説明

中空糸膜モジュール

【課題】ハウジング自体の曲げ剛性を高めなくとも、耐圧性を高めることができる平型の中空糸膜モジュールの提供。
【解決手段】
複数の中空糸膜1を束ねた集束体2と、収束体2の端部が挿入される細長い開口30を有する細長いハウジング3と、ハウジング3の開口30に挿入された収束体2の中空糸膜1の各々の端部をハウジング3内部の処理液の通過する内部空間32に開口させた状態で固定するとともに、収束体2とハウジング3の内壁との間を封止する固定用樹脂部4とを備え、固定用樹脂部4に、ハウジング3の長手方向に沿って延在する補強部材5を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平型の中空糸膜モジュールに関し、特に、ハウジングの曲げ剛性の高い平型の中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュールは、一般に、中空糸膜を多数本束ねた集束体の端部をハウジングに挿入し、端部を開口させた状態で、中空糸膜とハウジングとの間を樹脂で封止した構造を有する。そして、中空糸膜モジュールは、従来から、無菌水、飲料水、高度純水の製造や、空気の浄化等の多くの用途に使用されている。
【0003】
これらの用途に加えて、近年、中空糸膜モジュールは、下水処理場における2次処理、3次処理や、浄化槽における固液分離、産業廃水中のSS(懸濁物質)の固液分離など処理のための高汚濁性水濾過にも用いられている。高汚濁性水濾過においては、中空糸膜端部の開口部分に、繰り返し加圧や吸引を行うことにより、所定の処理水を得たり、中空糸膜の膜表面を洗浄したりする。このため、高汚濁性水濾過用の中空糸膜モジュールには、特に高い耐圧性が要求される。
【0004】
そのような耐圧性を高めた中空糸膜モジュールの一例が、下記の特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示の技術によれば、中空糸膜の集束体の少なくとも一方の端部における中空糸膜相互間を封止する封止樹脂として、硬度測定における10秒後のショアD硬度が60以上であるポリウレタン系樹脂を使用することにより、封止樹脂の耐圧性能を向上させている。また、下記の特許文献2には、固定用樹脂部とハウジングの内壁との接合面がハウジングの内部空間に露出した継ぎ目の上に、10秒後のショアA硬度で10〜60度の範囲の接着用樹脂を設けることにより、固定用樹脂とハウジングとの剥離の発生を抑制して耐圧性能を高めた中空糸膜モジュール及びその製造方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−103146号公報
【特許文献2】特開2006−61816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
中空糸モジュールは、一般に、集束体の横断面の輪郭形状が円形の円筒型の中空糸モジュールと、集束体の横断面の輪郭形状が細長い平型の中空糸膜モジュールとに分けられる。平型の中空糸膜モジュールは、収束体の横断面の輪郭形状に合わせて細長いハウジングを有する。平型の中空糸膜モジュールは、通常、ハウジングの長手方向の両端が支持された状態で使用される。
【0007】
ところで、ハウジングは、通常、汎用の安価なプラスチック材料で形成されている。このため、ハウジングに中空糸膜モジュールの自重や外力が加わると、ハウジングが撓んでしまうことがある。具体的には、ハウジングの長手方向の中央付近が、支持された両端よりも下方へ変形する。その撓み量は、ハウジングの長手方向の長さとハウジングへ加わる荷重に比例する傾向がある。
【0008】
その結果、上記の特許文献1にあるように封止樹脂の種類や量を適当に用いることによって封止樹脂自体の耐圧性を高めた場合であっても、ハウジングの撓みが大きくなると、その変形に耐えられずに封止樹脂が割れたり、封止樹脂とハウジングとの剥離が発生したりすることがある。同様に、上記の特許文献2にあるように10秒後のショアA硬度で10〜60度の範囲の接着用樹脂で固定用樹脂をハウジングへ接着することによって固定用樹脂とハウジングとの剥離を抑制した場合であっても、ハウジングの撓みが大きくなると、その変形に耐えられずに接着用樹脂が裂けたり、剥がれたりすることがある。
【0009】
