説明

一分子型プローブ及びその利用

【課題】一分子型プローブを用いたより高精度の標的タンパク質特異的リガンドの検出を実現する。
【解決手段】本発明の融合タンパク質は、リガンドを検出する融合タンパク質であって、リガンドに対するリガンド結合タンパク質と、当該リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識する認識タンパク質と当該リガンド結合タンパク質及び当該認識タンパク質の間に、2つに分割された酵素の、C末側断片とN末側断片とを有し、C末側断片のC末端基が、N末側断片のN末端基の上流に位置しており、上記酵素は、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された酵素断片が相補して酵素活性を変化させることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験試料中のリガンドを検出する融合タンパク質及びその利用に関し、より具体的には、被験試料中の標的タンパク質特異的リガンドを検出する一分子型プローブとして用いられる融合タンパク質及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分子イメージング技術における革命的な進歩は、研究者が定量的に生細胞における分子の挙動及び細胞情報伝達を試験することが可能となったことである(非特許文献1)。非特許文献2に記載されているように、タンパク質を用いるイメージング技術の1つとして、緑色蛍光タンパク質(GFP)を円順列変異(CP:Circular Permutation)させたプローブを用いた技術が挙げられる。GFPのCPとは、GFPのアミノ酸鎖を途中で切断し、N末側とC末側とをひっくり返して連結させる変異をいう。
【0003】
GFPの立体構造は一体構造の対称な円筒形状であり、その内部は疎水性のアミノ酸が格子状に連なって形成されている。GFPを用いた円順列変異プローブの原理は、GFPの一部に生じさせた亀裂部分から内部の発色団部位に水分子を導入することによってまず蛍光量を低減させ、あるリガンド認識タンパク質に特異的なリガンドが結合したときに亀裂が閉じることによって、水分子が排出され、蛍光量を増加させるものである。このように、細胞内に導入されたGFPからの蛍光量を観察することによって、細胞内の分子の挙動を可視化している。
【0004】
蛍光タンパク質において、本来のN末端とC末端との距離がかなり近い場合のみ、円順列変異させて種々のタンパク質の挿入に耐え得ることが、従前より広く研究されている(非特許文献13)。GFPは、一体構造の対象な円筒形状を有すること、及び構成するタンパク質ストランドが複雑に絡み合っていることから、その変異に熟練した技術が必要となり、容易に変異することができない。
【0005】
また、一般に、蛍光タンパク質は、自己蛍光によってバックグラウンド蛍光量が非常に高くなるという問題もある。さらに、蛍光タンパク質を用いた場合、外部光源が必要となることや、蛍光を測定するために比較的巨大な蛍光顕微鏡が必要となるという問題がある。例えば非特許文献2〜4に記載のYellow Camelleonsを用いた場合、自己蛍光がバックグラウンド蛍光量を必然的に高め、シグナルとノイズとのコントラストを低下させる原因となっている。加えて、分析できる細胞数が制限されることにより、得られる結果は定量的というよりもむしろ、定性的となってしまう(非特許文献5)。
【0006】
このような蛍光タンパク質に生じる問題を補うために、例えば、全細胞調査が可能であり、バックグラウンド発光量が低く、さらに外部光源が不要な、新規なプロービングシステムとして設計された発光体が使用されている(非特許文献5〜9)。
【0007】
また、本発明者らは以前に、リガンドの男性ホルモン活性をイメージングするための一分子型発光プローブを提案している(非特許文献10及び11)。この一分子型発光プローブの基本的な概念は、信号を認識する要素及び光を発する要素の全てが一つの分子内に集積された発光型融合タンパク質を設計することであった。非特許文献10及び11に記載の一分子型発光プローブにおいては、2分割した発光酵素のN末端側断片とC末端側断片との間に、標的リガンド認識タンパク質と、当該標的リガンド認識タンパク質とその相互作用タンパク質とが一分子内に連結されている。そして、標的リガンド認識タンパク質にリガンドが結合することによって、発光プローブに構造変化が引き起こされ、発光酵素の活性(発光能を有する)が回復又は解消する。この発光量を観察することによって、細胞内におけるリガンド認識分子の挙動を可視化している。
【非特許文献1】Weissleder, R.; Ntziachristos, V. Nat. Med. 2003, 9, 123-128.
【非特許文献2】Souslova, E. A.; Chudakov, D. M. Biochemistry-Moscow 2007, 72, 683-697.
【非特許文献3】Truong, K.; Sawano, A.; Mizuno, H.; Hama, H.; Tong, K. I.; Mal, T. K.; Miyawaki, A.; Ikura, M. Nat. Struc. Biol. 2001, 8, 1069-1073.
【非特許文献4】Miyawaki, A.; Llopis, J.; Heim, R.; McCaffery, J. M.; Adams, J. A.; Ikura, M.; Tsien, R. Y. Nature 1997, 388, 882-887.
【非特許文献5】Kim, S. B.; Ozawa, T.; Watanabe, S.; Umezawa, Y. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2004, 101, 11542-11547.
【非特許文献6】Paulmurugan, R.; Gambhir, S. S. Anal. Chem. 2005, 77, 1295-1302.
【非特許文献7】Paulmurugan, R.; Gambhir, S. S. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2006, 103, 15883-15888.
【非特許文献8】Remy, I.; Michnick, S. W. Nat. Meth. 2006, 3, 977-979.
【非特許文献9】Kim, S. B.; Kanno, A.; Ozawa, T.; Tao, H.; Umezawa, Y. ACS Chem. Biol. 2007, 2, 484-492.
【非特許文献10】Kim, S. B.; Awais, M.; Sato, M.; Umezawa, Y.; Tao, H. Anal. Chem. 2007, 79, 1874-1880.
【非特許文献11】Kim, S. B.; Otani, Y.; Umezawa, Y.; Tao, H. Anal. Chem. 2007, 79, 4820-4826.
【非特許文献12】Kotlikoff, M. I. J. Physiol. 2007, 578, 55-67.
【非特許文献13】Baird, G. S.; Zacharias, D. A.; Tsien, R. Y. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 1999, 96, 11241-11246.
【非特許文献14】Conti, E.; Franks, N. P.; Brick, P. Structure 1996, 4, 287-298.
【非特許文献15】Viviani, V. R.; Uchida, A.; Viviani, W.; Ohmiya, Y. Photochem. Photobiol. 2002, 76, 538-544.
【非特許文献16】Kawai, Y.; Sato, M.; Umezawa, Y. Anal. Chem. 2004, 76, 6144-6149.
【非特許文献17】Kaihara, A.; Kawai, Y.; Sato, M.; Ozawa, T.; Umezawa, Y. Anal. Chem. 2003, 75, 4176-4181.
【非特許文献18】Varricchio, L.; Migliaccio, A.; Castoria, G.; Yamaguchi, H.; de Falco, A.; Di Domenico, M.; Giovannelli, P.; Farrar, W.; Appella, E.; Auricchio, F. Mol. Cancer Res. 2007, 5, 1213-1221.
【非特許文献19】Rich, R. L.; Hoth, L. R.; Geoghegan, K. F.; Brown, T. A.; LeMotte, P. K.; Simons, S. P.; Hensley, P.; Myszka, D. G. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2002, 99, 8562-8567.
【非特許文献20】Zhong, L.; Skafar, D. F. Biochemistry 2002, 41, 4209-4217.
【非特許文献21】Tyagi, R. K.; Lavrovsky, Y.; Ahn, S. C.; Song, C. S.; Chatterjee, B.; Roy, A. K. Mol. Endocrinol. 2000, 14, 1162-1174.
【非特許文献22】Maruvada, P.; Baumann, C. T.; Hager, G. L.; Yen, P. M. J. Biol. Chem. 2003, 278, 12425-12432.
【非特許文献23】Awais, M.; Sato, M.; Lee, X. F.; Umezawa, Y. Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 2707-2712.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した蛍光タンパク質に代わる発光プローブにおいても、検出するリガンドの種類によっては、十分な検出精度が得られず、新たなプローブの開発が求められていた。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、より高精度にリガンドを検出し得る新規のプローブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、酵素を2分割して円順列変異することによって、高精度にリガンドを検出し得るプローブが得られることを見出した。特に、酵素を2分割して円順列変異し、変異した酵素を含む一分子型プローブでは、バックグラウンド酵素活性を非常に低く抑えることができることを見出した。
【0011】
この一分子型プローブを構築する上での第1の技術的難点は、(i)2分割後酵素活性が失活し、信号ありの条件のみに都合よくその酵素活性を回復させることを補償し、(ii)変異後に哺乳動物細胞に発現された後分解されず、機能し得、かつ(iii)シグナル検出用タンパク質の挿入に耐え得るような、酵素の適切な切断部位を検出することであった。第2の技術的難点は、(i)ホストプローブの全体的な構造のバランスを破壊せず、(ii)リガンド感受性が高く、又はリガンドに対する反応に応じて他のタンパク質を引き寄せることが可能な、最適な挿入タンパク質を決定することであった。第3の技術的難点は、(i)構成タンパク質間の立体障害を最小限に抑え、(ii)ノイズに対するシグナルの比率を最大限に向上させるように、プローブの各構成要素のサイズ及び位置を最適化することであった。
【0012】
そこで本発明者らは、ホタルルシフェラーゼ(FLuc:firefly luciferase)、ガウシアルシフェラーゼ(GLuc:Gaussia luciferase)、クリックビートルルシフェラーゼ(CBLuc:click beetle luciferase)由来の発光酵素において、円順列変異した発光酵素を有する発光プローブの可能性を調査した。
【0013】
まず、本発明者らは、CBLucを円順列変異して発光プローブを構築した。CBLucの本来のN末端及びC末端をGSリンカーで繋ぎ、CBLucのI439とK440との間に新しいN末端及びC末端を作ることによって行った。そして円順列変異したCBLucの新しい端部に、ERリガンド結合ドメイン(ER LBD)及びSrcタンパク質のSH2ドメイン(Src SH2)を繋げ、新規の発光プローブを構築した。この発光プローブは、乳癌抗がん剤の4−ヒドロキシタモキシフェン(OHT)を高感度に認識し、かつ特徴的な生物発光を発した。
【0014】
また、本発明者らは、もっとも小さい発光タンパク質として知られているGLucにおいて、円順列変異に最適な断片化切断部位を同定した。本来のN末端及びC末端をGSリンカーで繋ぎ、GLucのGln105とGly106との間に新たにN末端及びC末端を作る。新しいN末端及びC末端はそれぞれ、ミオシン軽鎖キナーゼ(M13)のカルモジュリン結合ペプチド及びカルモジュリンに繋いだ。この融合タンパク質は、驚くべきことに、哺乳動物細胞において安定的に発現し、M13及びCaMの挿入に耐え得た。CaMは、内因性のカルシウムイオン(Ca2+)を感知し、他端にM13を呼び込む。この結合は、GLucのN末側断片とC末側断片との間の接近を促し、結果的に酵素活性の回復をもたらす。
【0015】
さらに発光酵素の最適な切断部位を検討するために、すでに結晶構造が解明されているアシルA補酵素ファミリーに属するFLucの分子構造をもとにクリックビートルルシフェラーゼの最適な切断部位を検討した。なお、cBLuc及びGLucの結晶構造は未だ知られていない。FLucの構造上の特徴は、(i)2つのメインドメインからなり、(ii)ドメイン間の連結部位近傍に活性部位があると推定されることである(非特許文献14及び15)。この2つのドメインは、親水性のアミノ酸により架橋されている。多くの発光酵素の2次元疎水性検索から、2つの特徴的なドメインを含む場合には、その架橋部分に最適切断位置があると推定され、実際にこの推定に基づけば、適切な切断部位の決定が容易であることが見出された。
