説明

上皮成長因子受容体リガンドのモジュレーション

本発明は、細胞または組織における上皮成長因子受容体(EGFR)リガンドの発現および/または活性をモジュレートする方法であって、前記細胞または組織をmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNA、またはいずれかのかかるmiRNAのアンタゴニストと接触させる前記方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、上皮成長因子受容体(EGFR)リガンド、例えばトランスフォーミング成長因子α(TGFα)の活性および/または発現をモジュレートする方法に関する。特に、本発明はmiRNAを利用するEGFRリガンド発現および/または活性をモジュレートする方法ならびにEGFRリガンドの発現および/または活性の調節不全に関連する症状を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮成長因子(EGF)ファミリーにはEGF、トランスフォーミング成長因子α(TGFα)、ヘパリン結合EGF様成長因子(HB-EGF)、アンフィレグリン(AR)、エピレグリン(EPR)、ベタセルリン(BTC)、エピゲンおよびニューレグリン(NRG)-1、NRG-2、NRG-3およびNRG-4が含まれる。EGFファミリーのメンバーは、上皮成長因子受容体(EGFR)、リガンド活性化受容体チロシンキナーゼおよびErbB受容体ファミリーに対するリガンドである。EGFRリガンドは多くの細胞シグナル伝達経路において重要であり、EGFRリガンドの調節不全はいくつもの疾患で見られる。例えば、非小細胞肺がんでは、血漿TGFαの増加がエルロチニブ耐性に関連し、アンフィレグリンの増加は悪い予後判定の指標である。TGFαは細胞増殖および分化の刺激と制御に関わり、正常な組織ではマクロファージ、肝細胞、血小板およびケラチノサイトにより産生される。TGFαはまた、多数の癌により産生され、かつTGFα発現のアップレギュレーションは多くの型の癌で見出されていて、従ってTGFαは抗癌療法の標的である。
【0003】
EGFRは多数の癌で過剰発現されるので、抗癌療法の標的である。例えば、頭頸部癌(HNC)の80%超はEGFRを過剰発現する。EGFRからのシグナル伝達は下流のホスホイノシチド3-キナーゼの(PI3K)/AktおよびRas/Raf/MAPK経路の活性化をもたらし、これらは腫瘍増殖、浸潤、転移、血管新生およびアポトーシス阻害を促進し、これらは全て癌進行および患者の悪い予後判定に寄与する。しかし、EGFRを標的化するチロシンキナーゼインヒビターの臨床試験(ゲフィチニブおよびエルロチニブおよびモノクローナル抗体セツキシマブを含む)は、HNCを含む癌の範囲に限られた効能を示しただけであった。同様に、抗Akt剤も限られた治療効能を有するのみであった。
【0004】
マイクロRNA(miRNA)は高度に保存された、スモール内因性非タンパク質コーディングRNA(典型的には21〜25個のヌクレオチド)の豊富なクラスであり、遺伝子発現をネガティブに調節する。miRNAはメッセンジャーRNA(mRNA)内の特異的3-非翻訳領域(3'UTR)と結合してmRNA切断または翻訳阻止を誘発する。個々のmiRNAは典型的にはそのコグネイト標的メッセンジャーRNA(mRNA)と不完全に結合し、ユニークなmiRNAは複数遺伝子の発現を調節することができる。
【0005】
miRNAは、非コーディングDNAの領域から転写された数百個のヌクレオチドを通常含有するRNA前駆体(pri-miRNA)から作製される。pri-miRNAは核内でRNaseIIIエンドヌクレアーゼによりプロセシングされておよそ70個のヌクレオチドのステム-ループ前駆体(pre-miRNA)を形成する。pre-miRNAは細胞質中に能動輸送され、ここでショートRNA二本鎖、典型的には21〜23bpにさらにプロセシングされる。機能性miRNA鎖は相補的な非機能性鎖から分離され、RNA誘発型サイレンシング複合体(RISC)内に置かれる。(あるいはRISCはpre-mRNAヘアピン構造を直接積み込んでもよい)。miRNAは標的mRNAの3'UTRと結合する、そしてこの結合において重要なのはmiRNAの5'末端近くのおよそ6〜7個のヌクレオチド(典型的にはヌクレオチド位置2〜8)のいわゆる「シード(seed)」領域である。3'末端の役割はそれほど明確でない。遺伝子発現のmiRNA誘発型調節は、典型的には翻訳阻止、あるいはリボソームから現れるタンパク質の分解またはリボソームの「凍結」および/または標的mRNAのRNA破壊部位中への運動の促進により達成される。
【0006】
miRNAは多くの正常な細胞機能に重大な影響を与え、幹細胞分裂、胚発生、細胞分化、炎症および免疫などのプロセスに関わる。特定のmiRNA、および個々のmiRNAの発現パターンおよび発現の調節の変化が、癌を含む様々な病状において関係付けられる例が増えている。いくつかのmiRNAは癌において変化し、腫瘍サプレッサーまたは癌遺伝子として作用しうる。例えば、let-7d(miRNAのlet-7ファミリー)は正常な頭頸部組織においてRAS癌遺伝子発現を調節するが、多くの頭頸部でlet-7d発現が低下すると、RAS発現をアップレギュレーションし、腫瘍成長を増加して患者生存率が低下する。対照的に、miR-184発現は舌扁平上皮細胞癌においてアップレギュレーションされ、癌遺伝子c-Myc発現の増加、細胞増殖および腫瘍成長の増加に導く。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の態様において、本発明は細胞または組織中の上皮成長因子受容体(EGFR)リガンドの発現および/または活性をモジュレートする方法であって、細胞または組織をmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNA、またはいずれかのかかるmiRNAのアンタゴニストと接触させるステップを含む前記方法を提供する。
【0008】
miR-7 miRNAはhsa-miR-7であってもよく、また配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含んでもよい。miR-7 miRNA前駆体はhsa-miR-7-1、hsa-miR-7-2およびhsa-miR-7-3から選択され、配列番号2〜4のいずれか1つに記載の配列を含んでもよい。
【0009】
典型的には、細胞または組織をmiRNAと接触させるステップはEGFRリガンドの発現および/または活性を低減または阻害する。細胞または組織をmiRNAのアンタゴニストと接触させるステップはリガンドの発現および/または活性を増加する。
【0010】
典型的には、EGFRリガンドをコードするmRNAの3'非翻訳領域は1以上のmiRNA結合部位を含む。典型的には、miRNAは1以上の部位と結合する。結合部位は配列番号6〜11のいずれかに記載の配列またはその変異体を含んでもよい。
【0011】
EGFRリガンドはTGFαおよびHB-EGFから選択することができる。
【0012】
特別な実施形態では、EGFRはTGFαである。TGFαをコードするmRNAは配列番号12に記載の配列、またはその変異体を含む3'非翻訳領域を有してもよい。
【0013】
mRNAまたはそのアンタゴニストを細胞または組織とin vivoまたはex vivoで接触させてもよい。前記細胞または組織を含有するかまたは前記細胞または組織の起源となる被験体は、EGFRリガンドの発現および/または活性の調節不全に関連する疾患もしくは症状を患う、素因がある、または、そうでないが、発生するリスクがあるものでもよい。疾患または症状がEGFRリガンドの発現または活性のアップレギュレーションまたは亢進に関連してもよい。疾患または症状は癌であってもよい。癌は、例えば、頭頸部癌、グリア芽細胞腫、膵臓癌、結腸癌、肺癌(非小細胞肺癌を含む)、前立腺癌、乳癌、肝臓癌、神経芽細胞腫または黒色腫であってもよい。
【0014】
第二の態様において、本発明は細胞または組織中の上皮成長因子受容体(EGFR)リガンドの発現および/または活性をモジュレートする方法であって、細胞または組織をmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの発現または活性を刺激または促進できる薬剤と接触させ、それにより、刺激または促進されたmiRNAの発現または活性がEGFRリガンドの発現および/または活性をモジュレートするステップを含む前記方法を提供する。
【0015】
第三の態様において、本発明は被験体におけるEGFRリガンドの調節不全な発現または活性に関連する疾患または症状を治療する方法であって、被験体にmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNA、またはかかるmiRNAのいずれかのアンタゴニストの有効量を投与し、それによりmiRNAがEGFRリガンドの発現または活性をモジュレートするステップを含む前記方法を提供する。
【0016】
特別な実施形態においては、疾患または症状はEGFRリガンドの発現または活性のアップレギュレーションまたは亢進に関連するものであって、被験体に有効量のmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAを投与する。
【0017】
miR-7 miRNAは配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含んでもよい。miR-7 miRNA前駆体は配列番号2〜4のいずれか1つに記載の配列を含んでもよい。
【0018】
典型的には、細胞または組織をmiRNAと接触させるステップはEGFRリガンドの発現または活性を低減または阻害する。細胞または組織をmiRNAのアンタゴニストと接触させるステップはリガンドの発現または活性を増加しうる。
【0019】
典型的には、EGFRリガンドをコードするmRNAの3'非翻訳領域は1以上のmiRNA結合部位を含む。典型的には、miRNAは1以上の部位と結合する。結合部位は配列番号6〜11のいずれかに記載の配列、またはその変異体を含んでもよい。
【0020】
EGFRリガンドはTGFαおよびHB-EGFから選択することができる。特別な実施形態において、EGFRリガンドはTGFαである。TGFαをコードするmRNAは配列番号12に記載の配列を含む3'非翻訳領域またはその変異体を有してもよい。
【0021】
疾患または症状は癌であってもよい。癌は、例えば、頭頸部癌、グリア芽細胞腫、膵臓癌、結腸癌、非小細胞肺癌を含む肺癌、前立腺癌、乳癌、肝臓癌、神経芽細胞腫または黒色腫であってもよい。
【0022】
miRNAを、前記疾患または症状の治療用に好適な1以上のさらなる治療薬と共投与してもよい。特別な実施形態において、さらなる治療薬はチロシンキナーゼインヒビターまたはモノクローナル抗体、例えば、EGFRのインヒビターである。共投与は、miRNAおよび1以上の追加の薬剤の同時または逐次投与であってもよい。同時投与のために、miRNAと1以上の追加の薬剤を製薬上許容される担体、賦形剤またはアジュバントと一緒に単一の医薬組成物に製剤することができる。
【0023】
第四の態様において、本発明は被験体におけるEGFRリガンドのアップレギュレーションされたまたは亢進した発現または活性に関連する疾患または症状を治療する方法であって、miR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤の有効量を投与し、それにより、刺激または亢進されたmiRNAの発現または活性がEGFRリガンドの発現または活性をモジュレートする前記方法を提供する。
【0024】
本発明の第五の態様は、医薬品を製造するためのmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの使用であって、miRNAがEGFRリガンドの発現または活性をモジュレートすることによりEGFRリガンドの発現または活性のアップレギュレーションまたは亢進に関連する疾患または症状を治療するための前記使用を提供する。
【0025】
本発明の第六の態様はmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤の使用であって、発現または活性が刺激または亢進されたmiRNAがEGFRリガンドの発現または活性をモジュレートすることにより、EGFRリガンドの発現または活性のアップレギュレーションまたは亢進に関連する疾患または症状を治療する医薬品を製造するための前記使用を提供する。
