ワックス分散体の製造方法
【課題】粒子径が微細であってシャープな粒度分布を有するワックス分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】溶媒にワックスを加熱溶解したワックス溶液と該ワックス溶液よりも低温であって常温下でワックスの溶解度が低い冷却溶媒とを混合して、混合液内にワックスを析出させるワックス分散体の製造方法において、マイクロミキサー1によって混合前のワックス溶液を分割して微細流とするとともに、混合前の冷却溶媒を分割して微細流とし、各微細流を混合領域で接触させることによってワックス溶液を100℃/秒以上の冷却速度で急速に冷却する。
【解決手段】溶媒にワックスを加熱溶解したワックス溶液と該ワックス溶液よりも低温であって常温下でワックスの溶解度が低い冷却溶媒とを混合して、混合液内にワックスを析出させるワックス分散体の製造方法において、マイクロミキサー1によって混合前のワックス溶液を分割して微細流とするとともに、混合前の冷却溶媒を分割して微細流とし、各微細流を混合領域で接触させることによってワックス溶液を100℃/秒以上の冷却速度で急速に冷却する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、印刷インキ、製缶塗料等のコーティング材料には、コーティング塗膜の耐摩耗性の向上、タック性低下、ブロッキング防止、耐水性・撥水性・接着性付与等のために、ワックス分散体が添加剤として使用されている。また、電子写真複写機やレーザープリンター等に用いるトナーにも定着性及び耐ブロッキング性を向上するために、広く使用されている。
【0003】
また近年、印刷インキ、コーティング材料及びトナー等には、様々な条件下で耐摩耗性や高品質な塗膜面、塗膜面の安定性等が要請されているため、これらの製品に添加されるワックス分散体としては、数μmの微小粒径のワックス粒子が溶剤等の媒体中に均一分散されたものが必要とされている。
【0004】
一方、従来のワックス分散体の製造方法としては、機械的粉砕法と溶解析出法(又は溶融冷却法)とが広く知られている。
機械的粉砕法としては、容器内に硬質材料からなるボールを収容したボールミル、又は容器内に微小なビーズを詰めたビーズミルを用いて、ワックスを物理的に粉砕する方法がある。この方法では、上記容器内に予め粗粒子化したワックスを常温の溶媒とともに収容し、該容器を回転させることにより、ボール又はビーズの衝撃力でワックスを粉砕し、微粒化する。
【0005】
しかし機械的粉砕方法では、得られるワックス分散体内の粒子径が比較的大きなものとなり、ボール又はビーズ間をすり抜ける粗大粒子が存在し、その粒度分布もブロードになり易い。
【0006】
また、溶解析出法は、反応釜等を用いて溶媒にワックスを加熱溶解させた後、室温程度まで冷却しワックス粒子を析出させる方法である。この溶解析出法として、例えば特許文献1には、ポリエチレンワックスを常圧または加圧下で加熱して溶媒に完全に溶解させた後、この溶液を降温してポリエチレンワックスを析出させるバッチ方式の製造方法が記載されている。この方法では、加熱したポリエチレンワックス溶液を徐冷する際、ポリエチレンワックスが析出を開始する温度より1〜10℃高い温度から析出が終わるまでの温度範囲での降温速度は、0.2〜30℃/時間、好ましくは0.5〜20℃/時間としている。また、その他の温度範囲では、10〜50℃/時間とすることが好ましく、ポリエチレンワックスが析出を開始する温度より1〜10℃高い温度から析出が終わるまでの温度範囲での降温速度は、その他の温度範囲での降温速度の1/2〜1/30である。
【0007】
このように、ワックス溶液を冷却する際の冷却速度(降温速度)は、上記のような方法だと毎秒1℃以下であって、剪断機等を用いて急冷した場合でも、一般的には数℃/秒程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−059869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、溶解析出法において、冷却速度が大きいと、析出するワックス粒子の粒径が微細化し、その粒度分布の幅も狭くなることが一般的に知られている。冷却速度が小さく、ワックス溶液を徐冷する場合には、溶解したワックス成分が液内に存在する結晶核に凝集してワックス粒子を成長させるが、冷却速度が大きいと、溶解したワックス成分が新たに結晶核として液内に析出する傾向が強まり、ワックス粒子の成長が抑制されるために微細な粒子が均一的に得られる。
【0010】
従って、上記した従来の溶解析出方法では冷却速度に限界があり、ワックス粒子の微細化、粒度分布のブロード化の抑制が困難であった。
本発明は、上記のような問題を解決すべくなされたものであり、粒子径が微細であってシャープな粒度分布を有するワックス分散体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、本発明のワックス分散体の製造方法は、溶媒にワックスを加熱溶解したワックス溶液と該ワックス溶液よりも低温であって常温下でワックスの溶解度が低い冷却溶媒とを混合して、混合液内にワックスを析出させるワックス分散体の製造方法において、前記ワックス溶液と前記冷却溶媒とを混合領域で接触させて前記ワックス溶液を100℃/秒以上の冷却速度で急速に冷却する。
【0012】
この方法によれば、ワックス溶液と冷却溶媒とを混合領域で接触させ、ワックス溶液を100℃/秒以上の冷却速度で急速に冷却するように混合することにより、シャープな粒度分布を有するとともに、微細なワックス粒子が分散されたワックス分散体を製造することができる。
【0013】
このワックス分散体の製造方法において、所望のワックス分散体の組成比で前記冷却溶媒及び前記ワックス溶液を混合し、その混合液を対象として示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry )で測定したワックスの融点をMtとしたとき、混合前の前記冷却溶媒の温度を(Mt−50)℃以下に調整し、混合前の前記ワックス溶液の温度を融点Mt℃以上であって、ワックス溶液中に固形状のワックスが残留しない範囲で融点Mt℃に近づけた温度に調整するとともに、温度調整された前記冷却溶媒及び前記ワックス溶液を、混合直後のワックス分散体の温度が(Mt−20)℃以下となるように混合する。
【0014】
この方法によれば、Mt−50℃に温度調整された冷却溶媒と、Mt℃以上であって、ワックス溶液中に固形状のワックスが残留しない範囲で融点Mt℃に近づけた温度に調整されたワックス溶液とを、混合直後のワックス分散体がMt−20℃となるように混合する。このため、ワックス粒子の結晶核の消滅を抑制するとともに、ワックス溶液を急速に冷却することができる。このため、微細なワックス粒子が分散されたワックス分散体を効率的に得ることができる。
【0015】
このワックス分散体の製造方法において、前記ワックス溶液と前記冷却溶媒とを前記混合領域で正面から衝突させて混合する。
この方法によれば、ワックス溶液と冷却溶媒とが正面から衝突するため、ワックス溶液及び冷却溶媒の接触面積を高め、衝突位置付近でせん断力を発生させることができる。従って、ワックス溶液及び冷却溶媒の混合速度を高めることができるので、ワックス溶液の冷却速度を向上することができる。
【0016】
このワックス分散体の製造方法において、混合前の前記ワックス溶液を等価直径0.1mm以上100mm以下の流路断面を有する連通口から前記混合領域に流入させ、混合前の前記冷却溶媒を等価直径0.1mm以上100mm以下の流路断面を有する連通口から
前記混合領域に流入させて、前記ワックス溶液及び前記冷却溶媒を前記混合領域で接触させる。
【0017】
この方法によれば、ワックス溶液及び冷却溶媒を上記範囲の各連通口から混合領域に流入して接触させるため、ワックス溶液及び冷却溶媒の混合効率を高めることにより、ワックス溶液の冷却速度を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のワックス分散体の製造方法によれば、粒子径が微細であってシャープな粒度分布を有するワックス分散体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態のマイクロミキサーの概略図。
【図2】積層体の分解斜視図。
【図3】混合プレートの斜視図。
【図4】混合プレートの平面図。
【図5】温調プレートの斜視図。
【図6】積層体の斜視図。
【図7】示差熱走査熱量計による融点及び結晶化温度の測定を説明するグラフ。
【図8】実施例1によるカルナバワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図9】(a)〜(e)は、実施例1〜5による光学顕微鏡写真の模式図。
【図10】実施例2によるカルナバワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図11】実施例3によるマイクロクリスタリンワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図12】実施例4による酸化ポリエチレンワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図13】実施例5で用いたY字型マイクロミキサーの概略図。
【図14】実施例5による酸化ポリエチレンワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図15】比較例1によるカルナバワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図16】比較例3によるカルナバワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図17】比較例4によるカルナバワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図18】(a)〜(c)は、比較例1,3,4の光学顕微鏡写真の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図6に従って説明する。
図1は、マイクロミキサー1の一例を示す概略図である。
マイクロミキサー1は、中空状のケース1Aを有し、このケース1Aの中には各種微細流路が形成された積層体11が固定されている。この積層体11には、ワックス溶液Bと、該ワックス溶液Bと混合される冷却溶媒Aと、冷却溶媒A及びワックス溶液Bとそれぞれ熱交換を行う第1熱媒H1及び第2熱媒H2とが流れる流路が形成されている。冷却溶媒Aは、常温ではワックスを殆ど溶解せず、ワックス溶液Bと混合されることでスラリー状のワックス分散体Cとなる。
【0021】
熱媒H1は、冷却溶媒Aの温度が予め設定された温度範囲内に含まれるように冷却する媒体であって、熱媒H2はワックス溶液Bの温度が予め設定された温度範囲内に含まれるように加熱する媒体である。
【0022】
ケース1Aの左端C1には、冷却溶媒Aをケース1A内に供給する第1供給部4Aが設けられ、ケース1Aの右端C2には、ワックス溶液Bをケース1A内に供給する第2供給部4Bが設けられている。
【0023】
供給部4A,4Bは、ケース1Aの端部に形成された開口部2A,2Bと、開口部2A
.2Bに連結されたコネクタ3A,3Bとを有している。コネクタ3A,3Bは、冷却溶媒A及びワックス溶液Bをそれぞれ貯留するタンクや、加圧ポンプ、このポンプに連結された管路等を含む圧送機構と接続されており、冷却溶媒A及びワックス溶液Bはその機構により加圧状態でコネクタ3A,3B側に圧送されるようになっている。また、冷却溶媒A及びワックス溶液Bをそれぞれ貯留する上記各タンクは、タンク内の液温を測定する温度センサ及び測定温度がフィードバックされる温度調整装置が設けられており、冷却溶媒A及びワックス溶液Bを所定温度に調整するように構成されている。尚、ワックス溶液Bは、ワックスの融点以上に加熱され、固形状のワックスが残留していない状態に保持されている。
【0024】
開口部2A,2Bとケース1A内に固定された積層体11の各側面11a,11bとの間には、空間が設けられ、該空間は上記圧送機構から送出された冷却溶媒A及びワックス溶液Bを一時貯留する貯留部S1,S2として機能する。
【0025】
また、ケース1Aの上端C3には、各熱媒H1,H2をケース1A内に供給する各熱媒供給部7A,7Bがそれぞれ形成されている。熱媒供給部7A,7Bは、上記供給部4と同様に開口部5A,5B、コネクタ6A,6Bをそれぞれ有している。各熱媒供給部7A,7Bに供給された熱媒H1,H2は、積層体11に形成された流路を通過し、ケース1Aの下端C4に形成された各熱媒送出部7C,7Dからケース1A外部へそれぞれ送出される。各熱媒送出部7C,7Dは、上記流体供給部4と同様に開口部5C,5D、コネクタ6C,6Dをそれぞれ有している。
【0026】
また、ケース1Aの下端C4には、積層体11内で生成されたワックス分散体Cをケース1A外へ送出する送出部10が設けられている。送出部10は、開口部8と、開口部8に連結されたコネクタ9とを有している。
【0027】
即ち、冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、各供給部4A,4Bからケース1A内部にそれぞれ供給され、積層体11に形成された微細流路において混合される。ここで冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、微細流路で混合されることにより拡散距離が短くなり混合速度及び冷却速度が大きくなるとともに、所望とする処理量だけが効率よく混合される。そしてスラリー状のワックス分散体Cとなって送出部10からケース1A外部へ送出される。尚、マイクロミキサー1のケース1Aや各供給部4A,4B、送出部10の位置等は上記構成に限定されず、適宜変更可能である。
【0028】
次に、上記積層体11について説明する。図2に示すように、積層体11は、長方形状の各カバープレートP1,P2との間に、流路が形成されたプレート群12を備えている。
【0029】
プレート群12は、3枚の温調プレート13と2枚の混合プレート14とが積層されて構成されている。本実施形態では、温調プレート13が最上層及び最下層となって、混合プレート14がいずれかの2枚の温調プレート13に挟まれた状態で積層されている。
【0030】
各カバープレートP1,P2、各温調プレート13及び各混合プレート14は、その外形が同じ長方形状且つ板状に形成されている。また、各カバープレートP1,P2、温調プレート13及び混合プレートの材質は特に限定されず、例えば金属材、樹脂、ガラス、セラミックス等、流路を形成するための加工が容易で、各プレート13,14,P1,P2を液漏れ等が生じ難い密着状態で互いに固定できる材質であればよい。また、各プレート13,14,P1,P2を同じ材質から形成しても良いし、異なる材質で形成してもよい。例えば、各プレート13,14,P2,P2をステンレス鋼から形成し、拡散結合により密着状態で固定してもよい。各プレート13,14,P2,P2の加工方法は、例え
ば射出成型、溶剤キャスト法、溶融レプリカ法、切削、エッチング、フォトリソグラフィー、レーザーアプレーション等の公知の各種方法のうち、その材質に応じた好適な方法を選択できる。
【0031】
次に、混合プレート14について図3及び図4に従って詳述する。図3に示すように、本実施形態の混合プレート14は、一対のプレートからなり、矩形且つ板状の第1流路形成部14Aと第2流路形成部14Bとを有している。
【0032】
第1流路形成部14Aは、その上面14aにおける短手方向(図中Y方向)の中央部に3本の第1流路15を有している。各第1流路15は、第1流路形成部14Aの左側端14bから右側端14cに向かって溝状にそれぞれ形成されており、左側端14b、右側端14c及び上面14aにおいて開口している。左側端14bの各開口は第1流路15の入口15aであって、右側端14cの開口は第1流路15の出口15b(連通口)となる。入口15aは、冷却溶媒Aが供給される上記第1供給部4Aに連通している。このように形成された各第1流路15は、混合プレート14の奥行方向に等間隔で配置されている。尚、本実施形態では3本の第1流路15を形成したが、3本以外の複数の本数でもよい。
【0033】
また、第1流路15は、流路径の大きい大径部16と流路径の小さい小径部17と、大径部16から小径部17への径変化を緩やかにするためのテーパ部18が設けられている。
【0034】
