説明

両軸受リールのスプール制動装置

【課題】スプール制動装置において、ブレーキドラムの軸方向位置に応じた制動力を安定して得ることができるようにする
【解決手段】両軸受リールのスプール制動装置11は、キャスティングコントロール機構22と、遠心制動機構23と、を備える。キャスティングコントロール機構22は、スプール軸16の両端に配置された第1摩擦プレート51a及び第2摩擦プレート51bと、第1摩擦プレート51aが装着された制動キャップ52と、を有する。遠心制動機構23は、テーパ面66bを外周面66dに有するブレーキドラム66と、ブレーキドラム66の外周面に接触する揺動するブレーキシューと、有する。テーパ面66bは、制動キャップ52に向かって外径が徐々に大きくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動装置、特に、リール本体に回転自在に装着されたスプールを制動する両軸受リールのスプール制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
キャスティングに使用される両軸受リールでは、キャスティング時にスプールの回転速度が糸繰り出し速度より速くなることによって生じるバックラッシュを防ぐために、制動力をスプールに作用させることが一般に行われている。この種のスプール制動装置として、スプールの回転により生じる遠心力を利用してスプールを制動し、かつ制動力をリール本体の外部から調整可能な遠心制動装置が知られている。
【0003】
従来の遠心制動装置において、リール本体に軸方向に複数の位置に位置決め可能に装着されたブレーキドラムを有するものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。従来の遠心制動装置では、ブレーキドラムの外周面にスプールに連動して回転するブレーキシューを接触させている。ブレーキドラムの外周面は、スプールに向けて縮径するテーパ面で構成されている。ブレーキドラムは、移動機構によりスプール軸方向の複数の位置に位置決め可能である。ブレーキシューは、スプール軸と食い違う軸回りに揺動可能である。ブレーキシューは、径方向内方に移動する先端でテーパ面に接触する。従来の遠心制動装置では、ブレーキシューをブレーキドラムの外周面に接触させることより、制動力の調整範囲を広くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−299402号公報の図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の構成では、ブレーキドラムの外周面にブレーキシューを接触させることにより、制動力の調整範囲が広くなる。しかし、遠心力によりブレーキシューがブレーキドラムのテーパ面に接触すると、テーパ面の作用により、スプール軸方向に力が発生し、ブレーキシューがハンドル装着側に押圧される。従来の両軸受リールのハンドル装着側には、キャスティングコントロール機構の調整部材が設けられている。調整部材は、リール本体に螺合している。制動力を調整するために調整部材を回転させると、調整部材のスプール軸方向の位置が変化する。このことから、従来の構成では、ブレーキシューがテーパ面に接触すると、ブレーキシューとともにスプールが調整部材側に移動する。この結果、調整部材の軸方向の位置により、スプール軸の軸方向の位置が変化し、ブレーキシューがテーパ面に接触する位置のブレーキドラムの直径が変化するおそれがある。ブレーキシューが接触する位置のブレーキドラムの直径が変化すると、制動力が変化する。このため、ブレーキドラムのスプール軸方向位置が同じであっても制動力が変化し、ブレーキドラムの軸方向位置に応じた制動力を安定して得にくい。
【0006】
本発明の課題は、外周面に設けられるテーパ面にブレーキシューを接触させるスプール制動装置において、ブレーキドラムの軸方向位置に応じた制動力を安定して得ることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1に係る両軸受リールのスプール制動装置は、リール本体と、リール本体内に回転自在に装着されるスプールと、リール本体の一側に回転自在に装着されるハンドルと、を有する両軸受リールのスプールを制動する。スプール制動装置は、第1制動機構と、第2制動機構と、を備える。
【0008】
第1制動機構は、第1摩擦プレートと、第2摩擦プレートと、調整部材と、を有する。第1摩擦プレートは、スプールの回転軸の一端に接触可能である。第2摩擦プレートは、回転軸の他端に接触可能である。調整部材は、第1摩擦プレートを回転軸の軸方向に移動させる。第1制動機構は、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートとで回転軸を挟んでスプールを制動する。
【0009】
第2制動機構は、回転部材と、少なくとも一つのブレーキシューと、ブレーキドラムと、移動機構と、を有する。回転部材は、スプールのハンドル装着側と逆側に配置される。回転部材は、回転軸に対して軸方向移動不能でありかつ、スプールの少なくとも糸繰り出し方向の回転に連動して回転可能である。少なくとも一つのブレーキシューは、第1端と第1端と逆側の第2端とを有する。少なくとも一つのブレーキシューは、第1端と重心との間で回転部材に揺動自在に装着される。ブレーキドラムは、ブレーキシューの径方向内方に配置され、揺動するブレーキシューの第1端に接触可能である。ブレーキシューは、調整部材に向かって外径が徐々に大きくなるテーパ面を外周面に有する。移動機構は、ブレーキドラムを回転軸の軸方向に移動可能かつ位置決め可能である。第2制動機構は、遠心力によりスプールを制動する。
【0010】
このスプール制動装置では、調整部材の回転軸の軸方向の位置を変化させることで、第1摩擦プレートの軸方向位置が変化し、回転軸に対する圧接力を変化させる。これにより、第1制動機構がスプールを可変に常時制動する。また、スプールが回転すると、遠心力に応じて第2制動機構がスプールを制動する。具体的には、スプールが回転すると回転部材がスプールと同方向に回転する。回転部材が回転すると、遠心力によりブレーキシューの第1端がブレーキドラムのテーパ面に接触してスプールが制動される。このとき、テーパ面の作用により、回転軸方向においてテーパ面が縮径する方向の力が発生し、ブレーキシューを押圧する。この力がブレーキシューを介して回転軸に伝達され、回転軸が縮径方向に押圧される。ここでは、テーパ面は、調整部材に向かって外径が徐々に大きくなっている。このため、回転軸は、調整部材と逆側の第2摩擦プレートに向けて押圧される。第2摩擦プレートの軸方向位置は固定されているため、回転軸が第2摩擦プレートに向けて押圧されても回転軸及びブレーキシューの軸方向の位置が変動しにくくなる。この結果、ブレーキドラムを移動機構により軸方向に位置決めしたとき、ブレーキシューがテーパ面に接触する位置の直径がブレーキドラムの回転軸方向の位置に対して変動しにくくなる。これにより、ブレーキドラムの軸方向位置に応じた制動力を安定して得ることができる。
【0011】
発明2に係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明1に記載の装置において、第1制動機構の調整部材は、リール本体の一側と逆の他側に設けられる。テーパ面は、スプールに向かって縮径する。この場合には、一側と逆の他側に第1制動機構の調整部材が設けられるので、一側には調整部材が突出せず、ハンドルとリール本体の距離を縮めることができる。
【0012】
発明3に係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明1に記載の装置において、第1制動機構の調整部材は、リール本体の一側に設けられる。テーパ面は、スプールに向かって拡径する。この場合には、調整部材が従来の両軸受リールと同様にハンドル側に設けられるので、従来の両軸受リールに対して第1制動機構の互換性を維持できる。
【0013】
発明4に係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明1から3のいずれかに記載の装置において、第2制動機構のブレーキシューは、回転軸と平行な軸回りに揺動する。この場合には、ブレーキシューが回転軸と平行な軸回りに揺動するため、ブレーキシューが回転軸方向に占めるスペースが小さくなり、両軸受リールの回転軸方向の寸法の増加を抑えることができる。
【0014】
発明5に係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明1から3のいずれかに記載の装置において、第2制動機構のブレーキシューは、回転軸と食い違う軸回りに揺動する。この場合には、ブレーキシューが回転軸と食い違う軸回りに揺動するので、ブレーキシューが周方向に占めるスペースが小さくなり、ブレーキシューを多く配置できる。
