説明

不飽和ポリエステル樹脂組成物

【課題】剛性、耐熱性,及び機械特性、特に靱性などが高いレベルでバランスした硬化物を与えることができる不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】α,β−不飽和二塩基酸又はその無水物から選ばれた少なくとも一種(A−1)100〜20モル%と、飽和二塩基酸、芳香族二塩基酸又はその無水物から選ばれた少なくとも一種(A−2)0〜80モル%とからなる二塩基酸成分(A)と、分岐構造をもつ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)40〜85モル%、及びグリセリン(B−2)を15〜50モル%含む多価アルコール成分(B)とを反応させてなる不飽和ポリエステルと、重合性不飽和単量体(C)を含むことを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い剛性と靱性を兼ね備えた硬化物を与えることが出来る不飽和ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステル樹脂は、例えば建設資材,輸送機器,工業機材などに用いられるFRP(繊維強化プラスチック)の基材として、あるいは注型,塗料,接着剤,化粧板用などとして幅広く用いられている。この不飽和ポリエステル樹脂は、一般に多価アルコールからなるアルコール成分と、α,β−不飽和多価カルボン酸類及び飽和多価カルボン酸類や芳香族多価カルボン酸類からなる酸成分とを重縮合させて得られた不飽和ポリエステルに、ラジカル重合性モノマー、一般的にはスチレンを配合することによって得られる液状樹脂である。そして、上記不飽和ポリエステルの製造において用いられる多価アルコール、α,β−不飽和多価カルボン酸類及び飽和多価カルボン酸類や芳香族多価カルボン酸類の種類と使用量の比率を変えることによって、各種の使用目的に適した物性を有する、あるいは使用目的に適した成形方法により成形可能な不飽和ポリエステル樹脂組成物を製造することができる。
【0003】
例えば、柔軟性、靭性が要求される用途においてはアジピン酸、セバシン酸のような長い直鎖状の飽和二塩基酸、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールの様なグリコールを使用するなどの方法が一般に採用されている(特許文献1参照)。
しかしながら、これらの原料を使用すると硬化樹脂の耐熱性が低下するばかりでなく耐水性、耐薬品性も劣る傾向を有している。
【0004】
一方、耐熱性や剛性などが要求される用途においては、不飽和酸、ジ及び/又はトリアルキレングルコール、ジシクロペンタジエンの各成分からなる不飽和ポリエステル樹脂とし、酸成分中の不飽和二塩基酸の比率を高める(特許文献2参照)、飽和二塩基酸としてテレフタル酸やイソフタル酸などを用いる(特許文献3参照)、多価アルコール成分として、メチル基やエチル基を分岐構造に持つプロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオールなどを用いる(特許文献4参照)、希釈用モノマーとして、ジビニルベンゼンやトリアリルイソシアヌレートなどの多官能性モノマーを併用する(特許文献5参照)などの方法が一般に採用されている。しかし、それらいずれの樹脂を用いた場合においても、機械特性の伸び率や靱性が低下する傾向を示す。
【0005】
また、更に高いレベルでの強度、弾性率のアップが要求される場合においては、多価アルコール成分として上述の二価のアルコールと三価以上の多価アルコールを併用し、かつ二価アルコールに対する三価以上の多価アルコールのモル比が0.2以下となる条件下で用いられる(特許文献6参照)。多価アルコール成分の一部に三価以上の多価アルコールを併用することにより、不飽和ポリエステルの主骨格中に部分的に(分岐)架橋した構造を持たせることが可能となり、硬化物となる際、スチレンなどのモノマーを介して架橋するよりも、剛性が向上し高弾性率となり得る。
しかし、その一方で使用量が多くなりすぎると柔軟性に乏しくなる傾向にある。
また、もう一つの懸念事項としては、不飽和ポリエステルの合成時に分子量が高くなり過ぎたり、ゲル化し易くなるという傾向を有している。
【0006】
このような理由から、これまで不飽和ポリエステル製造時の原材料として3価以上の多価アルコールの使用量は少量に制限されており、グリセリンに代表される三価以上の多価アルコールを使用することによって得られる高い剛性と靱性を兼ね備えた硬化物を与える不飽和ポリエステル樹脂を製造することが出来ずにいた。
【0007】
一方、グリセリンにはヤシの実などの植物油脂を原料とした天然グリセリンと、石油を原料とする合成グリセリンとがある。
