説明

両眼複視治療用コンタクトレンズ

本発明は、両眼複視治療用コンタクトレンズであって、患者の眼に着用される際、その眼のコンタクトレンズの配置位置に中心暗点を形成するために、コンタクトレンズを通過する光を劣化させるように構成されている中央領域と、コンタクトレンズを通過する光を前記中央領域より低い程度に劣化させる又は全く劣化させないように構成されている周辺領域を有し、これにより、コンタクトレンズが使用される際、前記患者の眼の視野における映像が、中央部分のみ劣化される又は前記中央部分がその周辺部分より高い程度で劣化されるコンタクトレンズである。さらに、本発明は、当該コンタクトレンズの製造方法及び、当該コンタクトレンズを患者の眼に適用するステップを含む両眼複視の治療方法としての側面を有する。
【選択図面】 図1

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両眼複視を治療するためのコンタクトレンズに関するものである。
【0002】
両眼複視(若しくは複視)は、眼球運動を阻害するどんな障害によってももたらされる可能性のある視覚症状である。
【0003】
この症状は以下の二つの要素によって発症する。第一には、同程度(但し必ずしも平等でなくても良い)の視覚映像がそれぞれの眼を通して知覚されなければならない。第二に、眼球運動は少なくとも注視範囲の一部が非共同でなければならない。従って、両眼が正視である患者であっても、片方若しくは両方の眼球の運動が非共同となり、神経、筋肉若しくは機械的原因により眼球運動が乱れると両眼複視を発症し得る。
【0004】
両眼複視は、以下の二つの影響を患者にもたらす。(a)両眼複視は、知覚される二つの別々の一部重複する映像による干渉が結果として視覚を混乱させる。(b)また、両眼複視は、二視点間の正常な両眼視差による奥行き知覚(立体的視覚)を破壊する。これら二つの両眼複視の影響は、患者と視野内の対象物との間で相対的な眼球運動があった場合に特に重症と成り得る。つまり、その患者は、目眩や視野内の映像のボケを体感し、さらにそれらの映像を解像しようとする脳の活動は、頭痛や精神的疲労をもたらす。
【0005】
上記(a)及び(b)の影響は、眼球の共同運動を回復させること治療することができる。つまり、原因となる障害を取り除くか、外科手術により眼を再調整することにより治療することができる。あるいはまた、眼鏡に装着され片方の眼の中の映像を置き換えその眼のズレ自体を補うプリズムを用いて、両眼によって知覚される二つの映像の照準を合わせることにより治療することができる。
【0006】
しかし、残念なことに、これらの治療方法は一般的に適用することができない。病理的な原因は、根治させることができないことが多く、また、外科手術による治療を行うことができのるは、眼球運動障害が安定している時期(一般的には、少なくとも6月以上の安定性が最初に観察されることが必要とされる)に限られている。同様に、プリズムによる治療は、障害が修復されるか、患者が実際に視覚矯正クリニックに通院する頻度より低い頻度で障害が変化する場合にだけ有効である。その場合でさえ最大限の注視範囲を補うできるというわけではない。
【0007】
従って、多くの患者には、(一時的であっても)代替的な治療方法が必要とされる。即ち、片眼を閉塞した場合、たいていその眼の運動は(ほとんど)機能しない。これは、一般的に、眼鏡の二つのレンズのうちの一つに艶消しのプラスチックテープ(若しくはクリップ式の閉塞具)取り付けたり、障害のある眼を眼帯で覆ったり、若しくはさらに稀なケースでは、完全に閉塞されたコンタクトレンズを障害のある眼に着用することによって行われる。これにより片目から映像は完全に見えなくなるため、その患者は二重の映像を知覚することはなくなるが、立体的視覚も失われたままである。また、当然のことだが、眼帯やクリップ式の閉塞具が第三者に外見上視認され場合に、困惑を引き起こすため、患者は、これらを着用することを嫌う。
【0008】
この片眼を閉塞させる方法は、複視を撤廃するには非常に効果的であるが、美的な観点の不利益を被ることに加え、大きな欠点を抱えている。つまり、片眼の映像は完璧に閉塞されるため、患者の対象物を捉える視野は必然的に大幅に減少する。(両眼で捉えた場合の視野の48%から76%まで減少する。)従って、患者は、閉塞された側の周囲の映像を知覚することができなくなる。これは、周囲の環境と交流するという患者の能力に重大な影響をもたらし、潜在的に事故のリスクも抱えることとなる。
【0009】
従って、閉塞された側の眼の周辺視野の状況を知覚する能力を大幅に抑制することなく、行うことができる両眼複視の治療法が求められている。このような状況下において、より良い治療法が見つかれば、イギリスだけでも毎年の約2万5000人の患者が、潜在的な利益を得ることができると見積もられている。
【発明の概要】
