説明

上皮増殖因子受容体モデュレーターに対する感受性を決定するためのバイオマーカーおよび方法

EGFRモデュレーターの投与を含む癌の治療法に治療的に応答する哺乳動物を同定する方法であって、(a)該哺乳動物をEGFRモデュレーターに暴露し、(b)工程(a)の暴露後、該哺乳動物において少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを測定することを含み、その際、該EGFRモデュレーターに暴露されていない哺乳動物で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すことを特徴とする方法において有用なEGFRバイオマーカー。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にファーマコゲノミクスの分野に関し、さらに詳細には、個性化された遺伝子プロファイルの開発を可能にすべく患者の感受性を決定する方法および手順に関し、このような個性化された遺伝子プロファイルは患者の分子レベルでの応答に基づいて疾患および障害を治療するうえで役立つものである。
【背景技術】
【0002】
癌は組織臨床的な異質さの大きな疾患である。従来の組織学的および臨床的な特徴が予後と関連付けられているけれども、同じみかけの予後タイプの腫瘍が治療に対する応答性および患者のその後の生存において大きく異なっている。
【0003】
各患者について治療の個性化を容易にする新たな予後および予測マーカーが、臨床において小分子や生物学的分子医薬などの治療に対する患者の応答を正確に予測するために必要である。この問題は、治療に対する患者の感受性をより良く予測できる新たなパラメーターの同定により解決される。患者試料の分類は癌の診断および治療の重要な側面である。治療に対する患者の応答と分子および遺伝マーカーとの関連付けは、非応答患者における治療の開発の新たな機会を開くことができ、あるいは有効性における一層高い確実さの故に他の治療選択のうちで治療の適応症を識別することができる。さらに、医薬、薬物、または組合せ療法に良く応答する傾向のある患者を前もって選択することは、臨床研究において必要な患者の数を減らし、臨床開発プログラムを完成するのに必要な時間を短縮することができる(M. Cockettら、2000, Current Opinion in Biotechnology, 11:602-609)。
【0004】
患者において薬物感受性を予測することができることは特に興味深いことである、なぜなら、薬物応答性は標的細胞にとって内生の特性のみならず、宿主の代謝特性をも反映するものだからである。遺伝情報を用いて薬物感受性を予測しようとする努力は、多剤耐性遺伝子mdr1およびmrp1などの広い作用を有する個々の遺伝子に主として向けられてきた(P. Sonneveld, 2000, J. Intern. Med., 247:521-534)。
【0005】
遺伝子mRNA発現パターンの大スケールの特徴付けのためのマイクロアレイ法の開発は、分子マーカーを体系的に探索すること、および伝統的な組織病理学的方法では明らかではなかった別個のサブグループに癌を分類することを可能にした(J. Khanら、1998, Cancer Res., 58:5009-5013;A. A. Alizadehら、2000, Nature, 403:503-511;M. Bittnerら、2000, Nature, 406:536-540;J. Khanら、2001, Nature Medicine, 7(6):673-679;およびT. R. Golubら、1999, Science, 286:531-537;U. Alonら、1999, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96:6745-6750)。そのような技術および分子ツールは、分子集団内での多数の転写物の発現レベルをいかなる所定の時点においてもモニターすることを可能にした(たとえば、Schenaら、1995, Science, 270:467-470;Lockhartら、1996, Nature Biotechnology, 14:1675-1680;Blanchardら、1996, Nature Biotechnology, 14:1649;Ashbyらの米国特許第5,569,588号を参照)。
【0006】
最近の研究は、ヒト腫瘍のマイクロアレイ分析によって生成した遺伝子発現情報が臨床結果を予測し得ることを示している(L. J. van't Veerら、2002, Nature, 415:530-536;M. Westら、2001, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98:11462-11467;T. Sorlieら、2001, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98:10869-10874;M. Shippら、2002, Nature Medicine, 8(1):68-74)。これら知見は、治療に対する個々の腫瘍の応答をより良く予測することにより癌の治療が大きく改善されるであろうとの希望をもたらす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
個性化された遺伝子プロファイルの開発を可能にすべく患者の薬物感受性を決定する新たな別の方法および手順が必要とされており、このような個性化された遺伝子プロファイルは患者の分子レベルでの応答に基づいて疾患および障害を治療するのに必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、1またはそれ以上の上皮増殖因子受容体(EGFR)モデュレーターに対する患者の感受性を決定するための方法および手順を提供する。本発明はまた、癌などの疾患状態の治療を必要とする個体が、治療を投与する前に該治療に応答するか否かを決定または予測する方法であって、該治療が1またはそれ以上のEGFRモデュレーターを含むものである方法をも提供する。1またはそれ以上のEGFRモデュレーターは、たとえば、1またはそれ以上のEGFR特異的リガンド、1またはそれ以上の小分子EGFRインヒビター、または1またはそれ以上のEGFR結合性モノクローナル抗体から選ばれる化合物である。
【0009】
一つの側面において、本発明は、EGFRモデュレーターの投与を含む癌の治療法に対して治療的に応答する哺乳動物を同定する方法であって、(a)表4のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定し、(b)該哺乳動物をEGFRモデュレーターに暴露し、(c)工程(b)の暴露後、該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定することを含み、その際、工程(a)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(c)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すものである方法を提供する。
【0010】
本明細書において、治療的な応答とは、癌の緩和または廃棄をいう。このことは、癌を罹患した個体の平均余命が増すこと、または癌の1またはそれ以上の徴候が低減または改善されることを意味する。この語は、癌様の細胞増殖または腫瘍容積の低減を包含する。哺乳動物が治療的に応答するか否かは、PET造影などの当該技術分野でよく知られた多くの方法によって測定することができる。
【0011】
少なくとも一つのバイオマーカーはまた表5のバイオマーカーから選択することができる。哺乳動物は、たとえば、ヒト、ラット、マウス、イヌ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ネコ、霊長類、またはサルであってよい。
【0012】
本発明の方法は、たとえば、インビトロの方法であってよく、その際、該少なくとも一つのバイオマーカーは哺乳動物からの少なくとも一つの哺乳動物生物学的試料で測定される。生物学的試料としては、たとえば、新鮮な全血、末梢血単核細胞、凍結した全血、新鮮な血漿、凍結した血漿、尿、唾液、皮膚、毛包、または腫瘍組織が挙げられる。
【0013】
他の側面において、本発明は、EGFRモデュレーターの投与を含む癌の治療法に対して治療的に応答する哺乳動物を同定する方法であって、(a)該哺乳動物をEGFRモデュレーターに暴露し、(b)工程(a)の暴露後、表4のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定することを含み、その際、該EGFRモデュレーターに暴露していない哺乳動物における該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すものである方法を提供する。
【0014】
さらに他の側面において、本発明は、EGFRモデュレーターの投与を含む癌の治療法に対して哺乳動物が治療的に応答するか否かを試験または予測する方法であって、(a)表4のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定し、(b)該哺乳動物をEGFRモデュレーターに暴露し、(c)工程(b)の暴露後、該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定することを含み、その際、工程(a)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(c)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すものである方法を提供する。
【0015】
他の側面において、本発明は、ある化合物が哺乳動物においてEGFR活性を抑制するか否かを決定する方法であって、(a)該哺乳動物を該化合物に暴露し、ついで(b)工程(a)の暴露後、表4のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定することを含み、その際、該化合物に暴露していない哺乳動物における該バイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該バイオマーカーのレベルの相違が、該化合物が該哺乳動物においてEGFR活性を抑制することを示すものである方法を提供する。
【0016】
さらに他の側面において、本発明は、哺乳動物がEGFR活性を抑制する化合物に暴露されたか否かを決定する方法であって、(a)該哺乳動物を該化合物に暴露し、ついで(b)工程(a)の暴露後、表4のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定することを含み、その際、該化合物に暴露していない哺乳動物における該バイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該バイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物がEGFR活性を抑制する化合物に暴露されたことを示すものである方法を提供する。
【0017】
他の側面において、本発明は、哺乳動物がEGFR活性を抑制する化合物に応答するか否かを決定する方法であって、(a)該哺乳動物を該化合物に暴露し、ついで(b)工程(a)の暴露後、表4のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定することを含み、その際、該化合物に暴露していない哺乳動物における該バイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該バイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物がEGFR活性を抑制する化合物に応答することを示すものである方法を提供する。
【0018】
本明細書において「応答する」とは、哺乳動物において生物学的および細胞応答並びに臨床的応答(改善された徴候、治療効果、または有害な事象など)により応答することを包含する。
【0019】
本発明はまた、表4のバイオマーカーから選択される単離されたバイオマーカーをも提供する。本発明のバイオマーカーは、表4および配列表にて提供されるヌクレオチド配列およびアミノ酸配列から選択される配列、並びにその断片および変異体を含む。
【0020】
本発明はまた、表4のバイオマーカーから選択される2またはそれ以上のバイオマーカーを含むバイオマーカーセットをも提供する。
【0021】
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターを含む治療に対してある患者が感受性であるかまたは耐性であるかを決定または予測するキットをも提供する。患者は、たとえば、結腸癌または腫瘍などの癌または腫瘍を罹患していてよい。
【0022】
