説明

一重項酸素発生膜の製造方法、該製造方法により製造した一重項酸素発生膜、及び該一重項酸素発生膜を用いた一重項酸素を発生する方法

【課題】低コストで効率良く一重項酸素を発生させることができる一重項酸素発生膜を提供する。
【解決手段】エネルギー照射により一重項酸素を発生する水溶性の有機化合物からなる光増感剤を、前記光増感剤と静電気的に結合する平均粒径が1〜1000nmの担体に静電吸着させて、得られた平均粒径が10〜4000nmの複合体粒子を水性媒体に分散させた分散液を、表面に前記複合体粒子の粒径よりも小さい孔径を有する最表面層を備えたメンブレンフイルター2で吸引濾過することにより、前記メンブレンフイルターの片側表面に前記複合体粒子を膜状に付着させて一重項酸素発生膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の酸素分子を利用して、酸素ボンベ等の強制的通気を必要としない、光等のエネルギー照射により一重項酸素を発生する一重項酸素発生膜の製造方法、及び該製造方法により製造した一重項酸素発生膜、並びに該一重項酸素発生膜を用いた一重項酸素を発生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、大気中に存在する酸素は、基底状態であり反応性が乏しい三重項酸素である。この三重項酸素は不対電子を持つ遊離基(ラジカル)であり、2つの不対電子を持つのでビラジカルと呼ばれるが、例外的に安定である。直接の光による一重項酸素の発生は、三重項から一重項への励起のためスピン禁制であり、ほとんど起こらない。有機光増感剤を用いた場合、増感剤の三重項状態は、一重項酸素と三重項酸素のエネルギー差にほぼ等しく、かつ色素の三重項から三重項酸素への遷移はスピン許容であるため、エネルギー移動が起こり、一重項酸素が発生する。
【0003】
このため現在、有機光増感剤は光ガン治療(photo dynamic therapy)に広く用いられている。有機光増感剤による光酸化反応には、2通りあることが知られている。1つは光照射により励起された増感剤自身が酸化剤として働くタイプIと呼ばれる反応であり、もう一つは上記のように光照射により励起された増感剤のうち三重項状態のものが三重項酸素分子と衝突することでそのエネルギーを酸素分子に移動し、一重項酸素を発生し、それが酸化剤として働くタイプIIと呼ばれる反応である。溶液中では両反応とも起こりうるため反応は複雑となり、副産物が生じる。しかしながら、気相で光増感剤と対象物との距離を空間的に置いた場合、タイプIIの一重項酸素による酸化反応のみしか起こらず、色素や色素の分解物による副作用や阻害がおこらず、クリーンな酸化分解反応系を構築できる。
【0004】
一重項酸素は、活性酸素種の中では寿命が長く、また酸化電位の高いオゾンやヒドロキシルラジカルのようなものと異なり、有効かつマイルドな酸化剤と言える。それは、一重項酸素の特有の電子配置にあり、反結合性軌道の一方のみに2個の電子が対として入り、もう一方の空軌道が求電子的に働き、電子供与性の大きい(酸化電位の低い)基質と2電子反応を起こしやすいためである。一重項酸素の寿命は水中では3.3μ秒と近距離にあるものしか酸化できず、そのため光ガン治療ではがん細胞内に光増感剤を取り込ませてからレーザー照射を行う。
【0005】
気相になると分子密度が下がるため格段に寿命が長くなる。真空中では45分、0.6Torr下では7秒(非特許文献1)、乾燥酸素を用い大気圧条件下で120m秒程度(非特許文献2)と報告されており、大気中の水分子や窒素分子などを考慮すると、大気条件下では数m〜100m秒程度と予想される。これは大気中で酸化剤として使用するのに十分な寿命であり、かつ大気中での使用に関し長時間もしくは長距離に渡って存在することもなく、安全性も高いと言える。加えて必要な照射エネルギー自体500−700nmと低く、安全であるため人体に直接照射しても問題はない。
上記性質を有する一重項酸素を気相中で利用できれば、その酸化力を安全に医療や産業の現場で応用できる。しかしながら、気相中に一重項酸素を有効に発生させるための方法は限られている。
【0006】
