説明

一酸化炭素酸化触媒、その製造方法、及び一酸化炭素除去フィルター

【課題】 簡便に取り扱うことができ、常温でも触媒活性を発揮できる一酸化炭素酸化触媒を提供することを課題とする。また、取り扱いが簡便で常温でも触媒活性を発揮し得る一酸化炭素酸化触媒を製造できる一酸化炭素酸化触媒の製造方法を提供することを課題とする。また、該一酸化炭素酸化触媒を用いた一酸化炭素除去フィルターを提供することを課題とする。
【解決手段】 高比表面積担体に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物と貴金属微粒子とが担持されていることを特徴とする一酸化炭素酸化触媒を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素酸化触媒、その製造方法、及び一酸化炭素除去フィルターに関するものであり、詳しくは、常温でも一酸化炭素を水蒸気と炭酸ガスに酸化することができる一酸化炭素酸化触媒、その製造方法、及び該一酸化炭素酸化触媒を用いた一酸化炭素除去フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素は、血中のヘモグロビンと結合しやすい性質を有しており、吸入により血液中の一酸化炭素濃度が増大すると一酸化炭素中毒を引き起こすことがある。軽度の一酸化炭素中毒の症状としては頭痛、吐き気、嘔吐、体調不良等があり、重度の場合には死に至ることもある。
【0003】
従来、このような事故を防ぐための一酸化炭素除去触媒としては、酸化アルミニウム表面に貴金属を担持させたものが知られているが、この種の触媒は、常温で活性が極めて低いため、触媒自体又はガスの温度を比較的高くしなければならず、火災用や防毒マスクに使用できない。
【0004】
また、特殊活性炭やゼオライトなどの吸着剤で吸着除去する方法を用いる触媒も知られているが、吸着量が飽和に達する時間が極めて短いことが課題となっている。
さらに、酸化銅−酸化マンガン系触媒も知られているが、斯かる触媒は、比較的低温において活性が低いため、一酸化炭素や水分などの吸着熱で触媒を昇温しつつ用いられるものであり、寿命が短く長期間の連続使用ができないという問題がある。
【0005】
ところで、近年、一酸化炭素酸化触媒としては、例えば、平均粒子径が25nm以下の金粒子が金属酸化物に担持された金ナノ粒子触媒とアルカリ性多孔質体とを含有してなる常温触媒が開示されている(特許文献1)。また、アルミナ担体に触媒成分として酸化バナジウム、塩化銅及び塩化パラジウムを担持させてなる常温触媒が開示されている(特許文献2)。さらに、酸化セリウムにパラジウムまたは白金を担持させてなる常温触媒が開示されている(特許文献3)。これら特許文献には、一酸化炭素酸化触媒がいずれも一酸化炭素を常温で効率よく酸化除去することができると記載されている。
【0006】
しかしながら、これら特許文献に記載の一酸化炭素酸化触媒のなかには、長時間使用したときの触媒の劣化は少ないものの、使用前に水素雰囲気で還元処理をしなければならず、簡便に取り扱うことが困難なものがある。
【0007】
一方、一酸化炭素酸化触媒ではないものの、高いエチレン分解活性を示す触媒が開示されている(特許文献4)。ところが、特許文献4に開示されているエチレン分解触媒をそのまま用いても、常温で一酸化炭素を酸化除去することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−188243号公報
【特許文献2】特開2007−160260号公報
【特許文献3】特開2008−264737号公報
【特許文献4】特開2007−229559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点等に鑑み、簡便に取り扱うことができ、常温でも触媒活性を発揮できる一酸化炭素酸化触媒を提供することを課題とする。また、取り扱いが簡便で常温でも触媒活性を発揮し得る一酸化炭素酸化触媒を製造できる一酸化炭素酸化触媒の製造方法を提供することを課題とする。また、該一酸化炭素酸化触媒を用いた一酸化炭素除去フィルターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、できるだけ低温で一酸化炭素の酸化を実現させるためには、触媒の比表面積を可能な限り大きくする必要があると考えた。その理由は、この触媒の表面に一酸化炭素が吸着すると、触媒表面の一酸化炭素が吸着している部分に触媒内部から活性な酸素が供給され、それによって酸化分解が促進されると考えられることによる。
