説明

中子造型方法および中子造型装置

【課題】金型のノズル挿入口に不要な固形部分を形成することなく、中子を造型する方法を提供する。
【解決手段】鋳物砂と溶解性バインダーの混合物を原料とする中子を造型する方法であり、挿入工程、充填工程、通風工程、抜出工程を有する。挿入工程は、中子の金型に形成されているノズル挿入口にノズルを挿入する。充填工程は、ノズルを介して金型に懸濁させた前記混合物を充填する。通風工程は、ノズル内の混合物が流動性を失うまでノズルにエアを供給する。抜出工程は、ノズル内に混合物を付着させたままノズルを金型から抜き出す工程。通風工程を実施することによって流動性を失った混合物はノズル内壁に付着する。その後に実施する抜出工程によって、ノズル内に混合物を付着させたままノズルをノズル挿入口から抜き出すことができる。ノズル挿入口に混合物を残すことなく、金型に混合物を充填することができる。その結果、中子を金型から外し易くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造に用いられる中子の造型方法と中子の造型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物品を成形する際に用いられる中子は、鋳物砂と溶解性バインダーの混合物から作られる。鋳物砂は、天然の砂であってもよいが、粒子状の人工砂が使われることもある。溶解性バインダーとしては、水溶性無機バインダーを用いる。
中子を造型する方法のひとつに、中子型に液状の混合物を充填し、これを加熱・固化して造型する方法が知られている。液状の混合物を充填するために、中子型にノズルを挿入する。このノズルを通して液状の混合物を中子型へ充填したのち、ノズルを抜き出す。中子型内の液状の混合物を加熱・固化して中子を造型する。そのような中子の造型方法は、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平1−233039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中子型のノズル挿入口は、中子型の内外に通じているため筒状である。中子型に液状の混合物を充填した時点では、ノズル挿入口の筒内に余剰の混合物が残留している。その状態で混合物を固化すると、ノズル挿入口の筒内に、本来の中子には不要な部分が形成されてしまう。そうすると、中子を金型から外し難くなってしまう。ノズル挿入口に不要な固形部分を形成することのない技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
液状の混合物を型に充填するため、ノズル挿入口は金型の上方に設ける必要がある。ノズル挿入口から液状の混合物を除去することは困難である。しかし、混合物から流動性がなくなるまで水分を除去してしまえば、ノズル内に混合物を付着させることができる。その状態でノズルを抜き出せば、ノズル内の混合物をノズルと一緒にノズル挿入口から除去できる。
【0006】
本発明は、鋳物砂と溶解性バインダーの混合物を原料とする中子を造型する方法に具現化できる。この方法は、次の工程を備える。
(1)中子の金型に形成されているノズル挿入口にノズルを挿入する挿入工程。
(2)ノズルを介して金型に懸濁させた前記混合物を充填する充填工程。
(3)ノズル内の混合物が流動性を失うまでノズルにエアを供給する通風工程。
(4)ノズル内に混合物を付着させたままノズルを金型から抜き出す抜出工程。
通風工程を実施することによって流動性を失った混合物はノズル内壁に付着する。その後に実施する抜出工程によって、ノズル内に混合物を付着させたままノズルをノズル挿入口から抜き出すことができる。ノズル挿入口に混合物を残すことなく、金型に混合物を充填することができる。その結果、中子を金型から外し易くなる。
「流動性を失うまで」とは、ノズル内の混合物が、ノズル内壁に付着して落下しない程度のゲル状になるまでを意味する。「混合物が湿砂状になるまで」と換言してもよい。
【0007】
通風工程と抜出工程の間に、懸濁させた混合物をノズルへ供給するバルブを閉鎖する閉鎖工程を備えることが好ましい。
バルブを閉鎖することで、バルブより上部の混合物がノズル内の混合物へ圧力を加えることを防止できる。抜出工程においてノズル内の混合物が落下することを防止できる。
【0008】
抜出工程に続いて、金型のノズル挿入口から押圧部材を挿入してノズル挿入口に面している混合物表面を押圧整形する押圧工程を備えているとよい。
押圧工程を実施することによって、完成した中子の表面にノズル挿入口の跡が残ることがない。
【0009】
本発明は、鋳物砂と溶解性バインダーの混合物を原料とする中子を造型する装置に具現化することもできる。その装置は、中子の金型内へ懸濁させた混合物を供給するノズルと、ノズル内の混合物が流動性を失うまでノズルにエアを供給するエア供給手段と、ノズル内に混合物を付着させたままノズルを金型から抜き出すアクチュエータを備えている。
上記の中子造型装置によって、金型のノズル挿入口に不要な部分を形成することなく、中子を造型できる。
【0010】
