説明

中空糸型逆浸透膜

【課題】液状混合物からの固体分離または溶質分離において低い運転コストで透水性能と除去性能を高いレベルで達成した中空糸型逆浸透膜を提供する。
【解決手段】酢酸セルロースからなる中空糸型逆浸透膜であって、塩化ナトリウム濃度1500mg/Lの水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型逆浸透膜の外側から内側へ向かって濾過した際の透水量が120〜330L/m/日であり、塩除去率が98%以上であること、及び中空糸型逆浸透膜の外径が100〜300μmであり、内径が50〜204μmであり、中空率が24〜46%であることを特徴とする中空糸型逆浸透膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転コストを低減させながら透水性能と除去性能の両方を高いレベルで維持することができる中空糸型逆浸透膜及びその製造方法に関するものであり、かん水の淡水化による飲料水、工業用水の製造、超純水の製造、特に工業排水や生活排水などの有機性排水の活性汚泥処理における砂濾過工程の代替または放流前の処理などに使用されるものである。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜法による液状混合物の分離・濃縮は、蒸留などの分離技術に比べて省エネルギー法でありかつ物質の状態変化を伴わないことから、果汁の濃縮、ビール酵素の分離などの食品分野、海水及びかん水の淡水化による飲料水、工業用水などの製造、電子工業における超純水の製造や医薬品工業や医療分野における無菌水の製造などの水精製分野あるいは工業排水からの有機物の回収といった多分野において幅広く利用されており、逆浸透膜による水処理は、最先端技術を支える不可欠のプロセスとして定着している。
【0003】
例えば、逆浸透膜を用いた海水やかん水の淡水化は、クリーンなプロセスであり、蒸発法・電気透析法と比較して省エネルギー・低コスト・操作の簡便性の点で有利であり、これまでに大きな実績をあげている。特に中空糸型逆浸透膜は、スパイラル型逆浸透膜に比べ単位膜面積当たりの透過水量は小さいが、モジュール当たりの膜面積を大きくとることができるため、全体として透過水量を大きくとることができ、容積効率が非常に高いという利点から多く採用されている。
【0004】
このような中空糸型逆浸透膜は一般に、ポリマー素材として酢酸セルロースを含む製膜原液を調製し、これを紡糸口金から空気中に吐出し、続いて水溶液中で凝固させ、水洗後に熱水処理して膜収縮させることにより製造される。例えば、特許文献1の実施例では、ポリマー素材としてセルローストリアセテートを使用した製膜原液を吐出、凝固し、水洗後に無緊張下で85℃の熱水処理を20分間施して得られる逆浸透膜が記載されており、実施例のデータを参照すると、0.2%塩化ナトリウム水溶液を供給水として30kg/cmの圧力で測定した透水量とNaCl除去率がそれぞれ230l/mD,99.85%(実施例1)、245l/mD,99.87%(実施例3)、250l/mD,99.84%(実施例4)であったことが示されている。透水量は圧力に依存するので、上記の実施例の逆浸透膜を半分の圧力15kg/cmで測定すると、NaCl除去率はあまり影響を受けないが、透水量はほぼ半分の120l/mD程度に低下する。即ち、特許文献1のような従来の逆浸透膜は、高い熱水処理温度で膜収縮を大きくしているため高い塩除去性能を発揮できるが、低圧で使用すると透水性能が低下する問題がある。
【0005】
逆浸透膜において透水性能と除去性能の両方を高いレベルで維持しようとしたものとしては、例えば、特許文献2及び3が挙げられる。特許文献2では、液体混合物からの固体分離あるいは溶質分離に利用される中空糸型逆浸透膜モジュールに関する技術が開示されている。しかし、特許文献2の表1の三酢酸セルロースを使用した中空糸膜性能を参酌すると、操作圧力55kg/cmで測定した透過水量(FR1)は22.6〜91.5l/m・日であり、高い透水性能を達成できていない。
【0006】
また、特許文献3には、微多孔性支持体上にポリアミドを主成分とする活性層(薄膜、スキン層)を備えた高塩阻止率と高透過性を併せ持つ平膜タイプの複合逆浸透膜に関する技術が開示されている。特許文献3に記載の逆浸透膜は、実施例1の記載によれば、操作圧力7.5kg/cmで測定した透過流速が1.0m/m・日(1000l/m・日)であることが記載されている。しかし、この逆浸透膜は、ポリスルホン支持膜にアミン水溶液を接触させ、次に酸クロライド水溶液を接触させることによりポリアミド薄膜を形成するものであって、煩雑な製造工程を要する。また、このような素材からなる膜は、耐塩素性に問題があり、また、使用できる洗浄薬品が限られているなどのデメリットがある。
【0007】
一方、近年の経済性を重視するユーザから、中空糸型逆浸透膜による造水コストの低減が強く望まれている。例えば、海水淡水化においては、造水コストのうち、動力費(高圧ポンプの電力費)がおよそ半分を占めているが、従来の海水淡水化用の高圧タイプの逆浸透膜を排水処理用に使用すると、電力費が高いために造水コストを抑えることができない。また、動力費を低下させるために、低圧ポンプを使用し、さらに従来の低圧用逆浸透膜を使用しても、現状では高い透水性能が得られず、結局、造水コストを抑えることができない。
