説明

三層構造の支持体及びそれを用いた水性貼付剤

【課題】適度な通気性を備え、膏体からの水分蒸発を調整し、膏体の粘着力を長期間維持することができ、長時間貼付可能水性貼付剤並びにそれに使用される支持体の提供。
【解決手段】膏体を保持するための内繊維層と通気性を有する外繊維層の間に、貫通孔を設けたフィルム層を配し、三層からなる支持体及びその内繊維層側に膏体を配してなる水性貼付剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膏体を保持するための内繊維層と、貫通孔を設けたフィルム層、及び膏体あるいは膏体から染み出した液状成分が外部に漏出することを防止する通気性を有する外繊維層を貼りあわせた三層構造の支持体並びにそれを使用した、長時間貼付可能な水性貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に水性貼付剤は油性貼付剤に比べ長時間貼付するのには適していないといわれている。その原因の一つとして水分蒸発の制御が難しい点が挙げられる。
水性貼付剤の透湿性には支持体の特性が大きく関わっている。例えば織布あるいは不織布を支持体として用いた場合、これらは透湿性が大きく、短時間で膏体中の水分含量の低下を招き、膏体成分が固くなりやすく、その結果、粘着力が低下するという欠点がある。一方、支持体としてプラスチック等のフィルムを用いた場合は水分蒸発を大きく遮断できるが、長期間貼付した場合、汗、患部からの滲出液等に起因する膏体の凝集破壊が生じ、貼付剤の粘着性が低下したり、蒸れによるかぶれ等の原因となる場合が多い。
【0003】
上記問題点を解決する手段として支持体からの通気性を調整した透湿性フィルムと繊維からなる2層構造の支持体を用いた水性貼付剤が提案されている(特許文献1〜3)。
しかし、これらの水性貼付剤は保存中、膏体に含まれる油脂等の成分がフィルムに浸透し、しわ、よれ等の品質不良を生じたり、フィルム表面に成分が染み出してべとつき等の問題が発生したりすることがある。
【0004】
またフィルムと、不織布あるいは織布を積層した支持体において、フィルムに貫通孔を設け、それにより水分を調節しようという試みもなされている(特許文献4〜5)。しかし、これらの支持体においては、膏体成分の物性によっては十分に透湿度をコントロールできない場合がある。すなわち、液状成分が少なく硬い膏体の場合、織布あるいは不織布にあまり染みこんでいかず、それ故、フィルムに貫通孔を設けた利点を生かすことができない場合があり、反対に液状成分が多く柔らかい膏体を使用した場合、織布あるいは不織布から膏体、あるいは液状成分が染み出し、透湿度をコントロールすることができないばかりか、貫通孔からの染み出しによるべとつき等のトラブルの原因ともなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−217668号公報
【特許文献2】特開平10−298065号公報
【特許文献3】国際公開 WO2006/070672号公報
【特許文献4】特開平6−116141号公報
【特許文献5】特開2000−143503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は適度な通気性を備えることにより、膏体からの水分蒸発を調整し、膏体の粘着力を長期間維持することができ、長時間貼付可能で、薬物を配合した貼付剤にあっては、その製剤からの薬物の放出性が優れており、かつ薬効持続性が高い水性貼付剤並びにそれに使用される支持体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、鋭意検討を行ったところ、膏体を保持する内繊維層と、貫通孔を設けたフィルム層、及び膏体あるいは膏体から染み出した液状成分が外部に漏出することを防止する通気性を有する外繊維層を貼り合わせた三層構造の支持体が、膏体中の水分を安定的にコントロールすることができ、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させたものである。
【発明の効果】
【0008】
膏体を保持するための内繊維層、水分蒸発を制御するための貫通孔を設けたフィルム層、膏体あるいは膏体から染み出した液状成分が外部に滲出することを防止する通気性を有する外繊維層からなる三層構造の支持体の内繊維層側に水を含んだ膏体を塗工することにより得られる本発明の水性貼付剤は、従来の水性貼付剤と比較して、水分含量が適切に調節されるため、以下のような優れた効果を発揮できる。
