説明

不安定岩塊の崩落危険度の評価方法

【課題】 斜面岩塊の転倒安全率と振動特性の関係に関するノモグラフの作成を行い、個々の斜面岩塊の安定性をより詳細に評価することができる不安定岩塊の崩落危険度の評価方法を提供する。
【解決手段】 不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、現地での斜面の不安定岩塊の振動測定を行い、次に、前記不安定岩塊または同一岩種の周辺岩の岩石サンプルを取得し、該岩石サンプルの室内試験により不安定岩塊の岩石物性(引張強度・弾性係数)の把握を行い、岩石物性(引張強度・弾性係数)毎の卓越周波数と転倒安全率との関係を示すノモグラフと照合し、前記不安定岩塊の転倒安全率を求めることで、前記不安定岩塊の崩落危険度の評価を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不安定岩塊の崩落危険度の評価方法に係り、特に、その評価のためのノモグラフの作成を含む、き裂性不安定岩塊の崩落危険度の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道や道路沿線斜面岩盤の崩壊は、発生時の被害が甚大であることを考えると、十分な監視と対策が望まれる。
しかし、多数の斜面岩盤すべてを監視するには膨大なコストがかかる上、現状では斜面岩盤上の不安定岩塊の効率的な検出は困難である。
このような崩落の危険性がある斜面岩盤中の不安定岩塊の崩落危険度の判定方法としては、従来、以下に示すようなものがある。
【0003】
まず、一般的な判定方法として、現地踏査での目視検査および図面等による地形判読結果に基づき、熟練技術者が点数付けを行い危険度判定を実施する方法がある。
しかしながら、かかる判定方法では、判定結果が判定者の主観的判断に依存することになる上に、熟練技術者数も不足しているのが現状である。
そこで、本願発明者らは、
〔A〕レーザドップラー速度計を用いて、屋外で微小な構造物の振動を計測するようにした、構造物の振動特性の非接触計測による同定方法を提案している(下記特許文献1,非特許文献1参照)。
【0004】
図14は従来の構造物の振動特性の非接触計測による同定方法の模式図である。
この図に示すように、非接触型振動計111で、構造物112の振動方向113の振動を計測する際に、非接触型振動計111に接触型振動計114を取り付けて振動方向113の振動を同時測定し、非接触型振動計111で計測された時系列振動データXL (t)115に接触型振動計114で計測された時系列振動データXS (t)116を加えて、非接触型振動計111の振動の影響を取り除いた構造物112の時系列振動データXM (t)117をスペクトル演算して非接触型振動計111の振動の振動の影響を取り除いた構造物112の振動周波数特性SM (f)118を求めるようにしている。
【0005】
〔B〕また、岩盤に振動計を取り付けて揺れの特性から危険度判定を実施する、斜面の安定性評価方法を提案している(下記特許文献2参照)。
図15は従来の斜面岩塊の安定性評価方法を示す模式図である。
この図において、210は斜面岩盤、211は基岩部、212は不安定岩盤部213は深いき裂、、214a〜214eは受振機である。
【0006】
観測対象である斜面岩盤210に複数の受振機214a〜214eを配設し、平面的あるいは断面的な振動特性を求めて、振動特性を比較することにより斜面の相対的な安定性を評価するようにしている。
〔C〕さらに、非接触振動計測装置で岩塊の3次元挙動を計測して、振動卓越方向の振動特性(固有振動数など)を複数の岩塊で比較することによって岩塊の相対的な安定性を決定する方法を提案している(下記特許文献3)。
【0007】
図16は斜面岩塊の相対的な安定性を決定する装置を示す構成図である。
この図において、301は測定装置、301Aはレーザードップラ速度計(LDV)、302はレーザー管、303A〜303Dは反射ミラー、303E〜303Iはビームスプリッタ、303Jは望遠レンズ、304はLDV受光部、305はセンサ制御部、307はCCDカメラ(スコープ)、308はレーザー距離計である。
【0008】
そこで、測定対象構造物Aの振動を計測するレーザードップラ速度計301Aに測定対象構造物Aの寸法を計測するレーザー距離計308を一体化させて、測定対象構造物Aの振動とともに測定対象構造物Aの寸法を計測するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4001860号公報
【特許文献2】特開2003−149044号公報
【特許文献3】特願2011−101670
