細書において、代表的な薬学的組成物賦形剤を含まない。その薬学的組成物賦形剤としては、例えば、保存剤、緩衝剤、抗菌剤、充填剤/増量剤、粘性剤、等張剤、洗剤、乳化剤、および界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
反対に、本明細書において、用語「安定化剤」としては、単純な糖(例えば、スクロース、デキストロース、グルコースおよびフルクトース);糖アルコール/ポリオール(例えば、グリセロール、ソルビトール、キシリトール、エリトリトールおよびイノシトール);および血清アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)またはウシ血清アルブミン(BSA))が挙げられる。
【0021】
ウイルスタイターは、プラークアッセイ(適切な場合)またはTCID50アッセイなどのような、当該分野において公知である任意の標準技術を用いて測定され得る。ウイルスプラークアッセイにおいて、ある種の栄養培地に含まれる目に見える構造が細胞培養物中に形成される。細胞培養物中で繁殖させることによって、ウイルスは、プラークとして知られる細胞破壊ゾーンを生み出す。これらのプラークは、ウイルスタイターを決定するために、時には肉眼で、および時には他の技術(例えば、染色法、顕微鏡法、血球吸着または免疫蛍光法)によって、視覚により検出され得る。
【0022】
TCID50(50%組織培養感染量)アッセイは、感染因子(例えば、ウイルス)が一定数の感受性組織培養物上に接種されるときの、個々の培養物の50%を感染させる感染因子(例えば、ウイルス)の量を決定する。
【0023】
TCID50を決定するために、ニワトリ胚細胞(CEC)が調製される。例えば、以下に本質的に記載するように、米国特許第5,391,491号の(血清を用いる、または血清を用いない)方法にしたがって、調製される。マイクロタイタープレートに、5×10±20%細胞/mlの濃度で、100μlのCEC懸濁物が播種される。そのプレートはCOインキュベーター内において36±2℃で一晩中インキュベートされる。
【0024】
サンプルおよびコントロール調製物(コントロール)は、希釈前に超音波で処理される。サンプルおよびコントロールは、細胞培養培地で10倍ずつの段階で希釈され、整数ログ(integer log)または半対数(half−logarithmic)の段階をカバーする希釈系列を生成する。適切な希釈段階の数は、予想されるウイルスタイターによる。組換えMVAプラシーボサンプルは、希釈されていないサンプルで開始して試験される。
【0025】
調製された、サンプル希釈物またはコントロール希釈物は、CEC単層を含む、調製されたマイクロタイタープレートにそれぞれ8回、各100μl移動される。さらなる8ウェルに細胞培養培地がネガティブ(細胞)コントロールとして接種される。続いて、そのマイクロタイタープレートは、COインキュベーター内において36±2℃で5±1日間インキュベートされる。
【0026】
細胞層における局所性病変(MVAによって引き起こされる細胞変性効果(CPE))について、マイクロタイタープレートのウェルがリバース光学顕微鏡の下で検査される。各希釈でのCPEを示しているウェルの割合からTCID50が計算される。
【0027】
上記細胞コントロールにCPEがなく、かつ、ポジティブコントロールのウイルスタイターが所望される値の範囲にある場合、本アッセイは有効であるとみなされる。TCID50の統計計算は、適切なコンピュータープログラムを使って、公知のアルゴリズム(例えば、Reed&Muench、1938、Am.J.Hyg.、27:493−497)にしたがって行われる。1つのサンプルについて2重の決定または多重の決定の計算は、代表的に個々に行われる。全ての有効な個々の結果についての算術平均は、次の式を用いて計算される:
【0028】
【数1】

X=算術平均、サンプルのウイルスタイター[TCID50/ml]
=有効な個々の結果、サンプルのウイルスタイター[TCID50/ml]
n=個々の決定の数
凍結された食物の長期保存に使用される、従来のフリーザーまたは従来の低温室は、一般に生ワクチンの保存にも使用される。それらは、≦−15℃で作動するように設計されるが、頻繁に−18℃と−26℃との間の温度に達する。
【0029】
ワクチン組成物は、従来のフリーザー温度より低い温度(例えば、(生物学的物質の長期保存のための産業用フリーザーにおいて)−80℃または(液体窒素中において)−160℃)で保存され得る。従来の冷蔵温度(例えば、2℃〜8℃)または周囲温度でワクチンを保存することが好ましいことがあり得る。
【0030】
