説明

下水処理方法及び下水処理装置

【課題】雨天時の増水等によって、処理の対象となる下水の流入量が設計流入水量を超過した場合にも、処理水中のアンモニア性窒素を除去して、放流先の水質悪化を防止できる下水処理方法及び下水処理装置を提供する。
【解決手段】曝気装置21bを備える無酸素槽21及び好気槽22とを有する生物処理槽20と、生物処理後の被処理水を固液分離する最終沈殿池30と、生物処理槽20への被処理水の流入水量が所定量以下のときには、無酸素槽21に設けた曝気装置21bを作動させず、生物処理槽20への被処理水の流入水量が所定量を超えたときには、無酸素槽21に設けた曝気装置21bを作動させるように構成された制御装置50を有する下水処理装置を用いて下水処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水を生物反応を用いて処理する下水処理方法及び下水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な下水処理装置は、例えば図7,8に示すように、最初沈殿池1と、生物処理槽2と、最終沈殿池3と、消毒槽4とを備えている。図7は、生物処理槽2として、無酸素槽2aと、好気槽2bとを備える処理槽を用いた場合であり、図8は、生物処理槽2として、嫌気槽2cと、無酸素槽2aと、好気槽2bとを備える処理槽を用いた場合である。なお、22aは空気噴射装置であり、22bはブロアである。
【0003】
この下水処理装置では、まず、最初沈殿池1にて、被処理水を沈澱処理して、懸濁物質などが除去される。そして、生物処理槽2に供せられて、ここで生物反応を利用した処理によって、被処理水中の有機物、BOD、窒素分、リン等が除去される。そして、生物反応処理された被処理水を最終沈殿池3に流入させて、生物反応により生じたフロック等を沈降分離して、分離液を消毒槽4で消毒処理した後、河川や海等に放流している。
【0004】
このような下水処理装置の処理能力は、主として生物処理槽2での処理能力に基づいて決定しており、通常、晴天時における最大流入水量を基準として設計流入水量を決定し、下水処理が行われている。
【0005】
しかしながら、汚水と雨水を遮集する合流式下水道の下水処理装置では、雨天時に下水処理装置に流入する水量が急増し、処理に供せられる水量が、設計流入水量を超過してしまう。
【0006】
そこで、雨天時下水の水質は、雨水により希釈化されていることから、そのまま放流してもあまり問題を生じることが少ないという事情により、従来は、雨水時の増水分の下水を、生物処理槽2にて処理することなく、そのまま放流もしくは薬剤などで消毒して放流している。
【0007】
また、汚水のみを遮集する分流式下水道の下水処理においても、雨天時に浸入水等の影響で、流入水量が設計流入水量を超過する場合があり、その設計流入水量を超えた水量については、そのまま放流もしくは薬剤などで消毒して放流が行われている。
【0008】
また、下記特許文献1には、嫌気処理及び好気処理のいずれもが可能な前段生物処理部と、好気処理用の後段生物処理部とが設けられた生物処理部への上澄水の流量が所定流量以下のときには、該前段生物処理部を嫌気処理状態とし、前記上澄水の全量を該前段生物処理部と後段生物処理部とにこの順で流通させ、該上澄水の流量が該所定流量を超えるときには、該前段生物処理部を好気処理状態とすると共に、該上澄水の一部を該前段生物処理部と後段生物処理部とにこの順で流通させ、該上澄水の残部は前段生物処理部を経ることなく後段生物処理部に流入させることを特徴とする下水処理方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−262140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
雨天時の増水時において、沈殿処理のみの簡易処理では、溶解性成分であるアンモニア性窒素を処理することができず、消毒設備による消毒では結合塩素が生成され消毒効果が低減する。このため、アンモニア性窒素を何ら除去することなく河川や海などに放流した場合、放流先の水質や公衆衛生に影響をもたらし、衛生学的リスクが生じる恐れがあった。
【0010】
