説明

不燃性溶媒によるタンパク質−リポ多糖類複合体からのリポ多糖類の除去

グラム陰性細菌からの組み換えタンパク質産生中に、目的のタンパク質とともにリポ多糖類(LPS、エンドトキシン)が放出される。多くの例において、特異的又は非特異的タンパク質−ILPS相互作用により、LPSは、目的とするタンパク質とともに精製される。発明者らは、アルカンジオールの、本複合体を陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー媒体に固定すると同時に、タンパク質−LPS複合体からLPSを分離する能力について調べた。アルカンジオールは、毒性がより低く、燃焼性が低いため、アルコール又はアセトニトリルなどの他の有機物の使用に対するより安全な代替物を提供する。さらに、それらは、このような目的で使用されてきた多くの洗剤よりもコスト面で安価である。LPS除去効率は、アルカン鎖が長くなるにつれて高くなった。1,2−アルカンジオールは、タンパク質LPS複合体からのLPS分離において末端アルカンジオールよりも効果が高かった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、全体として、タンパク質−リポ多糖類複合体からのリポ多糖類(LPS)の除去に関する。
【背景技術】
【0002】
リポ多糖類(LPS)は、グラム陰性細菌の外膜の主要成分である。LPSのエンドトキシン成分は、リピドA部分である。これは、6個以下のアシル鎖で置換されている1,6−結合D−グルコサミン残基及びさらなる多糖繰り返し単位が結合され得るコア多糖構造を含有する。エンドトキシンは、低用量では生来の免疫系の強力なアクチベーターであるが、同時に、高用量では、エンドトキシンは、敗血性ショックや死亡を含む多くの他の生理反応を誘発する(Heineら、2001)。
【0003】
従って、治療薬へのエンドトキシンの混入は、このような製品の製造者にとって最も関心のある事柄である。
【0004】
グラム陰性細菌である大腸菌(Escherichia coli)から多くの組み換えタンパク質が産生される。これらの組み換えタンパク質からのLPSの除去は複雑であるが、特に、そのタンパク質が治療に使用されるものである場合、不可欠な方法であり得る。エンドトキシン分子のユニークな分子特性に基づいてタンパク質からLPSを除去するための多くの様々な方法が開発されてきた。これらの方法には、LPSアフィニティーレジン、2相抽出、限外濾過、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー及び膜吸着体(Petsch及びAnspach,2000により概説されている。)が含まれる。これらの方法では、タンパク質からのLPSの分離の成功の度合いにばらつきがあり、そのばらつきの大部分は、目的とするタンパク質の特性に依存する。
【0005】
多くの場合、組み換えタンパク質生成中、タンパク質−LPS相互作用によりタンパク質からのLPSの分離が困難になる。例えば(これに限定するものではないが)、E.コリ発現系から産生される組み換えタンパク質において、である。既報の、タンパク質からLPSを分離するための方法のいくつかは、変性疎水性相互作用クロマトグラフィー(Wilsonら、2001)、そのタンパク質をイオン交換クロマトグラフィー媒体に固定すると同時にエタノール、イソプロパノール(Frankenら、2000)又は洗剤(Fiskeら、2001)洗浄を行うことを含め(これに限定される必要はない。)、研究されてきた。
【0006】
いくつかの実験から、イオン交換クロマトグラフィー中のアルコール及び洗剤洗浄が、LPS結合タンパク質レベルの低下に効果的であり、一方、変性HIC法ではタンパク質からのLPSの分離度が低いことが示されている。洗剤(Zwittergent(両性洗浄剤)3−12又は3−14)は、前記アルコールよりも効果的な洗浄剤であることが示された。陰イオン交換レジンとは対照的に、LPS−タンパク質複合体が陽イオン交換レジンに結合させた場合も、LPSのクリアランスが向上したが、LPS除去のために使用した洗浄方法は両方のマトリクスに効果的であった。この洗浄法を陽イオン交換体で行った場合、LPS−タンパク質相互作用が崩れた時点で、タンパク質を保持しながらそのLPSをそのカラムから洗い去ることになろう。陰イオン交換クロマトグラフィーの場合、ほとんどのpHで負に荷電しているLPSは、タンパク質とともにレジンに結合したままである。そのアルコール及び洗剤洗浄がLPS−タンパク質複合体におけるLPSレベル低下の面で功を奏するものであったとしても、製造環境においてこれらの方法のいずれかを大規模にし、導入することは現実的とは言えない。効率的にLPS結合タンパク質のLPSレベルを低下させるのに必要なエタノール及びイソプロパノール濃度は、50%(v/v)を超えるものであった。これらの濃度において、これらの溶液は可燃性液体であり、多くの安全性及び操作上の規制が課せられると思われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
LPSレベル低下に非常に効果的であったとしても、洗剤は比較的高価であり、製造方法に莫大なコストを付加し、目的のタンパク質の生物活性に影響を与え得る。従って、クロマトグラフィーユニット操作中のタンパク質からのLPSの分離のための洗浄剤としてのアルコール及び洗剤に代わり、安全かつ費用効果的に使用できる代替物となる化学物質が必要とされている。理想的には、これらの化学物質は、比較的安価で、明確に化学的で、安全性の問題が最小限であり、方法に導入した場合、目的とするタンパク質の生物活性にできる限り影響を与えないものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は、全体として、アルカンジオールの、タンパク質からのリポ多糖類(LPS)又は他のエンドトキシン分離能に関する。ある実施形態において、アルカンジオールは、LPS−タンパク質複合体からLPSを分離することができる。従って、本発明の実施形態は、全体として、LPS−タンパク質複合体からLPSを分離するための、アルカンジオール用いる方法に関する。さらなる実施形態において、本複合体は、レジンに固定化され、そこからLPSが分離される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書中で使用される場合、「アルカンジオール」という用語は、一般式 C2n(OH)を有する非芳香族飽和炭化水素を意味し、指す。
【0010】
本明細書中で使用される場合、タンパク質−LPS複合体及びLPS−タンパク質複合体という用語は、同義的である。このタンパク質−LPS複合体は、例えば(限定的なものではないが)、分子内力/分子間力によるような緩い会合、又は結合であり得る。
【0011】
一般に、本発明の実施形態は、タンパク質−リポ多糖類(又は他のエンドトキシン含有物質)複合体からリポ多糖類又はエンドトキシンを分離するための方法に関する。ある実施形態において、タンパク質−リポ多糖類複合体からリポ多糖類を分離する方法には、タンパク質−LPS複合体をアルカンジオール含有溶液で洗浄し、それによりそのLPSの少なくとも一部がそのタンパク質から除去及び/又は分離される段階が含まれる。
【0012】