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】RTRI REPORT Vol.24,No.4,Ape,2010、“岩盤斜面評価用非接触振動計測システムに関する基礎的検討”pp.5−10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記した従来の判定方法では、精々いくつかの岩塊の相対的な安定性を比較することしかできなかった。
本発明は、上記状況に鑑みて、斜面の不安定岩塊の転倒安全率と振動特性の関係に関するノモグラフを作成し、不安定岩塊の振動測定と岩石サンプルの採取と物性(引張強度、弾性係数)調査を行い、ノモグラフに照合するだけで、個々の不安定岩塊の安定性をより詳細に評価することができる不安定岩塊の崩落危険度の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、現地での斜面の不安定岩塊の振動測定を行い、次に、前記不安定岩塊または同一岩種の周辺岩の岩石サンプルを取得し、この岩石サンプルの室内試験により不安定岩塊の岩石物性(引張強度、弾性係数)の把握を行い、岩石物性(引張強度、弾性係数)毎の卓越周波数と転倒安全率との関係を示すノモグラフと照合し、前記不安定岩塊の転倒安全率を求めることで、前記不安定岩塊の崩落危険度の評価を行うことを特徴とする。
【0013】
〔2〕上記〔1〕記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記ノモグラフの作成は、前記不安定岩塊のモデル化を行い、実験・解析による前記不安定岩塊の安定岩盤への接着長と振動特性の関係の調査を行い、異なる岩石物性(引張強度、弾性係数)でのパラメータスタディを行い、前記岩石物性(引張強度、弾性係数)毎に前記卓越周波数と前記転倒安全率の関係を示すグラフを作成することで行うことを特徴する。
【0014】
〔3〕上記〔1〕記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊の定期的モニタリングと前記ノモグラフへの照合により、前記不安定岩塊の破壊への接近の評価を行うことを特徴とする。
〔4〕上記〔1〕記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊の振動測定をレーザードップラー振動計により行うことを特徴とする。
【0015】
〔5〕上記〔1〕記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊の振動測定を前記不安定性岩塊に固定される振動計により行うことを特徴とする。
〔6〕不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、現地での斜面の不安定岩塊の振動測定を行い、次に、前記不安定岩塊または同一岩種の周辺岩の岩石サンプルを取得し、この岩石サンプルの既存資料による不安定岩塊の岩石物性(引張強度、弾性係数)の把握を行い、岩石物性(引張強度、弾性係数)毎の卓越周波数と転倒安全率との関係を示すノモグラフと照合し、前記不安定岩塊の転倒安全率を求めることで、前記不安定岩塊の崩落危険度の評価を行うことを特徴とする。
【0016】
〔7〕上記〔6〕記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記ノモグラフの作成は、前記不安定岩塊のモデル化を行い、実験・解析による前記不安定岩塊の安定岩盤への接着長と振動特性の関係の調査を行い、異なる岩石物性(引張強度、弾性係数)でのパラメータスタディを行い、前記岩石物性(引張強度、弾性係数)毎に前記卓越周波数と前記転倒安全率の関係を示すグラフを作成することで行うことを特徴する。
【0017】
〔8〕上記〔6〕記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊の定期的モニタリングと前記ノモグラフへの照合により、前記不安定岩塊の破壊への接近の評価を行うことを特徴とする。
〔9〕上記〔6〕記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊の振動測定をレーザードップラー振動計により行うことを特徴とする。
【0018】
〔10〕上記〔6〕記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊の振動測定を前記不安定性岩塊に固定される振動計により行うことを特徴とする。
〔11〕不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊のき裂部分に接着剤を注入する岩塊接着工の場合は、接着剤の物性(引張強度)を既知または計測可能とし、施工後の振動計測で卓越周波数の増加が認められれば、前記ノモグラフを利用して転倒安全率の改善を確認するようにしたことを特徴とする。
