説明

三重項エミッタ錯体を有する有機エレクトロルミネッセント構成体

層複合体を有する有機エレクトロルミネッセント構成体であって、
a)基板層、
b)第1の透明電極層、
c)以下のc1)とc2)を有する混合層、
c1)p型とn型導電性材料の群から選択され、1または2以上の一重項状態と1または2以上の三重項状態を持つ導電性有機材料のマトリクス、
c2)該マトリクス内の、発光三重項状態を持つ金属−有機錯体化合物を有する発光材料、および
d)第2の電極、
を有し、前記導電性有機材料の最低エネルギー三重項状態は、前記金属−有機錯体化合物の前記発光三重項状態よりも、エネルギー差Etだけ高いことを特徴とする有機エレクトロルミネッセント構成体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ディスプレイ、照明、半導体画像増倍管、モニタまたは表示スクリーン用の有機エレクトロルミネッセント構成体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られるLEDは、通常半導体ダイオードであって、ダイオード構造は、亜鉛ドープ硫化物、シリコン、ゲルマニウムまたはIII−V族半導体、例えば適当なドーピングがされたInP、GaAs、GaAlAs、GaPまたはGaNのような無機半導体で構成される。
【0003】
ここ数年来、無機半導体に代わる有機導電性材料を発光材料とする発光放射源の開発が行われている。
【0004】
有機材料系の発光層を有するエレクトロルミネッセント構成体は、無機材料からなる光源に比べていくつか特性に優れる点がある。一つの利点は、有機材料系のものは、容易に成形することができ、弾性が高いことであり、例えば発光ディスプレイや表示スクリーン等への新たな用途が期待できる。これらの層では、大面積化や平坦化が容易であり、薄膜層にはわずかの材料しか用いる必要はない。
【0005】
従って有機エレクトロルミネッセント構成体は、表示素子、表示スクリーン技術および照明技術の広い分野範囲で、大型光源として用いることができる。
【0006】
また有機エレクトロルミネッセント構成体は、高輝度かつ低駆動電圧である点で優れている。
【0007】
さらに発光の色は、発光物質の選択により、約400nmから約650nmの広い領域で変化させることができる。これらの色は、優れた明度を示す。
【0008】
導電性有機材料と、発光三重項状態を示す、希土類金属および他の遷移金属の金属−有機化合物とを組み合わせた、いわゆる三重項エミッタ錯体は、既に発光放射源に利用されている。
【0009】
これらの三重項エミッタ錯体化合物では、エネルギー準位がそれぞれに対して配置され、スピン選択則に従えば、2エネルギー準位間で、部分的に少なくとも2通りの発光遷移が可能である。
【0010】
【化1】

三重項エミッタ錯体のエネルギー準位は、基底状態S0を有し、この状態では、全ての価電子帯が満たされ、全ての伝導帯は空である。最も低い2の励起状態には、第1の励起された一重項励起子状態S1と、第1の三重項状態T1がある。三重項状態は、交換エネルギー値の分だけ、一重項状態よりも低い。発光遷移a)は、強く有効な一重項励起子遷移、すなわち発光または蛍光遷移である。
【0011】
反対に、T1から基底状態S0への遷移c)は、通常スピン禁制であり、遅く、有効ではない。スピン軌道結合が三重項エミッタ錯体で生じると、スピン状態が混合され、三重項励起子状態T1から基底状態S0への遷移c)、すなわち部分的に許容されるリン光遷移が生じる。遷移b)は、項間交差を示す。
【0012】
有機エレクトロルミネッセント構成体の発光効率は、三重項エミッタ錯体化合物によって増大させることができる。電子および正孔が再結合した際に形成される励起子による光励起には、一重項励起子(従来技術)の他、三重項励起子も利用することができるからである。
【0013】
