説明

中空構造体の製造方法及び中空構造体製造用基板及び中空構造体製造装置

【課題】中空部のピッチ間隔が30μm以下の中空構造体を精密に製造するのに好適な中空部構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の中空構造体の製造方法は、中空構造体製造用基板5を構成する材料の一部にガス透過性材料を用い、高圧条件下であらかじめガス透過性材料に高圧ガスを注入することにより封じ込め、減圧条件下で塑性変形膜10を表面5aに形成すると共にガス透過性材料に封じ込められた高圧ガスの各凹部5bへの放出により凹部5bへの塑性変形材料の浸入を防止しつつ塑性変形膜10を各凹部5b内の高圧ガスにより膨張延伸させて、中空構造体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム形状等の中空構造体の製造方法及び中空構造体製造用基板及び中空構造体製造装置に関し、例えば、異方性を有する光学素子の遮光素子、燃料電池のセパレータ、フィルター等の製造に応用可能であり、また、中空構造体の中空部に機能材料を注入することにより異方性機能部材、例えば、遮光付きマイクロレンズアレイ、異方性導電膜、再生医療用の細胞培養基板への応用が可能である。
【背景技術】
【0002】
従来から、図1に示すように、材料塗布装置21の上部の密閉容器22内に温度制御装置23を設け、表面に凹部24aが多数配列された中空構造体製造用基板24をその温度制御装置23の上部にセットして、材料吐出装置25からハニカム構造体としての中空構造体を形成するための塑性変形材料を中空構造体製造用基板24の表面に吐出させ、材料塗布装置21を回転させて、塑性変形膜26を中空構造体製造用基板24の表面に略均一に形成し、密閉容器22内のガス圧力を減圧させて、塑性変形膜26を各凹部に貯留されたガスの圧力により膨張延伸させて、多数の中空部を有する中空構造体の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、ハニカム構造体とは、ここでは、六角形状の穴の形状を有するもののみならず、四角形、五角形状のものを含み、形状にかかわらず、複数の中空部を有するシート状体を総称していう。
【特許文献1】特開2007−98930号公報(第(15)頁、図7、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示のものでは、中空部の中心から中空部の中心までのピッチ間隔が35μmの中空構造体が得られている。ところが、中空部の中心から中空部の中心までのピッチ間隔が30μm以下になると、この製造方法では製造が困難である。その理由を以下に説明する。
【0005】
中空構造体製造用基板24の表面に塑性変形膜26を形成した時点をt=t0とすると(図2参照)、時間t=t1が経過すると、凹部24aによって定義されかつガス圧P1のガスを有するガス貯留空間が消滅し(図3参照)、減圧条件のガス圧P0のもとでガスを膨張させることができないからである。
【0006】
Yung-Laplaceの式によれば、一般に気泡の圧力は気泡を囲む物質の表面張力に比例し、気泡の半径に反比例する。例えば、水中の気泡の場合、直径が100μmのとき、気泡の圧力と外圧との圧力差は3kPa程度である。ここで、直径を10μmと小さくすると、気泡の圧力と外圧との差は30kPa程度となる。気泡の圧力が高くなると、水に対するガスの溶解度が増し、水にガスが溶け込む。すると、気泡の大きさは小さくなり、これに伴ってより一層高圧となり、ガスが水に溶解する。気泡の大きさが小さくなるほど、加速度的に早さが増し、最終的には気泡が消滅する。
【0007】
これと、同様の現象が塑性変形膜26にも起こっていると考えられる。この場合は、ピッチ間隔が狭くなると、塑性変形材料の表面張力により、ガス貯留空間の圧力が増し、ガス貯留空間のガスが塑性変形膜26を形成する塑性材料や中空構造体製造用基板24がガス透過性材料の場合はそのガス透過性材料に溶解し、そのガスが低圧P0の大気中に放出される。最終的に、ガス貯留空間が時間ととも塑性変形材料によって埋め尽くされる。