【0011】
そこで、本発明者らは、セリウムを含有する複合酸化物の酸素放出特性に着目し、活性アルミナ、活性シリカ、ゼオライト、メソ多孔体などの高比表面積担体表面上に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物、および白金、パラジウム、金、銀などの貴金属微粒子を担持させてなる触媒を考案した。
【0012】
すなわち、本発明の一酸化炭素酸化触媒は、活性アルミナ、活性シリカ、ゼオライト、メソ多孔体などの高比表面積担体表面上に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物、および白金、パラジウム、金、銀などの貴金属微粒子を担持させてなるものである。斯かる触媒は、比表面積が比較的大きく、常温であっても一酸化炭素の酸化を発揮することができるものである。
【0013】
前記一酸化炭素酸化触媒においては、触媒中に含まれる貴金属の割合が、好ましくは、触媒全体の重量に対して0.1重量%以上12重量%以下であり、かつセリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物の割合が、10重量%以上30重量%以下である。かかる酸化触媒は、好ましくは、一酸化炭素を酸化できる温度が常温以下にあるものである。
【0014】
また、本発明者は、触媒の製造時に凝集防止剤を加えると比表面積が増加することを見いだした。また、凝集防止剤の添加割合、得られる触媒の比表面積、及び一酸化炭素の酸化温度の相関関係について鋭意検討し、特定の条件及び製造条件を満たしたときに触媒における一酸化炭素の酸化性能が著しく促進され、触媒が一酸化炭素を常温で速やかに酸化できるものになることを見いだした。
【0015】
すなわち、本発明の一酸化炭素酸化触媒の製造方法は、該一酸化炭素酸化触媒の比表面積を大きくすべく、製造時に凝集防止剤を加えることを特徴とし、高比表面積担体、セリウム塩、ジルコニウム塩、ビスマス塩、凝集防止剤、及び溶媒を含む溶液から溶媒を除去して第1固形物を得る工程と、前記第1固形物を酸化性雰囲気下で焼成して中間焼成物を得る工程と、凝集防止剤で表面を被覆した貴金属微粒子の分散液と前記中間焼成物との混合物から溶媒を除去して第2固形物を得る工程と、酸化性雰囲気下で第2固形物を焼成する工程とを実施することを特徴とする。
【0016】
本発明の一酸化炭素除去フィルターは、通気性のある担体に上記の一酸化炭素酸化触媒が担持されていることを特徴とする。斯かる一酸化炭素除去フィルターは、常温においても触媒活性を発揮するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一酸化炭素酸化触媒は、取り扱いが簡便で常温でも触媒活性を発揮できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一酸化炭素酸化触媒における温度と一酸化炭素の浄化率との関係を示すグラフ。
【図2】一酸化炭素酸化触媒における温度と一酸化炭素の浄化率との関係を示すグラフ。
【図3】一酸化炭素酸化触媒における温度と一酸化炭素の浄化率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る一酸化炭素酸化触媒の実施形態について詳しく説明する。
【0020】
本実施形態の一酸化炭素酸化触媒は、高比表面積担体に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物と貴金属微粒子とが担持されているものである。
なお、本実施形態の一酸化炭素酸化触媒は、後述の製造方法によって製造され得るものである。
【0021】
前記一酸化炭素酸化触媒は、一酸化炭素や酸素と触媒の接触点を増やし、一酸化炭素の酸化活性をより向上させる観点から、比表面積が、好ましくは150m2/g以上、より好ましくは170m2/g以上であり、さらに好ましくは、200m2/g以上であることが望ましい。
【0022】