ワクチンの凍結保存は、費用がかかるのと環境上損害を与えるという両方であり、それは、冷やすこと(refrigeration)が原因の、電気消費および化学物質の生成/放出に起因する。とりわけ、暑い気候の地域において、そして特に製造所(manufacturing laboratory)から利用場所までの低温度保存ラインの維持が必要とされる場合に、冷やすことが不十分になり得るか、または冷やすことが遮られ得る。ゆえに、偶然に高温に曝されるときに劣化によく耐える力のある、安定した、耐熱のワクチンを提供することが好ましい。保存および出荷(shipment)についての極めて徹底的な制限に従うことによってさえ、ワクチンの、保存および出荷の間にそのワクチンが高温に曝されることを避けることが常に可能とは限らない。このことは、上記ワクチンのウイルスタイターの損失を引き起こし得、それゆえに、そのワクチンの活性の損失を引き起こし得る。このように、過冷蔵温度(hyper−refrigeration temperature)でのウイルスの安定性をも改良する添加物を提供することが望ましい。
【0031】
好ましくは、上記組成物が固体状態にあるときに(例えば、その組成物が凍結温度より低い(すなわち、液体凍結組成物である)ときに)その組成物のウイルスに対しての安定化効果をマンニトールが提供する。また、上記組成物が固体状態にないときに(例えば、その組成物が凍結温度より高い(すなわち、液体組成物である)ときに)マンニトールが安定化効果を提供することも好ましい。好ましくは、上記組成物の上記マンニトールが、10℃と0℃との間(例えば、8℃と2℃との間、6.5℃と3.5℃との間、または5℃と3℃との間)の保存温度で安定化効果を提供し得る。
【0032】
マンニトールは、上記組成物の再結晶ウインドー(window)において安定化効果を提供し得る。用語「再結晶ウインドー(window)」は、温度範囲を指し、その範囲では、所定の圧力で、(例えば、氷またはクラスレート水和物における)ある結晶構造が異なる結晶構造に転移することができるものであり、アモルファス構造から結晶構造に、または結晶構造からアモルファス構造に転移することができる。この物理的転移は、凍結された液体中に懸濁される物質に、またはそうでない場合に凍結された液体中に含まれる物質に機械的応力(例えば、圧縮またはせん断)をもたらす。ウイルスを適度に低い温度(例えば、≦−15℃かつ≧−28℃)での不活性化から守る重要な要素は、凍結および保存の間に上記構造および機能構成要素の、変性または破壊(rupture)を防ぐことである。
【0033】
用語「再結晶」は固体状態の液体(例えば、氷)の相転移に関係する。普通の、氷および雪は、六角結晶構造(氷I)を有する。変動する、温度および/または圧力に左右されるため、氷は12の異なる相より多くの相において形成し得る。これらは、II、III、V、VI、VII、VIII、IXおよびXを含み;これらのそれぞれが雰囲気圧で形成され得る。氷の異なるタイプは、その氷の、結晶性構造、秩序化、および密度によって区別される。また、圧力下での氷についての2つの準安定相があり、両方とも完全に水素が無秩序、すなわちIVおよびXIIである。
【0034】
結晶性形状および固体の水(solid water)は、固体状態においてアモルファス固体の水(ASW;amorphous solid water)として存在し得る。アモルファス氷(amorphous ice)は、結晶構造を欠いている氷であり、かつ少なくとも3つの形状が存在する:気圧またはそれより低い圧力で形成される低密度のアモルファス氷(LDA)、より高い圧力で形成する、高密度のアモルファス氷(HDA)および非常に高密度のアモルファス氷(VHDA)。LDAは、液体の水を極めてすばやく冷却することにより形成するか(「過急冷ガラス状水」、HGW;hyperquenched glassy water)、非常に低温の基質上に水蒸気を蒸着すること(depositing)により形成するか(「アモルファス固体の水」、ASW)、または雰囲気圧で氷の高密度形状を熱することにより形成する(「LDA」)。しかしながら、ウイルス組成物中における多数の溶質の存在は、純粋な氷では見られない、結晶形および相転移が可能であることを意味する。
【0035】
この組成物の再結晶ウインドーは、例えば、−10℃と−30℃との間、または、−20℃と−23.5℃の間であり得る。
【0036】
再結晶ウインドーは、示差熱分析(DTA)または示差走査熱分析(DSC)などを用いて決定され得る。
【0037】
熱分析は、物質の物理的性質が温度の関数として測定される一群の技術を含み、そして、その物質は制御された温度プログラムにかけられる。示差熱分析において、サンプルと不活性基準物質との両方が同一の熱処理を受ける場合に、そのサンプルとその不活性基準物質との間に生じる温度差異が測定される。示差走査熱分析の関連する技術は、上記サンプルおよび基準を同一の温度で維持するために必要とされるエネルギーの差異に依存する。物質を熱処理にかける際に起こる、長さ変化または体積変化は膨張計測において検出される;X線または中性子線回折の両方もまた、寸法変化(dimensional change)を測定するために使用され得る。熱重量測定および発生気体分析は、上昇した温度で分解するサンプルに依存する技術である。前者は、熱する際の試料の質量における変化をモニターし、他方、後者は、サンプルを熱する際に発生するガスに基づく。上記技術からのデータは、物質の欠陥密度(defect density)における変化に関連し得るか、または相転移(例えば、結晶化または再結晶化)を調べることに関連し得る。