大径部16は、通流方向に直交する方向における断面が矩形状をなす流路であって、左側端14bから右側端14cの手前まで延びている。大径部16の流路断面の等価直径は、流体の温度分布の均一性や装置的強度を確保するために、例えば0.1mm以上100mm以下の範囲にすると好ましく、0.1mm以上10mm以下の範囲にするとより好ましく、0.1mm以上1mm以下の範囲にすると特に好ましい。即ち、大径部16の形状としては、圧損が大きくなりすぎず、流路閉塞が生じにくく、流路の加熱・冷却の迅速な制御が可能であって、生産性を向上させることができる流路形状であれば良い。尚、等価直径は、任意の断面形状の流路管に対し等価な円管を想定するときその円管の直径を指し、相当直径、代表長さともいう。本実施形態では、大径部16及び小径部17は矩形状であるが、矩形状でなくてもよく、円形状、その他の多角形状でもよい。また、第1流路15は、少なくとも混合領域としての合流路19に連通する出口15bの流路断面が上記した範囲(0.1mm以上100mm以下)であればよく、入口15aから出口15bにかけての流路断面が一定でなくてもよい。
【0035】
小径部17も断面矩形状に形成された流路であって、右側端14cの手前から右側端14cに向かって延びている。小径部17は、少なくとも大径部16の断面積よりも小さい断面積を有する形状であればよいが、例えば等価直径が0.1mm以上20mm以下の範囲が好ましく、1mm以下の範囲がより好ましい。即ち、小径部17の形状としては、圧損が大きくなりすぎず、流路閉塞が生じにくく、流路の加熱・冷却の迅速な制御が可能であって、生産性を向上させることができる流路形状であれば良い。
【0036】
また、第1流路形成部14Aと第2流路形成部14Bとの間には、所定幅の空間からなる合流路19が設けられている。図3では底面及び上面が開口するとともに、混合プレート14の前面14g側の開口及び背面14h側の開口を有する。前面14g側の開口部19cは、合流路19の出口であって、上記した送出部10に連通する。また背面14h側の開口部19bは、ケース1A又はその他の部材によって閉塞される。この合流路19は、両側の各側面が第1流路形成部14A及び第2流路形成部14Bによって構成された、平面視において長方形をなす長尺状の流路であって、その長手方向は混合プレート14の短手方向と平行である。
【0037】
また、第2流路形成部14Bは、ワックス溶液Bが流れる第2流路20を有し、合流路19に対して第1流路形成部14Aと対称的(線対称)に形成されている。即ち、第2流路形成部14Bの上面14dにおける短手方向の中央部に3本の第2流路20が溝状に形成されて、等間隔で配置されている。また、各第2流路20は、左側端14e、右側端14f及び上面14dにおいて開口している。左側端14eの各開口は、第2流路20の出口20b(連通口)であって、右側端14fの開口は第2流路20の入口20aを構成する。これらの入口20aは、ワックス溶液Bが供給される上記第2供給部4Bに連通している。尚、本実施形態では3本の第2流路20を形成したが、3本以外の複数の本数でもよい。
【0038】
また、第2流路20は、大径部21及び小径部22と、それらの間に設けられたテーパ部23を有している。大径部21は、第1流路形成部14Aの大径部16と同じ形状及び同じ流路径(等価直径)であって、第2流路形成部14Bの右側端14fから左側端14e手前まで延びている。小径部22も、第1流路形成部14Aの小径部17と同じ形状及び同じ流路径(等価直径)であって、左側端14eの手前から左側端14eに向かって延びている。また、第2流路20は、少なくとも合流路19に連通する出口20bの流路断面が上記した範囲(0.1mm以上100mm以下)であればよく、入口20aから出口20bにかけての流路断面が一定でなくてもよい。
【0039】
図4に示すように、このように形成された第1及び第2流路形成部14A,14Bは、第1流路15の出口15bと第2流路20の出口20bとが、合流路19を介して1対1で対向した位置となるように配置される。また、第1流路15の出口15bは、合流路19の中心軸X1の方向における開口位置が、第2流路20の出口20bの上記中心軸X1における開口位置と同一となるように配置される。さらに、それらの出口15b,20bの開口面は平行になっている。また、第1流路15及び第2流路20の出口15b,20bの断面における中心軸は、同一の中心軸X2である。
【0040】
これらの3つの第1流路15の出口15bは、合流路19の対向する各側面のうち一方の側面に合流路19の長手方向に沿って並んで配置され、3つの第2流路20の出口20bは他方の側面に合流路19の長手方向に沿って並んで配置されている。尚、第1流路15は平面視において左側に設けられる必要はなく、右側でもよいし、第2流路20は平面視において右側に設けられる必要はなく、左側でもよい。
【0041】
このため、各流路15,20の入口15a,20aから加圧状態で冷却溶媒A及びワックス溶液Bをそれぞれ供給すると、冷却溶媒A及びワックス溶液Bは各大径部16,21を流れ、各テーパ部18,23を介して各小径部17,22に流入する。小径部17,22に流入した冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、入口15a,20aに流入したときの流速よりも大きな流速で出口15b,20bから合流路19に流入する。尚、出口15b、20bにおける流速は、0.5m/秒以上であることが好ましい。
【0042】
このとき、上記したように出口15b,20bが中心軸X1方向において同じ開口位置であり、1対1で対向しているため、出口15b,20bから送出された冷却溶媒Aの微細流及びワックス溶液Bの微細流は合流路19において正面から衝突した状態となる。このため、冷却溶媒A及びワックス溶液Bを層流状態で合流させた場合等に比べ、冷却溶媒A及びワックス溶液Bの接触面積を高めて効率よく混合することができる。また、対向する冷却溶媒Aの流れ及びワックス溶液Bの流れを正面から衝突させることにより、冷却溶媒A及びワックス溶液B内の流体要素は、冷却溶媒Aの流れの方向と、この方向と反対方向であるワックス溶液Bの流れの方向とからせん断力をうけるため、混合速度を高めることができる。
【0043】
このように衝突して混合された冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、合流路19の背面側の開口部19bが閉塞されているため、上記圧送機構の圧力により開口部19cへ向かって流れる。合流路19において発生する圧力損失、高粘度流体及び異粘度流体の安定した通流、混合力、装置的強度を考慮すると、合流路19の幅、即ち各出口15b,20bの間の距離は、0.1mm以上30mm以下が好ましく、0.5mm以上5mm以下がより好ましい。また、その深さは0.3mm以上が好ましい。この幅は、冷却溶媒A及びワックス溶液Bの粘性(流れやすさ)と、目的とする混合度合等に応じて変更可能である。幅を短くすれば、圧力損失が比較的大きくなるが各流体同士の衝突力を増大させ、流体内のせん断力を高めることができる。幅を長くすれば、衝突力は比較的弱くなるが、圧力損失を低減することができる。
【0044】
次に、温調プレート13について図5に従って説明する。温調プレート13は、長方形状且つ板状に形成され、混合プレート14とほぼ同じ大きさとなっている。温調プレート13は、その長手方向の中央であって、混合プレート14が積層された際に合流路19と重なる位置に断熱部30を有している。断熱部30は、温調プレート13の前面13cから奥行方向(図中Y方向)に長尺状に切り欠くことで形成されており、その厚み方向(図中Z方向)に貫通し、前面13c側に開口部30aを有している。この断熱部30の幅は、上記混合プレート14の合流路19の幅とほぼ同一となっている。
【0045】
断熱部30に対して左側及び右側には、略長方形状の凹部24が形成されている。この凹部24には、温調プレート13の上面13aに溝状にそれぞれ形成された流入路26及び流出路27が連通している。
【0046】
また、凹部24の前面側及び背面側には、長尺状の壁部24a,24bが凹部24の底面から突出形成されている。壁部24a,24bは、温調プレート13の長手方向(図中X方向)に延びるように設けられ、その先端と凹部24の内壁面との間には流路の一部を構成するための空間が設けられている。また、凹部24の底面であって、各壁部24a,24bの間には、同じく長尺状の壁部25が4本突出形成されている。壁部25は、凹部24の幅(図中X方向の長さ)よりも短く、その両端と凹部24の内壁面との間には流路の一部を構成するための空間が設けられている。これらの各壁部24a,24b,25により、凹部24内の空間が区画されて熱媒H1,H2が流れる流路が構成され、流入路26及び流出路27を含めて熱媒H1,H2が流れる媒体流路としての熱媒流路31が構成される。熱媒流路31は、背面側の流入路26を入口とし、前面側の流出路27を出口とした屈曲形状をなす。即ち、温調プレート13の中央側から凹部24の左側面24cに向かって延び、左側面24c手前で屈曲して右側面24dに向かって延びる。また右側面24d手前で屈曲して再び左側面24cに向かって延びる。以下、同様に凹部24内で複数回屈曲を繰り返しながら、温調プレート13の長手方向と平行に延び、最終的に出口に連通する。
【0047】
温調プレート13の左側の凹部24に形成された熱媒流路31Aには、熱媒供給部7Aから熱媒H1が供給され、熱媒供給部7Aには送液ポンプ及び温度コントローラ等を含む循環機構が接続されている。温度コントローラによって温度調整された熱媒H1は、熱媒供給部7Aから熱媒流路31Aに供給され、熱媒流路31Aを通過した後、熱媒送出部7Cから送出される。そして、上記循環機構によって再び熱媒供給部7Aに供給されて、熱媒流路31Aを循環する。
【0048】
温調プレート13の右側の凹部24に形成された熱媒流路31Bには、熱媒供給部7Aから熱媒H2が供給され、上記熱媒流路31Aに接続された循環機構とは別の循環機構が接続されている。温度コントローラによって温度調整された熱媒H2は、熱媒供給部7B
から熱媒流路31Bに供給され、熱媒流路31Bを通過した後、熱媒送出部7Dから送出される。そして、上記循環機構によって再び熱媒供給部7Bに供給されて、熱媒流路31Bを循環する。
【0049】
この温調プレート13の上方又は下方に混合プレート14が積層されると、図4中鎖線で示すように、冷却溶媒Aが流れる第1流路15の上方又は下方に熱媒H1が流れる第1熱媒流路31Aが重なり、ワックス溶液Bが流れる第2流路20の上方又は下方に熱媒H2が流れる第2熱媒流路31Bが重なる。このため、第1熱媒H1と冷却溶媒Aとの間で熱交換が行われ、第2熱媒H2とワックス溶液Bとの間で熱交換が行われる。
【0050】
これらの熱媒流路31A,31Bは、断熱部30が介在することによって各熱媒流路31A,31B周辺部の間の熱移動が抑制されるので、温度差が大きい熱媒H1,H2を各熱媒流路31A,31Bに供給しても、熱媒H1,H2の温度が所望の温度より著しく低下又は上昇することがない。このため、微小流路であるために流路内の冷却溶媒A及びワックス溶液Bが温度変化しやすいマイクロミキサー1においても、冷却溶媒A及びワックス溶液Bの精密な温度調整を行うことができる。従って、冷却溶媒A及びワックス溶液Bが所望の温度より範囲より低下するのを抑制することができるので、各流路15,20や合流路19が析出したワックスによって閉塞されず、生産性の低下を防止することができる。
【0051】
そして図6に示すように、3層の温調プレート13及び2層の混合プレート14を交互に積層すると、温調プレート13の断熱部30と混合プレート14の合流路19とが重なって積層体11の積層方向の長さと同じ深さの合流路32が構成される。合流路32の左側面には、6つの第1流路15の出口15bが開口し、右側面には、第1流路15の出口15bのそれぞれに対応した位置に6つの第2流路20の出口20bが開口する。各温調プレート13及び各混合プレート14が密着状態で互いに結合されることにより、混合プレート14の第1流路15及び第2流路20は、温調プレート13の底面によってその上面側の開口を閉塞される。また温調プレート13の各熱媒流路31A,31Bは、混合プレート14の底面か、若しくはカバープレートP1の底面によってその上面側の開口を閉塞される。
【0052】
以上のように構成された積層体11において、第1供給部4Aからケース1A内へ加圧状態で供給された冷却溶媒Aは、貯留部S1に一時貯留された後、積層体11に設けられた6つの第1流路15へ分割されて微細流となる。また、第2供給部4Bからケース1A内へ加圧状態で供給されたワックス溶液Bは、貯留部S2に一時貯留された後、積層体11に設けられた6つの第2流路20に分割される。
【0053】
混合プレート14の各第1流路15にそれぞれ流入した冷却溶媒Aは、大径部16から小径部17にかけて流速を高めながら送出され、出口15bから合流路19へ送出される。また、各第2流路20にそれぞれ流入したワックス溶液Bは、大径部21から小径部22にかけて流速を高めながら送出され、出口20bから合流路19へ送出される。
【0054】
各第1流路15の出口15bからそれぞれ送出された冷却溶媒Aの微小な流れは、各第2流路20の出口20bからそれぞれ送出されたワックス溶液Bの微小な流れと1対1で正面から衝突する。このため、冷却溶媒A及びワックス溶液Bの微小な流れは、その衝突位置付近でそれぞれ混合されるため、全体としての混合速度をより高めることができる。
【0055】
6対の出口15b,20bからそれぞれ送出された冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、合流路19内で乱流を生じさせながら混じり合い、合流路32の出口32aに向かって流れる。出口から32aから送出されたワックス分散体Cは送出部10に送られ、この送出
部10からケース外へ向かって送出される。
【0056】
次に、上記したマイクロミキサー1を用いたワックス分散体の製造方法について説明する。
ワックス溶液Bに加熱溶解されるワックスとしては、概ね以下のものが適用可能である。動植物系ワックスとしては、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリンワックス、ロウワックス等、石油系ワックスとしては、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等、ポリオレフィン系ワックスとしては、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン等が挙げられる。また、当該ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量としては1000〜20000程度が好ましい。
【0057】
また、冷却溶媒Aとしては特に限定されるものではなく、ワックスの種類に応じてトルエン、キシレン、クメン、ソルベソ100、ソルベソ150等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素類;ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のエステル類;メチルエチルケトン、イソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;などが挙げられる。これらは1種単独あるいは2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0058】
また、ワックスを加熱溶解したワックス溶液Bは、その溶媒として、冷却溶媒Aと同じ組成の溶媒を用いてもよいし、冷却溶媒Aと異なる組成の溶媒を用いてもよい。
また、冷却溶媒A中でのワックスの融点Mt(図7参照)とその冷却溶媒A中でワックスの結晶物が析出する結晶化温度Ctとの温度差が15℃以下、好ましくは10℃以下であるワックスを用いると、より効果を発揮することができる。尚、融点Mt及び結晶化温度Ctは、示差走査熱量測定装置 DSC7(PerkinElmer 社製)を用い、それぞれ昇温速度5℃/分,降温速度1℃/分の条件にて測定した温度であって、図7はその測定におけるワックスの温度変化に対する熱量を示す。図7中上方の曲線は降温時の熱量変化を示し、ワックスの結晶化に起因する吸熱ピークがみられる。また、図7中下方の曲線は昇温時の熱量変化を示し、結晶化温度Ctよりも高い温度域でワックスの溶融に起因する吸熱ピークがみられる。
【0059】
