説明

中折れ式シールド掘進機のシール装置

【課題】中折れ式シールド掘進機の胴管の前段と後段とを大きなストロークで互いに前後摺動させた場合であっても中折れ部について泥水等に対する十分な止水性が常に得られ、また耐久性に優れ、かつ単純な構造でメンテナンス性に優れるシール装置を提供する。
【解決手段】前胴22の後端部22aと後胴23の前端部23aとが互いに摺動自在に重ね合わされた中折れ式シールド掘進機10の中折れ部30を止水するシール装置50であって、多数の弾性線材71の基端部を互いに結束して結束部51を形成したブラシ体50aが、前胴22または後胴23の周面上に前記結束部51を固定して環状に配置されるとともに、前記弾性線材71が後胴23または前胴22に向かって立ち上がるよう前記中折れ部30に取り付けられることを特徴とするシール装置50。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲率の大きな管路やトンネル等を造成する際に用いられる中折れ式シールド掘進機について、前段と後段の胴部が揺動可能に連結された中折れ部より泥水や土砂が掘進機内部に浸入することを防止するシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交通用のトンネル、地下管路、その他の地下構造物を非開削にて造成する場合、従来からシールド掘進機が広く用いられてきた。シールド掘進機とは、先端に回転する切羽(きりは)が設けられた円筒状の掘削機械であって、掘削した土砂を自機の内部を通じて後方に送り出すとともに、掘削された坑道の周辺土砂の崩壊を防ぐためのシールドを坑道内壁面上に連続的に組み立ててゆく、いわゆるシールド工法に用いられる装置である。
【0003】
近年、地下鉄やインフラ網の整備などにより、特に都市部での地下掘削工事においては既存の地下構造物との干渉を避けるため、急カーブを含む複雑な掘進路が求められている。これを実現するため、シールド掘進機の胴体をなす胴管を掘進方向について複数に分割し、互いに揺動可能に連結することで、掘進方向を急激に変化させ、曲率の大きな掘進路を描くことのできる中折れ式シールド掘進機が開発された。
【0004】
図1は、中折れ式シールド掘進機の平面模式図である。掘進機10は、掘進方向に回転軸をもつ切羽20と、その後方に連結して切羽20の回転径よりも僅かに小さな外径をもつ胴管21とからなる。胴管21は、回転する切羽20を好適に保持し、かつ深度の大きな地中にて負荷される高圧に耐えうるよう、通常は鋼鉄製である。
中折れ式シールド掘進機においては、胴管21をその掘進方向について二段以上に分割し、その前段(前胴)22と後段(後胴)23とが中折れ部30にて揺動可能に連結されていることを特徴とする。胴管21が3段以上に分割される場合は、複数の中折れ部30を有することとなる。
【0005】
掘進機10は、地盤と後胴23との間に設けられた複数の前進ジャッキ(図示せず)を伸張させることで前進力を得る。かかる複数の前進ジャッキの伸縮量を適宜調整することで、掘進機10の掘進方向を緩やかにカーブさせることができる。これに対し、後胴23を地盤に固定した状態で、前胴22と後胴23との間に設けられた中折れジャッキ31を伸縮させることで、掘進機10はさらに大きな曲率にて掘進方向を急カーブさせることができる。すなわち前胴22の後端部22aと後胴23の前端部23aとは互いに重ね合わされて所定のストロークにて互いに前後摺動可能であり、二式の中折れジャッキ31の伸縮量を互いに相違させることによって胴管21を揺動させ、掘進方向を急激に変化させることができることとなる。具体的には、図1に示すように、掘進方向に対して左手側に位置する図中上方のジャッキを短縮し、右手側に位置する図中下方のジャッキを逆に大きく伸張することにより、切羽20および前胴22は掘進方向に対して左方に曲がるため、掘進路を左にカーブさせることができる。
なお本発明において、前方とは切羽20の設けられている掘進機10の先端側、すなわち掘進機全体の掘進方向を意味し、また後方とはその反対側を意味するものである。また後胴23に対する前胴22の揺動角度をφとする。
【0006】