金型に充填した混合物を加熱・固化する際に、ノズル挿入口から熱風を送り込む方法が採用されることがある。本発明の方法、装置を利用すると、ノズル挿入口に不要な混合物を残すことがない。従って、ノズル挿入口から熱風を送り込む際に、不要な混合物に邪魔されることなく金型のキャビティ内の混合物へ直接に熱風を送り込むことができる。キャビティ内の混合物を効率よく固化することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金型のノズル挿入口に不要な混合物を残さずに、金型に混合物を充填することができる。その結果、中子を金型から外し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施例の中子形成方法、中子形成装置の特徴を列記する。
(1)ノズルは、金型に挿入されるとその先端が金型キャビティ面の一部を画定する。
(2)抜出工程の後に(或いは、押圧工程の後に)、ノズル挿入口から熱風を送り込んで混合物を固化する固化工程を備える。
【実施例】
【0013】
図1に、中子造型装置100の模式図を示す。以下では、中子造型装置100を単に装置100と称する。この装置100は、混合物Sを金型12のキャビティ14に充填したのちに固化することで、中子を造型する装置である。混合物Sは、鋳物砂と水溶性無機バインダーの混合物である。
装置100は、スラリー容器20を備えている。混合物Sを懸濁させた懸濁体(スラリー)が、スラリー容器20に収納されている。スラリー容器20は、アクチュエータ22に支持されている。アクチュエータ22は、モータとリニアガイド(不図示)から構成されており、スラリー容器20を上下に動かすことができる。
スラリー容器20の上方には、ファン28が取り付けられている。ファン28は、熱風(エア)をスラリー容器20内へ送り込む。
スラリー容器20の下側には、バルブ24とノズル26が取り付けられている。バルブ24を開放すると、スラリー容器20内の混合物Sがノズル26へ供給される。供給された混合物Sは、ノズル26の先端から吐出する。バルブ24を開放すると同時にファン28を作動すると、ファン28によって送り込まれるエアの圧力により、ノズル26の先端から混合物Sを勢い良く吐出させることができる。
【0014】
スラリー容器20の下方に、中子の金型12が配置されている。金型12は、上型12aと下型12bからなる。上型12aと下型12bが組み合わさって、その内部にキャビティ14が形成される。
上型12aには、ノズル挿入口18が設けられている。ノズル挿入口18は、キャビティ14と金型12の外側を繋ぐ通路である。アクチュエータ22によってスラリー容器20を降下させると、ノズル26がノズル挿入口18に挿入される。
下型12bには、ベント16が設けられている。ベント16は、混合物Sを構成する鋳物砂の径よりも小さい網目の網を備えた通気孔である。気体と液体はベント16を通過できるが、鋳物砂はベント16を通過できない。
【0015】
装置100はまた、押圧ピン30と熱風供給装置32を備えている。押圧ピン30、熱風供給装置32は、金型12のノズル挿入口18に挿入される。図1では、押圧ピン30、熱風供給装置32のうち、ノズル挿入口18に挿入される部分のみ図示しており、その他の部分は図示を省略している。押圧ピン30、熱風供給装置32の機能については後述する。
【0016】
図2〜図6を参照して、装置100の動作、すなわち、中子の造型方法を説明する。なお、図2〜5では、図1に示した部品を図示していない。説明に不要な部品は図示を省略している。
(1)挿入工程(図2参照)
まず、アクチュエータ22を駆動して、スラリー容器20を降下する。図2の矢印A1が、スラリー容器20の移動方向を示している。そうして、スラリー容器20のノズル26を金型12のノズル挿入口18に挿入する。スラリー容器20には、懸濁させた混合物が
このとき、図2に示すように、上型12aの内壁上面と、ノズル26の先端面が、同一の平面を形成する。すなわち、ノズル26の先端がキャビティ14の一部を画定する。
(2)充填工程(図3)
バルブ24を開くとともに、ファン28を作動する。ファンが送り込むエアによって、混合物Sがノズル26を通ってキャビティ14へ充填される。このとき、ファンによってスラリー容器20に送り込まれたエアは、混合物Sとともにキャビティ14へ送られる。
キャビティ14が混合物Sで満たされるとき、ノズル26も混合物Sで満たされている。このときの混合物Sはまだ懸濁状であり、高い流動性を有している。
(3)通風工程(図3)
キャビティ14が混合物Sで充填された以降も、ファン28によってエアを送り続ける。図3の矢印A2は、エアの流れる向きを示している。エアは、ノズル26を通過してキャビティ14に達し、そこからベント16を通って金型12外へ排出する。エアを送り続けることによって、混合物S中の水分が蒸発していくとともに、流動性が低下していく。ノズル26内の混合物Sが流動性を失うまでエアを送り続ける。別言すれば、ノズル26内の混合物Sが湿砂状になるまでエアを送り続ける。流動性を失うと、混合物Sはその粘性によってノズル26の内壁に付着する。
(4)閉鎖工程(図3)
混合物Sが流動性を失った時点でファン28を停止する。そして、バルブ24を閉鎖する。なお、図3は、バルブ24を開放した状態を図示しており、バルブ24を閉鎖した状態は示していない。バルブ24を閉鎖した状態は、図1、2に図示されている。バルブ24を閉鎖すると、ノズル26内の混合物Sが、スラリー容器20内に残った混合物Sと分離される。
(5)抜出工程(図4)
図4の矢印A3が示すように、アクチュエータ22を作動させて、スラリー容器20を上方に移動させる。別言すれば、金型12のノズル挿入口18からノズル26を抜き出す。このとき、ノズル26内(ノズル26内でバルブ24より下方の部分)に残っている混合物Sは、ノズル26の内壁に付着しているので、ノズル26とともにノズル挿入口18から抜き出される。図4に示すように、ノズル26を抜き出した後のノズル挿入口18には、混合物Sが残らない。