一重項酸素を大気中に発生させる従来技術としては、図2にみられるように、透明なアクリル繊維、ポリエステル繊維、又はポリエチレン繊維のような繊維10の表面に光増感剤11を付着させたフイルター1’がある(特許文献1)。また、光増感剤を溶媒で溶解して担体に吸着させることにより担持させた光増感剤に、酸素を流しながら光源を照射し、光増感剤で光源から発するフォトンエネルギーを活性化し、酸素気体を乖離させて一重項酸素を発生させる方法も提案されている(特許文献2)。
【0007】
さらに、微細に粗面化された支持体面の凹所に光によって励起する染料を研磨して押し込めることにより導入した染料で被覆された面と、これに対向する光透過性の面を有するケーシング内に、染料で被覆された面を照射するための光源を設けた、一重項酸素を発生させるための装置も知られている。(特許文献3)
【0008】
しかしながら、これらの従来技術に記載された技術では、光増感剤が繊維やシリカゲル等の支持体層に全面的に接触しており、発生した一重項酸素が気相に放出される前に支持体層で失活してしまい、放出される一重項酸素の量が極めて少なくなるという欠点がある。実際に光増感剤から発生した一重項酸素の多くが、増感剤を含浸しているシリカゲルやアルミナ担体によって失活するとの報告がなされている(非特許文献3)。大気中での一重項酸素の寿命を考慮すると、装置から取り出すまでに相当数失活している恐れがある。
【0009】
また、特許文献2では一重項酸素を効率的に製造するために酸素ボンベと特殊な反応容器が必要であり、特許文献3では一重項酸素を効率的に製造するために純酸素もしくは高濃度に酸素を含むガスを密閉し反応させるための特殊なケージが必要であり、汎用性が低く、一重項酸素の製造コストが高くなると言う問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−350935号公報
【特許文献2】特許第3863909号公報
【特許文献3】特表2004−513859号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】K. Hasegawa, K. Yamada, R.Sasase, R. Miyazaki, A. Kikuchi, and M. Yagi, Chem. Phys. Lett., 457, 312-314(2008)
【非特許文献2】W.C. Eisenberg, A. Snelson, R. Butler, and K. Taylor, J. Photochem., 25, 439-448(1984)
【非特許文献3】W. R. Midden and S. Y. Wang,J. Am. Chem. Soc., 105, 4129-4135 (1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、これら従来技術の問題点を解消して、大気中の酸素を利用して複雑な装置を必要とせず、安価に一重項酸素を発生させることができる、一重項酸素発生膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、上記課題を解決するために次の構成1〜9を採用する。
1.エネルギー照射により一重項酸素を発生する水溶性の有機化合物からなる光増感剤を、前記光増感剤と静電気的に結合する平均粒径が1〜1000nmの担体に静電吸着させて、得られた平均粒径が10〜4000nmの複合体粒子を水性媒体に分散させた分散液を、表面に前記複合体粒子の粒径よりも小さい孔径を有する最表面層を備えたメンブレンフイルターで吸引濾過することにより、前記メンブレンフイルターの片側表面に前記複合体粒子を膜状に付着させることを特徴とする一重項酸素発生膜の製造方法。
尚、本発明において、粒子とは球体のような粒状体に限らず、不定形、多面体、繊維状、或いは板状の形状を有するものを包含する。また、平均粒径とは球体の場合には直径の平均値を表し、不定形粒子或いは繊維、板状の場合には3次元のうち一番長い方向の長さの平均値とする。
2.前記光増感剤の水性溶液を、前記光増感剤と静電気的に結合する平均粒径が1〜1000nmの担体を水性媒体に分散させた分散液と混合することにより、前記光増感剤を前記担体に静電吸着させることを特徴とする、1に記載の一重項酸素発生膜の製造方法。
3.前記メンブレンフイルターの最表面層の孔径が5〜3000nmであることを特徴とする、1又は2に記載の一重項酸素発生膜の製造方法。
4.前記メンブレンフイルターの片側表面に形成した一重項酸素発生膜の膜厚が10nm〜10μmであることを特徴とする、1〜3のいずれかに記載の一重項酸素発生膜の製造方法。