シールド掘進機10の内部にはリング状のセグメント40が複数収納されており、掘進機10の前進に伴ってその後方に形成される坑道の内周面に該セグメント40を連続的に押し当ててゆくことで、トンネル状にシールドが形成されてゆく。また掘削された土砂は、図示しないスクリューコンベアによって胴管21の内部を通じて後方に送り出され、さらに図示しない搬送装置によって坑内から地表に搬出されることが一般的である。
【0007】
前胴22と後胴23とは、掘進方向の前段にあたる前胴22をより大径とし、後段にあたる後胴23をより小径として両者を互いに重ね合わせることによって、前胴22自体をシールドとして利用し、掘進作業時に中折れ部30を通じて掘進機外部より泥水や土砂(以下、泥水等という。)が容易には浸入しないよう構成されていることが一般的である。
しかし、坑内作業を安全に行うためには、胴管21の外部に存在する高圧の泥水等が掘進機10の内部に浸入することを完全に防ぐ必要があり、何らかのシール装置を設けることが必須となる。高圧の泥水等が掘進機10に浸入する虞のある経路としては、(イ)掘進機10の後端部とセグメント40の外周面との空隙、および(ロ)前胴22と後胴23との空隙、の二つが挙げられる。
【0008】
上記(イ)の浸入経路については、断面くの字形に屈曲形成した硬鋼線からなるブラシ材を、硬鋼線の先端が掘進方向の後方に流れるように掘進機10の後端部に環状に配設し、セグメント40の外周面と硬鋼線とが順目となるよう30〜45度程度の浅い接触角で密接させて両者の間を止水するテールシールブラシ(例えば特許第2925726号公報、特開2005−61035号公報等)が知られている。
【0009】
一方、上記(ロ)は中折れ式シールド掘進機に特有の浸入経路であり、本発明に対する従来技術に位置づけられる止水手段としては各種の発明が提案されている。例えば下記特許文献1には、伸縮性のある柔軟な膜体からなる土留め膜を中折れ部30の外周に被覆する方法、下記特許文献2には、前胴の後端部内面と後胴の前端部外面との間で摺動する中折れシールを用いる方法、下記特許文献3には、たわみ代(しろ)を有するゴムなどの塊状弾性体を前胴と後胴の間に装填する方法、がそれぞれ記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開2005−273253号公報
【特許文献2】特開2004−218198号公報
【特許文献3】特開平6−108777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし上記従来の止水方法では、中折れ式シールド掘進機10の掘進方向を急カーブさせる場合、すなわち中折れ部30にて重なり合った前胴22と後胴23とを大きなストロークで互いに前後摺動させて揺動角度φを大きくした場合に、中折れ部30を十分に止水することは困難であった。
これは、中折れ式シールド掘進機10において掘進路を急カーブさせる場合、前胴22のうちカーブの外側(図1の下側に相当)は後胴23に対して大きく前進するのに対し、内側(同図の上側に相当)は局所的に後戻りをする場合があることに起因するものである。
【0012】
例えば上記特許文献1に記載の土留め膜は伸縮性のある膜体からなるが、これは坑道の内壁面と掘進機との間の摩擦によってすぐに磨耗するため耐久性に乏しく、また膜体の伸縮性にも限界があるため中折れ部のストロークを十分に確保することができない。すなわち、十分な長さの土留め膜を掘進機の外周に設けた場合、カーブの内側では余った土留め膜が掘進機からはみ出して坑道の内壁面と接触して損耗し、逆に土留め膜を短くした場合は急カーブの外側で十分なストロークが得られなくなる。
上記特許文献2に記載の中折れシールの具体的な態様は明らかではないが、Oリング様のゴムパッキンであるとするならば、中折れ部の摺動抵抗によって取付溝からパッキンが掻き出されて脱離する虞がある。またゴムパッキンは弾性変形量が十分ではないため、掘進機の揺動によって胴管同士のクリアランスが変動した場合、容易に止水力を失う虞がある。また土砂などの粉粒体によるゴム材料の損耗は著しく、耐久性に乏しい。
