説明

不連続なシリコン壁を含んだ、部分的に酸化された多孔性のシリコン

本発明は、直径が500nmから100μmの複数の孔を有する多孔性の支持材がシリコン基板の上に水平に設計されている装置に関するものである。これらの孔は、少なくとも一方の表面領域に分布しており、支持材の一方の表面(10A)から反対側の表面(10B)を貫通して延びている。この装置は、SiOからなる孔壁を有する2つ以上の孔を含んだ2つ以上の領域(11A)を有している。上記領域は、シリコンコア(12A)を有する壁の枠またはボックス(12)によって取り囲まれている。上記枠またはボックス(12)は、孔の長軸に対して基本的に平行に配置されており、表面(10A、10B)に向けて蓋のない状態になっている。シリコンコアは、枠を形成している壁の外側の断面越しに二酸化珪素に変わり、シリコンコア(12A)を有する壁の全ての枠全体のうちの個々の枠(12)は、該シリコン核(12A)を取り囲んでいる枠から完全に空間的に隔離されている。本発明は、上記の装置の製造方法に関するものでもある。本発明の装置は、生化学(結合)反応を検出するための方法における、「バイオチップベースモジュール」の基部に適しており、このために、特に、生物学および医学における、ゲノム研究、プロテオーム研究、または、活性化因子研究の分野の、酵素反応、核酸ハイブリダイゼーション、蛋白質間相互作用、および他の結合反応の研究に適している。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、直径が500nmから100μmの複数の孔を有する多孔性の支持材がシリコン基板の上に水平に設計されている装置に関するものである。これらの孔は、少なくとも一方の表面領域に分布しており、支持材の一方の表面(10A)から反対側の表面(10B)を貫通して延びている。この装置は、SiOからなる孔壁を有する2つ以上の孔を含んだ2つ以上の領域(11A)を有している。また、これらの領域は、シリコンコア(12A)を有する壁の枠またはボックス(12)によって取り囲まれている。この枠またはボックス(12)は、孔の長軸に対して基本的に平行に配置されており、表面(10A、10B)に向けて蓋のない状態になっている。シリコンコアは、枠を形成している壁の外側の断面越しに二酸化珪素に変わり、シリコンコア(12A)を有する壁の全ての枠全体のうちの個々の枠(12)は、該シリコンコアを取り囲んでいるか隣接している枠から完全に空間的に隔離されている。本発明は、上記の装置の製造方法に関するものでもある。本発明の装置は、生化学(結合)反応を検出するための方法における、「バイオチップベースモジュール」の基部に適しており、このために、特に、生物学および医学における、ゲノム研究、プロテオーム研究、または、活性化因子研究の分野の、酵素反応、核酸ハイブリダイゼーション、蛋白質間相互作用、および他の結合反応の研究に適している。
【0002】
分子生物学では、有機体および組織についての発見が急速になされるバイオチップの用途が、拡大している。所定の調査材料中の(生)化学的な反応の検出、つまり、生物学に関する分子の検出は、バイオサイエンスおよび医学的診断にとって非常に重要である。この観点で、いわゆるバイオチップの開発は、絶えず続いている。このようなバイオチップとは、通常、生物学的および技術的な構成要素を備え小型化されたハイブリッド機能素子、特に、バイオチップベースモジュールの表面に固着され、特定の相互作用の相手方として用いられる。これらの機能素子の構造は、多くの場合、行および列を有している。ここで、いわゆる「マイクロアレイ」について述べる。数千の生物学的または生化学的機能素子を単一のチップに配置するために、これらの素子を、一般的に、マイクロテクノロジーを要する方法を用いて作り上げる必要がある。
【0003】
特に適切な生物学的および生化学的機能素子は、DNA、RNA、PNA、(核酸およびその化学的誘導体の場合、例えば、オリゴヌクレオチドのような1本鎖、3重鎖構造、またはそれらの組み合わせであってもよい)、糖類、ペプチド、蛋白質(例えば、抗体、抗原、リセプター)、コンビナトリアル・ケミストリーからの誘導体(例えば、有機分子)、細胞成分(例えば、細胞小器官)、細胞、多細胞生物、細胞群である。
【0004】