また、上記特許文献1では、生物処理部への設計流入水量が設計量を超過する場合、前段生物処理部を好気処理状態とすると共に、上澄水の一部を前段生物処理部と後段生物処理部とにこの順で流通させ、上澄水の残部は前段生物処理部を経ることなく後段生物処理部に流入して生物処理する方法を行っている。このため、生物処理部への流入水量が設計量を超過する場合、後段生物処理部内の活性汚泥濃度は、前段生物処理部を通すことなく供給された上澄水によって希釈されることとなるので、後段生物処理部では、硝化効率が低下してアンモニア性窒素を十分除去することができず、アンモニア性窒素が残留したまま処理水として河川などに放流されるおそれがあった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、雨天時の増水等によって、処理の対象となる下水の流入量が設計流入水量を超過した場合にも、処理水中のアンモニア性窒素を除去して、放流先の水質悪化を防止できる下水処理方法及び下水処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の下水処理方法は、脱窒反応を行わせる無酸素槽とアンモニア性窒素の硝化反応を行わせる好気槽とでアンモニア性窒素を含有する被処理水を生物処理し、生物反応処理後の被処理水を最終沈殿池で固液分離する下水処理方法において、前記無酸素槽に曝気装置を設け、生物処理工程における被処理水の流入水量が所定量以下のときには、前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させずに、前記無酸素槽における脱窒反応と、前記好気槽における硝化反応とを経て、被処理水を前記最終沈殿池に送るようにし、生物処理工程における被処理水の流入水量が所定量を超えたときには、前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させて、前記無酸素槽を好気槽に変換し、被処理水の全量を、この変換された好気槽と、最初からの好気槽とを経て、それぞれで硝化反応を行わせて前記最終沈殿池に送るようにしたことを特徴とする。
【0013】
本発明の下水処理方法のもう一つは、リン放出を行わせる嫌気槽と脱窒反応を行わせる無酸素槽とアンモニア性窒素の硝化反応を行わせる好気槽とでアンモニア性窒素を含有する被処理水を生物処理し、生物反応処理後の被処理水を最終沈殿池で固液分離する下水処理方法において、前記嫌気槽及び前記無酸素槽に曝気装置を設け、生物処理工程における被処理水の流入水量が所定量以下のときには、前記嫌気槽及び前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させずに、前記嫌気槽におけるリン放出と、前記無酸素槽における脱窒反応と、前記好気槽における硝化反応とを経て、被処理水を前記最終沈殿池に送るようにし、生物処理工程における被処理水の流入水量が所定量を超えたときには、前記嫌気槽及び前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させて、前記嫌気槽及び前記無酸素槽を好気槽に変換し、被処理水の全量を、この変換された好気槽と、最初からの好気槽とを経て、それぞれで硝化反応を行わせて、前記最終沈殿池に送るようにしたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の下水処理装置は、脱窒反応を行わせる無酸素槽及びアンモニア性窒素の硝化反応を行わせる好気槽を有する生物処理槽と、前記生物処理槽で生物反応処理された被処理水を固液分離する最終沈殿池とを有する下水処理装置において、前記無酸素槽は曝気装置を有し、前記生物処理槽への被処理水の流入水量が所定量以下のときには、前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させず、前記生物処理槽への被処理水の流入水量が所定量を超えたときには、前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させるように構成された制御装置を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の下水処理装置のもう一つは、リン放出を行わせる嫌気槽、脱窒反応を行わせる無酸素槽及びアンモニア性窒素の硝化反応を行わせる好気槽とを有する生物処理槽と、前記生物処理槽で生物反応処理された被処理水を固液分離する最終沈殿池とを有する下水処理装置において、前記嫌気槽及び前記無酸素槽は曝気装置を有し、前記生物処理槽への被処理水の流入水量が所定量以下のときには、前記嫌気槽及び前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させず、前記生物処理槽への被処理水の流入水量が所定量を超えたときには、前記嫌気槽及び前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させるように構成された制御装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生物処理工程時における被処理水の流入水量が所定量以下のときには、無酸素槽では脱窒反応を行い、好気槽ではアンモニア性窒素の硝化反応を行うので、被処理水中の有機物、BOD、窒素分などを除去できる。更に嫌気槽を備える場合にあっては、被処理水中のリンも効率よく除去できる。