天然グリセリンは、近年では環境問題の観点から特に欧米などで広く普及しつつあるバイオディーゼル燃料の製造時に副産物として産出される。バイオディーゼル燃料とは、原料である植物油脂にメタノールを添加し、アルカリ触媒により脂肪酸のメチルエステル変換反応を行うことにより得られる脂肪酸メチルエステル類のことであり、地球温暖化防止の観点からディーゼルエンジンを稼働させることができる軽油の代替えとなるカーボンニュートラルな燃料として注目されている。カーボンニュートラルとは植物などを燃やしても大気中の二酸化炭素量は増えないという原理であり、これは地球温暖化防止を考える際の最も基本となる考えである。
以上の観点からも、今後更なる普及が予想されるバイオディーゼル燃料の副産物である、グリセリンの有効利用技術の確立が極めて重要な課題になっている。
【0008】
【特許文献1】特開平9−254106号公報
【特許文献2】特開2000−095928号公報
【特許文献3】特開2003−26741号公報
【特許文献4】特開平6−144956号公報
【特許文献5】特開平9−227665号公報
【特許文献6】特公昭62−5454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のグリセリンの有効利用に鑑み、本発明の目的とするところは、不飽和ポリエステル樹脂の原材料として3価以上の多価アルコールの使用量を増やしても安定的に合成可能であり、剛性、耐熱性,及び機械特性、特に靱性などが高いレベルでバランスした硬化物を与えることができる不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究したところ、二塩基酸成分(A)と、分岐構造をもつ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)40〜85モル%、及びグリセリン(B−2)を15〜50モル%含む多価アルコール成分(B)とを反応させてなる不飽和ポリエステルと、ラジカル重合性不飽和単量体(C)を含む不飽和ポリエステル樹脂組成物とすることで解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)α,β−不飽和二塩基酸又はその無水物から選ばれた少なくとも一種(A−1)100〜20モル%と、飽和二塩基酸、芳香族二塩基酸又はその無水物から選ばれた少なくとも一種(A−2)0〜80モル%とからなる二塩基酸成分(A)と、分岐構造をもつ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)40〜85モル%、及びグリセリン(B−2)を15〜50モル%含む多価アルコール成分(B)とを反応させてなる不飽和ポリエステルと、ラジカル重合性不飽和単量体(C)を含むことを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物、
(2)二塩基酸成分(A)と多価アルコール成分(B)とを実質上当モルの割合で反応させて不飽和ポリエステルを形成させる前記(1)に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物、
(3)分岐構造を持つ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)における分岐構造部位がアルキル基であり、該アルキル基の炭素原子数に当該分岐構造を持つ二価アルコールの配合モル%を乗じた値の合計である側鎖アルキル基炭素の総モル数が100モル%以上である前記(1)又は(2)に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物、
(4)分岐構造を持つ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)が、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、ジプロピレングリコール、及び3−メチル−1,5−ペンタンジオールの群から選ばれる1つ又はこれらの混合物である請求項1〜3のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物、及び
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物を硬化してなることを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂硬化成形品、