上記特許文献3に記載の塊状弾性体の場合、押付用のロッドやプレートを備えているためシール体の脱離は防止されるものの、機構が複雑でコスト性やメンテナンス性に劣り、またゴムなどの軟弾性材料による泥水等の止水性および耐久性の問題は上記特許文献2に記載の中折れシールと共通する。
【0013】
一方、従来の断面くの字型のテールシールブラシでは中折れ部を止水することはできない。なぜならば、テールシールブラシは硬鋼線をくの字形に屈曲させてその先端を掘進方向の後方に流し、硬鋼線の先端をセグメントの外表面に順目で当接させることで掘進機のテールを止水(シール)するものであるところ、これは掘進機のテールが常に掘進方向に対して前進することを前提とする技術であり、かかる硬鋼線の集束体を中折れ部に環状に配置した場合、掘進方向に対して後退することのある胴管の内側では硬鋼線の先端が逆目となって相手方の胴管と当接することから、硬鋼線が前胴22と後胴23との空隙に巻き込まれ、また硬鋼線同士が絡まりあってしまうためである。
【0014】
本発明は上記各課題を解決するためになされたものであり、中折れ式シールド掘進機の胴管の前段と後段とを大きなストロークで互いに前後摺動させた場合であっても中折れ部について泥水等に対する十分な止水性が常に得られ、また耐久性に優れ、かつ単純な構造でメンテナンス性に優れるシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、弾性線材を結束したブラシ体(集束体)によって前胴と後胴とを摺動自在に連結するとともにその間を止水するものであり、硬鋼線の集束体を用いた上記従来のシールパッキン装置とは異なり、互いに重なり合う前胴後端部の周面と後胴前端部の周面との間に弾性線材が略面直方向に立ち上がるようブラシ体が固定されることで、弾性線材の先端部が掘進機の掘進方向とその逆方向にいずれも撓むことができるよう設けられていることを特徴とする。
【0016】
すなわち本発明は、
(1)掘進方向の先端に設けられた掘削用の切羽と、掘進方向について前後に設けられた前胴および後胴と、前記前胴の後端部と後胴の前端部とが互いに摺動自在に重ね合わされて形成された中折れ部と、を有する中折れ式シールド掘進機について前記中折れ部を止水するシール装置であって、
多数の弾性線材の基端部が互いに結束されて結束部が形成されたブラシ体を備え、前記ブラシ体の結束部が前記重ね合わされた前胴の後端部または後胴の前端部に固定されるとともに、前記弾性線材が後胴の前端部または前胴の後端部に向かって立ち上がるよう前記中折れ部に取り付けられることを特徴とするシール装置;
(2)弾性線材の先端部が、前記掘進方向およびその逆方向に撓みつつ前記後胴の前端部または前胴の後端部の周面と密接することを特徴とする上記(1)に記載のシール装置;
(3)後胴の前端部が切頭球面状に形成され、前胴の後端部の内径が前記球面よりも大径であって、かつ、前記弾性線材が前記球面の径方向に立ち上がるように前記ブラシ体が前胴の後端部の内周面上に取り付けられている上記(1)または(2)に記載のシール装置;
(4)複数の前記ブラシ体が、前胴の後端部または後胴の前端部の周面上に相隣接して環状に配設されている上記(1)から(3)のいずれかに記載のシール装置;
(5)上記(4)に記載のシール装置が、前記掘進方向について多段に配設されるとともに、少なくともいずれかのブラシ体には、前記多段のシール装置同士の間にシール剤を供給するシール剤供給通路が設けられていることを特徴とするシール装置;
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかるシール装置は所定の長さの弾性線材を結束したブラシ体からなり、また中折れ式シールド掘進機のうち互いに重ね合わされた前胴と後胴の一方にその結束部を固定し、他方側に向かって弾性線材の先端部が直立させるよう構成されたものである。これにより、前胴と後胴とのクリアランスが弾性線材の長さよりも小さな領域にこれを用いることで、弾性線材の先端部を撓ませつつ掘進機の中折れ部に密接させることができる。