【0016】
上述した本発明者らによる検討により、円順列変異したGLuc(cpGLuc)を含む発光プローブは、代表的なセカンドメッセンジャーであるCa2+のリアルタイムダイナミックスにより、円順列変異したFLuc(cpFLuc)を含む発光プローブは、ステロイドホルモン受容体とその特異的なタンパク質間相互作用により、及び円順列変異したCBLuc(cpCBLuc)を含む発光プローブは、エストロゲンレセプター(ER)のリン酸化により発光し可視化することができた。特に、cpCBLucを含む発光プローブ及びcpGLucを含む発光プローブにおいては、バックグラウンドがそれぞれおよそ1/1000、1/100まで減少し、その結果、バックグラウンド光に対するシグナル光の比率が非常に高くなることを見出した。Ca2+は典型的なセカンドメッセンジャーであり、エストロゲンは主要なステロイドホルモンであることに注目すべきである。それゆえに、GLuc及びCBLucを用いた例は、哺乳動物生細胞におけるタンパク質−タンパク質間相互作用の可視化に関する一般的な適用範囲を実証したと言える。
【0017】
本発明者らが見出した発光酵素の円順列変異を利用した発光プローブの発光メカニズムは、円順列変異したGFP(cpGFP)の発光メカニズムとは概念的に異なっている。すなわち、cpGFPを有する蛍光プローブのオン/オフシステムは、蛍光発色団を取り囲むβシートの亀裂に依存していると考えられる。一方、発光酵素を有する発光プローブにおける発光の回復は、cpGFPのような疎水性の変化ではなく、完全に分離した発光酵素断片間の物理的な接近及び解離により提供される。円順列変異したGFPを利用した発光プローブは、これまでに報告されているが、本発明者らのように発光酵素を円順列変異して発光プローブとして利用する例は報告されていない。
【0018】
また、発光酵素とGFPとは分子構造及び発光成分が全く異なっているので、本発明者らにより構築された発光プローブと、従来のGFPを用いたプローブとは、リガンドと代表される検出物質とに対する反応メカニズムが全く異なるものとして説明されるべきである。従来の円順列変異したGFPを用いたプローブにおいては、βシート架橋部を切断しタンパク質を挿入して一時的にGFPの構造に亀裂を生じさせ、この亀裂からGFPタンパク質の中心部内に溶剤を注入することによって、蛍光活性部位とβシートとの相互作用を阻害する(非特許文献12)。この阻害作用は、挿入されたタンパク質間の結合によって水分子が排出されて緩和される(非特許文献13及び16)。しかしながら、本発明者らが構築した発光プローブの発光酵素においては、その活性部位がGFP変異体とは異なる酵素であるため、親水性アミノ酸からなる酵素活性部位を持つ。本発明者らにより構築された発光プローブは、この分子メカニズムにおける本質的な相違により、シグナル光とバックグラウンド光との比率を向上させたと考えられる。本発明者らにより見出された新規プローブは、従来の発光プローブとは概念的に明確に区別され得る新規のプローブである。
【0019】
以上のように、本発明は、上記課題を解決するために、リガンドを検出する融合タンパク質であって、前記リガンドに対するリガンド結合タンパク質と、当該リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識する認識タンパク質と、当該リガンド結合タンパク質及び当該認識タンパク質の間に、2つに分割された酵素の、C末側断片とN末側断片とを有し、前記C末側断片のC末端基が、前記N末側断片のN末端基の上流に位置しており、前記リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを前記認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された前記酵素断片が相補して酵素活性を変化させることを特徴としている。
【0020】
本発明に係る融合タンパク質において、前記酵素の活性部位の少なくとも一部が、前記C末側断片のN末端、及び前記N末側断片のC末端にそれぞれ位置するように、前記酵素が分割されていることが好ましい。
【0021】
本発明に係る融合タンパク質の各要素の順番は、認識タンパク質の下流に酵素のC末側断片が位置し、C末側断片の下流にN末側断片が位置し、N末側断片の下流にリガンド結合タンパク質が位置していることが好ましい。また、認識タンパク質とリガンド結合タンパク質との位置が入れ替わってもよい。
【0022】
本発明に係る融合タンパク質において、リガンド結合タンパク質は、核内受容体、サイトカイン受容体、タンパク質キナーゼ、セカンドメッセンジャー認識タンパク質、転写因子からなる群より選択されることが好ましい。
【0023】
本発明に係る融合タンパク質において、前記酵素は発光酵素であることが好ましく、当該発光酵素は、ホタルルシフェリン、レニラルシフェリン又は脂質を基質とするものであることがより好ましく、ホタルルシフェラーゼ、ガウシアルシフェラーゼ、クリックビートルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、鉄道虫ルシフェラーゼからなる群より選択されることがさらに好ましい。
【0024】
本発明に係る融合タンパク質は、リガンド結合タンパク質がエストロゲン受容体のリガンド結合ドメインであり、認識タンパク質がSrcタンパク質のSH2ドメインであり、発光酵素がクリックビートルルシフェラーゼであることが好ましい。
【0025】
本発明に係る融合タンパク質は、リガンド結合タンパク質がアンドロゲン受容体であり、認識タンパク質が共転写因子又はその部分断片であり、発光酵素がホタルルシフェラーゼであることが好ましい。
【0026】
本発明に係る融合タンパク質は、リガンド結合タンパク質がカルモジュリンであり、認識タンパク質がミオシン軽鎖キナーゼ由来のM13ペプチドであり、発光酵素がガウシアルシフェラーゼであることが好ましい。
【0027】
本発明に係る融合タンパク質は、配列番号1〜3のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなる融合タンパク質;あるいは配列番号1〜3のいずれか1つに示されるアミノ酸配列の1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、前記リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを前記認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された前記発光酵素断片が相補して発光量を変化させる融合タンパク質であることが好ましい。
【0028】
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記本発明に係る融合タンパク質をコードすることを特徴としている。
【0029】
本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列の1個又は数個の塩基配列が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された発光酵素断片が相補して発光量を変化させる融合タンパク質をコードする塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された発光酵素断片が相補して発光量を変化させる融合タンパク質をコードする塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;あるいは配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列と少なくとも66%同一であり、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された発光酵素断片が相補して発光量を変化させる融合タンパク質をコードする塩基配列からなることを特徴としている。
【0030】
本発明に係るベクターは、上記本発明に係るポリヌクレオチドを含んでいることを特徴としている。また、本発明に係る形質転換体は、上記本発明に係るポリヌクレオチドを含んでいることを特徴としている。さらに、本発明に係る形質転換体は、上記本発明に係るベクターを含んでいることを特徴としている。
【0031】
本発明に係る方法は、被験試料中のリガンドを検出する方法であって、前記被験試料と、上記本発明に係る融合タンパク質とを接触させる工程を包含することを特徴としている。また、本発明に係るキットは、上記本発明に係る融合タンパク質を備えることを特徴としている。
【0032】
本発明に係るプローブの生産方法は、上記本発明に係るポリヌクレオチドを用いて細胞を形質転換する工程を包含することを特徴としている。また、本発明に係るプローブの生産キットは、上記本発明に係るポリヌクレオチドを備えていることを特徴としている。
【0033】
本発明に係るプローブの生産方法は、上記本発明に係るベクターを用いて細胞を形質転換する工程を包含することを特徴としている。本発明に係るプローブの生産キットは、上記本発明に係るベクターを備えていることを特徴としている。
【0034】
本発明に係るプローブの生産方法は、リガンドを検出する融合タンパク質を生産する生産方法であって、酵素を2つに分割し、C末側断片とN末側断片とを作製する工程と、前記リガンドに対するリガンド結合タンパク質と、当該リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識する認識タンパク質との間に、C末側断片とN末側断片とを連結する工程とを包含し、前記連結工程において、前記C末側断片のC末端基と、前記N末側断片のN末端基とを連結することを特徴としている。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、新規の一分子型プローブとして用いられる融合タンパク質を提供することができる。本発明に係る融合タンパク質によれば、バックグラウンド酵素活性を低く抑え、バックグラウンド光に対するシグナル光の比率を格段に向上させることが可能であるため、種々のタンパク質間相互作用の可視化検出をより高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
〔1.融合タンパク質及びポリヌクレオチド〕
本発明に係る融合タンパク質は、一分子型プローブとして用いられ、リガンドを検出する融合タンパク質であって、前記リガンドに対するリガンド結合タンパク質と、当該リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識する認識タンパク質との間に、2つに分割された酵素の、C末側断片とN末側断片とを有し、前記C末側断片のC末端基が、前記N末側断片のN末端基の上流に位置しており、前記リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを前記認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された前記酵素断片が相補して酵素活性を変化させる融合タンパク質である。
【0037】
本明細書において、「プローブ」は、「生物発光プローブ」又は「発光プローブ」であってもよく、標的特異的リガンドによって引き起こされる様々な分子現象を、生きた細胞又は生体において、可視化イメージングすることが可能なプローブである。また、「一分子型プローブ」は、上述した可視化イメージングするために用いられる全構成要素を単一融合分子内に集積したことを特徴とするプローブである。例えば、上述した(i)リガンド結合タンパク質、(ii)認識タンパク質、(iii)酵素のC末側断片、及び(iv)酵素のN末側断片を、基本構成要素として含む融合タンパク質が含まれ得る。以下、本発明に係る融合タンパク質を、その機能的側面から、プローブと称することもある。
【0038】
ここで、「リガンド結合タンパク質」は、そのリガンド結合部位にリガンドが結合するタンパク質が意図される。リガンド結合タンパク質は、例えば、リガンドが結合することによって立体構造が変化し、後述する認識タンパク質の分子認識ドメインと結合することができるタンパク質であり得る。このようなリガンド結合タンパク質としては、例えば、ホルモン、化学物質又は信号伝達タンパク質をリガンドとする核内受容体(NR)、サイトカイン受容体、あるいは各種タンパク質キナーゼが用いられる。リガンド結合タンパク質は、対象とするリガンドによって適宜選択される。リガンド結合タンパク質に結合するリガンドとしては、リガンド結合タンパク質に結合するものであれば特に限定されず、細胞外から細胞内に取り込まれる細胞外リガンドであってもよく、細胞外からの刺激により細胞内で産生される細胞内リガンドであってもよい。例えば、受容体タンパク質(例えば核内受容体、Gタンパク質結合型受容体等)に対するアゴニスト又はアンタゴニストであり得る。また、細胞内の情報伝達に関与するタンパク質に特異的に結合するサイトカイン、ケモカイン、インシュリン等の信号伝達タンパク質、細胞内セカンドメッセンジャー、脂質セカンドメッセンジャー、リン酸化アミノ酸残基、Gタンパク質結合型受容体リガンド等であり得る。
【0039】
例えば、リガンドとして細胞内セカンドメッセンジャー、脂質セカンドメッセンジャー等を対象とする場合には、リガンド結合タンパク質として、各セカンドメッセンジャーの結合ドメインを使用することができる。セカンドメッセンジャーとは、ホルモン、神経伝達物質等の細胞外情報伝達物質が細胞膜に存在する受容体と結合することによって、細胞内で新たに生成される別種の細胞内情報伝達物質を意図している。このセカンドメッセンジャーとして、例えば、cGMP、cAMP、PIP、PIP2、PIP3、イノシトール3リン酸(IP3:inositol triphosphate)、IP4、Ca2+、diacylglycerol、arachidonic achid等が挙げられる。例えば、セカンドメッセンジャーのCa2+に対しては、リガンド結合タンパク質としてカルモジュリン(CaM)を用いることができる。
