説明

一次電池用非水電解液及びそれを用いた非水電解液一次電池

【課題】大電流放電時に電圧低下が少なく、安定して動作する非水電解液一次電池を提供する。
【解決手段】有機化合物を非水電解液100重量%中に、0.1重量%以上、10重量%以下含有する。1,2−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン、1,2−ナフトキノン、9,10−アントラキノン、1,4−アントラキノン、アセナフテンキノン、及び1,2−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン、1,2−ナフトキノン、9,10−アントラキノン、1,4−アントラキノン、アセナフテンキノン又は1,4−ベンゾキノンの誘導体、からなる群から選択される有機化合物を少なくとも1種含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次電池用非水電解液及びそれを用いた非水電解液一次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
負極にリチウム金属又はその合金を用いたリチウム一次電池は、エネルギー密度が高く、大容量であり、小型化及び軽量化が可能であることから、小型の携帯機器の主電源をはじめとし、据え置き型機器のバックアップ電源等さまざまな用途に使用されている。
【0003】
近年、機器の使用電力量の増加から、大電流放電が可能なリチウム一次電池が求められている。しかしながら、放電電流の増加に伴い、放電時の過電圧により電池電圧が大幅に低下するという問題があった。このような問題を解決するため、電池の電解液にプロパンサルトン、エチレンサルファイトを添加することにより、正極での有機溶媒の分解を抑制し、正極表面に形成される高抵抗被膜の形成を妨げて、高負荷放電時の電圧低下を防止するという試みがなされている(例えば、特許文献1及び2参照)。また、電解液の有機溶媒の一部を、電解質と相互作用の小さい環状エーテル化合物にすることにより、電解質と相互作用の強い有機溶媒のみを用いた場合に起こる低温高負荷放電時の電圧低下を抑制するという試みもなされている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、これらの試みでは、性能の向上が十分とはいえず、更なる改善が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−170575公報
【特許文献2】特開2002−170576公報
【特許文献3】特開平6−176769公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、非水電解液一次電池において、大電流放電時に電圧低下が少なく、安定して動作することを可能とする非水電解液の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らは非水電解液に含有させる有機化合物の選択により、また、非水電解液が特定の条件を満たす場合に、従来に比べて大電流放電時に電圧低下が少なく、安定して動作する一次電池を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、正極と金属リチウム又はリチウム合金からなる負極とを有する一次電池用の非水電解液であって、
1,2−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン、1,2−ナフトキノン、9,10−アントラキノン、1,4−アントラキノン、アセナフテンキノン、及び1,2−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン、1,2−ナフトキノン、9,10−アントラキノン、1,4−アントラキノン、アセナフテンキノン又は1,4−ベンゾキノンの誘導体、からなる群より選択される有機化合物を少なくとも1種含有することを特徴とする一次電池用非水電解液に関し、また前記非水電解液を有する、非水電解液一次電池に関する。
【0009】
また、本発明は、正極と金属リチウム又はリチウム合金からなる負極とを有する一次電池用の非水電解液であって、有機化合物を少なくとも1種含有し、
ここで、該有機化合物は、該有機化合物を1.0重量%含有したLiBF4を1モル/リットルの濃度で溶解したγ−ブチロラクトン溶液が、2.5V以上の還元電位を有し、かつ、1000mC/cm以下の電極面積当たりの還元反応電気量を有する、という条件を満たすものであり、
還元電位は、底面部分のみが露出した1.6mmφの白金を作用極、リチウム金属を参照極、ステンレス板を対極として、ガラスフィルターで作用極側と対極側とが区切られたH型セルに、該溶液を入れ、25℃で作用極の電位を還元側に5mV/秒の掃引速度で掃引し、このとき−0.5mA/cmの電気密度が流れ出す電位であり、
電極面積当たりの還元反応電気量は、底面部分のみが露出した1.6mmφの白金を作用極、リチウム金属を参照極、ステンレス板を対極として、ガラスフィルターで作用極側と対極側とが区切られたH型セルに、該溶液を入れ、25℃で自然電位より0.2Vまで電位を掃引した際に流れた電気量の絶対値を作用極の底面面積で割った値である、