独国特許出願DE4428450号明細書には、層複合体を有する有機エレクトロルミネッセント構成体が示されている。この層複合体は、a)基板層、b)第1の透明電極層、c)以下のc1)、c2)およびc3)を有する、1または2以上の光電子機能層、c1)1または2以上の一重項状態と1または2以上の三重項状態を有する、予備的な1または2以上のp型導電性有機材料、c2)有機配位子を持つ希土類金属イオンの1または2以上の金属−有機錯体を有する発光材料であって、この希土類金属イオンは発光状態を持ち、この有機配位子は、1または2以上の一重項状態と1または2以上の三重項状態を持つ、発光材料、c3)1または2以上の一重項状態と1または2以上の三重項状態を有する、1または2以上のn型導電性有機材料、およびd)第2の電極、を有し、配位子の最低のエネルギー三重項状態は、n型導電性および/またはp型導電性有機材料の最低エネルギー三重項状態よりも低く、希土類金属イオンの放射状態よりも高い。
【0014】
上述の構成体の問題の一つは、効率が低いことである。光効率が低いことは、電荷輸送および非放射性遷移によって、構成体の温度が上昇することにつながり、最終的に構成体の故障につながる。
【0015】
従って、三重項エミッタ錯体化合物を有する有機エレクトロルミネッセント構成体の効率向上および寿命に対して、恒久的なニーズがある。
【特許文献1】独国特許出願公開第4428450号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、マトリクスとして導電性有機材料を、エミッタとして金属−有機金属錯体化合物を有し、高発光効率で長寿命の有機エレクトロルミネッセント構成体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、課題解決のため、
層複合体を有する有機エレクトロルミネッセント構成体であって、前記層複合体は、
a)第1の透明電極層、
b)以下のb1)とb2)を有する混合層、
b1)p型とn型導電性材料の群から選択され、1または2以上の一重項状態と1または2以上の三重項状態を持つ導電性有機材料のマトリクス、
b2)該マトリクス内の、発光三重項状態を持つ金属−有機錯体化合物を有する発光材料、および
c)第2の電極、
を有し、前記導電性有機材料の最低エネルギー三重項状態は、前記金属−有機錯体化合物の前記発光三重項状態よりも、エネルギー差Etだけ高いことを特徴とする有機エレクトロルミネッセント構成体が提供される。
【0018】
本発明は、金属−有機錯体化合物の発光三重項状態からマトリクスへのエネルギー変換が抑制された場合、有機エレクトロルミネッセント構成体の発光効率は増大するという基本概念に基づくものである。すなわちマトリクスに望ましくない無放射遷移が生じる確率を抑制して、発光に利用できる、より多くの三重項励起子を形成する。
【0019】
従って本発明による有機エレクトロルミネッセント構成体は、極めて高い発光効率を示す点で有意である。さらに本構成体は、熱安定性に優れ、単純な方法で形成することができる。
【0020】
本発明では、エネルギー差はEt≧2000 cm-1であることが好ましい。
【0021】
そのような有機エレクトロルミネッセント構成体は、前記エネルギー状態の相対位置関係となるように、p型導電性およびn型導電性材料の群から選択された、1または2以上の一重項状態および1または2以上の三重項状態を持つ導電性有機材料と、発光三重項状態を持つ金属−有機錯体化合物とを有する混合層を有し、極めて高い効率で発光過程が生じる。
【0022】
本発明では、導電性有機材料は、メタ位置が有機置換基Rで置換されたベンゼン環の構造成分を有することが好ましい。
【0023】
本発明では、導電性有機材料は、メタ位置が有機置換基Rで置換されたビフェニルの構造成分を有することが特に好ましい。
【0024】
また導電性有機材料は、メタ位置がビフェニル基で多重置換された構造成分を有することが好ましい。
【0025】
導電性有機材料は、分子ドープ有機高分子、半導体共役高分子、それ自体が導電性の有機高分子、オリゴマーおよび導電性有機モノマーならびにそれらの混合物からなる群から選択されても良い。
【0026】
