説明

中空糸膜モジュールおよびその製造方法

【課題】
本発明は、泡抜け時間が短く、エアロックが少ない性能の高いモイストタイプの中空糸膜モジュールを提供することを課題とする。
【解決手段】
水溶液を中空糸膜中空部に充填し、中空糸膜を湿潤もしくは吸湿させる工程を有し、前記工程の後に中空糸膜モジュールの一端入り口から他端出口へ気体ブローを行なう中空糸膜モジュールの製造方法において、前記気体ブローの圧力を変動させることを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中空糸半透膜を内蔵してなる血液透析、血液ろ過、血液透析ろ過等に使用される中空糸膜モジュールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析、血液ろ過、血液透析ろ過等に用いられる中空糸半透膜は、その内径が100〜300μmであり、通常数千〜数万本を束としてプラスチックケースに内蔵することでモジュール化して用いられている。内蔵されている中空糸膜の乾燥を防ぐために、内部に液体を充填したウェットタイプのものが主流である。しかしながら、液体が充填されているために重量が大きくなり、輸送や取扱に不便である。また、寒冷地では、充填されている液体が凍結することがあるため、保存が困難となる。
【0003】
それに対して、液体が充填されていないタイプのものは、水の重量が無い分軽くなり、凍結の恐れも無く、取扱性に優れている。
【0004】
液体が充填されていないタイプとして、中空糸膜を乾燥状態にしたドライタイプと中空糸膜を湿潤状態にしたモイストタイプのものがある。モイストタイプの中空糸膜モジュールについて、その製造方法(特許文献1)や、グリセリンなどで湿潤状態にした中空糸膜モジュールの製造方法(特許文献2)などが開示されている。
【0005】
上記ウェットタイプやモイストタイプを用いると、中空糸膜が水で膨潤していることにより、透析開始直後において、血液を活性化する懸念が低くなる効果が得られる。言い換えれば、生体適合性を向上させる効果がある。一方で、ドライタイプの場合、生体適合性を向上させるために、親水性高分子であるポリビニルピロリドンを中空糸膜に混合させるなどの方法を取ると、乾燥状態の親水性高分子が収縮によって粒子径が小さくなるため親水性効果が低減する傾向に有り、収縮した親水性高分子が膨潤するまでの時間、すなわち緩和時間を要し、血液と接触したときに親水性効果を発揮しない場合がある。(非特許文献1)
また、中空糸膜モジュールを血液等の液体処理用途に用いる場合、処理される液体への溶出物の混入が問題となることがある。例えば、グリセリンなどで湿潤状態にした人工腎臓はグリセリンの血液中への溶出が懸念される。さらには、使用前のモジュールの洗浄でグリセリンが洗い流されるため、環境負荷の面からも好ましくない。
【0006】
以上のことから、中空糸膜モジュールの取扱性および生体や環境負荷への適合性を総合的に判断すると、ドライタイプやウェットタイプと比較して、水で膨潤されたモイストタイプの中空糸膜モジュールが優位と言える。しかしながら、モイストタイプの中空糸膜モジュールでは、製造過程に起因して中空糸膜中空部に液体膜を形成することで気体を液体膜間に閉じ込める状態、すなわち、いわゆるエアロックを形成しやすいことがわかった。
【0007】
一般的に、中空糸膜モジュールが人工腎臓等の医療用器具として用いられる場合、使用する前に、リンゲル液等を通液・充填するという、いわゆるプライミング操作を行う。しかしながら、プライミングに際して、中空糸膜中空部にエアロックが存在すると、エアロックは流動性がほとんどないため容易には排出・解消されず、中空糸膜中空部から微細な気泡が断続的に発生し、リンゲル液等の通液・充填を妨げる。さらに、使用時には血液等の処理される液体が流れにくくなる場合がある。すなわち、中空糸膜モジュールの透析・ろ過性能が十分に発揮されないことが起こりうる。
【0008】
特許文献3には、かかる中空糸膜中空部に形成されるエアロックに関する言及があり、中空糸膜外部の空間の圧力を中空部の空間圧力より高い圧力とした後、中空部に低流量で気体を流すことにより、所定流量の液体を流した際に出口から排出される気体の体積が中空部体積の3体積%以下の中空糸膜モジュールを得られることが記載されている。しかしながら、当該発明に係る実施の形態によっても、エアロックの体積は中空糸膜中空部の1〜2体積%を占めるものであり、なお一層の改善が求められるものであった。
【0009】
