説明

両性イオン交換樹脂の運転方法

【課題】両性イオン交換樹脂の設置コスト及び運転コストを低く抑えることができ、その取り扱いも容易となる両性イオン交換樹脂の運転方法を提供する。
【解決手段】カルシウムイオンを含む溶液を両性イオン交換樹脂4に通過させ、カルシウムイオン濃度の低い溶液と、カルシウムイオン濃度の高い溶液とに分離するにあたり、両性イオン交換樹脂の樹脂量に対するカルシウムイオンを含む溶液の通水量Rを0.5以上2.5以下に制御する。カルシウムイオンを含む溶液は、塩水であってもよく、この塩水は、最終処分場の浸出水、焼却灰又は/及び塩素バイパスダストを水洗して得られたろ液、海水から塩を回収する塩回収設備の塩水等とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両性イオン交換樹脂の運転方法に関し、特に、最終処分場やセメント製造工程等においてカルシウムに起因するスケールの発生を防止するために用いられる両性イオン交換樹脂の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塩水等において硫酸根(SO42-)と塩化ナトリウムとを分離する目的で両性イオン交換樹脂が用いられている。この両性イオン交換樹脂は、母体を架橋ポリスチレン等とし、同一官能基鎖中に四級アンモニウム基とカルボン酸基等を持たせて、陽イオン陰イオンの両方とイオン交換をさせる機能を持たせた樹脂であり、「イオン遅滞樹脂」や「スネークケージ樹脂」とも呼ばれ、異なる種類のイオンの樹脂内での通過速度の違いを利用したクロマト分離を行うものである。例えば、三菱化学株式会社製の両性イオン交換樹脂、ダイヤイオン(登録商標)、AMP03を用いることができる。この両性イオン交換樹脂は、水溶液中の電解質と非電解質の分離を行うことができると共に、電解質の相互分離を行うこともできる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記塩水における硫酸根と塩化ナトリウムとの分離等の際には、通常、両性イオン交換樹脂の樹脂量に対する処理液(塩水)の投入量Rを0.1〜0.3に調整して両性イオン交換樹脂の分離性能を良好に維持しているため、大量の塩水を処理するには、高価な樹脂を多く必要とし、設置コスト及び運転コストの面で改善の余地があった。
【0004】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、両性イオン交換樹脂の設置コスト及び運転コストを低く抑えることなどが可能な両性イオン交換樹脂の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、両性イオン交換樹脂の運転方法であって、カルシウムイオンを含む溶液を両性イオン交換樹脂に通過させ、カルシウムイオン濃度の低い溶液と、カルシウムイオン濃度の高い溶液とに分離するにあたり、該両性イオン交換樹脂の樹脂量に対する前記カルシウムイオンを含む溶液の通水量を0.5以上2.5以下に制御することを特徴とする。
【0006】
そして、本発明によれば、両性イオン交換樹脂の樹脂量に対するカルシウムイオンを含む溶液の通水量を0.5以上2.5以下にしたため、カルシウムイオンの分離にあたり、高価な樹脂の必要量を低減することで、両性イオン交換樹脂の設置コスト及び運転コストを低く抑えることができる。また、両性イオン交換樹脂のカラムを小型化できるため、両性イオン交換樹脂の取り扱いが容易となる。尚、両性イオン交換樹脂の樹脂量に対するカルシウムイオンを含む溶液の通水量が2.5を超えると、カルシウムの交換能力が不足して分離性能が低下するため好ましくない。
【0007】
上記両性イオン交換樹脂の運転方法において、前記カルシウムイオンを含む溶液を塩水とすることができる。
【0008】
また、前記塩水は、最終処分場の浸出水、焼却灰又は/及び塩素バイパスダストを水洗して得られたろ液、海水から塩を回収する塩回収設備の塩水とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、両性イオン交換樹脂の設置コスト及び運転コストを低く抑えることができ、その取り扱いも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明にかかる両性イオン交換樹脂の運転方法を適用した最終処分場の浸出水処理システムを示すフローチャートである。
【図2】両性イオン交換樹脂の動作を説明するための概略図である。
【図3】図2に示す両性イオン交換樹脂の運転例を示すグラフである。
【図4】図2に示す両性イオン交換樹脂の運転例を示すグラフである。
