不正乱視矯正用コンタクトレンズ
【課題】 従来の眼鏡やコンタクトレンズでは矯正できないとされていた円錐角膜等に起因する不正乱視(残余不正乱視)に対しても良好な矯正効果を発揮し得るコンタクトレンズを、装用者毎のオーダーメイドに頼ることなく、工業的に量産可能で実用的な新規構造をもって効率的に提供することのできる、新規な技術を実現すること。
【解決手段】 特定径方向線30上における一方の側にプラス矯正領域27を設け、他方の側にマイナス矯正領域28を設けると共に、それら何れの矯正領域27,28においても、外周縁部から中央部分に向かって次第に絶対値が大きくなるレンズ度数を設定した、不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【解決手段】 特定径方向線30上における一方の側にプラス矯正領域27を設け、他方の側にマイナス矯正領域28を設けると共に、それら何れの矯正領域27,28においても、外周縁部から中央部分に向かって次第に絶対値が大きくなるレンズ度数を設定した、不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円錐角膜等に起因する不正乱視の矯正用に提供されるコンタクトレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、眼の屈折異常に対して、眼鏡又はコンタクトレンズが処方されている。これら眼鏡やコンタクトレンズは、装用者毎の眼の光学特性に応じて処方されることにより、眼の光学特性を矯正して良好な見え方を提供するようになっている。特にコンタクトレンズでは、より良好な見え方を実現するために各種研究が進められており、例えば乱視や老視の矯正に際して周方向の位置安定性を向上させたり、老視矯正に際して遠近両用の光学特性を実現させたり、装用感を向上させる等の目的で、従来から多くの構造が提案されている。本発明者の一人も、先に特許第3870219号公報(特許文献1)において、角膜上での位置がずれた場合でも見え方が大きく損なわれることのない、新規な構造を共通して備えたコンタクトレンズの組み合わせシリーズを提供した。
【0003】
ところで、従来構造の眼鏡やコンタクトレンズは、その光学特性が球面レンズ度数と円柱レンズ度数及び円柱レンズ軸方向で特定されることから判るように、近視や遠視、老視、乱視に対しては有効な矯正効果を発揮する。一方、このような眼鏡やコンタクトレンズでは、眼に対して球面レンズ度数と円柱レンズ度数及び円柱レンズ軸方向を充分に適合させても、未だ、「見づらい」、「物が薄く見える」等と訴えられることがある。このような見え方の不具合は、従来では数値化することができない眼の不正乱視に起因するもので残余不正乱視と呼ばれていた。
【0004】
このような残余不正乱視に対して矯正効果を有するコンタクトレンズも研究されてきたが、未だ、満足できる効果を実用レベルで提供するには至っていない。例えば、残余不正乱視が円錐角膜等の角膜表面形状の異常に起因することが多いことから、角膜表面形状の異常部を覆うハードコンタクトレンズを装用して角膜表面形状を押圧矯正したり角膜との間に涙液レンズを形成することで角膜形状を実質的に補正することが主流となっているが、角膜表面形状の異常部をハードコンタクトレンズの内面側で強く圧迫することや、ハードコンタクトレンズ故に装用刺激があること、処方には熟練を要すること、ハードコンタクトレンズが角膜表面形状に起因する不正乱視を矯正しすぎることで角膜後面形状に由来する残余不正乱視が新たに現れる等が問題となり、満足できるまでには至っていない。そこで、近年では強角膜まで覆う大径のハードコンタクトレンズを装用することで圧迫や装用刺激、処方の問題を軽減する方法が試みられているが、根本的な問題解決までには至っていない。また、LASIKの技術等を用いてレンズ面を形状加工して、患者毎の不均一な角膜表面形状に対応したコンタクトレンズをオーダーメイドすることも検討されているが、高価なレーザー技術や特殊な精密加工旋盤等を利用しないと技術的には実現が難しいことから、加工技術上の問題や製造コスト上の問題から実用化には至っていない。
【0005】
一方、近年の光学的及び電子的な解析技術の飛躍的進歩に伴って、従来では数値化できなかった残余不正乱視についても、波面センサーによって定量的に測定することが出来るようになってきた。かかる波面センサーを眼光学系に用いれば、ゼルニケ多項式で表される収差について、近視や乱視等といった従来構造の眼鏡やコンタクトレンズで矯正可能であった低次収差だけでなく、従来では残余不正乱視とされていた高次収差も、それを測定して数値化することが可能となる。
【0006】
しかしながら、たとえ波面センサーによって眼光学系における残余不正乱視が数値化できたとしても、残余不正乱視の態様は個人毎に異なるから、それを矯正する光学特性を備えたコンタクトレンズを個別に製作する必要がある。また、仮に個人毎の不正乱視を高精度に補正する光学特性が装用状態における周方向位置を特定する位置合わせ手段と共に付与できたとしても、コンタクトレンズが角膜上でずれることを完全には制御できないため見え方が不安定になる。それでは、従来と同様に結局はオーダーメイドとなって加工技術上の問題や製造コスト上の問題が避けられないばかりか、満足できる見え方を実現し得るものとは言い難く、残余不正乱視に有効な矯正効果を発揮するコンタクトレンズは未だ実現され得ないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3870219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、近年開発された波面センサーによる眼光学系の残余不正乱視の測定情報を考慮することにより、従来の眼鏡やコンタクトレンズでは矯正できないとされていた円錐角膜等に起因する不正乱視(残余不正乱視)に対しても良好な矯正効果を発揮し得るコンタクトレンズを、装用者毎のオーダーメイドに頼ることなく、工業的に量産可能で実用的な新規構造をもって効率的に提供することのできる、新規な技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明者は、先ず残余不正乱視のある被検眼について波面センサーによる測定結果の検討を行い、その特性を研究した。その結果、多くの残余不正乱視の原因である円錐角膜の患者には、共通の傾向があることを確認した。更に、円錐角膜の患者に対して、各種の光学特性を付与したコンタクトレンズを装用させ、装用状態での光学特性を波面センサーを用いて測定して、研究を重ねた。そして、量産可能な程度の種類をもって光学特性を付与せしめたコンタクトレンズを市場に提供することにより、円錐角膜による残余不正乱視の患者に対して、良好な矯正効果が発揮され得るとの知見を得たのであり、かかる知見に基づいて本発明を完成し得た。
【0010】
本発明の第一の態様は、不正乱視による非対称な度数差を矯正するコンタクトレンズであって、装用状態における周方向位置を特定する位置合せ手段を設けると共に、該位置合せ手段で特定された周方向位置において特定径方向線上における一方の側にはプラスレンズ度数によるプラス矯正領域が設けられている一方、該特定径方向線上における他方の側にはマイナスレンズ度数によるマイナス矯正領域が設けられていると共に、該プラス矯正領域における最大のレンズ度数及び該マイナス矯正領域における最小のレンズ度数が該プラス矯正領域及び該マイナス矯正領域の各中央部分に設定されている不正乱視矯正用コンタクトレンズを、特徴とする。
【0011】
本態様に従う構造とされたコンタクトレンズは、従来から個人差が大きくオーダーメイドでしか矯正できないと考えられていた残余不正乱視に対しても、特定径方向線上でプラス矯正領域とマイナス矯正領域を設けた単純な光学特性をもって充分な矯正効果を発揮し得ることを本発明者が新たに見い出したことに基づいて、工業的生産可能で実用性の高い不正乱視矯正用コンタクトレンズとして初めて実現し得たものである。
【0012】
特に、このような単純な光学特性をもって残存不正乱視の矯正に有効なコンタクトレンズを提供し得た根拠は、第一に、患者眼の波面センサーによる測定結果の解析と検討によって眼光学系における残余不正乱視が多人数において共通する傾向をもった収差として大まかに把握することができる可能性を見出したことにあり、第二に、コンタクトレンズを装用した患者眼の波面センサーによる測定結果の解析と検討によって各個人毎の残余不正乱視に対して完全に対応づけた光学特性のコンタクトレンズでなくても残余不正乱視に対して充分な矯正効果が発揮され得ることを見出したことにある。
【0013】
前者に関しては、従来の眼鏡やコンタクトレンズで矯正できずに残存する不正乱視が角膜上における不規則な度数分布を有するために個別に対応するしかないと考えられていた状況下、波面センサーの情報を活用した本発明において、かかる残存不正乱視に対しても、特定の度数分布を設定することによりレディメイドのコンタクトレンズとして有効な矯正効果が発揮される可能性を見出したことは、大きな技術的意義がある。
【0014】
更に後者に関しては、眼の角膜上での動きを完全に阻止できないコンタクトレンズでは、仮に個人毎の残余不正乱視を波面センサー等で高精度に測定してそれに完全に対応した光学特性を付与した場合には、コンタクトレンズが角膜上でずれることにより見え方が不安定になる傾向が認められる。この場合よりも、前述のように個人毎の残余不正乱視に対して完全に対応しておらず、大まかに対応づけた光学特性のコンタクトレンズの方が、見え方の安定性ひいては残余不正乱視の矯正効果に良好な結果がでることも確認できた。このことは、見え方が、単純な眼の光学系の解析で捉えきれず、眼の光学系で得られる信号を脳が処理している人間の眼における視覚的順応機構が関係していると考えられ、例えば本出願人が先に提案した特許文献1に記載の技術においても共通していると考えられる部分がある。尤も、この脳の処理による領域は、波面センサーでも数値化することができず、患者の主観的な判断によらざるを得ないが、統計的に確認できる。
【0015】
また、特定径方向線上における一方の側にプラスレンズ度数を設定し、他方の側にマイナスレンズ度数を設定したことにより、コンタクトレンズの最大厚さ寸法を抑えて装用感の悪化を回避しつつ、対象とする高次収差による不正乱視に対する有効な矯正効果を実現せしめ得たのである。
【0016】
ところで、本発明の不正乱視矯正用コンタクトレンズは、従来構造のハードコンタクトレンズのように涙液レンズを利用して角膜形状を実質的に補正するものでないことから、従来のハイドロゲルソフトコンタクトレンズやシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズで実現することが望ましく、それによって処方が大幅に簡便となり、またハードコンタクトレンズ装用時の刺激が大幅に軽減されて一層優れた装用感が達成され得る。
【0017】
なお、本態様における「位置合せ手段」としては、重力や眼瞼圧等を利用してコンタクトレンズの装用時の周方向位置を設定し得る従来から公知の構成が何れも採用可能であり、具体的にはプリズムバラストやスラブオフ等が位置合わせ手段として採用され得る。
【0018】
また、本態様における「不正乱視による非対称な度数差」とは、角膜上における眼光学系のレンズ度数(屈折力)が、不正乱視においては近視及び遠視のように点対称でなく乱視のように線対称でもない分布態様を示すことを表すものである。そして、かかる不正乱視による非対称な度数差は、円錐角膜に起因するものの他、眼内レンズ(IOL)の装用や角膜屈折矯正(LASIK)等の眼科手術の後に、眼内レンズの傾斜配置や角膜屈折矯正処置位置の偏心等に起因して発生するものも含む。また、ハードコンタクトレンズで円錐角膜を矯正した後に、ハードコンタクトレンズが角膜表面形状に起因する不正乱視を矯正しすぎることで角膜後面形状の異常に起因して発生するものも含む。そして、それら何れの高次収差による不正乱視も、略同じ傾向の光学特性を有するものであり、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズによる矯正効果が発揮され得る。
【0019】
更にまた、本態様において「最大又は最小のレンズ度数が設定される各矯正領域の中央部分」とは、各矯正領域の外周端縁を除く部分であって、各矯正領域における数学的な幾何中心を意味するものでなく、各矯正領域において外周端縁から中央側に離れた位置を意味する。
【0020】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記特定径方向線が、前記位置合せ手段で特定された周方向位置において上下方向に延びているものである。
【0021】
本態様のコンタクトレンズは、特に円錐角膜に起因する不正乱視の矯正用として好適である。蓋し、残存不正乱視は円錐角膜に起因するものが多いが、円錐角膜に起因する不正乱視には、共通する傾向として、眼の下側に円錐角膜による膨出部が発生し、上下方向の非対称な度数差が発生し、波面センサーで測定される高次収差としては特にコマ収差が発生し易いことが統計的に判ったことに基づく。
【0022】
なお、本態様において「上下方向に延びる径方向線」とは、厳格に鉛直線に限定されることなく、上下方向に延びていれば良く、具体的には鉛直線に対して周方向両側で45度未満の傾斜は、左右方向でなく上下方向に延びているものと認識される。
【0023】
本発明の第三の態様は、前記第二の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記特定径方向線上で、前記プラス矯正領域が上側に設けられていると共に、前記マイナス矯正領域が下側に設けられているものである。
【0024】
本態様のコンタクトレンズは、円錐角膜に起因する不正乱視の矯正用として一層好適に採用され得る。蓋し、円錐角膜による膨出部が統計的に眼の下側に発生することから、コンタクトレンズの上側にプラス矯正領域を設定すると共に下側にマイナス矯正領域を設定することにより、それらの相対的なレンズ度数差に基づいて不正乱視に対する矯正効果が一層効率的に発揮され得る。
【0025】
本発明の第四の態様は、前記第一〜三の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記特定径方向線上で、前記プラス矯正領域及び前記マイナス矯正領域が何れも滑らかに変化するレンズ度数をもって形成されているものである。
【0026】
