下水流入量予測装置
【課題】
一般技術を活用した複雑でない汚水流入量予測モデルと雨水流入量予測モデルとにより汚水流入量と雨水流入量とを正確に予測し、下水流入量の予測精度の向上を実現する下水流入量予測装置を提供する。
【解決手段】
ポンプ井への下水流入量である下水流入量データから分離生成した雨水流入量データと汚水流入量データとを用いて汚水流入量予測モデルおよび雨水流入量予測モデルを別個構築し、暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成し、気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成し、生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成するような下水流入量予測装置とした。
一般技術を活用した複雑でない汚水流入量予測モデルと雨水流入量予測モデルとにより汚水流入量と雨水流入量とを正確に予測し、下水流入量の予測精度の向上を実現する下水流入量予測装置を提供する。
【解決手段】
ポンプ井への下水流入量である下水流入量データから分離生成した雨水流入量データと汚水流入量データとを用いて汚水流入量予測モデルおよび雨水流入量予測モデルを別個構築し、暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成し、気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成し、生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成するような下水流入量予測装置とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水ポンプ場または終末処理場のポンプ井へ流入する下水の下水流入量を予測する下水流入量予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
終末処理場において効率よく下水を処理するためには、1日の下水流入量の変動が少ないことが望ましい。このように下水流入量の変動を少なくするために、現状では下水道の中間または終末に多数配置されるポンプ井に流入する下水流入量を予測し、ポンプの起動停止を制御することで、終末処理場に流れ込む下水流入量の変動を小さくしている。
【0003】
従来技術による下水流入量を予測する方法として、主にRRL法(ロード・リサーチ・ラボラトリ法)が用いられている。また、近年ではRRL法の他にも下水流入量予測手法が開発されており、例えば特許文献1〜3が開示されている。
【0004】
特許文献1(特開平5−134715号公報、発明の名称「ニューラルネットワーク応用雨水流入量予測装置」)に記載された従来技術は、レーダー雨量計とニューラルネットワークとを用いることを特徴とした雨水流入量予測であり、ニューラルネットワークの学習機能により経年変化に対応でき、また、レーダー雨量計を利用することで、1地点の雨量計情報だけでなく、面的な雨量情報を使用できるようにしている。
【0005】
また、特許文献2(特開2000−345604号公報、発明の名称「流入下水量予測装置」)に記載された従来技術は、合流式下水流入量が予測できる手法である。つまり、汚水流入量と雨水流入量との区別無く予測するというものである。
一般的に汚水流入量は、生活排水によるものであるため、気象に関係なく時間により流入量が変化するという特徴がある。例えば、図10の通常時の汚水流入量−時間特性図で示すように、夕食時から就寝前までにかけて増加した汚水流入量が夜間は減少し、朝になるとまた汚水流入量が増大するというように、朝と夜とに流入ピークを持つというような特徴である。一方、雨水流入量は当然に降雨量により変化する。
特許文献2の従来技術では、これらのような特徴を持つ雨水流入量と汚水流入量との予測手法を異ならせており、汚水流入量は過去の平均流入量により算出し、雨水流入量は自己回帰モデルにより算出している。
【0006】
また、特許文献3(特開2003−27567号公報、発明の名称「下水流入量予測装置および方法、サーバ装置」)に記載された従来技術は、TCBM(Topological Case-Based Modelling)による予測方式である。
【0007】
【特許文献1】特開平5−134715号公報
【特許文献2】特開2000−345604号公報
【特許文献3】特開2003−27567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術であるRRL法は、精度の高い予測を行なうためにはパラメータ設定のため膨大な計算が必要であるなど予測式構築に膨大な作業が必要であり、また経年変化に対応できないという問題点があった。つまり、人口、舗装率などの変化により予測式がずれてきた場合には、予測式修正のため再度膨大な作業を要するという問題がある。また、予測可能なのは分流式下水道の雨水流入量のみであり、汚水流入量や合流式下水道の流入量は予測できないという問題もあった。
【0009】
特許文献1に記載の従来技術は、ニューラルネットワークの学習機能により人口、舗装率が変化しても自動的に予測式が修正される利点があるが、雨水流入量しか予測できず、汚水流入量や合流式下水道の流入量は予測できないという問題があった。
【0010】
特許文献2に記載の従来技術は、人口、舗装率の変化に自動的に対応できる利点がある。しかし、汚水流入量は単純な過去平均値であるため、特異データがある場合には適切な汚水平均値が算出できない。
例えば、下水道管内の汚れ清掃を行なう場合、下水ポンプ場内の汚水を貯め、一気に送水して下水管内に付着した汚れを取る方法を採用している。このため図11の特異時の汚水流入量−時間特性図のように、清掃前では汚水流入量が無くなり、また清掃時に汚水流入量が尖塔状になり、通常の特性図と大きく異なる。このような下水管特有の清掃方法のため、特許文献2の発明による汚水予測方法では、適切な平均化を行なうことができないという問題があった。
また、雨水流入量は自己回帰式により予測しているため、雨という気象予報があったとしても予測値に反映させることができず、未来の気象状態を考慮することができないという問題もあった。
【0011】
特許文献3に記載の従来技術は、上記発明の問題点を解決しているが、TCBMという特殊な手法を用いているため、一般開発者は容易に適用することができないものであり、周知技術を活用して予測したいという要請があった。
【0012】
まとめると、
(1)経年変化に対応した予測、
(2)合流式下水道の予測、
(3)特異データ(下水管清掃時など)の悪影響のない予測、
(4)雨量等気象情報を用いた予測、
(5)特殊な方法を用いない周知技術を活用しての予測、
という要件を全て満たすような下水流入量予測装置が求められていた。
【0013】
本発明は、これら従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、一般技術を活用した複雑でない汚水流入量予測モデルと雨水流入量予測モデルとにより汚水流入量と雨水流入量とを正確に予測し、下水流入量の予測精度の向上を実現する下水流入量予測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に係る下水流入量予測装置は、
下水ポンプ場または終末処理場のポンプ施設へ流入する下水の流入量を予測する下水流入量予測装置において、
気象実績及び気象予報についての気象データを収集する気象データ収集手段と、
暦についての暦データを収集する暦データ収集手段と、
ポンプ井内の下水の水位についての水位データを収集する水位データ収集手段と、
ポンプ井の下水のポンプ揚水量(送水量)についての揚水量データを収集するポンプ揚水量データ収集手段と、
暦データ、気象データ、水位データおよびポンプ揚水量データを蓄積するデータ蓄積手段と、
暦データ、水位データおよび揚水量データに基づいてポンプ井への下水流入量である下水流入量データを算出する下水流入量データ算出手段と、
下水流入量データを分離して汚水流入量データと雨水流入量データとを算出する分離手段と、
暦データを入力因子とし、また、汚水流入量データを出力因子とするような汚水流入量予測モデルを構築する汚水流入量予測モデル構築手段と、
気象データを入力因子とし、また、雨水流入量データを出力因子とするような雨水流入量予測モデルを構築する雨水流入量予測モデル構築手段と、
予測に必要な暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成する汚水流入量予測手段と、
予測に必要な気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成する雨水流入量予測手段と、
生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する合算手段と、
を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項2に係る下水流入量予測装置は、
請求項1に記載の下水流入量予測装置において、
前記汚水流入量予測モデルは、
特異データが除去された上で、暦データと汚水流入量データとが連関して登録され、暦データが入力されると対応する汚水流入量データが抽出されることで予測する事例ベース推論による予測モデルであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項3に係る下水流入量予測装置は、
請求項1または請求項2に記載の下水流入量予測装置において、
前記雨水流入量予測モデルはニューラルネットワークによる予測モデルであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項4に係る下水流入量予測装置は、
請求項3に記載の下水流入量予測装置において、
前記雨水流入量予測モデルはn時間単位で雨水流量予測データを算出する予測モデルであり、
前記雨水流入量予測手段は、現在の雨水流量データと雨水流量予測データとを、または、隣接する二つの雨水流量予測データを補間することで時間間隔がn時間よりも短い雨水流量予測データを生成する手段であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項5に係る下水流入量予測装置は、
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の下水流入量予測装置において、
下水流入量予測データを、過去の日時における下水流入量予測データと下水流入量データとから算出した誤差量より補正する補正手段を備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項6に係る下水流入量予測装置は、
請求項5に記載の下水流入量予測装置において、
前記補正手段は、過去の予測誤差を用いて未来の予測値を補正するときに、近い将来の予測値の補正量を大きく、遠い将来の予測値の補正量を小さくする手段であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上のような本発明によれば、一般技術を活用した複雑でない汚水流入量予測モデルと雨水流入量予測モデルとにより汚水流入量と雨水流入量とを正確に予測し、下水流入量の予測精度の向上を実現する下水流入量予測装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態の下水流入量予測装置について図を参照しつつ説明する。図1は、本形態の下水流入量予測装置の構成図である。
下水流入量予測装置1は、入力手段10、出力手段20、記録媒体読書手段30、データ発信手段40、データ収集手段50、データ蓄積手段60、下水流入量データ算出手段70、分離手段80、モデル構築手段90、予測手段100を備えている。
【0022】
入力手段10は、手入力を行うキーボードである。
出力手段20は、ディスプレイやプリンタなどであり、各種データ表示・印刷も行う。
記憶媒体読書手段30は、FD(Flexible Disc)、MO(Magnet Optical Disc)などの記憶媒体に対して情報の読み書きを行う装置である。
データ発信手段40は、ネットワーク2と接続するための手段であり、データ蓄積手段60からデータ発信手段40・ネットワーク2を経由して、外部へ情報の出力を行うことができるようになされている。
【0023】
