三次元網目状構造を有する多孔質膜
【課題】本発明は、親水性ポリマーと疎水性ポリマーとからなるブロック共重合体である、ポリエチレングリコールとポリスチレンとからなるブロック共重合体を用いて形成され、相互に連通した空孔を備える三次元網目状構造を有し、三次元網目状構造の骨格部表面上がポリエチレングリコールにより機能化された多孔質膜を提供することを目的とする。
【解決手段】下記式(1)を満足する、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体およびポリエチレングリコールホモポリマーと、SP値が18.5〜22.0である有機溶媒とを含む溶液を、基板表面に塗布して、ポリスチレンの連続相とポリエチレングリコールの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有する塗布膜を形成する工程と、該塗布膜中のポリエチレングリコールホモポリマーを水を用いて除去する工程を含む方法により得られる、三次元網目状構造を有する多孔質膜。
0.6≦(b1+b2)/(a1+b1+b2)≦0.7 式(1)
(式(1)中、a1は塗布膜中におけるブロック共重合体のポリスチレンの体積を表す。b1は、塗布膜中におけるブロック共重合体のポリエチレングリコールの体積を表す。b2は、塗布膜中におけるポリエチレングリコールホモポリマーの体積を表す。)
【解決手段】下記式(1)を満足する、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体およびポリエチレングリコールホモポリマーと、SP値が18.5〜22.0である有機溶媒とを含む溶液を、基板表面に塗布して、ポリスチレンの連続相とポリエチレングリコールの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有する塗布膜を形成する工程と、該塗布膜中のポリエチレングリコールホモポリマーを水を用いて除去する工程を含む方法により得られる、三次元網目状構造を有する多孔質膜。
0.6≦(b1+b2)/(a1+b1+b2)≦0.7 式(1)
(式(1)中、a1は塗布膜中におけるブロック共重合体のポリスチレンの体積を表す。b1は、塗布膜中におけるブロック共重合体のポリエチレングリコールの体積を表す。b2は、塗布膜中におけるポリエチレングリコールホモポリマーの体積を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元網目状構造を有する多孔質膜、より詳しくは、ポリエチレングリコールの連続相と、ポリスチレンの連続相とが互いに絡み合った三次元共連続構造を有し、ポリエチレングリコールの連続相内に連通する空孔が存在する多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメートルレベルで空孔径や膜厚などが構造制御された構造体への関心が高まっている。こうした構造体の中でも、ナノメーターオーダーの空孔を有する多孔質膜は、磁気記録媒体、太陽電池、発光素子、分離膜などに応用可能と考えられ、特に、空孔が三次元網目状に連通する多孔質膜は、逆浸透膜、精密ろ過膜、限外ろ過膜、NF膜などの分離膜への応用が期待される。また、これらの多孔質膜の骨格部壁面を親水化処理など機能化することにより、従来にない機能を有する材料の創製が可能と期待される。
【0003】
このような多孔質膜を得るために、異種のポリマー鎖が連結したブロック共重合体を利用することが提案されている。ブロック共重合体は自己組織化によって、ラメラ状構造、シリンダー状構造、共連続構造など種々のナノパターンを有するミクロ相分離構造を形成することが知られている。この性質を利用してブロック共重合体を適当な溶媒に溶かして被加工体上に塗布し、規則配列したパターンを作製した後、空孔を形成させ多孔質膜を得ることができる。例えば、非特許文献1では、ポリスチレンとポリイソプレンとからなるブロック共重合体を用いて、共連続構造のミクロ相分離構造を有する構造体を形成させた後、ポリイソプレンをオゾン分解して、除去することにより連通した空孔を有する多孔体を製造している。また、特許文献1では、ポリ(2−ビニルピリジン)とポリイソプレンとからなるブロック共重合体とポリ(2−ビニルピリジン)ホモポリマーとを用いて、共連続構造を形成させ、その後、ポリ(2−ビニルピリジン)ホモポリマーを溶出させることにより多孔体を作製している。
【0004】
【非特許文献1】T. Hashimoto, et. al. “Nanoprocessing Based on Bicontinuous Microdomains of Block Copolymers: Nanochannels Coated with Metals” Langmuir 1997, 13, 6869-6872.
【特許文献1】特開平11−80414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1で使用されているオゾン分解処理では、大面積での処理ができず、かつ分解に時間がかかるため生産性の観点からは満足できるものではなかった。また、所望の分解させたい相のみだけでなく構造体全体がダメージを受けると共に、空孔の大きさにばらつきが生じるという問題があった。
さらに、オゾン分解処理により得られた空孔の壁面を、親水性化やタンパク質吸着抑制能付与などのために表面修飾しようとしても、空孔のサイズが非常に小さいため表面修飾が十分には進行しないという問題があった。さらには、表面修飾に使用した化合物などにより、空孔が埋められてしまうという問題や、該化合物と壁面との接着が十分ではなく表面の機能層が剥離してしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献1においては、開示されているブロック共重合体は疎水性ポリマー同士からなる特定の種類のものだけである。概して、性質の異なるポリマー鎖からなるブロック共重合体を使用してミクロ相分離構造を作製する場合、必ずしも満足できる結果は得られていない。
特に、親水性ポリマーと疎水性ポリマーとからなるブロック共重合体の場合は、ポリマー中の構成成分の性質が全く異なるため所望のミクロ相分離構造が得られにくく、未だ十分な知見は得られていないのが現状である。つまり、親水性ポリマーと疎水性ポリマーからなるいわゆる両親媒性のブロック共重合体では、ポリマー鎖間の極性などが大きく異なるため、上述した疎水性ポリマー同士からなるブロック共重合体と比較しても、より複雑な挙動を示し、十分な解析がなされておらず、配向制御技術のさらなる改良が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みて、親水性ポリマーと疎水性ポリマーとからなるブロック共重合体である、ポリエチレングリコールとポリスチレンとからなるブロック共重合体を用いて形成され、相互に連通した空孔を備える三次元網目状構造を有し、三次元網目状構造の骨格部表面上がポリエチレングリコールにより機能化された多孔質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体と、このブロック共重合体を含む塗布液を構成する有機溶媒との親和性に着目し、相分離挙動の詳細な検討を行った結果、特定のSP値を有する有機溶媒を使用することにより共連続構造が選択的に形成されることを見出した。さらに、この共連続構造が形成された膜を水洗することで、塗布膜中からポリエチレングリコールホモポリマーのみが除去され、相互に連通した空孔を有する三次元網目状構造の多孔質膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
つまり、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題が下記の<1>〜<10>の構成により解決されることを見出した。
<1> 下記式(1)を満足する、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体およびポリエチレングリコールホモポリマーと、SP値が18.5〜22.0である有機溶媒とを含む溶液を、基板表面に塗布して、ポリスチレンの連続相とポリエチレングリコールの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有する塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜中の前記ポリエチレングリコールホモポリマーを水を用いて除去する工程を含む方法により得られる、三次元網目状構造を有する多孔質膜。
0.6≦(b1+b2)/(a1+b1+b2)≦0.7 式(1)
(式(1)中、a1は塗布膜中におけるブロック共重合体のポリスチレンの体積を表す。b1は、塗布膜中におけるブロック共重合体のポリエチレングリコールの体積を表す。b2は、塗布膜中におけるポリエチレングリコールホモポリマーの体積を表す。)
<2> 前記有機溶媒が、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、およびシクロヘキサノンからなる群より選ばれる少なくとも1種である<1>に記載の多孔質膜。
<3> 前記多孔質膜の空孔率が、30〜75%である<1>または<2>に記載の多孔質膜。
<4> 前記ブロック共重合体中のポリスチレンとポリエチレングリコールとの共重合比が、ポリスチレン/ポリエチレングリコール(体積比)=0.99/0.01〜0.5/0.5である<1>〜<3>のいずれかに記載の多孔質膜。
<5> 前記ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体の重量平均分子量が、1×104以上である<1>〜<4>のいずれかに記載の多孔質膜。
<6> 前記ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体の分子量分布が、Mw/Mn=1.00〜1.50である<1>〜<5>のいずれかに記載の多孔質膜。
<7> 前記溶液中における前記ポリエチレングリコールホモポリマーの含有量が、溶液全体量に対して、0.1〜12.0wt%である<1>〜<6>のいずれかに記載の多孔質膜。
<8> 前記ポリエチレングリコールホモポリマーの分子量分布が、Mw/Mn=1.0〜3.0である<1>〜<7>のいずれかに記載の多孔質膜。
<9> 前記ポリエチレングリコールホモポリマーの重量平均分子量が、50〜1.0×104である<1>〜<8>のいずれかに記載の多孔質膜。
<10> ポリエチレングリコールの連続相と、ポリスチレンの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有し、前記ポリエチレングリコールの連続相内に連通する空孔が存在する、三次元網目状構造を有する多孔質膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、親水性ポリマーと疎水性ポリマーとからなるブロック共重合体である、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体を用いて形成され、相互に連通した空孔を備える三次元網目状構造を有し、三次元網目状構造の骨格部表面上がポリエチレングリコールにより機能化された多孔質膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の三次元網目状構造を有する多孔質膜の製造方法、およびその製造方法より得られる多孔質膜について説明する。
【0012】
<多孔質膜の製造方法>
本発明に係る多孔質膜は、主に以下の工程によって製造することができる。
<工程1> 下記式(1)を満足する、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体およびポリエチレングリコールホモポリマーと、SP値が18.5〜22.0である有機溶媒とを含む溶液を、基板表面に塗布して、ポリスチレンの連続相とポリエチレングリコールの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有する塗布膜を形成する工程
0.6≦(b1+b2)/(a1+b1+b2)≦0.7 式(1)
(式(1)中、a1は塗布膜中におけるブロック共重合体のポリスチレンの体積を表す。b1は、塗布膜中におけるブロック共重合体のポリエチレングリコールの体積を表す。b2は、塗布膜中におけるポリエチレングリコールホモポリマーの体積を表す。)
<工程2> 工程1で得られた塗布膜中のポリエチレングリコールホモポリマーを水を用いて除去する工程
まず、以下に、多孔質膜を製造するための各工程、および各工程で使用される材料について詳述する。
【0013】
<工程1>
工程1は、下記式(1)を満足する、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体およびポリエチレングリコールホモポリマーと、SP値が18.5〜22.0である有機溶媒とを含む溶液を、基板表面に塗布して、ポリスチレンの連続相とポリエチレングリコールの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有する塗布膜を形成する工程である。
0.6≦(b1+b2)/(a1+b1+b2)≦0.7 式(1)
(式(1)中、a1は塗布膜中におけるブロック共重合体のポリスチレンの体積を表す。b1は、塗布膜中におけるブロック共重合体のポリエチレングリコールの体積を表す。b2は、塗布膜中におけるポリエチレングリコールホモポリマーの体積を表す。)
まず、工程1で使用される各材料について説明する。
【0014】
<ブロック共重合体>
一般的に、ブロック共重合体(ブロックコポリマー)とは、複数の種類のホモポリマー鎖がブロック(構成成分)として結合した高分子をいう。例えば、繰り返し構成単位がAモノマー由来のポリマーA鎖と繰り返し構成単位がBモノマー由来のポリマーB鎖とが末端同士で結合したポリマーなどが挙げられる。ブロック共重合体は、ランダムコポリマーと異なり、例えば、ポリマーA鎖が凝集したA相とポリマーB鎖が凝集したB相とが空間的に分離した構造(ミクロ相分離構造)を形成することが知られている。一般のポリマーブレンドで得られる相分離(マクロ相分離)では、2種のポリマー鎖が完全に分離できるため最終的に完全に2相に分かれ、その単位セルの大きさは1μm以上である。これに対して、ブロック共重合体で得られるミクロ相分離構造における単位セルの大きさは、数nm〜数十nmのオーダーである。なお、ミクロ相分離構造は、構成成分の組成によって、球状ミセル構造、シリンダー構造、ラメラ構造、共連続構造などの構造をとることが知られている。
【0015】
本発明に使用されるブロック共重合体は、ポリスチレン(以下、ポリマーAとも称する)とポリエチレングリコール(以下、ポリマーBとも称する)とからなり、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体またはマルチブロック共重合体のいずれの態様であってもよい。具体的には、ポリマーAからなる部分およびポリマーBからなる部分をそれぞれAブロックおよびBブロックとすると、−A−B−という構造を有する一つのAブロックと一つのBブロックとが結合したA−B型ブロック共重合体や、−A−B−A−という構造を有するBブロックの両端にAブロックが結合したA−B−A型ブロック共重合体や、−B−A−B−という構造を有するAブロックの両端にBブロックが結合したB−A−B型ブロック共重合体などが挙げられる。さらに、−(A−B)n−という構造を有する複数のAブロックとBブロックからなるブロック共重合体を用いてもよい。なかでも、入手のしやすさ、合成のしやすさの観点から、A−B型ブロック共重合体(ジブロック共重合体)が好ましい。なお、ポリマー同士を接続する化学結合は、共有結合が好ましい。
