説明

不等厚リム用リム素材および不等厚リムの製造方法

【課題】圧延時搬送ローラコンベアー上を素材が搬送される時に、先端部がロール間で重力により垂れ下がりにくい不等厚リム用リム素材および不等厚リムの製造方法の提供。
【解決手段】(1)不等厚リム素材を、リム素材圧延中またはリム素材圧延以後に、板厚中心がリム成形後のリム軸方向に対応する方向になだらかに凹凸するように、成形した、不等厚リム用リム素材。(2)不等厚リム素材を作製する工程を有する不等厚リムの製造方法であって、不等厚リム素材を作製する工程において、不等厚リム素材を、リム素材圧延中またはリム素材圧延以後に、板厚中心がリム成形後のリム軸方向に対応する方向になだらかに凹凸するように、成形する、不等厚リムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不等厚リム用リム素材と、該不等厚リム用リム素材を素材とする不等厚リムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トラック、バス用ホイールのリムには、従来、図1に示す平板形状素材1、および図2に示す形鋼形状素材2の、2種類の素材の何れかの素材が使用されている。さらに、特開平8−91005号公報に示す不等厚材料素材3(図3)などの素材の使用も知られている。
それらの素材からのリムの製造工程を図4に示す。これらの製造工程において、平板については、図4(イ)に示すように、巻き4、溶接5、トリミング6後、主にロール成形7によりリム形状を形成している。特開平8−91005号公報の不等厚材料については、図4(ロ)に示すように、トリミング工程を除き、平板からのリム成形と同じ工程を想定している。想定としたのは、特開平8−91005号の工程による製作が未実施であるためである。形鋼については、形鋼が最終形状に近い断面形状となっているため、図4(ハ)に示すように、巻き、溶接後、分割型を用いた主に径方向への拡大成形(サイジング)8となる。
また、リム溶接後のトリミング(バリ取り)については、平板素材では、図5(イ)、(ロ)に示すように、刃具9を環状素材の軸方向に動かして加工している。また、形鋼では、凹凸があるため、図6(イ)、(ロ)に示すように、セクションと同じ形状がついた刃具10を周方向に動かして加工している。特開平8−91005号の不等厚素材については、形鋼の場合に準じるトリミングとなる。
【0003】
【特許文献1】特開平8−91005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術には、以下の問題がある。
平板素材では、巻き、加工時の肉減りを除いて一定板厚であるため、発生応力に比例した肉厚配分は期待できず、剛性や疲労強度が最も必要となる部位に合わせ一様に厚い板厚になってしまう。その結果、重く、余分な材料分のコストがかさむ材料となり、時代の要請である軽量化、コストダウンが困難な素材となる。
形鋼素材は必要部分に必要板厚配分をすることで軽量化することが可能である。反面、素材がリム軸方向に大きなうねりと凹凸をもち、巻き、溶接、成形の各工程での加工歪み、型当たり等が発生しやすく、製品も外観的に見劣りがする。また、溶接部トリミングは、図6に示したように周方向に刃具を走らせることでしか対応できない。また、平滑加工も困難である。その結果、外観品質、意匠面で評価が低く、トリミング後に外観を美しくするための追加工を必要とする。それでも外観的には充分でなく、低価格化も難しい。
【0005】
平板、形鋼のそれぞれ上記の欠点を有し、これらを克服するために、特開平8−91005号(図3)が提案された。しかし、特開平8−91005号提案では、図3に示すように、リムのコーナー厚肉部は基本的にRで結んだ形状となっている。これでは強度が最も必要となる最厚肉部がリム成形時に幅方向(リム軸方向)にずれると、狙った部位に狙った板厚を確保できないという問題が発生する。必要板厚が確保できないということは、強度が確保できないことを意味し、最悪の場合は亀裂発生等の不具合を生じるおそれがあり、対策として余分な板厚を付加することになる。
さらに別の問題として、圧延時搬送ローラコンベアー上を素材が搬送されるが、平滑のままであると板厚が薄くなるに従い、先端部がロール間で重力により垂れ下がり平滑度を保ちにくくなり、下方に曲がり、コンベアー搬送にも支障をきたすおそれが出る。
また、リム製造巻き工程においてフラットだと巻きロールへの投入ピンチ力が不足し投入不具合が発生しやすい。ピンチロールのギャップを狭くする対策で無理に押し込もうとするとスリップで傷が発生する。
【0006】
