中層浮魚礁設備
【課題】 構成の簡素化を図り、シンカーを含む設備全体を容易かつ確実に回収することができる中層浮魚礁設備を提供する
【解決手段】 使用後に回収される中層浮魚礁設備1であって、海底Gに設置されるシンカー2と、浮体3が設けられる魚礁本体4と、一端部がシンカー2に結合され、他端部が魚礁本体4に結合され、魚礁本体4を海面S下に係留する係留索5であって、中層浮魚礁設備1の回収時に予め定める切断位置Pで切断され、切断位置Pの両側に結合部を有する係留索5と、係留索5の予め定める切断位置Pの両側の結合部に、各端部がそれぞれ結合され、係留索5の両結合部間の長さよりも長尺の回収索6と、浮体3の浮力による引張力によって破断可能な係止用索条7であって、回収索6を、係留索5の切断位置Pと、シンカー2に結合される一端部とにわたる部分に結合する係止用索条7とを含むことを特徴とする中層浮魚礁設備である。
【解決手段】 使用後に回収される中層浮魚礁設備1であって、海底Gに設置されるシンカー2と、浮体3が設けられる魚礁本体4と、一端部がシンカー2に結合され、他端部が魚礁本体4に結合され、魚礁本体4を海面S下に係留する係留索5であって、中層浮魚礁設備1の回収時に予め定める切断位置Pで切断され、切断位置Pの両側に結合部を有する係留索5と、係留索5の予め定める切断位置Pの両側の結合部に、各端部がそれぞれ結合され、係留索5の両結合部間の長さよりも長尺の回収索6と、浮体3の浮力による引張力によって破断可能な係止用索条7であって、回収索6を、係留索5の切断位置Pと、シンカー2に結合される一端部とにわたる部分に結合する係止用索条7とを含むことを特徴とする中層浮魚礁設備である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底に設置したシンカーに係留索によって浮魚礁を海中に浮遊状態で係留する中層浮魚礁設備に関し、さらに詳しくは浮魚礁の回収を容易にするための中層浮魚礁の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、設置した海域での魚群誘導礁としての効果も期待できるとして、浮魚礁の開発が注目されている。この浮魚礁は、底魚向けの沈設型魚礁とは異なり、海域の表層、中層域の回遊魚および根付魚を対象とし、魚群の誘導・蝟集効果に優れた浮魚礁が用いられている。浮魚礁は、魚礁本体に浮体を取り付け、これにロープ、人工海藻、網状物などを組合せた柔構造とし、この浮魚礁は、適度な陰影、潮流による渦流で回遊魚の蝟集効果があるとともに、海藻類の付着成長で稚魚の中間育成場としても機能する。
【0003】
中層浮魚礁は、耐用年数がたとえば10年として設計され、設置後10年を経過した浮魚礁は、回収の必要性が生じる場合がある。浮魚礁の浮体に結束された係留索を海底の定位に係留するためのシンカーは、直方体であって、底面が2m×2m程度の正方形の平坦面から成る一定形状とし、高さを1.0m〜1.5mの範囲で調整することによってその重量を10t〜15tの範囲に調整しているので、シンカーを海上から自沈させて海底地盤に設置したとき、シンカーの底部が海底地盤に埋没した状態となり、中層浮魚礁を回収索によって係留索およびシンカーとともに台船に引揚げる際に、シンカーに海底地盤から大きな吸着力および摺動抵抗力が作用しているため、中層浮魚礁設備の構成を簡素化して回収時の引揚げ力を低減し、容易かつ確実に中層浮魚礁設備を回収する技術が求められている。
【0004】
シンカーを含めた中層浮魚礁設備を引き揚げて回収する場合、回収索に作用する力によっては、途中で回収索が切断されるおそれがある。回収索に作用する力は、シンカーを海底から引抜く際に作用する力F1、シンカーの引き揚げ開始時に作用する力F2、回収作業中に作用する力F3があるが、この中でシンカーを海底から引抜く際に作用する力F1が最も大きいことが判っている。
【0005】
このようなシンカーを海底から引抜く際に作用する力F1を低減する従来技術は、たとえば特許文献1に開示されている。特許文献1では、シンカーにその底面から上面まで貫通する孔を形成する、またはシンカーと水底との間に金網や鉄筋を碁盤状に交差させた格子状部材を設置することによって、引上げの際にシンカーの底面に水を流入し易くし、シンカーの底面と水底との吸着効果を低減している。
【0006】
特許文献1に記載の貫通孔を形成したシンカーでは、貫通孔に砂などの堆積物が入りこみ堆積した場合には、前記吸着効果の低減効果を得難いという問題がある。また、格子状部材を用いる場合には、シンカーを格子状部材の上に正確に載置して用いる必要があるので、設置が困難になるという問題と、浮魚礁自体の構成が複雑化するという問題がある。
【0007】
また、前述のように耐用年数が経過した中層浮魚礁は、回収の必要性が生じる場合がある。従来技術の回収方法としては、浮体が海面下に位置していること、シンカーまで含めた回収実績がないことなど、未知な部分が多く、回収技術が確立されておらず、たとえば、耐用年数経過後の回収の際、回収索は回収時に取付ける方法が検討されている。しかしながら、魚礁本体が海面下にある中層浮魚礁は、水深が大きく、潜水士による作業は危険を伴うという問題がある。
【0008】
そこで、潜水士に代えて遠隔操作の無人潜水機によって回収索を係留索に取付けて回収する方法が検討されている。このような中層浮魚礁を回収する方法に関する従来技術は、特許文献2に開示されている。特許文献2に開示の中層浮魚礁の回収方法では、作業船から吊り下げた案内索の先端部を移動させながら中層浮魚礁の魚礁本体に対して掛止め、案内索を利用して、回収索の一端側と結合する回収用金具が前方に着脱可能に取付けられた無人潜水機を魚礁本体の近くまで下ろし、無人潜水機を操作して回収用金具をアンカーと魚礁本体とを係留する係留索に結合させて、無人潜水機を引き揚げた後に回収索を巻き上げて中層浮魚礁の回収を行っている。
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示の方法では、回収索を係留索に取付けるために、専用の取付金具である回収用金具が必要となり、その取付けにも特殊技術が必要となるという問題と、取付金具によって係留索の1点を固定して引揚げるため、係留索の1点に大きな荷重が作用し、係留索が切断する可能性があるという問題、さらに魚礁本体と回収索とが繋がった状態で魚礁本体を海面まで引揚げ、海面から台船に回収する際に魚礁本体を回収索から切断するので、回収索に最も大きな負荷が掛かって破断する可能性のある回収索に近づいて、魚礁本体を回収索から切断する必要があり、回収作業に危険性が伴うという問題があり、中層浮魚礁の回収を容易かつ確実で安全に行うことはできない。
【0010】
特許文献3には、係留構造に関する従来技術が開示されている。特許文献3に開示の係留構造では、1本の組紐ロープの各端を反転し、主ロープ側の側面から挿入し所要長さ先の側面から導出することにより長手方向両端にそれぞれリングを有するタック部を形成し、ロープ各端が長さ調整代部を有するように主ロープ側の側面から導出し、各タック部に締付具を取り付けることによって、使用現場での切断やアイスプライス加工などを要さず、容易かつ確実に長さ調整できるようにしている。
【0011】
しかしながら、特許文献3の係留構造では、ロープの長さを調整するためには締付具を移動する必要があるので、たとえば中層浮魚礁を海中に設置した後に、係留索や回収索の長さの調整を行いたい場合には、潜水士または無人潜水機によって、締付具を移動させる必要があり、係留索や回収索の長さの調整が海中では困難であるという問題がある。したがって、中層浮魚礁の回収時に回収索の長さを調整することによって、浮体を海面付近まで浮かび上がらせて、回収を行うことができないので、中層浮魚礁の回収を容易に行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−211480号公報
【特許文献2】特開2010−207106号公報
【特許文献3】特開平7−90787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、構成の簡素化を図り、シンカーを含む設備全体を容易かつ確実に回収することができる中層浮魚礁設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、使用後に回収される中層浮魚礁設備であって、
海底に設置されるシンカーと、
浮体が設けられる魚礁本体と、
一端部が前記シンカーに結合され、他端部が前記魚礁本体に結合され、魚礁本体を海面下に係留する係留索であって、中層浮魚礁設備の回収時に予め定める切断位置で切断され、当該予め定める切断位置の両側に結合部を有する係留索と、
前記係留索の予め定める切断位置の両側の結合部に、各端部がそれぞれ結合され、前記係留索の両結合部間の長さよりも長尺の回収索と、
前記回収索を、前記係留索に結合する係止用手段とを含むことを特徴とする中層浮魚礁設備である。
また本発明は、前記係止用手段は、前記浮体の浮力による引張力によって破断可能な係止用索条であって、前記回収索を、前記係留索の前記予め定める切断位置と、前記シンカーに結合される一端部とにわたる部分に結合する係止用索条であることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、シンカーは、直方体状のコンクリート製ブロックから成り、海底に設置された状態から浮上するとき、海底地盤と該海底地盤に接触する部分との間に水を導くための導水部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、係留索の予め定める切断位置の両側の結合部に、各端部がそれぞれ結合され、係留索の両結合部間の長さよりも長尺の回収索を有するので、中層浮魚礁設備を回収する際に、係留索を切断位置で切断することによって、浮体を海面まで浮かび上がらせることができる。したがって、中層浮魚礁設備が設置されている位置を海上から容易に確認することができるとともに、浮体によって海面まで上がってきた魚礁本体を回収索から切断し、台船に引揚げて回収することができる。また、魚礁本体を回収後、魚礁本体が繋がっていた回収索を用いて係留索とシンカーを回収することができる。このように、魚礁本体が海面に浮上し、魚礁本体が海面に浮遊している状態、すなわち回収索に対して荷重が掛かっていない状態で魚礁本体を回収索から切断することができるので、安全に魚礁本体を回収索から切断して、回収することができる。
【0017】
また本発明によれば、係止用手段が、浮体の浮力によるせん断力によって破断可能であって、回収索を、係留索の切断位置と、シンカーに結合される一端部とにわたる部分に結合する係止用索条であるので、係留索が切断されていない中層浮魚礁設備の設置時には回収索を折畳み、設置作業の妨げになることを防ぐことができる。また、回収時には潜水士などが各係止用索条を切断することなく、各係止用索条を破断することができるので中層浮魚礁設備を容易に回収することができる。
【0018】