【0019】
〔12〕不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊のアンカーによる外部拘束の場合は、アンカーの緊張力を用いて算出される抵抗モーメントから転倒安全率を計算し、この計算値と卓越周波数の増加から、アンカー工の対策効果を前記ノモグラフ上で確認するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、不安定岩塊の転倒安全率と振動特性の関係のノモグラフの作成を作成し、不安定岩塊の振動測定と岩石サンプルの採取と物性(引張強度、弾性係数)調査を行い、ノモグラフに照合するだけで個々の不安定岩塊の崩落危険度をより詳細に評価することができる。また、岩石物性(引張強度、弾性係数)毎にノモグラフを作成し、崩落危険度を評価するので、より客観的な崩落危険度を評価を行うことができる。さらに、不安定岩塊の振動特性をレーザードップラー振動計により行うことで危険斜面で安全に評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例を示す不安定岩塊の崩落危険度の評価方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施例を示すノモグラフの作成のフローチャートである。
【図3】斜面の不安定岩塊の態様例を示す模式図である。
【図4】本発明に係る不安定岩塊崩落のモデル化を示す模式図である。
【図5】本発明に係る実験・解析による不安定岩塊を模擬するコンクリートブロックの接着長と振動特性の関係を調査する実験例を示す図である。
【図6】本発明に係る異なる岩石(不安定岩塊)物性(引張強度、弾性係数)モデルを示す模式図である。
【図7】本発明に係る異なる岩石物性(引張強度、弾性係数)モデルにおける接着長(cm)と卓越周波数(Hz)の関係を示す図である。
【図8】本発明に係る不安定岩塊(コンクリートブロック)の転倒安全率の求め方を説明する図である。
【図9】本発明に係る不安定岩塊(コンクリートブロック)の転倒安全率を用いて振動特性を整理した特性図である。
【図10】本発明に係るノモグラフの説明図である。
【図11】本発明に係る不安定岩塊の崩落危険度の評価の模式図である。
【図12】本発明に係る不安定岩塊の対策工の説明図である。
【図13】本発明に係る不安定岩塊の補強効果の評価の説明図である。
【図14】従来の構造物の振動特性の非接触計測による同定方法の模式図である。
【図15】従来の斜面岩塊の安定性評価方法を示す模式図である。
【図16】斜面岩塊の相対的な安定性を決定する装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法は、現地での斜面の不安定岩塊の振動測定を行い、次に、前記不安定岩塊または同一岩種の周辺岩の岩石サンプルを取得し、この岩石サンプルの室内試験により不安定岩塊の岩石物性(引張強度、弾性係数)の把握を行い、岩石物性(引張強度、弾性係数)毎の卓越周波数と転倒安全率との関係を示すノモグラフと照合し、前記不安定岩塊の転倒安全率を求めることで、前記不安定岩塊の崩落危険度の評価を行う。
【0023】
また、不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、現地での斜面の不安定岩塊の振動測定を行い、次に、前記不安定岩塊または同一岩種の周辺岩の岩石サンプルを取得し、この岩石サンプルの既存資料による不安定岩塊の岩石物性(引張強度、弾性係数)の把握を行い、岩石物性(引張強度、弾性係数)毎の卓越周波数と転倒安全率との関係を示すノモグラフと照合し、前記不安定岩塊の転倒安全率を求めることで、前記不安定岩塊の崩落危険度の評価を行う。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す斜面の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法を示すフローチャートである。
(1)まず、現地で斜面の不安定岩塊の振動測定を行う(ステップS1)
(2)次に、不安定岩塊の岩石サンプルを取得する(ステップS2)
(3)室内試験による不安定岩塊の岩石物性(引張強度、弾性係数)の把握を行う(ステップS3)
(4)その岩石物性(引張強度、弾性係数)のノモグラフ(後述)で照合する(ステップS4)
(5)不安定岩塊の転倒安全率の評価を行う(ステップS5)
(6)不安定岩塊の崩落危険度の評価を行う(ステップS6)。
【0025】
なお、上記ステップ(2)において、不安定岩塊が高所にある場合、不安定岩塊そのものからサンプルを取得することは困難な場合があるので、そのような場合には、同一岩盤斜面のアクセス可能な場所にある岩盤、岩塊から不安定岩塊と同一岩種のサンプルを取得するようにしてもよい。
