説明

両頭船とその操船方法

【課題】貨客の積載量を増加させ、港湾内の漂流物による運行への支障を少なくした両頭船を提供する。
【解決手段】船体の両端側にそれぞれ旋回式の推進装置を装備した両頭船であって、前側の推進装置を両頭船の進行方向に対して反転し、後側の推進装置が発生する推力の割合を求める推力演算装置を設けているので、進行方向に対して前側の推進装置の推力を有効に利用することで、推進装置、プロペラの寸法および重量を小さくして貨客の積載量を増加させ、港湾内の漂流物による運行への支障を少なくした両頭船の操船装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両頭船に係り、特に、船体の両端側に旋回式の推進装置を備えた両頭船とその操船方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近距離に位置する島間を往復するフェリーなどの貨客船等では、船体の両端側に推進装置を備え、船舶の進行方向に対して後側の推進装置を駆動することによってどちらの方向にも進むことのできるように構成されている。
【0003】
このような従来の両頭船を図5を参照して説明する。図5に示すように、両頭船は船体1の両端側にそれぞれ推進装置2と推進装置3を備えており、推進装置2と推進装置3にはそれぞれ推力を発生させるプロペラ4とプロペラ5が取り付けられている。船の進行方向は、矢印で示すように右方向としており、この進行方向に対して後側の推進装置2を駆動すると船体1は進行方向へ推進する。また、推進装置2と推進装置3は旋回式となっており、進行方向に対し後側の推進装置2を旋回させることで舵の役割を持たせ、船体1の進行方向を所望の向きにすることが可能になっている。また、船を往路から復路へ変更する場合、例えば、図5の進行方向と反対の方向に進行する時には、進行方向に対して後側の推進装置3を使用する。
【0004】
このような構造の船体1は、短い航行距離に利用されるもので、推進装置2および推進装置3をそれぞれ往路および復路で使い分けることで、往復のための方向転換に要する時間を短縮し、運転効率を向上させるようになっている。
【0005】
例えば、進行方向に対し前側の推進装置3を180度旋回させて推力を発生させると、プロペラ5の回転により発生する水流の大部分は船体1に当たるので、船体1が受ける抵抗が増加し、推進装置3が発生する推力の大部分は無駄になってしまう。そこで、従来の両頭船では進行方向に対し前側に位置するプロペラ5を空回しの状態、すなわち、遊転状態にしている。しかし、遊転状態のプロペラ5が受ける抵抗は推進機容量の5%程度に相当し、速力低下、および推進効率の低下の原因となっている。また、推進装置2およびプロペラ4の大きさは、進行方向に対し後側の推進装置2のみで発生し得る推力に基づき決定しているので、遊転状態のプロペラ5が受ける抵抗の分だけプロペラ4の直径、および推進装置2を大きくせざるを得ない。プロペラ5および推進装置3も同様の理由で大きくせざるを得ないので、さらに抵抗が増えることになる。したがって、船体1は大きくなったプロペラ4とプロペラ5を避けるような形状にする必要があることと、推進装置およびプロペラが大きくなることで重量が増加することによっても、貨客の積載量が減少することになる。
【0006】
また、船舶のなかには、2つの船体を甲板で平行につないだ双胴船と呼ばれるものも存在するが、この場合、進行方向に対し前側の推進装置を反転して推力を発生させた時の水流は、船体には直接当たらないものの、後側の推進装置に当たることで抵抗が発生するので、上記で述べたと同様の問題がある。
【0007】
また、台風通過後などで港湾内に漂流物が多く漂っている場合は、従来の両頭船では船体1の進行方向に対し前側の推進装置3およびプロペラ5に漂流物が衝突し、絡まってしまい運行に支障を生じることがあった。
【0008】
上述の問題を解決するための方法として、例えば、特許文献1が提案されている。この提案では、船体形状および進行方向に対し前側の推進装置の設置角度を変更することで、進行方向に対し前側のプロペラが発生する水流によって船体が受ける抵抗を減少させるようにしている。
【0009】
しかしながら、上記の提案においても、推進装置の設置および船体形状に制約を受けるため、積載できる貨客量が少なくなっている。また、港湾内の漂流物による運行への影響を解決する提案は未だなされていない。
【特許文献1】特願平7−217371号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に対処するためになされたもので、その課題は、推進装置、プロペラの寸法、および重量を小さくして貨客の積載量を増加させ、港湾内の漂流物による運行への支障を少なくした両頭船とその操船方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、船体の前後両端側にそれぞれ旋回可能な推進装置を装備した両頭船において、両頭船の推進方向に対して同方向に推力を発生させるように前側の推進装置を反転させる反転装置と前側の推進装置の推力を後側の推進装置の推力に対しあらかじめ決められた割合の推力となるように演算する推力演算装置を設け、それに基づいて前後推進装置を制御することを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、船体の両端側にそれぞれ旋回式の推進装置を装備した両頭船の操船方法であって、前記両頭船の進行方向に対して前側の推進装置が発生する推力を、進行方向に対して逆向きに発生させて操船することを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、船体の両端側にそれぞれ旋回式の推進装置を装備した両頭船の操船方法であって、進行方向に対して後側の前記推進装置の推力を設定する速度操作装置を設け、前記速度操作装置の設定位置において前側の前記推進装置を当該両頭船の進行方向に対して反転し、前記設定位置以上においては進行方向に対して前側の推進装置の推力を、前記速度操作装置の設定位置に応じてあらかじめ決定されている推力割合に設定して操船することを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の両頭船の操船方法において、逆推力指令装置と進行方向に対して後側の推進装置の推力を設定する速度操作装置を設け、前記逆推力指令装置が作動している状態では、進行方向に対して前側の前記推進装置の推力を、前記速度操作装置の設定位置に応じてあらかじめ決定されている推力割合に設定して操船することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、進行方向に対して前側の推進装置の推力を有効に利用することで、推進装置、プロペラの寸法および重量を小さくして貨客の積載量を増加させ、港湾内の漂流物による運行への支障を少なくした両頭船の操船装置および操船方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態の概略側面図であり、既に説明した図5の従来例と同一構成部分には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0017】
図に示すように、本実施形態においては、船体1の進行方向に対して図示していない反転装置で前側の推進装置6を180度反転し、後側のプロペラ9に加勢する方向に推力を発生させる。ここで、前側の推進装置6の推力は後側の推進装置7が発生する推力に対し、あらかじめ決められた割合となるように推力演算装置(図示しない)により、以下のようにして求める。
【0018】
この割合は次のようにして求められる。前側の推進装置6の推力を増やしていくと、プロペラ8が発生する水流によって船体1が受ける抵抗が増加する。また、推力を減じていくとプロペラ8が遊転することによる抵抗が増加する。船全体としての推進抵抗は船体1が受ける抵抗とプロペラ8が遊転することによる抵抗の合計であり、この抵抗が最小となる推進装置6の推力を、後側の推進装置7の推力と比較した時の割合として求める。
【0019】
このように船全体の推進抵抗が最小となる前側の推進装置6の推力を、後側の推進装置7の推力と比較した時の割合による推力で両頭船を操船することによって、従来の両頭船と比較して船体が受ける抵抗を小さくすることができるので、船体に装備すべき推進装置およびプロペラの寸法、重量を小さくすることができる。
【0020】
(第2の実施形態)
図2は本発明の第2の実施形態の概略側面図であり、既に説明した図5の従来例と同一構成部分には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0021】
図に示すように、本実施形態においては、船体1の進行方向に対して前側の推進装置6を従来の両頭船と同じ方向に向け、後側のプロペラ9が発生する推力とは反対方向の推力を前側のプロペラ8によって発生させるものである。ここで、推力演算装置(図示しない)により、前側の推進装置6の推力は、後側の推進装置7が発生する推力よりも少ない推力であり、あらかじめ決められた割合とする。
【0022】
このような両頭船を操船方法とすることによって、特に着桟時のような低速運転時において、港湾内に漂流している漂流物を船体の進行方向に対し前側のプロペラが発生する水流によって払い除けることができる。
【0023】
(第3の実施形態)
図3は本発明の第3の実施形態を説明するための速度操作装置および操作量と推力との関係を示したものである。
本実施形態は、既に説明した図1の第1の実施形態で述べた操船方法を実現する操船装置の一例である。
【0024】
図3の左側は速度操作装置10の構成を示しており、図3の右側は速度操作装置10の操作量と、船体1の進行方向に対し前後の推進装置が発生する推力との関係を示している。
【0025】
今、速度設定レバー11をガイド12に沿って中立位置13から前進方向、すなわち、図3では上方向にスライドさせていくと、船体1の後側の推進装置7が図3の右側に示す後側推力設定14によって設定された推力を発生する。このとき、前側の推進装置6は従来の両頭船と同じ方向を向いている。さらに速度設定レバー11を前進方向にスライドさせ、点線で示す反転設定位置15に達すると、船体1の前側の推進装置6が図示していない反転装置によって180度旋回する。さらに速度設定レバー11を前進方向にスライドさせれば、船体1の前側の推進装置6は図3の右側に示す前側推力設定16によって設定された推力を発生する。前側推力設定16は、図1の第1の実施形態で述べた、船体1が受ける抵抗が最小となる時の前側の推進装置6の推力を、後側の推進装置7の推力と比較した時の割合を後側推力設定14に乗じて設定している。