また、本発明に於けるワックス分散体中のワックス含有率は3質量%から20質量%の範囲にあり、ワックス溶液Bに使用される有機溶媒とワックスとの配合割合は、ワックスを有機溶媒に加熱溶解する時点で、有機溶媒100重量部に対し、ワックス100重量部以下程度が好ましい。また、冷却溶媒Aとワックス溶液Bとの混合割合は、冷却溶媒A:100重量部に対し、ワックス溶液B:500重量部以下程度が好ましい。基本的には、各流路15,20の入口15a,20aから合流路32までの圧力損失が送液安定性に影響しない範囲で、かつ、混合・析出後のワックス分散体Cの温度が後述する温度(Mt−20)℃以下になる範囲であれば、ワックス溶液Bの有機溶媒及びワックスの割合と、冷却溶媒A及びワックス溶液Bとの割合を任意の条件で設定することができる。
【0060】
冷却溶媒A及びワックス溶液Bをマイクロミキサー1により混合する工程では、まず上記各循環機構を駆動して、所定の温度に調整された熱媒H1を熱媒流路31Aに循環させ、熱媒H1よりも低温であって所定の温度に調整された熱媒H2を熱媒流路31Bに循環させる。
【0061】
また、冷却溶媒Aを第1供給部4Aからケース1A内へ加圧状態で圧送する。ケース1A内に導入された冷却溶媒Aは、貯留部S1に一時貯留された後、積層体11に設けられた6つの第1流路15へ分割されて微細流となる。
【0062】
また、ワックス溶液Bを第2供給部4Bからケース1A内へ加圧状態で圧送する。ケース1A内に導入されたワックス溶液Bは、貯留部S2に一時貯留された後、積層体11に設けられた6つの第2流路20に分割されて微細流となる。
【0063】
混合プレート14の各第1流路15にそれぞれ供給された冷却溶媒Aは、温調プレート13の第1熱媒流路31Aを流れる熱媒H1によって温度調整されながら、大径部16から小径部17にかけて流速を高めながら送出され、出口15bから合流路19へ送出される。
【0064】
ここで、最終的に所望するワックス分散体Cの配合比に相当するワックス溶液Bと冷却溶媒Aとの混合物に対して、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点をMtとした時、第1流路15の出口15bから合流路19に送出される、混合直前の冷却溶媒Aの温度TAは、(Mt−50)℃以下の範囲とする。冷却溶媒Aの温度TAを(Mt−50)℃以下とすると、ワックス溶液Bの温度を結晶化温度Ct以下まで、冷却速度100℃/秒で急速に下げることができることが、発明者の実験等により判明している。尚、ここでいう冷却速度は、ワックス溶液Bが第2流路20の出口20bから合流路32に供給されて冷却溶媒Aとの混合が開始された時点から、合流路32の出口32aから送出された時点までの温度変化をいう。
【0065】
また、各第2流路20にそれぞれ供給されたワックス溶液Bは、温調プレート13の第2熱媒流路31Bを流れる熱媒H2によって温度調整されながら、大径部21から小径部22にかけて流速を高めながら送出され、出口20bから合流路19へ送出される。
【0066】
ここで、出口20bから合流路19に送出される混合直前のワックス溶液Bの温度TBは、上記融点Mt以上であって、溶液中にワックス固形物の未溶解物が残留しないできるかぎり融点Mtに近い温度とする。このようにワックス溶液Bの温度TBを、融点Mtから大幅に上昇させないことで、ワックスの結晶核の消失を抑制することができる。
【0067】
各第1流路15の出口15bからそれぞれ送出された冷却溶媒Aの微細流は、各第2流路20の出口20bからそれぞれ送出されたワックス溶液Bの微細流と1対1で正面から衝突する。即ち、それらの微細流は、その衝突位置付近でそれぞれ混合されるため、乱流を生じさせながら混じり合い、急速に混合される。これにより、冷却溶媒A及びワックス溶液Bの混合液は、100℃/sec以上の冷却速度で(Mt−20)℃以下まで急速冷却される。この温度(Mt−20)℃は、分散対象となるワックスの平均的な結晶化温度であって、融点と結晶化温度との差が、20℃を超える場合には、混合液はその結晶化温度まで冷却される。
【0068】
ワックス溶液に溶解したワックス成分は、混合液の温度が結晶化温度程度まで降下すると、既に液内に存在する結晶核に凝集するか、新たに微小な結晶核として析出するが、急速冷却した場合には、混合液を徐冷する場合に比べて新たに結晶核として析出する傾向が強くなる。このため、本実施形態ではワックス粒子の成長は抑制され、さらには合流路19で発生するせん断力により物理的に結晶が微細化される。その結果、微細なワックス粒子が分散されたワックス分散体Cが生成される。また、冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、積層体11に一定の流量で連続的に供給されるため、混合条件が一定となり、温度ムラ、濃度ムラが生じず、ワックス分散体Cを送出部10から連続的に得ることができる。このため、ロット振れが生じず、品質を均一化することができる。
【0069】
このマイクロミキサー1において、処理量を増加させる場合には、合流路32の幅、即ち出口15b,20b間の距離を変えずに、合流路32の長さを延長すればよい。或いは
、合流路32の幅を変えずに、合流路19の側面に開口する流路15,20の本数を増加させるか、混合プレート14の積層数を増加させればよい。従って、合流路32における混合効率を低下させずに、処理量を増大することができる。また、流路幅が小さく圧力損失が高まりやすいマイクロミキサーにおいて、上記マイクロミキサー1は合流路32の容積が比較的大きく、圧力損失の増大による流路の閉塞を防ぐことができる。さらに混合対象の流体の粘性等に応じて合流路32の幅も適宜変更できる構成であるため、装置の自由度を向上することができる。
【0070】
また、ワックス分散体の製造方法において、マイクロミキサー1を単独で使用してもよいし、更に、連続式の高速ディスパー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ビーズミル等の高速剪断混合機と組み合わせて使用することもできる。連続式の高速剪断混合機を組み合わせることは、粒子径がより微細なワックス分散体を製造する上で有効である。
【0071】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、溶媒にワックスを加熱溶解したワックス溶液Bと冷却溶媒Aとを合流路32(19)で接触させてワックス溶液Bを100℃/秒以上の冷却速度で急速に冷却する。このため、ワックス粒子が粗大粒子に成長せず、粒子の微細化を図ることができるとともに、温度ムラや濃度ムラが生じ難く、ワックス粒子の粒子径が均一化され、その粒度分布を分布幅が狭い、シャープな分布とすることができる。
【0072】
(2)上記実施形態では、所望のワックス分散体Cの組成比で冷却溶媒A及びワックス溶液Bを混合し、その混合液を対象として示差走査熱量計でワックスの融点Mtを予め測定しておく。そして、所定温度に調整された熱媒H1をマイクロミキサー1に供給することにより、混合前の冷却溶媒Aの温度をMt−50℃以下に調整する。また、所定温度に調整された熱媒H2をマイクロミキサー1に供給することにより、混合前のワックス溶液Bの温度をMt℃以上であって、ワックス溶液中に固形状のワックスが残留しない範囲で融点Mt℃に近づけた温度に調整する。さらに、温度調整された冷却溶媒A及びワックス溶液Bを、混合直後のワックス分散体Cの温度がMt−20℃以下となるように混合する。つまり、ワックス溶液Bの温度を上記したような温度に調整することにより、液内に固形状のワックスが残留しないように全て溶解し、且つワックス粒子の結晶核の消滅を抑制することができる。また、冷却溶媒Aを上記した温度に調整することにより、融点Mt以上に加熱されたワックス溶液を、100℃/秒以上といった冷却速度で冷却することが可能となる。また、混合直後のワックス分散体Cを上記した温度に調整することにより、ワックス粒子を安定して結晶化させることができる。このため、微細なワックス粒子が分散されたワックス分散体を効率的に得ることができる。
【0073】
(3)上記実施形態では、マイクロミキサー1の第1流路15の出口15bと第2流路20の出口20bとを、合流路19を介して1対1で対向した位置となるように配置した。また、第1流路15の出口15bを、合流路19の中心軸X1の方向における開口位置が、第2流路20の出口20bの上記中心軸X1における開口位置と同一となるように配置した。さらに、それらの出口15b,20bの開口面を平行とし、第1流路15及び第2流路20の出口15b,20bの断面における中心軸を、同一の中心軸X2とした。このため、混合前のワックス溶液Bの微細流と、混合前の冷却溶媒Aの微細流の流れとが、正面から衝突する。このため、ワックス溶液B及び冷却溶媒Aの接触面積を高め、衝突位置付近でせん断力を発生させることができる。従って、ワックス溶液B及び冷却溶媒Aの混合速度を高めることができるので、ワックス溶液Bの冷却速度を向上することができる。また、液内に発生するせん断力により、ワックス粒子の粗大化を抑制することができる。
【0074】
(4)上記実施形態では、混合前のワックス溶液Bを等価直径0.1mm以上100m
m以下の流路断面を有する出口20bから合流路19(23)に流入させる。また、混合前の冷却溶媒Aを等価直径0.1mm以上100mm以下の流路断面を有する出口15bから合流路19(23)に流入させる。そして、合流路19(23)に流入したワックス溶液B及び冷却溶媒Aを合流路19(23)で接触させる。従ってワックス溶液B及び冷却溶媒Aの混合効率を高めることによりワックス溶液Bの冷却速度を高めることができる。
【0075】
尚、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、冷却溶媒Aの微細流とワックス溶液Bの微細流とを正面衝突させて混合するマイクロミキサー1を用いたが、他のマイクロミキサーを用いて冷却溶媒A及びワックス溶液Bを混合してもよい。又は、マイクロミキサー以外でも、上記各微細流を混合領域において100℃/秒以上の冷却速度で混合させることができれば、他の混合装置を用いてもよい。
【0076】
・上記実施形態では、混合前の冷却溶媒の温度を(Mt−50)℃以下に調整したが、混合時に100℃/秒以上といった冷却速度で冷却できれば、(Mt−50)℃以下でなくてもよい。例えば、合流路32を減圧したり、混合液が接触する流路壁部を冷却したりする等して、100℃/秒以上といった冷却速度で冷却できればよい。また、混合前のワックス溶液Bの温度を融点Mt℃以上であって、ワックス溶液中に固形状のワックスが残留しない範囲で融点Mt℃に近づけた温度としたが、造核剤等を用いてワックス溶液中に結晶核が十分存在すれば、融点Mt℃に近づけなくてもよい。
【0077】
・上記実施形態では、マイクロミキサー1に設けられた複数の第1流路15と複数の第2流路20とによってワックス溶液B及び冷却溶媒Aをそれぞれ分割して微細流としたが、複数の流れに分割せずに、マイクロミキサー1にワックス溶液Bの流路と冷却溶媒Aの流路とをそれぞれ1本ずつ設けてもよい。また、マイクロミキサー1を用いずに、バッチ式の攪拌機を用いるようにしてもよい。要は、ワックス溶液Bを100℃/秒以上の冷却速度で冷却できればよい。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。
(実施例1)
マイクロミキサー1の積層体11は、以下の構成の2枚の混合プレート14と、3枚の温調プレート13を交互に積層した。
【0079】
混合プレート;
板厚:1mm、第1流路及び第2流路の流路寸法(入口側):幅1.2mm 長さ45mm、(出口側):幅0.4mm 長さ2mm、流路深さ:0.5mm、等価直径:0.25mm、流路数:10本(第1流路5本、第2流路5本)、合流路:幅5mm、長さ40mm、出口断面積25mm2
温調プレート;
板厚:1mm、流路幅:2mm、流路深さ:0.5mm、流路数:2本,断熱部 幅:5mm 長さ;40mm
冷却溶媒Aを温度調整する熱媒H1は25℃の水を用い、ワックス溶液Bを温度調整する熱媒H2は80℃の水を用い、各熱媒H1,H2を60L/hrの条件で温調プレート13に循環させ、温度制御を行った。これにより冷却溶媒Aはほぼ25℃に温度調節され、ワックス溶液Bはほぼ80℃に温度調節される。
【0080】
ワックス溶液Bはブチルセロソルブ;76部に対しカルナバワックス(カルナバ1号フレーク、東洋ペトロライト(株)製);24部を80℃にて加熱溶解したもの、冷却溶媒
Aとしては25℃のブチルセロソルブを用いた。尚、ここで用いたカルナバワックスの融点は、約80℃である。上記のワックス溶液B及び冷却溶媒Aを各々5.4kg/hrの条件で温度制御されているマイクロミキサー1に供給し、ワックス溶液Bを冷却速度103℃/秒で急速冷却した。冷却速度は、第2流路20を流れるワックス溶液Bの温度と、合流路32におけるワックス分散体Cの出口温度と、混合開始から合流路32の出口まで到達するまでにかかる経過時間とから求めた。そしてワックス分散体Cを合流路32の出口から10.8kg/hrで連続的に得た。
【0081】
得られたワックス分散体Cについて評価を行うとともに、ワックス分散体Cの出口温度、送液時の圧力損失を測定した。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径及び粒度分布は、島津レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2200((株)島津製作所製)を用いて測定した。平均粒子径は、粒度分布曲線において積算値が50%にあたる粒径(D50)である。ワックスの平均粒子径は4.6μmであり、粗大粒子を含まない良好なものであった。また、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=1.24とシャープな分布が得られた。
【0082】
また、粒径20μm以上の粗大粒子の有無とその粒子寸法については、ワックス分散体Cと同一組成の溶剤を用い10倍に希釈した分散体溶液を目視および光学顕微鏡により観察した。実施例1のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図8に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図9(a)に示す。図9(a)において、最大粒子P10の粒子径は5μm程度であって、粗大粒子は見られなかった。
(実施例2)
マイクロミキサー1は実施例1と同じ装置を用い、10枚の混合プレート14と11枚の温調プレート13とを交互に積層した。これにより、積層体11の厚さ方向に貫通した合流路32の出口断面積は105mm2となった。
【0083】
熱媒H1,H2は、実施例1と同様にそれぞれ25℃及び80℃とした。そしてそれらの熱媒H1,H2を流量300L/hで温調プレート13に循環させ、温度制御を行った。
【0084】
冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、実施例1と同様な組成とした。そして、この冷却溶媒A及びワックス溶液Bを、実施例1よりも大きい各々27kg/hrの条件で温度制御されているマイクロミキサー1に供給し、ワックス溶液Bを冷却速度121℃/秒で急速冷却した。そしてワックス分散体Cを合流路32の出口から54kg/hrで連続的に得た。
【0085】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、送液時の圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は4.8μmで、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=1.30とシャープな分布が得られた。また、実施例2のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図10に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図9(b)に示す。図9(b)において、最大粒子P11の粒子径は5μm程度であって、粗大粒子は見られなかった。
【0086】
(実施例3)
マイクロミキサー1は、実施例1で使用した装置を用いた。冷却溶媒Aを温度調整する熱媒H1は、実施例1よりも低温の15℃の水を用い、ワックス溶液Bを温度調整する熱媒H2は実施例1よりも低温の70℃の水を用いた。そしてこれらの熱媒H1,H2を、実施例1と同様に60L/hrの条件で温調プレート13に循環させ、温度制御を行った。