【0008】
以上のように、低い運転コストで透水性能と除去性能を高いレベルで両立した酢酸セルロース系中空糸型逆浸透膜が存在しないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−36715号公報
【特許文献2】特開平10−337448号公報
【特許文献3】特開平9−19630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、液状混合物からの固体分離または溶質分離において低い運転コストで透水性能と除去性能を高いレベルで達成した中空糸型逆浸透膜及びその製造方法を提供することにある。特に、本発明の中空糸型逆浸透膜は、塩濃度(浸透圧)の低い原水(例えば、かん水、下水、工場または家庭の排水などの淡水)を処理するのに好適なものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、塩除去の役割を有する緻密層を従来より薄く作った断面構造の中空糸型逆浸透膜を使用して低圧ポンプで運転することにより、低い運転コストで透水性能と除去性能を高いレベルで達成できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(8)の構成を有するものである。
(1)酢酸セルロースからなる中空糸型逆浸透膜であって、塩化ナトリウム濃度1500mg/Lの水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型逆浸透膜の外側から内側へ向かって濾過した際の透水量が180〜350L/m/日であり、塩除去率が90.0〜99.0%であること、及び中空糸型逆浸透膜の外径が100〜280μmであり、内径が50〜200μmであり、中空率が24〜42%であることを特徴とする中空糸型逆浸透膜。
(2)中空糸型逆浸透膜の外表面近傍に0.1〜7μmの厚みの緻密層が存在することを特徴とする(1)に記載の中空糸型逆浸透膜。
(3)耐圧性(−m値)が0.02〜0.08であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の中空糸型逆浸透膜。
(4)中空糸型逆浸透膜の長さが15〜500cmであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の中空糸型逆浸透膜。
(5)酢酸セルロースと溶媒と非溶媒を含む製膜原液を調製し、これを紡糸口金から空中走行部を経て凝固液中に吐出して中空糸膜を製造し、この中空糸膜を水洗した後に熱水処理に供して膜を収縮させて得られる(1)〜(4)のいずれかに記載の中空糸型逆浸透膜の製造方法であって、製膜原液中の酢酸セルロースの濃度が40〜45重量%であること、及び製膜原液中の溶媒/非溶媒の重量比が80/20〜95/5であること、及び熱水処理の温度が50〜70℃であることを特徴とする方法。
(6)(1)〜(4)のいずれかに記載の中空糸型逆浸透膜を組み込んだことを特徴とする中空糸膜モジュール。
(7)0.5〜2.0MPaの圧力で液状混合物を(6)に記載の中空糸膜モジュールで濾過することにより液状混合物の固体分離または溶質分離を行うことを特徴とする水の製造方法。
(8)液状混合物がかん水、下水、工場または家庭の排水であり、液状混合物の浸透圧が0.001〜1.5MPaであることを特徴とする(7)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の中空糸型逆浸透膜は、高い塩除去率を維持しながら、低圧濾過時の透水量が高くなるように設計されているので、低い運転コストで透水性能と除去性能を両立しながら、液状混合物の固体分離または溶質分離、特にかん水、下水、排水などの淡水からの水製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の逆浸透膜の製造工程の説明図である。
【図2】本発明の逆浸透膜の一例の断面構造の微分干渉顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
従来、酢酸セルロースからなる中空糸型逆浸透膜は、膜構造の緻密化に主眼がおかれ、基本的には製膜原液中の酢酸セルロース濃度を高めに設定し、かつ製膜後の膜に高温の熱水処理を施すことにより膜構造を更に締める方向での開発が行われてきた。このような手法は、耐圧性の付与や分画特性の面から見ればリーズナブルであり、海水淡水化用などの中〜高圧処理を行う逆浸透膜の開発指向としては正しい。しかし、これを塩濃度の低い被処理液を処理するための逆浸透膜に転用すると、低圧処理のために透水量の低いものしか得られないことになる。
【0016】
本発明者は、塩除去性と透水性の両立を図るべく、従来の逆浸透膜の開発指向から脱却し、新しい膜設計の概念を取り入れて膜構造の改良を進めてきた。すなわち、中〜高圧処理用の逆浸透膜よりも更に構造の非対称性を高めるとともに、分画層を薄く緻密なものとすることにより塩除去性と透水性のバランスを高めることができると考えた。また、十分な耐圧性を具備しながら最大限のパフォーマンスを発揮する膜モジュール設計については、中空部を流れる流体の流動圧損とモジュール容積あたりの膜面積との関係より中空糸膜の外径と中空率の最適化に着目した。本発明は、これらの技術思想の具現化に向けて試行錯誤を繰り返して完成したものである。