【0026】
本発明の第七の態様は、腫瘍または癌がEGFRリガンドの発現または活性のアップレギュレーションまたは亢進に関連する被験体における腫瘍成長、癌転移または再発を予防または軽減する方法であって、miR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの有効量を被験体に投与し、それによりmiRNAがEGFRリガンドの発現または活性をモジュレートすることを含む前記方法を提供する。
【0027】
本発明の第八の態様は、腫瘍または癌がEGFRリガンドの発現または活性のアップレギュレーションまたは亢進に関連する被験体における腫瘍成長、癌転移または再発を予防または軽減する方法であって、miR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの発現または活性を刺激または亢進することができる薬剤の有効量を被験体に投与し、それにより、発現または活性が刺激または亢進されたmiRNAがEGFRリガンドの発現および/または活性をモジュレートする前記方法を提供する。
【0028】
本発明の第九の態様は、EGFRリガンドの発現または活性の調節不全に関連する疾患または症状を患う被験体における治療レジメンの効力を評価する方法であって、
(a)前記被験体をmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNA、またはいずれかのかかるmiRNAのアンタゴニストを用いてレジメンの効力を評価するのに十分な期間だけ処理するステップ
(b)生体サンプルを被験体から得るステップ。
【0029】
(c)サンプル中のEGFRリガンドの発現および/または活性のレベルを確認するステップ:
(d)ステップ(b)および(c)を治療期間にわたって少なくとも1回繰り返すステップ;
(e)治療期間にわたってEGFRリガンドの発現および/または活性が変化するかどうかを確認するステップ(ここで、EGFRリガの発現および/または活性のレベルの変化はこの治療レジメンの効力を示す)
を含むものである前記方法を提供する。
【0030】
特別な実施形態において、EGFRリガンドはTGFαである。
【0031】
限定されるものでないが、本発明の実施形態を実施例として、以下の図を参照して記載し例示する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】cDNA分析による、miR-7によりダウンレギュレーションされた遺伝子の実験的実証を示す。HN5細胞中のRAF1およびPAK1 mRNA発現の定量RT-PCR、30nM miR-7またはmiR-NC前駆体によるトランスフェクション後24時間。RAF1およびPAK1 mRNA発現をGAPDH mRNA発現に対して正規化し、2-ΔΔCT法を用いてmiR-NC-トランスフェクトされた細胞(±SD)の比として示した、バーはmiR-NCと比較した平均mRNA発現(±SD)を表す。単一実験の代表的データ。***および**はmiR-NC処理した細胞から有意差を示す(それぞれ、p<0.001およびp<0.01)。
【図2】HNC細胞中のEGFRシグナル伝達に与える、miR-7(配列番号1)作用のモデルを示す。cDNAマイクロアレイデータを用いる模式図モデルは、複数標的を介するEGFRシグナル伝達のmiR-7調節を示す。cDNAマイクロアレイが示した、miR-7によりダウンレギュレーションされる遺伝子を太字枠で囲んだ。
【図3】HN5細胞(A)およびFaDu細胞(B)において、30nM miR-7(配列番号1)またはmiR-NCの存在のもとで、定量RT-PCRにより測定したTGFα mRNAの正規化相対発現レベルを示す。データは3つの独立した実験の代表値である。***はmiR-7処理した細胞から有意差を示す(p<0.001)。
【図4】図4A:コンセンサスmiR-7標的部位に対するmiR-7の活性を実証するルシフェラーゼレポーターアッセイを示す。HN5細胞を、コンセンサスmiR-7標的部位ホタルルシフェラーゼプラスミドおよび1nM miR-7またはmiR-NC前駆体でトランスフェクトした。相対的ルシフェラーゼ発現(ホタル、ウミシイタケに対して正規化)値をビヒクル(リポフェクタミン2000、LF)単独の比として示す。バーは標準偏差(SD)を表す。データは単一実験の代表値である。***はビヒクル(リポフェクタミン2000、LF)で処理したレポーターベクターから有意差を示す(p<0.001)図4B:全長野生型TGFα 3'UTR内のmiR-7標的部位に対する、トランスフェクション後24時間における、miR-7の活性を実証するルシフェラーゼレポーターアッセイを示す。HN5細胞を、野生型TGFα miR-7標的部位番号5 3'UTRホタルルシフェラーゼプラスミドおよび0.5 nM miR-7またはmiR-NC 前駆体でトランスフェクトした。相対的ルシフェラーゼ発現(ホタル、ウミシイタケで正規化)値をビヒクル(リポフェクタミン2000、LF)単独の比として示す。バーは標準偏差(SD)を表す。データは単一実験の代表値である。**はビヒクル(リポフェクタミン2000、LF)処理したレポーターベクターから有意差を示す(p<0.001)。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書で言及した配列識別子に対応するヌクレオチドの表を記載した。成熟ヒトmiR-7、ヒトmiR-7前駆体およびシード領域のヌクレオチド配列を配列番号1〜5に掲げた。コンセンサスmiR-7結合部位の配列を配列番号6に掲げた。予想したヒトTGFα3'非翻訳領域内のmiR-7結合部位を配列番号7〜11に掲げる一方、ヒトTGFα3'の3'非翻訳領域を配列番号12に掲げた。配列番号13〜23は本明細書に例示した本研究に用いたオリゴヌクレオチドの配列を与える。
【0034】
定義
本明細書および添付した請求項で使用する、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」には文脈が明確に規定しなくとも複数の言及を含む。従って、例えば、「核酸分子」への言及には、複数の核酸分子を含み、そして「細胞」への言及は1以上の細胞への言及を含む、等々である。
【0035】
本明細書および続く請求項を通して、文脈が特に断らない限り、用語「含む」とその文法上の変化形は、言及した整数もしくはステップまたは整数もしくはステップのグループを包含するが、他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップのグループを排除するものでないことを理解されたい。
【0036】
本明細書の文脈において、タンパク質、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関する用語「活性」は、タンパク質、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドが核酸配列もしくはその断片により、またはタンパク質もしくはポリペプチド自体またはそれらの断片により作用する細胞の機能、作用、効果または影響を意味する。
【0037】
本明細書で使用する用語「発現」は、文脈に応じて、ポリペプチドもしくはタンパク質の発現、またはポリヌクレオチドもしくは遺伝子の発現を意味しうることを理解されたい。ポリヌクレオチドはコーディング型または非コーディング型(例えば、miRNA)であってもよい。ポリヌクレオチドの発現は、例えば、RNA転写物の産生レベルを測定することにより確認することができる。
【0038】
タンパク質またはポリペプチドの発現は、例えば、ポリペプチドと結合する抗体を用いるイムノアッセイにより測定することができる。
【0039】
用語「モジュレート」、「モジュレーション」、「モジュレーティング」「モジュレーター」および文法上相当する用語は、本明細書で記載した行為、および薬剤を意味し、EGF受容体(EGFR)リガンドの活性および/または発現レベルに直接または間接に影響を与え、「野生型」活性または発現、すなわち、本発明の薬剤と接触する前の活性または発現と比較して、その活性または発現を変えることができる前記行為および薬剤を意味する。EGFRリガンド活性または発現のモジュレーションの文脈において用語「間接に」は、その効果がEGFRリガンドとの直接接触を通してよりもむしろ中間分子を介して行われる薬剤の作用様式を意味する。対照的に、EGFRリガンド活性または発現のモジュレーションの文脈における用語「直接に」は、EGFRリガンドまたはそのmRNAと、例えば3'UTRとの結合により相互作用する薬剤を意味する。
【0040】
本明細書の文脈において、用語「アンタゴニスト」はEGFRリガンドの発現および/または活性をブロックまたは阻害することができる薬剤を意味する。従って、アンタゴニストは、なんらかの方法で直接または間接作用を介して作用し、EGFRリガンドの転写または転写後プロセシングを阻止するかまたはそうでなく、EGFRリガンドの活性を阻害してもよい。アンタゴニストは例えば、核酸、ペプチド、いずれか他の好適な化合物または分子またはこれらのいずれかの組み合わせであってもよい。さらに、間接にEGFRリガンドの活性を損なうのに、アンタゴニストが他の細胞分子の活性および/または発現を改変し、これが順にEGFRリガンド自体の活性および/または活性の発現のレギュレーターとして作用しうることは理解されるであろう。同様に、アンタゴニストは、EGFRリガンドによる調節またはモジュレーションに関わる分子の活性を改変してもよい。
【0041】
本明細書に使用する用語「オリゴヌクレオチド」は、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチド塩基、天然ヌクレオチドの公知の類似体、またはそれらの混合物の一本鎖配列を意味する。「オリゴヌクレオチド」はDNA、RNA、PNA、LNAまたはこれらのいずれかの組み合わせを含む核酸系分子を含む。主に天然または非天然のリボヌクレオチド塩基を含むオリゴヌクレオチドを、RNAオリゴヌクレオチドと呼んでもよい。オリゴヌクレオチドは典型的には短い(例えば、長さで50ヌクレオチド未満の)配列であって、例えば、直接化学合成またはクローニングおよび適当な配列の制限酵素切断を含むいずれかの好適な方法により調製することができる。「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は特定のDNAまたはRNA配列と相補的なオリゴヌクレオチドである。典型的には本発明の文脈においてアンチセンスオリゴヌクレオチドは特定のmiRNAと相補的なRNAオリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドはその相補的なmiRNAと結合して、その活性を部分的にまたは全面的に、サイレンシングするかまたは抑圧する。アンチセンスオリゴヌクレオチドの全塩基が「標的」またはmiRNA配列と相補的である必要はない;前記オリゴヌクレオチドがその標的を認識できるために十分な相補性塩基を含有することだけが必要である。オリゴヌクレオチドはまた、さらなる塩基を含んでもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチド配列は未改変のリボヌクレオチド配列であってもよくまたは本明細書に記載の様々な手段により化学的に改変されていてもまたはコンジュゲートされていてもよい。
【0042】
本明細書で使用する用語「ポリヌクレオチド」は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド塩基または天然ヌクレオチドの公知の類似体、またはそれらの混合物の一本鎖または二本鎖ポリマーを意味する。ポリヌクレオチドは核酸系分子を含むものであって、DNA、RNA、PNA、LNAまたはそれらのいずれかの組み合わせを含む。この用語は、特に断らなければ、特定した配列ならびにその相補的な配列への言及を含む。ポリヌクレオチドは当業者に公知の様々な手段により化学的に改変されてもよい。従って、「ポリヌクレオチド」は核酸系分子を含むものであって、DNA、RNA、PNA、LNAまたはそれらのいずれかの組み合わせを含む。
【0043】