一つの側面において、本発明のキットは、本発明の1またはそれ以上の特別のマイクロアレイを入れた適当な容器、患者の組織生検または患者の試料からの細胞を試験するのに用いる1またはそれ以上のEGFRモデュレーター、および使用の指示書を含む。キットはさらに、バイオマーカーセットの発現をmRNAまたはタンパク質レベルでモニターするための試薬または材料を含んでいてよい。
【0023】
他の側面において、本発明は、表4のバイオマーカーから選択される2またはそれ以上のバイオマーカーを含むキットを提供する。
【0024】
さらに他の側面において、本発明は、表4のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーの存在を検出するための抗体および核酸の少なくとも一つを含むキットを提供する。一つの側面において、該キットはさらに、EGFR活性を抑制する化合物の投与を含む癌の治療法に対して哺乳動物が治療的に応答するか否かを決定するための指示を含む。他の側面において、該指示は、(a)表4のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定し、(b)該哺乳動物を該化合物に暴露し、(c)工程(b)の暴露後、該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定する工程を含み、その際、工程(a)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(c)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すものである。
【0025】
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターによる治療に対して患者が感受性または耐性であるか否かを決定するためのスクリーニングアッセイをも提供する。
【0026】
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターにより治療することのできる疾患を罹患した患者の治療をモニターする方法をも提供する。
【0027】
本発明はまた、分子レベルでの患者の応答に基づいて疾患および障害を治療するのに必要な個性化された遺伝子プロファイルをも提供する。
【0028】
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに対する感受性かまたは耐性のいずれかと相関関係のある発現プロファイルを有する1またはそれ以上のバイオマーカーを含む、特別なマイクロアレイ、たとえば、オリゴヌクレオチドマイクロアレイまたはcDNAマイクロアレイをも提供する。
【0029】
本発明はまた、本発明の1またはそれ以上のバイオマーカーに対して向けられたポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を含む抗体をも提供する。
【0030】
本発明は、添付の図面と関連して考察しながら発明の詳細な説明を読むとより理解されるであろう。
【0031】
本発明は、特定のシグナル伝達経路のモデュレーションに応答し、EGFRモデュレーター感受性または耐性と相関関係をも有するバイオマーカーを提供する。これらバイオマーカーは、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに対する応答を予測するのに用いることができる。一つの側面において、本発明のバイオマーカーは、表4および配列表にて提供するバイオマーカーであり、ポリヌクレオチドおよびポリペプチドの両配列を含む。
【0032】
これらバイオマーカーは、未処理の細胞において何千もの別個の遺伝子の発現パターンを同時にモニターするマイクロアレイ法を用いたインビトロアッセイにより決定され、該未処理細胞のシグナル伝達経路、とりわけEGFR経路のモデュレーションに対する応答は、そのEGFRモデュレーターに対する感受性を試験した未処理細胞に対して試験した。バイオマーカーは該細胞において、EGFRシグナル伝達経路の活性に依存し且つ細胞によって示されるEGFRモデュレーター感受性と高度の相関関係を有する発現レベルを有する。バイオマーカーは、EGFRモデュレーター、好ましくはEGFRキナーゼ機能または活性の直接的または間接的な抑制または拮抗作用によりEGFRキナーゼ活性に影響を及ぼす生物学的分子、小分子などに対する応答を予測するための有用な分子ツールとして働く。
【0033】
EGFRモデュレーター
本明細書において「EGFRモデュレーター」とは、EGFR活性またはEGFRシグナル伝達経路を直接的または間接的にモデュレートする生物学的分子または小分子である化合物または薬物を意味するものである。それゆえ、本明細書において化合物または薬物は、小分子および生物学的分子の両者を包含するものである。直接的または間接的なモデュレーションとしては、EGFR活性またはEGFRシグナル伝達経路の活性化または抑制が挙げられる。一つの側面において、抑制とは、EGFRのEGFRリガンド、たとえばEGFへの結合の抑制をいう。他の側面において、抑制とは、EGFRのキナーゼ活性の抑制をいう。
【0034】
EGFRモデュレーターとしては、たとえば、EGFR特異的リガンド、小分子EGFRインヒビター、およびEGFRモノクローナル抗体が挙げられる。一つの側面において、EGFRモデュレーターは、EGFR活性を抑制し、および/またはEGFRシグナル伝達経路を抑制する。他の側面において、EGFRモデュレーターは、EGFR活性を抑制し、および/またはEGFRシグナル伝達経路を抑制するEGFR抗体である。
【0035】
EGFRモデュレーターは、生物学的分子または小分子を含む。生物学的分子としては、全ての脂質および単糖のポリマー、アミノ酸、および分子量が450を超えるヌクレオチドが挙げられる。それゆえ、生物学的分子としては、たとえば、オリゴ糖および多糖;オリゴペプチド、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質;およびオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが挙げられる。オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドとしては、たとえば、DNAおよびRNAが挙げられる。
【0036】
生物学的分子はさらに、上記分子のいずれかの誘導体を含む。たとえば、生物学的分子の誘導体としては、オリゴペプチド、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質の脂質およびグリコシル化誘導体が挙げられる。
【0037】
生物学的分子の誘導体はさらに、オリゴ糖および多糖の脂質誘導体、たとえば、リポ多糖を含む。最も典型的には、生物学的分子は抗体、または抗体の機能的等価物である。抗体の機能的等価物は、抗体の結合特性に匹敵する結合特性を有し、EGFRを発現する細胞の増殖を抑制する。そのような機能的等価物としては、たとえば、キメラ抗体、ヒト化抗体、および一本鎖抗体、並びにそのフラグメントが挙げられる。
【0038】
抗体の機能的等価物はまた、該抗体の可変領域または超可変領域のアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列をポリペプチドをも含む。他の配列と実質的に同じであるが、1またはそれ以上の置換、付加、および/または欠失により他の配列と異なっているアミノ酸配列は等価な配列であると考えられる。好ましくは、ある配列中のアミノ酸残基の数の50%未満、さらに好ましくは25%未満、さらに一層好ましくは10%未満がタンパク質から置換、タンパク質に付加、またはタンパク質から欠失している。
【0039】
抗体の機能的等価物は、好ましくはキメラ抗体またはヒト化抗体である。キメラ抗体は、非ヒト抗体の可変領域およびヒト抗体の定常領域を含む。ヒト化抗体は、非ヒト抗体の超可変領域(CDR)を含む。ヒト化抗体の超可変領域以外の可変領域、たとえばフレームワーク可変領域、および定常領域は、ヒト抗体からのものである。
【0040】
非ヒト抗体の適当な可変領域および超可変領域は、モノクローナル抗体の作成されたいずれかの非ヒト哺乳動物によって産生された抗体からのものであってよい。ヒト以外の哺乳動物の適当な例としては、たとえば、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ヤギ、または霊長類が挙げられる。
【0041】
機能的等価物はさらに、全抗体の結合特性と同じかまたは匹敵する結合特性を有する抗体のフラグメントを含む。抗体の適当なフラグメントとしては、EGFRチロシンキナーゼに特異的且つ充分な親和性でもって結合してそのような受容体を発現する細胞の増殖を抑制する超可変(すなわち、相補性決定)領域の充分な部分を含むあらゆるフラグメントが挙げられる。
【0042】
そのようなフラグメントは、たとえば、FabフラグメントまたはF(ab')フラグメントの一方または両者を含んでいてよい。抗体フラグメントは全抗体の6つの全ての相補性決定領域を含んでいるのが好ましいが、そのような領域を全てよりも少なく、たとえば3つ、4つ、または5つのCDRを含む機能的フラグメントも包含される。
【0043】
一つの側面において、フラグメントは一本鎖抗体、またはFvフラグメントである。一本鎖抗体は、相互連結リンカーによりまたは該リンカーなしで、少なくとも抗体の軽鎖の可変領域に連結した抗体の重鎖の可変領域を含むポリペプチドである。それゆえ、Fvフラグメントは全抗体結合部位を含む。これら鎖は細菌または真核細胞で産生できる。
【0044】
抗体および機能的等価物は、IgG、IgM、IgA、IgD、またはIgEなどの免疫グロブリンのいずれのクラス、およびそのサブクラスの成員であってもよい。一つの側面において、抗体はIgG1サブクラスの成員である。機能的等価物はまた、これらクラスおよびサブクラスのいずれかの組合せの等価物であってもよい。
【0045】
一つの側面において、EGFR抗体は、Mendelsohnらの米国特許第4,943,533号に記載されたマウス抗体225に由来するキメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、および一本鎖抗体から選択することができる。一つの側面において、225由来抗体は、以下の軽鎖および重鎖の超可変(CDR)領域を有する(アミノ酸配列をヌクレオチド配列の下に示す):
重鎖超可変領域(VH):
CDR1
AACTATGGTGTACAC(配列番号179)
N Y G V H(配列番号180)
CDR2
GTGATATGGAGTGGTGGAAACACAGACTATAATACACCTTTCACATCC(配列番号181)
V I W S G G N T D Y N T P F T S(配列番号182)
CDR3
GCCCTCACCTACTATGATTACGAGTTTGCTTAC(配列番号183)
A L T Y Y D Y E F A Y(配列番号184)
軽鎖超可変領域(VL):
CDR1
AGGGCCAGTCAGAGTATTGGCACAAACATACAC(配列番号185)
R A S Q S I G T N I H(配列番号186)
CDR2
GCTTCTGAGTCTATCTCT(配列番号187)
A S E S I S(配列番号188)
CDR3
CAACAAAATAATAACTGGCCAACCACG(配列番号189)
Q Q N N N W P T T(配列番号190)
【0046】
他の側面において、EGFR抗体は、Jakobovitsらの米国特許第6,235,883号、Bendiらの米国特許第5,558,864号、およびMateo de Acosta del Rioらの米国特許第5,891,996号に記載の抗体から選択することができる。
【0047】
上記で検討した生物学的分子に加え、本発明において有用なEGFRモデュレーターはまた小分子であってよい。生物学的分子ではないあらゆる分子は、本明細書において小分子とされる。小分子の若干の例としては、有機化合物、有機金属化合物、有機化合物および有機金属化合物の塩、糖、アミノ酸、およびヌクレオチドが挙げられる。小分子はさらに、分子量が450を超えていないこと以外では生物学的分子であると考えられる分子を含む。それゆえ、小分子は、分子量が450またはそれ以下である脂質、オリゴ糖、オリゴペプチド、およびオリゴヌクレオチドおよびその誘導体であってよい。
【0048】
小分子はいかなる分子量を有していてもよいことが強調される。小分子は典型的に450未満の分子量を有するが故に小分子と呼ばれるにすぎない。小分子は天然に見出される化合物並びに合成の化合物を含む。一つの態様において、EGFRモデュレーターはEGFRを発現する腫瘍細胞の増殖を抑制する小分子である。他の態様において、EGFRモデュレーターはEGFRを発現する難治性腫瘍細胞の増殖を抑制する小分子である。
【0049】