前記高比表面積担体としては、特に制限はないが、通常、多孔質担体が挙げられ、高比表面積の多孔質担体が好ましく、反応ガスが流通可能であるものよりが好ましい。また、反応ガスとの接触面積をできるだけ大きくするために、比表面積が200m2/g以上であるものが望ましい。詳しくは、比表面積が200m2/g以上の多孔質担体が好ましく、より詳しくは、比表面積が200m2/g以上の活性アルミナが好ましい。
【0023】
なお、本明細書において、比表面積は、窒素吸着を利用したBET法、具体的には、実施例に記載された方法によって測定された値をいう。
【0024】
前記高比表面積担体の材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、ゼオライト、ジルコニア、およびこれらの混合物が適している。なかでも、一酸化炭素の酸化活性を高くする点で、活性アルミナが好ましく用いられ、比表面積が大きいγ型の活性アルミナがさらに好ましく用いられる。
また、該担体の形状は、粉体状、粒状、ハニカム状、スポンジ状、マット状、織布状、板状、円筒状等の形状をとることができ、特に反応ガスとの接触面積が大きくなる粉体状もしくはメソ多孔体等の三次元網状構造体が好ましい。
【0025】
前記一酸化炭素酸化触媒には、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物が反応を促進する助触媒として加えられる。この助触媒がないと、十分な一酸化炭素の酸化分解活性が得られなくなるおそれがある。
【0026】
前記一酸化炭素酸化触媒において、「セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物」は、下記組成式(I)を満たす組成を有する単相からなる固溶体であることが望ましい。
【0027】
即ち、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物は、組成式(I):
Ce1-(x+y)ZrxBiy2-δ (I)
〔式中、x及びyは、互いに同一でも異なっていてもよく、0.1≦x≦0.3、0.1≦y≦0.3、0.05≦δ≦0.15を満たす任意の正の数を表す。〕
を満たす組成を有する、複合酸化物であることが望ましい。
【0028】
前記一酸化炭素酸化触媒に用いられる、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物の組成は、組成式(I)を満たすものが望ましく、所望の燃焼性に応じて、組成比が設定されうる。例えば、一酸化炭素の完全燃焼温度が室温以下である触媒を製造する場合には、前記一酸化炭素酸化触媒に用いられるセリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物の組成は、組成式(I)において、xの値が0.10〜0.20の範囲にあり、かつyの値が0.15〜0.25の範囲にある組成であることが好ましい。また、例えば、一酸化炭素の完全燃焼温度が室温より高い酸化物触媒を製造する場合には、前記複合酸化物の組成は、組成式(I)において、xの値が0.10〜0.20の範囲外、及び/又はyの値が0.15〜0.25の範囲外であることが好ましい。
【0029】
前記一酸化炭素酸化触媒に用いられる貴金属微粒子としては、特に制限はないが、通常、白金、パラジウム、金、銀などの貴金属ナノ粒子が挙げられる。なかでもその粒子径が2〜20nmのときに一酸化炭素の酸化活性が高くなる点から、その粒子径が2〜20nmのものが好ましく、より活性が高くなる点で白金微粒子がより好ましい。
【0030】
なお、本明細書において、前記粒子径は、粒度分布測定装置により直接測定された平均粒子径、あるいは、透過型電子顕微鏡、及び/又は走査型電子顕微鏡により直接観察測定され、二軸算術平均粒子径(貴金属粒子の最大径と最小径との和の平均値)により算出された値をいう。
【0031】
前記一酸化炭素酸化触媒に使用される貴金属微粒子の原料としては、市販の貴金属コロイド分散液が用いられる。コロイド分散液の代わりに、塩化白金酸、塩化パラジウム、塩化金酸、硝酸銀等の水溶液等を用いることもできるが、貴金属粒子を高分散状態で担持し、一酸化炭素の酸化活性を高くする点で、コロイド溶液が好ましく用いられる。
【0032】
また、触媒中における貴金属の割合は、特に制限はないが、高価な貴金属の使用量を最適にし、余分なコストをかけずに効率よく一酸化炭素を酸化するために、0.1〜12重量%、好ましくは5〜10重量%とするのがよい。
【0033】