【0017】
本発明の逆浸透膜は、酢酸セルロースからなる中空糸型の膜を採用する。酢酸セルロースは、殺菌剤である塩素に対する耐性があり、微生物の増殖抑制を容易に行うことができることを特徴とする。従って、膜面でのバクテリア汚染を効果的に抑制できるメリットがある。酢酸セルロースとしては、耐久性の点で三酢酸セルロースが好ましい。中空糸型の膜は、スパイラル型の膜と比べてモジュールあたりの膜面積を多くとることができ、ほぼ同サイズのモジュールの場合、スパイラル型のおよそ10倍の膜面積を得ることができる。従って、中空糸型の膜は、同じ透水量を得る際に単位膜面積あたりの処理量が極めて少ないので、膜面の汚れを減少でき、膜の洗浄までの運転時間を長くとることができる。
【0018】
本発明の逆浸透膜は、操作圧力が0.5〜2MPaの低圧である場合に対応した膜である。逆浸透膜を操作圧力で分離すると、一般に、5〜8MPaの操作圧力で使用する高圧用、2.5〜4MPaの操作圧力で使用する中圧用、2MPa以下の操作圧力で使用する低圧用がある。高圧用の膜は、海水淡水化に使用され、海水の浸透圧を超える圧力に耐えるために非常に緻密な構造を有する。中圧用の膜は、かん水(塩濃度0.1〜3重量%)の淡水化や超純水製造を目的としたものであり、低圧用の膜は、ほとんど塩を含まない処理水を対象とし、超純水、工業用水、飲料水を得ることを目的としたものである。従来の高圧用や中圧用の膜は、耐圧性を持たせるために緻密な構造を有するので、操作圧力を低下させると、透水量が圧力に比例して低下する。透水量を高めるために膜の構造を粗くすると、分画性(塩除去率)が低下する。また、従来の低圧用の膜は、高い透水性を達成できる構造を有していない。本発明の逆浸透膜は、低圧の操作圧力で透水性と塩除去性を高いレベルで達成できるようにしたものであり、従来に存在しない設計思想のものである。
【0019】
本発明の逆浸透膜は、塩化ナトリウム濃度1500mg/Lの水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型逆浸透膜の外側から内側へ向かって濾過した際の透水量が180〜350L/m/日であり、塩除去率が90.0〜99.0%であることを特徴とする。圧力1.5MPaでの濾過時の値を規定したのは、本発明の逆浸透膜が低圧の操作圧力での使用を意図しているからである。透水量は、造水コストの低減や処理量の増大を図るために高い方がよく、従来の中空糸型やスパイラル型に対するコストメリットの点から190L/m/日以上、好ましくは200L/m/日以上である。透水量は高すぎても問題は生じないが、達成すべき塩除去率とのバランスからみて上限値は330L/m/日である。塩除去率は、達成すべき透水量とのバランスから考慮すべきであり、90.0〜99.0%、好ましくは90.0〜98.0%である。
【0020】
また、本発明の逆浸透膜は、低圧での使用を想定したものであるが、低圧とは言っても2MPaの圧力でろ過を続けると目詰まりや懸濁物質等の膜面への堆積により、経時的に膜性能が低下する問題がある。本発明の逆浸透膜は、耐圧性(−m値)が0.02〜0.08の範囲にあるのが好ましい。−m値がこの範囲にあれば、通常の使用条件において、洗浄までの間隔を十分長く取ることができるとか、造水量の経時変化が少ないなど、性能の安定性と低コストが両立されるため好ましい。なお、−m値が大きくなるということは、経時的な性能低下が大きいということである。
【0021】
本発明の逆浸透膜は、図2の断面構造の微分干渉顕微鏡画像からわかるように外表面近傍に緻密層を有し、該緻密層の厚みが0.1〜7μmであることが好ましい。実質の分離活性層である緻密層の厚みは薄い方が、透水抵抗が小さくなるため好ましく、6μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。しかし、緻密層の厚みが薄すぎると、潜在的な膜構造の欠陥が顕在化しやすくなり、1価イオンの漏出を抑えることができなくなるとか、耐圧性を確保するのが難しくなるなどの問題が発生することがある。したがって、緻密層の厚みは0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。
【0022】
本発明の逆浸透膜の内径は、50〜200μm、好ましくは75〜190μm、より好ましくは75〜160μmである。内径が上記範囲より小さいと、中空部を流れる流体の圧力損失が一般に大きくなるため、中空糸膜の長さを比較的長くした場合に所望の透過水量が得られない可能性がある。一方、内径が上記範囲より大きいと、中空率とモジュール膜面積の取り合いになり、耐圧性または単位容積あたりの膜面積のいずれかを犠牲にする必要が生じる。
【0023】
本発明の逆浸透膜の外径は、100〜280μm、好ましくは115〜270μm、より好ましくは120〜250μmである。外径が上記範囲より小さいと、必然的に内径も小さくなるため、上述の内径と同じ問題が生じる。一方、外径が上記範囲より大きいと、モジュールにおける単位容積あたりの膜面積を大きくすることができなくなり、中空糸型モジュールのメリットの一つであるコンパクト性が損なわれる。
