説明

不完全な組織修復を治療するための組成物および低侵襲的方法

【課題】心筋機能不全部位の内部および周囲にカテーテルによって導入して用いられるための心筋梗塞治療剤を提供する。
【解決手段】血小板リッチな血漿組成物を含む、個体における心筋機能不全部位の内部および周囲にカテーテルによって導入して用いられるための心筋梗塞治療剤であって、該血漿組成物は、滴定によりpHが約7.3〜7.5に調節され、かつ前記導入に先だって外因性活性化物質が添加されていないものである、心筋梗塞治療剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2002年4月13日に提出された米国仮特許出願第60/372,682号(これはその全体が参照として本明細書に組み入れられる)の優先権を請求する。
【0002】
発明の分野
1つの態様において、本発明は、血小板リッチな血漿(platetet-rich plasma)を含む組成物を用いる、損傷組織の治療のための方法を対象とする。治療される組織は、結合組織、心筋、骨格筋、椎間板(disc material)、椎体、膵臓およびその他の内臓、脳組織もしくは脊髄組織、または血管組織のいずれでもよい。1つの好ましい態様において、組織は結合組織である。記載される組成物および方法は、創傷治癒および感染症にも有用である。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
抗炎症薬療法、装具、安静および理学療法などの標準的な治療に反応しない結合組織損傷に対する治療プロトコールに対しては需要がある。柔軟で比較的血管に乏しい結合組織(以下では「結合組織」または「結合組織」)に対する損傷またはその他の障害は、治癒までに非常に長い時間(数カ月、場合によっては数年)がかかることが知られている。多くの症例では、結合組織に対する損傷が適切に治癒することはなく、外科的介入が必要になる。結合組織の損傷および障害は社会に大きな影響を及ぼす。これらの異常の全有病率は、米国立保健統計センター(National Center for Health Statistics)による1995年の調査によれば、米国では1000人当たり約140人である。この同じ調査では、直接的なコストは887億ドルであり、生産性の損失による間接的なコストは最大1119億ドルに上ると推計している。
【0004】
結合組織障害の一例は外側上顆炎(lateral epicondylitis)である。外側上顆炎または「テニス肘」はスポーツ障害および整形外科疾患としてよく知られている。この障害の基礎をなす病態は、過用性損傷(overuse injury)および短橈側手根伸筋腱の肘部での微小断裂が関係している。身体はこれらの微小断裂を修復しようと試みるが、多くの症例では治癒過程は不完全である。慢性外側上顆炎に対する外科手術を受ける患者の病理標本には、無秩序な(disorganized)血管線維芽細胞性(angiofibroblastic)形成異常が認められる。このような不完全な修復の試みは退行性、未熟性および無血管性の組織をもたらす。不完全な修復が行われた組織は正常腱組織よりも弱く、通常の機能を果たすには強度が不足している。また、この組織は、疼痛を引き起こすとともに患者の生活の質に有害な影響を及ぼすことにより、患者を制約させもする。
【0005】
同様の不完全修復は、他の種類の結合組織損傷または障害、例えば膝蓋腱炎(ジャンパー膝)、アキレス腱炎(ランナーに一般的に見られる)および回旋筋腱板腱炎(野球投手のように「頭上の動作を伴う(overhead)」運動競技者に一般的に見られる)、足関節靱帯の慢性損傷(「足関節捻挫」)または靱帯断裂などにも存在することがある。
【0006】
上記の諸病状の病態生理に関しては研究が行われている。現在は、多くの種類の非手術療法および手術療法が存在する。非手術的な手段には、安静、行動変容、経口抗炎症薬療法およびコルチゾン注射が含まれる。安静および行動変容は、これらの病状のうちある種のものを有する患者には有用なことがあるが、それ以外のかなり多くの臨床集団はこれらの治療法では効果が得られない。経口抗炎症薬療法は広く用いられているが、対照研究(c
ontrolled study)では有用なことは証明されていない。いくつかの研究からは、非ステロイド薬療法は実際には靱帯損傷の治癒過程に有害な影響を及ぼす可能性が示唆されている。また、外側上顆炎の症例の病理試料中に急性炎症性細胞は認められていない。コルチゾン注射は腱炎の治療に対しては実のところ意見が分かれており、急性靱帯損傷に対しては禁忌である。いくつかの研究で、コルチゾンを投与した患者の短期的な経過観察下における改善が言及されている。しかし、1年以上にわたる成績では、症状の再発率が高く、有効率も不確かなものに過ぎないことが示されている。また、これらの注射には腱断裂、感染、皮膚色素脱失、皮下萎縮、および糖尿病患者における高血糖のリスクもある。手術的手段には壊死組織切除および付随する病的な腱の修復が含まれる。しかし、開放手術または関節鏡下手術には、深部感染、神経血管構造への損傷、および瘢痕形成といった多くの合併症がみられる。さらに外科手術は費用もかかる上、局所麻酔または全身麻酔に伴うリスクも加わる。
【0007】
このため、求められているものは、上記の問題を解決するための組成物および方法である。血小板リッチな血漿(PRP)は血小板を多く含む混合物であり、これは全血から単離した上で小容量の血漿中に再懸濁させたものである。全血は赤血球を約95%、血小板を約5%含み、白血球は1%未満であるが、PRPは血小板を95%含み、4%が赤血球、1%が白血球である。PRPは、血小板を活性化してサイトカイニン、およびその他の増殖因子といった内容物を放出させる、トロンビンまたはカルシウムなどの活性化物質を混合させることができる。PRPはすでに医学において、主として骨移植および歯科インプラントの用途、ならびに外科用接着剤として用いられる組成物の一部として用いられている。例えば、Landesbergら(特許文献1)は、骨移植および歯科インプラント用のPRPを含む自己由来血小板ゲルを開示している。PRPはコラーゲンによって活性化され、創傷治癒を促進する目的で局所的に適用される。
