説明

中空糸膜モジュール及びその製造方法

【課題】 長期間、安定した濾過運転ができる中空糸膜モジュールの提供。
【解決手段】 ケースハウジングとケースハウジング内に収容された中空糸膜束を有し、前記ケースハウジングの内壁面と前記中空糸膜束の少なくとも一端部が接着剤で接着一体化されている中空糸膜モジュールであり、前記中空糸膜束の端部における湿潤剤量が、膜1g当たり0.6g以下である中空糸膜モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液出入口を有するケースハウジング内に所要数の中空糸膜束を収容し、ケースハウジング内への液(原水、透過水等)の出入りを前記液出入口のみにより行うタイプの中空糸膜モジュールがあり、このようなタイプのものは、比較的大型のモジュールに適用されることが多い。
【0003】
しかし、このようなタイプの中空糸膜モジュールを用いてろ過運転するとき、液出入口から逆圧洗浄水等が出入りすることになるため、液出入口に面した位置にある中空糸膜束のみが、逆圧洗浄水等の出入りに伴う圧力を受け続ける結果、複数の中空糸膜束が揺れて、互いに衝突を繰り返すことになる。
【0004】
このため、ケースハウジングと中空糸膜束は、複数の中空糸膜束が揺れ動くことがないように、必要に応じて支持部材を介して、接着剤で接着一体化されている。
【0005】
中空糸膜束は、製造後からケースハウジングに収容するまでの間、湿潤剤として湿潤剤を含む水中に浸漬した後、熱風乾燥後に乾燥状態で保管されており、この保管中、中空糸膜束中に一定量の湿潤剤が含有されている。
【0006】
そして、このように一定量の湿潤剤が含有された中空糸膜束を用いて、中空糸膜モジュールを製造した場合、モジュール内の中空糸膜束は一定量の湿潤剤を含んだ状態のままで使用されることになる。
【0007】
中空糸膜モジュールを使用するとき、使用状況に応じて加熱殺菌を頻繁に行う場合があるが、このときに、中空糸膜間の接着部にひびが入り割れる(接着部に隙間ができる)ことがある。
【0008】
特許文献1には、端部付近に比して、それ以外の部分に膜乾燥阻止剤が多く存在するモジュールと、阻止剤溶液(A)に浸漬後、膜束の少なくとも端部を水洗して阻止剤を洗い流し、ついで端部のみを低濃度の阻止剤溶液(B)で処理する中空糸膜モジュールの製造方法が開示されている。
【0009】
特許文献2には、膜孔保持剤であるグリセリンやPEGの中空糸への付着量が多いと、そのOH基とウレタン接着剤が反応しウレタンオリゴマーが溶出するので、製造時にグリセリン浸漬槽から乾燥工程に至る間、中空糸引取りローラー上に付着したグリセリンをローラー状のスポンジで拭き取り、過剰のグリセリンを除去する人工透析用の中空糸膜モジュールの製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−271451号公報
【特許文献2】特開2001−190934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、湿潤剤を含む中空糸膜モジュールを加熱殺菌処理した場合でも、中空糸膜間の接着部に割れが生じない中空糸膜モジュール及びその製造方法を提供することを課題とする。特許文献1、2には、これらの課題は開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記したような中空糸膜間の接着部に割れが生じるという問題は、中空糸膜束に含まれるグリセリンの含有量が、特定量より多い場合に発生しやすい傾向があることを見出した。
【0012】
本発明は、課題の解決手段として、
ケースハウジングとケースハウジング内に収容された中空糸膜束を有し、前記ケースハウジングの内壁面と前記中空糸膜束の少なくとも一端部が接着剤で接着一体化されている中空糸膜モジュールであり、
前記中空糸膜束の端部における湿潤剤量が、膜1g当たり0.6g以下である中空糸膜モジュールを提供する。
【0013】
0.6gより多いと、中空糸膜と膜の間の接着部に割れが生じやすくなる。より好ましくは0.4g以下である。
【0014】
湿潤剤としては、グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、エチレングリコール、プロピレングリコール、アミルアルコール等が挙げられるが、その中でも、グリセリンが好ましい。
【0015】