いわゆるマイクロアレイとは、最も広く知られているバイオチップの変形体のことである。これらのマイクロアレイは、例えば、ガラス、金、プラスチック、またはシリコンからなる小さなウェハ(「チップ」)である。生物学的または生化学的な(結合)反応を検出するために、例えば、既知の核酸配列などの少量の様々な可溶性の捕捉分子が、バイオチップベースモジュールの表面に、非常に小さな小滴(いわゆるドット)の形状、点状、行列状に固定されている。
【0005】
実際には、1つのチップあたり数百〜数千の小滴が用いられる。調査される検体(該検体は、例えば蛍光標識された標的分子を含んでいてもよい)は、次に、チップの表面に供給される。これにより、通常は、検体に含まれている標的分子と、固定または固着された捕捉分子との間に様々な化学的な(結合)反応が生じる。上述したように、標的分子は、これらの反応または結合を観察するために、色素分子成分(通常、蛍光色素)によって標識される。蛍光色素が発する光の存在および強度は、基板上の個々の小滴の反応または結合の進行についての情報を示している。これにより、標的分子および/または捕捉分子の存在および/または特性についての結論を導き出せる。また、上記検体の対応する蛍光標識化された標的分子が、支持基板の表面に固着された捕捉分子と反応または結合すると、この反応また結合を、レーザーを用いた光学励起、および、蛍光シグナルの測定によって検出できる。
【0006】
このようなバイオチップの基部として、高さがあるが所定の多孔率を有する基板は、平面基板と比べて多くの利点がある。すなわち、非常に大きな平面領域において、より多くの検出反応を行うことができ、これにより、生物学的アッセイの検出感度が上がる。検体に溶かされた標的分子は、多孔性の基板の前面と裏面との間の通路を通って送り込まれ、基板の表面に接する狭い空間にもたらされる。(<10μm)。この空間のサイズによって、拡散は非常に効果的な移送過程で行われ、検出される標的分子と上記表面に固着された捕捉分子との間隔を瞬時に詰める。したがって、結合反応の速度を上げることができ、検出方法にかかる所要時間を著しく短縮できる。
【0007】
電気化学的に形成された多孔性のシリコンは、このような所定の多孔率を有する基板の一例である。(比較参照:DE 42 02 454、EP 0 553 465、または、DE 198 20 756)
【0008】
近年、活性化因子調査および臨床診断に用いられる分析手法の大部分は、標的物質と捕捉分子(例えば、DNAハイブリダイゼーション、抗原抗体反応、および、蛋白質相互作用)との間での結合イベントを検出するための光学的方法を用いている。この検出される物質には、適切な波長の光によって励起した後で蛍光を発する(蛍光法)マーカーか、または、同様に光を生成する化学反応を開始する(化学ルミネセンス法)マーカーがある。検出される物質(つまり、標的分子)が、上記表面上に固着された捕捉分子と結合すると、次に、この結合を、光学的に(例えば、ルミネセンスを用いて)検出できる。「ルミネセンス」という用語は、この場合、紫外線のスペクトル域から赤外線のスペクトル域までの光子の自然放出を意味する。ルミネセンス励起メカニズムは、光学的な性質であってもよいし、あるいは、非光学的な性質(例えば、電気的、化学的、生化学的、および/または熱による励起プロセス)であってもよい。したがって、特に、化学ルミネセンス、生物ルミネセンス、エレクトロルミネセンスだけでなく、蛍光および燐光も、「ルミネセンス」という用語によって本発明の範囲に含まれている。
【0009】
しかし、実験によって観察された光信号の収率が理論的に達成可能な値よりもはるかに低い値を示す限りにおいて、蛍光法または化学ルミネセンス法と関連して、光学濃度が高く反射率の低い多孔性の基板(例えば、スペクトルの可視域における反射率が50〜70%である多孔性シリコン)から望ましい結果は得られない。このような多孔性の基板を用いた場合に、理論的な値よりも、実験によって観察された光信号の収率のほうが低い理由は、一方では、調査される物質または結合の蛍光が光を放出するという問題であり、他方では、蛍光法を用いた場合に蛍光を光学励起するという問題である。
【0010】