多数の小分子がEGFRを抑制するのに有用であると記載されている。たとえば、Spadaらの米国特許第5,656,655号はEGFRを抑制するスチリル置換へテロアリール化合物を開示している。このへテロアリール基は1または2のへテロ原子を有する単環であるかまたは1ないし約4のへテロ原子を有する二環であり、該化合物は任意に置換またはポリ置換されている。
【0050】
Spadaらの米国特許第5,646,153号は、EGFRを抑制するビスモノおよび/または二環アリールへテロアリール、炭素環、およびへテロ炭素環化合物を開示している。
【0051】
Bridgesらの米国特許第5,679,683号は、EGFRを抑制する三環ピリミジン化合物を開示している。これら化合物は、第3欄の35行〜第5欄の6行に記載されている縮合へテロ環ピリミジン誘導体である。
【0052】
Barkerの米国特許第5,616,582号は、レセプターチロシンキナーゼ阻害活性を有するキナゾリン誘導体を開示している。
【0053】
Fryら(Science 265, 1093-1095 (1994))は、図1にEGFRを抑制する構造を有する化合物を開示している。
【0054】
Osherovらは、とりわけ表I、II、IIIおよびIVにおいてEGFR/HER1およびHER2を抑制するtyrphostinsを開示している。
【0055】
Levitzkiらの米国特許第5,196,446号は、とりわけ第2欄の42行〜第3欄の40行においてEGFRを抑制するへテロアリールエーテンジイル(heteroarylethenediyl)またはへテロアリールエーテンデイルアリール(heteroarylethendeiylaryl)化合物を開示している。
【0056】
Panekら(Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 283, 1433-1444 (1997))は、受容体のEGFR、PDGFR、およびFGFRファミリーを抑制するPD166285として同定された化合物を開示している。PD166285は、1436頁の図1に示す構造を有する6-(2,6-ジクロロフェニル)-2-(4-(2-ジエチルアミノエトキシ)フェニルアミノ)-8-メチル-8H-ピリド(2,3-d)ピリミジン-7-オンとして同定されている。
【0057】
バイオマーカーおよびバイオマーカーセット
本発明は、EGFRまたはEGFR経路によるシグナル伝達が重要である疾患領域において、たとえば、癌または腫瘍において、免疫学的障害、状態または不全において、または細胞のシグナル伝達および/または細胞増殖の制御が異常または異所性である疾患状態において診断および予後の両者で価値を有する個々のバイオマーカーおよびバイオマーカーセットを含む。バイオマーカーセットは、複数のバイオマーカー、たとえば、以下の表4に示す、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに対する感受性または耐性と高度の相関関係を有する複数のバイオマーカーを含む。
【0058】
本発明のバイオマーカーセットは、種々の生物学的系においてまたは細胞応答について1またはそれ以上のEGFRモデュレーターの起こりそうな効果を予測または妥当に予告することを可能にする。バイオマーカーセットは、被験細胞によるEGFRモデュレーター応答のインビトロアッセイに用いてインビトロでの結果を予測することができる。本発明によれば、本明細書に記載する種々のバイオマーカーセット、またはこれらバイオマーカーセットと他のバイオマーカーまたはマーカーとの組合せを、たとえば、癌患者が1またはそれ以上のEGFRモデュレーターによる治療的介入に対してどのように応答するかを予測するのに用いることができる。
【0059】
細胞が1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに暴露された後の細胞の感受性または耐性と相関関係を有する細胞の遺伝子発現パターンのバイオマーカーセットは、該EGFRモデュレーターで治療する前に1またはそれ以上の腫瘍試料をスクリーニングするための有用なツールを提供する。このスクリーニングは、バイオマーカーセットの発現結果に基づき、腫瘍、それゆえ腫瘍を罹患した患者がEGFRモデュレーターを用いた治療に応答するか否かについて、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに暴露された腫瘍試料の細胞の予測を可能にする。
【0060】
バイオマーカーまたはバイオマーカーセットはまた、本明細書に記載するように、EGFRモデュレーターが関与する疾患の治療を受けている患者において疾患の治療または療法の進行をモニターするのに用いることができる。
【0061】
バイオマーカーは、疾患の治療のための療法の開発のための標的とすることができる。そのような標的は、乳癌や乳腫瘍などの乳房疾患の治療に特に応用することができる。実際、これらバイオマーカーは感受性細胞および耐性細胞において異なって発現されるので、その発現パターンはEGFRモデュレーターを用いた治療に対する細胞の相対的な内生の感受性と相関関係がある。従って、耐性の細胞において高度に発現されるバイオマーカーは、EGFRモデュレーター、とりわけEGFRインヒビターに対して耐性の腫瘍の新たな療法の開発のための標的となり得る。
【0062】
マイクロアレイ
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに対する感受性かまたは耐性のいずれかと相関関係のある発現パターンを示す1またはそれ以上のバイオマーカーを含む、特別のマイクロアレイ、たとえば、オリゴヌクレオチドマイクロアレイまたはcDNAマイクロアレイをも包含する。そのようなマイクロアレイは、腫瘍生検からの被験細胞においてバイオマーカーの発現レベルを評価し、これら被験細胞がEGFRモデュレーターに対して耐性または感受性でありそうか否かを決定するためのインビトロアッセイに用いることができる。たとえば、特別のマイクロアレイは、本明細書に記載し表4に示すバイオマーカーの全てまたはそのサブセットを用いて調製することができる。組織または器官生検からの細胞を単離し、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに暴露することができる。未処理細胞および処理細胞の両者から単離した核酸を1またはそれ以上の特別のマイクロアレイに適用した後、被験細胞の遺伝子発現パターンを決定し、マイクロアレイ上でバイオマーカーセットを作成するのに用いた細胞のコントロールパネルからのバイオマーカーパターンのものと比較することができる。試験に供した細胞からの遺伝子発現パターンの結果に基づき、該細胞が遺伝子発現の耐性または感受性プロファイルのいずれを示すかを決定することができる。ついで、組織または器官生検からの被験細胞が1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに応答するか否か、および治療または療法の方針を、特別のマイクロアレイ分析の結果から収集した情報に基づいて決定または評価することができる。
【0063】
抗体
本発明はまた、1またはそれ以上のポリペプチドバイオマーカーに対して向けられたポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を含む抗体をも包含する。そのような抗体は様々な仕方で用いることができ、たとえばインビトロおよびインビボ診断の両者での検出、スクリーニング、および/または治療法を含めて、本発明のバイオマーカーを精製、検出、およびターゲティングするのに用いることができる。
【0064】
キット
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターを含む治療に対して患者が感受性であるかまたは耐性であるかを決定または予測するためのキットをも包含する。患者は、癌または腫瘍、たとえば乳癌または乳腫瘍を罹患していてよい。そのようなキットは、患者の生検腫瘍もしくは癌試料を試験するのに使用するため、たとえば患者の腫瘍または癌がEGFRモデュレーターを用いた所定の治療または療法に対して耐性であるかまたは感受性であるかを決定または予測するために臨床場面において有用であろう。該キットは、以下のものを入れた適当な容器を含む:EGFRモデュレーター、とりわけEGFRインヒビターに対する耐性および感受性と相関関係のあるバイオマーカーを含む1またはそれ以上のマイクロアレイ、たとえば、オリゴヌクレオチドマイクロアレイまたはcDNAマイクロアレイ;患者の組織生検または患者の試料からの細胞を試験するのに使用する1またはそれ以上のEGFRモデュレーター;および使用の指示書。さらに、本発明によって包含されるキットは、本明細書においてさらに記載するように、当該技術分野で実施されている他の技術および系、たとえば、RT−PCRアッセイ(本明細書に記載する1またはそれ以上のバイオマーカーに基づいてデザインしたプライマーを使用する)、酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)などのイムノアッセイ、イムノブロッティング、たとえば、ウエスタンブロッティング、またはインシトゥハイブリダイゼーションなどを用い、たとえば、本発明のバイオマーカーの発現をmRNAまたはタンパク質のレベルでモニターするための試薬または材料をさらに含んでいてよい。
【0065】
バイオマーカーおよびバイオマーカーセットの応用
バイオマーカーおよびバイオマーカーセットは種々の応用に用いることができる。バイオマーカーセットは、種々の生物学的系においていかなるEGFRモデュレーターの起こりそうな効果についての予測をも可能とすべく、表4に列記したバイオマーカーのいかなる組合せからも構築することができる。本明細書に記載する様々なバイオマーカーおよびバイオマーカーセットは、たとえば、疾患管理における診断または予後の指標として、EGFRをモデュレートする化合物を用いた治療的介入に対して癌患者がどのように応答するかを予測するため、および全EGFR制御経路によるシグナル伝達をモデュレートする治療的介入に対して患者がどのように応答するかを予測するために用いることができる。
【0066】
本明細書に記載するデータは癌療法に潜在的に有用性を有する化合物をスクリーニングおよび同定するのに通常使用される細胞株において得られたが、本発明のバイオマーカーはEGFRまたはEGFR経路によるシグナル伝達が重要である他の疾患領域において、たとえば、免疫学において、または細胞のシグナル伝達および/または増殖の制御がきかなくなった癌または腫瘍においても診断および予後の両者において価値を有する。
【0067】
以下に記載する実施例において、22の結腸細胞株での感受性および耐性分類は試験した2つのEGFRモデュレーターに対して同様であった。それゆえ、本発明のバイオマーカーはEGFRまたはEGFRシグナル伝達経路をモデュレートする他の化合物についても診断および予後の両者の価値を有することが期待される。
【0068】
関連する技術分野の当業者であれば、EGFRシグナル伝達経路が結腸組織の細胞株以外の細胞型においても使用でき機能することを評価するであろう。それゆえ、本明細書に記載するバイオマーカーは、疾患状態と関連する他の組織または器官からの細胞において、または他の組織型に由来する癌または腫瘍において、EGFR活性と相互作用するまたは抑制する化合物に対する薬物感受性または耐性を予測するのに有用であることが期待される。そのような細胞、組織および器官の非制限的な例としては、乳房、結腸、肺、前立腺、精巣、卵巣、子宮頸、食道、膵臓、脾臓、肝臓、腎臓、胃、リンパ球細胞および脳が挙げられ、かくして本明細書に記載するバイオマーカーの広範で有利な適用可能性が提供される。分析のための細胞は、当該技術分野で知られた通常の方法、たとえば、組織生検、吸引、脱落細胞(sloughed cells)、結腸細胞(colonocytes)、臨床的または医学的な組織もしくは細胞のサンプリング法により得ることができる。
【0069】
本発明によれば、患者の組織試料からの細胞、たとえば腫瘍または癌生検をアッセイして、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターで治療する前に1またはそれ以上のバイオマーカーの発現パターンを決定することができる。治療の成功または失敗は、被験組織からの細胞(被験細胞)、たとえば腫瘍または癌生検のバイオマーカーの発現パターンに基づき、1またはそれ以上のバイオマーカーのコントロールセットの発現パターンと比べて同じであるか異なるかで決定することができる。それゆえ、もしも被験細胞が、EGFRモデュレーターに対して感受性の細胞のコントロールパネルでのバイオマーカーのものに対応するバイオマーカー発現プロファイルを示すなら、該患者の癌または腫瘍は該EGFRモデュレーターを用いた治療に良好に応答するであろうことの蓋然性が非常に高いあるいは予測される。対照的に、もしも被験細胞が、EGFRモデュレーターに対して耐性の細胞のコントロールパネルのバイオマーカーのものに対応するバイオマーカー発現パターンを示すなら、該患者の癌または腫瘍は該EGFRモデュレーターを用いた治療には応答しないであろうことの蓋然性が非常に高いあるいは予測される。