・肌への供水作用を適切に維持できる。
・発汗に強く、貼付中、運動しても剥がれ難く、また貼付後、剥がす際に肌への膏体残りが生じず、使用性に優れている。
・薬物を配合した場合、長時間治療効果を持続できる。
・その他の効果は、以下の記載から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1記載の三層構造支持体及び水性貼付剤の断面を模式的に表したものである。(A)および(B)は本発明の三層構造の支持体断面を模式的に示したものである。(C)は本発明の水性貼付剤の断面を模式的に表したものである。
【図2】試験例I−1の各製剤の水分含量の推移を示したものである。
【図3】試験例II−1の各製剤の水分含量の推移を示したものである。
【図4】試験例II−3の各製剤のin vitro皮膚透過性試験結果を示したものである。
【図5】試験例IIIの各製剤のin vitro皮膚透過性試験結果を示したものである。
【図6】試験例IV−1の各製剤の水分含量の推移を示したものである。
【図7】試験例IV−3Aの各製剤のin vitro皮膚透過性試験結果を示したものである。
【図8】試験例IV−3Bの各製剤のin vitro皮膚透過性試験結果を示したものである。
【図9】試験例IV−4の各製剤のラットの血中濃度測定結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、以下に記載の態様で示される。
1.内繊維層と通気性を有する外繊維層の間に、貫通孔を設けたフィルム層を配し、三層からなる水性貼付剤用支持体。
2.内繊維層が貫通孔を設けた内繊維層である上記1に記載の水性貼付剤用支持体。
3.支持体の透湿度が1000〜5000g/m・24hである、上記1または2に記載の水性貼付剤用支持体。
4.貫通孔の開口部面積がフィルム層1cmあたり、1〜18mmである上記1〜3のいずれかに記載の水性貼付剤用支持体。
5.1個あたりの貫通孔面積が0.01〜0.8mmである、上記1〜4のいずれかに記載の水性貼付剤用支持体。
6.内繊維層と通気性を有する外繊維層の間に、貫通孔を設けたフィルム層を配し、三層からなる支持体の内繊維層側に膏体を配してなる水性貼付剤。
7.支持体の内繊維層が貫通孔を設けた内繊維層である上記6に記載の水性貼付剤。
8.支持体の透湿度が1000〜5000g/m・24hである、上記6に記載の水性貼付剤。
9.支持体の貫通孔の開口部面積がフィルム層1cmあたり、1〜18mmである上記6に記載の水性貼付剤。
10.支持体の貫通孔の開口部面積が1個あたりの貫通孔面積が0.01〜0.8mmである、上記6に記載の水性貼付剤用支持体。
11.膏体中の水分含量が40℃で4時間静置したときに、30〜90%残存しうるように、支持体のフィルム層が穿孔されてなる上記6に記載の水性貼付剤。
12.膏体が薬物を含有する上記6に記載の水性貼付剤。
13.膏体中の薬物が非ステロイド性消炎剤または局所麻酔剤である上記6に記載の水性貼付剤。
14.膏体中の薬物がケトプロフェンまたはフェルビナクである上記6に記載の水性貼付剤。
15.膏体中の薬物がリドカインを含有する上記6に記載の水性貼付剤。

本発明の三層構造の支持体は、外繊維層の上にフィルム層、そしてその上に内繊維層を適当な接着手段で貼り合わせることにより製造される。
【0011】
内繊維層は、膏体成分を保持するために設けられる。内繊維層に用いられる基材としては不織布、織布、または繊維成分を直接吹き付けたものでよく、材質、目付重量は、水を含む膏体が保持できるものであれば特に限定されず、例えば、材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルやオレフィン系エラストマーが挙げられ、目付重量は15〜80g/m2が好ましい。
【0012】
フィルム層は、主として水分蒸発を制御するために設けられる。フィルム層に用いられる基材の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレンやオレフィン系エラストマーが例示され、その厚みは、特に限定されるものではないが5〜50μmが好ましい。
【0013】
外繊維層は、内部からの膏体あるいは膏体から染み出した液状成分の外部への漏出を防止するために設けられる。該繊維層に用いられる基材としては、それぞれ通気性を有する不織布、織布または繊維成分を直接吹き付けるものでもよく、その材質としては、一般の貼付剤に使用されている通気性を有する繊維成分であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルやオレフィン系エラストマーが例示される。また外繊維層の目付重量は15〜80g/m2が好ましい。
