説明

不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクト

【課題】従来の住宅やビル等に用いられている不燃ダクトは、金属管の周りにガラス繊維で代表される無機繊維を断熱材で覆ったものであったが、このものは、重たくかつ施工性、圧力損失等に問題を有するものであり、このような問題点を有しない不燃性または難燃性のダクトを提供する。
【解決手段】不織布からなる肉部と熱可塑性硬質樹脂からなるリング状または螺旋状の芯材からなる内管、その上に断熱層が積層され、さらにその上に気密層が積層されている空調用フレキシブルダクトにおいて、該断熱層として難燃処理された樹脂発泡層または難燃処理された熱可塑性繊維層が用いられていることを特徴とする不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の冷暖房用エアーダクトや換気ダクトに好適に使用される、フレキシブル性に富み、施工性が良好で、燃焼時に断熱層の崩れが少なく、難燃性または不燃性に優れ、更に圧力損失の少ない断熱樹脂ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、換気ダクトとして難燃性または不燃性の断熱ダクトが一般に用いられており、その構成としては、薄鋼板を螺旋状に巻くことにより形成した内管の外側に断熱層および不燃性の表面材を積層したものが知られている。この不燃または難燃性断熱ダクトには、断熱層としてガラス繊維やロックウール等の無機繊維からなる繊維層が用いられ、また内管として亜鉛鋼板やステンレススチール鋼板が一般に使われている(特許文献1および2)。
【0003】
しかしながら、ガラス繊維やロックウールはカット時に繊維切断片が飛散し、安全衛生上問題が有り、さらに薄鋼板は現場でのカットが難しく、さらにダクト内面の凹凸が大きい為に圧力損失が大きいと言う問題点も有している。さらに、不燃性または難燃性のダクトとして、樹脂製のダクトが考えられるが、一般に樹脂製のダクトは、燃焼条件下で熱により容易に断熱層の形状が崩れるという問題点を有している。燃焼条件下で熱により容易に断熱層形状が崩壊する場合には、火災時に崩壊による落下事故の発生とダクト脱落により、ダクト周辺部材への燃焼を促進するという問題点が生じる。
【0004】
【特許文献1】特開平09−243155号
【特許文献2】特開2001−343146号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、グラスウール、金属板が用いられていないことにより現場での作業が可能で、かつ安全性、施工性、システムの省エネ化を実現でき、圧力損失が少なく、不燃性または難燃性に優れた、住宅・ビル用空調ダクトとして極めて有用な不燃ダクトを提供することにある。さらに、ダクトの燃焼条件下においても容易に断熱層の形状が崩壊しない樹脂性のダクトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、不織布からなる肉部と熱可塑性硬質樹脂からなるリング状または螺旋状の芯材からなる内管、その上に断熱層が積層され、さらにその上に気密層が積層されている空調用フレキシブルダクトにおいて、該断熱層として、難燃処理された樹脂発泡層または難燃処理された熱可塑性繊維層が用いられていることを特徴とする不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクトにより達成される。
【0007】
上記本発明において、内管の肉部として不織布が用いられるが、この不織布として、難燃処理が施された不織布が好ましく、また気密層が、金属箔をラミネートしたガラス繊維織物または難燃樹脂フィルムである場合が好ましく、また断熱層に付与されている難燃剤がホウ酸系の難燃剤である場合が好ましく、また内管を構成する不織布にホウ酸系の難燃剤が含浸されている場合が好ましく、さらに芯材を構成する熱可塑性硬質樹脂に、水酸化アルミニウムあるいは水酸化マグネシウムが練り込まれている場合が好ましい。
さらに、本発明において、芯材に用いられている難燃剤が水酸化アルミニウムあるいは水酸化マグネシウムであり、断熱層に用いられている難燃剤がホウ酸系の難燃剤である場合がより好適な場合として挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
従来の空調用不燃ダクトには、断熱材にグラスウール、芯材に金属芯を使っている物が一般的であり、このものは不燃性には優れるが、ダクトカット時のグラスウールの飛散による安全衛生上の問題があり、金属芯材の切断のし難さから現場での施工性にかけ、金属芯材を使用したことによりダクト内部の凹凸が大きいため圧力損失に劣るものであった。また、金属は樹脂よりも重量が高いため、金属芯材を用いたダクトは樹脂製のダクトより重量があり、施工性に劣るものであった。