【0070】
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターによって治療できる疾患を罹患した患者の治療をモニターする方法をも提供する。患者の組織試料、たとえば、腫瘍生検または腫瘍試料からの単離被験細胞をEGFRモデュレーターに暴露する前および暴露後に1またはそれ以上のバイオマーカーの発現パターンを決定することができ、その際、好ましくはEGFRモデュレーターはEGFRインヒビターである。その結果得られた治療の前および治療後の被験細胞のバイオマーカー発現プロファイルを、EGFRモデュレーターに対して耐性または感受性のいずれかである細胞のコントロールパネルで高度に発現されるべき本明細書に記載し示した1またはそれ以上のバイオマーカーのものと比較する。それゆえ、もしも患者の応答が1またはそれ以上のバイオマーカーの発現プロファイルの相関関係に基づいてEGFRモデュレーターによる治療に対して感受性であるなら、該患者の治療予後は良好であると認定され、治療を続行することができる。また、もしもEGFRモデュレーターを用いた治療の後に被験細胞が該EGFRモデュレーターに感受性の細胞のコントロールパネルに対応するバイオマーカー発現プロファイルに変化を示さないなら、このことは現在行っている治療を修正、変更、あるいは中止さえすべきであるとの指標となり得る。このモニタリングプロセスはEGFRモデュレーターを用いた患者の治療の成功または失敗を指摘することができ、必要に応じてまたは所望により、そのようなモニタリングプロセスを繰り返すことができる。
【0071】
本発明のバイオマーカーは、生物学的系について何らかの知見を得る前に結果を予測するのに用いることができる。本質的に、バイオマーカーは統計的なツールであると考えることができる。バイオマーカーは主として生物学的系を分類するのに用いる表現型を予測するうえで有用である。本発明の一つの態様において、予測の目的は活性なまたは不活性なEGFR経路を有するものとして癌細胞を分類することにある。不活性なEGFR経路を有する癌細胞はEGFRモデュレーターを用いた治療に対して耐性であると考えることができる。不活性なEGFR経路は、本明細書において、EGFRの有意でない発現として、または本明細書において例示した化合物(EGFRインヒビター化合物BMS-461453)に対する各結腸細胞株のIC50値に基づく「耐性」または「感受性」としての分類により定義される。
【0072】
本明細書に記載した幾つかのバイオマーカー、たとえばmucin 2は、EGFRによって制御されることが知られている(J Biol Chem. 2002 Aug 30; 277(35):32258-67)。他のバイオマーカーであるbetacellulinはEGFRリガンドであることが知られている(Biochem Biophys Res Commun. 2002 Jun 28;294(5):1040-6)。上位(top)バイオマーカーのEGFRに対する機能的な関係が予期される、なぜなら高いバイオマーカーの正確さに寄与するバイオマーカーはモデュレートされるべき経路において機能的な役割を果たすことが多いからである。たとえば、Her2遺伝子が過剰発現される場合には知覚(Perception)療法(すなわち、Her2受容体に結合し、インターナリゼーションにより機能を妨害する抗体)が指示される。標的酵素が発現されない場合は療法が治療的効果を奏することは考えにくい。
【0073】
しかしながら、現在のところバイオマーカーの全ての完全な機能が知られているわけではないが、バイオマーカーのあるものは直接または間接にEGFRシグナル伝達経路に関与しているようである。さらに、バイオマーカーのあるものは試験したEGFRモデュレーターに特異的な代謝的または他の耐性経路で機能しているかもしれない。それにも拘わらず、バイオマーカーの機能についての知見は本発明の実施に従ってバイオマーカーの正確さを決定するための要件ではない。
【0074】
バイオマーカーの発見
細胞株のサブセットでのその発現パターンが、細胞増殖、外部刺激(たとえば、リガンド結合)に対する細胞応答、またはシグナル伝達に直接または間接に関与するタンパク質、酵素、または分子(たとえば、受容体)、たとえばレセプターチロシンキナーゼの機能を抑制または活性化することが知られている1の化合物または一連の化合物の組合せを用いた治療または療法に対する細胞応答のインビトロマーカーと関係付けられ、該マーカーとして用いることのできるバイオマーカーが同定されたアプローチが見出された。好ましいのは、所定のタンパク質、たとえばレセプターチロシンキナーゼの機能のアンタゴニストまたはインヒビターである。
【0075】
1またはそれ以上のEGFRモデュレーターを用いた治療に対する癌細胞の感受性または耐性を予測するのに有用なバイオマーカーを発見すべく、2つの典型的な戦略を開発した。図1はEGFRバイオマーカーの同定および優先順位付け(prioritization)戦略を説明している。一つの戦略では、EGFRのmRNA発現レベルを用いて、該mRNA発現レベルから推定してEGFRタンパク質が有意に存在しない、それゆえEGFR経路の有意の活性を有しない6つの結腸癌細胞株を同定した(図2A)。その後の分析において、これら6つの細胞株で有意のmRNA発現レベルを有せずEGFRタンパク質の推定の存在もないバイオマーカーを同定した。さらに、これらバイオマーカーは少なくとも6つの他の細胞株で有意のmRNA発現レベルを有している必要があった。
【0076】
第二の戦略では、EGFR特異的なチロシンキナーゼインヒビター化合物を用いて、該化合物への細胞の暴露後に22の結腸癌細胞株のパネルで化合物感受性を決定した。これら細胞株のあるものは該インヒビター化合物を用いた治療に対して耐性であると決定され、一方、他のものは該インヒビターに対して感受性であると決定された(図2B)。調べた細胞株のサブセットは、EGFRインヒビター化合物への細胞による応答並びに有意のEGFR発現の不在と相関関係のあるバイオマーカーの発現パターンまたはプロファイルを提供し、かくしてバイオマーカーとして利用することができた。
【0077】
インビボ効果のモデルとして腫瘍細胞におけるEGFR同時制御(co-regulation)研究の使用を培養細胞での実験研究と組合せることにより、本発明は、化合物感受性および耐性を予測するバイオマーカーを同定すべく、細胞培養に暴露された細胞固有の(cell-intrinsic)特性に有利にも注目する。インビトロでアッセイした腫瘍細胞または細胞株でのバイオマーカーの発見および同定は、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターへの応答をインビボで予測するのに用いることができ、それゆえ、同じバイオマーカーを1またはそれ以上のEGFRモデュレーターおよび1またはそれ以上のEGFRモデュレーターを含む治療に対する患者の応答を予測するのに用いる臨床場面に拡張することができる。
【0078】
以下の実施例に記載するように、EGFRの発現状態およびEGFRインヒビター化合物に対する薬物感受性を決定した31の未処理の結腸癌細胞株のパネルにおいて44,792を超えるプローブセットの発現レベルを測定するのにオリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いた。この分析は、未処理の細胞の遺伝子発現サインが、小分子または生物学的分子化合物によるEGFRの抑制に対する疾患の感受性を予測するのに充分か否かを決定するために行った。データ分析により、その発現レベルがEGFRの状態と極めて逆の相関関係にあり薬物感受性と相関関係にあることがわかったバイオマーカーが同定された。さらに、小分子EGFRインヒビターによる細胞の処理はまた、該化合物に対する感受性を予測する遺伝子発現サインをもたらした。
【0079】
本発明によって包含される遺伝子発現およびバイオマーカー同定分析を行う手段を、以下にさらに詳細に且つ限定されることなく記載する。
【0080】
EGFRインヒビター化合物に対する22の結腸癌細胞株の感受性に基づくIC50決定および表現型分類:
22の結腸癌細胞株を小分子EGFRインヒビター(BMS-461453)で処理して個々のIC50値を決定した。各細胞株のIC50をMTSアッセイにより評価した。標準偏差とともに平均IC50値を個々の細胞株についての2〜5の個々の決定から計算した。図2Bに示すように、IC50値の4倍の変異が22の結腸癌細胞株で小分子EGFRインヒビターについて観察された。IC50の単位はμMである。
【0081】
最も耐性の細胞株よりも少なくとも1.75倍低いIC50を有する細胞株はすべて、小分子EGFRインヒビターを用いた治療に対して感受性であると考えられた。図2Bは、小分子EGFRインヒビターに対する22の結腸癌細胞株の耐性/感受性分類を示している。5つの細胞株が感受性と分類され、17の細胞株が耐性と分類された。
【0082】
バイオマーカーを同定する戦略の説明
バイオマーカーは2つの基準に基づいて見出された:(i)そのmRNA発現レベルのEGFR発現が有意ではない細胞株でのEGFRの発現への相関関係;および(ii)小分子EGFRインヒビターBMS-461453についてのIC50値と遺伝子発現レベルとの相関関係。
【0083】
これら2つのバイオマーカー選択戦略のそれぞれについて、ストリンジェンシーレベルの異なる統計フィルターを用いてその発現がEGFR状態かまたはIC50値のいずれかと相関関係のある遺伝子を同定することにより、2つの独立した「発見」プローブセットリストを確立した。これら統計的方法を以下に記載するが、4つの発見プローブセットリストという結果となった:EGFR−AおよびEGFR−B(有意のEGFR発現の不在と相関関係)およびIC−50−A、IC−50−B(IC50発現と相関関係)、Aリストはよりストリンジェントな条件により選択されたプローブセットを含んでいる。ついで、2つのバイオマーカープローブセットリストを確立した、すなわち、EGFR−AとIC−50−Bとの両者に現れたプローブセット(バイオマーカープローブセットリストA、表2)およびEGFR−BとIC−50−Aとの両者に現れたプローブセット(バイオマーカープローブセットリストB、表3)。
【0084】
EGFR状態分類と有意の相関関係のある遺伝子の同定
EGFRについてのRT−PCR発現データを31の結腸癌細胞株から得、以下の実施例1に記載するように他の細胞株に比べてEGFRの発現レベルが有意に低い6つの細胞株を同定した(図2A)。31のすべての未処理の結腸癌細胞株についてHG−U133アレイセットで示された44,792のプローブセットの発現プロファイルデータを得、上記のEGFRの有意のmRNA発現を有しない6つの細胞株と相関関係のあるプローブセットの同定のために分析した。発見プローブセットリストEGFR−Aについては、EGFRの有意に低い発現を有する6つの結腸癌細胞株のうち6つにおいてAffymetrix Mas 5.0ソフトウエアによって不在であると判定されたすべてのプローブセットが同定された。第二に、これらプローブセットは、EGFRの有意のmRNA発現を有すると分類された25の細胞株の少なくとも6つの細胞株に存在すると判定される必要があった。この分析戦略は、発見プローブセットリストIC−50−Bと比較して分析できる280のプローブセットの同定という結果となった。
【0085】
発見プローブセットリストEGFR−Bは、EGFRの有意に低い発現を有する6つの結腸癌細胞株のうち5つにおいてAffymetrix Mas 5.0ソフトウエアによって不在であると判定され、且つEGFRの有意のmRNA発現を有すると分類された25の細胞株の少なくとも6つの細胞株に存在すると判定されたすべてのプローブセットを選択することにより生成した。発見プローブセットリストEGFR−Bは1,852のプローブセットを含んでいる(U133A:876;U133B:976)。
【0086】
薬物耐性/感受性分類と有意の相関関係のある遺伝子の同定
22の未処理の結腸癌細胞株についてHG−U133アレイセットで示された44,792のプローブセットの発現プロファイルデータを得、以下の実施例に記載するようにして前処理した。こえらデータをスチューデントT検定を用いて分析し、その発現パターンが薬物耐性/感受性分類と強い相関関係のある遺伝子を同定した。表1は、EGFRアンタゴニストBMS-461453についてIC50結果に基づき22の結腸癌細胞株の耐性/感受性表現型分類を提供する。示した各細胞株について標準偏差(SD)とともに平均IC50値を2〜5の個々の決定から計算した。BMS-461453について22の結腸癌細胞株の平均IC50を計算し、各細胞株についてIC50データを正規化するのに用いた。最も耐性の細胞株よりも少なくとも1.75倍低いIC50を有するすべての細胞株はBMS-461453を用いた治療に対して感受性であると考えられた。星印を付した細胞株は薬物治療に対して感受性であると定められる。
【0087】
表1:22の結腸癌細胞株の耐性/感受性表現型分類
【表1】