【0087】
ワックス溶液Bは、ブチルセロソルブ;28部、ソルベソ150;8部に対し、マイクロクリスタリンワックス(Hi−Mic−1045、日本精蝋(株)製);9部を70℃にて加熱溶解したもの、冷却溶媒Aとしては15℃のブチルセロソルブ;28部、ソルベソ150;8部の混用溶媒を用いた。マイクロクリスタリンワックスの融点は、約75℃である。上記のワックス溶液B及び冷却溶媒Aを実施例1と同様に各々5.4kg/hrの条件で温度制御されているマイクロミキサー1に供給し、ワックス溶液Bを冷却速度120℃/秒で急速冷却した。そしてワックス分散体Cを合流路32の出口32aから10.8kg/hrで連続的に得た。
【0088】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、送液時の圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は8.1μmであって、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=2.51と比較的シャープな分布が得られた。また、実施例3のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図11に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図9(c)に示す。図9(c)において、最大粒子P12の粒子径は9μm以下であって、粗大粒子は見られなかった。
(実施例4)
マイクロミキサー1は、実施例1で使用した装置を用いた。冷却溶媒Aを温度調整する熱媒H1は、実施例1よりも低温の5℃の水を用い、ワックス溶液Bを温度調整する熱媒H2は実施例1よりも高温の120℃のオイルを用いた。そしてこれらの熱媒H1,H2を、実施例1と同様に60L/minの条件で温調プレート13に循環させ、温度制御を行った。
【0089】
ワックス溶液Bは、ブチルセロソルブ;8部、ソルベソ150;62部に対し、低分子量酸化ポリエチレン(A−C392、Honeywell International Inc.製);30部を120℃にて加熱溶解してポリエチレン系のワックス溶液を生成した。低分子量酸化ポリエチレンの融点は、約125℃である。冷却溶媒Aとしては5℃のブチルセロソルブ;8部、ソルベソ150;62部の混用溶媒を用いた。上記のワックス溶液B及び冷却溶媒Aを実施例1と同様に各々5.4kg/hrの条件で温度制御されているマイクロミキサー1に供給し、ワックス溶液Bを冷却速度206℃/秒で急速冷却した。そしてワックス分散体Cを合流路32の出口から10.8kg/hrで連続的に得た。
【0090】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、送液時の圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は6.4μmであり、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=1.28とシャープな分布が得られた。また、実施例4のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図12に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図9(d)に示す。図9(d)において、最大粒子P13の粒子径は7μm程度であって、粗大粒子を含まない良好なものであった。
(実施例5)
図13に示すミキサー構造体50を用いてミキサーを構成し、冷却溶媒A及びワックス溶液Bの混合を行った。尚、図ではミキサーの内部を示す構造体のみ示し、該構造体50を収容するケースやコネクタ等は便宜上、図示を省略している。
【0091】
ミキサー構造体50は、冷却溶媒Aを導入する溶媒導入部51と、冷却溶媒Aが流れる溶媒流路52を有する溶媒プレート53とを有する。また、ワックス溶液Bを導入するワックス溶液導入部54と、ワックス溶液Bが流れるワックス溶液流路55を有するワックス溶液プレート56と、冷却溶媒A及びワックス溶液Bが混合され、該構造体50の外側へ混合液を送出する混合部57とを有する。
【0092】
溶媒プレート53及びワックス溶液プレート56は、その外形が平行四辺形状且つ板状に形成されている。溶媒プレート53には6本の溶媒流路52が形成されるとともに、ワックス溶液プレート56にも6本のワックス溶液流路55が形成されている。尚、図16では便宜上、各流路52,55は、1本の線で示している。
【0093】
また、各プレート53,56の下には、熱媒H1,H2が流れる温調プレート(図示略)が各プレート53,56の下面に接触するように配置されている。熱媒H1は、冷却溶媒Aを温度調整し、熱媒供給部58から温調プレート内に導入され、熱媒送出部59から送出される。熱媒H2は、ワックス溶液Bを温度調整し、熱媒供給部60から温調プレート内に導入され、熱媒送出部61から送出される。
【0094】
これらの複数枚の溶媒プレート53及びワックス溶液プレート56は、下流側において交差するように交互に積層されている。即ち、ワックス溶液プレート56は、上記温調プレートを介して、上層又は下層の溶媒プレート53と交差部62において重なるように積層されている。溶媒プレート53及びワックス溶液プレート56は、溶媒流路52の中心軸線とワックス溶液流路55の中心軸線とが鋭角の角度αをなすように配置され、各プレート53,56に混合部57が接続されることにより、全体としてY字型をなすように構成されている。このため、混合部57では、溶媒流路52の出口から送出された冷却溶媒Aと、ワックス溶液流路55の出口から送出されたワックス溶液Bとが、ミキサー構造体50の厚み方向(紙面に直交する方向)において上下に分かれた層流として、しかも平面視において角度αをなすように交差した状態で接触する。
【0095】
ミキサー構造体50は、5枚の溶媒プレート53と5枚のワックス溶液プレート56とを交互に積層して構成した。以下に、各プレート53,56の具体的な構成を示す。
溶媒プレート;
板厚:1mm,流路幅:0.5mm,流路深さ:0.4mm,等価直径:0.25mm、流路数:6本、溶媒導入路の流路径:5mm
ワックス溶液プレート;
板厚:1mm、流路幅:0.5mm,流路深さ:0.4mm,等価直径:0.25mm、流路数:6本、溶液導入路の流路径:5mm
温調プレート;
板厚:1mm,流路幅:1.2mm,流路深さ:0.5mm,プレート数:11枚
混合部;
流路径:5mm、流路断面積:19.6mm2
熱媒D,Eについては、実施例4と同様に、熱媒Dは5℃の水を用い、熱媒Eは120℃のオイルを用いた。そして、それらの熱媒D,Eを60L/hrの条件でミキサー構造体50に循環させ、温度制御を行った。
【0096】
冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、実施例4と同じ材料及び組成とした。上記のワックス溶液B及び冷却溶媒Aを実施例1と同様に各々5.4kg/hrの条件で温度制御されているミキサー構造体50に供給し、ワックス分散体Cを混合部57の出口からの回収を試みた。運転を開始してからおよそ2分経過した段階で少量のみ回収できた。
【0097】
運転開始直後に得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、送液時の圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は6.9μmで、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=1.51と比較的シャープな分布が得られた。また、実施例5のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図14に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図9(e)に示す。図9(e)において、最大粒
子P14の粒子径は10μm程度であって、大きめの粒子が若干確認された。
(比較例1)
マイクロミキサー1は実施例1と同じ装置を用いた。
【0098】
冷却溶媒Aを温度調整する熱媒H1は、実施例1よりも高温の45℃の水を用い、ワックス溶液Bを温度調整する熱媒H2は、実施例1と同じ80℃の水を用いた。そしてそれらの熱媒H1,H2を、実施例1よりも小さい1L/minの流量でマイクロミキサー1に循環させ、温度制御を行った。また、ワックス溶液B及び冷却溶媒Aは、実施例1と同様な材料及び組成とした。
【0099】
即ち、上記のように組成されたワックス溶液Bにおいて上記カルナバワックスの融点Mtは約80℃であるため、冷却溶媒Aの温度は、上記した(Mt−50)℃の範囲を超える。そしてワックス溶液B及び冷却溶媒Aを各々5.4kg/hrの条件で温度制御されているマイクロミキサー1に供給し、ワックス溶液Bを冷却速度62℃/秒で冷却した。そしてワックス分散体Cを合流路32の出口から10.8kg/hrで連続的に得た。
【0100】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は12.3μmと大きく、粒度分布も、ばらつき度(D90−D10)/D50=1.89と若干ブロードとなった。即ち、冷却溶媒Aの温度を45℃としたため、ワックス溶液Bを100℃/秒以上といった冷却速度で冷却し難く、液内の結晶核が十分に増えず、既に析出したワックス粒子を核としてワックス成分が凝集して粒子が成長したと推定される。また、比較例1のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図15に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図18(a)に示す。図18(a)において、最大粒子P15の粒子径は20μm程度であって、極端に大きな粗大粒子は含まれなかった。
(比較例2)
マイクロミキサー1は実施例1と同じ装置を用いた。
【0101】
冷却溶媒Aを温度調整する熱媒H1は、実施例1よりも高温の32℃の水を用い、ワックス溶液Bを温度調整する熱媒H2は、実施例1と同じ80℃の水を用いた。そしてそれらの熱媒H1,H2を、実施例1よりも小さい1L/minの流量でマイクロミキサー1に循環させ、温度制御を行った。また、ワックス溶液B及び冷却溶媒Aは、実施例1と同様な材料及び組成とした。
【0102】
即ち、上記のように組成されたワックス溶液Bにおいて上記カルナバワックスの融点Mtは約80℃であるため、冷却溶媒Aの温度は、上記した(Mt−50)℃の範囲を超える。そしてワックス溶液B及び冷却溶媒Aを各々5.4kg/hrの条件で温度制御されているマイクロミキサー1に供給し、ワックス溶液Bを冷却速度84℃/秒で冷却した。そしてワックス分散体Cを合流路32の出口から10.8kg/hrで連続的に得た。
【0103】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、送液時の圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は10.5μmと大きく、粒度分布も、ばらつき度(D90−D10)/D50=1.8と若干ブロードとなった。即ち、冷却溶媒Aの温度を32℃としたため、ワックス溶液Bを100℃/秒以上といった冷却速度で冷却し難く、比較例1と同様にワックス成分が凝集して粒子が成長したと推定される。また、比較例2のワックス分散体Cを電子顕微鏡で撮影したが、比較例1と同様であったため、図示を省略した。(比較例3)
冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、実施例1と同じ原料及び組成のものを用いた。そし
て、アンカー翼及びディスパー翼からなる2軸撹拌機、コンデンサー及び温調用熱電対を備えたジャケット付5L釜に、冷却溶媒Aを2kg投入し、25℃の温度下で撹拌した。この冷却溶媒A中に、総量2kgのワックス溶液Bを5.4kg/hrの流速で滴下しながら供給することにより、カルナバワックスを析出させ、4kgのワックス分散体Cを得た。ワックス溶液供給中の混合溶液温度制御は行わず、成り行きとした。
【0104】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は8.9μmであったが、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=3.21とブロードな分布となった。また、比較例3のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図16に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図18(b)に示す。図18(b)において、最大粒子P16の粒子径は30μm程度であって、比較例3では極端に大きな粗大粒子の発生が確認された。即ち、比較例3のようなバッチ式でワックス分散体Cを製造する場合、上記マイクロミキサー1に比べ混合に長時間を有し、冷却速度が小さくなるため、ワックス粒子の微細化が困難である。また、温度ムラ、濃度ムラが生じやすいため、粒度分布がブロード化してしまい、粒径の均一化も難しい。
(比較例4)
比較例3と同じ装置を使用し、同様の操作を行って4kgのワックス分散体Cを得た。但し、ワックス溶液Bの供給工程での混合溶液温度は25℃±1℃に保持するものとした。
【0105】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、送液時の圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は7.4μmであったが、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=3.16とブロードな分布となった。また、比較例4のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図17に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図18(c)に示す。図9(c)において、最大粒子P17の粒子径は30μm程度であって、比較例4では比較例3と同様に極端に大きな粗大粒子の発生が確認された。
【0106】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のワックス溶液を冷却溶媒に分散させたワックス分散体は、印刷インキ、製缶塗料等といったコーティング材料として有用である。
【符号の説明】
【0108】
1…マイクロミキサー、11…流体混合構造体としての積層体、13…温度調節プレートとしての温調プレート、14…混合プレート、14A…第1流路形成部、14B…第2流路形成部、15…第1流路、16…第2流路、15b,20b…出口、19…混合領域としての合流路、30…断熱部、31A…第1媒体流路としての第1熱媒流路、31B…第2媒体流路としての第2熱媒流路、32…混合領域としての合流路、A…冷却溶媒、B…ワックス溶液、C…ワックス分散体、Mt…融点。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、印刷インキ、製缶塗料等のコーティング材料には、コーティング塗膜の耐摩耗性の向上、タック性低下、ブロッキング防止、耐水性・撥水性・接着性付与等のために、ワックス分散体が添加剤として使用されている。また、電子写真複写機やレーザープリンター等に用いるトナーにも定着性及び耐ブロッキング性を向上するために、広く使用されている。
【0003】
また近年、印刷インキ、コーティング材料及びトナー等には、様々な条件下で耐摩耗性や高品質な塗膜面、塗膜面の安定性等が要請されているため、これらの製品に添加されるワックス分散体としては、数μmの微小粒径のワックス粒子が溶剤等の媒体中に均一分散されたものが必要とされている。
【0004】
一方、従来のワックス分散体の製造方法としては、機械的粉砕法と溶解析出法(又は溶融冷却法)とが広く知られている。
機械的粉砕法としては、容器内に硬質材料からなるボールを収容したボールミル、又は容器内に微小なビーズを詰めたビーズミルを用いて、ワックスを物理的に粉砕する方法がある。この方法では、上記容器内に予め粗粒子化したワックスを常温の溶媒とともに収容し、該容器を回転させることにより、ボール又はビーズの衝撃力でワックスを粉砕し、微粒化する。
【0005】