【0016】
本発明にかかるブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、使用目的により適宜選択されるが、1×104以上が好ましく、なかでも1×104〜1×107が好ましく、5×104〜1×106がより好ましい。なお、上記重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定し、標準ポリスチレンに換算したときの重量平均分子量である。上記範囲内であれば、塗布液の取り扱いがより容易となる。
【0017】
本発明にかかるブロック共重合体は、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的には、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とで表される分子量分布(Mw/Mn)が、1.00〜1.50であることが好ましく、1.00〜1.15であることがより好ましい。Mw/Mnの値が上記範囲内であれば、より均一なサイズを有するミクロ相分離構造を形成することができる。
【0018】
本発明にかかるブロック共重合体の共重合比率は、塗布膜で共連続構造が得られるように適宜選択される。
例えば、ジブロック共重合体(A−B型)またはトリブロック共重合体(A−B−A型)の場合、共重合体を構成するポリマーA(ポリスチレン)とポリマーB(ポリエチレングリコール)との比率ポリマーA/ポリマーB=0.99/0.01〜0.5/0.5(体積比)が好ましく、より好ましくは0.95/0.05〜0.75/0.25(体積比)である。上記範囲内であれば、連続相同士がより絡み合った共連続構造が得られる。
【0019】
本発明にかかるブロック共重合体は、公知の方法で合成することができる。例えば、アニオンリビング重合、カチオンリビング重合、リビングラジカル重合、グループトランスファー重合、開環メタセシス重合等の手法を利用することが可能である。また、市販品を使用してもよい。
【0020】
<ポリエチレングリコールホモポリマー>
本発明で使用されるポリエチレングリコールホモポリマーは、上述のブロック共重合体の構成ポリマー鎖であるポリエチレングリコールと同じ構造である。このホモポリマーは、後述する塗布膜中においてブロック共重合体によって形成される共連続構造のポリエチレングリコール連続相内に含まれる。
【0021】
本発明にかかるポリエチレングリコールホモポリマーの重量平均分子量(Mw)は、得られる多孔質膜の空孔の大きさや、上述のブロック共重合体の分子量との関係で適宜選択されるが、50〜1.0×104が好ましく、100〜5.0×103がより好ましい。上記範囲内であれば、後述する多孔質膜の空孔がより制御しやすくなるという点で好ましい。なお、上記重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定し、標準ポリスチレンに換算したときの重量平均分子量である。
【0022】
本発明にかかるポリエチレングリコールホモポリマーは、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的には、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とで表される分子量分布(Mw/Mn)が、1.0〜3.0であることが好ましく、1.0〜1.5であることがより好ましい。Mw/Mnの値が上記範囲内であれば、後述する多孔質膜の空孔がより制御しやすくなる。
【0023】
上述のブロック共重合体とポリエチレングリコールホモポリマーとの溶液中の含有量は、使用するポリマーの種類などにより適宜選択される。なかでも、得られる塗布膜の膜厚の制御が容易な点で、溶液中のブロック共重合体およびポリエチレングリコールホモポリマーの合計含有量は、溶液全量に対して、0.5〜15.0wt%が好ましく、1.0〜10.0wt%がより好ましい。なかでも、溶液中のポリエチレングリコールホモポリマーの含有量は、溶液全量に対して、0.1〜12wt%が好ましく、0.2〜10wt%がより好ましくは、 0.5〜8wt%が特に好ましい。
【0024】
<有機溶媒>
本発明で使用される有機溶媒は、SP値(溶解度バラメーター)が18.5〜22.0である。より好ましくは、18.5〜21.5であり、さらに好ましくは18.5〜21.0である。上記範囲内であると、所望の共連続構造が形成される。ここで、SP値は、Polymer Handbook Fourth Edition Volume2(A John Wiley & Sons,Inc.,Publication)J.BRANDRUP、E.H.IMMERGUT、and E.A.GRULKE (1999) P.675〜714に記載の方法を用いて得られる値である。
【0025】
上記有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸、シクロヘキサノン、メチルブロマイド、トリクロロエタン、ジメチルスルフィド、2−エチルヘキサノール、ジクロロベンゼン、ブロモナフタレンなどが挙げられる。なかでも、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンがより好ましい。
【0026】
有機溶媒の溶液中の含有量は、上述したポリマーの種類などにより適宜選択される。なかでも、得られる塗布膜の膜厚の制御が容易な点で、有機溶媒の含有量は、溶液全量に対して、85.0〜99.5wt%が好ましく、90.0〜99.0wt%がより好ましい。
【0027】
<式(1)>
次に、本発明に用いられる、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体とポリエチレングリコールホモポリマーとの混合比について説明する。本発明においてブロック共重合体とポリエチレングリコールホモポリマーとは、塗布膜中におけるブロック共重合体中のポリスチレンが占める体積をa1、ブロック共重合体中のポリエチレングリコールが占める体積をb1、ポリエチレングリコールホモポリマーが占める体積をb2とした場合、下記式(1)の関係を満たす。
0.6≦(b1+b2)/(a1+b1+b2)≦0.7 式(1)
【0028】
それぞれの体積は、それぞれのポリマーの密度を用いて導かれる。式(1)の計算方法は特に制限されず、例えば、まず、塗布膜中におけるブロック共重合体のポリスチレンと、ブロック共重合体のポリエチレングリコールと、ポリエチレングリコールホモポリマーとの質量比を計算する。ここで、ブロック共重合体のポリスチレン:ブロック共重合体のポリエチレングリコール:ポリエチレングリコールホモポリマーの質量比を、F(a1):F(b1):F(b2)とする。次に、ポリスチレンの密度、ポリエチレングリコールの密度を、それぞれd(PSt)、d(PEG)とすると、以下のように、式(1)が計算される。
{(F(b1)/d(PEG))+(F(b2)/d(PEG))}/{(F(a1)/d(PSt))+(F(b1)/d(PEG))+(F(b2)/d(PEG))}
なお、それぞれのポリマーの密度は、Polymer Handbook Fourth Edition Volume2(A John Wiley & Sons,Inc.,Publication)、J.BRANDRUP、E.H.IMMERGUT、and E.A.GRULKE (1999)などに記載される数値を用いることができる。
【0029】
(b1+b2)/(a1+b1+b2)の値が上記範囲内の場合、ブロック共重合体とポリエチレングリコールホモポリマーとにより共連続構造のミクロ相分離が形成される。より詳細には、ブロック共重合体中のポリエチレングリコールとポリエチレングリコールホモポリマーとにより構成されるポリエチレングリコールの連続相と、ブロック共重合体中のポリスチレンから構成されるポリスチレンの連続相とが、三次元網目状に絡み合った共連続構造が形成される。共連続構造については、例えば、非特許文献1などに詳述されている。
なお、後述する水洗工程を経ることにより、ポリエチレングリコールホモポリマーが選択的に除去され、所望の連通した空孔を備える三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られる。
【0030】
<基板>
本発明において基板は、後述する多孔質膜を積層し、かつ支持するためのものであれば、特に制限されない。例えば、ポリイミド(PI)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)などのポリマー基板、銅箔、アルミニウム箔などの金属フィルム、石英基板、ガラス基板、シリコン基板などが挙げられる。なかでも、フレキシブル性の点で、ポリマー基板、金属フィルムが好ましい。
【0031】
なお、上記基板のなかで好ましい例の一つとして、基板表面上にポリヒドロキシスチレンなどの層を備える基板(特に、石英基板)を使用することができる。この層は、剥離層として作用する。具体的には、この層を備える基板上に多孔質膜を形成した後、この層のみが溶解する特定の溶媒と接触させることにより、基板から容易に多孔質膜を剥離することができる。
【0032】
<塗布方法>
上述の溶液の塗布方法としては、厚みが均一でかつ表面が平滑になるものであれば特に限定されず、例えば、スピンコート法、スプレー法、ロールコート法、インクジェット法などの方法を採用することができる。中でも、生産性の観点から、スピンコート法が好ましい。スピンコート法の条件は、使用するブロック共重合体などにより適宜選択される。塗布後に、必要に応じて、乾燥工程を設けてもよい。溶媒を除去するための乾燥条件としては、適用される基板、および使用するブロック共重合体などに応じて適宜選択されるが、20〜200℃の温度で、0.1〜24時間の処理を行うことが好ましい。特に好ましい温度としては、20〜150℃が好ましく、さらに好ましくは、20〜120℃である。乾燥処理は数回に分けて行ってもよい。この乾燥処理は、窒素雰囲気下、低濃度酸素下または大気圧10トール以下で行うことが特に好ましい。
【0033】
図1は、工程1により得られる共連続構造を有する塗布膜の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す塗布膜10は、基板12上に積層される。なお、同図において、塗布膜10は、ジブロック共重合体(ポリスチレンとポリエチレングリコールとが末端で結合)を用いて得られるミクロ相分離構造を有する。具体的には、ポリスチレン連続相14とポリエチレングリコール連続相16とがそれぞれ連続相を形成し、互いに3次元的に絡み合った共連続構造を形成している。
【0034】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた塗布膜中のポリエチレングリコールホモポリマーを水を用いて除去する工程(水洗工程)である。工程2により、工程1で得られた塗布膜からポリエチレングリコールホモポリマーのみが除去され、ポリエチレングリコール連続相内に三次元網目状に連通する空孔が形成される。結果として、三次元網目状の骨格を有する多孔質膜が得られる。
【0035】
ポリエチレングリコールホモポリマーを取り除くための水による洗浄方法としては、ポリエチレングリコールホモポリマーが除去できれば特に限定されず、例えば、工程1で得られた塗布膜の上からシャワーにより水をふりかける方法や、水中に工程1で得られた塗布膜を浸漬させる方法などが挙げられる。この洗浄工程は、複数回行ってもよい。洗浄時間に関しては、使用する材料などにより適宜最適な条件が選択される。なお、工程2後に、得られた多孔質膜を適宜基板から取り外してもよい。
【0036】
<多孔質膜>
図2(a)は、本発明の三次元網目状構造を有する多孔質膜の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す多孔質膜20は、基板22上に積層される。多孔質膜20は、図1に示す塗布膜10のポリエチレングリコール連続相16内に連通する空孔部が形成された構造をとる。より具体的には、多孔質膜20は、相互に連通した空孔部28と三次元網目状の骨格部30とから構成されており、空孔部28と骨格部30が相互に絡み合った共連続構造を形成する。骨格部30は、中心部のポリスチレン部分24と、ポリスチレン部分24の表層にあるポリエチレングリコール部分26とから構成されている。
【0037】
図2(b)は、本発明の三次元網目状構造を有する多孔質膜の一実施形態の斜視断面図である。
同図に示す多孔質膜20は、基板22上に積層される。多孔質膜20は、相互に連通した空孔部28と三次元網目状の骨格部30とで構成されている。
【0038】
本発明の多孔質膜20は、相互に連通した空孔部28と三次元網目状の骨格部30とから構成されており、空孔28と骨格部30が相互に絡み合った共連続構造を形成する。共連続構造が形成されると、負荷が集中し難く、機械的強度が向上するという利点も有する。多孔質膜の構造決定は、SEM観察やTEM観察などにより行うことができる。
【0039】
本発明の多孔質膜20の空孔部28の平均孔径(平均直径)は、使用するブロック共重合体やポリエチレングリコールホモポリマーの使用量などを調整することにより、適宜制御できる。なかでも、0.01〜10μmが好ましく、0.05〜1μmがより好ましい。平均孔径が小さすぎると、透過性能が悪化する。一方、平均孔径が大きすぎると、機械的強度に劣る。平均孔径は、SEM(走査型電子顕微鏡)写真(約1000nm×1000nmの範囲、もしくは、約10000nm×10000nmの範囲)で観察される多孔質膜表面上の空孔を少なくとも2個以上、好ましくは10個以上の任意の空孔の直径を測定して、数平均して求めた値である。
【0040】
本発明の多孔質膜20の内部の空孔率は、使用するブロック共重合体やポリエチレングリコールホモポリマーの種類、使用量を調整することにより、適宜制御することができる。なかでも、30〜75%が好ましく、より好ましくは35〜65%である。空孔率が低すぎると、透過性能が悪化する。一方、空孔率が高すぎると、機械的強度に劣る。空孔率は、空孔率は、多孔質膜の断面をSEMにて分析し、その分析によって得られた拡大写真より、単位面積当たりに占める空孔の面積の比率(%)として求めることができる。
【0041】
本発明の多孔質膜20の厚みは、使用目的により適宜最適な値が選択される。なかでも、0.05〜100μmが好ましく、より好ましくは0.1〜50μmである。厚みが薄すぎると、膜の機械強度が充分でなくなる。厚すぎると、空孔分布を均一に制御することが困難になる。膜厚の測定方法としては、プロファイラ装置(KLA−Tecnor社製)により、膜表面上の任意の点を3ヵ所以上測定して数平均して求めた値である。
【0042】
本発明の多孔質膜20の骨格部30の大きさ(断面直径)は、使用される材料により適宜制御することができる。なかでも、10〜1000nmが好ましく、25〜750nmがより好ましく、50〜500nmがさらに好ましい。上記範囲内であれば、膜の機械強度と透過性能のバランスがより優れる。骨格部30の断面形状が楕円の場合は、長径が上記範囲内にあればよい。空孔率は、多孔質膜の断面をSEMにて分析し、得られた拡大写真より、任意の骨格部分を3ヵ所以上測定して数平均して求めた値である
【0043】