【0040】
また、例えば、リガンドとして核内受容体に特異的なリガンドを対象とする場合には、リガンド結合タンパク質として、核内受容体の公知の結合ドメイン(LBD:ligand binding domain)を使用することができる。さらに、リン酸化アミノ酸残基又はGタンパク質結合型受容体リガンドを対象とする場合には、リガンド結合タンパク質として、それぞれリン酸化アミノ酸結合ドメイン又はGタンパク質結合型受容体を使用することができる。核内受容体リガンド結合ドメインとしては、エストロゲンをリガンドとするエストロゲン受容体(ER)、グルココルチコイド受容体(GR)、アンドロゲン受容体(AR)又はプロゲステロン受容体(PR)のリガンド結合ドメインが好適に用いられる。
【0041】
例えば、エストロゲン受容体のLBDは、全長ヒトエストロゲン受容体の配列情報(GenBank/P03372)に基づき、そのLBD領域(アミノ酸番号305〜550)を、遺伝子工学的に又はPCR合成によって調製したものを使用することができる。また、例えばアンドロゲン受容体のLBDは、全長ヒトアンドロゲン受容体の配列情報(GenBank/AF162704)に基づき、そのLBD領域(アミノ酸番号672〜910)を、遺伝子工学的又はPCR合成によって調製したものを使用することができる。また、例えばグルココルチコイド受容体のLBDは、全長ヒトグルココルチコイド受容体の配列情報(GenBank/1201277A)に基づき、そのLBD領域(アミノ酸番号527〜777)を、遺伝子工学的又はPCR合成によって調製したものを使用することができる。また、同様にプロゲステロン受容体のLBDについても、全長ヒトプロゲステロン受容体の配列情報(GenBank/P06401)に基づき、そのLBD領域(アミノ酸番号677−933)を、遺伝子工学的又はPCR合成によって調製したものを使用することができる。
【0042】
本明細書において「認識タンパク質」は、上述したリガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識するタンパク質が意図され、例えば、リガンドの結合により立体構造が変化したリガンド結合タンパク質と、結合したりするタンパク質が包含される。
【0043】
例えばリガンド結合タンパク質としてカルモジュリンを用いた場合、認識タンパク質として、ミオシン軽鎖キナーゼ(miosin light chain kinase)由来のペプチドであるM13ペプチドが好適に用いられる。また、M13以外にもカルモジュリンに対して結合できるタンパク質として、アデニリルシクラーゼ、カルモジュリンキナーゼIIのようなCaM依存性タンパク質キナーゼ類を挙げることができる。このようなタンパク質の一部分をM13の代わりに用いることができる。
【0044】
また、例えばリガンド結合タンパク質として、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体等の核内受容体を用いた場合、認識タンパク質として共転写因子(coactivator)由来のLXXLLモチーフ、FQNLFモチーフ、FXXLFモチーフ、WXXLFモチーフ等が用いられ得る。好ましくは、共転写因子の一種であるRip140(GenBank/NP003480)、又はSrc−1a(steroid receptor coactivator 1 isoform 1 ;GenBank/NP003734)のLXXLLモチーフ(約15アミノ酸)が用いられる。
【0045】
さらに、リン酸化アミノ酸残基を認識できるドメインである、各種キナーゼタンパク質のSH2ドメインを、認識タンパク質として用いてもよい。例えば、発癌制御タンパク質であるSrc(proto-oncogene tyrosine-protein kinase Src ;GenBank/NP938033)のリン酸化認識ドメイン(SH2ドメイン;アミノ酸番号150〜248)、細胞増殖、発癌等に関連する増殖因子レセプター結合タンパク質Grb2(growth factor receptor-binding protein2)のSH2ドメイン等を用いることができる。また、リガンド結合タンパク質としてGタンパク質結合型受容体を用いた場合、認識タンパク質としてGタンパク質等を好適に用いることができる。
【0046】
本明細書における「酵素」は、N末側とC末側とに2分割して完全な2つの断片とすることが可能であり、前記リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを前記認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された前記酵素断片が相補して酵素活性を変化させる酵素であり得る。このような酵素の代表的なものとして、発光酵素(LE:lighting enzyme)が挙げられる。分割した発光酵素のN末端側をN−LE、C末端側をC−LEと称することもある。発光酵素としては、ホタルルシフェリン、レニラルシフェリン又は脂質を基質とするものであり、例えば、ホタルルシフェラーゼ(FLuc:firefly luciferase)、ガウシアルシフェラーゼ(GLuc:Gaussia luciferase)、クリックビートルルシフェラーゼ(CBLuc:click beetle luciferase)、ウミシイタケルシフェラーゼ(RLuc:Renilla luciferase)、鉄道虫ルシフェラーゼ等を好適に用いることができる。
【0047】
本発明の円順列変異に適用可能な酵素類としては、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、リアーゼ、異性化酵素、リガーゼ類等がある。具体的には、以下の場合における応用が想定できる。2量体であるグルコースオキシダーゼの一単体を円順列変異することによって、一時非活性化させる。その後、外部信号が走った時のみに変異断片間の再合成により回復されたグルコース酸化活性を利用して、血糖値測定に応用できる。またラクターゼの最重要単体を円順列変異によって非活性化しておき、外部信号によるラクトースの加水分解を指標に、様々な生体試料分析系を組み立てることができる。他にトリプシンのようなエステラーゼの加水分解活性を利用した分析系を構成することができる。また、NADのような酸化還元酵素の酵素活性を利用した、電気化学センサーを構築することができる。
【0048】
これらの発光酵素は、アミノ酸配列や遺伝子(DNA)の塩基配列が公知であり(例えば、FLucはGenBank/AB062786等、CBLucはGenBank/AY258592.1等、GLucはGenBank/AY015993等)、これらの配列情報に基づいて公知の方法によりDNAを取得することができる。
【0049】
以下では、例として、本発明に係る融合タンパク質における酵素を発光酵素として説明し、本発明に係る融合タンパク質を発光プローブと称することもあるが、本発明はこれに限定されず、他の酵素であっても同様に説明され得る。
【0050】
本発明は、一分子型発光プローブとして用いられるポリペプチドであって、ポリペプチドを構成する発光酵素は、円順列変異されていることを特徴としている。円順列変異とは、本来のポリペプチドのアミノ末端(N末端)とカルボキシ末端(C末端)とを適当なリンカー配列で結び、配列上のどこかを切断することによって新たなN末端とC末端とを持たせた配列を作製する変異方法であり、2つに分割された発光酵素断片の本来のC末端側のアミノ酸配列の下流にN末端側アミノ酸配列が位置するように入れ替える変異方法である。本発明において円順列変異した発光酵素のN末側(N−LE)及びC末側(C−LE)は、それぞれ独立したポリペプチド断片として発光プローブの構成要素となる。ここで、図1に、発光酵素の立体構造の例として、FLucの結晶構造を示す。
【0051】
ここで、「2つに分割された発光酵素」とは、単一タンパク質である発光酵素を2分割することで、一時的に酵素活性が非活性化された発光酵素を意図している。本発明においては発光酵素を円順列変異するため、分割して円順列変異した発光酵素の各断片の物理的位置が近接し、相補して発光活性を再度回復することができるように、好適に再構築される位置で発光酵素を分割する必要がある。ここで、「相補する」は、分割された発光酵素の各断片が自己相補することと同義である。
【0052】
これらの発光酵素を2分割する位置は、公知の情報等を参考に適宜設定することが可能である。発光酵素を適当な分割位置で分割しその発光量の変化を検討することによって、当業者であれば最適な分割位置を容易に決定することができる。また、本発明者らは、アミノ酸配列における親水性領域が発光酵素を構成する2つのメインドメイン間領域であると予想できることを見出した。したがって、発光酵素のアミノ酸配列の親水性分布解析により得られる情報により、分割位置を予想してもよい。
【0053】
発光酵素の分割位置としては、例えばFLucの場合には、非特許文献6に開示されているように、そのアミノ酸配列の437/438位で切断してもよく、後述する実施例に示すように、415/416位で切断してもよい。また、CBLucの場合には、412/413又は439/440位で切断し得ることが知られている。また、GLucの場合にも、公知の切断部位で切断可能であり、後述する実施例に示すように、106/107位で切断してもよい。また、分割した各断片のアミノ酸配列が一部重複又は欠失してもよい。
【0054】
また、本発明において、発光酵素は、その発光活性部位の少なくとも一部が、C−LEのN末端、及びN−LEのC末端のそれぞれに位置するように、分割されることが好ましい。本発明に係る発光プローブにおいては、リガンドの結合によりリガンド結合タンパク質の立体構造が変化してリガンド結合タンパク質と認識タンパク質とが結合し、C−LEとN−LEとの物理的な位置が近接することによって、発光酵素の酵素活性が回復する。したがって、C−LE及びN−LEにおいて、それぞれポリペプチドの端部側(リガンド結合タンパク質又は認識タンパク質に連結されている側)に、発光酵素の活性部位が位置することによって、より確実に発光活性を回復させることができる。
【0055】
本発明に係る発光プローブを構成するこれらの各構成要素は、直鎖状の融合分子と成るように、各構成要素をそれぞれ直接に、又は最適なリンカーペプチドを介して連結される。リンカーペプチドを介して連結する場合、連結するリンカー配列の種類及び長さを変えることで、各構成要素間の距離を適宜調整することが可能であり、その結果、2分割した発光酵素断片の位置を調整することができる。
【0056】
このようなリンカーペプチドとしては、本発明に係る発光プローブを一本鎖の融合タンパク質として発現するための連結ペプチドであることが好ましい。さらに、リガンド結合タンパク質へのリガンドの結合により、2分割した発光酵素の物理的な位置が近接し、自己相補するのを妨げることがないように、立体妨害の少ない柔軟性の高いアミノ酸(glycine(G)、alanine(A)等)を主成分とし、更に親水性を付与するためにSerine(S)を一部添加したリンカーペプチドで連結することが好ましい。このようなリンカーペプチドとして、グリシン及びセリンの繰り返し配列からなる1〜10アミノ酸程度の長さのGSリンカーを用いることが好ましく、5〜10アミノ酸程度の長さのGSリンカーを用いることがより好ましい。
【0057】
本発明に係る発光プローブは、リガンド結合タンパク質と認識タンパク質との間に、円順列変異した発光酵素が位置することを条件に、任意の順序で連結することができるが、認識タンパク質、C−LE、N−LE、リガンド結合タンパク質をこの順番で連結されていることが好ましい。言い換えると、認識タンパク質の下流にC−LEが位置し、その下流にN−LEが位置し、さらにその下流にリガンド結合タンパク質が位置していることが好ましい。本発明に係る発光プローブの例を示す概念図を図1に示す。
【0058】
図1に示すように、Ca2+を検出するために、リガンド結合タンパク質としてCaMを用い、認識タンパク質としてM13を用いる場合、M13にC−LEを連結し、CaMにN−LEを連結することが好ましい。このとき、発光酵素としてGLucを円順列変異して、まずGLucのC−LE(GLuc−C)、そしてGLucのN−LE(GLuc−N)の順に配置することが好ましい。具体的には、N末端側から、M13、GLuc−C、GLuc−N、CaMの順に連結されて構成される。このように構成された発光プローブは、構造変化が可逆的であるため、Ca2+の結合又は解離をリアルタイムでイメージングすることが可能である。また、当該発光プローブによれば、細胞外刺激を直接的に検出するのではなく、細胞外刺激による細胞内2次現象であるセカンドメッセンジャーを認識し、構造変化するため、リガンドが細胞内に取り込まれる必要がなく、細胞膜上リセプターの信号増幅機構を使うため、より短時間でリガンドと発光プローブとを接触させることができる。
【0059】
また、エストロゲン受容体のLBDをリン酸化するリガンドを検出するために、リガンド結合タンパク質としてER LBDを用い、認識タンパク質としてSrcのリン酸化認識ドメイン(Src SH2)を用いた場合、Src SH2にC−LEを連結し、ER LBDにN−LEを連結することが好ましい。このとき、発光酵素としてCBLucを円順列変異して、CBLucのC−LE(CBLuc−C)及びCBLucのN−LE(CBLuc−N)を用いることが好ましい。具体的には、N末端側から、Src SH2、CBLuc−C、CBLuc−N、ER LBDの順に連結されて構成される。
【0060】