【0088】
「理想的な発現パターン」は、一つのクラス(たとえば、感受性)で均一に高く、他のクラス(たとえば、耐性)で均一に低い遺伝子に対応する。最初に、スチューデントT検定を行い、各プローブセットについてT値を得た。T値が得られたら、その対応する信頼値(P)が標準有意表で見出された。信頼値は2つのグループ間で偶然のみによって平均発現差異が観察される蓋然性の計測法であり、以下の式を用いて得られる:
T(g.c)=(X1 − X2)/(var1/n1 + var2/n2)1/2
上記式において、
T(g.c)は、遺伝子発現gと感受性/耐性分類cとの間のT値を表す;
X1は、クラス1における試料の平均遺伝子発現レベルを表す;
X2は、クラス2における試料の平均遺伝子発現レベルを表す;
var1は、クラス1における試料の遺伝子発現の分散を表す;
var2は、クラス2における試料の遺伝子発現の分散を表す;
n1は、クラス1における試料の数を表す;
n2は、クラス2における試料の数を表す;および
T値についての対応する信頼値(P)は標準有意表から得られる。
【0089】
発見プローブセットリストIC−50−Bを生成するため、該リストに含めるべきプローブセットのカットオフとして0.05またはそれ以下の信頼値を用いた。発見プローブセットリストIC−50−Bは5,050のプローブセットを含んでいる(U133A:2,498;U133B:2,552)。
【0090】
発見プローブセットリストIC−50−Aはピアソン相関係数(−1.0〜1.0の範囲の無次元の指数)を用いて生成した。この値は、IC50データを連続変数として処理することにより、および線形回帰モデルを利用して22の結腸癌細胞株について遺伝子発現レベルをIC50値と相関付けることによって計算した。相関係数が−0.5未満のプローブセット、合計902プローブセット(U133A:467;U133B:435)を選択した(p<0.02)。
【0091】
最終的に、EGFR−AおよびIC−50−Bに存在するか(バイオマーカープローブセットリストA)(表2)またはEGFR−BおよびIC−50−Aに存在する(バイオマーカープローブセットリストB)(表3)プローブセットを同定することにより、2つの別のバイオマーカープローブセットリスト、バイオマーカープローブセットAおよびBを得た。
【0092】
バイオマーカープローブセットA(表2)は合計74のプローブセット(U133A:43;U133B:31)を含み、戦略Aを用いてEGFRアンタゴニスト感受性のバイオマーカーとして同定されたポリヌクレオチドを提供する。戦略Aでは、ポリヌクレオチドはEGFR状態の同時制御についてはストリンジェントな基準を、IC50値についてはよりストリンジェントでない条件を満足する必要があった。すなわち、ポリヌクレオチドは、EGFRの最も低い発現を有する6つの細胞株のうち6つにおいてAffymetrixソフトウエアによって不在であると称され、0.05に等しいかまたはそれ以下のP値で感受性の細胞株と耐性の細胞株とで異なって発現される必要があった。
【0093】
表2:バイオマーカープローブセットA
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【0096】
【表5】