【0014】
フィルム層への穿孔は、針、レーザー加工等で形成できる。穿孔処理はフィルム1cm当たりの開口部面積(以下開口部面積と称す)、貫通孔の個数、および1個当たりの貫通孔面積により決定される。オレフェン系エラストマーの場合には、ニードルパンチなどの力学的手段で貫通孔を開口しても、エラストマーフィルムの伸縮性で開口形態を維持できず、開口部が閉塞してしまうので、好ましくなく、従って熱針加工が推奨される。開口部面積、貫通孔の個数、および1個当たりの貫通孔面積は、それぞれフィルム強度に影響を及ぼしたり、逆に支持体の柔軟性に影響を与えたりするファクターであるため、適切な範囲に調整する必要がある。
【0015】
本発明の三層構造の支持体の場合は開口部面積が、フィルム層1cm当たり1〜18mmであるのが好ましく、より好ましくは1〜10mmである。開口部面積が1mmより小さいと支持体の透湿度が低くなりすぎ、膏体中の過剰な水分により膏体物性が低下し、皮膚への膏体残り等が起きやすくなる。また、開口部面積が18mmを越えると、過剰な水分の蒸発が起こり、その結果、膏体が固くなり粘着力の低下等の好ましくない影響がでる。一方、貫通孔の個数は、目安として1cmあたり5〜90個が好ましく、より好ましくは10〜80個である。貫通孔の個数が1cmあたり5個未満であると必然的に孔1個当たりの開口部面積が大きくなり、水分の蒸発にムラができ、安定的な水分コントロールが不可能になる。一方、貫通孔の個数を、1cmあたり90個を越えてそれ以上多く設けると、フィルムの強度が低下し、フィルムの破損の虞がある。さらに1個当たりの貫通孔面積に関しては、0.01〜0.8mmが好ましく、より好ましくは0.01〜0.5mmである。さらに好ましくは、0.02〜0.18mmである。1個当たりの貫通孔面積が0.01mmより小さい場合は、均一な貫通孔を形成することが難しく、逆に1個当たりの貫通孔面積が0.8mmより大きい場合は支持体からの膏体の染み出しが生じる。
【0016】
加えて、本発明の支持体においては内繊維層に貫通孔を設けてもよい。図1(B)に内繊維層に貫通孔を設けた本発明の支持体を模式的に示している。この場合も針、レーザー加工等で貫通孔を形成できる。フィルム層及び内繊維層の両層に貫通孔を形成する場合、フィルム層に施された貫通孔と内繊維層に施された貫通孔の位置が整合していても、整合していなくても構わないが、支持体の製造工程において内繊維層とフィルム層を重ねて穿孔処理をすることにより、穿孔処理が一度で完了するという利点がある分、内繊維層とフィルム層との位置が整合している方が好ましい。またこうすることにより、内繊維層側に膏体を積層した場合、膏体成分が内繊維層の貫通孔を介して、フィルムの貫通孔にまで充填され、膏体が外繊維層の真下まで侵入することが可能となる。これは貼付部位の動きによって支持体が伸び縮みをした時においても、貫通孔に膏体が充填されているために貫通孔が支持体の伸縮作用によって塞がれることなく、安定的に水分コントロールができるという利点が生じる。
内繊維層の開口部面積、内繊維層に設ける貫通孔の個数、および1個当たりの貫通孔の面積は、フィルムの開口部面積、貫通孔の個数、および1個当たりの貫通孔の面積に従う。
【0017】
本発明の支持体自体の透湿度は1000〜5000g/m・24hの範囲であることが好ましい。より好ましくは2000〜4000g/m・24hである。透湿度が1000g/m・24h未満では、膏体中の水分含量が高くなりすぎ、膏体強度の低下や、蒸れ等を原因とする皮膚刺激等の影響が発生し、5000g/m・24hを越えると粘着性の低下が見られる。
【0018】
本発明の三層支持体の積層方法は、フィルム層と内繊維層を、熱融着もしくは接着剤を用いて貼り合せ、穿孔処理し、ついで、外繊維層を、熱融着もしくは接着剤を用いて貼り合せるか、フィルム層を穿孔処理した後、内繊維層と外繊維層を、熱融着もしくは接着剤を用いて、貼り合わす方法でもよいが、いずれの方法をとるにせよ、外繊維層に貫通孔が生じないようにする必要がある。
【0019】
本発明の支持体に塗工される膏体成分、即ち内繊維層側に積層される膏体は、水及び水に可溶な粘着付与剤を主成分とし、必要に応じ、増粘剤、架橋剤、pH調整剤等が配合されたものであり、そして十分な粘着性と保形性を兼ね備えたものが好ましい。
水は、粘着剤、増粘剤を溶解するための媒体となり、また、肌への供水作用により保湿効果を与える。その配合量は、膏体全量に対して20〜70%が好ましく、より好ましくは30〜50%である。