前記一酸化炭素酸化触媒は、水蒸気存在下や加湿雰囲気で使用すると、その活性が向上するという特長がある。これは、通常の一酸化炭素の酸化反応(2CO+O2→2CO2)に加え、気相中に存在する一酸化炭素と水蒸気により、水性ガスシフト反応(CO+H2O→CO2+H2)が起こるためであると考えられる。従って、一酸化炭素の酸化活性をより向上させる観点から、前記一酸化炭素酸化触媒は、大気雰囲気下、及び/又は水蒸気存在下、及び/又は加湿雰囲気下にて使用されることが望ましい。
【0034】
また、前記一酸化炭素酸化触媒に、さらに他の物質(「微量物質」ともいう)を含ませることによって本発明の目的を向上させてもよい。前記微量物質としては、本発明の目的を向上させるものであればよく、特に限定されないが、例えば、マンガン、プラセオジム、イットリウム、テルビウム等が挙げられる。
【0035】
また、本明細書において、一酸化炭素の酸化活性は、U字型石英製反応器に評価サンプルを充填し、一酸化炭素が1%、空気が99%からなる混合ガスを流通させ、各温度において、一酸化炭素の炭酸ガスと水蒸気への転化率を、ガスクロマトグラフによって分析することにより評価される。一酸化炭素が、炭酸ガスと水蒸気へ完全燃焼する温度が低くなればなるほど、酸化活性が高いことを表す。
【0036】
次に、本実施形態の一酸化炭素酸化触媒の製造方法について説明する。
本実施形態の一酸化炭素酸化触媒の製造方法は、高比表面積担体、セリウム塩、ジルコニウム塩、ビスマス塩、凝集防止剤若しくは有機酸、及び溶媒を含む溶液から溶媒を除去して第1固形物を得る工程と、前記第1固形物を酸化性雰囲気下で焼成して中間焼成物を得る工程と、凝集防止剤で表面を被覆した貴金属微粒子の分散液と前記中間焼成物との混合物から溶媒を除去して第2固形物を得る工程と、酸化性雰囲気下で第2固形物を焼成する工程とを実施することを特徴とする。
【0037】
前記製造方法によって製造された一酸化炭素酸化触媒は、高比表面積担体表面上に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物、および白金、パラジウム、金、銀などの貴金属微粒子が担持されているものである。また、比較的大きい比表面積を有しているものである。
前記一酸化炭素酸化触媒は、例えば、すでに触媒化学の教科書等で公知となっている含浸法を利用することにより製造することができる。
【0038】
前記含浸法を利用した製造方法としては、例えば、所定の化合物(セリウム化合物、ジルコニウム化合物及びビスマス化合物)の酸溶液それぞれ、該化合物の水溶液それぞれ、又は該化合物のエタノール溶液それぞれを混合し、得られた混合物に高比表面積の多孔質担体粉末を添加し、さらに凝集防止剤を加えて撹拌した後、溶媒を留去し、得られた第1固形物を大気中などの酸化性雰囲気下で焼成して中間焼成物とし、次いで、この中間焼成物を、凝集防止剤で表面を被覆した貴金属微粒子分散液に加え、さらに純水を加えて室温で攪拌し、溶媒留去を行った後に乾燥させ第2固形物とし、大気中などの酸化性雰囲気下で該第2固形物を焼成して、所望の一酸化炭素酸化触媒を得る方法(以下、「含浸法1」ともいう)が挙げられる。
【0039】
また、前記含浸法を利用した製造方法としては、前記化合物の酸溶液それぞれ、該化合物の水溶液それぞれ又は該化合物のエタノール溶液それぞれを混合し、得られた混合物に高比表面積の多孔質担体粉末を添加し、さらに水溶性又はエタノール可溶性の有機酸を添加し、得られた産物から溶媒を留去し、得られた第1固形物(複合有機酸塩)を大気中などの酸化性雰囲気下で焼成して中間焼成物とし、次いで、この中間焼成物を、凝集防止剤で表面を被覆した貴金属微粒子分散液に加え、さらに純水を加えて室温で攪拌し、溶媒留去を行った後に乾燥させて第2固形物とし、大気あるいは酸化性雰囲気下で該第2固形物を焼成して、所望の一酸化炭素酸化触媒を得る方法(以下、「含浸法2」ともいう)等が挙げられる。
なお、前記化合物の酸溶液、該化合物の水溶液又は該化合物のエタノール溶液は、反応により、組成式(I)により表される組成からなる複合酸化物になりうる溶液である。
【0040】
前記含浸法を利用した合成において、用いられるセリウム化合物、ジルコニウム化合物、及びビスマス化合物としては、酸、水又はエタノールに可溶な化合物が挙げられる。