【0097】
【表6】

【0098】
【表7】

【0099】
【表8】

【0100】
【表9】

【0101】
【表10】

【0102】
【表11】

【0103】
【表12】

【0104】
【表13】

【0105】
【表14】

【0106】
バイオマーカープローブセットB(表3)は95のプローブセット(U133A:47;U133B:48)を含む。バイオマーカープローブセットBは、戦略Bを用いてEGFRアンタゴニスト感受性のバイオマーカーとして同定されたポリヌクレオチドを含む。戦略Bでは、ポリヌクレオチドはIC50値に対する相関関係についてはストリンジェントな基準を、EGFR状態の同時制御についてはよりストリンジェントでない条件を満足する必要があった。すなわち、ポリヌクレオチドは、IC50に関しては−0.5かまたはそれ以下のピアソン相関を有する必要があり、EGFRの最も低い発現を有する6つの細胞株のうち5つにおいてAffymetrixソフトウエアによって不在であると称される必要があった。
【0107】
表3:バイオマーカープローブセットB
【表15】

【0108】
【表16】

【0109】
【表17】

【0110】
【表18】

【0111】
【表19】

【0112】
【表20】

【0113】
【表21】

【0114】
【表22】

【0115】
【表23】

【0116】
【表24】

【0117】
【表25】

【0118】
【表26】

【0119】
【表27】

【0120】
【表28】

【0121】
【表29】

【0122】
ついで、2つのバイオマーカープローブセットAおよびBを組合せ(合計161の異なるプローブセット)、重複するポリヌクレオチドを削除して125の独特のポリヌクレオチドとし、これを下記表4に示す。表4のポリヌクレオチドは本発明のバイオマーカーである。
【0123】
表4:バイオマーカー
【表30】

【0124】
【表31】

【0125】
【表32】

【0126】
【表33】

【0127】
【表34】

【0128】
【表35】

【0129】
【表36】

【0130】
【表37】

【0131】
【表38】

【0132】
【表39】

【0133】
【表40】

【0134】
【表41】

【0135】
【表42】

【0136】
【表43】

【0137】
【表44】

【0138】
【表45】

【0139】
【表46】

【0140】
【表47】

【0141】
【表48】

【0142】
【表49】

【0143】
【表50】

【0144】
【表51】

【0145】
バイオマーカー候補の生物学的有効性:EGFRリガンドでの処理によるまたはEGFRインヒビターでの処理による発現のモデュレーション
EGFR経路の活性、それゆえ療法によるEGFRの抑制に対する癌細胞の感受性を予測するためのバイオマーカー候補の有意さを確認すべく、EGFR経路によって制御される遺伝子を同定した。上記のEGFRバイオマーカー候補についての該特性の証明は、これら遺伝子をEGFR経路に機能的に連結することからさらなる信頼性を付与するであろう。結腸癌細胞株または肺癌細胞株を、血清の不在下、またはEGFRモデュレーターBMS-461453もしくはEGFRモデュレーターcetuximab(C225、キメラモノクローナルEGFR抗体としても知られる)とともに血清の存在下、上皮増殖因子で処理した。上皮増殖因子によって誘発される遺伝子を同定するため、血清枯渇細胞を20ng/mlのEGFで0.5、6、および18時間処理した。対照細胞は培地のみで処理した。発現プロファイリングを行い、データをGeneChipR Expression AnalysisソフトウエアMAS 5.0(Affymetrix、サンタ・クララ、カリフォルニア)を用いて分析した。
【0146】
EGFRアンタゴニストによって抑制される遺伝子は、10%血清の存在下、0.5μMのBMS-461453または1μg/mlもしくは5μg/mlのC225で6時間および24時間処理することにより同定した。0.05%DMSOに暴露した細胞を実験対照として用いた。発現プロファイリングを行い、データをGeneChipR Expression AnalysisソフトウエアMAS 5.0を用いて分析した。
【0147】
インヒビター処理またはEGFR処理した細胞株の遺伝子発現を未処理の対照と1対1で比較した。未処理の対照と比べてEGFR暴露により発現が2倍増大するかまたはEGFRインヒビター処理により発現が2倍低減するバイオマーカーリストからのポリヌクレオチドは、EGFRによってモデュレートされたと考えられた。これらのバイオマーカーを表4に示す。バイオマーカーの例としてEphA1、B-細胞転座遺伝子2、プロスタグランジン-エンドペルオキシドシンターゼ2およびセリン(またはシステイン)プロテイナーゼインヒビター(クレードB)が挙げられ、これらは感受性の細胞で高度に発現され、EGFRによる処理でアップレギュレーションされる。一方、spondin 1、talin 2および核内受容体サブファミリー3は、その発現レベルが結腸癌細胞株の感受性または耐性と相関関係があり、EGFRインヒビターBMS-461453およびC225による処理で一定してダウンレギュレーションされる遺伝子である。これらバイオマーカーは、EGFまたはEGFRインヒビター処理によるその発現モデュレーションに基づき、EGFRシグナル伝達経路に直接または間接に関与しているように思われる。
【0148】
上位バイオマーカーの同定
1またはそれ以上のEGFRモデュレーターを用いた治療に対する癌細胞の応答を予測するのに使用するためのバイオマーカーをさらに優先順位付けする試みにおいて、以下のフィルター基準を表4のバイオマーカーに対して用いて合計14のバイオマーカー(表5)を上位バイオマーカーとして同定した。
(1)IC50との遺伝子発現の極めて有意の相関関係からの結果:上記スチューデントT検定におけるp値<0.01またはピアソン値<−0.6
(2)上記EGFRリガンドおよび/またはEGFRインヒビター処理による発現のモデュレーションからの結果;および
(3)EGFR経路とバイオマーカーとの直接の関係を明らかにする文献によって支持されたバイオマーカー。
【0149】
表5:14の上位バイオマーカー
【表52】

