説明

不妊症および/または卵の質を評価するための方法および装置

本発明は一般的に、不妊症を評価するための方法と装置に関する。特定の実施形態においては、本発明の方法には、表1から選択した複数の遺伝子における変異の有無を決定するためのアッセイを実行する工程、およびそのアッセイの結果に基づいて不妊症を評価する工程が含まれる。ここで、表1の少なくとも2つの遺伝子における変異の存在が不妊症の指標となる。特定の実施形態においては、卵の質または生殖能力を評価するためには、一般的に、不妊症と関係がある表現型形質または環境暴露が、ゲノムの結果と組み合わせて使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2010年4月19日に出願された米国仮特許出願第61/325,810号、2010年9月23日に出願された米国仮特許出願第61/245,265号の利益を主張し、これらの米国仮特許出願の各々の全体の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は一般的に、不妊症を評価するための方法と装置に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
7組のカップルのうちおよそ1組が不妊である。不妊症は、いずれかのパートナーの1つの要因がその原因である場合があり、また、妊娠が生じることまたは継続することを妨げる可能性がある複数の要因(例えば、遺伝的素因、疾患、または環境要因)の組み合わせがその原因である場合もある。全ての女性は、その一生涯のうちに生殖能力がなくなる。平均的には、卵の質と数は35歳で急激に低下し始める。しかし、多数の女性は40歳代でも十分な生殖能力があり、一部の女性ではこの低下が一生涯のはるかに早い段階で認められる。一般的には、母体年齢が高齢になること(35歳以上)は低い生殖能力の結果と関連づけられているものの、若い女性において卵の質の問題を診断する方法、または特定の女性がその卵の質もしくは蓄えの低下を経験し始めるであろう時期を知る方法はない。
【0004】
体外受精(IVF)(卵細胞を女性の子宮の外で精子により受精させ、その後、子宮に移すプロセス)は、不妊である女性に救いの手を差し伸べるための一般的な手段である。しかし、IVF治療を受けている全ての女性のうちのおよそ15%は、自身の卵を用いる場合には、繰り返し試みたとしても、何度やっても成功しない。したがって、卵の質が女性の自身の卵をIVFプロセスに使用すべきかどうか、およびどのように使用すべきかを決定する際の主要な要因である。
【0005】
女性が不妊についての医学的支援を模索する時点から、彼女と彼女のパートナーは、そのカップルが不妊である理由について可能性のある原因を突き止めるために多数の診断法を受けるようにアドバイスされる。女性についてのそのような方法は、侵襲性が高く、コストがかかり、そして時間もかかる。したがって、不妊症を評価し、女性の卵の質を評価する、より速い、非侵襲的方法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
本発明は、特定の女性がその一生涯にわたり質の良い卵を生成する能力の変化を評価するための方法を提供する。本発明の方法は、卵の質(卵の生存性を含む)についての潜在力および一般的には経時的な生殖能力の評価を得るために、1つ以上の要因(例えば、遺伝子変化(例えば、変異、多型、発現レベル)および表現型形質または環境暴露)を考慮に入れる。本発明によると、特定の遺伝的多型が、生殖能力に影響を及ぼす症状(例えば、早発閉経または卵巣機能の成熟前低下)の素因となる。このような症状は、卵の数および/または生存性を低下させ、生殖能力に有意な影響を及ぼす。遺伝的素因は、卵巣予備能力の成熟前喪失のリスクを高め、それ自体が、臨床的介入(例えば、保存用の卵の採取の決定)の必要性を示す。さらに、遺伝的多型の特定の組み合わせは、患者の受精状態に関しても重要である。
【0007】
以下で議論するように、様々な母性効果遺伝子の状態に関する遺伝的情報のアレイが、卵の質、卵の生存性、および最終的な生殖能力の状態を評価するために使用される。遺伝的情報には、1つ以上の母性効果遺伝子における1つ以上の多型、1つ以上のそのような遺伝子における変異、またはそのような遺伝子の発現に影響を及ぼす後成的素因が含まれ得る。これらの遺伝子変異の分子レベルでの結果は、選択的スプライシング、RNA発現の低下もしくは増大、またはタンパク質発現の変化であり得る。これらの変化には、異なるタンパク質産物(例えば、活性が低下したものまたは活性が増大したもの、卵巣もしくは卵細胞を傷つける可能性がある異常な免疫学的反応を誘発するタンパク質)が産生されることが含まれ得る。生殖能力と関連があるタンパク質の崩壊もまた、それがオリゴマー化することができないこと、または正常な卵の生存性のためにそれが結合する必要がある複合体において他のタンパク質に結合できないことを導く可能性がある。例えば、転写因子タンパク質の変化は、卵の成熟を誘発する速度を有意に増大させる可能性があり、これにより、卵巣からの卵の成熟前喪失が生じる可能性がある。また、稔性回復遺伝子を含有する遺伝子座におけるメチル化パターンも、これらの同じプロセスに影響を及ぼす可能性がある。この情報の全てが、将来的な早期閉経の可能性を患者に情報提供する際に重要である。
【0008】
ゲノム情報だけを見ることに加えて、遺伝的情報(例えば、多型、変異など)を表現型および/または環境のデータと組み合わせることにより、本発明の方法はさらなるレベルの臨床的明確さを提供する。例えば、以下で議論する遺伝子における多型は、早発閉経の傾向についての情報をもたらし得る。しかし、特定の場合には、臨床転帰は特定の表現型および/または環境の情報と組み合わせない限りは決定的ではない場合がある。このように、本発明の方法は、卵の質および生存性についての潜在力を評価するための表現型および環境暴露のデータと組み合わせた遺伝的素因の分析;ならびに、女性が歳をとった場合に生存性が持続する可能性の組み合わせを提供する。
【0009】
1つの例においては、卵巣機能不全症の遺伝的素因が決定され、その遺伝的素因の影響の評価が行われる。遺伝的分析が不確定であれば、臨床的指標の情報を得るために、遺伝子データが表現型および/または環境のデータと組み合わせられる。例えば、女性の卵細胞が自己免疫反応を引き起こす可能性があることがわかっているタンパク質改変体を産生することが決定されれば、早発閉経を導く自己免疫反応の可能性があるかどうかを決定するために、その情報を表現型のデータと組み合わせることができる。自己免疫反応の可能性があることが決定されれば、卵を採取することができるか、または卵巣を後に使用するために保存することができる。
【0010】
このように、特定の場合には、遺伝的素因が診断を行うために十分である場合があるが、他の場合では、遺伝的分析だけに基づくと臨床転帰が明確ではない場合があり、卵巣機能不全症の可能性および卵の質を評価するためには、遺伝的データと表現型データまたは環境データとの組み合わせを使用しなければならない。
【0011】
本発明の特定の態様は、表1より選択される複数の遺伝子中の変異の有無を決定するためのアッセイを実行する工程を含む、哺乳動物において不妊症を評価するための方法を提供する。ここで、これらの遺伝子のうちの少なくとも2つにおける変異の存在が、卵の質が低いことまたは不妊症の指標となる。特定の実施形態においては、このアッセイは表1の遺伝子全てについて行われる。本発明にしたがって検出された変異は、任意のタイプの遺伝子変異であり得る。例示的な変異としては、一塩基多型、欠失、挿入、逆位、他の再配置、コピー数多型、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0012】
遺伝子変異を検出するいずれの方法も、本発明の方法と組み合わせて役立ち、多数の方法が当該分野で公知である。特定の実施形態においては、配列決定が、表1の遺伝子中の変異の存在を決定するために使用される。特定の好ましい実施形態においては、配列決定は合成時解読法である。
【0013】
本発明の方法にはさらに、表1の複数の遺伝子を含む試料を哺乳動物から得る工程が含まれ得る。試料は、ヒト組織または体液であり得る。試料は、思春期前、思春期の間、または思春期後の任意の年齢で採取され得る。特定の実施形態においては、試料は、母親を起源とするもの(例えば、血液または唾液)である。特定の実施形態においては、試料は、妊娠を試みる男性および女性のパートナーの両方に由来する。本発明の方法にはまた、表1の複数の遺伝子について試料を富化させる工程が含まれる場合がある。
【0014】
特定の実施形態においては、卵の質または生殖能力を評価するためには、一般的に、不妊症と関係がある表現型形質または環境暴露が、ゲノムの結果と組み合わせて使用される。例示的な「表現型形質」としては、年齢、コレステロール値、体格指数、およびそれらの組み合わせが挙げられる。例示的な「環境暴露」としては、喫煙、アルコール摂取、食生活の組成、居住歴、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0015】
本発明の他の態様は、a)少なくとも1つの不妊症と関係があるバイオマーカーについてアッセイを実行する工程、b)哺乳動物の少なくとも1つの不妊症と関係がある表現型形質または環境暴露を分析する工程、ならびに、c)工程(a)の結果と工程(b)の結果を相関させ、それにより哺乳動物の不妊症を評価する工程を含む、哺乳動物において不妊症を評価するための方法を提供する。例示的な表現型形質または環境暴露としては、年齢、喫煙、体格指数、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0016】
バイオマーカーは、一般的には、生物学的状態の指標となる分子をいう。特定の実施形態においては、バイオマーカーは遺伝子である。特定の実施形態においては、この遺伝子は母性効果遺伝子であり、より具体的な実施形態においては、母性効果遺伝子は表1の遺伝子である。当該分野で公知の任意のアッセイを、遺伝子を分析するために使用することができる。特定の実施形態においては、アッセイに、不妊症と関係がある変異の有無を決定するための、遺伝子の少なくとも一部の配列決定が含まれる。
【0017】
他の実施形態においては、バイオマーカーは遺伝子産物である。特定の実施形態においては、遺伝子産物は母性効果遺伝子の産物であり、より具体的な実施形態においては、母性効果遺伝子は表1の遺伝子である。遺伝子産物はRNAまたはタンパク質であり得る。当該分野で公知の任意のアッセイを、遺伝子産物を分析するために使用することができる。特定の実施形態においては、アッセイには、遺伝子産物の量を決定する工程と、決定した量を参照と比較する工程が含まれる。
【0018】
本発明の方法にはさらに、不妊症と関係があるバイオマーカーを含む試料を哺乳動物から得る工程が含まれ得る。試料は、ヒト組織または体液であり得る。特定の実施形態においては、試料は、母体血液(maternal blood)または母体唾液(maternal saliva)である。本発明の方法にはまた、不妊症と関係があるバイオマーカーについて試料を富化させる工程が含まれる場合がある。
【0019】
本発明の別の態様は、基板と、基板に対して別々の指定可能な位置で結合させた複数のオリゴヌクレオチドとを含む、アレイを提供する。ここで、オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1つが、不妊症と関係がある変異を含む表1の1つの遺伝子の一部にハイブリダイズする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、ヒト(H.s.)およびマウス(M.m.)において、タンパク質レベル、遺伝子レベル、および遺伝子発現レベルのいずれにおいても高度に保存されている3つの母性効果遺伝子(PADI6、NLRP5、およびOOEP;表1を参照のこと)を示す。図1はまた、3つの母性効果遺伝子のそれぞれとクラスターを形成する、推定される生殖能力関連遺伝子も示す。
【図2】図2は、不妊症と関係がある遺伝子が局在化し、調節する、重要な哺乳動物の卵構造を示す。
【図3】図3は、マウスおよびヒトにおける多数の母性効果遺伝子の遺伝子発現プロフィールを示す。
【図4】図4は、マウスおよびヒトにおける多数の母性効果遺伝子の遺伝子発現プロフィールを示す。
【図5】図5は、マウスおよびヒトにおける多数の母性効果遺伝子の遺伝子発現プロフィールを示す。
【図6】図6は、マウスおよびヒトにおける多数の母性効果遺伝子の遺伝子発現プロフィールを示す。
【図7−1】図7は、マウスおよびヒトにおける多数の母性効果遺伝子の遺伝子発現プロフィールを示す。
【図7−2】図7は、マウスおよびヒトにおける多数の母性効果遺伝子の遺伝子発現プロフィールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
遺伝子変化は卵の質および生殖能力と相関関係があり、患者において不妊症を評価するため、ならびに体外受精や卵の保存を含む適切な治療および方法を選択するために使用されている。本発明の方法は、不妊症と関係があるバイオマーカーを分析し、個体において生殖能力を評価するおよび/または生殖能力を決定する要因を定量化するためにその分析の結果を使用する。
【0022】
試料
本発明の方法には、不妊症と関係がある遺伝子または遺伝子産物、および特定の実施形態においては、表1の少なくとも1つの遺伝子または表1の少なくとも1つの遺伝子の遺伝子産物(例えば、RNAまたはタンパク質)を含むと疑われる試料(例えば、組織または体液)を得る工程が含まれる。試料は、任意の臨床的に許容される様式で採取することができる。組織は、例えば、ヒトまたは他の哺乳動物に由来する結合した細胞の塊および/または細胞外マトリックス材料(例えば、皮膚組織、子宮内膜組織、鼻腔組織、CNS組織、神経組織、眼組織、肝臓組織、腎臓組織、胎盤組織、乳腺組織、胎盤組織、胃腸組織、筋骨格組織、泌尿生殖器組織、骨髄など)であり、これには、細胞および/または組織と会合した接合材料ならびに液体材料が含まれる。体液は、例えば、ヒトまたは他の哺乳動物に由来する液体材料である。そのような体液としては、粘膜、血液、血漿、血清、血清誘導物、胆汁、血液、母体血、痰、唾液、汗、羊水、月経液、乳房液、卵巣の濾胞液、卵管液、腹水、尿、および脳脊髄液(CSF)(例えば、腰部または脳室のCSF)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。試料はまた、微細針吸引組織または生検組織であってもよい。試料はまた、細胞または生物学的材料を含む培地であってもよい。特定の実施形態においては、不妊症と関係がある遺伝子または遺伝子産物は、生殖細胞または組織(例えば、配偶子細胞、生殖腺組織、受精した胚、および胎盤)の中に見られ得る。特定の実施形態においては、試料は、採取された母体血液または唾液である。
【0023】