具体的には、特定径方向線の全長に亘るレンズ度数の変化が、例えば二次曲線や三次曲線或いは多次方程式で表される曲線、正弦曲線等およびそれらの組み合わせで表されるように設計されることとなり、それによって見え方の更なる向上が図られ得る。なお、滑らかに変化するとは、レンズ度数の変化を表す線上の全ての点を接続点と考えると、それら全ての接続点において共通接線が存在することとなり、2つの接線が存在する屈曲点を含まない変化態様を意味する。また、より好適には、プラスレンズ領域とマイナスレンズ領域との接続部位も共通接線をもってレンズ度数が変化するようにされることで、特定径方向線上の全体に亘ってレンズ度数が滑らかに変化するように設定される。
【0027】
本発明の第五の態様は、前記第一〜四の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記非対称な度数差が、円錐角膜に起因する非対称な度数差であり、非対称な度数差に起因する不正乱視の矯正に用いられるものである。
【0028】
本態様では、円錐角膜に起因する非対称な度数差が波面センサーで測定される高次収差の中でコマ収差成分の多いことに着目し、円錐角膜に起因する不正乱視を特に有効に矯正し得るコンタクトレンズを提供するものである。なかでも、特に前記第三の態様と組み合わされることにより、縦コマ収差に対して有効な矯正効果を発揮するコンタクトレンズとして、好適に提供され得る。
【0029】
本発明の第六の態様は、前記第一〜五の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記特定径方向線に対する直交径方向線を挟んで、一方の半周側が前記プラス矯正領域とされていると共に、他方の半周側が前記マイナス矯正領域とされているものである。
【0030】
本態様のコンタクトレンズは、角膜の一方の半径領域に円錐角膜が発生している典型的な症状に対して効果的な矯正効果を発揮し得る。
【0031】
本発明の第七の態様は、前記第一〜五の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記特定径方向線に対する直交径方向線を超えて一方の半周側から他方の半周側にまで広がって、前記プラス矯正領域と前記マイナス矯正領域の何れか一方が形成されることにより、それらプラス矯正領域とマイナス矯正領域の大きさが相対的に異なっているものである。
【0032】
本態様のコンタクトレンズは、角膜の外周端縁近くに円錐角膜が発生している症状に対して効果的な矯正効果を発揮する他、平均的な円錐角膜に対して装用された不正乱視矯正用コンタクトレンズの安定位置が角膜中央よりも上方もしくは下方に大きく位置する場合に効果的な矯正効果を発揮する。
【0033】
本発明の第八の態様は、前記第一〜七の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記プラス矯正領域における最大のレンズ度数及び前記マイナス矯正領域における最小のレンズ度数の少なくとも一方が、前記特定径方向線上で、且つ該プラス矯正領域及び該マイナス矯正領域における中心から外れた位置に設定されているものである。
【0034】
本態様のコンタクトレンズでは、プラス矯正領域又はマイナス矯正領域における極値点(プラス矯正領域における最大のレンズ度数位置又はマイナス矯正領域における最小のレンズ度数位置)を、レンズ径方向において、装用される眼の光学特性に対応して設定することが出来る。
【0035】
本発明の第九の態様は、前記第一〜八の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記プラス矯正領域における最大のレンズ度数及び前記マイナス矯正領域における最小のレンズ度数が、何れも、レンズ幾何中心から0.5〜2.5mmの離隔距離を有する位置に設定されているものである。
【0036】
本態様のコンタクトレンズでは、円錐角膜の症例の統計的検討結果等から、特に円錐角膜に起因する不正乱視の矯正用として好適である。
【0037】
本発明の第十の態様は、前記第一〜九の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記プラス矯正領域における最大のレンズ度数の絶対値と、前記マイナス矯正領域における最小のレンズ度数の絶対値とが、互いに同じとされているものである。
【0038】
本態様のコンタクトレンズでは、特に円錐角膜に起因するコマ収差に対して、他の収差への悪影響をできるだけ回避しつつ、効率的な補正効果を得ることが可能となる。
【0039】
本発明の第十一の態様は、前記第一〜十の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、球面レンズ度数(近視、遠視、老視)と円柱レンズ度数(乱視)による低次収差の屈折異常を矯正するレンズを備えた眼鏡との組み合わせによって構成されて、該眼鏡と協働して眼光学系を矯正するものである。
【0040】
本態様においては、コンタクトレンズで不正乱視による非対称な度数差である高次収差を矯正すると共に、眼鏡で低次収差を矯正することで、眼の屈折異常に対して全体として(協働して)高い矯正効果を発揮する組み合わせレンズが実現され得る。特に、眼鏡のレンズは、高次収差の矯正作用を必要とせず、それ故、従来から公知の球面レンズ度数(近視,遠視,老視)と円柱レンズ度数(乱視)を必要に応じて組み合わせて設定したものが採用可能である。そして、このように従来から提供されている眼鏡と組み合わせて、本発明に従う特定構造のコンタクトレンズを採用することにより、コンタクトレンズには低次収差の矯正機能を付加することに起因する複数規格の設定や製造の複雑化を回避できるため、その分、不正乱視を矯正するための規格を充実させることができることから、効果的な矯正効果を発揮し得る眼の矯正光学系が、一層安価で効率的且つ実用的に実現可能となるのである。
【0041】
本発明の第十二の態様は、前記第一〜十の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、球面レンズ度数(近視、遠視、老視)による低次収差の屈折異常を矯正するハードコンタクトレンズとの組み合わせによって構成されて、該ハードコンタクトレンズと協働して眼光学系を矯正するものである。
【0042】
本態様においては、不正乱視矯正用コンタクトレンズで不正乱視による非対称な度数差である高次収差を矯正すると共に、ハードコンタクトレンズで低次収差を矯正することで、眼の屈折異常に対して全体として(協働して)高い矯正効果を発揮する組み合わせレンズが実現され得る。従来のハードコンタクトレンズで矯正した場合、角膜表面形状に起因する不正乱視を矯正しすぎることで角膜後面形状に起因して残余不正乱視として新たに発生する。そこで、ハードコンタクトレンズ上から、もしくはハードコンタクトレンズ下にピギーバックとして不正乱視矯正用コンタクトレンズを装用することで(ハードコンタクトレンズと協働して)、眼の屈折異常に対して全体として高い矯正効果を発揮する組合せレンズが実現され得る。その際、本発明に係る不正乱視矯正用コンタクトレンズとしては、ソフトコンタクトレンズが好適である。また、ピギーバックとして二つのコンタクトレンズを重ね合わせた状態で使用する際、不正乱視矯正用コンタクトレンズとハードコンタクトレンズは、互いに予め固着されていても良いし、相互に別体とされたままで装用しても良い。特に、ハードコンタクトレンズでは、高次収差の矯正作用を必要とせず、それ故、従来から公知の球面レンズ度数(近視,遠視,老視)を必要に応じて組み合わせて設定したものが採用可能である。そして、このように従来から提供されているハードコンタクトレンズと組み合わせて、本発明に従う特定構造の不正乱視矯正用コンタクトレンズを採用することにより、不正乱視矯正用コンタクトレンズには低次収差の矯正機能を付加することに起因する複数規格の設定や製造の複雑化を回避できるため、その分、不正乱視を矯正するための規格を充実させることができることから、効果的な矯正効果を発揮し得る眼の矯正光学系が、一層安価で効率的且つ実用的に実現可能となるのである。
【0043】
本発明の第十三の態様は、前記第一〜十の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、球面レンズ度数(近視,遠視,老視)と円柱レンズ度数(乱視)による低次収差の屈折異常を矯正する光学特性を併せて有しているものである。
【0044】
本態様では、眼鏡等の別の矯正光学系を必要とすることなく、近視や遠視、老視といった眼の低次収差に加えて、従来は残余不正乱視として対応できなかった眼の高次収差に対しても、効果的な矯正効果を発揮し得る眼の矯正光学系がコンタクトレンズだけで提供され得る。なお、本態様のコンタクトレンズにおいては、例えば、レンズの前後面の何れか一方の面に対して低次収差及び高次収差の両方の矯正効果を発揮する光学面を設定する他、レンズの前面と後面の一方に対して低次収差への矯正効果を発揮する光学面を設定すると共に他方に対して高次収差への矯正効果を発揮する光学面を設定することも可能である。
【0045】
本発明の第十四の態様は、互いに異なる非対称な度数差を有する複数のコンタクトレンズを組み合わせて揃えたコンタクトレンズの組み合わせシリーズであって、何れのコンタクトレンズにも、装用状態における周方向位置を特定する位置合せ手段が設けられていると共に、該位置合せ手段で特定された周方向位置において特定径方向線上における一方の側にはプラスレンズ度数によるプラス矯正領域が設けられている一方、該特定径方向線上における他方の側にはマイナスレンズ度数によるマイナス矯正領域が設けられており、且つ、それぞれのコンタクトレンズにおける前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えられて、不正乱視の矯正用コンタクトレンズとして提供されるコンタクトレンズの組み合わせシリーズを、特徴とする。
【0046】
本態様に従う構造、即ち物品である特定レンズの組み合わせ構造とされたコンタクトレンズの組み合わせシリーズは、互いに異なる光学特性を有する複数のコンタクトレンズを組み合わせたコンタクトレンズセットとして把握され得る。そして、このようなコンタクトレンズレンズの組み合わせシリーズを市場に提供することにより、従来の近視矯正用コンタクトレンズ等と同様に、予め複数種類の光学特性が設定されたオーダーメイドでないコンタクトレンズの何れかを患者に応じて適用するだけで、従来では対応できなかった残余不正乱視に対して良好な矯正効果を発揮し得るコンタクトレンズが提供可能となる。特に本態様によれば、残余不正乱視に対して有効な矯正効果を発揮するコンタクトレンズを、工業的な製造方法によって且つ現場で高度な知識や加工を必要としないフィッティング方法をもって、実用レベルで提供可能と為し得ることに大きな意義が存するのである。
【0047】
本発明の第十五の態様は、前記第十四の態様に従う構造とされたコンタクトレンズの組み合わせシリーズにおいて、前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数の最大値と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数の最小値との差を、2ディオプタ毎に複数段階で異ならせることによって、前記それぞれのコンタクトレンズにおける光学特性が異ならされているものである。
【0048】
本態様に従えば、互いに組み合わせられるコンタクトレンズを適当数に抑えつつ、多くの患者における残余不正乱視に対して効果的な矯正効果が実現可能となる。
【0049】
本発明の第十六の態様は、前記第十四又は十五の態様に従う構造とされたコンタクトレンズの組み合わせシリーズにおいて、前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせた各段階毎に、更に、該プラス矯正領域における最大のレンズ度数の位置と該マイナス矯正領域における最小のレンズ度数の位置を、前記特定径方向線上においてレンズ幾何中心から複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えたものである。
【0050】
本態様に従えば、プラス矯正領域及びマイナス矯正領域においてそれぞれ設定する極値の位置の数に応じて、各患者毎の残余不正乱視に対してより有効な矯正効果を発揮するコンタクトレンズを組み合わせシリーズに含めて提供することが出来る。
【0051】
本発明の第十七の態様は、前記第十四〜十六の何れか一の態様に従う構造とされたコンタクトレンズの組み合わせシリーズにおいて、前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせた各段階毎に、更に、前記位置合せ手段で特定された周方向位置における鉛直方向に対する前記特定径方向線の周方向位置を複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えたものである。
【0052】
本態様に従えば、例えば角膜上における円錐角膜の発生位置(頂点と認められる位置)が周方向で患者毎に異なる場合でも、周方向における特定径方向線の設定数に応じて、各患者毎の残余不正乱視に対してより有効な矯正効果を発揮するコンタクトレンズを組み合わせシリーズに含めて提供することが出来る。
【発明の効果】
【0053】
本発明に従えば、従来の眼鏡やコンタクトレンズでは矯正できないとされていた円錐角膜等に起因する不正乱視(残余不正乱視)に対しても良好な矯正効果を発揮し得るコンタクトレンズを、装用者毎のオーダーメイドに頼ることなく、工業的に量産可能で実用的な新規構造をもって効率的に提供することが可能となる。また、特に本発明に従って構成されたコンタクトレンズの組み合わせシリーズでは、円錐角膜等に起因する不正乱視を患った多くの患者に対して、適合する矯正用コンタクトレンズを一層効率的に且つ容易にフィッティングさせて安価に提供することが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】波面センサーの原理を示す説明図。
【図2】波面センサーによる取得情報からゼルニケ多項式を用いた演算処理で得られる各収差のイメージを例示する説明図。
【図3】円錐角膜の症状を示す眼の縦断面を拡大して示す説明モデル図。
【図4】本発明の一実施形態としての不正乱視矯正用コンタクトレンズを示す正面図。
【図5】本発明の一実施形態としての不正乱視矯正用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布を示す説明図。
【図6】図5に示されたレンズ度数分布を特定径方向線上でグラフ化して示す説明図。
【図7】本発明の一実施例として特定患者への処方を行った際に波面センサーによって得られた裸眼時の波面収差マップを示す表示画面。
【図8】図7の波面収差マップと同様にして得られた、裸眼時の波面収差・PSF・MTFを示す表示画面。
【図9】図7の波面収差マップと同様にして得られた、裸眼時のゼルニケベクトルマップを示す表示画面。
