説明

不快な麦汁フレーバーが低減された未発酵のビール風味麦芽飲料およびその製造方法

【課題】不快な麦汁フレーバーが低減され、ビール風味を備えた未発酵の麦芽飲料とその製造方法の提供。
【解決手段】麦汁と吸着剤とを接触させることによって不快な麦汁フレーバーを低減させる工程を含んでなる未発酵のビール風味麦芽飲料の製造方法であって、麦汁と吸着剤との接触が麦汁の濾過工程において行われる製造方法と、その方法により製造された未発酵のビール風味麦芽飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不快な麦汁フレーバーが低減された未発酵のビール風味麦芽飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりの中でアルコール摂取量を自己管理する消費者が増加している。また、飲酒運転に対する罰則の強化など道路交通法の改正により、自動車等の運転に従事する者のアルコール摂取に対する関心が高まっている。このような中で低アルコールあるいは無アルコールのビール風味麦芽飲料への需要が一段と高まっている。
【0003】
従来の低アルコールビール風味麦芽飲料は、通常のビール飲料同様、酵母による発酵を行うことでビールの風味を飲料に付与し、併せてアルコールの低減を図っている。これは、ビールと同様の味や香りを需要者が期待するため、アルコール発酵を完全に排除して低アルコール麦芽飲料を製造することは困難であると考えられてきたことによる。従って、従来の低アルコールビール風味麦芽飲料の製造は酵母による発酵が行われることを前提とし、酵母による代謝プロセスの改良や発酵生成物からアルコールを効果的に除去する方法が検討されてきた。しかし、酵母による発酵を行って製造された製品からアルコールを完全に除去することは現実的に不可能であった。従って、従来の低アルコールビール風味麦芽飲料はアルコールを摂取したくない者や自動車等を運転する者の飲用には適していない。
【0004】
一方で、単に酵母による発酵を排除し、麦芽により生成された麦汁を最終製品とした場合、未発酵の麦汁には特有のフレーバー(麦汁フレーバー)が存在し、一般的には飲用に適さない。すなわち、この麦汁フレーバーは飲用した際も、戻り香となって味わいにまで悪影響を及ぼすことから、飴湯として飲まれている例を除いては飲料として直接には供されていない。
【0005】
麦汁フレーバーは、麦汁の仕込工程、特に煮沸での熱分解により発生するアルデヒド類に由来しており、飴様臭・穀物様臭などの原因物質として知られている。これらアルデヒド類は、通常のビール類であれば発酵工程において酵母によって代謝され、激減する。しかし、前述のように酵母による発酵で生成するアルコールを完全にゼロとすることは困難である。
【0006】
このような麦汁フレーバーを低減するための手段としては、炭酸ガスによるバブリング法(特許文献1)、酵母低温接触法(特許文献2)、乳酸菌発酵方法(特許文献3)、麦芽汁乾燥粉末使用法(特許文献4)等が知られている。また、吸着剤使用による麦汁臭低減法(特許文献5)についても知られている。
【0007】
しかしながら、麦汁の濾過工程において麦汁と吸着剤とを接触させることにより、不快な麦汁フレーバーを効率的かつ短時間で低減できることについてはこれまでに知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−13142号公報
【特許文献2】特開平8−509855号公報
【特許文献3】特開昭56−42574号公報
【特許文献4】特開平1−165358号公報
【特許文献5】WO2010/079643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、不快な麦汁フレーバーが低減され、ビール風味を備えた未発酵のビール風味麦芽飲料とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、麦汁の濾過工程において麦汁と活性炭とを接触させることにより、意外にも、効率的かつ短時間で不快な麦汁フレーバーが吸着・除去され、かつ、ビール風味を備えた未発酵の麦芽飲料が得られることを見いだした。
【0011】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)麦汁と吸着剤とを接触させることによって不快な麦汁フレーバーを低減させる工程を含んでなる未発酵のビール風味麦芽飲料の製造方法であって、麦汁と吸着剤との接触が、麦汁の濾過工程において行われる、製造方法。
(2)麦汁の濾過が、珪藻土を用いて行われる、(1)に記載の製造方法。