このように、弾性線材の先端部を所定長さのラップ代(しろ)で撓ませて前胴と後胴の周面同士を止水する方式をとることにより、ゴムなどの塊状弾性体を変形させる従来のシールよりも弾性変形量がはるかに大きくなり、両者を好適に止水しつつ摺動自在に連結することができる。このため、中折れ式シールド掘進機の揺動角度を大きくとることで前胴と後胴とのクリアランスが拡大または縮小した場合も、ブラシ体が常に前胴と後胴の両者と隙間なく接触しつづけることができる。また先端部を撓ませた弾性線材には、その弾性復元力に応じた高い止水圧が得られるため、高圧の泥水等に対してもこれが掘進機内部に浸入することを防ぐことができる。
本発明にかかるシール装置によれば、弾性線材の先端部を掘進方向およびその逆方向にいずれも撓ませることができるため、掘進路を急カーブさせる場合に掘進方向に大きく前進する掘進機の中折れ部の外側と、その逆方向に後退する場合のある内側とをいずれも好適に止水することができる。
また本発明は、中折れ部に複数のブラシ体を相隣接して環状に並べて配設する方式をとることもできるため、この場合は一部のブラシ体に破損や弾性線材の抜脱等が生じて止水力が損なわれたときも、当該ブラシ体のみを交換または修理するだけで止水力を回復することができ、メンテナンス性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて具体的に説明する。図1は上述のように中折れジャッキ31の伸縮によって揺動角度φで掘進方向が左方(図中上方)に曲げられた中折れ式シールド掘進機10の平面図である。また同図に破線にて示す中折れ部30の拡大図を図2(a)に示す。
【0019】
胴管21は、掘進方向について複数段に分割され、互いに一部が重ね合わされた状態で摺動自在に連結されている。胴管21の形状は特に限定されるものではないが、掘進方向に対して直交する方向の断面(以下、横断面という。)の形状は、円形、楕円形、長円形、矩形、またはこれらの組み合わせなど各種を採りうる。
本実施の形態においては、胴管21を横断面円形の円管状とし、また掘進方向の前段にあたる前胴22と、後段にあたる後胴23とにこれを2段に分割し、両者を中折れ部30で連結した態様を例示する。ただし分割の段数はこれに限られるものではなく3段以上とすることもできる。例えば胴管21を3段に分割した場合は中折れ部30が2箇所形成されることとなり、本発明にかかるシール装置をそれぞれの中折れ部について適用することができる。
【0020】
後胴23の前端部23aは切頭球面状に形成され、一方、前胴22の後端部22aは円筒状に形成されている。円筒状の前胴22の後端部22aの内径は、後胴23の前端部23aの切頭球面の直径よりもわずかに大きく形成されており、揺動角度φの大小によらず前胴22と後胴23とのクリアランスは略一定に保たれる。本発明にかかるシール装置50は、当該略一定のクリアランスを隙間なく止水する。
【0021】
図2(b)および(c)は、シール装置50を含む中折れ部30の拡大図である。同図(b)は、中折れジャッキ31(図1を参照)の延伸を駆動力として、前胴22が後胴23に対して前方に押し出されるように前進する際のシール装置50の状態を表している。逆に同図(c)は、中折れジャッキ31の縮退によって、前胴22が後胴23に向かって引き戻される状態におけるシール装置50を表している。すなわち、掘進機10の全体は図中右方に進行するのに対し、前胴22が局所的には後胴23に対して相対的に後退する場合があり、同図(c)はかかる状態を表している。
【0022】
本実施の形態にかかるシール装置50は、それぞれ多数の弾性線材を互いに結束した複数のブラシ体50aを前胴22の後端部22aの内周面上に相隣接して環状に配置してなる。弾性線材は、基端部が互いに結束されて結束部51が形成され、他方、先端部52は刷毛のごとく自由に撓ませることができる(ブラシ体50aの正面視形状は図3を参照)。
【0023】
本発明においては、複数のブラシ体50aを相隣接して環状に配設したシール装置50を、中折れ部30に単段または多段に設けてもよい。
【0024】
すなわち本実施の形態にかかるシール装置50においては、中折れ部30に対する止水性をさらに向上するため、上記と同様のブラシ体50bを前胴22の後端部22aの内周面上に環状に配置して二段構成とした上で、環状のブラシ体50a,50b同士の間にシール剤60を充填している。
