説明

両親媒性陽イオンブロック共重合体の界面活性剤を用いない合成

【課題】両親媒性ブロック共重合体を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の方法は、(1)(a)4-ビニルピリジン、(b)トリチオカーボネートRAFT剤および乳化剤を含む第一の水性重合媒体を調製する工程、、このときこの乳化剤は現場調製される;(2)第一の遊離基開始剤の存在下で第一の水性重合媒体中で4-ビニルピリジンを重合させる工程;(3)ポリ(4-ビニルピリジン)をプロトン化する工程;(4)プロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤とエチレン性不飽和を含む単量体とを含んでいて、しかし界面活性剤を含んでいない第二の水性重合媒体を調製する工程;および(5)プロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤とエチレン性不飽和を含む単量体を、第二の遊離基開始剤の存在下および100℃未満の温度で第二の水性媒体中で重合させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の背景
乳化重合における典型的な混合物は、水、単量体、開始剤(通常は水溶性のもの)および乳化剤からなる。乳化剤の役割は重要かつ多面的である。最初にそれは、開始物質のエマルション(乳濁液)を形成しそしてこれを安定させるために役立つ。後には、初期のミセルおよび/または乳化した液滴の幾分かのものは、重合体粒子の核形成のための位置として役立つ。最後に、乳化剤は最終的なラテックスの安定化に役立つ。最も一般的には、乳化剤は低モル量の界面活性剤であるが、しかし、変形の態様は、界面活性剤が現場(in-situ)生成される「乳化剤無しの」配合などの系を含む。これは、親水性コモノマーの共重合によって達成されるか、あるいは親水性の一般的にはイオン開始剤の断片を介しての疎水性の単量体のオリゴマー化によって達成される。さらに、共重合性の界面活性剤も用いられていて、これは、古典的な系と乳化剤無しの系との間の中間の立場にあたる。
【0002】
上で説明した系の代替物として、重合体の界面活性剤がある。多くの異なる分子の構成が、疎水性と親水性のセグメントを含む両親媒性のブロック共重合体やグラフト共重合体、および重合した反応性界面活性剤からなる「ポリソープ」などの重合体界面活性剤を用いて、可能である。ポリソープは多くの点で高分子電解質に類似していて、両者は荷電した重合体種である。それらの間の主な相違点は、水溶液中でのポリソープの低下した比粘度は同等の分子量をもつ標準的な高分子電解質の比粘度よりもずっと低い、ということである。この重要な相違は、分子内ミセルの形成に基づくポリソープの緻密な分子構造によるものである。これらのミセルは炭化水素を可溶性にする能力を有するが、しかし一般的な界面活性剤と違って、臨界のミセル濃度は必要としない。ポリ(4-ビニルピリジン)などの典型的な高分子電解質は、臭化ドデシルを用いるピリジン基の部分のアルキル化によってポリソープに変化することができる。次いで、ドデシル基は、ミセルの形成と固有粘度の急な低下の結果生じる疎水引力による分子内凝集を受ける。
【0003】
エマルション中でのブロック共重合体の重合体界面活性剤としての使用と分散重合は、長い歴史をもつ。実際の挑戦は、ブロック共重合体界面活性剤に必要な正確な分子特性を「要望通りに作る」ための簡単で経済的な合成方法を開発することであった。この目的は、可逆付加-フラグメント化連鎖移動(RAFT)などの制御遊離基重合(CFRP)によって近年なされた著しい進歩によって、現在実現しつつある。CFRPによって、定義された構造、分子量および多分散性のブロック共重合体が、ありふれたものになりつつある。このようにして形成された多くのブロック共重合体は、乳化重合のための重合体界面活性剤として機能することが、すでに実証されている。
【0004】
ポリソープとブロック共重合体界面活性剤の両方を用いて実行された乳化重合の多くの例が存在するけれども、追加の界面活性剤で補助されることなく、開始剤の存在下で1以上の比較的疎水性で遊離基重合性の単量体を用いて自己安定性のブロック共重合体ラテックスを調製するために、水溶液中で高分子電解質の単独重合体を直接用いることのできる唯一の例を、我々は見出した。この例ではRAFT系を用いるのではなく、水溶性のアルコキシアミン開始剤をベースとするニトロキシド媒介(NMP)制御遊離基法を用いる。定められた分子量と多分散性を有するアルコキシアミンを末端基とするポリ(アクリル酸)マクロ開始剤(macroinitiator)を120℃において溶液遊離基重合によって調製するために、NMP開始剤が最初に用いられる。次いで、ポリ(アクリル酸)マクロ開始剤が水酸化ナトリウム水溶液中に室温で溶解され、それによって高分子電解質のマクロ開始剤であるアルコキシアミンを末端基とするポリ(アクリル酸ナトリウム)が得られる。水溶液にスチレンとアクリル酸ブチルのいずれかを添加することによって、不安定な二相系が生じる。しかし、この攪拌された混合物を窒素の下で120℃に8時間加熱することによって、90パーセント以上の単量体転化率をもって安定なラテックスが生成した。この方法によって生成するラテックスは表面の負電荷によって陰イオン的に安定化されることを理解することも、重要である。
【0005】
この方法の主な欠点は、必要なアルコキシアミンの合成と、重合温度が水の沸点よりも高いことである。
発明の概要
本発明は両親媒性ブロック共重合体を製造する方法を対象とし、この方法は以下の工程を含む:
(1)下記の(a)および(b)を含む第一の水性重合媒体を調製する工程、
(a)4-ビニルピリジン、
(b)トリチオカーボネートRAFT剤および乳化剤、このときこの乳化剤は潜伏性界面活性剤と界面活性剤活性化剤の反応によって水性重合媒体中で現場(in-situ)調製される;
(2)第一の遊離基開始剤の存在下で第一の水性重合媒体中で4-ビニルピリジンを重合させ、それによってポリ(4-ビニルピリジン)を生成させる工程;
(3)ポリ(4-ビニルピリジン)をプロトン化して、それによってプロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤を形成させる工程;
(4)プロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤とエチレン性不飽和を含む単量体とを含んでいて、しかし界面活性剤を含んでいない第二の水性重合媒体を調製する工程;および