【0010】
願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に定義されているように、本発明の第一の側面は、コンタクトレンズに係る発明である。
すなわち、両眼複視治療用コンタクトレンズであって、患者の眼に着用される際にその眼のコンタクトレンズの配置位置に中心暗点を形成するためにコンタクトレンズを通過する光を劣化させるように構成されている中央領域と、コンタクトレンズを通過する光を前記中央領域より低い程度に劣化させる又は全く劣化させないように構成されている周辺領域を有し、これによりコンタクトレンズが使用される際、前記患者の眼の視野における映像が、中央部分のみ劣化される又は前記中央部分がその周辺部分より高い程度で劣化されるコンタクトレンズを提供する。なお、前記患者の眼の視野における映像は、前記周辺領域において全く劣化されないことが望ましい。
【0011】
本発明に係るコンタクトレンズは、コンタクトレンズを通過する光を前記中央領域より低い程度で劣化させる又は全く劣化させないように構成された周辺領域を有しているため、例えば、障害のある眼を完全に閉塞し、閉塞された眼の周辺視野の状況を知覚する能力を低下させるような従来技術とは全く異なる。
【0012】
また、より望ましい選択的な特徴は従属項において定義されている。
すなわち、ある実施態様においては、前記中央領域が、例えば、入射光線を反射するように、より好ましくは入射光線を吸収するように、入射光線を遮断する構成とすることができる。前記入射光線を吸収する場合においては、前記中央領域には、暗色の顔料若しく顔料以外の暗色の原料を、レンズ内に組み込む若しくはレンズの表面に付着させることができる。また、暗色の顔料若しくは顔料以外の暗色の原料は円盤形状(ディスク)であり、その直径が1mmから6mmであることが望ましい。特に、前記円盤形状の直径は3mmであることが望ましい。
【0013】
上記構成に代え、若しくはこれに加えて、前記中央領域は、例えば屈折によって、入射光線を湾曲させるように構成することができる。前記中央領域は、入射光線を屈折させるために、半球形の凸部(dome region)、突起部(pimple)、半球形の凹部(crater)若しくは窪部(dimple)を含むこととしても良い。
【0014】
上記構成に代え、若しくはこれら加えて、前記中央領域は、例えば回折格子を組み込む事によって、入射光線を回折するように構成することができる。当業者が有する通常の知識に基づき、回折格子は、一連の密集した不透明な点若しくは不透明な平行線によって形成することができる。
【0015】
上記構成に代え、若しくはこれらに加えて、前記中央領域は、入射光線を分散するように構成することができる。従って、前記中央領域は、レンズの中に埋め込まれた光分散媒体を含むこととしても良い。
【0016】
前記レンズは、その中心部が光の劣化の程度が高いもので構成されており、その劣化の程度は、前記レンズの中心部から離れるにつれて、放射状に減少していることが望ましい。前記劣化の程度が急激に不連続的に減少しないことによって、患者が、視野の内で急激な境界線を知覚する可能性が少なくなる。
【0017】
前記劣化の程度は、前記レンズの中心部から離れるにつれて、滑らかに、放射状に減少することとしても良いし、その代わりに、前記レンズの中心部から離れるにつれて、段階的に、放射状に減少することとしても良い。
【0018】
両眼複視治療を治療するために形成されていることと同様に、本発明に係るコンタクトレンズは、屈折の修正を利用して、近視、遠視又は老眼などのような一又は複数の従来の光学異常の治療を行うために形成することもできる。
【0019】
要望があるならば、本発明のコンタクトレンズもまた、通過する光の強度を低下させるため及び/又は知覚される患者の眼の虹彩の色を変化させるために、不透明又は有色にすることができる。
【0020】
本発明の第二の側面は、請求項26に定義したように、コンタクトレンズを製造する方法に係る発明である。
【0021】
本発明の第三の側面である両眼複視を治療する方法は、患者の眼に本発明の第一の側面によるコンタクトレンズの発明を適用する行為を包含する方法に係る発明である。ここで使用されている「患者」という用語は、医師によって認められたか否かを問わず両眼複視により苦しめられた者を全て包含するという意味で広く解釈すべきである。
【0022】
本発明は上記全ての側面において、より望ましい選択的な特徴は従属クレームにおいて定義されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明が適用された第一の実施の形態におけるコンタクトレンズの横断面図と平面図の一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明が適用された第二の実施の形態におけるコンタクトレンズの横断面図と平面図の一例を示す図である。