(3)麦汁と吸着剤との接触が、濾過に供するための麦汁に吸着剤を添加することにより行われる、(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)麦汁と吸着剤との接触が、濾材表面に吸着剤がプレコートされた濾過装置を用いることにより行われる、(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)麦汁と吸着剤との接触時間が、10〜60分である、(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)吸着剤が、活性炭である、(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)ビール風味麦芽飲料中の2−メチルブタナールおよび3−メチルブタナールの濃度の合計が、22〜120μg/Lの範囲である、(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法により製造された、未発酵のビール風味麦芽飲料。
(9)麦汁と吸着剤とを接触させることによって未発酵の麦汁の不快な麦汁フレーバーを低減させる方法であって、麦汁と吸着剤との接触が麦汁の濾過工程において行われる、方法。
【0012】
本発明によれば、不快な麦汁フレーバーが低減され、ビール風味を備えた未発酵の麦芽飲料とその製造方法が提供される。本発明による製造方法によれば、特別な設備投資をすることなく実施することができるため、一般のビール製造設備を持つ工場であれば製造対応が可能となり、物流コストの低減を実現することができる。また、本発明による製造方法によれば、製造期間が短縮されることで、製造需給に応えることが可能となる。このように、本発明による製造方法によれば、未発酵の麦汁を使用した麦芽飲料でありながら、不快な麦汁フレーバーが低減されるとともにビールの風味を備えているという、これまで両立しえなかったアルコールゼロとビール風味飲料という需要者のニーズに同時に応えることができる飲料を、効率的かつ短時間で製造できる点で有利であるといえる。
【発明の具体的説明】
【0013】
定義
本発明において「麦芽飲料」とは、麦汁を主体とする飲料を意味し、炭酸ガス等により清涼感が付与された麦芽清涼飲料も含まれるものとする。
【0014】
本発明において「ビール風味」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りをいう。
【0015】
本発明において「完全無アルコール」とは、アルコールが全く含まれないこと、すなわち、アルコール含量が0.00重量%であることを意味する。
【0016】
本発明において「麦汁フレーバー」とは、未発酵の麦汁に特有のフレーバー(香り)を意味する。このような未発酵麦汁に特有のフレーバーとしては、麦汁の煮沸で熱分解により発生する飴様臭や穀物様臭のような不快なフレーバー(本明細書において「不快な麦汁フレーバー」ということがある)が挙げられ、これらの臭気は後述するアルデヒド類に由来していると考えられる。
【0017】
麦芽飲料の製造方法
本発明によれば、麦汁を吸着剤と接触させることによって不快な麦汁フレーバーが低減され、ビール風味を備えた未発酵の麦芽飲料を製造することができる。具体的には、麦汁を調製し、得られた麦汁を濾過工程において吸着剤と接触させることにより、効率的かつ短時間でビール風味麦芽飲料を製造することができる。本発明による製造方法では未発酵の麦汁を使用していることから、製造された麦芽飲料は発酵に由来するアルコール成分を一切含まない。以下、麦汁の調製、麦芽飲料の濾過の順に説明する。
【0018】
[麦汁の調製]
麦汁の調製は、常法に従って行うことができ、例えば、(a)麦芽粉砕物と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得る工程、(b)得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸する工程、(c)煮沸した麦汁を冷却する工程を行うことにより得ることができる。
【0019】
工程(a)において、麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであれば良い。
【0020】
麦芽粉砕物と水の混合物には副原料を添加してもよい。副原料としては、例えば、米、コーンスターチ、コーングリッツ、糖類(例えば、果糖ブドウ糖液糖などの液糖)、食物繊維などが挙げられる。副原料が糖類の場合には麦汁を糖化ないし濾過した後に添加してもよい。また、水はその全量を麦芽粉砕物と混合しても、あるいはその一部を麦芽粉砕物と混合し、残りを全部または分割して糖化後の麦汁に添加してもよい。
【0021】
麦汁を構成する麦芽粉砕物、副原料および水の割合は適宜決定することができるが、工程(c)の後に得られる麦汁の糖度が3〜20%、好ましくは、7〜14%となるように麦芽粉砕物、副原料および水の割合を決定してもよい。麦芽粉砕物、副原料および水の割合は、例えば、麦芽粉砕物100重量部に対して、副原料0〜100重量部、水400〜2000重量部、好ましくは、副原料0〜30重量部、水600〜1300重量部とすることができる。副原料が果糖ブドウ糖液糖および食物繊維の場合には、麦芽粉砕物、副原料および水の割合は、例えば、麦芽粉砕物100重量部に対して、副原料10〜40重量部、水800〜1500重量部、好ましくは、副原料20〜30重量部、水1000〜1200重量部とすることができる。この場合、果糖ブドウ糖液糖と食物繊維の重量比(固形分)は1:0.1〜10とすることができる。