本発明の多孔質膜は、ポリスチレンとポリエチレングリコールとから構成されているが、多孔質膜の骨格部壁面には主成分としてポリエチレングリコールが存在する。つまり、多孔質膜の骨格部中心を構成するポリスチレンとは機能の異なるポリエチレングリコールにより骨格部壁面が被覆されている。従来使用されていたイオンエッチングなどを使用して一方のミクロドメイン部を分解して多孔質膜を得る方法では、一方のミクロドメインを構成する成分がすべて分解・除去されてしまい、他方の構成成分のみが残ることになる。そのため残部である骨格部を構成する成分が有する性質と異なる性質・機能を骨格部壁面に持たせる場合には、新たに骨格部壁面を化学修飾する手間を伴う。また、空孔が非常に小さいため、骨格部壁面を完全に化学修飾することは非常に困難である。一方、本発明にかかる方法によれば、機械的強度に優れるポリスチレンを多孔質膜の骨格部(支持部)として使用し、かつ、ポリエチレングリコールを用いて骨格部壁面を容易に機能化することが可能となる。
【0044】
<用途>
本発明にかかる多孔質膜は、多様な用途に応用することが可能である。例えば、電子情報記録媒体、吸着剤、ナノ反応場膜、分離膜、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの偏光板保護フィルムなどが挙げられる。なかでも、本発明により得られた多孔質膜は、骨格部表面がポリエチレングリコールで被覆されているため、水溶媒中の物質を分離するための機能性分離膜として好適に使用することが出来る。特に、タンパク質等の生体高分子や細胞等に対する吸着抑制能を有する分離膜として、好ましく用いることが可能となる。
また、三次元網目状構造の骨格部表面が親水性を示すため、順浸透膜(FO膜)、逆浸透膜(RO膜)、ナノ濾過膜(NF膜)、限外濾過膜(UF膜)、精密濾過膜(MF膜)等の水用の濾過膜としても好適に使用できる。
【0045】
タンパク質の分離法としては、従来からゲル電気泳動法が知られている(「タンパク質ハンドブック」G.Walsh著、平山ら訳(丸善)p167)。しかしこの手法では、タンパク質が変性してしまう場合が多く、また、ゲルからタンパク質を取り出すことも容易ではない。その他の方法としては中空糸膜を用いて、タンパク質を分離する手法も報告されている(特開2006−89468号公報)。この手法を用いることにより、マーカータンパク質として有用な分子量60kDa以下のタンパク質を選択的に濃縮可能であることが報告されている。しかしこの手法では大掛かりな装置を必要とするため、コスト・工業性の点から好ましくなく、また、タンパク質を簡便に分離することが出来ない。さらに、この手法で使用されている中空糸膜表面は、タンパク質の吸着抑制能に関しては特に考慮されておらず、使用とともにタンパク質が吸着してしまう。
【0046】
タンパク質のような生体高分子を、そのサイズの違いにより分離しようとする場合、分離膜の孔径はナノメートルサイズ、かつ、空孔表面はタンパク質等の吸着抑制能を有する化合物で被覆されていることが望ましい。しかしながら、現在までこのような分離膜は得られていない。上述の本発明にかかる多孔質膜の製造方法を用いることにより、ナノメートルサイズの空孔内の壁面はタンパク質等の吸着抑制能を有するポリエチレングリコールで被覆された多孔質膜を容易に得ることができる。多孔質膜の連続部(支持部)には、医療用材料としての好適な機械的特性を付与するポリスチレンを使用することができる。
従来の手法においては、多孔質膜を作成後、特定の機能を有した化合物で空孔を被覆するという工程が必要であった。また、空孔サイズが小さいため、化学修飾を完全に進行させるのは困難であった。さらに、一旦被覆されたとしても、分離膜として使用中に被膜が剥がれてくる場合もあった。本発明においては、上述のように骨格部表面をポリエチレングリコールで被覆することができ、ポリエチレングリコールは多孔質膜の骨格部と共有結合されているため使用に際しても剥離などが起こることはほとんどない。
【0047】
上述のように本発明においては、特定のSP値を有する有機溶媒とポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体を使用することにより所望の共連続構造が得られる。なお、その他の例として、本発明者らは、ポリメチルメタクリレートとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体と、ポリエチレングリコールホモポリマーと、酢酸エチルまたはテトラヒドロフランを使用することにより、上述の場合と同様に共連続構造を有する塗布膜が得られることを見出している。この場合、上述の水洗工程を実施することにより、上記と同様の構成の多孔質膜が得られる。
なお、ポリメチルメタクリレートとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体を使用する場合、ブロック共重合体の分子量やポリエチレングリコールホモポリマーとの混合比(式(1))などの諸条件については、上記のポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体を使用する場合と同じである。
【実施例】
【0048】
以下に本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されない。
【0049】
後述する原子間力顕微鏡(AFMとも称する)観察は、セイコーインスツルメンツ社製SPA−400装置のタッピングモードを用いて実施した。走査型電子顕微鏡(SEMとも称する)観察は、日立ハイテク社製S5200装置を用いて実施した。得られる多孔質膜の膜厚は、プロファイラ装置(KLA−Tecnor社製)により測定した。
【0050】
<例1>
ブロック共重合体として、Polymer Source社より購入したポリスチレン(ポリマーA)とポリエチレングリコール(ポリマーB)からなるブロック共重合体(A−B型)、P3799−SEOを用いて検討した。P3799−SEOは、ポリスチレン部分の重量平均分子量(Mw)が225,000、ポリエチレングルコール部分の重量平均分子量(Mw)が26,000、Mw/Mn=1.12であった。ポリエチレングリコールホモポリマーとして、重量平均分子量(Mw)600を東京化成社より購入した(以後、PEG600とも称する)。
塗布液として、P3799−SEOの含有量が2.50wt%で、PEG600の含有量が5.00wt%であるクロロホルム(SP値:19.0、10.0ml)溶液を調整した。得られた塗布液を、石英基板上に滴下し、slope:5秒、3000rpm:90秒の条件でスピンコートすることにより塗布膜を得た。なお、「slope 5秒」とは、回転数が3000rpmになるまでの時間を意味する。その後、2mLの脱イオン水で5回洗浄することにより、サンプル1を得た。
式1の定義より、(b1+b2)/(a1+b1+b2)(以後、f(a)とも称する)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル1のAFM観察を行った(図3(a))。平均孔径約250nmの空孔、平均骨格径150nmを有する三次元網目構造が観察された。さらに、液体窒素中でサンプル1を割断し、SEM観察を行った(図3(b))。空孔率は、約45%であった。サンプル1の平均膜厚は、約2000nmであった。
【0051】
<例2>
クロロホルムの代わりにテトラヒドロフラン(THF)(SP値:19.4)を使用した以外は例1と同様の条件により、サンプル2を作製した。
構造を確認するために、サンプル2のAFM観察を行った(図4)。平均孔径320nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約50%であった。サンプル2の平均膜厚は、約1800nmであった。
【0052】
<例3>
クロロホルムの代わりにジクロロメタン(SP値:20.3)を使用した以外は例1と同様の条件により、サンプル3を作製した。
構造を確認するために、サンプル3のAFM観察を行った(図5)。平均孔径520nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約58%であった。サンプル3の平均膜厚は、約1900nmであった。
【0053】
<例4>
P3799−SEOの含有量に5.0wt%、PEG600の含有量を10.0wt%に変更した以外は、例1と同様の条件により、サンプル4を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル4のAFM観察を行った(図6)。平均孔径250nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約45%であった。サンプル4の平均膜厚は、約5300nmであった。
【0054】
<例5>
PEG600の含有量を3.60wt%に変更した以外は、例1と同様の条件により、サンプル5を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.60であった。
構造を確認するために、サンプル5のAFM観察を行った(図7)。平均孔径180nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約41%であった。サンプル5の平均膜厚は、約1500nmであった。
【0055】
<例6>
PEG600の含有量を5.70wt%に変更した以外は、例1と同様の条件により、サンプル6を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.70であった。
構造を確認するために、サンプル6のAFM観察を行った(図8)。平均孔径330nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約62%であった。サンプル6の平均膜厚は、約2100nmであった。
【0056】
<例7>
クロロホルムの代わりにN,N−ジメチルホルムアミド(SP値:24.8)を使用した以外は例1と同様の条件により、サンプル7を作製した。
構造を確認するために、サンプル7のAFM観察を行った(図9)。サンプル7では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0057】
<例8>
クロロホルムの代わりにトルエン(SP値:18.2)を使用した以外は例1と同様の条件により、サンプル8を作製した。
構造を確認するために、サンプル8のAFM観察を行った(図10)。サンプル8では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0058】
<例9>
クロロホルムの代わりに酢酸エチル(SP値:18.2)を使用した以外は例1と同様の条件により、サンプル9を作製した。
構造を確認するために、サンプル9のAFM観察を行った。サンプル9では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0059】
<例10>
PEG600の含有量を3.0wt%に変更した以外は、例1と同様の条件により、サンプル10を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.56であった。
構造を確認するために、サンプル10のAFM観察を行った(図11)。サンプル10では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0060】
<例11>
PEG600の含有量を7.50wt%に変更した以外は、例1と同様の条件により、サンプル11を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.75であった。
構造を確認するために、サンプル11のAFM観察を行った。サンプル11では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0061】
上記例1〜11の結果を、以下の表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1において、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られた場合を○、得られなった場合を×とした。
【0064】
表1より、所定のSP値を有する溶媒を使用することにより三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られた。
【0065】
<例12>
ブロック共重合体として、Polymersource社より購入したポリスチレン(ポリマーA)とポリエチレングリコール(ポリマーB)からなるブロック共重合体(A−B型)、P8163を用いて検討した。P8163は、ポリスチレン部分の重量平均分子量(Mw)が37,000、ポリエチレングルコール部分の重量平均分子量(Mw)が6,500、Mw/Mn=1.06であった。ポリエチレングリコールホモポリマーとして、重量平均分子量(Mw)600を東京化成社より購入した(以後、PEG600とも称する)。
塗布液として、P8163の含有量が2.50wt%で、PEG600の含有量が4.0wt%であるクロロホルム(SP値:19.0、10.0ml)溶液を調整した。得られた塗布液を、石英基板上に滴下し、1500rpm:30秒の条件でスピンコートすることにより塗布膜を得た。その後、2mLの脱イオン水で5回洗浄することにより、サンプル12を得た。
式1の定義より、(b1+b2)/(a1+b1+b2)(以後、f(a)とも称する)値は0.64であった。
構造を確認するために、サンプル12のAFM観察を行った(図12)。平均孔径80nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約35%であった。サンプル12の平均膜厚は、約1200nmであった。
【0066】
<例13>
クロロホルムの代わりにテトラヒドロフラン(THF)(SP値:19.4)を使用し、PEG600の含有量を4.60wt%に変更した以外は例12と同様の条件により、サンプル13を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル13のAFM観察を行った(図13)。平均孔径90nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約40%であった。サンプル13の平均膜厚は、約1400nmであった。
【0067】
<例14>
クロロホルムの代わりにジクロロメタン(SP値:20.3)を使用し、PEG600の含有量を4.60wt%に変更した以外は例12と同様の条件により、サンプル14を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル14のAFM観察を行った(図14)。平均孔径50nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約32%であった。サンプル14の平均膜厚は、約1000nmであった。
【0068】
<例15>
クロロホルムの代わりにN,N−ジメチルホルムアミド(SP値:24.8)を使用し、PEG600の含有量を4.60wt%に変更した以外は例12と同様の条件により、サンプル15を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル15のAFM観察を行った(図15)。サンプル15では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0069】
<例16>