5.エネルギー照射により一重項酸素を発生する水溶性の有機化合物からなる光増感剤を、前記光増感剤と静電気的に結合する平均粒径が1〜1000nmの担体に静電吸着させて得られた平均粒径が10〜4000nmの複合体粒子を、表面に前記複合体粒子の粒径よりも小さい孔径を有する最表面層を備えたメンブレンフイルターの片側表面(最表面層上)に膜状に付着させた、エネルギー照射により一重項酸素を発生する一重項酸素発生膜。
6.前記メンブレンフイルターの最表面層の孔径が5〜3000nmであることを特徴とする、5に記載の一重項酸素発生膜。
7.前記メンブレンフイルターの片側表面(最表面層上)に形成した前記複合体粒子膜の膜厚が10nm〜10μmであることを特徴とする、5又は6に記載の一重項酸素発生膜。
8.5〜7のいずれかに記載された一重項酸素発生膜に、エネルギーを照射することを特徴とする一重項酸素を発生する方法。
9.前記一重項酸素発生膜に、光照射することを特徴とする8に記載の一重項酸素を発生する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記の構成を採用することによって、次のような顕著な効果を奏する。
(1)極めて簡単な工程により、メンブレンフイルターの片側表面のみに一重項酸素を発生する水溶性の有機化合物からなる光増感剤の複合体粒子を膜状に付着させた、一重項酸素発生膜を効率よく作製することができる。
(2)得られた一重項酸素発生膜では、一重項酸素を発生する水溶性の有機化合物からなる光増感剤が静電気的に担体に結合されており、安定に保持される。したがって、光増感剤が容易には剥がれず、例えば、水に浸しても、通液しても流出しない。
(3)光増感剤の複合体粒子は、支持体であるメンブレンフイルターと境界面でのみ接触しているので、発生した一重項酸素が支持体によって失活するのを最小限に抑制し、大気条件下でも格段に多量の一重項酸素を気相に放出することができる。
(4)支持体であるメンブレンフイルターの表面に全ての光増感剤が担持されているために、照射光が有効に一重項酸素の励起に使用されるとともに、大気中に含まれる酸素から一重項酸素を発生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明で得られる一重項酸素発生膜の断面の構造を示す模式図である。
【図2】従来の技術で得られる一重項酸素発生膜の構造を示す部分拡大模式図である。
【図3】実施例1で得られたローズベンガル−アルミナ繊維を担体とする複合体粒子膜の断面の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例2で得られたローズベンガル−アルミナ繊維を担体とする複合体粒子膜と、比較例1で得られたローズベンガルを含浸させたナイロン膜の近赤外発光スペクトルを示す図である。
【図5】実施例2で得られたローズベンガル−アルミナ繊維を担体とする複合体粒子膜から発生した一重項酸素による、実施例3のベーシックレッドの退色を示す図である。
【図6】実施例2で得られたローズベンガル−アルミナ繊維複合体粒子膜を用いたサンプルと、比較例1で得られたローズベンガルを含浸させたナイロン膜及びナイロン膜のみを用いたサンプルによる、実施例4のベーシックレッドの退色反応を相対比較した図である。
【図7】実施例5で得られたメチレンブルー−シリカ複合体粒子膜を用いたサンプルと、従来技術によるメチレンブルーを含浸させたナイロン膜及びナイロン膜のみを用いたサンプルによる、ベーシックレッドの退色反応を相対比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では、エネルギー照射により一重項酸素を発生する水溶性の有機化合物からなる光増感剤を、前記光増感剤と静電気的に結合する平均粒径が1〜1000nmの担体に静電吸着させて、得られた平均粒径が10〜4000nmの複合体粒子を水性媒体に分散させた分散液を、表面に前記複合体粒子の粒径よりも小さい孔径を有する最表面層を備えたメンブレンフイルターで吸引濾過することにより、前記メンブレンフイルターの片側表面に前記複合体粒子を膜状に付着させて一重項酸素発生膜を製造する。
【0017】