【0150】
【表53】

:遺伝子betacellulinはEGFR−Aリストで定めたEGFR発現について逆制御(counter regulation)を示したが、IC50との相関関係についてスチューデントT検定で0.04のp値を有していた。それでもbetacellulinはEGFRの刊行されたリガンドの一つであることから、強力な文献上の支持により上位バイオマーカーとして選択した。
【0151】
バイオマーカーの有用性
ある生物学的系の特定の特性と相関関係のあるポリヌクレオチドは、該生物学的系および他の生物学的系について予測を行うのに用いることができる。EGFRモデュレーター感受性および耐性と相関関係のあるバイオマーカーの予測的有用性を示すため、これらのポリヌクレオチドが22の結腸癌細胞株の小分子EGFRモデュレーターへの応答を予測する能力について試験した。
【0152】
本発明は、たとえば、投票スキーム(voting scheme)で試験した14の上位バイオマーカーを含む単一のバイオマーカーを包含する。この目的のため、平均発現値を14のすべてのバイオマーカーについて計算した。ついで、平均を超える発現レベルを示した結腸癌細胞株を感受性に投票し、平均未満の発現レベルの結腸癌細胞株を耐性に投票した。この手順の後、この投票をIC50(上記を参照)に基づく定義による実際の感受性/耐性状態と比較し、誤差率を計算した。14の上位のバイオマーカーの誤差率を表6に示す。
【0153】
表6:14の上位のバイオマーカーの誤差率
【表54】