また、生物処理工程時における被処理水の流入水量が所定量を超えたときには、無酸素槽や嫌気槽を好気槽とする運転を行うため脱窒や脱リンを行われなくなるが、アンモニア性窒素の硝化反応に要する時間を十分確保できるので、処理水量が増加してもアンモニア性窒素の硝化が十分に行われる。
このため、処理に供せられる被処理水の水量が、設計流入水量を超過した場合であっても、生物処理後の処理水中にはアンモニア性窒素が残留しにくくなるので、消毒工程において、結合塩素などが生成されにくくなり、放流先の河川や海などへの影響を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について図面を用いて更に詳細に説明する。図1は、本発明の下水処理装置の第1の実施形態の概略構成図である。
【0018】
この下水処理装置は、最初沈殿池10と、無酸素槽21及び好気槽22を備える生物処理槽20と、最終沈殿池30と、消毒槽40とで構成されている。
【0019】
最初沈殿池10から伸びた配管L1は、無酸素槽21に接続している。
【0020】
無酸素槽21は、槽内に微生物を含む活性汚泥が滞留しており、微生物の作用によって流入してくるアンモニア性窒素を含有する被処理水(以下、「廃水」と記す)を脱窒処理したり、後述するようにしてアンモニア性窒素を硝化させる処理槽である。この無酸素槽21の底部には、空気噴出装置21aが配置されており、外部に設置したブロア21bを作動させることで、無酸素槽21内に酸素を含む気体(空気など)を供給して、好気槽に変換できるように構成されている。このブロア21bは、制御装置50からの出力によって作動・停止できるように構成されている。なお、無酸素槽21を好気槽に変換した場合は、脱窒処理は行われず、アンモニア性窒素の硝化反応のみが行われることとなる。
【0021】
無酸素槽21から伸びた配管L2は、好気槽22に接続している。
【0022】
好気槽22は、槽内に微生物を含む活性汚泥が滞留しており、微生物の作用によって流入してくる廃水中のアンモニア性窒素を硝化反応する処理槽である。この好気槽22の底部には、空気噴出装置22aが配置されており、外部に設置したブロア22bを作動させて、好気槽22内に、酸素を含む気体(空気など)を供給するように構成されている。
【0023】
好気槽22からは、配管L3と配管4が伸びている。
【0024】
配管L3は、最終沈殿池30に接続しており、好気槽22で硝化反応された硝化液を最終沈殿池30に供給するように構成されている。
【0025】
配管L4は、無酸素槽21の被処理水流入側に接続しており、好気槽22で生物処理された被処理水を無酸素槽21に返送するように構成されている。
【0026】
最終沈殿池30では、生物処理槽20で生物処理された被処理水(以下、「生物処理水」と記載する)を、自然沈降や膜分離等によって処理水と汚泥とに分離する。最終沈殿池30の側壁には、配管L5が接続しており、この生物処理水を分離処理して得られる分離液を消毒槽40に供給し、消毒処理した後系外に排出できるように構成されている。また、最終沈殿池30の底部には配管L6が接続されており、最終沈殿池30の底部に堆積した汚泥を無酸素槽21に返送できるように構成されている。
【0027】
次に、この下水処理装置を用いた本発明の下水処理方法について説明する。
【0028】
外部水系から供給される廃水は、まず、最初沈殿池10にて沈降分離され懸濁物などが除去される。そして、最初沈殿池10での沈降分離処理によって懸濁物などを除去した廃水を、生物処理槽20に供給して生物反応処理を行う。
【0029】
生物処理槽20への廃水の流入水量が設計流入水量以下の場合においては、ブロア21bを作動させず、ブロア22bのみ作動させる。
すなわち、無酸素槽21では、槽内の状態を無酸素状態として、主として通気性嫌気性細菌により脱窒反応を行い、好気槽22では、槽内の状態を曝気状態として、主として好気性細菌によりアンモニア性窒素の硝化反応を行う。ここで、無酸素状態とは、廃液中に溶存酸素は存在しないが、亜硝酸や硝酸由来の酸素は存在している状態を意味する。