【0015】
発明6に係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明1から5のいずれかに記載の装置において、第2制動機構の移動機構は、リール本体に移動自在に装着され外部に露出する操作部材を有する。移動機構は、操作部材の移動位置に応じてブレーキドラムを異なる軸方向位置で位置決めする。
【0016】
この場合には、外部に露出する操作部材により、ブレーキドラムが軸方向の複数の位置のいずれかに位置決めされる。このため、リール本体の例えばカバー部材をあけなくても制動力を調整でき、制動力の調整が容易である。
【0017】
発明7に係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明1から6のいずれかに記載の装置において、第1制動機構のブレーキシューは、スプールの回転方向に間隔を隔てて複数配置されている。この場合には、複数のブレーキシューが設けられるので、大きな制動力を得ることができる。
【0018】
発明8に係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明7に記載の装置において、第2制動機構は、切換機構をさらに有する。切換機構は、複数のブレーキシューの少なくとも一つを、ブレーキドラムに接触可能な作動状態と、ブレーキドラムに接触不能な非作動状態と、に切換可能である。
【0019】
この場合には、ブレーキシューを作動状態と非作動状態とに切り換えできるため、ブレーキドラムに接触可能なブレーキシューの数を変更することができる。このため、ブレーキシューの状態を切り換えることにより制動力の調整範囲をさらに広範囲に行える。
【0020】
発明9に係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明8に記載の装置において、第1制動機構のブレーキシューの第1端と第2端とを結ぶブレーキドラムに対向可能な内側面は、ブレーキシューが非作動状態にあるとき、ブレーキドラムの外周面から離反可能な形状である。この場合には、揺動するブレーキシューであっても、非作動状態にすればブレーキシューがブレーキドラムに接触しない。
【0021】
発明10に係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明5から9のいずれかに記載の装置において、第2制動機構のブレーキシューは、スプールが糸繰り出し方向に回転するとき、第1端が第2端に対してスプールの回転方向下流側に配置されるように回転部材に支持される。
【0022】
この場合には、キャスティング等の糸繰り出し時に揺動軸芯が第1端より回転方向上流側に配置されるので、くさび力が作用せず遠心力の作用により制動力が変化する。このため、制動力の設定が容易である。
【0023】
発明11係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明1から10のいずれかに記載の装置において、第2制動機構の複数のブレーキシューは、第1端にブレーキドラムに接触する半円形状の接触面を有する長板形状の部材である。
【0024】
この場合には、ブレーキシューの第1端が半円形であるので、ブレーキシューの揺動範囲で第1端が揺動したときに、ブレーキドラムに対して同じ接触状態を維持しやすい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ブレーキドラムのテーパ面は、調整部材に向かって外径が徐々に大きくなっている。このため、ブレーキシューがテーパ面に押圧されると、回転軸は、調整部材と逆側の第2摩擦プレートに向けて押圧される。第2摩擦プレートの軸方向位置は固定されているため、回転軸が第2摩擦プレートに向けて押圧されても回転軸及びブレーキシューの軸方向の位置が変動しにくくなる。この結果、ブレーキドラムを移動機構により軸方向に位置決めしたとき、ブレーキシューがテーパ面に接触する位置の直径がブレーキドラムの回転軸方向の位置に対して変動しにくくなる。これにより、ブレーキドラムの軸方向位置に応じた制動力を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態が採用された両軸受リールの斜視図。
【図2】その平面断面図。
【図3】そのハンドル装着側と逆側の断面拡大図
【図4】遠心制動機構の分解斜視図。
【図5】遠心制動機構の正面図。
【図6】ブレーキシュー接触時のブレーキドラムの断面拡大部分図。
【図7】ブレーキドラム径が14.5mmの時のブレーキシューの揺動姿勢を示す図。
【図8】ブレーキドラム径が14.9mmの時のブレーキシューの揺動姿勢を示す図。
【図9】ブレーキドラム径が15.3mmの時のブレーキシューの揺動姿勢を示す図。
【図10】ブレーキドラム径が15.7mmの時のブレーキシューの揺動姿勢を示す図。
【図11】各揺動姿勢の制動力を求めるための表。
【図12】各揺動姿勢の制動力を示すグラフ。
【図13】第2実施形態の図2に相当する図。
【図14】第2実施形態の図3に相当する図。
【図15】第3実施形態の図13に相当する図。
【図16】第3実施形態の回転部材の分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態を採用した両軸受リールは、図1に示すように、ベイトキャスト用の小型のロープロフィール型のリールである。両軸受リールは、リール本体1と、リール本体1の側方に配置されたスプール回転用ハンドル2と、ハンドル2のリール本体1側に配置されたドラグ調整用のスタードラグ3とを備えている。
【0028】
<リール本体>
リール本体1は、図2に示すように、フレーム5と、フレーム5の両側方に装着された第1側カバー6a及び第2側カバー6bとを有している。また、リール本体1は、図1に示すように、前方を覆う前カバー7と、上部を覆うサムレスト8とを有している。リール本体1の内部には糸巻き用のスプール12が回転自在かつ着脱自在に装着されている。
【0029】
フレーム5は、図2に示すように、所定の間隔をあけて互いに対向するように配置された1対の第1側板5a及び第2側板5bと、これらの第1側板5a及び第2側板5bを連結する図示しない複数の連結部とを有している。第1側板5aには、スプール12が通過可能な階段状に拡径する開口部5cが形成されている。開口部5cは、第1側カバー6aに向かって階段状に拡径している。
【0030】
第1側カバー6aは、第1側板5a及び第2側板5bの後部に軸方向移動自在かつ回動自在に装着された開閉軸6dに開閉可能に装着されている。開閉軸6dは、第1側カバー6aに一端が固定されている。開閉軸6dは、軸回りに揺動する開閉レバー14により、閉位置でロックされる。第1側カバー6aには、第1開口6eと第1開口6eの前方に配置された第2開口6fとが形成されている。第1開口6eは、制動キャップ52(調整部材の一例)を第1側カバー6aの外方に露出させるために形成されている。制動キャップ52は、キャスティングコントロール機構22(第1制動機構の一例)の制動力を調整操作するために設けられる。また、第2開口6fは、操作部材36を第1側カバー6aの外方に露出させるために形成されている。操作部材36は、遠心制動機構23(第2制動機構の一例)の制動力を調整操作するために設けられる。第2側カバー6bは、第2側板5bにネジ止め固定されている。
【0031】
フレーム5内には、図2に示すように、スプール12と、スプール12内に釣り糸を均一に巻き付けるためのレベルワインド機構15と、サミングを行う場合の親指の当てとなるクラッチレバー17とが配置されている。クラッチレバー17は、開閉レバー14と並べて配置されている。スプール12は、第1側板5aの開口部5cを通過可能である。また、フレーム5と第2側カバー6bとの間には、ギア機構18と、クラッチ機構13と、クラッチ制御機構19と、ドラグ機構21と、が配置されている。ギア機構18は、ハンドル2からの回転力をスプール12及びレベルワインド機構15に伝えるための機構である。クラッチ制御機構19は、クラッチレバー17の操作に応じてクラッチ機構13の係脱及び制御を行うための機構である。さらに、フレーム5と第1側カバー6aとの間には、キャスティングコントロール機構22と、遠心制動機構23と、が配置されている。キャスティングコントロール機構22は、スプール12の回転時の抵抗力を調整するための制動機構である。遠心制動機構23は、キャスティング時のバックラッシュを抑えるための制動機構である。キャスティングコントロール機構22と遠心制動機構23とにより、スプール制動装置11が構成される。