【0024】
本発明の逆浸透膜の中空率は、24〜42%、好ましくは25〜40%である。中空率が上記範囲より小さいと、膜抵抗が大きくなり、所望の透過水量が得られない可能性がある。また、中空率が上記範囲より大きいと、低圧処理での使用であっても十分な耐圧性を確保できない可能性がある。
なお、中空率(%)は下記式により求めることができる。
中空率(%)=(内径/外径)×100
【0025】
本発明の逆浸透膜の長さは、15〜500cm、好ましくは20〜300cmである。この長さは、中空糸型モジュールで一般に使用される可能性のある範囲である。但し、長さが上記範囲を逸脱すると、低い運転コストで透水性と塩除去性を両立することが困難になる可能性がある。
【0026】
次に、本発明の逆浸透膜の製造方法の一例について説明する。本発明の逆浸透膜は、図1に示すように、製膜原液を紡糸口金から空中走行部を経て凝固浴中に吐出して中空糸膜を製造し、この中空糸膜を水洗した後に熱水処理に供して膜を収縮させることによって製造される。本発明の逆浸透膜の製造方法は、このような方法において、膜の非対称化を促進するために、製膜原液中のポリマー濃度を比較的高めに設定するとともに溶媒/非溶媒比を高めに設定したことを特徴とする。このような特徴の製膜原液を高温のノズルより吐出すると、空中走行部でより多くの溶媒が蒸発するのでポリマーの凝集(核化)が起こる。続く凝固浴においては、溶媒濃度を低く設定しているので、相分離が進行するよりも早く凝固が完了するため、中空糸膜の外表面構造がより薄く緻密化されることになる。一方、内表面側(中空部側)は閉鎖系であり溶媒蒸発が制限されているので、空中走行部から凝固浴にかけてポリマーの核化→成長(相分離の進行)が進み、よって非対称化が促進する。このようにして得られた中空糸膜を、比較的低い温度条件で熱水処理することにより適度な膜収縮を生じさせて外表面層の緻密化を行うとともに、膜構造の固定を行う。
【0027】
製膜原液としては、膜素材の酢酸セルロースと溶媒と非溶媒を含むものを使用し、必要により有機酸および/または有機アミンを加えたものを使用する。酢酸セルロースは、三酢酸セルロースを使用することが好ましい。溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルスルホキシドから選ばれる1種以上を使用することが好ましい。より好ましくは、N−メチル−2−ピロリドンである。非溶媒は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールから選ばれる1種以上を使用することが好ましい。より好ましくは、エチレングリコールである。有機酸は、アミノ酸、芳香族カルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸、二塩基酸またはそのヒドロキシモノエステルが好ましい。より好ましくは、フタル酸、酒石酸、ε−アミノ−n−カプロン酸、安息香酸、4−メチルアミノ酪酸、p−オキシ安息香酸、マレイン酸であり、1種以上を混合して使用することができる。有機アミンは、一級、二級、三級ヒドロキシアルキルアミンのいずれでも使用できる。具体的には、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンが好ましい。トリイソプロパノールアミンが特に好ましい。
【0028】
製膜原液中の酢酸セルロースの濃度は40〜45重量%であることが好ましい。酢酸セルロースの濃度が上記範囲より低いと、中空糸膜構造が粗くなりすぎて十分な分離性能および膜強度が得られないことがあり、上記範囲より高いと、製膜原液の粘度が高くなり、製膜の安定性が得られないとか、得られる膜の透水性を高めることができなくなる可能性がある。また、製膜原液中の溶媒/非溶媒の重量比は80/20〜95/5であることが好ましい。溶媒/非溶媒の重量比が上記範囲より低いと、溶媒蒸発が進行しないため膜表面の構造が緻密化せず、透水性は大きく変化しないが塩除去性能が低いものとなり、上記範囲より高いと、極端な非対称膜化が進行して膜強度が得られない可能性がある。
【0029】
次に、上記のようにして得られた製膜原液を90〜190℃に加熱して溶解し、得られた製膜原液を150〜180℃に加熱したアーク型、C型、チューブインオリフィス型ノズルより押出す。チューブインオリフィス型ノズルを使用する場合は、中空形成材として空気、窒素、二酸化炭素、アルゴンなどを使用することが好ましい。押出された製膜原液は、0.02〜0.4秒間、空中走行部(気体雰囲気中)を通過した後、続いて水性凝固浴に浸漬して凝固される。
【0030】
凝固浴は、製膜原液に使用した溶媒、非溶媒と同一組成のものを使用することが好ましい。凝固浴の組成割合は、溶媒/非溶媒/水(重量比)=0〜15/0〜8/100〜77が好ましい。水の比率が低すぎると、膜の相分離が進行し、細孔径が大きくなりすぎることがある。水100%でも良いが、連続製膜において凝固浴からの廃液の量が多くなる。
【0031】