ある実施形態において、このLPS−タンパク質複合体(又は他のエンドトキシン複合体)は、組み換えタンパク質などの(これには限定されない。)タンパク質産生中に生成及び/又は形成される。
【0013】
本発明の実施形態は、あらゆるタンパク質を使用し得る。様々な例には、これらに限定されないが、ウシアルブミン(BSA)、ウシホロトランスフェリン、ウシ乳由来のラクトフェリン、ニワトリ卵白由来のリゾチーム、熱ショックタンパク質、熱ショック融合タンパク質などが含まれる。様々なタンパク質は、単純又は複合、小型又は大型であり得る。
【0014】
組み換えタンパク質産生のために、様々な方法及び/又は発現系が使用され得る。組み換えタンパク質産生のために、あらゆる発現系が使用され得る。ある実施形態において、発現系は細菌性である。このような実施形態において、E.コリ発現系のようなグラム陰性細菌発現系が使用され得る。しかし、例えば(これらに限定されないが)、カウロバクター・クレセント(Caulobacter crescent)及びプロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)など、他のタイプの細菌性の系もまた使用され得る。
【0015】
一般に、エンドトキシンを含有するあらゆる系で、タンパク質からエンドトキシンを分離するために、本発明の実施形態を使用することができる。例えば、ある実施形態において、エンドトキシンは、タンパク質を含有する系の混入物である。いくつかの例において、エンドトキシンが原料中又は加工中の混入物として見出され得ることは、本分野で周知である。このようなエンドトキシンは、本発明の様々な実施形態により除去及び/又は分離することができる。
【0016】
本発明の様々な実施形態とともに、あらゆるアルカンジオールが使用され得る。適切な非限定例には、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール及び1,7−ヘプタンジオールが含まれる。ある実施形態において、本発明のアルカンジオールは、長鎖アルカンジオールである。アルカンジオールは、全て不燃性化合物であるため、アセトニトリル、エタノール及びメタノールなどの一般的に使用される溶離剤と比較して安全性に優れている。さらに、アルカンジオールは、水溶性であり、多数のプロセスに対して法外な費用がかかることはない。
【0017】
他の実施形態において、タンパク質−LPS複合体の分離を補助及び/又は促進するために、様々な方法が利用される。これらの実施形態の様々な例において、このタンパク質−LPS複合体は、基質に接着している。接着の様々な方法には、基質に対する、保持、誘引、結合、塗布、固定及び/又は除去可能な付着が含まれる。タンパク質又はLPSのいずれかが接着され得る。ある実施形態において、LPS−タンパク質複合体は、レジンに結合又は固定される。適切なレジンの種類には、これらに限定されないが、SPセファロースファストフローレジン(SPSFFレジン)など、アフィニティーレジン、陰イオン交換レジン、陽イオン交換レジンなどが含まれる。しかし、レジンの選択は、本分野において日常的な技術であり、方法の特定の必要性を満たすように行い得る。
【0018】
ある実施形態において、LPS−タンパク質複合体は、タンパク質がカラムのレジンに結合する条件下で陰イオン交換レジンに結合させられる。次に、アルカンジオール洗浄溶液をカラムに添加し、それによりそのLPS−タンパク質複合体からそのLPSの少なくとも一部が分離され、そして、アルカンジオールで、又はアルカンジオールについて溶出を行う。ある実施形態において、そのLPSの50%を超える部分がLPS−タンパク質複合体から分離される。ある代替的実施形態において、そのLPSの75%を超える部分がLPS−タンパク質複合体から分離される。別の実施形態において、そのLPSの80%を超える部分がLPS−タンパク質複合体から分離される。さらに別の実施形態において、そのLPSの85%を超える部分がLPS−タンパク質複合体から分離される。ある代替的実施形態において、そのLPSの90%を超える部分がLPS−タンパク質複合体から分離される。別の実施形態において、そのLPSの95%を超える部分がLPS−タンパク質複合体から分離される。別の実施形態において、そのLPSの97%を超える部分がLPS−タンパク質複合体から分離される。別の実施形態において、そのLPSの99%を超える部分がLPS−タンパク質複合体から分離される。別の実施形態において、そのLPSの99.9%を超える部分がLPS−タンパク質複合体から分離される。ある実施形態において、LPSを分離及び/又は除去した後、タンパク質をレジンから溶出することができる。本分野で一般的であり、そのレジンに対して適切な方法により、タンパク質が溶出され得る。ある例において、イオン交換体に対して、pHの変化及び/又はコンダクティビティーの上昇を使用してタンパク質を溶出することができる。
【0019】
ある実施形態において、そのレジンから溶出されるタンパク質の50%がLPS又は他のエンドトキシンがない状態である。ある代替的実施形態において、レジンから溶出されるタンパク質の75%が、LPS又は他のエンドトキシンがない状態である。ある代替的実施形態において、レジンから溶出されるタンパク質の80%が、LPS又は他のエンドトキシンがない状態である。ある代替的実施形態において、レジンから溶出されるタンパク質の85%が、LPS又は他のエンドトキシンがない状態である。ある代替的実施形態において、レジンから溶出されるタンパク質の90%が、LPS又は他のエンドトキシンがない状態である。ある代替的実施形態において、レジンから溶出されるタンパク質の95%が、LPS又は他のエンドトキシンがない状態である。ある代替的実施形態において、レジンから溶出されるタンパク質の97%が、LPS又は他のエンドトキシンがない状態である。ある代替的実施形態において、レジンから溶出されるタンパク質の99%が、LPS又は他のエンドトキシンがない状態である。ある代替的実施形態において、レジンから溶出されるタンパク質の99.9%が、LPS又は他のエンドトキシンがない状態である。
【0020】
様々な実施形態において、レジンからタンパク質を除去/分離するために別の洗浄法が利用される。代替的な実施形態において、レジンからタンパク質が遅れて溶出されるというだけであるように、タンパク質は洗浄なしで溶出され、それにより、タンパク質からLPSが分離される。分離の度合いは、使用するレジンに依存して様々であり得る。同様に、LPS又はタンパク質成分が他方の成分と異なる時間に溶出されるというように、LPS−タンパク質複合体の溶出プロファイルを変化させるようにレジンを構築することができる。
【0021】
従って、本発明の様々な実施形態には、
リポ多糖類(LPS)−タンパク質複合体を含む組み換え産生タンパク質をイオン交換レジンに固定化する段階と;
前記レジンをアルカンジオールで洗浄し、それにより前記LPSの少なくとも一部が前記複合体から分離される段階と;
前記レジンから前記タンパク質の少なくとも一部を溶出する段階と、
を含む、リポ多糖類(LPS)−タンパク質複合体を含む組み換え産生タンパク質からエンドトキシンを除去するための方法、のような方法が含まれる。
【0022】
代替的な実施形態において、LPSはレジンに付着させられ、タンパク質が最初に溶出される。