粘着付与剤は、膏体の粘着性を調整するものであり、水に可溶の水溶性高分子から選ばれる。ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸部分中和物などが挙げられ、それらの1種または2種以上を組み合わせてもよい。その配合量は、膏体全量に対して3〜25%が好ましい。
【0020】
増粘剤は、膏体の保形性を調整するものであり、水に可溶の水溶性高分子から選ばれる。カルボシキメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどが挙げられ、それらの1種または2種以上を組み合わせてもよい。その配合量は、膏体全量に対して1〜20%が好ましい。
架橋剤は、架橋剤は水溶性高分子間を架橋することにより、膏体の粘着性、保形性をさらに調整するものであり、難溶性多価金属塩が適切であり、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、合成ヒドロタルサイトなどが挙げられ、それらの1種または2種以上を組み合わせてもよい。その配合量は、膏体全量に対して0.01〜5%が好ましい。
【0021】
pH調整剤は、膏体が強酸、強塩になると長期投与では、肌に過度の損傷を与える虞があるため、適量配合し、膏体pHを弱酸、中性、弱アルカリ領域に調整させるものである。
また本発明の支持体に膏体が塗工された本発明の水性貼付剤は、貼付剤を恒温漕に40℃で4時間静置した場合に、その水分含量が初期製剤に含有されている水分量の30〜90%となるように調整するのが好ましい。より好ましくは30〜85%、さらに好ましくは50〜80%である。
さらに、該膏体には治療効果のある薬物を配合してもよい。薬物は、非ステロイド性消炎鎮痛剤、コルチコステロイド剤、抗ヒスタミン剤、鎮痒剤、高血圧剤、局所麻酔剤、抗真菌剤、抗てんかん剤、血管拡張剤、ホルモン剤、筋弛緩剤、刺激剤、抗ウィルス剤などが挙げられ、これらの1種か、または2種以上配合してもよい。
その他、膏体に必要に応じ、安定化剤、防腐剤、油脂、界面活性剤等を配合してもよい。
【0022】
支持体上に積層された膏体はライナーで覆われる。そのライナーは、膏体表面を安定的に保護できるものであればよく、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、加工紙などが挙げられる。
本発明の水性貼付剤の製造は、膏体を三層構造の支持体の内繊維層側とライナーとの間に挟み込むように塗工して、製造される。その際、膏体層の厚みは300〜1500g/m2に調整することができるが、本発明の支持体は、比較的薄い膏体を支持体に塗工した製剤においても優れた粘着安定性及び薬物の持続的な薬理効果を示すことが可能であるため、特に膏体の厚さを300〜1000g/mに調整することが好ましい。より好ましくは300〜700g/mである。その後、水性貼付剤を適用部位に応じて適当な形状に打抜き、貼付剤として使用する。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1
繊維層としてポリエチレン不織布30g/mにポリエチレンフィルム(エチレン-1-オクテン共重合体)15μmを熱融着し、熱針で穿孔処理を施した。さらに内繊維層と反対側のフィルム面に、外繊維層としてポリエチレン不織布30g/mを部分的に接着剤で貼り合わせ、孔数が16個/cmで、孔面積が0.13mm/個、開口部面積が2.5mm/cmとなる三層構造の支持体を得た。
この支持体につき、日本工業規格(JIS)のL1099に記載の方法に準じ、支持体の透湿度を測定した。この支持体の透湿度は994g/m・24hであった。
【0025】
次にグリセリン400.2gにポリアクリル酸部分中和物40g、カルボキシメチルセルロースナトリウム40g、ヒドロキシプロピルセルロース3g、ヒマシ油3g、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート1g及びジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート0.6gを加え分散した(ポリマー分散液)。精製水435gにポリアクリル酸50g、酒石酸5g及びエデト酸ナトリウム0.7gを加え混合した溶液に、プロピレングリコール20gにメチルパラベン1gとプロピルパラベン0.5gを溶解した溶液を加え、混合した。この混合溶液を撹拌しながら、先に調製したポリマー分散液を徐々に加え、均一になるまで撹拌し、膏体を作製した。
