説明

中空糸分離膜の製造方法

【課題】 透水性能が高く、切れにくい中空糸分離膜の製造方法の提供。
【解決手段】 三重管ノズル1を使用する中空糸分離膜の製造方法であって、高温で溶媒に溶解して得られた高温状態のポリマー溶液を中間ノズル3から吐出し、中空部形成剤液を内側ノズル2から吐出し、孔形成剤液を外側ノズル4から吐出することにより紡糸した後、冷却して相分離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の浄化処理等に使用できる中空糸分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜を多孔質化する方法としては、ポロジェン法、非溶媒誘起相分離法等があるが、これらの方法では、均一な多孔質膜を作製することが困難である。これらに代わる方法として、熱誘起相分離法(TIPS法)が知られている。熱誘起相分離法は、高温で溶媒に溶解してポリマー溶液を冷却することで相分離をさせて、多孔質化する方法である。
【0003】
特許文献1には、熱誘起相分離法を利用して、流延することでフィルム状の多孔質膜を得る発明が記載されているが、中空糸膜を得ることについての記載はない。特許文献2、3には、三重管ノズルを使用して中空糸膜を得ることが記載されている。
【特許文献1】特開2003−17074号公報
【特許文献2】特開平2−290229号公報
【特許文献3】特公平7−98136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、透水性能が良く、断線し難いものが得られる中空糸分離膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、三重管ノズルを使用する中空糸分離膜の製造方法であって、
溶媒に溶解して得られた高温状態のポリマー溶液を中間ノズルから吐出し、中空部形成剤液を内側ノズルから吐出し、孔形成剤液を外側ノズルから吐出した後、冷却することにより相分離させる、中空糸分離膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、熱誘起相分離法を利用し、三重管ノズルを使用することにより、透水性能が高く、糸切れしにくい中空糸分離膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の製造方法にて紡糸に使用するポリマー溶液は、膜形成用ポリマーと高沸点溶媒との混合物を、前記高沸点溶媒の沸点未満で、かつバイノーダル温度以上で溶解させて得ることができる。バイノーダル温度とは、膜形成用ポリマーを高沸点溶媒に混合させた場合、高温で融解させた熱力学的に均一な混合物溶液の液相(1相)領域と、セルロース誘導体の濃厚相と希薄相からなる2相領域の境界の温度をいう。
【0008】
膜形成用ポリマーは特に制限されないが、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース等のセルロース誘導体を挙げることができ、これらの共重合体からなるものであってもよい。
【0009】
高沸点溶媒は、沸点が100℃以上のものが好ましく、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(沸点197℃)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(沸点245℃)等を挙げることができる。
【0010】
溶解温度は、溶媒のバイノーダル温度以上で、好ましくはバイノーダル温度から50℃高い温度範囲内、より好ましくはバイノーダル温度から30℃高い温度範囲内である。
【0011】
本発明の製造方法にて紡糸に使用する中空部形成剤液としては、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等を挙げることができる。
【0012】
本発明の製造方法にて紡糸に使用する孔形成剤液としては、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、N−メチル−2−ピロリドン、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0013】
本発明の製造方法では、図1に示すような概略構造の紡糸三重管ノズルを使用する。図1は、三重管ノズル1の縦断面図である。
【0014】
三重管ノズル1は、内側ノズル2、中間ノズル3、外側ノズル4の3つのノズルを有しており、3つのノズルは同心円を形成している。紡糸するときは、高温状態のポリマー溶液を中間ノズル3から吐出し、それと並行して、中空部形成剤液を内側ノズル2から吐出し、孔形成剤液を外側ノズル4から吐出する。このときの巻き取り速度は、約20〜40m/分が好ましい。
【0015】
このようにして三重管ノズルを用いて紡糸した後、好ましくは空気中を通過させた後、水浴又は温水浴中に導いて冷却する。この冷却により、液−液相分離を生じさせ、1相(混合物溶液相)から2相(膜形成ポリマー溶液の濃厚相と希薄相)に相分離させる。
【0016】
冷却は、紡糸直後の温度から、好ましくは50〜200℃低い温度まで、より好ましくは70〜150℃低い温度まで冷却する。
【0017】
その後、水等の他の溶媒を用いた液液抽出、減圧下における常温乃至は加熱乾燥等の方法により、残存する高沸点溶媒を除去して、中空糸分離膜を得る。
【実施例】
【0018】
(1)純水透水性能
有効長50cmの中空糸分離膜に、25℃の純水で0.1MPaの水圧を内側からかけ、単位時間当たりに透過した純水の量を測定し、その透水流束を内表面積基準の膜面積で割って求めた。
【0019】
(2)引張破断点強度、引張伸度
有効長5cmの中空糸分離膜を、引張試験機(EZTest,島津製作所)を用いて、クロスヘッド速度10mm/分で引っ張り、破断点における強度と伸びを測定した。
【0020】
実施例1
酢酸酪酸セルロース30質量%、2−メチル−2,4−ペンタンジオール70質量%の混合物を180℃で加熱溶解させ、ポリマー溶液を得た。このポリマー溶液を三重管ノズルの中間ノズルから吐出させ、並行して、2−メチル−2,4−ペンタンジオールを内側ノズルと外側ノズルから吐出させ、40m/分の巻き取り速度で紡糸した。
【0021】
1秒間空気中を通過させた後、40℃の温水浴中に導いて冷却して、相分離させ、水中に浸漬して脱溶媒し、内径0.8mm、外径1.3mmの中空糸分離膜を得た。
【0022】
実施例2
外側ノズルからポリエチレングリコール(平均分子量200)を吐出させたほかは実施例1と同様にして、同寸法の中空糸分離膜を得た。
【0023】
実施例3
外側ノズルからN−メチル−2−ピロリドンを吐出させたほかは実施例1と同様にして、同寸法の中空糸分離膜を得た。
【0024】
比較例1
外側ノズルからは何も吐出させなかったほかは実施例1と同様にして、同寸法の中空糸分離膜を得た。
【0025】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明で用いる三重管ノズルの縦断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三重管ノズルを使用する中空糸分離膜の製造方法であって、
溶媒に溶解して得られた高温状態のポリマー溶液を中間ノズルから吐出し、中空部形成剤液を内側ノズルから吐出し、孔形成剤液を外側ノズルから吐出した後、冷却することにより相分離させる、中空糸分離膜の製造方法。





【図1】
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【公開番号】特開2009−195764(P2009−195764A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36791(P2008−36791)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】