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、3価の多価アルコールであるグリセリンの使用量を増やしても安定的に合成可能であり、剛性、耐熱性,及び機械特性、特に靱性などが高いレベルでバランスした硬化物を与えることができる不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供することができる。また、今後更なる普及が予想されるバイオディーゼル燃料の副産物である、グリセリンの有効利用技術を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物においては、α,β−不飽和二塩基酸又はその無水物から選ばれた少なくとも一種(A−1)100〜20モル%と、飽和二塩基酸、芳香族二塩基酸又はその無水物から選ばれた少なくとも一種(A−2)0〜80モル%とからなる二塩基酸成分(A)と、分岐構造をもつ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)40〜85モル%、及びグリセリン(B−2)を15〜50モル%含む多価アルコール成分(B)とを反応させてなる不飽和ポリエステルと、ラジカル重合性不飽和単量体(C)を必須成分として含む。
【0013】
本発明に使用できる二塩基酸成分(A)としては、α,β−不飽和二塩基酸又はその無水物から選ばれた少なくとも一種(A−1)と、飽和二塩基酸、芳香族二塩基酸又はその無水物から選ばれた少なくとも一種(A−2)との組み合わせが好ましい。
上記α,β−不飽和二塩基酸(A−1)の例としては、マレイン酸,フマール酸,イタコン酸,シトラコン酸,クロロマレイン酸などが好ましく挙げられる。また、これらの無水物の例としては、無水マレイン酸,無水イタコン酸,無水クロロマレイン酸などの酸無水物などが挙げられる。これらのα,β−不飽和二塩基酸やその無水物は一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、一般的には無水マレイン酸やフマール酸が使用される。
α,β−不飽和二塩基酸(A−1)の二塩基酸成分(A)における使用モル比は、硬化した成型品の耐熱性、剛性の観点から100〜20モル%で選ばれ、特に70〜40モル%の範囲が好ましい。
【0014】
一方、(A−2)の飽和二塩基酸の例としては、コハク酸,アジピン酸,セバシン酸,ヘッド酸,テトラヒドロフタル酸,エンドメチレンテトラヒドロフタル酸などが挙げられ、芳香族二塩基酸の例としては、フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,ナフタレンジカルボン酸,テトラブロモフタル酸のようなハロゲン化フタル酸などが挙げられる。また、これらの無水物の例としては、無水コハク酸,テトラヒドロ無水フタル酸,エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸,無水フタル酸,テトラブロモ無水フタル酸のようなハロゲン化無水フタル酸などの酸無水物などが挙げられる。これらの飽和二塩基酸や芳香族二塩基酸やそれらの無水物は一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
飽和二塩基酸、芳香族二塩基酸又はその無水物から選ばれた一種(A−2)の二塩基酸成分(A)における使用モル比は、硬化した成型品の強度、靱性の観点から0〜80モル%が好ましく、特に30〜60モル%の範囲が好ましい。
【0015】
本発明の不飽和ポリエステルにおいては、多価アルコール成分(B)として、分岐構造をもつ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)40〜85モル%及びグリセリン(B−2)15〜50モル%を必須成分として含むものが用いられる。
【0016】
分岐構造をもつ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)としては、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、ジプロピレングリコール、及び3−メチル−1,5−ペンタンジオールから成る群から選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0017】
また、本発明では、上記の分岐構造をもつ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)以外に、本発明の特徴が損なわれない範囲で必要に応じて、他の二価アルコール(B−3)、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物;ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物、水添ビスフェノールAなどのグリコールなどを用いることができる。上記二価アルコールは、単独もしくは2種以上併用して用いられる。
【0018】