このように構成された発光プローブを用いたリガンド認識メカニズムを示す模式図を図2に示す。図2に示すように、本発光プローブにエストロゲンアンタゴニストを共存させると、ER LBDのTyr537がリン酸化され、Src SH2が当該リン酸化部位を認識する。そして、分子内相互作用によりER LBDのリン酸化部位にSrc SH2が結合することによって、CBLuc−CとCBLuc−Nとが互いに近接し相補して発光する。ここで、ER LBDのTyr537をポイント変異させた場合には、図2に示すように、ER LBDがリン酸化されないため、ER LBDとSrc SH2とが結合しない。よって、CBLuc−CとCBLuc−Nとが相補せず、発光しない。
【0061】
さらに、アンドロゲン受容体に対するリガンドを検出するために、リガンド結合タンパク質としてAR LBDを用い、認識タンパク質としてLXXLLモチーフを用いる場合、LXXLLモチーフのC−末端にC−LEを連結し、AR LBDのN−末端にN−LEを連結することが好ましい。このとき、発光酵素としてFLucを円順列変異して、FLucのC−LE(FLuc−C)及びFLucのN−LE(FLuc−N)を用いることが好ましい。CBLuc及びGLucの結晶構造は未だ知られていないが、FLucは結晶構造が解明している。FLucの結晶構造を図3に示す。本発光プローブは、具体的には、N末端側から、LXXLLモチーフ、FLuc−C、FLuc−N、AR LBDの順に連結されて構成される。このように構成された発光プローブの立体構造の例を図4に示す。
【0062】
本発明に係る発光プローブは、各構成要素のポリペプチドを遺伝子組換え法、化学合成法等で得た後に、それぞれを連結して得てもよいが、各構成要素のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを直鎖状に連結したキメラDNAが挿入された発現ベクターを用いて細胞を形質転換し、形質転換した細胞内に発現させることによっても得られる。
【0063】
ここで、キメラDNAとは、由来の異なるいくつかのDNA断片が人工的に直鎖状に連結されたものであり、いくつかのポリペプチドを構成要素とする融合タンパク質を発現することのできるDNAである。本発明に係るキメラDNAは、生細胞内外において、一分子型発光プローブとして機能する融合タンパク質を発現可能なポリヌクレオチドである。本明細書中において、「生細胞」とは、その本来の機能を維持した状態の培養細胞又は生物個体内に存在する真核細胞(酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞)であり、特にヒトを含めた哺乳動物由来の細胞である。生細胞には原核細胞も含まれる。
【0064】
本明細書中で使用される場合、融合タンパク質は、由来の異なるいくつかのタンパク質又はポリペプチドが人工的に連結されたものであり得る。本明細書中において、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」又は「タンパク質」と交換可能に使用される。本発明に係る融合タンパク質はまた、化学合成されても、天然供給源より単離されてもよい。用語「単離された」ポリペプチド又はタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチド又はタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチド及びタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然又は組換えのポリペプチド及びタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0065】
本発明に係る発光プローブにおいて、各構成要素のポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、及び原核生物宿主又は真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、及び哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。
【0066】
また、本発明に係る発光プローブ及び各構成要素のポリペプチドは、付加的なペプチドを含むものであってもよい。付加的なペプチドとしては、例えば、ポリHisタグやMycタグ、Flagタグ等のエピトープ標識ペプチドが挙げられる。好ましい実施形態において、本発明に係る融合タンパク質は、改変された形態で組換え発現され得る。例えば、本発明に係る融合タンパク質の付加的なアミノ酸、特に荷電性アミノ酸の領域が、宿主細胞内での、精製の間又は引き続く操作及び保存の間の安定性及び持続性を改善するために、ポリペプチドのN末端又はC末端に付加され得る。
【0067】
好ましくは、本発明に係る発光プローブは、配列番号1〜3のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなる融合タンパク質あるいはその変異体であり得る。本明細書中においてポリペプチド又はタンパク質に関して用いられる場合、用語「変異体」は、本来のアミノ酸の少なくとも一つ以上がポイント変異、挿入、逆転、反復、欠損、タイプ置換されたポリペプチド又はタンパク質であって、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された発光酵素断片が相補して発光量を変化させるポリペプチド又はタンパク質が意図される。
【0068】
一実施形態において、本発明に係る発光プローブの変異体は、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された発光酵素が相補して発光量を変化させる融合タンパク質であって、配列番号1〜3のいずれか1つに示されるアミノ酸配列の1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなる融合タンパク質であることが好ましい。
【0069】
このような変異体としては、欠失、挿入、逆転、反復、タイプ置換(例えば、親水性残基の別の残基への置換、しかし通常は強い親水性の残基を強い疎水性の残基には置換しない)、及びポイント変異を含む変異体が挙げられる。
【0070】
ポリペプチドのアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造又は機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造又は機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0071】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体又は付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が所望の活性を有するか否かを容易に決定し得る。
【0072】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、又は添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、及び欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係る発光プローブの発光活性を変化させない。
【0073】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、及びIleの中での1アミノ酸の別のアミノ酸への置換;ヒドロキシル残基Ser及びThrの交換、酸性残基Asp及びGluの交換、アミド残基Asn及びGlnの間の置換、塩基性残基Lys及びArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0074】
一実施形態において、本発明に係る発光プローブは、配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる融合タンパク質又はその変異体であることが好ましい。ここで、当該変異体は、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された発光酵素断片が相補して発光量を変化させる融合タンパク質であって、配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列の1個又は数個の塩基配列が欠失、置換又は付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされることが好ましい。
【0075】
他の実施形態において、本発明に係る発光プローブの変異体は、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された発光酵素断片が相補して発光量を変化させる融合タンパク質であって、配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされることが好ましい。
【0076】
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。適切なハイブリダイゼーション温度は、塩基配列やその塩基配列の長さによって異なり、例えば、アミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとして用いる場合、50℃以下の温度が好ましい。
【0077】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、及び20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。ポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドによって、参照のポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、さらにより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは約30ntより長いポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNA又はRNAのいずれか)が意図される。
【0078】
他の実施形態において、本発明に係る発光プローブの変異体は、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された発光酵素が相補して発光量を変化させる融合タンパク質であって、配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列と少なくとも66%同一、より好ましくは少なくとも80%、95%又は99%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされることが好ましい。
【0079】
DNA塩基配列の66%以上が同一であれば、全く同様の活性を持つ融合タンパク質を作製できる根拠としては、サイレント変異を考えられる。遺伝子暗記票によれば、例えば、アミノ酸のバリン(Valine)をコードする遺伝子は、GUU、GUC、GUA、GUGのいずれでもよい。従って、最大33%の遺伝子塩基が違っても全く同一の融合タンパク質プローブを作製できることから、数字の66%が同一塩基配列か否かを判定する上で妥当な意味を持つ。
【0080】
また、機能が解明されている多くのタンパク質は、自然変異体またはアイソフォームを持つ。本実施例にあげたERでさえ、自然界にはERαとERβとが存在しており、女性ホルモンに対して全く同じ強度で結合することが知られている(Hodges, Y. K.; Tung, L.; Yan, X. D.; Graham, J. D.; Horwitz, K. B.; Horwitz, L. D. Circulation 2000, 101, 1792-1798.)。ところが、そのアミノ酸間の相同性はわずか30%(N-末側領域;NTD)、53%(リガンド結合領域;LBD)に過ぎない点を考慮すべきである。
【0081】
さらに、本実施例のERやARと同じ核受容体であるグルココルチコイド(GR)では、GRαA、GRβA、GRα2、GRβ2、GRAα、GRAβ、GR−P、GR−βBなどのイソフォームが存在し、それぞれ同じGR類として生体内で機能している(Swiss−Prot P04150)点を考慮しなければならない。
【0082】
例えば、「本発明に係る融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの参照(QUERY)塩基配列に少なくとも66%同一の塩基配列からなるポリヌクレオチド」によって、対象塩基配列が、本発明に係る融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの参照塩基配列の100ヌクレオチチド(塩基)あたり33つまでの不一致(mismatch)を含み得ることを、参照塩基配列に同一である、ということが意図される。換言すれば、参照塩基配列に少なくとも66%同一の塩基配列からなるポリヌクレオチドを得るために、参照配列における塩基の33%までが、欠失され得るか又は別の塩基で置換され得るか、あるいは参照塩基配列における全塩基の33%までの多くの塩基が、参照塩基配列に挿入され得る。参照塩基配列のこれらの不一致は、参照塩基配列の5’又は3’末端位置又は参照塩基配列における塩基中で個々にか又は参照塩基配列内の1以上の隣接した群においてのいずれかで分散されて、これらの末端部分の間のどこでも起こり得る。
【0083】
本発明はまた、本発明に係る発光プローブをコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明に係るポリヌクレオチドを細胞内に導入することによって、本発明に係る発光プローブを細胞内に発現させることができる。一実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド又はその変異体であることが好ましい。