用語「配列同一性」または「配列同一性のパーセント」は、2つの最適にアラインされた配列またはサブ配列を比較ウインドウまたはスパンにわたって比較することにより決定することができ、その際、比較ウインドウ内のポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列(付加または欠失の含まないもの)と比較して、任意に、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。
【0044】
本明細書で使用する用語「に関連する」は、疾患または症状の文脈で使用する場合、前記疾患または症状が、異常なEGFリガンドレベル(から)もたらされる、(を)もたらす、(で)特徴づけられる、またはそうでなくて、(に)関連することを意味する。従って、疾患または症状と異常なEGFリガンドとの間の関連は直接的または間接的であってもよくまた時間的に離れていてもよい。
【0045】
本明細書で使用する用語「治療する」および「治療」ならびに文法的同意語は、症状または症候群を治療する、症状または疾患の確立を予防する、またはそうでなく、症状または疾患または他の望ましくない症候群の進行をいずれかの方法で予防する、妨げる、遅らせる、または逆転する、いずれかおよび全ての使用を意味する。従って、用語「治療」はその最も広い文意と考えるべきである。例えば、治療は必ずしも患者を全快まで治療することを意味しない。複数の症候群により現われるまたは特徴付けられる症状の場合、治療は必ずしも前記症候群の全てを治療し、予防し、妨げ、遅らせ、または逆転する必要はなく、前記症候群の1以上を予防し、妨げ、遅らせ、または逆転すればよい。
【0046】
本明細書で使用する用語「有効量」はその意味に、無毒であるが所望の効果を与えるために十分な薬剤または化合物の量または用量を含むものである。必要とされる正確な量または用量は被験体毎に、諸因子、例えば、治療する種、被験体の年齢および一般症状、治療する症状の重篤度、投与する具体的な薬剤、ならびに投与様式などに応じて変わりうる。従って、正確な「有効量」を明記することはできない。しかし、いずれの場合でも、当業者は適当な「有効量」を、ごく通常の実験を用いて決定することができる。
【0047】
本明細書で使用する用語「被験体」は哺乳動物を意味し、それには、ヒト、霊長類、家畜類(例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ)、実験動物(例えばマウス、ウサギ、ラット、モルモット)、演技および興行動物(例えばウマ、家畜、イヌ、ネコ)、愛玩動物(例えばイヌ、ネコ)および捕獲野生動物が含まれる。好ましくは、哺乳動物はヒトまたは実験動物である。さらにより好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0048】
詳細な説明
初めに、本明細書に記載の図および実施例は本発明およびその様々な実施形態の例を挙げたであって、本発明を限定するものでないことを理解されたい。
【0049】
本明細書に例示したように、本発明者らは初めて、上皮成長因子受容体(EGFR)のリガンドはmiRNA miR-7の標的でありかつ癌細胞株においてmiR-7によりダウンレギュレーションされることを同定した。従って、本明細書に開示した実施形態において、miR-7、miR-7の前駆体および変異体、miR-7シード領域を保持するmiRNA、およびかかるmiRNAのアンタゴニストを用いて、かかるEGFRリガンドの発現および/または活性をモジュレートする方法および組成物を提供する。特別な実施形態においては、本明細書に開示した方法および組成物を用いてEGFRリガンド発現または活性の調節不全に関連する疾患および症状、例えば癌を治療する。
【0050】
本発明の実施形態は、特に断らなければ、当業者に公知の通常の分子生物学および薬理学を使用する。かかる技法は、例えば、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 2nd Ed., (ed. by Sambrook, Fritsch and Maniatis) (Cold Spring Harbor Laboratory Press: 1989);"Nucleic Acid Hybridization", (Hames & Higgins eds. 1984);"Oligonucleotide Synthesis" (Gait ed., 1984);Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th Edition, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, USA.;"The Merck Index", 12th Edition (1996), Therapeutic Category and Biological Activity Index;および"Transcription & Translation", (Hames & Higgins eds. 1984)に記載されている。
【0051】
本明細書におけるいずれかの先行開示物(またはそれに由来する情報)へのまたは公知であるいずれかの事柄への言及は、先行開示物(またはそれに由来する情報)または公知の事柄は本明細書が関係する努力分野における一般知識の部分を形成することの承認もしくは認容またはいずれかの形の示唆でなく、その様に解釈すべきでない。
【0052】
miRNA
microRNA(miRNA)は小さい非コーディングRNAであって、mRNA上の相補部位との結合により遺伝子発現を制御する植物および動物の調節分子として機能する。いずれの理論または仮説による束縛を欲することなく、miRNA miR-7はEGFRリガンド、とりわけ、トランスフォーミング成長因子α(TGFα)をコードするmRNAの3'UTRと結合するという本発明者らの発見に基づいて本発明を断言した。さらに、本発明者らは驚くべきことにEGFRを発現または過剰発現する癌細胞、例えば頭頸部癌細胞におけるmiR-7の発現の増加は、EGFRリガンドmRNAおよびタンパク質発現のレベル低下、G1期細胞サイクル停止および細胞死をもたらすことを発見した。
【0053】
miRNAは標的mRNAの3'UTRと結合する、そしてこの結合において重要なのはmiRNAの5'末端近くのほぼ6〜7ヌクレオチド(典型的にはヌクレオチド位置2〜8)のいわゆる「シード」領域である。それ故に、本発明の実施形態は、少なくともその1つがmiR-7のシード領域を有する1以上のmiRNAを細胞または組織と接触するステップ、またはそれを必要とする被験体に投与するステップを広く意図する。特別な実施形態において、このシード領域は配列GGAAGA(配列番号5)を含むものである。
【0054】
特別な実施形態においては、miR-7を使用する。ヒトmiR-7のヌクレオチド配列を配列番号1に記載する。miR-7 miRNAについてのさらなる配列情報はhttp://microRNA.sanger.ac.uk/sequences/index.shtmlに見出すことができる。ほとんどのmiRNAのように、miR-7は色々な種の間で高度に保存されている。従って、典型的にはmiRNAを治療する被験体の種から誘導するかまたはその種から同一の配列を構築することができるものの、例えば、種間のmiRNA配列の高い配列保存レベルを考えれば、この必要はない。
【0055】
本発明の実施形態はまた、miR-7のmiRNA変異体の投与を意図する。変異体は本明細書に開示したmiRNAの配列と実質的に類似であるヌクレオチド配列を含む。変異体は本明細書に開示したmiRNAの配列と実質的に類似であるヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、投与する変異体miRNAはmiR-7(配列番号1)の配列と少なくとも80%配列同一性を示す配列を含む。いくつかの実施形態において、投与する前記miRNAは配列番号1と少なくとも90%配列同一性を示す配列を含む。他の実施形態において、投与するmiRNAは配列番号1と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性を示す配列を含む。あるいはまたはさらに、変異体はmiR-7配列と比較して1以上の位置に非天然残基を有するなどの改変を含んでもよい。
【0056】
意図するのはまた、miR-7または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの前駆体分子の投与である。miRNAは、非コーディングDNAの領域から転写された数百ヌクレオチドを通常含有するRNA前駆体(pri-miRNA)から作製される。Pri-miRNAは核内でRNaseIIIエンドヌクレアーゼによりプロセシングされて、およそ70ヌクレオチドのステム-ループ前駆体(pre-miRNA)を形成する。Pre-miRNAは細胞質中に能動的に輸送され、ここでさらにプロセシングされて、典型的には21〜23bpのショートRNA二本鎖となり、その1つが機能性miRNA鎖となる。かかるpri-miRNAおよびpre-miRNA前駆体の投与を本発明は意図しており、この場合、pri-miRNAまたはpre-miRNAは切断されて細胞内で機能性miRNAが作製される。
【0057】
配列番号1に示した全長miR-7分子だけでなく、用語「miR-7」はまた、その断片が機能性断片である限りmiR-7分子の断片を含む。miRNA分子の「断片」は全長分子の一部分を意味する。断片のサイズはそれが機能性断片でなければならない、すなわち、EGFRの発現をモジュレートし、細胞成長をモジュレートするおよび/または細胞分化をモジュレートすることができるという点だけで限定される。典型的には、少なくとも、シード領域配列GGAAGA(配列番号5)を含みうる。
【0058】
miRNAの投与は治療の必要がある被験体に直接であってもよく、または被験体由来の細胞または組織へのex vivo投与であってもよい。投与するmiRNAは合成されたものでもまたは細胞の供給源からの天然由来であってもよい。
【0059】
本発明の実施形態が意図するのはまた、miRNAを所望の部位に送達することができる追加の薬剤と連結したmiRNAの投与である。追加の薬剤はそれ自体がEGFRリガンドの活性および/または発現を阻害することができるものであってもよい。例えば、miR-7を、EGFRリガンドを発現することが公知の細胞を指向する抗体とコンジュゲートして、miR-7をこれらの細胞に向けて標的化することができる。いくつかの実施形態において、miRNAと追加の薬剤との間の連結は切断可能な連結である。切断可能な連結の存在は、例えば、EGFRリガンドを発現する細胞中に取込まれた後、追加の薬剤からmiRNAの切断を可能にする。
【0060】
本発明の実施形態が意図するのはまた、本明細書に記載のmiRNAの発現または活性を刺激または亢進できる薬剤の投与である。かかる薬剤はタンパク性、非タンパク性または核酸系であってもよく、それには、例えば、miRNA遺伝子の調節配列と結合してそれによりmiRNAの内因性発現のレベルを誘発または亢進できる分子および化合物が含まれる。当業者は、本発明の範囲がこれらに限定されるものでなく、miRNA発現または活性を刺激または亢進できるいずれの薬剤も意図されて本発明の開示の範囲に該当することを理解するであろう。
【0061】
EGFRリガンド
上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーには明確なチロシンキナーゼ受容体、EGFR/HER/ErbBI、HER2/Neu/ErbB2、HER3/ErbB3およびHER4/ErbB4が含まれる。これらの受容体は広く発現され、EGFR同族体のホモまたはヘテロ二量体化を誘発する少なくとも12種のリガンドのファミリーにより活性化される。このリガンドには、上皮成長因子ファミリーのメンバー、例えば、EGF、トランスフォーミング成長因子α(TGFα)、ヘパリン結合EGF様成長因子(HB-EGF)、アンフィレグリン(AR)、エピレグリン(EPR)、ベタセルリン(BTC)、エピゲンおよびニューレグリン(NRG)-1、NRG-2、NRG-3およびNRG-4が含まれる。本発明の特別な実施形態において、その発現または活性がモジュレートされるEGFRリガンドは、本発明の範囲がそれらに限定されるものでないが、TGFαまたはHB-EGFである。さらに特に、EGFRリガンドはTGFαである。