【図10】不正乱視矯正用コンタクトレンズの装用時の波面収差マップを示す、図7に対応する表示画面。
【図11】不正乱視矯正用コンタクトレンズの装用時の波面収差・PSF・MTFを示す、図8に対応する表示画面。
【図12】不正乱視矯正用コンタクトレンズの装用時のゼルニケベクトルマップを示す、図9に対応する表示画面。
【図13】不正乱視矯正用コンタクトレンズの装用時(図中A)と裸眼時(図中B)とにおける各ゼルニケベクトルマップを対比表示する、波面センサーの表示画面。
【図14】本発明の別態様である不正乱視矯正用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布を示す説明図。
【図15】図14に示されたレンズ度数分布を特定径方向線上でグラフ化して示す説明図。
【図16】本発明の更に別態様である不正乱視矯正用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布を示す説明図。
【図17】図16に示されたレンズ度数分布を特定径方向線上でグラフ化して示す説明図。
【図18】本発明の更に別態様である不正乱視矯正用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布を示す説明図。
【図19】図18に示されたレンズ度数分布を特定径方向線上でグラフ化して示す説明図。
【図20】本発明の更に別態様である不正乱視矯正用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布を示す説明図。
【図21】図20に示されたレンズ度数分布を特定径方向線上でグラフ化して示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0056】
はじめに、波面センサー自体は公知であるが、本発明の基礎的知見を得る際だけでなく、本発明の効果を確認する際にも、波面センサーで取得した情報を利用するものであるから、本発明の理解を容易とするために波面センサーの原理と得られる情報について概要を説明する。
【0057】
すなわち、眼光学系における屈折状態は、眼鏡で矯正可能な球面度数及び乱視度数(乱視軸を含む)と、眼鏡で矯正しきれない不正乱視とを含めて、全てを波面収差の概念で表すことが出来る。光軸に直交する面上の各点から発せられた平行光線が角膜や水晶体といった眼光学系を経て網膜上に収束する際、同一点に収束せずに光軸上でずれる状態を収差という。また、各点から発せられた光は、全体として面を為して光軸方向に向かって進行して行くと考えられることから、各瞬間における光の面を波面という。そして、理想的に収差の無い理想波面を基準とし、収差の存在によって波面がずれた状態を波面収差といい、この全ての屈折状態を含む波面収差を波面センサーで測定することが出来る。また、波面センサーでは、得られた波面収差の情報を解析することにより、波面収差を数値化(二乗平均平方根(RMS)で表示)したり、ゼルニケ多項式を用いて複数の波面成分に分解して眼鏡で矯正可能な波面収差成分(低次収差:球面,乱視)と眼鏡で矯正できない波面収差成分(高次収差:コマ収差,球面収差等)等に分けて数値化することが出来、更に患者の網膜像をシミュレーション光学像として表示することも出来る。
【0058】
因みに、参考のために波面センサーの原理を、それによって得られるハートマンイメージ及び波面収差マップと共に、図1に示す。なお、図1中、SLD(発光ダイオード)は、測定用の光源である。また、波面センサーによって得られた波面収差の情報をゼルニケ多項式を用いて複数の波面成分に分解して得られる各次数が表す収差を、波面収差マップによりイメージとして把握できるようにした説明図を、図2に示す。
【0059】
一方、本発明が対象とする高次収差の主な原因である円錐角膜の典型的な症状を、眼の縦断面図として図3に示す。この図3に示されているように、円錐角膜は、眼10において水晶体12の前方に位置する角膜14が、菲薄化を伴って前方に突出することで角膜14上の急峻化した部位が局在する症状である。このような円錐角膜となった眼では、不正乱視として非対称な度数差が発生し、波面センサーによる収差解析結果において、前記図2に示したゼルニケ多項式ピラミッド中の3〜4次の高次収差のうち、C3 -1及びC3 1 の3次の係数で表されるコマ収差が高値となる。なお、これらC3 -1の係数で表される縦コマ収差とC3 1 の係数で表される横コマ収差は、それらをベクトル合成したベクトル係数としてコマ収差の大きさの程度及び方向を把握することが可能である。
【0060】
ところで、円錐角膜によりコマ収差が発生することは、図3に示す角膜形状を考慮すると、円錐角膜によって角膜14の特定部位(図3では下方部分)が急峻化していることで波面が遅くなり、相対的に上方で波面が速くなることに因るものであろうと考えられる。また、多くの円錐角膜患者の測定データによれば、眼の光軸を原点とする角膜正面像において、鼻側に延びる水平線を0度とする原点左回りの座標上で、略90度となる原点から上方へのコマ収差の分布が多いことが認められる。このことは、円錐角膜の患者において、角膜の中心から略鉛直下方に位置して急峻化部位が多く認められることと対応している。
【0061】
ここにおいて、本発明に従う不正乱視矯正用コンタクトレンズ20は、図4に示されている如きソフトコンタクトレンズとして提供される。このコンタクトレンズ20は、PHEMAやPVP、シリコーンハイドロゲル等の従来から公知のソフトコンタクトレンズ材料を用いて、モールディングやレースカッティング等の従来から公知の手法により製造される。
【0062】
また、かかる不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の基本形状は、従来から公知のソフトコンタクトレンズと同様、装用者の眼の角膜の形状や大きさを考慮して、適当なベースカーブ(BC)をレンズ後面に持ち、適当なレンズ直径(DIA)を持って設定される。また、最小レンズ厚さを満足するようにレンズ前面の形状が設定されると共に、光学系を与える中央の光学部22の周囲には、良好な装用感や装用安定性が得られるように、従来から公知の周辺部24とエッジ部25が形成される。なお、上記BC及びDIAの各値は、個人差に対応できるように、予め所定間隔で複数段階を設定して準備しておくことが望ましい。
【0063】
さらに、この不正乱視矯正用コンタクトレンズ20には、周方向の位置合わせ手段として、例えばレンズ全体に対して径方向一方向でプリズムが設定されて厚さ寸法が異ならされたり、周辺部の厚さ寸法が周方向で異ならされて周上の一箇所に圧肉の重力作用部が形成されたり等することで、重力を利用したプリズムバラスト構造が採用される。或いは、レンズ上下両側に位置する部分において、周辺部の厚さ寸法が径方向外方に向かって次第に薄肉化されたり、周辺部の外縁部分が略水平方向に切除されたり等することで、眼瞼のレンズ当接圧を利用したスラブオフ構造が採用される。要するに、このような周方向の位置合わせ手段が採用されることにより、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用時において、図4における上下方向が鉛直方向となる状態で角膜上に安定して位置決めされ得るようになっているのである。
【0064】
そして、中央部分に設けられた上記の光学部22には、周方向の位置合わせ手段で特定される周方向位置とされた装用状態(図4が正面視を表す状態)において、光軸中心を通る水平方向線26を挟んだ上側領域と下側領域とに対して、互いに異なる光学特性が与えられている。具体的には、水平方向線26よりも上側領域が、プラスレンズ度数の設定されたプラス矯正領域27とされている一方、水平方向線26よりも下側領域が、マイナスレンズ度数の設定されたマイナス矯正領域28とされている。要するに、図4に示された不正乱視矯正用コンタクトレンズ20では、光軸を通る鉛直方向線が特定径方向線30とされており、この特定径方向線30上における一方の側である上側がプラス矯正領域27とされていると共に、他方の側である下側がマイナス矯正領域28とされている。
【0065】
しかも、これらプラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28は、何れも、その全体に亘って一定のレンズ度数が設定されている訳ではなく、各領域27,28内には特定パターンにおいて変化するレンズ度数が設定されている。
【0066】
すなわち、プラス矯正領域27では、外周端縁部から中央部分に向かって次第に大きくなるように漸変するプラスレンズ度数が設定されている一方、マイナス矯正領域28では、外周端縁部から中央部分に向かって次第に小さくなる(絶対値が大きくなる)ように漸変するマイナスレンズ度数が設定されている。特に本実施形態では、プラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28が、何れも、特定径方向線30に関して線対称となるレンズ形状及び度数分布をもって形成されており、プラス矯正領域27における最大レンズ度数の設定中心点とマイナス矯正領域28における最小レンズ度数の設定中心点とが、何れも、特定径方向線30上に位置せしめられている。
【0067】
また、本実施形態では、プラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28において、略幾何中心点上に各極値点(プラス矯正領域27における最大のレンズ度数位置又はマイナス矯正領域28における最小のレンズ度数位置)が位置せしめられ、該極値点を中心とした周囲においてレンズ度数が滑らかに変化するようにされている。具体的には、図5に示されているように、本実施形態の不正乱視矯正用コンタクトレンズ20では、プラス矯正領域27とマイナス矯正領域28におけるレンズ度数分布を、それぞれ、同じレンズ度数レンジの位置を連ねた等高線状に表すと、略半円形で同心的な複数本の等高線形状をもってレンズ度数の分布が表される。なお、図5においてレンズ外周縁部が非線形とされているが、これは単に演算上の表示誤差である。
【0068】
そして、プラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28において、何れも、特定径方向線30上での等高線間隔が、極値点を挟んだ両側で略等しくなるようにされることで、かかる極値点がプラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28の略中心に設定されている。即ち、特定径方向線30上での度数分布をグラフで表したものが図6であり、そこに示されているように、プラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28の全体に亘って段差や折れ点の無い滑らかな変化態様をもって、レンズ度数変化が設定されている。特に本実施形態では、かかる特定径方向線30上での度数分布が、プラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28においてそれぞれ二次曲線又は正弦波曲線として設定されており、それらが光学部22の光軸上で共通接線をもって接続されている。
【0069】
このような光学部22における度数分布が設定された本実施形態の不正乱視矯正用コンタクトレンズ20は、それを装用することで、前述の如き角膜の鉛直下方に菲薄化による急峻部が存する典型的な円錐角膜を患った眼10に対して、かかる円錐角膜に起因する不正乱視への矯正効果を発揮し得るものである。
【0070】
因みに、具体的な適用例を参考のために一つ示す。患者は、23歳の女性であり、左眼に円錐角膜による不正乱視が認められた。眼鏡によって低次収差だけを矯正した矯正視力では、0.7を得ることができたが、患者本人の見え方に対する満足度は低かった。この場合の眼鏡レンズは、球面レンズ度数(S)が−8.00ディオプタ(D)、円柱レンズ度数(C)が−3.00ディオプタ(D)、軸方向角度(A)が0度(水平方向)であった。
【0071】
この患者に対して、上述の実施形態に示す不正乱視矯正用コンタクトレンズ20を処方した。なお、処方した不正乱視矯正用コンタクトレンズ20におけるプラス矯正領域27の極値は+3ディオプタであり、マイナス矯正領域28における極値は−3ディオプタであった。
【0072】
そして、かかる不正乱視矯正用コンタクトレンズ20を装用した状態下で、低次収差を矯正する眼鏡を処方し、その眼鏡を装用することによって矯正視力として0.8を得ることができ、患者本人の見え方に対する満足度は高かった。なお、この場合の眼鏡レンズは、S:−8.50D、C:3.00D、A:5度であった。
【0073】
また、この不正乱視矯正用コンタクトレンズ20による処方の効果を客観的に確認するために、波面センサーを用いて、裸眼状態と不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用状態とのそれぞれについて測定及び解析を行った。その結果、眼鏡レンズで矯正できない高次収差の総和の値について、裸眼で0.93μm(RMS)あったものを、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用で0.16μm(RMS)まで抑えられたことを確認した。また、円錐角膜が大きな原因となる不正乱視であるコマ収差の値についても、裸眼で0.76μm(RMS)(軸:100度)あったものを、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用で0.10μm(RMS)(軸:325度)まで抑えられたことを確認した。
【0074】
なお、波面センサーとしては、株式会社トプコン製のHartmann- Shack型波面センサーであるKR−9000PWを用いた。この波面センサーは、ゼルニケ多項式におけるペアの項同士をベクトル合成して一つの収差として表示(例えば縦コマ収差と横コマ収差のベクトル合成によるコマ収差として表示)するプログラムを備えていると共に、ハートマン像による歪みや、網膜イメージのシミュレーションによるランドルト環も表示できるようになっている。
【0075】
参考のために、上記の患者への処方時に得られた波面センサーによる情報及び解析結果として、裸眼時の波面収差マップ(図7)、波面収差・PSF・MTF(図8)、ゼルニケベクトルマップ(図9)の各表示画面をそれぞれ図示すると共に、処方した不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用状態での波面収差マップ(図10)、波面収差・PSF・MTF(図11)、ゼルニケベクトルマップ(図12)の各表示画面をそれぞれ図示する。更に、図13において、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用状態と裸眼状態とにおける各ゼルニケベクトルマップを対比表示する画面を図示する。なお、各図に示された表示画面では、それぞれの条件下における網膜イメージのシミュレーションによるランドルト環が併せて表示されている。
