下肢協調性評価システム
【課題】被験者の転倒リスクの評価に用いられるリスク指標を客観的に抽出することによって精度の高い測定が可能な下肢協調性評価システムを提供する。
【解決手段】人体の所定の部位に加速度測定手段を装着し、歩行中又は運動中の前記所定の部位の上下方向、左右方向、及び/又は前後方向に生じる加速度を測定する。第一算出手段を用いて測定された加速度に基づいて、加速度センサ2が装着された部位毎に上下方向、左右方向及び/又は前後方向の加速度に関連する統計量を算出する。そして、算出された加速度に関連する統計量の中から転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出し、抽出された統計量に関連した情報をリスク指標として設定する。
【解決手段】人体の所定の部位に加速度測定手段を装着し、歩行中又は運動中の前記所定の部位の上下方向、左右方向、及び/又は前後方向に生じる加速度を測定する。第一算出手段を用いて測定された加速度に基づいて、加速度センサ2が装着された部位毎に上下方向、左右方向及び/又は前後方向の加速度に関連する統計量を算出する。そして、算出された加速度に関連する統計量の中から転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出し、抽出された統計量に関連した情報をリスク指標として設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者等の転倒リスクの評価を行うことができる下肢協調性評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者やスポーツ障害者等が歩行中等に転倒すると筋力を中心とした身体能力の低下から大きな怪我に発展する可能性が高くなる。そのため、予め個々の転倒リスクを認識することは非常に大切なことであると考えられている。
【0003】
一般的に、転倒は動的バランス能力と下肢筋力の低下に密接な関係があると考えられているため、動的バランス能力と下肢筋力とを転倒リスクに関連するリスク指標として用いられることが多い。そこで、動的バランスと下肢筋力とを測定する様々な方法が提案されている。
【0004】
例えば、携帯型3次元加速度センサを使い、通常歩行中の骨盤加速度と人体の背屈力とから下肢の衰えを検出する方法が提案されている(特許文献1)。
ところが、骨盤加速度のピークは歩行状態によって変動が大きく、また背屈力の加齢変化は個人差が大きいため、関節の可動域を考え合わすと骨盤加速度と背屈力とから下肢の衰えを測定できない恐れがある。
【0005】
そこで、本発明者らは、歩行中や運動中に身体に生じる加速度がリスク指標と密接に関連していることを見出し、加速度センサをつま先に装着することによって、つま先に生じる加速度を測定し転倒リスクの評価を行う方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】2007−125368号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第66回 日本公衆衛生学会総会(平成20年度)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載の技術は、転倒のリスクを評価する際に用いるリスク指標を客観的に決めることができないため、精度の高い転倒リスクの評価を行うことが困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、上記発明にさらなる改良を加え、転倒リスクの評価に用いられるリスク指標を客観的に決めることができ、これによって精度の高い転倒リスクの評価が可能な下肢協調性評価システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は以下の手段によって解決される。
本願請求項1に係る発明は、人体の所定の部位に装着され、前記所定の部位の歩行中又は運動中の上下方向、左右方向、及び/又は前後方向に生じる加速度を測定する加速度測定手段と,前記測定された加速度に基づいて、所定部位の上下方向、左右方向及び/又は前後方向それぞれに対して加速度に関連する統計量を算出する第一算出手段と、前記算出された加速度に関連する統計量の中から転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出し、前記抽出された統計量に関連した情報をリスク指標として設定する設定手段と、を備えたことを特徴とする下肢協調性評価システムである。
【0011】
本願請求項2に係る発明は、前記設定手段としてROC(receiver operating characteristic; 受信者動作特性)解析を用いて転倒リスクに用いる統計量を抽出し、抽出された統計量に関連するカットオフ値をリスク指標として設定する請求項1に記載の下肢協調性評価システムである。
【0012】
本願請求項3に係る発明は、前記設定されたリスク指標に基づいて、被験者の転倒リスクを評価する評価手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の下肢協調性評価システムである。
【0013】
本願請求項4に係る発明は、加速度測定手段を設置する所定の部位が、左右のつま先部、左右の膝関節部及び腰部である請求項1から3のいずれかに記載の下肢協調性評価システムである。
【0014】
本願請求項5に係る発明は、前記算出手段として、歩行動作中または運動動作中に生じた加速度の絶対値を歩行動作または運動動作が行われた一定時間に亘って積分し、その積分値を歩行動作または運動動作が行われた一定時間で割ることによって、加速度に関連する統計量を算出する請求項1から4のいずれかに記載の下肢協調評価システムである。
【発明の効果】
【0015】
本願請求項1に係る発明によれば、加速度測定手段が装着された部位の測定方向の中から転倒リスクの評価に適した統計量を抽出ができ、抽出された統計量に関連した情報をリスク指標として設定することができる。これによって、客観的なリスク指標の設定が可能となり、精度の高い転倒リスク評価が可能となる。
【0016】
本願請求項2に係る発明によれば、ROC解析を用いて転倒リスクの評価に適した統計量を抽出することができ、その統計量をリスク指標として用いることができるので、精度が高く優れている評価方法を抽出できる。
【0017】
本願請求項3に係る発明によれば、設定されたリスク指標を用いて被験者の転倒リスクの評価が可能となる。
【0018】
本願請求項4に係る発明によれば、左右のつま先部、左右の膝関節部及び腰部の歩行中または運動中の歩行中の上下方向、左右方向、及び/又は前後方向に生じる加速度を測定することができるさらに精度の高い測定が可能となる。
【0019】
本願請求項5に係る発明によれば、歩行動作中または運動動作中に生じた加速度の絶対値を歩行動作または運動動作が行われた一定時間に亘って積分し、その積分値を歩行動作または運動動作が行われた時間で割ることによって、加速度に関連する統計量を算出することができる。
【0020】
これによって、歩行動作または運動動作が行われた一定時間に生じた加速度を平均化できるので有効な統計量を用いての測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る下肢協調性評価システムの全体構成を示した図である。
【図2】(a)は腰部に装着された加速度センサ2eの測定方向を、(b)は右膝関節部と右つま先部とに装着された加速度センサ2dと2bとの測定方向を、それぞれ示した図である
【図3】データロガー及び下肢協調性評価装置のブロック図を示した図である。
【図4】表示部に表示される画面の一例を示した図である。
【図5】加速度波形データの一例を示した図である。
【図6】(a)、(b)は、リスク指標を抽出する際に測定を行う被験者の年齢・男女別の構成人数の一例を示した図である。
【図7】生活機能能力指標アンケートの一例を示した図である。
【図8】転倒リスクアセスメントアンケートの一例を示した図である。
【図9】生活機能能力指標のアンケート結果に基づいて被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図である。
【図10】図9の続きである。
【図11】図10の続きである。
【図12】図11の続きである。
【図13】図12の続きである。
【図14】ROC曲線を示した図である。
【図15】FRTの結果に基づいて被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図である。
【図16】図15の続きである。
【図17】図16の続きである。
【図18】図17の続きである。
【図19】図18の続きである。
【図20】転倒リスクアセスメントの結果に基づいて被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図である。
【図21】図20の続きである。
【図22】図21の続きである。
【図23】図23の続きである。
【図24】図23の続きである。
【図25】下肢筋力の結果に基づいて上記被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図である。
【図26】図25の続きの図である。
【図27】図26の続きの図である。
【図28】図27の続きの図である。
【図29】図28の続きの図である。
【図30】下肢協調評価システムを用いて、被験者5人に対して測定を行い、測定結果を示した被験者データテーブルの一例を示した図である。え
【図31】測定結果に基づいて転倒リスクを判定した結果を被験者に知らせるチラシの一例である。
【図32】下肢協調性評価装置の動作を示したフローチャートである。
【図33】データロガーの動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明を具体化した一形態に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0023】
本実施形態では、最初に被験者の転倒リスク評価に用いる統計量を抽出して、転倒と密接に関連のあるリスク指標を設定する。そのために、複数の被験者に対して各部位の加速度を測定し、部位毎の平均加速度を算出し、部位毎の平均加速度の中から転倒リスクの評価に用いるのに最適な統計量を抽出して、その後に抽出された統計量に関連するカットオフ値をリスク指標として設定する。
【0024】
そして、設定されたリスク指標に基づいて個々の被験者の転倒リスクの評価を行う。なお、本実施形態では、被験者に8秒間の直線歩行をしてもらいその間に生じた加速度の平均を算出し、これに基づいて統計量の抽出や転倒リスクの評価等を行うものとする。
【0025】
以下、下肢協調性評価システムの全体構成、被験者の転倒リスクの評価に用いるリスク指標の設定方法、及びリスク指標に基づいて転倒リスクを評価する方法について説明する。
【0026】
[システムの全体構成]
最初に、下肢協調性評価システムの全体構成を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る下肢協調性評価システムの全体構成を示した図である。
下肢協調性評価システム1は、図に示すように加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2e、データロガー3、下肢協調性評価装置4及びWEBカメラ5等を備え、WEBカメラ5と下肢協調性評価装置4とはUSBケーブル6で接続されている。
【0027】
加速センサ2a、2b、2c、2d及び2eは、加速度測定手段として用いられ図に示すようにそれぞれ左つま先部、右つま先部、左膝関節部、右膝関節部及び腰部に装着され、歩行中または運動中の前記部位の上下方向、左右方向、及び前後方向に生じる加速度を測定する。