クロロホルムの代わりに酢酸エチル(SP値:18.2)を使用し、PEG600の含有量を4.60wt%に変更した以外は例12と同様の条件により、サンプル16を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル16のAFM観察を行った。サンプル16では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0070】
<例17>
クロロホルムの代わりにトルエン(SP値:18.2)を使用し、PEG600の含有量を4.60wt%に変更した以外は例12と同様の条件により、サンプル17を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル17のAFM観察を行った(図16)。サンプル17では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0071】
上記例12〜17の結果を、以下の表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2において、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られた場合を○、得られなった場合を×とした。
【0074】
表2より、分子量の異なるブロック共重合体を使用した場合でも、所定のSP値を有する溶媒を使用することにより三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られることが確認された。
【0075】
<例18>
ブロック共重合体として、Polymersource社より購入したポリスチレン(ポリマーA)とポリエチレングリコール(ポリマーB)からなるブロック共重合体(A−B型)、P3800を用いて検討した。P3800は、ポリスチレン部分の重量平均分子量(Mw)が130,000、ポリエチレングルコール部分の重量平均分子量(Mw)が18,000、Mw/Mn=1.09であった。ポリエチレングリコールホモポリマーとして、重量平均分子量(Mw)600を東京化成社より購入した(以後、PEG600とも称する)。
塗布液として、P3800の含有量が2.50wt%で、PEG600の含有量が4.20wt%であるクロロホルム(SP値:19.0、10ml)溶液を調整した。得られた塗布液を、石英基板上に滴下し、1500rpm:30秒の条件でスピンコートすることにより塗布膜を得た。その後、2mLの脱イオン水で5回洗浄することにより、サンプル18を得た。
式1の定義より、(b1+b2)/(a1+b1+b2)(以後、f(a)とも称する)値は0.64であった。
構造を確認するために、サンプル18のAFM観察を行った(図17)。平均孔径230nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約40%であった。サンプル18の平均膜厚は、約1600nmであった。
【0076】
<例19>
クロロホルムの代わりにテトラヒドロフラン(THF)(SP値:19.4)を使用し、PEG600の含有量を4.80wt%に変更した以外は例18と同様の条件により、サンプル19を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル19のAFM観察を行った(図18)。平均孔径200nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約38%であった。サンプル19の平均膜厚は、約1600nmであった。
【0077】
<例20>
クロロホルムの代わりにジクロロメタン(SP値:20.3)を使用し、PEG600の含有量を4.80wt%に変更した以外は例18と同様の条件により、サンプル20を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル20のAFM観察を行った(図19)。平均孔径300nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約40%であった。サンプル20の平均膜厚は、約1500nmであった。
【0078】
<例21>
クロロホルムの代わりにN,N−ジメチルホルムアミド(SP値:24.8)を使用し、PEG600の含有量を4.80wt%に変更した以外は例18と同様の条件により、サンプル21を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル21のAFM観察を行った(図20)。サンプル21では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0079】
<例22>
クロロホルムの代わりに酢酸エチル(SP値:18.2)を使用し、PEG600の含有量を4.80wt%に変更した以外は例18と同様の条件により、サンプル22を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル22のAFM観察を行った(図21)。サンプル22では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0080】
<例23>
クロロホルムの代わりにトルエン(SP値:18.2)を使用し、PEG600の含有量を4.80wt%に変更した以外は例18と同様の条件により、サンプル23を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル23のAFM観察を行った(図22)。サンプル23では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0081】
上記例18〜23の結果を、以下の表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3において、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られた場合を○、得られなった場合を×とした。
【0084】
表3より、分子量の異なるブロック共重合体を使用した場合でも、所定のSP値を有する溶媒を使用することにより三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られることが確認された。
【0085】
<例24>
ブロック共重合体として、Polymersource社より購入したポリスチレン(ポリマーA)とポリ(4−ヒドロキシスチレン)(ポリマーB)からなるブロック共重合体(A−B型)、P3355Aを用いて検討した。P3355Aは、ポリスチレン部分の重量平均分子量(Mw)が7,500、ポリ(4−ヒドロキシスチレン)部分の重量平均分子量(Mw)が5,000、Mw/Mn=1.07であった。ポリエチレングリコールホモポリマーとして、重量平均分子量(Mw)600を東京化成社より購入した(以後、PEG600とも称する)。
塗布液として、P3355Aの含有量が2.50wt%で、PEG600の含有量が2.50wt%であるTHF(SP値:19.4、10.0ml)溶液を調整した。得られた塗布液を、石英基板上に滴下し、slope:5秒、3000rpm:90秒の条件でスピンコートすることにより塗布膜を得た。なお、「slope 5秒」とは、回転数が3000rpmになるまでの時間を意味する。その後、2mLの脱イオン水で5回洗浄することにより、サンプル24を得た。
ポリ(4−ヒドロキシスチレン)部分をb1として計算したところ、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル24のAFM観察を行った(図23)。サンプル24では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0086】
<例25>
ブロック共重合体として、Polymersource社より購入したポリスチレン(ポリマーA)とポリ(4−ビニルピリジン)(ポリマーB)からなるブロック共重合体(A−B型)、P4966を用いて検討した。P4966は、ポリスチレン部分の重量平均分子量(Mw)が57,500、ポリ(4−ビニルピリジン)部分の重量平均分子量(Mw)が18,500、Mw/Mn=1.14であった。ポリエチレングリコールホモポリマーとして、重量平均分子量(Mw)600を東京化成社より購入した(以後、PEG600とも称する)。
塗布液として、P4966の含有量が2.50wt%で、PEG600の含有量が3.80wt%であるTHF(SP値:19.4、10.0ml)溶液を調整した。得られた塗布液を、石英基板上に滴下し、slope:5秒、3000rpm:90秒の条件でスピンコートすることにより塗布膜を得た。なお、「slope 5秒」とは、回転数が3000rpmになるまでの時間を意味する。その後、2mLの脱イオン水で5回洗浄することにより、サンプル25を得た。
ポリ(4−ビニルピリジン)部分をb1として計算したところ、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル25のAFM観察を行った(図24)。サンプル25では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は本発明の塗布膜の一つの実施形態を示す断面図である。
【図2】図2(a)は本発明の多孔質膜の一つの実施形態を示す断面図である。図2(b)は本発明の多孔質膜の一つの実施形態を示す斜視断面図である。
【図3】図3(a)は、得られたサンプル1の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。(b)は、サンプル1の割断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】図4は、得られたサンプル2の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図5】図5は、得られたサンプル3の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図6】図6は、得られたサンプル4の割断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】図7は、得られたサンプル5の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図8】図8は、得られたサンプル6の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図9】図9は、得られたサンプル7の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図10】図10は、得られたサンプル8の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図11】図11は、得られたサンプル10の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図12】図12は、得られたサンプル12の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図13】図13は、得られたサンプル13の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図14】図14は、得られたサンプル14の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図15】図15は、得られたサンプル15の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図16】図16は、得られたサンプル17の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図17】図17は、得られたサンプル18の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図18】図18は、得られたサンプル19の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図19】図19は、得られたサンプル20の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図20】図20は、得られたサンプル21の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図21】図21は、得られたサンプル22の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図22】図22は、得られたサンプル23の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図23】図23は、得られたサンプル24の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図24】図24は、得られたサンプル25の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【符号の説明】
【0088】
10 塗布膜
12、22 基板
14 ポリスチレン連続相
16 ポリエチレングリコール連続相
20 多孔質膜
24 ポリスチレン部
26 ポリエチレングリコール部
28 空孔部
30 骨格部
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元網目状構造を有する多孔質膜、より詳しくは、ポリエチレングリコールの連続相と、ポリスチレンの連続相とが互いに絡み合った三次元共連続構造を有し、ポリエチレングリコールの連続相内に連通する空孔が存在する多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメートルレベルで空孔径や膜厚などが構造制御された構造体への関心が高まっている。こうした構造体の中でも、ナノメーターオーダーの空孔を有する多孔質膜は、磁気記録媒体、太陽電池、発光素子、分離膜などに応用可能と考えられ、特に、空孔が三次元網目状に連通する多孔質膜は、逆浸透膜、精密ろ過膜、限外ろ過膜、NF膜などの分離膜への応用が期待される。また、これらの多孔質膜の骨格部壁面を親水化処理など機能化することにより、従来にない機能を有する材料の創製が可能と期待される。
【0003】
このような多孔質膜を得るために、異種のポリマー鎖が連結したブロック共重合体を利用することが提案されている。ブロック共重合体は自己組織化によって、ラメラ状構造、シリンダー状構造、共連続構造など種々のナノパターンを有するミクロ相分離構造を形成することが知られている。この性質を利用してブロック共重合体を適当な溶媒に溶かして被加工体上に塗布し、規則配列したパターンを作製した後、空孔を形成させ多孔質膜を得ることができる。例えば、非特許文献1では、ポリスチレンとポリイソプレンとからなるブロック共重合体を用いて、共連続構造のミクロ相分離構造を有する構造体を形成させた後、ポリイソプレンをオゾン分解して、除去することにより連通した空孔を有する多孔体を製造している。また、特許文献1では、ポリ(2−ビニルピリジン)とポリイソプレンとからなるブロック共重合体とポリ(2−ビニルピリジン)ホモポリマーとを用いて、共連続構造を形成させ、その後、ポリ(2−ビニルピリジン)ホモポリマーを溶出させることにより多孔体を作製している。
【0004】
【非特許文献1】T. Hashimoto, et. al. “Nanoprocessing Based on Bicontinuous Microdomains of Block Copolymers: Nanochannels Coated with Metals” Langmuir 1997, 13, 6869-6872.