【0076】
これら図7〜13に示す測定及び解析の結果からも、従来の眼鏡やコンタクトレンズでは矯正できなかった高次収差が、本発明に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用によって有効に矯正されることが認められる。特に、本処方の対象者は、裸眼でのコマ収差が眼の光軸回りで鉛直線から周方向に10度だけずれた方向に認められていたが、前述の如き鉛直方向に延びる特定径方向線30上で度数分布を施した不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用によっても充分な矯正効果が発揮されることを確認できた。このことは、図13に示された画面表示において、裸眼では下方に尾をひく彗星状で表されたランドルト環(裸眼を表すB枠内表示)が、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20を装用することで鮮明なランドルト環(A枠内表示)として表されていることからも、容易に理解できる。
【0077】
以上、本発明の一実施形態としての不正乱視矯正用コンタクトレンズ20について詳述したが、このような不正乱視矯正用コンタクトレンズ20は、それを処方する患者毎に不正乱視の症状が異なることに対してより効率的に且つ速やかで容易に対応することが出来るように、予め複数段階で異なる光学特性を設定した複数のコンタクトレンズを揃えて組み合わせることでセット化したコンタクトレンズの組み合わせシリーズとして製造され、市場に提供されることが望ましい。
【0078】
例えば、それぞれのコンタクトレンズにおけるプラス矯正領域27のプラスレンズ度数とマイナス矯正領域28のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えたコンタクトレンズの組み合わせシリーズとして提供される。
【0079】
より具体的には、例えばプラス矯正領域27における最大のレンズ度数:+αとマイナス矯正領域28における最小のレンズ度数:−αの値を、α=1D(ディオプタ),2D,3D,4D,5Dとしたものを組み合わせてシリーズとして提供するようにされる。これにより、プラス矯正領域27における最大のレンズ度数とマイナス矯正領域28における最小のレンズ度数との度数差が、2D(規格±1D)から2Dステップで設定されたものがセット化されて提供されることとなり、患者の状況に応じて適当な度数差を設定した不正乱視矯正用コンタクトレンズ20を、オーダーメイドでなく速やかに提供することが出来る。
【0080】
また、同様に、レンズ度数だけでなく、周方向位置決め手段によって設定される装用状態での鉛直方向線に対する特定径方向線30の相対角度を、第一の実施形態の如き0度としたものの他、周方向で左右両側に向かって例えば10度間隔で複数種類異ならせたもの(具体的には、左右両周方向で、±10度,±20度,±30度だけそれぞれ異ならせたもの)を組み合わせてシリーズとして提供しても良い。このように特定径方向線30を異ならせたものを予めシリーズとして取り揃えて市場に提供することにより、例えば円錐角膜による角膜の急峻化位置が周方向で比較的大きく異なる患者に対しても適当な不正乱視矯正用コンタクトレンズ20を、速やかに提供することが可能となる。
【0081】
更にまた、レンズ度数だけでなく、特定径方向線30上におけるプラス矯正領域27とマイナス矯正領域28との相対的な大きさの割合を相互に異ならせたものを組み合わせてシリーズとして提供しても良い。具体的には、例えば図14〜15に示されているように、プラス矯正領域27をマイナス矯正領域28に対して相対的に大きく設定したり、或いは図16〜17に示されているように、プラス矯正領域27をマイナス矯正領域28に対して相対的に小さく設定した態様を、前述の本実施形態のようにプラス矯正領域27とマイナス矯正領域28を略同じ大きさで設定したものに追加的に組み合わせてシリーズとして提供しても良い。
【0082】
特に、図14〜15に示された態様は、標準的な円錐角膜よりもより下方の位置に角膜突出がみられる場合、或いはレンズの角膜上での安定位置が標準よりも上方に位置する場合などに、好適に処方される。蓋し、そのような場合には、特定径方向線上における度数分布の±の符号の切り替え位置が標準よりも相対的に下方に位置するからである。
【0083】
一方、図16〜17に示された態様は、標準的な円錐角膜よりもより上方の位置に角膜突出がみられる場合、或いはレンズの角膜上での安定位置が標準よりも下方に位置する場合などに、好適に処方される。蓋し、そのような場合には、特定径方向線30上における度数分布の±の符号の切り替え位置が標準よりも相対的に上方に位置するからである。
【0084】
さらに、レンズ度数だけでなく、プラス矯正領域27やマイナス矯正領域28における各極値点の位置を、特定径方向線30上で相互に異ならせたものを組み合わせてシリーズとして提供しても良い。具体的には、例えば図18〜19に示されているように、プラス矯正領域27における極値点とマイナス矯正領域28における極値点を、特定径方向線30上において各矯正領域の中心よりも相互に接近して位置するように設定した態様や、反対に図20〜21に示されているように、プラス矯正領域27における極値点とマイナス矯正領域28における極値点を、特定径方向線上において各矯正領域の中心よりも相互に離隔して位置するように設定した態様を、前述の本実施形態のようにプラス矯正領域27とマイナス矯正領域28の各中心に極値点を位置せしめたものに追加的に組み合わせてシリーズとして提供しても良い。
【0085】
特に図18〜19に示された態様は、標準的な円錐角膜よりもやや上方の位置に角膜突出がみられる場合等で、より狭い範囲で角膜の急峻化による非対称成分が増加している場合などに、好適に処方される。一方、図20〜21に示された態様は、例えば円錐角膜矯正にハードコンタクトレンズを装用していたこと等に起因して角膜中央部分に扁平化した領域が認められるような場合などに、好適に処方される。
【0086】
以上、本発明の具体的な態様の幾つかを例示して説明してきたが、本発明はこれらの具体的な説明によって限定的に解釈されるものでない。
【0087】
例えば、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20には、その光学部22における前面と後面の何れか任意の一方の面に対して、前述の如きプラス矯正領域27とマイナス矯正領域28を与える光学面を形成することが出来るが、当該光学面或いはそれと反対の面に対して、球面レンズや円柱レンズを適当な度数や軸方向をもって付与することも可能である。これにより、前記実施例のように眼鏡を組み合わせて採用することなく、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の光学特性による眼光学系の矯正だけで不正乱視に加えて低次収差による近視等も矯正することが可能となる。
【0088】
また、本発明者が検討したところ、円錐角膜を原因とするコマ収差は、例えば眼内レンズの装用や角膜屈折矯正等の眼科手術の後に、眼内レンズの傾斜配置や角膜屈折矯正処置位置の偏心等に起因して、術後不正乱視として発生することを確認した。そして、これら術後不正乱視に対しても、前述の如き本発明に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズ20が好適に処方され得る。尤も、術後不正乱視は、円錐角膜による不正乱視と異なり、統計的に特定方向への集中的な発生は確認されていないことから、周方向の位置合わせ手段に対する特定径方向線30の周方向の相対位置を全周方向で等間隔に設定したものを組み合わせてシリーズ化して提供すること等で対応することが一層好適である。
【符号の説明】
【0089】
20:不正乱視矯正用コンタクトレンズ、22:光学部、24:周辺部、25:エッジ部、27:プラス矯正領域、28:マイナス矯正領域、30:特定径方向線
【技術分野】
【0001】
本発明は、円錐角膜等に起因する不正乱視の矯正用に提供されるコンタクトレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、眼の屈折異常に対して、眼鏡又はコンタクトレンズが処方されている。これら眼鏡やコンタクトレンズは、装用者毎の眼の光学特性に応じて処方されることにより、眼の光学特性を矯正して良好な見え方を提供するようになっている。特にコンタクトレンズでは、より良好な見え方を実現するために各種研究が進められており、例えば乱視や老視の矯正に際して周方向の位置安定性を向上させたり、老視矯正に際して遠近両用の光学特性を実現させたり、装用感を向上させる等の目的で、従来から多くの構造が提案されている。本発明者の一人も、先に特許第3870219号公報(特許文献1)において、角膜上での位置がずれた場合でも見え方が大きく損なわれることのない、新規な構造を共通して備えたコンタクトレンズの組み合わせシリーズを提供した。
【0003】
ところで、従来構造の眼鏡やコンタクトレンズは、その光学特性が球面レンズ度数と円柱レンズ度数及び円柱レンズ軸方向で特定されることから判るように、近視や遠視、老視、乱視に対しては有効な矯正効果を発揮する。一方、このような眼鏡やコンタクトレンズでは、眼に対して球面レンズ度数と円柱レンズ度数及び円柱レンズ軸方向を充分に適合させても、未だ、「見づらい」、「物が薄く見える」等と訴えられることがある。このような見え方の不具合は、従来では数値化することができない眼の不正乱視に起因するもので残余不正乱視と呼ばれていた。
【0004】
このような残余不正乱視に対して矯正効果を有するコンタクトレンズも研究されてきたが、未だ、満足できる効果を実用レベルで提供するには至っていない。例えば、残余不正乱視が円錐角膜等の角膜表面形状の異常に起因することが多いことから、角膜表面形状の異常部を覆うハードコンタクトレンズを装用して角膜表面形状を押圧矯正したり角膜との間に涙液レンズを形成することで角膜形状を実質的に補正することが主流となっているが、角膜表面形状の異常部をハードコンタクトレンズの内面側で強く圧迫することや、ハードコンタクトレンズ故に装用刺激があること、処方には熟練を要すること、ハードコンタクトレンズが角膜表面形状に起因する不正乱視を矯正しすぎることで角膜後面形状に由来する残余不正乱視が新たに現れる等が問題となり、満足できるまでには至っていない。そこで、近年では強角膜まで覆う大径のハードコンタクトレンズを装用することで圧迫や装用刺激、処方の問題を軽減する方法が試みられているが、根本的な問題解決までには至っていない。また、LASIKの技術等を用いてレンズ面を形状加工して、患者毎の不均一な角膜表面形状に対応したコンタクトレンズをオーダーメイドすることも検討されているが、高価なレーザー技術や特殊な精密加工旋盤等を利用しないと技術的には実現が難しいことから、加工技術上の問題や製造コスト上の問題から実用化には至っていない。
【0005】
一方、近年の光学的及び電子的な解析技術の飛躍的進歩に伴って、従来では数値化できなかった残余不正乱視についても、波面センサーによって定量的に測定することが出来るようになってきた。かかる波面センサーを眼光学系に用いれば、ゼルニケ多項式で表される収差について、近視や乱視等といった従来構造の眼鏡やコンタクトレンズで矯正可能であった低次収差だけでなく、従来では残余不正乱視とされていた高次収差も、それを測定して数値化することが可能となる。
【0006】
しかしながら、たとえ波面センサーによって眼光学系における残余不正乱視が数値化できたとしても、残余不正乱視の態様は個人毎に異なるから、それを矯正する光学特性を備えたコンタクトレンズを個別に製作する必要がある。また、仮に個人毎の不正乱視を高精度に補正する光学特性が装用状態における周方向位置を特定する位置合わせ手段と共に付与できたとしても、コンタクトレンズが角膜上でずれることを完全には制御できないため見え方が不安定になる。それでは、従来と同様に結局はオーダーメイドとなって加工技術上の問題や製造コスト上の問題が避けられないばかりか、満足できる見え方を実現し得るものとは言い難く、残余不正乱視に有効な矯正効果を発揮するコンタクトレンズは未だ実現され得ないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3870219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、近年開発された波面センサーによる眼光学系の残余不正乱視の測定情報を考慮することにより、従来の眼鏡やコンタクトレンズでは矯正できないとされていた円錐角膜等に起因する不正乱視(残余不正乱視)に対しても良好な矯正効果を発揮し得るコンタクトレンズを、装用者毎のオーダーメイドに頼ることなく、工業的に量産可能で実用的な新規構造をもって効率的に提供することのできる、新規な技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明者は、先ず残余不正乱視のある被検眼について波面センサーによる測定結果の検討を行い、その特性を研究した。その結果、多くの残余不正乱視の原因である円錐角膜の患者には、共通の傾向があることを確認した。更に、円錐角膜の患者に対して、各種の光学特性を付与したコンタクトレンズを装用させ、装用状態での光学特性を波面センサーを用いて測定して、研究を重ねた。そして、量産可能な程度の種類をもって光学特性を付与せしめたコンタクトレンズを市場に提供することにより、円錐角膜による残余不正乱視の患者に対して、良好な矯正効果が発揮され得るとの知見を得たのであり、かかる知見に基づいて本発明を完成し得た。
【0010】
本発明の第一の態様は、不正乱視による非対称な度数差を矯正するコンタクトレンズであって、装用状態における周方向位置を特定する位置合せ手段を設けると共に、該位置合せ手段で特定された周方向位置において特定径方向線上における一方の側にはプラスレンズ度数によるプラス矯正領域が設けられている一方、該特定径方向線上における他方の側にはマイナスレンズ度数によるマイナス矯正領域が設けられていると共に、該プラス矯正領域における最大のレンズ度数及び該マイナス矯正領域における最小のレンズ度数が該プラス矯正領域及び該マイナス矯正領域の各中央部分に設定されている不正乱視矯正用コンタクトレンズを、特徴とする。
【0011】