しかし機械的粉砕方法では、得られるワックス分散体内の粒子径が比較的大きなものとなり、ボール又はビーズ間をすり抜ける粗大粒子が存在し、その粒度分布もブロードになり易い。
【0006】
また、溶解析出法は、反応釜等を用いて溶媒にワックスを加熱溶解させた後、室温程度まで冷却しワックス粒子を析出させる方法である。この溶解析出法として、例えば特許文献1には、ポリエチレンワックスを常圧または加圧下で加熱して溶媒に完全に溶解させた後、この溶液を降温してポリエチレンワックスを析出させるバッチ方式の製造方法が記載されている。この方法では、加熱したポリエチレンワックス溶液を徐冷する際、ポリエチレンワックスが析出を開始する温度より1〜10℃高い温度から析出が終わるまでの温度範囲での降温速度は、0.2〜30℃/時間、好ましくは0.5〜20℃/時間としている。また、その他の温度範囲では、10〜50℃/時間とすることが好ましく、ポリエチレンワックスが析出を開始する温度より1〜10℃高い温度から析出が終わるまでの温度範囲での降温速度は、その他の温度範囲での降温速度の1/2〜1/30である。
【0007】
このように、ワックス溶液を冷却する際の冷却速度(降温速度)は、上記のような方法だと毎秒1℃以下であって、剪断機等を用いて急冷した場合でも、一般的には数℃/秒程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−059869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、溶解析出法において、冷却速度が大きいと、析出するワックス粒子の粒径が微細化し、その粒度分布の幅も狭くなることが一般的に知られている。冷却速度が小さく、ワックス溶液を徐冷する場合には、溶解したワックス成分が液内に存在する結晶核に凝集してワックス粒子を成長させるが、冷却速度が大きいと、溶解したワックス成分が新たに結晶核として液内に析出する傾向が強まり、ワックス粒子の成長が抑制されるために微細な粒子が均一的に得られる。
【0010】
従って、上記した従来の溶解析出方法では冷却速度に限界があり、ワックス粒子の微細化、粒度分布のブロード化の抑制が困難であった。
本発明は、上記のような問題を解決すべくなされたものであり、粒子径が微細であってシャープな粒度分布を有するワックス分散体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、本発明のワックス分散体の製造方法は、溶媒にワックスを加熱溶解したワックス溶液と該ワックス溶液よりも低温であって常温下でワックスの溶解度が低い冷却溶媒とを混合して、混合液内にワックスを析出させるワックス分散体の製造方法において、前記ワックス溶液と前記冷却溶媒とを混合領域で接触させて前記ワックス溶液を100℃/秒以上の冷却速度で急速に冷却する。
【0012】
この方法によれば、ワックス溶液と冷却溶媒とを混合領域で接触させ、ワックス溶液を100℃/秒以上の冷却速度で急速に冷却するように混合することにより、シャープな粒度分布を有するとともに、微細なワックス粒子が分散されたワックス分散体を製造することができる。
【0013】
このワックス分散体の製造方法において、所望のワックス分散体の組成比で前記冷却溶媒及び前記ワックス溶液を混合し、その混合液を対象として示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry )で測定したワックスの融点をMtとしたとき、混合前の前記冷却溶媒の温度を(Mt−50)℃以下に調整し、混合前の前記ワックス溶液の温度を融点Mt℃以上であって、ワックス溶液中に固形状のワックスが残留しない範囲で融点Mt℃に近づけた温度に調整するとともに、温度調整された前記冷却溶媒及び前記ワックス溶液を、混合直後のワックス分散体の温度が(Mt−20)℃以下となるように混合する。
【0014】
この方法によれば、Mt−50℃に温度調整された冷却溶媒と、Mt℃以上であって、ワックス溶液中に固形状のワックスが残留しない範囲で融点Mt℃に近づけた温度に調整されたワックス溶液とを、混合直後のワックス分散体がMt−20℃となるように混合する。このため、ワックス粒子の結晶核の消滅を抑制するとともに、ワックス溶液を急速に冷却することができる。このため、微細なワックス粒子が分散されたワックス分散体を効率的に得ることができる。
【0015】
このワックス分散体の製造方法において、前記ワックス溶液と前記冷却溶媒とを前記混合領域で正面から衝突させて混合する。
この方法によれば、ワックス溶液と冷却溶媒とが正面から衝突するため、ワックス溶液及び冷却溶媒の接触面積を高め、衝突位置付近でせん断力を発生させることができる。従って、ワックス溶液及び冷却溶媒の混合速度を高めることができるので、ワックス溶液の冷却速度を向上することができる。
【0016】
このワックス分散体の製造方法において、混合前の前記ワックス溶液を等価直径0.1mm以上100mm以下の流路断面を有する連通口から前記混合領域に流入させ、混合前の前記冷却溶媒を等価直径0.1mm以上100mm以下の流路断面を有する連通口から
前記混合領域に流入させて、前記ワックス溶液及び前記冷却溶媒を前記混合領域で接触させる。
【0017】
この方法によれば、ワックス溶液及び冷却溶媒を上記範囲の各連通口から混合領域に流入して接触させるため、ワックス溶液及び冷却溶媒の混合効率を高めることにより、ワックス溶液の冷却速度を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のワックス分散体の製造方法によれば、粒子径が微細であってシャープな粒度分布を有するワックス分散体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態のマイクロミキサーの概略図。
【図2】積層体の分解斜視図。
【図3】混合プレートの斜視図。
【図4】混合プレートの平面図。
【図5】温調プレートの斜視図。
【図6】積層体の斜視図。
【図7】示差熱走査熱量計による融点及び結晶化温度の測定を説明するグラフ。
【図8】実施例1によるカルナバワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図9】(a)〜(e)は、実施例1〜5による光学顕微鏡写真の模式図。
【図10】実施例2によるカルナバワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図11】実施例3によるマイクロクリスタリンワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図12】実施例4による酸化ポリエチレンワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図13】実施例5で用いたY字型マイクロミキサーの概略図。
【図14】実施例5による酸化ポリエチレンワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図15】比較例1によるカルナバワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図16】比較例3によるカルナバワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図17】比較例4によるカルナバワックス分散体の光学顕微鏡写真。
【図18】(a)〜(c)は、比較例1,3,4の光学顕微鏡写真の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図6に従って説明する。
図1は、マイクロミキサー1の一例を示す概略図である。
マイクロミキサー1は、中空状のケース1Aを有し、このケース1Aの中には各種微細流路が形成された積層体11が固定されている。この積層体11には、ワックス溶液Bと、該ワックス溶液Bと混合される冷却溶媒Aと、冷却溶媒A及びワックス溶液Bとそれぞれ熱交換を行う第1熱媒H1及び第2熱媒H2とが流れる流路が形成されている。冷却溶媒Aは、常温ではワックスを殆ど溶解せず、ワックス溶液Bと混合されることでスラリー状のワックス分散体Cとなる。
【0021】
熱媒H1は、冷却溶媒Aの温度が予め設定された温度範囲内に含まれるように冷却する媒体であって、熱媒H2はワックス溶液Bの温度が予め設定された温度範囲内に含まれるように加熱する媒体である。
【0022】
ケース1Aの左端C1には、冷却溶媒Aをケース1A内に供給する第1供給部4Aが設けられ、ケース1Aの右端C2には、ワックス溶液Bをケース1A内に供給する第2供給部4Bが設けられている。
【0023】
供給部4A,4Bは、ケース1Aの端部に形成された開口部2A,2Bと、開口部2A
.2Bに連結されたコネクタ3A,3Bとを有している。コネクタ3A,3Bは、冷却溶媒A及びワックス溶液Bをそれぞれ貯留するタンクや、加圧ポンプ、このポンプに連結された管路等を含む圧送機構と接続されており、冷却溶媒A及びワックス溶液Bはその機構により加圧状態でコネクタ3A,3B側に圧送されるようになっている。また、冷却溶媒A及びワックス溶液Bをそれぞれ貯留する上記各タンクは、タンク内の液温を測定する温度センサ及び測定温度がフィードバックされる温度調整装置が設けられており、冷却溶媒A及びワックス溶液Bを所定温度に調整するように構成されている。尚、ワックス溶液Bは、ワックスの融点以上に加熱され、固形状のワックスが残留していない状態に保持されている。
【0024】
開口部2A,2Bとケース1A内に固定された積層体11の各側面11a,11bとの間には、空間が設けられ、該空間は上記圧送機構から送出された冷却溶媒A及びワックス溶液Bを一時貯留する貯留部S1,S2として機能する。
【0025】
また、ケース1Aの上端C3には、各熱媒H1,H2をケース1A内に供給する各熱媒供給部7A,7Bがそれぞれ形成されている。熱媒供給部7A,7Bは、上記供給部4と同様に開口部5A,5B、コネクタ6A,6Bをそれぞれ有している。各熱媒供給部7A,7Bに供給された熱媒H1,H2は、積層体11に形成された流路を通過し、ケース1Aの下端C4に形成された各熱媒送出部7C,7Dからケース1A外部へそれぞれ送出される。各熱媒送出部7C,7Dは、上記流体供給部4と同様に開口部5C,5D、コネクタ6C,6Dをそれぞれ有している。
【0026】
また、ケース1Aの下端C4には、積層体11内で生成されたワックス分散体Cをケース1A外へ送出する送出部10が設けられている。送出部10は、開口部8と、開口部8に連結されたコネクタ9とを有している。
【0027】
即ち、冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、各供給部4A,4Bからケース1A内部にそれぞれ供給され、積層体11に形成された微細流路において混合される。ここで冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、微細流路で混合されることにより拡散距離が短くなり混合速度及び冷却速度が大きくなるとともに、所望とする処理量だけが効率よく混合される。そしてスラリー状のワックス分散体Cとなって送出部10からケース1A外部へ送出される。尚、マイクロミキサー1のケース1Aや各供給部4A,4B、送出部10の位置等は上記構成に限定されず、適宜変更可能である。
【0028】
次に、上記積層体11について説明する。図2に示すように、積層体11は、長方形状の各カバープレートP1,P2との間に、流路が形成されたプレート群12を備えている。
【0029】
プレート群12は、3枚の温調プレート13と2枚の混合プレート14とが積層されて構成されている。本実施形態では、温調プレート13が最上層及び最下層となって、混合プレート14がいずれかの2枚の温調プレート13に挟まれた状態で積層されている。
【0030】
各カバープレートP1,P2、各温調プレート13及び各混合プレート14は、その外形が同じ長方形状且つ板状に形成されている。また、各カバープレートP1,P2、温調プレート13及び混合プレートの材質は特に限定されず、例えば金属材、樹脂、ガラス、セラミックス等、流路を形成するための加工が容易で、各プレート13,14,P1,P2を液漏れ等が生じ難い密着状態で互いに固定できる材質であればよい。また、各プレート13,14,P1,P2を同じ材質から形成しても良いし、異なる材質で形成してもよい。例えば、各プレート13,14,P2,P2をステンレス鋼から形成し、拡散結合により密着状態で固定してもよい。各プレート13,14,P2,P2の加工方法は、例え
ば射出成型、溶剤キャスト法、溶融レプリカ法、切削、エッチング、フォトリソグラフィー、レーザーアプレーション等の公知の各種方法のうち、その材質に応じた好適な方法を選択できる。
【0031】
次に、混合プレート14について図3及び図4に従って詳述する。図3に示すように、本実施形態の混合プレート14は、一対のプレートからなり、矩形且つ板状の第1流路形成部14Aと第2流路形成部14Bとを有している。
【0032】
第1流路形成部14Aは、その上面14aにおける短手方向(図中Y方向)の中央部に3本の第1流路15を有している。各第1流路15は、第1流路形成部14Aの左側端14bから右側端14cに向かって溝状にそれぞれ形成されており、左側端14b、右側端14c及び上面14aにおいて開口している。左側端14bの各開口は第1流路15の入口15aであって、右側端14cの開口は第1流路15の出口15b(連通口)となる。入口15aは、冷却溶媒Aが供給される上記第1供給部4Aに連通している。このように形成された各第1流路15は、混合プレート14の奥行方向に等間隔で配置されている。尚、本実施形態では3本の第1流路15を形成したが、3本以外の複数の本数でもよい。
【0033】
また、第1流路15は、流路径の大きい大径部16と流路径の小さい小径部17と、大径部16から小径部17への径変化を緩やかにするためのテーパ部18が設けられている。
【0034】
大径部16は、通流方向に直交する方向における断面が矩形状をなす流路であって、左側端14bから右側端14cの手前まで延びている。大径部16の流路断面の等価直径は、流体の温度分布の均一性や装置的強度を確保するために、例えば0.1mm以上100mm以下の範囲にすると好ましく、0.1mm以上10mm以下の範囲にするとより好ましく、0.1mm以上1mm以下の範囲にすると特に好ましい。即ち、大径部16の形状としては、圧損が大きくなりすぎず、流路閉塞が生じにくく、流路の加熱・冷却の迅速な制御が可能であって、生産性を向上させることができる流路形状であれば良い。尚、等価直径は、任意の断面形状の流路管に対し等価な円管を想定するときその円管の直径を指し、相当直径、代表長さともいう。本実施形態では、大径部16及び小径部17は矩形状であるが、矩形状でなくてもよく、円形状、その他の多角形状でもよい。また、第1流路15は、少なくとも混合領域としての合流路19に連通する出口15bの流路断面が上記した範囲(0.1mm以上100mm以下)であればよく、入口15aから出口15bにかけての流路断面が一定でなくてもよい。
【0035】
小径部17も断面矩形状に形成された流路であって、右側端14cの手前から右側端14cに向かって延びている。小径部17は、少なくとも大径部16の断面積よりも小さい断面積を有する形状であればよいが、例えば等価直径が0.1mm以上20mm以下の範囲が好ましく、1mm以下の範囲がより好ましい。即ち、小径部17の形状としては、圧損が大きくなりすぎず、流路閉塞が生じにくく、流路の加熱・冷却の迅速な制御が可能であって、生産性を向上させることができる流路形状であれば良い。
【0036】
また、第1流路形成部14Aと第2流路形成部14Bとの間には、所定幅の空間からなる合流路19が設けられている。図3では底面及び上面が開口するとともに、混合プレート14の前面14g側の開口及び背面14h側の開口を有する。前面14g側の開口部19cは、合流路19の出口であって、上記した送出部10に連通する。また背面14h側の開口部19bは、ケース1A又はその他の部材によって閉塞される。この合流路19は、両側の各側面が第1流路形成部14A及び第2流路形成部14Bによって構成された、平面視において長方形をなす長尺状の流路であって、その長手方向は混合プレート14の短手方向と平行である。
【0037】