【0026】
速度設定レバー11を前進方向から中立位置13へ戻す場合には、上で述べた操作を逆の順序で実施することになる。すなわち、速度設定レバー11が前進100%の位置から反転設定位置15に来れば、船体1の進行方向に対して前側の推進装置6は推力をゼロとすると同時に図示していない反転装置によって180度反転し、従来の両頭船と同じ状態となって、後側の推進装置7のみで船体を推進する。速度設定レバー11をさらに中立位置13の方向へスライドさせれば後側の推進装置7の推力は減じていき、中立位置13でゼロとなる。また、進行方向を逆にする場合は、速度設定レバー11を後進側へスライドさせれば、速度設定レバー11の位置に応じ前後の関係が逆になるだけで上述したのと同様の操船方法、および推力設定となる。
【0027】
(第4の実施形態)
図4は本発明の第4の実施形態を説明するための速度操作装置および操作量と推力との関係を示したものである。
本実施形態は、既に説明した図2の第2の実施形態で述べた操船方法を実現する操船装置の一例である。
【0028】
今、逆推力指令装置17を作動させた状態において、例えば、図4の例では速度操作装置10に設けられたボタンとしている逆推力指令装置17を押した状態にして、速度設定レバー11を中立位置13から前進方向へスライドさせていくと、船体1の進行方向に対して前側の推進装置6は反転せずに従来の両頭船と同じ方向で推進する。すなわち、後側の推進装置7とは反対方向の推力を発生することになる。この場合、前側の推進装置6の推力を決定する逆推力設定18は第2の実施形態の場合と同様に、後側の推進装置7が発生する推力よりも少ない推力であらかじめ決められた割合を後側推力設定14に乗じて設定している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態である両頭船の概略側面図。
【図2】本発明の第2の実施形態である両頭船の概略側面図。
【図3】本発明の第3の実施形態を説明するための速度操作装置および操作量と推力との関係を示す図。
【図4】本発明の第4の実施形態を説明するための速度操作装置および操作量と推力との関係を示す図。
【図5】従来の両頭船の概略側面図。
【符号の説明】
【0030】
1…船体、2…推進装置(進行方向に対して後側)、3…推進装置(進行方向に対して前側)、4…プロペラ(進行方向に対して後側)、5…プロペラ(進行方向に対して前側)、6…本発明における推進装置(進行方向に対して前側)、7…本発明における推進装置(進行方向に対して後側)、8…本発明におけるプロペラ(進行方向に対して前側)、9…本発明におけるプロペラ(進行方向に対して後側)、10…速度操作装置、11…速度設定レバー、12…ガイド、13…中立位置、14…後側推力設定、15…反転設定位置、16…前側推力設定、17…逆推力指令装置、18…逆推力設定。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の前後両端側にそれぞれ旋回可能な推進装置を装備した両頭船において、両頭船の推進方向に対して同方向に推力を発生させるように前側の推進装置を反転させる反転装置と前側の推進装置の推力を後側の推進装置の推力に対しあらかじめ決められた割合の推力となるように演算する推力演算装置を設け、それに基づいて前後推進装置を制御することを特徴とする両頭船。
【請求項2】
船体の両端側にそれぞれ旋回式の推進装置を装備した両頭船の操船方法であって、前記両頭船の進行方向に対して前側の推進装置が発生する推力を、進行方向に対して逆向きに発生させて操船することを特徴とする両頭船の操船方法。
【請求項3】
船体の両端側にそれぞれ旋回式の推進装置を装備した両頭船の操船方法であって、進行方向に対して後側の前記推進装置の推力を設定する速度操作装置を設け、前記速度操作装置の設定位置において前側の前記推進装置を当該両頭船の進行方向に対して反転し、前記設定位置以上においては進行方向に対して前側の推進装置の推力を、前記速度操作装置の設定位置に応じてあらかじめ決定されている推力割合に設定して操船することを特徴とする両頭船の操船方法。
【請求項4】
請求項2記載の両頭船の操船方法において、逆推力指令装置と進行方向に対して後側の推進装置の推力を設定する速度操作装置を設け、前記逆推力指令装置が作動している状態では、進行方向に対して前側の前記推進装置の推力を、前記速度操作装置の設定位置に応じてあらかじめ決定されている推力割合に設定して操船することを特徴とする両頭船の操船方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−137270(P2007−137270A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334060(P2005−334060)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000195959)西芝電機株式会社 (172)