【0008】
Antanavichら(特許文献2)は、組織シーラントとしてのPRPの調製および用法を開示している。Cochrum(特許文献3)は、PRPを選択的に含むバイオポリマー、動脈および静脈を一時的に封鎖するためのその用法を開示している。Gordinierら(特許文献4)は、創傷に対する局所外用に用いるための、pH約6.5に緩衝化された血小板を含む、血小板放出物(platelet releasate)製品を開示している。
【0009】
先行技術には、組織修復の促進を目的とするPRPを用いた結合組織の治療法を教示したものはない。さらに、本出願者は、PRPが広範囲にわたる組織損傷および/または障害の治療において非常に幅広い用途を有することを見いだした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,322,785号明細書
【特許文献2】米国特許第5,585,007号明細書
【特許文献3】米国特許第5,614,214号明細書
【特許文献4】米国特許第5,599,558号明細書
【発明の概要】
【0011】
1つの態様において、本発明は、個体における損傷組織の治療方法であって、個体における組織損傷部位を特定する段階;ならびに血小板リッチな血漿組成物を組織損傷部位の内部および周囲に導入する段階を含む方法を対象とする。好ましい態様において、組織は結合組織、心筋、骨格筋、椎間板、椎体、脳、脊髄および血管組織からなる群より選択される。1つの好ましい態様において、組織は内臓の一部である。さらに好ましい1つの態様において、内臓は膵臓である。特に好ましい態様において、組織は結合組織である。
【0012】
好ましい態様において、血小板リッチな血漿は滴定によってpHが約7.3〜7.5となるように調整される。さらに好ましい1つの態様において、滴定(titration)は重炭酸緩衝液を用いて行われる。
【0013】
好ましい態様において、血小板リッチな血漿組成物は、血小板リッチな血漿組成物による治療を受ける個体から入手した血小板を含む。1つの好ましい態様において、外因性活性化物質は、損傷部位の内部および周囲への導入前には組成物に添加されていない。
【0014】
いくつかの態様において、本方法は、組織損傷部位の内部および周囲への導入と実質的に同時に、血小板組成物中に、トロンビン、エピネフリン、コラーゲン、カルシウム塩およびpH調整剤を非制限的に含む、1つまたは複数の成分を混入する段階を含む。
【0015】
1つの態様において、本発明は、血小板リッチな血漿およびpH調整剤を含む損傷組織の治療のための血小板リッチな血漿組成物であって、血小板リッチな血漿の活性化物質を含まない組成物を対象とする。1つの好ましい態様において、血小板リッチな血漿組成物のpHはpH調整剤によってpH 約7.3〜7.5に調整される。さらに好ましい1つの態様において、pH調整剤は重炭酸緩衝液である。血小板リッチな血漿のために用いられる血漿は自己由来であることが好ましい。
【0016】
1つの態様において、本発明は、血小板リッチな血漿組成物の作製方法であって、個体から血液を採取する段階;血液から血漿画分を入手する段階;血漿画分から血小板を単離する段階;血小板を、量を減らした血漿中に再懸濁させる段階;および、再懸濁した血小板をpHを調整してpH 7.3〜7.5とし、血小板リッチな血漿組成物を得る段階を含み、血小板リッチな血漿の活性化物質が血小板リッチな血漿組成物に添加されていない方法を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下に、本発明の上記およびその他の特徴を、好ましい態様の図面を参照しながら説明するが、これは本発明を例示することを意図しており、それを限定することを意図したものではない。
【図1】術前および術後6カ月の時点での視覚的アナログ疼痛スコアの平均を示している。
【図2】術前および術後6カ月の時点でのメイヨー肘スコアの平均を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
好ましい態様の詳細な説明
本発明者は、驚くべきことに、本発明のある種の血小板組成物が、複数の種類の組織障害または組織損傷の治療に有用であることを見いだした。本明細書で用いる「損傷」という用語は、広義の用語であり、創傷、外傷もしくは病変を含む任意の組織障害または任意の組織変性を非制限的に指すことを目的に通常の意味で用いられる。特に、本発明の血小板組成物は、さまざまな結合組織の不完全修復を治療するために用いうる。
【0019】
1つの局面において、本発明は、患者の結合組織における不完全修復の治療方法であって、血小板組成物を入手すること;患者の結合組織中の不完全修復を含む病変を特定すること;ならびに血小板組成物を病変の内部および周囲に低侵襲的に導入すること、を含む方法に関する。1つの局面において、本発明は、この方法において血小板組成物が生理的pHまたはそれを上回るpHにある方法に関する。1つの局面において、本発明は、この方法において血小板組成物が血小板放出物を選択的に含む方法に関する。1つの局面において、本発明は、この方法において血小板組成物中に、トロンビン、エピネフリン、コラーゲン、カルシウム塩およびpH調整剤より選択される成分の1つまたは複数を混入することをさ
