説明

ワーク搬送装置

【課題】 ワーク搬送装置において、搬送速度を上げた場合でもワークが確実に保持されて位置がズレたりするような不具合がなく、また、ワークの移動が停止した場合に、簡素な構成によりクランプ状態が解除できるようにする。
【解決手段】 ハンガー1に設けられるワーク保持用の保持部材2として、上面の一部に受け溝11mを備えた一対の受け部材11間にそれぞれの枢支軸12周りに揺動可能な一対の爪部材13を設け、一方側の爪部材13の下端部をバネ15により引っ張る方向に付勢することで、常時、爪部材13の上端側の挟持部13aが受け部材11の受け溝11m内でワークWの下縁部を挟持するようにする。また、ハンガー1が停止位置で止まった際、ハンガー位置決め用のクランパ7が作動すると、それに連動してワイヤ16により挟持部13aの挟持を開放することのできる開放部材8を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の製造ライン等に使用されるワーク搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークを搬送するためのハンガー式の搬送装置において、ハンガーが移動中にワークのずれや落下を防止する技術として、一対のハンガーのすくなくとも一方側のハンガーに、搬送方向と直交する水平軸を中心として揺動自在な軟質高分子材料製のワーク支持部材を設けるような技術が知られており(例えば、特許文献1参照。)、この技術では、前記ワーク支持部材に、ワークの一部が食い込んだ状態で保持することのできる溝部を形成するとともに、このワーク支持部材の揺動角度を規制するためのストッパアームを設けるようにしている。
【特許文献1】実公平7−50325号公報
【0003】
また、ハンガーを所定の位置に正確に停止させて位置決めされた状態でハンガーによるワークのクランプ状態を解除できるようにする技術も知られており(例えば、特許文献2参照。)、この技術では、ワークの搬送方向に沿って延設されるレールに沿って移動自在なハンガーに、ワークを固定するためのクランプ手段や係合ピンを設け、ハンガーの停止位置に、開閉駆動手段により開閉する一対のクランプアームや、エアを供給するためのエア供給口や、エア通路や、エアによってワークのクランプ手段のクランプ状態を解除するクランプ解除手段を設けるようにしている。
【特許文献2】特開平5−139289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記特許文献1の搬送技術の場合、搬送速度を上げると、進行方向に対してワークの左右の揺れが大きくなり、ずれや落下を完全に防止することは困難であった。
また、特許文献2の搬送技術の場合、ハンガーに対するワークの搭載作業が煩雑で、しかもハンガーの機構が複雑になるとともに、重量も増し、搬送駆動装置も大型化するという問題があった。また、ワークの積み下ろし位置では、ワーククランプ手段をアンクランプにするための駆動源を設ける必要があり、ワークの積み下ろし位置においても装置構成が複雑になるという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、ワーク搬送具へのワークの搭載が簡単で、搬送速度を上げた場合でもワークが確実に保持されて位置がズレたりするような不具合がなく、また、ワーク搬送具が停止した場合に、簡素な構成によりクランプ状態が解除できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、ワークを保持する保持部材を備えたワーク搬送装置において、前記保持部材に、ワークの一部を下方から受けるための受け溝を有する受け部材と、この受け溝内でワークを挟持することのできる一対の爪部材と、この爪部材を常時挟持方向に向けて付勢する付勢部材を設けるようにした。
【0007】
このように、受け溝内の爪部材によりワークを挟持すれば、ワークの搭載が楽に行えるとともに、保持が確実になされるようになり、搬送速度を上げてもワークのブレやズレをなくすことができる。また、爪部材の挟持が外れても受け部材によってワークが落下するような不具合がない。また、爪部材にローレット加工等を施さなくても確実に保持できるため、ワークへの損傷防止が図られる。
この際、例えば、それぞれの爪部材を受け部材に対して各枢支軸周りに揺動自在に枢支するとともに、受け部材や爪部材の所定箇所に長孔を形成し、それぞれの長孔に共通のピンを挿通させて、一方側の爪部材を揺動させると、他方側の爪部材が反対方向に揺動するような機構を採用すれば、爪部材の開閉構造の簡素化を図ることができる。そして、この際は、一方側の爪部材を付勢部材により、挟持方向に向けて付勢しておくようにすればよい。
また、受け部材の受け溝の形状は、例えばV型溝にすることによりワークをより安定させることができる。
また、ワークが受け部材から外れる方向と挟持方向を合わせることで、ワークが外れようとすると挟持力が増すようにしておけば落下防止がより確実となる。
【0008】
また、本発明では、前記ワーク搬送装置に、前記爪部材の挟持方向への付勢を消勢する開放部材を設けるようにした。
【0009】