また、加速センサ2a、2b、2c、2d及び2eには増幅回路、全波整流回路、平滑化回路及びコンバータ(いずれも図示しない)等が内蔵されており、アナログ信号である測定された加速度は増幅され、全波整流回路と平滑化回路とで直流に変換された後、コンバータによってデジタル信号に変換される。なお、以下では前記デジタル信号を加速度データといい、また、加速度データとは加速度の波形等を含むものをいう。
【0028】
データロガー3は、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eから加速度データを取り込み、取り込んだ加速度データを下肢協調性評価装置4にBluetooth等の通信手段により送信する他、下肢協調性評価装置4からの測定開始の指示及び測定終了の指示を受けて、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eに対して測定開始及び測定終了の制御を行う。
【0029】
下肢協調性評価装置4は、データロガー3からの加速度データに基づいて加速度に関連する統計量である平均加速度の算出、転倒リスクの評価及び前記評価結果の出力等を行うが、詳しくは後述する。
【0030】
WEBカメラ5は、640×480画素の画素数を有する電子カメラであり、USB規格にて下肢協調性評価装置4と接続して動画の撮像画像データを出力することが可能である。この実施形態では、上記したように被験者に8秒間直線歩行をしてもらい、その歩行状態を撮影する。
【0031】
次に、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eの身体への装着箇所と測定方向とを説明する。
加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eは、上記したようにそれぞれ左つま先部、右つま先部、左膝関節部、右膝関節部及び腰部に装着され、それぞれの部位の上下方向、左右方向及び前後方向に生じる加速度を測定する。
【0032】
図2(a)は腰部に装着された加速度センサ2eの測定方向を、図2(b)は右つま先部と右膝関節部とに装着された加速度センサ2bと2dとの測定方向を、それぞれ示した図である。
【0033】
腰部に装着された加速度センサ2eは、歩行中または運動中に生じた上下方向(U−D)、左右方向(L−R)及び前後方向(F−B)の加速度を測定する。また、右つま先部に装着された加速度センサ2bは、歩行中または運動中に生じた上下方向(U−D)、左右方向(L−R)及び前後方向(F−B)の加速度を測定する。
【0034】
さらに、加速度センサ2dは、右膝関節部の上方2cmの箇所に装着され歩行中または運動中に生じた上下方向(U−D)、左右方向(L−R)及び前後方向(F−B)の加速度を測定する。なお、左つま先部と左膝関節部とに装着された加速度センサ2a、2cの測定方向については右足の場合と同様なのでここでの詳細な説明は割愛する。
【0035】
次に、データロガー3と下肢協調性評価装置4との回路構成を、図3を参照しながら説明する。
データロガー3は、図に示すように制御部3a、信号取込部3b、RAM3c、及び通信部3d等を備えている。
【0036】
制御部3aは、データロガー3の全体を統括的に制御する他、下肢協調性評価装置4からの指示に基づいて加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eを制御する。
信号取込部3bは、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eから加速度データを取り込む。
【0037】
RAM3cは、信号取り込み部3cによって取り込まれた加速度データ等を一時的に保存する。
通信部3dは、加速度データを下肢協調性評価装置4に送信する他、下肢協調性評価装置4から測定開始の指示や測定終了の指示を受信する。
【0038】
下肢協調性評価装置4は、図3に示すように制御部4a、RAM4b、ROM4c、USBインターフェース(USBI/F)4d、通信部4e、処理部4f、データ保存部4g、印刷部4h、入力部4i及び表示部4j等を備えている。
【0039】
制御部4aは、下肢協調性評価装置4の全体を統括的に制御する他、統計解析処理(ROC解析)を行うことによって転倒リスクの評価に用いる統計量の抽出、抽出された統計量に関連するカットオフ値をリスク指標として設定及び転倒リスクの評価等を行うが、詳しくは後述する。
【0040】
RAM4bは、WEBカメラ5によって撮影された動画や、データロガー3からの加速度データ等を一時的に保存する。なお、RAM4bでは、制御部4aの制御の下、送信されてきた加速度データとWEBカメラ5で撮影された動画との同期が取られ、加速度波形データ表示画面41j(以下に示す)に表示される加速度波形と動画表示画面42j(以下に示す)に表示される動画とを同期させる。
ROM4cは、制御部4a等の実行するプログラム等が保存されている。
【0041】
USBインターフェース(USBI/F)4dは、USBケーブル6を介してWEBカメラ5と接続されており、WEBカメラ5によって撮影された動画を取り込む。
【0042】
通信部4eは、データロガー3とデータの送受信等を行うものである。
【0043】
処理部4fは、第一算出手段として用いられRAM4bから加速度データを取り出し、加速度センサが装着された部位毎に上下方向、左右方向及び前後方向に生じた加速度の平均を算出する。なお、平均加速度は、図5に示すように測定時間(8秒間)に生じた加速度に対して絶対値積分を行い、測定時間で除算することによって算出される。
【0044】
データ保存部4gは、WEBカメラ5によって撮影された動画、各部位の加速度の波形データ、リスク指標、及び予め測定者によって入力される生活機能能力指標アンケートの結果や下肢筋力の測定結果等(いずれも、以下に示す)を保存する。
【0045】
印刷部4hは、算出されたデータ等の印刷を行う。
入力部4iは、キーボードやマウス等からなりユーザからの測定開始や測定終了の指示等が入力される他、被験者の氏名、年齢等が入力されるものである。
【0046】
表示部4jは、ディスプレ等であり、入力部4iから入力されたデータ、測定結果及び被験者の年齢等、及びWEBカメラ5で撮影された動画等を表示するものである。
【0047】
図4は、表示部4jに表示される画面の一例を示した図である。
表示部4jは、図に示すように被験者データ表示画面40j、加速度波形データ表示画面41j、動画表示画面42j及び指示入力画面43j等を備えている。
【0048】
被験者データ表示画面40jは、被験者の氏名、年齢及び性別を表示する。
加速度波形データ表示画面41jは、被験者が歩行または運動を行うことによって腰、左つま先部、右つま先部、右膝関節部及び左膝関節部に生じた加速度の波形を表示する。
【0049】
図5は、加速度波形データ表示画面41jに表示される加速度の波形の一例を示した図であり、横軸に計測時間(s)を、縦軸に加速度(m/s2)を、それぞれとっている。
動画表示画面42jは、WEBカメラ5で撮影された動画を表示する。
【0050】
指示入力画面43jは、測定開始ボタン430j、測定終了ボタン431j、印刷ボタン432j、再生ボタン433j、分析ボタン434j、保存ボタン435j、システム設定ボタン436j及びシステム終了ボタン437j等から構成されている。
【0051】
測定開始ボタン430jは、測定者から測定開始の指示がなされる際に選択される。
測定終了ボタン431jは、測定者から測定終了の指示がなされる際に選択される。
【0052】
印刷ボタン432jは、測定データや測定結果等の印刷を行う際に選択される。
再生ボタン433jは、動画や加速度波形の再生を行う際に選択される。
【0053】
分析ボタン434jは、データロガー3から送信されてきた加速度データに基づいて平均加速度の算出や転倒リスクの評価等を行う際に選択される。
【0054】
保存ボタン435jは、WEBカメラ5によって撮影された動画や加速度の波形データ、平均加速度等をデータ保存部4gに保存する際に選択される。
【0055】
システム設定ボタン436jは、入力部4iからの被験者の氏名、年齢及び性別の入力方法の設定や、各種機能設定を行う際に選択される。
システム終了437jは、下肢協調性評価システム1の操作を終了する際に選択される。
【0056】
[リスク指標の設定方法]
次に、被験者の転倒リスクを評価する際に用いられる統計量の抽出方法やリスク指標の設定方法を説明する。
リスク指標は、複数の被験者に対して、以下に示す生活機能能力指標アンケート、転倒リスクアセスメントのアンケート、及びFRT(Function Reach Test)、下肢筋力の測定を行うことによって基礎データを収集し、前記基礎データと各部位の加速度の測定値とに基づいて統計解析処理(ROC解析)を行うことによって設定される。なお、転倒リスクを評価する際に用いられる統計量やリスク指標は、生活機能能力指標、転倒リスクアセスメント、FRT及び下肢筋力のそれぞれに対して抽出され、設定される。
【0057】
(基礎データ)
最初に、基礎データとして用いられる生活機能能力指標、転倒リスクアセスメント、FRT及び下肢筋力について説明する。
【0058】
図6に示すテーブル6aは、生活機能能力指標アンケート、転倒リスクアセスメントアンケート及びFRTの測定を行う被験者の年齢・男女別の構成人数の一例を示したものであり、本実施形態では、図に示すように男性129名、女性149の合計278名を対象とした。また、デーブル6bは、下肢筋力の測定を行う被験者の年齢・男女別の構成人数の一例を示したものであり、本実施形態では、図に示すように男子110名、女子122名の合計232名を対象とした。
【0059】
テーブル7は上記被験者の生活機能能力指標及び転倒リスクアセスメントのアンケート結果、FRT(Function Reach Test)及び下肢筋力の測定結果を示したものである。
【0060】
生活機能能力指標7aは、図7のテーブル9に示すように被験者対して食事、排泄、着脱衣、入浴、移動及び寝起き等の日常生活動作に必要な基本動作に関連するアンケートを実施してアンケート結果を数値化したものであり、被験者の身体活動能力や障害の程度を図るために使用される。
本実施形態ではアンケート結果に基づき13点未満の被験者をハイリスク群、13点以上の被験者をローリスク群として分類する。
【0061】
なお、ハイリスク群とは転倒リスクが高いと思われる被験者の集団であり、ローリスク群とは転倒リスクが低いと思われる被験者の集団である。これらは、測定者の経験等によって基準となる数値が決定される。また、ハイリスク群又はローリスク群に分類するための基準となる数値は予め測定者によって設定されデータ保存部4gに保存されており、アンケート結果や測定値等のデータが入力されると自動的にハイリスク群又はローリスク群のいずれかに分類される。
【0062】
転倒リスクアセスメント7bは、図8のテーブル10に示すようなアンケートを被験者に対して実施しアンケート結果を数値化したものである。なお。本実施形態では、アンケート結果に基づき10点以下の被験者をハイリスク群、11点以上の被験者をローリスク群として分類する。
【0063】
FRT(Function Reach Test)7cは、立位の状態から転倒せずに指先を前に伸ばせる距離を測定したものであり、本実施形態では15cm以下の被験者をハイリスク群、15cm超の被験者をローリスク群として分類する。
【0064】
下肢筋力7dは、被験者に対して下肢筋力測定装置等を用いて下肢筋力を測定したものである。なお、本実施形態では、下肢筋力が15kg未満の被験者をハイリスク群、下肢筋力が15kg以上の被験者をローリスク群として分類する。
【0065】
(加速度の測定値)