本発明の目的は、圧延時搬送ローラコンベアー上を素材が搬送される時に、先端部がロール間で重力により垂れ下がりにくい不等厚リム用リム素材および不等厚リムの製造方法を提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、リム成形時に厚肉部が軸方向にずれても強度低下が生じない不等厚リム用リム素材、不等厚リムの製造方法を提供することにある。
本発明のさらにもう一つの目的は、必要な強度を維持したまま軽量化をはかることができる不等厚リム用リム素材、不等厚リムの製造方法を提供することにある。
本発明のさらにもう一つの目的は、外観品質を改善できる不等厚リム用リム素材、不等厚リムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明はつぎの通りである。
(1) 不等厚リム用のリム素材であって、
リム成形後には軸方向R部となる第1の素材部分とリム成形後には隣り合う軸方向R部の間の部分となる第2の素材部分とを有し、
前記第1の素材部分に、厚肉で表裏面が互いにほぼ平行な平行部を形成し、各平行部の幅を、対応するR部の成形時リム軸方向ズレ最大量より広い幅で確保し、
前記第2の素材部分に、板厚変化部を形成し、該板厚変化部の表面を、該板厚変化部の両側の平行部の表面の軸方向端点を直線または緩やかな曲線で結んだ形状とし、
前記不等厚リム素材を、リム素材圧延中またはリム素材圧延以後に、板厚中心がリム成形後のリム軸方向に対応する方向になだらかに凹凸するように、成形した、
不等厚リム用リム素材。
(2) 不等厚リム素材を作製し、該不等厚リム素材を巻き加工し両端を突き合わせ溶接して環状素材とし、溶接部をトリミングし、環状素材の軸方向両端をフレアー加工し、ついでリム形状にロール成形する工程を有する不等厚リムの製造方法であって、前記不等厚リム素材を作製する工程において、
リム成形後には軸方向R部となる第1の素材部分とリム成形後には隣り合う軸方向R部の間の部分となる第2の素材部分とを有し、
前記第1の素材部分に、厚肉で表裏面が互いにほぼ平行な平行部を形成し、各平行部の幅を、対応するR部の成形時リム軸方向ズレ最大量より広い幅で確保し、
前記第2の素材部分に、板厚変化部を形成し、該板厚変化部の表面を、該板厚変化部の両側の平行部の表面の軸方向端点を直線または緩やかな曲線で結んだ形状とした、
リム素材を作製し、
前記不等厚リム素材を、リム素材圧延中またはリム素材圧延以後に、板厚中心がリム成形後のリム軸方向に対応する方向になだらかに凹凸するように、成形する、
不等厚リムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
上記(1)の不等厚リム用リム素材、上記(2)の不等厚リムの製造方法では、なだらかなうねりを持たせた素材としたので、素材厚み方向の剛性が高くなることから、素材圧延時の搬送や圧延機投入時の位置精度が安定するため、素材寸法精度の向上、生産性向上によるコスト低減に効果がある。
上記(1)の不等厚リム用リム素材、上記(2)の不等厚リムの製造方法では、リム素材の平行部の幅を、対応するR部の成形時リム軸方向ズレ最大量より広い幅で確保したので、リム成形時に素材がリム軸方向にずれても、平行部は依然R部に位置しており、強度が維持される。
また、R部対応部に平行部を形成し、R部間対応部に板厚変化部を形成したので、強度が必要な部分を厚肉とすることができ、強度が余っている部分を減肉することができ、必要な強度を確保したまま、軽量化、材料節約をはかることができる。
また、板厚を変化させ、本質的に形鋼ほど断面をうねらせ凹凸させたものを用いないので、トリミングなどが容易であり、外観品質を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の不等厚リム用リム素材と、不等厚リムの製造方法を図7〜図9を参照して説明する。
本発明の不等厚リム用リム素材11は、バス、トラック用ホイールの、不等厚リム12用のリム素材である。
リム素材11は、リム成形後には軸方向R部(リム軸方向に湾曲するR部で、図7にA、B、C、D、E、Fで示す部位)となる第1の素材部分とリム成形後には隣り合う軸方向R部の間の部分となる第2の素材部分とを有する。ここで、「R部」とは「湾曲部」という意味である。
第1の素材部分に、厚肉で表裏面が互いにほぼ平行な平行部13を形成し、各平行部13の幅(リムにした時にリム軸方向に対応する方向における幅)は、対応するR部A、B、C、D、E、Fの成形時リム軸方向ズレ最大量より広い幅で確保されている。各平行部13の厚さは互いに異なってもよい。
