説明

不具合を検出する方法および装置

膜質物品(20)の不具合を検出するシステムは、電源(14)に接続された、膜質物品のキャビティに挿入可能なエミッタプローブ(10)と、エミッタプローブ(10)からの電気放電を受けるセンサ(15)と、エミッタプローブ(10)およびセンサ(15)を互いに接近させるコンベヤ装置と、エミッタプローブ(10)とセンサ(15)との間の電位差を測定し、測定した電位差に基づいて不具合を検出することができるプロセッサとを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裂傷や針穴(ピンホール)を含む不具合を検出することに関し、とりわけ医療用手袋やコンドームなどの膜質物品(Membranous articles)などの不具合を検出することに関する。
【背景技術】
【0002】
膜質物品は、通常、ラテックス、合成ゴム、または粘弾性ポリマから形成される。こうした膜質物品は、外科手術用手袋の他、医療用手袋、およびコンドームを含む。こうした手袋は、微生物やB型肝炎を含む血液感染性ウィルスから医療従事者を守るための保護障壁を提供するものである。これらは、医療的処置のために日常的に用いられる化学薬品に対する保護障壁を提供するものでもある。その結果として、医療従事者および患者の安全のために、通常手袋を着用することは必須要件である。
【0003】
手袋製造業者は、欧州標準規格EN455−125またはASTM標準規格を用いて、ピンホール不具合の有無について手袋を評価する。これらの規格書には、水密テストについて記載され、これは、手袋に1リットルの水を充填し、2分後の水漏れの有無について確認するものであり、水漏れを確認するものであれば任意のテストで置換することができる。既存のピンホール不具合の検出は、これらのテストまたは、水膨張技術または空気膨張/水浸漬技術あるいはこれらの両方を用いた同様のテストにより事前に確認することができる。
【0004】
いずれの場合にも、こうした手法は、コストが嵩み、多くの評価時間を要し、安価に大量生産する物品を連続的に一括して処理するには経済的でないという他の問題もある。とりわけ欧州標準規格およびASTM標準規格に適合するために、2分間もの所要時間を要するということは、連続的な一括処理によるテストを不可能にするものである。大量にテストするためには、数秒間でテスト結果が得られることが必要である。したがって、これらの標準規格によるテストは、統計的アプローチに依拠して、サンプルを生産ロットから抽出し、生産ロット全体を代表すると推定されるサンプルに対するテスト結果に依拠するものである。統計的なアプローチ手法は十分に確立されているが、アプローチ手法の妥当性には、テストされない手袋に不具合があって健康な作業者を感染させるおそれがあり、重大な問題が生じるという疑義が残る。
【0005】
さらに膜性手袋をリサイクルするという考え方を進めるならば、抽出サンプルと生産ロットとの間のような関係は存在しないので、統計的アプローチ手法はあまり信憑性がないことになる。
【0006】
手袋が医療用に適したものであるか否かを判断するための一般的な手法は、水テスト(Water Test)である。水テストは、水漏れテストとして知られているが、大量(約1リットル)の水を手袋に充填し、水漏れの有無を確認する。小孔があれば、水の小滴が物品から漏れ出すため、手袋にピンホールなどの不具合があると判断される。
【0007】
手袋に水を充填するために数秒(手袋が水の噴流で破れないように充填するため約10秒)かかり、手袋からの水漏れを確認するためにより多くの時間がかかり、手袋から水を抜くためなどにさらに数秒かかるため、この手法は時間がかかり、大量一括処理には適していない。また約1分後に、検査は終わるが、手袋は濡れた状態にある。
【0008】
水漏れ有無の確認に時間がかかる他、すべての処理を自動で行うことはほとんど不可能である。このテストは、通常、統計的なものであり、許容誤差は比較的に大きい。
【0009】
したがって本発明の目的は、より広く利用可能であり、一連のプロセスの一部を構成するものとして利用できる、ピンホールおよび/または不具合を検出する手段を提供することにある。
【発明の概要】
【0010】
第1の態様によれば、本発明は、膜質物品の不具合を検出するシステムを提供する。このシステムは、電源に接続された、膜質物品のキャビティに挿入可能なエミッタプローブと、エミッタプローブからの電気放電を受けるセンサと、エミッタプローブおよびセンサを互いに接近させるコンベヤ装置と、エミッタプローブとセンサとの間の電位差を測定し、測定した電位差に基づいて不具合を検出することができるプロセッサとを備える。