ことを特徴とする、一次電池用非水電解液に関し、また前記非水電解液を有する、非水電解液一次電池に関する。
【0010】
さらに、本発明は、正極と金属リチウム又はリチウム合金からなる負極とを有する一次電池用の非水電解液であって、
ここで、該非水電解液は、2.5V以上の還元電位を有し、かつ、1000mC/cm以下の電極面積当たりの還元反応電気量を有し、
還元電位は、底面部分のみが露出した1.6mmφの白金を作用極、リチウム金属を参照極、ステンレス板を対極として、ガラスフィルターで作用極側と対極側とが区切られたH型セルに、該非水電解液を入れ、25℃で作用極の電位を還元側に5mV/秒の掃引速度で掃引し、このとき−0.5mA/cmの電気密度が流れ出す電位であり、
電極面積当たりの還元反応電気量は、底面部分のみが露出した1.6mmφの白金を作用極、リチウム金属を参照極、ステンレス板を対極として、ガラスフィルターで作用極側と対極側とが区切られたH型セルに、該非水電解液を入れ、25℃で自然電位より0.2Vまで電位を掃引した際に流れた電気量の絶対値を作用極の底面面積で割った値である、
ことを特徴とする、一次電池用非水電解液に関し、また前記非水電解液を有する、非水電解液一次電池に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の非水電解液によれば、大電流放電時に電圧低下が少なく、安定して動作する非水電解液一次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の一次電池用非水電解液の主成分は、常用の一次電池用非水電解液と同じく、溶質及びこれを溶解する非水溶媒である。
【0013】
溶質としてはリチウム塩を用いる。リチウム塩としては、この用途に用い得ることができるものであれば特に制限はないが、例えば、以下のものが挙げられる。
1)無機リチウム塩:LiAsF6、LiPF6、LiBF4等の無機フッ化物塩、LiClO4、LiBrO4、LiIO4等の過ハロゲン酸塩。
2)有機リチウム塩:LiB(C、LiB(C654等の有機ホウ酸リチウム塩、LiCH3SO3等のアルカンスルホン酸塩、LiN(SO2CF32、LiN(SO225)2等のパーフルオロアルカンスルホン酸イミド塩、LiCF3SO3等のパーフルオロアルカンスルホン酸塩。
これらのリチウム塩は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
なかでも電池特性の安定性の面から好ましいのは、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3である。
【0015】
非水電解液中のリチウム塩の濃度は、通常0.1モル/リットル以上、好ましくは0.5モル/リットル以上であり、通常2.5モル/リットル以下、好ましくは1.5モル/リットル以下である。リチウム塩の濃度は高すぎても、低すぎても電解液の電気伝導率の低下が生じうるが、上記を考慮することにより、電解液の電導度の低下が抑制され、良好な電池特性が得られやすい。
【0016】
非水溶媒についても、特に制限はなく、従来から非水電解液の溶媒として提案されているものの中から適宜選択して用いることができる。例えば、環状カーボネート(環状炭酸エステル)類、鎖状カーボネート(鎖状炭酸エステル)類、環状エステル(環状カルボン酸エステル)類、鎖状エステル(鎖状カルボン酸エステル)類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、環状スルホン類等が挙げられる。
【0017】
環状カーボネート類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。鎖状カーボネート類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が挙げられる。環状エステル類としては、γ-ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等が挙げられる。鎖状エステル類としては、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等が挙げられる。環状エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン等が挙げられる。鎖状エーテル類としては、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。環状スルホン類としてはスルホラン等が挙げられる。これらの非水溶媒は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
電解液の電気伝導率、電池の作動安定性の面からは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の高粘度溶媒と、ジメチルカーボネート、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の低粘度溶媒を組み合わせて用いることが好ましい。
とりわけ、γ−ブチロラクトンは高温保存安定性が優れているので特に好ましい。
【0019】