第2の素材部分に、板厚変化部14を形成し、板厚変化部14の表面は、該板厚変化部14の両側の平行部13の表面の軸方向端点を直線または緩やかな曲線で結んだ形状となっている。
【0010】
リム素材11において、平行部13の表面と板厚変化部14の表面とは、Rで結んでもよい。ただし、Rで結ぶか否かは任意である。Rで結ぶとロール成形等においてロールを素材の角で傷つけにくい。また、Rで結ぶ方が素材の応力集中を緩和する面で有利である。
平行部13の幅は、たとえば2〜10mm程度確保する。
板厚変化部14の表面は、板厚変化部14の両側の平行部13の表面が直線で結ばれる場合は、一面または両面に角度が付いており、テーパ面となる。
【0011】
リム素材11は、図7に示すように、片面を平らにし、もう一方の片面に凹凸、傾斜を設けてもよい。このようにすることによって、溶接電極の原価低減、巻き形状の安定化、トリミング精度の確保が可能となり、量産上望ましい。
ただし、図8に示すように、当然、両面に凹凸、傾斜を設けてもよく、図8のものも有効である。
また、図9に示すように、リム素材11を、リム成形後リム軸方向に対応する方向になだらかに湾曲させてもよい。こうすることによって、素材搬送時の素材の垂れ下がりなどを抑制でき、有利である。
【0012】
不等厚リム12は、バス、トラック用ホイールのリムであり、上記リム素材11を用いて製作したリムである。その結果、リム12の板厚は、図7に示すように、リム軸方向に変化する。とくに強度が必要となるR部A、B、C、D、E、Fは、強度上必要部位に必要厚さを維持する。素材11の平行部13が所定幅をもっているので、リム成形時にずれても、強度上必要部位には、必要厚さが維持されている。
【0013】
本発明の不等厚リム12の製造方法は、不等厚リム素材11を作製し、該不等厚リム素材11を巻き加工し両端を突き合わせ溶接して環状素材とし、溶接部をトリミングし、環状素材の軸方向両端をフレアー加工し、ついでリム形状にロール成形する工程を有する不等厚リムの製造方法である。巻き加工、両端の突き合わせ溶接、溶接部のトリミング、環状素材の軸方向両端のフレアー加工、リム形状へのロール成形、の各工程は、図4(ロ)の不等厚リム成形の工程と同じであってもよい。ただし、リム素材を作製する工程では、前述した、図7〜図9に示した何れかの不等厚リム素材11を作製する。また、トリミング工程は、図4(ロ)では周方向トリミングであるが、本発明では周方向トリミングであってもよいし、あるいは素材形状を選定するとともに刃具の送りを選定して軸方向トリミングとしてもよい。
【0014】
つぎに、本発明の不等厚リム素材11、不等厚リム12の製造方法の作用を説明する。
図7、図8、図9の何れの不等厚リム素材11も、従来主流となっている平板成形リム(図1)の強度を維持しつつ、機能上不必要な部分の板厚を減肉できることから、従来の平板成形リムと比較した場合必ず省素材化できる、すなわち、比較上常に軽量化されたリムが製作できる。
また、図7、図8、図9の何れの不等厚リム素材11も、リム成形後厚肉部となるリムR部A、B、C、D、E、Fに対応する素材部分に、厚肉の平行部(ほぼ等厚)13を、2〜10mm程度設けることで、成形時の幅方向ズレ(リム軸方向ズレ)が生じても強度、機能上必要とされるリム板厚が確保される。
【0015】
さらに、図2に示す形鋼に比較した場合、ほぼ平らな形状となるため高額な圧延ロールが単純な形状で済み、摩耗時の改削も容易になることから、素材の原価低減にもつながる。
さらに、リム成形工程においては、従来主流である平板素材からのリム成形設備の一部分を改善することで、充分成形寸法、外観など必要品質を確保でき、大きな投資を必要としない。このこともコスト競争力を保ち、本発明品および本発明方法の優位性確保につながる。
【0016】
他に、以下の作用、効果がある。
図7の片面平滑素材は、素管成形時の溶接工程において、平らな面を通電のための電極側にすることで電極が平らな形状で済み、電蝕による電極の消耗が減少し、コスト低減、溶接品質の安定化の面で有利である。片面が平らなため、巻きの安定化、トリミング精度の向上、素材表面の平滑性の確保などに寄与できる。
図8の両面凹凸形状素材は、凹凸が成形金型との位置決めに利用できるため、成形時に素材の幅方向のズレが発生しにくく、寸法精度が安定化する。
図9のなだらかなうねりを持たせた素材は、素材厚み方向の剛性が高くなることから、素材圧延時の搬送や圧延機投入時の位置精度が安定するため、素材寸法精度の向上、生産性向上によるコスト低減に効果がある。
【0017】