【0011】
第2の態様によれば、本発明は、膜質物品の不具合を検出する方法を提供する。この方法は、電源に接続されたエミッタプローブを膜質物品のキャビティに挿入するステップと、エミッタプローブおよびセンサを互いに接近させるステップと、エミッタプローブを電源に接続するステップと、プロセッサを用いてエミッタプローブとセンサとの間の電位差を測定するステップと、測定した電位差に基づいて不具合を検出するステップとを有する。
【0012】
本発明に係るシステムは、裂傷やピンホールを検出するために広く用いられる装置を提供し、「生産ライン」や手袋の再生の用途における処理ステップの一部を構成するものである。
【0013】
コンドームも同様であるが、とりわけ検査用手袋や外科手術用手袋など物品について、本発明に係るシステムを好適に適用することができる。合成品、ゴム、および/またはラテックスポリマが本発明において好適であり、大量生産のライン上で、処理(再処理)中において、場所を選ばず何処でも、手袋を経済的にテストして、損傷の有無を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る1つの実施形態によるシステムの概略図である。
【図2A】本発明の1つの実施形態によりテストされる手袋の断面図である。
【図2B】本発明の別の実施形態によりテストされる手袋の断面図である。
【図2C】本発明のさらに別の実施形態によりテストされる手袋の断面図である。
【図3】本発明の1つの実施形態によるテストで得られた特性のグラフィック表示である。
【図4A】本発明のテスト装置における抵抗値モデルの概略図である。
【図4B】本発明のテスト装置における別の抵抗値モデルの概略図である。
【図5】本発明のテスト装置における電位差のグラフィック表示である。
【図6】本発明のテスト装置におけるさらに別の抵抗値モデルの概略図である。
【図7】本発明のテスト装置における出力結果モデルのグラフィック表示である。
【図8】本発明に基づいてなされた実験結果のグラフィック表示である。
【図9】図8でグラフィック表示された実験結果の表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付図面を参照しながら、本発明についてさらに説明する。添付図面は生産ラインから離れても有効な本発明に係る1つの潜在的な構成を図示するものである。本発明に係る他の構成も実施可能であり、添付図面に示す特別の構成が後述の本発明の一般的構成に優越すると理解すべきではない。
【0016】
本発明は、膜質物品の電荷漏れ(electrical charge leakages)を検出する目的で、膜質物品の周囲に強い電場を形成する高電圧の利用に基づく方法およびシステムに関する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態を示す概略図である。ここで高圧発生装置14は、ケーブル12を介してエミッタプローブ10に高電位を供給するものであり、コンベヤ(図示せず)を用いて、テストされる手袋の内部においてエミッタプローブを上下方向に移動させるものである。手袋担持部30は、手袋をテスト位置に保持するものである。そしてエミッタプローブ10をコンベヤにより所定位置に下降して配置する。次に、センサ水平移動スライダ35を用いて、U字状センサ15を水平方向に移動させ、U字状センサにより手袋の表面全体をスキャンする。このスライダ35は、手動または自動制御により制御されたモータ40で駆動される。
【0018】
スキャンに際して、アナログ・デジタル・コンバータ45が電位差(ボルト)をパソコンベースの分析ソフトウェア50のための数値データに変換する。パソコンベースの分析ソフトウェア50の出力値は、テストされた手袋に関する簡便で論理的な合格(PASS)/不合格(FAIL)データを提供するものである。スキャンのために必要な時間は数ミリ秒から3秒までの範囲である。これに限定するものではないが、正確な時間は、手袋の種別、出力電圧の経済性、および装置サイズにより変化する。システムを設計する際、当業者は、文献を参照し、パラメータを決めるために基本的テストを反復的に行うが、これらは本発明を限定するものではない。
【0019】
本発明で用いられる高圧発生装置14は、400Hzから4kHzのパルスの変調周波数を有する最低20kVの電圧を提供するものでなければならない。