【0023】
さらなる実施形態において、本発明は、アルカンジオールでリポ多糖類(LPS)−タンパク質複合体を洗浄することを含む、リポ多糖類(LPS)−タンパク質複合体を分解するための方法を含む。
【0024】
またさらなる実施形態において、本発明は、レジンをアルカンジオールで洗浄する段階を含む、レジンにおけるタンパク質の保持時間を延長させるための方法を含む。そのような実施形態の例において、LPSを除去するために1,2−ヘキサンジオールなどのヘキサンジオールで洗浄した後、レジンにおける塩濃度を上げることにより、タンパク質が溶出されなくなる。このような実施形態は、高塩濃度環境に対して有用であり、及び、タンパク質に対するレジンの選択性を変更させたいと考え得る場合に有用である。
【0025】
従って、本発明の実施形態はさらに、
タンパク質−LPS複合体をイオン交換レジンに固定する段階と、
該レジンを1,2−ヘキサンジオールで洗浄し、それによりエンドトキシンの少なくとも一部が前記複合体から分離される段階と、
pHを変化させることにより前記レジンから前記タンパク質の少なくとも一部を溶出する段階と、
を含む、高塩濃度、高コンダクティビティー環境においてタンパク質−LPS複合体からLPSを分離する方法を含む。このタイプの好ましい実施形態において、アルカンジオール濃度は、約5%を超える。しかし、あらゆる濃度を使用し得る。
【0026】
本発明をその具体的な実施形態と関連させて説明してきたが、更なる改変が可能であり、添付の請求項が、一般的に、本発明の原理に従い、本発明が属する技術分野の範囲内にある既知の、もしくは慣習的な実施を超えないような、かつ、現存するもの又は後に生じるもののいずれであれ、上文に述べた本質的な特徴に対して適用され得るような、本発明の開示からの逸脱を含む、あらゆる変形、使用又は適用を包含することを意図していることを理解されたい。さらに、本発明の実施形態は、具体的な規格特性及び/又は寸法とともに説明してきたが、本実施形態が、本発明の原則から逸脱することなく、異なる規格特性及び/又は寸法が可能であり、添付の請求項が、このような違いを網羅するものであることを理解されたい。さらに、本明細書中で言及する特許は全て、参考として本明細書中で援用する。
【0027】
本発明の様々な実施形態のさらなる理解のために、次の実施例を参照されたい。
【0028】
実施例及び実験
材料
ウシアルブミン(BSA)、ウシホロトランスフェリン、ウシ乳由来ラクトフェリン、ニワトリ卵白由来リゾチーム、大腸菌(Escherichia coli)血清型O55:B5由来のリポ多糖類及びBSTFAは、Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO)から購入した。酢酸、Tris(塩基)、水酸化ナトリウム(NaOH)、塩酸、塩化ナトリウム(NaCl)、エタノール、イソプロパノール、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及びリン酸水素2ナトリウム7水和物は、J.T.Baker Chemical Co.(Phillipsburg,NJ)から購入した。1,6−ヘキサンジオールは、BASF Co.(Mount Olive,NJ)から購入した。1,2−ヘキサンジオール、1,2−ブタンジオール及びZwittergent(両性洗浄剤)3−14(Zw3−14)は、Fluka(Milwaukee,WI)から購入した。1,4−ブタンジオール及びエチレングリコールは、Aldrich(Milwaukee,WI)から購入した。リン酸緩衝食塩水(PBS)、10xは、Bio−Rad Laboratories,Inc.(Hercules,CA)から購入した。Escherichia coli(大腸菌)BODIPY(R)FL共役リポ多糖類、血清型O55:B5(BODIPY−LPS)及びEnzChekリゾチームアッセイキットは、Molecular Probes,Inc.(Eugene,OR)から購入した。Pyrosol、Limulus Amebocyte Lysate(LAL)Pyrotell−T、LAL試薬水(LRW)及びE.コリ O113:H10(CSE)由来の対照標準エンドトキシンは、Associates of Cape Cod,Inc.(Falmouth,MA)から入手した。SPセファロースファストフロー(SPFF)レジン、Qセファロースファストフロー(QFF)レジン及びHR10/10カラムは、Amersham Biosciences(Piscataway,NJ)より得た。透明なポリスチレン96ウェルマイクロタイタープレートは、Associates of Cape Cod,Inc.(Falmouth,MA)から入手し、黒色の96ウェルマイクロタイタープレートは、NUNC(Rochester,NY)から入手した。β−ヒドロキシテトラデカン酸、β−ヒドロキシトリデカン酸、β−ヒドロキシウンデカン酸、β−ヒドロキシトリデカノエート、β−ヒドロキシテトラデカノエート及びβ−ヒドロキシウンデカノエートは、Matreya,Inc.(Pleasant Gap,PA)から購入した。ヘプタンは、Spectrum(New Brunswick,NJ)から購入した。
【0029】
方法
粘性測定
粘性測定のために、ULA−Yアダプターを備えたBrookfield Model 1 LVT Viscometer(Middleboro,MA)を使用した。測定は全て、20℃にて行った。
【0030】
LPS−タンパク質複合体形成
10mg/mlから11mg/mlの最終濃度になるように、カラム平衡化緩衝液中でタンパク質保存溶液を調製した。1mg/mlの最終濃度になるように、Milli−Q水中でLPS O55:B5保存溶液を調製し、PBS又はカラム平衡化緩衝液中で、BODIPY−LPS保存溶液を調製した。これは、10,000DaのO55:B5LPSの分子量に基づくと、およそ100μM 最終濃度である。
【0031】
1部のLPS溶液を9部のタンパク質溶液(v/v)に、ポリプロピレン試験管へ添加することにより、LPS−タンパク質複合体を形成させた。その試験管をボルテックスにかけ、アルミ箔で包み、次に、BSA及びトランスフェリンの場合は室温にて16時間から72時間、又は、ラクトフェリンの場合は、37℃にて少なくとも4時間、インキュベーションを行った。
【0032】
LAL及びBODIPY分析
BODIPY−LPS蛍光マイクロプレートアッセイのために、Molecular Devices Co.(Sunnyvale,CA)からのSpectraMax Gemini XSマイクロプレート蛍光分光光度計を使用し、LALカイネティック比濁法(KTA)のために、SpectraMax 190マイクロプレート蛍光分光光度計(Molecular Devices)を使用した。標準物質は、3重測定で分析し、試料は、2重又は3重測定で分析した。その結果をプロットし、SOFTmax PROソフトウェア バージョン3.1.1(Molecular Devices)で解析した。
【0033】
A.BODIPY−LPSアッセイ