もし、(ルミネセンスの)光がたくさんの孔にわたって生じた場合、孔壁の反射率は、光信号を上記表面に効果的に供給するための決定的な要素になる。化学ルミネセンスの場合、光信号は空間のすべての方向に等方性に放射される。結果として、発生した光のうちの非常にわずかな光のみが、個々の孔の開口角度に直接に放射される。他のすべての光学経路は、孔の開口部に達する前に、孔壁に何度も反射される。しかしながら、反射率が100%よりもほんの少し少ない場合でさえ、信号の強度は、複数の反射後に著しく低減される。つまり、生じた信号のこの割合は孔の出口において著しく減衰され、その後は信号全体にほとんど寄与できない。
【0011】
蛍光が励起して光を放つときに、孔壁で複数回反射することによって生じる減衰は、さらに重大な問題を構成している。孔の開口部に向かって直接放射する蛍光物質(検体中の蛍光体)のみが、蛍光シグナルのために減衰せずに用いられる。他の光学経路のすべては、孔の開口部に達する前に、孔壁で少なくとも一度反射される。反射率が100%よりもほんの少し少ない場合でさえ、これらの複数回の反射によって、検出される光学信号は著しく減衰する。
【0012】
複数回の反射による強度の減衰という上述の問題を解決するために、反射による損失を低減するために、励起光および放出光を孔からよりよく供給するよう、孔壁に反射層を配置する提案がこれまでなされてきた。しかし、この解決策によっては、信号の収率の十分な改善には至っていない。
【0013】
WO 03/089925は、部分的に透過性の領域を有するSiOからなる3D導波管構造を開示している。上記透過性の領域は、シリコンコアを備えた壁の反射枠によって取り囲まれている。これにより、基本的にシリコンからなる反射壁によるコンパートメントの構造の中で生成されたルミネセンス光の光学的なクロストークを防止できる。WO 03/089925では、蛍光ルミネセンスまたは化学ルミネセンスの分析方法を用いて信号対雑音比が改善された場合に絶対信号性能が改善される装置を開示している。しかし、WO 03/089925に開示されている3D導波管構造の製造では、シリコンから二酸化珪素に変わるときに量が2倍になるので、多孔性シリコンの熱酸化の間に構造内で激しいストレスが生じ、制御がしにくい。これにより、最悪の場合には、上記構造が曲がったり歪んだりする。また一方、このような非平面状の基板は、バイオチップには適していない。
【0014】
したがって、本発明の目的は、生化学反応および/または生化学結合を検出するための、装置または「バイオチップベースモジュール」を提供することにある。本発明は、蛍光ルミネセンスまたは化学ルミネセンスに基づく分析方法の範囲において、WO 03/089925に開示された装置と本発明の装置とが同程度の信号対雑音比を有する場合に、WO 03/089925に開示された装置よりも比較的良好で確実な信号の収率を実現させることを目的としている。この目的を達成することにより、完成したバイオチップによって行われる試験の検出感度が上がり、上記の装置または「バイオチップベースモジュール」を製造しても、WO 03/089925に開示された装置の上記問題は生じない。
【0015】
この目的は、特許請求の範囲の特徴部分に記載した形態によって達成される。
【0016】
特に、シリコン上に水平に設計された、多孔性の支持材(10)を含む装置を提供する。この多孔性の支持材(10)は、周期的に配置された、直径が500nm〜100μmの離散した複数の孔(11)を有している。これらの孔(11)は、少なくとも一方の表面領域に分布しており、支持材の一方の表面(10A)から反対側の表面(10B)を貫通して延びている。この装置は、SiOからなる孔壁を有する2つ以上の孔を含んだ2つ以上の領域(11A)を有している。また、これらの領域は、それぞれ、シリコンコア(12A)を有する壁の枠またはボックス(12)によって取り囲まれている。この枠またはボックス(12)は、孔の長軸に対して基本的に平行に配置されており、表面(10A、10B)に向けて蓋のない状態になっている。また、シリコンコアは、枠を形成している壁の外側の断面を介して二酸化珪素に変わり、シリコンコア(12A)を有する壁の全ての枠全体の中に位置する個々の枠(12)は、該シリコンコア(12A)を取り囲む枠、または、該シリコンコア(12A)に隣接している枠から空間的に完全に隔離されている。
【0017】