【0032】
<スプール及びスプール軸>
スプール12は、図2に示すように、外周に釣り糸が巻き付けられる筒状の糸巻胴部12aと、左右一対のフランジ部12bと、ボス部12cと、を有している。フランジ部12bは、糸巻胴部12aの両端にそれぞれ径方向外方に一体的に突出して設けられている。ボス部12cは、スプール軸16(スプール12の回転軸の一例)に圧入等の適宜の固定手段により固定されている。これにより、スプール12は、スプール軸16に一体回転可能に連結される。
【0033】
スプール軸16は、図2に示すように、第2側板5bを貫通して第2側カバー6bの外方に延びている。スプール軸16の延びた一端は、第2側カバー6bに形成された軸受収納部6cに第1軸受24aにより回転自在に支持されている。またスプール軸16の他端は、遠心制動機構23内で第2軸受24bにより回転自在に支持されている。
【0034】
スプール軸16の第2側板5bの貫通部分には、クラッチ機構13を構成する係合ピン20が固定されている。係合ピン20は、直径に沿ってスプール軸16を貫通しており、その両端が径方向に突出している。スプール軸16のスプール12の固定部分の外周面には、第1セレーション16aが形成されている。第1セレーション16aは、スプール12を圧入する際の回り止めとして機能する。スプール軸16の第1セレーション16aの第1側カバー6a側には、大径の鍔部16bが形成されている。鍔部16bは、遠心制動機構23の後述する回転部材62を位置決めするために設けられている。鍔部16bの第1側カバー6a側のスプール軸16の外周面には、第2セレーション16cが形成されている。第2セレーション16cは、回転部材62をスプール軸16に圧入する際の回り止めとして機能する。
【0035】
<キャスティングコントロール機構の構成>
キャスティングコントロール機構22は、第1摩擦プレート51a及び第2摩擦プレート51bと、制動キャップ52と、を有している。第1摩擦プレート51a及び第2摩擦プレート51bは、スプール軸16の両端を挟むように配置されている。制動キャップ52は、第1摩擦プレート51及び第2摩擦プレート51bによるスプール軸16の挟持力を調節するためのものである。第1摩擦プレート51aは、制動キャップ52内に配置されている。第2摩擦プレート51bは、第2側カバー6bの軸受収納部6cの底部に配置されている。制動キャップ52は、遠心制動機構23のブレーキケース60に形成された雄ネジ部61aに螺合する。ブレーキケース60は、底部に第1側カバー6aの第1開口6eを貫通するボス部61を有している。雄ネジ部61aは、ボス部61の外周面に形成されている。
【0036】
<遠心制動機構>
遠心制動機構23は、図3に示すように、ブレーキケース60と、回転部材62と、複数(例えば6つ)のブレーキシュー64と、ブレーキドラム66と、移動機構68と、操作部材36と、オンオフ切換機構70(切換機構の一例)と、を備えている。ブレーキケース60は、第1側板5aの開口部5cに、複数の爪部72aを有するバヨネット構造72により着脱自在に装着されている。このため、第1側カバー6aをあけてブレーキケース60を取り外すことにより、スプール12を取り出すことができる。
【0037】
<ブレーキケース>
ブレーキケース60は、金属製又は合成樹脂製の有底筒状の部材である。ブレーキケース60は、環状の取付板60aと、取付板60aの内周側に一体形成された外筒部60bと、外筒部60bの径方向内方に配置された内筒部60cと、外筒部60bと内筒部60cとを連結する円板状の連結部60dと、前述したボス部61と、を有している。
【0038】
取付板60aの外周面は、開口部5cに配置されている。取付板60aの外周面には、バヨネット構造72の複数の爪部72aが周方向に適宜の間隔を隔てて形成されている。外筒部60bの一部には、移動機構68を配置するための切欠き部60eが形成されている。内筒部60cには、前述した第2軸受24bが内部に収納されている。また、内筒部60cにボス部61が第1側カバー6aを貫通して突出して形成されている。内筒部60cの外周面には、ブレーキドラム66に螺合する雄ネジ部60fが形成されている。連結部60dの外側面には、ブレーキケース60を着脱操作する際に使用される操作把手60gが形成されている。この操作把手60gを摘んでブレーキケース60を回動させることにより、ブレーキケース60を第1側板5aに対して着脱できる。また、連結部60dには、移動機構68を装着するための機構装着部60hが径方向外方に延びて形成されている。
【0039】
<回転部材>
回転部材62は、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂等の合成樹脂製の概ね円板状の部材である。回転部材62は、スプール12の少なくとも糸繰り出し方向の回転に連動して回転する。回転部材62は、図3及び図4に示すように、スプール軸16に圧入等の適宜の固定手段により一体回転可能に連結されている。回転部材62は、この実施形態では、第2セレーション16cに圧入固定されている。回転部材62はスプール軸16の鍔部16bにより軸方向に位置決めされている。
【0040】
回転部材62は、内周部がスプール軸16に固定される筒状のボス部62aと、ボス部62aの径方向外方に配置された環状のシュー取付部62bと、ボス部62aとシュー取付部62bとを接続する接続部62cとを有している。ボス部62aは、筒状であり、スプール軸16の鍔部16bにより軸方向に位置決めされ、第2セレーション16cに圧入固定されている。
【0041】
シュー取付部62bは、図4に示すように、リング板形状の本体部63aと、本体部63aに設けられた複数(例えば、6つ)のシュー支持部63bと、本体部63aに設けられた複数(例えば、6つ)の揺動規制部63cと、を有している。本体部63aは、スプール軸16と直交する取付面63eを、ブレーキケース60(図3)側に有している。複数のシュー支持部63bは、スプール12の回転方向に等間隔に配置されている。シュー支持部63bは、ブレーキシュー64を揺動自在に支持する揺動軸である。シュー支持部63bは、スプール軸16と平行に配置され、取付面63eからブレーキケース60側に延びている。シュー支持部63bは、大径の揺動支持部63fと、小径の先端部63gと、を有している。揺動支持部63fにブレーキシュー64が揺動自在に装着される。揺動規制部63cは、ブレーキシュー64のブレーキドラム66に向かう接触方向の揺動を規制するものである。揺動規制部63cは、スプール軸16と平行に配置され、取付面63eからブレーキケース60側に延びる丸棒形状の部分である。また、本体部63aには、オンオフ切換機構70を構成する複数(例えば、6つ)の切換突起63dが一体形成されている。オンオフ切換機構70は、図5に実線で示す作動状態と、図5に二点鎖線で示す非作動状態と、にブレーキシュー64を切り換える機構である。作動状態は、ブレーキシュー64がブレーキドラム66に接触可能な状態である。非作動状態は、ブレーキシュー64がブレーキドラム66に接触不能な状態である。切換突起63dは、スプール軸16と平行に配置され、取付面6からブレーキケース60側に延びる丸棒形状の部分である。揺動規制部63c及び切換突起63dもスプール12の回転方向に等間隔に配置されている。
【0042】
接続部62cは、有底筒状の部材であり、ボス部62aの外周部に一体形成されている。接続部62cの外周側の端面にシュー取付部62bの本体部63aが一体形成されている。
【0043】
シュー支持部63bの先端部63g、揺動規制部63cの先端及び切換突起63dの先端には、花びら形状の抜け止め部材71が着脱可能に装着されている。抜け止め部材71は、ブレーキシュー64を抜け止めするために設けられている。抜け止め部材71は、ブレーキドラム66の外周側に配置されている。抜け止め部材71は、例えばアルミニウム合金等の金属製の部材である。抜け止め部材71は、6つのシュー支持部63bの先端部63g、6つの揺動規制部63cの先端及び6つの切換突起63dの先端が挿入可能な複数(例えば18個)の抜け止め孔71aを有している。抜け止め孔71aは、6つのシュー支持部63bの先端部63g、6つの揺動規制部63cの先端及び6つの切換突起63dの先端より僅かに小径に形成され、これらに弾性的に係止される。
【0044】
<ブレーキシュー>