この膏体を、重量が約500g/mとなるように、三層構造の支持体の内繊維層側とライナーとしてのポリプロピレンフィルム(50μm)の間に挟み込むように塗工し、10cm×14cmに打ち抜き、所望の水性貼付剤を得た。得られた貼付剤を包装袋に入れ密封し、室温保管した。
【0026】
実施例2〜8
熱針による穿孔処理により、孔面積、および開口部面積を調整した三層構造支持体を作製し、各支持体の透湿度を測定した。
各支持体の孔面積、開口部面積、および測定された透湿度を表1に示す。
また各支持体を用い、実施例1と同様に膏体を調製した膏体を、支持体に塗工し、各実施例の水性貼付剤を作製した。得られた各貼付剤を包装袋に入れ密封し、室温保管した。
【0027】
比較例1
ポリエステル不織布(目付重量:100g/m)を支持体として用い、実施例1と同様に膏体を調製した膏体を、支持体に塗工し、比較例1の貼付剤を作製した。得られた貼付剤を包装袋に入れ密封し、室温保管した。
【0028】
比較例2
レーヨン60%、ポリエチレン28%、ポリプロピレン12%の割合で混合した不織布にエチレンメチルメタクリレートを厚さ15μmになるように熱融着し、支持体を作製した。
この支持体の透湿度を表1に示す。
この支持体を使用し、実施例1と同様に膏体を調製した膏体を、支持体に塗工し、比較例2の水性貼付剤を作製した。得られた貼付剤を包装袋に入れ密封し、室温保管した。
【0029】
比較例3
ポリエチレンに炭酸カルシウム50%を混合、厚さ40μmになるように延伸し、微多孔膜フィルムを調製した。このフィルムにポリエチレン不織布45g/mを貼り合わせ、比較例3の支持体を作製した。
この支持体の透湿度を表1に示す。
この支持体を使用し、実施例1と同様に膏体を調製した膏体を、支持体に塗工し、比較例3の水性貼付剤を作製した。得られた貼付剤を包装袋に入れ密封し、室温保管した。
なお、この支持体は、特許文献5の記載を参考に作製した。
【0030】
試験例I−1 貼付剤中の水分含量測定
実施例1〜8の貼付剤と比較例1〜3の貼付剤を40℃の乾燥条件で保存した試料について、経時的に、各貼付剤の重量を測定し、減少した水分量に換算して、膏体中の水分含量の変化を求めた。その結果を図2に示す。図中、水分含量は初期の水分含量を100%とし、対初期値%で示している。また乾燥4時間後の膏体中水分含量の数値については表1に示す。
【0031】
試験例I−2 貼付剤の粘着力試験
実施例4、5、7の貼付剤および比較例1、3の貼付剤について日本工業規格(JIS)のZ0237に記載の方法に準じ、それぞれの粘着力を測定した。
また、上記各製剤を40℃の乾燥条件で保存し、経時的な粘着力変化を求めた。試験結果を表2に示す。なお、表中における粘着力は膏体面で停止したスチールボールの重量(g)で示している。また、カッコ内の数値はそれぞれの製剤の40℃で4時間乾燥後の膏体中の水分含量(対初期%)を示している。
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
試験例I−3 貼付剤の貼付性評価試験
実施例4、5の貼付剤および比較例1、2の貼付剤につき、健常成人男性3名に試験製剤を24時間貼付し、貼付性を評価する試験を行った。結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
〔考察〕
表2に示したように、実施例の貼付剤はいずれも良好な粘着力が維持された。これは、図2の結果より、各実施例の貼付剤については、膏体中の水分の蒸発が緩やかで安定的であるため、膏体の粘着物性の変化が少ないことに起因するものと判断できる。
【0036】
一方、比較例1、3の貼付剤はいずれも粘着力が大きく低下した。これらの比較例の製剤については、膏体中の水分蒸発が急激であり、膏体中の溶解している水溶性高分子が半固形化するなどの現象が生じてしまうためと考えられる。
また表3に示した貼付試験の結果からも、実施例の貼付剤が比較例の貼付剤より、その貼付性において格段に優れていることが実証されている。すなわち、本発明の各実施例の貼付剤が24時間貼付後において、製剤の剥がれ、および剥離時の膏体残りが些少であったのに対し、比較例1及び2の貼付剤は、皮膚からの製剤の剥がれの度合いが大きく、24時間貼付に耐えることができないものもあった。特に比較例1の製剤に関しては剥離時に痛みを感じる被験者もおり、貼付中の水分蒸発が急激であることに起因する膏体物性の変化の大きさが確認された。また比較例2の貼付剤では、剥離時の膏体残りが大きいことから、比較例2の貼付剤の支持体では膏体の水分コントロールが不十分で、膏体物性の低下が著しいことが明らかとなった。