データ収集手段50は、各下水ポンプ場や気象情報会社などからネットワーク2を介して各種データを取得する手段であり、さらに気象データ収集手段51、暦データ収集手段52、水位データ収集手段53、ポンプ揚水量データ収集手段54を備える。
気象データ収集手段51は、気象実績および気象予報についての気象データを収集する手段である。ここでいう気象データとは、例えば天候(晴、雨、曇、雪)、雨量、気温、湿度、日照量等の全てまたは何れかを指している。
気象実績とは過去の記録であり、気象実績についての気象データは、各下水ポンプ場を経由せずに気象情報サービス会社からネットワーク2を介して配信される気象データや、また、各下水ポンプ場に独自で設置した雨量計・湿度計などの計測装置・センサから収集整理して各下水ポンプ場を経由して入力された気象データである。
気象予報とは未来の予報であり、気象予報についての気象データは、気象情報サービス会社から気象予報を受信して得たデータである。
このように気象データ収集手段51では、予測対象の下水ポンプ場の気象実績に係る気象データ、予測対象の下水ポンプ場の気象予報に係る気象データを収集する。
【0024】
暦データ収集手段52は、暦に関するデータを収集する手段である。
暦データは年月日時分などの日時データ、その日時の特徴を表す平日・休日・曜日・季節(春夏秋冬)などの特徴データである。
なお、暦データは入力手段10のキーボードなどの装置にて手入力しても良いし、計算により算出しても良い。
【0025】
水位データ収集手段53は、水位データを収集する手段である。
水位データは、下水ポンプ場にあるポンプ井内の下水の水位を表すデータである。
水位データはネットワーク2を介して複数下水ポンプ場のポンプ井にそれぞれ設置された多数の水位計から所定期間毎または常時入力される。従って水位データには下水ポンプ場を識別する識別データも付加される。
【0026】
ポンプ揚水量データ収集手段54は、ポンプ揚水量データを収集する手段である。
ポンプ揚水量データは、下水ポンプ場にあるポンプによるポンプ井からの揚水量を表すデータである。ポンプ揚水量データはネットワーク2を介して複数下水ポンプ場のポンプに設けられた流量計から所定期間毎または常時入力される。この場合も下水ポンプ場を識別する識別データも付加される。
これら気象データ、暦データ、水位データおよび揚水量データはデータ蓄積手段60に保存し、日々更新してこれらデータを蓄積していく。また、必要時に何時でも取り出せるようにする。このデータ蓄積手段60では計測日時・曜日・季節が特定できる暦データを主キーとして気象データ、水位データおよび揚水量データが関連付けられて登録されてデータベース化されている。
【0027】
下水流入量データ算出手段70は、暦データから検索して各時間の水位データおよび揚水量データをデータ蓄積手段60から読み出し、これらデータに基づいて下水ポンプ場のポンプ井への下水流入量である下水流入量データを算出する。
【0028】
下水ポンプ場のポンプ井では、例えば、図2のポンプ井の説明図で示すように、通常は水位計が設置されているが、流入量計は設置されていることが少なく、水位からポンプ井内の下水流入量を算出する。
ポンプ井内のある時点の下水量をM1、同じくある時点より一定時間前の下水量をM2、一定時間にポンプ井から揚水して送水したポンプ揚水量をP1とすると、下水流入量は以下のようになる。
【0029】
【数1】
【0030】
ここに下水量M1はある時点におけるポンプ井の水位h1から算出した量、下水量M2はある時点からさらに一定時間前のポンプ井の水位h2から算出した量である。この下水量M1,M2の算出式は、ポンプ井の水位を入力因子とする回帰式が用いられることが多い。最も簡単な例では単純比例関係であり、算出式は、M1=a×h1,M2=a×h2となる。
なお、ポンプ井によっては複雑な算出式が必要になる場合もあるが、何れの場合でもある時点での水位を入力因子とする算出式である。
【0031】
なお、下水流入量の中には、上流にある下水ポンプ場からの揚水量(送水量)も含まれており、これは人為的な操作により変化するものであるため、次式のように上流ポンプ揚水量(送水量)を除いた流入量としても良い。上流ポンプ揚水量P2は、一定時間で上流側にあるポンプ井から送り出された量である。
【0032】
【数2】
【0033】
この場合、図2における他の流入量M3が下水流入量として算出される。
もちろん、ポンプ井への流入量を計測する流量計がある場合には、数式1,2を省略し、流量計からの流入量データを用いても良い。この流入量データ算出手段70によりある時点における下水流入量データが算出される。データ蓄積手段60では暦データを主キーとして気象データ、水位データ、揚水量データおよび下水流入量データが関連付けられて登録される。
【0034】
分離手段80は、下水流入量を雨水流入量と汚水流入量とに分離するため、下水流入量データを用いて雨水流入量データと汚水流入量データとを算出する手段である。合流式下水道において必要な処理であり、下水流入量のうち、雨水による雨水流入量と汚水による汚水流入量とを分離する。もちろん雨水流入量と汚水流入量とを合計するともとの下水流入量になる。
これは、晴れている時間の下水流入量は、雨水流入量がないため、汚水流入量にほぼ一致するものと考え、このような晴れている時間の汚水流入量を時間ごと(0時、1時、2時、・・・、23時)に多数日にわたり取得し、さらに同時刻における多数の日の平均を取ることで、時間別の平均汚水流量を算出する。これらを汚水流入量データとする。そして、時間ごとの下水流入量データから対応する時間の汚水流入量データを差し引けば、雨水流量データとなる。晴れの日ではほぼ0となるが、雨の日では雨水流量データが算出される。そして、これら汚水流入量データおよび雨水流入量データをデータ蓄積手段60に登録する。データ蓄積手段60では暦データを主キーとして気象データ、水位データ、揚水量データ、下水流入量データ、汚水流入量データおよび雨水流入量データが関連付けられて登録される。
【0035】
モデル構築手段90は、モデルを構築する手段である。図3はモデル構築手段の構造図である。モデル構築手段90は、詳しくは図3で示すように、汚水流入量予測モデル構築手段91、雨水流入量予測モデル構築手段92を備える。なお、雨水流入量予測モデル構築手段91、汚水流入量予測モデル構築手段92で用いられる学習用のデータはデータ蓄積手段60に登録された過去の実績値である。
汚水流入量予測モデル構築手段91は、暦データを入力因子とし、また、汚水流入量データを出力因子とするような汚水流入量予測モデルを構築する手段である。構築された汚水流入量予測モデルはデータ蓄積手段60により蓄積保存される。
雨水流入量予測モデル構築手段92は、気象データを入力因子とし、また、雨水流入量データを出力因子として雨水流入量予測モデルの構築する手段である。構築された雨水流入量予測モデルはデータ蓄積手段60により蓄積保存される。
このような予測モデル構築手段90は、一定期間(例えば一ヶ月ごと)ごとに起動され、これら予測モデルを更新するようにする。なお、雨水流入量予測モデル・汚水流入量予測モデルとしては、RRL法や、ニューラルネットワーク、事例ベース推論、などによる予測するモデルを採用することができるが、最も好ましい予測モデルの詳細については後述される。
【0036】
続いて予測手段100では、これら雨水流入量予測モデルおよび汚水流入量予測モデルを用いて予測を行う。図4は予測手段の構造図である。予測手段100は、詳しくは図4で示すように、汚水流入量予測手段101、雨水流入量予測手段102、合算手段103を備えている。
汚水流入量予測手段101は、予測対象時の暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成する手段である。汚水流入量は時間に依存しており、暦データを入力すれば、汚水流入量予測データを得られる。
雨水流入量予測手段102は、予測対象時の予報である気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成する手段である。気象データは未来の気象データとなり、予測対象日時の気象データを入力することにより、雨水流入量予測データが得られる。
【0037】
合算手段102は、生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する手段である。
生成された下水流入量予測データは勿論のこと、雨水流入量予測データと汚水流入量予測データもデータ蓄積手段60により保存される。
このような予測手段100は、一定期間(例えば1時間ごと)ごとに起動され、下水流入量を予測する。
【0038】
このようにして得られた下水流入量予測データは、データ蓄積手段60のデータ発信手段50・ネットワーク2を介して、例えば下水ポンプ場にあるローカル制御用コントローラへ情報を発信することもできる。
【0039】
続いて、汚水流入量予測モデルの具体例について説明する。このモデルは特に事例ベース推論によるモデルを採用することが好ましい。出力因子は学習時では汚水流入量データであったが、予測時は汚水流入量予測データであり、相違している。
汚水流入量は、日々の変動が少ないことが知られており、過去の平均をシステムに設定し、それを汚水流入量予測とすることが多い。しかし、人間が設定する方法では、季節が変わるごと、経年変化を起こすごとに再設定しなければならない問題がある。自動化する方法では、先に述べたように特異データを除去すれば適切な平均値を得ることができる。
本発明の事例ベース推論による汚水流入量データ予測モデルでは、以下3点の条件より推論するモデルである。
(1)気象(晴天時)
(2)前後日の汚水流量形状(相関係数で一定値以上)
(3)暦情報(曜日、期間など)
【0040】
(1)気象(晴天時)について
前述のように、下水流入量データは汚水流入量データと雨水流入量データの合算値である。しかしながら、下水への雨水流入量は雨天時にしかない流量であり、晴天時には雨水流入量は0になる。よって、事例ベース推論による予測汚水流入量予測モデルの学習では、過去一定期間内のデータから、晴天時の汚水流入量のみを抽出し、それを汚水流入量データとする。
(2)前後日の汚水流量形状(相関係数で一定値以上)について
ただし、これら抽出条件では特異データを排除することができない。そこで、次に通常データのみ抽出する。特異データとは、主に下水管内清掃によるものであり、一時的に汚水流入量が無くなったり多くなったりする特徴がある。またこのようなデータは毎日行なわれるものではなく、数ヶ月に数回程度の頻度でしかない。よって、特異データは前後日のデータと比較して汚水流入量の形状が大きく異なる特徴がある。逆をいうと通常データは前後日の汚水流入量データが同じ形状をしている。この特徴を利用して、汚水流入量データが前後日と同じ形状のものを抽出する。
ここで、抽出条件は、前後日の形状と比較して相関係数が一定値以上とすることで簡単に抽出できる。
なお、相関係数とは、2つのデータの相関度合いを測る統計指標である。相関係数は−1≦r≦+1の値をとり、r>0のとき正相関,r<0のとき負相関、r=0のときに無相関であることを意味する。
前後日の汚水流入量の形状を判定するときには、例えば、毎時データを用いるときには、対象日の汚水流入量をx1,x2,・・・,x24(mm3/h)とし、前日の汚水流入量をy1,y2,...,y24(mm3/h)とすると、次式にて相関係数が算出される。
【0041】
【数3】
【0042】
この相関係数rが1に近いとき(例えば0.8以上)に同じ形状と判断し、それ以下のときに、対象日は特異データであると判断する。なお,ここでは前日データのみ比較したが、対象日と対象日の翌日とのデータを比較しても良い。
【0043】
(3)暦情報(曜日、期間など)
さらに、汚水流入量は、曜日により量や立ち上がり時間が若干異なる性質がある。よって、予測対象日と同じ曜日を抽出する。こうして条件に適合した汚水流入量データは、複数日抽出されることになるが、日々のばらつきをなくすため、平均化する。
なお春夏秋冬を分けて平均化すると、さらに予測精度が高まる。
このように曜日や季節(春夏秋冬)により異なる場合もあるため、季節別・曜日別の汚水流入量データとする。
【0044】
このような汚水流入量予測モデルでは、事例ベース推論にて、特異データを自動的に識別して除去し、通常時の汚水流入量データのみで汚水予測するため、入力される暦データの月日・時間・曜日・季節に対応した汚水流入量データが出力され、従来技術での単なる平均値よりも大幅に予測精度が向上し、上記問題点が解決できる利点がある。