【0008】
その結果、ピッチ間隔が30μm以下の中空部を有する中空部構造体を精密に形成できないという不都合がある。
【0009】
本発明は、中空部のピッチ間隔が30μm以下の中空部構造体を精密に製造するのに好適な中空部構造体の製造方法及び中空構造体製造用基板及び中空構造体製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の中空構造体の製造方法には、塑性変形材料を用いて塑性変形膜が形成される表面と該表面に向かって開口しかつガスの放出により前記塑性変形膜を膨張延伸させて複数個の中空部を形成するためのガスを貯留する各凹部とを有する中空構造体製造用型基板を用いて、複数個の中空部が配列された中空構造体を製造する中空構造体の製造方法であって、
前記中空構造体製造用基板を構成する材料の一部にガス透過性材料を用い、高圧条件下であらかじめ前記ガス透過性材料に高圧ガスを注入することにより封じ込め、減圧条件下で前記塑性変形膜を前記表面に形成すると共に前記ガス透過性材料に封じ込められた高圧ガスの前記各凹部への放出により該凹部への前記塑性変形材料の浸入を防止しつつ前記塑性変形膜を前記各凹部内の高圧ガスにより膨張延伸させて、前記中空構造体を製造することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の中空構造体の製造方法は、前記表面以外から前記ガス透過性材料に前記高圧ガスを注入することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の中空構造体の製造方法は、前記塑性変形材料の表面張力をσ、前記各凹部の平均半径をr、塑性変形材料の引っ張り強度をσb、前記各凹部間の凹部間距離をLとすると、高圧ガスのガス圧と減圧条件下でのガス圧との圧力差ΔPが、
(2×σ/r)<ΔP<2×σb・L/rの条件式を満足することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の中空構造体の製造方法は、前記表面とは反対側の裏面側から前記ガス透過性材料に前記高圧ガスを注入することを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の中空構造体の製造方法は、前記ガス透過性材料が高分子材料からなることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の中空構造体の製造方法は、前記高分子材料がポリジメチルシロキサンであることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の中空構造体製造用基板は、塑性変形材料を用いて塑性変形膜が形成される表面と該表面に向かって開口しかつガスの放出により前記塑性変形膜を膨張延伸させて複数個の中空部を形成するためのガスを貯留する各凹部とを有するものにおいて、塑性変形材料を用いて塑性変形膜が形成される表面と該表面と裏面側に向かって開口されかつガスの放出により前記塑性変形膜を膨張延伸させて複数個の中空部を形成するためのガスを貯留する各凹部を構成するための無機材料体と、前記無機材料体の裏面側に設けられかつ高圧ガスが注入されるガス透過性材料とを含むことを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の中空構造体製造用基板は、前記ガス透過性材料には、前記無機材料体が設けられている面とは反対側の面に、該ガス透過性材料よりも剛性が高い材料から形成されかつ前記ガス透過性材料に通じる貫通孔を有する支持体が設けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の中空構造体製造装置は、請求項8に記載の中空構造体製造用基板を境にして前記各凹部が臨む上部空間と前記支持体が臨む下部空間とに画成された密閉容器と、前記上部空間に連通されて該上部空間のガス圧を加圧・減圧するポンプと、前記上部空間に連通されて該上部空間のガスを排出する排出弁と、前記下部空間に連通されて該下部空間のガス圧を加圧・減圧するポンプと、前記下部空間に連通されて該下部空間のガスを排出する排出弁とを含むことを特徴とする。