次に、上記基礎データと送信されてきた加速度データとに基づいて、転倒リスク評価に用いる統計量の抽出方法とリスク指標を設定方法とを説明する。なお、上記したように転倒リスクの評価に用いる統計量とリスク指標とは、生活機能能力指標、転倒リスクアセスメント、FRT及び下肢筋力のそれぞれについて抽出され、また設定される。
図9から図29は、上記被験者に対して加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eを用いて各部位の加速度を測定した後に求めた平均加速度に対し、その結果を年齢と平均加速度との関係のグラフで表し、上記アンケート結果と測定結果に基づいてスクリーニング検査を行った図である。なお、横軸に年齢(歳)を、縦軸(対数軸)に平均加速度(m/s2)を、それぞれとっている。なお、図9から図29においては平均加速度を単に加速度と表記する。
【0066】
[生活機能能力指標]
まず、生活機能能力指標に関する統計量の抽出方法及びリスク指標の設定方法について説明する。
図9から図13は、生活機能能力指標アンケート結果に基づいて被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図である。
なお、ハイリスク群に分類されて被験者を●で、ローリスク群に分類された被験者を○で、それぞれ示した。
【0067】
図9の(a)、(b)、(c)はそれぞれ腰前後、腰左右及び腰上下の分布図を、図10の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右膝関節前後、右膝関節左右及び右膝上下の分布図を、図11の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右つま先前後、右つま先左右及び右つま先上下の分布図を、それぞれ示している。
【0068】
また、図12の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左膝関節前後、左膝関節左右及び左膝関節上下の分布図を、図13の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左つま先前後、左つま先左右及び左つま先上下の分布図を、それぞれ示している。
【0069】
図14(a)、(b)は、腰前後、腰左右、腰上下、右膝関節前後、右膝関節左右、右膝関節上下、右つま先前後、右つま先左右、右つま先上下、左膝関節前後、左膝関節左右、左関節上下、左つま先前後、左つま先左右及び左つま先上下の中からリスク評価に用いる統計量を抽出するため、加速度(平均加速度)のカットオフ値を変化させることによってROC(receiver operating characteristic; 受信者動作特性)解析を行い、その結果を示したグラフ(ROC曲線)である。
【0070】
なお、図に示す縦軸は、敏感度(%)、横軸は100-特異度(%)をそれぞれ示している。ここで、抽出される統計量は、(敏感度、100-特異度)=(100,0)の点から最短距離にあるROC曲線に対応する統計量である。また、リスク指標として設定されるカットオフ値は、該点と最短距離を構成するROC曲線上の座標に対応する加速度に設定する。なお、リスク指標として設定するためには、母集団の分布を考え合わせて決める。
【0071】
図14に示すように、上記条件を満たすのは、「左つま先前後」の曲線であるから、左つま先前後の平均加速度測定値を転倒リスク評価を行う際の統計量として抽出する。なお、この場合のカットオフ値は、0.6である。また、ROC解析については公知技術であるので、ここでの詳細な説明は割愛する。
【0072】
[FRT]
次に、FRTに関するリスク指標の設定方法について説明する。
図15から図19は、FRTの測定結果に基づいて上記被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図であり、図に示す○は、FRTでローリスク群に分類された被験者を、●はFRTでハイリスク群に分類された被験者を、それぞれ示している。なお、縦軸に加速度(m/s2)を、横軸に年齢(歳)を、それぞれとっている。
【0073】
図15の(a)、(b)、(c)はそれぞれ腰前後、腰左右及び腰上下の分布図を、図16の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右膝関節前後、右膝関節左右及び右膝上下の分布図を、図17の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右つま先前後、右つま先左右及び右つま先上下の分布図を、それぞれ示している。
【0074】
また、図18の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左膝関節前後、左膝関節左右及び左膝関節上下の分布図を、図19の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左つま先前後、左つま先左右及び左つま先上下の分布図を、それぞれ示している。
【0075】
これらに対して、上記と同様にしてROC解析を行い転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出する。この場合、「右膝関節前後」の平均加速度測定値が転倒リスクの評価をする際の統計量として抽出される。なお、この場合のリスク指標として設定されるカットオフ値は、0.6である。
【0076】
[転倒リスクアセスメント]
次に、転倒リスクアセスメントに関するリスク指標の設定方法を説明する。
図20から図24は、転倒リスクアセスメントのアンケート結果に基づいて上記被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図であり、図に示す○は、転倒リスクアセスメントでローリスク群に分類された被験者を、●は転倒リスクアセスメントでハイリスク群に分類された被験者を、それぞれ示している。なお、縦軸に加速度(m/s2)を、横軸に年齢(歳)を、それぞれとっている。
【0077】
図20の(a)、(b)、(c)はそれぞれ腰前後、腰左右及び腰上下の分布図を、図21の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右膝関節前後、右膝関節左右及び右膝上下の分布図を、図22の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右つま先前後、右つま先左右及び右つま先上下の分布図を、それぞれ示している。
【0078】
また、図23の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左膝関節前後、左膝関節左右及び左膝関節上下の分布図を、図24の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左つま先前後、左つま先左右及び左つま先上下の分布図を、それぞれ示している。
【0079】
これらに対して、上記と同様にしてROC解析を行い、転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出する。この場合、「腰上下」の平均加速度測定値が転倒リスクの評価をする際の統計量として抽出される。なお、リスク指標として設定されるカットオフ値は、0.5である。
【0080】
[下肢筋力]
最後に下肢筋力に関するリスク指標の設定方法について説明する。
図25から図29は、下肢筋力の測定結果に基づいて上記被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図であり、図に示す○は下肢筋力が15kg未満であるローリスク群に分類された被験者を、●は下肢筋力が15kg以上であるハイリスク群に分類された被験者を、それぞれ示している。なお、縦軸に加速度(m/s2)を、横軸に年齢(歳)を、それぞれとっている。
【0081】
図25の(a)、(b)、(c)はそれぞれ腰前後、腰左右及び腰上下の分布図を、図26の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右膝関節前後、右膝関節左右及び右膝上下の分布図を、図27の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右つま先前後、右つま先左右及び右つま先上下の分布図を、それぞれ示した図である。
【0082】
また、図28の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左膝関節前後、左膝関節左右及び左膝関節上下の分布図を、図29の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左つま先前後、左つま先左右及び左つま先上下の分布図を、それぞれ示した図である。
【0083】
これらに対して、上記と同様にしてROC解析することによって転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出する。この場合、「右つま先前後」の平均加速度測定値が転倒リスク評価をする際の統計量として抽出される。なお、リスク指標として設定されるカットオフ値は、0.7である。
【0084】
以上にように、生活機能能力指標、転倒リスクアセスメント、FRT及び下肢筋力のそれぞれに対して転倒リスク評価の際に用いられる統計量が抽出され、またリスク指標が設定される。なお、それぞれの統計量、及びリスク指標の数値はデータ保存部4gに保存される。
【0085】
[転倒リスクの評価方法]
次に、個々の被験者に対する転倒リスクの評価方法を説明する。なお、転倒リスク評価の際に用いる統計量は上記方法にて抽出された統計量、即ち、「左つま先前後」、「右膝関節前後」、「腰上下」及び「右つま先前後」であり、リスク指標は上記設定されたものである。
まず初めに、被験者に対して上記と同様に、生活機能能力指標アンケート、転倒リスクアセスメントを実施し、FRT及び下肢筋力を測定する。次に、図2に示したように身体の各部位に加速度センサを装着し、8秒間の直線歩行をしてもらい各部位毎の平均加速度を算出する。
【0086】
図30は、上記方法にて、被験者5人(A,B,C,D,E,F)に対してアンケートや測定を行った際の結果等を示した被験者データテーブル15の一例を示した図である。
図に示すように、被験者情報15a、測定・アンケート結果15b、平均加速度測定値15c、判定基準15d及び合計得点15eから構成されている。
【0087】
被験者情報15aは被験者を識別するためのものであり、被験者に対して一意に割り振られた被験者番号、性別及び年齢から構成されている。なお、性別で「1」は男性を、「2」は女性を、それぞれ表している。
【0088】
測定・アンケート結果15bは、被験者に対して行った転倒リスクアセスメント及び生活機能能力指標のアンケート結果や、FRT及び下肢筋力の測定結果を表したものである。
【0089】
平均加速度測定値15cは、加速度センサを用いて右膝関節前後、左つま先前後、腰上下及び右つま先前後の加速度の測定を行い、その平均加速度を表したものである。
【0090】
判定基準15dは、リスク指標として設定された右膝関節部前後、左つま先部前後、腰上下及び右つま先部前後のカットオフ値と被験者の平均加速度とを比較して点数を割り当てたものである。即ち、カットオフ値と平均加速度測定値15cに記載された平均加速度測定値とを比較し、平均加速度測定値がカットオフ値よりも大きければ「1」を、カットオフ値よりも小さければ「0」を、それぞれ割り当てる。
【0091】
例えば、被験者番号Aの右膝関節前後の平均加速度測定値は0.58であり、一方設定された右膝関節前後のカットオフ値は0.5である。この場合、平均加速度測定値の方が大きいので「1」を割り当てる。また、被験者番号Bの右膝関節前後の平均加速度は0.48であり、カットオフ値よりも小さいので「0」を割り当てる。