上記ステップS4で用いるノモグラフは以下の手順で事前に作成する。
【0026】
図2は本発明の実施例を示すノモグラフの作成のフローチャートである。
(1)まず、不安定岩塊のモデル化を行う(ステップS11)
(2)次に、実験・解析による不安定岩塊の基礎部への接着長と振動特性の関係の調査を行う(ステップS12)
(3)異なる岩石物性(引張強度、弾性係数)でのパラメータスタディを行う(ステップS13)
(4)不安定岩塊の転倒安全率による整理を行う(ステップS14)
(5)ノモグラフの作成を行う(ステップS15)。
【0027】
このように、本発明によれば、まず事前に不安定岩塊をモデル化し、その不安定岩塊の物性(引張強度、弾性係数)のパラメータ毎に調査を行い、振動特性と転倒安全率の関係について岩石物性(引張強度、弾性係数)毎のノモグラフを作成しておく。これを用いて、実際の崩落危険度の評価時には、不安定岩塊の振動特性と岩石の物性(引張強度、弾性係数)を測定し、岩石の物性(引張強度、弾性係数)毎に作成される転倒安全率と振動周波数の関係を示すノモグラフに照合するだけで、簡単に不安定岩塊の崩落危険度を評価することができる。
【0028】
以下、各ステップの具体的説明を行う。
図3は斜面の不安定岩塊の態様例を示す模式図であり、図3(a)は安定岩盤の一部に不安定岩塊がある場合、図3(b)は地盤面に岩塊がある場合、図3(c)は安定岩盤上に不安定岩塊がある場合を示している。
図3(a)では、安定岩盤1の上方に不安定岩塊2が存在する場合であり、図3(b)では、斜面基盤部3上に斜面不安定岩塊4が存在する場合であり、図3(c)は安定岩盤5上に不安定岩塊6が存在している場合が示されている。
【0029】
このように、不安定岩塊には様々な態様があるので、これらを簡略にモデル化し、そのモデルについて実験・解析を行う。
図4は本発明に係る不安定岩塊崩落のモデル化を示す模式図である。
図4(a)では、安定岩盤11の一部に不安定岩塊12が存在している。ここでは、水平方向の切れ込み13、垂直方向の切れ込み14が見られ、不安定岩塊12は安定岩盤11の水平方向および垂直方向の一部で安定岩盤11に張り付いたような状態となっている。この安定岩盤11に張り付いた部分が矢印方向に剥がれることで崩落が起こる。
【0030】
そこで、これを垂直方向の一部で安定岩盤に接着した不安定岩塊として図5に示すようにモデル化し、これについて接着長と振動特性の関係の調査を行う。
図5は本発明に係る実験・解析による不安定岩塊を模擬するコンクリートブロックの接着長と振動特性の関係を調査する実験例を示す図であり、図5(a)はその実験装置の模式図、図5(b)はその接着長を変化させた場合の振動波形を示す図、図5(c)はその周波数(Hz)とフーリエ振幅(mm/s・s)との関係を示す図である。
【0031】
図5(a)において、地盤21上にコンクリート台座22が配置され、このコンクリート台座22の後部に安定岩盤を模擬するコンクリート側壁23が配置され、このコンクリート側壁23に接着長Lの接着剤24により不安定岩塊を模擬するコンクリートブロック(縦400×横300×奥行き200mm)25が張り付いた状態にある。このように、不安定岩塊を模擬したコンクリートブロック25を安定岩盤を模擬したコンクリート台座22のコンクリート側壁23に接着した実験装置を作製して振動を測定する。ここでは、遠隔地からの振動計測が可能なレーザードップラー振動計26により振動を計測しているが、これに限定されるものではない。
【0032】
図5(b)に示すように、接着長を8cm→6cm→4cmへと減少させることで、き裂の進展を模擬し、振動特性の変化を調べるようにしている。
図5(c)においては、接着長をパラメータとした周波数(Hz)とフーリエ振幅(mm/s・s)を示している。ここでは、接着長が80mmの場合は、123Hzの周波数でフーリエ振幅(mm/s・s)は最大となり、接着長が60mmの場合は、95Hzの周波数でフーリエ振幅(mm/s・s)は最大となり、接着長が40mmの場合は、49Hzの周波数でフーリエ振幅(mm/s・s)は最大となる。
【0033】
このように、台座との接着面積の減少に伴う不安定岩塊模型(コンクリートブロック)の振動特性の変化を振動計測実験で検出し、接着長と振動特性の関係を得る。
図6は本発明に係る異なる岩石(不安定岩塊)物性(引張強度、弾性係数)モデルを示す模式図であり、図6(a)は重さ57.6kg(縦40cm、横30cm、厚さ20cm)の大ブロック(不安定岩塊)27の模式図、図6(b)は重さ24.3kg(縦30cm、横22.5cm、厚さ15cm)の中ブロック(不安定岩塊)28の模式図、図6(c)は重さ7.2kg(縦20cm、横15cm、厚さ10cm)の小ブロック(不安定岩塊)29の模式図である。