【0019】
請求項10に記載の中空構造体製造方法は、請求項9に記載の中空構造体製造装置を用いて、前記塑性変形材料の膨張延伸時に少なくとも前記上部空間のガス圧力を制御することにより、前記中空構造体の高さを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、中空構造体製造用基板を構成する材料の一部にガス透過性材料を用い、高圧条件下であらかじめガス透過性材料に高圧ガスを注入することにより封じ込め、減圧条件下で塑性変形膜を表面に形成すると共にガス透過性材料に封じ込められた高圧ガスの各凹部への放出により凹部への塑性変形材料の浸入を防止しつつ塑性変形膜を各凹部内の高圧ガスにより膨張延伸させるので、中空部のピッチ間隔が30μm以下の中空部構造体を精密に製造できるという効果を奏する。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、中空構造体製造用基板の表面への塑性変形膜の形成と同時に中空構造体製造用基板の一部を構成するガス透過性材料へのガスの注入とを同時に行うことができるので、製造時間の短縮を図ることができるという効果を奏し、ひいては、中空構造体の寸法精度の向上を図ることができる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、塑性変形膜を構成する塑性変形材料の膨張延伸時に、塑性変形材料が破壊されることなく、中空部構造体を製造できるという効果を奏する。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、各凹部から塑性変形膜に向けて放出されるガスの圧力変動を低減することができるので、中空構造体の寸法精度の向上をより一層図ることができる。また、中空構造体の製造時間の短縮も図ることができるという効果を奏する。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、ガス透過性材料を高分子材料を用いて形成したので、構造的に安定しており、ガス透過性係数のばらつきが小さく、各凹部内から均一な圧力のガスを放出させることができるという効果を奏する。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、高分子材料としてポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いたので、ガス透過性材料へのガス浸透時間の短縮を図ることができ、ひいては中空構造体の製造時間の短縮化を図ることができ、低価格の中空構造体を提供できるという効果を奏する。
【0026】
請求項7に記載の発明によれば、各凹部を形成する材料とガス透過性材料とに別のものを用いたので、請求項1の効果に加えて、凹部を形成する材料の選択の自由度が増し、例えば、パターン加工が容易な材料選択や表面処理が容易な材料を選択できるという効果を奏する。
【0027】
請求項8に記載の発明によれば、ガス透過性材料を剛性の高い支持体で補強したので、ガス透過性材料の変形を防止できるという効果を奏する。
【0028】
請求項9に記載の発明によれば、各凹部を有する表面とは反対側の面からガスをガス透過性材料に注入しつつ各表面に塑性変形膜を形成できるので、請求項2、請求項3に記載の発明と同様に製造時間の短縮を図ることができるという効果を奏する。
【0029】
請求項10に記載の発明によれば、塑性変形膜の膨張延伸時に密閉容器内の圧力を調節するので、中空構造体の寸法を制御できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明に係わる中空構造体の製造方法及び中空構造体製造用基板及び中空構造体製造装置の発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0031】
(中空構造体1の構造)