らに含む方法に関する。同じく有用なものには、脱顆粒化または血小板の保存を促進する物質、別の増殖因子または増殖因子阻害剤、NSAIDS、ステロイドおよび抗感染剤などの低分子調合薬(small molecule pharmaceutical)がある。1つの局面において、本発明は、この方法において患者の結合組織が、腱、靱帯、関節包および筋膜組織より選択される方法に関する。1つの局面において、本発明は、この方法において血小板組成物の入手が、ヒトから血液を採取すること;および血液を遠心処理して多血漿(plasma-rich)画分を得ることを含む方法に関する。1つの局面において、本発明は、この方法において血小板組成物が血小板リッチな血漿を含む方法に関する。1つの局面において、本発明は、この方法において血小板組成物が、患者の結合組織中の不完全修復領域の内部および周囲への導入前には外因性活性化物質を実質的に含まないことを条件とする方法に関する。1つの局面において、本発明は、この方法において血小板組成物が患者から入手した血小板を含む方法に関する。
【0020】
本発明はさらに、患者の結合組織における不完全修復の治療方法であって、血小板組成物を入手すること;患者の結合組織中の不完全修復を含む病変を特定すること;ならびに血小板組成物を病変の内部および周囲に導入することを含み、病変の内部および周囲への導入前には活性化物質が血小板組成物に実質的に添加されていないことを条件とする方法に関する。本発明はまた、この方法において血小板組成物が病変の内部および周囲に低侵襲的に導入される方法にも関する。本発明はまた、この方法において血小板組成物が血小板リッチな血漿を含む方法にも関する。本発明はまた、この方法において血小板組成物を病変の内部および周囲に低侵襲的に導入するのと実質的に同時に、その中に、トロンビン、エピネフリン、コラーゲン、カルシウム塩およびpH調整剤より選択される成分の1つまたは複数を混入することをさらに含む方法にも関する。同じく有用なものには、脱顆粒化または血小板の保存を促進する物質、別の増殖因子または増殖因子阻害剤、NSAIDS、ステロイドおよび抗感染剤などの低分子調合薬がある。本発明はまた、この方法において、患者の結合組織が、腱、靱帯、関節包および筋膜組織より選択される方法にも関する。本発明はまた、この方法において病変の内部および周囲への血小板組成物の導入が、患者の結合組織中に存在するコラーゲンの作用によって血小板組成物中の血小板を活性化することを含む方法にも関する。本発明はまた、この方法において血小板組成物が生理的pHまたはそれを上回るpHにある方法にも関する。本発明はまた、この方法において血小板組成物が患者から入手した血小板を含む方法にも関する。
【0021】
さらに別の局面において、本発明は、血小板放出物を含む組成物であって、生理的pHと等しいかそれを上回るpHにあり、活性化されていない血小板を実質的に含まない組成物に関する。
【0022】
さらにもう1つの局面において、本発明は、膝もしくは肘の内側側副靱帯、短橈側手根伸筋腱、足関節の前距腓靱帯、アキレス腱、後脛骨腱、膝蓋腱、四頭筋腱、前十字靱帯、後十字靱帯、脊柱靱帯、椎間板、回旋筋腱板腱または二頭筋腱の急性損傷または慢性障害に起因する病変の治療方法であって、血小板組成物を入手すること;病変の位置を特定すること;ならびに血小板組成物を病変の内部および周囲に導入することを含み、病変の内部および周囲への導入前には血小板組成物に活性化物質が実質的に添加されていないことを条件とする方法に関する。1つの局面において、本発明は、この方法において、血小板組成物が病変の内部および周囲に低侵襲的に導入される方法に関する。1つの局面において、本発明は、この方法において、血小板組成物が血小板リッチな血漿を含む方法に関する。1つの局面において、本発明は、この方法において血小板組成物を病変の内部および周囲に低侵襲的に導入するのと実質的に同時に、その中に、トロンビン、エピネフリン、コラーゲン、カルシウム塩およびpH調整剤より選択される成分の1つまたは複数を混入することをさらに含む方法に関する。同じく有用なものには、脱顆粒化または血小板の保存を促進する物質、別の増殖因子または増殖因子阻害剤、NSAIDS、ステロイドおよび抗感染
剤などの低分子調合薬がある。1つの局面において、本発明は、血小板組成物の入手が、ヒトから血液を採取すること;および血液を遠心処理して多血漿画分を得ることを含む本方法に関する。1つの局面において、本発明は、血小板組成物が生理的pHまたはそれを上回るpHにある本方法に関する。1つの局面において、本発明は、血小板組成物が患者から入手した血小板を含む本方法に関する。
【0023】
さらにもう1つの局面において、本発明は、心筋、骨格筋、臓器系、血管組織、椎間板、椎体、脊髄および脳組織の損傷または慢性障害に起因する病変の治療方法であって、血小板組成物を入手すること;治療を必要とする病変を特定すること;ならびに血小板組成物を病変の内部および周囲に低侵襲的に導入すること、を含む方法に関する。1つの局面において、本発明は、血小板組成物が血小板放出物を選択的に含む本方法に関する。1つの局面において、本発明は、血小板組成物中に、トロンビン、エピネフリン、コラーゲン、カルシウム塩およびpH調整剤より選択される成分の1つまたは複数を混入することをさらに含む本方法に関する。同じく有用なものには、脱顆粒化または血小板の保存を促進する物質、別の増殖因子または増殖因子阻害剤、NSAIDS、ステロイドおよび抗感染剤などの低分子調合薬がある。1つの局面において、本発明は、血小板組成物の入手が、ヒトから血液を採取すること;および血液を遠心処理して多血漿画分を得ることを含む本方法に関する。1つの局面において、本発明は、血小板組成物が生理的pHまたはそれを上回るpHにある本方法に関する。1つの局面において、本発明は、血小板組成物が患者から入手した血小板を含む本方法に関する。
【0024】
1つの局面において、本発明は、患者の結合組織が腱、靱帯、関節包および筋膜組織より選択される本方法に関する。1つの局面において、本発明は、血小板組成物の入手が、ヒトから血液を採取すること;および血液を遠心処理して多血漿画分を得ることを含む本方法に関する。1つの局面において、本発明は、血小板組成物が血小板リッチな血漿を含む本方法に関する。1つの局面において、本発明は、血小板組成物が、患者の障害または損傷のある組織中の不完全修復領域の内部および周囲への導入前には外因性活性化物質を実質的に含まないことを条件とする本方法に関する。1つの局面において、本発明は、血小板組成物が患者から入手した血小板を含む本方法に関する。
