説明

中空糸膜モジュール及びその製造方法

【課題】 封止剤の吸い上がりを抑制することにより、加湿に寄与する膜面積の低減が抑制される中空糸膜モジュール及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ケース内に複数の中空糸膜を収容する工程と、前記中空糸膜の端部付近において、前記中空糸膜間および前記中空糸膜と前記ケースの内壁面との間に液状の封止剤を充填し、該封止剤が硬化することによって前記複数の中空糸膜を前記ケース内に封止固定する工程と、を有し、前記中空糸膜は、前記ケース内に収容される前に、前記封止剤によって封止固定される領域以外の領域において、予め膜表面に撥水処理が施されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜の膜分離作用を利用して、気体の加湿、除湿、分離、ならびに液体の分離等を行う中空糸膜モジュール及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、イオン交換膜の保湿のため、反応ガス(水素等の燃料ガス、酸素等の酸化剤ガスなど)を加湿して運転する必要がある。この加湿手段としては、加湿用の中空糸膜モジュールを使用して燃料電池から排出される湿潤反応排ガスにより燃料電池に供給する反応ガスを加湿する方法が用いられている。
【0003】
従来より、この種の中空糸膜モジュールとしては、例えば、図9(a)に示すようなものが知られている。この中空糸膜モジュール101は、円筒形状のケース102と、このケース102内に装填された複数の中空糸膜103と、ケース102の両端部を封止するとともに中空糸膜103の両端部を固定する封止固定部104とを有している。
【0004】
このような中空糸膜モジュール101は以下のように製造される。すなわち、まずケース102内に複数の中空糸膜103を装填する。次に、そのケース102を図中のX−X軸を中心に回転させながら、ケース両端部に設けられた不図示の連通孔より封止剤を注入する。回転により発生する遠心力によって封止剤はケース両端部に集中し、図9(b)に示すように、封止剤が中空糸膜103間の隙間および中空糸膜103とケース内壁面105との間の隙間に充填される(遠心法)。そして、封止剤が硬化した後にその端部を切断し、中空糸膜103の両開口端を露出させる。
【0005】
ところで、上記構造の中空糸膜モジュール101にあっては、封止剤を充填する際に中空糸膜103間および中空糸膜103とケース内壁面105との間で表面張力による封止剤の吸い上げが生じ(毛管現象)、封止剤が封止剤充填領域からはみ出して、中空糸膜の加湿に寄与する有効膜面積が低下してしまうという問題があった(図9(c))。
【0006】
ここで、固体高分子型燃料電池の用途として最近では、例えば、モバイル用途向けの小出力タイプの燃料電池が提案されている。この種の燃料電池は、発電量が総じて小さいことから、供給される反応ガス流量も少なくなるため、燃料電池自体の小型化が最大の課題となっており、これに使用される加湿用の中空糸膜モジュールも極力小型のものが要求されている。
【0007】
このような小型の中空糸膜モジュールではモジュールの寸法形状に制約があるため、十分な加湿効率を得るには有効膜面積の確保が重要となる。したがって、このような封止剤の吸い上がりによる有効膜面積の低下は、小型の中空糸膜モジュールにおいては特に影響が大きい問題である。
【0008】
封止剤の吸い上がり対策としては従来より、ケースの封止部の空間をケース中央部よりも広くすることにより、中空糸膜とケース内壁面との間に適度な隙間を形成して封止剤の吸い上げを抑制する方法(特許文献1参照)や、中空糸膜を1本または複数本のブロックに分割することにより、中空糸膜間に隙間を形成して封止剤の吸い上げ等を抑制する方法(特許文献2参照)などが提案されている。
【特許文献1】特開2004−24932号公報
【特許文献2】実案登録第2596001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来技術による対策ではモジュールケース内に空間的な制約が生じることになるため、封止剤の吸い上がりを抑制することはできても、小型の中空糸膜モジュールにおいては、充填できる中空糸膜の本数が制限されることになり、結果的にモジュール全体の加湿効率が低下してしまう。
【0010】