【0020】
エミッタプローブ10は、鋭利な先端部を排除した極めて滑らかで湾曲した表面を有し、非腐食性の導電性材料を用いて形成される必要がある。大きさは、用途および手袋の大きさと種別に関係する。
【0021】
手袋担持部30の機構は、用途により求められる特定の条件に応じて、テスト領域に手袋を挿入し、取り出すように設計される。たとえばPCT/SG2007/000076に記載された手袋担持部30は、このプロセスに適合可能な担持部であり、その開示内容はここに統合される。すなわち本発明に係る方法および装置は、担持部の機構に適合可能であり、かつテストの実施ならびに検出結果が得られる速度に対応できるとすれば、一括のまたは連続的なプロセスに適応可能なものである。
【0022】
この実施形態において、U字状センサ15は、60μm以下の径を有する金メッキされたコロナワイヤから形成される。狭小領域で瞬間的に検出できるように、このワイヤをプラスティックチャンネルに配置する。センサの大きさおよび曲率は、用途ならびに手袋の材質および種別に厳格に関連する。択一的構成によれば、センサは垂直コンベヤに沿って垂直方向に移動できるように構成してもよい。この構成では、円形センサを用いて、その円形の空間に入るように手袋を下降させるように構成してもよい。エミッタプローブが手袋の内部にある状態で、センサがエミッタプローブの周辺の大部分の周りをカバーする限り、他の構成も実施可能である。
【0023】
エミッタプローブ10との間における不要な放電を排除し、かつU字状センサ15に対する電気的なノイズを回避するために、センサ水平移動スライダをプラスティック部品で形成してもよい。簡単に往復運動を制御し、一定速度で駆動できるステッパモータを用いて、水平方向の移動を実現することができる。
【0024】
アナログ・デジタル・コンバータ45は、ボルトで表される電位を数値データに変換することができ、一括のまたは連続的プロセスのための理想的な構成を実現するためには、133ミリ秒未満のサンプリングレートを有する。
【0025】
パソコンベースの分析ソフトウェア50は、ADコンバータ45から出力された値の最大値、合計値、または平均値を求めるアルゴリズムを有し、合格/不合格の判定結果を出力する。たとえば図3は、ADコンバータ45から受信し、パソコンベースの分析ソフトウェア50で処理した情報の種別に関するグラフィック表示を示すものである。システム5を用いて不具合を有さない手袋20をテストしたとき、微小電位差を連続的に検出することを示す多少の最大値を有する滑らかで連続的な特性90を示す。不具合を有する手袋20をテストしたとき、グラフィック表示は、著しく不連続な特性95を示し、これは、テストの際に電位差を大きく変動させる不具合に起因すると予想される。分析装置50は、標準的な特性90と比較して、不連続な特性95の存在を自動的に検出することができる。特性を同定する手段は、電位差の最大値、または既知の所定の限界値を超える電位差を同定するものであってもよい。択一的には、分析装置50は特性自体の不連続性を同定してもよい。この分析の困難性は、さまざまな特性プログラムや、その目的のため特に開発されたソフトウェアによって変化しうる。さらに分析装置50は、不連続な特性95に基づいて、最大電位差のレベルまたは特性の形状に起因して、不具合の本質について、類似の特性を示し得る完全なピンホールがあるのか否か、ピンホールの大きさ等の本質について同定することは実質的に困難である。
【0026】
破れやピンホールの不具合を検出する本発明に係る方法は、以下の利点のうちのいくつかまたはすべてを有する。
i.迅速な検出方法であり、いくつかの用途では2秒以内で検出できる。
ii.テスト装置が手袋と接触せず、相互汚染の問題を排除できる。
iii.特に制御された雰囲気または他の中性ガスの存在を必要としない。
iv.検出材料からたとえば9cmなどの大きな距離を隔てて検出することができる。
【0027】
手袋生産工場のピンホールテスト部門などの別の用途において、エミッタプローブは、導電性部材で構成された可動式の手袋鋳型そのものからなり、U字状センサは、同様の固定式のセンサで置換してもよい。こうして、破れやピンホールの不具合を検出する速度を数ミリ秒に低減することができる。
【0028】
