説明

中空微粒子の製造方法

【課題】中空微粒子を簡単に製造する新規な中空微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】液体80中において電極20,30間に交流電圧またはパルス状電圧を印加し、電気分解、熱分解及び相転移の少なくとも一つによって径が1nm以上1μm以下の気泡を発生させる工程と、気泡の気液界面に前記外殻部分を構成する材料を集合させて外殻部分を形成する工程とを含む中空微粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中空微粒子の製造方法に関し、特に外殻部分と中空な中心部分とからなる中空微粒子を液体中において製造する中空微粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
以前より医薬分野等において、マイクロカプセルと呼ばれる直径が通常5〜500μmの薬剤を保持する粒子が開発され使われてきた。さらに近年ではナノカプセルと呼ばれる、マイクロカプセルよりも小さな微粒子も開発されている。(例えば、特許文献1、非特許文献1,2)
【特許文献1】特開平5−58882号公報
【特許文献2】特開平10−225696号公報
【特許文献3】特開2002−113340号公報
【特許文献4】特開2005−245817号公報
【特許文献5】特開2003−143885号公報
【特許文献6】特開2005−74369号公報
【特許文献7】特開2005−108600号公報
【特許文献8】再公表2004/094306号公報
【特許文献9】特開2008−240039号公報
【非特許文献1】International Journal of Pharmaceutics, 187,143-152,1999
【非特許文献2】Journal of the Ceramics Society of Japan, 115(11),745-747,2007
【非特許文献3】「水の特性と新しい利用技術」、株式会社エヌ・ティー・エス、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の特許文献や非特許文献に記載された技術では、粒径をコントロールして径の揃った多量のマイクロカプセルやナノカプセルを作製することは困難であった。特に、径が小さくて均一なナノカプセルを多量に簡単に作製することは困難であり、中空で内部が気体である微粒子を作製することも困難であった。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、中空微粒子を簡単に製造する新規な中空微粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本願発明は、外殻部分と中空な中心部分とからなる中空微粒子を液体中において製造する中空微粒子の製造方法であって、液体中において電極間に交流電圧またはパルス状電圧を印加し、電気分解、熱分解および相転移の少なくとも一つによって径が1nm以上1μm以下の気泡を発生させる工程Aと、気泡の気液界面に前記外殻部分を構成する材料を集合させて該外殻部分を形成する工程Bとを含む構成とした。ここでパルス状電圧とは、定常状態から電圧が所定の電圧に遷移して短時間持続し、その後元の定常状態の戻る波形を有する電圧のことをいう。またここでの相転移とは、液相から気相に転移することをいう。
【0006】
前記液体を水としてもよい。
【0007】
前記工程Aでは前記交流電圧の半周期に1回以上あるいは前記パルス状電圧の1パルスに1回以上パルス電流を発生させて、該パルス電流のパルス高さは1A以下としてもよい。なお、パルス電流が流れる電極が複数ある場合は、1つの電極に発生する1回のパルス電流が1A以下であることが好ましい。
【0008】
前記工程Bにおける前記気泡は前記工程Aにおいて電気分解によって発生して未分裂のまま残存した気泡であってもよい。
【0009】
前記外殻部分を構成する材料は、径が100nm以下であって前記液体中に分散している粒子であってもよい。
【0010】
前記外殻部分を構成する材料は前記液体中に溶解している物質であってもよい。その場合、前記外殻部分を構成する材料は帯電及び分極の少なくとも一方の状態である物質であってもよい。
【0011】