中空糸膜中空部に所定流量の液体を充填させた後、液体とともに排出される気体が流れ出してから止まるまでの時間を泡抜け時間ということがあるが、以上のように、かかる泡抜け時間についてさらなる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−245526号公報
【特許文献2】特開平8−168524号公報
【特許文献3】特開2007−229096号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】膜(MEMBRANE),30(4),185−191(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、泡抜け時間が短く、エアロックが少ない性能の高いモイストタイプの中空糸膜モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を達成するため、以下の構成を有する。
1.抱液率が10〜600重量%であり、内径が100〜300μmの中空糸膜が内蔵され、200mL/minの流量で一端入り口から他端出口へ通水した際、該中空糸膜モジュールの他端出口からの水流出時を開始とし、出口側中空糸膜束端面から泡の発生が止まるまでの経過時間tがt < 30secであり、かつ、前記通水を5min行なった後の中空糸膜中空部に残留する気泡量が1.0mL以下であることを特徴とする中空糸膜モジュール。
2.前記中空糸膜モジュールの中空糸膜開口部端面からヘッダー天面までの距離が2mm以上、かつ、ヘッダー天面の勾配を2°以上とすることを特徴とする前記1に記載の中空糸膜モジュール。
3.前記中空糸膜モジュールの開口部端面の中空糸占有面積の割合が40%以上であり、該中空糸束を固定した隔壁端面においてヘッダー内面外周から中空糸束の最外糸の包絡線までの径方向距離の最大値Cmaxと最小値Cminとの平均クリアランス値C(=Cmax − Cmin)がC < 2.0mmかつCmin < 2.0mmであることを特徴とする前記1または2に記載の中空糸膜モジュール。
4.前記中空糸膜モジュールが人工腎臓として用いられることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
5.水溶液を中空糸膜中空部に充填し、中空糸膜を湿潤もしくは吸湿させる工程を有し、前記工程の後に中空糸膜モジュールの一端入り口から他端出口へ気体ブローを行なう中空糸膜モジュールの製造方法において、前記気体ブローの圧力を変動させることを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
6.前記気体ブローの中空糸膜中空部における圧力変動範囲の最小圧力がモジュール内の中空糸膜外部における圧力より大きいことを特徴とする前記5に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、泡抜け時間が短く、エアロックが少ない性能の高いモイストタイプの中空糸膜モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本中空糸膜モジュールの一様態を示す。
【図2】本中空糸膜モジュールの中空糸開口部端面を示す(図1の4,5の詳細)。
【図3】ヘッダー部材の詳細を示す(図1の6,7の詳細)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における中空糸膜モジュールは、液体が充填されたものではないが、抱液率が10〜600重量%とされた中空糸膜束が内蔵されたものであり、上記モイストタイプに該当する。
【0017】
なお、抱液率は下式(1)により算出される値を言う。
【0018】
【数1】

【0019】
中空糸膜は膜中に親水性高分子を保有していることが好ましく、親水性高分子として特にポリビニルピロリドン(以下、PVPと称す。)が好ましい。中空糸膜はある程度湿潤液における水分で湿潤され、PVPが膨潤していることが親水化効果を得るために好ましく、さらには、中空糸膜モジュールに放射線照射する場合には、抱液率が少ないと溶出物が増加する傾向にあるため、150〜350重量%が好ましい。
【0020】
なお、ここでいう湿潤液は、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの水溶液であっても良いし、ポリビニルピロリドンやポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ビニルピロリドンとビニルカプロラクタムの共重合体、ビニルピロリドンとスチレンの共重合体、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体、ビニルアルコールとエチレングリコールの共重合体、などの水溶液であっても良い。さらには、塩化ナトリウムなどの電解質水溶液でも良い。さらには、これらの混合水溶液であっても良い。