前記置換基Rは、フェニルおよびその派生物、アリールアミンおよびその派生物、オキサジアゾールおよびその派生物、トリアゾールおよびその派生物、トリフェニルアミンおよびその派生物、カルバゾールおよびその派生物、オキサジアゾール類およびその派生物、トリアジンおよびその派生物、フルオレンおよびその派生物、ヘキサフェニルベンゼンおよびその派生物、フェナントロリンおよびその派生物、ピリジンおよびその派生物、からなる有機置換基の群から選択されることが好ましい。
【0027】
本発明のこれらのおよび他の態様は、以下の実施例を参照した説明からより明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
通常、本発明による有機エレクトロルミネッセント構成体は、錯体層システムで構成され、異なる役割を果たす各層は、時折相互に隣接して、相互に上部に設置される。
【0029】
一連の層の基本構造およびこれらの機能は、以下の通りである:
1 基板
2 密着改善層
3 接続ターミナル
4 第1の電極
5 第2の電極
6 正孔輸送層
7 混合層
8 正孔遮断層
9 電子輸送層
10保護層。
【0030】
この構造は、最も汎用的な場合を示しているが、一つの層に多機能を与えて、特定の層を省略し、単純化しても良い。
【0031】
最も単純化した場合、有機エレクトロルミネッセント構成体は、2電極で構成され、これらの電極間には、発光に関する全機能を兼ね備えた有機混合層が設置される。
【0032】
エレクトロルミネッセント混合層と正極の間に、1または2以上の電子注入および/または電子輸送層を設置しても良い。同様に、エレクトロルミネッセント混合層と負極の間に、1または2以上の正孔注入および/または正孔輸送層を設置しても良い。
【0033】
本発明による三重項エミッタ錯体を有する有機エレクトロルミネッセント構成体の場合、正孔導電性材料層が、アノードの隣にある構造を用いることが好ましい。これにより、アノードからの正孔の注入および混合層への正孔の輸送が容易になる。混合層は、三重項エミッタ錯体の発光分子で構成され、正孔導電体で構成されるマトリクスに埋設される。ほとんどの場合、正孔が主要電荷担体となるため、混合層の隣には正孔遮断層を設置する必要がある。正孔遮断層には、正孔はわずかしか注入されず、移動度は低い。正孔遮断層の隣には、電子輸送層が設置され、その厚さは、金属カソードによる熱放射が最小化されるように寸法調整される。
【0034】
本発明の別の実施例では、混合層は、三重項エミッタ錯体と、電子導電性材料のマトリクスとを有する。
【0035】
図1に示すように、本実施例は、接続ターミナル3を有しITOで構成された第1の電極4と、エレクトロルミネッセント混合層7と、正孔輸送層6と、電子輸送層9と、正孔遮断層8と、Alで構成された第2の電極5とを有する。さらに有機エレクトロルミネッセント構成体は、保護層10で被覆される。
【0036】
光学的に透明な基板1には、SiO2製の密着改善層2が設置されることが好ましい。
【0037】
また層複合体は、ガラス、石英、セラミック、合成樹脂または透明弾性プラスチックフィルム製の基板に配置しても良い。適当なプラスチックの例としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートおよびポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0038】
エレクトロルミネッセント混合層7は、導電性モノマー、オリゴマーまたは高分子をマトリクスとして含んでも良い。エレクトロルミネッセント層7に用いられる有機材料の種類に応じて、装置は、SMOLED(小型分子有機発光ダイオード)、OLEDまたは高分子LEDと呼ばれる。
【0039】
エレクトロルミネッセント混合層7は、赤、緑および青の色の光を放射する複数の画素にサブ分割される。着色光を形成するため、エレクトロルミネッセント層7の材料は、蛍光色素でドープされる。あるいは適切な三重項エミッタ錯体化合物をエレクトロルミネッセント層7の材料として用いても良い。別の実施例では、広い波長領域の光を放射する三重項エミッタ錯体化合物が、エレクトロルミネッセント層7に用いられる。カラーフィルタによって、この広帯域放射から、3原色、赤、緑または青のいずれかの色の光が形成される。
【0040】