【0025】
なお、前胴22の後端部22aには、その内周面上に階段状に削成されたブラシ体取付部22bが環状に設けられ、その上に環状のブラシ体ホルダ24が設けられている。ブラシ体ホルダ24は、樹脂または金属などからなり、ブラシ体50a,50bの結束部を固定するための嵌合溝が形成されている。すなわちブラシ体50aおよび50bは、結束部51がブラシ体ホルダ24に固定され、また一方、先端部52が切頭球面状の後胴23の前端部23aの径方向に立ち上がるよう、前胴22に取り付けられている。
【0026】
なお、中折れ式シールド掘進機においては掘進方向の前段にあたる前胴22をより大径とし、後段にあたる後胴23をより小径として、中折れ部30の止水性を向上することが一般的であることは既に述べたとおりであり、図1,2各図に示す本実施の形態についてもこれを前提としている。ただし本発明にかかるシール装置50は、中折れ部30において前胴22が後胴23よりも小径の場合についても用いられるものである。かかる場合にブラシ体50aおよび50bを如何なる位置および向きにて中折れ部30に配設すればよいかは、本実施の形態の説明に基づいて当業者であれば容易に想到できるであろう。
【0027】
前胴22のブラシ体ホルダ24に固定されたブラシ体50aおよび50bは、前胴22と後胴23とが互いに重ね合わされることにより、後胴23の外周面と接触して、その先端部52を撓ませる。これにより、前胴22と後胴23とは、ブラシ体50a,50b、およびスライドレールなどの図示しない摺動手段とによって互いに摺動自在に連結される。ブラシ体50aおよび50bは、中折れ部30の周方向(図2各図における紙面前後方向)に横並びに連続して配設されており、すなわち弾性線材は中折れ部30の周方向に隙間なく設けられているため、先端部52の撓む方向としては実質的に図2(b)または(c)のように掘進方向の前後いずれかの方向となる。
【0028】
前胴22が後胴23に対して相対的に前進する図2(b)の状態においては、ブラシ体50a,50bの先端部52は掘進方向の後方に撓みつつ後胴23の前端部23aと密接して中折れ部30を止水する。一方、前胴22が後胴23に対して相対的に後退する図2(c)の状態においては、ブラシ体50a,50bの先端部52は掘進方向の前方に撓みつつ、やはり後胴23の前端部23aと密接しており、中折れ部30の止水性を維持することができる。
【0029】
弾性線材の好適な長さは、前胴22と後胴23とのクリアランス、ブラシ体ホルダ24の厚さ、線材の曲げ弾性率その他の条件によって変動するため限定することはできないが、上記のように結束部51が前胴22に固定された状態で、その先端部52を所定のラップ代(しろ)によって後胴23と接触させ、これを掘進方向およびその逆方向にいずれも撓ませることのできるものである必要がある。
【0030】
弾性線材の長さがこれよりも短い場合、その先端が後胴23と当接することができないか、または先端部52の撓み量が過小となり、後胴23に対する密着力が劣ることから十分な止水力が得られなくなる。
逆に弾性線材の長さが過剰の場合、後胴23に対する前胴22の摺動方向を前進方向から後退方向に切り替える際、および後退方向から前進方向に切り替える際に、先端部52の撓み方向をこれに追随して切り替えることができず、弾性線材が互いに絡み合ったり、座屈したりする虞がある。
【0031】
一例として、弾性線材に直径0.3mm程度の鋼線を用い、ブラシ体取付部22bにおける前胴22と後胴23とのクリアランスが100mm程度の場合、弾性線材のラップ代(しろ)を10乃至30mm程度とすることにより、本発明のように弾性線材を掘進方向の前後両方向に撓ませつつ後胴23の外周面と常に密接し、中折れ部30を好適に止水することができる。すなわち一般的な鋼線を弾性線材に用いる場合、前胴22と後胴23とのクリアランスに対し、弾性線材は先端側の10乃至30%の長さがラップ代となるようその長さを選択するとよい。
【0032】