【0030】
そして、好気槽22で硝化反応した硝化液の一部は、配管L4から無酸素槽21に返送し、残部は、配管L3から最終沈殿池30に供給して、汚泥と分離液とに沈降分離される。
【0031】
最終沈殿池30では、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化第二鉄(FeCl)、硫酸バンド、ポリ硫酸第二鉄、重合珪酸―鉄塩(PSI)、ポリアクリルアミド系高分子、カチオン系高分子、アルギン酸ナトリウム等の凝集剤を注入して、生物処理水を沈降分離させやすくしてもよい。
【0032】
そして、最終沈殿池30から排出される汚泥の一部又は全部を配管L6から引き抜き、無酸素槽21へ返送し、残部は図示しない配管から余剰汚泥として排出する。また、分離液は、配管L5から消毒槽40に供給し、ここで必要に応じて消毒処理した後、系外に放流する。
【0033】
一方、生物処理槽20への廃水の流入水量が設計流入水量を超過する場合においては、以下のようにして処理が行われる。以下、設計流入水量をQ、設計流水量からの超過分の水量をq、好気槽22から返送される硝化液の返送量をS1、最終沈殿池30から返送される汚泥返送量をS2として説明する。
【0034】
まず、ブロア21bを作動させ、無酸素槽21に設けられた空気噴出装置21aから散気を行う。すなわち、無酸素槽21を好気槽に変換させ、無酸素槽21及び好気槽22の両方でアンモニア性窒素の硝化反応を行う。つまり、この場合は、生物処理槽20では、アンモニア性窒素の硝化反応のみを行うこととする。
【0035】
好気槽に変換された無酸素槽21には、配管L1から供給される設計流入水量を超過する水量の廃水(水量:Q+q)と、配管L4から供給される硝化液(返送量:S1)と、配管L6から供給される汚泥(返送量:S2)とを導入して、アンモニア性窒素の硝化反応を行う。
【0036】
次に、この好気槽に変換された無酸素槽21で生物処理された硝化液(水量:Q+q+S1+S2)は、配管L2から好気槽22に供せられ、ここでアンモニア性窒素の硝化反応が行われる。
【0037】
好気槽22からは、水量S1の硝化液が配管L4を通って無酸素槽21に返送され、残りの硝化液(水量:Q+q+S2)は、配管L3を遠って最終沈殿池30に供給される。
【0038】
配管L4から無酸素槽21に返送する硝化液の水量S1は、設計流水量からの超過分の水量qが増加するに伴い、増加させることが好ましい。配管L1から流入する水量の増加量に応じて配管L4からの硝化液の返送量を増加させることで、生物処理槽20内の汚泥濃度の希釈を防止でき、アンモニア性窒素の硝化効率の低下を防止できる。
【0039】
最終沈殿池30では、供給された生物処理水(水量:Q+q+S2)を、分離液と汚泥とに沈降分離する。そして、最終沈殿池30から、汚泥の一部又は全部を配管L6から引き抜き、無酸素槽21に返送し(返送量:S2)、その残部は、図示しない配管などから引き抜いて余剰汚泥として排出する。また、分離液は、配管L5から消毒槽40に供給し、ここで消毒処理された後、系外へ排水される。
【0040】
配管L6から無酸素槽21に返送する汚泥は、設計流水量からの超過分の水量qが増加するに伴い増加させることが好ましい。配管L1から流入する水量の増加量に応じて配管L6からの汚泥の返送量を増加させることで、生物処理槽20内の汚泥濃度の希釈を防止でき、アンモニア性窒素の硝化効率の低下を防止できる。
【0041】
この実施形態によれば、生物処理槽20への廃水の流入水量が設計流水量以下のときには、無酸素槽21では脱窒反応を行い、好気槽22ではアンモニア性窒素の硝化反応を行うので、廃水中の有機物、BOD、窒素分などを除去できる。
また、生物処理槽20への廃水の流入水量が設計流水量を超えたときには、無酸素槽21を好気槽とする運転を行い、この変換された無酸素槽21と、好気槽22とでアンモニア性窒素の硝化反応を行うため、アンモニア性窒素の硝化反応に要する時間を十分確保できるので、処理水量が増加してもアンモニア性窒素の硝化が十分に行われる。
このため、処理に供せられる廃水の水量が、設計流入水量を超過した場合であっても、生物処理後の処理水中にはアンモニア性窒素が残留しにくくなるので、消毒槽40での消毒工程において、結合塩素などが生成されにくくなり、放流先の河川や海などへの影響を低減できる。
【0042】
以下、この下水処理装置の運転方法における制御装置50での制御の一例を図2のフローチャートを用いて説明する。
【0043】