核酸は、当該分野で公知の方法にしたがって試料から抽出される。例えば、Maniatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,N.Y.,pp.280−281,1982(その内容は引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる)を参照のこと。特定の実施形態においては、ゲノム試料が被検体から採取され、続いて、例えば、目的の生殖能力と関係がある遺伝子または遺伝子断片を含有するヌクレオチドアレイへのハイブリダイゼーションにより、目的の遺伝子または遺伝子断片の富化が行われる。試料は、当該分野で公知の方法(例えば、ハイブリッド捕捉)を使用して目的の遺伝子(例えば、不妊症と関係がある遺伝子)について富化することができる。例えば、Lapidus(米国特許第7,666,593号)(その内容は引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる)を参照のこと。
【0024】
RNAは、細胞の溶解、およびその中に含まれるタンパク質の変性を含む手順により、真核生物細胞から単離することができる。目的の組織としては、配偶子細胞、生殖腺組織、子宮内膜組織、受精した胚、および胎盤が挙げられる。その中に含まれるタンパク質の変性を含む手順により目的の液体からRNAを単離することができる。目的の液体として、月経液、乳房液、卵巣の濾胞液、腹水、または培養培地が挙げられる。DNAを除去するために、さらなる工程が利用される場合もある。細胞の溶解は、非イオン性界面活性剤を用いて行うことができ、これに続き、核、ひいては細胞性DNAの塊を除去するために微量遠心分離が行われる場合がある。1つの実施形態においては、RNAは、チオシアン酸グアニジン溶解、それに続く、DNAからRNAを分離するためのCsCl遠心分離を使用して、目的の様々なタイプの細胞から抽出される(Chirgwinら、Biochemistry 18:5294−5299(1979))。ポリ(A)+RNAが、オリゴ−dTセルロースでの選択により選択される(Sambrookら、MOLECULAR CLONING−−A LABORATORY MANUAL(第2版)、1〜3巻,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)を参照のこと)。あるいは、DNAからのRNAの分離は、有機抽出により、例えば、ホットフェノールまたはフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールを用いて行うことができる。所望される場合は、RNase阻害剤を溶解緩衝液に添加することができる。同様に、特定の細胞のタイプについては、プロトコールにタンパク質変性/消化工程を加えることが望ましい場合がある。
【0025】
多くの適用については、他の細胞性RNA(例えば、トランスファーRNA(tRNA)およびリボソームRNA(rRNA))に対してmRNAを優先的に富化させることが所望される。ほとんどのmRNAはそれらの3’末端にポリ(A)テールを含む。これが、アフィニティークロマトグラフィーにより(例えば、固体支持体(例えば、セルロースまたはSephadex(商標))に結合させたオリゴ(dT)あるいはポリ(U)を使用して)それらを富化することを可能にする(Ausubelら、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,第2巻,Current Protocols Publishing,New York(1994)を参照のこと)。一旦、結合させてから、ポリ(A)+mRNAを、2mMのEDTA/0.1%のSDSを使用してアフィニティーカラムから溶離させる。
【0026】
バイオマーカー
バイオマーカーは、一般的には、生物学的状態の指標となり得る分子をいう。本発明の方法とともに使用するバイオマーカーは、不妊症と関係がある任意のマーカーであり得る。例示的なバイオマーカーとして、遺伝子および遺伝子産物(例えば、RNAおよびタンパク質)が挙げられる。特定の実施形態においては、バイオマーカーは不妊症と関係がある遺伝子である。不妊症と関係がある遺伝子は、その変化が生殖能力の変化と関係がある任意の遺伝子である。生殖能力の変化の例として以下が挙げられるが、これらに限定されるわけではない:不妊症と関係がある遺伝子の同型接合型ノックアウトは生殖能力の完全な喪失を導く;不妊症と関係がある遺伝子の同型接合型ノックアウトは、生殖能力を不完全に低下させ、個体ごとに異なる生殖能力の低下を生じる;ヘテロ接合型ノックアウトは完全に劣性であり、生殖能力に対する影響はない;そして、不妊症と関係がある遺伝子はX連鎖性であり、結果として、生殖能力の障害の可能性は、その遺伝子の非機能的対立遺伝子が不活性なX染色体(バー小体)上にあるかどうか、または発現しているX染色体上にあるかどうかに依存する。
【0027】
特定の実施形態においては、不妊症と関係がある遺伝子は母性効果遺伝子である。母性効果遺伝子は、哺乳動物の卵母細胞において鍵となる構造をコードし、哺乳動物の卵母細胞において機能することが明らかにされている遺伝子である(Yurttasら、Reproduction 139:809−823,2010)。母性効果遺伝子は、例えば、Christiansら(Mol Cell Biol 17:778−88,1997);Christiansら、Nature 407:693−694,2000);Xiaoら(EMBO J 18:5943−5952,1999);Tongら(Endocrinology 145:1427−1434,2004);Tongら(Nat Genet 26:267−268,2000);Tongら(Endocrinology,140:3720−3726,1999);Tongら(Hum Reprod 17:903−911,2002);Ohsugiら(Development 135:259−269,2008);Borowczykら(Proc Natl Acad Sci USA.,2009);およびWu(Hum Reprod 24:415−424,2009)に記載されている。これらのそれぞれの内容は、引用によりそれらの全体が本明細書に組み込まれたものとなる。
【0028】
特定の実施形態においては、母性効果遺伝子は以下の表1に示される遺伝子から選択される。
【0029】
【表1−1】

【0030】
【表1−2】

【0031】
【表1−3】

本発明にしたがって使用されるさらなる遺伝子を図1に示す。特に、図1は、ヒト(H.s.)およびマウス(M.m.)において、タンパク質レベルおよび遺伝子レベルのいずれについても高度に保存されている3つの母性効果遺伝子(PADI6、NLRP5、およびOOEP;表1を参照のこと)を示す。図1はまた、3つの母性効果遺伝子のそれぞれとクラスターを形成する、推定される生殖能力と関係がある遺伝子も示す。これらの遺伝子は、シンテニー保存されているかまたは高度に保存されている遺伝子座に位置しており、ほとんどの場合には、マウスおよび/またはヒトの卵の中で発現されることが観察されている。したがって、PADI6、NLRP5、OOEP、および図1に示されるものを含むがこれらに限定されるわけではない他の母性効果遺伝子とクラスターを形成した生殖能力と関係がある遺伝子もまた、本発明にしたがって使用するために選択することができる。
【0032】
表1の遺伝子の分子産物は、転写および染色体再編成からRNAプロセシングおよび結合までの、卵母細胞と胚の生理学の様々な局面に関与している。図3〜7を参照のこと。図2は、重要な哺乳動物の卵構造を示す:細胞質格子(Cytoplasmic Lattices)、表層下母性複合体(Subcortical Maternal Complex)(SCMC)、および減数分裂紡錘体(Meiotic Spindle)(不妊症と関係がある遺伝子が局在化し、調節する)。図3は、SCMCと会合した母性効果遺伝子(MEG)の、マウスにおける卵発生を通じた豊富な遺伝子発現プロフィールを示す。この複合体とは会合しない3つの遺伝子(Oct4、Cdx2、Nanog)の比較的低い遺伝子発現パターンを対照として示す。図4は、マウスの卵母細胞の成熟の間の、SCMCと会合した母性効果遺伝子の発現レベルの相対的な低下を示す。MEGレベルの低下は、一般的には卵母細胞の成熟の間に観察される。図5は、マウスにおいて受胎から胚性転移までの間に、ポリソーム区画内でSCMCと会合したMEGが豊富に存在することを示す。この区画における存在は、これらのmRNAがタンパク質へと翻訳されることの証拠である。図6は、マウスの着床前発生の過程の間の、胚性因子(Oct4、Cdx2、Nanog)と比較した、SCMCと会合したMEG(卵母細胞因子)の動的RNAレベルを示す。一般的には、受胎により遺伝する転写物のレベルは、胚ゲノムが完全に活性化されるまで低下する。図7は、ヒトの母性効果遺伝子の組織特異的発現を示す。
【0033】
ペプチジルアルギニンデイミナーゼ6(PADI6) PADI6は、その相対量に基づいて2Dの卵のプロテオームゲルから最初にクローニングされた。PADI6の発現は、卵母細胞と着床前胚にほぼ全てが限定されると見られる。PADI6は最初に原始卵胞(primordial oocyte follicles)中で発現され、着床前発生の間を通じて、胞胚期まで、タンパク質レベルで維持される(Wrightら、Dev Biol,256:73−88,2003)。PADI6の不活化は、マウスにおいて雌の不妊症を生じ、Padi6−nullの発生の停止が、2細胞段階で生じる。
【0034】
ヌクレオプラスミン2(NPM2) ヌクレオプラスミンは哺乳動物の母性効果遺伝子であり、これは、卵母細胞の成熟の間にリン酸化されると考えられている。NPM2は、卵母細胞の成熟の間に質量のリン酸塩感受性の増大を示す。増加したリン酸化は、発生の前核段階の間中保たれる。その後、NPM2は2細胞段階で脱リン酸化され、着床前発生の休止期の間中、この形態を維持する。さらに、その発現パターンは、卵母細胞と初期胚に限定されると見られる。NPM2の局在化の免疫蛍光分析は、NPM2が卵母細胞と初期胚の核に主に局在化することを示している。マウスにおいては、受胎により誘導されるNPM2が雌の生殖能力に必要である。
【0035】
胚が必要とする母親の抗原(Maternal antigen the embryos require)(MATER/NLRP5) MATERは、2細胞段階より先の胚発生に不可欠な、別の極めて豊富な量で存在するマウスの卵母細胞タンパク質である。MATERは、自己免疫性早発閉経のマウスモデルにおいて卵母細胞特異的抗原として最初に同定された(Tongら、Endocrinology,140:3720−3726,1999)。MATERは、PADI6と同様の発現および細胞内発現プロフィールを示す。PADI6 null動物と同様に、Mater nullである雌は正常な卵形成、卵巣の発育、卵母細胞の成熟、排卵、および受精を示す。しかし、Mater−nullである雌に由来する胚は2細胞段階で発生が阻まれ、正常な胚ゲノムの活性化を示すことができない(Tongら、Nat Genet 26:267−268,2000;およびTongら、Mamm Genome 11:281−287,2000b)。
【0036】
Brahma関連遺伝子1(Brg1) 哺乳動物のSWI/SNF関連クロマチンリモデリング複合体は転写を調節し、接合体ゲノムの活性化(ZGA)に関与すると考えられている。このような複合体は、細胞のタイプおよび組織に応じて変わり得るおよそ9つのサブユニットからなる。BRG1触媒サブユニットはDNA依存性APTase活性を示し、ATPの加水分解によるエネルギーがヌクレオソームの立体構造および位置を変化させる。null同型接合型が胞胚期より先には進行しないことから、Brg1は卵母細胞中で発現され、マウスにおいて不可欠であることが示されている。
【0037】
胚発生を許容する卵母細胞中に存在する因子(Factor located in oocytes permitting embryonic development)(Floped/OOEP) 表層下母性複合体(SCMC)は、いくつかの母性効果遺伝子産物がそこに局在化する、ほとんど特徴のない哺乳動物の卵母細胞構造である(Liら、Dev Cell 15:416−425,2008)。PADI6、MATER、FILIA、TLE6、およびFLOPEDがこの複合体に局在化することが示されている(Liら、Dev Cell 15:416−425,2008;Yurttasら、Development 135:2627−2636,2008)。この複合体はFLOPEDとMATERが存在しない限りは存在せず、MATERが枯渇した卵母細胞から生じる胚と同様に、Floped−null卵母細胞から生じる胚も発生の2細胞段階を超えて進行することはない。FLOPEDは小さい(19kD)のRNA結合タンパク質であり、これはまたMOEP19の名称でも特徴づけられている(Herrら、Dev Biol 314:300−316,2008)。
【0038】
FILIA FILIAは、別の小さいRNA結合ドメインを含有する受胎により遺伝するタンパク質である。FILIAは、MATERとのその相互作用が同定されており、それについて命名されている(Ohsugiら、Development 135:259−269,2008)。SCMCの他の構成要素と同様に、Filia遺伝子産物の受胎による遺伝は、初期胚発生に必要である。FILIAの欠失は、初期卵割の際の誤った染色体整列が一部原因で異数性が高率で起こる、様々な重篤度の発生停止を生じる。また、紡錘体形成チェックポイントもこれらの胚の中では異常である(Zhengら、Proc Natl Acad Sci USA 106:7473−7478,2009)。
【0039】
バソヌクレイン(Basonuclin)(Bnc1) バソヌクレインは、rDNA(pol I)とmRNA(pol II)の合成を調節する、ケラチン生成細胞および生殖細胞(男性および女性)中で見られる亜鉛フィンガー転写因子である。その発現が卵母細胞中で低下する量に応じて、胚は8細胞段階より先に発生できない場合がある。Bsn1欠失マウスでは、卵母細胞の発生に混乱が生じたとしても正常な数の卵母細胞が排卵されるが、これらの卵母細胞の多くは、生存可能な子孫となることができない。
【0040】
接合糸期停止1(Zygote Arrest 1)(Zar1) Zar1は、卵母細胞から胚遷移で機能する卵母細胞特異的母性効果遺伝子である。高レベルのZar1発現がマウスの卵母細胞の細胞質中で観察され、同型接合型であるnullの雌は不妊症である:Zar1−/−である雌から増殖した卵母細胞は2細胞段階より先に進行することはなかった。
【0041】
バソヌクレイン(Bnc1) バソヌクレインは、rDNA(pol I)とmRNA(pol II)の合成を調節する、ケラチン生成細胞および生殖細胞(男性および女性)中で見られる亜鉛フィンガー転写因子である。その発現が卵母細胞中で低下する量に応じて、胚は8細胞段階より先に発生できない場合がある。bsn1欠失マウスでは、卵母細胞の発生に混乱が生じたとしても正常な数の卵母細胞が排卵されるが、これらの卵母細胞の多くは、生存可能な子孫となることができない。
【0042】