【0045】
以下事例ベース推論による予測汚水流入量予測モデルの学習について記す。
このような汚水流量予測モデルでは、汚水流入量は先に述べたがポンプの清掃のような時以外は、時間別にほぼ同じ値を取るため、特異データを統計的判定方法にて除外した上で過去の時間に対応する実績値である汚水流入量データのデータベース化し、時間データ(たとえば4月10日・水曜日・春・午後10時)を入力すると対応する汚水流入量データを読み出して汚水流入量予測データを生成するモデルとしたため、月日・曜日・季節・時間を入力すると対応する汚水流入量予測データを選択して出力する。
【0046】
続いて上記した雨水流入量予測モデルについて説明する。
雨水流入量予測モデルは、具体的にはニューラルネットワークによる予測モデルである。図5は雨水流入量を予測するニューラルネットワークの構成図である。
ニューラルネットワークによるモデルは、例えば、入力層、中間層、出力層の3層構造のパーセプトロンモデルなどであり、入力に対して所望の出力をするように学習できる。
なお、図5のニューラルネットワークは、多入力1出力のニューラルネットワークであるが、もちろん多入力多出力のニューラルネットワークを構築しても良い。
【0047】
入力因子は気象データのうち特に雨量データを採用し、出力因子は雨水流入量データである。雨量データと雨水流入量データとの間には、通常、非線形な関係があり、線形的予測手法である回帰分析では必ずしも良好な予測結果を得ることができないが、このニューラルネットワークでは、データを学習するだけで適切な予測モデルを構築することができる。
【0048】
学習段階で用いるニューラルネットワークの入力データは雨量データであり、通常は数時間分のデータを用いる。
なお、これらデータは通常は1時間単位の雨量データを用いるのが一般的であるが、10分単位の雨量データなど短い時間単位の雨量データを用いてもよい、また数時間の累積した雨量データにしてもよい。さらには各雨量データの差分値や絶対量などの変換を行なっても良い。
【0049】
出力データとしては、分離手段80により求められてデータ蓄積手段60に登録されたデータであって、数分先から数時間先までの雨水流入量データである。
通常は1時間先までの雨水流入量データを出力するように設計するが、ニューラルネットワークを多出力化し数時間先までの雨水流入量データを一括で出力しても良い。また、雨水流入量データを加工し、現在からの差分値などにしても良い。
【0050】
本形態では説明の具体化のため、図5で示すように、時間を異ならせた雨量データ(ある時点の雨量データ値、ある時点より1時間前の雨量データ、ある時点より1時間後の雨量データ)を入力因子とし、また、ある時点より1時間後の雨水流入量データを出力因子としている。
【0051】
続いて上記した雨水流入量予測モデルの学習について説明する。ニューラルネットワークの学習では学習データを作成する必要がある。データ蓄積手段60により過去に蓄積した気象データに含まれる雨量データや、この雨量データに対応する雨水流入量データを時間別に収集し、上記ニューラルネットワークの入出力データセットを多数用意する。例えば、ある時点とある時点の一時間の前後の時刻の3点の雨量データを入力因子とし、また、ある時点から一時間先の雨水流入量データを出力因子とする入出力データセットである。このような入出力データセットを基準となる時点を異ならせて多数準備して、例えば周知のバックプロパゲーション法など周知の各種の学習アルゴリズムを用いてニューラルネットワークを構築する。
【0052】
続いて上記した雨水流入量予測モデルの予測について説明する。予測段階では、上記にて作成したニューラルネットワークモデルに対し、学習時と同じ入力項目のデータを与えると所望の予測値が出力される。出力因子は学習時では雨水流入量データであったが、予測時は雨水流入量予測データであり、相違している。
例えば、図5で示す雨水流入量予測モデルでは、ある時刻を現在とし、現在の雨量データと1時間前の雨量データは、下水ポンプ場もしくは気象情報サービス会社から配信される実績の雨量データが入力される。1時間先の雨量データは、気象情報サービス会社から配信される予報の雨量データである。
【0053】
なお、図5は1時間先の雨水流入量の説明図であるが、同じニューラルネットワークに対し、入力情報を変えることで1時間先よりさらに先の雨水流入量予測データを得ることができる。例えば、図5の1時間前・ある時点・1時間先という雨量データを、それぞれ現在・1時間後・2時間後の雨量データとすれば、2時間先の雨水流入量予測データを得ることができる。現在の雨量データは、下水ポンプ場もしくは気象情報サービス会社から配信される雨量実績データが入力される。1時間先および2時間先の雨量は、気象情報サービス会社から配信される予報の雨量データである。これにより2時間先の雨水流入量予測データを得ることができる。
【0054】
さらに雨水流入量予測手段102を改良してより短い間隔で予測値を得るようにしても良い。この改良について説明する。
雨水流入量予測手段102は、はn時間(本形態では1時間)後の雨水流量予測データを算出する手段であるが、現在の雨水流量データとn時間先(本形態では1時間先)の雨水流量予測データを、または、n時間(本形態では1時間)隔てて隣接する二つの雨水流量予測データを用いて補間し、時間間隔が短い雨水流量予測データに変換した上で生成する手段としても良い。
【0055】
電動式ポンプはすぐに起動するがエンジン式ポンプは起動するまでに約5分間要する。ポンプの制御を考慮した場合には5分間隔の下水流量予測に対するニーズがある。しかしながら、気象予報(降雨予報)による雨量データは、1時間単位のデータであるため、原理的に気象予報による雨量データから5分単位の予測はできない。そこで、本発明では、n時間単位の雨水流入量予測データを簡易的にそれよりも短い時間単位のデータに変換する。
【0056】
以下図を参照しつつ具体的に説明する。図6は1時間単位の雨水流入量予測データを5分単位の雨水流入量予測データに補間する補間原理の説明図である。ここでは、ニューラルネットワークから出力される雨水流入量予測データが1時間単位であり、その値を5分単位に変換する例で説明する。
ニューラルネットワークの入出力データは、図6のように1時間単位の雨量データである。入力データを変えることにより1時間〜m時間先までの予測を行なう。例えば、2時間先の雨水流入量予測データを計算する場合には、現在雨量データ、1時間先予報雨量データ値、2時間先予報雨量データを入力する。3時間先の雨水流入量予測データを予測する場合には、1時間先予報雨量データ、2時間先予報雨量データ、3時間先予報雨量データを入力する。こうして1時間単位でm時間先までの雨水流入量予測データが得られる。次に、1時間単位の雨水流入量予測データを5分単位の雨水流入量予測データに線形補完する。図6で示すように、まず中央値である30分の雨水流入量予測データは雨水流入量予測モデルの1時間単位の雨水流入量予測データと一致させる。つぎに、その他の時間には、前後の雨水流入量予測データの値で線形補完する。例えば、次式である。
【0057】
(数4)
5分先雨水流入量予測データ
=(5×現在雨水流入量データ+1時間先雨水流入量予測データ)/6
10分先雨水流入量予測データ
=(4×現在雨水流入量データ+2×1時間先雨水流入量予測データ)/6
15分先雨水流入量予測データ
=(3×現在雨水流入量データ+3×1時間先雨水流入量予測データ)/6
20分先雨水流入量予測データ
=(2×現在雨水流入量データ+4×1時間先雨水流入量予測データ)/6
25分先雨水流入量予測データ
=(1×現在雨水流入量データ+5×1時間先雨水流入量予測データ)/6
30分先雨水流入量予測データ
=1時間先雨水流入量予測データ
35分先雨水流入量予測データ
=(11×1時間先雨水流入量予測データ+2時間先雨水流入量予測データ)/12
40分先雨水流入量予測データ
=(10×1時間先雨水流入量予測データ+2×2時間先雨水流入量予測データ)/12
45分先雨水流入量予測データ
=(9×1時間先雨水流入量予測データ+3×2時間先雨水流入量予測データ)/12
50分先雨水流入量予測データ
=(8×1時間先雨水流入量予測データ+4×2時間先雨水流入量予測データ)/12
55分雨水流入量予測データ
=(7×1時間先雨水流入量予測データ+5×2時間先雨水流入量予測データ)/12
60分先雨水流入量予測データ
=(6×1時間先雨水流入量予測データ+6×2時間先雨水流入量予測データ)/12
65分先雨水流入量予測データ
=(7×1時間先雨水流入量予測データ+5×2時間先雨水流入量予測データ)/12
70分先雨水流入量予測データ
=(8×1時間先雨水流入量予測データ+4×2時間先雨水流入量予測データ)/12
75分先雨水流入量予測データ
=(9×1時間先雨水流入量予測データ+3×2時間先雨水流入量予測データ)/12
80分先雨水流入量予測データ
=(10×1時間先雨水流入量予測データ+2×2時間先雨水流入量予測データ)/12
85分先雨水流入量予測データ
=(11×1時間先雨水流入量予測データ+2時間先雨水流入量予測データ)/12
90分先雨水流入量予測データ
=(2時間先雨水流入量予測データ)
【0058】
このように5分単位の予測値を得ることができる。
雨水流入量予測手段102はこのようなものである。
以上本形態の下水流入量予測装置1について説明した。本形態によれば、天候により変動しない汚水流入量と、天候により変動する雨水流入量と、を分けてそれぞれ予測モデルを構築して予想することで、正確な予測が可能となった。
【0059】
続いて先に説明した予測手段をさらに改良した形態について図を参照しつつ説明する。図7は、他の予測手段100’の構成図である。図4の予測手段100に対し、さらに補正手段104を追加している点が相違している。
補正手段104は、汚水流入量予測データを過去の日時における下水流入量予測データと下水流入量データとから算出した誤差量より補正する手段である。
汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとが合算された下水流入量予測データに対し、過去の予測誤差データを用いて補正し、補正下水流入量予測データを生成する。ここに予測誤差データとは過去にある時点の下水流入量を予測した下水流入量予測データと、同じ時点で実際の下水流入量データとの誤差を多数収集し、その平均値を誤差としたものである。補正式は次式のようになる。
【0060】
(数5)
補正下水流入量予測データ=下水流入量予測データ+予測誤差データ
【0061】
これにより、下水流入量予測データの誤差を補正して下水流入量予測の精度を高めることができる。
【0062】
この予測手段100’をさらに改良し、過去の予測誤差データを用いて未来の下水流入量予測データを補正するときに、近い将来の下水流入量予測データの補正量を大きく、遠い将来の下水流入量予測データの補正量を小さくするような手段としても良い。この点について図を参照しつつ説明する。図8は、下水流入量の自己相関係数の特性図を示している。横軸は相関係数を取る二個の下水流入量の時間差である時間間隔を表し、縦軸は自己相関係数を表している。なお,自己相関係数とは、自分自身との相関係数であり、同じデータから時間をずらして2系列のデータを作成し、時間ごとの相関係数を算出した値である。例えば,1時間ごとのデータ{x1,x2,・・・,x48}とすると、1時間先の自己相関係数は、{x1,x2,・・・,x24}と{x2,x3,・・・x25}の2系列のデータを作成して算出する。2時間先の自己相関係数は、{x1,x2,・・・,x24}と{x3,x4,・・・x26}の2系列のデータを作成して算出する。
同様にして、24時間先までの自己相関係数が算出できる。自己相関係数が1に近ければ、自分自身の影響が強く、下水流入量予測の場合では、現在の下水流入量より、未来の流入量が簡単に予測できることを意味し、自己相関係数が0に近ければ、現在の下水流入量より、未来の流入量が予測できないことを意味する(雨量など他の要因が強くなる)。
図8に流量の自己相関係数は、近い将来では高いが、遠い将来になるに従い低下する。つまり、近い将来の下水流入量は現在の流入量に大きく影響されるが、遠い未来の流入量は現在の流入量にあまり影響されないことを示している。
そこで、本発明では、近い将来の予測値は大きく補正し、遠い将来の予測値は小さく補正することにより、無駄な誤差の補正を防止し、予測精度を高めるというものである。