(5)プロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤とエチレン性不飽和を含む単量体を、第二の遊離基開始剤の存在下および100℃未満の温度で第二の水性媒体中で重合させ、それによって4-ビニルピリジンとエチレン性不飽和を含む単量体との両親媒性ブロック共重合体を生成させる工程。
【0006】
発明の説明
一つの面において、本発明は、RAFTマクロ開始剤系と100℃未満の温度を用いて行なう、(表面の正電荷によって安定化された)両親媒性ブロック共重合体陽イオンラテックスの界面活性剤を用いない合成を対象とする。
【0007】
より具体的には、プロトン化したポリ(4-ビニルピリジン);[P-(4-VP+)]RAFTマクロ開始剤から誘導される高分子電解質と遊離基重合性単量体を用いてこのタイプの乳化重合を行なう能力は、知られていない。4-ビニルピリジンのCFRP重合とそのスチレンとの共重合についての限られた数の文献は存在するが、プロトン化した4-VP単量体のスチレンまたはあらゆるその他の単量体とのRAFT共重合によって安定した界面活性剤を含まないラテックスが生成することを実証している文献は、存在しないようである。
【0008】
水に不溶性の疎水性ブロックと水溶性の親水性ブロックからなる両親媒性ブロック共重合体は、「マクロ界面活性剤」と広く称されている。それらは、流動性改質剤、乳化剤、ラテックスのための安定剤、解乳化剤、凝集剤、制御された薬剤放出系および光捕獲(light harvesting)系など多様な適用について研究されてきた。
【0009】
そのような両親媒性ブロック共重合体を調製することの可能な方法の一つの例を下に示す:
【0010】
【化1】

【0011】
従って、本発明は両親媒性ブロック共重合体を製造する方法を対象とし、この方法は以下の工程を含む:
(1)下記の(a)および(b)を含む第一の水性重合媒体を調製する工程、
(a)4-ビニルピリジン、
(b)トリチオカーボネートRAFT剤および乳化剤、このときこの乳化剤は潜伏性界面活性剤と界面活性剤活性化剤の反応によって水性重合媒体中で現場調製される;
(2)第一の遊離基開始剤の存在下で第一の水性重合媒体中で4-ビニルピリジンを重合させ、それによってポリ(4-ビニルピリジン)を生成させる工程;
(3)ポリ(4-ビニルピリジン)をプロトン化して、それによってプロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤を形成させる工程;
(4)プロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤とエチレン性不飽和を含む単量体とを含んでいて、しかし界面活性剤を含んでいない第二の水性重合媒体を調製する工程;および
(5)プロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤とエチレン性不飽和を含む単量体を、第二の遊離基開始剤の存在下および100℃未満の温度で第二の水性媒体中で重合させ、それによって4-ビニルピリジンとエチレン性不飽和を含む単量体との両親媒性ブロック共重合体を生成させる工程。
【0012】
本発明の方法は二つのRAFT制御重合を含んでいて、最初に、4-ビニルピリジンのRAFT制御重合とそれに続くプロトン化が行なわれて、それによってプロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤が生成し、次に、プロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤とエチレン性不飽和を含む第二の単量体とのRAFT制御重合が行なわれて、それによって両親媒性ブロック共重合体が生成する。
【0013】
RAFT制御重合は、回分式プロセス、半回分式プロセス、または連続式プロセスとすることができ、これにより重合体の組成と形態の良好な制御が行なわれる。制御重合は通常、乳化重合プロセスとして行なわれるだろう。
【0014】
4-ビニルピリジンのRAFT制御重合においては、トリチオカーボネートRAFT剤が用いられる。当分野で知られているトリチオカーボネートRAFT剤のいずれを用いてもよく、例えば、一つの態様においては、トリチオカーボネートRAFT剤は米国特許出願番号10/721,718に開示されてものであってもよく、この出願の開示の全体は本明細書中に参考文献として援用される。別の態様においては、トリチオカーボネートRAFT剤は次の構造式を有するものである:
【0015】
【化2】

【0016】
ここでR1は1〜12の炭素原子を有する二価のアルキル基であり、R2とR3はそれぞれ独立して水素または1〜12の炭素原子を有するアルキル基であり、そしてR4は、R1、R2、およびR3の総炭素原子が12以下であるという条件で-OHまたは-COOHであり、またここでYは遊離基の付加に対してビニル炭素を活性化することのできる官能基を表わす。
【0017】
一つの態様において、Yは、-C(R’)2CN、-C(CH3)2Ar、-C(CH3)2COOR'、 -C(CH3)2CONHR'、 -C(CH3)2CH2C(CH3)、-CH(CH3)Ar、-CH2Ar、-C(CH3)3、-CR’2COOH、-C(R’)(CN)-(CH2)n-COOH、および-C(R’)(CN)-(CH2)n-OHからなる群から選択される官能基を表わし、ここでR’は1〜12の炭素原子を含む線状または枝分れ炭化水素を表わし、Arは非置換または置換フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピレニル基またはピリジル基を表わし、そしてnは1〜8の整数を表わす。
【0018】
別の態様において、Yはベンジル、ピコリル、またはt-ブチルからなる群から選択される官能基を表わす。
別の態様において、R1は1〜4の炭素原子を有する二価のアルキル基であり、すなわちR1は(CH2)mであって、ここでmは1〜4の範囲である。
【0019】
別の態様において、R1は(CH2)9であり、R2とR3は水素であり、R4は-COOHであり、Yはベンジルであり、そして遊離基制御剤はS-ベンジル-S’-(11-ウンデカン酸)トリチオカーボネートである。
【0020】