【0092】
以下、左つま先前後の平均加速度測定値、腰上下の平均加速度測定値、右つま先前後の平均加速度測定値及び右膝関節前後の平均加速度測定と、それぞれのカットオフ値とを比較することによって「1」または「0」をそれぞれ割り当てる。
【0093】
以上のようにして、割り当てられた点数の合計得点15eが被験者の転倒リスクの評価である。
ここで、例えば合計点数が1点以下である場合転倒リスクが高いと測定者が考える場合、合計点数が1点以下の被験者に対して転倒リスクが高い旨を表示部4jに表示する又は/及び印刷部4hから印刷する設定をしておく。そして、合計点数が1点以下である被験者Aの測定結果を示す際には、転倒リスクが高い旨の表示又は/及び印刷を行うと共に、被験者Aに図31に示すチラシを配付して転倒注意を促す。
【0094】
以上のようにして、転倒リスクが高いと被験者に対して転倒予防を呼びかけることが可能となる。また、ROC解析によって各部位における測定結果から最適なリスク指標が抽出されるので精度の高い転倒予防が可能となる。
【0095】
(転倒リスク評価のフローチャート)
次に、被験者の転倒リスクの評価を行う際の下肢協調性評価装置4の動作を、図32に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、この動作は制御部4aがROM4c等に保存されているプログラムを実行することによって実現される。
【0096】
システム設定ボタン436jが選択され、通信モジュールアドレス設定、データと動画の同期条件設定、腰、右膝、右つま先、左膝及び左つま先の加速度の波形表示設定、被験者の氏名、性別等の被験者データの入力設定等のシステム設定が行われシステム設定が完了したか否かの判定が行われる(ステップS10)。なお、データ表示画面40jが選択されると被験者の氏名、年齢、性別等の被験者データの入力を行える。また、システム設定が完了した旨の指示は図示しない「設定完了」ボタンを選択することによって行う。
【0097】
システム設定が終了していない場合(ステップS10でNO)、入力がまだ行われているからシステム設定が終了するまで待つ。
一方、システム設定が終了した場合(ステップS10でYES)、測定開始ボタン430jが選択されることにより、測定開始の指示がされたか否かの判定が行われる(ステップS12)。
【0098】
測定開始の指示がされない場合(ステップS12でNO)、測定開始の指示があるまで待つ。一方、測定開始ボタン430jが選択され、測定開始の指示がされた場合(ステップS12でYES)、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eから測定を開始するために、通信部4eを介してデータロガー3に測定開始の指示を送信する(ステップS14)。
【0099】
WEBカメラ5からの被験者の撮影を開始し(ステップS16)、動画の取り込みを開始し(ステップS18)、データロガー3から加速度データの受信を開始し(ステップS20)、加速度データと動画との同期処理を行い(ステップS22)、同期処理された加速度データと動画とをRAM4bに一時保存する。
【0100】
次に、動画表示画面42jと加速度波形表示画面41jとに動画と加速度の波形をそれぞれ表示し(ステップS24)、測定終了ボタン431jが選択され、測定者から測定終了の指示がなされたか否かの判定を行う(ステップS26)。
終了指示がされない場合(ステップ26でNO)、ステップS18に戻り、動画の取り込みや加速度データの受信等を続ける。
【0101】
一方、終了指示がされた場合(ステップS26でYES)、加速度データの受信や動画の取り込み、動画表示画面42jと加速度波形表示画面41jとに表示されていた動画と加速度の波形との表示を終了させ、通信部4eを介してデータロガー3に終了指示が送信される(ステップS28)。
次に、保存ボタン435jが選択され、加速度データ等の保存指示がなされたか否かの判定が行われる(ステップS30)。
保存指示がない場合(ステップS30でNO)、システムの設定変更、再測定を行うためにステップS10に戻る。なお、保存しない旨の指示は、「再設定」ボタン(図示しない)を選択することによって行う。
【0102】
一方、保存指示がされた場合(ステップS30でYES)、動画や送信されてきた加速度データ等をデータ保存部4gに保存する(ステップS32)。
なお、この時、再生ボタン433jが選択されると動画や加速度波形が再生される。
分析ボタン434jが選択され、平均加速度の算出指示がされたか否かの判定が行われる(ステップS34)。
【0103】
指示されていない場合(ステップS34でNO)、ステップ10に戻る。なお、平均加速度を算出しない旨の指示は、「再設定」ボタン(図示しない)を選択することによって行う。
一方、分析ボタン434jが選択された場合(ステップS34でYES)、受信した加速度データから平均加速度の算出が行われ(ステップS36)、データ保存部4gに予め保存されているリスク指標を用いて転倒リスクの評価が行われ(ステップS38)、図30に示す被験者データテーブル15が作成される(ステップS40)。
【0104】
印刷ボタン432jが選択され印刷指示がなされたか否かの判定が行われる(ステップS42)。
【0105】
印刷指示がされていない場合(ステップS42でNO)、新たな被験者の測定を行うためにステップS10に戻る。なお、印刷を行わない旨の指示は、「再設定」ボタン(図示しない)を選択することによって行う。
一方、印刷指示がされた場合(ステップS42でYES)、被験者データテーブル15の印刷を行い(ステップS44)、システム終了ボタン437jが選択され終了指示がされたか否かの判定を行う(ステップS46)。
【0106】
システム終了の指示がされていない場合(ステップS46でNO)、新たな被験者の測定を行うためにステップS10に戻る。なお、終了しない旨の指示は、「再設定」ボタン(図示しない)を選択することによって行う。
一方、システム終了ボタン437jが選択され終了指示がなされた場合(ステップS46でYES)、データロガー3に終了指示を送信してシステムを終了させる。
【0107】
次に、データロガー3の動作を、図33に示すフローチャートを参照しながら説明する 。なお、この動作は制御部3aがROM(図示しない)に保存されているプログラムを実 行することにより実現される。
【0108】
下肢協調性評価装置4から測定開始の指示がなされたか否かの判定を行い(ステップS60)、指示がない場合(ステップS60でNO)、指示があるまで待つ。
【0109】
一方、測定開始の指示がされた場合(ステップS60でYES)、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eから各部位の測定を開始する(ステップS62)。
次に、信号取込部3cを介して加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eから加速度データを取り込み(ステップS64)、RAM3cに一時保存した後に、送信用加速度データを作成する(ステップS66)。
【0110】
次に、送信用加速度データを下肢協調性評価装置4に送信し(ステップS68)、下肢協調性評価装置4から測定終了の指示があったか否かの判定を行う(ステップS70)。
終了指示がないない場合(ステップS70でNO)、ステップ64に戻り、加速度データの取り込みを行う。
【0111】
一方、下肢協調性評価装置4から終了指示を受信すると(ステップS70でYES)、制御部3aは、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eの測定を終了させる。
【0112】
以上のように、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eによって、左右のつま先部、左右の膝関節部及び腰部の上下方向、左右方向、及び前後方向に生じる加速度が測定され、それぞれ平均加速度が算出され、それぞれの部位毎にROC解析を用いて最適な統計量が抽出され、前記統計量に関連するカットオフ値がリスク指標として設定される。
これによって、客観的なリスク指標の設定が可能となり、精度の高い転倒リスク評価が可能となる。
【0113】
また、各部位の測定された加速度統計量の中から、これまで転倒予防の指標として一般的に用いられてきた生活機能能力指標、転倒リスクアセスメント、FRT及び下肢筋力を加味して統計量が抽出され、リスク指標が設定される。これにより、従来の種々の転倒予防方法を取り込むことができるので、従来の測定方法と比較して、さらに精度の高い転倒リスクの評価が可能となる。
【0114】
なお、本実施形態では、下肢協調性評価装置4において、平均加速度を算出するものとしたが、これには限定されず、例えばデータロガー3において加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eからの加速度信号を増幅した後に全波整流し、さらに平滑化処理された電圧値に基づいて加速度に関連する統計量である平均加速度を自動的に算出して用いてもよい。
【0115】
また、本実施形態では被験者278名(下肢筋力においては232名)の加速度測定値のすべてをリスク指標の抽出する際に用いるものとしたが、これには限定されず、例えば測定値の最大値と最小値を取り除いた残りの測定値のみ用いるものとしても良い。これによって、例えば加速度センサの誤作動等によって生じる測定の異常値等が取り除かれ、さらに精度の高いリスク指標の抽出が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、高齢者や身体障害者等の転倒リスク評価に使用することができる。
【符号の説明】
【0117】
1・・・下肢協調性評価システム
2a、2b、2c、2d、2e・・・加速度センサ
3・・・データロガー
4・・・下肢協調性評価装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者等の転倒リスクの評価を行うことができる下肢協調性評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者やスポーツ障害者等が歩行中等に転倒すると筋力を中心とした身体能力の低下から大きな怪我に発展する可能性が高くなる。そのため、予め個々の転倒リスクを認識することは非常に大切なことであると考えられている。
【0003】
一般的に、転倒は動的バランス能力と下肢筋力の低下に密接な関係があると考えられているため、動的バランス能力と下肢筋力とを転倒リスクに関連するリスク指標として用いられることが多い。そこで、動的バランスと下肢筋力とを測定する様々な方法が提案されている。
【0004】
例えば、携帯型3次元加速度センサを使い、通常歩行中の骨盤加速度と人体の背屈力とから下肢の衰えを検出する方法が提案されている(特許文献1)。
ところが、骨盤加速度のピークは歩行状態によって変動が大きく、また背屈力の加齢変化は個人差が大きいため、関節の可動域を考え合わすと骨盤加速度と背屈力とから下肢の衰えを測定できない恐れがある。
【0005】
そこで、本発明者らは、歩行中や運動中に身体に生じる加速度がリスク指標と密接に関連していることを見出し、加速度センサをつま先に装着することによって、つま先に生じる加速度を測定し転倒リスクの評価を行う方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】2007−125368号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第66回 日本公衆衛生学会総会(平成20年度)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載の技術は、転倒のリスクを評価する際に用いるリスク指標を客観的に決めることができないため、精度の高い転倒リスクの評価を行うことが困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、上記発明にさらなる改良を加え、転倒リスクの評価に用いられるリスク指標を客観的に決めることができ、これによって精度の高い転倒リスクの評価が可能な下肢協調性評価システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は以下の手段によって解決される。