【図3】図3は、本発明の説明のために人の眼の視力の変化の例を示した図である。黒線は人間の眼の視力を中心窩からの角度との関係で表したものであり、白線は視野全体における光透過率の好ましいパターンを示す。
【図4】図4は、適正な位置に本発明の第一の実施の形態に係るコンタクトレンズが用いられた場合の、人の眼の概要断面図を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下において、出願人が最良と考える実施の形態を示す。しかしながら、これらの実施の形態が、本発明が達成できた唯一の方法ではない。
【0025】
本実施の形態は、人間の患者と人間の眼に関するものとして説明する。
【0026】
患者は、周辺視野における複視をそれほど意識していないことがわかっている。周辺視野の一部は重複しないことも理由として考えられるが、周辺視野における空間分解能が低すぎるという理由の方が大きい。これは、視覚受容体の性質は視野全体にわたり変化するからであり、視覚受容体の中心部、特に中心窩は相対的に高い空間分解能と低い光感受性を有するのに対し、それらの周辺部は低い空間分解能と高い光感受性を有する。
【0027】
前記中心部と周辺部では、図3の黒線によって示されるように、確かに顕著な違いがある。重要なことは、複視の知覚は解像度の高い映像を重ね合わせることにより発生するということであり、従って、空間分解能が極めて低い周辺部では複視を知覚することはない。
【0028】
そこで、発明者は、複視を知覚してしまうことをなくすためには、両眼において障害のある周辺部分はそのままにしておき、片方の眼(通常は運動能力がより損なわれた方の眼)の中心部分の映像の質を低下させることのみが必要であることを発見した。要するに、発明者は、片方の眼の中に医学的に「中心暗点」と呼ばれる人工的な中心視野の欠損を発生させている。
【0029】
本実施の形態によると、図1、2及び4で例示されているように、患者の眼に着用される際にその眼のコンタクトレンズの配置位置に中心暗点を形成するためにコンタクトレンズを通過する光を劣化させるように構成されている中央領域12と、コンタクトレンズを通過する光を前記中央領域より低い程度に劣化させる又は全く劣化させないように構成されている周辺領域14を有し、これにより、コンタクトレンズが使用される際、前記患者の眼30の視野における映像が、中央部分のみ劣化される又は前記中央部分がその周辺部分より高い程度で劣化されるコンタクトレンズ10により達成された。このような構成により、周辺視野における状況の知覚が低下されるという主要な欠点なしで、普遍的な適用性と眼の閉塞による有効な効果を得ることができる。
【0030】
中心暗点の知覚的効果を達成するためには、「中心視覚閉塞具」と呼ばれるものを選択的に視覚の中心部分に使用して、実質的に障害ない周辺の視覚を残したまま、視覚的映像の質を低下させることが必要である。この技術は、視野の全体に渡って閉塞するような従来のコンタクトレンズの技術とは根本的に異なる。
【0031】
まず、二つの重要な要因として、光の劣化の方法と、眼全体における劣化の階調度(グラデーション)のパラメータが考えられる。
【0032】
1・光の劣化方法
この器具の目的は、選択的に片眼の中心部分における視覚品質を低下させることにあるので、両眼が開いた状態で場面を見るときでも、一つの映像だけが患者に知覚される。US 3 034 403のように、単にコンタクトレンズの中央領域の光の強度を低下させる場合、患者の視覚体系が自動的に視覚により得たものを通常のシャープネスの映像に調整するので視覚映像は劣化しない。実際、US 3 034 403に記載された発明の目的は、本発明のように映像の質を低下させるのでなく、映像の質を向上させることを目的とし、視覚体系にとっての必要性を減少させるために視覚により得たものを変化させることにある。
【0033】
映像の質を低下させるため、本発明は、特にその映像の質が左右される中心窩に、光が届く前に遮断若しくは湾曲させるので、中心窩における映像は物体を不十分に表すだけとなる。視覚体系は、高い視覚周波数の変化(たとえば,縁部)に最も敏感であるので、歪みを生じさせる最良の方法は、画像を大きくぼかすものである。そうでなければ、歪んだ映像はある程度知覚され、干渉を引き起こすこととなる。映像の劣化は、光を遮断する若しくは湾曲させるというどちらの手段によっても達成され得る。
【0034】
従って、映像の中心部分は、光の吸収、屈折、反射、分散、又は回折などのような光を遮断若しくは湾曲させるどんな適当な技術によっても劣化させることができる。審美的な外観は、光の吸収若しくは反射を用いた場合が最も良い傾向にある。他の場合においては、少なくとも多少の光がレンズに反射するため、第三者観察者には、患者の眼の中の不透明なレンズの存在が確認される。但し、これらのどの方法も実質的には実現可能であり、患者にとっては同様の知覚的効果をもたらす。ここでは、最初に記載した二つの方法、つまり光の吸収及び屈折に係る方法のみ説明することとする。なお、これら二つの方法が結合できないとする理由はなく、実際には、より詳細な実施態様を組み合わせることにより二つの方法を結合することも可能である。