【0009】
本発明により、住宅・ビル等の空調不燃または難燃用ダクトとして、施工性、圧力損失性、安全衛生優れる樹脂ダクトを提供することができる。本発明のダクトは、戸建住宅、集合住宅、ビルの空調ダクト等の分野での活躍が見込まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明を図面により説明する。
図1は、本発明の不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクトの一例を示す側面図であり、不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクトは、不織布からなる肉部3と硬質樹脂からなる螺旋状の芯材4が溶融接着あるいは接着剤による接着によって一体化された内管と、その外部を被う断熱層1および気密層2からなっている。
【0011】
この内管を構成する不織布としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の繊維形成性の熱可塑性樹脂から得られる合成繊維から形成されているのが芯材との溶融接着性、リサイクル性の点で好ましい。特に、柔軟性、汎用性、加工性の点からポリプロピレンとポリエチレンの混合紡糸繊維あるいは複合紡糸繊維であって繊維表面にポリエチレンが存在している繊維からなる不織布またはポリエチレン繊維とポリプロピレン繊維との混合物からなる不織布、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンの混合紡糸繊維あるいは複合紡糸繊維であって繊維表面にポリエチレンが存在している繊維からなる不織布またはポリエチレン繊維とポリエチレンテレフタレート繊維との混合物からなる不織布がダクト成形性の点で最適である。この場合、低融点ポリマーあるいは低融点ポリマー繊維が熱バインダー成分として働き、不織布の形状固定、さらには芯材との熱融着性をもたらす。特に、上記したポリエチレン成分を低融点成分として用いた複合紡糸繊維あるいは混合紡糸繊維のように、低融点ポリマーと高融点ポリマーからなり、低融点ポリマーが繊維表面に存在している繊維を熱バインダー繊維として用いるのも好適な例である。この場合には、繊維表面に存在する低融点ポリマーが溶けて芯材と接着することとなる。
【0012】
不織布を構成する繊維として、ガラス繊維やロックウール等の無機繊維を使用することも可能であるが、無機繊維は切断時に繊維切断片が空気中に飛散することから作業環境の悪化を招き、好ましいとは言えない。さらに作業時や設置後に大きな衝撃が加えられた場合に、上記無機繊維の繊維片が場合によってはダクト内に侵入し、ダクト内の気体に混入することもあることから好ましいとは言えない。
【0013】
不織布の目付けとしては、30〜200g/mのものが良く、更には70〜120g/mのものが好適である。また不織布の通気量としては、フラジール法での測定結果で30〜120cc/cm/secの範囲のものが消音性や圧力損失性能の点で好ましい。不織布としては、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、湿式不織布、水絡不織布、ニードルパンチ不織布等のいずれでも良いが、特にスパンボンド不織布が強度及び圧力損失が低いことから好ましい。構成する繊維の太さとしては、1〜5dtexの範囲が、ダクト成形性の点で好ましい。
【0014】
内管を構成する不織布には、ホウ酸系や、リン系、あるいはハロゲン系の難燃剤が、不織布cm当たり固形分で0.000001g〜0.001g固着されているのが好ましい。なかでもホウ酸系の難燃剤が加熱時のガラス層形成による形状保持性の点で特に好ましい。ホウ酸系難燃剤の好適な具体例として、ファイアレスB(株式会社トラストライフ製)が挙げられる。難燃剤の配合量が0.000001gより少ないと、ダクトとして要求される不燃性または難燃性が達成され難い。また、0.001gを超えると、ダクト成形の安定性に欠けると共に、薬剤のコストが高くなる。この難燃薬剤の配合量は、更に好適には0.000005g〜0.0008gである。難燃剤は、通常、不織布の段階で付与される。
【0015】
