説明

一重項酸素生成装置

【課題】活性酸素のうち一重項酸素を安定して生成できる一重項酸素生成装置を提供すること。
【解決手段】本発明にかかる一重項酸素生成装置1は、少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有した光である1270nmにピークを有するレーザ光Lを発するレーザダイオード2を備え、レーザダイオード2は、酸素分子(O)11に少なくとも1270nmを含む光を発することによって、活性酸素のうち長寿命であるΔ(0)の一重項酸素12を生成するため、活性酸素のうち一重項酸素を安定して生成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一重項酸素を生成する一重項酸素生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、通常の酸素分子(O)よりも活性化された状態の活性化酸素を発生させ、この活性化酸素を用いて、薬効検査処理などを行なっていた。この活性酸素を発生させる方法として、酸化チタンへ紫外光を照射する方法や過酸化水素または次亜塩素酸を用いた化学反応による方法などがある(非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】社団法人 日本化学会編,「活性酸素種の化学〔季刊 化学総説No.7〕」,初版,学会出版センター,1990年4月,p.29−36
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した薬効検査処理は長時間要する場合がある。しかしながら、従来の方法では、活性酸素を生成することはできるものの、寿命が数秒程度と大変短い活性酸素しか生成できなかったため、殺菌処理や薬効検査処理を行なうためには、過酸化水素と次亜塩素酸などの化学材料の供給による短時間の反応時間中に行なうか、供給を継続して活性酸素を生成し続けるしかなかった。
【0005】
本発明は、活性酸素のうち一重項酸素を安定して生成できる一重項酸素生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかる一重項酸素生成装置は、少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有した光を発する発光手段を備え、前記発光手段は、酸素分子に前記少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有した光を発することによって一重項酸素を生成することを特徴とする。
【0007】
また、この発明にかかる一重項酸素生成装置は、前記発光手段は、前記酸素分子に少なくとも1270nmを含む光を発することによって一重項酸素を生成することを特徴とする。
【0008】
また、この発明にかかる一重項酸素生成装置は、前記発光手段は、1270nmにピークを有する光を前記酸素分子に発することを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかる一重項酸素生成装置は、前記発光手段は、前記少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有したレーザ光を前記酸素分子に発することを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる一重項酸素生成装置は、前記酸素分子を供給する酸素供給手段をさらに備え、前記発光手段は、前記酸素供給手段による酸素供給中または酸素供給後に前記前記少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有した光を発することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一重項酸素生成装置は、少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有した光を発する発光手段を備え、発光手段は、酸素分子に少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有した光を発することによって、活性酸素のうち長寿命である一重項酸素を生成するため、活性酸素の一種である一重項酸素を安定して生成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。
【0013】
図1は、本実施の形態にかかる一重項酸素生成装置の構成を示す図である。図1に示すように、本実施の形態にかかる一重項酸素生成装置1は、所定帯域の波長のレーザ光を発するレーザダイオード2、レーザダイオード2が発したレーザ光を伝送するファイバ3、ファイバ3から伝送されたレーザ光の出射口を有する出射管4、生成した一重項酸素による反応を用いて処理される処理対象物13が設置される設置機構14に酸素供給管16を介して酸素分子(O)11を供給する酸素供給機構15、一重項酸素生成装置の各構成部位を制御する制御部5、一重項酸素生成装置の処理動作に要する諸情報や製造処理に対する指示情報等を外部から取得する入力部6、および、処理結果などの諸情報を出力する出力部6を備える。制御部5は、レーザダイオード2のレーザ光の出射や出力を制御する。
【0014】
レーザダイオード2は、1270nmをピークとするレーザ光Lを発し、レーザダイオード2が発したレーザ光は、ファイバ3および出射管4を介して、設置機構14内の酸素分子(O)11に到達する。
【0015】