別の態様において、R1はCH2であり、R2は(CH2)8であり、R3は水素であり、R4は-OHであり、Yはベンジルであり、そして遊離基制御剤はS-ベンジル-S’-(2-ヒドロキシデシル)トリチオカーボネートである。
【0021】
別の態様において、R1はCH2であり、R2は(CH2)8であり、R3は水素であり、R4は-OHであり、Yは4-ピコリルであり、そして遊離基制御剤はS-(4-ピコリル)-S’-(2-ヒドロキシデシル)トリチオカーボネートである。
【0022】
RAFT制御重合は、重合の進行を制御するとともに連鎖停止反応などの望ましくない副反応を最少にするために、遊離基制御剤の存在を必要とする。制御剤は、重合の機構、用いられる単量体のタイプ、開始反応のタイプ、溶媒系および反応条件など、重合の詳細に大きく依存する特性を有する。制御剤は多くの異なる方法によってエマルション系の中に導入してもよいが、好ましい方法は実施される特定の態様に大きく依存する。幾つかの態様においては、反応器に活性制御剤を、純粋な化合物の形で、あるいは溶液または混合物の成分として、直接添加してもよい。他の態様においては、活性制御剤は、乳化の前またはその間に、あるいは乳化の後に起こる化学反応から現場発生するかもしれない。
【0023】
制御剤を導入するために、またはこれを発生させるために用いられる方法にかかわらず、本発明に適した制御剤は「リビング」重合の速度論に関連する1以上の利益を提供する。これらの利益としては次のことがあるだろう:
(1)時間の関数としての重合の度合いの一次(linear)従属性;
(2)重合の程度への数平均分子量(Mn)の一次従属性;
(3)転化率とはかなり無関係な一定数の重合体分子と活性中心;
(4)狭い分子量分布、このときMw/Mnは概ね2未満で、好ましくは1.1〜1.8、そしてしばしば1.4未満;および
(5)さらなる単量体が付加すると重合を継続する能力を伴う、重合体への単量体の実質的に完全な転化。
【0024】
全ての重合反応が開始されるはずである。例えばスチレンなどの幾つかの単量体については、例えば、追加の試薬を必要とすることなく熱自己開始反応が起こるはずである。多くの他の単量体については、開始は、1以上の化学反応を誘発させるための薬剤を添加することによって達成されるかもしれず、これは結局、重合を伝搬させることの可能な中間体を生成させる。これらの薬剤はしばしば「開始剤」と呼ばれる。
【0025】
本発明のために適した開始剤のタイプは、重合の機構、用いられる単量体のタイプ、制御剤のタイプ、溶媒系および反応条件など、重合の詳細に大きく依存する。多くの異なるタイプの開始剤が研究されてきた。
【0026】
開始剤は、RAFTまたは安定な遊離基を必要とする関連した機構など、遊離基の機構によって重合を行なうための開始剤であってもよい。典型的には、遊離基重合のために適した開始剤は、遊離基を生成させることのできる試薬または試薬の組み合わせである。電離放射線(60Coγ線)への曝露、光化学反応または超音波処理など、遊離基を生成させるためのその他の方法は、遊離基重合を開始させるために適した方法として当業者には自明であろう。
【0027】
一般的に用いられる遊離基開始剤の幾つかの代表的な例としては、種々の過酸素化合物、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ベンゾイルペルオキシド、過酸化水素、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、ラウリルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、ジセチルペルオキシジカーボネート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシマレイン酸、t-ブチルペルオキシベンゾエート、アセチルシクロヘキシルスルホニルペルオキシド、その他同種類のもの;種々のアゾ化合物、例えば2-t-ブチルアゾ-2-シアノプロパン、ジメチルアゾジイソブチレート、アゾジイソブチロニトリル、2-t-ブチルアゾ-1-シアノシクロヘキサン、1-t-アミルアゾ-1-シアノシクロヘキサン、その他同種類のもの;種々のアルキルペルケタール類、例えば2,2-ビス-(t-ブチルペルオキシ)ブタン、エチル3,3-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブチレート、1,1-ジ-(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、その他同種類のものがある。過硫酸カリウムや過硫酸アンモニウムなどのパースルフェート開始剤は、そのような水性乳化重合において特に有用である。
【0028】
重合は、キレート化鉄塩の組み合わせ、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、および有機ヒドロペルオキシド類などのレドックス開始剤を用いて発生させる遊離基を用いて開始させることもできる。そのような有機ヒドロペルオキシド類の幾つかの代表的な例としては、クメンヒドロペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド、および第三ブチルヒドロペルオキシドがある。第三ブチルヒドロペルオキシド(t-BHP)、過酢酸第三ブチル(t-BPA)および「アゾ」開始剤(例えばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN))は、遊離基を発生させるのに用いるために好ましい。
【0029】
回分式の操作において、重合時間は所望により変えることができる。例えばそれは数分から数日の範囲で変えてもよい。回分式プロセスにおける重合は、単量体がそれ以上吸収されないときに停止させてもよく、所望により、例えば反応混合物の粘度が過大になった場合には、もっと早くてもよい。連続式の操作においては、あらゆる適当な構成の反応装置に重合混合物を通してもよい。そのような場合における重合反応は、滞留時間を変えることによって適当に調節される。滞留時間は反応装置のタイプおよび反応器のサイズによって変化し、例えば10〜15分から24時間以上までの範囲である。
【0030】