次に芯材を構成する樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系樹脂、ナイロン6で代表されるポリアミド系樹脂、アクリル、ポリスチレン等のビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられ、なかでも炭素原子と水素原子、またはこれらの原子と酸素原子から構成された硬質の熱可塑性樹脂が好適であり、代表的にはポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレンなどが挙げられる。特に硬度、耐候性、汎用性などの点からポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体が好適であり、さらに、ポリプロピレンが最適である。
【0016】
硬質樹脂としては、硬度Rスケール(JIS K7202 Rスケール ロックウェル硬さ)70〜130の範囲のものが好適に用いられる。
芯材は、これら樹脂を断面積が5〜15mmとなる太さで溶融押し出し、それをリング状または螺旋状に旋回して内管を形成する。内管の直径(内径)として、50〜300mmの範囲が好ましい。リング状または螺旋状に内管を形成する際の、隣り合う芯材との間隔としては5〜10mmの範囲が好ましい。特に本発明において、芯材を螺旋状に旋回したものが好ましい。また、芯材の横断面形状として、添付の図に示すような、底部がフラットな土台の上に土台より巾の狭い上部が乗せられているような2段構造のような形状が、不織布との接着性、さらに螺旋形状が潰れ難いことから好ましい。
【0017】
さらに、螺旋状またはリング状の芯材において、太い芯材と細い芯材が交互に存在している(すなわち螺旋状の場合には太い芯材と細い芯材を用い、図1に示すように、太い芯材と細い芯材が交互に存在する)ようにするのが断熱層と芯材の設置面積を増やすことによりダクト難燃性・不燃性を効果的に高めることができる点で好ましい。太い芯材と細い芯材の太さ比としては、断面積比で2:1〜4:1の範囲が好ましい。また、太い芯材を15〜30mm間隔で投入することが好ましく、太い芯材と細い芯材はこの15〜30mmの間隔を70〜55:30〜45で分割する位置に投入されているのが、低圧力損失性の点で好ましい。この間隔を保つことにより、ダクト曲げ時に内管不織布がダクト内部に折れ曲がる量を補正し、曲げ時の圧力損失の大幅な低下を防ぐことが可能となる。
【0018】
本発明において芯材に使用される難燃剤としては、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン等の臭素系化合物、トリフェニルホスフェートで代表されるリン酸エステル、赤リン等のリン系化合物、塩素化パラフィン、ポリ塩化ビフェニル等の塩素系化合物 、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等が使用可能であり、加工性、価格および難燃効果、さらには燃焼条件下で芯材形状が崩れ難いこと等から水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムが好適に使用される。
【0019】
芯材を構成する熱可塑性樹脂の重量に対して難燃剤が5〜80重量%の割合で芯材構成樹脂に練り込まれているのが好ましい。この配合量が5重量%より少ないと、ダクトに要求される不燃性が達成しづらくなる。逆に80重量%を超えると、ダクト成形の安定性に欠けることとなる。より好ましくは10〜50重量%の範囲である。上記難燃剤の中でも、特に水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムが火災時に吸熱反応を起こしながら分解し、火災の延焼を防ぐことができ、芯材形状を保つことができる点で好ましい。
【0020】
内管の外側を被う断熱層は、内管内を流れる気体の熱が外部に奪われたり、あるいは外部の熱が内管内に伝わらないようにするためのもので、同断熱層には、ポリウレタンフォームやポリエチレン発泡体等の熱可塑性樹脂発泡層、ポリエチレン繊維やポリエステル繊維からなるフェルト等の熱可塑性繊維層が用いられる。従来のダクトでは、ガラス繊維またはロックウールからなる無機繊維層が断熱層として用いられているが、これらの無機繊維層の場合には、ダクトを切断する際に無機繊維が切断され、繊維層から脱離した繊維切断片が空気中に飛散し、作業環境等を悪化させたり、ダクト内を流れる空気中に混入して環境悪化を招くこととなるが、本発明の熱可塑性樹脂からなる発泡層または繊維層の場合には、そのような作業環境悪化を招かない。発泡層または繊維層の厚みとしては、5〜20mmが最適である。発泡層の場合には、発泡倍率30〜60倍のものが最適である。
【0021】
発泡層を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂が好適に使用可能であるが、なかでもポリウレタンおよびポリエチレンがダクト施工性、環境負荷などの点から特に好適である。
