説明

ワックス模型の処理方法

【課題】 ワックス模型の破損を防止でき、かつ環境保護にも資するワックス模型の処理方法を提供する。
【解決手段】 精密鋳造のワックス模型に鋳型素材をコーティングするのに先立って、上記ワックス模型の表面を柑橘系洗浄剤で洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワックス模型の処理方法に関し、特に精密鋳造において鋳型素材をコーティングするのに先立って行うワックス模型表面の洗浄処理に関する。
【背景技術】
【0002】
精密鋳造においては、射出成形されたワックス模型の表面を洗浄剤で洗浄して、表面に付着した離型剤等を除去するとともに、後工程において模型表面にコーティングされる鋳型素材としてのスラリーの密着性を確保するようにしている。この場合の洗浄剤としては従来、強力な洗浄作用を発揮する代替フロン系のものが使用されている。
【0003】
なお、特許文献1には、ワックス模型の表面に、当該ワックスに較べて親水性の膜またはアルコールに濡れ易い膜を形成する工程を含むワックス模型の処理方法が提案されている。
【特許文献1】特開平5−23791
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来使用されている代替フロン系洗浄剤は、沸点が低く気化によってワックス表面の熱を急速に奪うため、肉厚の薄いワックス模型が熱歪や衝撃によって割れることがある問題を有するとともに、洗浄後のワックス表面に発生する過大な凹凸を覆うためのゴム系樹脂材による薄膜コーティング処理が必要であった。さらに代替フロンは環境保護の観点より使用の中止が予定されている。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、ワックス模型の破損を防止でき、かつ環境保護にも資するワックス模型の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、精密鋳造のワックス模型に鋳型素材をコーティングするのに先立って、上記ワックス模型の表面を柑橘系洗浄剤で洗浄することを特徴としている。
【0007】
柑橘系洗浄剤は、生分解性に優れ、リサイクル性に優れているから地球環境に優しい。また、気化が緩慢であるから、肉厚の薄いワックス模型が熱歪や衝撃によって割れることがない。加えて、蒸発による消失量が少ないから、従来の代替フロン系のものに比して寿命が長く、コスト低減が図られる。さらに、柑橘系洗浄剤はその皮膜が上記エッチングによって生じた過大な凹凸を埋めるように作用するから、洗浄後のワックス模型表面の凹凸が適度なものとなり、従来必要とされていた洗浄後の薄膜コーティング処理が不要となる。このため、鋳型造形のための作業時間を従来比で30%以上と大幅に短縮することができる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明のワックス模型の処理方法によれば、ワックス模型の破損を防止できるとともに、環境保護にも資することができ、かつ鋳型造形の作業時間の短縮と、コスト低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に本発明の処理方法の一例を示す。本実施形態では図1に示すように前処理において、金型で射出成形したワックス模型の洗浄を、柑橘系洗浄剤の一種であるシトリクリーン(商品名 日華化学株式会社)で行う。シトリクリーンの主要成分を表1に示す。表1から明らかなように、シトリクリーンは天然のオレンジオイルから抽出されたd−リモネンをベースとしているため生分解性に優れ、地球環境に優しいという特徴があり、その強力な洗浄力と、リサイクル性に優れることから、従来は、各種工作機械、建設機械などの工具の油落とし、船舶、飛行機等のエンジン廻りやブレーキ等の洗浄、暖房器具や家電製品の油汚れや手垢の除去、壁や床等の汚れ落としに使用されている。
【0010】
【表1】