本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、封止剤の吸い上がりを抑制することにより、加湿に寄与する膜面積の低減が抑制される中空糸膜モジュール及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明における中空糸膜モジュール製造方法は、
ケース内に複数の中空糸膜を収容する工程と、
前記中空糸膜の端部付近において、前記中空糸膜間および前記中空糸膜と前記ケースの内壁面との間に液状の封止剤を充填し、該封止剤が硬化することによって前記複数の中空糸膜を前記ケース内に封止固定する工程と、を有し、
前記中空糸膜は、前記ケース内に収容される前に、前記封止剤によって封止固定される領域以外の領域において、予め膜表面に撥水処理が施されることを特徴とする。
【0012】
このように、中空糸膜の膜表面に撥水処理を施しておくことにより、封止剤の充填領域以外の領域において中空糸膜と封止剤との親和性が低下して、充填された封止剤が吸い上がり現象によって充填領域からはみ出すのを抑制することができる。
【0013】
前記複数の中空糸膜は、端部が結束され、結束部端面で中空糸膜の中空内部が開口する中空糸膜束として前記ケース内に収容され、
前記ケースは、前記中空糸膜の中空内部を通る経路用の第1開口部と、前記中空糸膜の膜外部を通る経路用の第2開口部とを備え、
前記液状の封止剤は、前記中空糸膜束の前記結束部よりも内側に注入され、
前記結束部は、前記液状の封止剤が前記中空糸膜束の前記結束部端面側に流出するのを防止し、
前記ケースは、前記液状の封止剤の注入口及び排出口を備え、硬化した前記液状の封止剤により該注入口及び該排出口が塞がれ、
前記中空糸膜は、前記液状の封止剤が注入される領域よりも内側の領域において、膜表面に前記液状の封止剤との親和性のない又は小さい材料が塗布されることにより撥水処理を施されるのも好適である。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明における中空糸膜モジュールは、
複数の中空糸膜によって形成される中空糸膜束と、該中空糸膜束を収容するケースとを備える中空糸膜モジュールであって、
ケース内壁と前記中空糸膜間との間に充填された液状の封止剤が硬化することによって形成される、前記中空糸膜束を前記ケース内に封止固定する中空糸膜束固定部と、
前記複数の中空糸膜を結束する結束部であって、結束部端面において前記中空糸膜の中空内部を開口し、かつ、前記液状の封止剤が前記結束部端面側に流出するのを防止する結束部と、を備え、
前記中空糸膜束は、前記ケースに収容される前に、前記液状の封止剤によって封止固定される領域以外の領域において、予め膜表面に撥水処理が施されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明により、封止剤の吸い上がりを抑制することができるので
、加湿に寄与する膜面積の低減を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0017】
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施例に係る中空糸膜モジュールについて説明する。図1(a)は、本実施例に係る中空糸膜モジュールの模式的斜視図である。図1(b)は、図1(a)において矢印Aの方向から見た本実施例に係る中空糸膜モジュールの模式的平面図である。図1(c)は、図1(a)において矢印Bの方向から見た本実施例に係る中空糸膜モジュールの模式的正面図である。図2(a)は、本実施例に係る中空糸膜モジュールの図1(c)のC−C断面の模式図である。図2(b)は本実施例に係る中空糸膜モジュールの図1(b)のD−D断面の模式図である。
【0018】
本実施例に係る中空糸膜モジュール1は、中空糸膜束2と、ケース3と、を備える。
【0019】
中空糸膜束2は、複数の中空糸膜4を束ね、各中空糸膜4の両端面を開口した状態で、その両端部を例えばシリコン、ウレタン等の柔軟性のある弾性材料で結束(結束部5)している。
【0020】
略六面体形状のケース3には、流体を中空糸膜4の膜内部に流通させるための一対の第1開口部61、62と、流体を中空糸膜の膜外部に流通させるための一対の第2開口部71、72とが設けられている。
【0021】
ケース3には中空糸膜モジュール1を燃料電池等の取付相手(図示せず)に取付けるためのピン穴8が設けられており、該ピン穴8に通したネジ等により、中空糸膜モジュール1と取付相手とを積層して一体に組付け締結することができる。