【0022】
また、繊維層を用いる場合には、不織布、織物、編物等が挙げられ、なかでもスパンボンド不織布、メルトブローン不織布、湿式不織布、水絡不織布、ニードルパンチ不織布、樹脂接着不織布等の不織布層が好ましく、特にニードルパンチ不織布が好ましい。繊維層を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系樹脂等が挙げられ、特にポリエステル系樹脂が重量、コスト、ダクト加工性の点で好ましい。構成する繊維の太さとしては、0.1〜20dtexの範囲のものが良く、更には0.5〜8dtexの範囲が好適であり、ダクト加工性の点で好ましい。
【0023】
本発明では、このような断熱層、すなわち発泡層または繊維層に難燃処理が行われていることが必須であり、用いられる難燃剤としては、ホウ酸系難燃剤、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤等が挙げられ、特にホウ酸系難燃剤が人体への安全性、環境負荷の点で好適に用いられる。
ホウ酸系難燃剤の具体例としては、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸亜鉛等の化合物が挙げられ、これらホウ酸系化合物のなかでも特に、ホウ酸ナトリウムが良好な難燃性をもたらす。
【0024】
断熱層cm当たりの難燃剤の付着量は固形分で0.001〜0.2gの範囲が好ましい。付与量が0.001gより少ないと、ダクトの不燃性が満足できない。また、0.2gを超えると、ダクト成形の安定性に欠けると共に、難燃剤付着によりダクトの可撓性が失われてしまう。更に好適には0.005g〜0.05gの範囲である。
【0025】
本発明において、断熱層の一部として、無機系断熱材であるグラスウール、セラミックウール、ロックウールを使用することも可能である。しかしながら、このような無機系断熱材の使用量が増加すると、ダクトを切断する際に、これら無機系繊維の切断片が空気中に飛散し、作業環境を悪化させることから、出来ればそのような無機系繊維を一切用いない方が好ましい。
【0026】
また、断熱層に含浸させる難燃薬剤としては、ホウ酸系難燃剤を使用することが燃焼条件下で断熱層形状を長時間保つことが可能であることから、さらに環境負荷の観点から望ましい。ここで、ホウ酸系難燃剤の好適な具体例としては、トラストライフ製ホウ酸ナトリウム水溶液(商品名:ファイアレスB)が挙げられる。この難燃剤を用いた場合には、燃焼条件下でも断熱層形状が特に崩れ難いという特長が得られる。
【0027】
上記したように、芯材に使用される難燃剤としては、水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムが好ましく、これらは火災時に吸熱反応を起こしながら分解し、火災の延焼を防ぐことができ、また、断熱層に付与される難燃剤としてはホウ酸系難燃剤が好ましいのであるが、このホウ素系難燃剤は火災時に発泡ガラス層を形成し、断熱層の形状を保持し、崩壊による2次災害を防ぐことができる。したがって、芯材に用いられている水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムと断熱層に付与されているホウ素系難燃剤の組み合わせにより、本発明のダクトは、吸熱反応効果のある芯材と形状保持効果のある断熱層を合わせたことにより、火災の延焼を他の難燃剤を用いた場合と比べて効果的に防ぐことができる。
【0028】
また、水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムを使用する際には、黒もしくはグレー顔料をポリプロピレン等の熱可塑性樹脂と水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムに対して1〜5重量%程度添加すると、経時変化による色の変化を抑えることができる。ダクトとして、経時変化による色の変化を抑えることは、外観の点で好ましい。
【0029】