【0035】
(a)光の吸収方法
図1において例示するように、ソフトコンタクトレンズ10は、黒色又は暗色の顔料、又は顔料以外の他の黒色若しくは暗色の原料が、レンズの中央領域12の物質内に挿入されるように形成されている。あるいはまた、黒色若しくは暗色の顔料又は顔料以外の他の黒色若しくは暗色の原料を、溶着又は他の方法でレンズの中央領域の表面に付着させることもできる。前記顔料又は原料を挿入又は付着させる範囲及びその濃度は、以下の説明のように決定することができる。
【0036】
顔料又は暗色の原料の作用は、患者の眼の中心部に到達する光を、整形画像を伝達することができない程度に不十分なものとし、その結果として、その眼の中心視野で知覚される映像が劣化されるように、入射光線の大部分を吸収することである。
【0037】
また、上記のような着色された領域を有するハードコンタクトレンズを製造することも可能であるが、ソフトコンタクトレンズは患者の眼に表面により密着するため、ソフトコンタクトレンズを用いることが望ましい。レンズの他のパラメータは、装着される眼に比例して、レンズの動きが最小となるようなものが選択される。
【0038】
前記中心視覚閉塞具を組み込むコンタクトレンズは、屈折について中性的なものであっても良いし、他の屈折障害をも修正するために処方により適切に形成されることとしても良い。屈折の修正が必要な場合には、二つのコンタクトレンズを使用し、その内の一つのだけに中心視覚閉塞具を組み込むこととしても良い。他の場合においては、中心視覚閉塞具が組み込まれた一つのコンタクトレンズだけが必要となる。患者が普段から眼鏡を着用している場合、当該眼鏡が必要な屈折の修正の機能を果たすため、中心視覚閉塞具が組み込まれたコンタクトレンズに追加して屈折を修正する機能を設ける必要はない。
【0039】
(b)光の屈折方法
ここでは、通常よりも極めて大きい中央部と周辺部の差や、視力を改善させることを目的とするのではなく、むしろ視力を減退させることを目的とする屈折修正を除き、累進的なコンタクトレンズの技術が用いられている。以下に記載されるように、屈折率差を徐々に低下させることにより,患者の認識で6ディオプトリ差を与えることが,示唆されている。実際には、これは、コンタクトレンズの中央の外側に突出した半球型の凸部の領域又は突出部として達成されることとしても良い。コンタクトレンズの中央の半球径の凹部又は窪部もまたこの目的に適しているが、半球型の凸部の領域又は突出部によって達成されることがより望ましい。
【0040】
中心視覚閉塞のための屈折の方法も、上述した屈折の修正と結合させることとしても良い。
【0041】
以上のような、入射光線を遮断する若しくは湾曲させる方法の代替的なものとしては、反射手段(例えば、鏡面盤)をレンズの前記中央領域内若しくはその表面に組み込むこと、又は回折格子をレンズの中央領域内若しくはその表面に組み込むことを含む。当業者が有する通常の知識に基づき, 回折格子は一連の密集した不透明な点又は不透明な平行線から形成されることとしても良い。
【0042】
2・劣化の階調
従来の閉塞コンタクトレンズは、全視野にわたっての映像の質を低下若しくは撤廃させていた。また米国5056909で説明されている器具のような他の目的で設計された発明は、機能的に重要な視野全体にわたる映像の質を一様に低下若しくは撤廃させていた。本発明の発明者は、この従来技術が、両眼複視の治療に関連して不要かつ望ましくないことを理解していた。視野のどの部分における映像の機能的な効果も、視野のその部分における視力により左右される。つまり、視力が良ければ良いほど、機能的な効果も高くなる。また、眼が正しく整っていないとき、視野のいずれかの部分で両眼複視が発生する可能性もまた視力に比例する。従って、ここでの課題は、視野全体における劣化の空間的なパターンを見つけることにあり、それにより、どの偏心度(eccentricity)における劣化の程度も、その特定の偏心度における視力に正比例するのであり、複視の知覚を撤廃しない。これにより、機能的に重要な視野の最大限の範囲は、劣化されず若しくは多少劣化されただけで残ることとなる。
【0043】
従って、図3に示すように、視野全体のわたる光透過率の最適なパターン(図中、白線で示されたもの)は、最大視力の領域を画像の完全な劣化に対応させた状態において、黒線によって描かれた視力のパターンの逆のパターンに近似する。以下の二つの主要な要素が、この理想のパターンにアプローチする私たちの能力(及び願望)を制限する。