前記工程Aにおいて水酸化イオンを発生させ、該水酸化イオンを前記気泡の気液界面に集合させてもよい。
【発明の効果】
【0012】
液体中で交流電圧またはパルス状電圧を印加して気泡を発生させて、気泡の気液界面に外殻部分を構成する材料を集合させるので、径が小さな中空微粒子を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明者らは、中空微粒子の新規な製造方法として液体中のナノバブルを利用することを考えた。そこで、まず液体中の気泡について検討した。
【0014】
液体中に分散させた微細な気泡は、目視可能な直径が数百μm以上である気泡に比べて、体積に対して比表面積が大きく液中の滞在時間が長いなどの特徴を有している。このような特徴を生かして、浄化・殺菌・消毒、液相化学反応器、溶液中の有害物質除去、ドラッグデリバリー、血液の造影剤、摩擦抵抗の低減など様々な分野において微細気泡は利用されている。例えば、気泡の直径が50μm以下の微細気泡はマイクロバブルと呼ばれ、気泡内の気体が周囲の液相に溶け込むことによって直径が減少するため、表面張力の効果により内部が高圧・高温になり、気泡の消滅時にOHラジカル等酸化力の高いフリーラジカルと圧力波を生じることが知られている(例えば非特許文3参照)。さらに気泡直径が1μmよりも小さく数十〜数百nmのサイズの微細気泡は、ナノバブルと呼ばれている。
【0015】
このような微細気泡を作製する方法として、例えば特許文献2には、被処理水の導入管の加圧ポンプの吸い込み側にエゼクタを設けオゾンガスを吸引して混合する手段と、オゾン混合水を加圧ポンプで圧入してオリフィスアトマイザから溶解槽に噴射してオゾンガスを微細気泡とする手段と、噴射されたオゾン混合水が滞留する内槽を具備した溶解槽とからなる加圧式オゾン処理装置を用いる方法が開示されている。
【0016】
また、特許文献3には、気体供給口を液体中に設けた微細管の該気体供給口から液中に供給される気体が完全な気泡を生成する前に、該気体と該液体の気液界面に超音波を付与することで、気液界面から連続的に複数の微小気泡を生成させる方法が開示されている。
【0017】
さらに特許文献4には、微小気泡発生装置により生成させたマイクロバブルに物理的刺激を加えることにより、このマイクロバブルを急激に縮小させてナノバブルを生成させる方法が開示されている。
【0018】
特許文献5には常圧下において発生時に略30μm以下の気泡径を有し、発生後は所定の寿命を持って徐々に微細化し、消滅・溶解する微細気泡の生成方法およびメカニズムや物理化学的性質・機能等が開示されている。
【0019】
しかしながら、上述の特許文献2〜5に開示された方法により作製された微細気泡は気泡径にばらつきが生じ、径の大きさに分布が生じてしまうという問題があった(例えば特許文献5参照)。また、微細気泡を生成させる装置が大型であったり生成に手間がかかったりするという問題もあった。
【0020】
特許文献6に開示された方法では、微細気泡の径を均一にするために水の粘度の10倍以上の粘度を有する液体を用いているが、このような液体はある種のシリコンオイル等特殊な液体であり、微細気泡を分散させたい液体として特に需要の高い水にはこの方法は使えない。
【0021】
以上のような微細気泡の製造方法の課題に対して本願発明者らは特許文献9に開示された方法を考えついた。この方法により径が均一な微細気泡を水を含む液体中に簡単に作製することができるようになった。この微細気泡から中空微粒子を作製する方法に関してさらに検討した結果、本願発明に想到した。
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
【0023】
(実施形態1)
実施形態1に係る中空微粒子を製造する中空微粒子製造装置は、図1に示すように、液体80の中に第1の電極20と第2の電極30とを挿入したものである。液体80は容器10の中に入れられている。
【0024】
本実施形態の中空微粒子製造装置1はさらに電源40を備えており、この電源40は第1の電極20、第2の電極30に接続されているとともに第2の電極30に接続された側が接地線50により接地されている。
【0025】