細胞質型ホスホリパーゼA2γ(Cytosolic phospholipase A2γ)(Pla2g4c/cPLA2γ) 通常の条件下では、cPLA2γの発現は、マウスにおいては卵母細胞と初期胚に限定される。細胞内レベルでは、cPLA2γは主に、皮質領域、核質、および卵母細胞の多小胞性凝集体に局在化する。cPLA2γの発現が、健康なマウスにおいては、卵母細胞と着床前胚に主に限定されていると見られるが、発現が、Trichinella spiralisに感染したマウスの腸上皮で相当にアップレギュレートされることにもまた注目すべきである。これは、cPLA2γもまた、炎症応答においても役割を果たし得ることを示唆している。ヒトcPLA2γオルトログは、卵巣中で豊富に発現されるのではなくむしろ、心臓および骨格筋において豊富に発現される点で異なる。また、このヒトタンパク質にはリパーゼコンセンサス配列が含まれるが、他のPLA2酵素中に見られるカルシウム結合ドメインが欠けている。したがって、別の細胞質型ホスホリパーゼがより優れた候補である可能性がある。
【0043】
トランスフォーム性酸性コイル状コイル含有タンパク質3(Transforming,Acidic Coiled−Coil Containing Protein 3)(TACC3) マウスにおいては、Maskin/TACC3が、中心体での微小管固定と、紡錘体のアセンブリおよび細胞の生存に必要である。
【0044】
特定の実施形態においては、遺伝子は、卵母細胞中で発現される遺伝子である。例示的な遺伝子としては、CTCF(Wanら、Development 135:2729−2738,2009)、Zfp57(Liら、Dev Cell 15:416−425,2008)、Oct4(Zuccottiら、Reprod Biomed Online 19 Suppl 3:57−62,2009a;Zuccottiら、BMC Dev Biol 8:97,2008;およびZuccottiら、Hum Reprod 24:2225−2237,2009b)、SEBOX(Kimら、Biol Reprod 79:1192−201,2008)、HDAC1(Maら、Dev Biol 319:110−120,2008)、およびPms2(Gurtuら、Genetics 160:271−277,2002)が挙げられる。
【0045】
他の実施形態においては、遺伝子は、DNA修復経路に関与している遺伝子であり、これには、Mlh1、Pms1、およびPms2が含まれるが、これらに限定されるわけではない。他の実施形態においては、遺伝子はBRCA遺伝子である。
【0046】
他の実施形態においては、バイオマーカーは不妊症と関係がある遺伝子の遺伝子産物(例えば、RNAまたはタンパク質)である。特定の実施形態においては、遺伝子産物は母性効果遺伝子の遺伝子産物である。他の実施形態においては、遺伝子産物は表1の遺伝子の産物である。特定の実施形態においては、遺伝子産物は、卵母細胞中で発現される遺伝子の産物、例えば、CTCF、Zfp57、Oct4、SEBOX、HDAC1、またはPms2の産物である。他の実施形態においては、遺伝子産物は、DNA修復経路に関与している遺伝子の産物、例えば、Mlh1、Pms1、またはPms2の産物である。他の実施形態においては、遺伝子産物はBRCAの産物である。
【0047】
最後に、バイオマーカーは後成的素因であり得、例えば、メチル化パターン(例えば、CpGアイランド)、ヒストンタンパク質、アセチル化、ユビキチン化、リン酸化などであり得る。
【0048】
アッセイ
本発明の方法には、不妊症と関係がある遺伝子における変異または不妊症と関係がある遺伝子産物の異常な発現(過剰発現または低発現)のいずれかを検出するアッセイを実行する工程が含まれる。特定の実施形態においては、アッセイは、表1の遺伝子または表1の遺伝子の遺伝子産物について行われる。核酸アレイ、増幅プライマー、ハイブリダイゼーションプローブなどを作製し、使用するために利用される方法のような従来法についての詳細な説明は、以下のような標準的な研究室マニュアルの中に見ることができる:Genome Analysis:A Laboratory Manual Series(第I〜IV巻)、Cold Spring Harbor Laboratory Press;PCR Primer:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press;およびSambrook,Jら(2001)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版(第1〜3巻),Cold Spring Harbor Laboratory Press。特製の核酸アレイは、例えば、Affymetrix(Santa Clara,CA)、Applied Biosystems(Foster City,CA)、およびAgilent Technologies(Santa Clara,CA)から市販されている。
【0049】
遺伝子中の変異を検出する方法は当該分野で公知である。特定の実施形態においては、表1から選択される1つの遺伝子中の変異が不妊症を示す。他の実施形態においては、表1から選択される2つ以上の遺伝子(例えば、表1の全ての遺伝子)についてアッセイが行われ、表1の遺伝子のうちの少なくとも2つにおける変異が不妊症を示す。他の実施形態においては、表1の遺伝子のうちの少なくとも3つにおける変異が不妊症を示す;表1の遺伝子のうちの少なくとも4つにおける変異が不妊症を示す;表1の遺伝子のうちの少なくとも5つにおける変異が不妊症を示す;表1の遺伝子のうちの少なくとも6個における変異が不妊症を示す;表1の遺伝子のうちの少なくとも7個における変異が不妊症を示す;表1の遺伝子のうちの少なくとも8個における変異が不妊症を示す;表1の遺伝子のうちの少なくとも9個における変異が不妊症を示す;表1の遺伝子のうちの少なくとも10個における変異が不妊症を示す;表1の遺伝子のうちの少なくとも15個における変異が不妊症を示す;または、表1の遺伝子の全てにおける変異が不妊症を示す。
【0050】
特定の実施形態においては、特定の位置での既知の一塩基多型を、その位置に隣接する試料DNAに結合するプライマーについての1塩基伸長により検出することができる。例えば、Shuberら(米国特許第6,566,101号)(その内容は引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる)を参照のこと。他の実施形態においては、目的のSNPと重複しており、その位置に特定のヌクレオチドを含有する試料核酸に選択的にハイブリダイズするハイブリダイゼーションプローブを利用することができる。例えば、Shuberら(米国特許第6,214,558号および同第6,300,077号)(それらの内容は引用によりそれらの全体が本明細書に組み込まれたものとなる)を参照のこと。
【0051】
特定の実施形態においては、配列の野生型および/または変異していない形態と比較して核酸の変化(すなわち、変異)を検出するために、核酸が配列決定される。核酸には、複数の遺伝子エレメントに由来する複数の核酸が含まれ得る。配列の変化を検出する方法は当該分野で公知であり、配列の変化は、当該分野で公知の任意の配列決定方法(例えば、アンサンブル配列決定法(ensemble sequencing)または単分子配列決定法)により検出することができる。
【0052】
配列決定を実行するための1つの従来法は、Sangerら、Proc Natl.Acad.Sci.USA,74(12):5463 67(1977)により記載されているような、鎖の終結とゲルによる分離によって行われる。別の従来の配列決定方法には、核酸断片の化学変性が含まれる。Maxamら、Proc.Natl.Acad.Sci.,74:560 564(1977)を参照のこと。最後に、ハイブリダイゼーションによる配列決定に基づく方法が開発されている。例えば、Harrisら(米国特許出願番号第2009/0156412号)を参照のこと。個々の参考文献の内容は、引用によりそれらの全体が本明細書に組み込まれたものとなる。
【0053】
特定の実施形態においては、配列決定はSanger配列決定技術により行われる。典型的なSanger配列決定法には、一本鎖DNA鋳型、DNAプライマー、DNAポリメラーゼ、放射線標識または蛍光標識されたヌクレオチド、およびDNA鎖の伸長を終結させる修飾型ヌクレオチドが含まれる。標識がジデオキシヌクレオチドターミネーター(例えば、標識されたプライマー)に結合しないか、または単色性標識(例えば、放射性同位元素)である場合は、DNA試料は、4種類の標準的なデオキシヌクレオチド(dATP、dGTP、dCTP、およびdTTP)とDNAポリメラーゼを含有する4つの別々の配列決定反応に分けられる。4種類のジデオキシヌクレオチド(ddATP、ddGTP、ddCTP、またはddTTP)のうちの1つだけが個々の反応に添加される。これらのジデオキシヌクレオチドは、DNA鎖の伸長の際の2つのヌクレオチド間のホスホジエステル結合の形成に必要な3’−OH基を持たない鎖終結ヌクレオチドである。しかし、各々のジデオキシヌクレオチドが異なる標識(例えば、4種類の異なる蛍光色素)を持つ場合は、全ての配列決定反応を一緒に行うことができ、別々の反応の必要はない。
【0054】
新生の、すなわち、伸長しつつあるDNA鎖へのジデオキシヌクレオチドの取り込みはDNA鎖の伸長を終結させ、これにより、様々な長さのDNA断片の入れ子状態の(nested)セットが生じる。新しく合成され、標識されたDNA断片が変性させられ、鎖の長さの1塩基の相違を分析することができる変性ポリアクリルアミド−尿素ゲル上でのゲル電気泳動を使用して大きさにより分離される。4つのDNA合成反応それぞれが同じ単色性標識(例えば、放射性同位元素)で標識される場合は、これらは、ゲル中の4つの個別の隣接するレーンのうちの1つの中で分離される。この場合、ゲル中の各レーンは、それぞれの反応に使用されたジデオキシヌクレオチドにしたがって、すなわち、ゲルレーンA、T、G、Cと命名される。4種類の異なる標識を利用する場合は、反応物をゲル上の1つのレーンの中で混合することができる。その後、DNAのバンドをオートラジオグラフィーまたは蛍光により視覚化し、X線フィルムまたはゲルの画像によりDNA配列を直接読み取ることができる。
【0055】
末端のヌクレオチド塩基は、そのバンドまたはその対応する直接的な標識を生じる、反応に添加したジデオキシヌクレオチドにより同定される。その後、ゲル中の様々なバンドの相対的位置が、図のように、DNA配列を読み取る(最も短いものから最も長いものまで)ために使用される。Sanger配列決定プロセスは、PerkinElmer、Beckman Coulter、Life Technologiesなどから市販されているDNA配列決定装置のようなDNA配列決定装置を使用して自動化することができる。
【0056】
他の実施形態においては、核酸の配列決定は、合成技術による単分子配列決定法により行われる。単分子配列決定法は、例えば、Lapidusら(米国特許第7,169,560号)、Quakeら(米国特許第6,818,395号)、Harris(米国特許第7,282,337号)、Quakeら(米国特許出願番号第2002/0164629号)、およびBraslavskyら、PNAS(USA),100:3960−3964(2003)(これらの参考文献のそれぞれの内容は、引用によりそれらの全体が本明細書に組み込まれたものとなる)に示されている。簡単に説明すると、一本鎖の核酸(例えば、DNAまたはcDNA)がフローセルの表面上に付着させたオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせられる。オリゴヌクレオチドは表面に共有結合により付着させることができ、また、当業者に公知であるように、共有結合以外の様々な結合が利用される場合もある。さらに、結合は、例えば、表面に直接または間接的に結合させたポリメラーゼを介した、間接的な結合であってもよい。表面は平坦である場合も、そうではない場合もあり、および/あるいは、多孔質もしくは非多孔質、または結合に適していることが当業者に知られている任意の他のタイプの表面である場合もある。その後、核酸が、1分子の分析能力で、成長しつつある鎖表面オリゴヌクレオチドに取り込まれた蛍光標識ヌクレオチドのポリメラーゼ媒介性付加を画像化することにより配列決定される。
【0057】
他の単分子配列決定技術には、ピロリン酸塩の検出が含まれる。なぜなら、Rothbergら(米国特許第7,335,762号、同第7,264,929号、同第7,244,559号、および同第7,211,390号)ならびにLeamonら(米国特許第7,323,305号)(これらのそれぞれの内容は引用によりそれらの全体が本明細書に組み込まれたものとなる)に示されているように、ピロリン酸塩が新生のDNA鎖への単一ヌクレオチドの取り込みにより切断されるからである。
【0058】
試料由来の核酸が分解されてしまうか、または最少量の核酸しか試料から得ることができない場合には、配列決定に十分な量の核酸を得るために、核酸についてPCRを行うことができる(例えば、Mullisら、米国特許第4,683,195号(その内容は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる)を参照のこと)。
【0059】
遺伝子産物(例えば、RNAまたはタンパク質)のレベルの検出方法は当該分野で公知である。試料中のmRNA発現の定量化のための当該分野で公知である一般的に使用されている方法として、ノーザンブロッティングおよびインサイチュハイブリダイゼーション(Parker & Barnes,Methods in Molecular Biology 106:247 283(1999)(その内容は引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる);RNAse保護アッセイ(Hod,Biotechniques 13:852 854(1992)(その内容は引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる);およびPCRをベースとする方法、例えば、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)(Weisら、Trends in Genetics 8:263 264(1992)(その内容は引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる)が挙げられる。あるいは、特異的二本鎖(RNA二本鎖、DNA−RNAハイブリッド二本鎖、またはDNA−タンパク質二本鎖を含む)を認識することができる抗体が利用される場合もある。遺伝子発現(例えば、RNAまたはタンパク質量)を測定するための当該分野で公知の他の方法は、Yeatmanら(米国特許出願番号第2006/0195269号)(その内容は引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる)に示されている。
【0060】