【0084】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」又は「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」又は「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、C及びTと省略される)もしくはリボヌクレオチド(C、A、G及びU)の配列として示される。また、「配列番号1に示される塩基配列を含むポリヌクレオチド又はそのフラグメント」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、C及び/又はTによって示される配列を含むポリヌクレオチド又はその断片部分が意図される。
【0085】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、又はDNAの形態(例えば、cDNA又はゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖又は一本鎖であり得る。一本鎖DNA又はRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、又は、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0086】
一実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドの変異体は、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された発光酵素断片が相補して発光量を変化させる融合タンパク質をコードし、かつ以下のポリヌクレオチドのいずれかであることが好ましい:配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列の1個又は数個の塩基配列が欠失、置換又は付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド;配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列と少なくとも66%同一、より好ましくは少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%又は99%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0087】
本発明に係るポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列又はベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0088】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、生物材料(例えば、ヒト又はマウスなどの諸器官)であることが好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「生物材料」は、生物学的サンプル(生物体から得られた組織サンプル又は細胞サンプル)が意図される。
【0089】
本発明に係る融合タンパク質又はポリヌクレオチドは、本明細書中にさらに記載されるように、細胞内外における分子の可視化イメージングのためのプローブとして使用され得る。より具体的には、本発明に係る融合タンパク質は一本鎖の融合ポリペプチドとして構成されるが、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合すると、その立体構造が変化し、リガンド結合タンパク質は認識タンパク質に結合する。そして、リガンド結合タンパク質と認識タンパク質との間に位置する、円順列変異した発光酵素は、リガンド結合タンパク質と認識タンパク質との結合により近接し、相補して発光量を増加させる。このように、本発明に係る融合タンパク質によれば、発光量の変化に基づいて、細胞内外における分子の動き、信号伝達等を可視化検出することができる。したがって、本発明に係る融合タンパク質を用いれば、標的特異的なリガンドの生理活性、濃度等を高精度に検出することが可能であり、例えば発癌物質のような生体内危険因子のスクリーニング、抗癌剤の薬理作用の定量評価(新薬の開発)に役立つ。
【0090】
つまり、本発明の目的は、プローブ及びこれをコードするポリヌクレオチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した融合タンパク質作製方法及びポリヌクレオチド作製方法等に存するのではない。従って、上記各方法以外によって取得されるプローブ及びこれをコードするポリヌクレオチドも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0091】
〔2.ベクター〕
本発明はまた、本発明に係る融合タンパク質を生物又は細胞内で発現させるベクターを提供する。本発明に係るベクターを用いれば、本発明に係る融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを生物又は細胞に導入し、当該生物又は細胞内において本発明に係る融合タンパク質を発現させることができる。
【0092】
本発明に係るベクターは、上述した本発明に係るポリヌクレオチドを含んでいることを特徴としている。本発明に係るベクターは、本発明に係るポリヌクレオチドを含むものであれば、特に限定されない。例えば、本発明に係るポリヌクレオチドのcDNAが挿入された組換え発現ベクター等が挙げられる。組換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ又はコスミド等を用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0093】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、発現に用いる宿主中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。また、本発明に係るベクターは、本発明に係るポリヌクレオチドの発現を制御するために(例えば、生物個体における特定組織での発現)、公知の組織特異的プロモータ配列を組み込むようにしてもよい。すなわち、確実に本発明に係るポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドを発現させるために、適宜プロモータ配列を選択し、これと本発明に係るポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとすればよい。また、ある臓器に特異的に宿る既知のベクターを使うことによって、特定臓器に選択的に本プローブを導入することもできる。
【0094】
本発明に係るベクターは、例えばマイクロインジェクション法やエレクトロポーレーション法等の公知のトランスフェクション法により宿主内に導入することができる。あるいは脂質による細胞内導入法(BioPORTER(Gene Therapy Systems社)、Chariot(Active Motif社)等)を採用することもできる。上記の宿主は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞、生物個体等を好適に用いることができる。
【0095】
なお、目的とする本発明に係る融合タンパク質が常に合成される場合に限定されず、IPTGを添加することにより、合成が誘導されるものであってもよい。また、ベクターには、合成されるタンパク質のN末端又はC末端にポリヒスチジンタグ、HAタグ、Mycタグ、Flag等のタグ配列を付加する配列を含むものであってもよい。
【0096】
本発明に係るベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、真核生物細胞培養については、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、又はネオマイシン、ゼオシン、ジェネティシン、ブラストシジンS、ハイグロマイシンB等の薬剤耐性遺伝子、及び大腸菌及び他の細菌における培養については、カナマイシン、ゼオシン、アクチノマイシンD、セフォタキシム、ストレプトマイシン、カルベニシリン、ピューロマイシン、テトラサイクリン又はアンピシリン等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。上記選択マーカーを用いれば、本発明に係るポリヌクレオチドが宿主に導入されたか否か、さらには宿主中で確実に発現しているか否かを確認することができる。
【0097】
本発明に係るベクターを用いれば、本発明に係る融合タンパク質を生物又は細胞に導入して、当該生物又は細胞中に本発明に係る融合タンパク質を発現させることができる。さらに、本発明に係るベクターを無細胞タンパク質合成系に用いれば、本発明に係る融合タンパク質を合成することができる。
【0098】
このように、本発明に係るベクターは、少なくとも、本発明に係る融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含めればよいといえる。すなわち、発現ベクター以外のベクターも本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0099】
〔3.形質転換体〕
本発明はまた、本発明に係る融合タンパク質を発現させ得る形質転換体を提供する。本発明に係る形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチド、及び当該ポリヌクレオチドを含むベクターを含んでいることを特徴としている。本明細書中において、「形質転換体」は、細胞、組織又は器官だけでなく、生物個体をも含むことが意図される。本発明に係る形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチド、及び当該ポリヌクレオチドを含むベクターを含んでいる限り、特に限定されるものではない。
【0100】
本発明に係る形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチド、又は当該ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、本発明に係る融合タンパク質が発現され得るように生物又は細胞中に導入することによって得られる。
【0101】
本発明に係るポリヌクレオチド、又は当該ポリヌクレオチドを含むベクターを宿主に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、本発明に係る形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドが宿主のゲノムに組み込まれていない状態で一過性に発現する、一過性形質転換体であってもよく、本発明に係るポリヌクレオチドが宿主のゲノムに組み込まれ安定的に発現し続ける、安定形質転換体であってもよい。
【0102】
本発明に係る形質転換体を用いれば、本発明に係る融合タンパク質を発現させることができるため、本発明に係る形質転換体をリガンドで刺激し、当該形質転換体からの発光量の変化を測定することによって、リガンドの性質、活性の程度等を評価することができる。
【0103】
〔4.リガンド検出方法及びキット〕
本発明は、さらに、被験試料中のリガンドを検出するリガンド検出方法及びキットを提供する。本発明に係るリガンド検出方法は、被験試料と、本発明に係る融合タンパク質とを接触させる工程を包含することを特徴としている。本方法においては、被験試料と接触させる融合タンパク質に含まれる酵素の基質を、適宜接触させてもよい。これにより、本発明に係る融合タンパク質からの発光量に基づいて、被験試料中のリガンドを検出する。本明細書中において、「被験試料」は、リガンドそのものであってもよく、リガンドを含む試料であってもよい。また、被験試料は、本発明に係る融合タンパク質が発現した細胞の細胞内物質であることもできる。
【0104】
上記工程において、被験試料の存在下及び非存在下において、本発明に係る融合タンパク質からの発光量が変化した場合、当該被験試料中において、本発明に係る融合タンパク質のリガンド結合タンパク質に結合するリガンドを検出することができる。本発明に係るリガンド検出方法によれば、後述する実施例に示すように、リガンドの性質、リガンドの活性の程度、リガンドの濃度等を分析することが可能である。
【0105】
本発明に係るリガンド検出方法によれば、既知のアゴニストに対する未知のアンタゴニストを検出することもできる。例えば、本発明に係る融合タンパク質に候補物質を含む被験試料を接触させ、ついで既知のアゴニストを接触させて、本発明に係る融合タンパク質からの発光量を測定する。被験試料中の候補物質がアンタゴニスト作用を有するものであれば、リガンド結合タンパク質のアゴニスト結合部位は候補物質によって占有されているので、その後に導入されたアゴニストはリガンド結合タンパク質に結合することはできない。
【0106】
このとき、アンタゴニストの結合によっては立体構造が変化しないリガンド結合タンパク質を用いていれば、アンタゴニストの結合により発光プローブからの発光量は変化しないため、アゴニスト単独で導入した場合に比して発光量は減少する。一方、アゴニストの結合によっては立体構造が変化しないリガンド結合タンパク質を用いていれば、同様に既知のアンタゴニストを用いて、未知のアゴニストを検出することもできる。
【0107】
本発明に係るリガンド検出方法においては、典型的には、本発明に係る融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを用いて形質転換した生細胞と、被験試料とを接触させて刺激し、刺激前後における本発明に係る融合タンパク質からの発光量の変化を測定する。本発明に係る融合タンパク質と被験試料とを接触させる方法は、特に限定されないが、例えば本発明に係る融合タンパク質が発現した生細胞の培養培地に被験試料を添加し、エンドサイトーシス作用によって被験試料を細胞内に取り込ませて接触させてもよい。また、被験試料が細胞内物質の場合には、本発明に係る融合タンパク質を当該細胞内において発現させることによって、接触させてもよい。また、生細胞がない状態であっても、例えば培地中に分泌した本発明に係る融合タンパク質を含む培養液、又は精製した本発明に係る融合タンパク質を用いれば、各発光酵素の基質を同時に存在させて、in vitroでの測定も可能である。