本発明における不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクトには、上記断熱層の上を気密層で覆われる。気密層は、断熱層が直接外部に露出せずに、ダクト表面を被うためのものであり、外気が断熱層に侵入することを防ぐ他に、ダクトを熱から防ぐ役割も担っている。気密層としては、アルミ蒸着層を最表面層とした熱可塑性樹脂フィルム、アルミ箔、ステンレス箔、銅箔、亜鉛箔、錫箔、銀箔等の金属箔、これらの金属箔と熱可塑性樹脂フィルムの積層体、これら金属箔とガラス繊維織物の貼り合わせ(ラミネート)、これら金属箔と熱可塑性樹脂フィルムの積層体にさらにガラス繊維織物を貼り付けたもの、フッ素樹脂で代表される耐熱性樹脂をコートしたガラス繊維織物、塩化ビニルシート等で代表される難燃性樹脂フィルムシートが使用されるが、コスト、軽量性よりアルミ蒸着熱可塑性樹脂フィルム、特にアルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートシート、塩化ビニル樹脂フィルム、アルミ箔ラミネートガラス繊維織物、フッ素樹脂ラミネートガラス繊維織物が好適であり、さらに耐熱性、不燃性を考慮した際、アルミ箔ラミネートガラス繊維織物が最適である。アルミ箔の厚さは0.01〜0.05mm、アルミ箔重量は40〜55g/m、アルミ純度は90.0〜99.9%、ガラス繊維織物は、太さが0.10〜0.15mm、重さが75〜90g/m、織密度が10〜20×10〜20/1インチ角(糸太さが400〜800dtex)、平織りタイプであり、アルミ箔とガラス繊維織物の接着剤には、不燃性アクリル系エマルジョン樹脂が接着性、不燃性、難燃性の点で好適に使用される。
【0030】
不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクトの製造方法としては、例えば、まず不織布からなる肉部を、管成形機の回転軸上に巻き付け、硬質樹脂からなる螺旋状の芯材を溶融押出して、該不織布からなる管状肉部に溶融接着させて内管を形成する。
そして、内管の表面に断熱層をダクト長手方向に対し直線状に被覆する。また、不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクト内管の芯材間隔と同じ幅にスリットした断熱層を内管製造と同時にダクト外部に巻き付けて断熱層を形成する方法も挙げられる。内管と断熱層とは、接着されていても、あるいは金具、針金等により一体化されていても良い。さらに、その表面に存在させる気密層は、内管の表面に断熱層を被覆した後に、その表面を覆うように、気密層を重ねて固定する方法、あるいは、予め、断熱層と気密層を接着一体化しておき、その一体化した状態で内管の表面を被う方法のいずれでもよい。そして、気密層と断熱層は、接着剤により、あるいは熱融着により、さらには、金具や針金等の方法で一体化されていても良い。
【0031】
さらに、本発明において、断熱層は、内管の表面に部分的に設けても良いが、ダクトのほぼ全体に断熱層が形成されている場合の方が、空調システムの熱効率が良くなり、コスト的に有利となり、ダクトの内部の結露を有効に防ぐことができることから好ましい。
【0032】
このようにして得られた本発明の不燃性または難燃性の樹脂ダクトは、不燃性、低圧力損失性、消音性、断熱性および可撓性に優れることから、例えば、一般住宅、集合住宅、ビル、店舗、倉庫、乗物、船舶などで空調のためにエアーを搬送するダクトとして使用される。主に使用されるダクトサイズとしては、一般住宅では直径50〜100mmであり、集合住宅もしくはビル空調においては直径150mm以上のものが使用される。
【0033】
なお、本発明の不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクトは、上記したように、不織布からなる肉部と芯材からなる内管と断熱層及び気密層を必須の構成要件とするが、これ以外の層が、内管内に、あるいはこれら管や層の中間に、さらには気密層の表面に存在していても良い。
【0034】
以下、本発明をより具体的かつ詳細に説明にするために以下に実施例を示す。実施例中、%は特にことわりがない限り、重量に基づく値である。
【0035】
実施例1
肉部となる不織布(1){目付量が100g/mであり、構成繊維は、ポリプロピレンとポリエチレンが芯鞘構造になっており、ポリエチレンが鞘成分を構成している繊度3dtexのポリプロピレン−ポリエチレンからなる芯鞘型複合繊維からなるスパンボンド不織布で、溶融紡糸時に、直接鞘成分を熱融着させて繊維間を結合して製造された不織布(製品名:Haibon品番:6590シンワ製)とホウ酸系難燃剤(トラストライフ製)を0.0008g/cm(固形分)の量で固着}を、管成形機の回転軸上に巻き付け、螺旋状芯材となる熱可塑性硬質樹脂芯材(2){水酸化マグネシウム50重量%配合ポリプロピレン(カルプ工業製)}を、その上部から螺旋状に巻き付けて、熱融着させ、内径100mmの図2に示すような内管とした。
【0036】