図4は本発明に係わる中空構造体の製造方法によって製造されるべき中空構造体1としてのハニカム構造体である。この中空構造体1は、ここでは、中空部1aと中空部1aとのピッチ間隔mが10μm、高さhが15μm、半径rが平均約5μm、隔壁xの厚さが2μm、凹部形成領域の縦横幅が5mm×5mmである。塑性変形膜を形成する塑性変形材料には、30%に希釈したゼラチン水溶液が用いられる。なお、本発明に係わる製造法は、ピッチmが1〜100μm、高さhが1〜300μmの範囲内の中空構造体を適宜製造可能である。
(実施例1)
図5は本発明に係わる中空構造体製造装置の一例を示す概要図である。この図5において、3は材料塗布装置である。材料塗布装置3の上部には密閉容器4が設けられる。密閉容器4内には中空構造体製造用基板5が配設される。密閉容器4の上部には塑性変形材料を吐出する材料吐出装置6が設けられている。その密閉容器4には加圧・減圧ポンプ7と排出弁8とが接続されている。加圧・減圧ポンプ7と密閉容器4との間には圧力調整弁9が設けられている。
【0032】
中空構造体製造用基板5はその表面5aの側に、中空部1aを形成するためのガスを貯留する各凹部5bを有する。中空構造体製造用基板5はここではガス透過性材料が用いられている。このガス透過性材料には撥水性の高いシリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン(PDS))等の高分子材料から構成されている。そのガス透過係数は例えば約3×10-11(cm3・cm/(cm2・s・Pa))である。そのガスの浸透時間は、圧力差を0.4MPa、厚さを0.1cm、面積を1cm2、透過ガス量を0.0015cm3として算出すると、約1.2秒である。なお、場合によっては、ガス透過性材料にPS(ポリスチレン)、PC(ポリカーボネート)等の熱可塑性材料を用いても良い。
【0033】
ガス透過性材料には、内部に空洞を有する無機物質を使用することも可能であるが、ガス透過係数のばらつきが大きいので、ガス透過係数のばらつきの少ない高分子材料を用いるのが、微細な中空部を有する精密形状部品としての中空構造体1を製造するうえで好ましい。
【0034】
次に、中空構造体1の製造方法を説明する。
【0035】
まず、密閉容器4の内部のガス圧の初期値P0が0.1MPaとして、加圧・減圧ポンプ7を制御することにより、図5に示すように、ガス圧P1を0.25MPaの高圧条件にセットする。密閉容器4内のガス圧P1をこの高圧条件下に約10分間維持し、中空構造体製造用基板5にガス圧P1に相当するガス量を浸透させ、中空構造体製造用基板5にガスを封入する。
【0036】
次に、図6に示すように、排出弁8により密閉容器4のガスを外部に放出させ、密閉容器4の内部のガス圧を初期値P0(P0=0.1MPa)に戻し、材料吐出装置6から塑性変形材料を吐出させ、材料塗布装置3を用いて塑性変形膜10を表面5aに形成する。なお、塑性変形材料としてのゼラチン水溶液のゲル化温度は38度C〜45度Cであり、ここでは、ゲル化温度以上の温度である60度Cで材料吐出装置6からゼラチン水溶液を中空構造体製造用基板5の表面5aに吐出させ、かつ、厚さ10μの塑性変形膜10をスピンコート法により形成した。なお、塑性変形膜10の形成は、スピンコート法によらず、スリットコート法、ダイコート法、カーテンコート法、シャボン膜法等の方法を用いても良い。
【0037】
その塑性変形膜10の形成と略同時に図7に拡大して示すように中空構造体製造用基板5に封入されていたガス圧P1を有するガスが各凹部5bのガス貯留空間に放出され、図8に示すように、塑性変形膜10が膨張延伸される。また、中空構造体製造用基板5に封入されていたガスの量が時間の経過と共に減少するため、中空構造体製造用基板5の封入ガス圧も減少し、中空部1aを有する中空構造体1が形成される。なお、凹部5bと凹部5bとの間の表面5aと塑性変形膜10との間には、ゼラチン水溶液の液体が介在するので、この凹部5bと凹部5bとの間の表面5aからは、中空構造体製造用基板5に封入されているガスが放出されないという物理的性質がある。
【0038】