【0022】
本実施例においては、取付相手への取付手段としてピン穴を用いているが、例えば、モジュールケースに設けた凸部と取付相手に設けた凹部とを嵌合させることにより取付ける等の、他の位置決め手段を用いることも可能である。
【0023】
さらに、開口部と取付用ピン穴とが、モジュールケース3に一体的に設けられているので、これらの位置精度を高くすることができ、また、位置精度が高いことにより中空糸膜モジュール1の開口部と取付相手側のガス導入・排出口とを、ガス配管等を介さずに直接連結することができる。したがって、部材点数の削減、ガス流路の密封性の向上を図ることができ、更には、省スペース、モジュールの小型化にも寄与する。
【0024】
弾性材料からなる結束部5は、第1開口部61と第2開口部71との間、及び第1開口部62と第2開口部72との間に配置されている。
【0025】
結束部5と第2開口部71、72との間には、例えば、エポキシ、ウレタン等の液状接着剤(封止剤)が充填され、液状接着剤の硬化により中空糸膜束2はケース内に封止固定される(固定部9)。
【0026】
ここで、中空糸膜束2の各中空糸膜4は、液状接着剤が充填される領域以外の領域、すなわち、液状接着剤が充填される領域よりも内側の領域(固定部9が形成される領域より
も内側の領域)において、膜表面に液状接着剤との親和性のない又は小さい材料、例えば、フッ素系離型剤を塗布することによって予め撥水処理が施されている。したがって、撥水処理を施されている領域においては、中空糸膜4の膜表面と液状接着剤との親和性が低下しているので、充填された液状接着剤が吸い上がり現象により充填領域よりも内側にはみ出すのが抑制され、加湿に寄与する膜面積が低減されるのが抑制される。
【0027】
特に、有効膜長が数cmとなるような小型の中空糸膜モジュールでは、十分な加湿効率を得るためには有効膜面積を十分確保することが必要となる。したがって、このように液状接着剤の吸い上がりを抑制することにより、小型の中空糸膜モジュールにおいて十分な加湿効率を得るために必要とされる膜面積の確保が可能となる。
【0028】
なお、モジュールの使用時においては、液状接着剤へのダメージの少ない溶剤、例えば、メタノールやエタノール等により予め膜表面を洗浄して撥水処理剤を除去しておくか、あるいは、ポリビニルピロリドンやポリエチレングリコール等の親水性化合物の水溶液で親水化処理を施しておくと好ましい。
【0029】
ケース3の内部空間は、結束部5及び固定部9により、ケース内壁面と中空糸膜の中空内部が開口した結束部5の端面とにより形成される空間と、ケース内壁面と中空糸膜4の膜外壁面と固定部9とにより形成される空間とに分割される。
【0030】
こうして、第1開口部61、62と、ケース内壁面及び結束部端面により形成される空間と、中空糸膜4の中空内部とにより、第1の経路が形成され、第2開口部71、72と、ケース内壁面、中空糸膜膜外壁面及び固定部9とにより形成される空間とにより、第2の経路が形成される。
【0031】
次に、以上のように構成された中空糸膜モジュールの使用方法について説明する。
【0032】
まず、水蒸気を含む気体を、一方の第1開口部61からケース3内部に送り込む(矢印E)。ケース3内部に送り込まれた気体は、中空糸膜4の中空内部を通って、他方の第1開口部62から排出される。
【0033】
一方、加湿対象気体を、一方の第2開口部71からケース3内部に送り込む(矢印F)。ケース3内部に送り込まれた気体は、中空糸膜4の膜外部を通って、他方の第2開口部72から排出され、燃料電池等の取付相手内へ送り込まれる。
【0034】
このようにすることによって、水蒸気を含んだ気体が中空糸膜4の中空内部を通過する過程で、気体に含まれる水分が膜を透過して中空糸膜4の膜外部に排出される。従って、加湿対象気体は、中空糸膜4の膜外部を通る過程で加湿されて、取付相手内へ送り込まれることになる。
【0035】
なお、これまでの説明では、中空糸膜4の中空内部側に水蒸気を含む気体を流し、中空糸膜4の外部側に加湿対象気体を流す場合を説明したが、これとは逆に、中空糸膜4の外部側に水蒸気を含む気体を流し、中空糸膜4の中空内部側に加湿対象気体を流すようにしても、加湿対象気体を加湿できることは言うまでもない。
【0036】
また、本実施例においては、中空糸膜の膜分離作用を利用した気体の加湿を行う場合について説明したが、該膜分離作用を利用した気体の除湿、流体中の異物の除去、分離等を行うことも可能である。