本発明の重要な面は、現場での(in-situ)乳化であり、これは、制御された乳化重合のための界面活性剤を生成させるために「潜伏性界面活性剤」を「界面活性剤活性化剤」と反応させることによって達成される。ここで言う「潜伏性界面活性剤」という用語は、(i)水と相溶性ではない単量体含有溶液中で可溶性である化合物または化合物の混合物であって、(ii)この化合物または化合物の混合物を単量体含有溶液および水と単純かつ穏やかに混合することによっては通常の界面活性剤のレベルにおける安定したコロイド状のマイクロエマルションを独立して生成することのできない化合物または化合物の混合物を指す。「界面活性剤活性化剤」という用語は、ここでは、(i)水に可溶性である化合物または化合物の混合物であって、(ii)この化合物または化合物の混合物を単量体含有溶液および水と単純かつ穏やかに混合することによっては通常の界面活性剤のレベルにおける安定したコロイド状のマイクロエマルションを独立して生成することのできない化合物または化合物の混合物を記述するものとして用いられる。本発明について、水は現場乳化反応のための反応物質になることはできるが、しかし水単独では界面活性剤活性化剤にはなりえない。本発明に従って用いることのできる制御された重合プロセスにおける現場乳化法の使用は、2003年11月25日に提出された米国特許出願番号10/721,718に記載されている。米国特許出願番号10/721,718の教示は、その全体が本明細書中に参考文献として援用される。
【0031】
現場でのマイクロ乳化(in-situ microemulsification)についての基本的な原理はProkopovとGritskovaによって説明されていて(Russ. Chem. Rev 2001, 70, 791)、彼らは、脂肪酸の中和によって現場調製されたアルカリ金属石鹸を用いるスチレンの通常の遊離基重合における現場マイクロ乳化の使用を検討している。ProkopovとGritskovaが説明しているように、乳化が起こる間にスチレンと水の界面においてカルボキシレート石鹸を調製することによって微細なマイクロエマルションを生成させることができ、その理由は、その界面において生じる乳化剤の富化により界面張力が著しく低下するためである。界面での界面活性剤の合成において用いられるカルボン酸と金属の対イオンの性質を変えることによってエマルションの分散の程度と安定性を制御することができ、また通常の遊離基重合によって生成する最終的なポリスチレンラテックスを制御することもできた。本発明においては、疎水剤の添加や特別な乳化装置を用いることなく通常の石鹸のレベルを用いる広範囲の方法によって、制御された重合のために適したエマルションを生成させるために、現場でのマイクロ乳化の原理が広く拡張される。
【0032】
幾つかの態様において、制御された重合のための界面活性剤を、単量体と水の界面における酸と塩基の中和反応によって生成させることができる。幾つかのタイプの陰イオン界面活性剤については、例えば、単量体可溶性の酸を塩基水溶液と反応させることによってこれを達成することができ、このとき単量体可溶性の酸は潜伏性界面活性剤であり、塩基は現場乳化のための界面活性剤活性化剤である。適当な単量体可溶性の酸としては、例えば、パルミチン酸、オレイン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ラウリルスルフェート、ヘキサデシルスルホン酸、ジヘキサデシルホスホン酸、ヘキサデシルスクシネート半エステル、およびコハク酸のモノヘキサデシルアミド等がある。適当な塩基としては、例えば、水酸化物、アルカリ金属イオンと第四アンモニウムイオンの炭酸塩および重炭酸塩、置換および非置換アミン、および塩基性窒素含有複素環式化合物等がある。単量体可溶性の酸のおおよそのpKaよりも小さいpKbを有する塩基水溶液も適当であるとしてもよい、ということが当業者には自明であろう。また、感湿性化合物の加水分解によって現場生成した水酸化物、例えばナトリウムメトキシド、ナトリウムアミド、水素化カリウム、その他同種類のものが界面活性剤活性化剤として適当であるとしてもよい、ということも自明であろう。
【0033】
界面活性剤を現場合成するために多くの他の反応を用いることができ、それには例えば、米国特許出願番号10/721,718に記載されたものがあり、そこで例示されている特定の態様は、乳化が行なわれる間に界面活性剤を生成する潜伏性界面活性剤と界面活性剤活性化剤のいかなる組み合わせも排除することが意図されない。界面活性剤の合成の化学作用と制御された重合が適合するときは、その他の潜伏性界面活性剤と界面活性剤活性化剤の組み合わせも適当であるとしてもよい、ということも当業者には自明であろう。
【0034】
RAFT剤の存在下でRAFT制御重合によって生成するポリ(4-ビニルピリジン)は、ろ過、溶解および結晶化(これらには限定されない)など、当分野で知られている方法を用いて第一の重合媒体から単離されてもよい。次いで、ポリ(4-ビニルピリジン)はプロトン化され、それによってプロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤が生成する。ポリ(4-ビニルピリジン)のプロトン化は、例えば塩酸やその他同種類のものなどの強い鉱酸を用いて達成することができる。プロトン化は、酸の水溶液中へのポリ(4-ビニルピリジン)の可溶化によって達成されてもよい。
【0035】
プロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤は、両親媒性ブロック共重合体を生成させるために、エチレン性不飽和を含んでいる少なくとも一つの単量体を用いる第二の重合において用いられる。
【0036】
第二の重合において用いるためのエチレン性不飽和を含む適当な単量体としては、スチレン、置換スチレン、アルキルアクリレート、置換アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、置換アルキルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジアルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルメタクリルアミド、イソプレン、1,3-ブタジエン、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも一つの単量体等がある。これらの単量体の機能化された変形を用いてもよい。