0.81μMから0.03μMのBODIPY−LPS保存溶液の3段階連続希釈液を調製した。BODIPY−LPSアッセイの分析方法は、次のように、Yu及びWright(1996)により用いられたアッセイを改変したものであった。黒色のマイクロタイタープレートの各ウェルに、Milli−Q水中で調製した15% SDS 20μl、続いて、試料又は標準物質 180μlを添加した。そのプレートを37℃にて10秒間振盪し、蛍光モードですぐに読み取った。BODIPY−LPSに対して、最適の励起(490nm)、発光(525nm)及びカットオフ波長(515nm)を測定した。BODIPY−LPSに対するアッセイは、0.01μM(18ng)未満の/LOQ値の検出限界及び0.03μM(54ng)の定量限界で、0.03μMから0.81μM(54ngから1458ng)の直線的範囲を示した。
【0034】
B.LALカイネティック比濁法(KTA)
必要に応じて、試料のpHをPyrosolで6から8に調整した。CSE及びPyrotell−TをLRWで再構成した。CSEの直線は、0.03EU/mlから1.00EU/mlであった。LAL KTAの分析方法は次の通りであった。透明なポリスチレンマイクロタイタープレートの各ウェルに、試料又は標準物質 100μl及びPyrotell−T 100μlを添加した。スパイク試料に対して、2.00EU/ml CSE 5μlを添加し、0.10EU/ml CSEレベルにした。そのプレートを10秒間振盪し、37℃にて1時間、405nmにて、カイネティックモードで、1分ごとにデータを回収した。
【0035】
C.ガスクロマトグラフィーによるLPS分析
ガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリー(GCMS)による試料中に存在するLPSの相対的レベルに関する定量的分析は、Mielmczulら(1992)による方法に基づいており、Agilent(FosterCity,CA)からの、5973質量選択検出器とともに6890ガスクロマトグラフを利用した。使用したカラムは、J&W Scientific(FosterCity,CA)からのDB−5MSカラム(30cmx0.25mm i.d.x0.25μmフィルム厚)であった。サロゲート化合物及び標的化合物に対する直線は、1.6pg/μlから100pg/μlの範囲であり、内部標準は、50pg/μlで一定に維持した。簡潔に述べると、試料調製及びGCMS分析方法は、次のとおりであった。試料及びサロゲート物質であるβ−ヒドロキシトリデカン酸の既知量を5mlの硝子製の反応バイアルに添加した。水性試料を6N HCl中、90℃から100℃にて一晩加水分解し、LPSからβ−ヒドロキシテトラデカン酸を遊離させた。ヘプタンを用いてその脂肪酸を加水分解物から2回抽出し、次に窒素下で乾燥させた。80℃から90℃にて、3N メタノールHCl中で30分間インキュベーションすることによりその脂肪酸をメチル化した。水を添加して反応を停止させ、次に、ヘプタンを用いてそのメチルエステルを2回抽出した。次にそのメチルエステルを窒素下で乾燥させた。BSTFA/ピリジン(2:1、v/v)を添加し、窒素下で最後に乾燥させる前に、15分から20分間、80℃から90℃にてインキュベーションすることにより、そのメチルエステルを誘導体化した。ヘプタン中で調製した50pg/μlの内部標準、メチル−3−トリメチルシリル−ウンデカン酸中で、試料を再構成した。標準物質及び試料をスプリットレスモードにおいて、1μl注入体積で注入した。最初のオーブン温度を90℃にて4分間保持し、次に、1分あたり20℃の割合で250℃まで変化させ、続いて、1分当たり10℃の割合で300℃まで変化させた。マススペクトロメーターは、EMオフセット電圧を500、溶媒遅延を5.2分に設定した。イオン175及び273においてメチル−3−TMS−ウンデカノエートを、11.0分及びイオン175及び301においてメチル−3−TMS−トリデカノエートを、11.7分及びイオン175及び315でメチル−3−TMS−テトラデカノエートをモニターするために選択的イオンモニタリングを使用した。MSD Productivityソフトウェアに対してChemstationを用いてクロマトグラムを作成した。
【0036】
リゾチームアッセイ
製造者の使用説明書に従い、EnzChekリゾチームアッセイキットを用いて、リゾチーム活性を測定した。
【0037】
クロマトグラフィー
クロマトグラフィーは全て、グラディエントポンプ(P−900)、500μl又は2000μl注入ループ、可変波長検出器(UV−900)及びpHならびにコンダクティビティーモニター(pH/C−900)を備えたAKTA explorer 100 FPLCシステム(Amersham Biosciences)で行った。クロマトグラフィー実験は全て、室温にて、200cm/hrから300cm/hrの流速で行った。アルカンジオール洗浄中に、アルカンジオール溶液の粘性が高まることによるシステムの背圧上昇を最小限にするために、流速を150cm/hrから200cm/hrに減速した。Unicornソフトウェア バージョン3.21又は4.0を用いてクロマトグラムを作成した。レジンは、1cm直径のカラム中に、7cmから11cmの層高でパックされていた。各クロマトグラフィーを行う前に、0.5N NaOHで60分から120分間、又は0.1N NaOHで16時間超のいずれかで、AKTA及びカラムを浄化した。次に、適切な緩衝液でシステムを平衡化する直前にカラム及びAKTAをMilli−Q水でリンスした。
【0038】
平衡化緩衝液と同じ化学成分及びpHを有するv/v溶液として、アルカンジオール、エタノール及びイソプロパノールを調製し、同時に、1,6−ヘキサンジオール及びZwittergent(両性洗浄剤)3−14をw/v溶液として調製した。
【0039】
D.陽イオン交換クロマトグラフィー
トランスフェリンに対して、SPセファロースファストフローカラムに100mM アセテート、1M NaCl、pH5を加え、100mM アセテート、pH5で平衡化した。添加後、平衡化緩衝液でレジンを洗浄し、次に、50mM リン酸ナトリウム、1M NaCl、pH7.5で溶出した。有機又は洗剤洗浄を行う場合は、最初の洗浄ステップ後に添加し、特に指定のない限り、6CVとした。この洗浄に続いて、有機又は洗剤を除去するために溶出前に平衡化緩衝液で第二の洗浄を行った。
【0040】
BSAに対するクロマトグラフィーは、全てのクロマトグラフィー緩衝液のpHが4.5であったことを除き、トランスフェリンに対するものと同じであった。1,2−ヘキサンジオールを洗浄剤として用いる場合、溶出は、50mM リン酸ナトリウム、1M NaCl、pH7.5に変更した。
【0041】
ラクトフェリンクロマトグラフィーは、レジンに1M 塩化ナトリウム、20mM リン酸ナトリウム、pH7.5を加え、20mM リン酸ナトリウム、pH7.5中で平衡化し、1M 塩化ナトリウム、20mM リン酸ナトリウム、pH7.5で溶出したことを除き、トランスフェリンと同様であった。
【0042】
リゾチームに対するクロマトグラフィーは、レジンに1M NaCl、20mM Tris、pH8.0を加え、50mM Tris、pH8.0中で平衡化し、1M NaCl、20mM Tris、pH8.0で溶出したことを除き、トランスフェリンの場合と同様であった。
【0043】
E.陰イオン交換クロマトグラフィー