光や超音波のようなエネルギー照射により一重項酸素を発生する、水溶性の有機化合物からなる光増感剤としては、水への溶解度が0.01g/L以上で、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、スルホン基(−SOH)、リン酸基(PO3−)、アルキルアンモニウム基(−NR3+)、アミノ基(NH)、アミド基(−NHCO−)のような水となじみやすい官能基を有する光増感剤が使用される。
好ましい水溶性の有機光増感剤としては、以下のものが挙げられる。
芳香族炭化水素系色素としては、フルオレセイン、ジブロモフルオレセイン、エオシンY、エオシンB、エリトロシンB、ローダミンB、ローズベンガル、クリスタルバイオレッド、マラカイトグリーン、オーラミンO、アクリジンオレンジ、ブリリアントクレイスルブルー、ニュートラルレッド、チオニン、メチレンブルー、オレンジII、インジゴ、アリザリン、ピナシアノール、ベルベリン、テトラサイクリン、パープリン、チアゾールオレンジ、またピリリウム、チオピリリウム、セレノピリリウム等のピリリウム塩系色素、シアニン系色素、オキソノール系色素、メロシアニン系色素、トリアリルカルボニウム系色素等の内水溶性のもの。フラーレン誘導体としては、水酸化フラーレン、アミノ酪酸フラーレン、アミノカプロン酸フラーレン、カルボン酸フラーレン、ビスマロン酸ジエチルフラーレン、ビスマロン酸エチルフラーレン等。ポルフィリン、フタロシアニン類縁体としては、フォトフリン、レザフィリン、ビスダイン、ヘマトポルフィリン、デュートロポルフィリンIX-2,4-ジ-アクリン酸、デュートロポルフィリンIX-2,4-ジ-スルホン酸、2,4-ジアセチルデュートロポルフィリンIX、TSPP、フタロシアニンテトラカルボン酸、フタロシアニンジスルホン酸、フタロシアニンテトラスルホン酸およびそれらの亜鉛、銅、カドミウム、コバルト、マグネシウム、アルミニウム、白金、パラジウム、ガリウム、ゲルマニウム、シリカ、錫等の金属錯体。加えて、金属錯体系色素としては、ルテニウム-ビピリジン錯体、ルテニウム-フェナントロリン錯体、ルテニウム-ビピラジン錯体、ルテニウム-4,7-ジフェニルフェナントロリン錯体、ルテニウム-ジフェニル-フェナントロリン-4,7-ジスルホネイト錯体、白金−ジピリジルアミン錯体、パラジウム−ジピリジルアミン錯体等。
【0018】
水溶性の有機光増感剤と静電的に結合する担体としては、例えば、有機光増感剤を溶解する水、又は水及び水と相溶性のある有機溶媒との混合溶媒に分散可能で、有機光増感剤を静電的に吸着する担体であり、無機物や有機物から成る平均粒径が1〜1000nmの粒子や不定形粒子、繊維が挙げられる。
【0019】
好ましい無機物担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化銅、酸化マグネシウム、希土類酸化物等の金属酸化物コロイド、及び金、白金、パラジウム、銀、銅等の金属コロイドが挙げられる。
また、有機物担体としては、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ乳酸、スチレン−マレイン酸共重合体およびそれらをスルホン酸、トリアルキルアンモニウム、アミン基等で表面修飾したもの等が挙げられる。
【0020】
メンブレンフィルターを構成する素材としては、例えば、セルロースアセテート等のセルロースエステル、ニトロセルロースとセルロースアセテートの混合物等からなるセルロース混合エステル、これらのエステルの1種又は2種以上を、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルにコートしたもの、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ホリエチレンやポリプロピレンやポリスチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ニトロセルロース、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いるメンブレンフィルターとしては、例えばアラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維、レーヨン繊維、ウレタン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ガラス繊維等で作られた、不織布もしくは織布や多孔質焼結体が挙げられる。
【0022】