凝固浴から引き上げた中空糸膜は、残存する溶媒、非溶媒等を水で洗浄除去する。水洗方式としては、例えば、長尺傾斜樋に水洗水を流下させ、その水洗水中に中空糸膜を通して水洗する多段傾斜樋水洗方式、また2本の長尺ローラーに互いに角度をもたせ、ローラーに中空糸膜を何重にも捲き上げるネルソンローラーにおいて、ネルソンローラー表面を常に水洗水で濡らし、該水洗水と中空糸膜との接触で水洗するネルソンローラー水洗方式、更にネット上に中空糸膜を振り落し、シャワー水によって水洗するネットシャワー水洗方式、また中空糸膜を直接深槽水洗水中に浸漬水洗する浸漬水洗方式等がある。本発明においては、いずれの水洗方式で水洗してもよい。
【0032】
水洗処理を施した中空糸膜は、無緊張状態で水中に浸漬し、50〜70℃で5〜60分間、熱水処理を行うことが好ましい。熱水処理を施すことによって、膜構造の固定化や寸法安定性の向上、熱安定性の向上を図ることができる。このような目的のため、通常、熱水処理は、ガラス転移温度よりも高く融点よりも低い温度が採用される。酢酸セルロースを使用する場合においても、一般的に湿潤状態において90℃以上の熱水処理温度が採用されるが、本発明においては、50〜70℃の比較的低い処理温度を採用することにより膜構造の過度の緻密化を抑制している。
【0033】
熱水処理温度が上記範囲より高いと、膜構造の緻密化が進みすぎて塩除去性と透水性のバランスが崩れることがあり、逆に、上記範囲より低いと、膜構造の非対称性が十分でなく、所望の塩除去性能が得られないことがある。熱水処理時間は、通常5〜60分である。処理時間が短すぎると、十分なアニール効果が得られない可能性がある。また、膜構造に不均一が生じることがある。処理時間が長すぎると、製造コストアップに繋がるだけでなく、膜が緻密化しすぎて所望の性能バランスが得られないことがある。
【0034】
上記のようにして得られた本発明の中空糸型逆浸透膜は、従来公知の方法により中空糸膜モジュールとして組み込まれる。逆浸透膜の組み込みは、例えば、特許4412486号公報、特許4277147号公報、特許3591618号公報、特許3008886号公報などに記載されているように、例えば、中空糸型逆浸透膜を45〜90本集めて1つの中空糸膜集合体とし、さらにこの中空糸膜集合体を複数横に並べて偏平な中空糸膜束として、多数の孔を有する芯管にトラバースさせながら巻き付ける。この時の巻き付け角度は5〜60度とし、巻き上げ体の特定位置の周面上に交差部が形成するように巻き上げる。次に、この巻き上げ体の両端部を接着した後、片側のみ/または両側を切削して中空糸開口部を形成させ中空糸型分離膜素子を作成する。得られた中空糸型分離膜素子を圧力容器に挿入して中空糸膜モジュールを組立てる。
【0035】
本発明の中空糸膜モジュールは、0.5〜2.0MPaの低い圧力で液状混合物を濾過して液状混合物の固体分離または溶質分離を行うのに好適である。好ましい液状混合物は、かん水、下水、工場または家庭の排水であり、好ましい液状混合物の浸透圧は0.001〜1.5MPaである。本発明の中空糸膜モジュールによれば、これらの液状混合物から低コストで飲料水、工業用水、超純水などの水を製造することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例で測定された特性値の測定は、以下の方法に従った。
【0037】
(1)内径、外径、中空率
中空糸膜の内径、外径および膜厚は、中空糸膜をスライドグラスの中央に開けられたφ3mmの孔に中空糸膜が抜け落ちない程度に適当本数通し、スライドグラスの上下面に沿ってカミソリにより中空糸膜をカットし、中空糸膜断面サンプルを得た後、投影機Nikon PROFILE PROJECTOR V−12を用いて中空糸膜断面の短径、長径を測定することにより得られる。中空糸膜断面1個につき2方向の短径、長径を測定し、それぞれの算術平均値を中空糸膜断面1個の内径および外径とし、膜厚は(外径−内径)/2で算出した。5つの断面について同様に測定を行い、平均値を内径、外径、膜厚とした。
中空率は(内径/外径)×100で算出した。
【0038】
(2)透水量
中空糸型逆浸透膜を束ねて、プラスチック製スリーブに挿入した後、熱硬化性樹脂をスリーブに注入し、硬化させ封止した。熱硬化性樹脂で硬化させた中空糸型逆浸透膜の端部を切断することで中空糸膜の開口面を得て、外径基準の膜面積がおよそ0.1mの評価用モジュールを作製した。この評価用モジュールを供給水タンク、ポンプからなる膜性能試験装置に接続し、性能評価した。
塩化ナトリウム濃度1500mg/Lの供給水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型逆浸透膜の外側から内側へ向かって濾過して1時間運転する。その後、中空糸膜の開口面より膜透過水を採取して、電子天秤(島津製作所 LIBROR EB−3200D)で透過水量を測定した。
透水量(FR)は下記式より算出する。
FR[L/m/日]=透過水量[L]/外径基準膜面積[m]/採取時間[分]×(60[分]×24[時間])
【0039】
(3)塩除去率
前記透水量測定で採取した膜透過水と、同じく透水量の測定で使用した塩化ナトリウム濃度1500mg/L供給水溶液を電気伝導率計(東亜ディーケーケー社CM−25R)を用いて塩化ナトリウム濃度を測定する。
塩除去率は下記式より算出する。
塩除去率[%]=(1−膜透過水塩濃度[mg/L]/供給水溶液塩濃度[mg/L])×100
【0040】
(4)耐圧性(−m値)