【0038】
例えば、結晶化および他の相転移は、(TA Instruments、New Castle、Delaware、USAから入手することができる)DCS Q1000示差走査熱量計を用いて、製造業者の指示にしたがって決定され得る。
【0039】
本組成物は、ワクチンであり得るか、または遺伝子療法、ウイルス療法(virotherapy)、免疫治療法、もしくはがん療法での使用のためであり得る。好ましくは、その組成物は、生ワクチンである。その組成物は、哺乳動物の、好ましくは、ヒトのワクチン接種のためであり得る。
【0040】
遺伝子療法は、疾患、および欠陥を有する変異対立遺伝子が機能的なものと入れ替わる遺伝病を処置するための、個人の細胞および個人の組織への遺伝子の挿入である。このテクノロジーは、依然としてその初期にあるが、ある種の成功を伴い使用されてきた。アンチセンス療法は、厳密には遺伝子療法の形式ではないが、遺伝子媒介療法(genetically−mediated therapy)であり、しばしば他の方法と合わせて考えられる。
【0041】
ウイルス療法は、健康な細胞が損傷を受けないまま、がん性細胞を標的攻撃するために改変されるウイルスを用いた、がん治療の形式である。免疫治療法は、個人の受動免疫であって、別の個人において能動的に生成される、前もって形成された抗体(血清またはγグロブリン)の投与による個人の受動免疫である;だんだん意味が広がって、この用語は、免疫増強物質の使用、免疫応答性リンパ組織(例えば、骨髄または胸腺)の置換などを含むようになった。
【0042】
ウイルスは、以下から選択されるウイルス科におけるウイルスによって引き起こされる疾患または状態に対するワクチン接種のためであり得る;アデノウイルス科、フラビウイルス科、ヘルペスウイルス科、ヘルパドナウイルス科(Herpadnaviridae)、オルトミクソウイルス科、パポバウイルス科、パラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、ポックスウイルス科、レオウイルス科、レトロウイルス科、ラブドウイルス科およびトガウイルス科。
【0043】
ウイルスは、アデノウイルス、単純ヘルペス、水痘・帯状疱疹、サイトメガロウイルス、エプスタイン−バーウイルス、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス、パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、RSウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、ライノウイルス、A型肝炎ウイルス、ワクシニア、痘瘡(variola)、ロタウイルス、ヒトTリンパ球向性ウイルス−1、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、狂犬病ウイルス、風疹ウイルス、アルボウイルスにより引き起こされる疾患または状態に対するワクチン接種のためであり得るか、またはAfipia spp、Brucella spp、Burkholderia pseudomallei、Chlamydia、Coxiella burnetii、Francisella tularensis、Legionella pneumophila、Listeria monocytogenes、Mycobacterium avium、Mycobacterium leprae、Mycobacterium tuberculosis、Neisseria gonorrhoeae、Rickettsiae、Salmonella typhi、Shigella dysenteriae、Yersinia pestis、Plasmodium spp、Theileria parva、Toxoplasma gondii、Cryptosporidium parvum、Leishmania、Trypanosoma cruziおよびCryptococcus neoformansを含む細胞内病原体/細胞内寄生体により引き起こされる疾患または状態に対するワクチン接種のためであり得る。
【0044】
特に、ウイルスは、痘瘡(smallpox)または黄熱に対するワクチン接種のためであり得る。
【0045】
あるいは、ウイルスは、免疫療法(組換えウイルスによって発現される腫瘍関連抗原(TAA)による免疫応答の誘導)、(腫瘍親和性を伴う生ウイルスによる腫瘍崩壊性療法を含む、上記参照の)がん療法、またはウイルス関連悪性疾患の治療のためであり得る。