グリセリン(B−2)は、三価以上の多価アルコールの1つであるが、1級水酸基2つと2級水酸基1つを有しているため、これらの2種類の水酸基は二塩基酸成分との縮合反応の際、異なる反応性を示す。この点が他の三価以上の多価アルコールと異なる点であり、他の三価以上の多価アルコールより使用量を増やしてもゲル化することなく、安定的に合成が可能となる特徴につながっている。本発明に用いられるグリセリンとしては、ヤシの実などの植物油脂を原料とした天然グリセリン、石油を原料とする合成グリセリンのいずれであってもよいが、前記の環境資源問題から天然グリセリンの使用が薦められる。
【0019】
本発明においては、本発明の特徴を損なわない範囲でグリセリン以外の三価以上の多価アルコールを併用して用いても良い。グリセリンの他にはトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジペンタエリスリトールなどを挙げることができる。
【0020】
多価アルコール成分における、分岐構造をもつ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)とグリセリン(B−2)の使用割合は、前者が40〜85モル%、後者が15〜50モル%である。
分岐構造をもつ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)の使用量が、40モル%未満では不飽和ポリエステル合成時の安定性が十分に得られないばかりでなく、硬化物に対する耐水性、耐溶剤性付与効果が十分に発揮されない。また、得られる不飽和ポリエステルのスチレンに対する溶解性も悪くなる。逆に85モル%を越えるとグリセリンの使用量が少なくなる分、硬化物の剛性がそれ程上がらず、本発明の特徴である高い剛性と靱性を兼ね備えた硬化物が得られなくなる。
【0021】
分岐構造を持つ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)としては、前述の群から選ばれる少なくとも1種が用いられるが、その選定においては1種類の場合においても2種類以上を併用した場合においても、分岐構造部位のアルキル基の炭素原子数に、当該分岐構造を持つ炭素数3以上の脂肪族二価アルコールの配合モル%を乗じた値の合計を「側鎖アルキル基炭素の総モル数」と定義し、当該「側鎖アルキル基炭素の総モル数」が100モル%以上となるように選定することが好ましい。
すなわち、ここで言う側鎖アルキル基炭素の総モル数とは、例えば側鎖が炭素原子を1個含む1,2−プロパンジオールのみを30モル%使用した場合には、側鎖アルキル基炭素の総モル数は、1×30=30モル%、側鎖が炭素原子を2個含む1、2-ブタンジオールやネオペンチルグリコールのみをそれぞれ30モル%使用した場合には、側鎖アルキル基炭素の総モル数は、2×30=60モル%と計算し、2種類以上を併用した場合にはそれぞれを合計した数値が、側鎖アルキル基炭素の総モル数である。
側鎖アルキル基炭素の総モル数が100モル%未満では、不飽和ポリエステル合成時の安定性が十分に得られ難いばかりでなく、硬化物に対する耐水性、耐溶剤性付与効果が十分に発揮され難い。また、得られる不飽和ポリエステルのスチレンに対する溶解性も悪くなる傾向がある。
【0022】
多価アルコール成分(B)におけるグリセリン(B−2)の使用割合が15モル%以上であれば、所望の物性の硬化物が得られ、50モル%以下であれば、ゲル化などがなく不飽和ポリエステルの合成が可能である。
【0023】
本発明の不飽和ポリエステルは、前記二塩基酸成分(A)と多価アルコール成分(B)とを実質上当モルの割合で反応させて重縮合させることにより製造することができる。
この重縮合反応は、常法に従い、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、160〜230℃程度の温度において、必要に応じ、加圧下又は減圧下で行なわれる。この際、必要に応じエステル化触媒を使用することができる。このエステル化触媒としては、例えば酢酸マンガン,ジブチル錫オキシド、シュウ酸第一錫,酢酸亜鉛,酢酸コバルトなどの公知の触媒が挙げられる。このようにして得られる不飽和ポリエステルの分子量は、ゲルパミエーションクロマトグラフィー法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常1000〜50000、好ましくは2000〜25000の範囲である。
【0024】