本発明の装置は、部分的に完全に酸化された、SiOからなる領域(つまり、SiOからなる孔壁を有する複数の孔を含んだ領域)を有している。完全に酸化されたこれらの領域は、ボックスまたは枠のような上部構造によって、次々に取り囲まれている。完全に酸化されたこれらの領域は、基本的にシリコンからなる壁によって枠に入れられているか、または取り囲まれている。これにより、該基本的にシリコンからなる壁は、表面(10A、10B)に向けて蓋のない状態になっており、枠、ボックス、または孔に対して軸が平行に延びている円筒の形状をしている。そして、この枠、ボックス、または円筒は、部分的に完全に酸化されたSiOからなる領域を取り囲んでいる、または囲んでいる。また、枠を形成している壁は、シリコンコアを有しており、支持材の表面に延びている断面から見ると、シリコンは、壁の外側に向かって二酸化珪素に変わっていっている。
【0018】
本発明では、シリコンコア(12A)を有する壁の全ての枠全体のうちの個々の枠(12)は、該シリコンコア(12A)を取り囲む枠から、または、該シリコンコア(12A)に隣接している枠から、完全に空間的に隔離されている。結果として、個々の領域または個々の区画のシリコン壁は、つながっていないか、または、互いに接触しておらず、SiOからなる孔壁を有する領域によって互いに完全に分離されている。本発明のこの構造配列が、シリコンから二酸化珪素に変わるときに量が2倍になることを原因としてこのような装置を形成する過程で部分的に生じるストレスの空間的な切り離しをもたらす。該完全に酸化された領域では、孔間の壁は、完全にSiOから形成されている。したがって、これらの領域または区画は、特に可視域の波長に対して透過性である。本発明の装置は、したがって、部分的に透過性のSiOからなる領域を有し、これらの透過性の領域は、シリコンコアを有する壁の反射枠によって次々に取り囲まれている。言い換えれば、部分的に完全に透過性であるSiOからなる領域または区画がある。これらの領域または区画は、シリコンコアを有する非透過性の壁によって互いに分離されている。このシリコンコアは、いわば、本発明の装置において完全にこれらの区画を取り囲んでいるボックスのような二次構造を構成している。
【0019】
本発明では、区画のシリコン枠のアスペクト比は、ほぼ1:1:100から1:1:1(縦×横×深さ、図2B参照)である。
【0020】
2つの外面をそれぞれ介して二酸化珪素に変わるシリコンコアを有する壁の枠またはボックス(12)は、散光と、SiOからなる孔壁を有する2つ以上の孔を含んだ領域間または区画間の光クロストークとを削減する。このことは、完全に透過性である多孔性の基板(例えば、SiO、ガラスチップ、またはAl)と比べて大きな利点である。
【0021】
本発明の装置では、複数の孔が通常は断続的に配置され、水平に設計された多孔性の支持材(10)の少なくとも一方の表面領域に分布して配置されており、支持材の一方の表面(10A)から反対側の表面(10B)に延びている。止まり穴、つまり表面側(10A、10B)のうちのいずれかにのみ露出している孔は、本発明の範囲では、水平に設計された多孔性の支持材(10)に沿って部分的に備えられていてもよい。
【0022】
用いられる多孔性の支持材の孔の直径は、通常、1μm〜99μmであり、好ましくは1μm〜11μmである。また、多孔性の支持材の厚さは、通常、100μm〜1000μmであり、好ましくは、250μm〜450μmである。さらに、孔の中心から孔の中心までの間隔(ピッチ)、つまり互いに隣り合うまたは隣接している2つの孔の間隔は、通常、1μm〜100μmであり、好ましくは2μm〜12μmである。そして、孔の密度は、通常、10/cm〜10cmである。
【0023】
本発明の装置の孔(11)は、例えば、本質的には円形または楕円形に構成されていてもよい。本発明の好ましい形態では、SiOからなる孔壁を有する孔(11)は、本質的に正方形に設計されている。シリコンコア(12A)を有する壁の枠(12)は、本質的に正方形または長方形であってもよい。
【0024】
本発明は、つながっている区画とつながっていない区画とから構成されている、いわゆるハイブリッド構造を備えた装置を含んでいる(図5参照)。
【0025】
本発明の装置を、以下のステップを含む方法によって提供することができる。
【0026】