さらに、本発明の第一の態様においては、非水電解液は、1,2−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン、1,2−ナフトキノン、9,10−アントラキノン、1,4−アントラキノン、アセナフテンキノン、及び1,2−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン、1,2−ナフトキノン、9,10−アントラキノン、1,4−アントラキノン、アセナフテンキノン又は1,4−ベンゾキノンの誘導体、からなる群から選択される有機化合物を少なくとも1種含有する。誘導体は、通常、1,2−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン、1,2−ナフトキノン、9,10−アントラキノン、1,4−アントラキノン、アセナフテンキノン又は1,4−ベンゾキノンのいずれかにおいて、少なくとも1個の水素原子が置換基により置換された置換誘導体である。
【0020】
置換誘導体において、導入される置換基としては、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、フェニル基、シアノ基、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシ基又はスルホニル基が挙げられる。好ましい置換基は、電池の性能安定性、還元反応電位の点からハロゲン原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基である。
【0021】
置換誘導体において、導入される各置換基は、分子量が好ましくは200以下であり、より好ましくは100以下である。また、導入される置換基の個数としては好ましくは4個以下であり、より好ましくは2個以下である。置換基の分子量が大きすぎる、又は導入される置換基が多すぎると、電解液への溶解性の低下、放電時の反応応答性の低下を生じうる。
【0022】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素が挙げられ、好ましくはフッ素である。
【0023】
低級アルキル基としては、炭素数1以上、4以下のアルキル基が挙げられる。これらは、直鎖状でも、分岐状でもよい。好ましくは、メチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチルである。
【0024】
低級アルコキシ基としては、炭素数1以上、4以下のアルコキシ基が挙げられる。これらのアルキル基部分は、直鎖状でも、分岐状でもよい。好ましくは、メトキシ、エトキシである。
【0025】
本発明で用いられる前記有機化合物の具体例としては次のものが挙げられる。
1,2−ベンゾキノン及び3−tert−ブチル−5−メトキシ−1,2−ベンゾキノン、4−tert−ブチル−5−メトキシ−1,2−ベンゾキノン、3,5−ジ−tert−ブチル−1,2−ベンゾキノン、4−メチル−1,2−ベンゾキノン、3,6−ジ−tert−ブチル−1,2−ベンゾキノン、4,5−ジメトキシ−1,2−ベンゾキノン等の1,2−ベンゾキノン誘導体。1,4−ナフトキノン及び2−メチル−1,4−ナフトキノン、6−メチル−1,4−ナフトキノン、6,7−ジメチル−1,4−ナフトキノン、2−メトキシ−1,4−ナフトキノン、2−メチル−3−メトキシ−1,4−ナフトキノン、5−メトキシ−1,4−ナフトキノン、2,3−ジエトキシ−1,4−ナフトキノン、2,7−ジ−tert−ブチル−1,4−ナフトキノン、2,6−ジ−tert−ブチル−1,4−ナフトキノン等の1,4−ナフトキノン誘導体。1,2−ナフトキノン及びその誘導体。9,10−アントラキノン及び2−エチル−9,10−アントラキノン、2−tert−ブチル−9,10−アントラキノン、2−メチル−9,10−アントラキノン、1,4−ジメチル−9,10−アントラキノン、2−メトキシ−9,10−アントラキノン、1−メトキシ−9,10−アントラキノン、1,4−ジフルオロ−9,10−アントラキノン、1,4−ジメトキシ−9,10−アントラキノン、1−メトキシ−2−メチル−9,10−アントラキノン、2,6−ジメトキシ−9,10−アントラキノン、1,2−ジメチル−9,10−アントラキノン、1,5−ジメトキシ−9,10−アントラキノン、2,7−ジメチル−9,10−アントラキノン、2,3,6,7−テトラメチル−9,10−アントラキノン等の9,10−アントラキノン誘導体。1,4−アントラキノン及び9−メトキシ−1,4−アントラキノン等の1,4−アントラキノン誘導体。アセナフテンキノン及びその誘導体。
【0026】
なかでも、電池性能の安定性の面から、1,4−ナフトキノン及びその誘導体が好ましく、誘導体としては、特に2−メチル−1,4−ナフトキノン、6−メチルー1,4−ナフトキノン、2−メトキシ−1,4−ナフトキノン、5−メトキシ−1,4−ナフトキノンが好ましい。
【0027】