【特許文献1】特開平11−80414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1で使用されているオゾン分解処理では、大面積での処理ができず、かつ分解に時間がかかるため生産性の観点からは満足できるものではなかった。また、所望の分解させたい相のみだけでなく構造体全体がダメージを受けると共に、空孔の大きさにばらつきが生じるという問題があった。
さらに、オゾン分解処理により得られた空孔の壁面を、親水性化やタンパク質吸着抑制能付与などのために表面修飾しようとしても、空孔のサイズが非常に小さいため表面修飾が十分には進行しないという問題があった。さらには、表面修飾に使用した化合物などにより、空孔が埋められてしまうという問題や、該化合物と壁面との接着が十分ではなく表面の機能層が剥離してしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献1においては、開示されているブロック共重合体は疎水性ポリマー同士からなる特定の種類のものだけである。概して、性質の異なるポリマー鎖からなるブロック共重合体を使用してミクロ相分離構造を作製する場合、必ずしも満足できる結果は得られていない。
特に、親水性ポリマーと疎水性ポリマーとからなるブロック共重合体の場合は、ポリマー中の構成成分の性質が全く異なるため所望のミクロ相分離構造が得られにくく、未だ十分な知見は得られていないのが現状である。つまり、親水性ポリマーと疎水性ポリマーからなるいわゆる両親媒性のブロック共重合体では、ポリマー鎖間の極性などが大きく異なるため、上述した疎水性ポリマー同士からなるブロック共重合体と比較しても、より複雑な挙動を示し、十分な解析がなされておらず、配向制御技術のさらなる改良が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みて、親水性ポリマーと疎水性ポリマーとからなるブロック共重合体である、ポリエチレングリコールとポリスチレンとからなるブロック共重合体を用いて形成され、相互に連通した空孔を備える三次元網目状構造を有し、三次元網目状構造の骨格部表面上がポリエチレングリコールにより機能化された多孔質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体と、このブロック共重合体を含む塗布液を構成する有機溶媒との親和性に着目し、相分離挙動の詳細な検討を行った結果、特定のSP値を有する有機溶媒を使用することにより共連続構造が選択的に形成されることを見出した。さらに、この共連続構造が形成された膜を水洗することで、塗布膜中からポリエチレングリコールホモポリマーのみが除去され、相互に連通した空孔を有する三次元網目状構造の多孔質膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
つまり、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題が下記の<1>〜<10>の構成により解決されることを見出した。
<1> 下記式(1)を満足する、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体およびポリエチレングリコールホモポリマーと、SP値が18.5〜22.0である有機溶媒とを含む溶液を、基板表面に塗布して、ポリスチレンの連続相とポリエチレングリコールの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有する塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜中の前記ポリエチレングリコールホモポリマーを水を用いて除去する工程を含む方法により得られる、三次元網目状構造を有する多孔質膜。
0.6≦(b1+b2)/(a1+b1+b2)≦0.7 式(1)
(式(1)中、a1は塗布膜中におけるブロック共重合体のポリスチレンの体積を表す。b1は、塗布膜中におけるブロック共重合体のポリエチレングリコールの体積を表す。b2は、塗布膜中におけるポリエチレングリコールホモポリマーの体積を表す。)
<2> 前記有機溶媒が、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、およびシクロヘキサノンからなる群より選ばれる少なくとも1種である<1>に記載の多孔質膜。
<3> 前記多孔質膜の空孔率が、30〜75%である<1>または<2>に記載の多孔質膜。
<4> 前記ブロック共重合体中のポリスチレンとポリエチレングリコールとの共重合比が、ポリスチレン/ポリエチレングリコール(体積比)=0.99/0.01〜0.5/0.5である<1>〜<3>のいずれかに記載の多孔質膜。
<5> 前記ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体の重量平均分子量が、1×104以上である<1>〜<4>のいずれかに記載の多孔質膜。
<6> 前記ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体の分子量分布が、Mw/Mn=1.00〜1.50である<1>〜<5>のいずれかに記載の多孔質膜。
<7> 前記溶液中における前記ポリエチレングリコールホモポリマーの含有量が、溶液全体量に対して、0.1〜12.0wt%である<1>〜<6>のいずれかに記載の多孔質膜。
<8> 前記ポリエチレングリコールホモポリマーの分子量分布が、Mw/Mn=1.0〜3.0である<1>〜<7>のいずれかに記載の多孔質膜。
<9> 前記ポリエチレングリコールホモポリマーの重量平均分子量が、50〜1.0×104である<1>〜<8>のいずれかに記載の多孔質膜。
<10> ポリエチレングリコールの連続相と、ポリスチレンの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有し、前記ポリエチレングリコールの連続相内に連通する空孔が存在する、三次元網目状構造を有する多孔質膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、親水性ポリマーと疎水性ポリマーとからなるブロック共重合体である、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体を用いて形成され、相互に連通した空孔を備える三次元網目状構造を有し、三次元網目状構造の骨格部表面上がポリエチレングリコールにより機能化された多孔質膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の三次元網目状構造を有する多孔質膜の製造方法、およびその製造方法より得られる多孔質膜について説明する。
【0012】
<多孔質膜の製造方法>
本発明に係る多孔質膜は、主に以下の工程によって製造することができる。
<工程1> 下記式(1)を満足する、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体およびポリエチレングリコールホモポリマーと、SP値が18.5〜22.0である有機溶媒とを含む溶液を、基板表面に塗布して、ポリスチレンの連続相とポリエチレングリコールの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有する塗布膜を形成する工程
0.6≦(b1+b2)/(a1+b1+b2)≦0.7 式(1)
(式(1)中、a1は塗布膜中におけるブロック共重合体のポリスチレンの体積を表す。b1は、塗布膜中におけるブロック共重合体のポリエチレングリコールの体積を表す。b2は、塗布膜中におけるポリエチレングリコールホモポリマーの体積を表す。)
<工程2> 工程1で得られた塗布膜中のポリエチレングリコールホモポリマーを水を用いて除去する工程
まず、以下に、多孔質膜を製造するための各工程、および各工程で使用される材料について詳述する。
【0013】
<工程1>
工程1は、下記式(1)を満足する、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体およびポリエチレングリコールホモポリマーと、SP値が18.5〜22.0である有機溶媒とを含む溶液を、基板表面に塗布して、ポリスチレンの連続相とポリエチレングリコールの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有する塗布膜を形成する工程である。
0.6≦(b1+b2)/(a1+b1+b2)≦0.7 式(1)
(式(1)中、a1は塗布膜中におけるブロック共重合体のポリスチレンの体積を表す。b1は、塗布膜中におけるブロック共重合体のポリエチレングリコールの体積を表す。b2は、塗布膜中におけるポリエチレングリコールホモポリマーの体積を表す。)
まず、工程1で使用される各材料について説明する。
【0014】
<ブロック共重合体>
一般的に、ブロック共重合体(ブロックコポリマー)とは、複数の種類のホモポリマー鎖がブロック(構成成分)として結合した高分子をいう。例えば、繰り返し構成単位がAモノマー由来のポリマーA鎖と繰り返し構成単位がBモノマー由来のポリマーB鎖とが末端同士で結合したポリマーなどが挙げられる。ブロック共重合体は、ランダムコポリマーと異なり、例えば、ポリマーA鎖が凝集したA相とポリマーB鎖が凝集したB相とが空間的に分離した構造(ミクロ相分離構造)を形成することが知られている。一般のポリマーブレンドで得られる相分離(マクロ相分離)では、2種のポリマー鎖が完全に分離できるため最終的に完全に2相に分かれ、その単位セルの大きさは1μm以上である。これに対して、ブロック共重合体で得られるミクロ相分離構造における単位セルの大きさは、数nm〜数十nmのオーダーである。なお、ミクロ相分離構造は、構成成分の組成によって、球状ミセル構造、シリンダー構造、ラメラ構造、共連続構造などの構造をとることが知られている。
【0015】
本発明に使用されるブロック共重合体は、ポリスチレン(以下、ポリマーAとも称する)とポリエチレングリコール(以下、ポリマーBとも称する)とからなり、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体またはマルチブロック共重合体のいずれの態様であってもよい。具体的には、ポリマーAからなる部分およびポリマーBからなる部分をそれぞれAブロックおよびBブロックとすると、−A−B−という構造を有する一つのAブロックと一つのBブロックとが結合したA−B型ブロック共重合体や、−A−B−A−という構造を有するBブロックの両端にAブロックが結合したA−B−A型ブロック共重合体や、−B−A−B−という構造を有するAブロックの両端にBブロックが結合したB−A−B型ブロック共重合体などが挙げられる。さらに、−(A−B)n−という構造を有する複数のAブロックとBブロックからなるブロック共重合体を用いてもよい。なかでも、入手のしやすさ、合成のしやすさの観点から、A−B型ブロック共重合体(ジブロック共重合体)が好ましい。なお、ポリマー同士を接続する化学結合は、共有結合が好ましい。
【0016】
本発明にかかるブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、使用目的により適宜選択されるが、1×104以上が好ましく、なかでも1×104〜1×107が好ましく、5×104〜1×106がより好ましい。なお、上記重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定し、標準ポリスチレンに換算したときの重量平均分子量である。上記範囲内であれば、塗布液の取り扱いがより容易となる。
【0017】
本発明にかかるブロック共重合体は、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的には、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とで表される分子量分布(Mw/Mn)が、1.00〜1.50であることが好ましく、1.00〜1.15であることがより好ましい。Mw/Mnの値が上記範囲内であれば、より均一なサイズを有するミクロ相分離構造を形成することができる。
【0018】
本発明にかかるブロック共重合体の共重合比率は、塗布膜で共連続構造が得られるように適宜選択される。
例えば、ジブロック共重合体(A−B型)またはトリブロック共重合体(A−B−A型)の場合、共重合体を構成するポリマーA(ポリスチレン)とポリマーB(ポリエチレングリコール)との比率ポリマーA/ポリマーB=0.99/0.01〜0.5/0.5(体積比)が好ましく、より好ましくは0.95/0.05〜0.75/0.25(体積比)である。上記範囲内であれば、連続相同士がより絡み合った共連続構造が得られる。
【0019】
本発明にかかるブロック共重合体は、公知の方法で合成することができる。例えば、アニオンリビング重合、カチオンリビング重合、リビングラジカル重合、グループトランスファー重合、開環メタセシス重合等の手法を利用することが可能である。また、市販品を使用してもよい。
【0020】
<ポリエチレングリコールホモポリマー>
本発明で使用されるポリエチレングリコールホモポリマーは、上述のブロック共重合体の構成ポリマー鎖であるポリエチレングリコールと同じ構造である。このホモポリマーは、後述する塗布膜中においてブロック共重合体によって形成される共連続構造のポリエチレングリコール連続相内に含まれる。
【0021】
本発明にかかるポリエチレングリコールホモポリマーの重量平均分子量(Mw)は、得られる多孔質膜の空孔の大きさや、上述のブロック共重合体の分子量との関係で適宜選択されるが、50〜1.0×104が好ましく、100〜5.0×103がより好ましい。上記範囲内であれば、後述する多孔質膜の空孔がより制御しやすくなるという点で好ましい。なお、上記重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定し、標準ポリスチレンに換算したときの重量平均分子量である。
【0022】
本発明にかかるポリエチレングリコールホモポリマーは、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的には、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とで表される分子量分布(Mw/Mn)が、1.0〜3.0であることが好ましく、1.0〜1.5であることがより好ましい。Mw/Mnの値が上記範囲内であれば、後述する多孔質膜の空孔がより制御しやすくなる。
【0023】
上述のブロック共重合体とポリエチレングリコールホモポリマーとの溶液中の含有量は、使用するポリマーの種類などにより適宜選択される。なかでも、得られる塗布膜の膜厚の制御が容易な点で、溶液中のブロック共重合体およびポリエチレングリコールホモポリマーの合計含有量は、溶液全量に対して、0.5〜15.0wt%が好ましく、1.0〜10.0wt%がより好ましい。なかでも、溶液中のポリエチレングリコールホモポリマーの含有量は、溶液全量に対して、0.1〜12wt%が好ましく、0.2〜10wt%がより好ましくは、 0.5〜8wt%が特に好ましい。
【0024】
<有機溶媒>
本発明で使用される有機溶媒は、SP値(溶解度バラメーター)が18.5〜22.0である。より好ましくは、18.5〜21.5であり、さらに好ましくは18.5〜21.0である。上記範囲内であると、所望の共連続構造が形成される。ここで、SP値は、Polymer Handbook Fourth Edition Volume2(A John Wiley & Sons,Inc.,Publication)J.BRANDRUP、E.H.IMMERGUT、and E.A.GRULKE (1999) P.675〜714に記載の方法を用いて得られる値である。