透明アノードの材料には、高い電子の仕事関数をもつ金属、金属酸化物または導電性有機高分子が適しており、アノードからの正孔は、p型導電層に注入される。一例として、薄膜透明層は、インジウムドープスズ酸化物(ITO)、金またはポリアニリン等で構成される。
【0041】
仕事関数の低い材料は、カソード材料として用いられる。カソードからn型導電層に電子を注入する必要があるからである。そのような金属の例としては、アルミニウム、マグネシウム、マグネシウムと銀またはインジウムの合金、およびカルシウムが挙げられる。
【0042】
有機エレクトロルミネッセント構成体は、混合層を有し、この混合層は、p型とn型導電性材料の群から選択され、1または2以上の一重項状態と1または2以上の三重項状態を持つ導電性有機材料のマトリクス、および、該マトリクス内の、発光三重項状態を持つ金属−有機錯体化合物を有する発光材料、を有し、導電性有機材料の最低エネルギー三重項状態は、金属−有機錯体化合物の発光三重項状態よりもエネルギー差Etだけ高い。
【0043】
この値は、エネルギー準位の絶対値ではなく、相互の相対位置関係を示すものであるが、マトリクスおよび三重項エミッタ錯体の構成体を選定する際には重要となる。
【0044】
1または2以上の一重項状態および1または2以上の三重項状態を持つ導電性有機材料は、p型導電性およびn型導電性の有機材料からなる群から選択される。本発明に利用されるこれらの材料は、一重および二重結合で交互につながった共役ジエンであることが好ましく、構造成分としてメタ位置で置換されたビフェニル基を有する。
【0045】
共役ジエンは、主鎖に沿った非局在化π電子系を有する。非局在化電子系は、有機材料に半導体特性を与え、有機材料には、高移動度で正および/または負の電荷担体を輸送する能力が備わることになる。
【0046】
π共役分子の光および電子特性は、主鎖の配置に強く依存する。共役の相互作用が弱まると、材料の光および電子特性には顕著な変化が生じる。
【0047】
共役ジエンの構造成分としてメタ位置で置換されたビフェニル基を有する有機材料において、メタ置換が第1の三重項エネルギー準位に及ぼす影響を、まずモノマー、高分子特にオリゴフェニレンについて調べた。
【0048】
【化2】

三重項準位は、ベンゼン>ビフェニル>パラテルフェニルの順に29500cm-1から20400cm-1まで減少する。パラテルフェニルの値は、緑または青の三重項エミッタを有するOLEDに用いるには小さすぎる。m−テルフェニルで得られる三重項順位22500cm-1は、ビフェニルの順位22900cm-1よりもわずかに小さいことがわかる。
【0049】
そのようなメタ位置での結合は、ベンゼン環のπ電子系間での共振の摂動につながり、三重項順位が上昇する。
【0050】
別のフェニルユニットが中央のフェニル環に結合された場合、1、3、5−トリフェニルベンゼンが得られるが、三重項順位の位置関係は変化しない。
【0051】
フルオレンとトリフェニレンを比較した場合、同様に、オルト位置での結合は、三重項順位にはほとんど、あるいは全く影響しないことがわかる。
【0052】
メタ位置での結合の法則が、論理的にフルオレンに適用できる場合、以下に示す2価および3価のフルオレンの異形が得られ、これはフルオレンの順位と同様の高い三重項順位となる。
【0053】
このつながりが繰り返されると、「ポリ−メタ−フルオレン」が得られる。
【0054】
【化3】

同じ法則を他のポリフェニルにも適用することができる。
【0055】
【化4】

正孔導電体にこの原則を適用すると、
【0056】
【化5】

が得られる。
【0057】
トリフェニルアミンは、全範囲で優れた正孔導電体となるブロックを構成する。既知の最良のものの一つはTPDであり、これは、パラ位置に結合された2のトリフェニルアミンユニットで構成されるとみなすことができる。この結合によって、TPDの中央にはビフェニルユニットが生じるが、これは全分子にわたってπ電子を結合する。その結果、三重項順位には、トリフェニルアミンの24500 cm-1からTPDの19200 cm-1への顕著な低下が生じる。ただし、2つのトリフェニルアミンユニットが、2の中央フェニル環のメタ位置で結合される場合(2)、三重項順位は、ほとんど同じままである。また、トリフェニルアミンユニットがメタ位置に加えられても(3)、三重項順位は低下しない。特に、高三重項順位の正孔導電性高分子は、このようにして得ることができる。