また、1,4−ベンゾキノン誘導体の具体例としては、2,6−ジ−tert−ブチル−1,4−ベンゾキノン、メチル−1,4−ベンゾキノン、2,5−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2−フェニル−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5,6−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2−イソプロピル−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−ベンゾキノン、2,6−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2,6−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2,3,5−トリメチル−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、2,3,5−トリメトキシ−1,4−ベンゾキノン、2,3,5,6−テトラメトキシ−1,4−ベンゾキノン、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−1,4−ベンゾキノン、2,5−ジ−tert−ブチル−1,4−ベンゾキノン、2,3,5,6−テトライソプロピル−1,4−ベンゾキノン、2−メトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2,5−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2−tert−ブチル−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2−tert−ブチル−1,4−ベンゾキノン、2,5−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、メトキシ−1,4−ベンゾキノン等が挙げられる。
【0028】
なかでも、メチル−1,4−ベンゾキノン、2,5−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2,6−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−ベンゾキノン、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−ベンゾキノンが好ましい。
【0029】
非水電解液に含有される前記有機化合物の濃度範囲の下限は通常、非水電解液100重量%中に0.1重量%以上である。この範囲を下回ると、急速放電時の電圧低下の改善が不十分である。濃度範囲は、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上である。濃度範囲の上限は通常10重量%以下である。この範囲を上回ると急速放電特性以外の電池特性に悪影響を与える。濃度範囲は、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0030】
また、本発明の第二の態様においては、非水電解液は、γ−ブチロラクトンにLiBF4を1モル/リットルの濃度で溶解した溶液に、1.0重量%の濃度で含有させた場合に、還元電位を2.5V以上とし、かつ、電極面積当たりの還元反応電気量を1000mC/cm以下とする有機化合物を少なくとも1種含有する。還元電位は、リニアスイープボルタンメトリー法によって測定した値であり、具体的には、有機化合物を含有させた溶液を、底面部分のみが露出した1.6mmφの白金を作用極、リチウム金属を参照極、ステンレスの板を対極として、ガラスフィルターで作用極側と対極側とが区切られたH型セルに入れ、25℃で作用極の電位を自然電位より還元側(卑な側)に5mV/秒の掃引速度で掃引し、このとき−0.5mA/cm2の電流密度が流れ出す電位を還元電位とする。また、電極面積当たりの還元反応電気量は、前記リニアスイープボルタンメトリー法において、自然電位より0.2Vまで電位を掃引した際に流れた電気量の絶対値を作用極の底面面積で割ったものとする。
【0031】
このような有機化合物を含有する非水電解液を用いて一次電池を構成すると、非水電解液中の前記有機化合物が、固体である正極活物質よりも、電子を受け取る反応が早く、かつ、放電時の正極電位と近い電位で還元されるため、大電流放電時に起こる過電圧を小さくし、電圧低下を抑制しているものと考えられる。過電圧の改善の点から、放電時の正極電位よりも低くなりすぎないために、還元電位は2.5V以上、例えば2.5〜3.5Vであり、反応性が高くなりすぎて電池性能の低下が生ずることを抑制するために、電極面積当たりの還元反応電気量が1000mC/cm以下、例えば50〜700mC/cmである。
【0032】
具体的な有機化合物としては、第一の態様の有機化合物が挙げられるが、これらに限定されない。有機化合物の非水電解液における濃度範囲の下限は通常、非水電解液100重量%中に0.1重量%以上である。この範囲を下回ると、急速放電時の電圧低下の改善が不十分である。濃度範囲は、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上である。また、濃度範囲の上限は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。範囲を上回ると急速放電特性以外の電池特性に悪影響を与える。
【0033】