次に、前記不飽和ポリエステルに、この不飽和ポリエステルと共重合可能なラジカル重合性不飽和単量体を配合することにより、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物が得られる。この不飽和ポリエステル樹脂組成物に用いられるラジカル重合性不飽和単量体(C)(以下、「ラジカル重合性モノマー」ということがある。)としては、例えばスチレン,ビニルトルエン,クロロスチレン,ジクロロスチレン,t−ブチルスチレン,ビニルナフタレン,エチルビニルエーテル,メチルビニルケトン,メチルメタクリレート,エチルアクリレート,エチルメタクリレート,アクリロニトリル,メタクリロニトリルなどのビニル化合物、ジアリルフタレート,ジアリルテレフタレート,ジアリルサクシネート,トリアリルシアヌレートなどのアリル化合物及びそれらのオリゴマーなどが挙げられる。これらのラジカル重合性モノマーは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、一般的にはスチレンあるいはジアリルフタレートが好ましく用いられる。本発明の不飽和ポリエステル樹脂における上記ラジカル重合性モノマーの含有量としては特に制限はなく、組成物の粘度や用途に応じて適宜選定されるが、一般的には不飽和ポリエステル100質量部当たり、10〜300質量部、好ましくは20〜200質量部の範囲である。また、該樹脂組成物の粘度は、通常温度25℃で10〜100000mPa・s(ミリパスカル・秒)、好ましくは50〜50000mPa・sの範囲である。
【0025】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物には、所望により、重合禁止剤を添加することができる。この重合禁止剤としては、従来不飽和ポリエステル樹脂組成物に慣用されているもの、例えばハイドロキノン;p−ベンゾキノン;メチルハイドロキノン;トリメチルハイドロキノン;t−ブチルハイドロキノン;カテコール;p−t−ブチルカテコール;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどが挙げられる。
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物を硬化させるには、従来、不飽和ポリエステル樹脂組成物に慣用されている硬化剤及び硬化促進剤を添加すれば硬化できるが、さらに必要に応じて適当な温度に加熱してもよい。上記硬化剤の例としては、メチルエチルケトンパーオキシド,アセチルアセトンパーオキシド,t−ブチルパーオキシベンゾエート,ベンゾイルパーオキシド,ジクミルパーオキシド,クメンハイドロパーオキシドなどの有機過酸化物が挙げられる。
【0026】
一方、硬化促進剤の例としては、ナフテン酸コバルト;オクテン酸コバルト;N,N−ジメチルアニリン;N,N−ジエチルアニリン;N,N−ジメチル−p−トルイジン;アセチルアセトン;アセト酢酸エチルエステルなどが挙げられる。
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物の使用に際しては、用途に応じて、ガラス繊維,炭素繊維,ポリエステル繊維,アラミド繊維などの無機又は有機繊維補強材,炭酸カルシウム,水酸化アルミニウムなどの充填剤、ポリスチレン,ポリ酢酸ビニル,ポリブタジエンなどの熱可塑性樹脂などを、適宜配合することができる。
さらに、必要に応じ、本発明の目的が損なわれない範囲で、揺変性付与剤,顔料,離型剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤,含浸剤,消泡剤などの各種添加剤を配合することができる。このような添加成分が配合された不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形方法としては、例えばハンドレイアップ成形法,スプレーアップ成形法,フィラメントワインディング成形法,レジンインジェクション成形法,レジントランスファー成形法,引き抜き成形法,真空成形法,圧空成形法,圧縮成形法,インジェクション成形法,注型法などを適用することができる。本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物の用途としては、例えばゲルコート,塗料,化粧板,舟艇,船舶,住宅設備(浴槽,浄化槽,水回り品など),タンク容器,自動車車両部品,レジンコンクリート,電気電子部品,土木建築材料、さらにはBMC(Bulk Molding Compound),SMC(Sheet Molding Compound)などの成形材料などが挙げられる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物の物性は、以下の要領に従って求めた。
【0028】
合成例1
温度計、撹拌機、不活性ガス導入口及び還流冷却器を備えた四口フラスコに無水マレイン酸70モルと、オルソフタル酸30モル、1,2−プロパンジオール25モル、1,2−ブタンジオール50モル、グリセリン25モルとを仕込み、210℃で脱水縮合反応して酸価が35mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。