このシステムおよび方法は、図2A、図2B、および図2Cに示すように広範な用途で利用することができる。図2Aは、図1に示すテスト装置と同様のもの示し、手袋20の内部にエミッタプローブ10が挿入される。エミッタプローブ10はケーブル12に接続され、ケーブルは高電圧発生装置に繋がっている。このときエミッタプローブとセンサとが直接的に作用することによって誤った結果が検出されることを回避するために、エミッタプローブ10は、すべての用途において完全に手袋の内部に収容される点に留意されたい。この構成は、数多くの用途に適しているが、リサイクルされた手袋をテストするために、リサイクル処理またはコンベヤに配置されたものに対して広い利用することができる。同様に、この構成は、新品の手袋をテストするために、梱包する直前の形成プロセスの一部として用いることができる。
【0029】
図2Bは、図2Aとは異なる実施形態を示す。ここでは、新品の手袋55のテストおよび形成プロセスを好適にも複合させた実施形態である。この実施形態におけるエミッタプローブ60は、手袋のような形状を有し、手袋の鋳型内に形成して、エミッタプローブと手袋鋳型とを一体型のものとしてもよい。このとき手袋鋳型は、通常、絶縁体であるセラミック材料から形成することができる。すなわち、エミッタプローブと手袋鋳型とを一体のものとするために、セラミックに導電性粒子を混ぜてもよい。さらにエミッタプローブ60の内側の部分が、鋳型60の外側表面を包囲するように配置され金属表面アレイであって、エミッタプローブとして機能するために、すべての金属表面がコアと接続されたものであってもよい。
【0030】
上述のように、本発明のシステムおよび方法は、膜質物品のテストに利用可能である。医療目的の手袋は、本発明の直接的な利用可能性を有するが、他の膜質物品を同様にテストすることができる。図2Cは、細長いエミッタプローブ75が挿入されたコンドーム70を示し、エミッタプローブはケーブル80を介して高電圧発生装置に接続されている。すなわちコンドーム70の検査は、プローブおよびプロセスを用いた本発明の範疇に含まれるものである。
【0031】
図2Bおよび図2Cに示す用途は新規生産に関するので、これらの場合は、センサを固定して制御することが適当である。膜質物品の新規生産の場合には、センサを静止させて、コンベヤにより膜質物品をセンサの前を通過させる。こうして膜質物品の連続的な製造工程は、正常な製造プロセスの一部として膜質物品をセンサの前を通過させることにより、停止させることを回避することができる。テストを行う速度によりセンサ幅は変わり、テスト距離が長くなるように製造プロセスの速度が設定された場合に、センサ幅を長くして、確実に、エミッタプローブがセンサ範囲に十分な時間だけ留まってテストを実施するようにしてもよい。分析ステップが極めて高速であるとき、物品は、不具合テストから下流側にある不要なプロセスを老けないで済むようにテスト直後に廃棄してもよい。
【0032】
択一的な実施形態において、本発明の1つの実施形態は、強い電場の力と貫通を用いて、ラテックス製手袋の孔の有無を検出する。この実施形態において、本発明は以下の構成部品を有する。
【0033】
・中央ユニット−パワーユニット:これを用いて、電源からのエネルギを、装置が利用する電場に変換する。これは、装置を起動するための複数のボタンを有し、装置と、パックパネルに配設された4つの主回線を制御する。
【0034】
・主電気プレート:ステンレス鋼からなる楕円状金属プレートである。これは、HV出力に至るパワーケーブルを介して中央ユニットに接続される。主電気プレートは、膨張させたラテックス製手袋に出し入れしなければならないため、主電気プレートの配置位置は変化する。主電気プレートは、装置全体の第1の電極を意味する。
【0035】
・スライドセンサ:データ収集するために手袋の一方の端部から他方の端部へスライド移動するU字状センサである。このセンサは2つの接続部を有する。上述の用に、センサは対比抵抗を介して基準出力に接続される。スライドセンサは、判定プロセスのためのデータを収集し、フォーマット化するデータ収集システム/ADコンバータに直接的に接続される。このセンサは、極めて細い「コロナ」型のワイヤを有し、第2の電極を意味する。
【0036】
U字状センサは、ステップモータにより、手袋の一方の端部から他方の端部へ駆動される。高圧発生装置は、上述のように電源からのエネルギを、強力な電場に変換する。高圧発生装置は、電気エネルギを他の異なる態様のエネルギに変換しないが、必要な信号を形成し、我々の目標を達成するために(ピンホールを検出するために)、必要な信号を形成する。
【0037】
高圧発生装置は、主として、2つの電極間に高電位差を形成する。
【数1】