【0108】
本発明に係るリガンド検出方法において、生細胞中に発現させた発光プローブを用いる場合、以下の方法を適用できるが、この方法に限定されない。
(i)本発明に係る融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを有するプラスミドを、24穴プレート上の生細胞に導入し、さらに16時間培養する。
(ii)上記細胞を、基質を含む溶液に浸す。
(iii)上記細胞を被験試料で刺激し、刺激前後の発光量の変化を発光度計で測定する。
【0109】
本発明に係るリガンド検出方法において、本発明に係る融合タンパク質を用いた非細胞系実験(in vitro)を行った場合、以下の方法を適用できるが、この方法に限定されない。
(i)公知の方法により精製した発光プローブを直径1.2センチの十字架型紙片の末端に垂らして乾燥させる。
(ii)上記十字架型紙片の中央に刺激物質を含む基質溶液15mLを点滴し、即時に発光Scanner(例えば、RAS−3000;FujiFilm)で発光量を測定する。
【0110】
本発明に係るリガンドを検出するためのリガンド検出キットは、本発明に係る融合タンパク質を備えていることを特徴としている。また、本キットは、本発明に係る融合タンパク質に含まれる発光酵素の基質を、さらに備えていてもよい。
【0111】
ここで、本キットが備える本発明に係る融合タンパク質は、真核細胞内及び原核細胞内において大量発現させることが可能である。例えば哺乳動物細胞を用いた場合、従来公知の適切なシグナル配列を繋いで培地中に大量に分泌させることによって、精製工程なしでも分析に用いることが可能な、大量の発光プローブ含有培養上清が得られる。また、さらに精製用のタグ(例えば、His Tag)をつけることで、容易に融合タンパク質を大量精製することができる。
【0112】
このようにして得られた融合タンパク質を備えたキットと同様に、本発明に係る融合タンパク質を発現している形質転換体を備えたキットも、被験試料中のリガンドの検出に用いられ得る。また、本発明に係るポリヌクレオチドと当該ポリヌクレオチドにより形質転換される細胞とを備えたキット、及び本発明に係るベクターと当該ベクターにより形質転換される細胞とを備えたキットも、同様に被験試料中のリガンドの検出に用いられ得る。
【0113】
〔5.プローブ生産方法及びキット〕
本発明は、さらに、本発明に係るプローブの生産方法及びキットを提供する。本発明に係るプローブの生産方法は、本発明に係るポリヌクレオチド又は本発明に係るベクターを用いて細胞を形質転換する工程を包含することを特徴としている。本方法においては、本発明に係るポリヌクレオチド又は本発明に係るベクターを用いて細胞を形質転換し、本発明に係るプローブを細胞中に発現させることによって、本発明に係るプローブを生産する。細胞中に発現させたプローブは、公知の方法により細胞中から回収し、精製することができる。
【0114】
具体的には、本発明に係るポリヌクレオチド又は発現ベクターを用いて細胞を形質転換し、培養した後、培養物等から慣用的な手法(例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等)に従って、本発明に係るプローブを回収、精製することができる。また、細胞中で発現させたポリヌクレオチドに精製用のタグが付加されている場合には、より容易に回収することができる。
【0115】
本発明に係るプローブの生産キットは、本発明に係るポリヌクレオチド又は本発明に係るベクターを備えていることを特徴としている。また、本キットは、本発明に係るポリヌクレオチド又は本発明に係るベクターにより形質転換される細胞を、さらに供えていてもよい。さらに、本発明に係るポリペプチドに含まれる発光酵素の基質を備えていてもよい。また、本発明に係るプローブの生産キットは、本発明に係る融合タンパク質をコードするリボ核酸を備えていてもよい。
【0116】
本発明に係るプローブは、例えば、以下のように生産されるものであり得る。まず、酵素を2つに分割し、C末側断片とN末側断片とを作製する。そして、リガンド結合タンパク質と、認識タンパク質との間に、円順列変異させたC末側断片とN末側断片とを連結する。このように本発明に係るプローブを生産してもよい。
【0117】
本発明に係る融合タンパク質によれば、バックグラウンド発光量を、例えばおよそ1/1000まで低く抑えることが可能であり、バックグラウンド光に対するシグナル光の比率を格段に向上させることができる。したがって、種々のタンパク質間相互作用の可視化検出をより高精度に行うことができる。
【0118】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0119】
〔実施例1:プラスミドの構築〕
適当なプライマー及びテンプレートを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)しながら断片のそれぞれの端部に特異的な制限酵素認識部位を導入し、円順列変異したプローブを構成する各cDNA断片を生成した。例えば、Xenopus Laevis由来のカルモジュリン(CaM)を増幅するために、Dr Miyawakiから提供されたYellow Cameleon−3.1(YC3.1)を、PCRのテンプレートとして用いた(非特許文献4参照)。特異的な制限酵素認識部位を図5に示す。
【0120】
各cDNA制限酵素断片を図5に示すように繋ぎ、それぞれpcDNA 3.1(+)(Invitrogen社)にサブクローンした。構築したプラスミドを、円順列変異した発光酵素の種類によってそれぞれ、pCPG(cpGLucプローブ)、pCPF(cpFLucプローブ)及びpCPC(cpCBLucプローブ)と称する。これらのプラスミド中で発現した発光プローブをそれぞれ、CPG、CPF及びCPCと称することもある。
【0121】
加えて、cpCBLucプローブのコントロールとして、pCPCにおけるエストロゲンレセプターのリガンド結合タンパク質(ER LBD)のY537をコードする核酸を、TATからTTTに部分変異した(例えばY537F)。このプラスミドをpCPC変異体と称する。また、cpCPCプローブのさらなるコントロールとして、図9示す従来の一分子型プローブを平行して構築した。このプラスミドをpSMCと称する。cpGLucプローブ(CPG)のコントロールとして、図14に示す一分子型プローブSMGを作製した。このプラスミドをpSMGと称する。
【0122】
構築したプラスミドの全てにおいて、BigDye Terminator Cycle Sequencingキット及び遺伝子分析ABI Prism310(Applied Biosystems製)により配列を確認した。
【0123】
ここで、円順列変異に用いる合理的な発光酵素断片を生成するために、各プラスミドに導入した発光酵素の、分子内相補性により生物発光が回復するような分割位置を、以下のように検討した。本発明者らは、活性を一時的に喪失し、直ちに回復するような可能性のある発光酵素のいくつかの分割位置を、これまでに検討してきた(非特許文献6、10、11及び17)。本発明者らは、GLuc、FLuc及びCBLucそれぞれの全アミノ酸配列における親水性分布解析に基づいて分割位置を検討した。
【0124】
図6に、各発光酵素の親水性分布解析の結果を示す。本発明者らのこれまでの研究から、アミノ酸配列における親水性領域が発光酵素を構成する2つの主要ドメイン間領域であると予想した。そこで、この親水性領域を中心に分割位置を検討した。その結果、図5に示すように、GLucにおいては106位と107位との間で分割し、FLucにおいては415位と416位との間で分割し、CBLucにおいては412位と413位との間で分割し、それぞれ円順列変異して作製したプローブが最適であることが見出された。発光酵素の本来のN末端及びC末端を10GSリンカーを用いて遺伝子融合し、分割位置に新しい端部を設けることによって円順列変異した。
【0125】
〔実施例2:細胞培養及び形質転換〕
アフリカ緑ザル腎臓由来のCOS−7細胞を、10%ステロイドフリーウシ胎児血清(FBS)及び1%ペニシリン−ストレプトマイシン(P/S)を添加したDulbecco改変イーグル培地(DMEM;Sigma製)を含む24ウエルプレートにおいて、cellインキュベータ(Sanyo製)中で、37℃、5%CO2存在下で培養した。導入試薬としてTransIT−LT1(Mirus製)を用いて、COS−7細胞に、pCFG、pCPF又はpCPC(各ウエル当り0.2μg)を一過性形質転換した。形質転換した細胞を、5%CO存在下で16時間インキュベートした。
【0126】
〔実施例3:CPC、CPF又はCPGにおける相対的な発光強度の比較〕
CPC、CPF又はCPGからの相対的な発光強度を、各リガンドの存在下又は非存在下において比較した。結果を図7に示す。
【0127】
まず、実施例2で作製したpCPC又はpCPFが導入されたCOS−7細胞を、4−ヒドロキシタモキシフェン(OHT)又は5α−ジヒドロテストステロン(DHT) 10−6M(終濃度)で刺激した。Bright−Glo基質溶液(Promega製)を用いて生じさせた発光強度を、発光度計(Minilumat LB9506;Berthold製)を用いて15秒測定した。Bright−Glo基質溶液を用いた処理の概要を以下に示す。
【0128】
プラスミドを導入したCOS−7細胞をリガンドによって20分間刺激した後、PBSを用いた洗浄を1回行った。基質溶液(D-luciferin)40μLをプレートの各ウエルに添加した。基質溶液を添加してから3分後、プレートを穏やかに叩き、得られた細胞溶解物をテストチューブに移して発光強度を測定した。
【0129】
一方、pCPGが導入されたCOS−7細胞を、トリプシン処理及び遠心分離によって回収した。回収後の細胞を1mM ヒスタミン又はPBSを含む40μL基質溶液(セレンテラジン)に穏やかに混合した。その後、発光強度を発光度計(Minilumat LB9506)を用いて決定した。結果を以下に示す。
【0130】
リガンド刺激後のCPC及びCPGからの光の発光量はそれぞれ、バックグラウンドよりも6倍及び3倍強かった。CPFにおいてもリガンド刺激によって発光量が増加したが、バックグラウンドに対するシグナル比率は、CPC及びCPGよりも低かった。これらのデータは、(i)発光酵素を円順列変異して、生物発光プローブを構築し得ること、(ii)リガンドの存在下において、発光酵素の円順列変異断片間の分子内タンパク質相補性が確実に引き起こされること、(iii)回復した発光強度が、分子イメージングの利用に十分なほど強いこと、(iv)CPプローブの構成要素間の立体障害及び空間的ミスマッチが原因で、ノイズに対するシグナルの比率が変化し得ること、を示している。
【0131】
〔実施例4:CPC又はCPC変異体における発光強度の比較〕
CBLuc又はその変異体は、pH、温度及び重金属イオンには感受性を示さず、組織透過性の高い615nmの赤色発光を生成する。我々は、CBLuc Redのこれらの利点を、新規のプローブの合成に利用した。ERリガンドの刺激により、ER LBDのY537がリン酸化される。これはSrcタンパク質のSH2ドメインによって感度よく認識される(非特許文献18)。本発明者らは、本発明のプローブを構築するために、この典型的なERの非ゲノム相互作用を利用した。
【0132】
ER LBDのY537におけるリン酸化が、結果的にSrcタンパク質のSH2ドメインとの分子内相互作用を引き起こすか否かを、CPC及びCPC変異体(CPC−mut)を用いて実験した。実施例2と同様に、24ウエルプレート中で培養したCOS−7細胞を、pCPC又はpCPC変異体で一過性形質転換した。形質転換してから16時間経過した後、形質転換細胞を様々なリガンド(10−6M)で20分間刺激した。細胞の刺激には、溶媒(終濃度0.1%DMSO)、OHT(4-hydroxytamoxifen)、エストロン、E(17β−エストラディオール)、DHT(5α-dihydrotestosterone)及びコルチゾールを用いた。
【0133】
発光強度の測定を以下のとおり行った。形質転換したCOS−7細胞を、cellインキュベータ中で16時間インキュベートした。インキュベート後の細胞を、D−luciferinを含む200μLのセル溶解バッファに溶解し、全溶解物を石英セル(45×12.5×7.5mm)に移した。分光光度計(FP−750;Jasco社)を用いて、400nmから700nmの範囲の発光を測定した(n=3)。リガンドの存在下又は非存在下におけるCPCのスペクトルを、CPC変異体のスペクトルと比較した結果を図8に示す。
【0134】
図8に示すように、CPCは様々なステロイドを認識したが、特に、エストロゲンアンタゴニストであるOHTに感受性を示した。一方、CPC変異体は、全てのリガンドに対して感受性を示さなかった(無反応であった)。この結果は、(i)ER LBDのY537におけるリン酸化を介して、ER LBD−Src SH2の分子内相互作用が起こること、(ii)ER LBDのY537はリガンド依存的にリン酸化されること、(iii)CPCの発光強度が、リガンドのアンタゴニスト活性の指標となること、(iv)分析的観点から、ノイズに対するシグナルの比率がリガンドの非ゲノム活性を識別するに十分大きいこと、を示している。EがERのY537のリン酸化に影響するか否かは、これまでに議論されている。本実施例によれば、Eだけでなく、OHTもERのY537をリン酸化を引き起こし得ることを示している。また、E及びOHTの両方がER LBDをリン酸化するが、EよりもOHTの方が、CBLucの発光活性回復により好ましいER LBDの立体配置変化を引き起こすことも示された。この結果は、ERアンタゴニストにおける発光に関する以前の研究と一致する。