フラスコ内温度が140℃以下になった時点で、仕込み全量に対して0.03質量部のハイドロキノン、及び組成物中のスチレン含量が40質量%になるようスチレンモノマーを仕込み、不飽和ポリエステル樹脂組成物G−1を得た。
【0029】
合成例2
合成例1と同様の反応装置に無水マレイン酸65モルと、オルソフタル酸35モル、1,2−ブタンジオール40モル、エチレングリコール15モル、ジプロピレングリコール10モル、グリセリン35モルとを仕込み、210℃で脱水縮合反応して酸価が25mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。フラスコ内温度が140℃以下になった時点で、仕込み全量に対して0.03質量部のハイドロキノン、組成物中のスチレン含量が40質量%になるようスチレンモノマーを仕込み、不飽和ポリエステル樹脂組成物G−2を得た。
【0030】
合成例3
合成例1と同様の反応装置に無水マレイン酸50モルと、オルソフタル酸50モル、1,2−ブタンジオール50モル、ジプロピレングリコール10モル、グリセリン40モルとを仕込み、210℃で脱水縮合反応して酸価が35mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。フラスコ内温度が140℃以下になった時点で、仕込み全量に対して0.03質量部のハイドロキノン、組成物中のスチレン含量が40質量%になるようスチレンモノマーを仕込み、不飽和ポリエステル樹脂組成物G−3を得た。
【0031】
合成例4
合成例1と同様の反応装置に無水マレイン酸60モルと、オルソフタル酸40モル、1,2−プロパンジオール20モル、1,2−ブタンジオール40モル、2-メチル-1,3-プロパンジオール15モル、エチレングリコール10モル、グリセリン15モルとを仕込み、210℃で脱水縮合反応して酸価が30mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。フラスコ内温度が140℃以下になった時点で、仕込み全量に対して0.03質量部のハイドロキノン、組成物中のスチレン含量が40質量%になるようスチレンモノマーを仕込み、不飽和ポリエステル樹脂組成物G−4を得た。
【0032】
合成例5
合成例1と同様の反応装置に無水マレイン酸60モルと、オルソフタル酸40モル、1,2−プロパンジオール10モル、2-メチル-1,3-プロパンジオール20モル、エチレングリコール15モル、ジエチレングリコール20モル、グリセリン35モルとを仕込み、210℃で脱水縮合反応して酸価が20mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。フラスコ内温度が140℃以下になった時点で、仕込み全量に対して0.03質量部のハイドロキノン、組成物中のスチレン含量が40質量%になるようスチレンモノマーを仕込み、不飽和ポリエステル樹脂組成物G−5を得た。
【0033】
合成例6
合成例1と同様の反応装置に無水マレイン酸50モルと、オルソフタル酸50モル、エチレングリコール20モル、1,2−ブタンジオール35モル、2-メチル-1,3-プロパンジオール35モル、グリセリン10モルとを仕込み、210℃で脱水縮合反応して酸価が25mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。フラスコ内温度が140℃以下になった時点で、仕込み全量に対して0.03質量部のハイドロキノン、組成物中のスチレン含量が40質量%になるようスチレンモノマーを仕込み、不飽和ポリエステル樹脂組成物G−6を得た。
【0034】
合成例7
合成例1と同様の反応装置に無水マレイン酸40モルと、オルソフタル酸60モル、1,2−ブタンジオール45モル、グリセリン55モルとを仕込み、210℃で脱水縮合反応をしたところ、反応の途中でゲル化した。
【0035】
合成例8
合成例1と同様の反応装置に無水マレイン酸50モルと、オルソフタル酸50モル、1,2−プロパンジオール25モル、エチレングリコール25モル、1,2−ブタンジオール50モルを仕込み、210℃で脱水縮合反応して酸価が35mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。フラスコ内温度が140℃以下になった時点で、仕込み全量に対して0.03質量部のハイドロキノン、組成物中のスチレン含量が40質量%になるようスチレンモノマーを仕込み、不飽和ポリエステル樹脂組成物G−8を得た。
【0036】
合成例9