【0021】
モイストタイプの中空糸膜モジュールの製造方法は、a.ウェットタイプの中空糸膜モジュール内に充填された液体を排出する方法、b.ドライタイプの中空糸膜モジュールにミストを吹き付ける方法、c.ドライタイプの中空糸膜モジュールに液体を充填して湿潤化した後に液体を排出する方法、d.ドライタイプの中空糸膜モジュールに吸湿させる方法等あるが、本発明においてはいずれの方法により製造しても良い。
【0022】
上記a〜dの方法において、いずれも内蔵する中空糸膜に対し均一に操作が行なわれることが好ましいが、偏りがある場合、モジュール内の中空糸膜の抱液率に糸束中心部と外周部で差が生じるため、エアロックを形成しやすい。これは、プライミングする際に、水が膜に染みこむ速さが異なり、糸束内で速度分布が生じるためではないかと考えられる。したがって、モジュール外周部の糸の抱液率と、中心部の抱液率の差は±30%以内、さらには±20%以内が好ましい。
【0023】
抱液率の差は次式で計算される。
抱液率の差(%) = (中心部の抱液率 − 外周部の抱液率) / 中心部の抱液率 × 100
また、ここで外周部の糸とは、糸束最外周から1cmまでの中空糸膜のことを指す。また、中心部の糸とは、中空糸膜束の端面に外接する円の中心点から1cm以内の糸のことを指す。
【0024】
エアロックは中空糸膜の内径が小さいほど発生しやすい。しかし、内径が小さすぎる場合は、流体を流した際に中空糸膜中空部の圧力が外圧よりも高くなり過ぎるために中空糸膜が損傷することがある。一方、内径が大きくなりすぎた場合、エアロックは形成されにくい。そこで、内蔵する中空糸膜の内径が100〜300μmの中空糸膜モジュールについて、本発明の製造方法は好適に用いられる。また、内蔵する中空糸膜の内径が150〜220μmの中空糸膜モジュールにさらに好適に用いられ、170〜210μmの中空糸膜モジュールに特に好適に用いられる。なお、内径は走査型電子顕微鏡により中空糸開口部端面を観測し、中空糸開口部を真円とみなし、その径を中空糸5本以上測定し平均を採った。中空糸膜の素材としては、特に限定はしないが、医療用に用いられる場合はセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系ポリマーなどが好ましく、中でもポリスルホン系ポリマーを用いることで分離性能の優れた中空糸膜が得られるため、好ましい。
【0025】
中空糸膜モジュールの透析性能は、膜そのものの特性と有効膜面積に依存するが、エアロックが存在する中空糸膜を内蔵する中空糸膜モジュールには処理される液体が接触しない中空糸膜が存在するため、老廃物等の物質除去が効率良く行なわれず、透析性能が低くなると考えられる。
すなわち、中空糸膜モジュールに内蔵している一部の中空糸膜中空部にエアロックが形成されていることにより、プライミング液や処理される液体の流れの状態が悪いもしくは全く流れていない中空糸膜が存在することが示唆されるものである。
【0026】
ここで、エアロックが多く形成されていると、中空糸膜モジュールに通水した際に、血液側容積が水で充填されるまでの時間Tf (sec)より短時間で中空糸膜モジュールの血液通液側の一端から他端の方向へ水が到達する。反対に、前記泡抜け時間は長い。
【0027】
中空糸膜モジュールに水を流量Qb (mL/min)で中空部の一端から他端の方向へ通水した際、中空糸膜モジュールの中空部容量(血液処理用途の中空糸膜モジュールにおいては、通常血液側容量)をVb (mL)としたとき、中空糸膜モジュールの中空部容積が水で充填されるまでの時間Tf (sec)は下式(2)により算出される。
【0028】
【数2】

【0029】
また、流量200mL/minで5min通水した後に、続けて流量を500mL/minに設定し、通水に使用する血液回路の入り口側チューブを2秒間鉗止で止め、その後10秒間開放をすると、中空糸膜開口部端面から気泡が発生することがある。これは、一般的にエアロックが存在する中空糸膜モジュールにおいてプライミング操作を行なった際には、エアロックは容易に排出・解消することが出来ないことを示唆している。
【0030】