前記透水量測定と同じく膜性能試験装置に評価用モジュールを接続して塩化ナトリウム濃度1500mg/Lの供給水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型逆浸透膜の外側から内側へ向かって濾過して1時間運転する。1時間運転後に中空糸膜の開口面より透過水を採取して透水量を測定する。同様に2時間運転後、5時間運転後にも透過水を採取して透水量を測定する。その後、100時間後の透過水を採取して透水量を測定する。
経過時間による透水量変化は、時間と透水量の両対数の傾きから算出可能であり、x=log(経過時間)、y=log(透水性)としたとき、回帰直線式より傾き(−m値)は下記式により算出される。

【0041】
(5)緻密層厚み
評価する中空糸膜を水洗した後、25℃の2−プロパノール(ナカライテスク社)、シクロヘキサン(ナカライテスク社)の順に1時間ずつ浸漬して溶媒置換を行う。溶媒置換後の中空糸膜を液切りし、庫内温度50℃、庫内圧力−40Paの真空乾燥機(Yamato VacuumDryingOven DP41)で24時間乾燥する。乾燥して得られた中空糸膜を樹脂包埋して中空糸膜断面が観察できるようにミクロトーム(REICHERT−NISSEI ULTRACUT)を用い切片を切り出す。切り出した切片を微分干渉顕微鏡(Nikon社製 OPTIPHOT鏡基、反射型微分干渉装置NR)で観察する。得られた顕微鏡画像より、10箇所の緻密層厚みを測定し、それらの平均値を緻密層厚みとした。
【0042】
(実施例1)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)49.9重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.8重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を60℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本実施例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表1にまとめる。
【0043】
(実施例2)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)49.9重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.8重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を52℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本実施例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表1にまとめる。
【0044】
(実施例3)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)49.9重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.8重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を68℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本実施例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表1にまとめる。
【0045】
(実施例4)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)44重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)47.3重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.4重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を60℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本実施例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表1にまとめる。
【0046】
(実施例5)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)47.0重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)11.7重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を60℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本実施例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表1にまとめる。
【0047】