【0135】
〔実施例5:CPCのリガンド濃度−反応曲線及びSMCとの比較〕
種々の濃度のリガンドに対するCPCのリガンド感受性を測定した。実施例2と同様に、24ウエルプレートで培養したCOS−7細胞をpCPCで一過性形質転換した。形質転換してから16時間経過後、種々の濃度のリガンドを用いて形質転換細胞を刺激した。発光強度を発光度計(Minilumat LB9506)を用いて測定した。細胞の刺激には、溶媒(終濃度0.1%DMSO)、OHT、エストロン、17β−エストラディオール(E)、DHT及びコルチゾールを用いた。
【0136】
CPCのコントロールとして、図9に示すSMCの感受性を、CPCと同一の実験条件において平行して実験した。図9に示すように、SMCは、CBLucのN末端断片とC末端断片との間にSrc SH2と ER LBDとがつなげられている点においてCPCと異なっている。すなわち、SMCにおいては発光酵素を円順列変異していない。このSMCを含むプラスミドpSMCでCOS−7細胞を形質転換した。形質転換細胞を種々の濃度のOHTを用いて刺激し、得られた発光強度を発光度計(Minilumat LB9506)を用いて測定した。
【0137】
CPC及びSMCのリガンド濃度−反応曲線を図10に示す。図10に示すように、CPCは選択的にOHTを認識し、10−9Mのような低濃度のOHTでさえ認識した。半数影響濃度(EC50)は、およそ5×10−8Mであった。検出下限は、円順列変異していないコントロールプローブ(SMC)と比して10倍増であった。SMCは、CPCよりも7倍強いバックグラウンド発光を発した(例えば38459対5484 RLU(n=3))。このように検出下限が改善した理由は、円順列変異により、リガンドの非存在下において、ER LBD及びSH2間の基底相互作用が減少したことで説明することができる。
【0138】
〔実施例6:アンタゴニスト結合CPCに対するEの抑制効果の比較〕
CPCがERアゴニストではなく、ERアンタゴニストに対して感受性を示すという結果に基づいて、アンタゴニスト結合CPCに対するEの抑制効果を調べた。実施例2と同様に、24ウエルプレートで培養したCOS−7細胞を、pCPCで一過性形質転換した。形質転換してから16時間経過した後、細胞を10−5M Eで5分間、前刺激した。E刺激後の細胞を、種々の核レセプターアンタゴニストを更に導入し、インキュベートした。核レセプターアンタゴニストとして、シグリタゾン、ICII82780、ゲジステイン及びOHT(それぞれ終濃度10−6M)を用いた。結果として得られた発光強度を、核レセプターアンタゴニスト単独で刺激した細胞の発光強度と比較した。結果を図11に示す。
【0139】
図11に示すように、種々のアンタゴニストにより増大した発光強度に、Eは阻害効果を示した。この結果は、(i)ER LBDの結合において、アンタゴニストとEとは競合すること、(ii)OHTが、10倍以上の量のEによりわずかに影響される、最も効果的なアンタゴニストであることを示している。
【0140】
〔実施例7:リガンド−プローブ結合の経時変化〕
リガンド−プローブ結合の経時変化を、pCPCで形質転換したCOS−7細胞で評価した。実施例2と同様に、12ウエルプレートで培養したCOS−7細胞を、pCPCで一過性形質転換し、さらに6時間インキュベートした。インキュベート後の形質転換細胞に10−6M OHT又は溶媒(0.1%DMSO)を添加後、2、5、10、20及び30分後の発光強度を測定した。結果を図12に示す。
【0141】
図12に示すように、CPCの発光強度は、OHT添加5分後から大きく増大し、20分後に停滞した。20分の総反応時間は、(i)OHTが細胞膜を透過して細胞質中に導入され、(ii)OHT−ER LBD結合によりER LBDの立体配置変化し、(iii)更にER LBDとSrc SH2とが結合し、かつ(iv)CBLuc断片間の分子内相補性により発光するまでに係る全ての時間が含まれる。リガンド−ERの結合及びERの立体配置変化は1分以内に完了することが、以前に無細胞分析によって証明されている(非特許文献19)。それゆえに、総反応時間20分の大部分はOHTが細胞質に導入される時間に費やされると考えられる。この反応時間は、本発明者らが構築した従来のプローブにおける反応時間よりも非常に遅い。これは、他のステロイドと異なりOHTは親水性であるため、細胞膜透過に時間がかかることが原因であると考えられる。
【0142】
また、時間の経過よるOHT−CPC結合の解離を、OHT刺激後の培養培地を交換する方法で測定した。pCPCで形質転換された細胞を、10−6M OHT又は溶媒(0.1%DMSO)により20分間刺激し、その後培養培地をリガンドを添加していない新しい培地に交換した。培地交換後10、20及び60分後の発光強度をBright−Glo基質溶液で処理した。各時間毎の強度を、基剤(0.1%DMSO)で偽刺激した細胞の強度と比較した。結果を図13に示す。図中黒棒グラフはOHT刺激した細胞からの発光量を示し、白棒グラフは溶媒で偽刺激した細胞からの発光量を示している。
【0143】
図13に示すように、培地交換から1時間以内は、発光強度は顕著には低減しなかった。培地交換後60分を経過した後でさえ、細胞からの発光強度は弱まらなかった。この結果は、(i)OHTの親水性がOHTの流出を遅らせること、又は(ii)OHTによって引き起こされたSrc SH2−ER結合が長時間持ちこたえることが理由であると考えられる。この結合において、ERのヘリックス12の役割は、(a)Y537がERのヘリックス12のヒンジ領域に位置し、Src SH2に認識されること(非特許文献20)、及び(b)Y537がSH2−ER LBD結合の解離を潜在的に妨げる適切な位置であることと考えることがもっともらしい。この分子現象に関するリガンド認識メカニズムをERとARとの間で比較することが興味深い。生理条件下において、ERはリガンド−ER結合後に核内に保持される一方で、ARは転写後に再利用される(非特許文献21及び22)。すなわち、ERは核内で分解されるため、転写後にリガンドを解放する必要がない。ER及びARのリガンド認識メカニズムにおけるこのような生理学上の相違点は、上記SH2−ER結合の維持に現れているかもしれない。
【0144】
〔実施例8:pCPGで形質転換されたCOS−7細胞におけるCa2+動向の追跡〕
COS−7細胞における細胞質Ca2+の動向を、pCPGで形質転換した細胞、及びコントロールとして図14に示すSMGで形質転換した細胞においてそれぞれ観察した。哺乳動物細胞における遊離Ca2+は、代表的なセカンドメッセンジャーである。図14に示すように、CPGは、GLucをQ105地点で切断し、断片を10GSリンカーを用いて円順列変異し、その外側の端部に、M13ペプチド及びカルモジュリンをそれぞれ融合して合成した。SMGは、GLucのN末端断片とC末端断片との間にカルモジュリンとM13ペプチドとがつなげられている点においてCPGと異なっている。すなわち、SMGにおいては発光酵素を円順列変異していない。
【0145】
実施例2と同様に、黒のガラス底プレート(24ウエル)で培養したCOS−7細胞を、pCPG又はSMGを含むプラスミドpSMGで形質転換し、cellインキュベータ中に16時間ストックした。形質転換細胞を、セレンテラジンを含むHank’s balanced salt solution(HBSS)バッファ 300μLに浸した。発光強度の変化を、bioluminescence plate reader(Mithras LB 940;Berthold製)により、0.1から1mMの範囲のヒスタミンの添加前後30秒毎に観察した。結果を図15に示す。
【0146】
図15に示すように、1mMヒスタミン刺激に対して、CPGの発光強度は直ちに上昇し、10分後におおよそ停滞した。また、CPGのバックグラウンド強度は非常に低かった。一方、SMGは、ヒスタミンの非存在下でさえ、非常に高いバックグラウンド強度を示した。1mMヒスタミンによる刺激でも発光強度はあまり上がらなかった。これらの結果から、GLucを円順列変異することによって、CBLucを円順列変異した場合と同様に、バックグラウンド強度が低くなる傾向にあることが結論付けられた。基底発光の低下により、ヒスタミンによる遊離Ca2+イオンレベルの動向をより容易かつ正確に決定することができた。
【0147】
従来、セカンドメッセンジャーの動向のリアルタイムイメージングは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に多く依存していた(非特許文献3、4及び23)。GFP変異体間のFRETは、蛍光顕微鏡により観測され得る。しかしながら、自己蛍光による測定妨害、限られた細胞数しか観測できないという問題点がある。本発明のCPGによれば、単純な全細胞分析及びリアルタイムイメージングを提供することが可能であるため、哺乳動物由来の生細胞において分子動向を追跡するのに非常に有利である。本実施例は、生細胞内において、ヒスタミンが誘因するセカンドメッセンジャーの動向を生物発光プローブにより決定した最初の例である。
【0148】
〔実施例9:様々なリガンドによって上昇したCa2+イオンレベルの洗浄後の保持〕
細胞質Ca2+イオンレベルの保持を、pCPGで形質転換したCOS−7細胞からの発光強度に基づいて観察した。実施例2と同様に、24ウエルプレートで培養したCOS−7細胞を、pCPGで一過性形質転換し16時間インキュベートした。インキュベート後の形質転換細胞を、溶媒(PBS)、0.5mMヒスタミン、0.5mMヒスタミン及び10μMシクロヘプタジエン、0.5mMヒスタミン、0.5mM ATP、0.5mM ATP及び10μMシクロヘプタジエン、0.5mM ATP及び1μM タプシガーギン(thapsigargen)、2μMイオノマイシン、により20分間刺激した。
【0149】
リガンド刺激後の細胞をPBSで2回洗浄し、トリプシン処理及び遠心分離により回収した。このPBSによる洗浄により、細胞質内Ca2+イオンレベルを上昇させるリガンドの外部刺激を終了させる。回収した細胞をセレンテラジンを含む基質バッファに再懸濁した後、テストチューブに移し、発光度計(Minilumat LB9506)を用いて発光量を測定した。結果を図16に示す。
【0150】
図16に示す結果から、以下のように結論付けられる。ヒスタミン及びATPは、細胞膜を通過できないため、膜上のこれらの特異的レセプターに結合する。ヒスタミン又はATP単独により上昇した細胞質Ca2+イオンレベルは、細胞のカルシウムポンプによって直ちに減少する。小胞体Ca2+イオンポンプ阻害剤として知られるタプシガーギンをさらに添加すると、ヒスタミン又はATPにより上昇した発光強度が維持される。
【0151】
一方、ヒスタミンに加えて、シプロヘプタジエンで刺激すると、細胞質内Ca2+イオンレベルの上昇が選択的に阻害された。シプロヘプタジエンが、抗ヒスタミン剤としてヒスタミン効果を阻害していると考えられる。イオノマイシンは、細胞質中への、外因性Ca2+イオンの流入を引き起こすものであることから、Ca2+イオンポンプの存在に関わらず、細胞質内において一定のCa2+イオンレベルが維持されることが結論付けられた。
【0152】
これらの結果は、(i)本発明のCPGが、哺乳動物生細胞における分子現象を解明するための適切な測定を提供し得ること、(ii)本発明のCPGを用いれば、生細胞中において、Ca2+イオンを含むセカンドメッセンジャーの動きを可視化し得ることを示している。今まで蛍光発光プローブを用いた蛍光測定法は頻繁に用いられているが、このような生物発光に基づくプローブは新規である。
【0153】
〔実施例10:CPCとCPCコントロール(CPC−ctrl)とのリガンド感受性の比較〕
CPCのさらなるコントロールであるCPC−ctrlのリガンド感受性を、CPCのリガンド感受性とを比較した。図17に示すように、CPC−ctrlは、Src SH2と ER LBDとの間に、CBLucのN末端断片とC末端断片とが、この順に連結されている。すなわち、CPC−ctrlにおいては、Src SH2と ER LBDとの間に位置する酵素を円順列変異していない点においてのみCPCと異なっている。
【0154】
実施例2と同様に、24ウエルプレートで培養したCOS−7細胞を、pCPC又はpCPC−ctrlで一過性形質転換した。形質転換してから16時間経過後、種々の濃度のE又はOHTによって、形質転換細胞を20分間刺激した。発光強度を発光度計を用いて測定した。結果を図18に示す。
【0155】
図18に示すように、CPCはOHTに感受性を示し、10−9Mのような低濃度のOHTでさえ反応した。半数影響濃度(EC50)は、およそ5×10−8Mであった。一方、CPC−ctrlは、OHT又はEに対して、全く発光量の変化を示さなかった(図18)。その理由は、刺激物質の非存在下でさえ、バックグラウンド光発光量が非常に高いことであると考えられる。CPC−ctrlのバックグラウンド発光量は、CPCのバックグラウンド発光量よりも、おおよそ1000倍多かった。結果として、図18に示すように、バックグラウンド光に対するシグナル光の比率が乏しかった。
【0156】
〔実施例11:pCPCを導入したCOS−7細胞から発する光の波長〕
帯域通過フィルターにより遮光したそれぞれの発光量を比較した。COS−7細胞から発する光の波長を、一連の帯域通過フィルターを用いて試験した。実施例2と同様に、24ウエルガラスプレートで培養したCOS−7細胞を、pCPCで一過性形質転換し、16時間インキュベートした。セレンテラジンと、溶媒(0.1% DMSO)、10−6M E及び10−6M OHTのいずれか1つとを含むHBSSバッファ 500μLに、細胞を浸した。リガンド刺激後20分間のそれぞれの細胞からの発光量を、一連の帯域通過フィルターを用いて一定時間毎に、510±10nm、535±10nm、540±10nm、560±10nm、610±10nmの波長において観察した。結果を図19に示す。
【0157】