また、エアロック量は中空糸膜モジュールへの通液時の出口側端面からの気泡発生時間である程度示すことが可能であり、容易に排出・解消できるエアロックが多いほど、排出・解消が困難なエアロックが多く存在すること、すなわち残留気泡量が多いことを示唆するものである。
かかる観点から、本発明に係る中空糸膜モジュールは、200mL/minの流量で一端入り口から他端出口へ通水した際、該中空糸膜モジュールの他端出口からの水流出時を開始とし、出口側中空糸膜束端面から泡の発生が止まるまでの経過時間(泡抜け時間)tがt < 30secであるものとしている。
【0031】
プライミング時に、泡抜け時間が長いとエアロックによるその後の血液透析効率・性能の低下を連想されるため、25sec未満が好ましく、さらには、20sec未満がより好ましい。
【0032】
血液透析時にエアロックが徐々に排出・解消される場合、回路中への気体混入の可能性があり、残留気泡量は0.5mL以下が好ましく、さらには、0.1mL以下がより好ましい。中空糸膜中空部に残留する気泡量は、流量200mL/minで5min通水した後に、続けて500mL/minの流量で通水しながら、中空糸膜中空部に形成された気液層に流動性を与えるために、通水に使用する血液回路の入り口側チューブを2秒間鉗止で止め、その後10秒間開放する操作を繰り返し、開放時に端面からの気泡の発生の有無を確認して、出口側端面から新たに気泡が発生しなくなってから連続して10回の操作を実施しても気泡が発生しないことを確認し、それまでの間に捕集される気泡の量を指す。
【0033】
続いて以下、上記本発明を達成するための製造方法等の手段を記載する。
【0034】
エアロックを形成する液体の排出方法として、中空糸膜モジュールの中空部(血液処理用途の中空糸膜においては、通常血液通液側)の一端から他端の方向に気体ブローを行う方法がある。本発明においては、圧力変動を付与しつつ間欠的に気体ブローを行うことで、泡抜け時間の短縮ができ、エアロックの多くを解消・低減可能とされることを見出した。すなわち、好ましい態様として、一定の変動幅の中で最大圧ブローと最小圧ブローを繰り返すことがよい。前記a〜dの方法により製造したモイストタイプの中空糸膜モジュールに対して実施することが好ましい。なお、エアロックに直接流動性を与えることが重要なポイントであることから、特にaやcのように充填された液体の大部分を排出するまでの間は、圧力変動なしに連続的に気体ブローを行ったとしても、効果として大きな差はないと考えられる。
【0035】
気体ブロー時の圧力、流量については、いずれも高すぎると中空糸膜を損傷することがあるため、ブロー開始および終了時を除く圧力変動範囲の最大圧力は0.3MPa(ゲージ圧、以下同じ)、最小圧力は0MPa(すなわち、大気圧)より大きいことが好ましく、流量は1〜100L(Normal)/minが好ましく、排出効率や中空糸膜の損傷を考慮すると、20〜50L(Normal)/minがより好ましい。さらに、気体ブロー時の圧力変動の頻度は1〜3回/secが良く、変動させながら5〜60sec、不十分な場合は30〜60secの範囲で続けて行なうのが好ましい。また、特に500mL/hr/mmHg以上の透水性の高い膜については、中空糸膜外表面(血液処理用途の中空糸膜においては、通常透析液通液側)の圧力を上記気体ブロー時の圧力変動範囲の最小圧力より低くすると、中空糸膜中空部のエアロックを形成する液体が、中空糸膜中空部から中空糸膜を介して中空糸膜外表面側へ移動し易くなり、エアロック解消に効果的であることから、より好ましい。
【0036】
同様の理由で、中空糸膜は内表面側が密で、外表面側が粗な非対称構造が好ましい。具体的には内表面近傍の空隙率は50%未満であり、外表面近傍の空隙率は50%以上が好ましい。また、内表面近傍の空隙率が低すぎると透水性などの性能が低下するので、5%以上が好ましい。外表面近傍の空隙率が高すぎると中空糸膜強度が低下するので、95%以下が好ましい。ここで、近傍とは表面から2μmまでの深さ領域のことを指す。
【0037】
空隙率の算出方法としては、中空糸長手方向に対して垂直方向に中空糸長手方向の厚みが100nm以下の超薄膜切片を作成し、中空糸膜断面(中空糸長手方向と垂直の方向の断面)を透過型電子顕微鏡で1万倍に拡大した画像を撮る。画像のコントラストを上げるために、適宜、染色を行っても良い。また、透過型電子顕微鏡はサンプルの投影像であるから、観察する切片が厚くなるほど、空隙率は低く算出される。したがって、切片厚みは極力薄くすることが好ましい。三次元透過型電子顕微鏡によるトモグラフィ法により、0切片像を得るのは、好適な方法である。得られた電子顕微鏡の画像から表面近傍の空隙率を算出する。空隙率を算出する領域は、表面を0点として、厚み方向に2μm、表面と平行方向に任意の位置の幅5μmの長方形領域とする。