【0022】
上記混合物の糖化および濾過は常法に従って実施することができる。
【0023】
工程(b)では、(a)で得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸することによりホップの風味・香気を煮出することができる。煮沸後、沈殿により生じたタンパク質などの粕を除去してもよい。
【0024】
工程(c)では、煮沸した麦汁を冷却する。この冷却は、麦汁が凍らない程度の極力低い温度、通常、1〜5℃まで冷却するのが望ましい。
【0025】
麦汁には、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤などの添加剤を添加してもよい。これらの添加剤は、麦汁の糖化前に添加しても、麦汁を糖化ないし濾過した後に添加してもよい。
【0026】
[麦芽飲料の濾過]
調製された麦汁(麦芽飲料)を濾過して不要なタンパク質や吸着剤を除去することができる。
【0027】
濾過は、常法に従って行うことができる。例えば、濾過は市販の濾過装置を用いて行うことができる。濾過装置としては、キャンドルフィルター、水平リーフフィルター、セラミックフィルター等が挙げられるが、好ましくは、キャンドルフィルターである。
濾過は、濾過助剤を併用して行うこともできる。濾過助剤は、原液(麦汁)に予め添加して用いることもできるし、原液に添加しながら用いることもできる。原液に添加しながら用いる場合は、濾過助剤を含む溶液(ドージング液)を調製して使用することができる。また、濾過に先立ち、予め濾材表面に濾過助剤をプレコートして用いることもできる。濾過助剤としては、珪藻土、パーライト、セルロース等が挙げられるが、好ましくは、珪藻土である。
【0028】
濾過に当たっては、麦汁飲料に脱気水を加えて希釈後に濾過し、最終製品の糖度を3〜8%に調整してもよい。
【0029】
本発明においては、不快な麦汁フレーバーを吸着・除去する吸着剤による処理を、濾過工程において行うことができる。麦汁と吸着剤との接触を濾過工程において行うことにより、効率的かつ短時間で麦汁フレーバーを低減させることができることが判明した。
【0030】
本発明において「濾過工程」とは、仕込み工程、場合によっては貯蔵工程、濾過工程、充填工程等の工程を有する未発酵のビール風味麦芽飲料の製造工程のうちの濾過工程を意味する。濾過工程には、原液(麦汁)を濾材で処理する工程のみならず、濾過に供するための原液を調製する工程も含まれる。
【0031】
濾過工程における麦汁と吸着剤との接触は、例えば、濾過に供するための原液(麦汁)に吸着剤を予め添加して行うこともできるし、濾過中に吸着剤を添加して行うこともできる。また、濾材表面に吸着剤がプレコートされた濾過装置を用いて行うこともできる。
【0032】
原液(麦汁)に吸着剤を予め添加して行う場合は、例えば、濾過に供するために準備した原液に吸着剤を添加して行うことができる。原液にはさらに濾過助剤を添加することもできる。
【0033】
濾過中に吸着剤を添加して行う場合は、例えば、濾過中、すなわち原液が流されている濾過装置に吸着剤を含む溶液(ドージング液)を添加して行うことができる。ドージング液にはさらに濾過助剤を添加することもできる。
【0034】
濾材表面に吸着剤がプレコートされた濾過装置を用いて行う場合は、予め濾材表面に吸着剤をプレコートした後、原液を濾過装置に流して行うことができる。プレコートは、常法に従って行うことができる。例えば、原液を濾過装置に流す前に、吸着剤が溶解された溶液(ドージング液)を流すことにより濾材に吸着剤をプレコートすることができる。ドージング液は濾材に吸着剤をプレコートすることができればよく、例えば、水等に吸着剤を溶解して調製することができる。ドージング液は、濾過助剤等をさらに溶解させて調整することができる。プレコートは、濾材にプレコートする複数の物質を混合して調製されたドージング液を使用することもできるし、プレコートする複数の物質について複数のドージング液を調製し、使用することができるが、効率的かつ短時間でビール風味麦芽飲料を製造するという観点から、濾材にプレコートする複数の物質を混合して調製されたドージング液を使用することが好ましい。
【0035】
濾過工程における麦汁と吸着剤との接触は、上記の操作を単独で行うこともできるし、組み合わせて行うこともできるが、効率的かつ短時間でビール風味麦芽飲料を製造するという観点から、原液(麦汁)に吸着剤を予め添加して行うことと、濾材表面に吸着剤がプレコートされた濾過装置を用いることを組み合わせて行うことが好ましい。より好ましくは、濾過中に、吸着剤を含むドージング液(より好ましくは珪藻土も含む)をさらに添加する。