まず、ステップ1において、配管L1から無酸素槽21に流入する水量が設計水量を超えるかどうかの判断が行われる。上記水量が設計流量を超える場合は、ステップS2にて、ブロア21bが作動しているかどうかの判断が行われる。ブロア21bが作動している場合は、ステップS1に戻り、ブロア21bが停止している場合は、ステップS3にてブロア21bを作動させてステップS1に戻る。
一方、ステップS1において、上記水量が設計水量以下の場合は、ステップS4にて、ブロア21bが停止しているかどうかの判断が行われる。ブロア21bが停止している場合はそのまま制御終了となる。ブロア21bが作動している場合は、ステップS5にてブロア21bを停止させ制御終了とする。
【0044】
図3に、本発明の下水処理装置の第2の実施形態の概略構成図を示す。なお、上記第1の実施形態と実質的に同一部分には、同符号を付してその説明を省略することとする。
【0045】
この下水処理装置は、最初沈殿池10と、嫌気槽23,無酸素槽21及び好気槽22を備える生物処理槽20と、最終沈殿池30と、消毒槽40とで構成されている。
【0046】
最初沈殿池10から伸びた配管L11は、嫌気槽23に接続している。
【0047】
嫌気槽23は、槽内に微生物を含む活性汚泥が滞留し、微生物の作用によって槽内の汚泥からリンの放出を行わせる処理槽である。この嫌気槽23の底部には、空気噴出装置23aが配置されており、外部に設置したブロア23bを作動させることで、嫌気槽23内に酸素を含む気体(空気など)を供給して、好気槽に変換できるように構成されている。このブロア23bは、制御装置51からの出力によって作動・停止できるように構成されている。なお、嫌気槽23を好気槽に変換した場合は、リンの放出は行われず、アンモニア性窒素の硝化反応のみが行われることとなる。
【0048】
嫌気槽23から伸びた配管L12は、無酸素槽21に接続しており、この無酸素槽21は、底部に空気噴出装置21aが配置されて、外部に設置したブロア21bを作動させて、槽内に酸素を含む気体(空気など)を供給するように構成されている。このブロア21bは、制御装置51からの出力によって作動・停止できるように構成されている。
【0049】
無酸素槽21から伸びた配管L13は、好気槽22に接続しており、この好気槽22の底部に空気噴出装置22aが配置されて、外部に設置したブロア22bを作動させて、槽内に、酸素を含む気体(空気など)を供給するように構成されている。
【0050】
好気槽22からは、配管L14と配管15が伸びている。
【0051】
配管L14は、最終沈殿池30に接続しており、好気槽22で硝化反応された硝化液を最終沈殿池30に供給するように構成されている。
【0052】
配管L15は、無酸素槽21の被処理水流入側に接続しており、好気槽22で硝化反応された硝化液を無酸素槽21に返送するように構成されている。
【0053】
最終沈殿池30では、生物処理水を自然沈降や膜分離等によって処理水と汚泥とに分離する。最終沈殿池30の側壁には、配管L16が接続されており、生物処理水を分離処理して得られる処理水を消毒槽40に供給し、消毒処理した後系外に排出できるように構成されている。また、最終沈殿池30の底部には配管L17が接続されており、最終沈殿池30の底部に堆積した汚泥を嫌気槽23に返送できるように構成されている。
【0054】
次に、この下水処理装置を用いた本発明の下水処理方法について説明する。
基本的には、上記第1の実施形態と同様の処理が行われる。
【0055】
生物処理槽20への廃水の流入水量が設計流入水量以下の場合、ブロア21b,23bは作動させず、ブロア22bのみ作動させる。
すなわち、嫌気槽23は、槽内の状態を嫌気状態として、主として脱リン菌が保持するリンを放出させることにより活性汚泥からリンの放出を行わせ、無酸素槽21は、槽内の状態を無酸素状態として、主として通気性嫌気性細菌により脱窒反応を行わせ、好気槽22は、槽内の状態を曝気状態として、主として好気性細菌によりアンモニア性窒素の硝化反応を行わせる。ここで、嫌気状態とは、廃液中に溶存酸素のみならず、亜硝酸や硝酸由来の酸素も存在していない状態を意味し、無酸素状態とは、廃液中に溶存酸素は存在しないが、亜硝酸や硝酸由来の酸素は存在している状態を意味する。
【0056】
そして、好気槽22で硝化反応された硝化液の一部は、配管L15から無酸素槽21に返送し、残りの硝化液は、配管L14から最終沈殿池30に供して沈降分離を行う。最終沈殿池30では、排出される汚泥の一部又は全部を配管L17から引き抜き、嫌気槽23へ返送し、残部は図示しない配管から余剰汚泥として排出する。また、分離液は、配管L16から消毒槽40に供給し、ここで必要に応じて消毒処理した後、系外に放流する。