請求項1の不等厚リム用リム素材、請求項2の不等厚リムの製造方法によれば、なだらかなうねりを持たせた素材としたので、素材厚み方向の剛性が高くなることから、素材圧延時の搬送や圧延機投入時の位置精度が安定するため、素材寸法精度の向上、生産性向上によるコスト低減に効果がある。
請求項1の不等厚リム用リム素材、請求項2の不等厚リムの製造方法によれば、リム素材の平行部の幅を、対応するR部の成形時リム軸方向ズレ最大量より広い幅で確保したので、リム成形時に素材がリム軸方向にずれても、平行部は依然R部に位置しており、強度が維持される。
また、R部に平行部を形成、R部間に板厚変化部を形成したので、強度が必要な部分を厚肉とすることができ、強度が余っている部分を減肉でき、必要な強度を確保したまま、軽量化、材料節減、コストダウンをはかることができる。
また、板厚を変化させ、本質的に形鋼ほど断面をうねらせ凹凸させたものを用いないので、トリミングなどが容易であり、外観品質を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の平板素材の斜視図である。
【図2】従来の形鋼素材の斜視図である。
【図3】特開平8−91005号に開示の不等板厚素材の斜視図である。
【図4】(イ)は平板素材からのリム成形工程図、(ロ)は特開平8−91005号に開示の不等厚素材からのリム成形工程図、(ハ)は形鋼素材からのリム成形工程図である。
【図5】(イ)は軸方向トリミングの正面図、(ロ)は軸方向トリミングの断面図である。
【図6】(イ)は周方向トリミングの側面図、(ロ)は周方向トリミングの正面図である。
【図7】(イ)は本発明の不等厚リム素材から製作した不等厚リムの半断面図、(ロ)は本発明のリム素材(片面のみに凹凸を有する場合)の断面図である。
【図8】本発明のリム素材(両面に凹凸を有する場合)の断面図である。
【図9】本発明のリム素材(凹凸以外になだらかなうねりも持つ場合)の断面図である。
【符号の説明】
【0019】
11 不等厚リム用リム素材
12 不等厚リム
13 平行部
14 板厚変化部
A、B、C、D、E、F R部(軸方向に湾曲するR部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不等厚リム用のリム素材であって、
リム成形後には軸方向R部となる第1の素材部分とリム成形後には隣り合う軸方向R部の間の部分となる第2の素材部分とを有し、
前記第1の素材部分に、厚肉で表裏面が互いにほぼ平行な平行部を形成し、各平行部の幅を、対応するR部の成形時リム軸方向ズレ最大量より広い幅で確保し、
前記第2の素材部分に、板厚変化部を形成し、該板厚変化部の表面を、該板厚変化部の両側の平行部の表面の軸方向端点を直線または緩やかな曲線で結んだ形状とし、
前記不等厚リム素材を、リム素材圧延中またはリム素材圧延以後に、板厚中心がリム成形後のリム軸方向に対応する方向になだらかに凹凸するように、成形した、
不等厚リム用リム素材。
【請求項2】
不等厚リム素材を作製し、該不等厚リム素材を巻き加工し両端を突き合わせ溶接して環状素材とし、溶接部をトリミングし、環状素材の軸方向両端をフレアー加工し、ついでリム形状にロール成形する工程を有する不等厚リムの製造方法であって、前記不等厚リム素材を作製する工程において、
リム成形後には軸方向R部となる第1の素材部分とリム成形後には隣り合う軸方向R部の間の部分となる第2の素材部分とを有し、
前記第1の素材部分に、厚肉で表裏面が互いにほぼ平行な平行部を形成し、各平行部の幅を、対応するR部の成形時リム軸方向ズレ最大量より広い幅で確保し、
前記第2の素材部分に、板厚変化部を形成し、該板厚変化部の表面を、該板厚変化部の両側の平行部の表面の軸方向端点を直線または緩やかな曲線で結んだ形状とした、
リム素材を作製し、
前記不等厚リム素材を、リム素材圧延中またはリム素材圧延以後に、板厚中心がリム成形後のリム軸方向に対応する方向になだらかに凹凸するように、成形する、
不等厚リムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−94398(P2008−94398A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325775(P2007−325775)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【分割の表示】特願2003−18327(P2003−18327)の分割
【原出願日】平成15年1月28日(2003.1.28)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)