なお、芯材として太さの異なる2種の芯材を用いた。すなわち、太い方の芯材は、断面積が15mm、細い方の芯材は断面積が5mmで、断面形状は、共に底部が平らな土台の上に、巾の細い上部が乗せられているような2段構造のような形状を有している。そして、太い芯材と細い芯材が交互に存在しており、太い芯材を25mm間隔で投入し、細い芯材はこの25mmの間隔を60:40で分割する位置に投入されている。
【0037】
その外部に断熱層となる、厚さ10mm、密度22.0g/mの難燃剤付与ポリウレタンフォーム(3){ウレタンフォーム(アキレス製)にホウ酸系難燃剤(トラストライフ製)を0.05g/cm(固形分)含浸加工にて固着}と気密シートとなるアルミ箔ラミネートガラス織物(4){アルミ箔厚さ0.02mm、アルミ箔重量54.2g/m、アルミ純度99.9%、ガラス織物厚さ0.12mm、ガラス織物重量86g/m、ガラス織物の織密度16本×15本/1インチ四方(1本の太さ:674dtex)、ガラス織物とアルミ箔の接着剤として不燃性アクリル系エマルジョン樹脂を使用(和光断熱材製)}を気密層として被覆して図1に示すようなダクトとした。
【0038】
実施例2
上記実施例1において、内管を構成する不織布として、ホウ酸系難燃剤を付与していない不織布を使用する以外は実施例1と同一の方法によりダクトを製造した。
【0039】
実施例3
上記実施例1において、気密層として、フッ素樹脂コーティングガラス繊維シート{フジエース(品番:FG−4300 藤森工業製)}を使用する以外は実施例1と同一の方法によりダクトを製造した。
【0040】
実施例4
上記実施例1において、芯材として、水酸化マグネシウムを配合していないポリプロピレン樹脂を用いる以外は実施例1と同一の方法にダクトを製造した。
【0041】
実施例5
上記実施例1において、気密層として、アルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム(アルミ蒸着層厚み400Å、フィルム厚さ110μm)を用いる以外は実施例1と同一の方法によりダクトを製造した。
【0042】
比較例1
上記実施例1において、断熱層となるウレタンフォームに、ホウ酸系難燃剤を付与しない以外は実施例1と同一の方法によりダクトを製造した。
【0043】
比較例2
上記実施例1において、芯材として、ステンレス製の芯材を用い、不織布の上から螺旋状に巻き付けて、接着剤を用いて接着させ、さらに断熱層及び気密層として、アルミ箔貼り合わせガラス繊維織物をグラスウール層に貼り合わせたもの{マグウールAG2425(マグ製)、厚さ25mm、密度24kg/m}を使用する以外は実施例1と同一の方法によりダクトを製造した。
【0044】
実施例6
上記実施例1において、断熱層に用いる難燃剤として、ハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモン{(製品名)STOX−W−16 日本精鉱株式会社製}を使用し、その固形分付着量を0.05g/cmとする以外は実施例1と同様にしてダクトを製造した。
【0045】
上記の実施例1〜6及び比較例1〜3で得られたそれぞれのダクトから、10cm長のダクトを切り出し、それらを広げ、10cm×10cmの試験片を作製し、800℃の熱源で非接触加熱しながら、試験片上部にスパーク(着火元)を設置した。加熱時間は20分間とし、その間の発熱量を測定した。試験片が着火した時は、着火までに要した時間と消火までに要した時間を測定した。また、20分間加熱後の断熱層の様子を観察した。その測定結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
上記の実施例1〜6、比較例1〜3で得られたダクトを施工現場にてカットし、カット性の容易さ、施工性を調べた。また、ダクトを直管状態に整地し、風量発生器を用いてダクト内部に風を通し、測定管の差圧を測定し管摩擦抵抗係数を算出した。測定結果を表2に示す
【0048】
【表2】

【0049】
表1はダクトより10cm×10cmの試験片を作製し、発熱性試験機(コーンカロリーメーター)を用いて800℃の熱源で試料を加熱した時の、発熱量、着火までに要した時間を調べた結果である。試験片の上には、スパーク(点火源)が設置されており、加熱中に試験片から可燃性ガスが発生すれば、試験片が着火する仕組みとなっている。
【0050】
実施例1〜6および比較例3〜4は試験片が着火せず、発熱量も8.0MJ/mより低い値となり、国土交通省認定の不燃認定試験にクリアすることを示している(発熱量が8.0MJ/m以上で不燃認定試験にNGとなる)。しかし、比較例1は断熱層であるウレタンフォームに難燃処理がされていないため断熱層から着火し、不燃認定試験にクリアしないことを表しており、また実施例6は、着火せずかつ発熱量が8.0MJ/m以下であり、不燃認定試験にはクリアするが、20分過熱後の断熱層がわずかに崩れており、必ずしも満足できるものでないことを示している。