【0062】
被験体がヒトである実施形態において、典型的なTGFα mRNAの3'UTRは配列番号12に掲げた配列、またはその変異体を含む。変異体には、配列番号12の配列と実質的に類似するヌクレオチド配列が含まれる。いくつかの実施形態において、変異体3'UTRは配列番号12の配列と少なくとも80%配列同一性を示す配列を含む。いくつかの実施形態において、変異体3'UTRは配列番号12の配列と少なくとも90%配列同一性を示す配列を含む。他の実施形態において、3'UTRは配列番号12と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性を示す配列を含む。
【0063】
本明細書に記載したように、典型的なEGFRリガンド、例えばTGFαをコードするmRNAの3'UTRは1以上のモチーフもしくはmiR-7標的部位を含むものであって、本発明の特別な実施形態は、EGFRリガンド発現および/または活性化のモジュレーションに影響を与えるのに使用するmiRNAのかかる部位との直接結合を意図する。TGFα mRNAの3'UTRは5個のmiR-7標的部位を有する。ヒトTGFα 3'UTRのmiR-7標的部位は配列番号7〜11に示した配列を含む。かかる標的部位配列の変異体も意図されていて、これは配列番号6に示した一般化されたまたはコンセンサスmiR-7標的部位を含む。3'UTR配列の変異体については、miRNA標的部位変異体は、配列番号6〜11に示したmiRNA標的部位配列と少なくとも約80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性を示しうる。
【0064】
アンタゴニスト
本発明の実施形態はまた、標的EGFRリガンドの発現および/または活性をアップレギュレーションすることが所望である環境において、本明細書に記載のmiRNAのアンタゴニストの投与を提供する。本明細書に開示した実施形態に従って使用する好適なアンタゴニストは様々な形態をとりうることを、当業者は容易に理解するであろう。アンタゴニストは、本明細書に記載のmiRNAに特異的なヌクレオチド配列、またはその一部分を含み、少なくとも部分的に、miRNAの発現または活性を阻害するアンチセンス構築物であってもよい。「特異的」は、そのアンチセンス構築物が実質的にmiRNAに特異的であることを意味するが、必ずしも排他的にというわけではない。すなわち、特別なmiRNA配列に特異的である一方、そのアンチセンス構築物はまた、他の配列、例えば、発現を阻害するのに十分な他のmiRNAと交差ハイブリダイズしてもよい。さらに、例えば、本発明によるアンチセンス構築物のヌクレオチド配列は特別なmiRNAと100%未満の配列同一性を示しかつそれに対する特異性を保持してもよい。好適なアンチセンス構築物はこれらのmiRNAの発現または活性に影響を与えるために、これらが指向するmiRNAと直接結合する必要はないことを当業者は理解するであろう。アンチセンス構築物とその相補的な細胞ヌクレオチド配列との結合が、それにとって特異的であるmiRNAの転写、RNAプロセシング、輸送、および/または安定性を妨げてもよい。アンチセンス分子はDNA、RNA、LNA、PNAまたはそれらのいずれかの組み合わせを含んでもよい。
【0065】
本明細書に開示した実施形態による使用のための好適なアンチセンス構築物には、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、スモール干渉RNA(siRNAs)および触媒のアンチセンス核酸構築物が含まれる。好適なアンチセンスオリゴヌクレオチドは当業者に公知の方法により調製することができる。典型的には、オリゴヌクレオチドを自動合成器で化学合成しうる。
【0066】
100%未満の相補性しか存在しないにも関わらず、オリゴヌクレオチドがそのmiRNAに対する特異性を保持しかつこのmiRNAに対するアンタゴニスト活性を保持するように、1以上の塩基変化を行なうことができるのを当業者は容易に理解するであろう。さらに、以下に記載したように、オリゴヌクレオチド配列は、本発明の範囲から逸脱することなしに1以上の化学修飾を含んでもよい。
【0067】
本発明によるオリゴヌクレオチドは、それらの細胞中への送達、それらの細胞内における安定性、および/またはそれらの適当なmiRNA標的との結合を改善するように設計された改変を含んでもよい。例えば、オリゴヌクレオチド配列を、配列中の残基間の1以上のホスホロチオエート(例えばホスホロモノチオエートまたはホスホロジチオエート)連鎖の付加、または主鎖中への1以上のモルホリン環の封入により改変することができる。残基間の代わりの非リン酸連鎖には、ホスホネート、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルヒドラジニル、アミドおよびカルバメート連鎖(例えば、参照によりその全てが本明細書に組み込まれるManoharan I.、米国特許出願第20060287260号を参照されたい)、ホスホン酸メチル、ホスホロチオエート、ホスホロアミダイトまたはホウ素誘導体が含まれる。オリゴヌクレオチドに存在するヌクレオチド残基は天然のヌクレオチドであってもよくまたは改変ヌクレオチドであってもよい。好適な改変ヌクレオチドには2'-O-メチルヌクレオチド、例えば2'-O-メチルアデニン、2'-O-メチル-ウラシル、2'-0-メチル-チミン、2'-O-メチル-シトシン、2'-0-メチル-グアニン、2'-0-メチル-2-アミノ-アデニン;2-アミノ-アデニン、2-アミノ-プリン、イノシン;プロピニルヌクレオチド、例えば5-プロピニルウラシルおよび5-プロピニルシトシン;2-チオ-チミジン;一般塩基、例えば、5-ニトロ-インドール;ロックド核酸(LNA)、およびペプチド核酸(PNA)が含まれる。リボヌクレオシド中の天然のリボース糖部分を、例えば、六炭糖、多環式ヘテロアルキル環、またはシクロヘキセニル(参照によりその全てが本明細書に組み込まれるManoharanら、米国特許出願第20060035254号に記載の基)で置き換えてもよい。あるいは、またはさらに、オリゴヌクレオチド配列を、1つまたは両方の末端に1以上の好適な化学部分をコンジュゲートしてもよい。例えば、オリゴヌクレオチドをコレステロールと好適な連鎖、例えばヒドロキシプロリノール連鎖を介して3'末端にコンジュゲートしてもよい。
【0068】
特異的miRNAに対する「サイレンシング」活性をもつ改変オリゴヌクレオチド(「アンタゴミル(antagomir)」)は、参照によりその全てが本明細書に組み込まれるKrutzfeldt, J. et al., 2005, Nature 438:685-689に記載されていて、これらもEGFRリガンドのアンタゴニストである。例えば、EGFRリガンドに特異的なmiRNAと相補的な配列をもつアンタゴミルはmiRNAと結合することができ、この相互作用はmiRNA活性を阻害する。アンタゴミルは、例えばmiR-7分子と100%相補的であってもよくまたは、アンチセンス分子がmiR-7の機能を阻害できるのであれば、100%未満相補的であってもよい。アンタゴミルは、2-O-メチルヌクレオチド、5'および3'末端で残基間のホスホロチオアート連鎖、およびヒドロキシプロリノール連鎖を介して3'末端でコンジュゲートしたコレステロール部分を含んでもよい。本明細書に開示した実施形態はKrutzfeldtらが記載した方式で改変したアンタゴミルならびに改変物またはそれらの変異体の使用を意図する。本明細書に開示した実施形態による使用のためのオリゴヌクレオチドまたはアンタゴミルの設計も十分に当業者の能力内にある。
【0069】
代わりのアンチセンス技法はRNA干渉(RNAi)(例えば、Chuang et al. (2000) PNAS USA 97: 4985を参照)であり、これを用いて、当技術分野で公知の方法(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Fire et al. (1998) Nature 391: 806-811;Hammond, et al. (2001) Nature Rev, Genet. 2: 110-1119;Hammond et al. (2000) Nature 404: 293-296;Bernstein et al. (2001) Nature 409: 363-366;Elbashir et al (2001) Nature 411 : 494-498;WO 99/49029およびWO 01/70949)によりEGFRリガンドにアンタゴニスト作用を加えて、mRNAの発現または活性を阻害してもよい。RNAiはスモール干渉RNA分子(siRNA)による特異的RNA破壊によるものである選択的な転写後遺伝子サイレンシングの手法を意味する。siRNAは二本鎖DNAの切断により作製され、その場合、1つの鎖は不活化されるメッセージと同一である。1つの鎖がmiRNA転写物の特異的領域と同一である二本鎖RNA分子を合成し、そして直接導入することができる。あるいは、対応するdsDNAを用いて、これが細胞内に提示されるとdsRNAに変換されてもよい。RNAiに用いる好適な分子を合成する方法および転写後遺伝子サイレンシングを達成する方法は当業者に公知である。
【0070】
miRNAの発現または活性を阻害するさらなる方法には、触媒のアンチセンス核酸構築物、例えば、miRNA転写物を切断できるDNAザイムおよびリボザイムを導入する方法が含まれる。リボザイムは、例えば、リボザイム触媒部位に隣接する標的と配列相補性の2領域のおかげで特別な配列を標的化し、そしてアニーリングする。結合後、リボザイムは部位特異的な方式で標的を切断する。miRNA配列を特異的に認識しかつ切断するリボザイムの設計と試験は、当業者に周知の技法(例えば、その開示が参照により本明細書に組み込まれるLieber and Strauss, (1995) Mol. Cell. Biol. 15:540-551)により達成することができる。
【0071】
内因性miRNAに対する抗体もアンタゴニストでありうる。用語「抗体」は、その意味に、抗-miR-7ポリクローナルおよびモノクローナル抗体(アゴニスト、アンタゴニスト、および中和化抗体を含む)、ポリエピトープ特異性をもつ抗-miR-7抗体組成物、1本鎖抗-miRA抗体、および抗-miRNA抗体のフラグメントを含む。本明細書で使用する用語「モノクローナル抗体」は実質的に均一な抗体の集団から得た抗体、すなわち、集団から成る個々の抗体は小量で存在しうる天然の突然変異を除いて同一である個々の抗体であることを意味する。抗体フラグメントは無傷の抗体の一部分、好ましくは無傷の抗体の抗原結合または可変領域を含むものである。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFvフラグメント;ダイアボディ、直鎖抗体;1本鎖抗体分子;および抗体フラグメントから形成された多特異的抗体が含まれる。
【0072】
当業者はまた、本発明の実施形態によるアンタゴニストは、本明細書に開示したmiRNAの発現または活性のモジュレーターまたはレギュレーターとして作用しうることを認識するであろう。同様に、アンタゴニストは本明細書に開示したmiRNAの標的に影響を与えうる。従って、アンタゴニストは、作用する分子、例えば小分子インヒビター、ペプチドインヒビターまたは抗体の性質と同一性に応じていずれの好適な形態をとってもよい。
【0073】
EGFRリガンド発現および/または活性をモジュレートする方法
特別な実施形態において本発明は、細胞または組織におけるEGFRリガンドの発現をモジュレートする方法であって、細胞または組織を本明細書に開示したmiRNA、またはかかるmiRNAのアンタゴニストと接触させることによる前記方法を提供する。EGFRリガンドを発現する細胞の例には、癌細胞、肺細胞、骨細胞、血液細胞、および皮膚細胞が含まれる。細胞を被験体から単離または精製してもよく、被験体からのサンプル中に置いてもよく、または被験体中にまたは上に置いてもよい。典型的には、細胞または組織におけるEGFRリガンド発現および/または活性は、細胞または組織の本明細書に開示したmiRNAとの接触後、miRNAと接触しなかった細胞または組織における前記レベルと比較して減少する。同様に、EGFRリガンドの発現および/または活性は典型的には、細胞または組織の本明細書に開示したアンタゴニストとの接触後、アンタゴニストと接触しなかった被験体のサンプル中のレベルと比較して増加する。