好適なメンブレンフィルターとしては、例えば、網目状繊維からなる不織布、フィブリル化ポリマーシート、ファイバーシート、溶液キャスト多孔質ポリマーシート、延伸多孔性フィルム、放射線照射多孔性フィルム、多孔質セラミックスシート、多孔質ガラスシート及び多孔質金属シートの中から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。また、これらのメンブレンフィルターに、紙やセロハンからなる粘着層を組み合わせたものを使用することもできる。
メンブレンフィルターの最表面の孔径は、光増感剤と担体からなる複合粒子の粒径よりも小さい孔径を有するものが好ましく、特に最表面層の孔径が5〜3000nmの範囲の細孔を有するものが好適に用いられる。
【0023】
本発明の一重項酸素発生膜は、例えば次の手順によって製造することができる。
1.エネルギー照射により一重項酸素を発生する水溶性の有機化合物からなる光増感剤を、水又は水及び水と相溶性のある有機溶媒との混合溶媒(以下、両者をあわせて「水系溶媒」という)に溶解する。
2.得られた水系溶液を、平均粒径が1〜1000nmの前記光増感剤と反対の電荷を有する担体を0.00001〜1重量%程度含む水系溶媒分散液に、撹拌しながら滴下して混合する。分散液のpHは、酸解離に基づく光増感剤の電荷、及び担体の表面電荷に大きく影響を与えるため、光増感剤や担体の種類の応じて、適したpH範囲に調整することが重要である。
3.この状態で、担体粒子は、光増感剤の静電吸着により表面電荷が減少するため凝集し、平均粒径が10〜4000nmの複合体粒子凝集体を形成する。
4.得られた複合体粒子凝集体の分散液を、表面に複合体粒子凝集体の粒径よりも小さい孔径を有する最表面層を備えたメンブレンフイルターで濾過、好ましくは吸引濾過することにより、前記メンブレンフイルターの片側表面に前記複合体粒子凝集体を膜状に付着させて一重項酸素発生膜を製造する。
【0024】
上記の工程によって、水溶性の有機化合物と担体からなる複合体粒子をメンブレンフイルターの片側表面に均一に膜状に付着させた、一重項酸素発生膜を低コストで効率的に得ることができる。一重項酸素発生膜の膜厚は10nm〜10μm程度、特に50nm〜5μm程度とすることが好ましい。
【実施例】
【0025】
次に、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)
ビーカーに2mMローズベンガル水溶液100μl、アルミナコロイド カタロイドAS3(触媒化成株式会社製、コロイド粒子の長さ100nm×幅10nm)40μl、純水を加えて全量を10mlとした。このとき、溶液のpHが2から6となっているか確認し、pHが2より下であれば1M水酸化ナトリウム水溶液を、またpHが6より高い場合には1M塩酸を、pHを測定しながらマイクロピペッタで数滴滴下し、pHが2から6となるように調整した。この混合液内で、アニオンのローズベンガルが繊維状のアルミナナノ粒子の表面に吸着し、アルミナの表面電位が低下し0に近づき、これにより凝集を引き起こしてローズベンガルが吸着したアルミナ繊維の複合体粒子(平均粒径は数百nm程度)が得られた。これをセパラブルホルダーに挟んだ0.05μm孔径の直径47mmセルロース混合エステルメンブレンフィルター(ミリポア製、有効直径35.5mm)にて吸引濾過し、メンブレンフィルターの上片側表面上に複合体粒子層を形成させた。その電子顕微鏡写真を図3に示す。図3の上部表面に形成された複合体粒子層(白い部分)の平均膜厚は3.78μmで、相対標準偏差は4.3%と均一な膜が得られた。
【0026】
(実施例2)
実施例1において、メンブレンフィルターとして、0.2μm孔径の直径47mmナイロンメンブレンフィルター(ミリポア製、有効直径35.5mm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてローズベンガル−アルミナナノ繊維からなる複合体粒子を片面被覆した一重項酸素発生膜を得た。本膜の断面構造は、図1に示すような片方の表面のみに複合体粒子からなる層が局在する構造をとっている。
【0027】
(比較例1)