【0038】
空隙率は、画像処理装置により、空隙部分の総面積=S1と2μm×5μmの面積=S2を求めて、次式より空隙率を計算する。
空隙率 (%) = (S1 / S2) × 100
なお、表面が湾曲していたり、凹凸がある場合は、最も凹の部分と最も凸の部分の中間点を0点とする。孔が膜内部に連通し、最も凹んでいる部分が特定出来ない場合は、孔を形成する構造体から延長線を引くこととする。また、表面が不明瞭な場合、膜中のコントラストの最も高い部分と、膜ではない箇所のコントラストが最も低い部分の中間値を表面とする。
【0039】
さらに、外表面の孔径や開孔率が小さすぎるとエアが抜けにくいので、孔径は0.1μm以上、さらには0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。開孔率は、6%以上、さらには10%以上が好ましい。開孔率と平均孔径は下記の方法で算出する。まず、電界放射型走査型電子顕微鏡(たとえば日立社製、S−800)で中空糸膜外表面の1000倍画像を撮影し、Matrox Inspector2.2(Matrox Electronic Systems Ltd.)等を用いて画像処理を行う。この場合は外表面の孔を白く反転させ、孔数と各孔のピクセル数を測定し、画像の解像度から孔面積を求め、孔の直径を算出する。この数値から算術平均を求めて平均孔径とする。
【0040】
また、中空糸膜にPVPなどの親水性高分子が含まれている場合、エアロックを外表面に移動しやすくするために、中空糸膜中の親水性高分子量は低いほうがよい。一方で、中空糸膜内表面が疎水的であると、血液適合性が低下する。以上のことから、中空糸膜中の親水性高分子量は、5重量%以下、好ましくは3重量%以下が好ましい。中空糸膜内表面の親水性高分子量は、15重量%以上、好ましくは20重量%以上、さらには25重量%以上が好ましい。表面の親水性高分子量はX線光電子分光法(XPS)によって算出することができる。
【0041】
なお、通液時における中空糸膜モジュール内の液体の流れを径方向中心部と外周部とで比較すると、中心部が速く、外周部が遅い等の不均一な場合、プライミング時に流速の遅い箇所で特にエアロックを形成する液体を押し出すことが出来ないことがある。そこで、本発明においては、中空糸膜開口部からヘッダー天面までの距離が2mm以上、さらには、ヘッダー天面の勾配を2°以上とすることが好ましい。また、中空糸膜開口部は端面上に均一に真円状に分散し、中空糸占有面積は40%以上であることが好ましい。中空糸占有面積は、中空糸膜のモジュールにおける充填率として、次式で表される。
充填率(%) = (中空糸外径×1/2)× π × (中空糸本数) ÷ (端面積) × 100
また、中空糸束を固定した隔壁端面においてヘッダー内面外周から中空糸束の最外糸の包絡線までの径方向距離の最大値と最小値との平均クリアランス値C(図2におけるCmax − Cmin)がC < 2.0mmかつCmin < 2.0mmとすることで、内蔵する中空糸膜に均一に液体を流すことができ、好ましい。さらに、ヘッダー部での処理液の滞留による液流れ阻害の抑制を考慮すると、C ≦ 1.0mmかつCmin < 1.0mmであることが、より好ましく、C ≦ 0.5mmかつCmin < 0.5mmがさらに好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、圧力は全てゲージ圧を示すものである。
【0043】
糸内径200μmからなるポリスルホン系中空糸膜9500本を、長さ300mmで径40mmの、筒状の径外周方向に連通するノズル8,9を備えた胴部ケース材1に挿入した。端面4、5における中空糸が開口するようにポッティング材により隔壁を形成し、胴部ケース材端部にヘッダー部材6,7を装着することで中空糸膜モジュールとした。
【0044】
上記方法で得られた中空糸膜モジュールの膜内表面積(隔壁内の部分を除く)は1.6mであり、開口部端面の中空糸占有面積は65%、中空糸束を固定した隔壁端面においてヘッダー内面外周から中空糸束の最外糸の包絡線までの径方向距離の最大値と最小値との平均クリアランス値C(図2におけるCmax − Cmin)がC < 2.0mmかつCmin < 2.0mmの条件とし、中空糸膜開口部端面からヘッダー天面までの距離は2mm以上、かつ、ヘッダー天面の勾配は2°以上の条件とした。
【0045】