酸、水又はエタノールに可溶なセリウム化合物としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、硝酸セリウム、硝酸セリウムアンモニウム、塩化セリウム、硫酸セリウム、酢酸セリウム、クエン酸セリウム等が挙げられ、なかでも、入手が容易であり、安価であるという観点から、好ましくは、硝酸セリウムが望ましい。
酸、水又はエタノールに可溶なジルコニウム化合物としては、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム等が挙げられ、なかでも、入手が容易であり、安価であるという観点から、好ましくは、オキシ硝酸ジルコニウムが望ましい。
酸、水又はエタノールに可溶なビスマス化合物としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、硝酸ビスマス、オキシ硝酸ビスマス、塩化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマス、クエン酸ビスマス等が挙げられ、なかでも、入手が容易であり、安価であるという観点から、好ましくは、硝酸ビスマスが望ましい。
なお、含浸法を利用した製造方法では、これらの化合物のうち、水和物を形成しうる化合物については、その様態のまま使用してもよい。前記セリウム化合物、ジルコニウム化合物及びビスマス化合物は、高純度(例えば、99.9%以上)であることが望ましい。
【0041】
前記凝集防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、エチレングリコール、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、トレハロースおよびトレハロース2水和物、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。かかる凝集防止剤は、触媒の比表面積を大きくする観点から、ポリビニルピロリドンが好ましい。前記凝集防止剤は、水溶液として用いられ得る。
【0042】
前記有機酸としては、特に限定されないが、水溶性又はエタノール可溶性のものが挙げられ、具体的には、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。斯かる有機酸としては、触媒の比表面積を大きくする観点から、クエン酸が好ましい。なお、該有機酸は、錯体を形成させる錯形成剤としての機能をも有し得る。
【0043】
前記製造方法では、焼成過程において、目的とする一酸化炭素酸化触媒が生成しうる温度範囲内で、焼成温度をできるだけ低く制御することにより、比表面積のより大きい触媒を製造することができる。このようにして製造される一酸化炭素酸化触媒は、とりわけ、一酸化炭素や酸素との物理的接触点、および接触面積が大きくなるため、酸化活性の向上に有利である。
【0044】
前記製造方法における焼成温度は、特に限定されないが、300℃〜700℃が好ましい。焼成温度が300℃以上であることにより、凝集防止剤が不純物としてより残りにくくなり、また、700℃以下であることにより、貴金属微粒子がより粒成長しにくく、一酸化炭素の酸化活性の低下をより起こしにくい。焼成温度は、触媒中に含まれるセリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物助触媒の固溶体形成をより促進させる観点から、400℃以上、さらに好ましくは、450℃以上であり、より比表面積の大きい触媒を得る観点から、600℃以下、さらに好ましくは、550℃以下であることが望ましい。
前記一酸化炭素燃焼触媒を製造する場合の焼成は、かかる温度で数時間維持することにより行われる。また、焼成雰囲気条件は、セリウム化合物、及び/又はジルコニウム化合物、及び/又はビスマス化合物の還元を抑制し、一酸化炭素の燃焼性をより向上させる観点から、空気、酸素ガス、酸素とアルゴンとの混合ガス、酸素と窒素との混合ガス等の酸化性雰囲気下であることが望ましい。
【0045】
前記含浸法1においては、組成式(II)の組成を有する一酸化炭素酸化触媒を製造する場合、具体的には、例えば、次の工程を行なうこと等により一酸化炭素酸化触媒を製造できる。
3重量%Pt/16重量%Ce0.64Zr0.16Bi0.201.90/γ-Al23 (II)
(A)Ce(NO33水溶液と、ZrO(NO32水溶液と、Bi(NO33水溶液とを、大気雰囲気中、Ce:Zr:Bi(モル比)が64:16:20となるように混合する工程、