本発明において用いることのできる特定の単量体またはコモノマーであって、単量体またはコモノマーとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート(全ての異性体)、ブチルメタクリレート(全ての異性体)、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、メタクリル酸、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、メタクリロニトリル、α-メチルスチレン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート(全ての異性体)、ブチルアクリレート(全ての異性体)、2-エチルヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、アクリル酸、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、アクリロニトリル、スチレン、グリシジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート(全ての異性体)、ヒドロキシブチルメタクリレート(全ての異性体)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、無水イタコン酸、イタコン酸、グリシジルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート(全ての異性体)、ヒドロキシブチルアクリレート(全ての異性体)、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、トリエチレングリコールアクリレート、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-エチロールメタクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-エチロールアクリルアミド、安息香酸ビニル(全ての異性体)、ジエチルアミノスチレン(全ての異性体)、安息香酸α-メチルビニル(全ての異性体)、ジエチルアミノα-メチルスチレン(全ての異性体)、p-ビニルベンゼンスルホン酸、p-ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート、トリエトキシシリルプロピルメタクリレート、トリブトキシシリルプロピルメタクリレート、ジメトキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジエトキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジブトキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジイソプロポキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジメトキシシリルプロピルメタクリレート、ジエトキシシリルプロピルメタクリレート、ジブトキシシリルプロピルメタクリレート、ジイソプロポキシシリルプロピルメタクリレート、トリメトキシシリルプロピルアクリレート、トリエトキシシリルプロピルアクリレート、トリブトキシシリルプロピルアクリレート、ジメトキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジエトキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジブトキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジイソプロポキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジメトキシシリルプロピルアクリレート、ジエトキシシリルプロピルアクリレート、ジブトキシシリルプロピルアクリレート、ジイソプロポキシシリルプロピルアクリレート、無水マレイン酸、N-フェニルマレイミド、N-ブチルマレイミド、クロロプレン、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、2-(2-オキソ-1-イミダゾリジニル)エチル2-メチル-2-プロペノエート、1-[2-[2-ヒドロキシ-3-(2-プロピル)プロピル]アミノ]エチル]-2-イミダゾリジノン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルイミダゾール、クロトン酸、スルホン酸ビニル、およびこれらの組み合わせ等がある。
【0037】
一つの態様において、エチレン性不飽和を含む単量体はスチレン、イソプレンおよびブタジエンから選択される。一つの態様において、エチレン性不飽和を含む単量体はスチレンとブタジエンから選択される。
【0038】
本発明の重要な面は、第二の重合工程の「界面活性剤がない」という特徴にある。すなわち、現場発生するものや別な方法による追加の界面活性剤は第二の重合工程には存在しない。プロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤は、重合が行なわれる間、通常の場合のように追加の界面活性剤を必要とすることなく、自己安定性のブロック共重合体ラテックスが生成するように作用する。
【0039】
第二の重合は100℃未満の温度で行なわれる。これは、もっと高い反応温度を必要とするシステムを上回る利点である。というのは、そのようなものはもっと費用のかかる処理装置と大きなエネルギー入力を必要とするからである。
【0040】
本発明の実際を以下の実施例によってさらに説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではなく、代表的な例であることが意図されている。特に示されない限り、全ての部およびパーセントは重量で示される。
【0041】
実施例1
ジベンジルトリチオカーボネート(DBTTC)RAFT剤を用いる「現場」乳化法によるポリ(4-ビニルピリジン)の調製