シール剤60は、油性および高粘性を有するペースト状の止水材であり、各種が市販されている。またシール剤60に短繊維を混合して止水力を向上させることも好適である。相隣接して環状に配設されたブラシ体50aと50bとの間にシール剤60を充填することにより、掘進機10の外方からの泥水等の浸入に対する止水効果を増大することができる。またシール剤60は油性であるため、ブラシ体50a,50bの潤滑油の機能も有し、弾性線材の先端部と後胴23外周面との摩擦抵抗を減じ、弾性線材の磨耗を抑止することができる。
【0033】
本発明にかかるシール装置50は、可撓性の弾性線材を刷毛として用いることにより、ゴムパッキンなどの塊状弾性体自体をシール体とする従来技術に比べて弾性変形量を遥かに大きくすることができる。これにより、前胴22の円筒状の後端部22aと、後胴23の切頭球面状の前端部23aとが、これらの加工公差や弾性/塑性変形の発生などに起因して、そのクリアランスが揺動角度φに応じて変動する場合であっても、本発明のシール装置50によれば、弾性線材のもつ大きな弾性変形量によって該変動分を吸収し、止水力を常に維持することができる。
【0034】
なお、本実施の形態ではブラシ体50a,50bが前胴22の後端部22aの内周面上に固定される態様を例示しているが、本発明にかかるシール装置50はこれに限られるものではなく、ブラシ体50a,50bの結束部51を後胴23に固定し、弾性線材の先端部52を前胴22と密接させてもよい。
【0035】
図3各図に、本実施の形態に用いるブラシ体50aの例を示す。図3(a)は曲線型ブラシ体の正面図、同図(b)はその側面図である。また同図(c)は直線型ブラシ体の正面図、同図(d)はその側面図である。71は弾性線材、72はブラシケース、73は保護板、74は網体、75はリベット、76はバンドである。なお本発明においては、同図(a)および(c)における図中左右方向をブラシ体50aの幅方向とし、同図(b)および(d)における図中左右方向をブラシ体50aの厚さ方向とする。
【0036】
同図(a),(b)に示す曲線型ブラシ体は、中折れ部30の横断面が円形である場合に、これを幅方向に横並びに複数配設して用いるか、または中折れ部30の横断面が矩形である場合についてはそのコーナー部に用いることができる。
一方、同図(c),(d)に示す直線型ブラシ体は、かかる横断面が矩形や長円形である場合の直線部に用いることができる。
すなわちシール装置50には、中折れ部30の横断面形状に応じて、曲線型ブラシ体と直線型ブラシ体とを組み合わせて用いることができる。
【0037】
弾性線材71には、耐摩耗性や強度などの観点から、例えば硬鋼線やアラミド繊維、またはナイロン繊維を用いることができる。また弾性線材71に波状加工を施すことで止水力を向上することができる。弾性線材71は、バンド76による緊縛や加熱融着などの手段によって基端部が互いに結束される。
ブラシケース72は、互いに結束された弾性線材71の結束部51を保持するとともに、前胴22の内周面上に設けられたブラシ体ホルダ24にリベット75を介して固定される部材であり、アルミ合金やステンレス合金などから得ることができる。
互いに結束された弾性線材71は、シール装置50の長期間の使用によってもその先端部52が拡開しないよう、厚さ方向の両側を保護板73で挟持されている。保護板73は厚さ1mm程度の鋼板などから得ることができる。
また、結束された弾性線材71の厚さ方向の中央には、薄肉で可撓性の網体74が埋設されている。網体74はステンレス等の線材を網状に編み上げるか、または鋼板などに多数の通孔を穿設してなる。これを弾性線材71に埋設することにより、ブラシ体50a,50bによるシール剤60の保水力を向上することができる。特にシール剤60に短繊維が混合されている場合、かかる短繊維が網体74に絡まることで目止めとなり、泥水等に対する止水力と、シール剤60の保水力をともに高めることができる。網体74の先端部は、弾性線材71とともに掘進機10の掘進方向およびその逆方向に自在に撓むことができる。
【0038】