BSAに対して、Qセファロースファストフローカラムに、50mM Tris、1M NaCl、pH8.0を加え、50mM Tris,pH8.0で溶出した。添加後、レジンを平衡化緩衝液で洗浄した。25mM アセテート、pH4.5でBSAを溶出し、LPSを25mM アセテート、1mM NaCl、pH4.5で溶出した。アルカンジオール洗浄を行った場合は、最初の洗浄ステップ後にそれを行い、6CVとした。この洗浄に続き、アルカンジオールを除去するために平衡化緩衝液で第二の洗浄を行った。
【0044】
結果及び考察
表Iは、この研究で使用したタンパク質の分子量及び等電点をまとめたものである。BSA、トランスフェリン及びラクトフェリンは全て、LPSとの結合を示した(Dzarski、1994;Berger及びBeger,1987;及びAppelmelkら、1994)。酵素活性における洗浄剤の影響を評価するためにリゾチームを使用した。
【0045】
表I この研究で使用したタンパク質の分子量及び等電点
【0046】
【表1】

【0047】
表IIは、この研究で使用したアルカンジオールのいくつかの生理学的特性をまとめたものである。比較を行うために、他の方法において(Frankenら、2000)LPS除去のために用いられてきたエタノール及びイソプロパノールも含まれている。
【0048】
表II この実験で用いたアルカンジオールの生理学的特性
【0049】
【表2】

【0050】
有機物及び洗剤によるLPS−タンパク質複合体の分離
LPS及びLPS−タンパク質複合体のSPセファロースファストフロークロマトグラフィー
選択したカラム分画のLAL−KTA分析により、SPセファロースファストフローレジンにおけるLPS単独及びLPS−BSA複合体のLPS溶出プロファイルを調べた(表III)。LPSをそれのみでクロマトグラフィーに供した場合、予想通り、洗浄−非結合分画において最初にLPSが検出された。LPS−BSA複合体のクロマトグラフィーの結果、BSA溶出液分画において、LPSの大部分が検出され、これにより、BSAのLPS結合特性(Dziarski、1994)が確認され、BSA−LPS複合体が、用いた陽イオン交換クロマトグラフィー条件下で安定であることが示された。
【0051】
表III LPS及びLPS−BSAのSPFFクロマトグラフィー溶出プロファイル
SPセファロースファストフローを用いて、LPS及びLPS−BSA複合体をクロマトグラフィーに供した。前記方法で述べたようにしてLAL KTAにより、LPSについてカラム分画を分析した。
【0052】
【表3】

【0053】
LAL KTAは、カラム分画におけるLPSの分布を調べるために使用するには困難であり高コストのアッセイである。カラム分画をモニターするために、LPSに対する蛍光を利用したアッセイが開発された。このアッセイでは、非標識LPSの代わりに、蛍光性のタグを付加したLPS、BODIPY−LPSを用いており、それにより、蛍光分光法を用いてカラム溶出液の分析を迅速に行うことができる。BODIPY−LPS共役物におけるBODIPYマーカーの蛍光は、LPSがそれ自身又はタンパク質と複合体を形成すると消えることが明らかになっている。試料へSDSを添加すると、LPS−LPS又はLPS−タンパク質複合体が解消され、その結果、蛍光が増強する(Yu及びWright、1996)。クロマトグラフィー分画におけるBODIPY−LPSの迅速かつ定量的な分析を可能にするマイクロタイタープレートを用いたアッセイとして、このアッセイが開発された。
【0054】
BODIPYマーカーがBSA−LPS複合体形成を妨害するか、又は陽イオン交換クロマトグラフィー中に異なる挙動を示すかを調べるために、BODIPY−LPS及びBODIPY−LPS−タンパク質複合体を用いて複合体先行分析を繰り返した。BODIPY−LPS及びBODIPY−LPS−タンパク質複合体の溶出プロファイルは、上記のLPS及びLPS−BSAの溶出プロファイルと同様であった(表IV)。これにより、BODIPYマーカーがBSA又はトランスフェリンのLPSとの結合能を妨害しないこと、及び、BODIPY基がLPSのクロマトグラフィープロファイルを変化させないことが示された。図1は、BODIPY−LPS(A)及びBODIPY−LPS−トランスフェリン複合体(B)に対する典型的なSPセファロースファストフロープロファイルを示す。
【0055】
表IV BODIPY−LPS及びBODIPY−LPS−タンパク質のSPFFクロマトグラフィー溶出プロファイル
BODIPY−LPS及びBODIPY−LPS−タンパク質複合体をSPセファロースファストフローを用いてクロマトグラフィーに供した。前記方法で述べたようにして、BODIPYアッセイにより、BODIPY−LPSについて、カラム分画を分析した。
【0056】
【表4】

【0057】
SPセファロースファストフロークロマトグラフィー中の、アルカンジオールによる、LPS−タンパク質複合体からのLPSの減少
最初の実験において、50% 1,6−ヘキサンジオール洗浄段階が陽イオン交換クロマトグラフィー中にBSAと複合体形成しているBODIPY−LPSの量を減少させる可能性について調べた。1,6−ヘキサンジオールを用いた3カラム体積(CV)洗浄により、BSAと複合体形成しているBODIPY−LPSの量が約21%減少した。3CVから6CVに1,6−ヘキサンジオール洗浄段階の長さを延長することにより、BSA複合体からのBODIPY−LPSの除去が約49%まで促進された。1,6−ヘキサンジオール洗浄段階をさらに3CV増加させて9CVにすることにより、BODIPY−LPSの除去が促進された(51%)。さらなる実験は全て、6CV アルカンジオール洗浄段階を用いて行った。
【0058】
タンパク質がイオン性固形支持体に結合している際の、一連のアルカンジオールの、タンパク質からのLPS除去効果を、エタノール、イソプロパノール及びZwittergent(両性洗浄剤)3−14と比較したところ、LPS結合タンパク質からのLPSの除去において効果的であることが明らかとなった。SPセファロースファストフローカラムにBODIPY−LPS−トランスフェリン複合体を添加した。50% アルカンジオール溶液 6カラム体積でそのレジンを洗浄し、次に、溶出した。分画を回収し、BODIPY−LPSについて分析した(図2)。アルカンジオールの鎖長が4から6炭素に長くなると、アルカンジオール洗浄分画の蛍光が増強し、一方、溶出分画の蛍光が減弱した。これにより、アルカンジオールがトランスフェリン複合体からBODIPY−LPSを除去することが明らかになった。図3及び4は、トランスフェリン及びBSAそれぞれからのBODIPY−LPS除去におけるアルカンジオール構造の効果を説明する。BODIPY−LPS除去効率は、アルカンジオール鎖長が長くなるにつれて高くなり、1,2−アルカンジオール異性体は、BODIPY−LPSの除去において、末端アルカンジオールよりも効果的であった。1,2−ヘキサンジオールは、試験した化合物の中で最も高効率の化合物であり、洗剤及びアルコールよりも優れていた。1,2−ブタンジオール及び1,6−ヘキサンジオールならびに50% イソプロパノール及び75% エタノールは、トランスフェリンと会合しているBODIPY−LPSを同程度のレベルまで減少させた。アルカンジオールによるBODIPY−LPSの除去は、トランスフェリン及びBSA複合体の両方に対して同程度であった。