また本発明によれば、シンカーが、海底に設置された状態から浮上するとき、海底地盤と該海底地盤に接触する部分との間に水を導くための導水部を有するので、導水部が形成されない場合と比べ、海底地盤とシンカーの海底地盤に接触する部分との間に円滑に海水を導くことができる。したがって、海底地盤とシンカーの海底地盤に接触する部分との吸着力にともなう、中層浮魚礁設備を回収する際の引抜き抵抗力を低減することができるので、中層浮魚礁設備の回収中に回収索が破断することなどを防ぐことができ、中層浮魚礁設備の回収を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態の中層浮魚礁設備1の構成を示す断面図であり、図1(1)は魚礁本体4が係留索5およびシンカー2によって海中Mに係留された状態を示し、図1(2)は係留索5が切断された状態を示し、図1(3)は魚礁本体4が海面Sに浮上した状態を示し、図1(4)は魚礁本体4が、台船U上に引揚げられて回収された状態を示す。
【図2】シンカー2の正面図である。
【図3】シンカー2の平面図である。
【図4】係留索5と回収索6とが係止用索条7によって係止された状態を拡大して示す図である。
【図5】シンカー2の引抜き抵抗力を確認するための引抜き試験で用いたシンカー供試体31〜35の寸法形状を示す図であり、図5(1)はシンカー供試体31を示し、図5(2)はシンカー供試体32を示し、図5(3)はシンカー供試体33を示し、図5(4)はシンカー供試体34を示し、図5(5)はシンカー供試体35を示す。
【図6】各シンカー供試体31〜35の引抜き試験で用いた引抜き試験設備25を示す図である。
【図7】引抜き試験設備で用いた引抜き力測定器24を示す図である。
【図8】条件1〜3で各シンカー供試体31〜35で要した引抜き時間を示すグラフである。
【図9】スリットまたはテーパを形成したときのシンカー2の引抜き抵抗力を確認するための引抜き試験で用いたシンカー供試体41〜46の寸法形状を示す図であり、図9(1)はシンカー供試体41を示し、図9(2)はシンカー供試体42を示し、図9(3)はシンカー供試体43を示し、図9(4)はシンカー供試体44を示し、図9(5)はシンカー供試体45を示し、図9(6)はシンカー供試体46を示す。
【図10】条件1〜3で各シンカー供試体41〜46で要した引抜き時間を示すグラフである。
【図11】シンカー2の引抜き抵抗力を確認するための引抜き試験で用いたシンカー供試体51〜55の寸法形状を示す図であり、図11(1)はシンカー供試体51を示し、図11(2)はシンカー供試体52を示し、図11(3)はシンカー供試体53を示し、図11(4)はシンカー供試体54を示し、図11(5)はシンカー供試体55を示す。
【図12】条件4で各シンカー供試体51〜55で要した引抜き時間を示すグラフである。
【図13】中層浮魚礁設備1の回収時の安全性を確認するための試験設備を示す図である。
【図14】係止用索条7による係留索5への回収索6の取付構造試験で用いた結束構造モデル1〜4を示す図であり、図14(1)は結束構造モデル1を示す図であり、図14(2)は結束構造モデル2を示す図であり、図14(3)は結束構造モデル3を示す図であり、図14(4)は結束構造モデル4を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明の一実施形態の中層浮魚礁設備1の構成を示す断面図であり、図1(1)は浮魚礁本体4が係留索5およびシンカー2によって海中Mに係留された状態を示し、図1(2)は係留索5が切断された状態を示し、図1(3)は魚礁本体4が海面Sに浮上した状態を示し、図1(4)は魚礁本体4が、台船U上に引揚げられて回収された状態を示す。本実施形態の中層浮魚礁設備1は、使用後すなわち耐用期間が経過した後に海中Mから回収される中層浮魚礁設備であって、図1(1)に示すように、海底Gに設置されるシンカー2と、浮体3が設けられる魚礁本体4と、一端部がシンカー2に結合され、他端部が魚礁本体4に結合され、魚礁本体4を海面S下に係留して、中層浮魚礁設備1の回収時に予め定める切断位置Pで切断される係留索5と、係留索5の予め定める切断位置Pの両側に連なる各部分に、各端部J1,J2がそれぞれ結合され、係留索5の前記各端部J1,J2がそれぞれ結合される部分、すなわち後述の主係留索10の長さL1よりも長尺の回収索6と、浮体3の浮力による引張力によって破断可能であって、回収索6を、係留索5の予め定める切断位置Pと、シンカー2に結合される一端部とにわたる部分に結合する係止用手段である係止用索条7とを含む。
【0021】
本実施形態では、回収索6は、係止用手段である係止用索条7によって係留索5に結合されて固定されているが、回収索6の固定方法は前記方法に限らず、たとえば回収索6の端部に錘を設けることによって実現してもよい。
【0022】
係留索5は、シンカー2に一端部が結合される主係留索10と、主係留索10に魚礁本体4を接続する副係留索11とを有する。中層浮魚礁設備1の耐用期間が経過すると、図1(2)に示すように、主係留索10を前記予め定める切断位置Pで深海探査機Rによって切断することによって、魚礁本体4は、浮体3の浮力によって、図1(3)に示すように、海面Sまで浮上し、台船U上に引揚げられて回収され、図1(4)に示すように魚礁本体4の回収後、回収索6を使用して、係留索5とシンカー2が台船U上に引揚げられて回収される。
【0023】
図2はシンカー2の正面図であり、図3はシンカー2の平面図である。シンカー2は、魚礁本体4を海中Mに係留するために、水深200m〜3000mの海底Gの地盤上の定位置に載置されて用いられる重錘であり、本実施形態ではシンカー2は、幅=2000mm、奥行き=2000mm、高さ=1000mmの直方体状のコンクリート製ブロックから成る。また、シンカー2は、海底Gの地盤に設置された状態から浮上させて回収する際に、海底Gと該海底Gの地盤に接触する部分との間に周囲の海水を導くための導水部8を有する。本実施形態では、導水部8は、シンカー2の4つの側部の中央に、シンカー2の上面および底面間を連通する溝幅=200mm、溝深さ=200mmの断面凹状のスリットがそれぞれ形成される形態とした。
【0024】
このように導水部8を有するので、導水部8が形成されない場合と比べ、海底Gとシンカー2の海底Gに接触する部分との間に円滑に海水を導くことができる。したがって、海底Gとシンカー2の海底Gの地盤に接触する部分との吸着などに起因する、中層浮魚礁設備1を回収する際の引抜き抵抗力を低減することができるので、中層浮魚礁設備1の回収中に回収索6が破断することなどを防ぐことができ、中層浮魚礁設備1の回収を確実に行うことができる。
【0025】
本実施形態では、シンカー2はコンクリート製ブロックから成るが、浮魚礁本体4を海中Mに係留することができる重量物であればよく、鋼鉄製または鋼鉄製フレームとコンクリートとを一体化した鉄骨コンクリート製であってもよい。また、本実施形態では、シンカー2の形状は、直方体状に形成されるが、シンカー2の形状は当該形状に限らず、三角錐および四角錐などの多角錐状、三角錐台および四角錐台などの多角錐台状、三角柱および四角柱などの多角柱状、ならびに円柱状のうちから選ばれた一種であってもよい。
【0026】
再び図1を参照して、前記浮体3は、海中Mで魚礁本体4をシンカー2に係留された係留索5を結束した状態で充分な浮力を与えるためのABS樹脂製の中空球状である。浮体3は、全体として、魚礁本体4、係留索5および回収索6の全体を浮揚させるに充分な浮力を有する。本発明の他の実施形態の浮体3は、前記中空球状のABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂に代えて、独立気泡の発泡合成樹脂によって形成されてもよい。
【0027】
魚礁本体4は、繊維強化プラスチックから成る略円筒状の枠体の上部に、浮力を生じさせるための前記中空球状の浮体3が多数、たとえば4〜130個取付けられ、無潮流状態における海面S下で、前記複数の浮体4を上方にした姿勢を維持してほぼ鉛直に浮揚するように構成されている。
【0028】
前記浮体3は、前記ABS樹脂製の中空球体以外にも、たとえば内部に発泡ウレタンなどの発泡合成樹脂を充填した鉄パイプまたはポリ塩化ビニルなどの合成樹脂パイプの上下開口部を蓋で塞いだ1つの中空の円柱状体であってもよい。
【0029】
また、魚礁本体4は、前記構成に限らず、たとえば上部を浮体3をも兼ねた密閉中空柱状の蓋体として構成すると共に、下部を下方に延びる複数本の支柱で檻状に構成してもよい。
【0030】
係留索5は、主係留索10と副係留索11とから成り、魚礁本体4とシンカー2とを接続するために用いられる。係留索5は、耐用期間(たとえば10年)の間に破断することがない耐久性、および潮流などの影響によって魚礁本体4がシンカー2から離反する方向に動く引張力によって破断することのない引張強度を有するとともに、柔軟に湾曲し得る可撓性を有していればよく、たとえば合成繊維ロープまたは防食被覆を施した金属製ワイヤなどによって実現される。本実施形態では、主係留索10として、φ28mm〜φ40mmのワイヤ外装ポリエチレン被覆ポリアリレートトエルロープが用いられ、副係留索11として、φ30mm〜φ45mmのワイヤ外装ポリエチレン被覆ポリエステルトエルロープが用いられる。本実施形態では、主係留索10と副係留索11とは、異なる材質で実現されているが、同じ材質から実現されてもよい。
【0031】
副係留索11は、主係留索10に安定して魚礁本体4を接続するためのもので、その一端が主係留索10に接続され、その他端が魚礁本体4に接続されて、主係留索10と魚礁本体4の間に複数本、本実施形態では4本設けられる。主係留索10と副係留索11とが、同じ材質から実現されている場合、副係留索11は、主係留索10と比較してその径が細い。また、前述のように副係留索11は、複数本設けられるので、各副係留索11に掛かる力を分散しやすく、主係留索10と比較して細く形成し易い。
【0032】
主係留索10は、その一端が副係留索11に接続され、その他端が金属製の係留用フック部材12を介してシンカー2に接続される。この係留用フック部材12は、たとえば逆U字状の丸鋼によって実現されてもよい。なお、係留用フック部材12の周囲には、4つの吊下げ用フック部材13が設けられる。主係留索10と副係留索11とが、同じ材質から実現されている場合、主係留索10は、副係留索11と比較してその径が大きい。
【0033】
主係留索10は、中層浮魚礁設備1を回収する際には、予め定める切断位置Pで前述の深海探査機Rに具備した切断装置や潜水士による切断工具、機械式の水中切り離し装置によって切断される。予め定める切断位置Pは、主係留索10と副係留索11とが接続される位置よりも海底G側の位置であって、後述する主係留索10と接続される複数の係止用索条7のうち、最も海面S側で主係留索10と接続される係止用索条7の結束位置よりも海面S側の位置であれば、いずれの箇所が選ばれてもよいが、主係留索10と副係留索11とが接続される位置から海底G側で、かつ主係留索10と接続される複数の係止用索条7のうち、最も海面S側で主係留索10に結束される係止用索条7よりも海面S側の間であって、なるべく浅い水深、すなわち海面S側が望ましい。このように浅い水深に切断位置Pが選ばれることにより、たとえば無人潜水機を用いて切断を行う場合に、稼働コストの高価な深海用無人潜水機を用いることなく、稼働コストが深海用無人潜水機に比べて格段に安価な100m〜200m程度の水深仕様の無人潜水機によって切断を行うことができるので、回収に掛かる費用を低減することができる。
【0034】
回収索6は、係留索5と同様の材料から成る長尺のロープ状物で、係留索5の予め定める切断位置Pの両側の結合部に各端部がそれぞれ結合される。より詳細には、一端が主係留索10と副係留索11とが接続される箇所よりもわずかに海底G側の主係留索10の部位に結合され、他端が主係留索10に一端が接続される箇所よりも海底G側に結合される。本実施形態では、一端は主係留索10と副係留索11とが接続される箇所からたとえば1〜3m程度海底G側の部位に結合され、他端は主係留索10に一端が接続される箇所からたとえば1〜3m程度海底G側の部位に結合される。