【0025】
上記有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸、シクロヘキサノン、メチルブロマイド、トリクロロエタン、ジメチルスルフィド、2−エチルヘキサノール、ジクロロベンゼン、ブロモナフタレンなどが挙げられる。なかでも、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンがより好ましい。
【0026】
有機溶媒の溶液中の含有量は、上述したポリマーの種類などにより適宜選択される。なかでも、得られる塗布膜の膜厚の制御が容易な点で、有機溶媒の含有量は、溶液全量に対して、85.0〜99.5wt%が好ましく、90.0〜99.0wt%がより好ましい。
【0027】
<式(1)>
次に、本発明に用いられる、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体とポリエチレングリコールホモポリマーとの混合比について説明する。本発明においてブロック共重合体とポリエチレングリコールホモポリマーとは、塗布膜中におけるブロック共重合体中のポリスチレンが占める体積をa1、ブロック共重合体中のポリエチレングリコールが占める体積をb1、ポリエチレングリコールホモポリマーが占める体積をb2とした場合、下記式(1)の関係を満たす。
0.6≦(b1+b2)/(a1+b1+b2)≦0.7 式(1)
【0028】
それぞれの体積は、それぞれのポリマーの密度を用いて導かれる。式(1)の計算方法は特に制限されず、例えば、まず、塗布膜中におけるブロック共重合体のポリスチレンと、ブロック共重合体のポリエチレングリコールと、ポリエチレングリコールホモポリマーとの質量比を計算する。ここで、ブロック共重合体のポリスチレン:ブロック共重合体のポリエチレングリコール:ポリエチレングリコールホモポリマーの質量比を、F(a1):F(b1):F(b2)とする。次に、ポリスチレンの密度、ポリエチレングリコールの密度を、それぞれd(PSt)、d(PEG)とすると、以下のように、式(1)が計算される。
{(F(b1)/d(PEG))+(F(b2)/d(PEG))}/{(F(a1)/d(PSt))+(F(b1)/d(PEG))+(F(b2)/d(PEG))}
なお、それぞれのポリマーの密度は、Polymer Handbook Fourth Edition Volume2(A John Wiley & Sons,Inc.,Publication)、J.BRANDRUP、E.H.IMMERGUT、and E.A.GRULKE (1999)などに記載される数値を用いることができる。
【0029】
(b1+b2)/(a1+b1+b2)の値が上記範囲内の場合、ブロック共重合体とポリエチレングリコールホモポリマーとにより共連続構造のミクロ相分離が形成される。より詳細には、ブロック共重合体中のポリエチレングリコールとポリエチレングリコールホモポリマーとにより構成されるポリエチレングリコールの連続相と、ブロック共重合体中のポリスチレンから構成されるポリスチレンの連続相とが、三次元網目状に絡み合った共連続構造が形成される。共連続構造については、例えば、非特許文献1などに詳述されている。
なお、後述する水洗工程を経ることにより、ポリエチレングリコールホモポリマーが選択的に除去され、所望の連通した空孔を備える三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られる。
【0030】
<基板>
本発明において基板は、後述する多孔質膜を積層し、かつ支持するためのものであれば、特に制限されない。例えば、ポリイミド(PI)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)などのポリマー基板、銅箔、アルミニウム箔などの金属フィルム、石英基板、ガラス基板、シリコン基板などが挙げられる。なかでも、フレキシブル性の点で、ポリマー基板、金属フィルムが好ましい。
【0031】
なお、上記基板のなかで好ましい例の一つとして、基板表面上にポリヒドロキシスチレンなどの層を備える基板(特に、石英基板)を使用することができる。この層は、剥離層として作用する。具体的には、この層を備える基板上に多孔質膜を形成した後、この層のみが溶解する特定の溶媒と接触させることにより、基板から容易に多孔質膜を剥離することができる。
【0032】
<塗布方法>
上述の溶液の塗布方法としては、厚みが均一でかつ表面が平滑になるものであれば特に限定されず、例えば、スピンコート法、スプレー法、ロールコート法、インクジェット法などの方法を採用することができる。中でも、生産性の観点から、スピンコート法が好ましい。スピンコート法の条件は、使用するブロック共重合体などにより適宜選択される。塗布後に、必要に応じて、乾燥工程を設けてもよい。溶媒を除去するための乾燥条件としては、適用される基板、および使用するブロック共重合体などに応じて適宜選択されるが、20〜200℃の温度で、0.1〜24時間の処理を行うことが好ましい。特に好ましい温度としては、20〜150℃が好ましく、さらに好ましくは、20〜120℃である。乾燥処理は数回に分けて行ってもよい。この乾燥処理は、窒素雰囲気下、低濃度酸素下または大気圧10トール以下で行うことが特に好ましい。
【0033】
図1は、工程1により得られる共連続構造を有する塗布膜の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す塗布膜10は、基板12上に積層される。なお、同図において、塗布膜10は、ジブロック共重合体(ポリスチレンとポリエチレングリコールとが末端で結合)を用いて得られるミクロ相分離構造を有する。具体的には、ポリスチレン連続相14とポリエチレングリコール連続相16とがそれぞれ連続相を形成し、互いに3次元的に絡み合った共連続構造を形成している。
【0034】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた塗布膜中のポリエチレングリコールホモポリマーを水を用いて除去する工程(水洗工程)である。工程2により、工程1で得られた塗布膜からポリエチレングリコールホモポリマーのみが除去され、ポリエチレングリコール連続相内に三次元網目状に連通する空孔が形成される。結果として、三次元網目状の骨格を有する多孔質膜が得られる。
【0035】
ポリエチレングリコールホモポリマーを取り除くための水による洗浄方法としては、ポリエチレングリコールホモポリマーが除去できれば特に限定されず、例えば、工程1で得られた塗布膜の上からシャワーにより水をふりかける方法や、水中に工程1で得られた塗布膜を浸漬させる方法などが挙げられる。この洗浄工程は、複数回行ってもよい。洗浄時間に関しては、使用する材料などにより適宜最適な条件が選択される。なお、工程2後に、得られた多孔質膜を適宜基板から取り外してもよい。
【0036】
<多孔質膜>
図2(a)は、本発明の三次元網目状構造を有する多孔質膜の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す多孔質膜20は、基板22上に積層される。多孔質膜20は、図1に示す塗布膜10のポリエチレングリコール連続相16内に連通する空孔部が形成された構造をとる。より具体的には、多孔質膜20は、相互に連通した空孔部28と三次元網目状の骨格部30とから構成されており、空孔部28と骨格部30が相互に絡み合った共連続構造を形成する。骨格部30は、中心部のポリスチレン部分24と、ポリスチレン部分24の表層にあるポリエチレングリコール部分26とから構成されている。
【0037】
図2(b)は、本発明の三次元網目状構造を有する多孔質膜の一実施形態の斜視断面図である。
同図に示す多孔質膜20は、基板22上に積層される。多孔質膜20は、相互に連通した空孔部28と三次元網目状の骨格部30とで構成されている。
【0038】
本発明の多孔質膜20は、相互に連通した空孔部28と三次元網目状の骨格部30とから構成されており、空孔28と骨格部30が相互に絡み合った共連続構造を形成する。共連続構造が形成されると、負荷が集中し難く、機械的強度が向上するという利点も有する。多孔質膜の構造決定は、SEM観察やTEM観察などにより行うことができる。
【0039】
本発明の多孔質膜20の空孔部28の平均孔径(平均直径)は、使用するブロック共重合体やポリエチレングリコールホモポリマーの使用量などを調整することにより、適宜制御できる。なかでも、0.01〜10μmが好ましく、0.05〜1μmがより好ましい。平均孔径が小さすぎると、透過性能が悪化する。一方、平均孔径が大きすぎると、機械的強度に劣る。平均孔径は、SEM(走査型電子顕微鏡)写真(約1000nm×1000nmの範囲、もしくは、約10000nm×10000nmの範囲)で観察される多孔質膜表面上の空孔を少なくとも2個以上、好ましくは10個以上の任意の空孔の直径を測定して、数平均して求めた値である。
【0040】
本発明の多孔質膜20の内部の空孔率は、使用するブロック共重合体やポリエチレングリコールホモポリマーの種類、使用量を調整することにより、適宜制御することができる。なかでも、30〜75%が好ましく、より好ましくは35〜65%である。空孔率が低すぎると、透過性能が悪化する。一方、空孔率が高すぎると、機械的強度に劣る。空孔率は、空孔率は、多孔質膜の断面をSEMにて分析し、その分析によって得られた拡大写真より、単位面積当たりに占める空孔の面積の比率(%)として求めることができる。
【0041】
本発明の多孔質膜20の厚みは、使用目的により適宜最適な値が選択される。なかでも、0.05〜100μmが好ましく、より好ましくは0.1〜50μmである。厚みが薄すぎると、膜の機械強度が充分でなくなる。厚すぎると、空孔分布を均一に制御することが困難になる。膜厚の測定方法としては、プロファイラ装置(KLA−Tecnor社製)により、膜表面上の任意の点を3ヵ所以上測定して数平均して求めた値である。
【0042】
本発明の多孔質膜20の骨格部30の大きさ(断面直径)は、使用される材料により適宜制御することができる。なかでも、10〜1000nmが好ましく、25〜750nmがより好ましく、50〜500nmがさらに好ましい。上記範囲内であれば、膜の機械強度と透過性能のバランスがより優れる。骨格部30の断面形状が楕円の場合は、長径が上記範囲内にあればよい。空孔率は、多孔質膜の断面をSEMにて分析し、得られた拡大写真より、任意の骨格部分を3ヵ所以上測定して数平均して求めた値である
【0043】
本発明の多孔質膜は、ポリスチレンとポリエチレングリコールとから構成されているが、多孔質膜の骨格部壁面には主成分としてポリエチレングリコールが存在する。つまり、多孔質膜の骨格部中心を構成するポリスチレンとは機能の異なるポリエチレングリコールにより骨格部壁面が被覆されている。従来使用されていたイオンエッチングなどを使用して一方のミクロドメイン部を分解して多孔質膜を得る方法では、一方のミクロドメインを構成する成分がすべて分解・除去されてしまい、他方の構成成分のみが残ることになる。そのため残部である骨格部を構成する成分が有する性質と異なる性質・機能を骨格部壁面に持たせる場合には、新たに骨格部壁面を化学修飾する手間を伴う。また、空孔が非常に小さいため、骨格部壁面を完全に化学修飾することは非常に困難である。一方、本発明にかかる方法によれば、機械的強度に優れるポリスチレンを多孔質膜の骨格部(支持部)として使用し、かつ、ポリエチレングリコールを用いて骨格部壁面を容易に機能化することが可能となる。
【0044】
<用途>
本発明にかかる多孔質膜は、多様な用途に応用することが可能である。例えば、電子情報記録媒体、吸着剤、ナノ反応場膜、分離膜、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの偏光板保護フィルムなどが挙げられる。なかでも、本発明により得られた多孔質膜は、骨格部表面がポリエチレングリコールで被覆されているため、水溶媒中の物質を分離するための機能性分離膜として好適に使用することが出来る。特に、タンパク質等の生体高分子や細胞等に対する吸着抑制能を有する分離膜として、好ましく用いることが可能となる。
また、三次元網目状構造の骨格部表面が親水性を示すため、順浸透膜(FO膜)、逆浸透膜(RO膜)、ナノ濾過膜(NF膜)、限外濾過膜(UF膜)、精密濾過膜(MF膜)等の水用の濾過膜としても好適に使用できる。
【0045】
タンパク質の分離法としては、従来からゲル電気泳動法が知られている(「タンパク質ハンドブック」G.Walsh著、平山ら訳(丸善)p167)。しかしこの手法では、タンパク質が変性してしまう場合が多く、また、ゲルからタンパク質を取り出すことも容易ではない。その他の方法としては中空糸膜を用いて、タンパク質を分離する手法も報告されている(特開2006−89468号公報)。この手法を用いることにより、マーカータンパク質として有用な分子量60kDa以下のタンパク質を選択的に濃縮可能であることが報告されている。しかしこの手法では大掛かりな装置を必要とするため、コスト・工業性の点から好ましくなく、また、タンパク質を簡便に分離することが出来ない。さらに、この手法で使用されている中空糸膜表面は、タンパク質の吸着抑制能に関しては特に考慮されておらず、使用とともにタンパク質が吸着してしまう。
【0046】
タンパク質のような生体高分子を、そのサイズの違いにより分離しようとする場合、分離膜の孔径はナノメートルサイズ、かつ、空孔表面はタンパク質等の吸着抑制能を有する化合物で被覆されていることが望ましい。しかしながら、現在までこのような分離膜は得られていない。上述の本発明にかかる多孔質膜の製造方法を用いることにより、ナノメートルサイズの空孔内の壁面はタンパク質等の吸着抑制能を有するポリエチレングリコールで被覆された多孔質膜を容易に得ることができる。多孔質膜の連続部(支持部)には、医療用材料としての好適な機械的特性を付与するポリスチレンを使用することができる。
従来の手法においては、多孔質膜を作成後、特定の機能を有した化合物で空孔を被覆するという工程が必要であった。また、空孔サイズが小さいため、化学修飾を完全に進行させるのは困難であった。さらに、一旦被覆されたとしても、分離膜として使用中に被膜が剥がれてくる場合もあった。本発明においては、上述のように骨格部表面をポリエチレングリコールで被覆することができ、ポリエチレングリコールは多孔質膜の骨格部と共有結合されているため使用に際しても剥離などが起こることはほとんどない。
【0047】
上述のように本発明においては、特定のSP値を有する有機溶媒とポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体を使用することにより所望の共連続構造が得られる。なお、その他の例として、本発明者らは、ポリメチルメタクリレートとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体と、ポリエチレングリコールホモポリマーと、酢酸エチルまたはテトラヒドロフランを使用することにより、上述の場合と同様に共連続構造を有する塗布膜が得られることを見出している。この場合、上述の水洗工程を実施することにより、上記と同様の構成の多孔質膜が得られる。
なお、ポリメチルメタクリレートとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体を使用する場合、ブロック共重合体の分子量やポリエチレングリコールホモポリマーとの混合比(式(1))などの諸条件については、上記のポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体を使用する場合と同じである。
【実施例】
【0048】