6つのブレーキシュー64は、図4及び図5に示すように、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂等の合成樹脂製の概ね長板形状の部材である。ブレーキシュー64は、スプール12の回転方向に間隔を隔てて配置されている。ブレーキシュー64は、スプール軸16の軸方向と平行な軸回りに揺動自在に回転部材62に装着されている。ブレーキシュー64は、ブレーキドラム66に接触可能な第1端64aとブレーキドラム66に接触不能な第2端64bとを有している。また、ブレーキシュー64は、第1端64aと重心GR(図5)との間で回転部材62のシュー支持部63bの揺動支持部63fに揺動自在に装着されるボス部64cを有している。ボス部64cは、揺動支持部63fの軸方向長さより僅かに短い(例えば0.2mmから1mm短い)長さを有している。揺動支持部63fの中心であるブレーキシュー64の揺動軸芯PCは、重心GRと第1端64aとの間に配置されている。ブレーキシュー64は、スプール12が糸繰り出し方向RD(図5)に回転するとき、第1端64aがスプール12の回転方向下流側に配置され、第2端が回転方向上流側に配置されるように回転部材62に支持されている。
【0045】
ブレーキシュー64の第1端64aと第2端64bとを結ぶブレーキドラム66に対向可能な径方向の内側面64dは、ブレーキシュー64が非作動状態にあるとき、ブレーキドラムの外周面から離反可能な形状である。具体的には、内側面64dは、円弧状の湾曲面である。さらに、ブレーキシュー64は、第1端64aにブレーキドラム66に接触する半円形の接触面64eを有している。接触面64eは、図6に拡大して示すように、第1端64aの板厚方向の中央に形成された突出面64fと、突出面64fから両側面に所定の傾斜角度αで形成されたテーパ状の傾斜面64gと、を有している。傾斜面64gの突出面64fに対する傾斜角度αは例えば26.6度である。
【0046】
また、図4及び図5に示すように、ブレーキシュー64の第2端64bには、切換突起63dに係合する切換凹部64hが形成されている。オンオフ切換機構70は、切換突起63dと切換凹部64hとにより構成される。切換凹部64hは、切換突起63dに係合してブレーキシュー64を非作動状態に弾性的に保持するために設けられている。ブレーキシュー64の径方向の外側面64iには、ブレーキシュー64を作動状態から非作動状態及び非作動状態から作動状態に切り換えるために使用される切換操作部64jが形成されている。切換操作部64jは、重心GRより揺動軸芯PCから離れた位置で、外側面64iからブレーキケース60側に延びている。このようにオンオフ切換機構70によりブレーキドラム66の接触可能なブレーキシュー64の数を変更することにより、さらに広範囲に制動力を調整できる。
【0047】
ブレーキシュー64は、スプール12が回転すると、重心GRに作用する遠心力により、揺動軸芯PCを中心として図5時計回りに揺動する。外側面64iは、直線形状であり、外側面64iは、揺動中心PCと重心GRの間で揺動規制部63cに接触する。これにより、ブレーキシュー64の図5時計回りの揺動が規制される。この結果、スプール12が糸巻取方向に回転したとき、ブレーキシュー64が図5時計回りに揺動しても、ブレーキシュー64がブレーキドラム66に食い込みにくくなる。
【0048】
<ブレーキドラム>
ブレーキドラム66は、図3、図4及び図5に示すようにブレーキシュー64の径方向内方に配置された、例えば亜鉛合金製の比較的硬質の金属製の筒状部材である。ブレーキドラム66は、図6に示すように、スプール12に近い回転部材62側から順に配置された第1平行面66aと、テーパ面66bと、第1平行面66aより大径の第2平行面66cと、を有する外周面66dを有している。すなわち、ブレーキドラム66は、異なる直径でブレーキシュー64に接触可能な外周面66dを有している。この第1平行面66a、テーパ面66b及び第2平行面66cに遠心力により揺動するブレーキシュー64の第1端64aに形成された接触面64eが接触する。テーパ面66bは、第2平行面66cから第1平行面66aに向かって徐々に縮径するように形成されている。すなわち、キャスティングコントロール機構22の制動キャップ52に向かって外径が徐々に大きくなっている。ここで、第1平行面66a直径は、第2平行面66cの直径の85%から95%の範囲である。この実施形態では、第1平行面66aの直径は、14.5mmであり、第2平行面66cの直径は、15.7mmである。また、テーパ面66bの軸方向長さは、2mmである。したがって、テーパ面66bの第1平行面66aに対する傾斜角度βは例えば16.7度であり、ブレーキシュー64の傾斜面64gの傾斜角度β(=26.6度)より小さい。このため、図6のA部に拡大して示すように、テーパ面66bにブレーキシュー64が接触する場合、接触面64eの傾斜面64gと第1端64a側のブレーキシュー64の突出面64fとの角部64kに接触する。
【0049】
ブレーキドラム66の内周面には、ブレーキケース60の雄ネジ部60fに螺合する雌ネジ部66eが形成されている。雌ネジ部66eは、テーパ面66bの軸方向長さより長い長さで形成されている。この実施形態では、雌ネジ部66eは、3.5mm〜5mmの範囲で形成されている。雄ネジ部60f及び雌ネジ部66eは、ピッチが例えば1.75mmの多条ネジ(例えば三条ネジ)である。このため、ブレーキドラム66が一回転すると、ブレーキドラム66は、スプール軸方向に5.25mmスプール軸方向に移動する。このように多条ネジを用いることにより、操作部材36の操作回転量に対してブレーキドラムを大きくスプール軸方向に移動させることができる。ブレーキドラム66の外周面には、移動機構68を構成する第1ギア部材73が一体回転可能に連結されている。第1ギア部材73は、操作部材36の回動操作に連動して回動する。この第1ギア部材73の回動により、ブレーキドラム66がスプール軸方向に移動する。
【0050】
<移動機構>
移動機構68は、ブレーキシュー64とブレーキドラム66とをスプール軸方向に移動かつ位置決め可能な機構である。移動機構68は、図3に示すように、操作部材36と、第1ギア部材73と、第1ギア部材73に噛み合う第2ギア部材74と、第2ギア部材74に噛み合い、操作部材36と一体回転に設けられた第3ギア部材75と、を有している。操作部材36は、ブレーキケース60の機構装着部60hに回動自在に装着されている。第1ギア部材73は、ブレーキドラム66ともにスプール軸方向に移動するため、第1ギア部材73は、ブレーキドラム66がいずれの移動位置にあっても第2ギア部材74に噛み合うように肉厚が厚くなっている。第2ギア部材74は、ブレーキケース60の機構装着部60hに回転自在に装着されている。第1ギア部材73と第3ギア部材とのギア比は、例えば、1/3から1/1の範囲である。
【0051】
操作部材36は、操作部材36と機構装着部60hとの間に配置された位置決め機構76により複数段階(例えば、6段階から20段階)の操作位置で位置決めされる。この実施形態では、10段階の操作位置で位置決めされる。位置決め機構76は、例えば、位置決めピン76aと、位置決めピンが係合する複数(例えば11個)の位置決め凹部76bと、を有している。位置決めピン76aは、機構装着部60hに進退自在に装着され、図示しないコイルバネにより進出方向に付勢されている。なお、位置決め機構76の構成は、位置決めピン76aと位置決め凹部76bとに限定されず、操作部材36を位置決め可能なものであればどのような構成でも良い。操作部材36には、図1及び図3に示すように両側が凹んだ把手部36aが形成されている。操作部材36の把手部36aを摘んで回動させることにより制動力を調整できる。
【0052】
操作部材36を図1に示す操作開始位置から時計回りに回動操作すると、第3ギア部材75が回動し、第2ギア部材74を介して第1ギア部材73が回動し、ブレーキドラム66が回動する。なお、操作開始位置は最も制動力が弱い状態の操作位置である。これにより、ブレーキケース60とのネジ結合により、ブレーキドラム66がスプール12から離反する方向に移動し、最大の操作位置で図3に示すスプール12に最も接近した最大制動位置にブレーキドラム66が移動する。これにより、遠心制動機構23の制動力を複数段階に調整できる。
【0053】
<その他のリールの構成>
ギア機構18は、図2に示すように、ハンドル軸30と、ハンドル軸30に固定されたドライブギア31と、ドライブギア31に噛み合う筒状のピニオンギア32とを有している。ハンドル軸30は、第2側板5bと第2側カバー6bとに回転自在に支持されている。ドライブギア31は、ハンドル軸30に回転自在に支持され、ドラグ機構21を介してハンドル軸30の回転が伝達される。ピニオンギア32は、第2側板5bの外方から内方に延び、中心にスプール軸16が貫通する筒状部材である。ピニオンギア32は、スプール軸16に軸方向に移動自在に装着されている。また、ピニオンギア32の図2左端部は、軸受43により第2側板5bに回転自在かつ軸方向移動自在に支持されている。