【0035】
回収索6は、係留索5の両結合部間の長さよりも長尺であり、本実施形態では、係留索5の両結合部間の長さL1は、たとえば5〜100mであり、回収索6の長さL2は、たとえば25〜300mである。このように、係留索5の予め定める切断位置Pの両側の結合部に、各端部がそれぞれ結合され、係留索5の両結合部間の長さL1よりも長尺(L2)の回収索6を有するので、中層浮魚礁設備1を回収する際に、係留索5を切断位置Pで切断することによって、浮体3を海面Sまで浮上させることができる。したがって、中層浮魚礁設備1が設置されている位置を海上から容易に確認することができるとともに、浮体3によって海面Sまで上がってきた魚礁本体4を回収索6から切断し、台船Uに引揚げて回収することができる。また、魚礁本体4を回収後、魚礁本体4が繋がっていた回収索6を用いて係留索5およびシンカー2をともに回収することができる。
【0036】
このように、魚礁本体4が海面に浮上し、魚礁本体4が海面に浮遊している状態、すなわち回収索6に対して荷重が掛かっていない状態で魚礁本体4を回収索6から切断することができるので、安全に魚礁本体4を回収索6から切断して、回収することができる。また、たとえばウインチドラムを用いて回収作業を行う場合に、魚礁本体4を切断してから、回収索6をウインチドラムへ取り付けることができる、すなわち回収索6に荷重が掛からない状態でウインチドラムに回収索6を取り付けることができるので、安全に回収索6をウインチドラムに取り付けることができる。また、このように魚礁本体4と回収索6、係留索5およびシンカー2とを分けて回収することができるので、たとえばウインチドラムを用いて台船U上に引き上げる場合に、巻き上げ作業の途中で魚礁本体4の切断などを行う必要がなく、巻き上げ作業のみを行えばよいので、安全かつ効率よく回収作業を行うことができる。
【0037】
図4は係留索5と回収索6とが係止用索条7によって係止された状態を拡大して示す図である。係止用索条7は、回収索6の海中Mにおいて略U字状に弛緩した状態で垂下する余剰の折返し部分を、係留索5の切断位置Pと、シンカー2に結合される一端部とにわたる部分に結合する紐、ロープまたはワイヤであって、複数設けられ、本実施形態では、図4に示すように、8本設けられる。
【0038】
係止用索条7の材質は、中層浮魚礁設備1を回収する際の浮体3の浮力による引張力によって破断する強度であればよく、たとえばポリエステル、ナイロン、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどの合成繊維全般や生分解性素材のポリ乳酸やポリブチレンサクシネートであってもよい。
【0039】
また、係止用索条7の設けられる本数は特に制限されないが、耐用期間が経過する前に海中Mの浮遊物が衝突することによって、あるいは劣化によって破断する可能性があるので、複数本以上設けられることが好ましい。
【0040】
係止用索条7の係留索5との結束の手法は、特に限定されないが、本実施形態では、一端が巻き結びで強固に結束され、他端がもやい結びによって弛緩状態で結束される。もやい結びは、索条体の端部に固定した輪を形成する結び方であるので、たとえば当該輪の内側に回収索6を通して結束した場合であっても、回収索6は自由に動くことが可能である。
【0041】
したがって、主係留索10および魚礁本体4に近接する側の回収索6Aと魚礁本体4と離反する側の回収索6Bとを係止用索条7で結合する場合、主係留索10および魚礁本体4に近接する側の回収索6Aに結束される端部を巻き結びとし、魚礁本体4と離反する側の回収索6Bに結束される端部をもやい結びとし、さらに海面Sに最も近接する位置で回収索6Aと回収索6Bとを係止用索条7によって結合し、海面Sから最も離反する位置で回収索6Bと主係留索10とを係止用索条7によって結合し、海面Sに最も近接する位置に配置される係止用索条7と海面Sから最も離反する位置に配置される係止用索条7との間に、回収索6Aと回収索6Bとを結合する係止用索条7と、回収索6Bと主係留索10とを結合する係止用索条7とを交互に配することによって、海面Sに近い側の係止用索条7から遠い側の係止用索条7の順で、1本ずつ係止用索条7に浮体3の浮力による引張力を個別に作用させることができるので、浮体3の浮力によって確実に破断させて、中層浮魚礁設備1の回収を確実に行うことができる。
【0042】
また、係止用索条7は、中層浮魚礁設備1を回収する際に、主係留索10が予め定める切断位置Pで切断されると、浮体3の浮力による引張力によって海面Sに近いものまたは海底Gに近いものから順次破断する。
【0043】
このように浮体3の浮力による引張力によって破断可能であって、回収索6を、係留索5の切断位置Pと、シンカー2に結合される一端部とにわたる部分に結合する係止用索条7とを含むので、係留索5が切断されていない状態、たとえば中層浮魚礁設備1の設置時には回収索6を折畳んでその長さを短くした状態にすることができ、設置作業の妨げになることを防ぐことができる。
【0044】
また、中層浮魚礁設備1の回収時には潜水士などが各係止用索条7を切断することなく、係留索5を切断するのみで、浮体3の浮力による引張力によって各係止用索条7を破断することができるので、中層浮魚礁設備1を容易に回収することができる。
【0045】
<シンカーの引抜き試験>
(実験1)
図5はシンカー2の引抜き抵抗力を確認するための引抜き試験で用いたシンカー供試体31〜35の寸法形状を示す図である。図5(1)はシンカー供試体31を示し、図5(2)はシンカー供試体32を示し、図5(3)はシンカー供試体33を示し、図5(4)はシンカー供試体34を示し、図5(5)はシンカー供試体35を示す。図5(1)〜図5(5)において、上段は各シンカー供試体31〜35の正面図を示し、下段は各シンカー供試体31〜35の平面図を示す。図6は各シンカー供試体31〜35の引抜き試験で用いた引抜き試験設備25を示す図であり、図7は引抜き試験設備で用いた引抜き力測定器24を示す図である。
【0046】
引抜きやすいシンカーの形状を確認するために、図5(1)〜図5(5)に示す形状の異なるシンカー供試体31〜35を作成して、底部の形状の変化のみで引抜き力がどのように異なるかを確認するための実験を行った。シンカー供試体31〜35は、いずれも実際に海洋に設置されるシンカー2の1/10の大きさに縮小したコンクリートモルタル製の中実ブロックから成る。
【0047】
シンカー供試体31は、幅a=200mm、幅b=200mm、高さh=100mmの直方体であり、これを基準形状とした。またシンカー供試体32は、上記の基準形状のシンカー供試体31と同様な直方体部分の底部に、高さh1=20mm、テーパ角度θ=45°の1つの円錐台状のスパイク部32aが一体に形成される形態とした。シンカー供試体33は、上記の基準形状のシンカー供試体31と同様な直方体部分の底部に、4つの円錐台状のスパイク部33aが2行2列で一体に形成され、各スパイク部33aの軸線がシンカー供試体33の直方体部分の底面の対角線上に並ぶ形態とした。シンカー供試体34は、上記の基準形状のシンカー供試体31と同様な直方体部分の底部に、9つの円錐台状のスパイク部34aが3行3列で一体に形成され、各スパイク部34aの軸線がシンカー供試体34の直方体部分の底面の対角線上に並ぶ形態とした。シンカー供試体35は、上記の基準形状のシンカー供試体31と同様な直方体部分の底部に、16つの円錐台状のスパイク部35aが4行4列で一体に形成され、各スパイク部35aの軸線がシンカー供試体35の直方体部分の底面の対角線上に並ぶ形態とした。なお、各シンカー供試体32〜35の各スパイク部32a〜35aは、すべて底面からの高さh1が等しい円錐台状の相似形とした。
【0048】
図6に示すように、天井クレーン20にφ16mmのPETエイトロープ21が巻き掛けられた滑車22を取付け、前記エイトロープ21の一端を床面に固定し、他端にラチェット式伸縮器23と、バネ測りによって実現される引抜き力測定器24とを接続し、バネ測りの先端に各シンカー供試体31〜35を接続した。各シンカー供試体31〜35は、砂26を堆積させ、砂26の上面から1cmの高さまで水27が満たされた容器28内で砂26に埋込み深さdまで埋込まれた状態とした。この状態で、ラチェット式伸縮機23のレバー23aを操作し、シンカー供試体31〜35に定荷重を加え、定荷重を加えてからバネ測りの値が10kgになるまでの時間(秒数)を計測した。計測は以下の各条件1〜3で、各シンカー供試体31〜35について、それぞれ3回行った。
【0049】
表1は、加えた定荷重が15kgで、シンカー供試体31〜35の埋込み深さdが8cmのとき(条件1)の各シンカー供試体31〜35の計測結果をまとめた表であり、表2は、加えた定荷重が30kgで、シンカー供試体31〜35の埋込み深さdが8cmのとき(条件2)の各シンカー供試体31〜35の計測結果をまとめた表であり、表3は、加えた定荷重が11kgで、シンカー供試体31〜35の埋込み深さdが3cmのとき(条件3)の各シンカー供試体31〜35の計測結果をまとめた表である。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
表1および表2に結果を記載した条件1,2では、スパイク数が9個のシンカー供試体34が最も引抜き力測定器24の値が10kgを切るまでの時間が短く、表3に結果を記載した条件3では、スパイク数が4個のシンカー供試体33が引抜き力測定器24の値が10kgを切るまでの時間が短くなった。
【0054】
図8は条件1〜3で各シンカー供試体31〜35で要した引抜き時間を示すグラフである。図8に示すように、表1および表2に結果を記載した条件1,2では、スパイク数が9個のシンカー供試体34が、基準形状のシンカー供試体31に比べて引抜き抵抗力が最も低く、表3に結果を記載した条件3では、スパイク数が4個のシンカー供試体33が、基準形状のシンカー供試体31に比べて引抜き抵抗力が最も低いことが確認された。
【0055】
(実験2)
図9はスリットまたはテーパを形成したときのシンカー2の引抜き抵抗力を確認するための引抜き試験で用いたシンカー供試体41〜46の寸法形状を示す図である。図9(1)はシンカー供試体41を示し、図9(2)はシンカー供試体42を示し、図9(3)はシンカー供試体43を示し、図9(4)はシンカー供試体44を示し、図9(5)はシンカー供試体45を示し、図9(6)はシンカー供試体46を示す。図9(1)〜図9(6)において、上段は各シンカー供試体41〜46の正面図を示し、下段は各シンカー供試体41〜46の平面図を示す。シンカー供試体41〜46は、いずれも実際に海洋に設置されるシンカー2の1/10の大きさに縮小したコンクリートモルタル製の中実ブロックから成る。
【0056】