(a)上記表面(10A、10B)を有する、シリコンからなる支持材を設ける。
【0027】
(b)深さが支持材の厚さよりも小さい止まり穴を、電気化学エッチングによって支持材の一方の表面(10A)に形成する。シリコン壁の厚さの増加に伴った領域間の変化を生じさせるため、ほぼ規則的な配列を部分的に変更するといった方法で止まり穴同士の間隔が規定される。領域間変化部のシリコン壁の厚さは、止まり穴同士の間隔の広がる量に基づいて、上記領域の内側の上記シリコン壁の厚さよりも厚くなるように設定される。
【0028】
(c)該表面(10A)と、ステップ(b)において形成された止まり穴の表面とにマスク層を少なくとも部分的に配置する。
【0029】
(d)支持材の一方の表面(10A)から反対側の表面(10B)を貫通して延びている孔(11)を形成するために、止まり穴の少なくとも底部まで支持材を腐食する。
【0030】
(e)マスク層を除去する。
【0031】
(f)ステップ(e)で得られた支持材を熱酸化する。これにより、シリコン壁の厚さに応じて、シリコン壁がより薄い領域は完全に酸化され、一方では、壁の厚さがより厚い領域間変化部では、シリコン壁は完全には酸化されず、シリコンコアが壁の中に残る。
【0032】
ステップ(a)で設けられたシリコン支持材は、例えば、n型にドープされた単結晶シリコン(Siウェハ)であってもよく、p型にドープされた単結晶シリコンを用いてもよい。
【0033】
上記方法のステップ(b)では、シリコンに電気化学エッチングを行う。このような方法は、例えば、EP 0 296 348、EP 0 645 621、WO 99/25026、DE 42 02 454、EP 0 553 465、または、DE 198 20 756から周知のものであり。これらの明細書全体を引用し、これらの開示内容を、本出願の一部とする。このような電気化学エッチングについては、アスペクト比が例えば1:300またはそれ以上である止まり穴または孔を、ほぼ規則的に配置してシリコン内にエッチングしてもよい。パラメータを適切に選択した場合、電気化学的な孔エッチングの方法によって、孔間隔(ピッチ)を特定の範囲内で変えることができるので、孔間隔を変えることによって、および/または規則的に配置された止まり穴もしくは孔の中の一行中の全ての孔を除去することによって、得られるシリコン壁の厚さを部分的に変えることができる。この場合、孔エッチングの方法を、一方では、孔を行ごとに、または、孔をまとまりごとに除去して、常に一定のピッチ間隔を維持するように行ってもよい。また、他方では、1つを対応する区画用、もう1つを対応する外部領域用として2つのピッチ間隔を異ならせてもよい(図2E参照)。上述のやり方により、狭い範囲内での変更が可能になる。
【0034】
支持材または基板(Siウェハ)を貫通する、2つの表面(10A、10B)に面している孔を形成するために、工程(c)、(d)、および(e)において、止まり穴をエッチングした後、Siウェハの裏側で例えばKOHエッチングによってシリコンを腐食する。ウェハの表側および止まり穴または孔の内側は、マスク層(例えば、CVD蒸着によって生成された厚さが例えば100nmの窒化珪素層)によって保護されている。その後、ステップ(e)において、このマスク層を例えばHF処理によって除去してもよい。スパッタリング、レーザーアブレーション、および/または研磨のプロセス(例えば、CMPプロセス)が、同様に、Siウェハの裏側の腐食に適している。
【0035】
これにより、ウェハの表側と裏側とを接続する貫通した管になっている規則的な孔を、行列状に配した、シリコンウェハまたはシリコン支持材が生成される。
【0036】
例えばKOHエッチングすることによって該孔を形成した後、これらの孔の直径を拡張または拡大してもよい。Si(100)を出発原料として用いると、その後、上記のようなエッチングによって、結晶構造の影響を受けてほぼ正方形の孔が得られる。例えば、孔の直径が約5μmであり、2つの孔の中心点の間隔が12μmであると仮定すると、例えば、孔の直径を5μmから10または11μmに拡張できる。孔間のシリコン壁の厚さは、同時に、2または1μm厚くなる。このようにして、いわば薄いシリコン壁からなる正方格子が得られる。孔の深さまたはシリコン壁の長さは、この場合、裏側に孔を開口するときに腐食されるSi層の厚さ分薄くなった元々のシリコンウェハの厚さに相当する。