示差的に発現される遺伝子または示差的な遺伝子発現は、その発現が、正常なまたは対照である被検体におけるその発現と比較して、不妊症のような障害に罹患している被検体において高レベルまたは低レベルになるように活性化される遺伝子をいう。この用語にはまた、その発現が同じ障害の異なる段階で高レベルまたは低レベルになるように活性化される遺伝子も含まれる。示差的に発現される遺伝子は、核酸レベルもしくはタンパク質レベルで活性化されるかまたは阻害されるかのいずれかであり得ること、あるいは、選択的スプライシングが行われて異なるポリペプチド産物が生じ得ることも理解される。このような差異は、例えば、mRNAレベル、表面発現、分泌、またはポリペプチドの他の分配の変化により明らかにすることができる。
【0061】
示差的な遺伝子発現には、2つ以上の遺伝子またはそれらの遺伝子産物間での発現の比較、あるいは2つ以上の遺伝子またはそれらの遺伝子産物間での発現の割合の比較、あるいはさらには、正常な被検体と不妊症のような障害に罹患している被検体との間、または同じ障害の様々な段階の間で異なる、同じ遺伝子の2種類の異なるようにプロセシングされた産物の比較が含まれ得る。示差的な発現には、遺伝子またはその発現産物における、量的差異ならびに質的差異、時間的または細胞性発現パターンの差異のいずれもが含まれる。示差的な遺伝子発現(発現の増大および低下)は、正常な細胞中での発現を上回る割合または倍数変化に基づく。増大は、正常細胞中での発現レベルと比較して、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、120%、140%、160%、180%、または200%の増大であり得る。あるいは、倍数増大は、正常細胞中での発現レベを上回る1倍、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、5.5倍、6倍、6.5倍、7倍、7.5倍、8倍、8.5倍、9倍、9.5倍、または10倍の増大であり得る。低下は、正常細胞中での発現レベルと比較して、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、82%、84%、86%、88%、90%、92%、94%、96%、98%、99%、または100%の低下であり得る。
【0062】
特定の実施形態においては、逆転写PCR(RT−PCR)が、遺伝子発現を測定するために使用される。RT−PCRは、遺伝子発現のパターンを特性決定するために異なる試料集団中のmRNAレベルを比較するため、密接に関連するmRNA間での識別のため、およびRNA構造を分析するために使用することができる定量的方法である。
【0063】
最初の工程は、標的試料からのmRNAの単離である。出発材料は、典型的には、ヒトの腫瘍または腫瘍細胞株と、対応する正常組織または細胞株からそれぞれ単離された全RNAである。このように、RNAは様々な原発性腫瘍(乳房、肺、結腸、前立腺、脳、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、胸線、精巣、卵巣、子宮などを含む)、または腫瘍細胞株から、健康なドナー由来のプールされたDNAとともに、単離することができる。mRNAの供給源が原発性腫瘍である場合は、mRNAを、例えば、凍結組織試料または保管されたパラフィンに包埋され固定された(例えば、ホルマリン固定された)組織試料から抽出することができる。
【0064】
mRNAの抽出のための一般的方法は当該分野で周知であり、Ausubelら、Current Protocols of Molecular Biology,John Wiley and Sons(1997)を含む分子生物学の標準的なテキストに開示されている。パラフィンに包埋した組織からのRNA抽出のための方法は、例えば、Rupp and Locker,Lab Invest.56:A67(1987)およびDe Andresら、BioTechniques 18:42044(1995)に開示されている。これらの参考文献のそれぞれの内容は、引用によりそれらの全体が本明細書に組み込まれたものとなる。具体的には、RNAの単離は、Qiagenのような商業的製造業者による精製キット、緩衝液のセット、およびプロテアーゼを、製造業者の説明書にしたがって使用して行うことが出来る。例えば、培養物中の細胞からの全RNAを、Qiagen RNeasyミニカラムを使用して単離することができる。他の市販されているRNA単離キットとしては、MASTERPURE Complete DNA and RNA Purification Kit(EPICENTRE,Madison,Wis.)、およびParaffin Block RNA Isolation Kit(Ambion,Inc.)が挙げられる。組織試料由来の全RNAは、RNA Stat−60(Tel−Test)を使用して単離することができる。腫瘍から調製したRNAは、例えば、塩化セシウム密度勾配遠心分離により単離することができる。
【0065】
RT−PCRによる遺伝子発現プロファイリングの最初の工程は、RNA鋳型のcDNAへの逆転写であり、これに続いて、PCR反応におけるその指数増殖が行われる。2種類の最も一般的に使用されている逆転写酵素は、トリ骨髄芽球症ウイルス(avilo myeloblastosis virus)逆転写酵素(AMV−RT)およびモロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素(MMLV−RT)である。逆転写工程は、典型的には、状況および発現プロファイリングの目的に応じて、特異的プライマー、ランダムヘキサマー、もしくはオリゴ−dTプライマーを使用して始められる。例えば、抽出されたRNAは、GeneAmp RNA PCRキット(Perkin Elmer,Calif.,USA)を使用して、製造業者の説明書に従って逆転写することができる。次いで、得られたcDNAを、その後のPCR反応においてテンプレートとして使用することができる。
【0066】
PCR工程では、様々な熱安定性DNA依存性DNAポリメラーゼを使用することができるが、典型的には、5’−3’ヌクレアーゼ活性を有しており、3’−5’プルーフリーディングエンドヌクレアーゼ活性を持たないTaq DNAポリメラーゼが利用される。このように、TaqMan(登録商標)PCRでは典型的には、その標的アンプリコンに結合させたハイブリダイゼーションプローブを加水分解するためにTaqポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性が利用されるが、等価な5’ヌクレアーゼ活性を持つ任意の酵素を使用することができる。PCR反応の特色を示すアンプリコンを作製するために2つのオリゴヌクレオチドプライマーが使用される。2つのPCRプライマーの間に位置するヌクレオチド配列を検出するための第3のオリゴヌクレオチド、またはプローブが設計される。プローブは、Taq DNAポリメラーゼ酵素により伸張することはできず、レポーター蛍光色素および蛍光消光剤色素で標識される。2つの色素がプローブ上に存在するので、それらが互いに近い位置に存在する場合には消光色素により、レポーター色素からの任意のレーザーで誘導した発光が消光される。増幅反応の間に、Taq DNAポリメラーゼ酵素が鋳型依存性様式でプローブを切断する。得られるプローブ断片は溶液中に切り離され、放出されたレポーター色素からのシグナルが第2の蛍光団の消光効果から開放される。レポーター色素の1つの分子が、合成された新しい分子各々について開放され、消光されていないレポーター色素の検出が、データの定量的解釈の根拠を提供する。
【0067】
TaqMan(登録商標)RT−PCRは、例えば、ABI PRISM 7700(商標)Sequence Detection System(商標)(Perkin−Elmer−Applied Biosystems,Foster City,Calif.,USA)またはLightcycler(Roche Molecular Biochemicals,Mannheim,Germany)のような市販されている装置を使用して行うことができる。特定の実施形態においては、5’ヌクレアーゼ手順が、リアルタイム定量的PCR装置(例えば、ABI PRISM 7700(商標)Sequence Detection System(商標))上で行われる。このシステムは、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合素子(CCD)、カメラおよびコンピューターからなる。このシステムは、サーモサイクラー上で96ウェル形式で試料を増幅する。増幅の間に、レーザーにより誘導された蛍光シグナルが、全96ウェルについての光ファイバーケーブルを通じてリアルタイムで収集され、CCDカメラで検出される。このシステムには、機器を実行し、データを分析するためのソフトウェアが含まれる。
【0068】
5’ヌクレアーゼアッセイのデータは、最初、Ct、すなわち、閾値サイクルとして表される。上記で議論したように、蛍光値が各サイクルの間に記録され、これらは、増幅反応においてその時点までに増幅された生成物の量を示す。蛍光シグナルが統計学的に有意であるとして最初に記録された時点が閾値サイクル(C)である。
【0069】
試料間での誤差と効果のばらつきを最少にするために、RT−PCRは、通常、内部標準を使用して行われる。理想的な内部標準は、様々な組織の間で一定のレベルで発現され、実験用の処理による影響を受けない。遺伝子発現のパターンを正規化するために最も頻繁に使用されるRNAは、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド−3−リン酸−デヒドロゲナーゼ(GAPDH)および(β−アクチン)のmRNAである。着床前胚と卵母細胞の分析を行うためには、Chukが正規化に使用される遺伝子である。
【0070】
RT−PCR技術の最近のバリエーションはリアルタイム定量的PCRであり、これは、二重標識された蛍光発光性プローブ(すなわち、TaqMan(登録商標)プローブ)によりPCR産物の蓄積を測定する。リアルタイムPCRは、競合性定量的PCR(ここで、各標的配列についての内部競合因子が正規化のために使用される)および試料内に含まれる正規化遺伝子、またはハウスキーピング遺伝子をRT−PCRに使用する定量的比較PCRのいずれとも適合性がある。さらなる詳細については、例えば、Heldら、Genome Research 6:986 994(1996)(その内容は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる)を参照のこと。
【0071】
別の実施形態においては、MassARRAYをベースとする遺伝子発現プロファイリング方法が、遺伝子発現を測定するために使用される。Sequenom,Inc.(San Diego,Calif.)により開発されたMassARRAYをベースとする遺伝子発現プロファイリング方法においては、RNAの単離および逆転写に続いて、得られたcDNAが、1つの塩基を除き全ての位置で標的とするcDNA領域と一致し、内部標準物となる、合成DNA分子(競合因子)でスパイクされる。cDNA/競合因子混合物がPCR増幅され、PCR後のエビアルカリホスファターゼ(SAP)酵素での処理に供され、これにより、残っているヌクレオチドの脱リン酸化が生じる。アルカリホスファターゼの不活化の後、競合因子およびcDNAからのPCR産物について、プライマー伸長法が行われ、これにより、競合因子由来のPCR産物とcDNA由来のPCR産物について異なる質量のシグナルが生じる。精製後、これらの産物は、マトリックス支援レーザー脱着イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF MS)による分析に必要な成分が予め充填されたチップアレイ上に分配される。その後、反応物中に存在するcDNAが、生じた質量スペクトルのピーク面積の比を分析することにより定量化される。さらなる詳細については、例えば、Ding and Cantor,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:3059 3064(2003)を参照のこと。
【0072】
さらなるPCRをベースとする技術としては、例えば、以下が挙げられる:ディファレンシャルディスプレイ(Liang and Pardee,Science 257:967 971(1992));増幅断片長多型(iAFLP)(Kawamotoら、Genome Res.12:1305 1312(1999));BeadArray(商標)技術(Illumina,San Diego,Calif.;Oliphantら、Discovery of Markers for Disease(Biotechniquesの増補)、2002年6月;Fergusonら、Analytical Chemistry 72:5618(2000));遺伝子発現のための迅速なアッセイにおいて、市販のLuminex 100 LabMAPシステムおよび複数の色でコードされたミクロスフェア(Luminex Corp.,Austin,TX)を使用するBeadsArray for Detection of Gene Expression(BADGE)(Yangら,Genome Res.11:1888〜1898(2001));ならびに包括的発現プロファイリング(HiCEP)分析(Fukumuraら,Nucl.Acids.Res.31(16)e94(2003))。これらのそれぞれの内容は、引用によりそれらの全体が本明細書に組み込まれたものとなる。
【0073】
特定の実施形態においては、示差的な遺伝子発現はまた、マイクロアレイ技術を用いて同定し、確認することもできる。この方法では、目的のポリヌクレオチド配列(cDNAおよびオリゴヌクレオチドを含む)が、マイクロチップ基板上にプレートされるか、整列させられる。次いで、この整列させられた配列が目的の細胞または組織由来の特異的DNAプローブとハイブリダイズさせられる。マイクロアレイを作製し、遺伝子産物の発現(例えば、RNAまたはタンパク質)を決定するための方法は、Yeatmanら(米国特許出願番号第2006/0195269号)(その内容は引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる)に示されている。
【0074】