このように、爪部材の挟持方向への付勢を消勢する開放部材を設け、例えば、ワーク搬送具によりワークを搬送している間は、付勢部材により常にワークの挟持がなされているようにし、ワーク搬送具が停止した際に爪部材による挟持が開放されるようにすれば、ワーク搬送中のワークの保持がより確実となる。
【0010】
また本発明では、前記開放部材を作動させる部材を、ワーク搬送具を位置決めするためのクランパとした。
このようにワーク搬送具を位置決めするためのクランパを利用して開放部材を連動させるようにすれば、装置構成がより簡素となる。
【発明の効果】
【0011】
ワーク搬送装置のワーク保持用の保持部材として、ワークの一部を受けるための受け溝を備えた受け部材と、受け溝内でワークを挟持することのできる一対の爪部材を設け、この爪部材を付勢部材によって常に挟持方向に付勢しておくことで、ワークを安定した姿勢で搬送することができる。また、爪部材によるワークの挟持を開放するための開放部材を設け、例えば、ワーク搬送具の停止位置において、ワーク搬送具を位置決めするために設けた位置決め機構に連動して開放部材を作動させるようにすれば、ワークの開放機構を簡素に構成することができる。
また、開放部材を作動させるため、既存のクランパを利用するようにすれば一層簡素に構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
ここで図1は本発明に係るワーク搬送装置の全体図で(a)は側面図、(b)は正面図、図2は保持部材の斜視図、図3は爪部材が開放した状態の保持部材の正面図、図4は保持部材の作用図、図5は開放部材の作用図、図6は開放部材の側面図である。
【0013】
本発明に係るワーク搬送装置はワーク搬送具へのワークの搭載作業を楽に行うことができ、搬送速度を上げた場合でもワークが確実に保持されて位置がズレたりするような不具合がなく、また、ワーク搬送具が停止した場合に、簡素な構成によりクランプ状態が解除できるようにされている。
【0014】
すなわち、図1、図2に示すように、本ワーク搬送装置は、本実施例ではハンガー式搬送装置として構成され、天井付近に架設されるレールに対して走行自在なワーク搬送具としてのハンガー1を備えており、このハンガー1にはそれぞれのアーム1aを介して複数の保持部材2やズレ防止部材3や揺れ防止部材4が設けられて、保持部材2により、ワークWの窓部の下縁部を保持した際、ズレ防止部材3や揺れ防止部材4によりワークWのズレや揺れが防止できるようにされている。
【0015】
また、ハンガー1の停止位置には、ハンガー1を位置決めするための位置決め機構5が設けられ、この位置決め機構5は、ハンガー1の上部に取り付けられるクランプバー6を後述する一対のクランパ7(図5)でクランプすることにより、ハンガー1を位置決めできるようにされ、また、前記クランプバー6には、後述する開放部材8が取り付けられている。
【0016】
前記保持部材2は、図2、図3に示すように、アーム1aの先端部の取付ブロック10に固着される一対の受け部材11を備えており、それぞれの受け部材11には、上部の一部をV字型に切り込んだ受け溝11mが形成されている。そして、各受け部材11の間には、枢支軸12周りに揺動自在な一対の爪部材13が設けられ、この爪部材13の上端の挟持部13aが受け溝11m内に出没自在にされている。
すなわち、それぞれの爪部材13の下端側がお互いに近づく方向に揺動すると、図2に示すように上端の挟持部13aが閉じた状態となって受け溝11m内に突出し、爪部材13の下端側がお互いに離れる方向に揺動すると、図3に示すように、上端の挟持部13aが開きながら受け溝11mの下方に没入するようにされている。
【0017】
そして、このような爪部材13の動作を行わせるため、受け部材11の受け溝11mの下方には、縦長の長孔11hが形成されるとともに、それぞれの爪部材13の中間部から前方に向けて張り出す張出し部にも長孔13hが形成され、これらすべての長孔11h、13hを挿通してピン14が配設されている。そしてこのピン14は各長孔11h、13h内を移動自在にされている。このため、一方側の爪部材13を揺動させると、自動的に他方側の爪部材13も逆方向に揺動するようにされている。
【0018】
また、一方側の爪部材13(図2、図3の左側の爪部材)の下端部と取付ブロック10との間には付勢部材としてのバネ15が配設され、常時、図2に示すように爪部材13の下端部同士が近づく方向に揺動すべく付勢している。
また、他方側の爪部材13(図2、図3の右側の爪部材)の下端部には、ワイヤ16が連結され、このワイヤ16は、後述する開放部材8に連結されている。
【0019】
このため、通常時は、バネ15の付勢力により爪部材13の上端の挟持部13aが閉じた状態となって受け溝11m内に突出し、バネ15の力以上の力でワイヤ16を引いた場合には、爪部材13の上端の挟持部13aが開きながら受け溝11mの下方に没入することになる。
【0020】
次に、クランプバー6に設けられる開放部材8について図5、図6に基づき説明する。
前記位置決め機構5は、ハンガー1の停止位置において、図5の鎖線に示すクランパ7が上方から降下した後、水平方向のそれぞれ内側に移動してクランプバー6をクランプすることでハンガー1の位置決めを行うが、前記クランパ7の水平移動位置に対応するクランプバー6には、図5、図6に示すような開放部材8が取り付けられている。