シンカー供試体41は、幅a=200mm、幅b=200mm、高さh=100mmの直方体であり、これを基準形状とした。またシンカー供試体42は、上記の基準形状のシンカー供試体41の4つの側部の中央に、シンカー供試体42の上面および底面間を連通する溝幅b1=20mm、溝深さb2=20mmの断面凹状のスリット42aがそれぞれ形成される形態とした。またシンカー供試体43は、上記の基準形状のシンカー供試体41の4つの側部の中央に、シンカー供試体43の上面および底面間を連通する溝幅b1=10mm、溝深さb2=10mmの断面凹状のスリット43aがそれぞれ形成される形態とした。またシンカー供試体44は、上記の基準形状のシンカー供試体41の底面に高さh2=20mm、テーパ角度θ=45°の四角錐台状の1つのスパイク部44aが形成される形態とした。またシンカー供試体45は、上記の基準形状のシンカー供試体44の4つの側部の中央に、シンカー供試体44の上面および底面間を連通する溝幅b1=20mm、溝深さb2=20mmの断面凹状のスリット42aがそれぞれ形成される形態とした。またシンカー供試体46は、上記の基準形状のシンカー供試体41と同様な直方体部分に、シンカー供試体46の上面および底面間を連通する幅b3=50mm、b4=50mmの断面が正方形の4つの透孔46aが形成される形態とした。
【0057】
シンカー供試体41〜46について、前記実験1と同様の条件で実験を行った。表4は、加えた定荷重が15kgで、シンカー供試体41〜46の埋込み深さdが8cmのとき(条件1)の各シンカー供試体41〜46の計測結果をまとめた表であり、表5は、加えた定荷重が30kgで、シンカー供試体41〜46の埋込み深さdが8cmのとき(条件2)の各シンカー供試体41〜46の計測結果をまとめた表であり、表6は、加えた定荷重が11kgで、シンカー供試体41〜46の埋込み深さdが3cmのとき(条件3)の各シンカー供試体41〜46の計測結果をまとめた表である。
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
表4および表5に結果を記載した条件1,2では、シンカー供試体42が最もバネばかりの値が10kgを切るまでの時間が短く、表3の結果を記載した条件3では、シンカー供試体44が引抜き力測定器24の値が10kgを切るまでの時間が短くなった。
【0062】
図10は条件1〜3で各シンカー供試体41〜46で要した引抜き時間を示すグラフである。図10に示すように、スリットまたはテーパを形成することによって、基準形状のシンカー供試体41に比べて引抜き抵抗力が低減することが確認された。
【0063】
(実験3)
図11はシンカー2の引抜き抵抗力を確認するための引抜き試験で用いたシンカー供試体51〜55の寸法形状を示す図である。図11(1)はシンカー供試体51を示し、図11(2)はシンカー供試体52を示し、図11(3)はシンカー供試体53を示し、図11(4)はシンカー供試体54を示し、図11(5)はシンカー供試体55を示す。図11(1)〜図11(5)において、上段は各シンカー供試体51〜55の正面図を示し、下段は各シンカー供試体51〜55の平面図を示す。シンカー供試体51〜55は、いずれも実際に海洋に設置されるシンカーの1/10の大きさに縮小したコンクリート製の中実ブロックから成る。
【0064】
シンカー供試体51は、幅a=200mm、幅b=200mm、高さh=100mmの直方体であり、これを基準形状とした。またシンカー供試体52は、上記の基準形状のシンカー供試体51の4つの側部の中央に、シンカー供試体52の上面および底面間を連通する溝幅c1=20mm、溝深さc2=20mmの断面凹状のスリット52aがそれぞれ形成される形態とした。またシンカー供試体53は、上記の基準形状のシンカー供試体51の底面に、高さh3=20mm、テーパ角度θ1=45°の四角錐台状の1つのスパイク部53aが形成される形態とした。またシンカー供試体54は、上記の基準形状のシンカー供試体53の4つの側部の中央に、シンカー供試体54の上面および底面間を連通する溝幅c1=20mm、溝深さc2=20mmの断面凹状のスリット54aがそれぞれ形成される形態とした。またシンカー供試体55は、上記の基準形状のシンカー供試体51と同様な直方体部分に、シンカー供試体55の上面および底面間を連通する幅c3=50mm、c4=50mmの断面が正方形の4つの透孔55aが形成される形態とした。
【0065】
本実験では、実験1および2と同様の図6に記載の測定器具を使用して実験を行った。シンカー供試体51〜55は、砂26を堆積させ、砂26の上面から5cmの高さまで水27が満たされた容器28内で砂26に完全に埋没した状態とし、この状態で、ラチェット式伸縮器23のレバー23aを操作し、シンカー供試体51〜55に定荷重15kgを加えた(条件4)。定荷重を加えてからバネ測りの値が6kgになるまでの時間(秒数)を計測した。計測は同じ条件で、各シンカー供試体51〜55について、それぞれ3回行った。表7は、実験3における各シンカー供試体51〜55の計測結果をまとめた表である。なお、シンカー供試体51については、定荷重を加えてからバネ測りの値が6kgになるまでの時間が300秒を超えたため、途中で計測を中止した。そのため平均および標準偏差は算出していない。
【0066】
【表7】
【0067】
図12は、条件4で各シンカー供試体51〜55で要した引抜き時間を示すグラフである。図12に示すようにスリット52aのみを形成したシンカー供試体52が、引抜き力測定器24の値が6kgを切るまでの時間が短くなった。したがって、シンカー供試体52のようにスリット52aのみを形成することによって、最も引抜き抵抗力が低減することが確認された。
【0068】
このように導水部8として、スリットを形成することによって、最も引抜き抵抗力を低減することができる。また、シンカー2を複雑な形状とすることなく、スリットを設けるのみで上記効果を得ることができるので、製造コストを抑えることができる。
【0069】
<回収索6の結束構造>
次に、回収索6の係留索5への最適な結束構造を確認するために、実験4,5を行った。
【0070】
(実験4)
図13は中層浮魚礁設備1の回収時の安全性を確認するための試験設備を示す図である。本実験では、水深10mの海域に中層浮魚礁設備1の簡易モデルである図13に示す試験設備を設置し、係留索5を切断することによる、中層浮魚礁設備1の回収時の安全性の確認を行った。係留索5の切断は、潜水士または無人潜水機で行うことが可能であるが、本実験では潜水士によって係留索5を切断した。
【0071】
図13に示す試験設備では、シンカー2として土嚢シンカー(重量40kg)、係留索5および回収索6としてポリエステルエイト被覆ロープ、係止用索条7としてナイロンテグス3号、浮体3としてフロート(浮力20kg)を用いた。
本実験では、潜水士が係留索5を切断すると、係止用索条7が連続して破断し、浮体3が海面Sに浮上した。その際に、回収索6が激しく動くことはなく、係留索5の切断を行う潜水士や無人潜水機に危険性がないことが確認された。
【0072】
(実験5)
図14は係止用索条7による係留索5への回収索6の取付構造試験で用いた結束構造モデル1〜4を示す図であり、図14(1)は結束構造モデル1を示す図であり、図14(2)は結束構造モデル2を示す図であり、図14(3)は結束構造モデル3を示す図であり、図14(4)は結束構造モデル4を示す図である。本実験では、係留ロープを2箇所で折り返し、第1の折返し箇所までの係留ロープ(以下、「係留ロープA」と称する)と第1の折返し箇所から第2の折返し箇所までの係留ロープ(以下、「係留ロープB」と称する)とを補助ロープで結合し、係留ロープBと、第2の折返箇所以降の係留ロープ(以下、「係留ロープC」と称する)とを補助ロープで結合している。
【0073】
本実験では、係留ロープ(係留索5および回収索6に相当)としてポリエステルエイト被覆ロープ(外形31mm)、補助ロープ(係止用索条7に相当)としてφ6mmのポリエステルエイトロープ(設計強度:5.64kN)を使用し、速度360mm/分で図14の矢符方向に引張ることによって、図14に示す結束構造モデル1〜4について、係止用索条の結束構造の違いによる引張強度の相違を確認した。引張強度は、引張試験機(小浜製網株式会社製)を用いて測定した。表8は、結束構造モデル1〜4の結束条件をまとめた表であり、表9は、結束構造モデル1〜4の引張強度の測定結果を示す表である。なお、表9に示す基準は、2本の補助ロープをもやい結び同士で結束した場合の引張強度である。
【0074】
【表8】
【0075】
【表9】
【0076】
結束構造モデル1および2の結果から、巻き結びの場合には、本数/2に略比例して引張強度が高くなることがわかる。また、結束構造モデル3および4の結果から一端が巻き結びで、他端がもやい結びの場合であっても、結束位置を変更することによって、引張強度が変化することがわかる。
【0077】
結束構造モデル3の場合には、引張方向に最も近接する位置に形成される補助ロープと引張方向から最も離反する位置に形成される補助ロープとを除いた補助ロープにおいて、係留ロープA(回収索6Aに相当)と係留ロープB(回収索6Bに相当)とを結ぶ補助ロープの他端の結び目(係留ロープBに形成される)が、係留ロープBと係留ロープC(回収索5に相当)とを結ぶ補助ロープの他端の結び目(係留ロープBに形成される)よりも引張方向に近接する位置で結ばれている。
【0078】
結束構造モデル4の場合には、引張方向に最も近接する位置に形成される補助ロープと引張方向から最も離反する位置に形成される補助ロープとを除いた補助ロープにおいて、係留ロープBと係留ロープCとを結ぶ補助ロープの他端に形成される結び目(係留ロープBに形成される)が、係留ロープAと係留ロープBとを結ぶ補助ロープの他端の結び目(係留ロープBに形成される)よりも引張方向に近接する位置で結ばれている。
【0079】
結束構造モデル3の場合には、引張方向に最も近い位置に配される係留ロープAを介して作用する引張力が、順番に1つのもやい結びに作用するのに対して、結束構造モデル4の場合には、係留ロープAを介して作用する引張力が、係留ロープAと係留ロープBとを結ぶ補助ロープの他端に作用するとともに、当該引張力が当該他端よりも係留ロープBと係留ロープCとを結ぶ補助ロープの他端にも作用するので、引張力が順番に1つのもやい結びに作用しないものと考えられる。
【0080】
このことから、結束構造モデル3の場合には、係留ロープの本数に関わらず、引張方向に最も近接する位置に形成される補助ロープと引張方向から最も離反する位置に形成される補助ロープとによって、引張強度が決定されるので、引張強度は一定であると考えられ、係留ロープの本数に関わらず一定の引張力で全ての係留ロープを確実に破断することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 中層浮魚礁設備
2 シンカー
3 浮体
4 魚礁本体
5 係留索
6 回収索
7 係止用索条
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底に設置したシンカーに係留索によって浮魚礁を海中に浮遊状態で係留する中層浮魚礁設備に関し、さらに詳しくは浮魚礁の回収を容易にするための中層浮魚礁の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、設置した海域での魚群誘導礁としての効果も期待できるとして、浮魚礁の開発が注目されている。この浮魚礁は、底魚向けの沈設型魚礁とは異なり、海域の表層、中層域の回遊魚および根付魚を対象とし、魚群の誘導・蝟集効果に優れた浮魚礁が用いられている。浮魚礁は、魚礁本体に浮体を取り付け、これにロープ、人工海藻、網状物などを組合せた柔構造とし、この浮魚礁は、適度な陰影、潮流による渦流で回遊魚の蝟集効果があるとともに、海藻類の付着成長で稚魚の中間育成場としても機能する。