(B)前記工程(A)で得られた混合物に、高比表面積のγ−アルミナ粉末を添加する工程、
(C)前記工程(B)で得られた混合物に、さらに凝集防止剤としてポリビニルピロリドンを加え、80℃で6時間攪拌する工程、
(D)前記工程(C)で得られた産物から、ロータリーエバポレーター、蒸発乾固等により、溶媒を留去する工程、
(E)前記工程(D)で得られた第1固形物を、大気雰囲気中、300〜700℃で焼成する工程、
(F)前記工程(E)で得られた中間焼成物を、ポリビニルピロリドンで表面を被覆した白金微粒子分散液に添加し、さらに純水を加えて室温で6時間攪拌する工程、
(G)前記工程(F)で得られた産物から、ロータリーエバポレーター、蒸発乾固等により、溶媒を留去する工程、及び、
(H)前記工程(G)で得られた第2固形物を、大気雰囲気中、再度300〜700℃で焼成する工程。
【0046】
前記含浸法2において、組成式(II)の組成を有する一酸化炭素酸化触媒を製造する場合、該一酸化炭素酸化触媒は、具体的には、例えば、次の工程を行なうこと等により製造できる。
(a)Ce(NO33水溶液と、ZrO(NO32水溶液と、Bi(NO33水溶液とを、大気雰囲気中、Ce:Zr:Bi(モル比)が64:16:20となるように混合する工程、
(b)前記工程(a)で得られた混合物に、高比表面積のγ−アルミナ粉末を添加する工程、
(c)前記工程(b)で得られた産物に、クエン酸水溶液をさらに添加し、大気雰囲気中、80℃で6時間攪拌する工程、
(d)前記工程(c)で得られた産物から、ロータリーエバポレーター、蒸発乾固等により溶媒を留去する工程、
(e)前記工程(d)で得られた第1固形物を、大気雰囲気中、300〜700℃で焼成する工程、
(f)前記工程(e)で得られた中間焼成物を、ポリビニルピロリドンで表面を被覆した白金微粒子分散液に添加し、さらに純水を加えて室温で6時間攪拌する工程、
(g)前記工程(f)で得られた産物から、ロータリーエバポレーター、蒸発乾固等により、溶媒を留去する工程、及び、
(h)前記工程(g)で得られた第2固形物を、大気雰囲気中、再度300〜700℃で焼成する工程。
【0047】
本実施形態の一酸化炭素除去フィルターは、通気性のある担体に本実施形態の一酸化炭素酸化触媒が担持されているものであり、具体的には、例えば、本実施形態の一酸化炭素酸化触媒の製造方法によって製造された一酸化炭素酸化触媒が担持されているものである。
【0048】
前記一酸化炭素除去フィルターは、前記一酸化炭素酸化触媒を、ハニカム、繊維、不織布、セラミックフォーム、スポンジ、網、紙等の通気性のある担体に担持させてなり、フィルター内部に吸着された一酸化炭素を、常温で効率的かつ短期間に酸化させることができ、毒性ガスを除去することができるものである。
前記一酸化炭素酸化触媒は、触媒活性を発揮させるための加熱を特に必要としないことから、触媒を担持する担体の種類、形状については、通気性があること及び触媒の担持が可能であること以外は特に制限がない。
【0049】
前記一酸化炭素除去フィルターにおいては、例えば、圧力損失、通気量等の設計により、通気性のある担体を任意に選定し、触媒担持フィルターの作製において一般に採用されているウォッシュコート等によって前記一酸化炭素酸化触媒が通気性のある担体に担持されている。
【0050】
一酸化炭素は大気中に0.2%含まれると危険であると言われている。従来の貴金属を担持した金属酸化物触媒は一酸化炭素を酸化することが知られているが、該触媒においては、加熱状態、一般的には200℃以上に加熱して使用する必要がある。従って、このような触媒は、自動車の排ガス等のように加熱された状態の有害物含有空気に用いるか、又は加熱された有害物含有空気を用いる必要があり、一般家庭等における用途には不向きである。
【0051】
ところが、本実施形態の一酸化炭素酸化触媒を用いると、比較的低温であっても高効率に一酸化炭素が毒性のない二酸化炭素まで酸化され得ることが見出された。
即ち、本実施形態の一酸化炭素除去触媒又は一酸化炭素除去フィルターは、ガスレンジ、ガス風呂、ガス給湯器、石油ストーブ、石炭ストーブ、石油ファンヒーター、練炭等の不完全燃焼によって発生する一酸化炭素を酸化して二酸化炭素にするという効果を発揮する。
また、本実施形態の一酸化炭素酸化触媒又は一酸化炭素除去フィルターは、一酸化炭素ガスを酸化するという作用を発揮するので、燃料としてガス、石油又は石炭を用いる燃焼装置内、該燃焼装置の近傍、排ガス煙道中や、住居内、エアコン内、加湿器内、空気浄化装置内、自動車内、人体用マスク、緊急避難器具等においてその効果を有効に発揮することができる。