【0037】
次に、本発明の実施例に係る中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜束の製造方法につ
いて図3〜図5を参照して説明する。図3は、本実施例に係る中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜束の製造に使用する治具の模式図である。図4は、中空糸膜束の結束部の中空糸膜開口端面の模式的斜視図である。図5は、本実施例に係る中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜束の模式的製造工程図である。
【0038】
図3に示すように、中空糸膜製造用冶具は、冶具本体12と冶具蓋13とからなる。当該冶具は、例えば、アクリル樹脂系の材料からなる。
【0039】
冶具本体12及び冶具蓋13にフッ素系離型剤を塗布し、中空糸膜4を複数束ねて封入する(図5(a))。治具蓋13はタッピングネジ14等で治具本体12に固定する。
【0040】
中空糸膜4を治具の端面で切断する。中空糸膜4を揃えて、その両端をエポキシ等の接着剤で封止する(封止部15)。
【0041】
接着剤の硬化後、シリコン挿入用のノズル16を一方のポッティング箇所に固定し、治具を回転式のポッティング装置(図示せず)に固定する。
【0042】
ポッティング装置を起動し、シリコンを冶具本体12と冶具蓋13との間に流し込み、シリコンの充填を行う(図5(b))。余分なシリコンは脇に流れ出る(矢印G)。
【0043】
30分間室温で回転させた後、60℃の恒温槽内にて3時間保持する。
【0044】
反対側も同様にシリコンポッティングを行う。
【0045】
冶具蓋13を取り外し、封止部15端面付近をカッターで切断する。短冊を冶具本体12から取り出し、ポッティング部(結束部5)が2〜3mmとなるようにカッターで切断する(図5(c))。治具はアクリル製のケースであり、また、離型剤の効果により、ポッティング部が冶具にくっつくことなく中空糸膜束2を取外すことができる。
【0046】
このようにして製造された中空糸膜束2の結束部5の端面を図4に示す。図に示すように、中空糸膜4の膜外壁間はポッティング剤により封止されており、端面において中空糸膜4の中空内部のみが開口している。
【0047】
次に、本発明の実施例に係る中空糸膜モジュールの製造方法について図6及び図7を参照して説明する。図6は、本実施例に係る中空糸膜モジュールの概略構成を説明する模式的斜視図である。図7は、本実施例に係る中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜束の模式的平面図である。図8は、本実施例に係る中空糸膜モジュールの模式的製造工程図である。なお、図8(a)は、中空糸膜束を収容する前のケース本体を示す模式的平面図であり、図8(b)は、ケース本体に中空糸膜束を収容した状態を示す模式的平面図であり、図8(c)は、ケース本体にケース蓋を接着した状態を示す模式的透視平面図である。
【0048】
略六面体のケース3は、ケース蓋31と、ケース本体32とからなる。ケース本体32は、中空糸膜束2を収容するための膜収容部22を有する。
【0049】
膜収容部22は、ケース蓋31との合わせ面方向に開口しており、ケース蓋31とケース本体32との接着により、中空糸膜束2を収容する空間をケース3内部に形成する。
【0050】
まず、上述の如く製造した中空糸膜束2の膜表面の液状接着剤が充填される領域以外の領域に液状接着剤の吸い上がり防止のための撥水処理を施す。具体的には、液状接着剤が充填される領域よりも内側の領域であって、図7中aで示す範囲の中空糸膜の膜表面に、
液状接着剤との親和性のない又は小さい材料、例えば、フッ素系離型剤(ダイキン工業株式会社製ダイフリーGA−6010(商品名))を塗布する。塗布はスプレー吹き付けや、はけ塗り等により行う。図7中bで示す範囲は、液状接着剤が充填される範囲であり、離型剤が塗布されないように、予めマスキング等を施しておく。
【0051】
以上のように撥水処理を施した中空糸膜束2をケース本体32の膜収容部22に収容し、ケース蓋31をケース本体32に接着する。
【0052】
中空糸膜束2の結束部5は、その外周面全体がケース3の内壁に密着して収容される。
【0053】