【0058】
同じ法則が他の正孔導電性材料群、例えばフェニル−カルバゾール類にも適用できる。
【0059】
また、電子導電性材料に三重項エミッタを合わせて用いることも可能である。
【0060】
【化6】

上述のオキサジアゾール類およびトリアゾールは、三重項順位は十分に高く、電子導電体であることが知られている。ただし、フェニル基がパラ位置に挿入されると、三重項エネルギーは著しく低下する。この低下は、メタ位置で結合することにより回避することができる。正孔導電体の場合、メタ位置により多くのトリアゾールユニットが結合されても良く、同様に高い三重項順位の高分子が得られる。
【0061】
【化7】

従ってメタ位置での結合の法則は、高三重項順位の高分子形成に利用でき、4例は、可能な構造の一部の引例を示すに過ぎない。1)および2)は、フェニル基のみからなる構造で、本発明による電子輸送特性を優先的に呈するように意図された構造、3)は、トリフェニルアミンユニットで構成される正孔導電体原型を示し、4)は、トリアゾールで構成される電子導電体を示す。
【0062】
さらに混合層は、マトリクスに埋設された発光三重項エミッタ錯体化合物を有する。
【0063】
有機酸素、硫黄、または窒素配位子を有する希土類金属および白金族金属の金属−有機錯体が、発光三重項エミッタ錯体として利用されることが好ましい。本発明では、金属−有機錯体という用語は、前記有機配位子を有するそれらの錯体であって、結合がヘテロ原子を介して生じる錯体を意味する。意図した発光の色に応じて、複数の希土類金属錯体化合物を用いることもできる。昇華特性のない、あるいは導電性を示さない希土類金属錯体を利用することもできる。
【0064】
希土類金属イオンの配位子は、キレートの酸素、硫黄または窒素配位子であることが好ましい。そのような錯体は、高エネルギー輸送特性を示し、純度の高い色を表現することができる。
【0065】
芳香族カルボン酸のアニオンを有する希土類金属のキレート錯体は、特に好ましく、例えば安息香酸テルビウム、ケイ皮酸ユーロピウムおよびピコリネート、ジピコリネート、ジチオカルバメートもしくはユーロピウム8−ヒドロキシキノレート(hydroxyquinolate)、ならびに脂肪族もしくは芳香族のアセチルアセテネートおよびジケトネートを有するキレート錯体である。
【0066】
希土類金属イオンは、例えばEu2+、Eu3+、Tb3+、Tm3+、Dy3+、Sm3+およびPr3+の群から選択されても良い。
【0067】
白金族金属は、例えばIr3+、Pt2+の群から選択されても良い。
【0068】
赤の蛍光は、ユーロピウムとサマリウムの錯体を用いて形成することができ、緑の蛍光は、テルビウム錯体を用いて形成することができ、青の蛍光は、ツリウムとジスプロシウムの錯体を用いて形成することができる。
【0069】
導電性有機高分子の輸送特性に影響を及ぼさないように、前記希土類金属錯体の濃度は、20モル%を超えないようにする必要がある。前記希土類金属化合物は、通常絶縁体であるからである。
【0070】
ただし、それ自体が輸送特性を示す配位子を有する三重項エミッタ錯体を用いることも可能である。そのような配位子の例は、ジフェニルアミン−2−カルボキシル酸またはジフェニルアミン−2、2−ジカルボキシル酸のような、ジフェニルアミンまたはトリフェニルアミンのカルボキシル酸である。
【0071】
有機エレクトロルミネッセント構成体は、金属−有機三重項エミッタ錯体用のマトリクスを構成するn型およびp型導電性有機材料の他に、マトリクス層または分離層内に他のn型およびp型導電性材料を有しても良い。
【0072】
分子ドープ有機高分子、それ自体が導電性の有機高分子、すなわち固有の導電性を有する高分子または導電性有機モノマーは、p型導電層用の別のp型導電性材料として利用することができる。また、ポリ(p−フェニレン ビニレン)およびその派生物またはポリ(メチルフェニル シラン)も、エレクトロルミネッセント性の添加物を含まない、p型導電層に適している。ただし、エレクトロルミネッセント性添加物を含む層では、T1状態からの無放射遷移が生じ、これにより摂動が生じる可能性がある。