上記中空糸膜モジュールの中空糸膜中空部(血液通液側)の一端入り口2から他端出口3の方向へ水もしくは下記A〜Eに示す水溶液を流すことで中空糸膜を湿潤した後に、外部(透析液側)である中空糸膜の外表面と胴部ケース材との間に充填された水もしくは上記水溶液を、連通するノズル8,9から圧力0.2MPa、流量38L(Normal)/minで15secエアブローすることで、中空糸膜外表面から膜を介して中空糸中空部を通るように出口3から排出した。用いた水溶液を以下A〜Eに示す。これら水溶液を中空糸膜に通液することにより、PVP等の化合物が膜に固定化され、親水性が付与されるものである。実施例1、2、3、比較例1、2、3の全てについて、水もしくは水溶液を変えて同じ実験を繰り返した。
A.1wt%エタノール水溶液
B.PVP K−90の10ppm水溶液
C.ビニルピロリドンとビニルカプロラクタム共重合体であり、比率6:4(以下、VC64)の親水性ポリマー濃度10ppm水溶液
D.ビニルピロリドンとスチレン共重合体であり、比率6:4(以下、VS64)の親水性ポリマー濃度10ppm水溶液
E.ビニルピロリドンと酢酸ビニル共重合体であり、比率6:4(以下、VA64)の親水性ポリマー濃度10ppm水溶液
次に、中空糸外表面の圧力を0.2MPaに保持したまま、中空糸中空部に充填された水もしくは水溶液を血液通液側の一端2から他端3の方向へ圧力0.2MPa、流量1.5L(Normal)/minで30secエアブローすることで、中空糸膜中空部に充填された水もしくは水溶液を十分に排出した。このときの抱液率は290重量%、中空糸膜中の親水性高分子量は2重量%であった。追加してエアブロー条件を変更し、次の評価を実施した。
評価1.液充填時間(容易に排出・解消するエアロック量の評価)
上記手順で得られた中空糸膜モジュールについて、流量200mL/minで水を5min通す際に、中空糸膜モジュールの一端入り口2から他端出口3の方向へ水が充填されるまでの時間(以下、水充填時間と称す。)を評価した。
評価2.泡抜け時間(容易に排出・解消するエアロック量の評価)
完全に水が中空糸膜モジュールに充填されてから(水充填時間を泡発生開始としてから)出口側中空糸開口部端面5から気泡の発生が止まるまでの時間(以下、泡抜け時間)を評価した。
【0046】
なお、本実施例で用いた中空糸膜モジュールの血液側容量は94mLであり、流量200mL/minで通水した場合、理論上では水充填時間は28.2secである。
評価3.残留気泡量(排出・解消が困難なエアロック量の評価)
静置した状態で流量200mL/minで水を5min通した後の中空糸膜モジュールを、さらに流量500mL/minで通水しながら、通水に使用する血液回路の入り口側チューブを2秒間鉗止で止め、その後10秒間開放を繰り返した時に、連続して10回中空糸膜モジュール出口側端面から新たに気泡が発生しなくなるまでの間に発生した気泡を水上置換により捕集し、気泡体積(以下、残留気泡量)を評価した。
なお、上記評価1−3において、通水時には、入り口2を鉛直方向下向き、出口3を鉛直方向上向きで実施した。
(実施例1)C = 1.0mmかつCmin = 1.0mm、中空糸膜開口部端面からヘッダー天面までの距離は2mm、かつ、ヘッダー天面の勾配は2°としたものを上記手順にて作成し、追加して中空糸外表面の圧力を0.2MPaに保持したまま、中空糸膜モジュールの血液通液側の一端入り口2から他端出口3の方向へ最大圧力0.2MPa、最小圧力0.1MPa、流量20L(Normal)/minでエアを1回/secの頻度で5secブロー(5秒間で5回エアブローの最大圧/最小圧、すなわち0.5秒最大圧ブローし、0.5秒最小圧ブロー)した。
(実施例2)実施例1の中空糸膜モジュールの中空糸外表面の圧力を大気圧下とし、実施例1と同様のエアブローを実施した。
(実施例3)C = 0.5mmかつCmin = 0.5mm、中空糸膜開口部端面からヘッダー天面までの距離は4mm、かつ、ヘッダー天面の勾配は6°としたものを上記手順にて作成し、追加して中空糸外表面の圧力を大気圧下とし、実施例1もしくは2と同様のエアブローを実施した。
(比較例1)C = 2.0mmかつCmin = 2.0mm、中空糸膜開口部端面からヘッダー天面までの距離は2mm、かつ、ヘッダー天面の勾配は2°としたものを上記手順にて作成し、追加では何も実施しなかった。すなわち、エアブローを実施しなかった。
(比較例2)実施例1の中空糸膜モジュールの血液通液側の一端入り口2から他端出口3の方向へ最大圧力0.2MPa、流量20L(Normal)/minで圧力変動させずに一定圧で5secブローした。