【0063】
続いて補正方法について説明する。まず過去n時間の平均予測誤差を次式により算出する。
【0064】
(数6)
平均予測誤差データ=avg(下水流入量予測データ[T−t]−下水流入量データ[T−t])
【0065】
もしくは次式を用いても良い。
(数7)
平均予測誤差データ=
avg(下水流入量予測データ[T−t]−下水流入量データ[T−t])/下水流入量データ[T−t]
【0066】
ここで、下水流入量予測データ[T−t]は、時刻t時間前における下水流入量予測データ
下水流入量データ[T−t]は、時刻t時間前における下水流入量データ
【0067】
次に平均予測誤差データを次式にて修正する。以下では未来のI時間先までの補正下水流入量予測データを修正する例を示している。数式6を用いた場合は以下のようになる。
【0068】
(数8)
補正下水流入量予測データi=
下水流入量予測データi+(I−i)×平均予測誤差データ/I
【0069】
iが大きくなる、つまり遠い将来になる程平均予測誤差データが小さくなっている。
また、数式7を使用した場合は次の数式のようになる。
【0070】
(数9)
補正下水流入量予測データi=
下水流入量予測データi/(1+平均予測誤差データ×(I−i)/I)
【0071】
ここで、0<i<I、下水流入量予測データiは、i時間先の予測値となる。
【0072】
以上本発明の下水流入量予測装置1について説明した。本発明は上記各手段を含む一台のコンピュータとし、データ蓄積手段60をハードディスクとし、下水流入量データ算出手段70、分離手段80、モデル構築手段90、予測手段100をプログラムによりコンピュータに機能させるような手段としても良い。
【実施例1】
【0073】
続いて本発明の下水流入量予測装置を用いて実際の予測を行った予測結果について図を参照しつつ詳しく説明する。図9は本実施例の下水流入量予測装置による予測結果の説明図である。
なお、今回の実施例1では、シミュレーションのみ実施したため、データ収集手段50によらず、データ蓄積手段60に蓄積されたデータを用いた。
【0074】
この予測条件は詳しくは以下のようになる
予測対象:合流式下水施設のある下水ポンプ場のポンプ井への下水流入量
予測時点:現時点より5分先〜12時間先(5分間隔)、
学習用データ:過去6ヶ月のデータ
(1)日付(1日単位)
(2)平日、休日(土曜含む)情報(1日単位)
(3)前日データとの相関係数(1日単位)
(4)雨量(5分単位)
(5)下水流入量(5分単位)
【0075】
手順1.下水流入量データの算出(下水流入量データ算出手段70)
データ蓄積手段60に蓄積された水位データを用いて上記の数式1により下水流入量データの算出を行った。
【0076】
手順2.汚水・雨水の分離(分離手段80)
続いてこれら下水流入量データから、汚水流入量データと雨水流入量データとに分離生成する。分離のため、事例ベース推論を用い、月ごとに、平日、休日ごとに過去事例を抽出した。抽出条件は以下のとおりである。
(1)指定月を含まない過去4ヶ月
(2)指定曜日(平日or休日)
(3)相関係数0.9以上
(4)1日の雨量0mmの日
(5)下水流入量データはすべて正常にそろっており、欠測がないこと
【0077】
上記条件では特に1日の雨量0mmの日、つまり雨が降っていないため、下水流入量データを汚水流入量データとみなせるデータを抽出している。このような下水流入量データを抽出すると、各月とも複数日が抽出される。そこで、平日、休日ごとに時間ごとの平均値をとり、それを汚水流入量データとした。今回抽出データは5分単位であるので、汚水流入量データは5分単位で24時間分のデータである。
そしてこのような汚水流入量データを用いて1日の雨量a[mm]の日の雨水流入量データは下水流入量データから上記算出した汚水流入量データを引いた値とした。
こうして、汚水流入量データは月ごとに平日・休日に分けて2種類、雨量別に雨水流入量データは1日ごとに多数作成される。
【0078】
手順3.汚水流入量予測モデル構築(汚水流入量予測モデル構築手段91)
平日の1日24時間ごと汚水流入量データと、休日の24時間ごと汚水流入量データとを登録し、入力として、月、平日、休日、時刻(0時,1時,・・・,23時)を入力すると対応する汚水流入量データを出力する事例ベース推論によるモデルとした。
手順4.雨水流入量予測モデル構築(雨水流入量予測モデル構築手段92)
雨水流入量予測モデルはニューラルネットワークにて構築する。まず最初に学習用データを作成する。雨水流入量データは手順2で算出されているが、上記データの中には晴天時刻のデータ、下水流入量がマイナスのデータ(逆流した場合のデータ)など多数の特異データが含まれている。そこで、以下の条件を満たす雨水流入量データを抜き出した。
(1)雨水流入量0以上、
(2)降雨5mm/h以上
次に、抜き出したデータを以下のフォーマットに従って多数の学習セットを作成する。
1時間前雨量データmm/h、
ある時点の雨量データmm/h、
1時間先雨量データmm/h、
1時間先雨水流入量データmm3/h
上記多数のデータセットを用いて、図5のニューラルネットワークをバックプロパゲーション法にて学習する。
【0079】
続いて予測手段100’(図7参照)による予測を行う。
手順5.汚水流入量予測(汚水流入量予測手段101)
汚水流入量予測については、月、平日、休日、曜日、季節、時刻(0時,1時,・・・,23時)を入力すると時刻別の汚水流入量予測データを出力する。
手順6.雨水流入量予測(雨水流入量予測手段102)
先に構築したニューラルネットワークモデルの雨水流入量予測モデルを用いて、雨水流入量予測データを生成する。ニューラルネットワークに入力するデータは、1時間先雨水流入量を予測する場合には、以下のデータを入力する。
1時間前雨量データmm/h、
現在雨量データmm/h、
1時間先雨量データmm/h、
1時間先雨水流入量予測データmm3/h
そして2時間先予測値を得る場合には、以下のデータを入力する。
現在雨量データmm/h、
1時間先雨量データmm/h、
2時間先雨量データmm/h
2時間先雨水流入量予測データmm3/h
同様にして、12時間先雨水流入量予測データまで得る。ここで、未来の雨量については、気象予報値を用いるべきであるが、本実施例ではシミュレーションであるため、実際の雨量データを用いた。
ここで、ニューラルネットワークから出力される予測値は、1時間単位のデータである。そこで、数式4を用いて5分単位の雨水流入量予測データに変換して5分単位12時間先までの雨水流入量予測データを算出した。
【0080】
手順7.汚水・雨水予測値合算(合算手段103)
汚水流入量予測データと雨水流入量予測データを合算した値を下水流入量予測データとした。また、この下水流入量予測データをデータ蓄積手段60に対し、補正前の下水流入量予測データとして保存した。
【0081】
手順8.予測の補正(補正手段104)
データ蓄積手段60から読み出した5分前〜1時間前の12点の補正前の下水流入量予測データと同時刻の実績の下水流入量データとの平均予測誤差データを数式6にて算出し、2時間先までの予測値を数式8にて補正した。ここで、2時間先までの予測値は24点あるため、数式8のIの値は24であり、
iの値は5分先で1、10分先で2、・・・2時間先で24となる。
【0082】
上記方法にて予測した値の一例を図9に示す。図9は、12時段階において、12時5分から24時まで予測した例である。合流式下水であるが、実績値と予測値とで際だった差がなく、適切に予測できている。特に降雨前の12時の段階において、未来の降雨情報を用いて流量が増加する傾向を適切に予測できている。
【0083】
以上、本発明について説明した。本発明を用いることで、分流式下水管、合流式下水管、いずれの場合でも予測可能である。また人口・舗装率など経年変化にも自動的に予測モデルが変化し高精度な予測結果を得ることができる。また、本発明は特殊な方法を用いるものではなく、市販パッケージでも入手可能な事例ベース推論、ニューラルネットワークによる予測であり、容易に下水流入量予測装置を構築できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明を実施するための最良の形態の下水流入量予測装置の構成図である。
【図2】ポンプ井の説明図である。
【図3】モデル構築手段の構造図である。
【図4】予測手段の構造図である。
【図5】雨水流入量を予測するニューラルネットワークの構成図である。
【図6】1時間単位の雨水流入量予測データを5分単位の雨水流入量予測データに補間する補間原理の説明図である。
【図7】他の予測手段の構成図である。
【図8】下水流入量の自己相関係数の特性図である。
【図9】本実施例の下水流入量予測装置による予測結果の説明図である。
【図10】通常時の汚水流入量−時間特性図である。
【図11】特異時の汚水流入量−時間特性図である。
【符号の説明】
【0085】
1:下水流入量予測装置
10:入力手段
20:出力手段
30:記録媒体読書手段
40:データ発信手段
50:データ収集手段
51:気象データ収集手段
52:暦データ収集手段
53:水位データ収集手段
54:ポンプ揚水量データ収集手段
60:データ蓄積手段
70:下水流入量データ算出手段
80:分離手段
90:モデル構築手段
91:雨水流入量予測モデル構築手段
92:汚水流入量予測モデル構築手段
100,100’:予測手段
101:汚水流入量予測手段
102:雨水流入量予測手段
103:合算手段
104:補正手段
2:ネットワーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水ポンプ場または終末処理場のポンプ井へ流入する下水の下水流入量を予測する下水流入量予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
終末処理場において効率よく下水を処理するためには、1日の下水流入量の変動が少ないことが望ましい。このように下水流入量の変動を少なくするために、現状では下水道の中間または終末に多数配置されるポンプ井に流入する下水流入量を予測し、ポンプの起動停止を制御することで、終末処理場に流れ込む下水流入量の変動を小さくしている。
【0003】
従来技術による下水流入量を予測する方法として、主にRRL法(ロード・リサーチ・ラボラトリ法)が用いられている。また、近年ではRRL法の他にも下水流入量予測手法が開発されており、例えば特許文献1〜3が開示されている。
【0004】
特許文献1(特開平5−134715号公報、発明の名称「ニューラルネットワーク応用雨水流入量予測装置」)に記載された従来技術は、レーダー雨量計とニューラルネットワークとを用いることを特徴とした雨水流入量予測であり、ニューラルネットワークの学習機能により経年変化に対応でき、また、レーダー雨量計を利用することで、1地点の雨量計情報だけでなく、面的な雨量情報を使用できるようにしている。
【0005】
また、特許文献2(特開2000−345604号公報、発明の名称「流入下水量予測装置」)に記載された従来技術は、合流式下水流入量が予測できる手法である。つまり、汚水流入量と雨水流入量との区別無く予測するというものである。
一般的に汚水流入量は、生活排水によるものであるため、気象に関係なく時間により流入量が変化するという特徴がある。例えば、図10の通常時の汚水流入量−時間特性図で示すように、夕食時から就寝前までにかけて増加した汚水流入量が夜間は減少し、朝になるとまた汚水流入量が増大するというように、朝と夜とに流入ピークを持つというような特徴である。一方、雨水流入量は当然に降雨量により変化する。
特許文献2の従来技術では、これらのような特徴を持つ雨水流入量と汚水流入量との予測手法を異ならせており、汚水流入量は過去の平均流入量により算出し、雨水流入量は自己回帰モデルにより算出している。
【0006】
また、特許文献3(特開2003−27567号公報、発明の名称「下水流入量予測装置および方法、サーバ装置」)に記載された従来技術は、TCBM(Topological Case-Based Modelling)による予測方式である。
【0007】
【特許文献1】特開平5−134715号公報
【特許文献2】特開2000−345604号公報