【0057】
一方、生物処理槽20への廃水の流入水量が設計流入水量を超過する場合においては、以下のようにして処理が行われる。
【0058】
まず、ブロア21b、23bをそれぞれ作動させて、無酸素槽21及び嫌気槽23に設けられた空気噴出装置21a,23aから散気を行う。すなわち、嫌気槽23及び無酸素槽21を好気槽に変換させ、生物処理槽20では、アンモニア性窒素の硝化反応のみを行うこととする。
【0059】
そして、好気槽に変換された嫌気槽23に、配管L1から供給される設計流入水量を超過する水量の廃水(水量:Q+q)と、配管L17から供給される汚泥(返送量:S2)とを導入して、槽内の微生物の作用によって、アンモニア性窒素の硝化反応を行う。
【0060】
次に、この好気槽に変換された嫌気槽23で硝化反応によって処理された硝化液(水量:Q+q+S2)は、配管L12から好気槽に変換された無酸素槽21に供せられる。
【0061】
無酸素槽21は、配管L12からの硝化液(水量:Q+q+S2)と、配管L15から供給される硝化液(水量:S1)とを導入して、槽内の微生物の作用によって、アンモニア性窒素の硝化反応を行う。
【0062】
次に、この好気槽に変換された無酸素槽21で硝化反応によって処理された硝化液(水量:Q+q+S1+S2)は、配管L13から好気槽22に供せられる。そして、好気槽22にて、槽内の微生物の作用によって、アンモニア性窒素の硝化反応が行われる。
【0063】
好気槽22からは、水量S1の硝化液が配管L15を通って無酸素槽21に返送され、残りの硝化液(水量:Q+q+S2)は、配管L14を通って最終沈殿池30に供給される。
【0064】
最終沈殿池30では、供給された生物処理水(水量:Q+q+S2)を、分離液と汚泥とに沈降分離する。そして、最終沈殿池30から、汚泥の一部又は全部を配管L17から引き抜き、嫌気槽23に返送し(返送量:S2)、その残部は、図示しない配管などから引き抜いて余剰汚泥として排出する。また、分離液は、配管L16から消毒槽40に供給し、ここで消毒処理された後、系外へ排水される。
【0065】
この実施形態によれば、生物処理槽20への廃水の流入水量が設計流水量以下のときには、嫌気槽23ではリンの吸収を行い、無酸素槽21では脱窒反応を行い、好気槽22ではアンモニア性窒素の硝化反応を行うので、廃水中の有機物、BOD、窒素分に加え、リンも効果的に除去することができる。
また、生物処理槽20への廃水の流入水量が設計流水量を超えたときには、嫌気槽23及び無酸素槽21を好気槽とする運転を行い、この変換された嫌気槽23、無酸素槽21、好気槽22でアンモニア性窒素の硝化反応を行うため、アンモニア性窒素の硝化反応に要する時間を十分確保できるので、処理水量が増加してもアンモニア性窒素の硝化が十分に行われる。
【0066】
以下、この下水処理装置の運転方法における制御装置51での制御の一例を図2のフローチャートを用いて説明する。
【0067】
まず、ステップS11にて、配管L11から曝気槽23に流入する水量が設計水量を超えるかどうかの判断が行われる。上記水量が設計水量を超える場合は、ステップS12にて、ブロア21b,23bが作動しているかどうかの判断が行われる。ブロア21b,23bが作動している場合は、ステップS11に戻り、ブロア21b,23bが停止している場合は、ステップS13にてブロア21b,23bを作動させてステップS11に戻る。
一方、ステップS11において、上記水量が設計水量以下の場合は、ステップS14にて、ブロア21b,23bが停止しているかどうかの判断が行われる。ブロア21b,23bが停止している場合はそのまま制御終了となる。ブロア21b,23bが作動している場合は、ステップS15にてブロア21b,23bを停止させ制御終了とする。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例、比較例において、流入下水として、下水処理場の最初沈殿池での処理水を用いた。また、下水処理装置での設計流入水量Qを、1.0m/日として処理を行った。また、最終沈殿池30の水面積負荷を20m/日とした。また、流入下水のアンモニア性窒素濃度は20mg/Lであり、硝酸性窒素濃度は、0mg/Lであった。
【0069】
(実施例1)
図1に示す下水処理装置を用いて下水処理を行った。