【0051】
不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクトとしては、断熱層にホウ酸系の難燃剤を用いた断熱材を使用することが効果的であることを表している。ホウ酸系薬剤は加熱時にガラス層を形成し、このガラス層の形成が過熱後の断熱層の形状を保持する。また、芯材に添加されている水酸化マグネシウムは過熱時に吸熱反応を起こす。本発明の不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクトは、断熱層のガラス層の形成と、芯材の吸熱反応との連鎖反応によりダクトの燃焼を効果的に抑制することができる。
【0052】
表2は、実際に施工現場にて不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクトを使用し、素早く容易に切断できるかについて判断した結果と、不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクトを直管状に設置し、風量発生器でダクト内部に風の流れを発生させて測定長における静圧の差を測定して、その時の風量と差圧から直管部管摩擦抵抗係数を算出した結果を表している。
【0053】
実施例1〜6、比較例1は補強芯材に熱可塑性硬質樹脂や、熱可塑性硬質樹脂をベースに難燃剤を配合したものを使用しているため、現場でのダクト切断作業性に優れているが、比較例2は補強芯材に金属を使用しているためダクト切断作業性に劣り、さらに断熱層にグラスウールを使用していることから、カット時にグラスウールが飛散し、作業の安全衛生面に劣ることを表している。
【0054】
また、実施例1〜6、比較例1はダクト内部が平滑なため、直管部管摩擦抵抗係数が比較的低い数値となっているが、比較例2は金属芯材を使用しているためダクト内部が平滑でなく、直管部管摩擦抵抗係数が高い数値となっている。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の断熱樹脂ダクトの一例の一部断面を含む側面図
【図2】本発明のダクト内管の一例を示す一部断面を含む側面図
【符号の説明】
【0056】
1:断熱層
2:気密用シート
3:内管不織布
4:補強芯材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布からなる肉部と熱可塑性硬質樹脂からなるリング状または螺旋状の芯材からなる内管、その上に断熱層が積層され、さらにその上に気密層が積層されている空調用フレキシブルダクトにおいて、該断熱層として、難燃処理された樹脂発泡層または、難燃処理された熱可塑性繊維層が用いられていることを特徴とする不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクト。
【請求項2】
内管の不織布として、難燃処理が施された不織布が使用されている請求項1に記載の不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクト。
【請求項3】
気密層が、金属箔をラミネートしたガラス繊維織物または難燃樹脂フィルムである請求項1または2に記載の不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクト。
【請求項4】
断熱層に付与されている難燃剤がホウ酸系の難燃剤である請求項1〜3のいずれかに記載の不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクト。
【請求項5】
内管を構成する不織布にホウ酸系の難燃剤が含浸されている請求項1〜4のいずれかに記載の不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクト。
【請求項6】
芯材が、水酸化アルミニウムあるいは水酸化マグネシウム含有熱可塑性樹脂からなる請求項1〜5のいずれかに記載の不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクト。
【請求項7】
芯材に用いられている難燃剤が水酸化アルミニウムあるいは水酸化マグネシウムであり、断熱層に用いられている難燃剤がホウ酸系の難燃剤である請求項1〜6のいずれかに記載の不燃性または難燃性の断熱樹脂ダクト。

【図1】
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【図2】
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