【0034】
このように、他のパラメータ例として、不安定岩塊のサイズと重さを変化させて、振動特性との関係を調べる。
図7は本発明に係る異なる岩石物性(引張強度、弾性係数)モデルにおける接着長(cm)と卓越周波数(Hz)の特性を示す図である。
この図では、○はA級石膏を接着剤として用いた大ブロック(不安定岩塊)の場合、△はA級石膏を接着剤として用いた中ブロック(不安定岩塊)の場合、□はA級石膏を接着剤として用いた小ブロック(不安定岩塊)の場合、黒塗り○はハイストーンを接着剤として用いた大ブロック(不安定岩塊)の場合、黒塗り△はハイストーンを接着剤として用いた中ブロック(不安定岩塊)の場合、黒塗り□はハイストーンを接着剤として用いた小ブロック(不安定岩塊)の場合である。なお、例えば、A級石膏とハイストーンの強度や変形係数の一例について見ると表1のようである。
【0035】
【表1】

ここで言えることは、A級石膏の方がより弱い岩を模擬しているということである。
このように、様々なサイズ・重さのコンクリートブロック、接着強度の異なる接着剤など異なるパラメータについて実験を行い(パラメータスタディ)、図7に示すような、接着長(cm)と卓越周波数(Hz)との関係が得られる。
【0036】
次に、上記のように得られた振動特性を転倒安全率により整理する。
図8は本発明に係る不安定岩塊(コンクリートブロック)の転倒安全率の求め方を説明する図であり、図8(a)は不安定岩塊(コンクリートブロック)が安定岩盤上に部分的に載った状態の模式図、図8(b)は不安定岩塊(コンクリートブロック)が安定岩盤の側面に部分的に張りついた状態を示す模式図である。
【0037】
図8(a)では、不安定岩塊(コンクリートブロック)31が安定岩盤32上に載った状態にあり、不安定岩塊(コンクリートブロック)31は接着剤33により安定岩盤32に張り付いている。ここで、不安定岩塊31の中心までの距離をD、不安定岩塊31の重量をW、接着剤33の長さをl、接着部分の引張抵抗力をTとすると、
転倒モーメント=W・(D−l)
抵抗モーメント=T・l/2
として示すことができる。
【0038】
また、図8(b)では、不安定岩塊(コンクリートブロック)41が安定岩盤42の側面に張り付いた状態にあり、不安定岩塊(コンクリートブロック)41は接着剤43により安定岩盤42に張り付いている。ここで、不安定岩塊41の中心までの距離をD、不安定岩塊41の重量をW、接着剤43の長さをl、接着部分の引張抵抗力をTとすると、
転倒モーメント=W・D
抵抗モーメント=T・l/2
として示すことができる。
【0039】
このように不安定岩塊の安定岩盤との接触を上記のように簡略化して考えると、不安定岩塊に働く転倒モーメントと接着部分の引張抵抗力による抵抗モーメントを概算できる。
すると、転倒安全率=抵抗モーメント/転倒モーメントであるので、この転倒安全率によって、破壊時点(1.0)の何倍の抵抗モーメントを有しているかを評価できる。
図9は本発明に係る不安定岩塊(コンクリートブロック)の転倒安全率を用いて振動特性を整理した特性図である。
【0040】
この図は、図7の振動特性を関係図を転倒安全率を用いて整理したものであり、この図により、以下のことが分かる。
(1)コンクリートブロックのスケール依存性が見られなくなる。
(2)勾配(傾き)は接着剤(ボンド)の物性(引張強度)に依存する。
(3)いずれのケースも破壊時の卓越周波数(振動特性)は一定の値(約30Hz)に収束する。
【0041】
したがって、岩石の物性(引張強度・弾性係数)によって1本のグラフが書けることが分かる。
図10は本発明に係るノモグラフの説明図である。
このように、実験または解析によって、岩石の物性(引張強度・弾性係数)毎に卓越周波数と転倒安全率との関係を調べて1枚のグラフ上に示した「不安定岩塊の安定性評価用ノモグラフ」を作成する。
【0042】
ここで、接着長とは不安定岩塊と安定岩盤とつながっている部分の長さ、Wはブロック重量、Tは接着部の引張抵抗力である。
したがって、不安定岩塊の崩落危険度の評価時には、不安定岩塊の振動測定により振動特性(固有振動数)を求め、不安定岩塊または同一岩種の周辺岩の岩石サンプルの室内実験や岩塊の種別により推定を行うことで岩石の物性(引張強度・弾性係数)を求めこれらを上記ノモグラフに適用することによって不安定岩塊の転倒安全性を求める。例えば、図10に示すように、岩石物性(引張強度・弾性係数)がb、周波数が80Hzの不安定岩塊の転倒安全率はおよそ4であり、転倒モーメントの約4倍の抵抗モーメントを持っていることが分かる。このようにして、不安定岩塊の崩落危険度を評価することができる。