なお、図3(a),(b)に示す曲線型ブラシ体は、前胴22の後端部22aの内径が、後胴23の前端部23aの外径よりも大径である場合に好適に用いられるものである。すなわち、ブラシ体50aの基端側にあたるブラシケース72の上面は、平面視が凸の円弧状をなしている。また後胴23の外周面に当接する弾性線材71の先端は、平面視が凹の円弧状をなしている。このためかかる曲線型ブラシ体を幅方向に相隣接して並べることにより、ブラシケース72は、環状のブラシ体ホルダ24(図2を参照)と同径の環状をなし、また弾性線材71の先端は、後胴23の切頭球面状の前端部23aの横断面形状と同径の環状をなす。また、ブラシ体50aは、ブラシケース72の幅寸法と弾性線材71の幅寸法とが略同一であり、網体74の幅寸法はこれよりも大きく形成されている。これにより、複数のブラシ体50aを幅方向に横並びに全体を環状に配設した場合、ブラシケース72と弾性線材71はそれぞれ相隣接して環状をなし、網体74は互いにその一部同士を重ね合わせた状態で環状をなす。これにより、中折れ部30の周面上に隙間なく周回状に設けられた網体74にてシール剤60を好適に保持することができるとともに、所定の厚さをもつブラシケース72および弾性線材71が互いに隣接するブラシ体同士で干渉することがなく、換言すると弾性線材71の先端部52が掘進方向およびその逆方向に自在に撓みつつ後胴23の外周面と常時密接するという止水動作を妨げられることがない。
【0039】
図3(c),(d)に示す直線型ブラシ体も、ブラシケース72の幅寸法と弾性線材71の幅寸法とは略同一であり、網体74の幅寸法はこれよりも大きい。したがって中折れ部30の横断面形状が直線部を有する場合、ブラシケース72が幅方向に相隣接し、網体74が互いに一部重なり合うよう、かかる直線型ブラシ体を横並びに配設することで、前記中折れ部30の直線部を好適に止水することができる。
【0040】
図4(a)および(b)は、本発明の第二の実施の形態にかかるシール装置50に用いられる給脂型ブラシ体の正面図である。いずれもブラシ体50aのブラシケース72に、その厚さ方向に連通するシール剤供給通路53を備えることを特徴とする。同図(a)はブラシケース72に通孔が形成された態様を、同図(b)はブラシケース72に切欠溝が形成された態様を例示している。なお、図4(a),(b)はいずれも直線型ブラシ体にシール剤供給通路53を設けたブラシ体50aの態様を例示したものであるが、図3(c),(d)に示す曲線型ブラシ体に同様の通孔や切欠溝を形成してシール剤供給通路53を設けてもよい。
【0041】
図5は、本実施の形態にかかるシール装置50が、前胴22の後端部22aの内周面上に、掘進方向について二段にわたって配設された状態を示す断面模式図である。ただし同図においては後胴23の前端部23aの図示を省略し、ブラシ体50a,50bの弾性線材71は撓むことなく前胴22のブラシ体取付部22bよりその面直方向に立ち上がった状態を示している。
【0042】
本実施の形態にかかるシール装置50は、前胴22の後端部22aの内周面上に相隣接して環状に配設されたそれぞれ複数のブラシ体50aおよび50bを有する。掘進方向の前段側のブラシ体50aの一部または全部は、図4(a)に示すシール剤供給通路53が通孔によって形成された給脂型ブラシ体であり、後段側のブラシ体50bには、図3(c),(d)に示すブラシ体を用いている。
【0043】
前胴の後端部22aには、給脂管25が埋設され、その出口側の開口端26はブラシ体50aと50bとの間に穿設されている。給脂管25の入口側には、図示しない電動圧送ホースが連結し、該ホースよりシール剤60を圧送する。シール剤60は給脂管25および開口端26を通じ、ブラシ体50a,50b、前胴の後端部22aおよび後胴の前端部23aで囲まれる環状の閉空間に充填される。
【0044】
このように、ブラシ体50aにシール剤供給通路53を設けることにより、シール剤60を安定的に供給することができるとともに、仮にシール剤供給通路53が目詰まりをおこした場合も当該ブラシ体のみを交換/修理するだけで容易にシール装置50の修復が可能になるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明にかかるシール装置は、互いに前後摺動する管状の前胴と後胴との間を、先端が掘進前後方向に自在に撓むことのできる弾性線材を結束してなるブラシ体によって好適に止水するものである。かかるシール装置は、中折れ式シールド掘進機の中折れ部のほか、掘進方向に対して前後摺動する部位に関してはいずれも好適に止水することができる。