【0037】
実施例9
内繊維層としてポリエチレン不織布30g/mにポリエチレンフィルム(エチレン-1-オクテン共重合体)20μmを熱融着し、熱針で穿孔処理を施した。さらに内繊維層と反対側のフィルム面に、外繊維層としてポリエチレン不織布50g/mを部分的に接着剤で貼り合わせ、孔数が32個/cmで、平均の孔面積が0.099mm/個、開口部面積が3.7mm/cmとなる三層構造の支持体を得た。この支持体の透湿度は3700g/m・24hであった。
【0038】
次に、膏体の調製を行った。グリセリン390gにポリアクリル酸部分中和物40g、カルボキシメチルセルロースナトリウム40g、ヒドロキシプロピルセルロース2.5g及びジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート0.7gを加え分散した(ポリマー分散液)。
精製水436.7gにポリアクリル酸50g、酒石酸50g及びエデト酸ナトリウム0.6gを加え混合した溶液に、クロタミトン5g、ジイソプロパノールアミン5g、N−メチル-2-ピロリドン5g及び精製水5gの混合液にケトプロフェン3gを溶解した溶液と、プロピレングリコール10gにメチルパラベン1g及びプロピルパラベン0.5gを溶解した溶液とを加え、混合した。
この混合液を撹拌しながら、先に調製した分散液を徐々に加え、均一になるまで撹拌し、膏体を作製した。
この膏体を、重量が約300g/mとなるように、三層構造の支持体の内繊維層側と50μmポリプロピレンフィルムの間に挟み込むように塗工し、10cmX14cmに打ち抜き、実施例9の貼付剤を得た。得られた貼付剤を包装袋に入れ密封し、室温保管した。
【0039】
実施例10〜18
表4に示す膏体組成に従い、実施例9と同様な方法にて、各実施例の貼付剤を作製した。
【0040】
【表4】

【0041】
比較例4〜7
ポリエステル不織布(目付重量:100g/m)を支持体として用い、表5に示す膏体組成に従い、実施例9と同様な方法にて各比較例の貼付剤を作製した。
【0042】
【表5】

【0043】
試験例II−1 貼付剤の水分含量測定試験
実施例9〜12の貼付剤と比較例4〜7の貼付剤を40℃の乾燥条件で保存した試料について、経時的に、各貼付剤の重量を測定し、減少した水分量に換算して、膏体中の水分含量の変化を求めた。その結果を図3に示す。図中、水分含量は初期の水分含量を100%とし、対初期値%で示している。
【0044】
試験例II−2A 貼付剤の粘着力試験
実施例9〜12の貼付剤と比較例4〜7の貼付剤につき、日本工業規格(JIS)のZ0237に記載の方法に準じ、粘着力を測定した。また、各貼付剤を40℃の乾燥条件で保存し、経時的な粘着力変化を求めた。試験結果を表6に示す。なお、表中における粘着力は膏体面で停止したスチールボールの重量(g)で示している。また、カッコ内の数値はそれぞれの製剤の40℃で4時間乾燥後の膏体中の水分含量(対初期%)を示している。
【表6】

【0045】
試験例II−2B 貼付剤の粘着力試験
実施例13〜18の貼付剤につき、日本工業規格(JIS)のZ0237に記載の方法に準じ、粘着力を測定した。また、各貼付剤を40℃の乾燥条件で保存し、経時的な粘着力変化を求めた。結果を表7に示す。なお、表中における粘着力は膏体面で停止したスチールボールの重量(g)で示している。また、カッコ内の数値はそれぞれの製剤の40℃で4時間乾燥後の膏体中の水分含量(対初期%)を示している。
【表7】

【0046】
試験例II−3 ケトプロフェン含有貼付剤のヘアレスラットにおける in vitro摘出皮膚透過性試験
実施例10、12の貼付剤及び比較例5、7の貼付剤を直径14mm円に打ち抜き、試験製剤とした。
ヘアレスラットの摘出皮膚をフランツ型拡散セルに装着し、各々の試験製剤を摘出皮膚上部に貼付した。レセプターにはリン酸緩衝液を用い、経時的にレセプター液を採取し、採取液中のケトプロフェン量を測定、摘出皮膚を通過する量として換算した。結果を図4に示す。
【0047】
〔考察〕
i)粘着性に関して
(1) 膏体の厚みと粘着力について
表6の結果より、いずれの厚さの膏体においても、実施例の貼付剤は、比較例の貼付剤より優れた粘着性を示した。特に比較例の製剤において、膏体の厚みが500g/m以下の製剤については、乾燥8時間後にはほとんど粘着力を示さないが、一方実施例の製剤は、膏体の厚さが300g/mの製剤においても、比較例の厚さ1000g/mの製剤と同等以上の粘着力を示した。