【0046】
ウイルスは、エンベロープのないウイルスまたはエンベロープのあるウイルスであり得る。ウイルスは、ポックスウイルス(例えば、改変されたワクシニアアンカラ(modified vaccinia Ankara)(MVA)ウイルス)であり得る。好ましくは、ウイルスは、組換えの改変されたワクシニアアンカラウイルスである。
【0047】
ウイルスは、痘瘡(smallpox)に対するワクチン接種に使用される非組換えMVAであり得る。
【0048】
ウイルスは、腫瘍関連抗原をコードする遺伝子を送達する組換えMVAポックスウイルスであり得る。このような改変されたウイルスは、免疫応答を誘導するためにがん療法において使用される。
【0049】
本組成物は、薬学的組成物を作り出すときに使用される、1つもしくはそれより多くの、保存剤、緩衝剤、等張剤、または他の従来の構成要素、(例えば、Tween(登録商標)ポリソルベート、ポリエチレングリコール、塩化カルシウム、レシチン(例えば、ホスファチジルコリン)、ホスフェート、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、レチニルパルミテート、セレン、メチオニン、クエン酸、クエン酸ナトリウムまたは合成保存剤(例えば、メチルパラベンおよびプロピルパラベン))を含み得る。本組成物は、例えば、トリス緩衝化生理食塩水(TBS)またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)でpH緩衝化されたものであり得る。
【0050】
この組成物のpHは、6と9との間であり得、例えば、6.5と8.5との間、7と8.5との間、7.5と8.5との間、または8と8.5との間であり得る。この組成物のpHは、8.2であり得る。
【0051】
この組成物は、好ましくは実質的にヒト血清アルブミンがなく、好ましくは実質的にあらゆる血清アルブミンがない。この組成物はまた、好ましくは実質的に非ウイルスタンパク質がない。
【0052】
用語「実質的にヒト血清アルブミンがない」は、本明細書において、組成物が、0.1%(w/v)のヒト血清アルブミンを含むか、またはそれより少ないヒト血清アルブミンを含むことを意味する。例えば、その組成物は、0.01%(w/v)、0.001%(w/v)、0.0001%(w/v)または0.00001%(w/v)のヒト血清アルブミンを含み得る。好ましくは、存在するヒト血清アルブミンがない。
【0053】
用語「実質的に非ウイルスタンパク質がない」は、本明細書において、組成物が、0.1%(w/v)の非ウイルスタンパク質を含むか、またはそれより少ない非ウイルスタンパク質を含むことを意味する。例えば、その組成物は、0.01%(w/v)、0.001%(w/v)、0.0001%(w/v)または0.00001%(w/v)の非ウイルスタンパク質を含み得る。好ましくは、存在する非ウイルスタンパク質がない。
【0054】
組成物は、好ましくは0.01%(w/v)と40%(w/v)との間のマンニトールを含み、例えば、0.1%と10%との間、1%と20%との間、1%と10%との間、2%と9%との間、3%と8%との間、または4%と6%との間のマンニトールを含む。最も好ましくは、組成物は約5%(w/v)のマンニトールを含む。組成物はまた、20mMのトリス、135mMのNaClも含み得、かつHClを用いてpH8.2に調整され得る。
【0055】
本発明にしたがった、経口投与に適した組成物は、分離した単位(例えば、カプセル剤またはカシェ剤)として提供され得、そのそれぞれは、その組成物のあらかじめ決められた量を;水性の液体中での液剤もしくは非水性の液体中での液剤として;またはo/w型液体乳剤もしくはw/o型液体乳剤として含む。その組成物はまた、ボーラス、舐剤またはパスタ剤としても提供され得る。
【0056】
好ましくは、本発明の組成物は、非経口投与に適している。その非経口投与としては、水性および非水性の滅菌非発熱性注射液剤ならびに水性および非水性の滅菌懸濁物が挙げられる。この注射液剤は、緩衝剤、静菌剤および上記組成物を意図された受容者の血液と等張にする溶質を含み得る。この懸濁物は、懸濁化剤および増粘剤を含み得る。その組成物は、単位用量または複数回用量の容器(例えば、密封された、アンプルおよびバイアル)の中に提供され得る。1つの実施形態において、その組成物は、実質的に水性である。
【0057】
上で特に言及された成分のほかに、本発明の製剤は、問題となる組成物のタイプを考慮して、当該分野における従来の他の薬剤を含み得ると理解されるべきであり、例えば、経口投与に適した製剤は、フレーバリング剤(flavoring agent)を含み得ると理解されるべきである。
【0058】