【0073】
例えば、T1Pが約24500 cm-1のトリフェニルアミンの場合、T1Pが約24000 cm-1のトリトルエネアミン(tritolueneamine)またはT1Pが約18000 cm-1のトリフェニルジアミンを、本発明における別のp型導電性有機モノマーとして利用しても良い。
【0074】
同様に、それ自体が導電性の有機モノマーおよび高分子、または分子ドープされた高分子が、n型導電層の他の導電性有機材料として使用できる。Tn1が約23500 cm-1の、3、4、9、10−ペレリン−テトラカルボキシ−ビス−ベンズイミダゾール、2−(4−ビフェニリル)−5−(第3−ブチルフェニル)−1、3、4−オキサジアゾール(ブチル−PBD)、2−(4−ビフェニリル)−5−フェニル−1、3、4−オキサジアゾール(PBD)、Tn1が約23500cm-1の2、5−ジフェニル−1、3、4−オキサジアゾール(PPD)、および8−ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq)が、電子輸送層に適した固有導電性有機モノマーとして利用できる。
【0075】
8−ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq)で処理されたポリメチルメタクリレートを、他のn型導電性分子ドープ有機高分子として使用しても良い。
【0076】
本発明に利用できる別の分子ドープ有機高分子は、マトリクスとして例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレンまたはビスフェノールA−ポリカーボネートからなり、2−(4−ビフェニリル)−5−(第3−ブチルフェニル)−1、3、4−オキサジアゾール(ブチル−PBD)(T1×20500 cm-1)、および2、5−ジフェニル−1、3、4−オキサジアゾール(PPD)(T1×23400 cm-1)のようなオキサジアゾール、または3、5−ジフェニル−1、2、4−トリアゾールのようなトリアゾールでドープされる。
【0077】
p型およびn型導電層は、溶液から、気体成膜でまたはその場重合で塗布しても良い。
【0078】
p型およびn型導電層が揮発性の場合は、三重項エミッタ錯体は、マトリクスの導電性有機モノマーとともに随意的に昇華させても良い。
【0079】
p型およびn型導電層が導電性有機高分子とともに設置される場合、コーティング溶液を形成するため、両化合物は、共通の溶媒または混合溶媒に溶解する必要がある。
【0080】
作動中、2電極間には、通常数ボルトの直流電圧が印加される。第1の電極は、正電位(アノード)にされ、第2の電極は負の電位(カソード)にされる。
【0081】
作動中、三重項エミッタ錯体を有するマトリクスには以下の過程が生じる。
【0082】
両電極から、正の電荷担体として正孔が注入され、負の電荷担体として電子が注入される。これらの分子マトリクスでの再結合により、マトリクスは電子的に励起される。スピン統計上は、(多くの高分子に比べて)小さな分子の25%が一重項状態に励起され、その励起状態から、光を放射すること(蛍光)により、それらの分子は基底状態に変化する。一方、再結合のうちの75%によって、最低エネルギーの三重項状態への励起が生じ、その状態から基底状態への発光遷移は禁じられるため、極めて長時間の発光寿命が得られる。三重項順位からの発光は、りん光と呼ばれ、通常、物質が液体窒素温度にまで冷却された時にのみ観測される。一重項と三重項の状態を組み合わせることにより、室温においても、三重項エミッタ錯体に三重項状態からの発光遷移が生じる。この状態の寿命は、通常1マイクロ秒から1ミリ秒の範囲にあるが、これは、一重項順位からの遷移に比べて十分に長い。
【0083】
分子の三重項順位が開始分子の順位よりも低い場合、または分子の三重項順位が開始分子の順位よりも高く、熱活性化によって遷移が可能となる場合、この比較的長い期間中、隣接分子にエネルギーが移動される。