【0037】
ステップ(f)では、このようにして得られた格子は、熱酸化プロセス(例えば1050℃で18時間)において孔壁の厚さに応じて酸化されることにより、SiOに変換される。これによっても、Siを酸化してSiOにすることにより壁領域が増加することを除いては、上記基板の構造は基本的に変わらない。
【0038】
ステップ(b)において止まり穴または孔同士の間隔を、例えば5個、10個、または20個の孔ごとに、例えば1μmだけ周期的に長くすると、孔の配列(例えば、5×5、10×10、20×20)を有する領域または区画からなる上部構造が生じる。これらの領域間のシリコン壁の厚さは、孔同士の間隔が広がった分だけ、領域内のシリコン壁の厚さよりも厚い。薄いシリコン壁を有する領域は、続くステップ(f)での酸化工程の間に完全に酸化されてSiOになる。しかし、壁の厚さが厚くなった領域間で変化する場合は、シリコン壁は、完全には酸化されず、これにより、シリコンコアが壁の中に残る。このシリコンコアは、枠を形成している壁の外側の断面越しに二酸化珪素に変わる。これにより、シリコンコアを有する非透過性の壁によって互いに完全に分離された、部分的に完全に透過性のSiOからなる領域が生じる。
【0039】
そのすぐ直後に、リンカー分子を塗布または結合してもよい。このようなリンカー分子は、SiO層の表面に存在しているOH基に共有結合でき、さらに、生物学的、化学的な反応においてプローブとして用いられる捕捉分子と共有結合できる官能基を有している限り、特定の制限を受けない。このようなリンカー分子は、通常、有機シリコン化合物に基づいている。このような二官能価のシリコン有機化合物は、例えば、エポキシ、グリシジル、クロロ、メルカプト、または、アミノから選択された1つ以上の末端官能基を有するアルコキシシラン化合物であってもよい。アルコキシシラン化合物は、グリシドキシアルキルアルコキシシラン(例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、メルカプトアルキルアルコキシシラン(例えば、γ‐メルカプトプロピルトリメトキシシラン)、または、アミノアルキルアルコキシシラン(例えば、N‐β‐(アミノエチル)γ‐アミノプロピルトリメトキシシラン)であることが好ましい。捕捉分子またはプローブに結合している官能基(例えば、エポキシまたはグリシドキシ)と、トリアルコキシシラン基との間のスペーサーとして機能するアルキレン残基の長さは、ここでは、制限されていない。このようなスペーサーは、ポリエチレングリコール残基であってもよい。
【0040】
バイオチップの調整を終えるために、捕捉分子(例えば、オリゴヌクレオチドまたはDNA分子)を、従来技術の標準的な方法にしたがって、リンカー分子を介して支持材に結合または連結してもよい。例えば多孔性の基板材料を処理することによって行う場合には、末端エポキシド基の末端第1級アミノ、またはオリゴヌクレオチドもしくはDNA分子のどちらかのチオール基との反応の結果によって生じる、エポキシシランをリンカー分子として用い、対応する分析方法では、調査される検体に存在している標的分子のための、固着または固定された捕捉分子として機能する。例えばここでは、Tet.Let.22、1981年、1859〜1862ページに記載されているような合成方法を用いることにより生成されるオリゴヌクレオチドを補足分子として用いてもよい。上記製造方法中では、オリゴヌクレオチドは、5または3末端において、末端アミノ基とともに誘導化されてもよい。このような捕捉分子を孔の内壁の表面に結合する他の方法では、初めに、ラジカル開始剤(例えば、過酸化水素水、アゾ化合物、または、BuSnH)を任意に用いて塩素源(例えば、Cl、SOCl、COCl、または、(COCl))によって基板を処理し、続いて、第1級アミノ、チオール基、または他の適切な官能基を有する求核性の化合物(特に、オリゴヌクレオチドまたはDNA分子)によって基板を反応させてもよい(WO 00/33976を参照)。
【0041】
本発明の装置は、96サンプルを支持する機能をマイクロアレイの密度で実現してもよい。従来技術において用いられるマイクロチップ技術を、さらに、本発明の装置の基部に用いることができる。