【0074】
細胞または組織をmiRNAまたはアンタゴニストと接触するステップは、当技術分野で公知のいずれの方法により達成してもよい。いくつかの実施形態においては、細胞を被験体から単離しておき、細胞とmiRNAまたはそのアンタゴニストとの組み合わせをex vivoまたはin vitroで行う。他の実施形態においては細胞を被験体から単離せず、細胞とmiRNAまたはそのアンタゴニストとの接触をin vivoで行う。miRNAまたはアンタゴニストを細胞と直接接触、すなわち、EGFRリガンド発現または活性のモジュレーションが必要な細胞に直接施用してもよく、または、あるいは、細胞と間接的に、例えば、前記分子を被験体の血流中に注射し、次いで前記分子を、EGFRリガンド発現または活性のモジュレーションを必要とする細胞に運ぶことにより組み合わせてもよい。さらに、サンプルを被験体から取り出して、miRNAまたはアンタゴニストとin vitroで組み合わせた後に、サンプルの少なくとも一部分を被験体に返してもよい。例えば、サンプルが被験体から取り出した血液サンプルであって、前記分子を組み合わせた後に、血液の少なくとも一部分を被験体中に注射してもよい。
【0075】
いくつかの実施形態において、miRNAまたはそのアンタゴニストを細胞と接触させ、その場合、miRNAの内因性レベルはmiRNAまたはアンタゴニストと接触させる前の細胞と比較して異なる。この文脈で使用する用語「内因性」は関係miRNAの発現および/または活性の「自然の」レベルを意味する。これらの実施形態にいて、化合物または組成物を細胞と接触させて、miRNAの発現および/または活性が「自然の」レベルと比較して増加または減少させることができる。
【0076】
いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチド(miRNAまたはその核酸系アンタゴニスト)の投与はベクター(例えば、ウイルス)に基づく手法を介するかまたは融合タンパク質の形態のポリヌクレオチドの投与によるものであって、その場合、ポリヌクレオチドは、目的の細胞、すなわちEGFRリガンドを発現する細胞を標的化するプロタミン-Fab抗体断片と結合している。
【0077】
疾患と症状
EGFRリガンドは、癌を含む多くの症状において調節不全である。それ故に、本明細書に記載のアンタゴニストを用いてEGFRリガンドを発現および/または活性をモジュレートする、本発明で提供される方法および組成物はまた、EGFRリガンド調節不全に関連する症状の治療または予防に応用可能である。本発明の方法と組成物が応用可能である症状には、限定されるものでないが、癌、腎疾患、肺疾患、心臓疾患、皮膚疾患または感染性疾患が含まれる。本明細書で使用する用語「癌」は、異常かつ無制御の細胞分裂により引き起されるいずれかの悪性の細胞成長または腫瘍を意味する。
【0078】
癌は、本明細書に記載のmiRNA(またはそのアンタゴニスト)によりモジュレートすることができるEGFRリガンド、例えばTGFαの発現または活性が調節不全であるいずれの癌であってもよい。典型的には、かかる癌は、正常な細胞および組織と比較して、EGFRリガンドの発現または活性のレベルのアップレギュレーションまたは亢進に関連しうる。例示の癌には、限定されるものでないが、肝臓、卵巣、結腸直腸、肺、小細胞肺、乳房、前立腺、膵臓、腎、結腸、胃(gastric)、子宮内膜、胃(stomach)、食道、および頭部および頸部の癌、腹膜癌腫症、リンパ腫、肉腫またはそれらの二次転移、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、および黒色腫が含まれる。
【0079】
組成物と投与経路
本発明の実施形態は、細胞、組織または被験体のEGFRリガンドの発現および/または活性をモジュレートするための、および、EGFRリガンドの調節不全に関連する症状を治療または予防するための組成物を意図する。かかる組成物をいずれかの好都合なまたは好適な経路で、例えば、非経口(例えば、動脈内、静脈内、筋肉内、皮下を含む)、経口、経鼻、粘膜(舌下を含む)、腔内または局所経路により投与することができる。従って、組成物を溶液、懸濁液、乳濁液、および固形を含む様々な剤形で製剤することができ、そして典型的には選んだ投与経路に好適なように、例えば、経口摂取用のカプセル、錠剤、カプレット、エリキシルとして、吸入による(鼻腔内吸入または経口吸入による)投与に好適なエアロゾルの形態で、局所投与用に好適な軟膏、クリーム、ゲル、ゼリー または ローションに、または非経口投与用に好適な注射可能な製剤で製剤する。好ましい投与経路は、治療すべき症状および所望の成果を含むいくつかの因子に依存しうる。所与の環境に対する最も有利な経路を当業者は決定することができる。例えば、所望の薬剤の適当な濃度を、治療する身体の部位に直接送達することが必要である環境においては、投与を全身に対してよりむしろ局所的である方がよい。局所投与は所望の薬剤の非常に高い局所濃度を送達できるので、従って、身体の他器官の化合物への曝露を避けて潜在的に副作用を軽減する一方、所望の治療または予防効果を達成するのに好適である。
【0080】
概して、好適な組成物は当業者に公知の方法によって調製することができ、そして製薬上許容される希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤を含みうる。希釈剤、アジュバントおよび賦形剤は、それが組成物の他成分と共存しうるという意味で「受け入れられる」ことおよびそのレシピエントに無害であることが必要である。
【0081】
製薬上許容される希釈剤の例は、鉱質除去したまたは蒸留した水;生理食塩水;植物油、例えば、ピーナッツ油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、例えばピーナッツ油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、ラッカセイ油またはヤシ油;シリコーン油、すなわち、ポリシロキサン、例えば、メチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサンおよびメチルフェニルポリシロキサン;揮発性シリコーン;鉱油、例えば液体パラフィン、軟パラフィンまたはスクワラン;セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース;低級アルカノール、例えばエタノールまたはイソプロパノール;低級アラルカノール;低級ポリアルキレングリコールまたは低級アルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールまたはグリセリン;脂肪酸エステル、例えばイソプロピルパルミチン酸、イソプロピルミリスチン酸エステルまたはオレイン酸エチル;ポリビニルピロリドン;寒天;カラゲナン;トラガカントガムまたはアカシアガム、および石油ゼリーである。典型的には、担体が組成物の1%〜99.9重量%を占める。
【0082】
注入可能な溶液または懸濁液として投与するための無毒の非経口で許容される希釈剤または担体には、リンゲル液、中鎖トリグリセリド(MCT)、等張生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、エタノールおよび1,2プロピレングリコールが含まれる。経口用の好適な担体、希釈剤、賦形剤およびアジュバントのいくつかの例には、ピーナッツ油、液体パラフィン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アカシアガム、トラガカントガム、ブドウ糖、スクロース、ソルビトール、マンニトール、ゼラチンおよびレシチンが含まれる。これらの経口製剤はさらに好適な香料および着色剤を含有してもよい。カプセル形状で用いる場合、カプセルを、崩壊を遅らせるモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの化合物でコーティングしてもよい。
【0083】
典型的なアジュバントには、軟化薬、乳濁化剤、粘稠剤、保存剤、殺菌剤および緩衝剤が含まれる。
【0084】
経口投与用の固体剤形は、医薬および獣医薬用に許容される結合剤、甘味剤、崩壊剤、希釈剤、香料、コーティング剤、保存剤、滑沢剤および/または時間遅延剤を含有してもよい。好適な結合剤には、アカシアガム、ゼラチン、トウモロコシデンプン、トラガカントガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースまたはポリエチレングリコールが含まれる。好適な甘味剤には、スクロース、ラクトース、グルコース、アスパルテームまたはサッカリンが含まれる。好適な崩壊剤には、トウモロコシデンプン、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、グアールガム、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸または寒天が含まれる。好適な希釈剤にはラクトース、ソルビトール、マンニトール、ブドウ糖、カオリン、セルロース、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムまたはリン酸二カルシウムが含まれる。好適な香料には、ペパーミント油、ウィンターグリーンの油、チェリー、オレンジまたはラズベリー香料が含まれる。好適なコーティング剤には、アクリル酸および/またはメタクリル酸および/またはそれらのエステルのポリマーまたはコポリマー、ワックス、脂肪族アルコール、ゼイン、シェラックまたはグルテンが含まれる。好適な保存剤には、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、α-トコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベンまたは重亜硫酸ナトリウムが含まれる。好適な滑沢剤には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウムまたはタルクが含まれる。好適な時間遅延剤にはモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルが含まれる。
【0085】
経口投与用の液剤形は、上記薬剤だけでなく、液担体を含有してもよい。好適な液担体には、水、油、例えばオリーブ油、ピーナッツ油、ゴマ油、ひまわり油、サフラワー油、ラッカセイ油、ヤシ油、液体パラフィン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、脂肪族アルコール、トリグリセリドまたはそれらの混合物が含まれる。
【0086】
経口投与用の懸濁液はさらに分散剤および/または懸濁剤を含んでもよい。好適な懸濁剤には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、ポリ-ビニル-ピロリドン、アルギン酸ナトリウムまたはアセチルアルコールが含まれる。好適な分散剤には、レシチン、脂肪酸、例えばステアリン酸のポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンソルビトールモノ-またはジ-オレイン酸エステル、-ステアリン酸エステルまたは-ラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノ-またはジ-オレイン酸エステル、-ステアリン酸エステルまたは-ラウリン酸エステルなどが含まれる。
【0087】
経口投与用の乳濁液はさらに1種以上の乳濁化剤を含んでもよい。好適な乳濁化剤には先に例示した分散剤または天然ガム、例えば、グアールガム、アカシアガムまたはトラガカントガムが含まれる。
【0088】
非経口投与可能な組成物を調製する方法は当業者に明らかであり、例えば、本明細書に参照により組み込まれるRemington's Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa.にさらに詳しく記載されている。本組成物は、いずれの好適な界面活性剤、例えばアニオン、カチオンまたは非イオン界面活性剤、例えばソルビタンエステルまたはそれらのポリオキシエチレン誘導体を組み入れてもよい。懸濁剤、例えば天然ガム、セルロース誘導体または無機物質、例えばケイ素質シリカ、およびラノリンなどの他の成分を含んでもよい。