【0003】
中層浮魚礁は、耐用年数がたとえば10年として設計され、設置後10年を経過した浮魚礁は、回収の必要性が生じる場合がある。浮魚礁の浮体に結束された係留索を海底の定位に係留するためのシンカーは、直方体であって、底面が2m×2m程度の正方形の平坦面から成る一定形状とし、高さを1.0m〜1.5mの範囲で調整することによってその重量を10t〜15tの範囲に調整しているので、シンカーを海上から自沈させて海底地盤に設置したとき、シンカーの底部が海底地盤に埋没した状態となり、中層浮魚礁を回収索によって係留索およびシンカーとともに台船に引揚げる際に、シンカーに海底地盤から大きな吸着力および摺動抵抗力が作用しているため、中層浮魚礁設備の構成を簡素化して回収時の引揚げ力を低減し、容易かつ確実に中層浮魚礁設備を回収する技術が求められている。
【0004】
シンカーを含めた中層浮魚礁設備を引き揚げて回収する場合、回収索に作用する力によっては、途中で回収索が切断されるおそれがある。回収索に作用する力は、シンカーを海底から引抜く際に作用する力F1、シンカーの引き揚げ開始時に作用する力F2、回収作業中に作用する力F3があるが、この中でシンカーを海底から引抜く際に作用する力F1が最も大きいことが判っている。
【0005】
このようなシンカーを海底から引抜く際に作用する力F1を低減する従来技術は、たとえば特許文献1に開示されている。特許文献1では、シンカーにその底面から上面まで貫通する孔を形成する、またはシンカーと水底との間に金網や鉄筋を碁盤状に交差させた格子状部材を設置することによって、引上げの際にシンカーの底面に水を流入し易くし、シンカーの底面と水底との吸着効果を低減している。
【0006】
特許文献1に記載の貫通孔を形成したシンカーでは、貫通孔に砂などの堆積物が入りこみ堆積した場合には、前記吸着効果の低減効果を得難いという問題がある。また、格子状部材を用いる場合には、シンカーを格子状部材の上に正確に載置して用いる必要があるので、設置が困難になるという問題と、浮魚礁自体の構成が複雑化するという問題がある。
【0007】
また、前述のように耐用年数が経過した中層浮魚礁は、回収の必要性が生じる場合がある。従来技術の回収方法としては、浮体が海面下に位置していること、シンカーまで含めた回収実績がないことなど、未知な部分が多く、回収技術が確立されておらず、たとえば、耐用年数経過後の回収の際、回収索は回収時に取付ける方法が検討されている。しかしながら、魚礁本体が海面下にある中層浮魚礁は、水深が大きく、潜水士による作業は危険を伴うという問題がある。
【0008】
そこで、潜水士に代えて遠隔操作の無人潜水機によって回収索を係留索に取付けて回収する方法が検討されている。このような中層浮魚礁を回収する方法に関する従来技術は、特許文献2に開示されている。特許文献2に開示の中層浮魚礁の回収方法では、作業船から吊り下げた案内索の先端部を移動させながら中層浮魚礁の魚礁本体に対して掛止め、案内索を利用して、回収索の一端側と結合する回収用金具が前方に着脱可能に取付けられた無人潜水機を魚礁本体の近くまで下ろし、無人潜水機を操作して回収用金具をアンカーと魚礁本体とを係留する係留索に結合させて、無人潜水機を引き揚げた後に回収索を巻き上げて中層浮魚礁の回収を行っている。
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示の方法では、回収索を係留索に取付けるために、専用の取付金具である回収用金具が必要となり、その取付けにも特殊技術が必要となるという問題と、取付金具によって係留索の1点を固定して引揚げるため、係留索の1点に大きな荷重が作用し、係留索が切断する可能性があるという問題、さらに魚礁本体と回収索とが繋がった状態で魚礁本体を海面まで引揚げ、海面から台船に回収する際に魚礁本体を回収索から切断するので、回収索に最も大きな負荷が掛かって破断する可能性のある回収索に近づいて、魚礁本体を回収索から切断する必要があり、回収作業に危険性が伴うという問題があり、中層浮魚礁の回収を容易かつ確実で安全に行うことはできない。
【0010】
特許文献3には、係留構造に関する従来技術が開示されている。特許文献3に開示の係留構造では、1本の組紐ロープの各端を反転し、主ロープ側の側面から挿入し所要長さ先の側面から導出することにより長手方向両端にそれぞれリングを有するタック部を形成し、ロープ各端が長さ調整代部を有するように主ロープ側の側面から導出し、各タック部に締付具を取り付けることによって、使用現場での切断やアイスプライス加工などを要さず、容易かつ確実に長さ調整できるようにしている。
【0011】
しかしながら、特許文献3の係留構造では、ロープの長さを調整するためには締付具を移動する必要があるので、たとえば中層浮魚礁を海中に設置した後に、係留索や回収索の長さの調整を行いたい場合には、潜水士または無人潜水機によって、締付具を移動させる必要があり、係留索や回収索の長さの調整が海中では困難であるという問題がある。したがって、中層浮魚礁の回収時に回収索の長さを調整することによって、浮体を海面付近まで浮かび上がらせて、回収を行うことができないので、中層浮魚礁の回収を容易に行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−211480号公報
【特許文献2】特開2010−207106号公報
【特許文献3】特開平7−90787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、構成の簡素化を図り、シンカーを含む設備全体を容易かつ確実に回収することができる中層浮魚礁設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、使用後に回収される中層浮魚礁設備であって、
海底に設置されるシンカーと、
浮体が設けられる魚礁本体と、
一端部が前記シンカーに結合され、他端部が前記魚礁本体に結合され、魚礁本体を海面下に係留する係留索であって、中層浮魚礁設備の回収時に予め定める切断位置で切断され、当該予め定める切断位置の両側に結合部を有する係留索と、
前記係留索の予め定める切断位置の両側の結合部に、各端部がそれぞれ結合され、前記係留索の両結合部間の長さよりも長尺の回収索と、
前記回収索を、前記係留索に結合する係止用手段とを含むことを特徴とする中層浮魚礁設備である。
また本発明は、前記係止用手段は、前記浮体の浮力による引張力によって破断可能な係止用索条であって、前記回収索を、前記係留索の前記予め定める切断位置と、前記シンカーに結合される一端部とにわたる部分に結合する係止用索条であることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、シンカーは、直方体状のコンクリート製ブロックから成り、海底に設置された状態から浮上するとき、海底地盤と該海底地盤に接触する部分との間に水を導くための導水部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、係留索の予め定める切断位置の両側の結合部に、各端部がそれぞれ結合され、係留索の両結合部間の長さよりも長尺の回収索を有するので、中層浮魚礁設備を回収する際に、係留索を切断位置で切断することによって、浮体を海面まで浮かび上がらせることができる。したがって、中層浮魚礁設備が設置されている位置を海上から容易に確認することができるとともに、浮体によって海面まで上がってきた魚礁本体を回収索から切断し、台船に引揚げて回収することができる。また、魚礁本体を回収後、魚礁本体が繋がっていた回収索を用いて係留索とシンカーを回収することができる。このように、魚礁本体が海面に浮上し、魚礁本体が海面に浮遊している状態、すなわち回収索に対して荷重が掛かっていない状態で魚礁本体を回収索から切断することができるので、安全に魚礁本体を回収索から切断して、回収することができる。
【0017】
また本発明によれば、係止用手段が、浮体の浮力によるせん断力によって破断可能であって、回収索を、係留索の切断位置と、シンカーに結合される一端部とにわたる部分に結合する係止用索条であるので、係留索が切断されていない中層浮魚礁設備の設置時には回収索を折畳み、設置作業の妨げになることを防ぐことができる。また、回収時には潜水士などが各係止用索条を切断することなく、各係止用索条を破断することができるので中層浮魚礁設備を容易に回収することができる。
【0018】
また本発明によれば、シンカーが、海底に設置された状態から浮上するとき、海底地盤と該海底地盤に接触する部分との間に水を導くための導水部を有するので、導水部が形成されない場合と比べ、海底地盤とシンカーの海底地盤に接触する部分との間に円滑に海水を導くことができる。したがって、海底地盤とシンカーの海底地盤に接触する部分との吸着力にともなう、中層浮魚礁設備を回収する際の引抜き抵抗力を低減することができるので、中層浮魚礁設備の回収中に回収索が破断することなどを防ぐことができ、中層浮魚礁設備の回収を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態の中層浮魚礁設備1の構成を示す断面図であり、図1(1)は魚礁本体4が係留索5およびシンカー2によって海中Mに係留された状態を示し、図1(2)は係留索5が切断された状態を示し、図1(3)は魚礁本体4が海面Sに浮上した状態を示し、図1(4)は魚礁本体4が、台船U上に引揚げられて回収された状態を示す。
【図2】シンカー2の正面図である。
【図3】シンカー2の平面図である。
【図4】係留索5と回収索6とが係止用索条7によって係止された状態を拡大して示す図である。
【図5】シンカー2の引抜き抵抗力を確認するための引抜き試験で用いたシンカー供試体31〜35の寸法形状を示す図であり、図5(1)はシンカー供試体31を示し、図5(2)はシンカー供試体32を示し、図5(3)はシンカー供試体33を示し、図5(4)はシンカー供試体34を示し、図5(5)はシンカー供試体35を示す。
【図6】各シンカー供試体31〜35の引抜き試験で用いた引抜き試験設備25を示す図である。
【図7】引抜き試験設備で用いた引抜き力測定器24を示す図である。
【図8】条件1〜3で各シンカー供試体31〜35で要した引抜き時間を示すグラフである。
【図9】スリットまたはテーパを形成したときのシンカー2の引抜き抵抗力を確認するための引抜き試験で用いたシンカー供試体41〜46の寸法形状を示す図であり、図9(1)はシンカー供試体41を示し、図9(2)はシンカー供試体42を示し、図9(3)はシンカー供試体43を示し、図9(4)はシンカー供試体44を示し、図9(5)はシンカー供試体45を示し、図9(6)はシンカー供試体46を示す。
【図10】条件1〜3で各シンカー供試体41〜46で要した引抜き時間を示すグラフである。
【図11】シンカー2の引抜き抵抗力を確認するための引抜き試験で用いたシンカー供試体51〜55の寸法形状を示す図であり、図11(1)はシンカー供試体51を示し、図11(2)はシンカー供試体52を示し、図11(3)はシンカー供試体53を示し、図11(4)はシンカー供試体54を示し、図11(5)はシンカー供試体55を示す。
【図12】条件4で各シンカー供試体51〜55で要した引抜き時間を示すグラフである。
【図13】中層浮魚礁設備1の回収時の安全性を確認するための試験設備を示す図である。