また、第2流路形成部14Bは、ワックス溶液Bが流れる第2流路20を有し、合流路19に対して第1流路形成部14Aと対称的(線対称)に形成されている。即ち、第2流路形成部14Bの上面14dにおける短手方向の中央部に3本の第2流路20が溝状に形成されて、等間隔で配置されている。また、各第2流路20は、左側端14e、右側端14f及び上面14dにおいて開口している。左側端14eの各開口は、第2流路20の出口20b(連通口)であって、右側端14fの開口は第2流路20の入口20aを構成する。これらの入口20aは、ワックス溶液Bが供給される上記第2供給部4Bに連通している。尚、本実施形態では3本の第2流路20を形成したが、3本以外の複数の本数でもよい。
【0038】
また、第2流路20は、大径部21及び小径部22と、それらの間に設けられたテーパ部23を有している。大径部21は、第1流路形成部14Aの大径部16と同じ形状及び同じ流路径(等価直径)であって、第2流路形成部14Bの右側端14fから左側端14e手前まで延びている。小径部22も、第1流路形成部14Aの小径部17と同じ形状及び同じ流路径(等価直径)であって、左側端14eの手前から左側端14eに向かって延びている。また、第2流路20は、少なくとも合流路19に連通する出口20bの流路断面が上記した範囲(0.1mm以上100mm以下)であればよく、入口20aから出口20bにかけての流路断面が一定でなくてもよい。
【0039】
図4に示すように、このように形成された第1及び第2流路形成部14A,14Bは、第1流路15の出口15bと第2流路20の出口20bとが、合流路19を介して1対1で対向した位置となるように配置される。また、第1流路15の出口15bは、合流路19の中心軸X1の方向における開口位置が、第2流路20の出口20bの上記中心軸X1における開口位置と同一となるように配置される。さらに、それらの出口15b,20bの開口面は平行になっている。また、第1流路15及び第2流路20の出口15b,20bの断面における中心軸は、同一の中心軸X2である。
【0040】
これらの3つの第1流路15の出口15bは、合流路19の対向する各側面のうち一方の側面に合流路19の長手方向に沿って並んで配置され、3つの第2流路20の出口20bは他方の側面に合流路19の長手方向に沿って並んで配置されている。尚、第1流路15は平面視において左側に設けられる必要はなく、右側でもよいし、第2流路20は平面視において右側に設けられる必要はなく、左側でもよい。
【0041】
このため、各流路15,20の入口15a,20aから加圧状態で冷却溶媒A及びワックス溶液Bをそれぞれ供給すると、冷却溶媒A及びワックス溶液Bは各大径部16,21を流れ、各テーパ部18,23を介して各小径部17,22に流入する。小径部17,22に流入した冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、入口15a,20aに流入したときの流速よりも大きな流速で出口15b,20bから合流路19に流入する。尚、出口15b、20bにおける流速は、0.5m/秒以上であることが好ましい。
【0042】
このとき、上記したように出口15b,20bが中心軸X1方向において同じ開口位置であり、1対1で対向しているため、出口15b,20bから送出された冷却溶媒Aの微細流及びワックス溶液Bの微細流は合流路19において正面から衝突した状態となる。このため、冷却溶媒A及びワックス溶液Bを層流状態で合流させた場合等に比べ、冷却溶媒A及びワックス溶液Bの接触面積を高めて効率よく混合することができる。また、対向する冷却溶媒Aの流れ及びワックス溶液Bの流れを正面から衝突させることにより、冷却溶媒A及びワックス溶液B内の流体要素は、冷却溶媒Aの流れの方向と、この方向と反対方向であるワックス溶液Bの流れの方向とからせん断力をうけるため、混合速度を高めることができる。
【0043】
このように衝突して混合された冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、合流路19の背面側の開口部19bが閉塞されているため、上記圧送機構の圧力により開口部19cへ向かって流れる。合流路19において発生する圧力損失、高粘度流体及び異粘度流体の安定した通流、混合力、装置的強度を考慮すると、合流路19の幅、即ち各出口15b,20bの間の距離は、0.1mm以上30mm以下が好ましく、0.5mm以上5mm以下がより好ましい。また、その深さは0.3mm以上が好ましい。この幅は、冷却溶媒A及びワックス溶液Bの粘性(流れやすさ)と、目的とする混合度合等に応じて変更可能である。幅を短くすれば、圧力損失が比較的大きくなるが各流体同士の衝突力を増大させ、流体内のせん断力を高めることができる。幅を長くすれば、衝突力は比較的弱くなるが、圧力損失を低減することができる。
【0044】
次に、温調プレート13について図5に従って説明する。温調プレート13は、長方形状且つ板状に形成され、混合プレート14とほぼ同じ大きさとなっている。温調プレート13は、その長手方向の中央であって、混合プレート14が積層された際に合流路19と重なる位置に断熱部30を有している。断熱部30は、温調プレート13の前面13cから奥行方向(図中Y方向)に長尺状に切り欠くことで形成されており、その厚み方向(図中Z方向)に貫通し、前面13c側に開口部30aを有している。この断熱部30の幅は、上記混合プレート14の合流路19の幅とほぼ同一となっている。
【0045】
断熱部30に対して左側及び右側には、略長方形状の凹部24が形成されている。この凹部24には、温調プレート13の上面13aに溝状にそれぞれ形成された流入路26及び流出路27が連通している。
【0046】
また、凹部24の前面側及び背面側には、長尺状の壁部24a,24bが凹部24の底面から突出形成されている。壁部24a,24bは、温調プレート13の長手方向(図中X方向)に延びるように設けられ、その先端と凹部24の内壁面との間には流路の一部を構成するための空間が設けられている。また、凹部24の底面であって、各壁部24a,24bの間には、同じく長尺状の壁部25が4本突出形成されている。壁部25は、凹部24の幅(図中X方向の長さ)よりも短く、その両端と凹部24の内壁面との間には流路の一部を構成するための空間が設けられている。これらの各壁部24a,24b,25により、凹部24内の空間が区画されて熱媒H1,H2が流れる流路が構成され、流入路26及び流出路27を含めて熱媒H1,H2が流れる媒体流路としての熱媒流路31が構成される。熱媒流路31は、背面側の流入路26を入口とし、前面側の流出路27を出口とした屈曲形状をなす。即ち、温調プレート13の中央側から凹部24の左側面24cに向かって延び、左側面24c手前で屈曲して右側面24dに向かって延びる。また右側面24d手前で屈曲して再び左側面24cに向かって延びる。以下、同様に凹部24内で複数回屈曲を繰り返しながら、温調プレート13の長手方向と平行に延び、最終的に出口に連通する。
【0047】
温調プレート13の左側の凹部24に形成された熱媒流路31Aには、熱媒供給部7Aから熱媒H1が供給され、熱媒供給部7Aには送液ポンプ及び温度コントローラ等を含む循環機構が接続されている。温度コントローラによって温度調整された熱媒H1は、熱媒供給部7Aから熱媒流路31Aに供給され、熱媒流路31Aを通過した後、熱媒送出部7Cから送出される。そして、上記循環機構によって再び熱媒供給部7Aに供給されて、熱媒流路31Aを循環する。
【0048】
温調プレート13の右側の凹部24に形成された熱媒流路31Bには、熱媒供給部7Aから熱媒H2が供給され、上記熱媒流路31Aに接続された循環機構とは別の循環機構が接続されている。温度コントローラによって温度調整された熱媒H2は、熱媒供給部7B
から熱媒流路31Bに供給され、熱媒流路31Bを通過した後、熱媒送出部7Dから送出される。そして、上記循環機構によって再び熱媒供給部7Bに供給されて、熱媒流路31Bを循環する。
【0049】
この温調プレート13の上方又は下方に混合プレート14が積層されると、図4中鎖線で示すように、冷却溶媒Aが流れる第1流路15の上方又は下方に熱媒H1が流れる第1熱媒流路31Aが重なり、ワックス溶液Bが流れる第2流路20の上方又は下方に熱媒H2が流れる第2熱媒流路31Bが重なる。このため、第1熱媒H1と冷却溶媒Aとの間で熱交換が行われ、第2熱媒H2とワックス溶液Bとの間で熱交換が行われる。
【0050】
これらの熱媒流路31A,31Bは、断熱部30が介在することによって各熱媒流路31A,31B周辺部の間の熱移動が抑制されるので、温度差が大きい熱媒H1,H2を各熱媒流路31A,31Bに供給しても、熱媒H1,H2の温度が所望の温度より著しく低下又は上昇することがない。このため、微小流路であるために流路内の冷却溶媒A及びワックス溶液Bが温度変化しやすいマイクロミキサー1においても、冷却溶媒A及びワックス溶液Bの精密な温度調整を行うことができる。従って、冷却溶媒A及びワックス溶液Bが所望の温度より範囲より低下するのを抑制することができるので、各流路15,20や合流路19が析出したワックスによって閉塞されず、生産性の低下を防止することができる。
【0051】
そして図6に示すように、3層の温調プレート13及び2層の混合プレート14を交互に積層すると、温調プレート13の断熱部30と混合プレート14の合流路19とが重なって積層体11の積層方向の長さと同じ深さの合流路32が構成される。合流路32の左側面には、6つの第1流路15の出口15bが開口し、右側面には、第1流路15の出口15bのそれぞれに対応した位置に6つの第2流路20の出口20bが開口する。各温調プレート13及び各混合プレート14が密着状態で互いに結合されることにより、混合プレート14の第1流路15及び第2流路20は、温調プレート13の底面によってその上面側の開口を閉塞される。また温調プレート13の各熱媒流路31A,31Bは、混合プレート14の底面か、若しくはカバープレートP1の底面によってその上面側の開口を閉塞される。
【0052】
以上のように構成された積層体11において、第1供給部4Aからケース1A内へ加圧状態で供給された冷却溶媒Aは、貯留部S1に一時貯留された後、積層体11に設けられた6つの第1流路15へ分割されて微細流となる。また、第2供給部4Bからケース1A内へ加圧状態で供給されたワックス溶液Bは、貯留部S2に一時貯留された後、積層体11に設けられた6つの第2流路20に分割される。
【0053】
混合プレート14の各第1流路15にそれぞれ流入した冷却溶媒Aは、大径部16から小径部17にかけて流速を高めながら送出され、出口15bから合流路19へ送出される。また、各第2流路20にそれぞれ流入したワックス溶液Bは、大径部21から小径部22にかけて流速を高めながら送出され、出口20bから合流路19へ送出される。
【0054】
各第1流路15の出口15bからそれぞれ送出された冷却溶媒Aの微小な流れは、各第2流路20の出口20bからそれぞれ送出されたワックス溶液Bの微小な流れと1対1で正面から衝突する。このため、冷却溶媒A及びワックス溶液Bの微小な流れは、その衝突位置付近でそれぞれ混合されるため、全体としての混合速度をより高めることができる。
【0055】
6対の出口15b,20bからそれぞれ送出された冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、合流路19内で乱流を生じさせながら混じり合い、合流路32の出口32aに向かって流れる。出口から32aから送出されたワックス分散体Cは送出部10に送られ、この送出
部10からケース外へ向かって送出される。
【0056】
次に、上記したマイクロミキサー1を用いたワックス分散体の製造方法について説明する。
ワックス溶液Bに加熱溶解されるワックスとしては、概ね以下のものが適用可能である。動植物系ワックスとしては、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリンワックス、ロウワックス等、石油系ワックスとしては、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等、ポリオレフィン系ワックスとしては、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン等が挙げられる。また、当該ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量としては1000〜20000程度が好ましい。
【0057】
また、冷却溶媒Aとしては特に限定されるものではなく、ワックスの種類に応じてトルエン、キシレン、クメン、ソルベソ100、ソルベソ150等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素類;ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のエステル類;メチルエチルケトン、イソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;などが挙げられる。これらは1種単独あるいは2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0058】
また、ワックスを加熱溶解したワックス溶液Bは、その溶媒として、冷却溶媒Aと同じ組成の溶媒を用いてもよいし、冷却溶媒Aと異なる組成の溶媒を用いてもよい。
また、冷却溶媒A中でのワックスの融点Mt(図7参照)とその冷却溶媒A中でワックスの結晶物が析出する結晶化温度Ctとの温度差が15℃以下、好ましくは10℃以下であるワックスを用いると、より効果を発揮することができる。尚、融点Mt及び結晶化温度Ctは、示差走査熱量測定装置 DSC7(PerkinElmer 社製)を用い、それぞれ昇温速度5℃/分,降温速度1℃/分の条件にて測定した温度であって、図7はその測定におけるワックスの温度変化に対する熱量を示す。図7中上方の曲線は降温時の熱量変化を示し、ワックスの結晶化に起因する吸熱ピークがみられる。また、図7中下方の曲線は昇温時の熱量変化を示し、結晶化温度Ctよりも高い温度域でワックスの溶融に起因する吸熱ピークがみられる。
【0059】
また、本発明に於けるワックス分散体中のワックス含有率は3質量%から20質量%の範囲にあり、ワックス溶液Bに使用される有機溶媒とワックスとの配合割合は、ワックスを有機溶媒に加熱溶解する時点で、有機溶媒100重量部に対し、ワックス100重量部以下程度が好ましい。また、冷却溶媒Aとワックス溶液Bとの混合割合は、冷却溶媒A:100重量部に対し、ワックス溶液B:500重量部以下程度が好ましい。基本的には、各流路15,20の入口15a,20aから合流路32までの圧力損失が送液安定性に影響しない範囲で、かつ、混合・析出後のワックス分散体Cの温度が後述する温度(Mt−20)℃以下になる範囲であれば、ワックス溶液Bの有機溶媒及びワックスの割合と、冷却溶媒A及びワックス溶液Bとの割合を任意の条件で設定することができる。
【0060】
冷却溶媒A及びワックス溶液Bをマイクロミキサー1により混合する工程では、まず上記各循環機構を駆動して、所定の温度に調整された熱媒H1を熱媒流路31Aに循環させ、熱媒H1よりも低温であって所定の温度に調整された熱媒H2を熱媒流路31Bに循環させる。
【0061】
また、冷却溶媒Aを第1供給部4Aからケース1A内へ加圧状態で圧送する。ケース1A内に導入された冷却溶媒Aは、貯留部S1に一時貯留された後、積層体11に設けられた6つの第1流路15へ分割されて微細流となる。
【0062】
また、ワックス溶液Bを第2供給部4Bからケース1A内へ加圧状態で圧送する。ケース1A内に導入されたワックス溶液Bは、貯留部S2に一時貯留された後、積層体11に設けられた6つの第2流路20に分割されて微細流となる。
【0063】
混合プレート14の各第1流路15にそれぞれ供給された冷却溶媒Aは、温調プレート13の第1熱媒流路31Aを流れる熱媒H1によって温度調整されながら、大径部16から小径部17にかけて流速を高めながら送出され、出口15bから合流路19へ送出される。
【0064】
ここで、最終的に所望するワックス分散体Cの配合比に相当するワックス溶液Bと冷却溶媒Aとの混合物に対して、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点をMtとした時、第1流路15の出口15bから合流路19に送出される、混合直前の冷却溶媒Aの温度TAは、(Mt−50)℃以下の範囲とする。冷却溶媒Aの温度TAを(Mt−50)℃以下とすると、ワックス溶液Bの温度を結晶化温度Ct以下まで、冷却速度100℃/秒で急速に下げることができることが、発明者の実験等により判明している。尚、ここでいう冷却速度は、ワックス溶液Bが第2流路20の出口20bから合流路32に供給されて冷却溶媒Aとの混合が開始された時点から、合流路32の出口32aから送出された時点までの温度変化をいう。