次に、密閉容器4の内部を低湿度雰囲気下にセットして、中空構造体1を乾燥させる。ここでは、密閉容器4の内部温度を24度C、湿度45wt%の条件下で約5分間乾燥させる。中空構造体1の乾燥を促進させるには、高温・低湿度に密閉容器4の内部を設定するのが望ましく、加熱手段(図示を略す)として、マイクロ波加熱手段を用いることにより、より一層乾燥速度を速めることができ、これにより、乾燥時間を20秒以下とすることができる。
【0039】
次に、中空構造体製造用基板5から中空構造体1を手により剥離する。中空構造体製造用基板5にはガス透過性材料として撥水性の高いシリコーンゴムをここでは用いているので、剥離は容易である。
【0040】
ここで、Yung−Laplaceの方程式によれば、図9に示すように、凹部5b内のガス貯留空間の圧力P1、塑性変形膜10を形成する塑性変形材料の表面張力をσ、rをガス貯留空間の気泡(球形と仮定)の平均半径、塑性変形材料の圧力(密閉容器4の内部圧力と同じ)をP0とすると、
ΔP=P1−P0=2σ/r
σに水の表面張力である数値0.073(N/m)、rに半径5μmを代入すると、ΔPは約0.03MPaである。従って、P0を0.1MPaとすると、中空構造体製造用基板5に封じ込めるガスの圧力P1は0.13MPa以上とする必要がある。
【0041】
次に、密閉容器4内のガス圧P1を0.13MPaから随時複数のガス圧条件下で同様に図5に示す中空構造体製造装置を用いて中空構造体1を試作した。その結果、ガス圧P1が0.13MPa以上0.4MPa以下のときに、中空構造体1の中空部1aが破壊されることなく形成できた。ガス圧P1が0.13MPa未満では、中空部1aが不揃いであるか形成されず、ガス圧P1が0.4MPaを超えると、中空部1aの一部が破壊された中空構造体1が見られた。ガス圧P1が0.25MPaのときに、中空部1aの大きさが揃った良好な中空構造体1が得られた。
【0042】
図10に拡大して示すように、塑性変形膜10を形成する塑性変形材料の膨張延伸直後の引っ張り応力をσa、圧力差ΔP、凹部5bの平均半径をr、凹部5bと凹部5bとの間の表面5aの間隔(凹部間距離)の半分をLとすると、引っ張り応力σaは、
σa=ΔP・r/2L
ここでは、凹部5bの直径dを10μm、凹部5bと凹部5bとのピッチm=10μmとすると、L=2.5μmであり、例えば、圧力差ΔPを0.15Ma、0.3MPa、0.5MPaとすると、それぞれ、引っ張り応力σaは、
σa(0.15Ma時)=75KPa、σa(0.3MPa時)=150KPa、
σa(0.5MPa時)=250KPaであり、塑性変形材料である希釈時30%水溶液の引っ張り強度σbはおよそ150KPaである。この引っ張り強度σbはゼラチン水溶液を構成する水分子の蒸発により、時々刻々と変化するため、正確な数値を求めることは困難である。また、この引っ張り強度σbはゼラチン水溶液の希釈濃度が高いほど大きくなる。
【0043】
圧力差ΔPが0.15MPaないし0.4MPaの間では、引っ張り応力σaが引っ張り強度σbよりも小さいので、破壊されることなく、中空部1aを有する中空部構造体1を形成可能であると考えられる。0.4MPa以上では、引っ張り応力σaが引っ張り強度σbよりも大きいので、塑性変形材料が破壊されるため、中空部1aを有する中空部構造体1が形成されないと考えられる。
【0044】
従って、圧力差ΔPは、(2Lσa/r)<(2Lσb/r)で表現される範囲内になければならないと考えられる。
【0045】
この実施例1の中空構造体1の製造方法を概略まとめると、中空構造体製造用基板5への加圧ガスの注入、塑性変形材料を中空構造体製造用基板5の表面5aへの塗布による塑性変形膜の形成、塑性変形膜10の形成と略同時の発砲、乾燥、剥離の工程順となる。
(実施例2)
この実施例2では、中空構造体製造用基板5が、図11に示すように、無機材料体5cとガス透過性材料5dとから構成されている。無機材料体5cは塑性変形材料を用いて塑性変形膜10が形成される表面5eと、この表面5e及び反対側の裏面5fの側に向かって開口されかつガスの放出により塑性変形膜10を膨張延伸させて複数個の中空部1aを形成するためのガスを貯留する各凹部5bを構成する貫通孔5gを有する。この無機材料体5cは、ここでは、銅箔(金属)が用いられている。ガス透過性材料(ここでは、シリコーンゴム)5dは、その無機材料体5cの裏面5fの側に設けられている。