【0089】
医薬組成物を調製するための方法および医薬品担体は当技術分野で公知であり、教科書、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 20th Edition, Williams & Wilkins, Pennsylvania, USAに記載されている。担体は投与経路に依存するであろう、そして再び、当業者はそれぞれの具体的な事例に対する最も好適な製剤を容易に決定することができるであろう。
【0090】
組成物はまたリポソームの形態で投与してもよい。リポソームは一般にリン脂質または他の脂質物質に由来し、水培地に分散された単層または多層の水和液晶により形成される。リポソームを形成することができる無毒の、生理学的に許容されかつ代謝可能な脂質を用いることができる。リポソーム形態の組成物は安定剤、保存剤、賦形剤などを含有してもよい。好ましい脂質は、自然および合成両方のリン脂質およびホスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームを形成する方法は当技術分野で公知であり、これに関しては具体的に、その内容が参照により本明細書に組み込まれるPrescott, Ed., Method in Cell Biology, Volume XIV, Academic Press, New York, N.Y. (1976), p.33 etseq.に記載されている。
【0091】
併用レジメン
有利な治療は併用レジメンを通して実現することができる。併用療法においては、miRNA、そのアンタゴニスト、またはmiRNAの発現または活性を刺激または亢進できる薬剤および少なくともさらなる治療薬を同時投与することができる。例えば、癌の関係では、患者の症状を管理し、局所の腫瘍制御を改善し、および/または転移のリスクを低減するために、本発明の実施形態による薬剤を使用する一方、進行中の抗癌療法、例えば化学療法および/または照射療法の維持を求めてもよい。従って、通常の療法と共に、例えば、チロシンキナーゼインヒビター、照射療法、化学療法、外科、または他の形態の医療介入と共に、本発明による治療の方法を適用することができる。「共投与」は、同じ製剤でまたは2種の異なる製剤で、同じかまたは異なる経路を介する同時投与、または同じかまたは異なる経路による逐次投与を意味する。「逐次」投与は、2種の製剤または療法の投与間に時間差、例えば、秒、分、時、日、週または月があることを意味する。製剤または療法はいずれの順序で投与してもよい。
【0092】
使用するさらなる治療薬は治療または予防する症状に依存しうる。例えば、症状が頭頸部癌である場合、好適な治療薬にはエルロチニブ(Tarceva)、ゲフィチニブ(イレッサまたはZD1839)またはセツキシマブが含まれる。あるいはまたはさらに、miRNAなどのアンタゴニストをいずれかの順序でmiRNAの副作用に対抗する薬剤と同時におよび/または継続的に投与してもよい。
【0093】
化学治療薬の例には、アドリアマイシン、タキソール、フルオロウラシル、メルファラン、シスプラチン、オキザリプラチン、αインターフェロン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、アンジオインヒビン、TNP-470、ペントサンポリサルフェート、血小板因子4、アンジオスタチン、LM-609、SU-101、CM-101、テクガラン、サリドマイド、SP-PGなどが含まれる。他の化学治療薬には、アルキル化剤、例えば、窒素マスタード(メクロレタミン、メルファン、クロランブシル、シクロホスファミドおよびイホスファミドを含む);ニトロソウレア(カルムスチン、ロムスチン、セムスチンおよびストレプトゾシンを含む);アルキルスルホン酸エステル(ブスルファンを含む);トリアジン(ダカルバジンを含む);エチレンイミン(チオテパおよびヘキサメチルメラミンを含む);葉酸類似体(メトトレキセートを含む);ピリミジン類似体(5-フルオロウラシル、シトシンアラビノシドを含む);プリン類似体(6-メルカプトプリンおよび6-チオグアニンを含む);抗腫瘍抗生物質(アクチノマイシンDを含む);アントラサイクリン(ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシンCおよびメトラマイシンを含む);ホルモンおよびホルモンアンタゴニスト(タモキシフェンおよびコルチコステロイドを含む)および様々な薬剤(シスプラチンおよびブレキナールを含む)、およびレジメン、例えば、COMP(シクロホスファミド、ビンクリスチン、メトトレキセートおよびプレドニソン)、エトポシド、mBACOD(メトトレキセート、ブレオマイシン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびデキサメタゾン)、およびPROMACE/MOPP(プレドニソン、メトトレキセート(ロイコビンレスキューと共に)、ドキソルビシン、シクロホスファミド、タキソール、エトポシド/メクロレタミン、ビンクリスチン、プレドニソンおよびプロカルバジン)が含まれる。
【0094】
本明細書に開示した薬剤と組成物を治療または予防のために投与することができる。治療の応用においては、薬剤と組成物を、すでに症状を患う患者に、症状およびその症候群および/または合併症を治癒または少なくとも部分的に停止させるのに十分な量だけ投与する。薬剤または組成物を、患者を効果的に治療するのに十分な活性化合物の量を提供すべきである。
【0095】
投与量
いずれかの特別な被験体に対する投与薬剤の有効な用量レベルは様々な因子に依存しうるのであって:かかる因子には、医薬における周知の他の関係因子と一緒に、治療する症状のタイプおよび症状の段階;使用する薬剤の活性と性質;使用する組成物;被験体の年齢、体重、健康状態、性別および食事;投与時間;投与経路;化合物の隔絶の割合;治療時間;治療との組み合わせてまたは同時に用いる薬物が含まれる。当業者は、通常の実験により、適用できる症状を治療するのに必要でありうる有効な、無毒の投与量を決定することができるであろう。これらは、ケースバイケースで決定することが最も多い。
【0096】
一般に、有効な投与量は、kg体重当たり24時間当たり約0.0001mg〜約1000mg;典型的には、kg体重当たり24時間当たり約0.001mg〜約750mg;kg体重当たり24時間当たり約0.01mg〜約500mg;kg体重当たり24時間当たり約0.1mg〜約500mg;kg体重当たり24時間当たり約0.1mg〜約250mg;またはkg体重当たり24時間当たり約1.0mg〜約250mgの範囲であると予想される。より典型的には、有効な用量範囲はkg体重当たり24時間当たり約10mg〜約200mgの範囲であると予想される。
【0097】
あるいは、有効な投与量は約5000mg/m2までであってもよい。一般に、有効な投与量は、約10〜約5000mg/m2、典型的には約10〜約2500mg/m2、約25〜約2000mg/m2、約50〜約1500mg/m2、約50〜約1000mg/m2、または約75〜約600mg/m2の範囲にあると予想される。さらに、当業者には、個々の投与量の最適な量と間隔は治療する症状の性質と程度、剤形、投与の経路と部位、および治療する特定の個体の性質により決定しうることは明らかであろう。また、かかる最適な症状は通常の技法により決定することができる。
【0098】
当業者には、治療の最適なコース、例えば、決められた日数に対して1日当たり与えられる組成物の投与量の数は、治療確認試験の通常のコースを用いて当業者により確認することができることも明らかであろう。
【0099】
いくつかの実施形態において、有効な投与、最適な投与数、個々の投与の間隔、および最適の治療コースは、EGFRリガンドの血清または血漿レベルのモニタリングにより決定することができる。例えば、血清または血漿などのサンプルを、当技術分野で公知の方法により試験してEGFRリガンドの発現および/または活性のレベルを決定することができる。薬剤を投与した後にまたは治療コースの間に間隔をおいて、さらなるサンプルを採取し、EGFRリガンドの発現および/または活性のレベルを決定してもよい。EGFRリガンドの発現および/または活性のレベルが有意に変化しなかった場合、その用量または用量の頻度を増加して投与量または治療を最適化することができる。EGFRリガンドのレベルが有意に変化した場合、その用量または用量の頻度を減少して投与量または治療を最適化することができる。
【0100】
EGFRリガンドの発現および/または活性の調節不全に関連する疾患または症状を患う被験体の治療レジメンの効力は、被験体のEGFRリガンドの発現の変化をモニターすることにより評価することができる。例えば、被験体をmiR-7 miRNA、それらの前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNA、またはいずれかのかかるmiRNAのアンタゴニストで治療することができる。最初の期間に、被験体からの生体サンプルを当技術分野で公知の方法により試験してサンプル中のEGFRリガンドの発現および/または活性のレベルを決定することができる。さらなる期間の後に、被験体からのさらなる生体サンプルを当技術分野で公知の方法により試験してさらなるサンプル中のEGFRリガンドの発現および/または活性のレベルを決定することができる。いくつかの実施形態において、このサンプリングとEGFRリガンドレベル確認のプロセスを3回以上繰り返し、治療レジメンに対するEGFRリガンドのレベルを全期間にわたり測定することができる。次いでレジメンの効力を、EGFRリガンドの発現および/または活性が全期間にわたり変化するかどうかを確認することにより評価することができる。EGFRリガンドの発現および/または活性のレベルの変化は治療レジメンの効力の指標となる。
【0101】
EGFRリガンドはTGFα、HB-EGF、アンフィレグリン、エピレグリン、ベタセルリン、エピゲンNRG-1、NRG-2、NRG-3orNRG-4であってもよい。特別な実施形態において、EGFRリガンドはTGFαであってもよい。
【0102】
ここで、本発明をさらに詳しく、以下の具体的な実施例を参照することにより記載しよう、しかしこれらはいかなる方法でも本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。
【実施例】
【0103】
実施例1 cDNAマイクロアレイ発現プロファイル作成とデータ分析
マイクロアレイ分析を用いてmiR-7によりダウンレギュレーションされる新規遺伝子を同定した。具体的に、miR-7にトランスフェクトしたHN5細胞のcDNAマイクロアレイ分析は、HNCで潜在的役割をもつ新しいmiR-7標的を明らかにした。HN5細胞を24時間、ヒトmiR-7(Pre-miR miRNA前駆体、Product ID:PM10047)(Ambion;Victoria、Australia)またはネガティブ対照miRNA(miR-NC;Pre-miR miRNA前駆体ネガティブ対照#1、Product ID:AM17110)(Ambion;Victoria、Australia)に対応するmiRNA前駆体でトランスフェクトした。全RNAを単離してマイクロアレイ分析を行った。24時間の時点は、肝臓癌および非小細胞肺癌細胞株の多数のmiRNA-調節した遺伝子を同定した先の研究に基づいて選んだ(Wang & Wang (2006), Nucleic Acids Res 34:1646-1652; Webster et a/., 2009, J Biol Chem 284:5731-5741)。
【0104】