【0043】
図11は本発明に係る不安定岩塊の崩落危険度の評価の模式図である。
上記図10に示したノモグラフを用いて、不安定岩塊の定期的なモニタリングを実施すれば、さらに破壊接近度としての崩落危険度を評価できる。
例えば、岩石物性(引張強度・弾性係数)bの不安定岩塊と岩石物性(引張強度・弾性係数)fの不安定岩塊のモニタリング結果が、図11のようにプロットされる場合、岩石物性(引張強度・弾性係数)fの不安定岩塊の場合に比べて、岩石物性(引張強度・弾性係数)bの不安定岩塊は破壊に急速に接近しており、崩落危険度が高いことが分かる。
【0044】
上記実施例では、主に岩石の把握を、岩石サンプルの室内試験から行う場合について説明したが、
〔A〕岩石の把握を、岩石サンプルの室内試験からではなく、簡易的に既存資料から求めてノモグラフで照合するようにしてもよい。
室内実験によるサンプル試験には時間と費用を要するので、これを改善するために、目視による岩石種別を既存の強度試験結果、資料に照合して岩石物性(引張強度・弾性係数)を求めることにより、簡易に不安定岩塊の転倒安全率を算出することができる。
【0045】
岩石強度試験結果の既存資料例として、
(1)日本材料学会編(1993):「岩の力学」、基礎から応用まで、
(2)「岩の力学的性質」,丸善,pp.41−84がある。
元データは、国鉄技研地質研究室(1972):日本産岩石の物性値の総括,鉄道技術研究所報告,No.812
既存の岩石強度試験結果を表2〜表5として示す。すなわち、表2は火成岩の強度試験結果、表3は堆積岩の強度試験結果、表4は変成岩、結晶片岩の強度試験結果、表5は変成岩、熱変成岩の強度試験結果である。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

〔B〕ノモグラフを用いて不安定岩塊51に対して実施した対策工の効果を評価する方法について説明する。
図12は本発明にかかる不安定岩塊の対策工の説明図、図13は本発明にかかる不安定岩塊の補強効果の評価の説明図である。
【0050】
本発明のノモグラフ61を用いれば、き裂進展による岩塊安定性の低下のみならず、対策を実施した際に卓越周波数の増加などからその効果を評価できる。不安定と判定された不安定岩塊51に対して実施される対策工としては、不安定岩塊の除去、図12に示すような、接着剤52の注入による岩塊接着、アンカー53による外部拘束などがある。このうち、岩塊接着工法については、接着剤の物性(引張強度)が既知または計測可能であることから、施工後の振動計測で卓越周波数の増加が認められれば、ノモグラフ61を利用して転倒安全率の改善を確認することができる。また、アンカー工については、アンカーの緊張力を用いて算出される抵抗モーメントから転倒安全率が計算でき、これと卓越周波数の増加から、対策効果をノモグラフ61上で確認することができる。
【0051】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法は、岩石物性(引張強度・弾性係数)毎のノモグラフを作成し、現地での斜面の不安定岩塊の振動測定を行い、次に、前記不安定岩塊または同一岩種の周辺岩の岩石サンプルを取得し、室内試験による不安定岩塊の岩石物性(引張強度・弾性係数)の把握を行い、その岩石物性(引張強度・弾性係数)のノモグラフで照合し、前記不安定岩塊の転倒安全率を求め、前記不安定岩塊の崩落危険度の評価を行う。
【符号の説明】
【0053】
1,5,11,32,42 安定岩盤
2,4,6,12,51 不安定岩塊
3 斜面基盤部
13 水平方向の切れ込み
14 垂直方向の切れ込み
21 地盤
22 コンクリート台座
23 コンクリート側壁
L 接着長
24,33,43,52 接着剤
25 コンクリートブロック(不安定岩塊を模擬)
26 レーザードップラー振動計
27 大ブロック(不安定岩塊)
28 中ブロック(不安定岩塊)
29 小ブロック(不安定岩塊)
31,41 不安定岩塊(コンクリートブロック)
D 不安定岩塊の中心までの距離
W 不安定岩塊の重量
l 接着剤の長さ
T 接着部分の引張抵抗力
53 アンカー
61 ノモグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現地での斜面の不安定岩塊の振動測定を行い、次に、前記不安定岩塊または同一岩種の周辺岩の岩石サンプルを取得し、該岩石サンプルの室内試験により不安定岩塊の岩石物性(引張強度・弾性係数)の把握を行い、岩石物性(引張強度・弾性係数)毎の卓越周波数と転倒安全率との関係を示すノモグラフと照合し、前記不安定岩塊の転倒安全率を求めることで、前記不安定岩塊の崩落危険度の評価を行うことを特徴とする不安定岩塊の崩落危険度の評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記ノモグラフの作成は、前記不安定岩塊のモデル化を行い、実験・解析による前記不安定岩塊の安定岩盤への接着長と振動特性の関係の調査を行い、異なる岩石物性(引張強度・弾性係数)でのパラメータスタディを行い、前記岩石物性(引張強度・弾性係数)毎に前記卓越周波数と前記転倒安全率の関係を示すグラフを作成することで行うことを特徴する斜面岩塊の崩落危険度の評価方法。