機械式櫂形(paddle)攪拌器、窒素の導入口、ポット温度計、加熱マントルおよび凝縮器を備えた500mlの三つ口丸底フラスコに、1.33g(約0.00459モル)のジベンジルトリチオカーボネート、60.0g(約0.57モル)の蒸留した4-ビニルピリジンおよび3.6g(約0.0127モル)のオレイン酸を装填した。次いで、この攪拌した反応器を、窒素を緩慢に流入させることによってパージし、そしてこれに、158gの逆浸透(RO)処理した水に0.36g(約0.00133モル)の過硫酸カリウム、0.88g(約0.0083モル)の炭酸ナトリウム、0.88g(約0.010モル)の重炭酸ナトリウムおよび0.82g(約0.0126モル)の水酸化カリウムを溶かすことによって調製した水溶液を添加した。すぐに黄色いエマルションが形成された。次いで、このエマルションを65℃まで急速に加熱し、そしてサーモウォッチ制御器を用いてこの温度に保持した。重合の進行を重量測定によって追跡した。1時間後、ラテックスの固体の割合は22.6パーセント、すなわち75パーセントの転化率であった。1.5時間後、エマルションは不安定になり始めた。加熱は合計で4時間続けられた。得られた混合物は二相のものであり、下方の非常に粘性の高い橙色の重合相と上方のほぼ透明な水性相を有していた。上澄みをデカントし、そして下方の重合相を水で数回洗浄した。過剰な水を除去した後、下方の重合相を約200mlのメタノールに溶かした。290gのメタノール溶液が単離され、固体の含量は20.0パーセントであった。このことは、58.0gの重合体収量、すなわち4-ビニルピリジンの94.5パーセントの転化率を表わしている。理論上のMnは13,300であり、一方、NMRによって決定されたおおよそのMnは約11,000であった。
【0042】
実施例2
S-ベンジル-S’-(2-ヒドロキシデシル)トリチオカーボネート(BHDTTC)RAFT剤を用いる「現場」乳化法によるポリ(4-ビニルピリジン)の調製
手順:実施例1と同様であるが、ただしDBTTCの代わりに1.80g(約0.00464モル)のBHDTTC RAFT剤が用いられた。65℃で4時間の反応時間の後、反応は実施例1と同様の方法で処理(work up)した。19.66パーセントの固体を伴う289gのメタノール溶液は、56.8gのポリ(4-ビニルピリジン)、すなわち92パーセントの転化率を表わしている。
【0043】
実施例3
ポリ(4-VP+-b-PS-b-4-VP+)トリブロック共重合体ラテックスの調製
実施例1からの20パーセントのポリ(4-ビニルピリジン)のメタノール溶液50.0g(約10.0gの重合体)を500mlの単口フラスコの中に装填し、そして回転式蒸発器で溶媒を除去した。次いで、この乾燥した重合体に110gのRO水と10.0gの濃塩酸を添加した。この混合物を、均一な淡黄色の水溶液が得られるまで攪拌した。次いで、この溶液を、機械式櫂形攪拌器、窒素の導入口、ポット温度計、加熱マントルおよび凝縮器を備えた500mlの三つ口丸底フラスコの中に装填した。次いで、0.6gの過硫酸カリウムを添加し、続いて30.0g(約0.288モル)のスチレンを添加した。次いで、この二相の攪拌した混合物を窒素の下で65℃まで急速に加熱し、8時間加熱した。得られたラテックスの固体は26.7パーセント(理論上は27.1パーセント)、すなわち98.5パーセントの転化率であると測定された。得られたラテックスの少量の部分が、分析のために、希釈した水酸化カリウム溶液の中で凝固された。NMRによって、25.8パーセントのポリ(4-VP)と74.2パーセントのポリスチレン(理論上は25パーセントのポリ(4-VP)と75パーセントのPS)の組成が示された。ラテックスの粒子の大きさは約182nmであった。
【0044】
実施例4
ポリ(4-VP+-b-PS)ジブロック共重合体ラテックスの調製
実施例2からの19.66パーセントのポリ(4-ビニルピリジン)のメタノール溶液50.5g(約10.0gの重合体)を500mlの単口フラスコの中に装填し、そして回転式蒸発器で溶媒を除去した。次いで、この乾燥した重合体に110gのRO水と10.0gの濃塩酸を添加した。この混合物を、均一な淡黄色の水溶液が得られるまで攪拌した。次いで、この溶液を、機械式櫂形攪拌器、窒素の導入口、ポット温度計、加熱マントルおよび凝縮器を備えた500mlの三つ口丸底フラスコの中に装填した。次いで、0.43gの過硫酸カリウムを添加し、続いて30.0g(約0.288モル)のスチレンを添加した。次いで、この二相の攪拌した混合物を窒素の下で65℃まで急速に加熱した。わずか2時間後に、ラテックスの固体は27パーセント(理論上は27.1パーセント)、すなわち約100パーセントの転化率であると測定された。得られたラテックスの少量の部分が、分析のために、希釈した水酸化カリウム溶液の中で凝固された。NMRによって、24.8パーセントのポリ(4-VP)と75.2パーセントのポリスチレン(理論上は25パーセントのポリ(4-VP)と75パーセントのPS)の組成が示された。ラテックスの粒子の大きさは約150nmであった。
【0045】
実施例5
S-ベンジル-S’-(2-ヒドロキシデシル)トリチオカーボネート(BHDTTC)RAFT剤を用いる「現場」乳化法によるポリ(4-ビニルピリジン)の再度の調製
手順:2.23のスケールファクターであったこと以外は、実施例2と同様。65℃で4時間の反応時間の後、反応は実施例1と同様の方法で処理した。24.4パーセントの固体を伴う505gのメタノール溶液は、123.2gのポリ(4-ビニルピリジン)、すなわち92パーセントの転化率を表わしている。
【0046】
実施例6
ポリ(4-VP+-b-PS-b-NIPAM)トリブロック共重合体ラテックスの調製
実施例5からの24.4パーセントのポリ(4-ビニルピリジン)のメタノール溶液41g(約10.0gの重合体)を500mlの単口フラスコの中に装填し、そして回転式蒸発器で溶媒を除去した。次いで、この乾燥した重合体に110gのRO水と10.0gの濃塩酸を添加した。この混合物を、均一な淡黄色の水溶液が得られるまで攪拌した。次いで、この溶液を、機械式櫂形攪拌器、窒素の導入口、ポット温度計、加熱マントルおよび凝縮器を備えた500mlの三つ口丸底フラスコの中に装填した。次いで、0.43gの過硫酸カリウムを添加し、続いて30.0g(約0.288モル)のスチレンを添加した。次いで、この二相の攪拌した混合物を窒素の下で70℃まで急速に加熱した。3時間後に、ラテックスの固体は28.1パーセントとなり、これは実質的に完全なスチレンの転化が起こったことを示す。この時点で、この加熱したラテックスに10.0g(0.088モル)のN-イソプロピルアクリルアミド単量体(NIPAM)が添加され、反応がさらに2.5時間続けられた。ラテックスは非常に濃厚になり、室温で一晩静置された。次いで、ラテックスは100mlの水で希釈され、そして希釈した水酸化カリウム溶液の中で凝固された。ろ過し、洗浄し、そして乾燥した後、47.5gの重合体が単離された(理論上は50.0g)。すなわち、95パーセントの転化率である。乾燥した物質はジクロロメタンに完全に可溶性であった。NMR分析によって、18.7パーセントの4-VP、61.9パーセントのスチレン、および19.4パーセントのNIPAMのwtパーセント組成が示された。計算された値は20/60/20である。ポリスチレン標準に対するSEC分析によって、Mnの374,000およびPDIの1.47を含む単峰形の(unimodal)ピークが示された。