本態様に従う構造とされたコンタクトレンズは、従来から個人差が大きくオーダーメイドでしか矯正できないと考えられていた残余不正乱視に対しても、特定径方向線上でプラス矯正領域とマイナス矯正領域を設けた単純な光学特性をもって充分な矯正効果を発揮し得ることを本発明者が新たに見い出したことに基づいて、工業的生産可能で実用性の高い不正乱視矯正用コンタクトレンズとして初めて実現し得たものである。
【0012】
特に、このような単純な光学特性をもって残存不正乱視の矯正に有効なコンタクトレンズを提供し得た根拠は、第一に、患者眼の波面センサーによる測定結果の解析と検討によって眼光学系における残余不正乱視が多人数において共通する傾向をもった収差として大まかに把握することができる可能性を見出したことにあり、第二に、コンタクトレンズを装用した患者眼の波面センサーによる測定結果の解析と検討によって各個人毎の残余不正乱視に対して完全に対応づけた光学特性のコンタクトレンズでなくても残余不正乱視に対して充分な矯正効果が発揮され得ることを見出したことにある。
【0013】
前者に関しては、従来の眼鏡やコンタクトレンズで矯正できずに残存する不正乱視が角膜上における不規則な度数分布を有するために個別に対応するしかないと考えられていた状況下、波面センサーの情報を活用した本発明において、かかる残存不正乱視に対しても、特定の度数分布を設定することによりレディメイドのコンタクトレンズとして有効な矯正効果が発揮される可能性を見出したことは、大きな技術的意義がある。
【0014】
更に後者に関しては、眼の角膜上での動きを完全に阻止できないコンタクトレンズでは、仮に個人毎の残余不正乱視を波面センサー等で高精度に測定してそれに完全に対応した光学特性を付与した場合には、コンタクトレンズが角膜上でずれることにより見え方が不安定になる傾向が認められる。この場合よりも、前述のように個人毎の残余不正乱視に対して完全に対応しておらず、大まかに対応づけた光学特性のコンタクトレンズの方が、見え方の安定性ひいては残余不正乱視の矯正効果に良好な結果がでることも確認できた。このことは、見え方が、単純な眼の光学系の解析で捉えきれず、眼の光学系で得られる信号を脳が処理している人間の眼における視覚的順応機構が関係していると考えられ、例えば本出願人が先に提案した特許文献1に記載の技術においても共通していると考えられる部分がある。尤も、この脳の処理による領域は、波面センサーでも数値化することができず、患者の主観的な判断によらざるを得ないが、統計的に確認できる。
【0015】
また、特定径方向線上における一方の側にプラスレンズ度数を設定し、他方の側にマイナスレンズ度数を設定したことにより、コンタクトレンズの最大厚さ寸法を抑えて装用感の悪化を回避しつつ、対象とする高次収差による不正乱視に対する有効な矯正効果を実現せしめ得たのである。
【0016】
ところで、本発明の不正乱視矯正用コンタクトレンズは、従来構造のハードコンタクトレンズのように涙液レンズを利用して角膜形状を実質的に補正するものでないことから、従来のハイドロゲルソフトコンタクトレンズやシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズで実現することが望ましく、それによって処方が大幅に簡便となり、またハードコンタクトレンズ装用時の刺激が大幅に軽減されて一層優れた装用感が達成され得る。
【0017】
なお、本態様における「位置合せ手段」としては、重力や眼瞼圧等を利用してコンタクトレンズの装用時の周方向位置を設定し得る従来から公知の構成が何れも採用可能であり、具体的にはプリズムバラストやスラブオフ等が位置合わせ手段として採用され得る。
【0018】
また、本態様における「不正乱視による非対称な度数差」とは、角膜上における眼光学系のレンズ度数(屈折力)が、不正乱視においては近視及び遠視のように点対称でなく乱視のように線対称でもない分布態様を示すことを表すものである。そして、かかる不正乱視による非対称な度数差は、円錐角膜に起因するものの他、眼内レンズ(IOL)の装用や角膜屈折矯正(LASIK)等の眼科手術の後に、眼内レンズの傾斜配置や角膜屈折矯正処置位置の偏心等に起因して発生するものも含む。また、ハードコンタクトレンズで円錐角膜を矯正した後に、ハードコンタクトレンズが角膜表面形状に起因する不正乱視を矯正しすぎることで角膜後面形状の異常に起因して発生するものも含む。そして、それら何れの高次収差による不正乱視も、略同じ傾向の光学特性を有するものであり、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズによる矯正効果が発揮され得る。
【0019】
更にまた、本態様において「最大又は最小のレンズ度数が設定される各矯正領域の中央部分」とは、各矯正領域の外周端縁を除く部分であって、各矯正領域における数学的な幾何中心を意味するものでなく、各矯正領域において外周端縁から中央側に離れた位置を意味する。
【0020】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記特定径方向線が、前記位置合せ手段で特定された周方向位置において上下方向に延びているものである。
【0021】
本態様のコンタクトレンズは、特に円錐角膜に起因する不正乱視の矯正用として好適である。蓋し、残存不正乱視は円錐角膜に起因するものが多いが、円錐角膜に起因する不正乱視には、共通する傾向として、眼の下側に円錐角膜による膨出部が発生し、上下方向の非対称な度数差が発生し、波面センサーで測定される高次収差としては特にコマ収差が発生し易いことが統計的に判ったことに基づく。
【0022】
なお、本態様において「上下方向に延びる径方向線」とは、厳格に鉛直線に限定されることなく、上下方向に延びていれば良く、具体的には鉛直線に対して周方向両側で45度未満の傾斜は、左右方向でなく上下方向に延びているものと認識される。
【0023】
本発明の第三の態様は、前記第二の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記特定径方向線上で、前記プラス矯正領域が上側に設けられていると共に、前記マイナス矯正領域が下側に設けられているものである。
【0024】
本態様のコンタクトレンズは、円錐角膜に起因する不正乱視の矯正用として一層好適に採用され得る。蓋し、円錐角膜による膨出部が統計的に眼の下側に発生することから、コンタクトレンズの上側にプラス矯正領域を設定すると共に下側にマイナス矯正領域を設定することにより、それらの相対的なレンズ度数差に基づいて不正乱視に対する矯正効果が一層効率的に発揮され得る。
【0025】
本発明の第四の態様は、前記第一〜三の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記特定径方向線上で、前記プラス矯正領域及び前記マイナス矯正領域が何れも滑らかに変化するレンズ度数をもって形成されているものである。
【0026】
具体的には、特定径方向線の全長に亘るレンズ度数の変化が、例えば二次曲線や三次曲線或いは多次方程式で表される曲線、正弦曲線等およびそれらの組み合わせで表されるように設計されることとなり、それによって見え方の更なる向上が図られ得る。なお、滑らかに変化するとは、レンズ度数の変化を表す線上の全ての点を接続点と考えると、それら全ての接続点において共通接線が存在することとなり、2つの接線が存在する屈曲点を含まない変化態様を意味する。また、より好適には、プラスレンズ領域とマイナスレンズ領域との接続部位も共通接線をもってレンズ度数が変化するようにされることで、特定径方向線上の全体に亘ってレンズ度数が滑らかに変化するように設定される。
【0027】
本発明の第五の態様は、前記第一〜四の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記非対称な度数差が、円錐角膜に起因する非対称な度数差であり、非対称な度数差に起因する不正乱視の矯正に用いられるものである。
【0028】
本態様では、円錐角膜に起因する非対称な度数差が波面センサーで測定される高次収差の中でコマ収差成分の多いことに着目し、円錐角膜に起因する不正乱視を特に有効に矯正し得るコンタクトレンズを提供するものである。なかでも、特に前記第三の態様と組み合わされることにより、縦コマ収差に対して有効な矯正効果を発揮するコンタクトレンズとして、好適に提供され得る。
【0029】
本発明の第六の態様は、前記第一〜五の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記特定径方向線に対する直交径方向線を挟んで、一方の半周側が前記プラス矯正領域とされていると共に、他方の半周側が前記マイナス矯正領域とされているものである。
【0030】
本態様のコンタクトレンズは、角膜の一方の半径領域に円錐角膜が発生している典型的な症状に対して効果的な矯正効果を発揮し得る。
【0031】
本発明の第七の態様は、前記第一〜五の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記特定径方向線に対する直交径方向線を超えて一方の半周側から他方の半周側にまで広がって、前記プラス矯正領域と前記マイナス矯正領域の何れか一方が形成されることにより、それらプラス矯正領域とマイナス矯正領域の大きさが相対的に異なっているものである。
【0032】
本態様のコンタクトレンズは、角膜の外周端縁近くに円錐角膜が発生している症状に対して効果的な矯正効果を発揮する他、平均的な円錐角膜に対して装用された不正乱視矯正用コンタクトレンズの安定位置が角膜中央よりも上方もしくは下方に大きく位置する場合に効果的な矯正効果を発揮する。
【0033】
本発明の第八の態様は、前記第一〜七の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記プラス矯正領域における最大のレンズ度数及び前記マイナス矯正領域における最小のレンズ度数の少なくとも一方が、前記特定径方向線上で、且つ該プラス矯正領域及び該マイナス矯正領域における中心から外れた位置に設定されているものである。
【0034】
本態様のコンタクトレンズでは、プラス矯正領域又はマイナス矯正領域における極値点(プラス矯正領域における最大のレンズ度数位置又はマイナス矯正領域における最小のレンズ度数位置)を、レンズ径方向において、装用される眼の光学特性に対応して設定することが出来る。
【0035】
本発明の第九の態様は、前記第一〜八の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記プラス矯正領域における最大のレンズ度数及び前記マイナス矯正領域における最小のレンズ度数が、何れも、レンズ幾何中心から0.5〜2.5mmの離隔距離を有する位置に設定されているものである。
【0036】
本態様のコンタクトレンズでは、円錐角膜の症例の統計的検討結果等から、特に円錐角膜に起因する不正乱視の矯正用として好適である。
【0037】
本発明の第十の態様は、前記第一〜九の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、前記プラス矯正領域における最大のレンズ度数の絶対値と、前記マイナス矯正領域における最小のレンズ度数の絶対値とが、互いに同じとされているものである。
【0038】
本態様のコンタクトレンズでは、特に円錐角膜に起因するコマ収差に対して、他の収差への悪影響をできるだけ回避しつつ、効率的な補正効果を得ることが可能となる。
【0039】
本発明の第十一の態様は、前記第一〜十の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、球面レンズ度数(近視、遠視、老視)と円柱レンズ度数(乱視)による低次収差の屈折異常を矯正するレンズを備えた眼鏡との組み合わせによって構成されて、該眼鏡と協働して眼光学系を矯正するものである。
【0040】
本態様においては、コンタクトレンズで不正乱視による非対称な度数差である高次収差を矯正すると共に、眼鏡で低次収差を矯正することで、眼の屈折異常に対して全体として(協働して)高い矯正効果を発揮する組み合わせレンズが実現され得る。特に、眼鏡のレンズは、高次収差の矯正作用を必要とせず、それ故、従来から公知の球面レンズ度数(近視,遠視,老視)と円柱レンズ度数(乱視)を必要に応じて組み合わせて設定したものが採用可能である。そして、このように従来から提供されている眼鏡と組み合わせて、本発明に従う特定構造のコンタクトレンズを採用することにより、コンタクトレンズには低次収差の矯正機能を付加することに起因する複数規格の設定や製造の複雑化を回避できるため、その分、不正乱視を矯正するための規格を充実させることができることから、効果的な矯正効果を発揮し得る眼の矯正光学系が、一層安価で効率的且つ実用的に実現可能となるのである。
【0041】
本発明の第十二の態様は、前記第一〜十の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、球面レンズ度数(近視、遠視、老視)による低次収差の屈折異常を矯正するハードコンタクトレンズとの組み合わせによって構成されて、該ハードコンタクトレンズと協働して眼光学系を矯正するものである。
【0042】
本態様においては、不正乱視矯正用コンタクトレンズで不正乱視による非対称な度数差である高次収差を矯正すると共に、ハードコンタクトレンズで低次収差を矯正することで、眼の屈折異常に対して全体として(協働して)高い矯正効果を発揮する組み合わせレンズが実現され得る。従来のハードコンタクトレンズで矯正した場合、角膜表面形状に起因する不正乱視を矯正しすぎることで角膜後面形状に起因して残余不正乱視として新たに発生する。そこで、ハードコンタクトレンズ上から、もしくはハードコンタクトレンズ下にピギーバックとして不正乱視矯正用コンタクトレンズを装用することで(ハードコンタクトレンズと協働して)、眼の屈折異常に対して全体として高い矯正効果を発揮する組合せレンズが実現され得る。その際、本発明に係る不正乱視矯正用コンタクトレンズとしては、ソフトコンタクトレンズが好適である。また、ピギーバックとして二つのコンタクトレンズを重ね合わせた状態で使用する際、不正乱視矯正用コンタクトレンズとハードコンタクトレンズは、互いに予め固着されていても良いし、相互に別体とされたままで装用しても良い。特に、ハードコンタクトレンズでは、高次収差の矯正作用を必要とせず、それ故、従来から公知の球面レンズ度数(近視,遠視,老視)を必要に応じて組み合わせて設定したものが採用可能である。そして、このように従来から提供されているハードコンタクトレンズと組み合わせて、本発明に従う特定構造の不正乱視矯正用コンタクトレンズを採用することにより、不正乱視矯正用コンタクトレンズには低次収差の矯正機能を付加することに起因する複数規格の設定や製造の複雑化を回避できるため、その分、不正乱視を矯正するための規格を充実させることができることから、効果的な矯正効果を発揮し得る眼の矯正光学系が、一層安価で効率的且つ実用的に実現可能となるのである。