【請求項3】
請求項1記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊の定期的モニタリングと前記ノモグラフへの照合により、前記不安定岩塊の破壊への接近の評価を行うことを特徴とする斜面岩塊の崩落危険度の評価方法。
【請求項4】
請求項1記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊の振動測定をレーザードップラー振動計により行うことを特徴とする斜面岩塊の崩落危険度の評価方法。
【請求項5】
請求項1記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊の振動測定を前記不安定性岩塊に固定される振動計により行うことを特徴とする斜面岩塊の崩落危険度の評価方法。
【請求項6】
不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、現地での斜面の不安定岩塊の振動測定を行い、次に、前記不安定岩塊または同一岩種の周辺岩の岩石サンプルを取得し、該岩石サンプルの既存資料による不安定岩塊の岩石物性(引張強度、弾性係数)の把握を行い、岩石物性(引張強度、弾性係数)毎の卓越周波数と転倒安全率との関係を示すノモグラフと照合し、前記不安定岩塊の転倒安全率を求めることで、前記不安定岩塊の崩落危険度の評価を行うことを特徴とする不安定岩塊の崩落危険度の評価方法。
【請求項7】
請求項6記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記ノモグラフの作成は、前記不安定岩塊のモデル化を行い、実験・解析による前記不安定岩塊の安定岩盤への接着長と振動特性の関係の調査を行い、異なる岩石物性(引張強度、弾性係数)でのパラメータスタディを行い、前記岩石物性(引張強度、弾性係数)毎に前記卓越周波数と前記転倒安全率の関係を示すグラフを作成することで行うことを特徴する不安定岩塊の崩落危険度の評価方法。
【請求項8】
請求項6記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊の定期的モニタリングと前記ノモグラフへの照合により、前記不安定岩塊の破壊への接近の評価を行うことを特徴とする不安定岩塊の崩落危険度の評価方法。
【請求項9】
請求項6記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊の振動測定をレーザードップラー振動計により行うことを特徴とする不安定岩塊の崩落危険度の評価方法。
【請求項10】
請求項6記載の不安定岩塊の崩落危険度の評価方法において、前記不安定岩塊の振動測定を前記不安定性岩塊に固定される振動計により行うことを特徴とする不安定岩塊の崩落危険度の評価方法。
【請求項11】
不安定岩塊のき裂部分に接着剤を注入する岩塊接着工の場合は、接着剤の物性(引張強度)を既知または計測可能とし、施工後の振動計測で卓越周波数の増加が見られると、前記ノモグラフを利用して転倒安全率の改善を確認するようにしたことを特徴とする不安定岩塊の崩落危険度の評価方法。
【請求項12】
不安定岩塊のアンカーによる外部拘束の場合は、アンカーの緊張力を用いて算出される抵抗モーメントから転倒安全率を計算し、この計算値と卓越周波数の増加から、アンカー工の対策効果を前記ノモグラフ上で確認するようにしたことを特徴とする不安定岩塊の崩落危険度の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−104239(P2013−104239A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249398(P2011−249398)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構、「遠隔非接触振動計測による岩盤斜面の安定性評価法の研究」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000121844)応用地質株式会社 (36)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【Fターム(参考)】