【0048】
(2) 膏体の水分含量と粘着力について
表7に示すように、すべての実施例の製剤において優れた粘着性を示すことが判明した。特に比較的水分含量が低い実施例13〜16(初期水分含量30%あるいは50%)の製剤において粘着安定性が優れていることが判明した。
【0049】
ii)薬物の放出性について
図4より、実施例の各製剤は、比較例の製剤より優れたケトプロフェン放出性を示した。特に同じ膏体厚を有する実施例の貼付剤と比較例の貼付剤とを比較した場合(実施例の試験開始後24時間目の累積透過量/比較例の試験開始後24時間目の累積透過量)、薄い製剤(500g/m)のそれが2.7倍であり、厚い製剤(1000g/m)の場合のそれが1.8倍であり、特に薄い製剤において、実施例の製剤のその効果が高いことが確認できた。
【0050】
実施例19、20
表8に示す処方構成に従い、実施例9と同様の方法で各実施例の水性貼付剤を作製した。
【0051】
比較例8、9
ポリエステル不織布(目付重量115g/m)を支持体として用い、表8に示す処方構成に従い、実施例8と同様な方法で各比較例の水性貼付剤を作製した。
【0052】
【表8】

【0053】
試験例III フェルビナク含有貼付剤の摘出皮膚透過性試験
実施例19、20の貼付剤および比較例8、9の貼付剤を直径14mm円に打ち抜いた製剤につき、試験例II−3と同様な試験を行い、各製剤からのフェルビナク放出性の検討を行った。結果を図5に示す。
【0054】
〔考察〕
・薬物の放出性について
図5より、実施例の製剤は、比較例の製剤より優れたフェルビナク放出性を示した。実施例の貼付剤と比較例の貼付剤のその放出量とを比較した場合(実施例の試験開始後24時間目の累積透過量/比較例の試験開始後24時間目の累積透過量)、薄い製剤(500g/m)、厚い製剤(1000g/m)ともに実施例の製剤は比較例の製剤の約2.7倍の放出性を示し、フェルビナク放出性の優れた製剤であった。
【0055】
実施例21〜23
表9に示す処方構成に従い、実施例9と同様の方法で各実施例の水性貼付剤を製造した。
【0056】
比較例11〜13
ポリエステル不織布(目付け重量125g/m)を支持体として用い、表9に示す処方構成に従い、実施例9と同様な方法で各比較例の水性貼付剤を作製した。
【0057】
【表9】

【0058】
試験例IV−1 貼付剤の水分含量測定試験
実施例21、22の貼付剤と比較例10、11の貼付剤を40℃の乾燥条件で保存した試料について、経時的に、各貼付剤の重量を測定し、減少した水分量に換算して、膏体中の水分含量の変化を求めた。その結果を図6に示す。図中、水分含量は初期の水分含量を100%とし、対初期値%で示している。
【0059】
試験例IV−2 貼付剤の粘着力試験
実施例21、22の貼付剤と比較例10、11の貼付剤につき、日本工業規格(JIS)のZ0237に記載の方法に準じ、粘着力を測定した。また、各水性貼付剤を40℃の乾燥条件で保存し、経時的な粘着力の変化を求めた。試験結果を表10に示す。なお、表中における粘着力は膏体面で停止したスチールボールの重量(g)で示している。また、カッコ内の数値はそれぞれの製剤の40℃で4時間乾燥後の膏体中の水分含量(対初期%)を示している。
【表10】

【0060】
試験例IV−3A リドカイン含有貼付剤の摘出皮膚透過性試験
実施例21の貼付剤及び比較例10の貼付剤を直径14mm円に打ち抜いた製剤につき、試験例II−3と同様な試験を行い、各製剤からのリドカイン放出性の検討を行った。その結果を図7に示す。
【0061】
試験例IV−3B リドカイン含有貼付剤の摘出皮膚透過性試験
実施例22、23の貼付剤及び比較例11、12の貼付剤を、直径14mm円に打ち抜いた製剤につき、試験例II−3と同様な試験を行い、各製剤からのリドカイン放出性の検討を行った。その結果を図8に示す。
【0062】
試験例IV−4 リドカイン含有貼付剤のリドカインの血中濃度
実施例23の貼付剤と比較例12の貼付剤を2cm×3cmに打ち抜き、試験製剤とした。ヘアレスラットの背部に各々の試験製剤を貼付し、経時的に採血を行い、採血液中のリドカイン量を測定した。結果を図9に示す。
【0063】
〔考察〕
i)粘着性に関して
表10に示すように、いずれの厚さの膏体においても、実施例の貼付剤は、比較例の貼付剤より優れた粘着性を示した。40℃において8時間乾燥後の比較例の製剤は、粘着力が急激に低下しているのに対して、実施例の製剤はほとんど粘着力が低下しておらず、実施例で使用した支持体による、膏体の粘着安定性に対する効果が実証できた。特に、膏体の厚さが500g/mである製剤についてその傾向が顕著であることが併せて確認できた。