miR-7またはmiR-NCの前駆体分子(30nM)によるトランスフェクション(6ウエルプレート、1ウエル当たり5.0 x 105細胞の密度でまいた)の24時間後に、全RNAをTRIzol試薬(Invitrogen; Victoria, Australia)を用いてHN5細胞から単離した。抽出したRNAの量と完全性を、2100バイオアナライザー(Agilent Technologies; Victoria、Australia)を用いて確認した後、サンプルがアレイ分析に好適であるかを判断した。マイクロアレイハイブリダイゼーションによる遺伝子発現プロファイル作成は、the Australian Genome Research Facility (Victoria、Australia)による2つの実験レプリカでヒト-6 v3アレイチップ(Illumina;Victoria、Australia)を用いて行った。生データはmiR-NC前駆体と比較して少なくとも1.5倍だけmiR-7前駆体によるトランスフェクションに対して応答し、有意にアップまたはダウンレギュレーションした遺伝子から成り、注釈、可視化および発見の統合(DAVID)のためのデータベース(Dennis et al., (2003), Genome Biol 4:P3;Huang et al., (2009), Nat Protoc 4:44-57)を用いて作製した。次いで、miR-7によりダウンレギュレーションされた分子を濃縮したシグナル伝達経路を同定するためのダウンレギュレーション遺伝子リストのさらなるDAVID分析を行った。DIANA-mirExTraを用いて、miR-7によりダウンレギュレーションされた遺伝子のマイクロアレイリストのなかの推定miR-7標的遺伝子の過剰発現を確認した。TargetScan(Lewis et a/., (2005), Cell 120:15-20)を用いて、推定miR-7標的が濃縮されたシグナル伝達経路内のmiR-7標的を予測した。
【0105】
全RNAをHN5細胞からTRIzol試薬(Invitrogen; Victoria、Australia)を用いて抽出し、DNase I(Promega; Sydney、Australia)で処理して汚染ゲノムDNAを排除した。EGFR、RAF1、PAK1およびGAPDH mRNA発現をqRT-PCR分析するために、0.5μgの総RNAをランダムヘキサマーでThermoscript(Invitrogen;Victoria, Australia)を用いてcDNAに逆転写した。EGFR、RAF1、PAK1およびGAPDH cDNAに対するリアルタイムPCRを、Corbett 3000 RotorGene計器(Corbett Research; Sydney、Australia)上で、PrimerBank(Wang & Seed, 2003, Nucleic Acid Res., 31 : e154)からのSensiMixPlus SYBR キット(Quantace; New South Wales、Australia)およびEGFR、RAF1、PAK1およびGAPDHプライマー:EGFR-F、5"-GCG TTC GGC ACG GTG TAT AA- 3'(配列番号13);EGFR-R、5' -GGC TTT CGG AGA TGT TGC TTC- 3'(配列番号14);RAF1-F、5' -GCA CTG タグ CAC CAA AGT ACC- 3' (配列番号15); RAF1-R、5' -CTG GGA CTC CAC TAT CAC CAA TA- 3' (配列番号16);PAK1-F、5' -CAG CAC TAT GAT TGG AGT CGG- 3'(配列番号 17); PAK1-R、5' -TGG ATC GGT AAA ATC GGT CCT- 3'(配列番号18);GAPDH-F、5' -ATG GGG AAG GTG AAG GTC G- 3'(配列番号19);GAPDH-R、5' -GGG GTC ATT GAT GGC AAC ATT A- 3' (配列番号20)を用いて行った。単一ピーク融解曲線および>0.9の反応効率がデータのさらなる分析に必要であった。GAPDH mRNAと比較したEGFR、RAF1およびPAK1 mRNAの発現を、2ΔΔCT法(Livak & Schmittgen (2001), Methods 25:402-408)を用いて確認した。
【0106】
全ての結果を平均値±標準偏差(S.D.)として掲げた。統計的有意性をスチューデントのt検定(両側検定、不対(unpaired))を用いて計算し、有意性のレベルをp<0.05に設定した。免疫ブロット用の全サンプルを重複して仕込んで、タンパク質の等しい仕込みを確認した。qRT-PCRデータの統計解析はGenExソフトウエア(MultiD;California、USA)を用いて実施した。データの正規性はKolmogorov-Smimov検定(KS検定)を用いて確認した。
【0107】
それぞれの処理、miR-7前駆体またはmiR-NC前駆体に対する2つの実験レプリカをマイクロアレイにより分析した。マイクロアレイ分析は、miR-NCをトランスフェクトした細胞と比較してmiR-7をトランスフェクトした細胞において、少なくとも1.5倍だけ有意にダウンレギュレーションされた(p<0.05)189遺伝子を同定した(データは示してない)。マイクロアレイ分析により同定したダウンレギュレーションされた遺伝子のDAVID分析は、miR-7がErbB受容体シグナル伝達経路に属する様々な分子を標的化し、この分子経路はmiR-7でダウンレギュレーションされた遺伝子について最大倍数(7.2倍)の濃縮を有することを明らかにした(p<0.001)。miR-7トランスフェクション後に最もダウンレギュレーションされたErbB受容体シグナル伝達経路に属するトップ6つの遺伝子を表1に掲げ、そしてmiR-7はEGFRシグナル伝達からの複数の遺伝子、今までHNCにおけるmiR-7標的として未同定であった遺伝子をダウンレギュレーションできることを立証した。DIANA mirExTraを用いてダウンレギュレーションされた遺伝子内に、予想したmiR-7標的の濃縮があったかどうかを研究した。この分析は、ダウンレギュレーションされた189個の遺伝子のうちの135個が推定miR-7標的である(p<0.001)ことを明らかにし、miR-7によりダウンレギュレーションされる遺伝子の有意な部分がmiR-7標的部位を含有しうると仮定したので、マイクロアレイ手法がmiR-7によりダウンレギュレーションされた遺伝子を同定することを実証した。
【表1】

【0108】
マイクロアレイでmiR-7によりダウンレギュレーションされた遺伝子のうち、RAF1とPAK1(表1)をqRT-PCRによって確認した。これらを選んだのは、他の癌および正常組織におけるEGFRシグナル伝達(RAF1)およびAkt活性化(PAK1)に果たすこれらの公知の役割の故である。RAF1およびPAK1のmiR-7標的としてのqRT-PCR検証は、miR-7前駆体またはmiR-NC前駆体でトランスフェクトしたHN5細胞からのRNAを用いて行い、そしてRAF1およびPAK1 mRNAは、miR-7でトランスフェクトしたサンプル中のGAPDH mRNAと比較して有意にダウンレギュレーションされることを確認した(図1)。RAF1 mRNAは2.49倍(p<0.001)およびPAK1 mRNAは1.82倍(p<0.01)ダウンレギュレーションされ(図1)、従ってこれらの遺伝子はmiR-7の標的であり、miR-7がHN5細胞のRAF1およびPAK1 mRNAの崩壊を促進することを実験的に確認した。
【0109】
以上記載したように、ダウンレギュレーションされたマイクロアレイ遺伝子のDAVID分析は、ErbBシグナル伝達経路がmiR-7によりダウンレギュレーションされる遺伝子で最も濃縮されるものであることを同定した。模式図(図2)はこれらの遺伝子とmiR-7間の可能な相互作用を示す。miR-7はEGFRシグナル伝達経路を調節する能力を有し、miR-7がHN5 HNC細胞のEGFRシグナル伝達経路の複数メンバーをダウンレギュレーションすることは明らかである。マイクロアレイ分析による発現がmiR-7処理に応答して有意に変わる遺伝子-対-ネガティブ対照を表に掲げ、その倍数変化、p-値および推定miR-7標的部位の番号を示した。遺伝子の3'UTR内に推定miR-7標的部位が存在すると、この遺伝子はおそらくmiR-7の直接標的となるが、遺伝子の3'UTR内に推定miR-7標的部位が無いとこの遺伝子はおそらくmiR-7の間接標的であることを示す。
【0110】
miRNAトランスフェクション後のEGFRに観察されるダウンレギュレーションは、他の実験知見と一致し、マイクロアレイ分析を実証する。興味深いことに、ErbBシグナル伝達経路内の2つのEGFR活性化リガンド、TGFαとHB-EGFはマイクロアレイにおいてダウンレギュレーションされたが、両方共にmiR-7の今まで未同定の潜在標的であった。TGFαとHB-EGFはHCNを含む癌において通常過剰発現され、HNC細胞の増殖の増加に寄与することが示されている(Grandis et al., (2008), J Cell Biochem 69:55-62)。従って、これらのリガンドのダウンレギュレーションは、miR-7がEGFRシグナル伝達をリガンドおよび受容体レベルで破壊できることならびに自己分泌ループを破壊してEGFRシグナル伝達経路をダウンレギュレーションしかつ腫瘍成長を低減することを示す。また、リガンドのEGFRとの結合をブロックするセツキシマブ、モノクローナル抗体の濃度を増加して処理した結腸直腸、直腸および類表皮癌細胞株において、用量に依存した血清中のTGFαの濃度増加があることも示されている(Mutsaers et al., (2009), Clin Cancer Res 15:2397-2405)。これはTGFα結合のブロックがこれらの癌におけるリガンド産生のアップレギュレーションをもたらすことを示唆する。さらに、TGFαおよびEGFR mRNA発現はHNC腫瘍組織および周囲の組織学的に正常な組織の両方において有意に増加し、これが正常組織を悪性トランスフォーメーションに導きうることが見出されている(Grandis & Tweardy (1993), J Cell Biochem Suppl 17F:188-191)。これは、EGFRリガンドのmiR-7によるダウンレギュレーションがEGFR経路シグナル伝達および腫瘍成長を低下して、患者におけるHNC再発防止を助けるという考えを強調するものである。
【0111】
実施例2 miR-7はTGFαをモジュレートする
次いで本発明者らは、HNC細胞株におけるTGFα発現のレベルを直接モジュレートするmiR-7の能力を研究した。次のDNAプラスミドを用いた:pRL-CMVウミシイタケルシフェラーゼレポーター(Promega)およびpGL3-コンセンサスmiR-7標的部位(配列番号6)ホタルルシフェラーゼプラスミド(Webster et al., 2009)。pGL3-TGFα miR-7標的部位番号5(配列番号11)は、TGFα mRNA 3-UTR(GenBank受託番号NM_003236.2)のnt 3699-3751(配列番号21)に対応するアニーリングしたDNAオリゴヌクレオチドを、pGL3-対照(Promega)ホタルルシフェラーゼレポーターベクターのルシフェラーゼオープンリードフレームの3'に挿入されたユニークなSpelおよびApal部位中にライゲートすることにより作製した。全てのプラスミドの配列は配列決定により確認した。
【0112】
HNC細胞株FaDuはAmerican Type Culture Collection (ATCC)から得て、HNC細胞株HN5はA/Prof. Terrance Johns (Monash Institute of Medical Research)から好意で贈られた。FaDuとHN5細胞株を37℃にて5%CO2中の10%胎仔ウシ血清(FBS)を補充した低グルコースDMEM(Invitrogen)において培養した。細胞株は全実験で最初のストックの20継代内に用いた。基本EGFR経路発現およびシグナル伝達を分析するために、細胞を6ウエルプレートに2.8〜4.0 x 105細胞/ウエルの密度でプレーティングし、プレーティング後24時間に、0.5% FBSを補充したDMEMで24時間飢餓させた後にタンパク質抽出を行った。
【0113】
細胞を4.5 x 105(FaDu)または5.0 x 105(HN5)細胞の密度で6ウエルプレートにまき、リポフェクタミン2000(Invitrogen)をmiR-7またはmiR-NC前駆体分子と共に用いて1〜30nMの最終濃度にてトランスフェクトした。細胞を24時間に収穫してRNA抽出または3日にタンパク質抽出を行った。
【0114】