【0025】
本発明の血小板組成物は、活性化されていない血小板、活性化された血小板、または血小板放出物などを含む、生体適合性のある組成物でありうる。1つの態様において、本発明の血小板組成物は血小板リッチな血漿(plate-rich plasma)(PRP)を含む。
【0026】
本明細書で用いる「PRP」という用語は、その一般的な意味で用いられる広義の用語であり、PRPは末梢血濃度を上回る濃度の血小板が血漿溶液中に懸濁化されたものであって、代表的な血小板数は500,000〜1,200,000/mm3の範囲またはさらにそれを上回る。PRPは全血による濃度の血小板から作られ、自己由来、同種由来またはプールされた血小板および/または血漿から得ることができる。PRPは、ヒト由来の源を含む、さまざまな動物性の源から作ることができる。
【0027】
血小板は骨髄巨核球の細胞質部分である。これは複製のための核を持たない;血小板の予想寿命はおよそ5〜9日である。血小板は止血プロセスに関与し、凝固カスケードの開始物質を数種類放出する。血小板は創傷治癒の開始に関与するサイトカインも放出する。サイトカインは血小板内のアルファ顆粒に貯えられている。血小板同士の凝集または血小板と結合組織との接触(これは損傷または外科手術の際に予想される)に応答して、血小板の細胞膜は「活性化」されてアルファ顆粒の内容物を放出する。アルファ顆粒は能動分泌によって血小板細胞膜を介してサイトカインを放出するが、その際にヒストンおよび糖質側鎖がタンパク質骨格に付加されて完全なサイトカインが生成される。このため、血小板の破壊または断片化によっては完全なサイトカインは放出されない。
【0028】
多岐にわたるサイトカインが、活性化された血小板によって放出される。血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子-ベータ(TGF-b)、血小板由来血管新生因子(PDAF)および血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF)ならびにインスリン様増殖因子(IGF)は、 脱顆粒化を来した血小板によって放出されるサイトカインの一部である。これらのサイトカインは、損傷部位での細胞分裂を誘発する一助となることを含め、治癒過程においてさまざまな機能を果たす。これらはまた、間葉細胞、単球および線維芽細胞などに対する強力な走化性因子としても作用する。本特許の目的に関して、「放出物(releasate)」という用語は、別の細胞の機能に影響を及ぼす能力がある、サイトカインを含む、血小板内部の内容物のことを指す。
【0029】
歴史的には、Knightonに対する米国特許第5,165,938号およびGordinierらに対する第5,599,558号(これらはその全体が参照として本明細書に組み入れられる)に開示されているように、PRPはトロンビンおよびカルシウムを用いたPRPの活性化によってフィブリン性組織接着剤を作製するために用いられてきた。活性化によって種々のサイトカインが放出されるとともに、血漿画分のさまざまな構成要素の内部での血液凝固反応も引き起こされる。血液凝固反応によって急速に血小板ゲル(PG)が生成されるが、これは止血、封着および接着を目的として種々の創傷表面に適用することができる。
【0030】
例えば、PGは脊椎手術時およびラット肝裂傷モデルにおける止血補助のために用いられている。最近のある研究では、PGの使用により、術後の麻薬使用の有意な減少、術後ヘモグロビン濃度の低下の緩和、および膝関節全置換術後の機能的可動域のより急速な回復が得られたことが示されている。PGは創傷封止にも用いられている。ある研究では、自己由来のPGを開頭術のためのシーラントとして用い、患者40例のうち39例で成功したことを報告している。さらにPGが骨治癒を強化することも指摘されている。患者88例を対象にしたある前向きランダム化比較試験(controlled-randomized-prospective-trial)では、PGを用いた場合にX線検査による骨成熟が2倍に増加し、組織学的な骨密度が50%改善することが判明した(Marxら、Oral Surg. Oral Med. Oral Path. 1998, vol. 85(6): 638-646)。心臓手術および血管手術では、PGは術後の創傷裂開および感染の発生率を低下させるために用いられている(Kjaergardら、Eur J Cardio-Thoracic Surg. 1996, vol 10: 727-733;Slaterら、J Ortho Res. 1995, vol 13: 655-663;Sumnerら、J. Bone Joint Surg.(Am) 1995, vol 77: 1135-1147;Sethiら、International Society for the Study of Lumbar Spine, June 2001での発表)。
【0031】
しかし、以上の用途および刊行された文献のうち、患者に対する血小板輸血以外の目的で、PGの範囲を超えてPRPを外科的に用いうることを示したものはこれまでない。本発明の他にない特徴は、本発明の実施に際して、患者への導入前に血小板を活性化する必要がないことである。
【0032】
もう1つの態様において、本発明の血小板組成物は、血小板自体に加えて、血小板からの放出物を含みうる。放出物は、活性化の際の血小板の脱顆粒化によって放出される種々のサイトカインを含む。血小板の活性化物質は数多く存在する;これらには、カルシウムイオン、トロンビン、コラーゲン、エピネフリンおよびアデノシン二リン酸が含まれる。本発明による放出物は、Knightonに対する米国特許第5,165,938号およびGordinierらに対する第5,599,558号に記載された方法を含む、従来の方法に従って調製しうる。
【0033】