本発明の第二の局面は、改変されたワクシニアアンカラ(modified vaccinia Ankara)(MVA)、またはその改変体もしくは誘導体を含む、液体または液体凍結組成物を安定化する方法を提供し、十分な量のマンニトールを添加することを含む方法であって、ここで、マンニトールはその組成物の唯一の安定化剤である。
【0059】
その薬剤は上に定義されるように安定化効果を提供し得、かつ上記組成物は上に定義されるような目的のためであり得る。その組成物のウイルスは、上に定義されるようなものであり得、かつその組成物自体は上に定義されるようなものであり得る。
【0060】
本発明の第三の局面は、改変されたワクシニアアンカラ(modified vaccinia Ankara)(MVA)またはその改変体もしくは誘導体を含む、液体または液体凍結組成物を安定化するためのマンニトールの使用を提供し、ここで、マンニトールはその組成物の唯一の安定化剤である。
【0061】
その薬剤は上に定義されるような安定化効果を提供し得、かつ上記組成物は上に定義されるような目的のためであり得る。その組成物のウイルスは、上に定義されるようなものであり得、かつその組成物自体は上に定義されるようなものであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、−60℃と−80℃との間のMVA TBS(液体凍結)組成物のTCID50値。2つのMVA TBS組成物(バッチAおよびB)は、−60℃(±5℃)で39ヶ月間保存された。サンプルは間隔をおいて取り出され、TCID50値が決定された。製剤は、試験期間にわたって安定であった。
【図2】図2は、−23℃(±2℃)でのMVA TBS(液体凍結)組成物のTCID50値。MVA TBS組成物(バッチA)は、−23℃(±2℃)で36ヶ月間保存された。サンプルは間隔をおいて取り出され、TCID50値が決定された。製剤は、試験期間にわたって不安定であった。
【図3】図3は、+2℃〜+8℃でのMVA TBS(液体)組成物のTCID50値。MVA TBS組成物(バッチA)は、+2℃〜+8℃で36ヶ月間保存された。サンプルは間隔をおいて取り出され、TCID50値が決定された。製剤は、試験期間にわたって不安定であった。
【図4】図4は、+2℃〜+8℃での組換えMVA TBS−マンニトール(液体)組成物のTCID50値。3つの組換えMVA TBS−マンニトール(5w/v%)組成物(バッチD、EおよびF)は、+2℃〜+8℃で12ヶ月間保存された。サンプルは間隔をおいて取り出され、TCID50値が決定された。どの製剤も試験期間にわたって安定であった。
【図5】図5は、−23℃での組換えMVA TBS−マンニトール(液体)組成物のTCID50値。5つの組換えMVA TBS−マンニトール(5w/v%)組成物(バッチD〜H)は、−23℃で18ヶ月保存された。サンプルは間隔をおいて取り出され、TCID50値が決定された。各製剤は、試験期間にわたって安定であった。
【0063】
本発明の例示的な局面は、上の図面を参考にして以下の非限定的な実施例において記載される。
【実施例】
【0064】
実施例A−凍結された液体ワクチン製剤は、従来の保存温度において不安定である。マンニトールの添加は、従来の保存温度でのワクチン製剤に安定性を与える。
【0065】
序論
本研究は、試験物として組換えMVAおよびMVAを使って行った。その組換えMVAは、遺伝子を基にした、抗がん性免疫治療用物質である。改変されたワクシニアアンカラ(Modified Vaccinia Ankara)(MVA)痘瘡(Smallpox)ワクチンは、痘瘡(smallpox)の予防および制御のための、弱毒化生ワクチンである。本研究の目的は、従来の冷蔵条件下で保存された液体製剤の安定性を試験することであった。
【0066】
材料および方法
製剤
MVAの大規模な生産を、米国特許第5,391,491号に記載された方法の無血清の改変で達成した。製剤を、1×10TCID50/mlの標的タイターまで、TBSで希釈によるバッチMVAの希釈によって行った。
【0067】
保存の特徴付け
製剤を:
(i)−23℃±2℃;
(ii)<−60℃
で保存した。
【0068】
TCID50の決定
マイクロタイタープレートに、5×10±20%細胞/mlの濃度で、100μlのCEC懸濁物を播種した。そのプレートをCOインキュベーター内において36±2℃で一晩中インキュベートした。
【0069】
サンプルおよびコントロール調製物(コントロール)を希釈前に超音波で処理した。サンプルおよびコントロールを、細胞培養培地で10倍ずつの段階で希釈して、整数ログ(integer log)または半対数(half−logarithmic)の段階をカバーする希釈系列を生成した。適切な希釈段階の数は、予想されるウイルスタイターによった。
【0070】