【図14】係止用索条7による係留索5への回収索6の取付構造試験で用いた結束構造モデル1〜4を示す図であり、図14(1)は結束構造モデル1を示す図であり、図14(2)は結束構造モデル2を示す図であり、図14(3)は結束構造モデル3を示す図であり、図14(4)は結束構造モデル4を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明の一実施形態の中層浮魚礁設備1の構成を示す断面図であり、図1(1)は浮魚礁本体4が係留索5およびシンカー2によって海中Mに係留された状態を示し、図1(2)は係留索5が切断された状態を示し、図1(3)は魚礁本体4が海面Sに浮上した状態を示し、図1(4)は魚礁本体4が、台船U上に引揚げられて回収された状態を示す。本実施形態の中層浮魚礁設備1は、使用後すなわち耐用期間が経過した後に海中Mから回収される中層浮魚礁設備であって、図1(1)に示すように、海底Gに設置されるシンカー2と、浮体3が設けられる魚礁本体4と、一端部がシンカー2に結合され、他端部が魚礁本体4に結合され、魚礁本体4を海面S下に係留して、中層浮魚礁設備1の回収時に予め定める切断位置Pで切断される係留索5と、係留索5の予め定める切断位置Pの両側に連なる各部分に、各端部J1,J2がそれぞれ結合され、係留索5の前記各端部J1,J2がそれぞれ結合される部分、すなわち後述の主係留索10の長さL1よりも長尺の回収索6と、浮体3の浮力による引張力によって破断可能であって、回収索6を、係留索5の予め定める切断位置Pと、シンカー2に結合される一端部とにわたる部分に結合する係止用手段である係止用索条7とを含む。
【0021】
本実施形態では、回収索6は、係止用手段である係止用索条7によって係留索5に結合されて固定されているが、回収索6の固定方法は前記方法に限らず、たとえば回収索6の端部に錘を設けることによって実現してもよい。
【0022】
係留索5は、シンカー2に一端部が結合される主係留索10と、主係留索10に魚礁本体4を接続する副係留索11とを有する。中層浮魚礁設備1の耐用期間が経過すると、図1(2)に示すように、主係留索10を前記予め定める切断位置Pで深海探査機Rによって切断することによって、魚礁本体4は、浮体3の浮力によって、図1(3)に示すように、海面Sまで浮上し、台船U上に引揚げられて回収され、図1(4)に示すように魚礁本体4の回収後、回収索6を使用して、係留索5とシンカー2が台船U上に引揚げられて回収される。
【0023】
図2はシンカー2の正面図であり、図3はシンカー2の平面図である。シンカー2は、魚礁本体4を海中Mに係留するために、水深200m〜3000mの海底Gの地盤上の定位置に載置されて用いられる重錘であり、本実施形態ではシンカー2は、幅=2000mm、奥行き=2000mm、高さ=1000mmの直方体状のコンクリート製ブロックから成る。また、シンカー2は、海底Gの地盤に設置された状態から浮上させて回収する際に、海底Gと該海底Gの地盤に接触する部分との間に周囲の海水を導くための導水部8を有する。本実施形態では、導水部8は、シンカー2の4つの側部の中央に、シンカー2の上面および底面間を連通する溝幅=200mm、溝深さ=200mmの断面凹状のスリットがそれぞれ形成される形態とした。
【0024】
このように導水部8を有するので、導水部8が形成されない場合と比べ、海底Gとシンカー2の海底Gに接触する部分との間に円滑に海水を導くことができる。したがって、海底Gとシンカー2の海底Gの地盤に接触する部分との吸着などに起因する、中層浮魚礁設備1を回収する際の引抜き抵抗力を低減することができるので、中層浮魚礁設備1の回収中に回収索6が破断することなどを防ぐことができ、中層浮魚礁設備1の回収を確実に行うことができる。
【0025】
本実施形態では、シンカー2はコンクリート製ブロックから成るが、浮魚礁本体4を海中Mに係留することができる重量物であればよく、鋼鉄製または鋼鉄製フレームとコンクリートとを一体化した鉄骨コンクリート製であってもよい。また、本実施形態では、シンカー2の形状は、直方体状に形成されるが、シンカー2の形状は当該形状に限らず、三角錐および四角錐などの多角錐状、三角錐台および四角錐台などの多角錐台状、三角柱および四角柱などの多角柱状、ならびに円柱状のうちから選ばれた一種であってもよい。
【0026】
再び図1を参照して、前記浮体3は、海中Mで魚礁本体4をシンカー2に係留された係留索5を結束した状態で充分な浮力を与えるためのABS樹脂製の中空球状である。浮体3は、全体として、魚礁本体4、係留索5および回収索6の全体を浮揚させるに充分な浮力を有する。本発明の他の実施形態の浮体3は、前記中空球状のABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂に代えて、独立気泡の発泡合成樹脂によって形成されてもよい。
【0027】
魚礁本体4は、繊維強化プラスチックから成る略円筒状の枠体の上部に、浮力を生じさせるための前記中空球状の浮体3が多数、たとえば4〜130個取付けられ、無潮流状態における海面S下で、前記複数の浮体4を上方にした姿勢を維持してほぼ鉛直に浮揚するように構成されている。
【0028】
前記浮体3は、前記ABS樹脂製の中空球体以外にも、たとえば内部に発泡ウレタンなどの発泡合成樹脂を充填した鉄パイプまたはポリ塩化ビニルなどの合成樹脂パイプの上下開口部を蓋で塞いだ1つの中空の円柱状体であってもよい。
【0029】
また、魚礁本体4は、前記構成に限らず、たとえば上部を浮体3をも兼ねた密閉中空柱状の蓋体として構成すると共に、下部を下方に延びる複数本の支柱で檻状に構成してもよい。
【0030】
係留索5は、主係留索10と副係留索11とから成り、魚礁本体4とシンカー2とを接続するために用いられる。係留索5は、耐用期間(たとえば10年)の間に破断することがない耐久性、および潮流などの影響によって魚礁本体4がシンカー2から離反する方向に動く引張力によって破断することのない引張強度を有するとともに、柔軟に湾曲し得る可撓性を有していればよく、たとえば合成繊維ロープまたは防食被覆を施した金属製ワイヤなどによって実現される。本実施形態では、主係留索10として、φ28mm〜φ40mmのワイヤ外装ポリエチレン被覆ポリアリレートトエルロープが用いられ、副係留索11として、φ30mm〜φ45mmのワイヤ外装ポリエチレン被覆ポリエステルトエルロープが用いられる。本実施形態では、主係留索10と副係留索11とは、異なる材質で実現されているが、同じ材質から実現されてもよい。
【0031】
副係留索11は、主係留索10に安定して魚礁本体4を接続するためのもので、その一端が主係留索10に接続され、その他端が魚礁本体4に接続されて、主係留索10と魚礁本体4の間に複数本、本実施形態では4本設けられる。主係留索10と副係留索11とが、同じ材質から実現されている場合、副係留索11は、主係留索10と比較してその径が細い。また、前述のように副係留索11は、複数本設けられるので、各副係留索11に掛かる力を分散しやすく、主係留索10と比較して細く形成し易い。
【0032】
主係留索10は、その一端が副係留索11に接続され、その他端が金属製の係留用フック部材12を介してシンカー2に接続される。この係留用フック部材12は、たとえば逆U字状の丸鋼によって実現されてもよい。なお、係留用フック部材12の周囲には、4つの吊下げ用フック部材13が設けられる。主係留索10と副係留索11とが、同じ材質から実現されている場合、主係留索10は、副係留索11と比較してその径が大きい。
【0033】
主係留索10は、中層浮魚礁設備1を回収する際には、予め定める切断位置Pで前述の深海探査機Rに具備した切断装置や潜水士による切断工具、機械式の水中切り離し装置によって切断される。予め定める切断位置Pは、主係留索10と副係留索11とが接続される位置よりも海底G側の位置であって、後述する主係留索10と接続される複数の係止用索条7のうち、最も海面S側で主係留索10と接続される係止用索条7の結束位置よりも海面S側の位置であれば、いずれの箇所が選ばれてもよいが、主係留索10と副係留索11とが接続される位置から海底G側で、かつ主係留索10と接続される複数の係止用索条7のうち、最も海面S側で主係留索10に結束される係止用索条7よりも海面S側の間であって、なるべく浅い水深、すなわち海面S側が望ましい。このように浅い水深に切断位置Pが選ばれることにより、たとえば無人潜水機を用いて切断を行う場合に、稼働コストの高価な深海用無人潜水機を用いることなく、稼働コストが深海用無人潜水機に比べて格段に安価な100m〜200m程度の水深仕様の無人潜水機によって切断を行うことができるので、回収に掛かる費用を低減することができる。
【0034】
回収索6は、係留索5と同様の材料から成る長尺のロープ状物で、係留索5の予め定める切断位置Pの両側の結合部に各端部がそれぞれ結合される。より詳細には、一端が主係留索10と副係留索11とが接続される箇所よりもわずかに海底G側の主係留索10の部位に結合され、他端が主係留索10に一端が接続される箇所よりも海底G側に結合される。本実施形態では、一端は主係留索10と副係留索11とが接続される箇所からたとえば1〜3m程度海底G側の部位に結合され、他端は主係留索10に一端が接続される箇所からたとえば1〜3m程度海底G側の部位に結合される。
【0035】
回収索6は、係留索5の両結合部間の長さよりも長尺であり、本実施形態では、係留索5の両結合部間の長さL1は、たとえば5〜100mであり、回収索6の長さL2は、たとえば25〜300mである。このように、係留索5の予め定める切断位置Pの両側の結合部に、各端部がそれぞれ結合され、係留索5の両結合部間の長さL1よりも長尺(L2)の回収索6を有するので、中層浮魚礁設備1を回収する際に、係留索5を切断位置Pで切断することによって、浮体3を海面Sまで浮上させることができる。したがって、中層浮魚礁設備1が設置されている位置を海上から容易に確認することができるとともに、浮体3によって海面Sまで上がってきた魚礁本体4を回収索6から切断し、台船Uに引揚げて回収することができる。また、魚礁本体4を回収後、魚礁本体4が繋がっていた回収索6を用いて係留索5およびシンカー2をともに回収することができる。
【0036】
このように、魚礁本体4が海面に浮上し、魚礁本体4が海面に浮遊している状態、すなわち回収索6に対して荷重が掛かっていない状態で魚礁本体4を回収索6から切断することができるので、安全に魚礁本体4を回収索6から切断して、回収することができる。また、たとえばウインチドラムを用いて回収作業を行う場合に、魚礁本体4を切断してから、回収索6をウインチドラムへ取り付けることができる、すなわち回収索6に荷重が掛からない状態でウインチドラムに回収索6を取り付けることができるので、安全に回収索6をウインチドラムに取り付けることができる。また、このように魚礁本体4と回収索6、係留索5およびシンカー2とを分けて回収することができるので、たとえばウインチドラムを用いて台船U上に引き上げる場合に、巻き上げ作業の途中で魚礁本体4の切断などを行う必要がなく、巻き上げ作業のみを行えばよいので、安全かつ効率よく回収作業を行うことができる。
【0037】
図4は係留索5と回収索6とが係止用索条7によって係止された状態を拡大して示す図である。係止用索条7は、回収索6の海中Mにおいて略U字状に弛緩した状態で垂下する余剰の折返し部分を、係留索5の切断位置Pと、シンカー2に結合される一端部とにわたる部分に結合する紐、ロープまたはワイヤであって、複数設けられ、本実施形態では、図4に示すように、8本設けられる。
【0038】