本願請求項1に係る発明は、人体の所定の部位に装着され、前記所定の部位の歩行中又は運動中の上下方向、左右方向、及び/又は前後方向に生じる加速度を測定する加速度測定手段と,前記測定された加速度に基づいて、所定部位の上下方向、左右方向及び/又は前後方向それぞれに対して加速度に関連する統計量を算出する第一算出手段と、前記算出された加速度に関連する統計量の中から転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出し、前記抽出された統計量に関連した情報をリスク指標として設定する設定手段と、を備えたことを特徴とする下肢協調性評価システムである。
【0011】
本願請求項2に係る発明は、前記設定手段としてROC(receiver operating characteristic; 受信者動作特性)解析を用いて転倒リスクに用いる統計量を抽出し、抽出された統計量に関連するカットオフ値をリスク指標として設定する請求項1に記載の下肢協調性評価システムである。
【0012】
本願請求項3に係る発明は、前記設定されたリスク指標に基づいて、被験者の転倒リスクを評価する評価手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の下肢協調性評価システムである。
【0013】
本願請求項4に係る発明は、加速度測定手段を設置する所定の部位が、左右のつま先部、左右の膝関節部及び腰部である請求項1から3のいずれかに記載の下肢協調性評価システムである。
【0014】
本願請求項5に係る発明は、前記算出手段として、歩行動作中または運動動作中に生じた加速度の絶対値を歩行動作または運動動作が行われた一定時間に亘って積分し、その積分値を歩行動作または運動動作が行われた一定時間で割ることによって、加速度に関連する統計量を算出する請求項1から4のいずれかに記載の下肢協調評価システムである。
【発明の効果】
【0015】
本願請求項1に係る発明によれば、加速度測定手段が装着された部位の測定方向の中から転倒リスクの評価に適した統計量を抽出ができ、抽出された統計量に関連した情報をリスク指標として設定することができる。これによって、客観的なリスク指標の設定が可能となり、精度の高い転倒リスク評価が可能となる。
【0016】
本願請求項2に係る発明によれば、ROC解析を用いて転倒リスクの評価に適した統計量を抽出することができ、その統計量をリスク指標として用いることができるので、精度が高く優れている評価方法を抽出できる。
【0017】
本願請求項3に係る発明によれば、設定されたリスク指標を用いて被験者の転倒リスクの評価が可能となる。
【0018】
本願請求項4に係る発明によれば、左右のつま先部、左右の膝関節部及び腰部の歩行中または運動中の歩行中の上下方向、左右方向、及び/又は前後方向に生じる加速度を測定することができるさらに精度の高い測定が可能となる。
【0019】
本願請求項5に係る発明によれば、歩行動作中または運動動作中に生じた加速度の絶対値を歩行動作または運動動作が行われた一定時間に亘って積分し、その積分値を歩行動作または運動動作が行われた時間で割ることによって、加速度に関連する統計量を算出することができる。
【0020】
これによって、歩行動作または運動動作が行われた一定時間に生じた加速度を平均化できるので有効な統計量を用いての測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る下肢協調性評価システムの全体構成を示した図である。
【図2】(a)は腰部に装着された加速度センサ2eの測定方向を、(b)は右膝関節部と右つま先部とに装着された加速度センサ2dと2bとの測定方向を、それぞれ示した図である
【図3】データロガー及び下肢協調性評価装置のブロック図を示した図である。
【図4】表示部に表示される画面の一例を示した図である。
【図5】加速度波形データの一例を示した図である。
【図6】(a)、(b)は、リスク指標を抽出する際に測定を行う被験者の年齢・男女別の構成人数の一例を示した図である。
【図7】生活機能能力指標アンケートの一例を示した図である。
【図8】転倒リスクアセスメントアンケートの一例を示した図である。
【図9】生活機能能力指標のアンケート結果に基づいて被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図である。
【図10】図9の続きである。
【図11】図10の続きである。
【図12】図11の続きである。
【図13】図12の続きである。
【図14】ROC曲線を示した図である。
【図15】FRTの結果に基づいて被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図である。
【図16】図15の続きである。
【図17】図16の続きである。
【図18】図17の続きである。
【図19】図18の続きである。
【図20】転倒リスクアセスメントの結果に基づいて被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図である。
【図21】図20の続きである。
【図22】図21の続きである。
【図23】図23の続きである。
【図24】図23の続きである。
【図25】下肢筋力の結果に基づいて上記被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図である。
【図26】図25の続きの図である。
【図27】図26の続きの図である。
【図28】図27の続きの図である。
【図29】図28の続きの図である。
【図30】下肢協調評価システムを用いて、被験者5人に対して測定を行い、測定結果を示した被験者データテーブルの一例を示した図である。え
【図31】測定結果に基づいて転倒リスクを判定した結果を被験者に知らせるチラシの一例である。
【図32】下肢協調性評価装置の動作を示したフローチャートである。
【図33】データロガーの動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明を具体化した一形態に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0023】
本実施形態では、最初に被験者の転倒リスク評価に用いる統計量を抽出して、転倒と密接に関連のあるリスク指標を設定する。そのために、複数の被験者に対して各部位の加速度を測定し、部位毎の平均加速度を算出し、部位毎の平均加速度の中から転倒リスクの評価に用いるのに最適な統計量を抽出して、その後に抽出された統計量に関連するカットオフ値をリスク指標として設定する。
【0024】
そして、設定されたリスク指標に基づいて個々の被験者の転倒リスクの評価を行う。なお、本実施形態では、被験者に8秒間の直線歩行をしてもらいその間に生じた加速度の平均を算出し、これに基づいて統計量の抽出や転倒リスクの評価等を行うものとする。
【0025】
以下、下肢協調性評価システムの全体構成、被験者の転倒リスクの評価に用いるリスク指標の設定方法、及びリスク指標に基づいて転倒リスクを評価する方法について説明する。
【0026】
[システムの全体構成]
最初に、下肢協調性評価システムの全体構成を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る下肢協調性評価システムの全体構成を示した図である。
下肢協調性評価システム1は、図に示すように加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2e、データロガー3、下肢協調性評価装置4及びWEBカメラ5等を備え、WEBカメラ5と下肢協調性評価装置4とはUSBケーブル6で接続されている。
【0027】
加速センサ2a、2b、2c、2d及び2eは、加速度測定手段として用いられ図に示すようにそれぞれ左つま先部、右つま先部、左膝関節部、右膝関節部及び腰部に装着され、歩行中または運動中の前記部位の上下方向、左右方向、及び前後方向に生じる加速度を測定する。
また、加速センサ2a、2b、2c、2d及び2eには増幅回路、全波整流回路、平滑化回路及びコンバータ(いずれも図示しない)等が内蔵されており、アナログ信号である測定された加速度は増幅され、全波整流回路と平滑化回路とで直流に変換された後、コンバータによってデジタル信号に変換される。なお、以下では前記デジタル信号を加速度データといい、また、加速度データとは加速度の波形等を含むものをいう。
【0028】
データロガー3は、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eから加速度データを取り込み、取り込んだ加速度データを下肢協調性評価装置4にBluetooth等の通信手段により送信する他、下肢協調性評価装置4からの測定開始の指示及び測定終了の指示を受けて、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eに対して測定開始及び測定終了の制御を行う。
【0029】
下肢協調性評価装置4は、データロガー3からの加速度データに基づいて加速度に関連する統計量である平均加速度の算出、転倒リスクの評価及び前記評価結果の出力等を行うが、詳しくは後述する。
【0030】
WEBカメラ5は、640×480画素の画素数を有する電子カメラであり、USB規格にて下肢協調性評価装置4と接続して動画の撮像画像データを出力することが可能である。この実施形態では、上記したように被験者に8秒間直線歩行をしてもらい、その歩行状態を撮影する。
【0031】
次に、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eの身体への装着箇所と測定方向とを説明する。
加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eは、上記したようにそれぞれ左つま先部、右つま先部、左膝関節部、右膝関節部及び腰部に装着され、それぞれの部位の上下方向、左右方向及び前後方向に生じる加速度を測定する。
【0032】
図2(a)は腰部に装着された加速度センサ2eの測定方向を、図2(b)は右つま先部と右膝関節部とに装着された加速度センサ2bと2dとの測定方向を、それぞれ示した図である。
【0033】
腰部に装着された加速度センサ2eは、歩行中または運動中に生じた上下方向(U−D)、左右方向(L−R)及び前後方向(F−B)の加速度を測定する。また、右つま先部に装着された加速度センサ2bは、歩行中または運動中に生じた上下方向(U−D)、左右方向(L−R)及び前後方向(F−B)の加速度を測定する。
【0034】
さらに、加速度センサ2dは、右膝関節部の上方2cmの箇所に装着され歩行中または運動中に生じた上下方向(U−D)、左右方向(L−R)及び前後方向(F−B)の加速度を測定する。なお、左つま先部と左膝関節部とに装着された加速度センサ2a、2cの測定方向については右足の場合と同様なのでここでの詳細な説明は割愛する。
【0035】
次に、データロガー3と下肢協調性評価装置4との回路構成を、図3を参照しながら説明する。
データロガー3は、図に示すように制御部3a、信号取込部3b、RAM3c、及び通信部3d等を備えている。
【0036】