【0042】
また、本発明の装置は、孔壁に沿った分子に、部分的に制限された光制御合成を行うことにも特に適している。本発明は、したがって、本発明の装置またはバイオチップを設ける工程と、合成材料を支持材の少なくとも1つの孔に導入する工程と、少なくとも、合成物質を光学励起するために、上記孔に光を照射する工程とを含む、化学的または生化学的な反応、もしくは化学的または生化学的な合成を制御するための方法に関するものでもある。
【0043】
平面基板に関する光制御合成の方法については、例えばEP 0 619 321およびEP 0 476 014に記載されている。これらの文献の、構造および光制御合成の方法に関する開示内容を全て参照することにより、これらの文献も本出願の開示内容の一部とする。孔に光を効率的に伝播することにより、孔壁に沿って光化学反応を励振または制御できる。特に、このようにして、一連の複雑な光制御光化学反応を、孔の境界面において実行できる。
【0044】
個々の孔間、領域間、または区画間の光クロストークは、基本的にシリコンからなる反射壁によって抑制される。これにより、平面基板において光制御合成を行う場合の主な問題点を解決できる。
【0045】
本発明の一例を、図面を参照しながら以下に説明する。
【0046】
図1は、WO 03/089925に開示された装置を概略的に示す図である。
【0047】
図2は、本発明の装置の一形態を概略的に示す図である。
【0048】
図3は、本発明の装置の他の形態を概略的に示す図である。
【0049】
図4は、本発明のさらに他の形態を概略的に示す図である。
【0050】
図1は、WO 03/089925に開示された装置を概略的に示す図であり、SiOからなる部分的に透過性の領域を備えている。上記透過性の領域は、シリコンコアを有する壁の反射枠によって次々に取り囲まれている。
【0051】
図2Aは、SiOからなる孔壁を有する孔(11)の部分的に透過性の領域(11A)を有する本発明の装置(10)を概略的に示す図である。シリコンコア(12A)を有する壁の全ての枠全体の中のシリコンコア(12A)を有する壁の個々の枠(12)は、シリコンコア(12A)を取り囲む枠から空間的に完全に隔離されている。図2Bは、上記したように、区画のアスペクト比に関する規定を示している。図2Cは、平面図であり、図2Dは、このような装置の一部の側面図を示している。図2Eは、区画内および外部領域における、ピッチの間隔が異なっている構造の模範的な「基本セル」を概略的に示している。この模範的な基本セルは、区画内に、24×24の孔の配列(ピッチ:11.3μm)を有する30×30の孔を含んでいる。外部領域のピッチ間隔は、12.0μmである。(酸化前の区画の壁の厚さは、10μm未満。(孔の直径:10〜11μm)酸化後の区画の壁の厚さは、5μm未満)。
【0052】
図3および図4は、さらにシリコンコア(12A)を有する壁の全ての枠の全体の中に位置するシリコンコア(12A)を有する壁からなる個々の枠(12)がシリコンコア(12A)を取り囲む枠から空間的に完全に隔離されているという点で際立っている、本発明の装置の他の形態を示している。図3の形態では、シリコンコアを有する壁からなる枠は、特有の構造をしている。図4の形態では、互いに空間的に完全に隔離されているシリコンコアを有する壁の枠間に、これらの枠から空間的に完全に分離されているシリコンコア(12)を有する壁からなる桁腹板(13)が備えられている。
【0053】
図5は、つながっている区画とつながっていない区画とを含むハイブリッド構造を示す、本発明の装置の他の形態を示している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】WO03/089925に開示された装置を概略的に示す図である。
【図2A】本発明の装置の一形態を概略的に示す図である。
【図2B】本発明の装置の一形態を概略的に示す図である。
【図2C】本発明の装置の一形態を概略的に示す図である。
【図2D】本発明の装置の一形態を概略的に示す図である。
【図2E】本発明の装置の一形態を概略的に示す図である。
【図3】本発明の装置の他の形態を概略的に示す図である。
【図4】本発明のさらに他の形態を概略的に示す図である。