【0054】
ピニオンギア32は、図2右端側外周部に形成されドライブギア31に噛合する歯部32aと、他端側に形成された噛み合い溝32bと、歯部32aと噛み合い溝32bとの間に形成されたくびれ部32cとを有している。噛み合い溝32bは、ピニオンギア32の端面に直径に沿って形成された凹溝であり、噛み合い溝32bに係合ピン20が係止される。ここでは、ピニオンギア32が外方に移動し、その噛み合い溝32bと係合ピン20とが離脱すると、ハンドル軸30からの回転力はスプール12に伝達されない。この状態がクラッチ機構13のクラッチオフ状態である。この噛み合い溝32bと係合ピン20とによりクラッチ機構13が構成される。係合ピン20と噛み合い溝32bとが係合すると、ピニオンギア32からスプール軸16にトルクが伝達される。この状態がクラッチ機構13のクラッチオン状態である。
【0055】
クラッチレバー17は1対の第1側板5a及び第2側板5b間でスプール12の後方に配置されている。クラッチレバー17は、上下(図2紙面直交方向)に移動自在に装着され、上方のクラッチオン位置と下方のクラッチオフ位置との間で移動する。
【0056】
クラッチ制御機構19は、図2に示すように、クラッチヨーク40を有している。クラッチヨーク40は、スプール軸16の外周側に配置されており、2本のピン41(一方のみ図示)によってスプール軸16の軸芯と平行に移動可能に支持されている。クラッチヨーク40は、その中央部がピニオンギア32のくびれ部32cに係合する。
【0057】
このような構成で、クラッチレバー17がクラッチオン位置にあると、ピニオンギア32は内方のクラッチ係合位置に位置しており、その噛み合い溝32bとスプール軸16の係合ピン20とが係合してクラッチオン状態となっている。一方、クラッチレバー17がクラッチオフ位置に操作されると、クラッチヨーク40によってピニオンギア32が外方に移動し、噛み合い溝32bと係合ピン20との係合が外れクラッチオフ状態となる。
【0058】
ドラグ機構21は、ドライブギア31に押圧されるドラグ板45と、スタードラグ3の回転操作によってドラグ板45をドライブギア31に所定の力で押圧するための押圧プレート46とを有している。ドラグ機構21は、スタードラグ3の回動操作によりドラグ力が調整される。
【0059】
<遠心制動機構の動作>
遠心制動機構23では、操作部材36が、例えば、図1に示す操作開始位置にあるときは、図7に示すように、第1平行面66aにブレーキシュー64の接触面64eが接触する。図7から図10を参照してスプール12に作用する遠心制動機構23の制動力を図面から求めてみる。ここで、ブレーキドラム66の第1平行面66aの直径が14.5mm、第2平行面66cの直径が15.7mmとして、図7に示す最小制動位置と、図10に示す最大制動位置と、その間のテーパ面66bの2つの中間制動位置と、での制動力を求める。なお、図8では、テーパ面66bの直径14.9mmの中間制動位置、図9では、テーパ面の直径15.3mmの中間制動位置での制動力を求める。それぞれの制動位置での制動力は、図7に示す最小制動力を基準としてその倍率で示している。また、それぞれの制動位置での遠心力は、図10に示した最小遠心力を基準としてその倍率で示している。図11に各制動位置における制動力の算出過程を示す。図11から明らかなように、この実施形態では、ブレーキドラム66の径が大きいほど遠心力により作用する制動力が大きくなる。
【0060】
ここで、重心GRに作用する遠心力をCFとし、その大きさは、重心までの半径に比例することに着目する。図11に示すように、図10の最大制動力が作用する場合の遠心力を1とすると、最小制動位置(直径15.7mm)に向かって遠心力は徐々に大きくなる。この遠心力の揺動方向の力、具体的には、揺動軸芯PCと重心GRとを結ぶ線分L1と直交する方向のモーメントに寄与する力F1を求める。力F1は、遠心力CFと、力F1と遠心力CFとが挟む角度A1の余弦関数と、を乗算(F1=CF×COS(A1))することにより算出できる。このため、遠心力CFと角度A1とにより力F1を算出することができる。算出された力F1は、ブレーキドラム66の直径が大きくなるほど、大きくなることがわかる。続いて、力F1と線分L1と揺動中心PCから接触面64eとブレーキドラム66の接触位置を結ぶ線分L2とから、接触位置での揺動方向の力F2をモーメント(F2=F1×L1/L2)により算出する。求めた力F2のスプール軸芯SC方向の力がスプール12に作用する遠心制動機構23の制動力F3になる。この制動力F3は、力F2と、力F2と力F3とが挟む角度A2の正弦関数と、を乗算(F3=F2×SIN(A2))することにより算出できる。このため、角度A2を図から求めることにより制動力F3を算出できる。図11の制動位置毎の制動力比をグラフ化したものが図12である。図12では、横軸にブレーキドラム66の直径〈すなわち、制動位置〉をとり、縦軸に制動力比をとっている。この図11及び図12から明らかなように、この実施形態では、最大制動力と最小制動力とで2.5倍強の範囲に制動力を調整可能であることがわかった。
【0061】
このブレーキシュー64による制動時に、図6のA部に示すように、ブレーキシュー64がテーパ面66bに接触すると、スプール12の回転軸芯に向かう制動力F3がテーパ面66bに作用する。また、制動力F3のテーパ面66bに沿った力F5のさらにスプール軸16の軸方向の力F6がテーパ面66bの縮径方向(図6では、右方)に発生する。この力F6により、ブレーキシュー64及び回転部材62を介してスプール軸16が縮径方向に押圧される。
【0062】
上述のように縮径方向に、すなわちキャスティングコントロール機構22の第2摩擦プレート51bに向けてスプール軸16が押圧される。しかし、第2摩擦プレート51bは、第2側カバー6bの軸受収納部6cに軸方向右方に移動不能に装着されている。このため、移動機構68により軸方向に位置決めしたとき、ブレーキシュー64がテーパ面66bに接触する位置の直径がブレーキドラム66のスプール軸方向の位置に対して変動しなくなる。これにより、ブレーキドラム66の軸方向位置に応じた制動力を安定して得ることができる。
【0063】
このような構成の遠心制動機構23では、操作部材36が操作開始位置から時計回りに回動操作されると、第3ギア部材75が時計回りに回転し、第2ギア部材74を介して第1ギア部材73が時計回りに回転する。なお、図5は最小制動位置にすなわち操作開始位置に操作部材36がある状態を示している。これにより、ブレーキドラム66が回動し、例えばスプール12から離反する方向にブレーキドラム66が移動する。最大制動位置に操作されると、ブレーキシュー64が第2平行面66cに接触し、前述したように図3及び図7に示した最大制動状態になる。逆に、操作部材36を反時計回りに操作すると制動力が徐々に弱くなる。
【0064】
調整が終わり、キャスティングを行うとスプール12が糸繰り出し方向に回転する。スプール12が回転すると、遠心力がブレーキシュー64の重心GRに作用し、ブレーキシュー64がスプール12の平行な軸回りに揺動し、接触面64eがブレーキドラム66の外周面の調整された位置に接触する。すると、ブレーキシュー64とブレーキドラム66との摩擦によりスプール12が制動される。このときの制動力は、接触位置でのブレーキドラム66の直径に依存する。
【0065】
ここでは、遠心制動機構23の制動力が遠心力ではなく、ブレーキシュー64の傾き(ブレーキドラム66に接触する位置)に依存して変化するため、広範囲に制動力を調整可能になる。また、ブレーキシュー64がスプール軸16と平行な軸回りに揺動するので、スプール軸方向の長さの増加を抑えることができ、ブレーキシュー64を揺動させても、リールの大型化を防止できる。
【0066】
また、ブレーキドラム66のテーパ面66bは、制動キャップ52に向かって外径が徐々に大きくなっている。このため、ブレーキシュー64がテーパ面66bに押圧されると、スプール軸16は、軸方向位置が移動しない第2摩擦プレート51bに向けて押圧される。このため、スプール軸16が第2摩擦プレート51bに向けて押圧されてもスプール軸16及びブレーキシュー64の軸方向の位置が変動しにくくなる。この結果、ブレーキドラム66を移動機構68により軸方向に位置決めしたときのブレーキシュー64との接触位置が変動しなくなる。これにより、ブレーキドラム66の軸方向位置に応じた制動力を安定して得ることができる。
【0067】
<第2実施形態>