【特許文献3】特開2003−27567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術であるRRL法は、精度の高い予測を行なうためにはパラメータ設定のため膨大な計算が必要であるなど予測式構築に膨大な作業が必要であり、また経年変化に対応できないという問題点があった。つまり、人口、舗装率などの変化により予測式がずれてきた場合には、予測式修正のため再度膨大な作業を要するという問題がある。また、予測可能なのは分流式下水道の雨水流入量のみであり、汚水流入量や合流式下水道の流入量は予測できないという問題もあった。
【0009】
特許文献1に記載の従来技術は、ニューラルネットワークの学習機能により人口、舗装率が変化しても自動的に予測式が修正される利点があるが、雨水流入量しか予測できず、汚水流入量や合流式下水道の流入量は予測できないという問題があった。
【0010】
特許文献2に記載の従来技術は、人口、舗装率の変化に自動的に対応できる利点がある。しかし、汚水流入量は単純な過去平均値であるため、特異データがある場合には適切な汚水平均値が算出できない。
例えば、下水道管内の汚れ清掃を行なう場合、下水ポンプ場内の汚水を貯め、一気に送水して下水管内に付着した汚れを取る方法を採用している。このため図11の特異時の汚水流入量−時間特性図のように、清掃前では汚水流入量が無くなり、また清掃時に汚水流入量が尖塔状になり、通常の特性図と大きく異なる。このような下水管特有の清掃方法のため、特許文献2の発明による汚水予測方法では、適切な平均化を行なうことができないという問題があった。
また、雨水流入量は自己回帰式により予測しているため、雨という気象予報があったとしても予測値に反映させることができず、未来の気象状態を考慮することができないという問題もあった。
【0011】
特許文献3に記載の従来技術は、上記発明の問題点を解決しているが、TCBMという特殊な手法を用いているため、一般開発者は容易に適用することができないものであり、周知技術を活用して予測したいという要請があった。
【0012】
まとめると、
(1)経年変化に対応した予測、
(2)合流式下水道の予測、
(3)特異データ(下水管清掃時など)の悪影響のない予測、
(4)雨量等気象情報を用いた予測、
(5)特殊な方法を用いない周知技術を活用しての予測、
という要件を全て満たすような下水流入量予測装置が求められていた。
【0013】
本発明は、これら従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、一般技術を活用した複雑でない汚水流入量予測モデルと雨水流入量予測モデルとにより汚水流入量と雨水流入量とを正確に予測し、下水流入量の予測精度の向上を実現する下水流入量予測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に係る下水流入量予測装置は、
下水ポンプ場または終末処理場のポンプ施設へ流入する下水の流入量を予測する下水流入量予測装置において、
気象実績及び気象予報についての気象データを収集する気象データ収集手段と、
暦についての暦データを収集する暦データ収集手段と、
ポンプ井内の下水の水位についての水位データを収集する水位データ収集手段と、
ポンプ井の下水のポンプ揚水量(送水量)についての揚水量データを収集するポンプ揚水量データ収集手段と、
暦データ、気象データ、水位データおよびポンプ揚水量データを蓄積するデータ蓄積手段と、
暦データ、水位データおよび揚水量データに基づいてポンプ井への下水流入量である下水流入量データを算出する下水流入量データ算出手段と、
下水流入量データを分離して汚水流入量データと雨水流入量データとを算出する分離手段と、
暦データを入力因子とし、また、汚水流入量データを出力因子とするような汚水流入量予測モデルを構築する汚水流入量予測モデル構築手段と、
気象データを入力因子とし、また、雨水流入量データを出力因子とするような雨水流入量予測モデルを構築する雨水流入量予測モデル構築手段と、
予測に必要な暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成する汚水流入量予測手段と、
予測に必要な気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成する雨水流入量予測手段と、
生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する合算手段と、
を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項2に係る下水流入量予測装置は、
請求項1に記載の下水流入量予測装置において、
前記汚水流入量予測モデルは、
特異データが除去された上で、暦データと汚水流入量データとが連関して登録され、暦データが入力されると対応する汚水流入量データが抽出されることで予測する事例ベース推論による予測モデルであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項3に係る下水流入量予測装置は、
請求項1または請求項2に記載の下水流入量予測装置において、
前記雨水流入量予測モデルはニューラルネットワークによる予測モデルであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項4に係る下水流入量予測装置は、
請求項3に記載の下水流入量予測装置において、
前記雨水流入量予測モデルはn時間単位で雨水流量予測データを算出する予測モデルであり、
前記雨水流入量予測手段は、現在の雨水流量データと雨水流量予測データとを、または、隣接する二つの雨水流量予測データを補間することで時間間隔がn時間よりも短い雨水流量予測データを生成する手段であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項5に係る下水流入量予測装置は、
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の下水流入量予測装置において、
下水流入量予測データを、過去の日時における下水流入量予測データと下水流入量データとから算出した誤差量より補正する補正手段を備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項6に係る下水流入量予測装置は、
請求項5に記載の下水流入量予測装置において、
前記補正手段は、過去の予測誤差を用いて未来の予測値を補正するときに、近い将来の予測値の補正量を大きく、遠い将来の予測値の補正量を小さくする手段であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上のような本発明によれば、一般技術を活用した複雑でない汚水流入量予測モデルと雨水流入量予測モデルとにより汚水流入量と雨水流入量とを正確に予測し、下水流入量の予測精度の向上を実現する下水流入量予測装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態の下水流入量予測装置について図を参照しつつ説明する。図1は、本形態の下水流入量予測装置の構成図である。
下水流入量予測装置1は、入力手段10、出力手段20、記録媒体読書手段30、データ発信手段40、データ収集手段50、データ蓄積手段60、下水流入量データ算出手段70、分離手段80、モデル構築手段90、予測手段100を備えている。
【0022】
入力手段10は、手入力を行うキーボードである。
出力手段20は、ディスプレイやプリンタなどであり、各種データ表示・印刷も行う。
記憶媒体読書手段30は、FD(Flexible Disc)、MO(Magnet Optical Disc)などの記憶媒体に対して情報の読み書きを行う装置である。
データ発信手段40は、ネットワーク2と接続するための手段であり、データ蓄積手段60からデータ発信手段40・ネットワーク2を経由して、外部へ情報の出力を行うことができるようになされている。
【0023】
データ収集手段50は、各下水ポンプ場や気象情報会社などからネットワーク2を介して各種データを取得する手段であり、さらに気象データ収集手段51、暦データ収集手段52、水位データ収集手段53、ポンプ揚水量データ収集手段54を備える。
気象データ収集手段51は、気象実績および気象予報についての気象データを収集する手段である。ここでいう気象データとは、例えば天候(晴、雨、曇、雪)、雨量、気温、湿度、日照量等の全てまたは何れかを指している。
気象実績とは過去の記録であり、気象実績についての気象データは、各下水ポンプ場を経由せずに気象情報サービス会社からネットワーク2を介して配信される気象データや、また、各下水ポンプ場に独自で設置した雨量計・湿度計などの計測装置・センサから収集整理して各下水ポンプ場を経由して入力された気象データである。
気象予報とは未来の予報であり、気象予報についての気象データは、気象情報サービス会社から気象予報を受信して得たデータである。
このように気象データ収集手段51では、予測対象の下水ポンプ場の気象実績に係る気象データ、予測対象の下水ポンプ場の気象予報に係る気象データを収集する。
【0024】
暦データ収集手段52は、暦に関するデータを収集する手段である。
暦データは年月日時分などの日時データ、その日時の特徴を表す平日・休日・曜日・季節(春夏秋冬)などの特徴データである。
なお、暦データは入力手段10のキーボードなどの装置にて手入力しても良いし、計算により算出しても良い。
【0025】
水位データ収集手段53は、水位データを収集する手段である。
水位データは、下水ポンプ場にあるポンプ井内の下水の水位を表すデータである。
水位データはネットワーク2を介して複数下水ポンプ場のポンプ井にそれぞれ設置された多数の水位計から所定期間毎または常時入力される。従って水位データには下水ポンプ場を識別する識別データも付加される。
【0026】
ポンプ揚水量データ収集手段54は、ポンプ揚水量データを収集する手段である。
ポンプ揚水量データは、下水ポンプ場にあるポンプによるポンプ井からの揚水量を表すデータである。ポンプ揚水量データはネットワーク2を介して複数下水ポンプ場のポンプに設けられた流量計から所定期間毎または常時入力される。この場合も下水ポンプ場を識別する識別データも付加される。
これら気象データ、暦データ、水位データおよび揚水量データはデータ蓄積手段60に保存し、日々更新してこれらデータを蓄積していく。また、必要時に何時でも取り出せるようにする。このデータ蓄積手段60では計測日時・曜日・季節が特定できる暦データを主キーとして気象データ、水位データおよび揚水量データが関連付けられて登録されてデータベース化されている。
【0027】
下水流入量データ算出手段70は、暦データから検索して各時間の水位データおよび揚水量データをデータ蓄積手段60から読み出し、これらデータに基づいて下水ポンプ場のポンプ井への下水流入量である下水流入量データを算出する。
【0028】
下水ポンプ場のポンプ井では、例えば、図2のポンプ井の説明図で示すように、通常は水位計が設置されているが、流入量計は設置されていることが少なく、水位からポンプ井内の下水流入量を算出する。
ポンプ井内のある時点の下水量をM1、同じくある時点より一定時間前の下水量をM2、一定時間にポンプ井から揚水して送水したポンプ揚水量をP1とすると、下水流入量は以下のようになる。
【0029】
【数1】
【0030】
ここに下水量M1はある時点におけるポンプ井の水位h1から算出した量、下水量M2はある時点からさらに一定時間前のポンプ井の水位h2から算出した量である。この下水量M1,M2の算出式は、ポンプ井の水位を入力因子とする回帰式が用いられることが多い。最も簡単な例では単純比例関係であり、算出式は、M1=a×h1,M2=a×h2となる。
なお、ポンプ井によっては複雑な算出式が必要になる場合もあるが、何れの場合でもある時点での水位を入力因子とする算出式である。
【0031】
なお、下水流入量の中には、上流にある下水ポンプ場からの揚水量(送水量)も含まれており、これは人為的な操作により変化するものであるため、次式のように上流ポンプ揚水量(送水量)を除いた流入量としても良い。上流ポンプ揚水量P2は、一定時間で上流側にあるポンプ井から送り出された量である。
【0032】
【数2】
【0033】
この場合、図2における他の流入量M3が下水流入量として算出される。
もちろん、ポンプ井への流入量を計測する流量計がある場合には、数式1,2を省略し、流量計からの流入量データを用いても良い。この流入量データ算出手段70によりある時点における下水流入量データが算出される。データ蓄積手段60では暦データを主キーとして気象データ、水位データ、揚水量データおよび下水流入量データが関連付けられて登録される。