【図5】つながっている区画とつながっていない区画とを含むハイブリッド構造を示す、本発明の装置の他の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
10 シリコン基板の支持材
10A、10B 支持材の表面
11 孔
11A SiO2からなる孔壁を有する複数の孔を含んだ領域
12 シリコンコアを有する壁の枠
12A シリコンコア
13 シリコンコアを有する壁からなる桁腹板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が500nmから100μmの複数の孔を有する多孔性の支持材がシリコン基板上に水平に設計されている装置であって、上記の孔は、少なくとも一方の表面領域に分布し、支持材の一方の表面(10A)から反対側の表面(10B)を貫通して延びており、上記装置は、SiOからなる孔壁を有する2つ以上の孔を含んだ2つ以上の領域(11A)を有しているとともに、上記領域は、シリコンコア(12A)を有する壁の枠またはボックス(12)によって取り囲まれており、上記枠またはボックス(12)は、孔の長軸に対してほぼ平行に配置され、表面(10A、10B)に露出しており、上記シリコンコアは、枠を形成している壁の外面の断面を介して二酸化珪素に変わっており、シリコンコア(12A)を有する壁の全ての枠全体のうちの個々の枠(12)が、該シリコンコア(12A)を取り囲んでいる枠から完全に空間的に隔離されていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記支持材の厚さは、100μm〜1000μmであり、好ましくは、250μm〜450μmであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記孔の密度は、10/cm〜10/cmであることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
SiOからなる孔壁に設けられる孔(11)は、ほぼ正方形に設計されており、シリコンコア(12A)を有する壁の枠(12)は、ほぼ正方形または長方形であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
DNA、蛋白質、およびリガンドからなるグループから選択された捕捉分子が、枠(12)内に位置する少なくとも1つの孔(11)に共有結合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記捕捉分子がオリゴヌクレオチドプローブであることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
少なくとも生化学反応または結合のいずれかを検出するための方法、特に、酵素反応、核酸ハイブリダイゼーション、蛋白質間相互作用、ならびに蛋白質リガンド相互作用を調査するための方法での試料を支持する基部として請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置を使用することを特徴とする利用方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置を設ける工程と、
合成材料を支持材の少なくとも1つの孔に導入する工程と、
少なくとも、合成材料を光学励起するために、上記孔に光を照射する工程とを含むことを特徴とする化学的または生化学的な反応、もしくは化学的または生化学的な合成を制御するための方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−532926(P2007−532926A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508742(P2007−508742)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【国際出願番号】PCT/EP2005/002390
【国際公開番号】WO2005/100994
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(506211850)キモンダ アクチエンゲゼルシャフト (110)
【Fターム(参考)】