【0046】
この中空構造体製造用基板5は、銅箔に未硬化シリコーンを塗布し、その後、未硬化シリコーンを硬化させることにより接合形成する。その後、銅箔に各凹部5bに対応する六角形状の貫通孔5gのパターンを形成し、エッチング処理により、貫通孔5gを形成する。これにより、簡単に中空構造体製造用基板5の凹部5bを形成できる。
【0047】
シリコーンゴムに多数の凹凸を形成する場合には、凹凸形状を有する金型を用いて転写する必要があるが、金型形状の各凹部内のオーバハング等やシリコーンゴムと金型材料との親和性が大きい場合には、シリコーンゴムを金型から剥離させる際に、シリコーンゴムが破損されて、転写不良を起こす危険性があるが、この実施例2による場合、そのような危険性を回避できる。
【0048】
また、中空構造体製造用基板5の表面5aや凹部5bに表面処理を行う場合、化学的に安定した界面を有するシリコーンゴムでは、表面処理に困難を要するが、これに対して無機材料体5cは表面処理が容易である。特に、塑性変形材料の膨張延伸時に中空構造体製造用基板5の表面5aに対する密着力が不足すると、塑性変形材料がその膨張延伸時に表面5aから剥離するおそれがある。その一方、塑性変形材料の表面5aの密着力が大きすぎると、中空構造体1を中空構造体製造用基板5から剥離させる際に、中空構造体1が破壊されるおそれがある。シリコーンゴム単体では、このような密着力の調整が困難であるが、中空構造体製造用基板5を無機材料体5cとガス透過性材料5dとの複合構成とすることにより、密着力の調整の容易化を図ることができる。
(実施例3)
実施例1に係わる中空構造体の製造方法では、中空構造体製造用基板5を密閉容器4内にセットし、密閉容器4内を高圧ガス条件下のもとで、中空構造体製造用基板5に高圧ガスを浸透させ、その後、密閉容器4内を減圧条件下のもとで中空構造体製造用基板5の表面に塑性変形材料を塗布して発泡させ、塑性変形材料を膨張延伸させて、中空構造体1を製造する工程を経ているので、密閉容器4内の減圧に多少の時間を要し、中空構造体製造用基板5の内部に注入されているガスの圧力が低下する。
【0049】
この実施例3では、この中空構造体製造用基板5の内部に注入されているガスの圧力低下の防止と中空構造体製造効率の向上とを図ることのできる中空構造体製造用基板5を提供するものである。
【0050】
中空構造体製造用基板5は、ここでは、図12(a)、(b)に示すように、無機材料体5cとガス透過性材料5dと支持体5hとから構成されている。無機材料体5c、ガス透過性材料5dの構成は実施例2と同一であるので、その詳細な説明を省略する。支持体5hは無機材料体5cとは反対側のガス透過性材料5d側の面に設けられている。その支持体5hはガス透過性材料5dよりも剛性が高い材料から形成されかつガス透過性材料5dに通じる貫通孔5jを有する。この貫通孔5jはガス透過性材料5dにガスを供給する役割を有する。その支持体5hは、例えば厚さ5mmの鉄板をプレス手段によって開口径5mmの穴を穿孔することによって得られる。支持体5hをガス透過性材料5dに設けた理由は、後述する圧力差ΔP’に基づくガス透過性材料5dの変形、破損を防止するためである。
【0051】
次に、図13に示すように、この中空構造体製造用基板5は、例えば、支持体5hの表面に未硬化のシリコーンゴムを塗布し、そのシリコーンゴムに銅箔を載置し、その後、未硬化シリコーンを硬化させることにより接合形成する。
【0052】
中空構造体製造用基板5の側面を密閉容器4に密着させるようにして、密閉容器4内にこの中空構造体製造用基板5をセットする。これにより、密閉容器4の内部を中空構造体製造用基板5を境にして各凹部5bが臨む上部空間4aと支持体5hが臨む下部空間4bとに画成する。密閉容器4の上部空間4aは上部空間4aのガス圧を加圧・減圧するポンプ11と上部空間4aのガスを排出する排出弁12とに連通されている。そのポンプ11と密閉容器4との間には圧力調整弁13が設けられている。
【0053】