【0034】
分離手段80は、下水流入量を雨水流入量と汚水流入量とに分離するため、下水流入量データを用いて雨水流入量データと汚水流入量データとを算出する手段である。合流式下水道において必要な処理であり、下水流入量のうち、雨水による雨水流入量と汚水による汚水流入量とを分離する。もちろん雨水流入量と汚水流入量とを合計するともとの下水流入量になる。
これは、晴れている時間の下水流入量は、雨水流入量がないため、汚水流入量にほぼ一致するものと考え、このような晴れている時間の汚水流入量を時間ごと(0時、1時、2時、・・・、23時)に多数日にわたり取得し、さらに同時刻における多数の日の平均を取ることで、時間別の平均汚水流量を算出する。これらを汚水流入量データとする。そして、時間ごとの下水流入量データから対応する時間の汚水流入量データを差し引けば、雨水流量データとなる。晴れの日ではほぼ0となるが、雨の日では雨水流量データが算出される。そして、これら汚水流入量データおよび雨水流入量データをデータ蓄積手段60に登録する。データ蓄積手段60では暦データを主キーとして気象データ、水位データ、揚水量データ、下水流入量データ、汚水流入量データおよび雨水流入量データが関連付けられて登録される。
【0035】
モデル構築手段90は、モデルを構築する手段である。図3はモデル構築手段の構造図である。モデル構築手段90は、詳しくは図3で示すように、汚水流入量予測モデル構築手段91、雨水流入量予測モデル構築手段92を備える。なお、雨水流入量予測モデル構築手段91、汚水流入量予測モデル構築手段92で用いられる学習用のデータはデータ蓄積手段60に登録された過去の実績値である。
汚水流入量予測モデル構築手段91は、暦データを入力因子とし、また、汚水流入量データを出力因子とするような汚水流入量予測モデルを構築する手段である。構築された汚水流入量予測モデルはデータ蓄積手段60により蓄積保存される。
雨水流入量予測モデル構築手段92は、気象データを入力因子とし、また、雨水流入量データを出力因子として雨水流入量予測モデルの構築する手段である。構築された雨水流入量予測モデルはデータ蓄積手段60により蓄積保存される。
このような予測モデル構築手段90は、一定期間(例えば一ヶ月ごと)ごとに起動され、これら予測モデルを更新するようにする。なお、雨水流入量予測モデル・汚水流入量予測モデルとしては、RRL法や、ニューラルネットワーク、事例ベース推論、などによる予測するモデルを採用することができるが、最も好ましい予測モデルの詳細については後述される。
【0036】
続いて予測手段100では、これら雨水流入量予測モデルおよび汚水流入量予測モデルを用いて予測を行う。図4は予測手段の構造図である。予測手段100は、詳しくは図4で示すように、汚水流入量予測手段101、雨水流入量予測手段102、合算手段103を備えている。
汚水流入量予測手段101は、予測対象時の暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成する手段である。汚水流入量は時間に依存しており、暦データを入力すれば、汚水流入量予測データを得られる。
雨水流入量予測手段102は、予測対象時の予報である気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成する手段である。気象データは未来の気象データとなり、予測対象日時の気象データを入力することにより、雨水流入量予測データが得られる。
【0037】
合算手段102は、生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する手段である。
生成された下水流入量予測データは勿論のこと、雨水流入量予測データと汚水流入量予測データもデータ蓄積手段60により保存される。
このような予測手段100は、一定期間(例えば1時間ごと)ごとに起動され、下水流入量を予測する。
【0038】
このようにして得られた下水流入量予測データは、データ蓄積手段60のデータ発信手段50・ネットワーク2を介して、例えば下水ポンプ場にあるローカル制御用コントローラへ情報を発信することもできる。
【0039】
続いて、汚水流入量予測モデルの具体例について説明する。このモデルは特に事例ベース推論によるモデルを採用することが好ましい。出力因子は学習時では汚水流入量データであったが、予測時は汚水流入量予測データであり、相違している。
汚水流入量は、日々の変動が少ないことが知られており、過去の平均をシステムに設定し、それを汚水流入量予測とすることが多い。しかし、人間が設定する方法では、季節が変わるごと、経年変化を起こすごとに再設定しなければならない問題がある。自動化する方法では、先に述べたように特異データを除去すれば適切な平均値を得ることができる。
本発明の事例ベース推論による汚水流入量データ予測モデルでは、以下3点の条件より推論するモデルである。
(1)気象(晴天時)
(2)前後日の汚水流量形状(相関係数で一定値以上)
(3)暦情報(曜日、期間など)
【0040】
(1)気象(晴天時)について
前述のように、下水流入量データは汚水流入量データと雨水流入量データの合算値である。しかしながら、下水への雨水流入量は雨天時にしかない流量であり、晴天時には雨水流入量は0になる。よって、事例ベース推論による予測汚水流入量予測モデルの学習では、過去一定期間内のデータから、晴天時の汚水流入量のみを抽出し、それを汚水流入量データとする。
(2)前後日の汚水流量形状(相関係数で一定値以上)について
ただし、これら抽出条件では特異データを排除することができない。そこで、次に通常データのみ抽出する。特異データとは、主に下水管内清掃によるものであり、一時的に汚水流入量が無くなったり多くなったりする特徴がある。またこのようなデータは毎日行なわれるものではなく、数ヶ月に数回程度の頻度でしかない。よって、特異データは前後日のデータと比較して汚水流入量の形状が大きく異なる特徴がある。逆をいうと通常データは前後日の汚水流入量データが同じ形状をしている。この特徴を利用して、汚水流入量データが前後日と同じ形状のものを抽出する。
ここで、抽出条件は、前後日の形状と比較して相関係数が一定値以上とすることで簡単に抽出できる。
なお、相関係数とは、2つのデータの相関度合いを測る統計指標である。相関係数は−1≦r≦+1の値をとり、r>0のとき正相関,r<0のとき負相関、r=0のときに無相関であることを意味する。
前後日の汚水流入量の形状を判定するときには、例えば、毎時データを用いるときには、対象日の汚水流入量をx1,x2,・・・,x24(mm3/h)とし、前日の汚水流入量をy1,y2,...,y24(mm3/h)とすると、次式にて相関係数が算出される。
【0041】
【数3】
【0042】
この相関係数rが1に近いとき(例えば0.8以上)に同じ形状と判断し、それ以下のときに、対象日は特異データであると判断する。なお,ここでは前日データのみ比較したが、対象日と対象日の翌日とのデータを比較しても良い。
【0043】
(3)暦情報(曜日、期間など)
さらに、汚水流入量は、曜日により量や立ち上がり時間が若干異なる性質がある。よって、予測対象日と同じ曜日を抽出する。こうして条件に適合した汚水流入量データは、複数日抽出されることになるが、日々のばらつきをなくすため、平均化する。
なお春夏秋冬を分けて平均化すると、さらに予測精度が高まる。
このように曜日や季節(春夏秋冬)により異なる場合もあるため、季節別・曜日別の汚水流入量データとする。
【0044】
このような汚水流入量予測モデルでは、事例ベース推論にて、特異データを自動的に識別して除去し、通常時の汚水流入量データのみで汚水予測するため、入力される暦データの月日・時間・曜日・季節に対応した汚水流入量データが出力され、従来技術での単なる平均値よりも大幅に予測精度が向上し、上記問題点が解決できる利点がある。
【0045】
以下事例ベース推論による予測汚水流入量予測モデルの学習について記す。
このような汚水流量予測モデルでは、汚水流入量は先に述べたがポンプの清掃のような時以外は、時間別にほぼ同じ値を取るため、特異データを統計的判定方法にて除外した上で過去の時間に対応する実績値である汚水流入量データのデータベース化し、時間データ(たとえば4月10日・水曜日・春・午後10時)を入力すると対応する汚水流入量データを読み出して汚水流入量予測データを生成するモデルとしたため、月日・曜日・季節・時間を入力すると対応する汚水流入量予測データを選択して出力する。
【0046】
続いて上記した雨水流入量予測モデルについて説明する。
雨水流入量予測モデルは、具体的にはニューラルネットワークによる予測モデルである。図5は雨水流入量を予測するニューラルネットワークの構成図である。
ニューラルネットワークによるモデルは、例えば、入力層、中間層、出力層の3層構造のパーセプトロンモデルなどであり、入力に対して所望の出力をするように学習できる。
なお、図5のニューラルネットワークは、多入力1出力のニューラルネットワークであるが、もちろん多入力多出力のニューラルネットワークを構築しても良い。
【0047】
入力因子は気象データのうち特に雨量データを採用し、出力因子は雨水流入量データである。雨量データと雨水流入量データとの間には、通常、非線形な関係があり、線形的予測手法である回帰分析では必ずしも良好な予測結果を得ることができないが、このニューラルネットワークでは、データを学習するだけで適切な予測モデルを構築することができる。
【0048】
学習段階で用いるニューラルネットワークの入力データは雨量データであり、通常は数時間分のデータを用いる。
なお、これらデータは通常は1時間単位の雨量データを用いるのが一般的であるが、10分単位の雨量データなど短い時間単位の雨量データを用いてもよい、また数時間の累積した雨量データにしてもよい。さらには各雨量データの差分値や絶対量などの変換を行なっても良い。
【0049】
出力データとしては、分離手段80により求められてデータ蓄積手段60に登録されたデータであって、数分先から数時間先までの雨水流入量データである。
通常は1時間先までの雨水流入量データを出力するように設計するが、ニューラルネットワークを多出力化し数時間先までの雨水流入量データを一括で出力しても良い。また、雨水流入量データを加工し、現在からの差分値などにしても良い。
【0050】
本形態では説明の具体化のため、図5で示すように、時間を異ならせた雨量データ(ある時点の雨量データ値、ある時点より1時間前の雨量データ、ある時点より1時間後の雨量データ)を入力因子とし、また、ある時点より1時間後の雨水流入量データを出力因子としている。
【0051】
続いて上記した雨水流入量予測モデルの学習について説明する。ニューラルネットワークの学習では学習データを作成する必要がある。データ蓄積手段60により過去に蓄積した気象データに含まれる雨量データや、この雨量データに対応する雨水流入量データを時間別に収集し、上記ニューラルネットワークの入出力データセットを多数用意する。例えば、ある時点とある時点の一時間の前後の時刻の3点の雨量データを入力因子とし、また、ある時点から一時間先の雨水流入量データを出力因子とする入出力データセットである。このような入出力データセットを基準となる時点を異ならせて多数準備して、例えば周知のバックプロパゲーション法など周知の各種の学習アルゴリズムを用いてニューラルネットワークを構築する。
【0052】
続いて上記した雨水流入量予測モデルの予測について説明する。予測段階では、上記にて作成したニューラルネットワークモデルに対し、学習時と同じ入力項目のデータを与えると所望の予測値が出力される。出力因子は学習時では雨水流入量データであったが、予測時は雨水流入量予測データであり、相違している。
例えば、図5で示す雨水流入量予測モデルでは、ある時刻を現在とし、現在の雨量データと1時間前の雨量データは、下水ポンプ場もしくは気象情報サービス会社から配信される実績の雨量データが入力される。1時間先の雨量データは、気象情報サービス会社から配信される予報の雨量データである。
【0053】