【0044】
第一には、コンタクトレンズは完全に固定されず、通常は角膜との関係で1〜2mm移動するので、劣化の階調は、(正常な視力の機能に完全に一致する場合)この移動を患者に知覚させ、患者は不快感を感じる。従って、この移動を補うために、本発明の構成は、約3.5°〜7°の視角をとることにより、より円滑でより広範な中央部とすることが望ましい。
【0045】
第二には、どの中心視覚閉塞具も、以下の二つの理由で、瞳孔とある程度相互に作用しあうこととなる。最初に、網膜照度における変化の階調は、瞳孔の大きさとともに、増加減少し、線形性が損なわれる。次に、閉塞具の端と瞳孔は回折効果を発生させる。従って、この劣化の機能は、比較的狭い瞳孔径においてのみ理想となる。しかしながら、これらの効果の傾向は、周囲の照明は明るいときには一般的に劣化の量を増加させ、周囲の照明が暗いときには減少させる。そして、これは通常の状態におけるコントラスト感度の変化を反映している。したがって、これらは望まれる場合もある。
【0046】
視力機能が、約15°の偏心度を超えると比較的平坦であることを考えると(図3参照)、どのような場合においてもそれを正確に反映させることは不要であろう。単純に、中央部からの15°の偏心度をカバーする完全に不透明な円盤は、これらの領域で視力を与えられ、回折効果によって、十分に近似して平滑化される。そのような円盤は、その注視軸を中心として直径約3mmとなることが望ましい。(角膜結節点の距離が5.55mmであり網膜結節点の距離が16.67mmという標準的な眼のモデルに基づくものである。)このような器具は、図1及び図4に示されている(スケーリングはしていない。)。
【0047】
二つの映像の格差の大きさは、それらを解像するのに必要とされる最小限の空間分解能において互いに侵害し合うので、その映像の格差は、中心暗点の大きさを調整するために用いられる。従って、わずかな格差であれば、より小さい暗点で十分である。視力は中央部から急激に落ちるため、図3において黒線で例示するように、コンタクトレンズの中央部においては高い程度で光を劣化するように構成しながら、レンズの中央部から放射状に離れるように移動し、劣化の階調を徐々に緩和させることができる。段階的なステップで、徐々に光の劣化の程度を緩和させていくことで、十分な柔軟性を提供することができると想定される。
【0048】
光の劣化の階調を調整する人間の能力は、眼の屈折矯正器具へのコンタクトレンズの接近性によって制限される。どんな不透明度の端での回折も、コンタクトレンズ自体の不透明な階調よりも遙かに滑らかな階調を構成する網膜状にその表現を必然的にぼかす。従って、パラメータは慎重な調整を必要とするであろう。
【0049】
中心暗点の大きさもまた部分的に瞳孔の大きさに左右される。それは、主として周辺照明の明るさに左右されている。幸い、このような変調は視力と同じ傾向にあり、従って、実質的には器具の機能を妨げることはない。
【0050】
中心視覚閉塞具を組み込むコンタクトレンズは、患者に合わせるための異なった大きさの中心視覚閉塞具や、要求される中心暗点の範囲を持つように作成されても良い。例えば、コンタクトレンズは、直径1mm〜6mmの異なった大きさの円盤状の中心視覚閉塞具を組み込むように作られていても良い。
【0051】
3・中心視覚閉塞具の最適化
不透明な円盤によって達成される光の劣化は、正確に中心窩に焦点を当てた通常の光を遮断し、また、回折効果によって閉塞具の縁を通過する光を湾曲させるという結果をもたらす。理想的なパターンへのより厳密な近似は、コンタクトレンズの物質に強い光を拡散する媒体を導入すること、および半径約5mm以上の放射状の偏心度の増加によって相対的比率を減少させることにより達成される。光の分散は、レンズの中の分散剤の比率に比例して映像を劣化させる。分散剤は、単に光を反射せず様々な方向に光をまき散らすので、その映像は、(米国3030403のように)単純に輝度やコントラストが減衰するのではなく、様々な程度でぼやけが生じるという点に留意すべきである。
【0052】
従って、図2(スケーリングはしていない)に例として示されるように、より詳細な実施態様においては、コンタクトレンズ20は、その中央部22がそのすぐ周辺部23に比べてより分散剤多くのを有し、これにより鋭い縁を有する閉塞具により達成さるよりも、視野全体の画像の劣化のより滑らかな階調を設ける方法により達成することができる。
【0053】
分散剤は観察者には白く見えるので、コンタクトレンズ20の表面のその中央部を暗色(瞳孔に模した色)で着色し、当該中央部周辺の領域を適切な色(虹彩を模した色)で着色することとしても良い。これは通常その眼に入る照明をある程度抑えるが、このことは求めている効果にとって有益なものとなる。図1において示した態様と同様に、周辺領域24は、通過する光を前記中央領域より低い程度で劣化する又は全く劣化しないように構成されている。