第1実施形態では、制動キャップ52が第1側カバー6aから露出している。これに対して、第2実施形態では、図13に示すように、スプール制動装置111のキャスティングコントロール機構122の制動キャップ152は、ハンドル装着側の第2側カバー106bから露出して配置している。なお、以降の説明では、第1実施形態と異なる構成だけを説明し、第1実施形態と同じ構成及び動作については、説明及び符号の図示を基本的には行わない。
【0068】
第2実施形態でも、操作部材36は、第1実施形態と同様に第1側カバー106aから露出している。したがって、第1側カバー106aに第1開口が形成されていない。一方、第2側カバー106bには、軸受収納部6cに代えてボス部106cが形成されている。ボス部106cには、スプール軸16を支持する第1軸受24aが装着されている。ボス部106cの外周面には、雄ネジ部106fが形成されている。制動キャップ152は、雄ネジ部106fに螺合する。この制動キャップ152にスプール軸16の一端面が接触する第1摩擦プレート151aが装着されている。第2摩擦プレート151bは、ブレーキケース160に収納されている。
【0069】
遠心制動機構123は、図14に示すように、第1実施形態と同様な操作部材36と、ブレーキケース160と、回転部材162と、第1実施形態と同様の複数のブレーキシュー64と、ブレーキドラム166と、第1実施形態と同様な移動機構68と、を備えている。
【0070】
ブレーキケース160は、制動キャップが装着されるボス部がない点が第1実施形態と異なる。ブレーキケース160の連結部160dの外側面には、操作把手160gが直径方向に沿って配置され軸方向外方に突出して形成されている。
【0071】
回転部材162は、基本的に第1実施形態と同じ構成である。しかし、径方向の寸法が第1実施形態より大きい。すなわち、回転部材162の接続部162c及びシュー取付部162bの径方向の寸法が第1実施形態より大きい。また、ブレーキドラム166の最小径と最大径での制動力の比率が第1実施形態と僅かに異なる。
【0072】
ブレーキドラム166は、第1実施形態と異なり、テーパ面164bがハンドル装着側に向かって拡径している。したがって、外周面166dの第1平行面166aは、第2平行面166cより大径である。しかし、制動キャップ152がハンドル装着側に配置されているため、テーパ面166bは、第1実施形態と同様に、制動キャップ152に向かって外径が徐々に大きくなる。その他の構成は、第1実施形態と同様である。このように、ブレーキドラム166の外周面166dの最大径が第1実施形態より大きい。このため、遠心制動機構123の制動力は、ブレーキシューの質量が第1実施形態と同じであっても、第1実施形態より僅かに大きくなる。
【0073】
このような構成の第2実施形態において、スプール12が糸繰り出し方向に回転してブレーキシュー64がテーパ面164bに接触すると、第1実施形態と同様にスプール軸方向の力が発生する。このとき、発生する力は、テーパ面164bの小径側の方向に作用するため、第1実施形態と同様に軸方向位置が変化しない第2摩擦プレート151bに向かってスプール軸16が押圧される。この結果、第2実施形態でも、ブレーキドラム166を移動機構68により軸方向に位置決めしたときのブレーキシュー64との接触位置が変動しなくなる。これにより、ブレーキドラム166の軸方向位置に応じた制動力を安定して得ることができる。
【0074】
<第3実施形態>
第3実施形態では、図15及び図16に示すように、スプール制動装置211の遠心制動機構223のブレーキシュー264は、回転部材262にスプール軸16と食い違う軸回りに揺動自在に装着されている。なお、第3実施形態では、ブレーキドラム166及びキャスティングコントロール機構122は、第2実施形態と同様な構成である。したがって、第2実施形態と同様な構成に関しては、第2実施形態と同じ符号を付している。したがって、以降の説明では、第2実施形態と異なる構成の回転部材262及びブレーキシュー264について説明する。
【0075】
<回転部材>
回転部材262は、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂等の合成樹脂製の概ね円板状の部材である。回転部材262は、スプール12の少なくとも糸繰り出し方向の回転に連動して回転する。回転部材262は、スプール軸16に圧入等の適宜の固定手段により一体回転可能に連結されている。回転部材262は、第2セレーション16cに圧入固定されている。回転部材262はスプール軸16の鍔部16bにより軸方向に位置決めされている。
【0076】
回転部材262は、内周部がスプール軸16に固定される筒状のボス部262aと、ボス部262aの径方向外方に配置された環状のシュー取付部262bと、ボス部262aとシュー取付部262bとを接続する接続部262cとを有している。ボス部262aは、筒状であり、スプール軸16の鍔部16bにより軸方向に位置決めされ、第2セレーション16cに圧入固定されている。
【0077】
シュー取付部262bは、図16に示すように、円板形状の本体部263aと、ブレーキシュー264を揺動自在に支持するシュー支持部263bと、を有している。本体部263aは、周方向に等間隔に配置された、ブレーキシュー264配置用の複数(例えば、6つ)のスリット263cを有している。シュー支持部263bは、スリット263cの両側に複数組(例えば、6組)の一対のシュー支持溝263dを有している。シュー支持溝263dは、スプール軸16と食い違う軸に沿って配置されている。シュー支持溝263dは、ブレーキシュー264の後述する揺動軸264cを揺動自在に収納可能な形状である。具体的には、シュー支持溝263dは、U字状の断面を有し、底面が半円形である。
【0078】
スリット263cには、スリット263cをつなぐ円弧状の複数(例えば、6つ)の連結部263eが形成されている。複数の連結部263eは、ブレーキシュー264を作動状態と非作動状態とに切り換えるオンオフ切換機構270を構成している。この作動状態及び非作動状態は第1実施形態と同様である。
【0079】
回転部材262には、ブレーキシュー264を抜け止めするための抜け止め部材271が複数(例えば6本の)ボルト部材280により固定される。抜け止め部材は、スリット263cに対向する位置に形成された複数(例えば、6つ)のスリット271aを有する。抜け止め部材271は、シュー支持溝263dを覆ってブレーキシュー264の揺動軸264cを抜け止めする。また、ボルト部材280をねじ込まれる図示しない複数(例えば、6つ)のボス部を回転部材262と対向する面に有している。
【0080】
接続部262cは、円板状の部分でありであり、ボス部262aの外周部に一体形成されている。接続部262cの外周側の端面にシュー取付部262bの本体部263aが一体形成されている。
【0081】
<ブレーキシュー>
6つのブレーキシュー264は、図15及び図16に示すように、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂等の合成樹脂製の概ね長板形状の部材である。ブレーキシュー264は、スプール12の回転方向に間隔を隔てて配置されている。ブレーキシュー264は、スプール軸16の軸方向と平行な軸回りに揺動自在に回転部材262に装着されている。ブレーキシュー264は、ブレーキドラム166に接触可能な第1端264aとブレーキドラム166に接触不能な第2端164bとを有している。また、ブレーキシュー264は、第1端264aと重心GR(図15)との間で回転部材262のシュー支持部263bのシュー支持溝263dに揺動自在に装着される揺動軸264cを有している。揺動軸264cは、ブレーキシュー264の両面から円柱状に突出している。揺動軸264cは、前述したようにシュー支持溝263dに収納され、抜け止め部材271により抜け止めされる。揺動軸264cの中心であるブレーキシュー264の揺動軸芯PCは、重心GRと第1端264aとの間に配置されている。
【0082】
ブレーキシュー264の重心Gより第2端264b側には、オンオフ切換機構270の連結部270aに係止可能な切換凹部264hが形成されている。このようにオンオフ切換機構270によりブレーキドラム166の接触可能なブレーキシュー264の数を変更することにより、さらに広範囲に制動力を調整できる。
【0083】
このような構成の第3実施形態の遠心制動機構223では、スプール12が糸巻取方向に回転すると、ブレーキシュー264が図15の反時計回りに揺動し、ブレーキシュー264の第1端264aがブレーキドラム166の外周面166dに接触する。これにより、スプール12が制動される。このときの制動力は、基本的には、第2実施形態と同様な比率である。このとき、上記2つの実施形態と同様に軸方向の力がブレーキシュー264に作用し、スプール軸16が図15左方に押圧される。しかし、スプール軸16は、軸方向位置が変化しない第2摩擦プレート51b側に押圧されるため、上記実施形態と同様にブレーキシューがテーパ面に接触する位置の直径がブレーキドラムの回転軸方向の位置に対して変動しにくくなる。これにより、ブレーキドラムの軸方向位置に応じた制動力を安定して得ることができる。