マイクロアレイ技術の特定の実施形態では、cDNAクローンのPCR増幅された挿入断片は、高密度アレイにおいて基板に載せられ、例えば、少なくとも10,000個のヌクレオチド配列が、この基板に載せられる。マイクロチップ上で10,000個のエレメントの各々に固定されたマイクロアレイに並べられた遺伝子は、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションに適している。蛍光標識されたcDNAプローブは、目的の組織から抽出されたRNAの逆転写による蛍光ヌクレオチドの取り込みを通じて生成され得る。チップに載せられた標識されたcDNAプローブは、このアレイ上のDNAの各々のスポットに対して特異的にハイブリダイズする。非特異的に結合したプローブを除去するためのストリンジェントな洗浄の後、このチップは、共焦点レーザー顕微鏡によって、またはCCDカメラのような別の検出方法によってスキャンされる。各々の整列させられたエレメントのハイブリダイゼーションの定量によって、対応するmRNAの量の評価が可能になる。二重の色の蛍光を用いて、RNAの2つの供給源から生じた別々に標識されたcDNAプローブをアレイに対して対合させてハイブリダイズさせる。これにより、各々の特別な遺伝子に対応する2つの供給源由来の転写物の相対量が同時に決定される。ハイブリダイゼーションの規模の小型化によって、多数の遺伝子の発現パターンの便利かつ迅速な評価が可能になる。このような方法は、1細胞あたり2〜3個のコピーでしか発現されない稀にしかない転写物を検出するために必要な感度を有しており、発現レベルにおける少なくともほぼ2倍の差異を再現可能に検出することが示されている(Schenaら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93(2):106〜149(1996)(その内容は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる))。マイクロアレイ分析は、市販の機器により、製造業者によるプロトコールに従って、例えば、Affymetrix GenChip技術、またはIncyteのマイクロアレイ技術を使用することにより行うことができる。
【0075】
あるいは、抗体マイクロアレイを構築することによりタンパク質レベルを検出することができる。ここで、結合部位には、細胞ゲノムによりコードされる複数のタンパク質種に特異的な固定化された(好ましくは、モノクローナル)抗体が含まれる。好ましくは、抗体は、目的のタンパク質の実質的な割合で存在する。モノクローナル抗体を作製するための方法は周知である(例えば、Harlow and Lane,1988,ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL,Cold Spring Harbor,N.Y.(その内容は全ての目的のためにその全体が組み込まれたものとなる)を参照のこと)。1つの実施形態においては、モノクローナル抗体が、細胞のゲノム配列に基づいて設計された合成のペプチド断片に対して惹起させられる。そのような抗体アレイを用いて、細胞由来のタンパク質をそのアレイと接触させ、それらの結合を当該分野で公知のアッセイを用いてアッセイする。一般的には、診断または予後診断の目的のタンパク質の発現および発現レベルは、組織薄片または切片の免疫組織化学染色により検出することができる。
【0076】
最後に、多数の組織検体中でのマーカー遺伝子の転写物のレベルが、「組織アレイ」(Kononenら、Nat.Med 4(7):844−7(1998))を使用して特性決定され得る。組織アレイ中では、多数の組織試料が同じマイクロアレイ上で評価される。このアレイにより、RNAおよびタンパク質レベルのインサイチュでの検出が可能になり;連続切片により、多数の試料の同時分析が可能になる。
【0077】
他の実施形態においては、連続遺伝子発現解析(Serial Analysis of Gene Expression)(SAGE)が遺伝子発現を測定するために使用される。連続遺伝子発現解析(SAGE)は、各々の転写物についての個々のハイブリダイゼーションプローブを提供する必要なしに、多数の遺伝子転写物の同時分析および定量分析を可能にする方法である。第一に、転写物を固有に同定するための十分な情報を含む短い配列タグ(約10〜14bp)が、このタグが各々の転写物内の固有の位置から得られるという条件下で、作製される。次いで、多くの転写物を互いに連結させて、長い連続分子を形成させ、これを配列決定することができ、これにより多数のタグの実態を同時に明らかにすることができる。転写物の任意の集団の発現パターンは、個々のタグの量を決定すること、および各々のタグに対応する遺伝子を同定することにより定量的に評価することができる。さらなる詳細については、例えば、Velculescuら,Science 270:484〜487(1995);およびVelculescuら,Cell 88:243〜51(1997)(それらの内容は引用によりそれらの全体が本明細書に組み込まれたものとなる)を参照のこと。
【0078】
他の実施形態においては、遺伝子発現を測定するために大規模並列処理特徴配列決定法(Massively Parallel Signature Sequencing)(MPSS)が使用される。この方法は、Brennerら,Nature Biotechnology 18:630〜634(2000)によって記載されており、非ゲルベースの特徴配列決定法(signature sequencing)と、別々の5μmの直径のマイクロビーズ上の数百万の鋳型のインビトロでのクローニングとを組み合わせる配列決定アプローチである。最初に、DNA鋳型のマイクロビーズ上に整列させられたライブラリーが、インビトロでのクローニングによって構築される。この後に続いて、鋳型を含有するマイクロビーズの平面アレイのアセンブリが、フローセル中で高密度(典型的には、1cmあたり3×10個より多いマイクロビーズ)で行われる。各々のマイクロビーズ上のクローニングされた鋳型の遊離の末端が、DNA断片の分離の必要がない蛍光に基づく特徴配列決定方法を使用して、同時に分析される。この方法は、1回の操作で、酵母cDNAライブラリー由来の何十万もの遺伝子の特徴配列(signature sequence)を同時かつ正確に提供することが示されている。
【0079】
免疫組織化学方法もまた、本発明の遺伝子産物の発現レベルを検出するために適している。従って、各々のマーカーに特異的な抗体(モノクローナルまたはポリクローナル)および抗血清(例えば、ポリクローナル抗血清)が、発現を検出するために使用される。この抗体は、例えば、放射性標識、蛍光標識、ハプテン標識(例えば、ビオチン)、または酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼもしくアルカリホスファターゼ)を用いて、抗体自体の直接標識によって検出することができる。あるいは、未標識の一次抗体は、一次抗体に特異的な抗血清、ポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体を含む、標識された二次抗体と組み合わせて使用される。免疫組織化学プロトコールおよびキットは、当該分野で周知であり、そして市販されている。
【0080】
特定の実施形態においては、プロテオミクスアプローチが遺伝子発現を測定するために使用される。プロテオームは、特定の時点で試料(例えば、組織、生物、または細胞培養物)中に存在するタンパク質の総計をいう。プロテオミクスとしては、とりわけ、試料中のタンパク質発現の全体的変化の研究が挙げられる(発現プロテオミクスとも呼ばれる)。プロテオミクスには、典型的には、以下の工程が含まれる:(1)2−Dゲル電気泳動(2−D PAGE)による試料中の個々のタンパク質の分離;(2)ゲルから回収した個々のタンパク質の同定(例えば、質量分析法またはN末端配列決定法);ならびに(3)バイオインフォマティクスを使用するデータの分析。プロテオミクス法は、遺伝子発現プロファイリングの他の方法に対する有用な補完であり、本発明の予後診断マーカーの生成物を検出するために、単独で、または他の方法と組み合わせて使用することができる。
【0081】
いくつかの実施形態においては、質量分析法(MS)を、単独で、あるいは他の方法(例えば、免疫検定法またはRNA測定法)と組み合わせて使用して、生物学的試料中の本明細書で開示される1つ以上のバイオマーカーの存在および/またはその量を決定することができる。いくつかの実施形態においては、MS分析には、例えば、直接−スポットMALDI−TOFまたは液体クロマトグラフィーMALDI−TOF質量分析法のようなマトリックス支援レーザー脱着/イオン化(MALDI)飛行時間型(TOF)MS分析法が含まれる。いくつかの実施形態においては、MS分析法には、例えば、液体クロマトグラフィー(LC)ESI−MSのようなエレクトロスプレー・イオン化(ESI)MSが含まれる。質量分析は、市販されているスペクトロメーターを使用して行うことができる。生物学的試料中のバイオマーカーの存在およびその量を検出するためにMALDI−TOF MSおよびESI−MSを含むMS分析法を利用する方法は、当該分野で公知である。さらなる手引きについては、例えば、米国特許第6,925,389号、同第6,989,100号、および同第6,890,763号(これらの各特許は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる)を参照のこと。
【0082】
表現型形質
特定の実施形態において、本発明の方法は、アッセイの結果を、不妊症と関係し得る表現型形質または環境暴露の分析と相関させることにより不妊症を評価する。例示的な表現型形質または環境暴露を表2に示す。
【0083】
【表2−1】

【0084】
【表2−2】

【0085】
【表2−3】

研究する特定の形質に対する遺伝子変異または異常な遺伝子発現の影響を分析するために、関連研究を行うことができる。不妊症は、1つの形質として、ケースコントロール研究において不連続変数として分析され得る。これには、患者としての生殖能力がない女性と、対照としての、年齢と民族が一致する生殖能力がある女性が含まれる。ロジスティック回帰分析とカイ二乗検定を含む方法が、遺伝子変異または異常な遺伝子発現と不妊症との関係を同定するために使用され得る。加えて、ロジスティック回帰が使用される場合は、年齢、喫煙、BMI、および不妊症に影響を及ぼす他の要因(例えば、表2に示した要因)のような共変数の調整がこの分析に含まれ得る。
【0086】
加えて、ハプロタイプ効果を、Haploscoreのようなプログラムを使用して概算することができる。あるいは、HaploviewおよびPhaseのようなプログラムをハプロタイプの頻度を概算するために使用することができ、その後、カイ二乗検定のようなさらなる分析を行うことができる。ロジスティック回帰分析が、各遺伝子改変体(単数または複数)のオッズ比と相対的リスクを得るために使用される場合もある。
【0087】
遺伝子変異および/または異常な遺伝子発現と不妊症との関係は、分散分析を使用して症例だけにおいて、または症例と対照を比較することにより分析され得る。そのような分析には、年齢、喫煙、BMI、および不妊症に影響を及ぼす他の要因のような共変数の調整が含まれ得る。加えて、ハプロタイプ効果をHaploscoreのようなプログラムを使用して概算することができる。
【0088】
ロジスティック回帰の方法は、例えば、Ruczinski(Journal of Computational and Graphical Statistics 12:475−512,2003);Agresti(An Introduction to Categorical Data Analysis,John Wiley & Sons,Inc.,1996,New York,第8章);およびYeatmanら(米国特許出願番号第2006/0195269号)(これらのそれぞれの内容は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる)に記載されている。
【0089】
関連を分析するための他のアルゴリズムが公知である。例えば、結果の可能性の範囲を予測するための加法型重回帰ツリー(multiple additive regression tree)(MART)モデルを作製するためには、確率論的勾配ブースティング(stochastic gradient boosting)が使用される。各ツリーは、患者のパラメーターの分配が起こり得る結果の決定の累積グラフである;各ノードは論点(例えば、FSHレベルがxより大きいか?)を示し、そしてそのノードから生じるブランチは行われた決定(例えば、「はい」か「いいえ」)を示す。各ノードに対応する論点の選択は自動で行われる。MARTモデルは、繰り返し作製した回帰ツリーの加重和である。各々の反復において、回帰ツリーが、予測誤差内により多くの試料が含まれることが優先される基準にしたがってフィットさせられる。このツリーは既存のツリーに加えられ、予測誤差が再度計算され、このサイクルが続けられて、予測の回帰による微調整が行われる。この方法の長所としては、事前にそれらの複合体の相互作用についての知見を持たない多くの変数の分析が含まれる。
【0090】
一般化線形モデルと呼ばれる様々なアプローチは、予測変数の関数の加重和として結果を表わす。加重は、トレーニングセットについての予測誤差を最少にするために、最少二乗法またはBayesian法に基づいて計算される。予測因子(predictor)の加重は、他を一定にしたまま、予測因子を変化させることについての結果に対する影響を明らかにする。1つ以上の予測因子が高い相関関係にある場合は、共線性として知られている表現型においては、それらの加重の相対値はほとんど意味がない;そのモデルからほとんど使われていない変数を排除することによるような複数の工程を、その共線性を排除するためにとらなければならない。このように、適切に解釈されれば、加重は予測因子の相対的重要性を表わす。一般化線形モデルの一般的ではない公式としては、線形回帰、多重回帰、および多重ロジスティック回帰モデルが挙げられ、臨床的予測因子として医学界で多く使用されている。
【0091】
マイクロアレイ
特定の態様において、本発明は、別々の指定可能な位置にある基質に付着させた複数のオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイを提供する。ここで、このオリゴヌクレオチドの少なくとも1つが、不妊症と関係がある変異を含む表1の遺伝子の一部にハイブリダイズする。特定の実施形態においては、
マイクロアレイを構築する方法は当該分野で公知である。例えば、Yeatmanら(米国特許出願番号第2006/0195269号)(その内容は、引用によりその全体が本明細書中に組み込まれたものとなる)を参照のこと。
【0092】
マイクロアレイは、ポリヌクレオチド配列を含むプローブを選択すること、その後、そのようなプローブを固体支持体または表面に固定することにより準備される。例えば、プローブには、DNA配列、RNA配列、またはDNAとRNAのコポリマー配列が含まれ得る。プローブのポリヌクレオチド配列にはまた、DNAおよび/またはRNAアナログ、あるいはそれらの組み合わせが含まれる場合もある。例えば、プローブのポリヌクレオチド配列は、ゲノムDNA全体であっても、またその部分的断片であってもよい。プローブのポリヌクレオチド配列はまた、合成されたヌクレオチド配列、例えば、合成のオリゴヌクレオチド配列であってもよい。プローブ配列は、インビボで酵素により、インビトロで酵素により(例えば、PCRにより)、またはインビトロで非酵素的にのいずれかで合成することができる。
【0093】