なお、図5は1時間先の雨水流入量の説明図であるが、同じニューラルネットワークに対し、入力情報を変えることで1時間先よりさらに先の雨水流入量予測データを得ることができる。例えば、図5の1時間前・ある時点・1時間先という雨量データを、それぞれ現在・1時間後・2時間後の雨量データとすれば、2時間先の雨水流入量予測データを得ることができる。現在の雨量データは、下水ポンプ場もしくは気象情報サービス会社から配信される雨量実績データが入力される。1時間先および2時間先の雨量は、気象情報サービス会社から配信される予報の雨量データである。これにより2時間先の雨水流入量予測データを得ることができる。
【0054】
さらに雨水流入量予測手段102を改良してより短い間隔で予測値を得るようにしても良い。この改良について説明する。
雨水流入量予測手段102は、はn時間(本形態では1時間)後の雨水流量予測データを算出する手段であるが、現在の雨水流量データとn時間先(本形態では1時間先)の雨水流量予測データを、または、n時間(本形態では1時間)隔てて隣接する二つの雨水流量予測データを用いて補間し、時間間隔が短い雨水流量予測データに変換した上で生成する手段としても良い。
【0055】
電動式ポンプはすぐに起動するがエンジン式ポンプは起動するまでに約5分間要する。ポンプの制御を考慮した場合には5分間隔の下水流量予測に対するニーズがある。しかしながら、気象予報(降雨予報)による雨量データは、1時間単位のデータであるため、原理的に気象予報による雨量データから5分単位の予測はできない。そこで、本発明では、n時間単位の雨水流入量予測データを簡易的にそれよりも短い時間単位のデータに変換する。
【0056】
以下図を参照しつつ具体的に説明する。図6は1時間単位の雨水流入量予測データを5分単位の雨水流入量予測データに補間する補間原理の説明図である。ここでは、ニューラルネットワークから出力される雨水流入量予測データが1時間単位であり、その値を5分単位に変換する例で説明する。
ニューラルネットワークの入出力データは、図6のように1時間単位の雨量データである。入力データを変えることにより1時間〜m時間先までの予測を行なう。例えば、2時間先の雨水流入量予測データを計算する場合には、現在雨量データ、1時間先予報雨量データ値、2時間先予報雨量データを入力する。3時間先の雨水流入量予測データを予測する場合には、1時間先予報雨量データ、2時間先予報雨量データ、3時間先予報雨量データを入力する。こうして1時間単位でm時間先までの雨水流入量予測データが得られる。次に、1時間単位の雨水流入量予測データを5分単位の雨水流入量予測データに線形補完する。図6で示すように、まず中央値である30分の雨水流入量予測データは雨水流入量予測モデルの1時間単位の雨水流入量予測データと一致させる。つぎに、その他の時間には、前後の雨水流入量予測データの値で線形補完する。例えば、次式である。
【0057】
(数4)
5分先雨水流入量予測データ
=(5×現在雨水流入量データ+1時間先雨水流入量予測データ)/6
10分先雨水流入量予測データ
=(4×現在雨水流入量データ+2×1時間先雨水流入量予測データ)/6
15分先雨水流入量予測データ
=(3×現在雨水流入量データ+3×1時間先雨水流入量予測データ)/6
20分先雨水流入量予測データ
=(2×現在雨水流入量データ+4×1時間先雨水流入量予測データ)/6
25分先雨水流入量予測データ
=(1×現在雨水流入量データ+5×1時間先雨水流入量予測データ)/6
30分先雨水流入量予測データ
=1時間先雨水流入量予測データ
35分先雨水流入量予測データ
=(11×1時間先雨水流入量予測データ+2時間先雨水流入量予測データ)/12
40分先雨水流入量予測データ
=(10×1時間先雨水流入量予測データ+2×2時間先雨水流入量予測データ)/12
45分先雨水流入量予測データ
=(9×1時間先雨水流入量予測データ+3×2時間先雨水流入量予測データ)/12
50分先雨水流入量予測データ
=(8×1時間先雨水流入量予測データ+4×2時間先雨水流入量予測データ)/12
55分雨水流入量予測データ
=(7×1時間先雨水流入量予測データ+5×2時間先雨水流入量予測データ)/12
60分先雨水流入量予測データ
=(6×1時間先雨水流入量予測データ+6×2時間先雨水流入量予測データ)/12
65分先雨水流入量予測データ
=(7×1時間先雨水流入量予測データ+5×2時間先雨水流入量予測データ)/12
70分先雨水流入量予測データ
=(8×1時間先雨水流入量予測データ+4×2時間先雨水流入量予測データ)/12
75分先雨水流入量予測データ
=(9×1時間先雨水流入量予測データ+3×2時間先雨水流入量予測データ)/12
80分先雨水流入量予測データ
=(10×1時間先雨水流入量予測データ+2×2時間先雨水流入量予測データ)/12
85分先雨水流入量予測データ
=(11×1時間先雨水流入量予測データ+2時間先雨水流入量予測データ)/12
90分先雨水流入量予測データ
=(2時間先雨水流入量予測データ)
【0058】
このように5分単位の予測値を得ることができる。
雨水流入量予測手段102はこのようなものである。
以上本形態の下水流入量予測装置1について説明した。本形態によれば、天候により変動しない汚水流入量と、天候により変動する雨水流入量と、を分けてそれぞれ予測モデルを構築して予想することで、正確な予測が可能となった。
【0059】
続いて先に説明した予測手段をさらに改良した形態について図を参照しつつ説明する。図7は、他の予測手段100’の構成図である。図4の予測手段100に対し、さらに補正手段104を追加している点が相違している。
補正手段104は、汚水流入量予測データを過去の日時における下水流入量予測データと下水流入量データとから算出した誤差量より補正する手段である。
汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとが合算された下水流入量予測データに対し、過去の予測誤差データを用いて補正し、補正下水流入量予測データを生成する。ここに予測誤差データとは過去にある時点の下水流入量を予測した下水流入量予測データと、同じ時点で実際の下水流入量データとの誤差を多数収集し、その平均値を誤差としたものである。補正式は次式のようになる。
【0060】
(数5)
補正下水流入量予測データ=下水流入量予測データ+予測誤差データ
【0061】
これにより、下水流入量予測データの誤差を補正して下水流入量予測の精度を高めることができる。
【0062】
この予測手段100’をさらに改良し、過去の予測誤差データを用いて未来の下水流入量予測データを補正するときに、近い将来の下水流入量予測データの補正量を大きく、遠い将来の下水流入量予測データの補正量を小さくするような手段としても良い。この点について図を参照しつつ説明する。図8は、下水流入量の自己相関係数の特性図を示している。横軸は相関係数を取る二個の下水流入量の時間差である時間間隔を表し、縦軸は自己相関係数を表している。なお,自己相関係数とは、自分自身との相関係数であり、同じデータから時間をずらして2系列のデータを作成し、時間ごとの相関係数を算出した値である。例えば,1時間ごとのデータ{x1,x2,・・・,x48}とすると、1時間先の自己相関係数は、{x1,x2,・・・,x24}と{x2,x3,・・・x25}の2系列のデータを作成して算出する。2時間先の自己相関係数は、{x1,x2,・・・,x24}と{x3,x4,・・・x26}の2系列のデータを作成して算出する。
同様にして、24時間先までの自己相関係数が算出できる。自己相関係数が1に近ければ、自分自身の影響が強く、下水流入量予測の場合では、現在の下水流入量より、未来の流入量が簡単に予測できることを意味し、自己相関係数が0に近ければ、現在の下水流入量より、未来の流入量が予測できないことを意味する(雨量など他の要因が強くなる)。
図8に流量の自己相関係数は、近い将来では高いが、遠い将来になるに従い低下する。つまり、近い将来の下水流入量は現在の流入量に大きく影響されるが、遠い未来の流入量は現在の流入量にあまり影響されないことを示している。
そこで、本発明では、近い将来の予測値は大きく補正し、遠い将来の予測値は小さく補正することにより、無駄な誤差の補正を防止し、予測精度を高めるというものである。
【0063】
続いて補正方法について説明する。まず過去n時間の平均予測誤差を次式により算出する。
【0064】
(数6)
平均予測誤差データ=avg(下水流入量予測データ[T−t]−下水流入量データ[T−t])
【0065】
もしくは次式を用いても良い。
(数7)
平均予測誤差データ=
avg(下水流入量予測データ[T−t]−下水流入量データ[T−t])/下水流入量データ[T−t]
【0066】
ここで、下水流入量予測データ[T−t]は、時刻t時間前における下水流入量予測データ
下水流入量データ[T−t]は、時刻t時間前における下水流入量データ
【0067】
次に平均予測誤差データを次式にて修正する。以下では未来のI時間先までの補正下水流入量予測データを修正する例を示している。数式6を用いた場合は以下のようになる。
【0068】
(数8)
補正下水流入量予測データi=
下水流入量予測データi+(I−i)×平均予測誤差データ/I
【0069】
iが大きくなる、つまり遠い将来になる程平均予測誤差データが小さくなっている。
また、数式7を使用した場合は次の数式のようになる。
【0070】
(数9)
補正下水流入量予測データi=
下水流入量予測データi/(1+平均予測誤差データ×(I−i)/I)
【0071】
ここで、0<i<I、下水流入量予測データiは、i時間先の予測値となる。
【0072】
以上本発明の下水流入量予測装置1について説明した。本発明は上記各手段を含む一台のコンピュータとし、データ蓄積手段60をハードディスクとし、下水流入量データ算出手段70、分離手段80、モデル構築手段90、予測手段100をプログラムによりコンピュータに機能させるような手段としても良い。
【実施例1】
【0073】
続いて本発明の下水流入量予測装置を用いて実際の予測を行った予測結果について図を参照しつつ詳しく説明する。図9は本実施例の下水流入量予測装置による予測結果の説明図である。
なお、今回の実施例1では、シミュレーションのみ実施したため、データ収集手段50によらず、データ蓄積手段60に蓄積されたデータを用いた。
【0074】
この予測条件は詳しくは以下のようになる
予測対象:合流式下水施設のある下水ポンプ場のポンプ井への下水流入量
予測時点:現時点より5分先〜12時間先(5分間隔)、
学習用データ:過去6ヶ月のデータ
(1)日付(1日単位)
(2)平日、休日(土曜含む)情報(1日単位)
(3)前日データとの相関係数(1日単位)
(4)雨量(5分単位)
(5)下水流入量(5分単位)
【0075】
手順1.下水流入量データの算出(下水流入量データ算出手段70)
データ蓄積手段60に蓄積された水位データを用いて上記の数式1により下水流入量データの算出を行った。
【0076】
手順2.汚水・雨水の分離(分離手段80)
続いてこれら下水流入量データから、汚水流入量データと雨水流入量データとに分離生成する。分離のため、事例ベース推論を用い、月ごとに、平日、休日ごとに過去事例を抽出した。抽出条件は以下のとおりである。
(1)指定月を含まない過去4ヶ月
(2)指定曜日(平日or休日)
(3)相関係数0.9以上
(4)1日の雨量0mmの日
(5)下水流入量データはすべて正常にそろっており、欠測がないこと
【0077】
上記条件では特に1日の雨量0mmの日、つまり雨が降っていないため、下水流入量データを汚水流入量データとみなせるデータを抽出している。このような下水流入量データを抽出すると、各月とも複数日が抽出される。そこで、平日、休日ごとに時間ごとの平均値をとり、それを汚水流入量データとした。今回抽出データは5分単位であるので、汚水流入量データは5分単位で24時間分のデータである。
そしてこのような汚水流入量データを用いて1日の雨量a[mm]の日の雨水流入量データは下水流入量データから上記算出した汚水流入量データを引いた値とした。
こうして、汚水流入量データは月ごとに平日・休日に分けて2種類、雨量別に雨水流入量データは1日ごとに多数作成される。
【0078】
手順3.汚水流入量予測モデル構築(汚水流入量予測モデル構築手段91)
平日の1日24時間ごと汚水流入量データと、休日の24時間ごと汚水流入量データとを登録し、入力として、月、平日、休日、時刻(0時,1時,・・・,23時)を入力すると対応する汚水流入量データを出力する事例ベース推論によるモデルとした。
手順4.雨水流入量予測モデル構築(雨水流入量予測モデル構築手段92)