合成例1と同様の反応装置に無水マレイン酸50モルと、オルソフタル酸50モル、エチレングリコール20モル、1,3−ブタンジオール30モル、ジエチレングリコール15モル、グリセリン35モルを仕込み、210℃で脱水縮合反応して酸価が35mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。フラスコ内温度が140℃以下になった時点で、仕込み全量に対して0.03質量部のハイドロキノン、組成物中のスチレン含量が40質量%になるようスチレンモノマーを仕込み、不飽和ポリエステル樹脂組成物G−9を得た。
【0037】
合成例10
合成例1と同様の反応装置に無水マレイン酸50モルと、オルソフタル酸50モル、ジプロピレングリコール10モル、1,2−ブタンジオール40モル、エチレングリコール10モル、トリメチロールプロパン40モルを仕込み、210℃で脱水縮合反応して酸価が30mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。フラスコ内温度が140℃以下になった時点で、仕込み全量に対して0.03質量部のハイドロキノン、組成物中のスチレン含量が40質量%になるようスチレンモノマーを仕込み、不飽和ポリエステル樹脂組成物G−10を得た。
得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物の組成を表1にまとめて示す。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1〜4、比較例1〜6
合成例1〜10で得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物の各種特性を評価した。
【0040】
<合成の可否>
脱水縮合反応の可否を評価した。
○:重量平均分子量が5000〜25000(安定的に合成可能)
△:重量平均分子量が25000超(高分子量体が出来やすく、再現性、分子量の調整に難あり。)
ゲル化:合成中にゲル化
<試験片の作製>
合成例1〜6、8〜10で得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物100質量部に、ナフテン酸コバルト1.0質量部及び55質量%メチルエチルケトンパーオキシド2.0質量部を均一に混合し、この混合物を厚さ4mmの板状硬化物、13mm角、15mm角の棒状硬化物が得られるように組んだ型にそれぞれ流し込み、25℃で16時間放置後、120℃にて2時間硬化させた。
<物性>
(1)保存安定性
不飽和ポリエステル樹脂組成物500gを蓋付きガラス瓶に採取し、25℃及び10℃の雰囲気中に3ヶ月間保存し、下記の判定基準に従って安定性を評価した。
判定基準
○:変化なし
△:少し変化あり(白濁、粘度上昇)
×:大きく変化あり(結晶化、流動性なし)
【0041】
(2)引張り強度、引張り弾性率、伸び率
前記厚さ4mmの板状硬化物から試験片を切削加工し、JIS K 6911に準拠し、引張り試験を行い、引張り強度、引張り弾性率及び伸び率を測定した。
(3)曲げ強度,曲げ弾性率
前記厚さ4mmの板状硬化物から試験片を切削加工し、JIS K 6911に準拠し、曲げ試験を行い、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
(4)熱変形温度
前記13mm角の棒状硬化物から試験片を切削加工し、JIS K 6911に準拠し、熱変形温度を測定した。
(5)耐衝撃性
前記15mm角の棒状硬化物から試験片を切削加工し、JIS K 6911に準拠し、シャルピー衝撃強度(ノッチあり)を評価した。
(6)耐熱水性
前記試験片について、100℃の連続煮沸試験を300時間行ったのち、量変化率と外観変化〔膨れ(ブリスター)、クラックの発生の有無の確認〕の測定を行い、外観変化は下記の判定基準で評価した。
○:変化なし
△:少し変化あり(膨れ、クラックが5cm角の試験片中に20個未満発生)
×:大きく変化あり(膨れ、クラックが5cm角の試験片中に20個以上発生)
【0042】
(7)耐溶剤性
前記試験片について、25℃のスチレン浸漬試験を800時間行ったのち、質量変化率と外観変化の測定を行い、外観変化は下記の判定基準で評価した。
○:変化なし
△:少し変化あり(膨れ、クラックが5cm角の試験片中に20個未満発生)
×:大きく変化あり(膨れ、クラックが5cm角の試験片中に20個以上発生)
【0043】
〔モルタル注型硬化物の評価〕
合成例1〜6、8〜10で得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物100質量部に、6質量%ナフテン酸コバルト0.15質量部、水酸化アルミニウム(商品名 ハイジライトH−100、昭和電工社製品)200質量部、及び硬化剤として55質量%メチルエチルケトンパーオキサイド(商品名 パーメックN、日本油脂社製)1.0質量部を加え、2.7kPaの減圧下で5分間真空脱泡処理しながら攪絆混合して注型用の樹脂組成物を得た後、平板の形状で15mm厚みに設定された注型用金型内に注入充填し、25℃で16時間放置後、120℃にて2時間硬化させた。