本発明の方法で使用されるプローブ(単数または複数)は、固体支持体に固定化されることが好ましく、固体支持体は、多孔性または非多孔性のいずれであってもよい。例えば、本発明のプローブは、ポリヌクレオチド配列であり得、これは、ニトロセルロースまたはナイロンメンブレンまたはフィルターに対して、ポリヌクレオチドの3’または5’末端のいずれかで共有結合により付着させられる。このようなハイブリダイズプローブは当該分野で周知である(例えば、Sambrookら、MOLECULAR CLONING−−A LABORATORY MANUAL(第2版),第1〜3巻,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)を参照のこと)。あるいは、固体支持体または表面は、ガラスまたはプラスチック表面であり得る。特に好ましい実施形態においては、その表面上にポリヌクレオチドの集団(例えば、DNAまたはDNA模倣物の集団、あるいは、RNAまたはRNA模倣物の集団)が固定された固相からなるプローブのマイクロアレイに対するハイブリダイゼーションレベルが、測定される。固相は、非多孔性である場合があり、また状況に応じて、ゲルのような多孔性材料である場合もある。
【0094】
好ましい実施形態においては、マイクロアレイには、結合(例えば、ハイブリダイゼーション)部位すなわち「プローブ」(それぞれが、本明細書中に記載する遺伝子、特に、表1に記載する遺伝子のうちの1つを示す)の秩序構造であるアレイを持つ支持体あるいは表面が含まれる。好ましくは、マイクロアレイは指定可能なアレイであり、より好ましくは、位置を指定可能なアレイである。さらに詳細には、アレイの各プローブが、固体支持体上の既知の予め決定された位置に存在することが好ましく、その結果、各プローブの実態(すなわち、配列)を、アレイ中の(すなわち、支持体または表面上の)その位置から決定することができる。好ましい実施形態においては、各プローブが、1つの部位で固体支持体に共有結合により付着させられる。
【0095】
マイクロアレイは多数の方法で作製することができ、そのいくつかを以下に記載する。しかし、生成されたマイクロアレイは特定の特徴を共有する。アレイは再現可能であり、これにより、特定のアレイの多数のコピーを生成することが可能となり、互いに容易に比較することが可能となる。好ましくは、マイクロアレイは、結合(例えば、核酸ハイブリダイゼーション)条件下で安定な材料から作られる。マイクロアレイは、小さい(例えば、1cm〜25cmの間、12cm〜13cmの間、または3cm)ほうが好ましい。しかし、大きいアレイもまた想定され、これが好ましい場合(例えば、スクリーニングアレイでの使用のため)がある。好ましくは、マイクロアレイ中の1つの特定の結合部位または結合部位の特有のセットが、細胞中の1つの遺伝子の産物に対して(例えば、特異的mRNAに対して、またはそれに由来する特異的cDNAに対して)特異的に結合する(例えば、ハイブリダイズする)。しかし、一般的には、他の関連するまたは類似する配列は、1つの特定の結合部位に対して交差ハイブリダイズする。
【0096】
本発明のマイクロアレイには、1つ以上の試験プローブが含まれ、これらのそれぞれが、検出しようとするRNAまたはDNAのサブ配列に相補的なポリヌクレオチド配列を有する。固体表面上の各プローブの位置が分かっていることが好ましい。実際、マイクロアレイが位置を指定可能なアレイであることが好ましい。特に、アレイの各プローブは、固体支持体上の既知の予め決定された位置に配置されることが好ましく、その結果、各プローブの実態(すなわち、配列)をアレイ上の(すなわち、支持体または表面上の)その位置から決定できる。
【0097】
本発明にしたがうと、マイクロアレイは、その中の各位置が本明細書中に記載されるバイオマーカーの1つを示すアレイ(すなわち、マトリックス)である。例えば、各位置に、ゲノムDNAに基づくDNAまたはDNAアナログが含まれ得、そのゲノムマーカーから転写された特定のRNAまたはcDNAが、これに対して特異的にハイブリダイズすることができる。DNAまたはDNAアナログは、例えば、合成のオリゴマーまたは遺伝子断片であり得る。1つの実施形態においては、マーカーをそれぞれ示すプローブがアレイ中に存在する。好ましい実施形態においては、アレイに表1に列挙される遺伝子それぞれについてのプローブが含まれる。
【0098】
上記のように、特定のポリヌクレオチド分子が本発明にしたがって特異的にハイブリダイズするプローブに、相補的なゲノムポリヌクレオチド配列が含まれる。マイクロアレイのプローブは、好ましくは、1,000を超えないヌクレオチドのヌクレオチド配列からなる。いくつかの実施形態においては、アレイのプローブは、10〜1,000ヌクレオチドのヌクレオチド配列からなる。好ましい実施形態においては、プローブのヌクレオチド配列は10〜200ヌクレオチドの長さの範囲であり、1種の生物のゲノム配列である。その結果、配列相補性を持ち、それにより、そのような1種の生物のゲノムにハイブリダイズすることができる複数の様々なプローブが存在し、そのようなゲノム全体にわたりまたはそのようなゲノムの一部に連続して貼り付けられる。他の特定の実施形態においては、プローブは10〜30ヌクレオチドの長さの範囲、10〜40ヌクレオチドの長さの範囲、20〜50ヌクレオチドの長さの範囲、40〜80ヌクレオチドの長さの範囲、50〜150ヌクレオチドの長さの範囲、80〜120ヌクレオチドの長さの範囲であり、最も好ましくは60ヌクレオチドの長さである。
【0099】
プローブには、生物のゲノムの一部に対応しているDNAまたはDNA「模倣物」(例えば、誘導体およびアナログ)が含まれ得る。別の実施形態においては、マイクロアレイのプローブは、相補性RNAまたはRNA模倣物である。DNA模倣物は、DNAと特異的ワトソン・クリック様ハイブリダイゼーションすることができるか、またはRNAと特異的ハイブリダイゼーションすることができるサブユニットからなるポリマーである。核酸は、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格で修飾することができる。例示的なDNA模倣物としては、例えば、ホスホロチオエートが挙げられる。
【0100】
DNAは、例えば、ゲノムDNAまたはクローニングした配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅により得ることができる。PCRプライマーは、好ましくは、ゲノムの既知の配列に基づいて選択され、これは、ゲノムDNAの特異的断片の増幅を生じるであろう。Oligoバージョン5.0(National Biosciences)のような当該分野で周知のコンピュータープログラムが、必要な特異性と最適な増幅特性を持つプライマーの設計に有用である。典型的には、マイクロアレイ上の個々のプローブは、10塩基〜50,000塩基の間、通常は、300塩基〜1,000塩基の間の長さである。PCR方法は当該分野で周知であり、例えば、Innisら編、PCR PROTOCOLS:A GUIDE TO METHODS AND APPLICATIONS,Academic Press Inc.,San Diego,Calif.(1990)に記載されている。ロボット制御システムが核酸の単離および増幅に有用であることは当業者に明らかであろう。
【0101】
マイクロアレイのポリヌクレオチドプローブを生成するための代替えの好ましい手段は、例えば、N−ホスホネートまたはホスホルアミダイト化学を使用する合成ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの合成による(Froehlerら、Nucleic Acid Res.14:5399−5407(1986);McBrideら、Tetrahedron Lett.24:246−248(1983))。合成配列は、典型的には、約10〜約500塩基の間の長さであり、より典型的には、約20〜約100塩基の間の長さであり、最も好ましくは約40〜約70塩基の間の長さである。いくつかの実施形態においては、合成核酸には、非天然の塩基(例えば、イノシンであるがこれに限定されるわけでない)が含まれる。上記のように、核酸アナログが、ハイブリダイゼーションのための結合部位として使用され得る。適切な核酸アナログの例はペプチド核酸である(例えば、Egholmら、Nature 363:566−568(1993);米国特許第5,539,083号を参照のこと)。
【0102】
プローブは、好ましくは、結合エネルギー、塩基組成、配列複雑性、交差ハイブリダイゼーションの結合エネルギー、および二次構造を考慮するアルゴリズムを使用して選択される。Friendら、2001年1月25日に公開された国際特許公開番号WO 01/05935;Hughesら、Nat.Biotech.19:342−7(2001)を参照のこと。
【0103】
当業者はまた、ポジティブ対照プローブ(例えば、標的ポリヌクレオチド分子中の配列に相補的であり、ハイブリダイズできることが公知であるプローブ)およびネガティブ対照プローブ(例えば、標的ポリヌクレオチド分子中の配列に相補的ではなく、標的ポリヌクレオチド分子にハイブリダイズできないことが公知であるプローブ)をアレイ上に含めるべきであることを理解するであろう。1つの実施形態においては、ポジティブ対照がアレイの周囲に沿って合成される。別の実施形態においては、ポジティブ対照はアレイ全体を横切る斜めの縞模様で合成される。なお別の実施形態においては、ネガティブ対照とするための各プローブの逆相補物が、プローブの位置の隣に合成される。なお別の実施形態においては、他の生物種由来の配列が、ネガティブ対照として、または「スパイクイン(spike−in)」対照として使用される。
【0104】
プローブは、固体支持体または表面に付着させられる。固体支持体または表面は、例えば、ガラス、プラスチック(例えば、ポリプロピレン、ナイロン)、ポリアクリルアミド、ニトロセルロース、ゲル、または他の多孔性もしくは非多孔性材料から作ることができる。核酸を表面に付着させるための好ましい方法は、Schenaら、Science 270:467−470(1995)によって一般的に記載されているような、ガラス板上への印刷による。この方法は、cDNAのマイクロアレイを調製するために特に有用である(DeRisiら、Nature Genetics 14:457−460(1996);Shalonら、Genome Res.6:639−645(1996);およびSchenaら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.93:10539−11286(1995)もまた参照のこと)。
【0105】
マイクロアレイを作製するための第2の好ましい方法は、高密度オリゴヌクレオチドアレイを作製することによる。インサイチュでの合成のためのフォトリソグラフィー技術を使用して、表面上の定義された位置にある定義された配列に相補的な何千ものオリゴヌクレオチドを含有しているアレイを生成するための技術(Fodorら、1991,Science 251:767−773;Peaseら、1994,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91:5022−5026;Lockhartら、1996,Nature Biotechnology 14:1675;米国特許第5,578,832号;同第5,556,752号;および同第5,510,270号を参照のこと)、あるいは、定義されたオリゴヌクレオチドの迅速合成および蓄積のための他の方法(Blanchardら、Biosensors & Bioelectronics 11:687−690)が公知である。これらの方法が使用される場合は、既知の配列のオリゴヌクレオチド(例えば、60マー)が、誘導体化ガラススライドのような表面上に直接合成される。通常は、生成されたアレイは、重複的で、1つのRNAについていくつかのオリゴヌクレオチド分子を持つ。
【0106】
例えば、マスキング(Maskos and Southern,1992,Nuc.Acids.Res.20:1679−1684)による、マイクロアレイを作製するための他の方法も使用され得る。原則として、そして上記に記載したとおり、任意のタイプのアレイ(例えば、ナイロンハイブリダイゼーションメンブレン上のドットブロット)(Sambrookら、MOLECULAR CLONING−−A LABORATORY MANUAL(第2版),第1〜3巻,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989))を参照のこと)を使用することができる。しかし、当業者に明らかであるように、ハイブリダイゼーションの容量が小さいので、極めて小さなアレイが好ましい場合が頻繁にある。
【0107】
1つの実施形態においては、本発明のアレイは、支持体上でポリヌクレオチドプローブを合成することにより調製される。そのような実施形態においては、ポリヌクレオチドプローブが、ポリヌクレオチドの3’末端または5’末端のいずれかで共有結合によって支持体に対して付着させられる。
【0108】
特定の好ましい実施形態においては、本発明のマイクロアレイは、例えば、米国特許第6,028,189号;Blanchardら、1996,Biosensors and Bioelectronics 11:687−690;Blanchard,1998,Synthetic DNA Arrays in Genetic Engineering,第20巻,J.K.Setlow編,Plenum Press,New York、111−123頁の中のBlanchardにより記載されている方法とシステムを使用して、オリゴヌクレオチド合成のためのインクジェット印刷装置により製造される。特に、そのようなマイクロアレイ中のオリゴヌクレオチドプローブは、好ましくは、高表面張力溶媒(例えば、プロピレンカーボネート)の「微液滴」中に個々のヌクレオチド塩基を連続して堆積させることにより、アレイ中(例えば、ガラススライド上)に合成される。微液滴は容積が小さく(例えば、100pL以下、より好ましくは、50pL以下)、マイクロアレイ上では(例えば、疎水性ドメインにより)互いに離れて円形の表面張力ウェルを形成し、これが、アレイのエレメント(すなわち様々なプローブ)の位置を定義する。このインクジェット方法により製造したマイクロアレイは、典型的には高密度であり、好ましくは、1cmあたり少なくとも約2,500種類のプローブの密度を有する。ポリヌクレオチドプローブは、ポリヌクレオチドの3’末端または5’末端のいずれかで、共有結合により支持体に対して付着させられる。
【0109】
本発明により分析することができるポリヌクレオチド分子は、DNA、RNA、またはタンパク質である。標的ポリヌクレオチドは、1つ以上のヌクレオチドで検出可能に標識される。当該分野で公知の任意の方法が、標的ポリヌクレオチドを検出可能に標識するために使用され得る。好ましくは、この標識は、DNAまたはRNAの長さに沿って均一に標識を取り込み、より好ましくは、標識は、高い効率で行われる。
【0110】