PRPをPGとして用いる従来の放出物に関する手法の1つの欠点は、トロンビンを優先的な活性化物質として用いることにある。具体的には、PGに用いられるトロンビンの多くはウシトロンビンであり、これはクロイツフェエルト・ヤコブ病に関する汚染の問題のために、トラブルを引き起こす恐れがある。多くのウシ材料はプリオン汚染の恐れがあると考え
られており、このためウシトロンビンは手術で避けられている。ヒトのプールトロンビン(pooled thrombin)も同じようにウイルス、プリオン、細菌などの種々の物質による汚染の恐れがあるために避けられている。組換えヒトトロンビンを用いることもありうるが、これは非常に高価である。
【0034】
外因性または補足的な活性化物質を患者に投与する必要がないことは、本発明の特別な利点である。結合組織の主成分であるコラーゲンは、血小板の強力な活性化物質である。このため、本発明の血小板組成物を結合組織の内部および/または周囲に導入すると、血小板組成物中の血小板がコラーゲンと結合して活性化される可能性がある。このため、トロンビンなどの外因性活性化物質を投与する必要性は軽減または解消される。トロンビンを用いることの欠点については上に述べた。カルシウムイオンなどのその他の強力な活性化物質は、激しい疼痛、意図しない血液凝固およびその他の望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。このため、本発明の1つの態様において、外因性活性化物質は全くまたは実質的に全く、本発明の血小板組成物の一部として存在もしくは添加されず、本発明の血小板組成物の調製にも用いられない。当然ながら、医師が医学的に必要または望ましいと判断すれば、外因性活性化物質を用いることは依然として可能である。
【0035】
血小板組成物は、全血または血小板を含む血液画分から血小板を単離するための従来の任意の方法を用いて調製しうる。これらには、遠心法、濾過、アフィニティーカラムなどが含まれる。血小板組成物がPRPを含む場合には、米国特許第5,585,007号および第5,788,662号(いずれもAntanavichらに対するもの。これらはその全体が参照として本明細書に組み入れられる)に記載されているような、PRPを入手するための従来の方法を用いてもよい。
【0036】
血小板リッチな血漿組成物を、シリンジを用いる注射、カテーテルを含む従来の手段により、それを必要とする個体に対して送達させることができる。血小板リッチな血漿組成物を、皮膚パッチ、噴霧装置により、または軟膏、骨移植片もしくは薬物と組み合わせて送達することもできる。さらに、これを縫合糸、ステント、ネジ、プレートまたは他の何らかの移植用医療装置に対する被覆物として用いることもできる。また、これを生体吸収性の薬物または装置と組み合わせて用いることもできる。
【0037】
血小板リッチな血漿組成物の送達部位は、組織損傷および/または障害の部位またはその近傍である。組織損傷または障害の部位は、画像検査、患者からのフィードバック、またはそれらの組み合わせを含む、十分に確立された方法によって特定される。用いるのに好ましい画像研究(study)は組織の種類によって決まる。一般に用いられる画像検査の方法には、MRI、X線、CTスキャン、ポジトロン放射断層撮影法(PET)、単光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)、電気インピーダンス断層撮影法(BIT)、電場源画像化法(ESI)、磁場源画像化法(MSI)、レーザー光画像化法および超音波法が含まれるが、これらに限定されない。特定の疼痛および/または愁訴の領域を指し示すことにより、患者が組織損傷または障害の部位の特定を助けることもできる。
【0038】
血小板組成物のpHの調整は、Koerner, Jr.に対する米国特許第5,147,776号およびMurphyに対する第5,474,891号(これらは参照として本明細書に組み入れられる)に開示されているように、活性化されていない血小板の貯蔵期間を延長させるために用いられている。pHをさまざまなpH調整剤を用いて調整することもでき、これらは生理的に認容される緩衝剤であることが好ましいが、貯蔵血小板による乳酸産生を調節する物質を含め、pHを調節する他の物質も含まれうる。特に有用なのは、血小板組成物のpHを生理的pHと等しいかそれを上回るpHにさせるようなpH調整剤である。1つの態様において、pH調整剤は重炭酸ナトリウムを含む。本発明の目的に関して、生理的pHは約7.35〜約7.45の範囲のpHと定義することができる。本発明の実施において有用なpH調整剤には、重炭酸緩衝液(重炭酸ナト
リウムなど)、グルコン酸カルシウム、塩化コリン、デキストロース(d-グルコース)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、マレイン酸、4-モルホリンプロパンスルホン酸(MOPS)、1,4-ピペラジンビス(エタンスルホン酸)(PIPES)、スクロース、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS塩基)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸(TRIS.HCl)および尿素が含まれる。1つの好ましい態様において、pH調整剤は重炭酸緩衝液であり、より好ましくは重炭酸ナトリウムである。
【0039】
本特許の目的に関して、「組織」という用語には、心筋および骨格筋、椎間板、椎体、内臓、脳および脊髄組織、動脈および静脈などの血管組織、ならびに非分化組織が含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
本特許の目的に関して、結合組織には腱、靱帯、筋膜組織および関節包が含まれる。1つの好ましい態様において、結合組織には、膝または肘の内側側副靱帯、短橈側手根伸筋腱(テニス肘)、足関節の前距腓靱帯、アキレス腱、前十字靱帯、後十字靱帯、後脛骨腱、膝蓋腱、四頭筋腱、回旋筋腱板腱および二頭筋腱が含まれる。