【0043】
本発明の第十三の態様は、前記第一〜十の何れか一の態様に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズにおいて、球面レンズ度数(近視,遠視,老視)と円柱レンズ度数(乱視)による低次収差の屈折異常を矯正する光学特性を併せて有しているものである。
【0044】
本態様では、眼鏡等の別の矯正光学系を必要とすることなく、近視や遠視、老視といった眼の低次収差に加えて、従来は残余不正乱視として対応できなかった眼の高次収差に対しても、効果的な矯正効果を発揮し得る眼の矯正光学系がコンタクトレンズだけで提供され得る。なお、本態様のコンタクトレンズにおいては、例えば、レンズの前後面の何れか一方の面に対して低次収差及び高次収差の両方の矯正効果を発揮する光学面を設定する他、レンズの前面と後面の一方に対して低次収差への矯正効果を発揮する光学面を設定すると共に他方に対して高次収差への矯正効果を発揮する光学面を設定することも可能である。
【0045】
本発明の第十四の態様は、互いに異なる非対称な度数差を有する複数のコンタクトレンズを組み合わせて揃えたコンタクトレンズの組み合わせシリーズであって、何れのコンタクトレンズにも、装用状態における周方向位置を特定する位置合せ手段が設けられていると共に、該位置合せ手段で特定された周方向位置において特定径方向線上における一方の側にはプラスレンズ度数によるプラス矯正領域が設けられている一方、該特定径方向線上における他方の側にはマイナスレンズ度数によるマイナス矯正領域が設けられており、且つ、それぞれのコンタクトレンズにおける前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えられて、不正乱視の矯正用コンタクトレンズとして提供されるコンタクトレンズの組み合わせシリーズを、特徴とする。
【0046】
本態様に従う構造、即ち物品である特定レンズの組み合わせ構造とされたコンタクトレンズの組み合わせシリーズは、互いに異なる光学特性を有する複数のコンタクトレンズを組み合わせたコンタクトレンズセットとして把握され得る。そして、このようなコンタクトレンズレンズの組み合わせシリーズを市場に提供することにより、従来の近視矯正用コンタクトレンズ等と同様に、予め複数種類の光学特性が設定されたオーダーメイドでないコンタクトレンズの何れかを患者に応じて適用するだけで、従来では対応できなかった残余不正乱視に対して良好な矯正効果を発揮し得るコンタクトレンズが提供可能となる。特に本態様によれば、残余不正乱視に対して有効な矯正効果を発揮するコンタクトレンズを、工業的な製造方法によって且つ現場で高度な知識や加工を必要としないフィッティング方法をもって、実用レベルで提供可能と為し得ることに大きな意義が存するのである。
【0047】
本発明の第十五の態様は、前記第十四の態様に従う構造とされたコンタクトレンズの組み合わせシリーズにおいて、前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数の最大値と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数の最小値との差を、2ディオプタ毎に複数段階で異ならせることによって、前記それぞれのコンタクトレンズにおける光学特性が異ならされているものである。
【0048】
本態様に従えば、互いに組み合わせられるコンタクトレンズを適当数に抑えつつ、多くの患者における残余不正乱視に対して効果的な矯正効果が実現可能となる。
【0049】
本発明の第十六の態様は、前記第十四又は十五の態様に従う構造とされたコンタクトレンズの組み合わせシリーズにおいて、前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせた各段階毎に、更に、該プラス矯正領域における最大のレンズ度数の位置と該マイナス矯正領域における最小のレンズ度数の位置を、前記特定径方向線上においてレンズ幾何中心から複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えたものである。
【0050】
本態様に従えば、プラス矯正領域及びマイナス矯正領域においてそれぞれ設定する極値の位置の数に応じて、各患者毎の残余不正乱視に対してより有効な矯正効果を発揮するコンタクトレンズを組み合わせシリーズに含めて提供することが出来る。
【0051】
本発明の第十七の態様は、前記第十四〜十六の何れか一の態様に従う構造とされたコンタクトレンズの組み合わせシリーズにおいて、前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせた各段階毎に、更に、前記位置合せ手段で特定された周方向位置における鉛直方向に対する前記特定径方向線の周方向位置を複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えたものである。
【0052】
本態様に従えば、例えば角膜上における円錐角膜の発生位置(頂点と認められる位置)が周方向で患者毎に異なる場合でも、周方向における特定径方向線の設定数に応じて、各患者毎の残余不正乱視に対してより有効な矯正効果を発揮するコンタクトレンズを組み合わせシリーズに含めて提供することが出来る。
【発明の効果】
【0053】
本発明に従えば、従来の眼鏡やコンタクトレンズでは矯正できないとされていた円錐角膜等に起因する不正乱視(残余不正乱視)に対しても良好な矯正効果を発揮し得るコンタクトレンズを、装用者毎のオーダーメイドに頼ることなく、工業的に量産可能で実用的な新規構造をもって効率的に提供することが可能となる。また、特に本発明に従って構成されたコンタクトレンズの組み合わせシリーズでは、円錐角膜等に起因する不正乱視を患った多くの患者に対して、適合する矯正用コンタクトレンズを一層効率的に且つ容易にフィッティングさせて安価に提供することが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】波面センサーの原理を示す説明図。
【図2】波面センサーによる取得情報からゼルニケ多項式を用いた演算処理で得られる各収差のイメージを例示する説明図。
【図3】円錐角膜の症状を示す眼の縦断面を拡大して示す説明モデル図。
【図4】本発明の一実施形態としての不正乱視矯正用コンタクトレンズを示す正面図。
【図5】本発明の一実施形態としての不正乱視矯正用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布を示す説明図。
【図6】図5に示されたレンズ度数分布を特定径方向線上でグラフ化して示す説明図。
【図7】本発明の一実施例として特定患者への処方を行った際に波面センサーによって得られた裸眼時の波面収差マップを示す表示画面。
【図8】図7の波面収差マップと同様にして得られた、裸眼時の波面収差・PSF・MTFを示す表示画面。
【図9】図7の波面収差マップと同様にして得られた、裸眼時のゼルニケベクトルマップを示す表示画面。
【図10】不正乱視矯正用コンタクトレンズの装用時の波面収差マップを示す、図7に対応する表示画面。
【図11】不正乱視矯正用コンタクトレンズの装用時の波面収差・PSF・MTFを示す、図8に対応する表示画面。
【図12】不正乱視矯正用コンタクトレンズの装用時のゼルニケベクトルマップを示す、図9に対応する表示画面。
【図13】不正乱視矯正用コンタクトレンズの装用時(図中A)と裸眼時(図中B)とにおける各ゼルニケベクトルマップを対比表示する、波面センサーの表示画面。
【図14】本発明の別態様である不正乱視矯正用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布を示す説明図。
【図15】図14に示されたレンズ度数分布を特定径方向線上でグラフ化して示す説明図。
【図16】本発明の更に別態様である不正乱視矯正用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布を示す説明図。
【図17】図16に示されたレンズ度数分布を特定径方向線上でグラフ化して示す説明図。
【図18】本発明の更に別態様である不正乱視矯正用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布を示す説明図。
【図19】図18に示されたレンズ度数分布を特定径方向線上でグラフ化して示す説明図。
【図20】本発明の更に別態様である不正乱視矯正用コンタクトレンズにおけるレンズ度数分布を示す説明図。
【図21】図20に示されたレンズ度数分布を特定径方向線上でグラフ化して示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0056】
はじめに、波面センサー自体は公知であるが、本発明の基礎的知見を得る際だけでなく、本発明の効果を確認する際にも、波面センサーで取得した情報を利用するものであるから、本発明の理解を容易とするために波面センサーの原理と得られる情報について概要を説明する。
【0057】
すなわち、眼光学系における屈折状態は、眼鏡で矯正可能な球面度数及び乱視度数(乱視軸を含む)と、眼鏡で矯正しきれない不正乱視とを含めて、全てを波面収差の概念で表すことが出来る。光軸に直交する面上の各点から発せられた平行光線が角膜や水晶体といった眼光学系を経て網膜上に収束する際、同一点に収束せずに光軸上でずれる状態を収差という。また、各点から発せられた光は、全体として面を為して光軸方向に向かって進行して行くと考えられることから、各瞬間における光の面を波面という。そして、理想的に収差の無い理想波面を基準とし、収差の存在によって波面がずれた状態を波面収差といい、この全ての屈折状態を含む波面収差を波面センサーで測定することが出来る。また、波面センサーでは、得られた波面収差の情報を解析することにより、波面収差を数値化(二乗平均平方根(RMS)で表示)したり、ゼルニケ多項式を用いて複数の波面成分に分解して眼鏡で矯正可能な波面収差成分(低次収差:球面,乱視)と眼鏡で矯正できない波面収差成分(高次収差:コマ収差,球面収差等)等に分けて数値化することが出来、更に患者の網膜像をシミュレーション光学像として表示することも出来る。
【0058】
因みに、参考のために波面センサーの原理を、それによって得られるハートマンイメージ及び波面収差マップと共に、図1に示す。なお、図1中、SLD(発光ダイオード)は、測定用の光源である。また、波面センサーによって得られた波面収差の情報をゼルニケ多項式を用いて複数の波面成分に分解して得られる各次数が表す収差を、波面収差マップによりイメージとして把握できるようにした説明図を、図2に示す。
【0059】
一方、本発明が対象とする高次収差の主な原因である円錐角膜の典型的な症状を、眼の縦断面図として図3に示す。この図3に示されているように、円錐角膜は、眼10において水晶体12の前方に位置する角膜14が、菲薄化を伴って前方に突出することで角膜14上の急峻化した部位が局在する症状である。このような円錐角膜となった眼では、不正乱視として非対称な度数差が発生し、波面センサーによる収差解析結果において、前記図2に示したゼルニケ多項式ピラミッド中の3〜4次の高次収差のうち、C3 -1及びC3 1 の3次の係数で表されるコマ収差が高値となる。なお、これらC3 -1の係数で表される縦コマ収差とC3 1 の係数で表される横コマ収差は、それらをベクトル合成したベクトル係数としてコマ収差の大きさの程度及び方向を把握することが可能である。
【0060】
ところで、円錐角膜によりコマ収差が発生することは、図3に示す角膜形状を考慮すると、円錐角膜によって角膜14の特定部位(図3では下方部分)が急峻化していることで波面が遅くなり、相対的に上方で波面が速くなることに因るものであろうと考えられる。また、多くの円錐角膜患者の測定データによれば、眼の光軸を原点とする角膜正面像において、鼻側に延びる水平線を0度とする原点左回りの座標上で、略90度となる原点から上方へのコマ収差の分布が多いことが認められる。このことは、円錐角膜の患者において、角膜の中心から略鉛直下方に位置して急峻化部位が多く認められることと対応している。
【0061】
ここにおいて、本発明に従う不正乱視矯正用コンタクトレンズ20は、図4に示されている如きソフトコンタクトレンズとして提供される。このコンタクトレンズ20は、PHEMAやPVP、シリコーンハイドロゲル等の従来から公知のソフトコンタクトレンズ材料を用いて、モールディングやレースカッティング等の従来から公知の手法により製造される。
【0062】
また、かかる不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の基本形状は、従来から公知のソフトコンタクトレンズと同様、装用者の眼の角膜の形状や大きさを考慮して、適当なベースカーブ(BC)をレンズ後面に持ち、適当なレンズ直径(DIA)を持って設定される。また、最小レンズ厚さを満足するようにレンズ前面の形状が設定されると共に、光学系を与える中央の光学部22の周囲には、良好な装用感や装用安定性が得られるように、従来から公知の周辺部24とエッジ部25が形成される。なお、上記BC及びDIAの各値は、個人差に対応できるように、予め所定間隔で複数段階を設定して準備しておくことが望ましい。
【0063】
さらに、この不正乱視矯正用コンタクトレンズ20には、周方向の位置合わせ手段として、例えばレンズ全体に対して径方向一方向でプリズムが設定されて厚さ寸法が異ならされたり、周辺部の厚さ寸法が周方向で異ならされて周上の一箇所に圧肉の重力作用部が形成されたり等することで、重力を利用したプリズムバラスト構造が採用される。或いは、レンズ上下両側に位置する部分において、周辺部の厚さ寸法が径方向外方に向かって次第に薄肉化されたり、周辺部の外縁部分が略水平方向に切除されたり等することで、眼瞼のレンズ当接圧を利用したスラブオフ構造が採用される。要するに、このような周方向の位置合わせ手段が採用されることにより、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用時において、図4における上下方向が鉛直方向となる状態で角膜上に安定して位置決めされ得るようになっているのである。
【0064】