好ましい実施形態においては、検出可能な標識は発光標識である。例えば、蛍光標識、生体発光標識、化学発光標識、および比色標識が本発明において使用され得る。非常に好ましい実施形態においては、標識は蛍光標識(例えば、フルオレセイン、リン光体、ローダミン、またはポリメチン色素誘導体)である。市販されている蛍光標識の例としては、例えば、蛍光ホスホルアミダイト(例えば、FluorePrime(Amersham Pharmacia,Piscataway,N.J.)、Fluoredite(Millipore,Bedford,Mass.)、FAM(ABI,Foster City,Calif.)、およびCy3またはCy5(Amersham Pharmacia,Piscataway,N.J.))が挙げられる。別の実施形態においては、検出可能な標識は放射性標識ヌクレオチドである。
【0111】
さらなる好ましい実施形態においては、患者の試料由来の標的ポリヌクレオチド分子が、参照試料の標的ポリヌクレオチド分子とは異なるように標識される。参照には、正常な組織試料由来の標的ポリヌクレオチド分子が含まれ得る。
【0112】
標的ポリヌクレオチド分子が、その相補性DNAが位置しているアレイの相補的ポリヌクレオチド配列に(好ましくは、特異的アレイ部位に)特異的に結合するか、または特異的にハイブリダイズするように、核酸ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件が選択される。
【0113】
二本鎖のプローブDNAがその上に含まれているアレイは、好ましくは、標的ポリヌクレオチド分子と接触させられる前に、DNAを一本鎖にするための変性条件に供される。例えば、自己相補性配列が原因で形成するヘアピンまたは二量体を取り除くために、一本鎖のプローブDNA(例えば、合成のオリゴデオキシリボ核酸)を含有するアレイを、標的ポリヌクレオチド分子との接触の前に変性させることが必要な場合がある。
【0114】
最適なハイブリダイゼーション条件は、プローブと標的核酸の長さ(例えば、オリゴマーであるか200塩基を超えるポリヌクレオチドであるか)およびタイプ(例えば、RNAであるかDNAであるか)に依存する。当業者は、オリゴヌクレオチドが短くなればなるほど、満足できるハイブリダイゼーション結果のための比較的均一な融点を得るためにそれらの長さを調整することが必要となり得ることを理解するであろう。核酸についての特異的(すなわち、ストリンジェントな)ハイブリダイゼーション条件のための一般的パラメーターは、Sambrookら、MOLECULAR CLONING−−A LABORATORY MANUAL(第2版),第1〜3巻,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)、およびAusubelら、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,第2巻,Current Protocols Publishing,New York(1994)に記載されている。SchenaらのcDNAマイクロアレイについての典型的なハイブリダイゼーション条件は、5×SSCおよび0.2%のSDS中、65℃で4時間のハイブリダイゼーション、続く、25℃、低ストリンジェンシーの洗浄緩衝液(1×SSCおよび0.2%のSDS)中での洗浄、それに続く、10分間、25℃での、高ストリンジェンシーの洗浄緩衝液(0.1×SSCおよび0.2%のSDS)中での洗浄である(Schenaら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.93:10614(1993))。有用なハイブリダイゼーション条件はまた、例えば、 Tijessen,1993,HYBRIDIZATION WITH NUCLEIC ACID PROBES,Elsevier Science Publishers B.V.;およびKricka,1992,NONISOTOPIC DNA PROBE TECHNIQUES,Academic Press,San Diego,Calif.の中でも提供されている。
【0115】
特に好ましいハイブリダイゼーション条件としては、プローブの平均融点で、またはそれに近い温度での(例えば、51℃以内、より好ましくは、21℃以内)、1MのNaCl、50mMのMES緩衝液(pH6.5)、0.5%のサルコシン酸ナトリウム、および30%のホルムアミド中でのハイブリダイゼーションが挙げられる。
【0116】
蛍光標識された遺伝子または遺伝子産物が使用される場合は、マイクロアレイの各部位での蛍光の発光が、好ましくは、共焦点レーザー顕微鏡を走査することによって検出され得る。1つの実施形態においては、適切な励起線を使用した別々の走査が、使用される2種類の蛍光色素分子のそれぞれについて行われる。あるいは、2つの蛍光色素分子に特異的な波長での同時の被検査物の照射を可能にするレーザーが使用され得、2種類の蛍光色素分子からの発光を同時に分析することができる(Shalonら、1996,「A DNA microarray system for analyzing complex DNA samples using two−color fluorescent probe hybridization」,Genome Research 6:639−645(これは、全ての目的について引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる)を参照のこと)。好ましい実施形態においては、アレイは、コンピューター制御型のX−Yステージと顕微鏡対物レンズを持つレーザー蛍光スキャナーで走査される。2種類の蛍光色素分子の連続的励起が多重線混合ガスレーザーで達成され、放射光が波長により分けられ、2つの光倍増管で検出される。蛍光レーザー走査装置(Fluorescence laser scanning device)は、Schenaら、Genome Res.6:639−645(1996)および本明細書中に記載される他の参考文献に記載されている。あるいは、Fergusonら、Nature Biotech.14:1681−1684(1996)により記載されている光ファイバー束が、多数の部位で同時にmRNA量をモニターするために使用され得る。
【0117】
引用による援用
他の文献(例えば、特許、特許出願、特許公報、雑誌、本、論文、ウェブコンテンツ)の引用およびそれらについて言及は、本開示全体を通じて行われている。そのような文献は全て、全ての目的について引用によりその全体が本明細書に援用されたものとなる。
【0118】
等価物
本発明は、その精神または必須の特徴から逸脱することなく、他の特異的な形態で具体化され得る。したがって、上記実施形態は本明細書中に記載する本発明についての限定というよりもむしろ説明的である全ての態様において検討される。したがって、本発明の範囲は、上記記載によってではなく、添付の特許請求の範囲により示され、したがって、特許請求の範囲の意味およびその同等の範囲に入る全ての変更が、本発明に含まれるように意図される。
【実施例】
【0119】
(実施例1)
卵母細胞タンパク質の同定
卵母細胞を、過剰排卵により、雌の、例えばマウスから採取し、透明帯を、酸性であるタイロード液での処理により取り除く。表面上に露出させた卵母細胞の原形質膜(卵細胞膜)タンパク質は、ビオチン標識によりこの時点で識別することができる。処理した卵母細胞を0.01MのPBS中で洗浄し、溶解緩衝液(7Mの尿素、2Mのチオ尿素、4%(w/v)の3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート(CHAPS)、65mMのジチオスレイトール(DTT)、および1%(v/v)のプロテアーゼ阻害剤、−80℃で)で処理する。卵母細胞タンパク質を、一次元または二次元ゲルSDS−PAGEにより分解する。ゲルを染色し、視覚化し、そして薄く切る。ゲル切片中のタンパク質を消化し(50mMの重炭酸アンモニウム中の12.5ng/μlのトリプシン、37℃で一晩)、ペプチドを抽出し、ミクロ配列分析する。
【0120】
(実施例2)
不妊症と関係がある多型の同定のための試料の集団
ゲノムDNAを30人の女性の被検体から採取する(多数回のIVFが成功しなかった15人の被検体と、成功した15人の被検体)。詳細には、全ての被検体は35歳未満である。対照グループのメンバーはIVFによる妊娠に成功した。試験グループのメンバーは、特発性不妊症の臨床的診断が下されており、3回より多くのIVFも成功せず、これまでに妊娠したことがなかった。女性はIVFのための卵を生成することができ、生殖能力がある正常な男性パートナーを有している。卵母細胞の障害により生じる不妊症に注目する(そして着床の失敗のような要因を排除する)ためには、卵提供によりその後に妊娠した女性が好ましい。
【0121】
(実施例3)
不妊症と関係がある多型の同定のための試料の集団
より大きな群の追跡研究において、ゲノムDNAを、300人の女性被検体から採取する(上記に記載したグループと同様のプロフィールを有しているグループに分ける)。識別しようとするDNA配列多型は、小さい最初の研究の結果に基づいて選択する。
【0122】
(実施例4)
早発閉経(POF)および成熟前母体高齢化多型(Premature Maternal Aging Polymorphisms)の同定のための試料の集団
ゲノムDNAを、卵の質および蓄えの成熟前の低下の徴候(異常な月経周期または無月経を含む)を示している30人の女性被検体から採取する。詳細には、全ての被検体が15〜40歳の間であり、20国際単位(IU)を上回る卵胞刺激ホルモン(FSH)レベルと5未満の基底胞状卵胞数計測値(basal antral follicle count)を有する。対照グループのメンバーは、IVFによる妊娠に成功した。試験グループのメンバーは以前には、化学療法のような生殖能力に悪影響を及ぼすことが公知の処置に対する有害物質への暴露の経験はない。このグループのメンバーはまた、40歳までに閉経を経験した1人以上の女性である家族メンバーを有し得る。
【0123】
(実施例5)
試料の調達および調製
血液は、ホルモン量の測定のような標準的手法のために不妊治療病院で患者から採血され、多くの病院では、将来の研究プロジェクトについての同意を得た後、この材料を貯蔵している。DNAは血液から容易に得ることができるが、より広い集団のサンプリングを、唾液のように家庭用の非侵襲的DNA採取方法を使用して(例えば、Oragene DNA自己採取キット(DNA Genotek)を使用して)行う。
【0124】
血液試料−3mlの全血液試料を静脈から採血し、クエン酸ナトリウム抗凝固剤で処理し、DNAの抽出まで4℃で保存する。
【0125】
全唾液−全唾液をOragene DNA自己採取キットを製造業者の説明書にしたがって使用して採取する。参加者には、約15秒間、彼らの口内の舌のあちこちを擦り、その後、採取用コップにおよそ2mlの唾液を溜めるように求める。採取用コップは、キャップをしっかりと閉めて、バイアルの下の方の区画から溶液を開放し、唾液と混合するように設計されている。これにより、DNAの単離の最初の段階を開始し、室温または低温の冷凍庫での長期保存のために唾液試料を安定化させる。全唾液試料は、必要に応じて、室温で保存し、搬送する。全唾液は、1つの試料あたり多数の有核細胞(例えば、上皮細胞、白血球)を提供するという、他の非侵襲的なDNAサンプリング方法(例えば、口腔および口をすすぐこと)を上回る利点を有する可能性がある。
【0126】
血餅−凝固血液(これは通常は、例えば、生殖能力があるホルモンレベルをモニターするための他の研究室での試験については、血清の分離による抽出後に廃棄する)を収集し、抽出まで−80℃で保存する。
【0127】
試料の調製−ゲノムDNAを、下流での配列決定の利用のために、患者の血液または唾液から、市販されているキット(例えば、それぞれ、InvitrogenのChargeSwitch(登録商標)gDNA Blood KitまたはDNA Genotekキット)を用いて調製する。凝固血液由来のゲノムDNAは、プロテイナーゼKでの消化、塩/クロロホルム抽出、およびDNAの90%エタノールでの沈殿を含む標準的な方法により調製する(N Kanaiら、1994,「Rapid and simple method for preparation of genomic DNA from easily obtainable clotted blood」,J Clin Pathol 47:1043−1044(これは、全ての目的について引用によりその全体が本明細書に組み込まれたものとなる)を参照のこと)。
【0128】
(実施例6)
特製のオリゴヌクレオチドライブラリーの製造
特製のオリゴヌクレオチドライブラリーを、目的のタンパク質をコードするDNAについて試料を富化させるために使用する。AgilentのeArray(ウェブによる設計ツール)を、不妊症と関係がある遺伝子に合わせた特製の標的富化システムを作製するために使用する。55,000のオリゴ(120マー)(3.3mbの染色体領域をカバーする)の特製のライブラリーを、表1の標的遺伝子に対して設計する。特製のRNAオリゴヌクレオチドまたはおとりを、ストレプトアビジンで標識した磁気ビーズ上に容易に捕捉するためにビオチニル化し、AgilentのSureSelect Target Enrichment Systemにおいて使用する。
【0129】
標的の富化手順は、極めて効率のよいハイブリッド選択技術を使用し、配列決定の作業の流れの費用効果とプロセス効率を大幅に改善する。標的配列の富化により、目的のゲノム領域だけを配列決定できることを確実にし、これにより、コストを下げるプロセス効率をもたらし、より多くの試料を1回の研究で分析できるようになる。SureSelect Target Enrichment Systemの作業の流れは溶液ベースであり、微小遠心管またはマイクロタイタープレート中で行う。
【0130】
(実施例7)
ゲノムDNAの捕捉
ゲノムDNAを剪断し、下流で利用する配列決定機器に特異的なライブラリー形式になるようにアセンブリする。大きさの選択を剪断したDNAについて行い、電気泳動または他の大きさの検出方法により確認する。この大きさを選択したDNAを、ビオチニル化したRNAオリゴヌクレオチドである「おとり」とともに24時間インキュベートする。RNA/DNAハイブリッドを、磁気により捕捉したストレプトアビジン標識磁気ビーズに固定する。その後、RNAのおとりを消化して、目的の標的である選択したDNAだけを残し、その後、これを増幅し、配列決定する。
【0131】
(実施例8)
標的である選択したDNAの配列決定
標的である選択したDNAを、IlluminaのGenome Analyzerを使用して、対合末端(50bp)の再配列決定手順により配列決定する。DNSターゲティングと再配列決定の組み合わせは、SNPの発見について一般的に認められている業界標準よりも大きい45倍の冗長をもたらす。
【0132】
(実施例9)
多型の生殖能力との相関関係