第1の電極20および第2の電極30は、図2に示すように線状の導電性部材21の表面に絶縁体または誘電体からなる被覆22が施されている構成を有している。導電性部材21は金属やカーボン、有機導電性材料など導電性を有していればどのようなものであっても構わない。本実施形態ではPt線としている。また、第1の電極20の液体80中に浸漬されている部分の先端は被覆22により覆われておらず、導電性部材21が露出している。このような構成により、電源40から第1の電極20および第2の電極30の間に交流電圧あるいはパルス状電圧を印加すると、第1の電極20から微細な気泡が発生する。この気泡は、第1の電極20の露出部分から発生する。そしてこの気泡の周囲(気液界面)に白金の微粒子が集合して白金からなる中空微粒子が形成される。即ち中空微粒子は、まず微小気泡を形成するステップとその気泡周囲に外殻材料が集まって来るステップとの二段階で形成される。
【0026】
以下に中空微粒子製造装置1について詳しく説明し、気泡および中空微粒子に関しては、その後に詳述する。
【0027】
被覆22を構成する絶縁体は、PFAやPTFE、FEPなどのフッ素樹脂、シリコーン、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂などの電気絶縁性のポリマー、あるいはダイヤモンドライクカーボン(DLC)のような電気絶縁性の無機物などを挙げることができる。また、被覆22を構成する誘電体としては、チタン酸バリウムなどの誘電率が高い物質を挙げることができる。被覆22を構成する絶縁体・誘電体は、電気絶縁性、耐熱性、耐衝撃性が大きい物質のほうが好ましい。本実施形態ではPTFEにより被覆22を形成した。
【0028】
電源40は交流電圧あるいはパルス状電圧を印加するものであるが、第1の電極20の形状や材質、長さなど、第1の電極20と第2の電極30との距離、液体80の種類や温度等々で気泡が発生するかしないかということ及び気泡発生の速度が大きく影響されるため、交流電圧あるいはパルス状電圧の周波数・パルス幅・パルス周期や電圧の大きさは特に限定されない。パルス状電圧は図3に示すように、矩形波形状で時間的に連続して供給されると気泡が連続して発生するので、好ましい。
【0029】
気泡は、交流電圧あるいはパルス状電圧の印加によって集中する電界が大きく変化する第1の電極20の露出部分において、電気分解、熱分解及び相転移(蒸発)のいずれか、又はこれらの組み合わせによって生じる。電気分解、熱分解及び相転移(蒸発)のいずれにより気泡が生じるのかは、電圧条件や液体の種類、液体に加える溶質等の種類によって変わる。
【0030】
なお、電源40の周波数や電圧は特に限定されないと上で述べたが、発生する気泡径は周波数あるいはパルス幅に依存して変化する。従って、いわゆるマイクロバブルやナノバブルを発生させるには、周波数は10Hz〜100kHzであることが好ましい。電圧は、気泡の発生量の観点から±1V〜±500kVであることが好ましく、装置の扱いやすさの点で±1V〜±20kVが好ましい。また、電源40により交流電圧またはパルス状電圧が第1の電極20に印加された際の第1の電極20近辺の電界強度は、10V/m以上1010V/m以下が好ましい。
【0031】
第1の電極20の先端においては、集中する電界が短時間に大きな変化を起こして単位時間当たりの電界の変化率が大きいため、この先端近傍で熱が発生する。この熱によって液体80が蒸発したり熱分解を起こして気泡が発生する場合がある。
【0032】
液体80は電気分解される物質を含んでいてもよい。電気分解される物質を含んでいると、本実施形態の中空微粒子製造装置1では、2つの電極20,30間に交流電圧またはパルス状電圧を印加することによって電気分解が行われ、電気分解により生じた気体が微細な気泡として液体80中に分散していく。本実施形態では交流電圧あるいはパルス状電圧を印加して電気分解が行われているので、気体は交流の半周期またはパルス幅の時間に発生しこれが気泡となる(交流の次の半周期では別種の気体が発生することがある)。そして気泡が帯電しているので、第1の電極20周りの電界によって第1の電極20から離脱していく。あるいは電界により駆動された水の流れにより第1の電極20から離脱していく。このようなメカニズムにより微細な気泡を発生させることができると共に、その気泡径も周波数あるいはパルス幅によってコントロールすることができる。
【0033】