流入下水の水量を1.0Q、最終沈殿池30からの返送汚泥流量を0.5Q、好気槽22からの硝化液循環水量を1.5Qとし、ブロア21bは停止させ、ブロア22bは作動させて運転したところ、無酸素槽21及び好気槽22内の活性汚泥濃度は約2000mg/Lであり、最終沈殿池30から排出される分離液のアンモニア性窒素濃度は0mg/Lで、硝酸性窒素濃度は、5mg/Lであった。
次に、水量増加時を想定して、流入下水の水量を4.0Q、最終沈殿池からの返送汚泥流量を2.0Q、硝化液循環水量を6.0Qとし、ブロア21b,22bを作動させて運転したところ、無酸素槽21及び好気槽22内の活性汚泥濃度は約2000mg/Lであり、最終沈殿池30から排出される分離液のアンモニア性窒素濃度は0mg/Lで、硝酸性窒素濃度は19mg/Lであった。
【0070】
(比較例1)
実施例1において、水量増加時を想定して、流入下水の水量を4.0Q、最終沈殿池からの返送汚泥流量を2.0Q、硝化液循環水量を6.0Qとしたとき、ブロア21bを作動させずに運転したところ、無酸素槽21及び好気槽22内の活性汚泥濃度は約2000mg/Lであり、最終沈殿池30から排出される分離液のアンモニア性窒素濃度は7mg/Lで、硝酸性窒素濃度は8mg/Lであった。
【0071】
(実施例2)
図3に示す下水処理装置を用いて下水処理を行った。
流入下水の水量を1.0Q、最終沈殿池30からの返送汚泥流量を0.5Q、好気槽22からの硝化液循環水量を1.5Qとし、ブロア21b,23bは停止させ、ブロア22bは作動させて運転したところ、嫌気槽23、無酸素槽21及び好気槽22内の活性汚泥濃度は約2000mg/Lであり、最終沈殿池30から排出される分離液のアンモニア性窒素濃度は0mg/Lで、硝酸性窒素濃度は7mg/Lであった。
次に、水量増加時を想定して、流入下水の水量を4.0Q、最終沈殿池からの返送汚泥流量を2.0Q、硝化液循環水量を6.0Qとし、ブロア21b,22b,23bを作動させて運転したところ、嫌気槽23、無酸素槽21及び好気槽22内の活性汚泥濃度は約2000mg/Lであり、最終沈殿池30から排出される分離液のアンモニア性窒素濃度は0mg/Lで、硝酸性窒素濃度は、19mg/Lであった。
【0072】
(比較例2)
実施例2において、水量増加時を想定して、流入下水の水量を4.0Q、最終沈殿池からの返送汚泥流量を2.0Q、硝化液循環水量を6.0Qとしたとき、ブロア21b,23bを作動させずに運転したところ、嫌気槽23,無酸素槽21及び好気槽22内の活性汚泥濃度は約2000mg/Lであり、最終沈殿池30から排出される分離液のアンモニア性窒素濃度は7mg/Lで、硝酸性窒素濃度は10mg/Lであった。
【0073】
(実施例3)
図1に示す下水処理装置を用いて下水処理を行った。なお、この実施例では、無酸素槽21及び好気槽22は、それぞれ3槽ずつ用いた。また、硝化液の循環は、第3の好気槽から第1の無酸素槽に循環した。(生物反応槽20の構成:第1の無酸素槽→第2の無酸素槽→第3の無酸素槽→第1の好気槽→第2の好気槽→第3の好気槽)
流入下水の水量を1.0Q、最終沈殿池30からの返送汚泥流量を0.5Q、好気槽22からの硝化液循環水量を1.5Qとし、ブロア21bは停止させ、ブロア22bは作動させて運転した。この時の各無酸素槽及び好気槽内の処理液のアンモニア性窒素濃度(mg/L)及び活性汚泥濃度(mg/L)を測定した。
次に、水量増加時を想定して、流入下水の水量を3.0Q、最終沈殿池からの返送汚泥流量を1.5Q、硝化液循環水量を4.5Qとし、ブロア21b,22bを作動させて5時間運転した後、各無酸素槽及び好気槽内の処理液のアンモニア性窒素濃度(mg/L)及び活性汚泥濃度(mg/L)を測定した。
【0074】
結果を図5、6に示す。なお、図5は、各無酸素槽及び好気槽内の処理液のアンモニア性窒素濃度(mg/L)を表す図表であり、図6は、各無酸素槽及び好気槽内の活性汚泥濃度(mg/L)を表す図表である。
【0075】
図5、6の結果から明らかなように、本発明の下水処理方法によれば、処理水量が設計流量を超過した場合であっても、生物処理槽内の活性汚泥濃度が低下しにくく、処理水中におけるアンモニア性窒素の残留を防止できた。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の下水処理装置の第1の実施形態の概略構成図である。
【図2】この下水処理装置における制御装置での制御の一例を示すフローチャート図である。
【図3】本発明の下水処理装置の第2の実施形態の概略構成図である。
【図4】この下水処理装置における制御装置での制御の一例を示すフローチャート図である。
【図5】実施例3における各無酸素槽及び好気槽内の処理液のアンモニア性窒素濃度(mg/L)を表す図表である。