本発明の一次電池用非水電解液は、いずれの態様においても、必要に応じて、他の成分を更に含有することができる。他の成分としては、例えば、電池の活物質表面に被膜を形成するための各種の添加剤が挙げられる。このような被膜形成添加剤としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、プロパンサルトン、エチレンサルファイト、安息香酸エステル類、芳香族ジカルボン酸エステル類等が挙げられる。
【0034】
本発明はまた、還元電位が2.5V以上であり、かつ、電極面積当たりの還元反応電気量が1000mC/cm以下である、一次電池用非水電解液に関する。還元電位は、リニアスイープボルタンメトリー法によって測定した値であり、具体的には、前記非水電解液を底面部分のみが露出した1.6mmφの白金を作用極、リチウム金属を参照極、ステンレスの板を対極として、ガラスフィルターで作用極側と対極側とが区切られたH型セルに入れ、25℃で作用極の電位を自然電位より還元側(卑な側)に5mV/秒の掃引速度で掃引し、このとき−0.5mA/cm2の電流密度が流れ出す電位を還元電位とする。また、電極面積当たりの還元反応電気量は、前記リニアスイープボルタンメトリー法において、自然電位より0.2Vまで電位を掃引した際に流れた電気量の絶対値を作用極の底面面積で割ったものとする。
【0035】
このような非水電解液は、前記した溶質と非水溶媒を適宜選択し、調製した電解液に、さらに第一の態様又は第二の態様において記載した有機化合物を配合することによって得られる。
【0036】
本発明はまた、本発明の一次電池用非水電解液を用いた、正極と金属リチウム又はリチウム合金からなる負極とを有する非水電解液一次電池に関する。
【0037】
正極は通常、活物質と、結着剤及び導電材とを含有する。活物質は、例えば、MnO2、フッ化黒鉛又はフッ化炭素{(CF)n;0<X≦1}、V25、CuO、CuS、FeS2、TiS2、Ag2CrO4、MoO3、Bi23、Bi2Pb25、Cu4O(PO42等が挙げられる。なかでもフッ化黒鉛又はフッ化炭素{(CF)n;0<X≦1}が高温保存安定性が良好であり、特に好ましい。
【0038】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブダジエンゴム等が挙げられる。導電材としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、粉末状のニッケル、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼のような金属粉末等が挙げられる。
【0039】
正極を製造する方法については、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、活物質に、必要に応じて結着剤、増粘剤、導電材、溶媒等を加えてスラリー状とし、集電体の基板に塗布し、乾燥させることにより製造することができる。また、該活物質をそのままロール成形してシート電極としてもよく、圧縮成形によりペレット電極とすることもできる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。
【0040】
負極には、金属リチウム又はリチウム合金が用いられる。リチウム合金としては例えば、Li−Al、Li−Si、Li−Sn、Li−NiSi、Li−Pb等が挙げられる。負極を製造する方法については、特に制限はなく、例えば、金属リチウム又はリチウム合金のシートを所望の大きさに打ち抜くことにより製造することができる。
【0041】
電極に使用できる集電体としては、正極集電体として、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス等の金属又は合金、好ましくはアルミニウム及びその合金が挙げられ、負極集電体として、銅、ニッケル、ステンレス等の金属又は合金、好ましくは銅が挙げられる。
【0042】
一次電池は通常、正極と負極の間にセパレータが介装される。使用するセパレータの材質や形状については、特に制限はないが、電解液に対して安定で、保液性の優れた材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド等を原料とする多孔性シート又は不織布等を用いるのが好ましい。
【0043】
一次電池を製造する方法については、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができる。
【0044】
また、一次電池の形状についても、特に制限はなく、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が使用可能である。
【実施例】
【0045】
本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
下記例において、リニアスイープボルタンメトリー評価は以下のように行った。
(リニアスイイープボルタンメトリー評価)
各例の電解液を、底面部分のみが露出した1.6mmφの白金を作用極、リチウム金属を参照極、ステンレスの板を対極として、ガラスフィルターで作用極側と対極側とが区切られたH型セルに入れた。次いで、25℃で作用極の電位を自然電位より還元側(卑な側)に5mV/秒の掃引速度で0.2Vまで掃引した。