密閉容器4の下部空間4bは下部空間4bのガス圧を加圧するポンプ14と、下部空間4bのガスを排出する排出弁15とに連通されている。そのポンプ14と密閉容器4との間には圧力調整弁16が設けられている。
【0054】
この実施例3では、下部空間4bの側から高圧ガス(ガス圧0.25MPa)をガス透過性材料5dに注入する。上部空間4aのガス圧は高圧ガスのガス圧力よりも低ければ良いが、塑性変形材料を中空構造体製造用基板5の無機材料体5cへの塗布作業性の観点から大気圧条件下に設定する。
【0055】
ガス透過性材料5dへの高圧ガスの注入時間は、適宜設定すれば良いが、ここでは、図14に示すように、高圧ガスの下部空間4bへの注入開始後約10分後に、塑性変形材料を無機材料体5cの表面5eへ塗布して塑性変形膜10を形成する。この塑性変形膜10の形成と略同時に各凹部5bから高圧ガスが放出され、発泡が開始される。これにより、塑性変形材料が延伸膨張される。ついで、実施例1と同様に低湿度、低温度の雰囲気のもとで、塑性変形材料を乾燥させる。ここでは、温度24度C、湿度45wt%の雰囲気条件下で、約5分間乾燥させた。これにより、中空構造体1が製造される。
【0056】
中空構造体1の高さ(厚さ)を制御する場合には、塑性変形材料の発砲開始直前から、上部空間4aのガス圧を調整する。上部空間4aのガス圧と下部空間4bとのガス圧の圧力差を大きくすると、塑性変形材料の各凹部への浸入がより一層阻止される。塑性変形材料の発泡後は、上部空間4aのガス圧力を高圧にしても、塑性変形材料の各凹部への浸入は生じない。その一方、上部空間4aの圧力を高圧に制御することにより、発泡速度が制御され、中空構造体1の高さ(厚さ)が制御される。なお、乾燥時間の短縮化を図るには、密閉容器4の内部をより一層低湿度、高温条件下に設定するのが望ましい。
【0057】
図15はこのようにして製造された中空構造体1の写真を示している。中空構造体1の中空部1aの中心から中空部1aの中心までの中心間距離(ピッチm)は約10μm、中空部1aと中空部1aとを仕切る隔壁の厚さxは0.2μm、高さhは約15μmであった。
【0058】
なお、これらの実施例では、塑性変形材料として、水溶性材料を用いて説明したが、これに限られるものではなく、塑性変形材料として、UV硬化樹脂、熱可塑性樹脂等を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】従来の中空構造体製造装置の一例を示す概要図である。
【図2】中空構造体製造用基板の表面に塑性変形膜を形成した直後の状態を示す部分断面図である。
【図3】図2に示す各凹部内の気泡が消失する状態を示す部分断面図である。
【図4】実施例1に係わる中空構造体製造装置によって製造されるべき中空構造体の一例を示す断面図である。
【図5】実施例1に係わる中空構造体製造装置の概要を示す説明図である。
【図6】実施例1に係わる中空構造体製造装置の中空構造体製造用基板に塑性変形膜を形成した状態を示す説明図である。
【図7】実施例1に係わる中空構造体製造用基板の発泡過程を示す部分拡大図である。
【図8】塑性変形膜が膨張延伸された状態を示す部分拡大図である。
【図9】Yung−Laplaceの方程式を説明するための説明図である。
【図10】引っ張り応力と引っ張り強度との関係を説明するための説明図である。
【図11】実施例2に係わる中空構造体製造用基板の断面図である。
【図12】実施例3に係わる中空構造体製造用基板の説明図であって、(a)は一部を破断して示す平面図であり、(b)は断面図である。
【図13】実施例3に係わる中空構造体製造装置の概要を示す図であって、塑性変形膜形成前の状態を示す図である。
【図14】実施例3に係わる中空構造体製造装置の概要を示す図であって、塑性変形膜の膨張延伸時の状態を示す図である。
【図15】実施例3の製造方法によって得られた中空構造体の一例を示す電子顕微鏡写真図である。
【符号の説明】
【0060】
5…中空構造体製造用基板
5a…表面
5b…凹部