【0036】
麦汁と吸着剤との接触は、1〜5℃程度(濾過装置内)の温度範囲で実施することができる。
【0037】
麦汁と吸着剤との接触時間は、10分から60分、好ましくは、10分から30分の期間で実施することができる。
【0038】
麦汁と接触させる吸着剤としては、活性炭、吸着樹脂が挙げられるが、好ましくは、活性炭である。不快な麦汁フレーバーを効率的に吸着・除去する観点から、細孔容積が0.5〜1.5ml/gの活性炭を用いることができる。また、不快な麦汁フレーバーを吸着・除去し、ビール風味を備えた麦芽飲料を効果的に得る観点から、活性炭の使用量(プレコートに使用する量を含む)は、麦芽粉砕物1kg当たり20〜50g、好ましくは、30〜50g、より好ましくは、25〜40gとすることができる。
【0039】
使用できる活性炭としては粉末活性炭や粒状活性炭が挙げられる。粉末活性炭を使用する場合には、不快な麦汁フレーバーを効率的に吸着・除去し、適当なビール風味を付与する観点から、例えば、比表面積が1100m/g以上のもの、細孔容積が0.77ml/g以上のもの、平均細孔直径が1.8〜3.6nmのもの、あるいはこれらの特性を組み合わせて有するものやこれらの特性をすべて有するものを選択することができる。また、粒状活性炭を使用する場合には、不快な麦汁フレーバーを効率的に吸着・除去し、適当なビール風味を付与する観点から、例えば、比表面積が1100m/g以上のもの、細孔容積が1.0ml/g以下のもの、平均細孔直径が1.8〜3.6nmのもの、あるいはこれらの特性を組み合わせて有するものやこれらの特性をすべて有するものを選択することができる。
【0040】
不快な麦汁フレーバーが低減・抑制されたか否かは、官能評価試験や成分分析試験によって確認することができる。例えば、成分分析試験を行う場合には、後述するようなストレッカーアルデヒド類の濃度を指標にして評価することができる。
【0041】
濾過の後、通常のビールまたは発泡酒の製造において行われる工程、例えば、脱気水などによる最終濃度の調節、炭酸ガスの封入、低温殺菌(パストリゼーション)、容器(例えば樽、壜、缶)への充填(パッケージング)、容器のラベリングなど、を適宜行うことができる。
【0042】
本発明の好ましい態様によれば、麦汁と吸着剤とを接触させることによって不快な麦汁フレーバーを低減させる工程を含んでなる未発酵のビール風味麦芽飲料の製造方法であって、麦汁と吸着剤との接触が、麦汁の濾過工程において行われる製造方法であって、麦汁と吸着剤との接触が、麦芽粉砕物から調製された糖度7〜14%の麦汁と、麦芽粉砕物1kg当たり25〜40gの量の活性炭(細孔容積0.5〜1.5ml/g)との接触であり、麦汁と吸着剤との接触が、濾過に供するための麦汁に吸着剤を添加することと、濾材表面に吸着剤がプレコートされた濾過装置を用いることとを組み合わせて行われ、麦汁の濾過が、珪藻土を用いて行われる、未発酵のビール風味麦芽飲料の製造方法が提供される。この場合、麦汁と活性炭との接触は、1〜5℃程度の温度範囲で、10分から60分間の期間で実施することができる。
【0043】
ビール風味麦芽飲料
本発明によるビール風味麦芽飲料は、未発酵の麦汁を使用する麦芽飲料であるにも関わらず、不快な麦汁フレーバーが抑制されるとともに、ビールの風味が備わっている。以下の理論に拘束される訳ではないが、麦汁を吸着剤処理に付すことによって飲料中のアルデヒド類の濃度が適正な濃度範囲に制御され、それにより不快な麦汁フレーバーが抑制されるとともに、ビールの風味が実現されたと考えられる。
【0044】
本発明によるビール風味麦芽飲料に含まれるアルデヒド類としては、フェニルアセトアルデヒド(phenylacetaldehyde)、メチオナール(methional)、2−メチルブタナール(2-methylbutanal)、3−メチルブタナール(3-methylbutanal)、フルフラール(furfural)などのストレッカーアルデヒド類が挙げられる。
【0045】
上記アルデヒド類のうち、ビール風味麦芽飲料中の2−メチルブタナールと3−メチルブタナールの濃度の合計は22〜120μg/Lの範囲とすることができる。
【0046】
本発明の別の面によれば、上記のようなアルデヒド類濃度を有することを特徴とする、未発酵のビール風味麦芽飲料が提供される。
【0047】
本発明によれば、麦汁と吸着剤とを接触させることによって未発酵の麦汁の不快な麦汁フレーバーを低減させる方法であって、麦汁と吸着剤との接触が、麦汁の濾過工程において行われる方法が提供される。
【実施例】
【0048】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1:完全無アルコールのビール風味飲料の製造
(1)麦汁の調製