具体的には、例えば大径の切羽と胴管とからなる掘進機の主胴部の側方に、小径の切羽と胴管とからなる副胴部を出入自在に備える掘進機によって、幹線用の大径の主道と、その側方に飛び飛びに設けられる一時避難用の小径の側道とからなるトンネルを削成する場合に好適に用いられる。すなわち、主胴部を地中に固定した状態でその側方から副胴部を突出させ、さらに主胴部に沿ってこれを掘進方向の前後に摺動させて側道を掘削形成する場合、主胴部と副胴部とは大きなストロークによって互いに前後摺動する関係となる。この場合に、主胴部と副胴部との間、および副胴部と側道内のセグメントとの間について止水をするに際して、本発明の如く環状に立設された複数のブラシ体からなるシール装置を用いることにより、摺動の前後両方向に弾性線材の先端部を撓ませることができることから、良好な止水力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】中折れ式シールド掘進機の平面模式図である。
【図2】中折れ部の拡大図である。
【図3】本発明の第一の実施の形態にかかるシール装置に用いるブラシ体の二面図であり、(a)は曲線型ブラシ体の正面図、(b)はその側面図、(c)は直線型ブラシ体の正面図、(d)はその側面図である。
【図4】本発明の第二の実施の形態にかかるシール装置に用いる給脂型ブラシ体の正面図である。
【図5】本発明の第二の実施の形態にかかるシール装置、および掘進機の前胴後端部の断面模式図である。
【符号の説明】
【0047】
10 中折れ式シールド掘進機
20 切羽
21 胴管
22 前胴
23 後胴
30 中折れ部
50 シール装置
50a,50b ブラシ体
53 シール剤供給通路
60 シール剤
71 弾性線材
72 ブラシケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進方向の先端に設けられた掘削用の切羽と、掘進方向について前後に設けられた前胴および後胴と、前記前胴の後端部と後胴の前端部とが互いに摺動自在に重ね合わされて形成された中折れ部と、を有する中折れ式シールド掘進機について前記中折れ部を止水するシール装置であって、
多数の弾性線材の基端部が互いに結束されて結束部が形成されたブラシ体を備え、前記ブラシ体の結束部が前記重ね合わされた前胴の後端部または後胴の前端部に固定されるとともに、前記弾性線材が後胴の前端部または前胴の後端部に向かって立ち上がるよう前記中折れ部に取り付けられることを特徴とするシール装置。
【請求項2】
弾性線材の先端部が、前記掘進方向およびその逆方向に撓みつつ前記後胴の前端部または前胴の後端部の周面と密接することを特徴とする請求項1に記載のシール装置。
【請求項3】
後胴の前端部が切頭球面状に形成され、前胴の後端部の内径が前記球面よりも大径であって、かつ、前記弾性線材が前記球面の径方向に立ち上がるように前記ブラシ体が前胴の後端部の内周面上に取り付けられている請求項1または2に記載のシール装置。
【請求項4】
複数の前記ブラシ体が、前胴の後端部または後胴の前端部の周面上に相隣接して環状に配設されている請求項1から3のいずれかに記載のシール装置。
【請求項5】
請求項4に記載のシール装置が、前記掘進方向について多段に配設されるとともに、少なくともいずれかのブラシ体には、前記多段のシール装置同士の間にシール剤を供給するシール剤供給通路が設けられていることを特徴とするシール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−303134(P2007−303134A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131957(P2006−131957)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(306013636)東北大島工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】