【0084】
<特徴>
上記実施形態は、下記のように表現可能である。なお、以降の説明では、3つの実施形態について共通な構成については、第1実施形態の符号のみを付加する。
【0085】
(A)両軸受リールのスプール制動装置11は、リール本体1と、リール本体1内に回転自在に装着されるスプール12と、リール本体1の一側に回転自在に装着されるハンドル2と、を有する両軸受リールのスプール12を制動する。スプール制動装置11は、キャスティングコントロール機構22と、遠心制動機構23と、を備える。
【0086】
キャスティングコントロール機構22は、第1摩擦プレート51aと、第2摩擦プレート51bと、制動キャップ52と、を有する。第1摩擦プレート51aは、スプール軸16の一端に接触可能である。第2摩擦プレート51bは、スプール軸16の他端に接触可能である。制動キャップ52は、第1摩擦プレート51aを回転軸の軸方向に移動させる。キャスティングコントロール機構22は、第1摩擦プレート51aと第2摩擦プレートとでスプール軸16を挟んでスプール12を制動する。
【0087】
遠心制動機構23は、回転部材62と、少なくとも一つのブレーキシュー64と、ブレーキドラム66と、移動機構68と、を有する。回転部材62は、スプール12のハンドル2装着側と逆側に配置される。回転部材62は、スプール軸16に対して軸方向移動不能である。また、回転部材62は、スプール12の少なくとも糸繰り出し方向の回転に連動して回転する。少なくとも一つのブレーキシュー64は、第1端64aと第1端と逆側の第2端64bとを有する。少なくとも一つのブレーキシュー64は、第1端64aと重心GRとの間で回転部材62に揺動自在に装着される。ブレーキドラム66は、ブレーキシュー64の径方向内方に配置され、揺動するブレーキシュー64の第1端64aに接触可能である。ブレーキシュー64は、制動キャップ52に向かって外径が徐々に大きくなるテーパ面66bを外周面66dに有する。移動機構68は、ブレーキドラム66をスプール軸16の軸方向に移動可能かつ位置決め可能である。遠心制動機構23は、遠心力によりスプール12を制動する。
【0088】
このスプール制動装置11では、制動キャップ52のスプール軸16の軸方向の位置を変化させることで、第1摩擦プレート51aの軸方向位置が変化し、スプール軸16に対する圧接力を変化させる。これにより、キャスティングコントロール機構22がスプール12を可変に常時制動する。また、スプール12が回転すると、遠心力に応じて遠心制動機構23がスプール12を制動する。具体的には、スプール12が回転するとスプール軸16を介して回転部材62がスプール12と同方向に回転する。回転部材62が回転すると、遠心力によりブレーキシュー64の第1端64aがブレーキドラム66のテーパ面66bに接触してスプール12が制動される。このとき、テーパ面66bの作用により、スプール軸方向においてテーパ面66bが縮径する方向の力が発生し、ブレーキシュー64を押圧する。この力がブレーキシュー64を介してスプール軸16に伝達され、スプール軸16が縮径方向に押圧される。ここでは、テーパ面66bは、制動キャップ52に向かって外径が徐々に大きくなっている。このため、スプール軸16は、制動キャップ52と逆側の第2摩擦プレート51bに向けて押圧される。第2摩擦プレート51bの軸方向位置は固定されているため、スプール軸16が第2摩擦プレート51bに向けて押圧されてもスプール軸16及びブレーキシュー64の軸方向の位置が変動しにくくなる。この結果、ブレーキドラム66を移動機構68により軸方向に位置決めしたとき、ブレーキシュー64がテーパ面66bに接触する位置の直径がブレーキドラム66のスプール軸方向の位置に対して変動しにくくなる。これにより、ブレーキドラム66の軸方向位置に応じた制動力を安定して得ることができる。
【0089】
(B)スプール制動装置11において、キャスティングコントロール機構22の制動キャップ52は、リール本体1の一側と逆の他側に設けられる。遠心制動機構23のテーパ面66bは、スプール12に向かって縮径する。この場合には、一側の逆の他側にキャスティングコントロール機構22の制動キャップ52が設けられるので、一側には制動キャップ52が突出せず、ハンドル2とリール本体1の距離を縮めることができる。
【0090】
(C)スプール制動装置111において、キャスティングコントロール機構122の制動キャップ152は、リール本体1のハンドル側に設けられる。テーパ面166bは、スプール12に向かって拡径する。この場合には、制動キャップ152が従来の両軸受リールと同様にハンドル側に設けられるので、従来の両軸受リールに対してキャスティングコントロール機構122の互換性を維持できる。
【0091】
(D)スプール制動装置11において、遠心制動機構23のブレーキシュー64は、スプール軸16と平行な軸回りに揺動する。この場合には、ブレーキシュー64がスプール軸16と平行な軸回りに揺動するため、ブレーキシュー64がスプール軸方向に占めるスペースが小さくなり、両軸受リールのスプール軸方向の寸法の増加を抑えることができる。
【0092】
(E)スプール制動装置211において、遠心制動機構223のブレーキシュー264は、スプール軸16と食い違う軸回りに揺動する。この場合には、ブレーキシュー264がスプール軸16と食い違う軸回りに揺動するので、ブレーキシュー264が周方向に占めるスペースが小さくなり、ブレーキシュー264を多く配置できる。
【0093】
(F)スプール制動装置11において、遠心制動機構23の移動機構68は、リール本体1に移動自在に装着され外部に露出する操作部材36を有する。移動機構68は、操作部材36の移動位置に応じてブレーキドラムを異なる軸方向位置で位置決めする。
【0094】
この場合には、外部に露出する操作部材36により、ブレーキドラム66が軸方向の複数の位置のいずれかに位置決めされる。このため、リール本体1の例えば第1側カバー6aをあけなくても制動力を調整でき、制動力の調整が容易である。
【0095】
(G)スプール制動装置11において、遠心制動機構23のブレーキシュー64は、スプール12の回転方向に間隔を隔てて複数配置されている。この場合には、複数のブレーキシュー64が設けられるので、大きな制動力を得ることができる。
【0096】
(H)スプール制動装置11において、遠心制動機構23は、オンオフ切換機構70をさらに備える。オンオフ切換機構70は、複数のブレーキシュー64の少なくとも一つを、ブレーキドラム66に接触可能な作動状態と、ブレーキドラム66に接触不能な非作動状態と、に切換可能なである。
【0097】
この場合には、ブレーキシュー64を作動状態と非作動状態とに切り換えできるため、ブレーキドラム66に接触可能なブレーキシュー64の数を変更することができる。このため、ブレーキシュー64の状態を切り換えることにより制動力の調整範囲をさらに広範囲に行える。
【0098】
(I)スプール制動装置11において、遠心制動機構23のブレーキシュー64の第1端64aと第2端64bとを結ぶブレーキドラム66に対向可能な内側面64dは、ブレーキシュー64が非作動状態にあるとき、ブレーキドラム66の外周面66dから離反可能な形状である。この場合には、揺動するブレーキシュー64であっても、非作動状態にすればブレーキシュー64がブレーキドラム66に接触しない。
【0099】
(J)スプール制動装置11において、遠心制動機構23のブレーキシュー64は、スプールが糸繰り出し方向に回転するとき、第1端が第2端に対してスプールの回転方向下流側に配置されるように回転部材に支持される。
【0100】
この場合には、キャスティング等の糸繰り出し時に揺動軸芯が第1端より回転方向上流側に配置されるので、くさび力が作用せず遠心力の作用により制動力が変化する。このため、制動力の設定が容易である。
【0101】
(K)スプール制動装置11において、遠心制動機構23の複数のブレーキシュー64は、第1端64aにブレーキドラム66に接触する半円形状の接触面64eを有する長板形状の部材である。
【0102】
この場合には、ブレーキシュー64の第1端64aが半円形であるので、ブレーキシュー64の揺動範囲で第1端64aが揺動したときに、ブレーキドラム66に対して同じ接触状態を維持しやすい。
【0103】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0104】