【0047】
実施例7
ポリ(4-VP+-b-SBR)ジブロック共重合体ラテックスの調製
実施例5からの483gのメタノール溶液から溶媒を除去し、そして残留物を118gの濃塩酸を含む1300mlのRO水の中に溶解することによって、プロトン化した水溶性のポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤の9.9パーセント水溶液が調製された。次いで、1グラムの過硫酸カリウムを9.9パーセントのマクロ開始剤水溶液252.5g(約25gの重合体)の中に溶解した。次いで、この溶液を、窒素で予めフラッシュした1クォートの厚底の瓶の中に装填し、続いて60.0g(0.577モル)のスチレンと90.0g(約1.67モル)のブタジエンを添加した。次いで、瓶に蓋をして、65℃の水浴中で混転(tumbled)した。金属の蓋のガスケット穴に通したシリンジ針によって固体の含量を定期的にサンプリングすることによって、反応の進行を重量測定によって監視した。23時間後、水浴から瓶を取り出し、そして重合を停止させるために室温まで冷却した。固体の含量は32.3パーセントと測定された。すなわち、スチレンとブタジエンの約70パーセントの転化率であった。
【0048】
実施例8
S-ベンジル-S’-(ドデシル)トリチオカーボネート(BDTTC)RAFT剤を用いる溶液重合法によるポリ(2-ビニルピリジン)の調製
機械式攪拌器、温度計、および窒素の導入口を備えた500mlの丸底フラスコに、133gの2-プロパノール、65.5g(620ミリモル)の2-ビニルピリジン、および11.5g(42ミリモル)のS-ベンジル-S’-(ドデシル)トリチオカーボネートを装填した。フラスコを、窒素および23gのトルエン中の1.5g(6.1ミリモル)の1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)で置換した(フラッシ(flush)した)。溶液を環流温度まで210分間加熱した。得られた固体は31.7パーセント、すなわち95パーセントの転化率であった。理論上のMnは2,470g/モルで、実験のSECではMnは2,940g/モルであった。
【0049】
実施例9
S-ベンジル-S’-(ドデシル)トリチオカーボネート(BDTTC)RAFT剤を用いる溶液重合法によるポリ(4-ビニルピリジン)の調製
機械式攪拌器、温度計、および窒素の導入口を備えた500mlの丸底フラスコに、150gの2-プロパノール、55g(524ミリモル)の4-ビニルピリジン、および9.25g(25ミリモル)のS-ベンジル-S’-(ドデシル)トリチオカーボネートおよび0.63g(4.4ミリモル)の2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)を装填した。溶液を環流温度まで180分間加熱した。溶媒を蒸発させると、58.1の収量(91パーセント)が得られた。理論上のMnは2,570g/モルで、実験のSECではMnは2,738g/モルであった。
【0050】
実施例10
ポリ(2-VP+-b-ESBR)共重合体ラテックスの調製
実験は二回行なわれた。750ミリリットルのシャンパンボトルに、11.25gのポリ(2-ビニルピリジン)、11.25gの濃塩酸、175gの水、1.5gの過硫酸カリウムからなる溶液を装填した。ボトルを窒素と60gのスチレンで置換して(フラッシ(flush)して)、次いで90gのブタジエンを添加した。ボトルに蓋をして、65℃の水浴中に入れ、21時間混転した。固体のパーセントは変化せず、反応が何も起こらなかったことが示された。
【0051】
実施例11
ポリ(2-VP+-b-ESBR)共重合体ラテックスの調製
75gのスチレンと75gのブタジエンを装填したこと以外は、実施例10と同様。固体のパーセントは変化せず、反応が何も起こらなかったことが示された。
【0052】
実施例12
ポリ(4-VP+-b-ESBR)共重合体の調製
11.25gのポリ(4-ビニルピリジン) を装填したこと以外は、実験手順は実施例10と同様であった。得られた固体は10wtパーセント、すなわち、スチレンとブタジエンの28パーセントの転化率であった。試料を配合し、そしてブタジエンを放出するために排気した。次いで、1000mlの水を添加し、そして真空下でストリップすることによって、残りのスチレンを除去した。ラテックスは、光の散乱によって、121nmの体積平均粒径を有していた。
【0053】
重合体を単離するために、250gのラテックスを、1部のWingstay L分散液の凝固剤、20gの水酸化カリウムおよび1200mlの水に添加した。少量(crumb)をろ過し、そして25mmHgの真空および45℃の下で乾燥させた。58グラムのブロック共重合体が単離した。Mnは10,500g/モルで、PDIは1.23であった。ガラス転移の範囲は−56.2℃から−47.7℃までであった。
【0054】
実施例13
ポリ(4-VP+-b-ESBR)共重合体の調製
実験手順は実施例12と同様であった。ラテックスは、光の散乱によって、127nmの体積平均粒径を有していた。64グラムのブロック共重合体が単離した。Mnは11,200g/モルで、PDIは1.38であった。ガラス転移の範囲は−45.9℃から−34.5℃までであった。
【0055】
本発明を例証する目的のために特定の代表的な態様と詳細が示されたが、それらにおいて本発明の精神または範囲から逸脱することなく様々な変更と修正がなされうることが、当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両親媒性ブロック共重合体を製造する方法であって:
(1)下記の(a)および(b)を含む第一の水性重合媒体を調製する工程、
(a)4-ビニルピリジン、
(b)トリチオカーボネートRAFT剤および乳化剤、このときこの乳化剤は潜伏性界面活性剤と界面活性剤活性化剤の反応によって水性重合媒体中で現場調製される;