そして、中央部分に設けられた上記の光学部22には、周方向の位置合わせ手段で特定される周方向位置とされた装用状態(図4が正面視を表す状態)において、光軸中心を通る水平方向線26を挟んだ上側領域と下側領域とに対して、互いに異なる光学特性が与えられている。具体的には、水平方向線26よりも上側領域が、プラスレンズ度数の設定されたプラス矯正領域27とされている一方、水平方向線26よりも下側領域が、マイナスレンズ度数の設定されたマイナス矯正領域28とされている。要するに、図4に示された不正乱視矯正用コンタクトレンズ20では、光軸を通る鉛直方向線が特定径方向線30とされており、この特定径方向線30上における一方の側である上側がプラス矯正領域27とされていると共に、他方の側である下側がマイナス矯正領域28とされている。
【0065】
しかも、これらプラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28は、何れも、その全体に亘って一定のレンズ度数が設定されている訳ではなく、各領域27,28内には特定パターンにおいて変化するレンズ度数が設定されている。
【0066】
すなわち、プラス矯正領域27では、外周端縁部から中央部分に向かって次第に大きくなるように漸変するプラスレンズ度数が設定されている一方、マイナス矯正領域28では、外周端縁部から中央部分に向かって次第に小さくなる(絶対値が大きくなる)ように漸変するマイナスレンズ度数が設定されている。特に本実施形態では、プラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28が、何れも、特定径方向線30に関して線対称となるレンズ形状及び度数分布をもって形成されており、プラス矯正領域27における最大レンズ度数の設定中心点とマイナス矯正領域28における最小レンズ度数の設定中心点とが、何れも、特定径方向線30上に位置せしめられている。
【0067】
また、本実施形態では、プラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28において、略幾何中心点上に各極値点(プラス矯正領域27における最大のレンズ度数位置又はマイナス矯正領域28における最小のレンズ度数位置)が位置せしめられ、該極値点を中心とした周囲においてレンズ度数が滑らかに変化するようにされている。具体的には、図5に示されているように、本実施形態の不正乱視矯正用コンタクトレンズ20では、プラス矯正領域27とマイナス矯正領域28におけるレンズ度数分布を、それぞれ、同じレンズ度数レンジの位置を連ねた等高線状に表すと、略半円形で同心的な複数本の等高線形状をもってレンズ度数の分布が表される。なお、図5においてレンズ外周縁部が非線形とされているが、これは単に演算上の表示誤差である。
【0068】
そして、プラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28において、何れも、特定径方向線30上での等高線間隔が、極値点を挟んだ両側で略等しくなるようにされることで、かかる極値点がプラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28の略中心に設定されている。即ち、特定径方向線30上での度数分布をグラフで表したものが図6であり、そこに示されているように、プラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28の全体に亘って段差や折れ点の無い滑らかな変化態様をもって、レンズ度数変化が設定されている。特に本実施形態では、かかる特定径方向線30上での度数分布が、プラス矯正領域27及びマイナス矯正領域28においてそれぞれ二次曲線又は正弦波曲線として設定されており、それらが光学部22の光軸上で共通接線をもって接続されている。
【0069】
このような光学部22における度数分布が設定された本実施形態の不正乱視矯正用コンタクトレンズ20は、それを装用することで、前述の如き角膜の鉛直下方に菲薄化による急峻部が存する典型的な円錐角膜を患った眼10に対して、かかる円錐角膜に起因する不正乱視への矯正効果を発揮し得るものである。
【0070】
因みに、具体的な適用例を参考のために一つ示す。患者は、23歳の女性であり、左眼に円錐角膜による不正乱視が認められた。眼鏡によって低次収差だけを矯正した矯正視力では、0.7を得ることができたが、患者本人の見え方に対する満足度は低かった。この場合の眼鏡レンズは、球面レンズ度数(S)が−8.00ディオプタ(D)、円柱レンズ度数(C)が−3.00ディオプタ(D)、軸方向角度(A)が0度(水平方向)であった。
【0071】
この患者に対して、上述の実施形態に示す不正乱視矯正用コンタクトレンズ20を処方した。なお、処方した不正乱視矯正用コンタクトレンズ20におけるプラス矯正領域27の極値は+3ディオプタであり、マイナス矯正領域28における極値は−3ディオプタであった。
【0072】
そして、かかる不正乱視矯正用コンタクトレンズ20を装用した状態下で、低次収差を矯正する眼鏡を処方し、その眼鏡を装用することによって矯正視力として0.8を得ることができ、患者本人の見え方に対する満足度は高かった。なお、この場合の眼鏡レンズは、S:−8.50D、C:3.00D、A:5度であった。
【0073】
また、この不正乱視矯正用コンタクトレンズ20による処方の効果を客観的に確認するために、波面センサーを用いて、裸眼状態と不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用状態とのそれぞれについて測定及び解析を行った。その結果、眼鏡レンズで矯正できない高次収差の総和の値について、裸眼で0.93μm(RMS)あったものを、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用で0.16μm(RMS)まで抑えられたことを確認した。また、円錐角膜が大きな原因となる不正乱視であるコマ収差の値についても、裸眼で0.76μm(RMS)(軸:100度)あったものを、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用で0.10μm(RMS)(軸:325度)まで抑えられたことを確認した。
【0074】
なお、波面センサーとしては、株式会社トプコン製のHartmann- Shack型波面センサーであるKR−9000PWを用いた。この波面センサーは、ゼルニケ多項式におけるペアの項同士をベクトル合成して一つの収差として表示(例えば縦コマ収差と横コマ収差のベクトル合成によるコマ収差として表示)するプログラムを備えていると共に、ハートマン像による歪みや、網膜イメージのシミュレーションによるランドルト環も表示できるようになっている。
【0075】
参考のために、上記の患者への処方時に得られた波面センサーによる情報及び解析結果として、裸眼時の波面収差マップ(図7)、波面収差・PSF・MTF(図8)、ゼルニケベクトルマップ(図9)の各表示画面をそれぞれ図示すると共に、処方した不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用状態での波面収差マップ(図10)、波面収差・PSF・MTF(図11)、ゼルニケベクトルマップ(図12)の各表示画面をそれぞれ図示する。更に、図13において、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用状態と裸眼状態とにおける各ゼルニケベクトルマップを対比表示する画面を図示する。なお、各図に示された表示画面では、それぞれの条件下における網膜イメージのシミュレーションによるランドルト環が併せて表示されている。
【0076】
これら図7〜13に示す測定及び解析の結果からも、従来の眼鏡やコンタクトレンズでは矯正できなかった高次収差が、本発明に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用によって有効に矯正されることが認められる。特に、本処方の対象者は、裸眼でのコマ収差が眼の光軸回りで鉛直線から周方向に10度だけずれた方向に認められていたが、前述の如き鉛直方向に延びる特定径方向線30上で度数分布を施した不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の装用によっても充分な矯正効果が発揮されることを確認できた。このことは、図13に示された画面表示において、裸眼では下方に尾をひく彗星状で表されたランドルト環(裸眼を表すB枠内表示)が、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20を装用することで鮮明なランドルト環(A枠内表示)として表されていることからも、容易に理解できる。
【0077】
以上、本発明の一実施形態としての不正乱視矯正用コンタクトレンズ20について詳述したが、このような不正乱視矯正用コンタクトレンズ20は、それを処方する患者毎に不正乱視の症状が異なることに対してより効率的に且つ速やかで容易に対応することが出来るように、予め複数段階で異なる光学特性を設定した複数のコンタクトレンズを揃えて組み合わせることでセット化したコンタクトレンズの組み合わせシリーズとして製造され、市場に提供されることが望ましい。
【0078】
例えば、それぞれのコンタクトレンズにおけるプラス矯正領域27のプラスレンズ度数とマイナス矯正領域28のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えたコンタクトレンズの組み合わせシリーズとして提供される。
【0079】
より具体的には、例えばプラス矯正領域27における最大のレンズ度数:+αとマイナス矯正領域28における最小のレンズ度数:−αの値を、α=1D(ディオプタ),2D,3D,4D,5Dとしたものを組み合わせてシリーズとして提供するようにされる。これにより、プラス矯正領域27における最大のレンズ度数とマイナス矯正領域28における最小のレンズ度数との度数差が、2D(規格±1D)から2Dステップで設定されたものがセット化されて提供されることとなり、患者の状況に応じて適当な度数差を設定した不正乱視矯正用コンタクトレンズ20を、オーダーメイドでなく速やかに提供することが出来る。
【0080】
また、同様に、レンズ度数だけでなく、周方向位置決め手段によって設定される装用状態での鉛直方向線に対する特定径方向線30の相対角度を、第一の実施形態の如き0度としたものの他、周方向で左右両側に向かって例えば10度間隔で複数種類異ならせたもの(具体的には、左右両周方向で、±10度,±20度,±30度だけそれぞれ異ならせたもの)を組み合わせてシリーズとして提供しても良い。このように特定径方向線30を異ならせたものを予めシリーズとして取り揃えて市場に提供することにより、例えば円錐角膜による角膜の急峻化位置が周方向で比較的大きく異なる患者に対しても適当な不正乱視矯正用コンタクトレンズ20を、速やかに提供することが可能となる。
【0081】
更にまた、レンズ度数だけでなく、特定径方向線30上におけるプラス矯正領域27とマイナス矯正領域28との相対的な大きさの割合を相互に異ならせたものを組み合わせてシリーズとして提供しても良い。具体的には、例えば図14〜15に示されているように、プラス矯正領域27をマイナス矯正領域28に対して相対的に大きく設定したり、或いは図16〜17に示されているように、プラス矯正領域27をマイナス矯正領域28に対して相対的に小さく設定した態様を、前述の本実施形態のようにプラス矯正領域27とマイナス矯正領域28を略同じ大きさで設定したものに追加的に組み合わせてシリーズとして提供しても良い。
【0082】
特に、図14〜15に示された態様は、標準的な円錐角膜よりもより下方の位置に角膜突出がみられる場合、或いはレンズの角膜上での安定位置が標準よりも上方に位置する場合などに、好適に処方される。蓋し、そのような場合には、特定径方向線上における度数分布の±の符号の切り替え位置が標準よりも相対的に下方に位置するからである。
【0083】
一方、図16〜17に示された態様は、標準的な円錐角膜よりもより上方の位置に角膜突出がみられる場合、或いはレンズの角膜上での安定位置が標準よりも下方に位置する場合などに、好適に処方される。蓋し、そのような場合には、特定径方向線30上における度数分布の±の符号の切り替え位置が標準よりも相対的に上方に位置するからである。
【0084】
さらに、レンズ度数だけでなく、プラス矯正領域27やマイナス矯正領域28における各極値点の位置を、特定径方向線30上で相互に異ならせたものを組み合わせてシリーズとして提供しても良い。具体的には、例えば図18〜19に示されているように、プラス矯正領域27における極値点とマイナス矯正領域28における極値点を、特定径方向線30上において各矯正領域の中心よりも相互に接近して位置するように設定した態様や、反対に図20〜21に示されているように、プラス矯正領域27における極値点とマイナス矯正領域28における極値点を、特定径方向線上において各矯正領域の中心よりも相互に離隔して位置するように設定した態様を、前述の本実施形態のようにプラス矯正領域27とマイナス矯正領域28の各中心に極値点を位置せしめたものに追加的に組み合わせてシリーズとして提供しても良い。
【0085】
特に図18〜19に示された態様は、標準的な円錐角膜よりもやや上方の位置に角膜突出がみられる場合等で、より狭い範囲で角膜の急峻化による非対称成分が増加している場合などに、好適に処方される。一方、図20〜21に示された態様は、例えば円錐角膜矯正にハードコンタクトレンズを装用していたこと等に起因して角膜中央部分に扁平化した領域が認められるような場合などに、好適に処方される。
【0086】
以上、本発明の具体的な態様の幾つかを例示して説明してきたが、本発明はこれらの具体的な説明によって限定的に解釈されるものでない。
【0087】
例えば、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20には、その光学部22における前面と後面の何れか任意の一方の面に対して、前述の如きプラス矯正領域27とマイナス矯正領域28を与える光学面を形成することが出来るが、当該光学面或いはそれと反対の面に対して、球面レンズや円柱レンズを適当な度数や軸方向をもって付与することも可能である。これにより、前記実施例のように眼鏡を組み合わせて採用することなく、不正乱視矯正用コンタクトレンズ20の光学特性による眼光学系の矯正だけで不正乱視に加えて低次収差による近視等も矯正することが可能となる。
【0088】
また、本発明者が検討したところ、円錐角膜を原因とするコマ収差は、例えば眼内レンズの装用や角膜屈折矯正等の眼科手術の後に、眼内レンズの傾斜配置や角膜屈折矯正処置位置の偏心等に起因して、術後不正乱視として発生することを確認した。そして、これら術後不正乱視に対しても、前述の如き本発明に従う構造とされた不正乱視矯正用コンタクトレンズ20が好適に処方され得る。尤も、術後不正乱視は、円錐角膜による不正乱視と異なり、統計的に特定方向への集中的な発生は確認されていないことから、周方向の位置合わせ手段に対する特定径方向線30の周方向の相対位置を全周方向で等間隔に設定したものを組み合わせてシリーズ化して提供すること等で対応することが一層好適である。