【0065】
また、各第2流路20にそれぞれ供給されたワックス溶液Bは、温調プレート13の第2熱媒流路31Bを流れる熱媒H2によって温度調整されながら、大径部21から小径部22にかけて流速を高めながら送出され、出口20bから合流路19へ送出される。
【0066】
ここで、出口20bから合流路19に送出される混合直前のワックス溶液Bの温度TBは、上記融点Mt以上であって、溶液中にワックス固形物の未溶解物が残留しないできるかぎり融点Mtに近い温度とする。このようにワックス溶液Bの温度TBを、融点Mtから大幅に上昇させないことで、ワックスの結晶核の消失を抑制することができる。
【0067】
各第1流路15の出口15bからそれぞれ送出された冷却溶媒Aの微細流は、各第2流路20の出口20bからそれぞれ送出されたワックス溶液Bの微細流と1対1で正面から衝突する。即ち、それらの微細流は、その衝突位置付近でそれぞれ混合されるため、乱流を生じさせながら混じり合い、急速に混合される。これにより、冷却溶媒A及びワックス溶液Bの混合液は、100℃/sec以上の冷却速度で(Mt−20)℃以下まで急速冷却される。この温度(Mt−20)℃は、分散対象となるワックスの平均的な結晶化温度であって、融点と結晶化温度との差が、20℃を超える場合には、混合液はその結晶化温度まで冷却される。
【0068】
ワックス溶液に溶解したワックス成分は、混合液の温度が結晶化温度程度まで降下すると、既に液内に存在する結晶核に凝集するか、新たに微小な結晶核として析出するが、急速冷却した場合には、混合液を徐冷する場合に比べて新たに結晶核として析出する傾向が強くなる。このため、本実施形態ではワックス粒子の成長は抑制され、さらには合流路19で発生するせん断力により物理的に結晶が微細化される。その結果、微細なワックス粒子が分散されたワックス分散体Cが生成される。また、冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、積層体11に一定の流量で連続的に供給されるため、混合条件が一定となり、温度ムラ、濃度ムラが生じず、ワックス分散体Cを送出部10から連続的に得ることができる。このため、ロット振れが生じず、品質を均一化することができる。
【0069】
このマイクロミキサー1において、処理量を増加させる場合には、合流路32の幅、即ち出口15b,20b間の距離を変えずに、合流路32の長さを延長すればよい。或いは
、合流路32の幅を変えずに、合流路19の側面に開口する流路15,20の本数を増加させるか、混合プレート14の積層数を増加させればよい。従って、合流路32における混合効率を低下させずに、処理量を増大することができる。また、流路幅が小さく圧力損失が高まりやすいマイクロミキサーにおいて、上記マイクロミキサー1は合流路32の容積が比較的大きく、圧力損失の増大による流路の閉塞を防ぐことができる。さらに混合対象の流体の粘性等に応じて合流路32の幅も適宜変更できる構成であるため、装置の自由度を向上することができる。
【0070】
また、ワックス分散体の製造方法において、マイクロミキサー1を単独で使用してもよいし、更に、連続式の高速ディスパー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ビーズミル等の高速剪断混合機と組み合わせて使用することもできる。連続式の高速剪断混合機を組み合わせることは、粒子径がより微細なワックス分散体を製造する上で有効である。
【0071】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、溶媒にワックスを加熱溶解したワックス溶液Bと冷却溶媒Aとを合流路32(19)で接触させてワックス溶液Bを100℃/秒以上の冷却速度で急速に冷却する。このため、ワックス粒子が粗大粒子に成長せず、粒子の微細化を図ることができるとともに、温度ムラや濃度ムラが生じ難く、ワックス粒子の粒子径が均一化され、その粒度分布を分布幅が狭い、シャープな分布とすることができる。
【0072】
(2)上記実施形態では、所望のワックス分散体Cの組成比で冷却溶媒A及びワックス溶液Bを混合し、その混合液を対象として示差走査熱量計でワックスの融点Mtを予め測定しておく。そして、所定温度に調整された熱媒H1をマイクロミキサー1に供給することにより、混合前の冷却溶媒Aの温度をMt−50℃以下に調整する。また、所定温度に調整された熱媒H2をマイクロミキサー1に供給することにより、混合前のワックス溶液Bの温度をMt℃以上であって、ワックス溶液中に固形状のワックスが残留しない範囲で融点Mt℃に近づけた温度に調整する。さらに、温度調整された冷却溶媒A及びワックス溶液Bを、混合直後のワックス分散体Cの温度がMt−20℃以下となるように混合する。つまり、ワックス溶液Bの温度を上記したような温度に調整することにより、液内に固形状のワックスが残留しないように全て溶解し、且つワックス粒子の結晶核の消滅を抑制することができる。また、冷却溶媒Aを上記した温度に調整することにより、融点Mt以上に加熱されたワックス溶液を、100℃/秒以上といった冷却速度で冷却することが可能となる。また、混合直後のワックス分散体Cを上記した温度に調整することにより、ワックス粒子を安定して結晶化させることができる。このため、微細なワックス粒子が分散されたワックス分散体を効率的に得ることができる。
【0073】
(3)上記実施形態では、マイクロミキサー1の第1流路15の出口15bと第2流路20の出口20bとを、合流路19を介して1対1で対向した位置となるように配置した。また、第1流路15の出口15bを、合流路19の中心軸X1の方向における開口位置が、第2流路20の出口20bの上記中心軸X1における開口位置と同一となるように配置した。さらに、それらの出口15b,20bの開口面を平行とし、第1流路15及び第2流路20の出口15b,20bの断面における中心軸を、同一の中心軸X2とした。このため、混合前のワックス溶液Bの微細流と、混合前の冷却溶媒Aの微細流の流れとが、正面から衝突する。このため、ワックス溶液B及び冷却溶媒Aの接触面積を高め、衝突位置付近でせん断力を発生させることができる。従って、ワックス溶液B及び冷却溶媒Aの混合速度を高めることができるので、ワックス溶液Bの冷却速度を向上することができる。また、液内に発生するせん断力により、ワックス粒子の粗大化を抑制することができる。
【0074】
(4)上記実施形態では、混合前のワックス溶液Bを等価直径0.1mm以上100m
m以下の流路断面を有する出口20bから合流路19(23)に流入させる。また、混合前の冷却溶媒Aを等価直径0.1mm以上100mm以下の流路断面を有する出口15bから合流路19(23)に流入させる。そして、合流路19(23)に流入したワックス溶液B及び冷却溶媒Aを合流路19(23)で接触させる。従ってワックス溶液B及び冷却溶媒Aの混合効率を高めることによりワックス溶液Bの冷却速度を高めることができる。
【0075】
尚、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、冷却溶媒Aの微細流とワックス溶液Bの微細流とを正面衝突させて混合するマイクロミキサー1を用いたが、他のマイクロミキサーを用いて冷却溶媒A及びワックス溶液Bを混合してもよい。又は、マイクロミキサー以外でも、上記各微細流を混合領域において100℃/秒以上の冷却速度で混合させることができれば、他の混合装置を用いてもよい。
【0076】
・上記実施形態では、混合前の冷却溶媒の温度を(Mt−50)℃以下に調整したが、混合時に100℃/秒以上といった冷却速度で冷却できれば、(Mt−50)℃以下でなくてもよい。例えば、合流路32を減圧したり、混合液が接触する流路壁部を冷却したりする等して、100℃/秒以上といった冷却速度で冷却できればよい。また、混合前のワックス溶液Bの温度を融点Mt℃以上であって、ワックス溶液中に固形状のワックスが残留しない範囲で融点Mt℃に近づけた温度としたが、造核剤等を用いてワックス溶液中に結晶核が十分存在すれば、融点Mt℃に近づけなくてもよい。
【0077】
・上記実施形態では、マイクロミキサー1に設けられた複数の第1流路15と複数の第2流路20とによってワックス溶液B及び冷却溶媒Aをそれぞれ分割して微細流としたが、複数の流れに分割せずに、マイクロミキサー1にワックス溶液Bの流路と冷却溶媒Aの流路とをそれぞれ1本ずつ設けてもよい。また、マイクロミキサー1を用いずに、バッチ式の攪拌機を用いるようにしてもよい。要は、ワックス溶液Bを100℃/秒以上の冷却速度で冷却できればよい。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。
(実施例1)
マイクロミキサー1の積層体11は、以下の構成の2枚の混合プレート14と、3枚の温調プレート13を交互に積層した。
【0079】
混合プレート;
板厚:1mm、第1流路及び第2流路の流路寸法(入口側):幅1.2mm 長さ45mm、(出口側):幅0.4mm 長さ2mm、流路深さ:0.5mm、等価直径:0.25mm、流路数:10本(第1流路5本、第2流路5本)、合流路:幅5mm、長さ40mm、出口断面積25mm2
温調プレート;
板厚:1mm、流路幅:2mm、流路深さ:0.5mm、流路数:2本,断熱部 幅:5mm 長さ;40mm
冷却溶媒Aを温度調整する熱媒H1は25℃の水を用い、ワックス溶液Bを温度調整する熱媒H2は80℃の水を用い、各熱媒H1,H2を60L/hrの条件で温調プレート13に循環させ、温度制御を行った。これにより冷却溶媒Aはほぼ25℃に温度調節され、ワックス溶液Bはほぼ80℃に温度調節される。
【0080】
ワックス溶液Bはブチルセロソルブ;76部に対しカルナバワックス(カルナバ1号フレーク、東洋ペトロライト(株)製);24部を80℃にて加熱溶解したもの、冷却溶媒
Aとしては25℃のブチルセロソルブを用いた。尚、ここで用いたカルナバワックスの融点は、約80℃である。上記のワックス溶液B及び冷却溶媒Aを各々5.4kg/hrの条件で温度制御されているマイクロミキサー1に供給し、ワックス溶液Bを冷却速度103℃/秒で急速冷却した。冷却速度は、第2流路20を流れるワックス溶液Bの温度と、合流路32におけるワックス分散体Cの出口温度と、混合開始から合流路32の出口まで到達するまでにかかる経過時間とから求めた。そしてワックス分散体Cを合流路32の出口から10.8kg/hrで連続的に得た。
【0081】
得られたワックス分散体Cについて評価を行うとともに、ワックス分散体Cの出口温度、送液時の圧力損失を測定した。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径及び粒度分布は、島津レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2200((株)島津製作所製)を用いて測定した。平均粒子径は、粒度分布曲線において積算値が50%にあたる粒径(D50)である。ワックスの平均粒子径は4.6μmであり、粗大粒子を含まない良好なものであった。また、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=1.24とシャープな分布が得られた。
【0082】
また、粒径20μm以上の粗大粒子の有無とその粒子寸法については、ワックス分散体Cと同一組成の溶剤を用い10倍に希釈した分散体溶液を目視および光学顕微鏡により観察した。実施例1のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図8に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図9(a)に示す。図9(a)において、最大粒子P10の粒子径は5μm程度であって、粗大粒子は見られなかった。
(実施例2)
マイクロミキサー1は実施例1と同じ装置を用い、10枚の混合プレート14と11枚の温調プレート13とを交互に積層した。これにより、積層体11の厚さ方向に貫通した合流路32の出口断面積は105mm2となった。
【0083】
熱媒H1,H2は、実施例1と同様にそれぞれ25℃及び80℃とした。そしてそれらの熱媒H1,H2を流量300L/hで温調プレート13に循環させ、温度制御を行った。
【0084】
冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、実施例1と同様な組成とした。そして、この冷却溶媒A及びワックス溶液Bを、実施例1よりも大きい各々27kg/hrの条件で温度制御されているマイクロミキサー1に供給し、ワックス溶液Bを冷却速度121℃/秒で急速冷却した。そしてワックス分散体Cを合流路32の出口から54kg/hrで連続的に得た。
【0085】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、送液時の圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は4.8μmで、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=1.30とシャープな分布が得られた。また、実施例2のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図10に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図9(b)に示す。図9(b)において、最大粒子P11の粒子径は5μm程度であって、粗大粒子は見られなかった。
【0086】
(実施例3)
マイクロミキサー1は、実施例1で使用した装置を用いた。冷却溶媒Aを温度調整する熱媒H1は、実施例1よりも低温の15℃の水を用い、ワックス溶液Bを温度調整する熱媒H2は実施例1よりも低温の70℃の水を用いた。そしてこれらの熱媒H1,H2を、実施例1と同様に60L/hrの条件で温調プレート13に循環させ、温度制御を行った。
【0087】
ワックス溶液Bは、ブチルセロソルブ;28部、ソルベソ150;8部に対し、マイクロクリスタリンワックス(Hi−Mic−1045、日本精蝋(株)製);9部を70℃にて加熱溶解したもの、冷却溶媒Aとしては15℃のブチルセロソルブ;28部、ソルベソ150;8部の混用溶媒を用いた。マイクロクリスタリンワックスの融点は、約75℃である。上記のワックス溶液B及び冷却溶媒Aを実施例1と同様に各々5.4kg/hrの条件で温度制御されているマイクロミキサー1に供給し、ワックス溶液Bを冷却速度120℃/秒で急速冷却した。そしてワックス分散体Cを合流路32の出口32aから10.8kg/hrで連続的に得た。
【0088】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、送液時の圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は8.1μmであって、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=2.51と比較的シャープな分布が得られた。また、実施例3のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図11に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図9(c)に示す。図9(c)において、最大粒子P12の粒子径は9μm以下であって、粗大粒子は見られなかった。
(実施例4)
マイクロミキサー1は、実施例1で使用した装置を用いた。冷却溶媒Aを温度調整する熱媒H1は、実施例1よりも低温の5℃の水を用い、ワックス溶液Bを温度調整する熱媒H2は実施例1よりも高温の120℃のオイルを用いた。そしてこれらの熱媒H1,H2を、実施例1と同様に60L/minの条件で温調プレート13に循環させ、温度制御を行った。
【0089】
ワックス溶液Bは、ブチルセロソルブ;8部、ソルベソ150;62部に対し、低分子量酸化ポリエチレン(A−C392、Honeywell International Inc.製);30部を120℃にて加熱溶解してポリエチレン系のワックス溶液を生成した。低分子量酸化ポリエチレンの融点は、約125℃である。冷却溶媒Aとしては5℃のブチルセロソルブ;8部、ソルベソ150;62部の混用溶媒を用いた。上記のワックス溶液B及び冷却溶媒Aを実施例1と同様に各々5.4kg/hrの条件で温度制御されているマイクロミキサー1に供給し、ワックス溶液Bを冷却速度206℃/秒で急速冷却した。そしてワックス分散体Cを合流路32の出口から10.8kg/hrで連続的に得た。