調製された、サンプル希釈物またはコントロール希釈物を、CEC単層を含む、調製されたマイクロタイタープレートにそれぞれ8回、各100μl移動した。さらなる8ウェルに細胞培養培地をネガティブ(細胞)コントロールとして接種した。続いて、そのマイクロタイタープレートを、COインキュベーター内において36±2℃で5±1日間インキュベートした。
【0071】
細胞層における局所性病変(MVAによって引き起こされる細胞変性効果(CPE))について、マイクロタイタープレートのウェルをリバース光学顕微鏡の下で検査した。各希釈でのCPEを示しているウェルの割合からTCID50を計算した。
【0072】
上記細胞コントロールにCPEがなく、かつ、ポジティブコントロールのウイルスタイターが所望される値の範囲にある場合、本アッセイを有効であるとみなした。TCID50の統計計算を、適切なコンピュータープログラムを使って、公知のアルゴリズム(例えば、Reed&Muench、1938、Am.J.Hyg.、27:493−497)にしたがって行った。
【0073】
コントロールサンプルは、(−60℃より低い温度で、冷凍された何百ものアリコートで保存された)TBSに入った標準MVA調製物であり、その調製物について何回か(10−20回またはそれより多い回)タイターの決定をした。タイターの決定を繰り返すと、平均タイター値が安定し、これをタイター決定の標準として用いることができる。
【0074】
結果
MVA組成物は、トリス緩衝化生理食塩水(TBS;Tris−Buffered Saline)の中で−60℃より低い温度で39ヶ月間安定であることが見出された(図1を参照のこと)。通常の凍結条件下(すなわち、約−20℃)で保存された液体凍結製剤(liquid frozen formulation)もまた、安定であるという一般的な考えがあった。したがって、同じMVA TBS製剤が、通常の凍結温度で安定であると予想されていた。
【0075】
しかしながら、図2に示すように、驚いたことにMVA TBS製剤は、36ヶ月間にわたって−23℃で不安定であることが見出された。5%マンニトールの添加は、そのような組成物のウイルスを安定させるのに十分であった(図5を参照のこと)。
【0076】
考察
液体MVA TBS製剤は、−22℃〜−23.4℃で不安定であることが見出された。この不安定性の原因は、この製剤についてのこの温度範囲に起こる水相の再結晶であり得る。その製剤は、5%(w/v)マンニトールの添加により、この温度範囲で安定化された。したがって、液体MVA TBS−マンニトール製剤は、代表的な保存温度の−23℃±2℃で安定である。
【0077】
実施例B−液体TBSワクチン製剤は、+2℃〜+8℃で不安定であったが、TBS−マンニトールワクチン製剤は、上記温度で安定である。
【0078】
序論
本液体製剤研究の目的は、トリス緩衝化生理食塩水(TBS)ワクチン製剤へのマンニトールの添加が、冷蔵(非凍結)保存の間にこの製剤の安定性に影響を与えるかどうかを決定することであった。
【0079】
材料および方法
製剤
MVAの大規模な生産を、米国特許第5,391,491号に記載された方法の無血清の改変で達成した。製剤を、1×10TCID50/mlの標的タイターまで、TBSで希釈によるバッチMVAの希釈によって行った。5%の終濃度になるようにマンニトールを添加した。
【0080】
保存条件
(i)5℃±3℃
TCID50の決定
(上の)実施例Aのように。
【0081】
結果
保存の安定性
MVA TBS組成物は、2℃〜8℃で12ヶ月〜36ヶ月の期間にわたって保存される場合、不安定であることが見出された(図3を参照のこと)。しかしながら、5w/v%のマンニトールを含む3つのMVA TBS組成物は、18ヶ月の試験期間にわたって安定であることが見出された(図4を参照のこと)。
【0082】
考察
液体TBSワクチン製剤は、冷蔵温度(+2℃〜+8℃)で不安定であったが、5%マンニトールの添加が安定化効果を与えたことを、上記データは示唆する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体組成物または液体凍結組成物であって、該組成物は、
(a)改変されたワクシニアアンカラ(MVA)ウイルス、またはその改変体もしくは誘導体;
および
(b)マンニトール
を含み、(b)は該組成物の唯一の安定化剤である組成物。
【請求項2】