【0054】
図4において例として示されているように、人の眼30の光軸と注視軸は正確には一致しない。これら二つの軸の間には、約5°のズレが生じている。それに応じて、両眼複視の治療について、さらに正確性を求めて努力しているのであれば、中心視覚閉塞具が中心を約5°外し、眼の奥の閉塞される領域が正確に中心窩の位置と一致するようにレンズを作成すれば良い。しかしながら、正しい方向でレンズを眼に挿入すること、しっかりと眼の中心に合わせること、及び、使用中はほとんど動かさず回転させないことが求められるので、実際には、そのようなレンズは一般的には望ましくない。
【0055】
中心視覚閉塞具を中央部に設置すれば、眼の中でレンズが回転及び横方向に移動することについてより許容性があるため、従って、実際には、中心視覚閉塞具はレンズの中央部に設置することが一般的に望ましい。側面への移動に関して言えば、コンタクトレンズは、使用中の間、通常約1〜2mm程度動くだけであるので、中心視覚閉塞具は、比較的小さいサイズでも(上述したように)、その目的に十分に達成することができる。
【0056】
4・変異形
本発明の働きに反するレンズの中央領域を通過して伝達された光量を増加させようとする特徴を除き、どんな既存のコンタクトレンズの特徴も、中心視覚閉塞具との互換性を有する。以下に説明する変異形は、全て、上述したような中心視覚閉塞具を組み込んだコンタクトレンズに基づくものである。
【0057】
中心視覚閉塞具を提供することと同様に、コンタクトレンズもまた、近視(近眼)や、遠視、乱視、若しくは老眼(近い物に焦点を合わせることができないこと)等のような光学異常を治療するために構成されたもので合っても良い。
【0058】
そのコンタクトレンズは可変焦点式であり、所謂「先端技術」であっても良い。
【0059】
さらに追加して、若しくはその代わりに、通過する光の強さを抑えるため及び/又は審美的な目的により知覚される患者の眼の虹彩色を変化させるために不透明又は着色されたコンタクトレンズであっても良い。
【0060】
5・コンタクトレンズの原料
中心視覚閉塞具を組み込んだコンタクトレンズは、既存のソフトコンタクトレンズに使用されるような高分子材料により製造されることが望ましい。そのような高分子材料は、眼に適切な密着感を与え、通気性(すなわち酸素透過性)も優れている。
【0061】
また、その代わりに、中心視覚閉塞具を組み込んだコンタクトレンズは、例えば、ハードプラスチックや、ガラス等の硬質材料を用いて製造することとしても良いが、上述の柔らかい高分子材料が優先して用いられる。
【0062】
6・製造方法
中心視覚閉塞具を組み込んだコンタクトレンズは、既存のコンタクトレンズ製造技術を用いて製造することができる。例えば、着色されたコンタクトレンズ(顔料をレンズの周辺部に付着させたもの)を製造する既存の技術は、入射光線を吸収するのに黒色又は暗色の顔料を使用する本実施の形態を製造するために容易に用いることができる。黒色又は暗色の顔料がレンズの中央領域の物質内に組み込まれたレンズ(例えば、図1、図2及び図4に示すもの)に関しては、その顔料がレンズの原料の中心に注入されることとしても良い。
【0063】
あるいはまた、より基本的な意味合いにおいて、既存のコンタクトレンズは、黒色若しくは暗色の顔料又は原料を、レンズの中央領域の表面に蒸着又は添加することにより構成されたものであっても良い。
【0064】
中心視覚を閉塞するのに屈折を利用した実施の形態を製造するのであれば、レンズを形成するための鋳型は、レンズの中央領域に半球形の凸部、突出部又半球形の凹部は窪部を組み込むよう形成しても良い。これと同じ結果は、旋盤又はロボットによる作業過程を用いる事により達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両眼複視治療用コンタクトレンズであって、
患者の眼に着用される際、その眼のコンタクトレンズの配置位置に中心暗点を形成するために、コンタクトレンズを通過する光を劣化させるように構成されている中央領域と、
コンタクトレンズを通過する光を前記中央領域より低い程度に劣化させる又は全く劣化させないように構成されている周辺領域を有し、
これにより、コンタクトレンズが使用される際、前記患者の眼の視野における映像が、中央部分のみ劣化される又は前記中央部分がその周辺部分より高い程度で劣化される
コンタクトレンズ。
【請求項2】
前記中央領域は、入射光を遮断するように構成されている
請求項1に記載のコンタクトレンズ。
【請求項3】
前記中央領域は、入射光線を吸収するように構成されている
請求項2に記載のコンタクトレンズ。
【請求項4】
前記中央領域は、暗色の顔料又は顔料以外の暗色の原料を含む
請求項3に記載のコンタクトレンズ。
【請求項5】
前記暗色の顔料又は原料は、前記レンズ内に組み込まれている