ここで、酸素分子は、所定のエネルギーを吸収することによって、基底状態(三重項酸素:Σ(0)から励起状態の一重項酸素になる。具体的には、図2に示すように、酸素分子が、基底状態から、反結合性の軌道の不対電子1個がスピンの向きを変えたΣ(0)の一重項酸素になるためには、1.63eVのエネルギーが必要となる。たとえば、1.63eVに対応する762nmの波長の光が酸素分子に照射されることによって、酸素分子が励起され、Σ(0)の一重項酸素が生成する。
【0016】
また、酸素分子が、基底状態から、反結合性の軌道の不対電子が別の軌道に入って該別の軌道に存在した異なるスピンの不対電子と対になって互いのスピンを打ち消すようになったΔ(0)の一重項酸素になるためには、0.98eVのエネルギーが必要となる。たとえば、0.98eVに対応する1270nmの波長の光が酸素分子に照射されることによって、酸素分子が励起され、Δ(0)の一重項酸素が生成する。そして、図3の(1)式に示すように、酸素分子(O2)に1270nmの波長の光を照射することによって、Δ(0)の一重項酸素()が生成する。
【0017】
この一重項酸素は、通常の酸素分子(O)よりも活性化された反応性に富む活性化酸素の一種であり、たとえば、この活性化酸素の一種である一重項酸素を用いて処理対象物13の特性を変化させることができる。
【0018】
そして、このΣおよびΔ(0)の一重項酸素のうち、Σ(0)の一重項酸素の寿命が7〜12秒と短い。これに対し、Δ(0)の一重項酸素の寿命は、数分から数十分と格段に長い。すなわち、Δ(0)の一重項酸素は、一度生成されると、真空中では数分から数十分と長時間の間、また、溶液中では数μsecの間、安定して存在することができる。
【0019】
本実施の形態においては、図1に示すように、酸素分子(O)に1270nmの波長のレーザ光を照射することによって、活性化酸素の一種である一重項酸素のうち、寿命が格段に長いΔ(0)の一重項酸素の酸素を生成している。すなわち、一重項酸素生成装置1においては、レーザダイオード2は、酸素供給機構15から供給された酸素分子(O)に、0.98eVのエネルギーに対応する1270nmの波長のレーザ光Lを発する。この結果、酸素分子(O)は励起され、長寿命のΔ(0)の一重項酸素()12が生成される。このとき、制御部5は、Δ(0)の一重項酸素の生成量、生成領域および生成時間に対応させて、レーザダイオード2の出力を制御するとともに、レーザダイオード2のスポット径を調整する。なお、生成したΔ(0)の一重項酸素()12は、処理対象物13に対する所定の反応を行なっている。
【0020】
このように、本実施の形態にかかる一重項酸素生成装置1では、レーザダイオード2から1270nmの波長のレーザ光Lを酸素分子に照射することによって、長寿命のΔ(0)の一重項酸素を発生させているため、活性酸素の一種である一重項酸素を安定して生成することができる。
【0021】
また、本実施の形態にかかる一重項酸素生成装置1によれば、過酸化水素や次亜塩素酸といった化学薬品を用いずとも、酸素分子に1270nmの波長のレーザ光Lを照射するだけで長寿命の一重項酸素を生成できるため、簡易な方法で安定した一重項酸素を生成することができる。
【0022】
また、本実施の形態にかかる一重項酸素生成装置1によれば、酸素分子に1270nmの波長のレーザ光Lを照射するだけで安定した一重項酸素を生成できるため、周囲の環境によらず簡易に安定した一重項酸素を生成することができる。
【0023】
また、本実施の形態にかかる一重項生成装置1によれば、酸素供給機構15の酸素供給量および酸素供給時間、酸素分子に発するレーザ光Lの出力、照射位置および発光時間を調整することによって、所望の量の一重項酸素を所望の位置に所望の間、柔軟に生成することができる。この場合、制御部5は、レーザダイオード2が、酸素供給機構15による酸素分子供給中または酸素分子供給後に1270nmの波長のレーザ光Lを発するように制御することによって、酸素分子の一重項酸素化を効率的に進めることができる。
【0024】
このように、本実施の形態においては、簡易な方法で長寿命の一重項酸素を安定して生成することができるため、たとえば、酸化防止剤などの薬効を検査する測定装置に応用できる。このような測定装置は、たとえば図4の測定装置1aのように、酸化防止剤などの被測定サンプル13aの下方に光化学プローブMCLA(化学名:2−メチル−6−(4−メトキシ)フェニル−3,7−ジヒドロイミダゾ[1,2−a]ピラジン−3−オン:ウミホタルルシフェリン誘導体)17を有するとともに、光化学プローブMCLA17から発生した蛍光L1の発光強度を検出する測定機構18を備える。測定機構18は、酸素供給機構15によって供給された酸素分子へのレーザ光L照射による一重項酸素生成期間、光化学プローブMCLA17からの蛍光強度を測定し、制御部5aは、測定機構18における発光強度測定値の経時的変化をもとに、被測定サンプル13の薬効を検出する。この測定装置1aが生成するΔの一重項酸素は一度生成すれば数分から数十分励起状態を維持できるとともに、酸素分子11へのレーザ光Lの照射を継続すれば一重項酸素12を生成し続けることが可能であるため、被測定サンプル13aに対する測定処理を長時間行なうことができ、被測定サンプル13aに対する薬効を十分かつ正確に検査することが可能である。
【0025】
また、本実施の形態においては、一重項酸素生成のために使用するレーザ光Lとして、人体にほとんど影響がない1270nmの波長の光を使用しているため、人体に対する医療装置にも適用可能である。たとえば、図5の医療装置1bに示すように、人体14a内に導入されるファイバが内蔵されたカテーテル41を介してレーザダイオード2が発した1270nmのレーザ光Lを血液中の酸素分子(O)11に照射することによって、この酸素分子(O)11を活性化して、Δ(0)の一重項酸素()12を生成し、生成した一重項酸素()12でがん細胞101を局所的に攻撃させる場合に適用可能である。この一重項酸素()12は、一度生成すれば数分から数十分励起状態を維持できるとともに、酸素分子11へのレーザ光Lの照射を継続すれば一重項酸素12を生成し続けることが可能であるため、所定時間を要するがん細胞101の攻撃という生体反応にも十分使用可能である。