マンニトールが、10℃と0℃との間の保存温度で安定化効果を提供する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物がワクチンであるか、または哺乳動物、好ましくは、ヒトにおける遺伝子療法、ウイルス療法、免疫療法、もしくはがん療法での使用のためである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が生ワクチンである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ウイルスが、アデノウイルス、単純ヘルペス、水痘・帯状疱疹、サイトメガロウイルス、エプスタイン−バーウイルス、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス、パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、RSウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、ライノウイルス、A型肝炎ウイルス、ワクシニア、大痘瘡、小痘瘡、ロタウイルス、ヒトTリンパ球向性ウイルス−1、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、狂犬病ウイルス、風疹ウイルス、黄熱病ウイルス、アルボウイルス、Afipia spp、Brucella spp、Burkholderia pseudomallei、Chlamydia、Coxiella burnetii、Francisella tularensis、Legionella pneumophila、Listeria monocytogenes、Mycobacterium avium、Mycobacterium leprae、Mycobacterium tuberculosis、Neisseria gonorrhoeae、Rickettsiae、Salmonella typhi、Shigella dysenteriae、Yersinia pestis、Plasmodium spp、Theileria parva、Toxoplasma gondii、Cryptosporidium parvum、Leishmania、Trypanosoma cruziおよびCryptococcus neoformansからなる群より選択される微生物により引き起こされる、疾患または状態に対するワクチン接種のためである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が実質的に水性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
0.01%と40%(w/v)との間のマンニトールを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
0.1%と10%(w/v)との間のマンニトールを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
約5%(w/v)のマンニトールを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
改変されたワクシニアウイルス(MVA)、またはその改変体もしくは誘導体を含む、液体組成物または液体凍結組成物を安定化する方法であって、該方法は、十分な量のマンニトールを添加する工程を包含し、マンニトールは該組成物の唯一の安定化剤である方法。
【請求項11】
前記組成物が、請求項3または4のいずれか1項に定義されるとおりの目的のためである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物の前記ウイルスが、請求項5に定義されるとおりのものである、請求項10または11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が、請求項6から9のいずれか1項に定義されるとおりのものである、請求項10から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
改変されたワクシニアウイルス(MVA)、またはその改変体もしくは誘導体を含む、液体組成物または液体凍結組成物を安定化するためのマンニトールの使用であって、マンニトールが、該組成物の唯一の安定化剤である使用。
【請求項15】
前記組成物が、請求項3または4のいずれか1項に定義されるとおりの目的のためである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記組成物の前記ウイルスが、請求項5に定義されるとおりのものである、請求項14から15に記載の使用。
【請求項17】
前記組成物が、請求項6から9のいずれか1項に定義されるとおりのものである、請求項14から16に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2012−508766(P2012−508766A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536514(P2011−536514)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/064382
【国際公開番号】WO2010/056991
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】