【0047】
(還元電位)
前記サイクルボルタンメトリー評価において、−0.5mA/cmの電流密度に達したときの電位を還元電位とした。
【0048】
(電極面積当たりの還元反応電気量)
前記サイクルボルタンメトリー評価において、0.2Vまで電位を掃引した際に流れた電気量の絶対値を作用極の底面面積で割った値とした。
【0049】
下記例において、電池の作製及び評価は以下のように行った。
(正極の作製)
正極活物質としてのフッ化黒鉛80重量%と、導電材としてのアセチレンブラック10重量%と、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン10重量%とからなる混合物を混練した後、50kgf/cm2の圧力で加圧成形して直径12mm、厚さ0.5mmの円盤状の成形体とし、これを正極として用いた。
【0050】
(負極の作製)
厚さ0.5mmの金属リチウムシートを直径14mmに打ち抜いて円盤状とし、これを負極として用いた。
【0051】
(電池の組立)
アルゴン雰囲気のドライボックス内で、2032型ステンレス製コインセルケースを使用して、リチウム一次電池を作成した。即ち、正極缶の上に正極を置き、その上にセパレータとしてポリプロピレン不織布を置き、ポリプロピレン製ガスケットで押さえた後、負極を置き、厚み調整用のスペーサーを置いた後、各例の電解液を加え電池内に十分しみこませた。最後に、負極缶を載せて電池を封口することにより、リチウム一次電池を得た。なお、実施例及び比較例における電池の容量は、放電下限2.0Vで約40mAhになる設計とした。
【0052】
(電池の評価)
電池評価は、大電流放電試験を実施した。25℃で4mAの定電流放電を行い、放電開始直後の電池電圧を比較した。電池電圧が高いものは、過電圧による電圧低下が小さいことを意味し、大電流放電時でも機器を安定に動作することができる。
【0053】
(例1)
非水電解液として、γ−ブチロラクトンに、1モル/リットルの濃度でLiBFを溶解させた溶液に、1,4−ナフトキノンを1重量%の濃度で含有させたものを用いた。前記のリニアスイープボルタンメトリー評価を行った。また、前記方法により製造したリチウム一次電池の大電流放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0054】
(例2)
非水電解液として、γ−ブチロラクトンに、1モル/リットルの濃度でLiBFを溶解させた溶液に、2−メチル−1,4−ナフトキノンを1重量%の濃度で含有させたものを用いた。実施例1と同様にして、リニアスイープボルタンメトリー評価、リチウム一次電池の作製及び大電流放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0055】
(例3)
非水電解液として、γ−ブチロラクトンに、1モル/リットルの濃度でLiBFを溶解させた溶液に、2,5−ジメチル−1,4−ベンゾキノンを1重量%の濃度で含有させたものを用いた。実施例1と同様にして、リニアスイープボルタンメトリー評価、リチウム一次電池の作製及び大電流放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(例4)
非水電解液として、γ−ブチロラクトンに、1モル/リットルの濃度でLiBFを溶解させた溶液に、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−ベンゾキノンを1重量%の濃度で含有させたものを用いた。実施例1と同様にして、リニアスイープボルタンメトリー評価、リチウム一次電池の作製及び大電流放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0057】
(例5)
非水電解液として、γ−ブチロラクトンに、1モル/リットルの濃度でLiBFを溶解させた溶液に、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−ベンゾキノンを1重量%の濃度で含有させたものを用いた。実施例1と同様にして、リニアスイープボルタンメトリー評価、リチウム一次電池の作製及び大電流放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(例6)
非水電解液として、γ−ブチロラクトンに、1モル/リットルの濃度でLiBFを溶解させ、その後何も含有させないものを用いた。実施例1と同様にして、リニアスイープボルタンメトリー評価、リチウム一次電池の作製及び大電流放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(例7)
非水電解液として、γ−ブチロラクトンに、1モル/リットルの濃度でLiBFを溶解させた溶液に、1,4−ベンゾキノンを1重量%の濃度で含有させたものを用いた。実施例1と同様にして、リニアスイープボルタンメトリー評価、リチウム一次電池の作製及び大電流放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(例8)