【図5】図2に示す両性イオン交換樹脂の運転例を示すグラフである。
【図6】図2に示す両性イオン交換樹脂の運転例を示すグラフである。
【図7】図2に示す両性イオン交換樹脂の運転例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。尚、以下の説明においては、本発明にかかる運転方法の対象となる両性イオン交換樹脂を最終処分場におけるカルシウムスケールの防止に用いた場合を例にとって説明する。
【0012】
図1は、本発明を適用した最終処分場の浸出水処理システム(以下、「処理システム」と略称する)を示し、この処理システム1は、最終処分場2からの浸出水W1を貯留する調整槽3と、調整槽3からの浸出水W2をカルシウムイオン濃度の高い溶液(以下「カルシウム含有水」という)L3と、カルシウムイオン濃度が低くSO42-濃度の高い溶液(以下「SO4含有水」という)L4とに分離する両性イオン交換樹脂4と、両性イオン交換樹脂4に供給する再生水L5を貯留する再生水タンク5と、両性イオン交換樹脂4から排出されたカルシウム含有水L3及びSO4含有水L4を各々貯留するカルシウム含有水タンク6、SO4含有水タンク7と、重金属除去装置8と、COD処理装置9とを備える。
【0013】
調整槽3は、最終処分場2のごみ層を浸透した雨水等の浸出水W1を集め、浸出水W1の水質、水量の変化を抑えて均一化を図るために備えられ、その前段には、土砂を沈降分離する沈砂槽等が備えられる。
【0014】
両性イオン交換樹脂4は、上記背景技術の欄に記載したものと同様の構成を有し、調整槽3から排出された浸出水W2に含まれるカルシウムを除去するために備えられる。
【0015】
重金属除去装置8は、SO4含有水L4に含まれる鉛等の重金属を除去するために備えられ、薬液反応槽、フィルタープレス等一般的に用いられる装置を利用することができる。
【0016】
COD処理装置9は、重金属除去装置8において重金属が除去されたSO4含有水L4のCODを低下させるために備えられ、一般的な浄化槽等を利用することができる。
【0017】
次に、上記構成を有する処理システム1の動作について、図1を参照しながら説明する。
【0018】
最終処分場2の浸出水W1を調整槽3に集めて水質、水量の変化を抑え、調整槽3から浸出水W2を両性イオン交換樹脂4に供給し、カルシウム含有水L3とSO4含有水L4とに分離する。図2に示すように、この両性イオン交換樹脂4は、バッチ処理を連続的に行うものであって、予め水を充填し(図2(a))、その後、調整槽3より両性イオン交換樹脂4に浸出水W2を導入し、次に両性イオン交換樹脂4の再生を行うための再生水L5を導入する(図2(b))。すると、図2(c)に示すように、まずSO4含有水L4が排出され、その後、カルシウム含有水L3が時間経過とともにこの順序で排出される。
【0019】
ここで、両性イオン交換樹脂4の樹脂量に対する浸出水W2の通水量Rを0.5〜2.5に制御すると共に、SO4含有水L4、カルシウム含有水L3の切換タイミングを、両性イオン交換樹脂4から排出される処理液のCa2+、SO42-、塩化物及びPb2+の濃度の測定結果等に基づいて制御することができる。この両性イオン交換樹脂4の運転例については後述する。両性イオン交換樹脂4から排出されたSO4含有水L4及びカルシウム含有水L3は、各々SO4含有水タンク7及びカルシウム含有水タンク6に一旦貯留する。
【0020】
次に、カルシウム含有水タンク6に貯留したカルシウム含有水L3を放流する。一方、SO4含有水タンク7に貯留したSO4含有水L4は、重金属除去装置8を用いて重金属を除去し、さらにCOD処理装置9でCODを低減した後、放流する。
【0021】
以上のように、上記処理システム1によれば、浸出水W2を両性イオン交換樹脂4を介してカルシウム含有水L3と、SO4含有水L4とに分離した後、各々を別々に処理するため、従来のようにカルシウムを除去するための炭酸ナトリウム等を添加せずにCaSO4によるスケールの発生を最小限に抑えることができ、運転コストを大幅に低減することができる。
【0022】
次に、上記処理システム1に適用した両性イオン交換樹脂4の運転例について説明する。
【0023】
両性イオン交換樹脂4として、上述の三菱化学株式会社製の両性イオン交換樹脂、ダイヤイオンAMP03(カラム径25mm、カラム長さ800mm)を用い、原水として、表1に示す化学成分を有する最終処分場2の浸出水W2を両性イオン交換樹脂4に通液し、両性イオン交換樹脂4の樹脂量に対する浸出水W2の通水量Rを変化させ、両性イオン交換樹脂4を通過した処理液に含まれる各成分の濃度を測定した。その結果を図3〜図7に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