【図6】実施例3における各無酸素槽及び好気槽内の活性汚泥濃度(mg/L)を表す図表である。
【図7】従来の下水処理装置の第1の実施形態の概略構成図である。
【図8】従来の下水処理装置の第2の実施形態の概略構成図である。
【符号の説明】
【0077】
1,10:最初沈殿池
2,20:生物処理槽
2a,21:無酸素槽
2b,22:好気槽
2c,23:嫌気槽
21a,22a,23a:空気噴射装置
21b,22b,23b:ブロア
3,30:最終沈殿池
4,40:消毒槽
50,51:制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱窒反応を行わせる無酸素槽とアンモニア性窒素の硝化反応を行わせる好気槽とでアンモニア性窒素を含有する被処理水を生物処理し、生物反応処理後の被処理水を最終沈殿池で固液分離する下水処理方法において、
前記無酸素槽に曝気装置を設け、
生物処理工程における被処理水の流入水量が所定量以下のときには、前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させずに、前記無酸素槽における脱窒反応と、前記好気槽における硝化反応とを経て、被処理水を前記最終沈殿池に送るようにし、
生物処理工程における被処理水の流入水量が所定量を超えたときには、前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させて前記無酸素槽を好気槽に変換し、被処理水の全量を、この変換された好気槽と、最初からの好気槽とを経て、それぞれで硝化反応を行わせて前記最終沈殿池に送るようにしたことを特徴とする下水処理方法。
【請求項2】
リン放出を行わせる嫌気槽と脱窒反応を行わせる無酸素槽とアンモニア性窒素の硝化反応を行わせる好気槽とでアンモニア性窒素を含有する被処理水を生物処理し、生物反応処理後の被処理水を最終沈殿池で固液分離する下水処理方法において、
前記嫌気槽及び前記無酸素槽に曝気装置を設け、
生物処理工程における被処理水の流入水量が所定量以下のときには、前記嫌気槽及び前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させずに、前記嫌気槽におけるリン放出と、前記無酸素槽における脱窒反応と、前記好気槽における硝化反応とを経て、被処理水を前記最終沈殿池に送るようにし、
生物処理工程における被処理水の流入水量が所定量を超えたときには、前記嫌気槽及び前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させて前記嫌気槽及び前記無酸素槽を好気槽に変換し、被処理水の全量を、この変換された好気槽と、最初からの好気槽とを経て、それぞれで硝化反応を行わせて、前記最終沈殿池に送るようにしたことを特徴とする下水処理方法。
【請求項3】
脱窒反応を行わせる無酸素槽及びアンモニア性窒素の硝化反応を行わせる好気槽を有する生物処理槽と、前記生物処理槽で生物反応処理された被処理水を固液分離する最終沈殿池とを有する下水処理装置において
前記無酸素槽は曝気装置を有し、
前記生物処理槽への被処理水の流入水量が所定量以下のときには、前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させず、前記生物処理槽への被処理水の流入水量が所定量を超えたときには、前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させるように構成された制御装置を有することを特徴とする下水処理装置。
【請求項4】
リン放出を行わせる嫌気槽、脱窒反応を行わせる無酸素槽及びアンモニア性窒素の硝化反応を行わせる好気槽を有する生物処理槽と、前記生物処理槽で生物反応処理された被処理水を固液分離する最終沈殿池とを有する下水処理装置において、
前記嫌気槽及び前記無酸素槽は曝気装置を有し、
前記生物処理槽への被処理水の流入水量が所定量以下のときには、前記嫌気槽及び前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させず、前記生物処理槽への被処理水の流入水量が所定量を超えたときには、前記嫌気槽及び前記無酸素槽に設けた曝気装置を作動させるように構成された制御装置を有することを特徴とする下水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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