液体80に含まれる電気分解される物質は、極性基を有している物質であり、例えば水、アルコール、アミン、酸(無機酸、有機酸)などを例示できる。なお、液体80中に電気分解される物質が含まれていなくても第1の電極20の周囲に誘電体バリア放電などによってプラズマが発生するようにすると、液体80を構成する物質がそのプラズマによって物理的化学的変化を起こし、気泡が発生する。また、液体80中に電気分解される物質が含まれていてもプラズマによる気泡の発生は生じる。従って、本実施形態の中空微粒子製造装置を用いれば、液体80を構成する分子の極性の有無や液体80の粘度などによらず液体80中で気泡を発生させることができる。プラズマによって気泡が発生するときも、交流電圧の周波数あるいはパルス状電圧のパルス幅によって気泡の径が決まる。即ち、周波数が高いあるいはパルス幅が小さいと気泡径が小さくなり、周波数が低いあるいはパルス幅が大きいと気泡径が大きくなる。気泡の径は、1nm以上1μm以下が好ましい。径は1nm未満であってもよいが小さすぎるため取り扱いがしにくい。また径が1μmよりも大きくてもよいが大きくなりすぎると気泡が潰れて小さな気泡が発生し、径が不均一になってしまう。
【0034】
また、周波数が高いあるいはパルス幅が小さいと気泡径のばらつきは小さく、周波数が低いあるいはパルス幅が大きいと気泡径のばらつきが大きくなる。ここ発生するで気泡の径が均一であるかどうかの目安であるが、平均の気泡径をTとしたときに、体積分率にして80%以上の気泡の径が0.1T〜10Tの範囲内にあればほぼ均一であるとみなすことができる。90%以上が上記範囲内にあれば均一性が高く、好ましい。
【0035】
液体80を入れる容器10は電気絶縁性の物質により構成されていることが好ましい。
【0036】
次に本実施形態の中空微粒子製造装置1を用いた気泡を発生させる方法を説明する。
【0037】
まず絶縁性の容器10を用意する。その容器10の中に第2の電極30を設置する。それから容器10の中に液体80を入れる。
【0038】
次に液体80の中に第1の電極20を入れる。この時第2の電極30に第1の電極20が接触しないように第1の電極20の位置を調整する。
【0039】
それから第1の電極20と第2の電極30とに電源40を接続し、交流電圧またはパルス状電圧を印加する。電源40は予め接地しておく。交流電圧またはパルス状電圧が印加されることによって第1の電極20の先端から液体80中に気泡が発生する。気泡は電界の力を受けて第1の電極20から高速で離れていくと推定され、液体80中に流れを生成させる。交流電圧の周波数またはパルス状電圧のパルス幅は所望する気泡径に応じて調節する。また、電圧条件を調節することにより第1の電極20から同時にプラズマを発生させることもできる。プラズマが発生するとパルス状の電流が流れ、また発光するため、プラズマの発生は容易に確認できる。なお、以上説明した現象は目視によるものであるので、微視的には第1の電極20の被覆22によって覆われている部分や第2の電極30から微細な気泡が発生している可能性もある。また、電圧条件によっては目視により気泡の発生が確認できなくても後述のように液体を顕微鏡観察するとナノバブルが生成していることが観察される場合もあり、気泡径が非常に小さいと気泡の目視ができない。従って、気泡が目視されなくてもナノバブルが発生している場合がある。
【0040】
電圧印加を止めると気泡の発生も止まる。なお、電流が流れることによって液体80に熱が加わるので、液体80を冷却することが好ましい。
【0041】
上記気泡発生方法において、容器10の中に第2の電極30,液体80,第1の電極20を入れる順番は上記記載の順番に限定されない。また、第1の電極20、第2の電極30を液体80中に入れる前に電源40と接続しておいても構わない。
【0042】
次に中空微粒子の形成ステップについて説明する。
【0043】