(a)前記3つの実施形態では、ブレーキシュー64を周方向に間隔を隔てて6つ設けたが、ブレーキシューの個数は少なくとも一つあればよい。また、複数の場合のブレーキシューの個数は6つに限定されず2つ以上であればいくつでも良い。ただし、リールの小型化、軽量化及び制動特性の適正化を図るためには、ブレーキシューの数は、3つ以上8つ以下が好ましい。
【0105】
(b)前記第1及び第2実施形態では、ブレーキシュー64の揺動軸芯PCを第1端64aのスプール12の糸繰り出し時の回転方向上流側に配置したが、揺動軸芯を糸繰り出し時の回転方向下流側に配置しても良い。
【0106】
(c)前記3つの実施形態では、回転部材62がスプール軸16に一体回転可能に連結されているが、本発明はこれに限定されない。回転部材は、スプール軸に対して軸方向移動不能かつ一体回転可能であればよい。例えば、スプール軸に一体回転可能に連結されたスプールに一体回転可能に連結されていても良い。
【0107】
(d)前記3つの実施形態では操作部材36が回動したが、操作部材の移動は回動に限定されず操作部材は移動するものであればどのような構成でも良い。例えば、操作部材が直線的に移動する摘み部材であっても良いし、操作部材が揺動するレバー部材であっても良い。
【0108】
(e)前記3つの実施形態では、ブレーキドラム66をスプール軸方向に移動させたが、回転部材をスプール軸方向に移動させても良い。この場合、例えば、スプール軸又はスプールに回転部材を螺合させてかつ移動位置でロック可能に構成すればよい。
【0109】
(f)前記3つの実施形態では、ブレーキシュー64の交換については言及していないが、異なる質量のブレーキシューを複数種類用意し、ブレーキシューを交換することにより、さらに広範囲で制動力を調整できる。また、ブレーキシューの数を6つから、減らしても良い。
【0110】
(g)前記実施形態では、回転部材62がスプール軸16に一体回転可能に固定されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、スプール12又はスプール軸16の糸繰り出し方向の回転にのみ連動して回転するようにしても良い。この場合、スプール又はスプール軸と回転部材との間にワンウェイクラッチ等の部材を配置しても良い。
【符号の説明】
【0111】
1 リール本体
2 ハンドル
11 スプール制動装置
12 スプール
16 スプール軸
16a 第1セレーション
16b 鍔部
16c 第2セレーション
17 クラッチレバー
18 ギア機構
19 クラッチ制御機構
20 係合ピン
21 ドラグ機構
22 キャスティングコントロール機構
23 遠心制動機構
36 操作部材
51a 第1摩擦プレート
51b 第2摩擦プレート
52 制動キャップ
60 ブレーキケース
62 回転部材
64 ブレーキシュー
64a 第1端
64b 第2端
64d 内側面
64e 接触面
64f 突出面
66 ブレーキドラム
66b テーパ面
66d 外周面
68 移動機構
70 オンオフ切換機構
111 スプール制動装置
122 キャスティングコントロール機構
123 遠心制動機構
151a 第1摩擦プレート
151b 第2摩擦プレート
152 制動キャップ
160 ブレーキケース
162 回転部材
166 ブレーキドラム
166b テーパ面
166d 外周面
211 スプール制動装置
223 遠心制動機構
262 回転部材
262a ボス部
264 ブレーキシュー
264a 第1端
264b 第2端
270 オンオフ切換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体と、前記リール本体内に回転自在に装着されるスプールと、前記リール本体の一側に回転自在に装着されるハンドルと、を有する両軸受リールの前記スプールを制動する両軸受リールのスプール制動装置であって、
前記スプールの回転軸の一端に接触可能な第1摩擦プレート、前記回転軸の他端に接触可能な第2摩擦プレート、及び前記リール本体に設けられ前記第1摩擦プレートを前記回転軸の軸方向に移動させる調整部材、を有し、前記第1摩擦プレートと前記第2摩擦プレートとで前記回転軸を挟んで前記スプールを制動する第1制動機構と、
前記スプールの前記ハンドル装着側と逆側に配置され、前記回転軸に対して軸方向移動不能でありかつ、前記スプールの少なくとも糸繰り出し方向の回転に連動して回転可能な回転部材、第1端と前記第1端と逆側の第2端とを有し、前記第1端と重心との間で前記回転部材に揺動自在に装着される少なくとも一つのブレーキシュー、前記ブレーキシューの径方向内方に配置され、揺動する前記ブレーキシューの前記第1端に接触可能であり、前記調整部材に向かって外径が徐々に大きくなるテーパ面を外周面に有するブレーキドラム、及び前記ブレーキドラムを前記回転軸の軸方向に移動可能かつ位置決め可能な移動機構、を有し、遠心力により前記スプールを制動する第2制動機構と、
を備える両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項2】
前記第1制動機構の前記調整部材は、前記リール本体の前記一側と逆の他側に設けられ、
前記ブレーキドラムの前記テーパ面は、前記スプールに向かって縮径する、請求項1に記載の両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項3】
記第1制動機構の前記調整部材は、前記リール本体の一側に設けられ、
前記ブレーキドラムの前記テーパ面は、前記スプールに向かって拡径する、請求項1に記載の両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項4】
前記第2制動機構の前記ブレーキシューは、前記回転軸と平行な軸回りに揺動する、請求項1から3のいずれか1項に記載の両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項5】
前記第2制動機構の前記ブレーキシューは、前記回転軸と食い違う軸回りに揺動する、請求項1から3のいずれか1項に記載の両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項6】
前記第2制動機構の前記移動機構は、前記リール本体に移動自在に装着され外部に露出する操作部材を有し、前記操作部材の移動位置に応じて前記ブレーキドラムを異なる軸方向位置で位置決めする、請求項1から5のいずれか1項に記載の両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項7】
前記第2制動機構の前記ブレーキシューは、前記スプールの回転方向に間隔を隔てて複数配置されている、請求項1から6のいずれかに記載の両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項8】
前記第2制動機構は、複数の前記ブレーキシューの少なくとも一つを前記ブレーキドラムに接触可能な作動状態と、前記ブレーキドラムに接触不能な非作動状態と、に切換可能な切換機構をさらに有する、請求項7に記載の両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項9】
戦記第2制動機構の前記ブレーキシューの前記第1端と第2端とを結ぶ前記ブレーキドラムに対向可能な内側面は、前記ブレーキシューが前記非作動状態にあるとき、前記ブレーキドラムの外周面から離反可能な形状である、請求項8に記載の両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項10】
前記第2制動機構の前記ブレーキシューは、前記スプールが糸繰り出し方向に回転するとき、前記第1端が前記第2端に対して前記スプールの回転方向下流側に配置されるように前記回転部材に支持される、請求項5から9のいずれか1項に記載の両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項11】
前記第2制動機構の複数の前記ブレーキシューは、前記第1端に前記ブレーキドラムに接触する半円形状の接触面を有する長板形状の部材である、請求項1から10のいずれか1項に記載の両軸受リールのスプール制動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−86(P2013−86A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136456(P2011−136456)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】