ケース3には、第2開口部71,72、液状接着剤の注入口10、液状接着剤の排出口11が、中空糸膜束2の結束部5の収容箇所よりも内側に設けられており、中空糸膜4の充填領域とケース3の外部とを連通している。
【0054】
第2開口部71は、中空糸膜束2の一方の結束部5の側に、第2開口部72は、中空糸膜束2の他方の結束部5の側に、それぞれ設けられる。注入口10は、一方の結束部5と第2開口部71との間、及び他方の結束部5と第2開口部72との間にそれぞれ1つずつ設けられる。排出口11は、各注入口10と第2開口部71、72との間にそれぞれ一対ずつ設けられる。膜収容部22の底面には、注入口10と排出口11との間に、液状接着剤の膜収容部22上への回り込みを助けるための溝92が設けられる。
【0055】
液状接着剤を注入口10からケース3内部に流し込む(矢印H)。流し込まれた液状接着剤は、中空糸膜4の開口端面側が結束部5により密封されているため、排出口11からオーバーフローすることになる(矢印I)。液状接着剤が排出口11からオーバーフローして排出口11が液状接着剤で満たされるまで、液状接着剤を流し込み、硬化させる。注入口10及び排出口11は硬化した接着剤により塞がれる(固定部9)。
【0056】
上述したように中空糸膜4の膜表面には撥水処理が施されているので、液状接着剤が充填される領域よりも内側の図8(c)中にaで示した範囲においては、中空糸膜4の膜表面と液状接着剤との親和性が低下している。したがって、充填された液状接着剤が吸い上がり現象によって充填領域よりも内側にはみ出すのを抑制でき、加湿に寄与する膜面積が低減されるのが抑制される。
【0057】
特に、有効膜長が数cmとなるような小型の中空糸膜モジュールでは、十分な加湿効率を得るためには有効膜面積を十分確保することが必要となる。したがって、このように液状接着剤の吸い上がりを抑制することにより、小型の中空糸膜モジュールにおいて十分な加湿効率を得るために必要とされる膜面積の確保が可能となる。
【0058】
なお、モジュールの使用時においては、液状接着剤へのダメージの少ない溶剤、例えば、メタノールやエタノール等により予め膜表面を洗浄して撥水処理剤を除去しておくか、あるいは、ポリビニルピロリドンやポリエチレングリコール等の親水性化合物の水溶液で親水化処理を施しておくと好ましい。
【0059】
このように、本実施例に係る中空糸膜モジュール1は、中空糸膜束2を予め作成しておき、これをモジュールケース3内に収容して液状接着剤で固定するときに、結束部5が液状接着剤の結束部端面側への流出を防止することにより製造されるため、従来のように、液状接着剤(封止剤)が硬化した後に、中空糸膜の中空内部を開口させるために、硬化した部分を切断する必要がない。
【0060】
従来は、中空糸膜の開口部を形成するために封止固定部で切断する等していたため、取
付相手の流入出口に適合する開口部を形成することが困難であった。そのため、取付相手の流入出口に適した開口部を備えたハウジングにモジュールを収納したり、該開口部を備えたヘッド等をモジュールの開口部に別途取付けたりする必要があった。しかし、本発明に係る中空糸膜モジュールは、取付相手の適した開口部をモジュールケース自体に予め設けることができるので、従来のように、モジュールを更にハウジングに収納したり、ヘッド等を取り付ける必要がなく、部材点数の削減、省スペース、モジュールの小型化を図ることができる。
【0061】
中空糸膜束2の結束部5は、その幅や高さが中空糸膜収容部22よりも小さいと、注入された液状接着剤が結束部5の端面側に漏れ出したり、逆に、収容部22よりも大き過ぎると、充填した中空糸膜4が潰れたり、収容部22に収まらない等の問題が生じる。このため、結束部5の幅や高さの寸法は、収容部22のそれよりも3〜15%、好ましくは5〜7%大きく設定される。
【0062】
結束部5の端面とケース3の内壁とによって形成される空間24は、ケース蓋31に設けられた第1開口部61、62を介してケース3の外部と連通している。したがって、中空糸膜4の中空内部は、空間24及び第1開口部61、62を介してケース3の外部と連通している。
【0063】
本実施例は、厚み方向で2分割されたケース蓋31とケース本体32とを貼り合わせる構成とし、ケース蓋31上に取付相手への取付用ピン穴8と開口部61、62とを形成しているため、取付位置に対する開口部の位置精度を高くすることができる。したがって、位置決め手段と気体流通の開口部とが別々の部材で構成されている従来タイプのモジュールにおいて生じていた、組付け時のズレ等による誤差の影響を受けることがない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明の実施例に係る中空糸膜モジュールの模式的説明図である。