本発明は、他の課題の解決手段として、ケースハウジングとケースハウジング内に収容された中空糸膜束を有し、前記ケースハウジングの内壁面と前記中空糸膜束の少なくとも一端部が接着剤で接着一体化されている中空糸膜モジュールの製造方法であり、
前記中空糸膜束が、ケースハウジングの収容前には湿潤剤としてのグリセリンを含有しているものであり、ケースハウジングに収容前において少なくとも接着剤で接着される中空糸膜束端部を水洗して、端部におけるグリセリン含有量が、膜1g当たり0.6g以下に低減される工程を含む、中空糸膜モジュールの製造方法を提供する。
【0016】
また、他の課題の他の解決手段として、少なくとも接着剤で接着される中空糸膜束端部が水洗される工程が、膜束端部を水に浸漬した後、乾燥するものである、請求項4記載の中空糸膜モジュールの製造方法を提供する。
【0017】
このようにケースハウジングと接着剤で接着される中空糸膜束の端部を水洗し、グリセリン含有量を低減することにより、加熱殺菌による熱を受けた場合でも、中空糸膜同士の間の接着部にひびが入り割れることがない。
【0018】
中空糸膜束の水洗方法としては、流水で洗い流す方法でもよいが、水の入った容器中に、中空糸膜束の少なくとも接着剤で接着される端部又は全体を浸漬する方法が好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の中空糸膜モジュールは、予め中空糸膜束のグリセリン含有量が低減されたものを用いているため、中空糸膜モジュールを加熱殺菌した場合であっても、中空糸膜同士の間の接着部に割れ(隙間)が生じることがない。
【0020】
よって、本発明の中空糸膜モジュールは、ろ過運転の合間に加熱殺菌処理を繰り返した場合であっても、長期間安定したろ過運転を継続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の中空糸膜モジュールの構造自体は公知のものであり、例えば、特開2004−89800号公報の図1〜図5に示すような構造にすることができる。
【0022】
中空糸膜束は、直径が1mm前後〜数mm程度の中空糸膜が数百〜数千本束ねられたものであり、中空糸膜の材質は特に制限されず、公知のものを用いることができ、好ましくは耐熱性の高いポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂が用いられる。
【0023】
中空糸膜束は、製造後からケースハウジングに収容するまでの間、湿潤剤としてグリセリンを含む水中に浸漬した後、熱風乾燥後に乾燥状態で保管される。このため、この保管中に中空糸膜束中に一定量のグリセリンが含有保持されている。そして、中空糸膜束に一定量含有保持されたグリセリンが、加熱殺菌時の熱により揮発乃至は滲み出すことにより、中空糸膜と膜の間の接着部に割れを引き起こすものと考えられる。
【0024】
よって、本発明では、少なくとも接着剤で接着される中空糸膜束の端部を水洗することで、グリセリン含有量を、膜1g当たり0.6g以下、好ましくは0.4g以下に低減させる。
【0025】
水洗方法としては、少なくとも接着剤で接着させる中空糸膜束の端部又は中空糸膜束全体を水中に浸漬する方法が好ましい。
【0026】
水中に浸漬するときの条件は、水温5〜30℃、好ましくは10〜25℃で、10秒〜2時間、好ましくは20秒〜60秒が良い。
【0027】
水中に浸漬しているとき、水を攪拌機で攪拌する方法、水にエアー吹き込む方法、水を循環させて流れを形成する方法、ホース等で流水を吹き付ける方法、及びこれらの方法を組み合わせた方法等を併用して、洗浄効率を高めることもできる。
【実施例】
【0028】
実施例1
内径0.8mm、外径1.3mm、長さ1230mmのポリエーテルサルホン系中空糸2100本からなる中空糸膜束を、30%のグリセリン水溶液に40℃で4秒間浸漬後、熱風乾燥した。
【0029】
この中空糸膜束のグリセリン含有量は、中空糸膜1g当たり1.03gであった(グリセリン含有量は、次式:
(中空糸膜総質量(g)−中空糸膜絶乾質量(g))/中空糸膜絶乾質量(g)、から求めた。
【0030】
次に、上記中空糸膜束の両端部200mmを水温16℃の水道水が満たされた容器に10分間浸漬した後取り出して、熱風乾燥機内で温度55℃、時間15時間の条件で乾燥した。このときの中空糸膜束両端部のグリセリン量は、中空糸膜1g当たり0.15gであった。
【0031】