以下に本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されない。
【0049】
後述する原子間力顕微鏡(AFMとも称する)観察は、セイコーインスツルメンツ社製SPA−400装置のタッピングモードを用いて実施した。走査型電子顕微鏡(SEMとも称する)観察は、日立ハイテク社製S5200装置を用いて実施した。得られる多孔質膜の膜厚は、プロファイラ装置(KLA−Tecnor社製)により測定した。
【0050】
<例1>
ブロック共重合体として、Polymer Source社より購入したポリスチレン(ポリマーA)とポリエチレングリコール(ポリマーB)からなるブロック共重合体(A−B型)、P3799−SEOを用いて検討した。P3799−SEOは、ポリスチレン部分の重量平均分子量(Mw)が225,000、ポリエチレングルコール部分の重量平均分子量(Mw)が26,000、Mw/Mn=1.12であった。ポリエチレングリコールホモポリマーとして、重量平均分子量(Mw)600を東京化成社より購入した(以後、PEG600とも称する)。
塗布液として、P3799−SEOの含有量が2.50wt%で、PEG600の含有量が5.00wt%であるクロロホルム(SP値:19.0、10.0ml)溶液を調整した。得られた塗布液を、石英基板上に滴下し、slope:5秒、3000rpm:90秒の条件でスピンコートすることにより塗布膜を得た。なお、「slope 5秒」とは、回転数が3000rpmになるまでの時間を意味する。その後、2mLの脱イオン水で5回洗浄することにより、サンプル1を得た。
式1の定義より、(b1+b2)/(a1+b1+b2)(以後、f(a)とも称する)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル1のAFM観察を行った(図3(a))。平均孔径約250nmの空孔、平均骨格径150nmを有する三次元網目構造が観察された。さらに、液体窒素中でサンプル1を割断し、SEM観察を行った(図3(b))。空孔率は、約45%であった。サンプル1の平均膜厚は、約2000nmであった。
【0051】
<例2>
クロロホルムの代わりにテトラヒドロフラン(THF)(SP値:19.4)を使用した以外は例1と同様の条件により、サンプル2を作製した。
構造を確認するために、サンプル2のAFM観察を行った(図4)。平均孔径320nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約50%であった。サンプル2の平均膜厚は、約1800nmであった。
【0052】
<例3>
クロロホルムの代わりにジクロロメタン(SP値:20.3)を使用した以外は例1と同様の条件により、サンプル3を作製した。
構造を確認するために、サンプル3のAFM観察を行った(図5)。平均孔径520nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約58%であった。サンプル3の平均膜厚は、約1900nmであった。
【0053】
<例4>
P3799−SEOの含有量に5.0wt%、PEG600の含有量を10.0wt%に変更した以外は、例1と同様の条件により、サンプル4を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル4のAFM観察を行った(図6)。平均孔径250nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約45%であった。サンプル4の平均膜厚は、約5300nmであった。
【0054】
<例5>
PEG600の含有量を3.60wt%に変更した以外は、例1と同様の条件により、サンプル5を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.60であった。
構造を確認するために、サンプル5のAFM観察を行った(図7)。平均孔径180nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約41%であった。サンプル5の平均膜厚は、約1500nmであった。
【0055】
<例6>
PEG600の含有量を5.70wt%に変更した以外は、例1と同様の条件により、サンプル6を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.70であった。
構造を確認するために、サンプル6のAFM観察を行った(図8)。平均孔径330nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約62%であった。サンプル6の平均膜厚は、約2100nmであった。
【0056】
<例7>
クロロホルムの代わりにN,N−ジメチルホルムアミド(SP値:24.8)を使用した以外は例1と同様の条件により、サンプル7を作製した。
構造を確認するために、サンプル7のAFM観察を行った(図9)。サンプル7では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0057】
<例8>
クロロホルムの代わりにトルエン(SP値:18.2)を使用した以外は例1と同様の条件により、サンプル8を作製した。
構造を確認するために、サンプル8のAFM観察を行った(図10)。サンプル8では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0058】
<例9>
クロロホルムの代わりに酢酸エチル(SP値:18.2)を使用した以外は例1と同様の条件により、サンプル9を作製した。
構造を確認するために、サンプル9のAFM観察を行った。サンプル9では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0059】
<例10>
PEG600の含有量を3.0wt%に変更した以外は、例1と同様の条件により、サンプル10を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.56であった。
構造を確認するために、サンプル10のAFM観察を行った(図11)。サンプル10では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0060】
<例11>
PEG600の含有量を7.50wt%に変更した以外は、例1と同様の条件により、サンプル11を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.75であった。
構造を確認するために、サンプル11のAFM観察を行った。サンプル11では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0061】
上記例1〜11の結果を、以下の表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1において、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られた場合を○、得られなった場合を×とした。
【0064】
表1より、所定のSP値を有する溶媒を使用することにより三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られた。
【0065】
<例12>
ブロック共重合体として、Polymersource社より購入したポリスチレン(ポリマーA)とポリエチレングリコール(ポリマーB)からなるブロック共重合体(A−B型)、P8163を用いて検討した。P8163は、ポリスチレン部分の重量平均分子量(Mw)が37,000、ポリエチレングルコール部分の重量平均分子量(Mw)が6,500、Mw/Mn=1.06であった。ポリエチレングリコールホモポリマーとして、重量平均分子量(Mw)600を東京化成社より購入した(以後、PEG600とも称する)。
塗布液として、P8163の含有量が2.50wt%で、PEG600の含有量が4.0wt%であるクロロホルム(SP値:19.0、10.0ml)溶液を調整した。得られた塗布液を、石英基板上に滴下し、1500rpm:30秒の条件でスピンコートすることにより塗布膜を得た。その後、2mLの脱イオン水で5回洗浄することにより、サンプル12を得た。
式1の定義より、(b1+b2)/(a1+b1+b2)(以後、f(a)とも称する)値は0.64であった。
構造を確認するために、サンプル12のAFM観察を行った(図12)。平均孔径80nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約35%であった。サンプル12の平均膜厚は、約1200nmであった。
【0066】
<例13>
クロロホルムの代わりにテトラヒドロフラン(THF)(SP値:19.4)を使用し、PEG600の含有量を4.60wt%に変更した以外は例12と同様の条件により、サンプル13を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル13のAFM観察を行った(図13)。平均孔径90nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約40%であった。サンプル13の平均膜厚は、約1400nmであった。
【0067】
<例14>
クロロホルムの代わりにジクロロメタン(SP値:20.3)を使用し、PEG600の含有量を4.60wt%に変更した以外は例12と同様の条件により、サンプル14を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル14のAFM観察を行った(図14)。平均孔径50nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約32%であった。サンプル14の平均膜厚は、約1000nmであった。
【0068】
<例15>
クロロホルムの代わりにN,N−ジメチルホルムアミド(SP値:24.8)を使用し、PEG600の含有量を4.60wt%に変更した以外は例12と同様の条件により、サンプル15を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル15のAFM観察を行った(図15)。サンプル15では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0069】
<例16>
クロロホルムの代わりに酢酸エチル(SP値:18.2)を使用し、PEG600の含有量を4.60wt%に変更した以外は例12と同様の条件により、サンプル16を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル16のAFM観察を行った。サンプル16では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0070】
<例17>
クロロホルムの代わりにトルエン(SP値:18.2)を使用し、PEG600の含有量を4.60wt%に変更した以外は例12と同様の条件により、サンプル17を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル17のAFM観察を行った(図16)。サンプル17では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0071】
上記例12〜17の結果を、以下の表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2において、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られた場合を○、得られなった場合を×とした。
【0074】
表2より、分子量の異なるブロック共重合体を使用した場合でも、所定のSP値を有する溶媒を使用することにより三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られることが確認された。
【0075】
<例18>
ブロック共重合体として、Polymersource社より購入したポリスチレン(ポリマーA)とポリエチレングリコール(ポリマーB)からなるブロック共重合体(A−B型)、P3800を用いて検討した。P3800は、ポリスチレン部分の重量平均分子量(Mw)が130,000、ポリエチレングルコール部分の重量平均分子量(Mw)が18,000、Mw/Mn=1.09であった。ポリエチレングリコールホモポリマーとして、重量平均分子量(Mw)600を東京化成社より購入した(以後、PEG600とも称する)。
塗布液として、P3800の含有量が2.50wt%で、PEG600の含有量が4.20wt%であるクロロホルム(SP値:19.0、10ml)溶液を調整した。得られた塗布液を、石英基板上に滴下し、1500rpm:30秒の条件でスピンコートすることにより塗布膜を得た。その後、2mLの脱イオン水で5回洗浄することにより、サンプル18を得た。
式1の定義より、(b1+b2)/(a1+b1+b2)(以後、f(a)とも称する)値は0.64であった。
構造を確認するために、サンプル18のAFM観察を行った(図17)。平均孔径230nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約40%であった。サンプル18の平均膜厚は、約1600nmであった。
【0076】
<例19>
クロロホルムの代わりにテトラヒドロフラン(THF)(SP値:19.4)を使用し、PEG600の含有量を4.80wt%に変更した以外は例18と同様の条件により、サンプル19を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル19のAFM観察を行った(図18)。平均孔径200nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約38%であった。サンプル19の平均膜厚は、約1600nmであった。
【0077】
<例20>
クロロホルムの代わりにジクロロメタン(SP値:20.3)を使用し、PEG600の含有量を4.80wt%に変更した以外は例18と同様の条件により、サンプル20を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル20のAFM観察を行った(図19)。平均孔径300nmの空孔を有する三次元網目構造が観察された。空孔率は、約40%であった。サンプル20の平均膜厚は、約1500nmであった。
【0078】
<例21>
クロロホルムの代わりにN,N−ジメチルホルムアミド(SP値:24.8)を使用し、PEG600の含有量を4.80wt%に変更した以外は例18と同様の条件により、サンプル21を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル21のAFM観察を行った(図20)。サンプル21では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0079】
<例22>
クロロホルムの代わりに酢酸エチル(SP値:18.2)を使用し、PEG600の含有量を4.80wt%に変更した以外は例18と同様の条件により、サンプル22を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル22のAFM観察を行った(図21)。サンプル22では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0080】
<例23>