(2)第一の遊離基開始剤の存在下で第一の水性重合媒体中で4-ビニルピリジンを重合させ、それによってポリ(4-ビニルピリジン)を生成させる工程;
(3)ポリ(4-ビニルピリジン)をプロトン化して、それによってプロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤を形成させる工程;
(4)プロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤とエチレン性不飽和を含む単量体とを含んでいて、しかし界面活性剤を含んでいない第二の水性重合媒体を調製する工程;および
(5)プロトン化したポリ(4-ビニルピリジン) RAFTマクロ開始剤とエチレン性不飽和を含む単量体を、第二の遊離基開始剤の存在下および100℃未満の温度で第二の水性媒体中で重合させ、それによって4-ビニルピリジンとエチレン性不飽和を含む単量体との両親媒性ブロック共重合体を生成させる工程;
を含む方法。
【請求項2】
トリチオカーボネートRAFT剤は次の構造式:
【化1】

(ここでR1は1〜12の炭素原子を有する二価のアルキル基であり、R2とR3はそれぞれ独立して水素または1〜12の炭素原子を有するアルキル基であり、そしてR4は、R1、R2、およびR3の総炭素原子が12以下であるという条件で-OHまたは-COOHであり、またここでYは遊離基の付加に対してビニル炭素を活性化することのできる官能基を表わす)
を有するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Yは、-C(R’)2CN、-C(CH3)2Ar、-C(CH3)2COOR'、 -C(CH3)2CONHR'、 -C(CH3)2CH2C(CH3)、-CH(CH3)Ar、-CH2Ar、-C(CH3)3、-CR’2COOH、-C(R’)(CN)-(CH2)n-COOH、および-C(R’)(CN)-(CH2)n-OHからなる群から選択される官能基を表わし、ここでR’は1〜12の炭素原子を含む線状または枝分れ炭化水素を表わし、Arは非置換または置換フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピレニル基またはピリジル基を表わし、そしてnは1〜8の整数を表わす、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
R1は(CH2)mであり、ここでmは1〜4の範囲である、請求項1に記載の遊離基制御剤。
【請求項5】
Yはベンジル、ピコリル、およびt-ブチルからなる群から選択される官能基を表わす、請求項1に記載の遊離基制御剤。
【請求項6】
R1は(CH2)9であり、R2とR3は水素であり、R4は-COOHであり、Yはベンジルであり、そして遊離基制御剤はS-ベンジル-S’-(11-ウンデカン酸)トリチオカーボネートである、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
R1はCH2であり、R2は(CH2)8であり、R3は水素であり、R4は-OHであり、Yはベンジルであり、そして遊離基制御剤はS-ベンジル-S’-(2-ヒドロキシデシル)トリチオカーボネートである、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
R1はCH2であり、R2は(CH2)8であり、R3は水素であり、R4は-OHであり、Yは4-ピコリルであり、そして遊離基制御剤はS-(4-ピコリル)-S’-(2-ヒドロキシデシル)トリチオカーボネートである、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも一つの単量体はブタジエンであり、そして両親媒性ブロック共重合体はポリ(4-ビニルピリデン-b-ブタジエン) である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも一つの単量体はブタジエンとスチレンを含み、そして両親媒性ブロック共重合体はポリ(4-ビニルピリデン-b-スチレンブタジエン) である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
両親媒性ブロック共重合体は、追加の界面活性剤を含まない安定なラテックスの形のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
単量体は、スチレン、置換スチレン、アルキルアクリレート、置換アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、置換アルキルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジアルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルメタクリルアミド、イソプレン、1,3-ブタジエン、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、および塩化ビニリデンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法を用いて製造された重合体。
【請求項13】
単量体は、スチレン、1,3-ブタジエン、およびイソプレンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法を用いて製造された重合体。
【請求項14】
請求項12に記載の重合体を含むタイヤ。
【請求項15】
請求項13に記載の重合体を含むタイヤ。

【公開番号】特開2007−169636(P2007−169636A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340654(P2006−340654)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(590002976)ザ・グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー・カンパニー (256)
【氏名又は名称原語表記】THE GOODYEAR TIRE & RUBBER COMPANY
【住所又は居所原語表記】1144 East Market Street,Akron,Ohio 44316−0001,U.S.A.
【Fターム(参考)】