(実施例6)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)52.8重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)5.9重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を60℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本実施例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表1にまとめる。
【0048】
(実施例7)
実施例1と同様にして、内径が76μm、外径が120μm、中空率が40%の中空糸膜を得た。
本実施例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表1にまとめる。
【0049】
(実施例8)
実施例1と同様にして、内径が170μm、外径が270μm、中空率が40%の中空糸膜を得た。
本実施例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表1にまとめる。
【0050】
(実施例9)
実施例1と同様にして、内径が90μm、外径が175μm、中空率が26%の中空糸膜を得た。
本実施例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表1にまとめる。
【0051】
(実施例10)
実施例1と同様にして、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%の中空糸膜を得た。
本実施例の中空糸膜を用いて長さ200mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表1にまとめる。
【0052】
(比較例1)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)49.9重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.8重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を80℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本比較例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表2にまとめる。
【0053】
(比較例2)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)49.9重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.8重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を40℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本比較例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表2にまとめる。
【0054】
(比較例3)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)38重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)52.4重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)9.3重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を60℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本比較例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表2にまとめる。
【0055】
(比較例4)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)41.1重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)17.6重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を60℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本比較例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表2にまとめる。
【0056】
(比較例5)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)49.9重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.8重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を60℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が204μm、外径が300μm、中空率が46%であった。