【0041】
不完全修復とは、本特許出願の文脈で用いる場合、無秩序な、実質的に存在しない(治癒していない断裂の場合など)または別の点で病的な修復のことを意味すると定義することができる。無秩序な修復とは、退行性、未熟性および無血管性の組織を伴った、無秩序な血管線維芽細胞性形成異常を特徴とする。このような組織は正常結合組織よりも弱く、通常の機能を果たすには強度が不足している。また、この組織は、疼痛を引き起こすとともに患者の生活の質に有害な影響を及ぼすことにより、患者を制約させもする。実質的に存在しない修復(non-existent repair)は、結合組織が断裂し、断裂後に適切な治癒が起こらない状況で生じると考えられる。別の点で病的な修復とは、組織修復が必要になる以前と実質的に同じ組織となるほどには組織が修復していない、他のあらゆる種類の修復であると考えられる。
【0042】
本発明の範囲または精神を逸脱することなく、本発明にさまざまな修正および変更を加えうることは当業者には明らかであると考えられる。したがって、本発明は、本発明に対する修正および変更も、添付する特許請求の範囲およびその等価物の範囲にそれらが含まれる限り、範囲に含むものとする。以下の実施例は本発明を例示したものであり、それを限定することを意図したものではない。
【実施例】
【0043】
実施例1
PRPを、Harvest社(Plymouth, MA)により製造された遠心装置を用いて調製した(同様の装置はBiomet GPSシステム、Depuy Symphony器械およびMedtronic Magellan器械としても入手可能である)。血液約55ccを標準的な滅菌シリンジを用いて患者から採取し、凝固阻止のために5ccのクエン酸デキストロース溶液を配合した後に、製造者のプロトコールに従って、血小板を単離するため遠心により沈降させた。続いて、これらの血小板を約3ccの血漿中に再懸濁させた。その結果得られた血小板リッチな血漿溶液(PRP)は酸性度が高かったため、PRP 1cc当たり約0.05ccの8.4%重炭酸ナトリウム緩衝液を用いて滅菌条件下で中和し、ほぼ生理的なpH 7.4とした。PRPを外因性活性化物質の添加によって活性化することはしなかった。このPRP組成物を本明細書では自己血小板抽出物(APEX)と称する。
【0044】
実施例2(参考例)
全血50ccを患者から採取した後、Knightonの方法(米国特許第5,165,938号、コラム3)
に従って調製する。PRPを、Knightonに従って組換えヒトトロンビンを用いて活性化する。脱顆粒化した血小板を遠心により沈降させ、放出物を含む上清を採取する。選択的には、重炭酸ナトリウム緩衝液を用いて放出物のpHをpH 7.4に調整してもよい。
【0045】
実施例3
全血30mlを患者から採取した。血小板組成物は、アルギン酸塩を血小板組成物に添加しない点を除き、Cochrumに対する米国特許第5,510,102号(これはその全体が参照として本明細書に組み入れられる)の実施例1に従って調製した。
【0046】
実施例4(参考例)
本明細書に記載のPRP組成物の効果に関する試験を、外側上顆炎(テニス肘)を呈しており、非手術的治療(抗炎症薬療法、装具を付けた状態での安静および理学療法)が奏功しなかった患者を対象として行った。これらの患者の症状の平均持続期間は16.6カ月であった。インフォームドコンセントを得た後に、患者を形式に則って試験に組み入れ、ランダムにAPEX治療群または対照群のいずれかに割り当てた。
【0047】
患者を評価し、視覚的疼痛スコア、メイヨー肘スコア(Mayo Elbow Score)および握力を調べた。視覚的アナログ疼痛スコアに関して、ゼロは「疼痛なし」に相当し、100は「考えられる最も強い痛み」に相当する。メイヨー肘スコアは全般的機能スコアであり、スコアが高いほど全般的に機能が優れていることを示す。2つのスコアの値を対標本T検定を用いて統計的に評価し、有意水準はp<0.05に設定した。
【0048】
続いて各患者に対して、本発明の腱処置を行う30分前にバリアム(Valium)5mgを経口投与した。次に患者の準備およびドレープかけを無菌的な様式で行った。エピネフリンを含む0.5%ブピビカイン(bupivicaine)による局所浸潤麻酔を皮膚、皮下構造および短橈側手根伸筋腱に対して行った。局所麻酔薬が肘関節の外側で維持されるように注意した。
【0049】
局所麻酔薬の投与から2〜3分後に、実施例1のAPEX組成物約3〜5ccを、22ゲージ針を用いて肘の短橈側手根伸筋腱に導入した。対照群には麻酔薬(ブピビカイン)を注射した。最初の場所から約0.5〜1cmのところに多数回の穿刺を行った。実施例1のAPEX組成物または麻酔薬のいずれかを低侵襲的に導入した直後に、患者の腕を約90%屈曲位に固定し、腕および手を挙上しないようにした。続いて術野を無菌的に被覆し、患者に腕を30分間動かさないように指示した。注射直後および処置終了から30分後に、各患者の神経血管、疼痛および機能状態を評価した。処置から最初の24〜48時間は、必要に応じて各患者に経口鎮痛麻酔薬を投与した。形式に則った術後のストレッチおよび強化のプログラムは処置から2〜3日後に開始してよいこととした。視覚的疼痛スコア、メイヨー肘スコアおよび握力のすべてを処置後にモニターした。
【0050】
表1および2は、治療した患者と対照例を術前および8週時点で比較したものである。5例の患者は本発明の1つの局面によるPRP組成物(APEX)で治療し、3例の患者には麻酔薬注射を行って対照とした。視覚的アナログ疼痛スコア(表1)はPRP治療群では平均66%改善し、これに対して対照群は平均20.4%の改善であった。肘機能の検査であるメイヨー肘スコア(表2)は、PRP治療群では平均44%改善したのに対して対照群では30.5%であった。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