次に、ケースハウジングとして、内径80mm、外径89mm、長さ1066mmのポリサルホン製のものを用意し、このケースハウジング内に水で浸漬処理した上記中空糸膜束を密に充填した。
【0032】
その後、ケースハウジングの上下の開口部付近と中空糸膜束の両端部の接触面(それぞれ長さ30mmずつ)を、遠心シール機(東邦機械工業(株)社製,横型遠心成型機)により、エポキシ系接着剤で接着封止した。
【0033】
作製した中空糸膜モジュールを用いて、以下の耐久性試験を実施した。耐久性評価は98℃の熱水を15分間通水した後、15℃の水を15分間通水する工程を1回とし、この工程を繰り返した。そして、中空糸膜モジュールの中空糸膜同士の間の接着部に割れ(隙間)が生じるかの評価を行った結果、200回目でも中空糸膜同士の間の接着部には割れ(隙間)が見当たらなかった。
【0034】
実施例2
中空糸膜束両端部のグリセリン量が中空糸膜1g当たり0.57gである以外は実施例1と全く同じにして中空糸膜モジュールを作製した。耐久性評価も実施例1と同条件で実施した結果、200回目でも中空糸膜と膜の間の接着部に割れ(隙間)が見当たらなかった。
【0035】
実施例3
中空糸膜束両端部のグリセリン量が中空糸膜1g当たり0.36gである以外は実施例1と全く同じにして中空糸膜モジュールを作製した。耐久性評価も実施例1と同条件で実施した結果、200回目でも中空糸膜と膜の間の接着部に割れ(隙間)が見当たらなかった。
【0036】
実施例4
中空糸膜束両端部のグリセリン量が中空糸膜1g当たり0.05gである以外は実施例1と全く同じにして中空糸膜モジュールを作製した。耐久性評価も実施例1と同条件で実施した結果、200回目でも中空糸膜と膜の間の接着部に割れ(隙間)が見当たらなかった。
【0037】
比較例1
中空糸膜束のグリセリン量が、中空糸膜1g当たり1.03gである以外は実施例1と全く同じにして中空糸膜モジュールを作製した。耐久性評価を実施例1と同条件で実施した結果、100回目以内で中空糸膜と膜の間の接着部に割れ(隙間)が確認された。
【0038】
比較例2
中空糸膜束のグリセリン量が、中空糸膜1g当たり0.87g/gポリマーである以外は実施例1と全く同じにして中空糸膜モジュールを作製した。耐久性評価を実施例1と同条件で実施した結果、100回目以内で中空糸膜と膜の間の接着部に割れ(隙間)が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースハウジングとケースハウジング内に収容された中空糸膜束を有し、前記ケースハウジングの内壁面と前記中空糸膜束の少なくとも一端部が接着剤で接着一体化されている中空糸膜モジュールであり、
前記中空糸膜束の端部における湿潤剤量が、膜1g当たり0.6g以下である中空糸膜モジュール。
【請求項2】
湿潤剤量が、膜1g当たり0.4g以下である中空糸膜モジュール。
【請求項3】
湿潤剤がグリセリンである、請求項1又は2記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
ケースハウジングとケースハウジング内に収容された中空糸膜束を有し、前記ケースハウジングの内壁面と前記中空糸膜束の少なくとも一端部が接着剤で接着一体化されている中空糸膜モジュールの製造方法であり、
前記中空糸膜束が、ケースハウジングに収容前には湿潤剤としてのグリセリンを含有しているものであり、ケースハウジングに収容前において少なくとも接着剤で接着される中空糸膜束端部を水洗して、端部におけるグリセリン含有量が、膜1g当たり0.6g以下に低減される工程を含む、中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
少なくとも接着剤で接着される中空糸膜束端部が水洗される工程が、膜束端部を水に浸漬した後、乾燥するものである、請求項4記載の中空糸膜モジュールの製造方法
【請求項6】
湿潤剤がグリセリンである、請求項4又は5記載の中空糸膜モジュールの製造方法。



【公開番号】特開2006−247444(P2006−247444A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63450(P2005−63450)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(594152620)ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社 (104)
【Fターム(参考)】