制御部3aは、データロガー3の全体を統括的に制御する他、下肢協調性評価装置4からの指示に基づいて加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eを制御する。
信号取込部3bは、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eから加速度データを取り込む。
【0037】
RAM3cは、信号取り込み部3cによって取り込まれた加速度データ等を一時的に保存する。
通信部3dは、加速度データを下肢協調性評価装置4に送信する他、下肢協調性評価装置4から測定開始の指示や測定終了の指示を受信する。
【0038】
下肢協調性評価装置4は、図3に示すように制御部4a、RAM4b、ROM4c、USBインターフェース(USBI/F)4d、通信部4e、処理部4f、データ保存部4g、印刷部4h、入力部4i及び表示部4j等を備えている。
【0039】
制御部4aは、下肢協調性評価装置4の全体を統括的に制御する他、統計解析処理(ROC解析)を行うことによって転倒リスクの評価に用いる統計量の抽出、抽出された統計量に関連するカットオフ値をリスク指標として設定及び転倒リスクの評価等を行うが、詳しくは後述する。
【0040】
RAM4bは、WEBカメラ5によって撮影された動画や、データロガー3からの加速度データ等を一時的に保存する。なお、RAM4bでは、制御部4aの制御の下、送信されてきた加速度データとWEBカメラ5で撮影された動画との同期が取られ、加速度波形データ表示画面41j(以下に示す)に表示される加速度波形と動画表示画面42j(以下に示す)に表示される動画とを同期させる。
ROM4cは、制御部4a等の実行するプログラム等が保存されている。
【0041】
USBインターフェース(USBI/F)4dは、USBケーブル6を介してWEBカメラ5と接続されており、WEBカメラ5によって撮影された動画を取り込む。
【0042】
通信部4eは、データロガー3とデータの送受信等を行うものである。
【0043】
処理部4fは、第一算出手段として用いられRAM4bから加速度データを取り出し、加速度センサが装着された部位毎に上下方向、左右方向及び前後方向に生じた加速度の平均を算出する。なお、平均加速度は、図5に示すように測定時間(8秒間)に生じた加速度に対して絶対値積分を行い、測定時間で除算することによって算出される。
【0044】
データ保存部4gは、WEBカメラ5によって撮影された動画、各部位の加速度の波形データ、リスク指標、及び予め測定者によって入力される生活機能能力指標アンケートの結果や下肢筋力の測定結果等(いずれも、以下に示す)を保存する。
【0045】
印刷部4hは、算出されたデータ等の印刷を行う。
入力部4iは、キーボードやマウス等からなりユーザからの測定開始や測定終了の指示等が入力される他、被験者の氏名、年齢等が入力されるものである。
【0046】
表示部4jは、ディスプレ等であり、入力部4iから入力されたデータ、測定結果及び被験者の年齢等、及びWEBカメラ5で撮影された動画等を表示するものである。
【0047】
図4は、表示部4jに表示される画面の一例を示した図である。
表示部4jは、図に示すように被験者データ表示画面40j、加速度波形データ表示画面41j、動画表示画面42j及び指示入力画面43j等を備えている。
【0048】
被験者データ表示画面40jは、被験者の氏名、年齢及び性別を表示する。
加速度波形データ表示画面41jは、被験者が歩行または運動を行うことによって腰、左つま先部、右つま先部、右膝関節部及び左膝関節部に生じた加速度の波形を表示する。
【0049】
図5は、加速度波形データ表示画面41jに表示される加速度の波形の一例を示した図であり、横軸に計測時間(s)を、縦軸に加速度(m/s2)を、それぞれとっている。
動画表示画面42jは、WEBカメラ5で撮影された動画を表示する。
【0050】
指示入力画面43jは、測定開始ボタン430j、測定終了ボタン431j、印刷ボタン432j、再生ボタン433j、分析ボタン434j、保存ボタン435j、システム設定ボタン436j及びシステム終了ボタン437j等から構成されている。
【0051】
測定開始ボタン430jは、測定者から測定開始の指示がなされる際に選択される。
測定終了ボタン431jは、測定者から測定終了の指示がなされる際に選択される。
【0052】
印刷ボタン432jは、測定データや測定結果等の印刷を行う際に選択される。
再生ボタン433jは、動画や加速度波形の再生を行う際に選択される。
【0053】
分析ボタン434jは、データロガー3から送信されてきた加速度データに基づいて平均加速度の算出や転倒リスクの評価等を行う際に選択される。
【0054】
保存ボタン435jは、WEBカメラ5によって撮影された動画や加速度の波形データ、平均加速度等をデータ保存部4gに保存する際に選択される。
【0055】
システム設定ボタン436jは、入力部4iからの被験者の氏名、年齢及び性別の入力方法の設定や、各種機能設定を行う際に選択される。
システム終了437jは、下肢協調性評価システム1の操作を終了する際に選択される。
【0056】
[リスク指標の設定方法]
次に、被験者の転倒リスクを評価する際に用いられる統計量の抽出方法やリスク指標の設定方法を説明する。
リスク指標は、複数の被験者に対して、以下に示す生活機能能力指標アンケート、転倒リスクアセスメントのアンケート、及びFRT(Function Reach Test)、下肢筋力の測定を行うことによって基礎データを収集し、前記基礎データと各部位の加速度の測定値とに基づいて統計解析処理(ROC解析)を行うことによって設定される。なお、転倒リスクを評価する際に用いられる統計量やリスク指標は、生活機能能力指標、転倒リスクアセスメント、FRT及び下肢筋力のそれぞれに対して抽出され、設定される。
【0057】
(基礎データ)
最初に、基礎データとして用いられる生活機能能力指標、転倒リスクアセスメント、FRT及び下肢筋力について説明する。
【0058】
図6に示すテーブル6aは、生活機能能力指標アンケート、転倒リスクアセスメントアンケート及びFRTの測定を行う被験者の年齢・男女別の構成人数の一例を示したものであり、本実施形態では、図に示すように男性129名、女性149の合計278名を対象とした。また、デーブル6bは、下肢筋力の測定を行う被験者の年齢・男女別の構成人数の一例を示したものであり、本実施形態では、図に示すように男子110名、女子122名の合計232名を対象とした。
【0059】
テーブル7は上記被験者の生活機能能力指標及び転倒リスクアセスメントのアンケート結果、FRT(Function Reach Test)及び下肢筋力の測定結果を示したものである。
【0060】
生活機能能力指標7aは、図7のテーブル9に示すように被験者対して食事、排泄、着脱衣、入浴、移動及び寝起き等の日常生活動作に必要な基本動作に関連するアンケートを実施してアンケート結果を数値化したものであり、被験者の身体活動能力や障害の程度を図るために使用される。
本実施形態ではアンケート結果に基づき13点未満の被験者をハイリスク群、13点以上の被験者をローリスク群として分類する。
【0061】
なお、ハイリスク群とは転倒リスクが高いと思われる被験者の集団であり、ローリスク群とは転倒リスクが低いと思われる被験者の集団である。これらは、測定者の経験等によって基準となる数値が決定される。また、ハイリスク群又はローリスク群に分類するための基準となる数値は予め測定者によって設定されデータ保存部4gに保存されており、アンケート結果や測定値等のデータが入力されると自動的にハイリスク群又はローリスク群のいずれかに分類される。
【0062】
転倒リスクアセスメント7bは、図8のテーブル10に示すようなアンケートを被験者に対して実施しアンケート結果を数値化したものである。なお。本実施形態では、アンケート結果に基づき10点以下の被験者をハイリスク群、11点以上の被験者をローリスク群として分類する。
【0063】
FRT(Function Reach Test)7cは、立位の状態から転倒せずに指先を前に伸ばせる距離を測定したものであり、本実施形態では15cm以下の被験者をハイリスク群、15cm超の被験者をローリスク群として分類する。
【0064】
下肢筋力7dは、被験者に対して下肢筋力測定装置等を用いて下肢筋力を測定したものである。なお、本実施形態では、下肢筋力が15kg未満の被験者をハイリスク群、下肢筋力が15kg以上の被験者をローリスク群として分類する。
【0065】
(加速度の測定値)
次に、上記基礎データと送信されてきた加速度データとに基づいて、転倒リスク評価に用いる統計量の抽出方法とリスク指標を設定方法とを説明する。なお、上記したように転倒リスクの評価に用いる統計量とリスク指標とは、生活機能能力指標、転倒リスクアセスメント、FRT及び下肢筋力のそれぞれについて抽出され、また設定される。
図9から図29は、上記被験者に対して加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eを用いて各部位の加速度を測定した後に求めた平均加速度に対し、その結果を年齢と平均加速度との関係のグラフで表し、上記アンケート結果と測定結果に基づいてスクリーニング検査を行った図である。なお、横軸に年齢(歳)を、縦軸(対数軸)に平均加速度(m/s2)を、それぞれとっている。なお、図9から図29においては平均加速度を単に加速度と表記する。
【0066】
[生活機能能力指標]
まず、生活機能能力指標に関する統計量の抽出方法及びリスク指標の設定方法について説明する。
図9から図13は、生活機能能力指標アンケート結果に基づいて被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図である。
なお、ハイリスク群に分類されて被験者を●で、ローリスク群に分類された被験者を○で、それぞれ示した。
【0067】
図9の(a)、(b)、(c)はそれぞれ腰前後、腰左右及び腰上下の分布図を、図10の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右膝関節前後、右膝関節左右及び右膝上下の分布図を、図11の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右つま先前後、右つま先左右及び右つま先上下の分布図を、それぞれ示している。
【0068】
また、図12の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左膝関節前後、左膝関節左右及び左膝関節上下の分布図を、図13の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左つま先前後、左つま先左右及び左つま先上下の分布図を、それぞれ示している。
【0069】
図14(a)、(b)は、腰前後、腰左右、腰上下、右膝関節前後、右膝関節左右、右膝関節上下、右つま先前後、右つま先左右、右つま先上下、左膝関節前後、左膝関節左右、左関節上下、左つま先前後、左つま先左右及び左つま先上下の中からリスク評価に用いる統計量を抽出するため、加速度(平均加速度)のカットオフ値を変化させることによってROC(receiver operating characteristic; 受信者動作特性)解析を行い、その結果を示したグラフ(ROC曲線)である。
【0070】
なお、図に示す縦軸は、敏感度(%)、横軸は100-特異度(%)をそれぞれ示している。ここで、抽出される統計量は、(敏感度、100-特異度)=(100,0)の点から最短距離にあるROC曲線に対応する統計量である。また、リスク指標として設定されるカットオフ値は、該点と最短距離を構成するROC曲線上の座標に対応する加速度に設定する。なお、リスク指標として設定するためには、母集団の分布を考え合わせて決める。
【0071】