電圧印加を数分程度行って気泡を発生させ、その後電圧印加を止めて容器10をそのまま静置する。静置してしばらく経つと気泡は目視できなくなる。しかしながら液体80を顕微鏡観察すると微小気泡(ナノバブル)が観察される。この微小気泡は数日以上安定に存在している。一方、電圧印加によって第1の電極20の先端から電極素材(白金)が微粒子となって液体80中に散らばっていき、この白金微粒子が微小気泡の表面(気液界面)に集まっていく。白金微粒子が微小気泡の気液界面に集まっていくメカニズムは明確には判明していないが、微小気泡の表面は帯電しているために安定して存在し続けることができると考えられるため、その電気的な作用によって白金微粒子が引き寄せられたり、気液界面に白金微粒子がたまたま来た場合に表面張力が下がって系として安定になるためと推定される。一つの微小気泡の表面全体が白金微粒子によって全て覆われて、隣接する白金微粒子同士が相互作用を及ぼして互いにくっつき合い、中空微粒子が形成されるのには数時間から数日という時間がかかる。ここでは白金が中空微粒子の外殻部分の構成材料であり、外殻部の内側は中空な中心部分である。
【0044】
白金以外の微粒子を予め液体80中に入れておくことにより、中空微粒子の外殻部分としてもよい。外殻部分となる物質はナノバブルよりも小さいことが好ましい。具体的には100nmよりも小さいことが好ましい。
【0045】
本実施形態の中空微粒子製造装置1および中空微粒子の製造方法は、容器10に入った液体80中に2つの電極20,30を入れて交流電圧またはパルス状電圧を印加するという簡単な装置および方法であるので、中空微粒子製造装置1を低コストで作製できるとともに中空微粒子を製造したい場所や広さなどによって装置構成を比較的自由に設計できる。また、種々の液体において気泡径を電源の周波数あるいはパルス幅によってコントロールでき、しかも径のばらつきは小さくできるので、種々の用途に応用できる。特に径が小さいナノカプセルを簡単な方法で均一径で形成することは従来は困難であったが、本実施形態の中空微粒子製造装置および中空微粒子製造方法を用いれば容易に均一径のナノカプセルを低コストで形成させることができる。これにより、医薬などの医療分野や触媒等の化学反応への応用を広く行うことができる。
【0046】
さらに電源電圧、電流の調整を行うことで、プラズマで生成した化学種を中空微粒子の中に閉じ込めることが可能と考えられる。即ち、第1の電極20にプラズマを発生させて、気泡も同時に発生させれば、プラズマにより発生した化学的活性種を気泡中に閉じ込められると考えられ、それがそのまま中空微粒子の中に入ると考えられるからである。特許文献7、8には液体中の気泡にプラズマを発生させる装置が開示されているが、これらは超音波などを利用した従来の気泡発生装置を用いて気泡を発生させ、そこへマイクロ波を照射してプラズマを発生させるものであり、気泡径を任意の大きさにして均一に揃えることは現状では実現されていない。なお、気泡中にプラズマが発生すると、ラジカルなどが気泡の中に閉じ込められ、より高いエネルギー状態を保つ。さらに中空微粒子が圧壊する際に大きなエネルギーが発生し、さらに高エネルギーのプラズマが発生すれば、この高エネルギープラズマを種々の用途に利用できる。
【0047】
−実施例−
<実施例1>
図1に示す装置と同様の装置を用い、水に微細な気泡を発生させ中空微粒子を形成した。
【0048】
具体的には、まず、ガラス製の円筒形の容器に約100mlほど超純水を入れた。超純粋は、生成させた後に50nmのフィルターで濾過をし大気開放下で放置したものを用いた。第1および第2の電極として磁性管被覆した白金線を用い、それらを容器の中に入れた。磁性管と白金線との間のすき間はシリコーンを充填して塞いだ。白金線は直径0.3mmのものを用いた。磁性管にはアルミナを用いた。第1の電極は直線状で、先端のみ磁性管およびシリコーンの被覆を除去しており、第2の電極は円形にして、容器の底に設置した。なお、第2の電極の容器内に入っている部分は全て絶縁被覆されており、第1の電極の先端は、白金線が数十μmから数百μm突出している。第1の電極と第2の電極とは接触しないように設置した。容器にはシリコーン製の蓋をした。
【0049】
第2の電極と第1の電極を電源に接続した。第2の電極の接続側は接地しておいた。この電源からパルス状電圧(10kHz、最大−5.5kV、最小−2.5kVの矩形波)を印加した。電源はファンクションジェネレータ(NF Corporation製、WF1943B)と高電圧アンプ(Treck製)とを組み合わせたものであり、矩形波の信号をファンクションジェネレータで発生させて昇電速度が1000V/μsの高電圧アンプにより電圧を増幅させた。電圧の計測は、高電圧アンプの電圧モニタ端子からの信号をデジタルオシロスコープ(Lecroy製、WR62Xi)に入力させて行った。