【0011】
本実施形態においては、上記シトリクリーンを、シトリクリーンに含まれる表面活性剤(アルキルエーテル)を同量(8質量%)加えた純水で希釈し、希釈率10質量%〜35質量%で使用した。ここで、希釈率とはシトリクリーンの総量に対して希望液(表面活性剤+純水)を加える割合である。この希釈後のd−リモネン含有量は73〜60質量%である。このようなシトリクリーン希釈液でワックス模型を洗浄すると、ワックス模型表面に付着している離型剤等が良好に除去され、同時に、上記模型表面がエッチングされてミクロ的な凹凸が形成され荒らされる。この際、シトリクリーンはその皮膜が上記エッチングによって生じた過大な凹凸を埋めるため、上記凹凸が薄膜コーティング処理を必要としない適度なものとなる。加えて、シトリクリーンは気化が緩慢であるためワックス表面の熱が急激に奪われることがなく、肉厚の薄いワックス模型が熱歪や衝撃によって割れることがない。また、気化が緩慢であるため蒸発による消失量が少なく、洗浄液として従来の代替フロン系のものに比して寿命が長いから、コストの低減を図ることができる。なお、発明者の実験によると、希釈率が10質量%より少ない(d−リモネンが73質量%より多い)と、ワックス表面のエッチングが進み過ぎて形状精度が悪くなる。また、希釈率が35質量%より多い(d−リモネンが60質量%より少ない)と、ワックス模型とスラリーとの密着性が悪く、スラリーの剥れが生じる。
【0012】
洗浄されたワックス模型の表面には鋳型造形のためにスラリーの初層がコーティングされるが(初層造形)、シトリクリーンにより荒らされて適度な凹凸を生じた上記模型表面はスラリーとの密着性が良くなり、初層のスラリーは剥がれ等を生じることなく模型表面に固着される。その後、初層のスラリーは乾燥させられ、続いて砂払いや乾燥を伴う公知の手順によって2層目から7層目までスラリーが順次コーティングされて鋳型の造形が行われる。
【0013】
これに対して、従来の代替フロン系洗浄剤を使用した場合には、ワックス模型が熱歪や衝撃によって割れ、あるいは環境負荷を増大させるという既述の問題がある上に、図2に示すように、代替フロン系洗浄剤では洗浄時にエッチングによって過大な凹凸が生じるため、洗浄後の前処理段階でゴム系樹脂材にて薄膜コーティング処理して上記凹凸を埋めて適度な凹凸にする作業が必要である。このため全体の作業時間が本実施形態に比して長くなってしまう。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の処理方法の具体的な実施例を説明する。ゴルフクラブヘッド精密鋳造用のワックス模型を24個用意した。このワックス模型は、一回の鋳造工程で4個のクラブヘッドが同時に鋳造できる4個取り模型である。模型に使用したワックスはレジン系ワックスとした。24個のワックス模型を、4個づつの組に分けて表2に示すように実施例1〜3、比較例1〜3とした。
【0015】
[実施例1]
洗浄液として希釈率10質量%のシトリクリーン液(シトリクリーン100質量%に対し、アルキルエーテル8質量%を含む純水10質量%を加えた希釈洗浄液。以下同様)を使用してドブ浸け洗浄した。洗浄時間は15秒である。その後、エアーノズルにて洗浄液を吹き飛ばしワックスを乾燥させるエアー払い工程を80秒行った。以上の前処理洗浄時間は合計95秒である。エアー払い工程を終えたワックス模型を、ジルコニアバインダーとジルコニア粉末からなるスラリーに20秒間ドブ浸けし、ならし、砂付けした後、20時間自然乾燥させた。本実施例により得られたワックス模型は4個とも形状精度が良好であるとともに、スラリーの剥がれも無かった。
【0016】
[実施例2]
洗浄液として希釈率20質量%のシトリクリーン液を使用してドブ浸け洗浄した。他の工程は実施例1と同様である。本実施例によっても、得られたワックス模型は4個とも形状精度が良好であるとともに、スラリーの剥がれも無かった。
【0017】
[実施例3]
洗浄液として希釈率35質量%のシトリクリーン液を使用してドブ浸け洗浄した。他の工程は実施例1と同様である。本実施例によっても、得られたワックス模型は4個とも形状精度が良好であるとともに、スラリーの剥がれも無かった。
【0018】
[比較例1]
洗浄液として希釈率8質量%のシトリクリーン液を使用してドブ浸け洗浄した。他の工程は実施例1と同様である。本比較例では、ワックス模型のスラリーの剥がれは生じないが、形状精度は4個とも規定値をクリアせず悪化した。
【0019】
[比較例2]
洗浄液として希釈率40質量%のシトリクリーン液を使用してドブ浸け洗浄した。他の工程は実施例1と同様である。本比較例では、ワックス模型の形状精度は良好であったが、当該模型には4個ともスラリーの剥がれが生じた。
【0020】
[比較例3]
洗浄液として代替フロンを使用してドブ浸け洗浄した。洗浄時間は15秒である。この後、ゴム系樹脂材を純水で適当濃度に希釈したコーティング材にドブ浸けして薄膜コーティング処理を行った。処理時間は20秒である。続くエアー払い工程以下は実施例1と同様である。本比較例により得られたワックス模型は4個とも形状精度が良好であるとともに、スラリーの剥がれも無い。しかし、薄膜コーティング処理に20秒を要するため、前処理洗浄時間が115秒と上記各実施例に比して長くなってしまう。
【0021】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態を示す鋳型造形工程のブロック図である。
【図2】従来の鋳型造形工程のブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密鋳造のワックス模型に鋳型素材をコーティングするのに先立って、前記ワックス模型の表面を柑橘系洗浄剤で洗浄することを特徴とするワックス模型の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−254030(P2008−254030A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99566(P2007−99566)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(502230882)株式会社大同キャスティングス (32)