請求項4に記載のコンタクトレンズ。
【請求項6】
前記暗色の顔料又は原料は、前記レンズの表面に付着している
請求項4に記載のコンタクトレンズ。
【請求項7】
前記暗色の顔料又顔料以外の暗色の原料は、円盤形状とされる
請求項4、5又は6のいずれかに記載のコンタクトレンズ。
【請求項8】
前記円盤の直径は、長さが1mmから6mmである
請求項7に記載のコンタクトレンズ。
【請求項9】
前記円盤は、直径約3mmである
請求項8に記載のコンタクトレンズ。
【請求項10】
前記中央領域は、入射光線を湾曲させるように構成されている
上記請求項のいずれかに記載のコンタクトレンズ。
【請求項11】
前記中央領域は、入射光線を屈折させるように構成されている
請求項10に記載のコンタクトレンズ。
【請求項12】
前記中央領域は、入射光線を屈折するための半球形の凸部又は突出部を含む
請求項11に記載のコンタクトレンズ。
【請求項13】
前記中央領域は、入射光線を屈折するための半球形の凹部又は窪部を含む
請求項11に記載のコンタクトレンズ。
【請求項14】
前記中央領域は、入射光線を回折させるように構成されている
請求項10に記載のコンタクトレンズ。
【請求項15】
前記中央領域は、回折格子を含む
請求項14に記載のコンタクトレンズ。
【請求項16】
前記回折格子は、一連の密集した不透明なドットを含む
請求項15に記載のコンタクトレンズ。
【請求項17】
前記回折格子は、一連の密集した不透明な平行線を含む
請求項15に記載のコンタクトレンズ。
【請求項18】
前記中央領域は、入射光線を分散させるように構成されている
上記請求項のいずれかに記載のコンタクトレンズ。
【請求項19】
前記中央領域は、レンズ内に組み込まれた光分散媒体を含む
請求項18に記載のコンタクトレンズ。
【請求項20】
前記中央領域は、入射光線を反射するように構成されている
請求項2に記載のコンタクトレンズ。
【請求項21】
前記コンタクトレンズは、
レンズの中心部が、光の劣化の程度が高いもので構成され、
前記劣化の程度は、前記レンズの中心部から離れるにつれて放射状に減少している
上記請求項いずれかに記載のコンタクトレンズ。
【請求項22】
前記劣化の程度は、前記レンズの中心部から離れるにつれて、滑らかに、放射状に減少している
請求項21に記載のコンタクトレンズ。
【請求項23】
前記劣化の程度は、前記レンズの中心部から離れるにつれて、段階的に、放射状に減少している
請求項21に記載のコンタクトレンズ。
【請求項24】
前記コンタクトレンズは、さらに、屈折補正により、近視、遠視、乱視及び/又は老眼等の従来の光学異常を治療するために形成されている
上記請求項のいずれかに記載のコンタクトレンズ。
【請求項25】
前記コンタクトレンズは、通過する光の強さを抑えるため及び/又は知覚される患者の虹彩の色を変化させるために、有色又は不透明となっている
上記請求項のいずれかに記載のコンタクトレンズ。
【請求項26】
両眼複視治療用コンタクトレンズの製造方法であって、
患者の眼に着用される際、その眼のコンタクトレンズの配置位置に中心暗点を形成するため、コンタクトレンズを通過する光を劣化させるように構成されているレンズの中央領域を形成するステップと
コンタクトレンズを通過する光を前記中央領域より低い程度に劣化させる又は全く劣化させないように構成されているレンズの周辺領域を形成するステップを含む
コンタクトレンズの製造方法。
【請求項27】
前記中央領域を形成するステップは、入射光線を遮断する手段を組み込むステップを含む
請求項26に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項28】
前記中央領域を形成するステップは、入射光線を吸収する手段を組み込むステップを含む
請求項27に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項29】
前記中央領域を形成するステップには、前記中央領域に暗色の顔料又は顔料以外の暗色の原料を前記中心領域に付加するステップを含む
請求項28に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項30】
前記暗色の顔料又は顔料以外の暗色の原料を、レンズ内に組み込む
請求項29に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項31】
前記暗色の顔料又は顔料以外の暗色の原料を、レンズの表面に付着させる
請求項29に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項32】
前記暗色の顔料又は顔料以外の暗色の原料は、円盤形状とされる
請求項29、30又は31のいずれかに記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項33】