定量的逆転写PCR分析のために、全RNAをHN5細胞からTRI20I試薬(Invitrogen)で抽出し、DNaseI(Promega)で処理してゲノムDNAの汚染を排除した。TGFおよびGAPDH mRNA発現のqRT-PCR分析のために、0.5μgの全RNAをランダムヘキサマーでThermoscript(Invitrogen)を用いて、cDNAに逆転写した。TGFαおよびGAPDH cDNAのリアルタイムPCRをCorbett 3000 RotorGene計器(Corbett Research)上で、SensiMixP/us SYBR キット(Quantace)およびPrimerBank(Wang および Seed、2003)からのTGFαおよびGAPDHプライマー:TGFα-F、5'-TGT AAT CAC CTG TGC AGC CTT T-3'(配列番号22);TGFα-R、5'-GTG GTC CGC TGA TTT CTT CTC T- 3'(配列番号23);GAPDH-F、5'-ATG GGG AAG GTG AAG GTC G- 3'(配列番号 19); GAPDH- R、5'-GGG GTC ATT GAT GGC AAC ATT A-3'(配列番号20)を用いて行った。単一ピーク融解曲線および>0.9の反応効率がデータのさらなる分析に必要であった。GAPDH mRNAと比較したTGFα mRNAの発現を、2ΔΔCT法(Livak & Schmittgen (2001), Methods 25:402-408)を用いて確認した。
【0115】
ルシフェラーゼレポーターアッセイについては、細胞を2.0 x 105細胞の密度で24ウエルプレートにまき、リポフェクタミン2000(Invitrogen)をmiR-7またはmiR-NC前駆体分子(0.5〜1nM)、およびトランスフェクション対照として100 ng/ウエルのホタルルシフェラーゼレポーターDNAおよび5ng/ウエルのpRL-CMVウミシイタケルシフェラーゼレポーターと共に用いて同時トランスフェクトした。溶菌液をトランスフェクション後24時間に、1X Passive溶解バッファー(Promega)を用いて回収し、-80℃にて一晩凍結し、解凍しそして5分間、13,000 x gで遠心分離した。各上清を、二重ルシフェラーゼレポーターアッセイ系(Promega)およびFLUOstar OPTIMA照度計(BMG Labtech)を用いて、ホタルおよびウミシイタケルシフェラーゼ活性について試験した。相対的なルシフェラーゼ発現を、ホタルルシフェラーゼ値をウミシイタケルシフェラーゼ値に正規化することにより決定した。
【0116】
全ての結果を平均値±標準偏差(S.D.)として表す。統計的有意性をスチューデントのt検定(対でない2つのテイル)を用いて計算し、有意性のレベルをp<0.05に設定した。免疫ブロット用の全サンプルを重複して仕込んで、タンパク質の等しい仕込みを確認した。qRT-PCRデータの統計解析はGenExソフトウエア (MultiD)を用いて実施した。データの正規性はKolmogorov-Smimov検定(KS検定)を用いて確認した。
【0117】
図3に示したように、TGFαの発現はmiR-7の存在のもとではHN5とFaDu細胞の両方において有意に、すなわち、HN5細胞ではmiR-NCと比較して3.3倍(p値-6.61 x 10-4)、およびFaDu細胞ではmiR-NCと比較して1.41倍(p値-7.43 x 10-4)低下する。ルシフェラーゼアッセイ(図4)の結果は、HN5細胞においてmiR-7がコンセンサスmiR-7結合モチーフおよび配列番号11に記載した予想miR-7結合モチーフ5の両方と結合することを図解する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞または組織における上皮成長因子受容体(EGFR)リガンドの発現および/または活性をモジュレートする方法であって、細胞または組織をmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNA、またはいずれかのかかるmiRNAのアンタゴニストと接触させるステップを含むものである前記方法
【請求項2】
miR-7 miRNAがhsa-miR-7である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
miR-7 miRNAが配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
miR-7 miRNA前駆体がhsa-miR-7-1、hsa-miR-7-2およびhsa-miR-7-3からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
miR-7 miRNA前駆体が配列番号2〜4のいずれか1つに記載の配列を含む、請求項1または4に記載の方法。
【請求項6】
細胞または組織とmiRNAとの接触がEGFRリガンドの発現および/または活性を低下するかまたは阻害する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
細胞または組織とmiRNAのアンタゴニストとの接触がEGFRリガンドの発現および/または活性を増加する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
EGFRリガンドをコードするmRNAの3'非翻訳領域が1以上のmiRNA結合部位を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
miRNA結合部位が配列番号6〜11のいずれか1つに記載の配列を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
EGFRリガンドがTGFαまたはHB-EGFである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
EGFRリガンドがTGFαである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
TGFαをコードするmRNAが配列番号12に記載の配列、またはその変異体を含む3'非翻訳領域を有するものである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
miRNAまたはアンタゴニストを細胞または組織とin vivoで接触させる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
miRNAまたはアンタゴニストを細胞または組織とex vivoで接触させる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞または組織を含有する、あるいは前記細胞または組織の起源である被験体がEGFRリガンドの発現または活性の調節不全に関連する疾患または症状を患うか、素因があるか、またはそうでない場合は、リスクがある、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
疾患または症状が癌である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
被験体におけるEGFRリガンドの発現または活性の調節不全に関連する疾患または症状を治療する方法であって、被験体にmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNA、またはかかるmiRNAのアンタゴニストの有効量を投与し、それによりmiRNAがEGFRリガンドの発現または活性をモジュレートするステップを含む前記方法。
【請求項18】
疾患または症状がEGFRリガンドの発現または活性のアップレギュレーションまたは亢進に関連するものであって、被験体に有効量のmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAを投与する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
miR-7 miRNAがhsa-miR-7である、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
miR-7 miRNAが配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含む、請求項17〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
miR-7 miRNA前駆体がhsa-miR-7-1、hsa-miR-7-2およびhsa-miR-7-3からなる群より選択される、請求項17または18に記載の方法。
【請求項22】
miR-7 miRNA前駆体が配列番号2〜4のいずれか1項に記載の配列を含むものである、請求項17、18または21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
EGFRリガンドをコードするmRNAの3'非翻訳領域が1以上のmiRNA結合部位を含むものである、請求項17〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
miRNA結合部位が配列番号6〜11に記載の配列を含むものである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
EGFRリガンドがTGFαまたはHB-EGFである、請求項17〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
EGFRリガンドがTGFαである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
TGFαをコードするmRNAが配列番号12に記載の配列を含む3'非翻訳領域、またはその変異体を有するものである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
疾患または症状が癌である、請求項17〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
癌が頭頸部癌、グリア芽細胞腫、膵臓癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、肝臓癌、神経芽細胞腫または黒色腫からなる群より選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
癌が頭頸部癌である、29に記載の方法。
【請求項31】
miRNAがEGFRリガンドの発現または活性をモジュレートすることによりEGFRリガンドの発現または活性のアップレギュレーションまたは亢進に関連する疾患または症状を治療するための医薬品を製造するためのmiR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの使用。
【請求項32】
miRNAがEGFRリガンドの発現または活性をモジュレートすることによりEGFRリガンドの発現または活性のアップレギュレーションまたは亢進に関連する疾患または症状を治療するための、miR-7 miRNA、その前駆体または変異体、または配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの使用。
【請求項33】
EGFRリガンドのアップレギュレーションまたは亢進に関連する腫瘍または癌がEGFRリガンドの発現または活性のアップレギュレーションまたは亢進に関連する腫瘍成長、癌転移または再発を予防または軽減する方法であって、miR-7 miRNA、その前駆体または変異体、配列GGAAGAを含むシード領域を有するmiRNAの有効量を被験体に投与し、それによりmiRNAがEGFRリガンドの発現および/または活性をモジュレートするステップを含むものである前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−511559(P2013−511559A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540228(P2012−540228)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/AU2010/001577
【国際公開番号】WO2011/063455
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(502074529)ザ ユニバーシティ オブ ウェスタン オーストラリア (2)
【Fターム(参考)】