そこで、ハウジングの曲げ剛性を高めて中空糸モジュールの耐圧性を高めるために、ハウジング自体を、例えば、金属、エンジニアリングプラスチック、又は繊維強化プラスチック(FRP:fiber reinforced plastics)といった高強度材料で形成することが考えられる。しかし、これらの材料は汎用で安価なプラスチックに比べて高価である。このため、ハウジングをこれらの材料で形成すると、中空糸膜モジュールのコストが上昇してしまう。
【0010】
また、安価なプラスチック材料で形成したハウジングの曲げ剛性を高めるために、ハウジング自体の肉厚を厚くしたり、ハウジングにリブを設けたりすることが考えられる。しかし、ハウジングの肉厚を厚くすると、ハウジングに反りやヒケといった成形上の欠陥が発生しやすくなる。また、ハウジングにリブを設けると、リブの付け根に応力が集中し、荷重が繰り返しかかることにより亀裂が発生しやすくなる。さらに、リブの部分は肉厚が厚いため、ヒケが発生しやすい。そのため、リブを設けると、ハウジングの外観が悪くなるおそれがある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、ハウジング自体の曲げ剛性を高めなくとも、耐圧性を高めることができる平型の中空糸膜モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明の中空糸モジュールは、複数の中空糸膜を束ねた集束体と、収束体の端部が挿入される細長い開口を有する細長いハウジングと、ハウジングの開口に挿入された収束体の前記中空糸膜の各々の端部を、ハウジング内部の処理液の通過する内部空間に開口させた状態で固定するとともに、収束体と前記ハウジングの内壁との間を封止した固定用樹脂部とを備え、固定用樹脂部に、ハウジングの長手方向に沿って延在する補強部材を設けたことを特徴としている。
【0013】
このように構成された本発明の中空糸膜モジュールによれば、固定用樹脂部に補強部材を設けたことにより、ハウジング自体の剛性を高めなくとも、ハウジングの曲がりに対する強度、即ち、曲げ剛性が高くなる。これにより、ハウジングの撓みによる固定用樹脂部の剥離等の発生が抑制されて、中空糸膜モジュールの耐圧性の向上を図ることができる。
【0014】
なお、ハウジングの曲げ剛性を高めるために、固定用樹脂部に補強部材を設けるのではなく、固定用樹脂部全体の硬度を高くすることも考えられる。しかし、固定用樹脂部全体の硬度を高くすると、固定用樹脂部が割れやすくなる。このため、固定用樹脂部全体の硬度を高くすることは、中空糸膜モジュールの耐圧性を高める観点からは好ましくない。
【0015】
また、本発明において好ましくは、補強部材は、ハウジングを構成する材料のヤング率以上のヤング率を有する材料から構成される。
このように、ハウジング自体のヤング率よりも高いヤング率の補強部材の使用により、ハウジングの曲げ剛性が効果的に高められる。
【0016】
また、本発明において好ましくは、補強部材は、集束体とハウジングの長手方向の内壁との間に、当該内壁に面して帯状に配置される。
このように、帯状の形状の補強部材がハウジングの長手方向に沿って配置されることにより、ハウジングの曲げ剛性が効果的に高められる。
【0017】
また、本発明において好ましくは、補強部材は、集束体に当接する突起部を有する。
このように、補強部材に突起部が設けられることにより、集束体に対する補強部材の位置決めを容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明の平型の中空糸膜モジュールによれば、ハウジング自体の曲げ剛性を高めなくとも、耐圧性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照して、本発明の中空糸膜モジュールの実施形態を説明する。
まず、図1を参照して、実施形態の中空糸膜モジュールの構成について説明する。図1は、実施形態の中空糸膜モジュールの概略斜視図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の中空糸膜モジュールは、複数の中空糸膜1を束ねた集束体2と、収束体2の端部が挿入される細長い開口30を有する細長いハウジング3と、ハウジング3の開口30に挿入された収束体2の前記中空糸膜1の各々の端部を固定するとともに、収束体2と前記ハウジング3の開口30の内壁との間を封止する固定用樹脂部4とを備え、固定用樹脂部4に、ハウジング3の長手方向に沿って延在する補強部材5を設けている。