雨水流入量予測モデルはニューラルネットワークにて構築する。まず最初に学習用データを作成する。雨水流入量データは手順2で算出されているが、上記データの中には晴天時刻のデータ、下水流入量がマイナスのデータ(逆流した場合のデータ)など多数の特異データが含まれている。そこで、以下の条件を満たす雨水流入量データを抜き出した。
(1)雨水流入量0以上、
(2)降雨5mm/h以上
次に、抜き出したデータを以下のフォーマットに従って多数の学習セットを作成する。
1時間前雨量データmm/h、
ある時点の雨量データmm/h、
1時間先雨量データmm/h、
1時間先雨水流入量データmm3/h
上記多数のデータセットを用いて、図5のニューラルネットワークをバックプロパゲーション法にて学習する。
【0079】
続いて予測手段100’(図7参照)による予測を行う。
手順5.汚水流入量予測(汚水流入量予測手段101)
汚水流入量予測については、月、平日、休日、曜日、季節、時刻(0時,1時,・・・,23時)を入力すると時刻別の汚水流入量予測データを出力する。
手順6.雨水流入量予測(雨水流入量予測手段102)
先に構築したニューラルネットワークモデルの雨水流入量予測モデルを用いて、雨水流入量予測データを生成する。ニューラルネットワークに入力するデータは、1時間先雨水流入量を予測する場合には、以下のデータを入力する。
1時間前雨量データmm/h、
現在雨量データmm/h、
1時間先雨量データmm/h、
1時間先雨水流入量予測データmm3/h
そして2時間先予測値を得る場合には、以下のデータを入力する。
現在雨量データmm/h、
1時間先雨量データmm/h、
2時間先雨量データmm/h
2時間先雨水流入量予測データmm3/h
同様にして、12時間先雨水流入量予測データまで得る。ここで、未来の雨量については、気象予報値を用いるべきであるが、本実施例ではシミュレーションであるため、実際の雨量データを用いた。
ここで、ニューラルネットワークから出力される予測値は、1時間単位のデータである。そこで、数式4を用いて5分単位の雨水流入量予測データに変換して5分単位12時間先までの雨水流入量予測データを算出した。
【0080】
手順7.汚水・雨水予測値合算(合算手段103)
汚水流入量予測データと雨水流入量予測データを合算した値を下水流入量予測データとした。また、この下水流入量予測データをデータ蓄積手段60に対し、補正前の下水流入量予測データとして保存した。
【0081】
手順8.予測の補正(補正手段104)
データ蓄積手段60から読み出した5分前〜1時間前の12点の補正前の下水流入量予測データと同時刻の実績の下水流入量データとの平均予測誤差データを数式6にて算出し、2時間先までの予測値を数式8にて補正した。ここで、2時間先までの予測値は24点あるため、数式8のIの値は24であり、
iの値は5分先で1、10分先で2、・・・2時間先で24となる。
【0082】
上記方法にて予測した値の一例を図9に示す。図9は、12時段階において、12時5分から24時まで予測した例である。合流式下水であるが、実績値と予測値とで際だった差がなく、適切に予測できている。特に降雨前の12時の段階において、未来の降雨情報を用いて流量が増加する傾向を適切に予測できている。
【0083】
以上、本発明について説明した。本発明を用いることで、分流式下水管、合流式下水管、いずれの場合でも予測可能である。また人口・舗装率など経年変化にも自動的に予測モデルが変化し高精度な予測結果を得ることができる。また、本発明は特殊な方法を用いるものではなく、市販パッケージでも入手可能な事例ベース推論、ニューラルネットワークによる予測であり、容易に下水流入量予測装置を構築できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明を実施するための最良の形態の下水流入量予測装置の構成図である。
【図2】ポンプ井の説明図である。
【図3】モデル構築手段の構造図である。
【図4】予測手段の構造図である。
【図5】雨水流入量を予測するニューラルネットワークの構成図である。
【図6】1時間単位の雨水流入量予測データを5分単位の雨水流入量予測データに補間する補間原理の説明図である。
【図7】他の予測手段の構成図である。
【図8】下水流入量の自己相関係数の特性図である。
【図9】本実施例の下水流入量予測装置による予測結果の説明図である。
【図10】通常時の汚水流入量−時間特性図である。
【図11】特異時の汚水流入量−時間特性図である。
【符号の説明】
【0085】
1:下水流入量予測装置
10:入力手段
20:出力手段
30:記録媒体読書手段
40:データ発信手段
50:データ収集手段
51:気象データ収集手段
52:暦データ収集手段
53:水位データ収集手段
54:ポンプ揚水量データ収集手段
60:データ蓄積手段
70:下水流入量データ算出手段
80:分離手段
90:モデル構築手段
91:雨水流入量予測モデル構築手段
92:汚水流入量予測モデル構築手段
100,100’:予測手段
101:汚水流入量予測手段
102:雨水流入量予測手段
103:合算手段
104:補正手段
2:ネットワーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水ポンプ場または終末処理場のポンプ施設へ流入する下水の流入量を予測する下水流入量予測装置において、
気象実績及び気象予報についての気象データを収集する気象データ収集手段と、
暦についての暦データを収集する暦データ収集手段と、
ポンプ井内の下水の水位についての水位データを収集する水位データ収集手段と、
ポンプ井の下水のポンプ揚水量(送水量)についての揚水量データを収集するポンプ揚水量データ収集手段と、
暦データ、気象データ、水位データおよびポンプ揚水量データを蓄積するデータ蓄積手段と、
暦データ、水位データおよび揚水量データに基づいてポンプ井への下水流入量である下水流入量データを算出する下水流入量データ算出手段と、
下水流入量データを分離して汚水流入量データと雨水流入量データとを算出する分離手段と、
暦データを入力因子とし、また、汚水流入量データを出力因子とするような汚水流入量予測モデルを構築する汚水流入量予測モデル構築手段と、
気象データを入力因子とし、また、雨水流入量データを出力因子とするような雨水流入量予測モデルを構築する雨水流入量予測モデル構築手段と、
予測に必要な暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成する汚水流入量予測手段と、
予測に必要な気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成する雨水流入量予測手段と、
生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する合算手段と、
を有することを特徴とする下水流入量予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の下水流入量予測装置において、
前記汚水流入量予測モデルは、
特異データが除去された上で、暦データと汚水流入量データとが連関して登録され、暦データが入力されると対応する汚水流入量データが抽出されることで予測する事例ベース推論による予測モデルであることを特徴とする下水流入量予測装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の下水流入量予測装置において、
前記雨水流入量予測モデルはニューラルネットワークによる予測モデルであることを特徴とする下水流入量予測装置。
【請求項4】
請求項3に記載の下水流入量予測装置において、
前記雨水流入量予測モデルはn時間単位で雨水流量予測データを算出する予測モデルであり、
前記雨水流入量予測手段は、現在の雨水流量データと雨水流量予測データとを、または、隣接する二つの雨水流量予測データを補間することで時間間隔がn時間よりも短い雨水流量予測データを生成する手段であることを特徴とする下水流入量予測装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の下水流入量予測装置において、
下水流入量予測データを、過去の日時における下水流入量予測データと下水流入量データとから算出した誤差量より補正する補正手段を備えることを特徴とする下水流入量予測装置。
【請求項6】
請求項5に記載の下水流入量予測装置において、
前記補正手段は、過去の予測誤差を用いて未来の予測値を補正するときに、近い将来の予測値の補正量を大きく、遠い将来の予測値の補正量を小さくする手段であることを特徴とする下水流入量予測装置。
【請求項1】
下水ポンプ場または終末処理場のポンプ施設へ流入する下水の流入量を予測する下水流入量予測装置において、
気象実績及び気象予報についての気象データを収集する気象データ収集手段と、
暦についての暦データを収集する暦データ収集手段と、
ポンプ井内の下水の水位についての水位データを収集する水位データ収集手段と、
ポンプ井の下水のポンプ揚水量(送水量)についての揚水量データを収集するポンプ揚水量データ収集手段と、
暦データ、気象データ、水位データおよびポンプ揚水量データを蓄積するデータ蓄積手段と、
暦データ、水位データおよび揚水量データに基づいてポンプ井への下水流入量である下水流入量データを算出する下水流入量データ算出手段と、
下水流入量データを分離して汚水流入量データと雨水流入量データとを算出する分離手段と、
暦データを入力因子とし、また、汚水流入量データを出力因子とするような汚水流入量予測モデルを構築する汚水流入量予測モデル構築手段と、
気象データを入力因子とし、また、雨水流入量データを出力因子とするような雨水流入量予測モデルを構築する雨水流入量予測モデル構築手段と、
予測に必要な暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成する汚水流入量予測手段と、
予測に必要な気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成する雨水流入量予測手段と、
生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する合算手段と、
を有することを特徴とする下水流入量予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の下水流入量予測装置において、
前記汚水流入量予測モデルは、
特異データが除去された上で、暦データと汚水流入量データとが連関して登録され、暦データが入力されると対応する汚水流入量データが抽出されることで予測する事例ベース推論による予測モデルであることを特徴とする下水流入量予測装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の下水流入量予測装置において、
前記雨水流入量予測モデルはニューラルネットワークによる予測モデルであることを特徴とする下水流入量予測装置。
【請求項4】
請求項3に記載の下水流入量予測装置において、
前記雨水流入量予測モデルはn時間単位で雨水流量予測データを算出する予測モデルであり、
前記雨水流入量予測手段は、現在の雨水流量データと雨水流量予測データとを、または、隣接する二つの雨水流量予測データを補間することで時間間隔がn時間よりも短い雨水流量予測データを生成する手段であることを特徴とする下水流入量予測装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の下水流入量予測装置において、
下水流入量予測データを、過去の日時における下水流入量予測データと下水流入量データとから算出した誤差量より補正する補正手段を備えることを特徴とする下水流入量予測装置。
【請求項6】
請求項5に記載の下水流入量予測装置において、
前記補正手段は、過去の予測誤差を用いて未来の予測値を補正するときに、近い将来の予測値の補正量を大きく、遠い将来の予測値の補正量を小さくする手段であることを特徴とする下水流入量予測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−2401(P2006−2401A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178618(P2004−178618)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】
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