10…塑性変形膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塑性変形材料を用いて塑性変形膜が形成される表面と該表面に向かって開口しかつガスの放出により前記塑性変形膜を膨張延伸させて複数個の中空部を形成するためのガスを貯留する各凹部とを有する中空構造体製造用基板を用いて、複数個の中空部が配列された中空構造体を製造する中空構造体の製造方法であって、
前記中空構造体製造用基板を構成する材料の一部にガス透過性材料を用い、高圧条件下であらかじめ前記ガス透過性材料に高圧ガスを注入することにより封じ込め、減圧条件下で前記塑性変形膜を前記表面に形成すると共に前記ガス透過性材料に封じ込められた高圧ガスの前記各凹部への放出により該凹部への前記塑性変形材料の浸入を防止しつつ前記塑性変形膜を前記各凹部内の高圧ガスにより膨張延伸させて、前記中空構造体を製造することを特徴とする中空構造体の製造方法。
【請求項2】
前記表面以外から前記ガス透過性材料に前記高圧ガスを注入することを特徴とする請求項1に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項3】
前記塑性変形材料の表面張力をσ、前記各凹部の平均半径をr、塑性変形材料の引っ張り強度をσb、前記各凹部間の凹部間距離をLとすると、高圧ガスのガス圧と減圧条件下でのガス圧との圧力差ΔPが、
(2×σ/r)<ΔP<2×σb・L/rの条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項4】
前記表面とは反対側の裏面側から前記ガス透過性材料に前記高圧ガスを注入することを特徴とする請求項1に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項5】
前記ガス透過性材料が高分子材料からなることを特徴とする請求項1に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項6】
前記高分子材料がポリジメチルシロキサンであることを特徴とする請求項5に記載の中空構造体の製造方法。
【請求項7】
塑性変形材料を用いて塑性変形膜が形成される表面と該表面に向かって開口しかつガスの放出により前記塑性変形膜を膨張延伸させて複数個の中空部を形成するためのガスを貯留する各凹部とを有する中空構造体製造用基板において、
塑性変形材料を用いて塑性変形膜が形成される表面と該表面及び裏面に向かって開口されかつガスの放出により前記塑性変形膜を膨張延伸させて複数個の中空部を形成するためのガスを貯留する各凹部を構成するための無機材料体と、前記無機材料体の裏面側に設けられかつ高圧ガスが注入されるガス透過性材料とを含むことを特徴とする中空構造体製造用基板。
【請求項8】
前記ガス透過性材料には、前記無機材料体が設けられている面とは反対側の面に、該ガス透過性材料よりも剛性が高い材料から形成されかつ前記ガス透過性材料に通じる貫通孔を有する支持体が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の中空構造体製造用基板。
【請求項9】
請求項8に記載の中空構造体製造用基板を境にして前記各凹部が臨む上部空間と前記支持体が臨む下部空間とに画成された密閉容器と、前記上部空間に連通されて該上部空間のガス圧を加圧・減圧するポンプと、前記上部空間に連通されて該上部空間のガスを排出する排出弁と、前記下部空間に連通されて該下部空間のガス圧を加圧するポンプと、前記下部空間に連通されて該下部空間のガスを排出する排出弁とを含む中空構造体製造装置。
【請求項10】
請求項9に記載の中空構造体製造装置を用いて、前記塑性変形材料の膨張延伸時に少なくとも前記上部空間のガス圧力を制御することにより、前記中空構造体の高さを制御することを特徴とする中空構造体製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−214374(P2009−214374A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59170(P2008−59170)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】