なお、図1には示さていないが、各中空糸膜1の各々の端部は、ハウジング3内部の処理液の通過する内部空間32に開口した状態で、固定用樹脂部4により固定されている。
以下、中空糸膜モジュールの構成要素について説明する。
【0021】
中空糸膜1は、濾過膜として使用可能なものであれば、その孔径、空孔率、膜厚、外径等は、特に限定されない。好ましくは、中空糸膜の外径は20〜3000μm、孔径は0.001〜5μm、空孔率は20〜90%、膜厚は5〜300μmの範囲がよい。
【0022】
また、中空糸膜1の材質は、特に限定されるものではない。好ましくは、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セルロース誘導体、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレートなどが挙げられる。また、これらの樹脂の共重合体や一部に置換基を導入したものであってもよい。さらに、2種以上の樹脂を混合したものであってもよい。
【0023】
本発明の中空糸モジュールは平型の中空糸モジュールであるので、集束体2の横断面は細長い輪郭形状を有する。また、集束体2における中空糸膜1の配列方向は、特に限定されない。好ましくは、中空糸膜1が、被処理液の流れ方向に対し、概ね平行に配列される。このように配列すれば、中空糸膜1が被処理液の流れの障害とならない。その結果、夾雑物を含む高汚濁液を処理する場合に、夾雑物の中空糸膜1への堆積や絞絡が軽減される。
【0024】
さらに、中空糸膜1の配列方向は、中空糸膜1の長さ方向が縦方向、即ち上下方向であることが好ましい。このように配列すれば、夾雑物を洗浄するエアバブリング洗浄時に発生する被処理液の上昇流方向と中空糸膜1の延在方向とが概ね平行となる。その結果、夾雑物の堆積が防止される。
【0025】
ハウジング3は、図1に示すように、細長い外形を有する。そして、ハウジング3は、横断面の輪郭形状が細長い集束体2の端部を挿入するため、細長い開口30を有する。
【0026】
さらに、図2及び図3を参照して、ハウジング3について説明する。図2及び図3は、図1のA−A線及びB−B線に沿ったハウジング3の断面図である。
【0027】
図2及び図3に示すように、ハウジング3の内側には段差部31が形成されている。集束体2及び固定用樹脂部4は、ハウジング3の開口30からこの段差部31まで挿入される。その結果、ハウジング3内に、固定用樹脂部4とハウジング3の内壁とによって囲まれた内部空間32が形成される。この内部空間32には、中空糸膜1の端部が開口している。また、この内部空間32は、通路33により外部と連通している。そして、中空糸膜1の端部の開口から、この通路33及び内部空間32を処理液が通過する。
【0028】
本実施形態におけるハウジング3の各部の寸法は、例えば、図2に示すように、幅Aが30mm、高さBが75mm、段差から上の高さCが45mm、段差から下の高さDが30mm、内側段差Eが3mmである。また、図3に示す、外側長さFが1250mm、内側長さGが1150mm、そして内側段差Hが3mmである。
【0029】
また、ハウジング3の材質は、中空糸膜モジュールの製造コスト低減の観点から汎用の安価なプラスチックが好ましい。例えば、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリオレフィン、PVC(ポリ塩化ビニル)、アクリル樹脂、ABS樹脂、変成PPE(ポリフェニレンエーテル)が挙げられる。また、使用後に焼却処理が必要な場合には、燃焼により有毒ガスを出さずに、完全燃焼させることのできるポリオレフィン等の炭化水素系の樹脂が好ましい。また、機械的強度及び耐久性を有する材質であることが更に好ましい。
【0030】
また、固定用樹脂部4を構成する樹脂としては、集束体2の中空糸膜1の端部を固定する固定用樹脂として、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン系充填材、各種ホットメルト樹脂等を用いることができ、適宜選定することが可能である。
【0031】