【0038】
この電位差は、電場E(Eベクトル)に対応し、マクスウェル方程式を用いて求められ、次式で表される。
【数2】

【0039】
電場ベクトルは、電位差関数の勾配に等しい。電場の強さを理解するために、次の場合を検討して、電場の方程式を単純化してもよい。すなわち高圧発生装置で形成される電位は連続的で一定であり、2つの電極は無限に大きい金属プレートであると仮定する。方程式(2)は以下のように変形することができる。
【数3】

ここで電場E(Eベクトル)は電場強度ベクトルであり、ポイントaおよびbを空間上の任意の点として、Uabは点aおよび点bの間の電位差であり、(rabのベクトル)/rabは点aから点bへの単位ベクトルである。
【0040】
通常の電圧値は約数十kVであり、距離は10cm未満である。これは形成された電場は約10kV/cmであり、空気中で放電させるためには十分であるが、ラテックスを貫通させるには十分ではない。この現象の説明をさらに続けるために、手袋の測定プロセスを分析する。
【0041】
2つの電極間に高電位差が与えられる。形成された電場により、電子が陽極(主電気プレート)から陰極(センサ)に移動し始める。各電子はクローン力により駆動される。
【数4】

ここでeは電子の電荷である。
【0042】
ほとんどの電子は、ラテックスの障壁に到達するのに十分なエネルギを有するが、これを貫通するのに十分なエネルギを有さない。しかし電荷キャリアの一部が貫通し(ラテックスを通して拡散し)、陰極に引き寄せられ、センサの方向に向かって集まる。
【0043】
コロナワイヤに達すると、電子は微小電流(Ileakage)を形成し、この電流は対比抵抗(Rcontrast)に流れて、微小電位差(ラテックスを貫通するためにほとんどのエネルギを消費するために微小な電位差)を形成する。ここで、ある瞬間において、コロナワイヤおよび主電気プレートが完全にピンホール上の中心にあると想像されたい。この瞬間、ほとんどの電子は、ラテックスを貫通するためにエネルギを消費しないため、より数多くの電子がセンサに到達する。その結果、電流は増大し、対比抵抗上の対比電位差(Ucontrast)も大きくなる。
【数5】

したがって、ラテックス製手袋に孔があれば、電位差は遙かにより大きいものとなる。
【0044】
この事象をより十分に理解するために、オームの法則および図4Aおよび図4Bに示すモデルを検討する。
【数6】

この方程式を見ると、電位差が一定であるとき、抵抗値が異なると、電流値が異なることを容易に理解することができる。抵抗値が大きくなると、電流強度が小さくなる。
【0045】
任意の2つの点の間における抵抗値は、次式の概算式で計算することができる。
【数7】

ここでRは抵抗値であり、ρは材質の抵抗率であり、lは領域の距離であり、Aは領域の面積である。
【0046】
この概算はとかの場合105に有効である。材質110は軸115のすべての点において均一な特性(この場合、抵抗率/導電率)を有し、検討対象の表面は領域の長さ全体において均一な特性を有する。ただし、この仮説が正しくない場合には、要素抵抗100のグループとして抵抗値を計算することができる(数7の方程式を用いて計算することができる。)。こうして、2つの電極間の抵抗値を計算することができる。材質が(空気、ラテックス、空気と)変化するとき、一連の3つの要素抵抗値を計算しなければならない。
【0047】
Aが陽極を示し、Bが陰極を示すとすると、3つの要素抵抗値は以下の通りである。
:陽極と手袋との間の抵抗値
:手袋の両面間の抵抗値
:陰極と手袋との間の抵抗値
陽極と陰極との間の等価抵抗値は次式で計算することができる。
【数8】