【0026】
なお、本実施の形態においては、1270nmにピークを有する波長のレーザ光を発するレーザダイオード2を使用した場合を説明したが、このレーザダイオード2が発するレーザ光Lは、実際には、図6に示すように、±10nm程度の半値幅を有する。また、レーザダイオードによっては、±30nm程度の半値幅を有するものもある。O分子における原子間距離や全体のスピン状態に応じて、Δ(0)の一重項酸素化に要するエネルギーは、0.98eVを中心とした一定の幅を有するため、レーザ光が±10〜±30nm程度の半値幅を有することは酸素分子の一重項酸素化の円滑化を妨げるものではない。
【0027】
また、本実施の形態においては、使用する光として、1270nmにピークを有する波長の光を用いた場合を例に説明したが、特に1270nmにピークを有する必要はなく、酸素分子を必要な量だけ一重項酸素化できる強度の1270nmの波長の光が含まれていれば足りる。また、本実施の形態においては、所望の領域の酸素分子を正確かつ効率的に一重項酸素化するために光束が絞られたレーザ光を使用した場合を例に説明したが、もちろんレーザ光以外を使用しても可能である。
【0028】
また、本実施の形態においては、一重項酸素()12としてΔ(0)の一重項酸素を生成する場合を例に説明したが、もちろんこのΔ(0)の一重項酸素に限らない。たとえば、Σ(0)の一重項酸素を生成する場合には、一重酸素生成装置として、レーザダイオード2に代えて、1.63eVに対応する762nmの波長を少なくとも含むレーザ光を発振できるレーザダイオードを備えた構成であればよく、この762nmの波長を少なくとも含むレーザ光を酸素分子に照射して、Σ(0)の一重項酸素を生成すればよい。また、図2に示すΔ(1)の一重項酸素を生成する場合には、一重酸素生成装置として、レーザダイオード2に代えて、1060nmの波長を少なくとも含むレーザ光を発振できるレーザダイオードを備えた構成であればよく、この1060nmの波長を少なくとも含むレーザ光を酸素分子に発振して、Δ(1)の一重項酸素を生成すればよい。このように、生成対象の一重項酸素に対応させて、照射するレーザ光の波長を選択すればよい。すなわち、本実施の形態では、少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有した光を発するレーザダイオードを備え、このレーザダイオードから、酸素分子に少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有した光を発することによって、生成対象の一重項酸素を発生させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施の形態にかかる一重項酸素生成装置の構成を示す図である。
【図2】酸素分子の基底状態および励起状態を説明する図である。
【図3】一重項酸素の生成反応式を示す図である。
【図4】実施の形態にかかる一重項酸素生成装置を測定装置に適用した例を示す図である。
【図5】実施の形態にかかる一重項酸素生成装置を医療装置に適用した例を示す図である。
【図6】図1に示すレーザダイオードが発するレーザ光の強度の波長依存を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 一重項酸素生成装置
2 レーザダイオード
3 ファイバ
4 出射管
5 制御部
6 入力部
7 出力部
15 酸素供給機構
16 酸素供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有した光を発する発光手段を備え、
前記発光手段は、酸素分子に前記少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有した光を発することによって一重項酸素を生成することを特徴とする一重項酸素生成装置。
【請求項2】
前記発光手段は、前記酸素分子に少なくとも1270nmを含む光を発することによって一重項酸素を生成することを特徴とする請求項1に記載の一重項酸素生成装置。
【請求項3】
前記発光手段は、1270nmにピークを有する光を前記酸素分子に発することを特徴とする請求項2に記載の一重項酸素生成装置。
【請求項4】
前記発光手段は、前記少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有したレーザ光を前記酸素分子に発することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の一重項酸素生成装置。
【請求項5】
前記酸素分子を供給する酸素供給手段をさらに備え、
前記発光手段は、前記酸素供給手段による酸素供給中または酸素供給後に前記前記少なくとも酸素分子を一重項酸素化できるエネルギーを有した光を発することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の一重項酸素生成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−242191(P2009−242191A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92347(P2008−92347)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】