【0154】
バイオマーカーtalin、Cystic fibrosis conductance regulator (CFTR)、およびmucin 3は、誤差率が12%未満で最良の単一バイオマーカーであった。
【0155】
実施例
実施例1:方法
IC50の決定−インビトロ細胞毒性アッセイ
小分子EGFRインヒビターerlotinib HCl (BMS-461453)を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手可能な22のヒト結腸癌細胞株のパネルに対してインビトロでの細胞毒性を試験した。細胞毒性の評価は、MTS(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルフェニル)-2H-テトラゾリウム、内部塩)アッセイ(T.L. Rissら、1992, Mol. Biol. Cell, 3 (Suppl.):184a)により細胞で行った。
【0156】
アッセイを行うため、結腸細胞を96ウエルマイクロタイタープレートに4,000細胞/ウエルにてプレーティングし、24時間後に系列希釈した薬剤を加えた。EGFRインヒビターの濃度範囲は5μg/ml〜0.0016μg/ml(およそ10μM〜0.0032μM)であった。細胞を37℃で72時間インキュベートし、この時点でテトラゾリウム染料MTS(最終濃度333μg/ml)を電子共役剤フェナジンメトサルフェート(最終濃度25μM)とともに加えた。生きた細胞中のデヒドロゲナーゼはMTSを還元して492nmで光を吸収する形態にするので、これを分光測光により定量することができる。吸光度が大きいほど、生きた細胞の数は多いことになる。これら結果をIC50として表したが、これは未処理の対照細胞の細胞増殖の50%に細胞増殖(すなわち、450nmでの吸光度)を抑制するのに必要な薬剤の濃度である。各細胞株について複数の試験からの平均IC50および標準偏差(SD)を計算した。
【0157】
耐性/感受性分類
IC50が6μM未満の細胞株はEGFRインヒビターに対して感受性と定められ、一方、IC50が6μMを超える細胞株は耐性と考えられた。耐性/感受性分類を上記表1に示してあり、5つの細胞株は感受性と分類され、17の細胞株は耐性と分類された。
【0158】
遺伝子発現プロファイリング
結腸細胞を標準細胞培養条件:10%ウシ耐性血清、100IU/mlペニシリン、100mg/mlストレプトマイシン、2mM L-グルタミンおよび10mM Hepes(すべてGibcoBRL、ロックビル、メリーランドから)を含むように補充したRPMI 1640を用いて増殖させた。Qiagen(バレンシア、カリフォルニア)から市販されているRNeasyTMキットを用い、RNAを50-70%コンフルエント細胞または薬剤処理細胞から単離した。RNAの品質をAgilent 2100バイオアナライザー(Agilent, Technologies、ロックビル、メリーランド)を用いて28s:18sリボソームRNA比を測定することによりチェックした。全RNAの濃度を分光測光的に決定した。各細胞株からの10μgの全RNAを用い、Affymetrix GenechipTM Expression Analysis Technical Manual, 2001に従ってビオチン化プローブを調製した。標的をAffymetrix高密度オリゴヌクレオチドアレイヒトHG-U133セットチップ(Affymetrix、サンタ・クララ、カリフォルニア)とハイブリダイズさせた。ついで、アレイを洗浄し、GeneChip Fluidics stationを用いて製造業者の指示に従って染色した。2つのGeneChipRアレイからなるHG-U133セットは45,000近くのプローブセットを含み、約33,000の充分に実証されたヒト遺伝子に由来する39,000を超える転写物を表していた。
【0159】
バイオマーカーを選択するためのマイクロアレイデータの前処理
スキャニングした影像ファイルを人為産物について視覚により検査し、GeneChipR Expression AnalysisソフトウエアMAS5.0(Affymetrix、サンタ・クララ、カリフォルニア)で分析した。転写物の相対的な豊富さを測定する「シグナル」(Affymetrix GenechipR Expression Analysis Technical Manual, 2001を参照)と同様、「検出コール(Detection Call)」(Affymetrixマニュアルを参照)を用いて転写物が一つの試料内で検出されるか否かを決定した。包括的なチップ強度における微細な差異を説明するために各チップについて修飾した(trimmed)平均強度を1,500(Affymetrixマニュアルを参照)までスケールアップし、各細胞株についての全体としての発現レベルを比較しうるようにした。Affymetrix対照配列は分析前に排除した。
【0160】
EGFRインヒビターまたはEGFRリガンドを用いた結腸細胞株および乳癌細胞株の誘発研究および該誘発によってモデュレートされた遺伝子の選択
表1において星印で示した5つの結腸細胞株および1つの肺細胞株を薬剤誘発研究に用いた。これら結腸細胞株のうち3つはEGFRを発現し、EGFRインヒビターBMS-461453に対して感受性である。SW480細胞株はEGFRを発現するがEGFRインヒビターに対して感受性ではなく、COLO320_DMはEGFRを発現せずEGFRインヒビターに対して耐性である。肺癌細胞株H292はEGFRを発現するが、その感受性状態はわかっていない。細胞を10cmの培養プレートに上記培地を用いて播種し、24時間培養した。
【0161】
EGF誘発研究のため、結腸細胞株CACO2および肺癌H292細胞株を2×PBSで洗浄し、培地を血清不含のRPMIに変えた。翌日、細胞を20ng/mlのEGFで処理し、最終的にRNA単離のために処理後0、6および18時間で溶解させた。遺伝子発現を以下のようにしてプロファイリングした。
【0162】
EGFR抑制研究を結腸細胞株GEO、CCD33-CO、SW480およびCOLO320DMで行った。発現プロファイリングを上記のようにして行い、GeneChipR Expression AnalysisソフトウエアMAS5.0を用いてデータを分析した。EGFRインヒビター処理した細胞の発現データを未処理の同細胞株の発現データと1対1で比較した。処理したものと未処理の対照との間で2倍の発現の差異が示されたときは変化は有意であるとした。4つのすべての細胞株について分析を行ってEGFRインヒビター処理した場合および処理しない場合の遺伝子発現を比較した。
【0163】
実施例2:RT−PCR発現プロファイリング
RNAの定量をSYBR GreenリアルタイムPCRを用いて行った。SYBR GreenリアルタイムPCRアッセイは、核酸鋳型の濃度をアッセイするための最も正確な方法の一つである。
【0164】
RNAは、好ましくはQiagen(バレンシア、カリフォルニア)から市販されているRNeasyキットを用い、標準法を用いて調製することができる。リアルタイムPCRのためのcDNA鋳型は、RT−PCRのためのSuperscriptR First Strand Synthesisシステムを用いて生成することができる。SYBR GreenリアルタイムPCR反応液は以下のようにして調製する:反応混合物は、20ngの第一鎖cDNA;50nMのフォアウォードプライマー;50nMのリバースプライマー;0.75×SYBR Green I(Sigma);1×SYBR Green PCR緩衝液(50mM Tris-HCl、pH8.3、75mM KCl);10%DMSO;3mM MgCl2;300μMの各dATP、dGTP、dTTP、dCTP;1UのPlatinumR Taq DNA Polymerase High Fidelity(Cat# 11304-029;Life Technologies;ロックビル、メリーランド)を含む。リアルタイムPCRはApplied Biosystems 5700 Sequence Detection Systemを用いて行う。条件は、95℃で10分間(PlatinumR Taq DNAポリメラーゼの変性および活性化)、40サイクルのPCR(95℃で15分間、60℃で1分間)。PCR生成物の均一な融解について5700 Sequence Detection Systemに組み込まれた分析アルゴリズムを用いて分析する。
【0165】
鋳型定量の正規化に使用するcDNA定量をSYBR GreenリアルタイムPCRを用いて行う。EGFRの発現を以下に記載するようにしてGAPDH発現に正規化する。
【0166】
SYBR GreenリアルタイムPCRに使用するGAPDHオリゴヌクレオチドの配列は以下のとおりである:
GAPDH−F:5'-AGCCGAGCCACATCGCT-3'(配列番号191)
GAPDH−R:5'-GTGACCAGGCGCCCAATAC-3'(配列番号192)
【0167】
SYBR GreenリアルタイムPCRに使用するEGFRオリゴヌクレオチドの配列は以下のとおりである:
EGFR−F:5'- GCGTCTCTTGCCGGAATGT-3'(配列番号193)
EGFR−R:5'- AGCCGAGGCAGGGAATGCGTG-3'(配列番号194)
【0168】
Sequence Detection Systemは、各投入cDNA鋳型の濃度を計算するのに使用するCt(閾値サイクル)値を生成する。目的とする各遺伝子のcDNAレベルをGAPDH cDNAレベルに正規化して投入試料における全cDNA量の変動の補償をした。このことは、各細胞株についてGAPDH Ct値を生成することにより行う。目的遺伝子およびGAPDHについてのCt値を、各特定cDNAについてのcDNAと比較して正規化したGAPDHを計算するのに使用するδδCt式(Applied Biosystems PrismR 5700 Sequence Detection System User Manual)の改変したものに挿入する。δδCt式は以下のとおりである:
核酸鋳型の相対量=2δδCt=2(δCta−δCtb)
上記式中、δCta=Ct標的−CtGAPDHであり、δCtb=Ct参照−CtGAPDHである。
【0169】
実施例3:バイオマーカーに対する抗体の製造
バイオマーカーに対する抗体は種々の方法により調製することができる。たとえば、バイオマーカーポリペプチドを発現している細胞を動物に投与して、該発現されたポリペプチドに対して向けられたポリクローナル抗体を含む血清の産生を動物に誘発することができる。一つの側面において、当該技術分野で一般に行われている技術を用い、バイオマーカータンパク質を調製および単離し、あるいは精製して天然の混入物を含まないようにする。ついで、発現され単離されたポリペプチドに対して高い比活性を有するポリクローナル抗血清を製造するため、そのような調製物を動物に導入する。
【0170】
一つの側面において、本発明の抗体はモノクローナル抗体(またはそのタンパク質結合フラグメント)である。バイオマーカーポリペプチドを発現する細胞はいずれかの適当な組織培養培地にて培養できるが、10%ウシ胎仔血清(約56℃で不活化したもの)を含むように補充し、約10g/lの非必須アミノ酸、約1,00U/mlのペニシリン、および約100μg/mlのストレプトマイシンを含むように補充したEarle改変Eagle培地で細胞を培養するのが好ましい。
【0171】
免疫した(およびブースター投与した)マウスの脾細胞を抽出し、適当なミエローマ細胞株と融合することができる。いずれの適当なミエローマ細胞株をも本発明に従って用いることができるが、ATCCから入手可能な親ミエローマ細胞株(SP2/0)を用いるのが好ましい。融合後、Wandsら(1981, Gastroenterology, 80:225-232)によって記載されているように、得られたハイブリドーマ細胞をHAT培地で選択的に維持し、ついで限界希釈によりクローニングする。ついで、そのような選択により得られたハイブリドーマ細胞をアッセイして、ポリペプチド免疫原またはその部分に結合することのできる抗体を分泌する細胞クローンを同定する。
【0172】
別法として、抗イディオタイプ抗体を用いる2工程法においてバイオマーカーポリペプチドに結合することのできるさらなる抗体を製造することができる。そのような方法は、抗体自身が抗原であること、それゆえ第二の抗体に結合する抗体を得ることができるとの事実を用いるものである。この方法によれば、タンパク質特異的抗体を用いて動物、好ましくはマウスを免疫することができる。ついで、そのような免疫した動物の脾細胞を用いてハイブリドーマ細胞を製造し、ハイブリドーマ細胞をスクリーニングしてタンパク質特異的抗体に結合する能力が該ポリペプチドによって阻止され得る抗体を産生するクローンを同定する。そのような抗体はタンパク質特異的抗体に対する抗イディオタイプ抗体を含み、動物を免疫してさらなるタンパク質特異的抗体の生成を誘発するのに用いることができる。
【0173】
実施例4:免疫蛍光アッセイ
以下の免疫蛍光プロトコールを、たとえば、細胞上のEGFRバイオマーカータンパク質発現を確認するため、または、たとえば、細胞の表面に発現されたEGFRバイオマーカーに結合する1またはそれ以上の抗体の存在についてチェックするために用いることができる。簡単に説明すると、カルシウムおよびマグネシウムを含むDPBS(DPBS++)中の10μg/mlのウシコラーゲンII型でLab-Tek IIチャンバスライドを4℃にて一夜コーティングする。ついで、スライドを冷DPBS++で2回洗浄し、全容量125μlの8000 CHO-CCR5または CHO pC4トランスフェクション細胞を播種し、95%酸素/5%二酸化炭素の存在下、37℃でインキュベートする。
【0174】
培地を吸引により穏やかに除去し、吸着した細胞をDPBS++で周囲温度にて2回洗浄する。スライドを0.2%BSA(ブロッキング剤)を含有するDPBS++で0-4℃にて1時間ブロッキングする。ブロッキング溶液を吸引により穏やかに除去し、125μlの抗体含有溶液(抗体含有溶液は、たとえば、ハイブリドーマ培養上澄み液(通常、希釈せずに用いる)、または血清/血漿(通常、希釈する、たとえば約1/100の希釈)であってよい)を加える。スライドを0-4℃にて1時間インキュベートする。ついで、抗体溶液を吸引により穏やかに除去し、細胞を400μlの氷冷ブロッキング溶液で5回洗浄する。つぎに、ブロッキング溶液中のローダミン標識二次抗体(たとえば、抗ヒトIgG)(125μl、1μg/ml)を細胞に加える。再び、細胞を0-4℃にて1時間インキュベートする。
【0175】
ついで、二次抗体を吸引により穏やかに除去し、細胞を400μlの氷冷ブロッキング溶液で3回、ついで冷DPBS++で5回、洗浄する。ついで、細胞をDPBS++中の3.7%ホルムアルデヒド(125μl)で周囲温度にて15分間固定化する。その後、細胞を400μlのDPBS++で周囲温度にて5回洗浄する。最後に、細胞を50%水性グリセリンに入れ、ローダミンフィルターを用いて蛍光顕微鏡で観察する。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】EGFRバイオマーカー同定および優先順位付け(prioritization)戦略を示す。
【0177】
【図2A】EGFRの有意のmRNA発現を有しない細胞株を同定するための31の結腸癌細胞株におけるEGFRのRT−PCRの結果を示す。
【0178】
【図2B】EGFRインヒビター化合物を用いた21の結腸癌細胞株のIC50プロファイル、および感受性および耐性の細胞株の決定を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFRモデュレーターの投与を含む癌の治療法に治療的に応答する哺乳動物を同定する方法であって、
(a)表4のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定し、
(b)該哺乳動物をEGFRモデュレーターに暴露し、
(c)工程(b)の暴露後、該哺乳動物において該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを測定する
ことを含み、その際、工程(a)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(c)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すことを特徴とする方法。
【請求項2】
該少なくとも一つのバイオマーカーが表5のバイオマーカーから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該方法がインビトロの方法であり、該少なくとも一つのバイオマーカーが該哺乳動物からの少なくとも一つの哺乳動物生物学的試料で測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
EGFRモデュレーターの投与を含む癌の治療法に治療的に応答する哺乳動物を同定する方法であって、
(a)該哺乳動物をEGFRモデュレーターに暴露し、
(b)工程(a)の暴露後、該哺乳動物において表4のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを測定する
ことを含み、その際、該EGFRモデュレーターに暴露されていない哺乳動物で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すことを特徴とする方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−520995(P2007−520995A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500841(P2006−500841)
【出願日】平成16年1月8日(2004.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/000368
【国際公開番号】WO2004/063709
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(391015708)ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニー (494)
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL−MYERS SQUIBB COMPANY
【Fターム(参考)】