【0050】
このときの電流を電流プローブ(Lecroy製、AP015)により計測したところ、電圧が−5.5kVから−2.5kVに変わる際、および−2.5kVから−5.5kVに変わる際に数十mA流れている以外に、1パルスの間に1から数十回程度不規則に10ns〜100ns程度の時間に100mAから300mAのパルス電流が流れていたことが観察された。
【0051】
電圧を印加した直後から第1の電極先端から微細な発光が観察され、プラズマが生成していることが確認された。気泡の吹き出しは目視では明確には確認できなかった。電圧を20分間連続して印加し続けたところ水温が2K上昇した。
【0052】
第1の電極先端の発光をデジタルマイクロスコープ(Keyence製、VX-9700)に焦点距離80mmの長焦点レンズ(Keyence製、VH-500R)を装着して第1の電極に対して水平方向から、露出3秒、倍率100倍で撮影した。その撮影した光の波長解析をした結果、656nmの水素原子由来の光と、282nm〜309nmのOH分子由来の光の存在を確認し、水素原子とOH分子とが熱分解により生成していることおよび後述の微小気泡中には水素が含まれていて微小気泡の表面にはOHが存していることが推察された。
【0053】
電圧印加を終了した後、容器から電極を取り出して蓋をし、超純水を25℃で保管した。この超純水から保管直後および保管後1日毎に3日までシリンジで1mlを採取し、スライドガラス上に直径数mmの水滴となるように滴下してデジタルマイクロスコープ(Keyence製、VX-9700)に焦点距離4.4mm、5000倍までの拡大が可能な高深度高倍率レンズ(Keyence製、VH-Z500R)を装着して拡大観察を行った。
【0054】
保管直後から保管後3日まで、スライドグラス上の水滴の縁に沿って多数のナノバブルが観察された。このナノバブルはブラウン運動をしていることが観察され、粒径既知のポリマー微粒子(100,200,500nm)を超純水に拡散させて拡大観察した画像と比較することにより、ナノバブルの径は100〜200nm程度であると推察された。さらにこのナノバブルを、動的光散乱式粒径分布装置(Sympatec製、NANOFOX、及び大塚電子製、DLS-6500)を用いて測定したところ、図4に示す結果が得られた(計測範囲1nm〜1μm)。この測定結果より、数十nmから数百nm(平均径130nm)のナノバブルが多数発生し、3日経過しても安定して残っていることが判明した。このナノバブルの大部分は径が50〜500nm程度であって、本実施例では径がほぼ均一の多数のナノバブルを得ることができた。一方、パルス状電圧を印加しなかった超純水を同様に観察したところ、ナノバブルは観察されなかった。
【0055】
従来のナノバブルの形成方法は、一旦マイクロバブル(径が1μmより大きい気泡)を形成させて、それが潰れることによりナノバブルを生成させる方法であるが、この方法ではナノバブルの径を制御することが困難であり、径の大きさも非常に大きくばらついてしまう。本実施例では、パルス状電圧を印加しているときにはバブルの発生が目視されておらず、従ってマイクロバブルの発生はない。即ち、本実施例でははじめからナノバブルが発生していると考えられる。
【0056】
次に、電圧印加処理を行った超純水をスライドガラス上に滴下し、乾燥させ、その水滴の外縁部分をTEM、SE−FEM、およびレーザー顕微鏡で観察した。保管3日後の超純水では、白金の外殻部を備えたナノバブル=中空微粒子が観察された。また、電圧印加処理を行った超純水の3つのサンプルをICP-MSにより白金濃度を測定したところ、10から12ppbwtの白金が検出された。従来から水中プラズマによって発生する白金微粒子の大きさは数nm程度であることが知られており、白金の外殻部を備えた中空微粒子は、50〜500nmの径のナノバブルの気液界面に数nm程度の白金微粒子が集合して出来上がったものと考えられる。白金微粒子がナノバブルの気液界面に集合してくると気液界面の面積が減少するため自由エネルギーが減少して表面張力が小さくなり、ナノバブルがより安定して存在できるようになる。このような理由から白金粒子はナノバブルの気液界面に集合してくるものと考えられる。なお、白金微粒子は第1の電極先端からナノバブルとともに生成されたものと考えられる。