【0059】
図2に対する参照は、アルカンジオール洗浄を組み合わせた、SPセファロースファストフローにおける、BODIPY−LPS-トランスフェリン複合体のBODIPY−LPS溶出プロファイルを示す。
【0060】
図3は、アルカンジオールによる、SPセファロースファストフロー溶出液におけるBODIPY−LPS−トランスフェリン複合体からのBODIPY−LPSの減少を説明する。クロマトグラフィーは、図2において述べたものと同じである。0%減少は、アルカンジオール洗浄なしで行った対照に対応する。1、1,2−ヘキサンジオール;2、1% Zwitttergent(両性洗浄剤)3−14;3、1,6−ヘキサンジオール;4、エチレングリコール;及び5、1,4−ブタンジオール。BODIPY−LPS−トランスフェリン複合体を生成させ、SPセファロースファストフローカラムに添加し、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール又は1,2−ヘキサンジオールの50%溶液でそのレジンを洗浄した。アルカンジオールを除去するために洗浄した後、上記方法で述べるようにしてトランスフェリンを溶出した。実験間の浄化は、0.5N NaOHを用いて行った。
【0061】
図4は、アルカンジオールによる、SPセファロースファストフロー溶出におけるBODIPY−LPS−BSA複合体からのBODIPY−LPSの減少を説明する。クロマトグラフィーは、図2において述べたものと同じである。0%減少は、アルカンジオール洗浄なしで行った対照に対応する。1、1,2−ヘキサンジオール;2、1% Zwitttergent(両性洗浄剤)3−14;3、1,2−ブタンジオール;4、1,6−ヘキサンジオール;及び5、50% イソプロパノール;6、75% エタノール;7、1,4−ブタンジオール;及び8、エチレングリコール。
【0062】
洗浄に1,2−ヘキサンジオールを用いたトランスフェリンに対する実験中、1M NaClを含み、溶出緩衝液のpHがpH5に維持された場合は、トランスフェリンがレジンから溶出されなかったことが認められた。1,2−ヘキサンジオール濃度を10%に下げると、トランスフェリン保持の延長が観察された。5%の1,2−ヘキサンジオール濃度において、トランスフェリン保持は変化しなかった。ポリエチレングリコール及び他の中性重合体の存在下におけるイオン交換クロマトグラフィー中は、他のタンパク質に対して保持時間の変化が観察されている(Milbyら、1989及びGagnonら、1996)。タンパク質保持時間の変化は、ポリエチレングリコールの大きさ及び濃度、ならびにタンパク質そのものに依存した。一方、40%以下の濃度のエチレングリコールはタンパク質保持時間に影響を与えなかった(Taucら、1998)。これらの例において、研究対象の化合物がクロマトグラフィー緩衝液全てに含まれていることに留意されたい。1,2−ヘキサンジオールの場合は、洗浄緩衝液のみに含まれており、その後、タンパク質溶出前にさらなる洗浄段階により除去した。
【0063】
1,2−ヘキサンジオールは、トランスフェリン及びBSAの両方からBODIPY−LPSを除去することについて試験したものの中で最も効果的な化合物であったので、この除去に影響を与えるために必要な1,2−ヘキサンジオール洗浄の濃度依存性を調べた。5%、20%及び50% 1,2−ヘキサンジオールを含有する1,2−ヘキサンジオール洗浄後に、SPセファロースファストフローBSA溶出分画におけるBODIPY−LPSの減少を調べた。5% 1,2−ヘキサンジオール洗浄の結果、BSA会合BODIPY−LPSが約55%減少し、一方で、20%及び50% 1,2−ヘキサンジオール洗浄によるBODIPY−LPSの減少は、同程度であり、約96%であった。
【0064】
トランスフェリン及びBSAに加えて、蛍光BODIPYアッセイを用いて、1,6−ヘキサンジオールによるラクトフェリン複合体からのBODIPY−LPS除去もまた調べた。次に、GC−MSを用いたLPSマーカー化合物 3−OH−14:0脂肪酸に関する試料の分析により、その分析結果を確認した。表Vは、そのデータをまとめたものであり、クロマトグラフィーにおいて、アルカンジオール洗浄(この場合は1,6−ヘキサンジオールである。)がラクトフェリン溶出液中のBODIPY−LPSレベルを低下させる能力が再び示されている。BODIPY蛍光アッセイによりBODIPY−LPSのおよそ87%の減少が、GC−MSアッセイによりLPSマーカーにおいて91%の減少が観察された。
【0065】
表V BODIPY−LPS及びBODIPY−LPS−ラクトフェリン複合体のSPFFクロマトグラフィー溶出プロファイル
BODIPY−LPS−ラクトフェリン複合体を生成させ、SPセファロースファストフローカラムに添加した。上記方法で述べたように、1,6−ヘキサンジオールの50%溶液を含む実験に対して、ラクトフェリン溶出前に、1,6−ヘキサンジオールを除去するための洗浄を行った。前記方法において述べたように、BODIPY及び3−OH−14:0脂肪酸について、カラム分画をアッセイした。
【0066】
【表5】

【0067】
クロマトグラフィー実験中に、アルカンジオール洗浄を適用した際、システムの背圧の上昇が認められた。100mMアセテート、pH4.5中で調製した各有機溶液及びZwittergent(両性洗浄剤)溶液の粘性を測定した(図5)。アルカンジオールの粘性は、炭素鎖長とともに上昇し、一方、1,2−アルカンジオール異性体の粘性は、末端アルカンジオール異性体よりもわずかに低かった。アルカンジオール溶液の粘性が上昇することで、規模を大きくする際にいくつかの問題が起こり得る。カラム流速は、使用中の装置に対して適切なシステム圧を維持するように調整しなければならない場合がある。タンパク質−LPS複合体からLPSを除去するために低濃度のアルカンジオールを使用できるようにすることで、この問題はある程度解決するであろう。例えば、20%及び50%の1,2−ヘキサンジオール洗浄は、上述のように、BSA複合体に対してほぼ同レベルでBODIPY−LPSを効果的に減少させる。20% 1,2−ヘキサンジオールの粘性は、50% ヘキサンジオールの粘性が7.5Cpであるのに対し、2.6Cpであるというように、50% ヘキサンジオールの約3分の1である。
【0068】
Qセファロースファストフロークロマトグラフィー中のアルカンジオールによるLPS−タンパク質複合体からのLPSの減少
LPS−タンパク質複合体からのLPSの除去は、特に塩基性タンパク質に対して、陰イオン交換レジンにおいてより複雑である。陽イオン交換クロマトグラフィー中に、負に荷電しているLPSは、そのレジンの官能基に引き付けられず、アルカンジオール洗浄中にカラムから洗い流されるが、一方、その洗浄条件下でタンパク質は結合したままとなる。陰イオン交換クロマトグラフィー中では、LPS及びタンパク質は両方とも、そのレジンの官能基に保持される。従って、その複合体は、分解される必要があり、タンパク質とLPSが別々に溶出されねばならない。
【0069】
Qセファロースファストフローレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー中にBSA−LPS複合体のBODIPY−LPSレベルを減少させる1,6−ヘキサンジオール及び1,2−ヘキサンジオールの能力を調べた。ヘキサンジオールの2種類の異性体、1,2−及び1,6−は、陽イオン交換クロマトグラフィーにおいてタンパク質複合体からBODIPY−LPSレベルを減少させる上で最も効果的な化合物であったので、これらを選択した。
【0070】
1,2−ヘキサンジオール洗浄を適用した後の陰イオン交換レジンからのBSAの溶出を変化させて、陽イオン交換レジンにおいてトランスフェリンについて観察した。1,2−ヘキサンジオール洗浄後にBSAの溶出に影響を与えるために溶出緩衝液の塩濃度を高くした結果、遊離BODIPY−LPSがBSAとともに溶出された。pHに基づき代替的な溶出スキームを選択した。1,2−ヘキサンジオール洗浄が完了し、1,2−ヘキサンジオールの流出が起こった後、pH4.5でBSAを溶出した。この後、レジンをストリッピングし、それにより、1M NaClを含有するpH4.5緩衝液を用いて残留BODIPY−LPSを回収した。表VIは、BODIPY−LPS−BSA複合体からのBODIPY−LPSの除去に対する1,2−ヘキサンジオールの効果をまとめたものである。1,2−ヘキサンジオール洗浄を取り入れることで、BSA溶出液のBODIPY−LPSが約29%減少し、代わりに、1,2−ヘキサンジオール洗浄分画においてBODIPY−LPSが明らかに溶出された。
【0071】
表VI BODIPY−LPS及びBODIPY−LPS−BSA複合体のQFF溶出プロファイル
BODIPY−LPS及びBODIPY−LPS−BSA複合体をQ−セファロースファストフローを用いたクロマトグラフィーに供した。前記方法において述べたようにして、BODIPYアッセイにより、BODIPY−LPSについてカラム分画を分析した。
【0072】
【表6】

【0073】
酵素活性におけるアルカンジオールの影響
SPセファロースファストフロークロマトグラフィー中の、酵素活性に対する洗浄剤の影響及びそれによる洗浄剤の間接的な変性効果を調べるために、リゾチームを使用した。6CV %50 1,6−ヘキサンジオール洗浄もしくは1,2−ヘキサンジオール洗浄を行い、又は行わずに、リゾチームに対してクロマトグラフィーを行い、蛍光マイクロプレートリゾチーム活性アッセイを用いてリゾチーム活性についてカラム添加液及び溶出液をアッセイした。ヘキサンジオール洗浄は、リゾチーム活性に有害な影響を与えなかった。75% エタノール、50% イソプロパノール及び1% Zwittergent(両性洗浄剤)3−14洗浄もまたリゾチーム活性に影響を与えなかった。
【0074】
参考文献
1.Heine,H.,Rietschel,E.Th.,及びUlmer,A.J.,(2001)The biology of endotoxin.Mol.Biotechnol.19,279−296.
2.Petsch,D.,及びAnspach,F.B.,(2000)Endotoxin removal from protein solutions.J.Biotechnol.76,97−119.
3.Franken,K.L.M.C.,Hiemstra,H.S.,van Meijgaarden,K.E.,Subronto,Y.,den Hartigh,J.,Ottenhoff,T.H.M.,及びDrijfhout,J.W.(2000)Purification of His−tagged proteins by immobilized chelate affinity chromatography:The benefits from the use of organic solvents.Protein Expr.Purif 18,95−99.
4.Wilson,M.J.,Haggart,C.L.,Gallagher,S.P.,及びWalsh,D.(2001)Removal of tightly bound endotoxins from biological products.J.Biotechnol.88,67−75.
5.Fiske,M.J.,Fredenburg,R.A.,VanDerMeid,K.R.,McMichael,J.C.,及びArumugham,R.(2001)Method for reducing endotoxin in Moraxella catarrhalis UspA2 protein preparations.J.Chromatogr.B 753,269−278.
6.Hauser,T.A.,及びHayenga,K.J.(2002)Method for purification of molecules using unbranched terminal alkyldiols.World Intellectual Property Organization,International 公開番号WO02/074791 Al。
7.Fahrner,R.L.,Lester,P.M.,Blank,G.S.,及びReifsnyder,D.H.(1999)Non−flammable preparative reversed−phase liquid chromatography of recombinant human insulin−like growth factor−I.J.Chromatogr.A 830,127−134.
8.Fahrner,R.L.,及びReifsnyder,D.(2001)Purification of molecules.米国特許US第6,265,542 B1号。
9.Yu,B.,及びWright,S.D.(1996)Catalytic properties of lipopolysaccharide(LPS)binding protein:Transfer of LPS to soluble CD14.J.Biol.Chem.271,4100−4105.
10.Gagnon,P.,Godfrey,B.,及びLadd,D.(1996)Method for obtaining unique selectivities in ion−exchange chromatography by addition of organic polymers to the mobile phase.J.Chromatogr.A 743,51−55.
11.Mielniczuk,Z.,Alugupalli,S.,Mielmczuk,E.,及びLarsson,L.(1992)Gas chromatography−mass spectrometry of lipopolysaccharide 3−hydroxy fatty acids:comparison of pentafluorobenzoyl及びtrimethylsilyl methyl ester derivatives.J.Chromatogr.623,115−122.
12.Dziarski,R.(1994)Cell−bound albumin is the 70−kDa peptidoglycan−,lipopolysaccharide−,and lipoteichoic acid−binding protein on lymphocytes and macrophages.J.Biol.Chem.269,20431−20436.