【0052】
本発明は、上記例示の一酸化炭素酸化触媒、その製造方法、及び一酸化炭素除去フィルターに限定されるものではない。また、本発明では、一般の一酸化炭素酸化触媒、その製造方法、及び一酸化炭素除去フィルターにおいて採用される種々の形態を、本発明の効果を損ねない範囲で採用することができる。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
(試験例1)
1mol/dm3濃度のCe(NO33水溶液1.6cm3と、0.1mol/dm3濃度のZrO(NO32水溶液4.0cm3、及び0.1mol/dm3濃度のBi(NO33水溶液5.0cm3、及び、超純水50cm3を混合し、これに市販の高活性アルミナ(デーケーファイン株式会社製AA−300、比表面積240m2/g)2.31gと、ポリビニルピロリドン(和光純薬製、ポリビニルピロリドンK25)0.582gとを加え、80℃で6時間攪拌した。得られた混合物から溶媒を留去し、一晩80℃で乾燥した後、得られた第1固形物を、大気中500℃にて1時間焼成した。次いで、焼成後の中間焼成物0.8gに、市販のポリビニルピロリドン保護白金コロイド溶液(田中貴金属工業株式会社製、PtPVPコロイドエタノール溶液、Pt4.0重量%)を表1記載の割合で混合し、さらに超純水20gを加え、室温で6時間撹拌した。得られた混合物から溶媒を留去し、一晩80℃で乾燥した後、得られた第2固形物を、大気中500℃にて4時間焼成することにより、一酸化炭素酸化触媒(触媒1)を製造した。
【0055】
(試験例2、試験例3)
ポリビニルピロリドン保護白金コロイド溶液の量を表1に記載されたものとした点以外は、試験例1と同様にして、それぞれ一酸化炭素酸化触媒(触媒2、触媒3)を製造した。
【0056】
(試験例4)
上記特許文献4に記載されている製造法に従い、市販の高活性アルミナ(岩谷化学工業株式会社製RK−30、比表面積130m2/g)を、大気中500℃で4時間焼成した。得られた焼成物4.41gを、0.1mol/dm3濃度のCe(NO33水溶液32cm3、0.1mol/dm3濃度のZrO(NO32水溶液8.0cm3、及び0.1mol/dm3濃度のBi(NO33水溶液10cm3の混合水溶液に分散し、室温で6時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、大気中80℃で一晩乾燥後、得られた粉末を大気中、500℃にて1時間焼成した。この焼成物1.46gを、市販のポリビニルピロリドン保護白金コロイド溶液(田中貴金属工業株式会社製、PtPVPコロイドエタノール溶液、Pt4.0重量%)0.93g、及び超純水20gと混合し、室温で6時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、大気中80℃で一晩乾燥後、得られた粉末を大気中、500℃にて4時間焼成することにより、一酸化炭素酸化触媒(触媒4)を製造した。
【0057】
【表1】

【0058】
<比表面積>
一酸化炭素酸化触媒(触媒1〜3)について、比表面積測定装置(マイクロメリティクス社製、商品名「トライスター3000」)を用いて、比表面積を求めた。その結果、前記一酸化炭素酸化触媒の比表面積は、表2のようになった。表2の結果から、触媒1〜3の一酸化炭素酸化触媒は、いずれも150m2/gより大きい比表面積を有していることがわかった。
【0059】
【表2】

【0060】
<一酸化炭素酸化活性>
内径10mmのU字型石英製反応器に触媒0.2gを充填し、前処理として、アルゴンガスを20cm3/minの流量で流し、200℃にて2時間加熱した。前処理後、ガス組成として一酸化炭素が1%、残部が空気からなる混合ガスを、67cm3/minとなる流量で流した。このときの空間速度は20000h-1であった。触媒を室温から70℃まで5℃間隔で昇温し、各温度において、出口ガスの一酸化炭素濃度をガスクロマトグラフ分析により測定し、式(1)により一酸化炭素の浄化率として計算した。なお、ガスの組成を示す%は全て容量%であり、触媒によって一酸化炭素は酸化分解し、水と二酸化炭素のみを生成することが、ガスクロマトグラフ分析によって確認された。