(6)押圧工程(図5)
金型12の上方のスラリー容器20を水平方向に移動させ、代わりに押圧ピン30(図1参照)を、金型12のノズル挿入口18から挿入する。図5の矢印A4が示す方向に押圧ピン30を押し当てることによって、ノズル挿入口18に面している混合物Sの表面を押圧整形する。
(7)固化工程(図6)
ノズル挿入口18から押圧ピン30を抜き出し、熱風供給装置32を挿入する。熱風供給装置32を作動させて、キャビティ14内に熱風を送り込む。図6の矢印A5が、熱風の向きを表している。キャビティ14に送り込まれた熱風は、ベント16から金型12の外部へ排出される。熱風を送ることによって、キャビティ14内の混合物Sを加熱・乾燥・固化する。
最後に、上型12aと下型12bを分離し、完成した中子(キャビティ14内で固化した混合物S)を取り出す。
【0017】
上記に説明した中子造型方法の利点を述べる。
キャビティ14に懸濁させた混合物Sを充填した後、ノズル26をノズル挿入口18から抜出する前に、ノズル26内にエアを送って混合物Sをノズル26の内壁に付着させる。その後にノズル26をノズル挿入口18から抜出するので、ノズル挿入口18内に混合物Sが残らない。その結果中子(キャビティ14内で固化した混合物S)を金型12から外し易くなる。
従来の技術によると、ノズル挿入口18に混合物Sが残っていると、混合物Sを固化した際、キャビティ14に通じているノズル挿入口18内でも混合物Sが固化してしまう。ノズル挿入口18内で固化した混合物Sが、完成した中子(キャビティ14内で固化した混合物S)を金型12から外す際の抵抗となってしまう。上記の中子造型方法によれば、ノズル挿入口18に混合物Sを残さないので、金型12から中子を外し易くなる。
抜出工程の前にバルブ24を閉鎖するので、スラリー容器20に残った混合物Sの圧力がノズル26内の混合物Sに及ばない。ノズル26を抜出する際、ノズル26内に付着した混合物Sが落下し難くなる。
ノズル挿入口に不要な混合物を残すことがないので、固化工程においてノズル挿入口から熱風を送り込む際に、不要な混合物に邪魔されることなく金型のキャビティ内の混合物へ直接に熱風を送り込むことができる。キャビティ内の混合物を効率よく固化することができる。
【0018】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
混合物Sを構成する鋳物砂は、天然の砂でなくとも、粒子状の物質であればよい。例えば、粒子状の人工砂でよい。混合物Sを構成するバインダーは、水溶性無機バインダーに限られない。溶解性(液体に溶ける性質)と、乾燥すると混在する粒子同士を接着する性質を兼ね備えていればよい。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】中子造型装置の模式図である。
【図2】挿入工程を説明する図である。
【図3】充填工程、通風工程、閉鎖工程を説明する図である。
【図4】抜出工程を説明する図である。
【図5】押圧工程を説明する図である。
【図6】固化工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0020】
10:中子造型装置
12:金型
14:キャビティ
16:ベント
18:ノズル挿入口
20:スラリー容器
22:アクチュエータ
24:バブル
26:ノズル
28:ファン
30:押圧ピン
32:熱風供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳物砂と溶解性バインダーの混合物を原料とする中子を造型する方法であり、
中子の金型に形成されているノズル挿入口にノズルを挿入する挿入工程と、
ノズルを介して金型に懸濁させた前記混合物を充填する充填工程と、
ノズル内の混合物が流動性を失うまでノズルにエアを供給する通風工程と、
ノズル内に混合物を付着させたままノズルを金型から抜き出す抜出工程と、
を備えることを特徴とする中子造型方法。
【請求項2】
通風工程と抜出工程の間に、懸濁させた混合物をノズルへ供給するバルブを閉鎖する閉鎖工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の中子造型方法。
【請求項3】
抜出工程に続いて、金型のノズル挿入口から押圧部材を挿入してノズル挿入口に面している混合物表面を押圧整形する押圧工程を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の中子造型方法。
【請求項4】
鋳物砂と溶解性バインダーの混合物を原料とする中子を造型する装置であり、
中子の金型内へ懸濁させた前記混合物を供給するノズルと、
ノズル内の混合物が流動性を失うまでノズルにエアを供給するエア供給手段と、
ノズル内に混合物を付着させたままノズルを金型から抜き出すアクチュエータを備えていることを特徴とする中子造型装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−190039(P2009−190039A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30001(P2008−30001)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】