非水電解液として、γ−ブチロラクトンに、1モル/リットルの濃度でLiBFを溶解させた溶液に、プロパンサルトンを1重量%の濃度で含有させたものを用いた。実施例1と同様にして、リニアスイープボルタンメトリー評価、リチウム一次電池の作製及び大電流放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
本発明の非水電解液を用いた例1〜5の電池は、大電流放電試験の電圧が十分高いため、過電圧による電圧低下が抑制され、大電流放電時でも機器を安定に動作することができることがわかる。比較例である例6〜8の電池は、大電流放電試験の電圧が低く、過電圧による電圧低下の抑制が不十分であることがわかる。特に、例7については、リニアスイープボルタンメトリー評価において、電極面積当たりの還元反応電気量が大きく、添加した有機物の反応性の高さが影響していると考えられる。また例8については、リニアスイープボルタンメトリー評価において、還元電位が2.5V以上でないため、大電流放電時での過電圧抑制作用が得られなかったものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、非水電解液一次電池において、大電流放電時に電圧低下が少なく、安定して動作することを可能とする非水電解液を提供することができ、産業上の有用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と金属リチウム又はリチウム合金からなる負極とを有する一次電池用の非水電解液であって、有機化合物を少なくとも1種含有し、
ここで、該有機化合物は、該有機化合物を1.0重量%含有したLiBF4を1モル/リットルの濃度で溶解したγ−ブチロラクトン溶液が、2.5V以上の還元電位を有し、かつ、1000mC/cm以下の電極面積当たりの還元反応電気量を有する、という条件を満たすものであり、
還元電位は、底面部分のみが露出した1.6mmφの白金を作用極、リチウム金属を参照極、ステンレス板を対極として、ガラスフィルターで作用極側と対極側とが区切られたH型セルに、該溶液を入れ、25℃で作用極の電位を還元側に5mV/秒の掃引速度で掃引し、このとき−0.5mA/cmの電気密度が流れ出す電位であり、
電極面積当たりの還元反応電気量は、底面部分のみが露出した1.6mmφの白金を作用極、リチウム金属を参照極、ステンレス板を対極として、ガラスフィルターで作用極側と対極側とが区切られたH型セルに、該溶液を入れ、25℃で自然電位より0.2Vまで電位を掃引した際に流れた電気量の絶対値を作用極の底面面積で割った値である、
ことを特徴とする、一次電池用非水電解液。
【請求項2】
有機化合物を、非水電解液100重量%中に、0.1重量%以上、10重量%以下含有する、請求項1記載の一次電池用非水電解液。
【請求項3】
非水溶媒として、γ−ブチロラクトンを含有する、請求項1又は2記載の一次電池用非水電解液。
【請求項4】
正極、金属リチウム又はリチウム合金からなる負極及び請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解液を少なくとも有する、非水電解液一次電池。
【請求項5】
前記正極の活物質が、フッ化黒鉛又は化学式{(CF)n;0<X≦1}で表されるフッ化炭素である、請求項4記載の非水電解液一次電池。
【請求項6】
正極と金属リチウム又はリチウム合金からなる負極とを有する一次電池用の非水電解液であって、
ここで、該非水電解液は、2.5V以上の還元電位を有し、かつ、1000mC/cm以下の電極面積当たりの還元反応電気量を有し、
還元電位は、底面部分のみが露出した1.6mmφの白金を作用極、リチウム金属を参照極、ステンレス板を対極として、ガラスフィルターで作用極側と対極側とが区切られたH型セルに、該非水電解液を入れ、25℃で作用極の電位を還元側に5mV/秒の掃引速度で掃引し、このとき−0.5mA/cmの電気密度が流れ出す電位であり、
電極面積当たりの還元反応電気量は、底面部分のみが露出した1.6mmφの白金を作用極、リチウム金属を参照極、ステンレス板を対極として、ガラスフィルターで作用極側と対極側とが区切られたH型セルに、該非水電解液を入れ、25℃で自然電位より0.2Vまで電位を掃引した際に流れた電気量の絶対値を作用極の底面面積で割った値である、
ことを特徴とする、一次電池用非水電解液。
【請求項7】
非水溶媒として、γ−ブチロラクトンを含有する、請求項6記載の一次電池用非水電解液。
【請求項8】
正極、金属リチウム又はリチウム合金からなる負極及び請求項6又は7記載の非水電解液を少なくとも有する、非水電解液一次電池。
【請求項9】
前記正極の活物質が、フッ化黒鉛又は化学式{(CF)n;0<X≦1}で表されるフッ化炭素である、請求項8記載の非水電解液一次電池。

【公開番号】特開2012−216562(P2012−216562A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151475(P2012−151475)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【分割の表示】特願2007−535541(P2007−535541)の分割
【原出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】