係止用索条7の材質は、中層浮魚礁設備1を回収する際の浮体3の浮力による引張力によって破断する強度であればよく、たとえばポリエステル、ナイロン、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどの合成繊維全般や生分解性素材のポリ乳酸やポリブチレンサクシネートであってもよい。
【0039】
また、係止用索条7の設けられる本数は特に制限されないが、耐用期間が経過する前に海中Mの浮遊物が衝突することによって、あるいは劣化によって破断する可能性があるので、複数本以上設けられることが好ましい。
【0040】
係止用索条7の係留索5との結束の手法は、特に限定されないが、本実施形態では、一端が巻き結びで強固に結束され、他端がもやい結びによって弛緩状態で結束される。もやい結びは、索条体の端部に固定した輪を形成する結び方であるので、たとえば当該輪の内側に回収索6を通して結束した場合であっても、回収索6は自由に動くことが可能である。
【0041】
したがって、主係留索10および魚礁本体4に近接する側の回収索6Aと魚礁本体4と離反する側の回収索6Bとを係止用索条7で結合する場合、主係留索10および魚礁本体4に近接する側の回収索6Aに結束される端部を巻き結びとし、魚礁本体4と離反する側の回収索6Bに結束される端部をもやい結びとし、さらに海面Sに最も近接する位置で回収索6Aと回収索6Bとを係止用索条7によって結合し、海面Sから最も離反する位置で回収索6Bと主係留索10とを係止用索条7によって結合し、海面Sに最も近接する位置に配置される係止用索条7と海面Sから最も離反する位置に配置される係止用索条7との間に、回収索6Aと回収索6Bとを結合する係止用索条7と、回収索6Bと主係留索10とを結合する係止用索条7とを交互に配することによって、海面Sに近い側の係止用索条7から遠い側の係止用索条7の順で、1本ずつ係止用索条7に浮体3の浮力による引張力を個別に作用させることができるので、浮体3の浮力によって確実に破断させて、中層浮魚礁設備1の回収を確実に行うことができる。
【0042】
また、係止用索条7は、中層浮魚礁設備1を回収する際に、主係留索10が予め定める切断位置Pで切断されると、浮体3の浮力による引張力によって海面Sに近いものまたは海底Gに近いものから順次破断する。
【0043】
このように浮体3の浮力による引張力によって破断可能であって、回収索6を、係留索5の切断位置Pと、シンカー2に結合される一端部とにわたる部分に結合する係止用索条7とを含むので、係留索5が切断されていない状態、たとえば中層浮魚礁設備1の設置時には回収索6を折畳んでその長さを短くした状態にすることができ、設置作業の妨げになることを防ぐことができる。
【0044】
また、中層浮魚礁設備1の回収時には潜水士などが各係止用索条7を切断することなく、係留索5を切断するのみで、浮体3の浮力による引張力によって各係止用索条7を破断することができるので、中層浮魚礁設備1を容易に回収することができる。
【0045】
<シンカーの引抜き試験>
(実験1)
図5はシンカー2の引抜き抵抗力を確認するための引抜き試験で用いたシンカー供試体31〜35の寸法形状を示す図である。図5(1)はシンカー供試体31を示し、図5(2)はシンカー供試体32を示し、図5(3)はシンカー供試体33を示し、図5(4)はシンカー供試体34を示し、図5(5)はシンカー供試体35を示す。図5(1)〜図5(5)において、上段は各シンカー供試体31〜35の正面図を示し、下段は各シンカー供試体31〜35の平面図を示す。図6は各シンカー供試体31〜35の引抜き試験で用いた引抜き試験設備25を示す図であり、図7は引抜き試験設備で用いた引抜き力測定器24を示す図である。
【0046】
引抜きやすいシンカーの形状を確認するために、図5(1)〜図5(5)に示す形状の異なるシンカー供試体31〜35を作成して、底部の形状の変化のみで引抜き力がどのように異なるかを確認するための実験を行った。シンカー供試体31〜35は、いずれも実際に海洋に設置されるシンカー2の1/10の大きさに縮小したコンクリートモルタル製の中実ブロックから成る。
【0047】
シンカー供試体31は、幅a=200mm、幅b=200mm、高さh=100mmの直方体であり、これを基準形状とした。またシンカー供試体32は、上記の基準形状のシンカー供試体31と同様な直方体部分の底部に、高さh1=20mm、テーパ角度θ=45°の1つの円錐台状のスパイク部32aが一体に形成される形態とした。シンカー供試体33は、上記の基準形状のシンカー供試体31と同様な直方体部分の底部に、4つの円錐台状のスパイク部33aが2行2列で一体に形成され、各スパイク部33aの軸線がシンカー供試体33の直方体部分の底面の対角線上に並ぶ形態とした。シンカー供試体34は、上記の基準形状のシンカー供試体31と同様な直方体部分の底部に、9つの円錐台状のスパイク部34aが3行3列で一体に形成され、各スパイク部34aの軸線がシンカー供試体34の直方体部分の底面の対角線上に並ぶ形態とした。シンカー供試体35は、上記の基準形状のシンカー供試体31と同様な直方体部分の底部に、16つの円錐台状のスパイク部35aが4行4列で一体に形成され、各スパイク部35aの軸線がシンカー供試体35の直方体部分の底面の対角線上に並ぶ形態とした。なお、各シンカー供試体32〜35の各スパイク部32a〜35aは、すべて底面からの高さh1が等しい円錐台状の相似形とした。
【0048】
図6に示すように、天井クレーン20にφ16mmのPETエイトロープ21が巻き掛けられた滑車22を取付け、前記エイトロープ21の一端を床面に固定し、他端にラチェット式伸縮器23と、バネ測りによって実現される引抜き力測定器24とを接続し、バネ測りの先端に各シンカー供試体31〜35を接続した。各シンカー供試体31〜35は、砂26を堆積させ、砂26の上面から1cmの高さまで水27が満たされた容器28内で砂26に埋込み深さdまで埋込まれた状態とした。この状態で、ラチェット式伸縮機23のレバー23aを操作し、シンカー供試体31〜35に定荷重を加え、定荷重を加えてからバネ測りの値が10kgになるまでの時間(秒数)を計測した。計測は以下の各条件1〜3で、各シンカー供試体31〜35について、それぞれ3回行った。
【0049】
表1は、加えた定荷重が15kgで、シンカー供試体31〜35の埋込み深さdが8cmのとき(条件1)の各シンカー供試体31〜35の計測結果をまとめた表であり、表2は、加えた定荷重が30kgで、シンカー供試体31〜35の埋込み深さdが8cmのとき(条件2)の各シンカー供試体31〜35の計測結果をまとめた表であり、表3は、加えた定荷重が11kgで、シンカー供試体31〜35の埋込み深さdが3cmのとき(条件3)の各シンカー供試体31〜35の計測結果をまとめた表である。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
表1および表2に結果を記載した条件1,2では、スパイク数が9個のシンカー供試体34が最も引抜き力測定器24の値が10kgを切るまでの時間が短く、表3に結果を記載した条件3では、スパイク数が4個のシンカー供試体33が引抜き力測定器24の値が10kgを切るまでの時間が短くなった。
【0054】
図8は条件1〜3で各シンカー供試体31〜35で要した引抜き時間を示すグラフである。図8に示すように、表1および表2に結果を記載した条件1,2では、スパイク数が9個のシンカー供試体34が、基準形状のシンカー供試体31に比べて引抜き抵抗力が最も低く、表3に結果を記載した条件3では、スパイク数が4個のシンカー供試体33が、基準形状のシンカー供試体31に比べて引抜き抵抗力が最も低いことが確認された。
【0055】
(実験2)
図9はスリットまたはテーパを形成したときのシンカー2の引抜き抵抗力を確認するための引抜き試験で用いたシンカー供試体41〜46の寸法形状を示す図である。図9(1)はシンカー供試体41を示し、図9(2)はシンカー供試体42を示し、図9(3)はシンカー供試体43を示し、図9(4)はシンカー供試体44を示し、図9(5)はシンカー供試体45を示し、図9(6)はシンカー供試体46を示す。図9(1)〜図9(6)において、上段は各シンカー供試体41〜46の正面図を示し、下段は各シンカー供試体41〜46の平面図を示す。シンカー供試体41〜46は、いずれも実際に海洋に設置されるシンカー2の1/10の大きさに縮小したコンクリートモルタル製の中実ブロックから成る。
【0056】
シンカー供試体41は、幅a=200mm、幅b=200mm、高さh=100mmの直方体であり、これを基準形状とした。またシンカー供試体42は、上記の基準形状のシンカー供試体41の4つの側部の中央に、シンカー供試体42の上面および底面間を連通する溝幅b1=20mm、溝深さb2=20mmの断面凹状のスリット42aがそれぞれ形成される形態とした。またシンカー供試体43は、上記の基準形状のシンカー供試体41の4つの側部の中央に、シンカー供試体43の上面および底面間を連通する溝幅b1=10mm、溝深さb2=10mmの断面凹状のスリット43aがそれぞれ形成される形態とした。またシンカー供試体44は、上記の基準形状のシンカー供試体41の底面に高さh2=20mm、テーパ角度θ=45°の四角錐台状の1つのスパイク部44aが形成される形態とした。またシンカー供試体45は、上記の基準形状のシンカー供試体44の4つの側部の中央に、シンカー供試体44の上面および底面間を連通する溝幅b1=20mm、溝深さb2=20mmの断面凹状のスリット42aがそれぞれ形成される形態とした。またシンカー供試体46は、上記の基準形状のシンカー供試体41と同様な直方体部分に、シンカー供試体46の上面および底面間を連通する幅b3=50mm、b4=50mmの断面が正方形の4つの透孔46aが形成される形態とした。
【0057】
シンカー供試体41〜46について、前記実験1と同様の条件で実験を行った。表4は、加えた定荷重が15kgで、シンカー供試体41〜46の埋込み深さdが8cmのとき(条件1)の各シンカー供試体41〜46の計測結果をまとめた表であり、表5は、加えた定荷重が30kgで、シンカー供試体41〜46の埋込み深さdが8cmのとき(条件2)の各シンカー供試体41〜46の計測結果をまとめた表であり、表6は、加えた定荷重が11kgで、シンカー供試体41〜46の埋込み深さdが3cmのとき(条件3)の各シンカー供試体41〜46の計測結果をまとめた表である。
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
表4および表5に結果を記載した条件1,2では、シンカー供試体42が最もバネばかりの値が10kgを切るまでの時間が短く、表3の結果を記載した条件3では、シンカー供試体44が引抜き力測定器24の値が10kgを切るまでの時間が短くなった。
【0062】
図10は条件1〜3で各シンカー供試体41〜46で要した引抜き時間を示すグラフである。図10に示すように、スリットまたはテーパを形成することによって、基準形状のシンカー供試体41に比べて引抜き抵抗力が低減することが確認された。
【0063】
(実験3)
図11はシンカー2の引抜き抵抗力を確認するための引抜き試験で用いたシンカー供試体51〜55の寸法形状を示す図である。図11(1)はシンカー供試体51を示し、図11(2)はシンカー供試体52を示し、図11(3)はシンカー供試体53を示し、図11(4)はシンカー供試体54を示し、図11(5)はシンカー供試体55を示す。図11(1)〜図11(5)において、上段は各シンカー供試体51〜55の正面図を示し、下段は各シンカー供試体51〜55の平面図を示す。シンカー供試体51〜55は、いずれも実際に海洋に設置されるシンカーの1/10の大きさに縮小したコンクリート製の中実ブロックから成る。