【0057】
白金が外殻部分をなす中空微粒子は、電圧印加処理直後の超純水にはほとんど検出できないので、白金による中空微粒子の形成は数十時間程度の時間が必要であると考えられる。
【0058】
<実施例2>
実施例2は、パルス状電圧の電圧条件を、10kHz、最大−3.5kV、最小−0.5kVの矩形波に変更した以外は、実施例1と同様にして超純水にパルス状電圧を印加した。
【0059】
本実施例ではパルス電流の発生が見られず、気泡の発生や第1の電極先端の発光も観察されなかった。このパルス状電圧印加を行った超純水をデジタルマイクロスコープによって拡大観察したところ、径が100nm以上のナノバブルが観察はされたが、実施例1に比較するとその量はかなり少なかった。白金濃度もICP-MSでの観察結果では0.13ppbwt以下であり、白金が外殻部分をなす中空微粒子は形成されるが、実施例1に比べればその量は1/100ぐらいである。しかしながら、パルス状電圧を印加しなかった超純水には、ナノバブルが見当たらず、白金も0.03ppbwt以下しか含まれていないので、この超純水に比較すれば、本実施例でもナノバブルが発生して白金からなる中空微粒子が形成されているといえる。
【0060】
さらに電圧条件を変えてパルス電流が1Aを越えるようにしてみると、電圧の1パルスの間に数十回以上のパルス電流が流れるようになって、目視できる大きな気泡が発生した。この大きな気泡は潰れたり、表面から大気中に消えてゆき、10分ほど静置すると目視できなくなってしまったが、ナノバブルは水中に存在しており、その径は実施例1よりも幅広く分布していた。
【0061】
(実施形態2)
実施形態2に係る中空微粒子製造装置は、図5に示すように、液体80の中に第1の電極20を入れて、その第1の電極20に電源40を接続している点は実施形態1と同じであるが、第2の電極35が実施形態1とは異なっているので、実施形態1と異なっている点を以下に説明する。
【0062】
本実施形態では容器11と第2の電極35とが一体化している。即ち、容器11の側壁面および底面が第2の電極35によって構成されており、液体80と接触する容器11内面においては第2の電極35は絶縁被覆されている。なお、第2の電極35の導電性部材および絶縁被覆については実施形態1と同じである。この第2の電極35は電源40に接続されており、これら両者を接続する線は接地されている。
【0063】
本実施形態の中空微粒子製造装置2によっても実施形態1と同様に、容器11中の液体80に微細な気泡が発生しその後中空微粒子が形成される。本実施形態では、第2の電極35と一体となった容器11を準備しておきさえすれば実施形態1よりも第1の電極20の位置調節が容易である。それ以外の効果は実施形態1と同じである。
【0064】
(その他の実施形態)
上記の実施形態および実施例は本発明の例であり、本発明はこれらの例に限定されない。第1の電極の形状は線状以外の板状や球形等の立体形状であっても構わない。液体が水の場合は超純水に限定されず、イオン交換水や精製水、蒸留水、水道水などでもよく、また、液体は水だけではなく、電気分解される物質が含まれている液体やプラズマによって気体が発生する液体なども本発明に用いることができる。例えばエタノールなどのアルコールを液体として用いると水の場合と同様にナノバブルが発生し、中空微粒子が形成されると考えられる。
【0065】
印加させる電圧はパルス状電圧に限定されず、交流電圧であってもよい。
【0066】
第1の電極の液体に浸漬している部分には、複数箇所の導電体露出部が存していても構わない。それらの導電体露出部に電流集中が生じ、それらの部分から気泡が発生する。また、第1の電極を剣山のような形状とし、複数の針形状の先端を導電体露出部としてもよい。
【0067】
第2の電極は液体を入れる容器の壁部全体ではなく一部としてもよい。例えば、容器の底面に絶縁被覆電極を敷いたり、容器の側壁に電極を埋め込み、液体とは絶縁被膜と隔てるような構成としたりしてもよい。
【0068】