図14に示すように、上記条件を満たすのは、「左つま先前後」の曲線であるから、左つま先前後の平均加速度測定値を転倒リスク評価を行う際の統計量として抽出する。なお、この場合のカットオフ値は、0.6である。また、ROC解析については公知技術であるので、ここでの詳細な説明は割愛する。
【0072】
[FRT]
次に、FRTに関するリスク指標の設定方法について説明する。
図15から図19は、FRTの測定結果に基づいて上記被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図であり、図に示す○は、FRTでローリスク群に分類された被験者を、●はFRTでハイリスク群に分類された被験者を、それぞれ示している。なお、縦軸に加速度(m/s2)を、横軸に年齢(歳)を、それぞれとっている。
【0073】
図15の(a)、(b)、(c)はそれぞれ腰前後、腰左右及び腰上下の分布図を、図16の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右膝関節前後、右膝関節左右及び右膝上下の分布図を、図17の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右つま先前後、右つま先左右及び右つま先上下の分布図を、それぞれ示している。
【0074】
また、図18の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左膝関節前後、左膝関節左右及び左膝関節上下の分布図を、図19の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左つま先前後、左つま先左右及び左つま先上下の分布図を、それぞれ示している。
【0075】
これらに対して、上記と同様にしてROC解析を行い転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出する。この場合、「右膝関節前後」の平均加速度測定値が転倒リスクの評価をする際の統計量として抽出される。なお、この場合のリスク指標として設定されるカットオフ値は、0.6である。
【0076】
[転倒リスクアセスメント]
次に、転倒リスクアセスメントに関するリスク指標の設定方法を説明する。
図20から図24は、転倒リスクアセスメントのアンケート結果に基づいて上記被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図であり、図に示す○は、転倒リスクアセスメントでローリスク群に分類された被験者を、●は転倒リスクアセスメントでハイリスク群に分類された被験者を、それぞれ示している。なお、縦軸に加速度(m/s2)を、横軸に年齢(歳)を、それぞれとっている。
【0077】
図20の(a)、(b)、(c)はそれぞれ腰前後、腰左右及び腰上下の分布図を、図21の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右膝関節前後、右膝関節左右及び右膝上下の分布図を、図22の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右つま先前後、右つま先左右及び右つま先上下の分布図を、それぞれ示している。
【0078】
また、図23の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左膝関節前後、左膝関節左右及び左膝関節上下の分布図を、図24の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左つま先前後、左つま先左右及び左つま先上下の分布図を、それぞれ示している。
【0079】
これらに対して、上記と同様にしてROC解析を行い、転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出する。この場合、「腰上下」の平均加速度測定値が転倒リスクの評価をする際の統計量として抽出される。なお、リスク指標として設定されるカットオフ値は、0.5である。
【0080】
[下肢筋力]
最後に下肢筋力に関するリスク指標の設定方法について説明する。
図25から図29は、下肢筋力の測定結果に基づいて上記被験者に対してスクリーニング検査を行った結果を示した図であり、図に示す○は下肢筋力が15kg未満であるローリスク群に分類された被験者を、●は下肢筋力が15kg以上であるハイリスク群に分類された被験者を、それぞれ示している。なお、縦軸に加速度(m/s2)を、横軸に年齢(歳)を、それぞれとっている。
【0081】
図25の(a)、(b)、(c)はそれぞれ腰前後、腰左右及び腰上下の分布図を、図26の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右膝関節前後、右膝関節左右及び右膝上下の分布図を、図27の(a)、(b)、(c)はそれぞれ右つま先前後、右つま先左右及び右つま先上下の分布図を、それぞれ示した図である。
【0082】
また、図28の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左膝関節前後、左膝関節左右及び左膝関節上下の分布図を、図29の(a)、(b)、(c)はそれぞれ左つま先前後、左つま先左右及び左つま先上下の分布図を、それぞれ示した図である。
【0083】
これらに対して、上記と同様にしてROC解析することによって転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出する。この場合、「右つま先前後」の平均加速度測定値が転倒リスク評価をする際の統計量として抽出される。なお、リスク指標として設定されるカットオフ値は、0.7である。
【0084】
以上にように、生活機能能力指標、転倒リスクアセスメント、FRT及び下肢筋力のそれぞれに対して転倒リスク評価の際に用いられる統計量が抽出され、またリスク指標が設定される。なお、それぞれの統計量、及びリスク指標の数値はデータ保存部4gに保存される。
【0085】
[転倒リスクの評価方法]
次に、個々の被験者に対する転倒リスクの評価方法を説明する。なお、転倒リスク評価の際に用いる統計量は上記方法にて抽出された統計量、即ち、「左つま先前後」、「右膝関節前後」、「腰上下」及び「右つま先前後」であり、リスク指標は上記設定されたものである。
まず初めに、被験者に対して上記と同様に、生活機能能力指標アンケート、転倒リスクアセスメントを実施し、FRT及び下肢筋力を測定する。次に、図2に示したように身体の各部位に加速度センサを装着し、8秒間の直線歩行をしてもらい各部位毎の平均加速度を算出する。
【0086】
図30は、上記方法にて、被験者5人(A,B,C,D,E,F)に対してアンケートや測定を行った際の結果等を示した被験者データテーブル15の一例を示した図である。
図に示すように、被験者情報15a、測定・アンケート結果15b、平均加速度測定値15c、判定基準15d及び合計得点15eから構成されている。
【0087】
被験者情報15aは被験者を識別するためのものであり、被験者に対して一意に割り振られた被験者番号、性別及び年齢から構成されている。なお、性別で「1」は男性を、「2」は女性を、それぞれ表している。
【0088】
測定・アンケート結果15bは、被験者に対して行った転倒リスクアセスメント及び生活機能能力指標のアンケート結果や、FRT及び下肢筋力の測定結果を表したものである。
【0089】
平均加速度測定値15cは、加速度センサを用いて右膝関節前後、左つま先前後、腰上下及び右つま先前後の加速度の測定を行い、その平均加速度を表したものである。
【0090】
判定基準15dは、リスク指標として設定された右膝関節部前後、左つま先部前後、腰上下及び右つま先部前後のカットオフ値と被験者の平均加速度とを比較して点数を割り当てたものである。即ち、カットオフ値と平均加速度測定値15cに記載された平均加速度測定値とを比較し、平均加速度測定値がカットオフ値よりも大きければ「1」を、カットオフ値よりも小さければ「0」を、それぞれ割り当てる。
【0091】
例えば、被験者番号Aの右膝関節前後の平均加速度測定値は0.58であり、一方設定された右膝関節前後のカットオフ値は0.5である。この場合、平均加速度測定値の方が大きいので「1」を割り当てる。また、被験者番号Bの右膝関節前後の平均加速度は0.48であり、カットオフ値よりも小さいので「0」を割り当てる。
【0092】
以下、左つま先前後の平均加速度測定値、腰上下の平均加速度測定値、右つま先前後の平均加速度測定値及び右膝関節前後の平均加速度測定と、それぞれのカットオフ値とを比較することによって「1」または「0」をそれぞれ割り当てる。
【0093】
以上のようにして、割り当てられた点数の合計得点15eが被験者の転倒リスクの評価である。
ここで、例えば合計点数が1点以下である場合転倒リスクが高いと測定者が考える場合、合計点数が1点以下の被験者に対して転倒リスクが高い旨を表示部4jに表示する又は/及び印刷部4hから印刷する設定をしておく。そして、合計点数が1点以下である被験者Aの測定結果を示す際には、転倒リスクが高い旨の表示又は/及び印刷を行うと共に、被験者Aに図31に示すチラシを配付して転倒注意を促す。
【0094】
以上のようにして、転倒リスクが高いと被験者に対して転倒予防を呼びかけることが可能となる。また、ROC解析によって各部位における測定結果から最適なリスク指標が抽出されるので精度の高い転倒予防が可能となる。
【0095】
(転倒リスク評価のフローチャート)
次に、被験者の転倒リスクの評価を行う際の下肢協調性評価装置4の動作を、図32に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、この動作は制御部4aがROM4c等に保存されているプログラムを実行することによって実現される。
【0096】
システム設定ボタン436jが選択され、通信モジュールアドレス設定、データと動画の同期条件設定、腰、右膝、右つま先、左膝及び左つま先の加速度の波形表示設定、被験者の氏名、性別等の被験者データの入力設定等のシステム設定が行われシステム設定が完了したか否かの判定が行われる(ステップS10)。なお、データ表示画面40jが選択されると被験者の氏名、年齢、性別等の被験者データの入力を行える。また、システム設定が完了した旨の指示は図示しない「設定完了」ボタンを選択することによって行う。
【0097】
システム設定が終了していない場合(ステップS10でNO)、入力がまだ行われているからシステム設定が終了するまで待つ。
一方、システム設定が終了した場合(ステップS10でYES)、測定開始ボタン430jが選択されることにより、測定開始の指示がされたか否かの判定が行われる(ステップS12)。
【0098】
測定開始の指示がされない場合(ステップS12でNO)、測定開始の指示があるまで待つ。一方、測定開始ボタン430jが選択され、測定開始の指示がされた場合(ステップS12でYES)、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eから測定を開始するために、通信部4eを介してデータロガー3に測定開始の指示を送信する(ステップS14)。
【0099】
WEBカメラ5からの被験者の撮影を開始し(ステップS16)、動画の取り込みを開始し(ステップS18)、データロガー3から加速度データの受信を開始し(ステップS20)、加速度データと動画との同期処理を行い(ステップS22)、同期処理された加速度データと動画とをRAM4bに一時保存する。
【0100】
次に、動画表示画面42jと加速度波形表示画面41jとに動画と加速度の波形をそれぞれ表示し(ステップS24)、測定終了ボタン431jが選択され、測定者から測定終了の指示がなされたか否かの判定を行う(ステップS26)。