13.Appelmelk,B.J.,An,Y.Q.,Geerts,M.,Thijs,B.G.,de Boer,H.A.,MacLaren,D.M.,de Graaff,J.及びNuijens,J.H.(1994)Lactoferrin is a lipid A−binding protein.Infect.Immun,62,2628−2632.
14.Berger,D.,及びBeger,H.G.(1987)Evidence for endotoxin binding capacity of human Gc−globulin and transferin.Clin.Chim.Acta 163,289−299.
15.Tauc,P.,Cochet,S.,Algiman,E.,Callebaut,I.,Cartron,J.−P.,Brochon,J.C.,及びBertrand,O.(1998)Ion−exchange chromatography of proteins:modulation of selectivity by addition of organic solvents to mobile phase.Application to single−step purification of a proteinase inhibitor from corn and study of the mechanism of selectivity modulation.J.Chromatogr.A 825,17−27.
16.Milby,K.H.,Ho,S.V.,及びHenis,J.M.S.(1989)Ion−exchange chromatography of proteins.The effect of neutral polymers in the mobile phase.J.Chromatogr.A 482,133−144.
[i]T.A.Hauser及びK.J.Hayenga,World Intellectual Property Organization,国際特許WO02/074791 Al (2002).
[ii]R.L.Fahrner,P.M.Lester,G.S.Blank,及びD.H.Reifsnyder,J.Chromatogr.A 830(1999)127−134.
[iii]R.L.Fahrner及びD.Reifsnyder 米国特許US第6,265,542 B1号(2000).
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1a】図1aは、BODIPY−LPSのSP セファロースファストフロー溶出プロファイルの説明図である。破線は、280nmのUVシグナルであり、実線は、相対蛍光単位(RFU)で表されたBODIPY蛍光に対応する。
【図1b】図1bは、BODIPY−LPS−トランスフェリン複合体のSPセファロースファストフロー溶出プロファイルの説明図である。破線は、280nmのUVシグナルであり、実線は、相対蛍光単位(RFU)で表されたBODIPY蛍光に対応する。
【図2】図2は、アルカンジオール洗浄を組み合わせた、SPセファロースファストフローにおけるBODIPY−LPS−トランスフェリン複合体のBODIPY−LPS−溶出プロファイルの説明図である。BODIPY−LPS−トランスフェリン複合体を生成させ、SPセファロースファストフローカラムに添加し、そのカラムを1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール又は1,2−ヘキサンジオールの50%溶液で洗浄した。
【図3】図3は、アルカンジオールによる、SPセファロースファストフロー溶出におけるBODIPY−LPS−トランスフェリン複合体からのBODIPY−LPSの減少の説明図である。0%減少は、アルカンジオール洗浄なしで行った対照に対応する。1、1,2−ヘキサンジオール;2、1% Zwitttergent(両性洗浄剤)3−14;3、1,6−ヘキサンジオール;4、エチレングリコール;及び5、1,4−ブタンジオール。
【図4】図4は、アルカンジオールによる、SPセファロースファストフロー溶出における、BODIPY−LPS−BSA複合体からのBODIPY−LPSの減少の説明図である。0%低下は、アルカンジオール洗浄なしで行った対照に対応する。1、1,2−ヘキサンジオール;2、1% Zwitttergent(両性洗浄剤)3−14;3、1,2−ブタンジオール;4、1,6−ヘキサンジオール;及び5、50% イソプロパノール;6、75% エタノール;7、1,4−ブタンジオール;及び8、エチレングリコール。
【図5】図5は、100mM アセテート、pH4.5中のアルカンジオール、イソプロパノール、エタノール及びZwitttergent(両性洗浄剤)溶液の粘性の説明図である。溶液は全て、100mM アセテート緩衝液、pH4.5で調製した。1、50% 1,6−ヘキサンジオール;2、50% 1,2−ヘキサンジオール;3、50% 1,4−ブタンジオール;4、50% 1,2−ブタンジオール;5、50% エチレングリコール;6、50% イソプロパノール;7、75% エタノール;8、1% Zw 3−14;及び9、100mM アセテート、pH4.5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポ多糖類(LPS)−タンパク質複合体を含む組み換え産生タンパク質からエンドトキシンを除去するための方法であって、
前記複合体をクロマトグラフィーレジンに固定化する段階と;
前記レジンをアルカンジオールで洗浄し、それにより少なくとも前記LPSの一部が前記複合体から分離される段階と;および
前記レジンから前記タンパク質の少なくとも一部を溶出する段階と、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記アルカンジオールが、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール及び1,7−ヘプタンジオールからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レジンが、陽イオン交換レジン及び陰イオン交換レジンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質が、ウシアルブミン(BSA)、ウシホロトランスフェリン、ラクトフェリン、リゾチーム及び熱ショックタンパク質からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、前記レジンに付加される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記LPSが前記レジンに付加される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記レジンから溶出されるタンパク質の約95%超が、LPS又は他のエンドトキシンが存在しない状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
pH又はコンダクティビティーの変化が、前記レジンから前記タンパク質を溶出するために使用される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質が、細菌性発現系から産生される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌性発現系が、E.コリ発現系、カウロバクター・クレセント(Caulobacter crescent)発現系及びプロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)発現系からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記レジンが、高塩濃度環境にある、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記アルカンジオールが、1,2−ヘキサンジオールである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質が、pHの変化により溶出される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質をレジンに付加する段階と、該レジンをアルカンジオールで洗浄し、それによりエンドトキシンの少なくとも一部が分離される段階と、を含む、タンパク質からエンドトキシンを分離するための方法。
【請求項15】
前記エンドトキシンが、前記タンパク質の産生から生成される混入物である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記エンドトキシンの99.9%を超える部分が前記タンパク質から分離される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
リポ多糖類(LPS)−タンパク質複合体のタンパク質を陽イオン交換クロマトグラフィーレジンに付着させる段階と;
前記レジンをアルカンジオールで洗浄し、それにより前記LPSの少なくとも一部が前記複合体から分離される段階と;
pH又はコンダクティビティーの変化のいずれかにより前記レジンから前記タンパク質の少なくとも一部を溶出する段階と、
を含む、リポ多糖類(LPS)−タンパク質複合体を含む組み換え産生タンパク質からエンドトキシンを除去するための方法。
【請求項18】
前記複合体の前記LPSが、陰イオン交換クロマトグラフィーレジンに付着させられる、請求項17に記載の方法。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2007−526225(P2007−526225A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517275(P2006−517275)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/018992
【国際公開番号】WO2005/003152
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(398057282)ナームローゼ・フエンノートチヤツプ・オルガノン (93)
【Fターム(参考)】