【図2】図2は、本発明の実施例に係る中空糸膜モジュールの模式的一部拡大断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施例に係る中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜束の製造に使用する治具の模式図である。
【図4】図4は、中空糸膜束の結束部の中空糸膜開口端面の模式的斜視図である。
【図5】図5は、本発明の実施例に係る中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜束の模式的製造工程図である。
【図6】図6は、本発明の実施例に係る中空糸膜モジュールの概略構成を説明する模式的斜視図である。
【図7】図7は、中空糸膜束の模式的平面図である。
【図8】図8は、本発明の実施例に係る中空糸膜モジュールの模式的製造工程図である。
【図9】図9は、従来技術に係る中空糸膜モジュールの模式的断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 中空糸膜モジュール
2 中空糸膜束
3 ケース
31 ケース蓋
32 ケース本体
4 中空糸膜
5 結束部
61、62 第1開口部
71、72 第2開口部
8 ピン穴
9 固定部
10 注入口
11 排出口
11a、b 排出口
12 冶具蓋
13 冶具本体
14 タッピングネジ
15 封止部
16 ノズル
92 溝
22 膜収容部
24 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に複数の中空糸膜を収容する工程と、
前記中空糸膜の端部付近において、前記中空糸膜間および前記中空糸膜と前記ケースの内壁面との間に液状の封止剤を充填し、該封止剤が硬化することによって前記複数の中空糸膜を前記ケース内に封止固定する工程と、を有し、
前記中空糸膜は、前記ケース内に収容される前に、前記封止剤によって封止固定される領域以外の領域において、予め膜表面に撥水処理が施されることを特徴とする中空糸膜モジュール製造方法。
【請求項2】
前記複数の中空糸膜は、端部が結束され、結束部端面で中空糸膜の中空内部が開口する中空糸膜束として前記ケース内に収容され、
前記ケースは、前記中空糸膜の中空内部を通る経路用の第1開口部と、前記中空糸膜の膜外部を通る経路用の第2開口部とを備え、
前記液状の封止剤は、前記中空糸膜束の前記結束部よりも内側に注入され、
前記結束部は、前記液状の封止剤が前記中空糸膜束の前記結束部端面側に流出するのを防止し、
前記ケースは、前記液状の封止剤の注入口及び排出口を備え、硬化した前記液状の封止剤により該注入口及び該排出口が塞がれ、
前記中空糸膜は、前記液状の封止剤が注入される領域よりも内側の領域において、膜表面に前記液状の封止剤との親和性のない又は小さい材料が塗布されることにより撥水処理を施されることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュール製造方法。
【請求項3】
複数の中空糸膜によって形成される中空糸膜束と、該中空糸膜束を収容するケースとを備える中空糸膜モジュールであって、
ケース内壁と前記中空糸膜間との間に充填された液状の封止剤が硬化することによって形成される、前記中空糸膜束を前記ケース内に封止固定する中空糸膜束固定部と、
前記複数の中空糸膜を結束する結束部であって、結束部端面において前記中空糸膜の中空内部を開口し、かつ、前記液状の封止剤が前記結束部端面側に流出するのを防止する結束部と、を備え、
前記中空糸膜束は、前記ケースに収容される前に、前記液状の封止剤によって封止固定される領域以外の領域において、予め膜表面に撥水処理が施されることを特徴とする中空糸膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−61671(P2007−61671A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247194(P2005−247194)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】