本比較例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表2にまとめる。
【0057】
(比較例6)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)49.9重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)8.8重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を60℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が144μm、外径が300μm、中空率が23%であった。
本比較例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表2にまとめる。
【0058】
(比較例7)
三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)47重量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社)44.8重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)7.9重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=4.25/0.75/95からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を60℃の水に浸漬し、40分間アニール処理を行った。
得られた中空糸膜は、内径が100μm、外径が175μm、中空率が33%であった。
本比較例の中空糸膜を用いて長さ1000mmの評価用モジュールを作製した。評価結果を表2にまとめる。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表1から明らかなように、実施例1〜10の中空糸膜はいずれも、低圧使用で適度な耐圧性を持ちながら、高い塩除去率と高い透水量を両立しているので、低い運転コストで液状混合物を分離することができる。これに対して、比較例1は、熱水処理温度が高いため、緻密化が進行しすぎるためか、塩除去性能は充分高いが初期透水性および経時的透水性が大幅に低下する中空糸膜となってしまった。また、比較例2は、熱水処理温度が低いため、膜構造の緻密化、固定化が不十分となり、初期透水性は高いが、塩除去性能が低い中空糸膜となってしまった。また、比較例3は、ポリマー濃度が低いため、膜全体として構造の緻密化が不十分となり、初期透水性能は高いが塩除去性能が低い中空糸膜となってしまった。また、比較例4は、溶媒/非溶媒比が大きく、おそらく空中走行部での溶媒蒸発が十分促進されず、よって膜表面の構造が思ったほど緻密化せず、透水性は大きく変化しないが塩除去性能が低い中空糸膜となってしまった。また、比較例5は、初期の透水性は高かったが、経時的に透水性が低下する現象が見られた。中空率が高く膜厚が薄いためか、経時的に中空糸に潰れが発生した。また、比較例6は、透水性や塩除去性については特に問題ないが、中空糸膜外径が大きいために中空糸膜タイプのメリットの1つであるモジュールのコンパクト性が損なわれる問題があった。比較例7は、製膜原液中のポリマー濃度が高いためか、透水性の低い中空糸膜しか得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の中空糸型逆浸透膜は、透水性能と除去性能を高いレベルで維持しながら低い運転コストで飲料水、工業用水、超純水などの水を製造することができるので、逆浸透膜による水製造の分野において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸セルロースからなる中空糸型逆浸透膜であって、塩化ナトリウム濃度1500mg/Lの水溶液を、25℃、圧力1.5MPaで中空糸型逆浸透膜の外側から内側へ向かって濾過した際の透水量が120〜330L/m/日であり、塩除去率が98%以上であること、及び中空糸型逆浸透膜の外径が100〜300μmであり、内径が50〜204μmであり、中空率が24〜46%であることを特徴とする中空糸型逆浸透膜。
【請求項2】
請求項1に記載の中空糸型逆浸透膜を用いて作製されていることを特徴とする請求項1に記載の中空糸型分離膜素子。
【請求項3】
請求項2に記載の中空糸型分離膜素子を組み込んだことを特徴とする中空糸膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−115835(P2012−115835A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−20106(P2012−20106)
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【分割の表示】特願2011−549093(P2011−549093)の分割
【原出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】