図19に示すように、当該COS―7細胞からの光は、610±10nmフィルターを能率的に通過した、すなわち、当該COS−7細胞は、赤−オレンジ光を発していることが示された。OHTによる発光量は、溶媒(0.1% DMSO)による発光量よりも5倍強かった。一方、Eによる発光量は、溶媒による発光量よりも強かったが、その差は1.8倍程度であった。これらの結果から、OHTが赤−オレンジ光を選択的に上昇させることが示されたので、この発光は、エストロゲンレセプターに対するリガンドのアンタゴニスト活性の特異的な指標になることができる。
【0158】
〔実施例12:CPGのリガンド感受性〕
COS−7細胞において、細胞質Ca2+の挙動を、CPG及びCPG−ctrlを用いて観察した。GLucをQ105地点で切断し、断片を10GSリンカーを用いて円順列変異した。その外側の端部に、M13及びCaMをそれぞれ融合して、CPGを作製した。CPGのコントロールプローブとして、CPGと同一の構成要素を用いて、GLucを円順列変異しない点のみにおいてCPGと異なるCPG−ctrlを並行して作製した(図20)。
【0159】
実施例2と同様に、24ウエル黒色ガラスプレートで培養したCOS−7細胞を、pCPG又はpCPG−ctrlで一過性形質転換し、セルインキュベータに16時間ストックした。この細胞を、セレンテラジンを含むHBSSバッファ 300μLに浸した。生物発光プレートリーダー(Mithras LB 940;Berthold)を用いて、30秒毎の発光量の変化を、0.1mMから1mMの濃度範囲のヒスタミンの添加後及び添加前にそれぞれ観察した。結果を図21に示す。
【0160】
図21に示すように、1mM ヒスタミンに対して、CPGの発光量は直ちに上昇し、10分後に概ね平衡に達した。CPGは、ヒスタミン濃度0.25mMで感受性を示し、ヒスタミン濃度0.25mM〜0.75mMの範囲で、発光量が線形に上昇した。一方、CPG−ctrlは発光が不安定であり、ヒスタミンの非存在下でさえ、CPGよりも約100倍多いバックグラウンド発光量を示した。CPG−ctrlは、1mMのヒスタミン刺激では、ほとんど発光量を増加させなかった。
【0161】
これらの結果から、CPCとCPC−ctrlとの場合にも示されたように、GLucの円順列変異はバックグラウンド発光を減少させるのに有利であることが理解される。バックグラウンド発光の減少により、ヒスタミンによって引き起こされる遊離Ca2+のレベルの挙動を安定して決定することができるようになった。
【0162】
〔実施例13:pCPG−ctrlを導入したCOS−7細胞における基質飽和の反応速度〕
COS−7細胞におけるセレンテラジン飽和の反応速度を、pCPG−ctrlを導入したCOS−7細胞で観察した。実施例2と同様に、24ウエルプレートで培養したCOS−7細胞をpCPG−ctrlで一過性形質転換し、16時間インキュベートした。プレート上の細胞をHBSSバッファにより1回洗浄し、HBSSバッファ 500μLに浸した。セレンテラジン添加後の発光量の変化を、生物発光プレートリーダー(Mithras LB 940;Berthold)により追跡した。結果を図22に示す。図22に示すように、COS−7細胞において、セレンテラジンの吸収は8.5分後に飽和した。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明に係る融合タンパク質は一分子型プローブであって、より高精度に標的タンパク質特異的リガンドを検出することが可能であるため、種々のタンパク質間相互作用を試験し得る。したがって、本発明に係る融合タンパク質は、バイオ産業、医薬品産業、食品産業等の広範な分野に応用することができる。特に、診断医療分野、ナノバイオ分野、薬理作用評価分野、環境分析分野等において、好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】本発明に係る円順列変異した発光酵素を有する生物発光プローブを示す概念図である。
【図2】本発明に係るCPCのリガンド認識メカニズムを示す模式図である。
【図3】ホタルルシフェラーゼの結晶構造を示す図である。
【図4】pCPFを発現させて得られた本発明に係る生物発光プローブ(CPF)の分子構造を示す図である。
【図5】本発明に係る円順列変異した発光酵素を有する生物発光プローブを示す概念図である。
【図6】GLuc、FLuc及びCBLucの親水性分布解析の結果を示す図である。
【図7】本発明に係る生物発光プローブのリガンド感受性を比較したグラフを示す図である。
【図8】ER LBDとSrc SH2ドメインとの結合における、CPCとCPC-mutのリガンド感受性を調査した結果を示す図である。
【図9】CPC及びSMCの分子構造を比較する模式図である。
【図10】CPCのリガンド濃度−反応曲線を示す図である。
【図11】様々なアンタゴニストに対するCPCの相対感受性を比較したグラフを示す図である。
【図12】OHT−CPC結合の経時変化のグラフを示す図である。
【図13】OHT−CPC結合による発光量の経時変化のグラフを示す図である。
【図14】CPG及びSMGの分子構造を比較する模式図である。
【図15】CPG及びSMGのリガンド応答性を、それぞれの発光強度で比較したグラフを示す図である。
【図16】pCPGで形質転換されたCOS−7細胞における、リガンドにより上昇したCa2+レベルに対する洗浄(リガンド除去)の効果のグラフを示す図である。
【図17】CPC及びCPC−ctrlの分子構造を比較する模式図である。
【図18】CPC及びCPC−ctrlのリガンド感受性を比較したグラフを示す図である。
【図19】帯域通過フィルターで遮光した相対発光強度のグラフを示す図である。
【図20】CPG及びCPG−ctrlの分子構造を比較する模式図である。
【図21】CPG及びCPG−ctrlのリガンド結合反応速度を比較したグラフを示す図である。
【図22】COS−7細胞におけるセレンテラジンの飽和速度のグラフを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リガンドを検出する融合タンパク質であって、
前記リガンドに対するリガンド結合タンパク質と、
当該リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識する認識タンパク質と、
当該リガンド結合タンパク質及び当該認識タンパク質の間に、2つに分割された酵素の、C末側断片とN末側断片とを有し、
前記C末側断片のC末端基が、前記N末側断片のN末端基の上流に位置しており、
前記リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを前記認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された前記酵素断片が相補して酵素活性を変化させることを特徴とする融合タンパク質。
【請求項2】
前記酵素の活性部位の少なくとも一部が、前記C末側断片のN末端、及び前記N末側断片のC末端にそれぞれ位置するように、前記酵素が分割されていることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記リガンド結合タンパク質は、核内受容体、サイトカイン受容体、タンパク質キナーゼ、セカンドメッセンジャー認識タンパク質、及び転写因子からなる群より選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記酵素は、発光酵素であり、
前記リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを前記認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された前記発光酵素断片が相補して発光量を変化させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記発光酵素は、ホタルルシフェリン、レニラルシフェリン又は脂質を基質とするものであることを特徴とする請求項4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記発光酵素は、ホタルルシフェラーゼ、ガウシアルシフェラーゼ、クリックビートルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、及び鉄道虫ルシフェラーゼからなる群より選択されることを特徴とする請求項5に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記リガンド結合タンパク質がエストロゲン受容体のリガンド結合ドメインであり、前記認識タンパク質がSrcタンパク質のSH2ドメインであり、前記発光酵素がクリックビートルルシフェラーゼであることを特徴とする請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記リガンド結合タンパク質がアンドロゲン受容体であり、前記認識タンパク質が共転写因子であり、前記発光酵素がホタルルシフェラーゼであることを特徴とする請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
前記リガンド結合タンパク質がカルモジュリンであり、前記認識タンパク質がミオシン軽鎖キナーゼ由来のM13ペプチドであり、前記発光酵素がガウシアルシフェラーゼであることを特徴とする請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
配列番号1〜3のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなる、融合タンパク質;あるいは
配列番号1〜3のいずれか1つに示されるアミノ酸配列の1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、前記リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを前記認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された前記発光酵素断片が相補して発光量を変化させる、融合タンパク質。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の融合タンパク質をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項12】
配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;
配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列の1個又は数個の塩基配列が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された発光酵素断片が相補して発光量を変化させる融合タンパク質をコードする塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;
配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された発光酵素断片が相補して発光量を変化させる融合タンパク質をコードする塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;あるいは
配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列と少なくとも66%同一であり、リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された発光酵素断片が相補して発光量を変化させる融合タンパク質をコードする塩基配列からなる、ポリヌクレオチド。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のポリヌクレオチドを含んでいることを特徴とするベクター。
【請求項14】
請求項11又は12に記載のポリヌクレオチドを含んでいることを特徴とする形質転換体。
【請求項15】
請求項13に記載のベクターを含んでいることを特徴とする形質転換体。
【請求項16】
被験試料中のリガンドを検出する方法であって、
前記被験試料と、請求項1〜10のいずれかに記載の融合タンパク質とを接触させる工程を包含することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれかに記載の融合タンパク質を備えることを特徴とする被験試料中のリガンドを検出するためのキット。
【請求項18】
請求項11又は12に記載のポリヌクレオチドを用いて細胞を形質転換する工程を包含することを特徴とするプローブの生産方法。
【請求項19】
請求項11又は12に記載のポリヌクレオチドを備えていることを特徴とするプローブの生産キット。
【請求項20】
請求項13に記載のベクターを用いて細胞を形質転換する工程を包含することを特徴とするプローブの生産方法。
【請求項21】
請求項13に記載のベクターを備えていることを特徴とするプローブの生産キット。
【請求項22】
リガンドを検出する融合タンパク質を生産する生産方法であって、
酵素を2つに分割し、C末側断片とN末側断片とを作製する工程と、
前記リガンドに対するリガンド結合タンパク質と、当該リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識する認識タンパク質との間に、C末側断片とN末側断片とを連結する工程とを包含し、
前記連結工程において、前記C末側断片のC末端基と、前記N末側断片のN末端基とを連結することを特徴とするプローブの生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−261336(P2009−261336A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116098(P2008−116098)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】