【符号の説明】
【0089】
20:不正乱視矯正用コンタクトレンズ、22:光学部、24:周辺部、25:エッジ部、27:プラス矯正領域、28:マイナス矯正領域、30:特定径方向線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不正乱視による非対称な度数差を矯正するコンタクトレンズであって、装用状態における周方向位置を特定する位置合せ手段を設けると共に、該位置合せ手段で特定された周方向位置において特定径方向線上における一方の側にはプラスレンズ度数によるプラス矯正領域が設けられている一方、該特定径方向線上における他方の側にはマイナスレンズ度数によるマイナス矯正領域が設けられていると共に、該プラス矯正領域における最大のレンズ度数及び該マイナス矯正領域における最小のレンズ度数が該プラス矯正領域及び該マイナス矯正領域の各中央部分に設定されていることを特徴とする不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項2】
前記特定径方向線が、前記位置合せ手段で特定された周方向位置において上下方向に延びている請求項1に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項3】
前記特定径方向線上で、前記プラス矯正領域が上側に設けられていると共に、前記マイナス矯正領域が下側に設けられている請求項2に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項4】
前記特定径方向線上で、前記プラス矯正領域及び前記マイナス矯正領域が何れも滑らかに変化するレンズ度数をもって形成されている請求項1〜3の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項5】
前記非対称な度数差が、円錐角膜に起因する非対称な度数差であり、非対称な度数差に起因する不正乱視の矯正に用いられる請求項1〜4の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項6】
前記特定径方向線に対する直交径方向線を挟んで、一方の半周側が前記プラス矯正領域とされていると共に、他方の半周側が前記マイナス矯正領域とされている請求項1〜5の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項7】
前記特定径方向線に対する直交径方向線を超えて一方の半周側から他方の半周側にまで広がって、前記プラス矯正領域と前記マイナス矯正領域の何れか一方が形成されることにより、それらプラス矯正領域とマイナス矯正領域の大きさが相対的に異なっている請求項1〜5の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項8】
前記プラス矯正領域における最大のレンズ度数及び前記マイナス矯正領域における最小のレンズ度数の少なくとも一方が、前記特定径方向線上で、且つ該プラス矯正領域及び該マイナス矯正領域における中心から外れた位置に設定されている請求項1〜7の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項9】
前記プラス矯正領域における最大のレンズ度数及び前記マイナス矯正領域における最小のレンズ度数が、何れも、レンズ幾何中心から0.5〜2.5mmの離隔距離を有する位置に設定されている請求項1〜8の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項10】
前記プラス矯正領域における最大のレンズ度数の絶対値と、前記マイナス矯正領域における最小のレンズ度数の絶対値とが、互いに同じとされている請求項1〜9の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項11】
球面レンズ度数と円柱レンズ度数による屈折異常を矯正するレンズを備えた眼鏡との組み合わせによって構成されて、該眼鏡と協働して眼光学系を矯正する請求項1〜10の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項12】
球面レンズ度数による低次収差の屈折異常を矯正するハードコンタクトレンズとの組み合わせによって構成されて、該ハードコンタクトレンズと協働して眼光学系を矯正する請求項1〜10の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項13】
球面レンズ度数と円柱レンズ度数による低次収差の屈折異常を矯正する光学特性を併せて有している請求項1〜10の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項14】
互いに異なる非対称性の度数分布を有する複数のコンタクトレンズを組み合わせて揃えたコンタクトレンズの組み合わせシリーズであって、
何れのコンタクトレンズにも、装用状態における周方向位置を特定する位置合せ手段が設けられていると共に、該位置合せ手段で特定された周方向位置において特定径方向線上における一方の側にはプラスレンズ度数によるプラス矯正領域が設けられている一方、該特定径方向線上における他方の側にはマイナスレンズ度数によるマイナス矯正領域が設けられており、且つ、
それぞれのコンタクトレンズにおける前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えられて、不正乱視の矯正用コンタクトレンズとして提供される
ことを特徴とするコンタクトレンズの組み合わせシリーズ。
【請求項15】
前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数の最大値と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数の最小値との差を、2ディオプタ毎に複数段階で異ならせることによって、前記それぞれのコンタクトレンズにおける光学特性が異ならされている請求項14に記載のコンタクトレンズの組み合わせシリーズ。
【請求項16】
前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせた各段階毎に、
更に、該プラス矯正領域における最大のレンズ度数の位置と該マイナス矯正領域における最小のレンズ度数の位置を、前記特定径方向線上においてレンズ幾何中心から複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えた請求項14又は15に記載のコンタクトレンズの組み合わせシリーズ。
【請求項17】
前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせた各段階毎に、
更に、前記位置合せ手段で特定された周方向位置における鉛直方向に対する前記特定径方向線の周方向位置を複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えた請求項14〜16の何れか1項に記載のコンタクトレンズの組み合わせシリーズ。
【請求項1】
不正乱視による非対称な度数差を矯正するコンタクトレンズであって、装用状態における周方向位置を特定する位置合せ手段を設けると共に、該位置合せ手段で特定された周方向位置において特定径方向線上における一方の側にはプラスレンズ度数によるプラス矯正領域が設けられている一方、該特定径方向線上における他方の側にはマイナスレンズ度数によるマイナス矯正領域が設けられていると共に、該プラス矯正領域における最大のレンズ度数及び該マイナス矯正領域における最小のレンズ度数が該プラス矯正領域及び該マイナス矯正領域の各中央部分に設定されていることを特徴とする不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項2】
前記特定径方向線が、前記位置合せ手段で特定された周方向位置において上下方向に延びている請求項1に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項3】
前記特定径方向線上で、前記プラス矯正領域が上側に設けられていると共に、前記マイナス矯正領域が下側に設けられている請求項2に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項4】
前記特定径方向線上で、前記プラス矯正領域及び前記マイナス矯正領域が何れも滑らかに変化するレンズ度数をもって形成されている請求項1〜3の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項5】
前記非対称な度数差が、円錐角膜に起因する非対称な度数差であり、非対称な度数差に起因する不正乱視の矯正に用いられる請求項1〜4の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項6】
前記特定径方向線に対する直交径方向線を挟んで、一方の半周側が前記プラス矯正領域とされていると共に、他方の半周側が前記マイナス矯正領域とされている請求項1〜5の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項7】
前記特定径方向線に対する直交径方向線を超えて一方の半周側から他方の半周側にまで広がって、前記プラス矯正領域と前記マイナス矯正領域の何れか一方が形成されることにより、それらプラス矯正領域とマイナス矯正領域の大きさが相対的に異なっている請求項1〜5の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項8】
前記プラス矯正領域における最大のレンズ度数及び前記マイナス矯正領域における最小のレンズ度数の少なくとも一方が、前記特定径方向線上で、且つ該プラス矯正領域及び該マイナス矯正領域における中心から外れた位置に設定されている請求項1〜7の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項9】
前記プラス矯正領域における最大のレンズ度数及び前記マイナス矯正領域における最小のレンズ度数が、何れも、レンズ幾何中心から0.5〜2.5mmの離隔距離を有する位置に設定されている請求項1〜8の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項10】
前記プラス矯正領域における最大のレンズ度数の絶対値と、前記マイナス矯正領域における最小のレンズ度数の絶対値とが、互いに同じとされている請求項1〜9の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項11】
球面レンズ度数と円柱レンズ度数による屈折異常を矯正するレンズを備えた眼鏡との組み合わせによって構成されて、該眼鏡と協働して眼光学系を矯正する請求項1〜10の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項12】
球面レンズ度数による低次収差の屈折異常を矯正するハードコンタクトレンズとの組み合わせによって構成されて、該ハードコンタクトレンズと協働して眼光学系を矯正する請求項1〜10の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項13】
球面レンズ度数と円柱レンズ度数による低次収差の屈折異常を矯正する光学特性を併せて有している請求項1〜10の何れか1項に記載の不正乱視矯正用コンタクトレンズ。
【請求項14】
互いに異なる非対称性の度数分布を有する複数のコンタクトレンズを組み合わせて揃えたコンタクトレンズの組み合わせシリーズであって、
何れのコンタクトレンズにも、装用状態における周方向位置を特定する位置合せ手段が設けられていると共に、該位置合せ手段で特定された周方向位置において特定径方向線上における一方の側にはプラスレンズ度数によるプラス矯正領域が設けられている一方、該特定径方向線上における他方の側にはマイナスレンズ度数によるマイナス矯正領域が設けられており、且つ、
それぞれのコンタクトレンズにおける前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えられて、不正乱視の矯正用コンタクトレンズとして提供される
ことを特徴とするコンタクトレンズの組み合わせシリーズ。
【請求項15】
前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数の最大値と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数の最小値との差を、2ディオプタ毎に複数段階で異ならせることによって、前記それぞれのコンタクトレンズにおける光学特性が異ならされている請求項14に記載のコンタクトレンズの組み合わせシリーズ。
【請求項16】
前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせた各段階毎に、
更に、該プラス矯正領域における最大のレンズ度数の位置と該マイナス矯正領域における最小のレンズ度数の位置を、前記特定径方向線上においてレンズ幾何中心から複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えた請求項14又は15に記載のコンタクトレンズの組み合わせシリーズ。
【請求項17】
前記プラス矯正領域のプラスレンズ度数と前記マイナス矯正領域のマイナスレンズ度数とを複数段階で異ならせた各段階毎に、
更に、前記位置合せ手段で特定された周方向位置における鉛直方向に対する前記特定径方向線の周方向位置を複数段階で異ならせることにより互いに異なる光学特性を設定したものを組み合わせて揃えた請求項14〜16の何れか1項に記載のコンタクトレンズの組み合わせシリーズ。
【図3】
【図4】
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図4】
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−221446(P2011−221446A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93192(P2010−93192)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]