【0064】
ii)薬物の放出性について
図7、8より、実施例の製剤は、比較例の製剤より優れたリドカイン放出性を示した。特に同じ膏体厚を有する実施例の貼付剤と比較例の貼付剤とを比較した場合(実施例の試験開始後24時間目の累積透過量/比較例の試験開始後24時間目の累積透過量)、薄い製剤(500g/m)の場合のそれが3.4倍、および(より)薄い製剤(300g/m)の場合のそれが2.8倍であるのに対し、厚い製剤(1000g/m)の場合のそれが1.3倍であることから、薄い製剤において、本発明の貼付剤の効果がより顕著となった。
また図9より、実施例23の製剤は、貼付後半においても血中薬物濃度は維持されたが、比較例12の製剤は、低下した。このことから実施例の製剤は、より薬効が持続する製剤であることも確認できた。
【0065】
以上の結果から、本発明の貼付剤は、膏体の組成に関わらず、その支持体により水分蒸発を確実にコントロールできるため、粘着力及び粘着安定性が高く、また膏体の薬物を配合した場合の薬物の放出性、薬効持続性に優れている製剤であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
膏体を保持する内繊維層、水分蒸発を制御するための貫通孔を設けたフィルム層、膏体あるいは膏体から染み出した液状成分が外部に滲出することを防止する通気性を有する外繊維層からなる三層構造の支持体の内繊維層側とライナーとの間に水を含んだ膏体を塗工することにより得られる本発明の水性貼付剤は、膏体からの水分蒸発を適度に調整でき、粘着力、保型性に優れ、長時間貼付できる貼付剤として非常に有用なものである。またその膏体に薬物を配合した場合の薬物の放出性、薬効持続性においても優れた貼付剤である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内繊維層と通気性を有する外繊維層の間に、貫通孔を設けたフィルム層を配し、三層からなる水性貼付剤用支持体。
【請求項2】
内繊維層が貫通孔を設けた内繊維層である請求項1に記載の水性貼付剤用支持体。
【請求項3】
支持体の透湿度が1000〜5000g/m・24hである、請求項1あるいは請求項2に記載の水性貼付剤用支持体。
【請求項4】
貫通孔の開口部面積がフィルム層1cmあたり、1〜18mmである請求項1〜3のいずれかに記載の水性貼付剤用支持体。
【請求項5】
1個あたりの貫通孔面積が0.01〜0.8mmである、請求項1〜4のいずれかに記載の水性貼付剤用支持体。
【請求項6】
内繊維層と通気性を有する外繊維層の間に、貫通孔を設けたフィルム層を配し、三層からなる支持体の内繊維層側に膏体を配してなる水性貼付剤。
【請求項7】
支持体の内繊維層が貫通孔を設けた内繊維層である請求項6に記載の水性貼付剤。
【請求項8】
支持体の透湿度が1000〜5000g/m・24hである、請求項6あるいは請求項7に記載の水性貼付剤。
【請求項9】
支持体の貫通孔の開口部面積がフィルム層1cmあたり、1〜18mmである請求項6に記載の水性貼付剤。
【請求項10】
支持体の貫通孔の開口部面積が1個あたりの貫通孔面積が0.01〜0.8mmである、請求項6に記載の水性貼付剤用支持体。
【請求項11】
膏体中の水分含量が40℃で4時間静置したときに、30〜90%残存しうるように、支持体のフィルム層が穿孔されてなる請求項6に記載の水性貼付剤。
【請求項12】
膏体が薬物を含有する請求項6に記載の水性貼付剤。
【請求項13】
膏体中の薬物が非ステロイド性消炎剤または局所麻酔剤を含有する請求項6に記載の水性貼付剤。
【請求項14】
膏体中の薬物がケトプロフェンまたはフェルビナクを含有する請求項6に記載の水性貼付剤。
【請求項15】
膏体中の薬物がリドカインを含有する請求項6に記載の水性貼付剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−36170(P2012−36170A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152475(P2011−152475)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000215958)帝國製薬株式会社 (44)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】