仕込槽に麦芽粉砕物140kgと温水600Lを加えて混合し、50〜76℃で糖化を行った。糖化工程終了後、これを麦汁濾過槽において濾過して、その濾液として透明な麦汁を得た。
【0050】
得られた麦汁を煮沸釜に移し、ホップを800g加えて、100℃で煮沸した。煮沸した麦汁をワールプール槽に入れて、沈殿により生じたタンパク質などの粕を除去した。この際、煮沸後の麦汁に温水を加え、糖度を4.9%に調整した。得られた麦汁(1,700L)をプレートクーラーで4℃まで冷却し、後述の吸着剤による処理に供した。なお、振動式密度計により測定した20℃における密度を糖度(%)とした。
【0051】
(2)吸着剤による処理および麦芽飲料の濾過
活性炭は「白鷺(商標名)」(日本エンバイロケミカルズ社;細孔容積:0.779ml/g)を使用した。濾過は、予め珪藻土(2kg/m)および活性炭(1kg/m)をプレコートしたキャンドルフィルター(フィルトロックス社製)を用いた。(1)で得られた麦汁に脱気水を加え、さらに活性炭を2.5kg/kl(麦芽1kg当たり33g)添加してドージング液とし、これを濾過に供した。この時の温度は2℃であった。また、麦汁が濾過機を通過する時間は15分間であった。
【0052】
これにより、糖度を4.5%に調整した完全無アルコール(アルコール含量が0.00重量%)の麦芽飲料を得た。
(3)品質の確認
(2)で得られた麦芽飲料のアルデヒド類の濃度をヘッドスペースSPME(Solid-Phase Micro-Extraction)分析法(J.Agric.Food Chem. 2003, 52, 6941-6944)に従って測定した。具体的には、ガスクロマトグラフ質量分析計としてAgilent社製5973型を、多機能オートサンプラーとしてGERSTEL社製MPS2を、多機能オートサンプラーラック冷却装置としてGERSTEL社製PELTIER THERMOSTATを、SPME FiberとしてSUPELCO社製57329-Uをそれぞれ用いて測定を行った。その結果、2−メチルブタナールと3−メチルブタナールとの合計濃度は31.68μg/lであった。
【0053】
また、本発明による方法を用いて製造した飲料(試験例1)と、WO2010/079643号公報に記載の方法を用いて製造した飲料(比較例1)について官能評価を実施した。具体的には、麦汁特有のフレーバーを、訓練され官能に優れたパネル10名により以下の基準で5段階評価した。
1:ビールテイスト飲料として不足
2:1と3の中間の強度
3:ビールテイスト飲料として適正
4:3と5の中間の強度
5:ビールテイスト飲料として強すぎて不快
(スコア2〜4をビールテイスト飲料として適正と判断する。スコア2〜3.5をビールテイスト飲料としてより適正と判断する。)
官能評価試験の結果は以下の通りであった。
【表1】

試験例1は、完全無アルコールの麦芽飲料でありながら、麦汁特有のフレーバーが抑制されるとともに、ビールらしい風味が実現された。本発明によれば、従来の方法を使用すれば4〜5日要した処理時間を15分に短縮することができ、かつ、従来の方法を使用した場合と同程度に不快な麦汁臭を抑制できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦汁と吸着剤とを接触させることによって不快な麦汁フレーバーを低減させる工程を含んでなる未発酵のビール風味麦芽飲料の製造方法であって、麦汁と吸着剤との接触が、麦汁の濾過工程において行われる、製造方法。
【請求項2】
麦汁の濾過が、珪藻土を用いて行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
麦汁と吸着剤との接触が、濾過に供するための麦汁に吸着剤を添加することにより行われる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
麦汁と吸着剤との接触が、濾材表面に吸着剤がプレコートされた濾過装置を用いることにより行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
麦汁と吸着剤との接触時間が、10〜60分である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
吸着剤が、活性炭である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
ビール風味麦芽飲料中の2−メチルブタナールおよび3−メチルブタナールの濃度の合計が、22〜120μg/Lの範囲である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法により製造された、未発酵のビール風味麦芽飲料。
【請求項9】
麦汁と吸着剤とを接触させることによって未発酵の麦汁の不快な麦汁フレーバーを低減させる方法であって、麦汁と吸着剤との接触が麦汁の濾過工程において行われる、方法。