試験被検体のプール由来の標的である選択したDNAの配列の間での多型を同定し、プロモーター、スプライシング部位、または遺伝子のコード領域中のどこにこれらが存在するかにしたがって分類することができる。多型はまた、明らかな機能を有していない領域(例えば、イントロン、および上流または下流の非コード領域)中にも存在する可能性がある。そのような多型は、対立遺伝子の機能的欠損についての情報をもたらすことはないが、それにもかかわらず、これらはその欠損と関連があり、不妊症を予測するために有用である。多型を、試験被検体の生殖能力の状態とのそれらの相関関係を決定するために統計学的に分析する。統計学的分析は、それ自体(同型接合型またはヘテロ接合型)が不妊症を引き起こすために十分である遺伝子の欠損を特定の多型が同定することを示す。他の多型は、生殖能力を低下させるが、完全にはなくしてしまわない遺伝子改変体を同定する。他の多型は、他の遺伝子の特定の改変体の存在下でのみ、生殖能力に明らかな影響を及ぼす遺伝子改変体を同定する。他の多型は、特定の表現型の存在下でのみ生殖能力に明らかな影響を及ぼす遺伝子改変体を同定する。他の多型は、特定の環境暴露の存在下でのみ生殖能力に明らかな影響を及ぼす遺伝子改変体を同定する。なお他の多型は、他の遺伝子の特定の改変体、特定の表現型の存在、および特定の環境暴露の任意の組み合わせの存在下でのみ生殖能力に明らかな影響を及ぼす遺伝子改変体を同定する。
【0133】
(実施例10)
多型の早発閉経(POF)との相関関係
試験被検体のプール由来の標的である選択したDNAの配列の間での多型を同定し、プロモーター、スプライシング部位、または遺伝子のコード領域中のどこにこれらが存在するかにしたがって分類することができる。多型はまた、明らかな機能を有していない領域(例えば、イントロン、および上流または下流の非コード領域)中にも存在する可能性がある。そのような多型は、対立遺伝子の機能的欠損についての情報をもたらすことはないが、それにもかかわらず、これらはその欠損と関連があり、早発閉経(POF)の可能性を予測するために有用である。多型を、試験被検体のPOFの状態とのそれらの相関関係を決定するために統計学的に分析する。統計学的分析は、それ自体(同型接合型またはヘテロ接合型)がPOFを引き起こすために十分である遺伝子の欠損を特定の多型が同定することを示す。他の多型は、POFの可能性を増大させるが、POFを引き起こすわけではない遺伝子改変体を同定する。他の多型は、他の遺伝子の特定の改変体の存在下でのみ、POFに明らかな影響を及ぼす遺伝子改変体を同定する。他の多型は、特定の表現型の存在下でのみPOFに明らかな影響を及ぼす遺伝子改変体を同定する。他の多型は、特定の環境暴露の存在下でのみPOFに明らかな影響を及ぼす遺伝子改変体を同定する。なお他の多型は、他の遺伝子の特定の改変体、特定の表現型の存在、および特定の環境暴露の任意の組み合わせの存在下でのみPOFに明らかな影響を及ぼす遺伝子改変体を同定する。
【0134】
(実施例11)
多型の成熟前母体高齢化(premature maternal aging)との相関関係
試験被検体のプール由来の標的である選択したDNAの配列の間での多型を同定し、プロモーター、スプライシング部位、または遺伝子のコード領域中のどこにこれらが存在するかにしたがって分類することができる。多型はまた、明らかな機能を有していない領域(例えば、イントロン、および上流または下流の非コード領域)中にも存在する可能性がある。そのような多型は、対立遺伝子の機能的欠損についての情報をもたらすことはないが、それにもかかわらず、これらはその欠損と関連があり、卵巣予備能力および卵の質の成熟前低下(すなわち、母体高齢化)の可能性を予測するために有用である。多型を、試験被検体の母体高齢化の状態とのそれらの相関関係を決定するために統計学的に分析する。統計学的分析は、それ自体(同型接合型またはヘテロ接合型)が成熟前母体高齢化を引き起こすために十分である遺伝子の欠損を特定の多型が同定することを示す。他の多型は、成熟前母体高齢化の可能性を増大させるが、成熟前母体高齢化を引き起こすわけではない遺伝子改変体を同定する。他の多型は、他の遺伝子の特定の改変体の存在下でのみ、成熟前母体高齢化に明らかな影響を及ぼす遺伝子改変体を同定する。他の多型は、特定の表現型の存在下でのみ成熟前母体高齢化に明らかな影響を及ぼす遺伝子改変体を同定する。他の多型は、特定の環境暴露の存在下でのみ成熟前母体高齢化に明らかな影響を及ぼす遺伝子改変体を同定する。なお他の多型は、他の遺伝子の特定の改変体、特定の表現型の存在、および特定の環境暴露の任意の組み合わせの存在下でのみ成熟前母体高齢化に明らかな影響を及ぼす遺伝子改変体を同定する。
【0135】
(実施例12)
診断およびカウンセリング
アレイ形式の核酸のライブラリーを、不妊症の診断のために提供する。このライブラリーは、遺伝子標的の富化のために選択した核酸からなり、ここで、これらの標的における多型が生殖能力のばらつきと相関関係がある。患者の核酸試料(適切に切断し、大きさにより選択する)をアレイに載せ、固定されていない患者の核酸を洗い流す。その後、目的の固定された核酸を溶離させ、多型を検出するために配列決定する。検出した多型にしたがって、患者の生殖能力の状態を評価および/または定量化する。これにしたがって、患者に、不妊治療が適しているかどうかもしくはその成功の可能性、または特定の体外受精手法が適しているかどうかもしくはその必要性をアドバイスする。
【0136】
(実施例13)
診断およびカウンセリング
表1の遺伝子のうちの任意の数または全ての完全なDNA配列を、特異的再配列決定プロトコールを使用して決定する。検出した多型、ならびに報告された表現型形質および環境暴露にしたがって、患者の生殖能力の状態を評価および/または定量化する。これにしたがって、患者に、不妊治療が適しているかどうかもしくはその成功の可能性、または特定の体外受精手法が適しているかどうかもしくはその必要性をアドバイスする。
【0137】
(実施例14)
診断およびカウンセリング
アレイ形式の核酸のライブラリーを、不妊症の診断のために提供する。このライブラリーは、遺伝子標的の富化のために選択した核酸からなり、ここで、これらの標的における多型が生殖能力のばらつきと相関関係がある。患者の核酸試料(適切に切断し、大きさにより選択する)をアレイに載せ、固定されていない患者の核酸を洗い流す。その後、目的の固定された核酸を溶離させ、多型を検出するために配列決定する。検出した多型と報告された表現型形質および環境暴露にしたがって、患者のPOFの状態または将来POFが起こる可能性を評価および/または定量化する。これにしたがって、患者に、予防的な卵の保存または卵巣の保存を行うかどうかをアドバイスする。
【0138】
(実施例15)
診断およびカウンセリング
表1の遺伝子のうちの任意の数または全ての完全なDNA配列を、特異的再配列決定プロトコールを使用して決定する。検出した多型と報告された表現型および環境暴露にしたがって、患者の生殖能力の状態を評価および/または定量化する。検出した多型と報告された表現型形質および環境暴露にしたがって、患者のPOFの状態または将来POFが起こる可能性を評価および/または定量化する。これにしたがって、患者に、予防的な卵の保存または卵巣の保存を行うかどうかをアドバイスする。
【0139】
(実施例16)
診断およびカウンセリング
アレイ形式の核酸のライブラリーを、不妊症の診断のために提供する。このライブラリーは、遺伝子標的の富化のために選択した核酸からなり、ここで、これらの標的における多型が生殖能力のばらつきと相関関係がある。患者の核酸試料(適切に切断し、大きさにより選択する)をアレイに載せ、固定されていない患者の核酸を洗い流す。その後、目的の固定された核酸を溶離させ、多型を検出するために配列決定する。検出した多型と報告された表現型形質および環境暴露にしたがって、患者の母体高齢化の状態または将来に成熟前母体高齢化が起こる可能性を評価および/または定量化する。これにしたがって、患者に、予防的な卵の保存または卵巣の保存、特定の環境暴露(例えば、アルコールの摂取もしくは喫煙)を最小限にすること、または特定の表現型(例えば、若年で子供を持つこと)を控えるかどうかをアドバイスする。
【0140】
(実施例17)
診断およびカウンセリング
表1の遺伝子のうちの任意の数または全ての完全なDNA配列を、特異的再配列決定プロトコールを使用して決定する。検出した多型と報告された表現型および環境暴露にしたがって、患者の生殖能力の状態を評価および/または定量化する。検出した多型と報告された表現型および環境暴露にしたがって、患者の母体高齢化の状態または将来に成熟前母体高齢化が起こる可能性を評価および/または定量化する。これにしたがって、患者に、予防的な卵の保存または卵巣の保存、特定の環境暴露(例えば、アルコールの摂取もしくは喫煙)を最小限にすること、または特定の表現型(例えば、若年で子供を持つこと)を控えるかどうかをアドバイスする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物において不妊症および/または卵の質を評価するための方法であって:
表1から選択した複数の遺伝子における変異の有無を決定するためのアッセイを実行する工程;ならびに、
前記アッセイの結果に基づいて不妊症および/または卵の質を評価する工程であって、ここで、表1の少なくとも2つの遺伝子における変異の存在が不妊症の指標となる工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記変異が、一塩基多型;欠失;挿入;再配置;コピー数多型;およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アッセイに配列決定が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記配列決定が合成時解読法である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アッセイが、表1の遺伝子全てについて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
表1の複数の遺伝子を含む試料を前記哺乳動物から得る工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試料がヒト組織または体液である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記実行する工程の前に、表1の複数の遺伝子について前記試料を富化させる工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記評価する工程に、前記アッセイの結果を、少なくとも1つの不妊症と関係がある表現型形質または環境暴露と相関させる工程がさらに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記表現型形質または環境暴露が表2の少なくとも1つの形質から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物において不妊症および/または卵の質を評価するための方法であって:
a)少なくとも1つの不妊症と関係があるバイオマーカーについてアッセイを実行する工程;
b)前記哺乳動物の少なくとも1つの不妊症と関係がある表現型形質または環境暴露を分析する工程;ならびに、
c)工程(a)の結果と工程(b)の結果を相関させ、それにより、前記哺乳動物において不妊症および/または卵の質を評価する工程
を含む、方法。
【請求項12】
前記バイオマーカーが遺伝子である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記遺伝子が母性効果遺伝子である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記母性効果遺伝子が表1の遺伝子である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アッセイに、不妊症と関係がある変異の有無を決定するために、前記遺伝子の少なくとも一部を配列決定する工程が含まれる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記変異が、一塩基多型;欠失;挿入;再配置;コピー数多型;およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記バイオマーカーが遺伝子産物である、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記遺伝子産物が母性効果遺伝子の産物である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記母性効果遺伝子が表1の遺伝子である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記遺伝子産物がRNAまたはタンパク質である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記アッセイに、前記遺伝子産物の量を決定する工程、および決定した量を参照と比較する工程が含まれる、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記哺乳動物の表現型形質または環境暴露が、表2の少なくとも1つの形質から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項23】
不妊症と関係があるバイオマーカーを含む試料を前記哺乳動物から得る工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項24】
前記試料がヒト組織または体液である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記実行する工程の前に、バイオマーカーについて前記試料を富化させる工程をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
基板;および
前記基板に対して別々の指定可能な位置に付着させた複数のオリゴヌクレオチド
を含むアレイであって、ここで、前記オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1つが不妊症と関係がある変異を含む表1の遺伝子の一部に対してハイブリダイズする、アレイ。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7−1】
image rotate

【図7−2】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2012−529918(P2012−529918A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537883(P2012−537883)
【出願日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/050063
【国際公開番号】WO2011/133175
【国際公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(512074386)セルマティックス, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】