対照例において認められた改善は、疼痛領域への薬物送達を伴わない針の挿入(注射針刺激法(dry needling))が疼痛症状をある程度緩和させるという現象が観察されていることに起因する可能性がある。しかし、肘機能(表2)および疼痛レベル(表1)の改善が有意に大きかったことは、本発明の1つの面であるPRP治療の有効性を明らかに示している。
【0054】
実施例5(参考例)
実施例4の患者標本を6カ月時点で再び評価した。本明細書に記載した本発明の方法を用いたAPEX組成物による治療から少なくとも6カ月を経過し、評価を受けた患者は現在までに5例に上る。その結果の概要を以下の表3および4に示した。これまでに検討した5例の患者に関する平均値を示している。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
視覚的アナログ疼痛スコア(表3)によれば、6カ月時点で疼痛スコアは平均79%の改善を示している。表4によれば、6カ月時点でメイヨー肘スコアは平均53%の改善を示している。これらのデータを図1(視覚的アナログ疼痛スコア)および図2(メイヨー肘スコアの改善)に図示した。重要なことは、5例の患者中4例が非常に良好(excellent)(メイヨー肘スコアが90を超える)、残る患者1例が良好(good)のカテゴリーにある点である。患者は全例、治療前は普通(fair)または不良(poor)であった。標本数がこのように少ないにもかかわらず、改善は統計学的に有意であった(p値<0.05)。
【0058】
実施例6(参考例)
アキレス腱炎を呈する患者に対して、本発明の腱処置を行う30分前にバリウム5mgを経口投与する。次に患者の準備およびドレープかけを無菌的な様式で行う。エピネフリンを含む0.5%ブピビカインによる局所浸潤麻酔を皮膚、皮下構造およびアキレス腱に対して行う。局所麻酔薬が足関節の外側で維持されるように注意する。
【0059】
局所麻酔薬の投与から2〜3分後に、実施例1のAPEX組成物約3〜5ccを、足関節のすぐ上のアキレス腱に22ゲージ針を用いて導入する。最初の場所から約0.5〜1cmのところに多数回の穿刺を行う。実施例1の血小板組成物を低侵襲的に導入した直後に、患者の下肢および足先を固定し、下肢を挙上しないようにする。続いて手術の領域を無菌的に被覆し、患者に下肢を30分間動かさないように依頼する。注射直後および処置終了から30分後に、患者の神経血管、疼痛および機能状態を評価する。処置から最初の24〜48時間は、必要に応じて患者に経口鎮痛麻酔薬を投与する。アキレス腱は処置から1週間固定したままとし、その後、形式に則った術後のストレッチおよび強化のプログラムを処置から8〜10日後に開始する。
【0060】
実施例7(参考例)
肘の内側側副靱帯断裂を呈する患者に対して、本発明の腱処置を行う30分前にバリアム5mgを経口投与する。次に患者の準備およびドレープかけを無菌的な様式で行う。エピネフリンを含む0.5%ブピビカインによる局所浸潤麻酔を皮膚、皮下構造および肘の内側側副靱帯に対して行う。局所麻酔薬が足関節の外側で維持されるように注意する。
【0061】
局所麻酔薬の投与から2〜3分後に、実施例1のAPEX組成物約3〜5ccを、肘の内側側副靱帯に22ゲージ針を用いて導入する。最初の場所から約0.5〜1cmのところに多数回の穿刺を行う。実施例1の血小板組成物を低侵襲的に導入した直後に、患者の肘および腕を約90%屈曲位に固定し、腕および手を挙上しないようにする。続いて術野を無菌的に被覆し、患者に腕を30分間動かさないように指示する。注射直後および処置終了から30分後に、患者の神経血管、疼痛および機能状態を評価する。処置から最初の24〜48時間は、必要に応じて患者に経口鎮痛麻酔薬を投与する。形式に則った術後のストレッチおよび強化のプログラムは処置から2〜3日後に開始してよいこととする。
【0062】
実施例8:心筋
患者は急性の心筋機能不全(すなわち心発作)または慢性の心筋機能不全(すなわち、
うっ血性心不全)を呈している。APEX組成物を実施例1の通りに調製する。抽出物1cc当たり約0.05ccの8.4%重炭酸ナトリウム緩衝液を用いて、pHを7.4またはそれよりも幾分高いpHにする。抽出物を外因性活性化物質の添加によって活性化することはしない。
【0063】
続いてAPEXを心筋機能不全部位にカテーテルを介して導入する。APEXをステントなどの移植用器具と組み合わせてもよい。
【0064】
実施例9(参考例):骨格筋
患者は骨格筋の筋力低下または萎縮を呈している。これは損傷または手術処置による結果である可能性がある。実施例1の技法を用いて、自己由来の血小板抽出物(APEX)を入手し、緩衝剤で処理して生理的pHにする。
【0065】
筋力低下または萎縮の領域を特定し、エピネフリンを含む0.5%ブピビカインを局所麻酔薬として用いた後に、APEXを筋肉内に22ゲージ針を用いて導入する。これを単回行うこともでき、多数回注射を行うこともできる。術後に、患者に対して部位特異的なストレッチおよび強化のプロトコールを開始する。
【0066】
実施例10(参考例):椎間板/椎体
患者は腰痛を呈しており、MRIスキャンでは隆起性または低輝度の椎間板が認められる。実施例1の技法を用いて、自己由来の血小板抽出物(APEX)を入手し、緩衝剤で処理して生理的pHにする。
【0067】
当該の椎間板をX線検査によって特定した上で、APEXを小口径カテーテルを介して椎間腔に導入する。この処置は単独で行うこともでき、加熱/高周波焼灼処置と組み合わせることもできる。また、圧迫骨折を来した椎体にAPEXを注入することもでき、その際には注射前にバルーンを用いても用いなくともよい。
【0068】
実施例11(参考例):膵臓/任意の内臓
患者は糖尿病またはインスリン産生能の低下を呈している。実施例1の技法を用いて、自己由来の血小板抽出物(APEX)を入手し、緩衝剤で処理して生理的pHにする。
【0069】
CTガイド下および意識鎮静下で、APEXを小口径カテーテルを介して膵臓内に導入する。続いて、これらの細胞の修復を誘発し、それによってインスリン産生を回復させるためにAPEXを島細胞に注入する。