【0021】
この開放部材8は、クランプバー6に取り付けられる取付部材17と、この取付部材17に対して上端部が揺動軸18周りに揺動自在に取り付けられるレバー部材20と、このレバー部材20の中間部と取付部材17間に配設されるスプリング21を備えており、レバー部材20の下端部には、取付ボルト22を介して前記ワイヤ16が連結されている。
【0022】
そして、通常時は図5(a)に示すように、スプリング21の力により常にレバー部材20の上端側がクランプバー6から離れる方向に揺動するようにされており、ハンガー1が停止位置で停止し、クランパ7がハンガー1を位置決めすべくクランプバー6を挟み込む方向に作動すると、図5(b)に示すように、その途中で一方側のクランパ7がレバー部材20の上端を押圧してワイヤ16が引っ張られる方向にレバー部材20を揺動させるようにされている。
【0023】
以上のような搬送装置の作用等について説明する。
ハンガー1にワークWを搭載する際、ハンガー1は停止位置にあり、クランパ7によってクランプバー6が挟持されている。このため、図5(b)に示すように、レバー部材20の上端がクランプバー6に近接する方向に揺動してワイヤ16が引っ張られた状態となり、図3に示すように、保持部材2の爪部材13はクランプ解除の状態で、挟持部13aは受け部材11の受け溝11m下方に没入している。
【0024】
この状態で、図4(b)に示すように、ワークWの下縁部を受け溝11m内に載置する。また、図1に示すズレ防止部材3や揺れ防止部材4を所望の状態にセットする。
【0025】
セットが終えて搬送される際、まず、クランパ7によるハンガー1のクランプが解除される。すると、図5(a)に示すように、レバー部材20はスプリング21力により揺動し、ワイヤ16による引張り力がなくなって、図4(a)に示すように、バネ15の力で、爪部材13は、その下端部同士がお互いに近づく方向に揺動し、上端の挟持部13aが閉じながら受け溝11m内に突出し、受け溝11m内のワークWをバネ15力で挟持する。
【0026】
そして搬送中は、常に爪部材13の挟持部13aが閉じた状態であり、ワークWは挟持部13aによってしっかり保持された状態である。この際、爪部材13の挟持部13aにローレット加工等を施さなくてもしっかり保持できるため、ワークWへの損傷等の問題もない。また、爪部材13によるワークWの挟持方向が、ワークWが受け部材11から外れようとすると挟持力が増す方向であるため、落下を確実に防止できる。
そして、この爪部材13による挟持が開放されるのは、ハンガー1が停止位置で停止し、クランパ7によってハンガー1が位置決めされる際、これに連動して行われることは前述の通りである。
【0027】
以上のような要領により、ワークWを搭載するときの作業は簡単であるとともに、ハンガー1で搬送中はワークWをしっかりと保持することができ、また、ワークWの開放機構も簡素に構成することができる。
また、受け部材11によってワークWが落下するような不具合はない。
【0028】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
例えば、ハンガー1に設ける保持部材2の数は任意であり、ワークWの形状や種類等も任意である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
ワーク搬送装置において、搬送中の位置ズレやワーク落下等の防止を確実に図ることができ、しかも装置構成が簡素であるため、特に自動車の製造工程などにおいて広い分野での利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るワーク搬送装置の全体図で(a)は側面図、(b)は正面図
【図2】保持部材の斜視図
【図3】爪部材が開放した状態の保持部材の正面図
【図4】保持部材の作用図
【図5】開放部材の作用図
【図6】開放部材の側面図
【符号の説明】
【0031】
1…ハンガー、2…保持部材、5…位置決め機構、8…開放部材、11…受け部材、11m…受け溝、13…爪部材、15…バネ、16…ワイヤ、20…レバー部材、21…スプリング、W…ワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持する保持部材を備えたワーク搬送装置であって、前記保持部材は、ワークの一部を下方から受けるための受け溝を有する受け部材と、この受け溝内でワークを挟持することのできる一対の爪部材と、この爪部材を常時挟持方向に向けて付勢する付勢部材を備えたことを特徴とするワーク搬送装置。
【請求項2】
前記ワーク搬送装置は、前記爪部材の挟持方向への付勢を消勢する開放部材を備えたことを特徴とする請求項1に記載のワーク搬送装置。
【請求項3】
前記開放部材を作動させる部材は、ワーク搬送具を位置決めするクランパであることを特徴とする請求項2に記載のワーク搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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