測定プロセスにおいて、RおよびRは常に同じ値であり、異なる値はRのみである。
【0048】
手袋にピンホールがあるとき、空気の抵抗率がラテックスの抵抗率よりかなり小さい。
【数9】

よって、
【数10】

[数10]および[数8]の関係から、次式が得られる。
【数11】

【0049】
以上のように、我々は抵抗類似性について明確にしたので、陽極と陰極との間の電何時について検討する。等価抵抗値に対して適用する。ピンホールがあれば、抵抗値は減少するので、電流値は増大する。図5に示すように、電位差が一定であれば、手袋125と比較して、ピンホール120を介してより大きな電流が流れる。
【0050】
上述のように、センサはスライド移動して、手袋の表面全体からデータを収集する。これは、手袋の明確な電気的画像を得るために行われる。センサの移動は連続的であるが、データを連続的に収集することはできず、離散的に行われる。手袋全体に対して、数多くのN個の電流強度値が収集される。我々が収集する値は電圧であり、対比抵抗を流れる電流により検出される。
【0051】
こうして我々は、全体システムを図6に示すようなN個の抵抗値からなるグループ140として考察することができ、各サンプリングに対応して各抵抗値が個別に一瞬で測定される。図6における符号Aは主電気プレートを意味し、符号Bはセンサ135を意味する。符号BはR1からR4(R)まで移動する。
【0052】
サンプリングはデータ収集カードを用いて行う。手袋の電気的画像は、データ収集カードが読み取り、記録したN個の抵抗値である。
【0053】
ほとんどの場合、すべての計算値が真性である場合、判定プロセスは極めて単純である(強度値が良品の手袋に対する値より高いとき、ピンホールがあると判定する。)。
【0054】
しかし、より複雑な判定プロセスが強いられる要因がいくつかある。電位差は連続的であるが一定ではない。主電気プレートに加わる信号は、図7に示すように数多くのパルス145を有する。
・手袋は均一な表面を有するものではない。
・手袋の厚みは均一ではない。
・プレートは完璧な表面を有するものではない。
・空気の種別も一定ではない。
【0055】
手袋に孔があるか否かを判定するためには、第1のステップはデータを収集することである。これは各手袋に対し、N個の値を収集することを意味する。これを完了した後に、一方の判定基準を適用することができる。
【0056】
「違反数基準("Number of violations Criteria")」:
判定プロセスを開始する前に、装置に対して「良品」の手袋を用いた較正を行う。これらの手袋に対する値を用いて、以下の方法により、複数のテスト規制値を計算する。すなわち、各測定ポイントに対して、各良品手袋の最大値を閾値と考える。これは、良品手袋における最悪の場合と評価することを意味する。複数の手袋を装置にかけた後、閾値より大きい各測定ポイントを違反と判定する。サンプリングしたN個のうち、所定の割合(%)以上の数の違反が認められたときは、その手袋にはピンホールがあると判定し、「良品」手袋ではなく、新しいテスト規制値を計算する。
【表1】