【0070】
実施例12(参考例):脳/脊髄
患者は脊髄損傷または脳卒中などの急性神経障害を呈している。実施例1の技法を用いて、自己由来の血小板抽出物(APEX)を入手し、緩衝剤で処理して生理的pHにする。
【0071】
MRIガイド下および意識鎮静下で、APEXを損傷または障害の部位に導入する。APEXは局所的に障害を受けた細胞の修復を惹起または援助する。
【0072】
実施例13(参考例):血管組織
患者は下肢に血管過少の領域を呈している。この患者は末梢血管閉塞症と診断されている。実施例1の技法を用いて、自己由来の血小板抽出物(APEX)を入手し、緩衝剤で処理して生理的pHにする。
【0073】
血管過少(hypovascularity)の領域をブピビカインでブロックした上で、APEXを筋組織または軟組織中に導入する。APEXは血管新生および新たな血管の形成を誘導する。
【0074】
実施例14(参考例):創傷治癒
患者は適切に治癒していない慢性創傷を呈している。これは糖尿病性足部潰瘍である可能性がある。実施例1の技法を用いて、自己由来の血小板抽出物(APEX)を入手し、緩衝剤で処理して生理的pHにする。
【0075】
創傷を注意深く洗浄し、必要に応じて壊死組織切除を行う。続いてAPEXを慢性創傷およびその辺縁の内部および周囲に注意深く注入する。これを密封包帯または軟膏との配合によってその場に保つ。この工程は、創傷が治癒するまで必要に応じて繰り返してもよい。
【0076】
実施例15(参考例):腫瘍性組織
患者は良性または悪性の腫瘍または隆起(process)を呈している。実施例1の技法を用いて、自己由来の血小板抽出物(APEX)を入手し、緩衝剤で処理して生理的pHにする。APEXをインビボまたはインビトロで用いて、腫瘍細胞死を惹起または誘導することができる。
【0077】
具体的には、CTまたはMRIのガイド下で、小径カテーテルを介して固形腫瘍内にAPEXを注入する。または、癌細胞をAPEX培地中で増殖させた後に、残りの腫瘍を攻撃して死滅させる目的で体内に戻すこともできる。理論によって限定されることは意図していないが、APEX培地にはインビボで腫瘍細胞のアポトーシス(細胞死)を引き起こす能力、または癌細胞を正常細胞に転換させる能力があるとの仮説が提唱されている。
【0078】
実施例16(参考例):感染
患者は表在性感染または深部感染を呈している。実施例1の技法を用いて、自己由来の血小板抽出物(APEX)を入手し、緩衝剤で処理して生理的pHにする。
【0079】
感染領域を特定した上で、APEXを直接外用するか経皮的に導入する。これは局所麻酔下または全身麻酔下で行うことができ、画像検査によるガイドは用いても用いなくともよい。APEXは通常、血小板とともに白血球も高い濃度で有している。白血球および血小板がこのように共存することにより、感染症は制御または解消される。
【0080】
実施例17(参考例):任意の組織の細胞培養物
研究者または臨床医は、線維芽細胞または骨関節炎軟骨細胞の細胞培養物を増殖させることを望んでいる。実施例1の技法を用いて、自己由来の血小板抽出物(APEX)を入手し、緩衝剤で処理して生理的pHにする。
【0081】
続いて細胞を単離し、APEXを多く含む培地中で、さまざまな条件下および希釈度で増殖させる。APEXは細胞分化およびコラーゲンなどのタンパク質の産生を促す。APEXがこのような細胞の正常細胞へ転換する能力を強化または促進する可能性もある。理論によって限定されることは意図していないが、APEXは骨関節症軟骨細胞をより機能的な細胞系に転換させることができ、それを罹患関節または損傷関節に再び注入することができるとの仮説が提唱されている。または、疾患の進行を好転させる目的で、APEXを骨関節炎関節に直接導入する。これは局所麻酔下で無菌的な様式で行われる。
【0082】
さらに、APEXを、任意の組織または細胞系をインビボまたはインビトロで増殖または分化させる一助とするために用いることもできる。
【0083】
本発明の範囲または精神を逸脱することなく、本発明に多種多様な修正を加えうることが当業者には理解されるであろう。したがって、本発明の諸形態は例示のみを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図したものではないことは明確に理解されると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板リッチな血漿組成物を含む、個体における心筋機能不全部位の内部および周囲にカテーテルによって導入して用いられるための心筋梗塞治療剤であって、
該血漿組成物は、滴定によりpHが7.3〜7.5に調節され、かつ
前記導入に先だって血小板の外因性活性化物質が添加されていないものである、心筋梗塞治療剤。
【請求項2】
血漿組成物が、前記個体から入手した血小板を含む、請求項1に記載の心筋梗塞治療剤。
【請求項3】
前記個体がヒトである、請求項1又は2に記載の心筋梗塞治療剤。
【請求項4】
滴定が重炭酸緩衝液を用いて行われる、請求項1〜3の何れか一項に記載の心筋梗塞治療剤。
【請求項5】
前記導入は移植用器具と組み合わせて行われる、請求項1〜4の何れか一項に記載の心筋梗塞治療剤。
【請求項6】
移植用器具がステントである、請求項5に記載の心筋梗塞治療剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−100648(P2010−100648A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11183(P2010−11183)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【分割の表示】特願2003−585658(P2003−585658)の分割
【原出願日】平成15年4月14日(2003.4.14)
【出願人】(504382095)
【Fターム(参考)】