また、固定用樹脂部4は、中空糸膜1の集束体2を担持し、かつ、固定用樹脂を嵌め込んだハウジング3の剛性を確保して、使用時の耐圧性を発揮する。このため、固定用樹脂部4は、所定の範囲の硬度を有することが好ましい。すなわち、固定用樹脂部4の硬度が、10秒後のショアA硬度で80度を下回ると、耐圧性を維持するために、多くの樹脂量が必要となり、中空糸膜モジュールのコストを高騰させる要因となる。また、固定用樹脂部4の硬度が、10秒後のショアA硬度で99度を上回る場合は、固定用樹脂部4自体が割れ易くなる。したがって、固定用樹脂部4の硬度は、10秒後のショアA硬度で80〜99度であることは好ましい。
【0032】
次に、図4、図5(a)及び図5(b)を参照して、本実施形態の中空糸膜モジュールの補強部材5について説明する。図4は、図1のA−A線に沿った部分断面図である。また、図5(a)は、図4のC−Cに沿った横断面図である。図5(b)は、ハウジング3の側面図である。
【0033】
図4及び図5に示すように、補強部材5は、集束体2とハウジング3の長手方向の内壁との間の固定用樹脂部4内に、当該内壁に面して帯状に配置されている。さらに、図5に示すように、補強部材5は、ハウジング3の開口30の長手方向の実質的に全長に亘って連続して延在している。
【0034】
このように補強部材5を設けたことにより、ハウジング3に対する応力集中が、補強部材5にも分散される。その結果、ハウジング3の撓みを減らして固定用樹脂部4とハウジング3との間の剥離の発生が大幅に低減される。これにより、固定用樹脂部4とハウジング3との接着界面での剥離の進行、ハウジング3の部分的な破壊、更にはリークの発生が抑制される。
【0035】
これにより、ハウジング3を厚肉化したり、補強リブを設けたりしなくとも、ハウジング3の撓みが抑制される。また、固定用樹脂部4に使用する樹脂の量も減らせるため、中空糸膜モジュールのコストアップを抑えて、耐圧性の向上を図ることができる。
【0036】
また、帯状の補強部材5の配置形状は、ハウジング3の底面と対向する横長の配置よりも、図4に示すように、ハウジング3の内壁と対向する縦長の配置であるのがよい。横長の配置に比べて、縦長の配置の方が、ハウジング3の中央部が下方に撓む場合の断面2次モーメントを大きくできるので、撓みを効果的に抑制することができる。さらに、縦長の配置とすれば、集束体2とハウジング3内壁との隙間が狭い場合であっても、ハウジング3の長手方向に垂直な幅を広げることなく、補強部材5を配置することができる。
【0037】
補強部材5の材質の曲げ弾性率については、特に限定はされないが、中空糸膜モジュールに十分な曲げ剛性を与えるため、補強部材のヤング率は、2000MPa以上、より好ましくは2500MPa以上であるのが好ましい。
【0038】
また、補強部材5は、ハウジング3を構成する材料のヤング率以上のヤング率を有する材料から構成されるのがよい。ハウジング3の材質のヤング率は、通常、補強部材5を除く固定用樹脂部4の材質のヤング率よりも高い。したがって、補強部材5の材質のヤング率は、補強部材5を除く固定用樹脂部4の材質のヤング率よりも大きく、且つハウジングと同等以上のヤング率を有するのがよい。
【0039】
また、補強部材5の材質は、機械的強度及び耐久性を有し、更に接着性のよいものであるのがよい。例えば、ポリカーボネート、ポリスルホン、PVC(ポリ塩化ビニル)、アクリル樹脂、ABS樹脂、変成PPE(ポリフェニレンエーテル)等が挙げられる。さらに、補強部材5に、金属、エンジニアリングプラスチック、FRP等の他の材料を用いてもよい。しかし、中空糸膜モジュールの製造コスト低減の観点からは、廉価のプラスチック材料を用いることが好ましい。
【0040】
次に、図6を参照して、中空糸膜モジュールの他の一例について説明する。図6は、ハウジング3の長手方向に垂直な切り口に沿った、中櫛空糸膜モジュールの部分断面図である。図6に示す例では、補強部材5の側面に、集束体に当接する位置決め用の突起部51が設けられている。このように、補強部材5の側面に突起部51を設けることにより、集束体2の位置を常にハウジング3の中央に固定できる。このため、形態の整った中空糸膜モジュールを効率よく製造することが可能となる。
【0041】
なお、突起部51の位置と個数について特に限定はされないが、例えば、補強部材5の上下に各1箇所あれば集束体2が傾かなくてすむので、最低でも2箇所以上が好ましい。また、突起部51の形状と大きさについても特に限定はされないが、ハウジング3内壁と集束体2で挟まれた空間の広さに応じて適宜決定されることが好ましい。