【0057】
「総合値」基準("Overall value" Criteria)
同様に数多くの較正手袋を用いる。1つの手袋のサンプリングしたすべての値を合計し、最大値を良品手袋の規制値と考える。そして単純なルールを用いて、同じことをテストする手袋に対して行う。より大きい値がピンホールを意味する。
【0058】
この基準がどのように適用されるかを示すために、図8および図9は、本発明のシステムを用いたテスト結果を示す。このテストは、15個の手袋を装置に通過させるステップからなる。用いられた手袋のうち、5個が(較正用に用いられた)良品の手袋で、5個が手のひら部分にピンホールを有し、5個が(異なる)指の部分にピンホールを有するものであった。
【0059】
サンプリング数Nは38で、各検出において19個サンプリングされた。センサはモータを用いて移動させ、前進並進移動させて19個サンプリングを収集し、後進並進移動させて19個サンプリングを収集する。我々は、同様に(手袋を装置にかけないで)空のテストを行った。すべてのデータが以下の表にあり、より十分に理解するために、表の略記号を以下のように意味することを留意されたい。
・E列:手袋なしのテスト
・G3,G6,G17,G18,G20列:5個の良品手袋
規制値は「違反数基準」は、良品手袋の「最悪の場合」の測定値を意味する。
・P1〜P5:手のひら部分にピンホールを有する手袋
FTl:親指部分にピンホールを有する手袋
FI2:人差し指部分にピンホールを有する手袋
FM3:中指部分にピンホールを有する手袋
FR4:薬指部分にピンホールを有する手袋
FL5:小指部分にピンホールを有する手袋
【0060】
「違反数基準」結果
ピンホールを有する各手袋に対し、違反数を以下のように計算した。各手袋について個別にサンプリングし、計算した規制値(各サンプリング番号のそれぞれについて個別に計算した規制値)と比較した。値が規制値より大きい場合には1を加算し、そうでなければ0を加算した。各手袋について違反数を合計した。結果は図9の通りであった。
【0061】
規制値を計算した定義により、各良品手袋の違反数は0である。
【0062】
図9に示すように、たとえば手袋P1について、収集された1つのサンプルは対応する規制値より大きく、その他も同様である。手袋は孔を有するか否か、極めて簡単に判断することができる。
【0063】
「総合値」基準結果
この方法について、我々は各手袋について38サンプルすべてを合計して、その結果を棒グラフにプロットした。値1は空の測定に対する総合値である。値3〜7は5個の良品手袋に対する総合値であり、値10〜14は手のひら部分にピンホールを有する5個の手袋に対する総合値であり、値16〜20は指部分にピンホールを有する5個の手袋に対する総合値である。
【符号の説明】
【0064】
5…システム、10,60…エミッタプローブ、12,80…ケーブル、14…高圧発生装置、15…U字状センサ、20…手袋、30…手袋担持部、35…センサ水平移動スライダ、40…モータ、45…ADコンバータ、50…分析装置(分析ソフトウェア)、70…コンドーム、120…ピンホール、145…パルス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜質物品の不具合を検出するシステムであって、
電源に接続された、膜質物品のキャビティに挿入可能なエミッタプローブと、
エミッタプローブからの電気放電を受けるセンサと、
エミッタプローブおよびセンサを互いに接近させるコンベヤ装置と、
エミッタプローブとセンサとの間の電位差を測定し、測定した電位差に基づいて不具合を検出することができるプロセッサとを備えたことを特徴とするシステム。
【請求項2】
プロセッサは、測定した電位差を所定値と比較することにより不具合を検出することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
エミッタプローブとセンサとの間に不具合のない膜質物品を介在させたときのエミッタプローブとセンサとの間の電位差を規制値として収集することを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
コンベヤ装置は、固定されたセンサに対してエミッタプローブを移動させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のシステム。
【請求項5】
コンベヤ装置は、固定されたエミッタプローブに対してセンサを移動させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のシステム。
【請求項6】
エミッタプローブは金属製であり、滑らかで連続的な導電性表面を有し、膜質物品に直接的に接触することなく、キャビティ内に適合する形状を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載のシステム。
【請求項7】
センサはU字状形状を有し、
互いに接近したエミッタプローブおよびセンサは、U字状センサの2つの垂直アームの間に配置されるエミッタプローブを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のシステム。
【請求項8】
膜質物品は、医療用手袋およびコンドームを含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のシステム。
【請求項9】
膜質物品の不具合を検出する方法であって、
電源に接続されたエミッタプローブを膜質物品のキャビティに挿入するステップと、
エミッタプローブおよびセンサを互いに接近させるステップと、
エミッタプローブを電源に接続するステップと、
プロセッサを用いてエミッタプローブとセンサとの間の電位差を測定するステップと、
測定した電位差に基づいて不具合を検出するステップとを有することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−501460(P2012−501460A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525395(P2011−525395)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【国際出願番号】PCT/CN2009/073687
【国際公開番号】WO2010/025667
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(511055821)ティジーティ・エンタープライジーズ・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】TGT ENTERPRISES LTD
【Fターム(参考)】