(比較例3)実施例1の中空糸膜モジュールの血液通液側の一端入り口2から他端出口3の方向へ最大圧力0.2MPa、流量100L(Normal)/minで圧力変動させずに一定圧で60secブローした。
【0047】
実施例1、2、3および比較例1、2、3に記載の方法で得られた中空糸膜モジュールに窒素ガスを圧力0.2MPa、流量50NL/minで、血液通液側の一端入り口2から他端出口3の方向へ、かつ、透析液側の一端入り口8から他端出口9の方向へ30sec流して封入し、密栓した後に、25kGyの線量にてガンマ線滅菌を行なった。
その後、評価1−3を行なった。評価結果は以下の通り。上記A〜Eに示す水溶液を通液してエタノール、PVP、VC64、VS64、VA64が中空糸膜に添加されたモジュールについても、圧力変動を付与しつつ間欠的に気体ブローを行ったモジュールは、残留気泡量、泡抜け時間が十分少ないことを確認した。
【0048】
なお、比較例2、3のようにブロー流量や時間を増加させると、一部で水や1wt%エタノール水を通液して中空糸膜に添加したモジュールについては、残留気泡量は1.0mL以下を達成したが、泡抜け時間はt < 30sec未満とならなかった。残留気泡量の低減については、高流量ブローによりエアロックを形成する液体膜に圧力が加わり、また、透水性の高い中空糸膜であったことも寄与して、ある程度エアロックを形成する液体膜中の水分が中空糸膜へ押し込められて薄くなり、一部が解消したためと推定される。一方で、泡抜け時間については、連続ブローにより液体膜の流動性は生じることなく、エアロックの強度が低下したのみでエアロックの排出ができていなかったためと考えられる。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【符号の説明】
【0052】
1 胴部ケース材
2 入り口
3 出口
4、5 端面
6、7 ヘッダー部材
8、9 筒状の径外周方向に連通するノズル
10 中空糸膜端部
11 包絡線
12 中空糸膜端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抱液率が10〜600重量%であり、内径が100〜300μmの中空糸膜が内蔵され、200mL/minの流量で一端入り口から他端出口へ通水した際、該中空糸膜モジュールの他端出口からの水流出時を開始とし、出口側中空糸膜束端面から泡の発生が止まるまでの経過時間tがt < 30secであり、かつ、前記通水を5min行なった後の中空糸膜中空部に残留する気泡量が1.0mL以下であることを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記中空糸膜モジュールの中空糸膜開口部端面からヘッダー天面までの距離が2mm以上、かつ、ヘッダー天面の勾配を2°以上とすることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記中空糸膜モジュールの開口部端面の中空糸占有面積の割合が40%以上であり、該中空糸束を固定した隔壁端面においてヘッダー内面外周から中空糸束の最外糸の包絡線までの径方向距離の最大値Cmaxと最小値Cminとの平均クリアランス値C(=Cmax − Cmin)がC < 2.0mmかつCmin < 2.0mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記中空糸膜モジュールが人工腎臓として用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
水溶液を中空糸膜中空部に充填し、中空糸膜を湿潤もしくは吸湿させる工程を有し、前記工程の後に中空糸膜モジュールの一端入り口から他端出口へ気体ブローを行なう中空糸膜モジュールの製造方法において、前記気体ブローの圧力を変動させることを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記気体ブローの中空糸膜中空部における圧力変動範囲の最小圧力がモジュール内の中空糸膜外部における圧力より大きいことを特徴とする請求項5に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−125537(P2012−125537A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67358(P2011−67358)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】