【0064】
シンカー供試体51は、幅a=200mm、幅b=200mm、高さh=100mmの直方体であり、これを基準形状とした。またシンカー供試体52は、上記の基準形状のシンカー供試体51の4つの側部の中央に、シンカー供試体52の上面および底面間を連通する溝幅c1=20mm、溝深さc2=20mmの断面凹状のスリット52aがそれぞれ形成される形態とした。またシンカー供試体53は、上記の基準形状のシンカー供試体51の底面に、高さh3=20mm、テーパ角度θ1=45°の四角錐台状の1つのスパイク部53aが形成される形態とした。またシンカー供試体54は、上記の基準形状のシンカー供試体53の4つの側部の中央に、シンカー供試体54の上面および底面間を連通する溝幅c1=20mm、溝深さc2=20mmの断面凹状のスリット54aがそれぞれ形成される形態とした。またシンカー供試体55は、上記の基準形状のシンカー供試体51と同様な直方体部分に、シンカー供試体55の上面および底面間を連通する幅c3=50mm、c4=50mmの断面が正方形の4つの透孔55aが形成される形態とした。
【0065】
本実験では、実験1および2と同様の図6に記載の測定器具を使用して実験を行った。シンカー供試体51〜55は、砂26を堆積させ、砂26の上面から5cmの高さまで水27が満たされた容器28内で砂26に完全に埋没した状態とし、この状態で、ラチェット式伸縮器23のレバー23aを操作し、シンカー供試体51〜55に定荷重15kgを加えた(条件4)。定荷重を加えてからバネ測りの値が6kgになるまでの時間(秒数)を計測した。計測は同じ条件で、各シンカー供試体51〜55について、それぞれ3回行った。表7は、実験3における各シンカー供試体51〜55の計測結果をまとめた表である。なお、シンカー供試体51については、定荷重を加えてからバネ測りの値が6kgになるまでの時間が300秒を超えたため、途中で計測を中止した。そのため平均および標準偏差は算出していない。
【0066】
【表7】
【0067】
図12は、条件4で各シンカー供試体51〜55で要した引抜き時間を示すグラフである。図12に示すようにスリット52aのみを形成したシンカー供試体52が、引抜き力測定器24の値が6kgを切るまでの時間が短くなった。したがって、シンカー供試体52のようにスリット52aのみを形成することによって、最も引抜き抵抗力が低減することが確認された。
【0068】
このように導水部8として、スリットを形成することによって、最も引抜き抵抗力を低減することができる。また、シンカー2を複雑な形状とすることなく、スリットを設けるのみで上記効果を得ることができるので、製造コストを抑えることができる。
【0069】
<回収索6の結束構造>
次に、回収索6の係留索5への最適な結束構造を確認するために、実験4,5を行った。
【0070】
(実験4)
図13は中層浮魚礁設備1の回収時の安全性を確認するための試験設備を示す図である。本実験では、水深10mの海域に中層浮魚礁設備1の簡易モデルである図13に示す試験設備を設置し、係留索5を切断することによる、中層浮魚礁設備1の回収時の安全性の確認を行った。係留索5の切断は、潜水士または無人潜水機で行うことが可能であるが、本実験では潜水士によって係留索5を切断した。
【0071】
図13に示す試験設備では、シンカー2として土嚢シンカー(重量40kg)、係留索5および回収索6としてポリエステルエイト被覆ロープ、係止用索条7としてナイロンテグス3号、浮体3としてフロート(浮力20kg)を用いた。
本実験では、潜水士が係留索5を切断すると、係止用索条7が連続して破断し、浮体3が海面Sに浮上した。その際に、回収索6が激しく動くことはなく、係留索5の切断を行う潜水士や無人潜水機に危険性がないことが確認された。
【0072】
(実験5)
図14は係止用索条7による係留索5への回収索6の取付構造試験で用いた結束構造モデル1〜4を示す図であり、図14(1)は結束構造モデル1を示す図であり、図14(2)は結束構造モデル2を示す図であり、図14(3)は結束構造モデル3を示す図であり、図14(4)は結束構造モデル4を示す図である。本実験では、係留ロープを2箇所で折り返し、第1の折返し箇所までの係留ロープ(以下、「係留ロープA」と称する)と第1の折返し箇所から第2の折返し箇所までの係留ロープ(以下、「係留ロープB」と称する)とを補助ロープで結合し、係留ロープBと、第2の折返箇所以降の係留ロープ(以下、「係留ロープC」と称する)とを補助ロープで結合している。
【0073】
本実験では、係留ロープ(係留索5および回収索6に相当)としてポリエステルエイト被覆ロープ(外形31mm)、補助ロープ(係止用索条7に相当)としてφ6mmのポリエステルエイトロープ(設計強度:5.64kN)を使用し、速度360mm/分で図14の矢符方向に引張ることによって、図14に示す結束構造モデル1〜4について、係止用索条の結束構造の違いによる引張強度の相違を確認した。引張強度は、引張試験機(小浜製網株式会社製)を用いて測定した。表8は、結束構造モデル1〜4の結束条件をまとめた表であり、表9は、結束構造モデル1〜4の引張強度の測定結果を示す表である。なお、表9に示す基準は、2本の補助ロープをもやい結び同士で結束した場合の引張強度である。
【0074】
【表8】
【0075】
【表9】
【0076】
結束構造モデル1および2の結果から、巻き結びの場合には、本数/2に略比例して引張強度が高くなることがわかる。また、結束構造モデル3および4の結果から一端が巻き結びで、他端がもやい結びの場合であっても、結束位置を変更することによって、引張強度が変化することがわかる。
【0077】
結束構造モデル3の場合には、引張方向に最も近接する位置に形成される補助ロープと引張方向から最も離反する位置に形成される補助ロープとを除いた補助ロープにおいて、係留ロープA(回収索6Aに相当)と係留ロープB(回収索6Bに相当)とを結ぶ補助ロープの他端の結び目(係留ロープBに形成される)が、係留ロープBと係留ロープC(回収索5に相当)とを結ぶ補助ロープの他端の結び目(係留ロープBに形成される)よりも引張方向に近接する位置で結ばれている。
【0078】
結束構造モデル4の場合には、引張方向に最も近接する位置に形成される補助ロープと引張方向から最も離反する位置に形成される補助ロープとを除いた補助ロープにおいて、係留ロープBと係留ロープCとを結ぶ補助ロープの他端に形成される結び目(係留ロープBに形成される)が、係留ロープAと係留ロープBとを結ぶ補助ロープの他端の結び目(係留ロープBに形成される)よりも引張方向に近接する位置で結ばれている。
【0079】
結束構造モデル3の場合には、引張方向に最も近い位置に配される係留ロープAを介して作用する引張力が、順番に1つのもやい結びに作用するのに対して、結束構造モデル4の場合には、係留ロープAを介して作用する引張力が、係留ロープAと係留ロープBとを結ぶ補助ロープの他端に作用するとともに、当該引張力が当該他端よりも係留ロープBと係留ロープCとを結ぶ補助ロープの他端にも作用するので、引張力が順番に1つのもやい結びに作用しないものと考えられる。
【0080】
このことから、結束構造モデル3の場合には、係留ロープの本数に関わらず、引張方向に最も近接する位置に形成される補助ロープと引張方向から最も離反する位置に形成される補助ロープとによって、引張強度が決定されるので、引張強度は一定であると考えられ、係留ロープの本数に関わらず一定の引張力で全ての係留ロープを確実に破断することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 中層浮魚礁設備
2 シンカー
3 浮体
4 魚礁本体
5 係留索
6 回収索
7 係止用索条
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用後に回収される中層浮魚礁設備であって、
海底に設置されるシンカーと、
浮体が設けられる魚礁本体と、
一端部が前記シンカーに結合され、他端部が前記魚礁本体に結合され、魚礁本体を海面下に係留する係留索であって、中層浮魚礁設備の回収時に予め定める切断位置で切断され、当該予め定める切断位置の両側に結合部を有する係留索と、
前記係留索の予め定める切断位置の両側の結合部に、各端部がそれぞれ結合され、前記係留索の両結合部間の長さよりも長尺の回収索と、
前記回収索を、前記係留索に結合する係止用手段とを含むことを特徴とする中層浮魚礁設備。
【請求項2】
前記係止用手段は、前記浮体の浮力による引張力によって破断可能な係止用索条であって、前記回収索を、前記係留索の前記予め定める切断位置と、前記シンカーに結合される一端部とにわたる部分に結合する係止用索条であることを特徴とする請求項1に記載の中層浮魚礁設備。
【請求項3】
前記シンカーは、直方体状のコンクリート製ブロックから成り、海底に設置された状態から浮上するとき、海底と該海底に接触する部分との間に水を導くための導水部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の中層浮魚礁設備。
【請求項1】
使用後に回収される中層浮魚礁設備であって、
海底に設置されるシンカーと、
浮体が設けられる魚礁本体と、
一端部が前記シンカーに結合され、他端部が前記魚礁本体に結合され、魚礁本体を海面下に係留する係留索であって、中層浮魚礁設備の回収時に予め定める切断位置で切断され、当該予め定める切断位置の両側に結合部を有する係留索と、
前記係留索の予め定める切断位置の両側の結合部に、各端部がそれぞれ結合され、前記係留索の両結合部間の長さよりも長尺の回収索と、
前記回収索を、前記係留索に結合する係止用手段とを含むことを特徴とする中層浮魚礁設備。
【請求項2】
前記係止用手段は、前記浮体の浮力による引張力によって破断可能な係止用索条であって、前記回収索を、前記係留索の前記予め定める切断位置と、前記シンカーに結合される一端部とにわたる部分に結合する係止用索条であることを特徴とする請求項1に記載の中層浮魚礁設備。
【請求項3】
前記シンカーは、直方体状のコンクリート製ブロックから成り、海底に設置された状態から浮上するとき、海底と該海底に接触する部分との間に水を導くための導水部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の中層浮魚礁設備。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−152178(P2012−152178A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15819(P2011−15819)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000182247)サカイオーベックス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000182247)サカイオーベックス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】
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