【0084】
一度、三重項エネルギーが分子に移動すると、最終的に発光によって消失されるまで、エネルギーが再度輸送される確率は高くなる。エミッタ層での三重項エネルギーを一定にするため、本発明によるマトリクスは、高三重項状態を持つ導電性有機材料を有する。
【0085】
室温ではいかなるエネルギー輸送も実質的に生じないようにするため、本発明による隣接分子の三重項状態は、再結合分子の値に対して≧2000波数である。
【0086】
本発明による有機エレクトロルミネッセント構成体を用いることで、大発光表面積で高解像度のディスプレイを製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明による有機エレクトロルミネッセント構成体の実施例の基本構造図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層複合体を有する有機エレクトロルミネッセント構成体であって、前記層複合体は、
a)基板層、
b)第1の透明電極層、
c)以下のc1)とc2)を有する混合層、
c1)p型とn型導電性材料の群から選択され、1または2以上の一重項状態と1または2以上の三重項状態を持つ導電性有機材料のマトリクス、
c2)該マトリクス内の、発光三重項状態を持つ金属−有機錯体化合物を有する発光材料、および
d)第2の電極、
を有し、前記導電性有機材料の最低エネルギー三重項状態は、前記金属−有機錯体化合物の前記発光三重項状態よりも、エネルギー差Etだけ高いことを特徴とする有機エレクトロルミネッセント構成体。
【請求項2】
前記エネルギー差はEt≧2000cm-1であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント構成体。
【請求項3】
前記導電性有機材料は、メタ位置が有機置換基Rで置換されたベンゼン環の構造成分を有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント構成体。
【請求項4】
前記導電性有機材料は、メタ位置が有機置換基Rで置換されたビフェニルの構造成分を有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント構成体。
【請求項5】
前記構造成分は、メタ位置がビフェニル基で多重置換されていることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセント構成体。
【請求項6】
前記導電性有機材料は、分子ドープ有機高分子、半導体共役高分子、それ自体が導電性の有機高分子、オリゴマーおよび導電性有機モノマーならびにそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント構成体。
【請求項7】
前記置換基Rは、フェニルおよびその派生物、アリールアミンおよびその派生物、オキサジアゾールおよびその派生物、トリアゾールおよびその派生物、トリフェニルアミンおよびその派生物、カルバゾールおよびその派生物、オキサジアゾール類およびその派生物、トリアゾール類およびその派生物、トリアジン類およびその派生物、フルオレン類およびその派生物、ヘキサフェニルベンゼンおよびその派生物、フェナントロリンおよびその派生物、ピリジンおよびその派生物、からなる有機置換基の群から選択されることを特徴とする請求項3および4に記載の有機エレクトロルミネッセント構成体。

【図1】
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【公表番号】特表2006−510212(P2006−510212A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560048(P2004−560048)
【出願日】平成15年12月5日(2003.12.5)
【国際出願番号】PCT/IB2003/005744
【国際公開番号】WO2004/055921
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】