(8)曲げ強度,曲げ弾性率
前記試験片について、JIS K 6911に準拠し、曲げ試験を行い、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
(9)成形品の耐衝撃性
前記試験片について耐衝撃性は、JIS K 7111に準拠しシャルピー衝撃強度(ノッチなし、フラットワイズ法)で評価した。
実施例及び比較例の結果をまとめて表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例1〜4においては、剛性、耐熱性,及び機械特性、特に靱性などが高いレベルでバランスした硬化物を得ることが出来た。
比較例1は、合成安定性が低くやや高分子量となってしまい、靭性、耐衝撃性は低かった。比較例2はグリセリンの使用量が少ないため高弾性とならず、その他の物性も不十分であった。比較例3はグリセリンの使用量が多いためゲル化した。比較例4はグリセリンを使用していないため、高弾性とならず、その他の物性も不十分であった。比較例5は、分岐グリコールの総モル数が30モル%と低く、かつ側鎖アルキル基炭素の総モル数が30モル%と低いためか合成安定性が低くやや高分子量となってしまい、靭性、耐衝撃性は低かった。比較例6は、グリセリン以外の3価アルコールを使用したため、合成安定性が低くやや高分子量となってしまい、靭性、耐衝撃性は低かった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、3価の多価アルコールであるグリセリンの使用量を増やしても安定的に合成可能であり、剛性、耐熱性,及び機械特性、特に靱性などが高いレベルでバランスした硬化物を与えることができる不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供でき、例えばゲルコート,塗料,化粧板,舟艇,船舶,住宅設備(浴槽,浄化槽,水回り品など),タンク容器,自動車車両部品,レジンコンクリート,電気電子部品,土木建築材料、さらにはBMC(Bulk Molding Compound),SMC(Sheet Molding Compound)などの成形材料などに好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−不飽和二塩基酸又はその無水物から選ばれた少なくとも一種(A−1)100〜20モル%と、飽和二塩基酸、芳香族二塩基酸又はその無水物から選ばれた少なくとも一種(A−2)0〜80モル%とからなる二塩基酸成分(A)と、分岐構造をもつ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)40〜85モル%、及びグリセリン(B−2)を15〜50モル%含む多価アルコール成分(B)とを反応させてなる不飽和ポリエステルと、ラジカル重合性不飽和単量体(C)を含むことを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
二塩基酸成分(A)と多価アルコール成分(B)とを実質上当モルの割合で反応させて不飽和ポリエステルを形成させる請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
分岐構造を持つ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)における分岐構造部位がアルキル基であり、該アルキル基の炭素原子数に当該分岐構造を持つ二価アルコールの配合モル%を乗じた値の合計である側鎖アルキル基炭素の総モル数が100モル%以上である請求項1又は2に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
分岐構造を持つ炭素数3以上の脂肪族二価アルコール(B−1)が、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、ジプロピレングリコール、及び3−メチル−1,5−ペンタンジオールの群から選ばれる1つ又はこれらの混合物である請求項1〜3のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物を硬化してなることを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂硬化成形品。

【公開番号】特開2009−67918(P2009−67918A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238973(P2007−238973)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】