【0090】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、送液時の圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は6.4μmであり、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=1.28とシャープな分布が得られた。また、実施例4のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図12に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図9(d)に示す。図9(d)において、最大粒子P13の粒子径は7μm程度であって、粗大粒子を含まない良好なものであった。
(実施例5)
図13に示すミキサー構造体50を用いてミキサーを構成し、冷却溶媒A及びワックス溶液Bの混合を行った。尚、図ではミキサーの内部を示す構造体のみ示し、該構造体50を収容するケースやコネクタ等は便宜上、図示を省略している。
【0091】
ミキサー構造体50は、冷却溶媒Aを導入する溶媒導入部51と、冷却溶媒Aが流れる溶媒流路52を有する溶媒プレート53とを有する。また、ワックス溶液Bを導入するワックス溶液導入部54と、ワックス溶液Bが流れるワックス溶液流路55を有するワックス溶液プレート56と、冷却溶媒A及びワックス溶液Bが混合され、該構造体50の外側へ混合液を送出する混合部57とを有する。
【0092】
溶媒プレート53及びワックス溶液プレート56は、その外形が平行四辺形状且つ板状に形成されている。溶媒プレート53には6本の溶媒流路52が形成されるとともに、ワックス溶液プレート56にも6本のワックス溶液流路55が形成されている。尚、図16では便宜上、各流路52,55は、1本の線で示している。
【0093】
また、各プレート53,56の下には、熱媒H1,H2が流れる温調プレート(図示略)が各プレート53,56の下面に接触するように配置されている。熱媒H1は、冷却溶媒Aを温度調整し、熱媒供給部58から温調プレート内に導入され、熱媒送出部59から送出される。熱媒H2は、ワックス溶液Bを温度調整し、熱媒供給部60から温調プレート内に導入され、熱媒送出部61から送出される。
【0094】
これらの複数枚の溶媒プレート53及びワックス溶液プレート56は、下流側において交差するように交互に積層されている。即ち、ワックス溶液プレート56は、上記温調プレートを介して、上層又は下層の溶媒プレート53と交差部62において重なるように積層されている。溶媒プレート53及びワックス溶液プレート56は、溶媒流路52の中心軸線とワックス溶液流路55の中心軸線とが鋭角の角度αをなすように配置され、各プレート53,56に混合部57が接続されることにより、全体としてY字型をなすように構成されている。このため、混合部57では、溶媒流路52の出口から送出された冷却溶媒Aと、ワックス溶液流路55の出口から送出されたワックス溶液Bとが、ミキサー構造体50の厚み方向(紙面に直交する方向)において上下に分かれた層流として、しかも平面視において角度αをなすように交差した状態で接触する。
【0095】
ミキサー構造体50は、5枚の溶媒プレート53と5枚のワックス溶液プレート56とを交互に積層して構成した。以下に、各プレート53,56の具体的な構成を示す。
溶媒プレート;
板厚:1mm,流路幅:0.5mm,流路深さ:0.4mm,等価直径:0.25mm、流路数:6本、溶媒導入路の流路径:5mm
ワックス溶液プレート;
板厚:1mm、流路幅:0.5mm,流路深さ:0.4mm,等価直径:0.25mm、流路数:6本、溶液導入路の流路径:5mm
温調プレート;
板厚:1mm,流路幅:1.2mm,流路深さ:0.5mm,プレート数:11枚
混合部;
流路径:5mm、流路断面積:19.6mm2
熱媒D,Eについては、実施例4と同様に、熱媒Dは5℃の水を用い、熱媒Eは120℃のオイルを用いた。そして、それらの熱媒D,Eを60L/hrの条件でミキサー構造体50に循環させ、温度制御を行った。
【0096】
冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、実施例4と同じ材料及び組成とした。上記のワックス溶液B及び冷却溶媒Aを実施例1と同様に各々5.4kg/hrの条件で温度制御されているミキサー構造体50に供給し、ワックス分散体Cを混合部57の出口からの回収を試みた。運転を開始してからおよそ2分経過した段階で少量のみ回収できた。
【0097】
運転開始直後に得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、送液時の圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は6.9μmで、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=1.51と比較的シャープな分布が得られた。また、実施例5のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図14に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図9(e)に示す。図9(e)において、最大粒
子P14の粒子径は10μm程度であって、大きめの粒子が若干確認された。
(比較例1)
マイクロミキサー1は実施例1と同じ装置を用いた。
【0098】
冷却溶媒Aを温度調整する熱媒H1は、実施例1よりも高温の45℃の水を用い、ワックス溶液Bを温度調整する熱媒H2は、実施例1と同じ80℃の水を用いた。そしてそれらの熱媒H1,H2を、実施例1よりも小さい1L/minの流量でマイクロミキサー1に循環させ、温度制御を行った。また、ワックス溶液B及び冷却溶媒Aは、実施例1と同様な材料及び組成とした。
【0099】
即ち、上記のように組成されたワックス溶液Bにおいて上記カルナバワックスの融点Mtは約80℃であるため、冷却溶媒Aの温度は、上記した(Mt−50)℃の範囲を超える。そしてワックス溶液B及び冷却溶媒Aを各々5.4kg/hrの条件で温度制御されているマイクロミキサー1に供給し、ワックス溶液Bを冷却速度62℃/秒で冷却した。そしてワックス分散体Cを合流路32の出口から10.8kg/hrで連続的に得た。
【0100】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は12.3μmと大きく、粒度分布も、ばらつき度(D90−D10)/D50=1.89と若干ブロードとなった。即ち、冷却溶媒Aの温度を45℃としたため、ワックス溶液Bを100℃/秒以上といった冷却速度で冷却し難く、液内の結晶核が十分に増えず、既に析出したワックス粒子を核としてワックス成分が凝集して粒子が成長したと推定される。また、比較例1のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図15に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図18(a)に示す。図18(a)において、最大粒子P15の粒子径は20μm程度であって、極端に大きな粗大粒子は含まれなかった。
(比較例2)
マイクロミキサー1は実施例1と同じ装置を用いた。
【0101】
冷却溶媒Aを温度調整する熱媒H1は、実施例1よりも高温の32℃の水を用い、ワックス溶液Bを温度調整する熱媒H2は、実施例1と同じ80℃の水を用いた。そしてそれらの熱媒H1,H2を、実施例1よりも小さい1L/minの流量でマイクロミキサー1に循環させ、温度制御を行った。また、ワックス溶液B及び冷却溶媒Aは、実施例1と同様な材料及び組成とした。
【0102】
即ち、上記のように組成されたワックス溶液Bにおいて上記カルナバワックスの融点Mtは約80℃であるため、冷却溶媒Aの温度は、上記した(Mt−50)℃の範囲を超える。そしてワックス溶液B及び冷却溶媒Aを各々5.4kg/hrの条件で温度制御されているマイクロミキサー1に供給し、ワックス溶液Bを冷却速度84℃/秒で冷却した。そしてワックス分散体Cを合流路32の出口から10.8kg/hrで連続的に得た。
【0103】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、送液時の圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は10.5μmと大きく、粒度分布も、ばらつき度(D90−D10)/D50=1.8と若干ブロードとなった。即ち、冷却溶媒Aの温度を32℃としたため、ワックス溶液Bを100℃/秒以上といった冷却速度で冷却し難く、比較例1と同様にワックス成分が凝集して粒子が成長したと推定される。また、比較例2のワックス分散体Cを電子顕微鏡で撮影したが、比較例1と同様であったため、図示を省略した。(比較例3)
冷却溶媒A及びワックス溶液Bは、実施例1と同じ原料及び組成のものを用いた。そし
て、アンカー翼及びディスパー翼からなる2軸撹拌機、コンデンサー及び温調用熱電対を備えたジャケット付5L釜に、冷却溶媒Aを2kg投入し、25℃の温度下で撹拌した。この冷却溶媒A中に、総量2kgのワックス溶液Bを5.4kg/hrの流速で滴下しながら供給することにより、カルナバワックスを析出させ、4kgのワックス分散体Cを得た。ワックス溶液供給中の混合溶液温度制御は行わず、成り行きとした。
【0104】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は8.9μmであったが、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=3.21とブロードな分布となった。また、比較例3のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図16に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図18(b)に示す。図18(b)において、最大粒子P16の粒子径は30μm程度であって、比較例3では極端に大きな粗大粒子の発生が確認された。即ち、比較例3のようなバッチ式でワックス分散体Cを製造する場合、上記マイクロミキサー1に比べ混合に長時間を有し、冷却速度が小さくなるため、ワックス粒子の微細化が困難である。また、温度ムラ、濃度ムラが生じやすいため、粒度分布がブロード化してしまい、粒径の均一化も難しい。
(比較例4)
比較例3と同じ装置を使用し、同様の操作を行って4kgのワックス分散体Cを得た。但し、ワックス溶液Bの供給工程での混合溶液温度は25℃±1℃に保持するものとした。
【0105】
得られたワックス分散体Cについて実施例1と同様な方法で評価を行うとともに、出口温度、送液時の圧力損失等について実施例1と同様な測定を行った。その結果を表1に示す。ワックスの平均粒子径は7.4μmであったが、粒度分布は、ばらつき度(D90−D10)/D50=3.16とブロードな分布となった。また、比較例4のワックス分散体Cの顕微鏡写真を図17に示し、その顕微鏡写真で撮影された粒子のうち、比較的大きい粒子を示した模式図を図18(c)に示す。図9(c)において、最大粒子P17の粒子径は30μm程度であって、比較例4では比較例3と同様に極端に大きな粗大粒子の発生が確認された。
【0106】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のワックス溶液を冷却溶媒に分散させたワックス分散体は、印刷インキ、製缶塗料等といったコーティング材料として有用である。
【符号の説明】
【0108】
1…マイクロミキサー、11…流体混合構造体としての積層体、13…温度調節プレートとしての温調プレート、14…混合プレート、14A…第1流路形成部、14B…第2流路形成部、15…第1流路、16…第2流路、15b,20b…出口、19…混合領域としての合流路、30…断熱部、31A…第1媒体流路としての第1熱媒流路、31B…第2媒体流路としての第2熱媒流路、32…混合領域としての合流路、A…冷却溶媒、B…ワックス溶液、C…ワックス分散体、Mt…融点。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒にワックスを加熱溶解したワックス溶液と該ワックス溶液よりも低温であって常温下でワックスの溶解度が低い冷却溶媒とを混合して、混合液内にワックスを析出させるワックス分散体の製造方法において、
前記ワックス溶液と前記冷却溶媒とを混合領域で接触させて前記ワックス溶液を100℃/秒以上の冷却速度で急速に冷却することを特徴とするワックス分散体の製造方法。
【請求項2】
所望のワックス分散体の組成比で前記冷却溶媒及び前記ワックス溶液を混合し、その混合液を対象として示差走査熱量計で測定したワックスの融点をMtとしたとき、
混合前の前記冷却溶媒の温度を(Mt−50)℃以下に調整し、
混合前の前記ワックス溶液の温度を融点Mt℃以上であって、ワックス溶液中に固形状のワックスが残留しない範囲で融点Mt℃に近づけた温度に調整するとともに、
温度調整された前記冷却溶媒及び前記ワックス溶液を、混合直後のワックス分散体の温度が(Mt−20)℃以下となるように混合することを特徴とする請求項1に記載のワックス分散体の製造方法。
【請求項3】
前記ワックス溶液と前記冷却溶媒とを前記混合領域で正面から衝突させて混合することを特徴とする請求項1又は2に記載のワックス分散体の製造方法。
【請求項4】
混合前の前記ワックス溶液を等価直径0.1mm以上100mm以下の流路断面を有する連通口から前記混合領域に流入させ、混合前の前記冷却溶媒を等価直径0.1mm以上100mm以下の流路断面を有する連通口から前記混合領域に流入させて、前記ワックス溶液及び前記冷却溶媒を前記混合領域で接触させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のワックス分散体の製造方法。
【請求項1】
溶媒にワックスを加熱溶解したワックス溶液と該ワックス溶液よりも低温であって常温下でワックスの溶解度が低い冷却溶媒とを混合して、混合液内にワックスを析出させるワックス分散体の製造方法において、
前記ワックス溶液と前記冷却溶媒とを混合領域で接触させて前記ワックス溶液を100℃/秒以上の冷却速度で急速に冷却することを特徴とするワックス分散体の製造方法。
【請求項2】
所望のワックス分散体の組成比で前記冷却溶媒及び前記ワックス溶液を混合し、その混合液を対象として示差走査熱量計で測定したワックスの融点をMtとしたとき、
混合前の前記冷却溶媒の温度を(Mt−50)℃以下に調整し、
混合前の前記ワックス溶液の温度を融点Mt℃以上であって、ワックス溶液中に固形状のワックスが残留しない範囲で融点Mt℃に近づけた温度に調整するとともに、
温度調整された前記冷却溶媒及び前記ワックス溶液を、混合直後のワックス分散体の温度が(Mt−20)℃以下となるように混合することを特徴とする請求項1に記載のワックス分散体の製造方法。
【請求項3】
前記ワックス溶液と前記冷却溶媒とを前記混合領域で正面から衝突させて混合することを特徴とする請求項1又は2に記載のワックス分散体の製造方法。
【請求項4】
混合前の前記ワックス溶液を等価直径0.1mm以上100mm以下の流路断面を有する連通口から前記混合領域に流入させ、混合前の前記冷却溶媒を等価直径0.1mm以上100mm以下の流路断面を有する連通口から前記混合領域に流入させて、前記ワックス溶液及び前記冷却溶媒を前記混合領域で接触させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のワックス分散体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図13】
【図18】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図13】
【図18】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−46563(P2012−46563A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187415(P2010−187415)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]