クロロホルムの代わりにトルエン(SP値:18.2)を使用し、PEG600の含有量を4.80wt%に変更した以外は例18と同様の条件により、サンプル23を作製した。式1の定義より、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル23のAFM観察を行った(図22)。サンプル23では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0081】
上記例18〜23の結果を、以下の表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3において、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られた場合を○、得られなった場合を×とした。
【0084】
表3より、分子量の異なるブロック共重合体を使用した場合でも、所定のSP値を有する溶媒を使用することにより三次元網目状構造を有する多孔質膜が得られることが確認された。
【0085】
<例24>
ブロック共重合体として、Polymersource社より購入したポリスチレン(ポリマーA)とポリ(4−ヒドロキシスチレン)(ポリマーB)からなるブロック共重合体(A−B型)、P3355Aを用いて検討した。P3355Aは、ポリスチレン部分の重量平均分子量(Mw)が7,500、ポリ(4−ヒドロキシスチレン)部分の重量平均分子量(Mw)が5,000、Mw/Mn=1.07であった。ポリエチレングリコールホモポリマーとして、重量平均分子量(Mw)600を東京化成社より購入した(以後、PEG600とも称する)。
塗布液として、P3355Aの含有量が2.50wt%で、PEG600の含有量が2.50wt%であるTHF(SP値:19.4、10.0ml)溶液を調整した。得られた塗布液を、石英基板上に滴下し、slope:5秒、3000rpm:90秒の条件でスピンコートすることにより塗布膜を得た。なお、「slope 5秒」とは、回転数が3000rpmになるまでの時間を意味する。その後、2mLの脱イオン水で5回洗浄することにより、サンプル24を得た。
ポリ(4−ヒドロキシスチレン)部分をb1として計算したところ、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル24のAFM観察を行った(図23)。サンプル24では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【0086】
<例25>
ブロック共重合体として、Polymersource社より購入したポリスチレン(ポリマーA)とポリ(4−ビニルピリジン)(ポリマーB)からなるブロック共重合体(A−B型)、P4966を用いて検討した。P4966は、ポリスチレン部分の重量平均分子量(Mw)が57,500、ポリ(4−ビニルピリジン)部分の重量平均分子量(Mw)が18,500、Mw/Mn=1.14であった。ポリエチレングリコールホモポリマーとして、重量平均分子量(Mw)600を東京化成社より購入した(以後、PEG600とも称する)。
塗布液として、P4966の含有量が2.50wt%で、PEG600の含有量が3.80wt%であるTHF(SP値:19.4、10.0ml)溶液を調整した。得られた塗布液を、石英基板上に滴下し、slope:5秒、3000rpm:90秒の条件でスピンコートすることにより塗布膜を得た。なお、「slope 5秒」とは、回転数が3000rpmになるまでの時間を意味する。その後、2mLの脱イオン水で5回洗浄することにより、サンプル25を得た。
ポリ(4−ビニルピリジン)部分をb1として計算したところ、f(a)値は0.67であった。
構造を確認するために、サンプル25のAFM観察を行った(図24)。サンプル25では、共連続構造が形成されておらず、所望の三次元網目状構造を有する多孔質膜は得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は本発明の塗布膜の一つの実施形態を示す断面図である。
【図2】図2(a)は本発明の多孔質膜の一つの実施形態を示す断面図である。図2(b)は本発明の多孔質膜の一つの実施形態を示す斜視断面図である。
【図3】図3(a)は、得られたサンプル1の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。(b)は、サンプル1の割断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】図4は、得られたサンプル2の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図5】図5は、得られたサンプル3の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図6】図6は、得られたサンプル4の割断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】図7は、得られたサンプル5の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図8】図8は、得られたサンプル6の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図9】図9は、得られたサンプル7の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図10】図10は、得られたサンプル8の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図11】図11は、得られたサンプル10の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図12】図12は、得られたサンプル12の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図13】図13は、得られたサンプル13の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図14】図14は、得られたサンプル14の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図15】図15は、得られたサンプル15の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図16】図16は、得られたサンプル17の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図17】図17は、得られたサンプル18の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図18】図18は、得られたサンプル19の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図19】図19は、得られたサンプル20の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図20】図20は、得られたサンプル21の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図21】図21は、得られたサンプル22の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図22】図22は、得られたサンプル23の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図23】図23は、得られたサンプル24の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図24】図24は、得られたサンプル25の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【符号の説明】
【0088】
10 塗布膜
12、22 基板
14 ポリスチレン連続相
16 ポリエチレングリコール連続相
20 多孔質膜
24 ポリスチレン部
26 ポリエチレングリコール部
28 空孔部
30 骨格部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)を満足する、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体およびポリエチレングリコールホモポリマーと、SP値が18.5〜22.0である有機溶媒とを含む溶液を、基板表面に塗布して、ポリスチレンの連続相とポリエチレングリコールの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有する塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜中の前記ポリエチレングリコールホモポリマーを水を用いて除去する工程を含む方法により得られる、三次元網目状構造を有する多孔質膜。
0.6≦(b1+b2)/(a1+b1+b2)≦0.7 式(1)
(式(1)中、a1は塗布膜中におけるブロック共重合体のポリスチレンの体積を表す。b1は、塗布膜中におけるブロック共重合体のポリエチレングリコールの体積を表す。b2は、塗布膜中におけるポリエチレングリコールホモポリマーの体積を表す。)
【請求項2】
前記有機溶媒が、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、およびシクロヘキサノンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記多孔質膜の空孔率が、30〜75%である請求項1または2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記ブロック共重合体中のポリスチレンとポリエチレングリコールとの共重合比が、ポリスチレン/ポリエチレングリコール(体積比)=0.99/0.01〜0.5/0.5である請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項5】
前記ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体の重量平均分子量が、1×104以上である請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項6】
前記ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体の分子量分布が、Mw/Mn=1.00〜1.50である請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項7】
前記溶液中における前記ポリエチレングリコールホモポリマーの含有量が、溶液全体量に対して、0.1〜12.0wt%である請求項1〜6のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項8】
前記ポリエチレングリコールホモポリマーの分子量分布が、Mw/Mn=1.0〜3.0である請求項1〜7のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項9】
前記ポリエチレングリコールホモポリマーの重量平均分子量が、50〜1.0×104である請求項1〜8のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項10】
ポリエチレングリコールの連続相と、ポリスチレンの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有し、前記ポリエチレングリコールの連続相内に連通する空孔が存在する、三次元網目状構造を有する多孔質膜。
【請求項1】
下記式(1)を満足する、ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体およびポリエチレングリコールホモポリマーと、SP値が18.5〜22.0である有機溶媒とを含む溶液を、基板表面に塗布して、ポリスチレンの連続相とポリエチレングリコールの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有する塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜中の前記ポリエチレングリコールホモポリマーを水を用いて除去する工程を含む方法により得られる、三次元網目状構造を有する多孔質膜。
0.6≦(b1+b2)/(a1+b1+b2)≦0.7 式(1)
(式(1)中、a1は塗布膜中におけるブロック共重合体のポリスチレンの体積を表す。b1は、塗布膜中におけるブロック共重合体のポリエチレングリコールの体積を表す。b2は、塗布膜中におけるポリエチレングリコールホモポリマーの体積を表す。)
【請求項2】
前記有機溶媒が、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、およびシクロヘキサノンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記多孔質膜の空孔率が、30〜75%である請求項1または2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記ブロック共重合体中のポリスチレンとポリエチレングリコールとの共重合比が、ポリスチレン/ポリエチレングリコール(体積比)=0.99/0.01〜0.5/0.5である請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項5】
前記ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体の重量平均分子量が、1×104以上である請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項6】
前記ポリスチレンとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体の分子量分布が、Mw/Mn=1.00〜1.50である請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項7】
前記溶液中における前記ポリエチレングリコールホモポリマーの含有量が、溶液全体量に対して、0.1〜12.0wt%である請求項1〜6のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項8】
前記ポリエチレングリコールホモポリマーの分子量分布が、Mw/Mn=1.0〜3.0である請求項1〜7のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項9】
前記ポリエチレングリコールホモポリマーの重量平均分子量が、50〜1.0×104である請求項1〜8のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項10】
ポリエチレングリコールの連続相と、ポリスチレンの連続相とが互いに絡み合った共連続構造を有し、前記ポリエチレングリコールの連続相内に連通する空孔が存在する、三次元網目状構造を有する多孔質膜。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2010−65151(P2010−65151A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233160(P2008−233160)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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