さらに液体に、中空微粒子の外殻部分となる物質を予め入れておいてもよい。例えば、抗ガン剤などの薬剤を水に溶解あるいは混合・分散させておけば、ナノバブルを発生させた後にナノバブルの気液界面にその薬剤が集合して薬剤成分が外殻部分となっている中空微粒子が形成される。このように径の大きさが揃っていて、径が小さい薬剤粒子は体中の様々な場所に運ばれていくことが可能であり、径の大きさや薬剤の構造・構成の設計を工夫することにより、所定の患部に効率よく薬剤を届けることができる。径の大きさは電圧条件を調節することによりコントロールできる。
【0069】
液体中に溶解あるいは混合させておく中空微粒子の外殻部分となる物質は、電離して帯電していたり分子内で分極していることが好ましい。交流電圧またはパルス状電圧が印加されることにより発生するナノバブルの気液界面は通常帯電していると考えられ、そのため中空微粒子の外殻部分となる物質が帯電していたり分極していると気液界面に集まって行きやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明したように、本発明に係る中空微粒子の製造方法は、中空微粒子を液体中に容易に製造できて、医薬分野や化学分野等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施形態1の中空微粒子製造装置の模式図である。
【図2】電極の模式的な断面図である。
【図3】パルス状電圧を示す模式的な図である。
【図4】実施例1におけるナノバブルの径の分布図である。
【図5】実施形態2の中空微粒子製造装置の模式図である。
【符号の説明】
【0072】
1 中空微粒子製造装置
10 容器
20 第1の電極
30 第2の電極
40 電源
80 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻部分と中空な中心部分とからなる中空微粒子を液体中において製造する中空微粒子の製造方法であって、
液体中において電極間に交流電圧またはパルス状電圧を印加し、電気分解、熱分解及び相転移の少なくとも一つによって径が1nm以上1μm以下の気泡を発生させる工程Aと、
気泡の気液界面に前記外殻部分を構成する材料を集合させて該外殻部分を形成する工程Bと
を含む、中空微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記液体は水である、請求項1に記載されている中空微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記工程Aでは前記交流電圧の半周期に1回以上あるいは前記パルス状電圧の1パルスに1回以上パルス電流を発生させており、該パルス電流のパルス高さは1A以下である、請求項1に記載されている中空微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記工程Bにおける前記気泡は前記工程Aにおいて電気分解によって発生して未分裂のまま残存した気泡である、請求項1に記載されている中空微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記外殻部分を構成する材料は、径が100nm以下であって前記液体中に分散している粒子である、請求項1に記載されている中空微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記外殻部分を構成する材料は前記液体中に溶解している物質である、請求項1に記載されている中空微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記外殻部分を構成する材料は帯電及び分極の少なくとも一方の状態である物質である、請求項6に記載されている中空微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記工程Aにおいて水酸化イオンを発生させ、該水酸化イオンを前記気泡の気液界面に集合させる、請求項1に記載されている中空微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−184201(P2010−184201A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30227(P2009−30227)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】