終了指示がされない場合(ステップ26でNO)、ステップS18に戻り、動画の取り込みや加速度データの受信等を続ける。
【0101】
一方、終了指示がされた場合(ステップS26でYES)、加速度データの受信や動画の取り込み、動画表示画面42jと加速度波形表示画面41jとに表示されていた動画と加速度の波形との表示を終了させ、通信部4eを介してデータロガー3に終了指示が送信される(ステップS28)。
次に、保存ボタン435jが選択され、加速度データ等の保存指示がなされたか否かの判定が行われる(ステップS30)。
保存指示がない場合(ステップS30でNO)、システムの設定変更、再測定を行うためにステップS10に戻る。なお、保存しない旨の指示は、「再設定」ボタン(図示しない)を選択することによって行う。
【0102】
一方、保存指示がされた場合(ステップS30でYES)、動画や送信されてきた加速度データ等をデータ保存部4gに保存する(ステップS32)。
なお、この時、再生ボタン433jが選択されると動画や加速度波形が再生される。
分析ボタン434jが選択され、平均加速度の算出指示がされたか否かの判定が行われる(ステップS34)。
【0103】
指示されていない場合(ステップS34でNO)、ステップ10に戻る。なお、平均加速度を算出しない旨の指示は、「再設定」ボタン(図示しない)を選択することによって行う。
一方、分析ボタン434jが選択された場合(ステップS34でYES)、受信した加速度データから平均加速度の算出が行われ(ステップS36)、データ保存部4gに予め保存されているリスク指標を用いて転倒リスクの評価が行われ(ステップS38)、図30に示す被験者データテーブル15が作成される(ステップS40)。
【0104】
印刷ボタン432jが選択され印刷指示がなされたか否かの判定が行われる(ステップS42)。
【0105】
印刷指示がされていない場合(ステップS42でNO)、新たな被験者の測定を行うためにステップS10に戻る。なお、印刷を行わない旨の指示は、「再設定」ボタン(図示しない)を選択することによって行う。
一方、印刷指示がされた場合(ステップS42でYES)、被験者データテーブル15の印刷を行い(ステップS44)、システム終了ボタン437jが選択され終了指示がされたか否かの判定を行う(ステップS46)。
【0106】
システム終了の指示がされていない場合(ステップS46でNO)、新たな被験者の測定を行うためにステップS10に戻る。なお、終了しない旨の指示は、「再設定」ボタン(図示しない)を選択することによって行う。
一方、システム終了ボタン437jが選択され終了指示がなされた場合(ステップS46でYES)、データロガー3に終了指示を送信してシステムを終了させる。
【0107】
次に、データロガー3の動作を、図33に示すフローチャートを参照しながら説明する 。なお、この動作は制御部3aがROM(図示しない)に保存されているプログラムを実 行することにより実現される。
【0108】
下肢協調性評価装置4から測定開始の指示がなされたか否かの判定を行い(ステップS60)、指示がない場合(ステップS60でNO)、指示があるまで待つ。
【0109】
一方、測定開始の指示がされた場合(ステップS60でYES)、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eから各部位の測定を開始する(ステップS62)。
次に、信号取込部3cを介して加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eから加速度データを取り込み(ステップS64)、RAM3cに一時保存した後に、送信用加速度データを作成する(ステップS66)。
【0110】
次に、送信用加速度データを下肢協調性評価装置4に送信し(ステップS68)、下肢協調性評価装置4から測定終了の指示があったか否かの判定を行う(ステップS70)。
終了指示がないない場合(ステップS70でNO)、ステップ64に戻り、加速度データの取り込みを行う。
【0111】
一方、下肢協調性評価装置4から終了指示を受信すると(ステップS70でYES)、制御部3aは、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eの測定を終了させる。
【0112】
以上のように、加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eによって、左右のつま先部、左右の膝関節部及び腰部の上下方向、左右方向、及び前後方向に生じる加速度が測定され、それぞれ平均加速度が算出され、それぞれの部位毎にROC解析を用いて最適な統計量が抽出され、前記統計量に関連するカットオフ値がリスク指標として設定される。
これによって、客観的なリスク指標の設定が可能となり、精度の高い転倒リスク評価が可能となる。
【0113】
また、各部位の測定された加速度統計量の中から、これまで転倒予防の指標として一般的に用いられてきた生活機能能力指標、転倒リスクアセスメント、FRT及び下肢筋力を加味して統計量が抽出され、リスク指標が設定される。これにより、従来の種々の転倒予防方法を取り込むことができるので、従来の測定方法と比較して、さらに精度の高い転倒リスクの評価が可能となる。
【0114】
なお、本実施形態では、下肢協調性評価装置4において、平均加速度を算出するものとしたが、これには限定されず、例えばデータロガー3において加速度センサ2a、2b、2c、2d及び2eからの加速度信号を増幅した後に全波整流し、さらに平滑化処理された電圧値に基づいて加速度に関連する統計量である平均加速度を自動的に算出して用いてもよい。
【0115】
また、本実施形態では被験者278名(下肢筋力においては232名)の加速度測定値のすべてをリスク指標の抽出する際に用いるものとしたが、これには限定されず、例えば測定値の最大値と最小値を取り除いた残りの測定値のみ用いるものとしても良い。これによって、例えば加速度センサの誤作動等によって生じる測定の異常値等が取り除かれ、さらに精度の高いリスク指標の抽出が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、高齢者や身体障害者等の転倒リスク評価に使用することができる。
【符号の説明】
【0117】
1・・・下肢協調性評価システム
2a、2b、2c、2d、2e・・・加速度センサ
3・・・データロガー
4・・・下肢協調性評価装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の所定の部位に装着され、前記所定の部位の歩行中または運動中の上下方向、左右方向、及び/又は前後方向に生じる加速度を測定する加速度測定手段と、
前記測定された加速度に基づいて、所定部位の上下方向、左右方向及び/又は前後方向それぞれに対して加速度に関連する統計量を算出する第一算出手段と、
前記算出された加速度に関連する統計量の中から転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出し、前記抽出された統計量に関連した情報をリスク指標として設定する設定手段と、
を備えたことを特徴とする下肢協調性評価システム。
【請求項2】
前記設定手段は、算出された加速度に関連する統計量に対してROC(receiver operating characteristic; 受信者動作特性)解析を行うことによって転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出し、抽出された統計量に関連するカットオフ値をリスク指標として設定する請求項1に記載の下肢協調性評価システム。
【請求項3】
前記設定されたリスク指標に基づいて、被験者の転倒リスクを評価する評価手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の下肢協調性評価システム。
【請求項4】
加速度測定手段を設置する所定の部位が、左右のつま先部、左右の膝関節部及び腰部である請求項1から3のいずれかに記載の下肢協調性評価システム。
【請求項5】
前記算出手段は、歩行動作中または運動動作中に生じた加速度の絶対値を歩行動作または運動動作が行われた一定時間に亘って積分し、その積分値を歩行動作または運動動作が行われた一定時間で割ることによって、加速度に関連する統計量を算出する請求項1から4のいずれかに記載の下肢協調評価システム。
【請求項1】
人体の所定の部位に装着され、前記所定の部位の歩行中または運動中の上下方向、左右方向、及び/又は前後方向に生じる加速度を測定する加速度測定手段と、
前記測定された加速度に基づいて、所定部位の上下方向、左右方向及び/又は前後方向それぞれに対して加速度に関連する統計量を算出する第一算出手段と、
前記算出された加速度に関連する統計量の中から転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出し、前記抽出された統計量に関連した情報をリスク指標として設定する設定手段と、
を備えたことを特徴とする下肢協調性評価システム。
【請求項2】
前記設定手段は、算出された加速度に関連する統計量に対してROC(receiver operating characteristic; 受信者動作特性)解析を行うことによって転倒リスクの評価に用いる統計量を抽出し、抽出された統計量に関連するカットオフ値をリスク指標として設定する請求項1に記載の下肢協調性評価システム。
【請求項3】
前記設定されたリスク指標に基づいて、被験者の転倒リスクを評価する評価手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の下肢協調性評価システム。
【請求項4】
加速度測定手段を設置する所定の部位が、左右のつま先部、左右の膝関節部及び腰部である請求項1から3のいずれかに記載の下肢協調性評価システム。
【請求項5】
前記算出手段は、歩行動作中または運動動作中に生じた加速度の絶対値を歩行動作または運動動作が行われた一定時間に亘って積分し、その積分値を歩行動作または運動動作が行われた一定時間で割ることによって、加速度に関連する統計量を算出する請求項1から4のいずれかに記載の下肢協調評価システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図2】
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【図17】
【図18】
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【図22】
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【図26】
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【図28】
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【図30】
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【公開番号】特開2010−172481(P2010−172481A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18051(P2009−18051)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【出願人】(509029922)
【出願人】(509029977)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【出願人】(509029922)
【出願人】(509029977)
【Fターム(参考)】
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