比較対照として、図2に示すような均一に有機光増感剤が含浸された構造の膜を、実施例2と同濃度となるようローズベンガルをナイロンメンブレンフィルターに含浸させることで作製した。この際、2mMローズベンガル水溶液100μlをナイロンメンブレンフィルターに垂らし、小さな穴のみを空けた閉鎖空間で1日半かけてゆっくり揮発させて膜を作製した。ローズベンガルの表面濃度は、実施例2及び比較例1の両方の膜とも、2.02×10−8mol・cm−2であった。
【0028】
(一重項酸素の近赤外発光測定)
実施例2及び比較例1で得られた2つの膜の大気圧条件下での近赤外発光スペクトルを、光源を532nmのレーザーとし、近赤外用の光電子倍増管を用いるフォトンカウンティング法にて測定した。積算回数は1000回とし、1.21〜1.33μmまで0.01μm間隔で測定を行った。図4に、実施例2の複合体粒子膜と比較例1の含浸膜の近赤外発光スペクトルを示す。図4において、横軸は波長(μm)を表し、縦軸は光子数を表す。
【0029】
図4によれば、比較例1の含浸膜ではナイロンメンブレンフィルターによって発生した一重項酸素が失活したために発光が確認できないのに対し、実施例2の複合体粒子膜では1.27μmを吸収極大とする一重項酸素特有な発光が確認できた。これは、本発明の複合体粒子膜は図1のような片面被覆構造であるため、発生した一重項酸素が担体であるナイロンメンブレンフィルターによる失活を受けにくいためである。したがって、メンブレンフィルターの片側表面のみに複合体粒子膜を形成した本発明の一重項酸素発生膜の構造に起因する優位性を確認できた。
【0030】
(実施例3:一重項酸素による色素の退色)
実際に大気圧条件下で気相中に一重項酸素が有効量発生していることを確認するために、実施例2で得られたローズベンガル−アルミナ繊維からなる複合体粒子膜から空間的に距離をおいたところにおける、光照射時の赤色色素(ベーシックレッド)の分解反応を次のようにして追跡した。
ベーシックレッド試料は一穴のスライドガラスにその水溶液を垂らし、ゆっくり蒸発乾固させることで作製した。ベーシックレッドを塗布したスライドガラスとローズベンガル−アルミナ複合体粒子膜を、0.8mmのスペーサーを介して向かい合わせに配置してサンプルとした。サンプルから17cm離して、500Wのハロゲンランプを光源として設置し、ランプによる加熱を防ぐためランプとサンプルの間に水の入ったビーカーとIRカットフィルタを配置した。また、サンプルの下にはクールプレート装置を配置して(5℃に設定)、サンプルが12−13℃に保たれていることを確認した。ベーシックレッドの照射時間によるスペクトル変化を図5に示す。図5において、横軸は波長(nm)を表し、縦軸は反射吸光度を表す。
【0031】
図5によれば、500〜600nmにある赤色の吸収は照射時間が長くなるにつれ減少することがわかる。一重項酸素発生膜とサンプルは距離をおいているため、タイプI反応ではなくタイプIIのみ、すなわち発生した一重項酸素による酸化反応のみが進行し、退色が起こっていることがわかる。
【0032】
(実施例4:退色反応の比較実験)
実施例2で得られたローズベンガル−アルミナ複合体粒子膜を用いたサンプル、ローズベンガル−アルミナ複合体粒子膜に代えて担体であるナイロンメンブレンフィルターを用いたサンプル、及び同じく比較例1で得られたローズベンガル含浸膜を用いたサンプルについて、実施例3と同様にしてベーシックレッドの退色反応の比較実験を行った。ベーシックレッドの赤色吸収である520nmでの速度解析を行った結果を図6に示す。図6において、横軸は照射時間(分)を表し、縦軸は0分での反射吸収強度を1としたときの相対反射吸収強度を表す。
図6によれば、含浸膜による色素の分解速度は担体のみの場合とほぼ同じであるが、複合体粒子膜はそれらに比べて大きな分解速度を示していることがわかる。
【0033】
(実施例5)
ビーカーに1mMメチレンブルー水溶液200μl、シリカコロイド カタロイドS−20H(触媒化成株式会社製、球形、直径10nm〜20nm)13.5μl、純水を加えて全量を10mlとした。このとき、溶液のpHが6.5より下であれば1M水酸化ナトリウム水溶液を、またpHが10より高い場合には1M塩酸を、pHを測定しながらマイクロピペッタで数滴滴下し、pHが6.5から10となるように調整した。この混合液内で、カチオンのメチレンブルーが球形シリカナノ粒子の表面に吸着し、シリカの表面電位が低下し0に近づき、これにより凝集を引き起こしてメチレンブルーが吸着したシリカ粒子の複合体粒子(平均粒径は100〜300nm程度)が得られた。これをセパラブルホルダーに挟んだ0.2μm孔径の直径47mmナイロンメンブレンフィルター(ミリポア製、有効直径35.5mm)にて吸引濾過し、メンブレンフィルターの上片側表面上に複合体粒子層を形成させた。