図3は、両性イオン交換樹脂4の樹脂量に対する浸出水W2の投入量Rを0.5に設定した場合の各成分の濃度測定結果を示す。縦軸に各成分の濃度測定結果、横軸に通液量/樹脂量を示し、左側から右側に向かって破線で仕切られた領域が、脱イオン水、SO4含有水L4、カルシウム含有水L3を示している。
【0026】
同図より、SO4含有水L4には、Ca2+がほとんど含まれていないのに対し、カルシウム含有水L3には、僅かながらCa2+が含まれ、浸出水W2を両性イオン交換樹脂4に通過させることで、カルシウムイオン濃度の低い溶液と、カルシウムイオン濃度の高い溶液とに分離できていることが判る。
【0027】
図4は、両性イオン交換樹脂4の樹脂量に対する浸出水W2の投入量Rを0.75に設定した場合の各成分の濃度測定結果を示す。この場合でも、SO4含有水L4には、Ca2+がほとんど含まれていないのに対し、カルシウム含有水L3にはCa2+が多く含まれ、浸出水W2を両性イオン交換樹脂4に通過させることで、カルシウムイオン濃度の低い溶液と、カルシウムイオン濃度の高い溶液とに分離できていることが判る。
【0028】
図5は、両性イオン交換樹脂4の樹脂量に対する浸出水W2の投入量Rを1.0に設定した場合の各成分の濃度測定結果を示す。この場合には、SO4含有水L4には、Ca2+がほとんど含まれていないのに対し、カルシウム含有水L3にはCa2+が大量に含まれ、浸出水W2を両性イオン交換樹脂4に通過させることで、カルシウムイオン濃度の低い溶液と、カルシウムイオン濃度の高い溶液とに明確に分離できていることが判る。
【0029】
図6は、両性イオン交換樹脂4の樹脂量に対する浸出水W2の投入量Rを1.25に設定した場合の各成分の濃度測定結果を示す。この場合にも、上記投入量Rを1.0に設定した場合と同様、SO4含有水L4には、Ca2+がほとんど含まれていないのに対し、カルシウム含有水L3にはCa2+が大量に含まれている。
【0030】
図7は、両性イオン交換樹脂4の樹脂量に対する浸出水W2の投入量Rを1.5に設定した場合の各成分の濃度測定結果を示す。この場合にも、上記投入量Rを1.0又は1.25に設定した場合と同様、SO4含有水L4には、Ca2+がほとんど含まれていないのに対し、カルシウム含有水L3にはCa2+が大量に含まれている。
【0031】
両性イオン交換樹脂4の樹脂量に対する浸出水W2の投入量Rが2.5を超えると、カルシウムの交換能力が不足して分離性能が低下するため、投入量Rは2.5が上限である。
【符号の説明】
【0032】
1 最終処分場の浸出水処理システム
2 最終処分場
3 調整槽
4 両性イオン交換樹脂
5 再生水タンク
6 カルシウム含有水タンク
7 SO4含有水タンク
8 重金属除去装置
9 COD処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオンを含む溶液を両性イオン交換樹脂に通過させ、カルシウムイオン濃度の低い溶液と、カルシウムイオン濃度の高い溶液とに分離するにあたり、該両性イオン交換樹脂の樹脂量に対する前記カルシウムイオンを含む溶液の通水量を0.5以上2.5以下に制御することを特徴とする両性イオン交換樹脂の運転方法。
【請求項2】
前記カルシウムイオンを含む溶液は、塩水であることを特徴とする請求項1に記載の両性イオン交換樹脂の運転方法。
【請求項3】
前記塩水は、最終処分場の浸出水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の両性イオン交換樹脂の運転方法。
【請求項4】
前記塩水は、焼却灰又は/及び塩素バイパスダストを水洗して得られたろ液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の両性イオン交換樹脂の運転方法。
【請求項5】
前記塩水は、海水から塩を回収する塩回収設備の塩水であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカルシウムスケールの防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−245507(P2012−245507A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121687(P2011−121687)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】