浄化率(%)=[CO]out/[CO]in×100 式(1)
ここで、[CO]outは反応器出口ガスの一酸化炭素濃度、[CO]inは反応器入口ガスの一酸化炭素濃度である。
【0061】
表1の触媒1〜3における一酸化炭素の浄化率曲線を図1に示す。いずれの触媒も60℃以下の温度で一酸化炭素を完全燃焼させており、高い酸化活性を有する触媒であることがわかった。とりわけ触媒2の組成、すなわち白金の担持率が7重量%の触媒が、格段に高い一酸化炭素酸化活性を示すことがわかる。
【0062】
製造した一酸化炭素酸化触媒のうち、最も高い活性を示した試験例2における触媒2について、0℃の飽和水蒸気存在下において、上述の一酸化炭素酸化活性を評価した。
水蒸気の存在下、及び非存在下における触媒2による一酸化炭素の浄化率曲線を図2に示す。試験例2の一酸化炭素酸化触媒は、水蒸気存在下においてその活性が著しく向上し、20℃で一酸化炭素を完全燃焼できることがわかった。
【0063】
試験例4の一酸化炭素酸化触媒についても、上述の一酸化炭素酸化活性を評価した。試験例2及び試験例4の一酸化炭素酸化触媒による一酸化炭素の浄化率曲線を図3に示す。
図3より、試験例4の一酸化炭素酸化触媒の一酸化炭素酸化活性は、試験例2で製造した触媒2の活性に及ばないことがわかる。また、上記の比表面積の測定方法により、試験例4の一酸化炭素酸化触媒の比表面積を測定したところ、119m2/gであり、試験例4の一酸化炭素酸化触媒は、他の一酸化炭素酸化触媒に比べ比表面積が小さいことがわかった。
【0064】
なお、本実施形態の一酸化炭素酸化触媒は、使用前に水素雰囲気で還元処理をしなくても効果を発揮するものであり、取り扱いが簡便である。
また、本実施形態の一酸化炭素酸化触媒は、パラジウムまたは白金の90%以上を粒子径2nm以上、5nm以下の微粒子状態に制御しなければならない従来の一酸化炭素酸化触媒と異なり、白金の粒子径を斯かる状態に制御せずとも効果を発揮するものである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の一酸化炭素酸化触媒は、空気中に存在する一酸化炭素を常温でも効率よく除去することができるので、火災現場や災害現場における消火活動や救助活動を始めとして、家庭や職場、公共場所の空気浄化処理、工場などの排ガス処理など、一酸化炭素を含む空気やガスの浄化に関連する分野で多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高比表面積担体に、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物と貴金属微粒子とが担持されていることを特徴とする一酸化炭素酸化触媒。
【請求項2】
触媒中に含まれる貴金属微粒子の割合が0.1〜12重量%であり、セリウム−ジルコニウム−ビスマス複合酸化物の割合が10〜30重量%である請求項1に記載の一酸化炭素酸化触媒。
【請求項3】
高比表面積担体、セリウム塩、ジルコニウム塩、ビスマス塩、凝集防止剤若しくは有機酸、及び溶媒を含む溶液から溶媒を除去して第1固形物を得る工程と、前記第1固形物を酸化性雰囲気下で焼成して中間焼成物を得る工程と、凝集防止剤で表面を被覆した貴金属微粒子の分散液と前記中間焼成物との混合物から溶媒を除去して第2固形物を得る工程と、酸化性雰囲気下で第2固形物を焼成する工程とを実施することを特徴とする一酸化炭素酸化触媒の製造方法。
【請求項4】
貴金属が白金である請求項3に記載の一酸化炭素酸化触媒の製造方法。
【請求項5】
凝集防止剤がポリビニルピロリドンである請求項3又は4に記載の一酸化炭素酸化触媒の製造方法。
【請求項6】
通気性のある担体に、請求項1又は2記載の一酸化炭素酸化触媒が担持されていることを特徴とする一酸化炭素除去フィルター。
【請求項7】
通気性のある担体に、請求項3〜5のいずれかに記載の製造方法で製造された一酸化炭素酸化触媒が担持されていることを特徴とする一酸化炭素除去フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−172849(P2010−172849A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19946(P2009−19946)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】