【0034】
(実施例6)
実施例4と同様にして、実施例5で作製したメチレンブルー−シリカ複合体粒子膜から空間的に距離をおいたところにおける、光照射時の赤色色素(ベーシックレッド)の分解反応によって、一重項酸素の発生を確認した。
比較のために、比較例1と同様の手順で、メチレンブルーが均一に含浸された構造の膜を、実施例5と同濃度となるようメチレンブルーをナイロンメンブレンフィルターに含浸させることで作製した。両方の膜とも、表面試薬濃度は2.02×10−8mol・cm−2であった。これらの膜及びナイロンメンブレンフィルターを用いて、実施例4と同様に退色反応の比較実験を行った結果を図7に示す。図7によれば、含浸膜による色素の分解速度は担体のみの場合とほぼ同じであるが、複合体粒子膜はそれらに比べて大きな分解速度を示していることがわかる。
【符号の説明】
【0035】
1 有機化合物光増感剤の複合体粒子からなる薄膜
1’ 従来の繊維表面に光増感剤を付着させたフィルター
2 メンブレンフィルター
10 繊維
11 光増感剤





【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー照射により一重項酸素を発生する水溶性の有機化合物からなる光増感剤を、前記光増感剤と静電気的に結合する平均粒径が1〜1000nmの担体に静電吸着させて、得られた平均粒径が10〜4000nmの複合体粒子を水性媒体に分散させた分散液を、表面に前記複合体粒子の粒径よりも小さい孔径を有する最表面層を備えたメンブレンフイルターで吸引濾過することにより、前記メンブレンフイルターの片側表面に前記複合体粒子を膜状に付着させることを特徴とする一重項酸素発生膜の製造方法。
【請求項2】
前記光増感剤の水性溶液を、前記光増感剤と静電気的に結合する平均粒径が1〜1000nmの担体を水性媒体に分散させた分散液と混合することにより、前記光増感剤を前記担体に静電吸着させることを特徴とする、請求項1に記載の一重項酸素発生膜の製造方法。
【請求項3】
前記メンブレンフイルターの最表面層の孔径が5〜3000nmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の一重項酸素発生膜の製造方法。
【請求項4】
前記メンブレンフイルターの片側表面に形成した一重項酸素発生膜の膜厚が10nm〜10μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の一重項酸素発生膜の製造方法。
【請求項5】
エネルギー照射により一重項酸素を発生する水溶性の有機化合物からなる光増感剤を、前記光増感剤と静電気的に結合する平均粒径が1〜1000nmの担体に静電吸着させて得られた平均粒径が10〜4000nmの複合体粒子を、表面に前記複合体粒子の粒径よりも小さい孔径を有する最表面層を備えたメンブレンフイルターの片側表面に膜状に付着させた、エネルギー照射により一重項酸素を発生する一重項酸素発生膜。
【請求項6】
前記メンブレンフイルターの最表面層の孔径が5〜3000nmであることを特徴とする、請求項5に記載の一重項酸素発生膜。
【請求項7】
前記メンブレンフイルターの片側表面に形成した前記複合体粒子膜の膜厚が10nm〜10μmであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の一重項酸素発生膜。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載された一重項酸素発生膜に、エネルギーを照射することを特徴とする一重項酸素を発生する方法。
【請求項9】
前記一重項酸素発生膜に、光照射することを特徴とする請求項8に記載の一重項酸素を発生する方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−87025(P2012−87025A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236564(P2010−236564)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】