前記円盤の直径は、長さが1mmから6mmである
請求項32に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項34】
前記円盤は、直径約3mmである
請求項33に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項35】
前記中央領域を形成するステップは、入射光線を湾曲させる手段を組み込むステップを含む
請求項26から請求項34のいずれかに記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項36】
前記中央領域を形成するステップは、入射光線を屈折させる手段を組み込むステップを含む
請求項35に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項37】
前記中央領域を形成するステップは、入射光線を屈折させるための半球形の凸部又は突出部を形成するためのステップを含む
請求項36に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項38】
前記中央領域を形成するステップは、入射光を屈折させるための半球形の凹部又は窪部を形成するためのステップを含む
請求項36に記載のコンタクトレンズ。
【請求項39】
前記中央領域を形成するステップは、入射光線を回折させる手段を組み込むステップを含む
請求項35に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項40】
前記中央領域を形成するステップは、回折格子を形成するステップを含む
請求項39に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項41】
前記回折格子を形成するステップは、一連の密集した不透明なドットを形成するステップを含む
請求項40に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項42】
前記回折格子を形成するステップは、一連の密集した不透明な平行線を形成するステップを含む
請求項40に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項43】
前記中央領域を形成するステップは、入射光線を分散させる手段を組み込むステップを含む
請求項26から請求項42のいずれかに記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項44】
前記中央領域を形成するステップは、光分散媒体をレンズ内に組み込むステップを含む
請求項43に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項45】
前記中央領域を形成するステップは、入射光を反射する手段を組み込むステップを含む
請求項27から請求項44のいずれかに記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項46】
前記コンタクトレンズの製造方法は、さらに、屈折補正により、近視、遠視、乱視及び/又は老眼等の従来の光学異常を治療するためのレンズを形成するステップを含む
請求項26から請求項45のいずれかに記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項47】
請求項1から請求項25のいずれかに記載のコンタクトレンズを患者の眼に適用するステップを含む
両眼複視の治療方法。
【請求項48】
実質上、本明細書中に記載され若しくは添付した図面に示されたコンタクトレンズ又はこれらの組合せに係る
コンタクトレンズ。
【請求項49】
実質上、本明細書中に記載され若しくは添付した図面に示されたコンタクトレンズの製造方法又はこれらの組合せに係る
コンタクトレンズの製造方法。
【請求項50】
実質上、本明細書中に記載され若しくは添付した図面に示された両眼複視の治療方法又はこれらの組合せに係る
両眼複視の治療方法


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−535560(P2010−535560A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519513(P2010−519513)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002628
【国際公開番号】WO2009/019451
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(500165809)インペリアル・イノベイションズ・リミテッド (32)
【Fターム(参考)】