【実施例1】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明する。
実施例1では、図6に示す断面構造を有する中空糸膜モジュール、即ち、突起部51を有する補強部材5を、ハウジング3と集束体2との間に左右2箇所に設けた中空糸膜モジュールを以下のようにして製造した。
【0043】
先ず、2000mmの長さに切り揃えたポリフッ化ビニリデン製中空糸膜(外径2800μm)を1500本用意した。次いで、固定用樹脂としてのポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン製、ニッポラン4224/4403、硬化時硬度:10秒後ショアA硬度97度)を、混合状態で、長さ1150mm、幅23mm、深さ55mm、厚さ2mmのABS製の容器に入れ、更にその容器に、中空糸膜1の集束体2を浸漬し、樹脂を硬化させ、ABS容器と一体となった固定用樹脂部4を形成した。
【0044】
また、中空糸膜の他端についても同様の作業を行い、ABS容器と一体となった固定用樹脂部を有する中空糸膜の集束体2を作成した。ここでABS製の容器は、底面から30mmと55mmの高さへ長手方向に連続する2mm角の突起を左右に設けて、集束体2を突起部51で挟み込む構造とした。
【0045】
次に、両端の固定用樹脂部を、端部から25mmの長さで切断した。この際に、固定用樹脂部3と一体となっていたABS容器の底部も切断される。その結果、ABS容器の残存部分が補強部材5となる。これにより、補強部材5が接着され、かつ、各中空糸膜の端面が開口された樹脂固定部を有する中空糸膜1の集束体2を得た。
【0046】
次に、この固定用樹脂部を、ダイヤラックEX18Z(UMG ABS(株)社製)のハウジング3に配置するに先立ち、ハウジング3の開口30の段差部31に接着樹脂(バンティコ製22B、硬化時硬度:10秒後ショアA硬度40度)を、シリンジを用いて垂れ下がらない程度に定量塗布し、約5分間増粘させた。そして、先の固定用樹脂部4を段差部31に配置し、約12時間放置した。その後、ウレタン樹脂(日本ポリウレタン製、ニッポラン4224/4403)を、ハウジング3内、及び中空糸膜1間を満たすように注入し、硬化させた。さらに、もう一方の端面についても、同様の作業を行い、固定用樹脂部及び接着樹脂から構成される樹脂部4内に補強部材5を設けた中空糸膜モジュールを得た。
【0047】
なお、本実施例における固定用樹脂部4のヤング率は500MPaであり、補強部材5を構成するABS樹脂のヤング率は2400MPaであり、ハウジング3のヤング率は、2250MPaである。
【0048】
このようにして製造した中空糸膜モジュールのハウジングの両端を支持して、両端を結ぶ線を基準として、ハウジング中央部の下方への撓み量を測定した。その結果、ハウジングの撓み量は、5mmだけであり、ハウジングと固定用樹脂部に割れや剥離は発生していなかった。
【0049】
次に、耐圧性の試験のために、製作した中空糸膜モジュールの中空糸膜を、長さ20mmを残して切断し、切断した中空糸膜の膜面、及び端面を、ウレタン樹脂(日本ポリウレタン製、ニッポラン4224/4403)で全て封止した中空糸膜モジュール試験体を作成した。この中空糸膜モジュール試験体では、ハウジング3の内部空間32が、通路33を除いて密閉されている。
【0050】
耐圧性の試験を行うにあたり、ハウジング3の内部空間32にシリンジで水を充填し、テストポンプ((株)キョーワ製T−100)に接続されたホースを通路33に接続した。そして、テストポンプにより、ハウジング3の内部空間32に水圧をかけたところ、水圧が1.2MPaとなったときに、ハウジング3と固定用樹脂部4との間に剥離が生じ破壊した。
【0051】
(比較例)
比較例の中空糸膜モジュールは、ハウジングと集束体で挟まれた空間の樹脂部4内に補強部材を設けない点を除いて、実施例1で製造した中空糸膜モジュールと同じ構造を有する。
上記実施例と同様にして、比較例の中空糸膜モジュールのハウジングの撓み量を測定したところ、撓み量は、10mmであった。また、ハウジングの中央部分へ変形による白化がみられた。さらに、ハウジングと固定用樹脂部との剥離がみられた。
そして、上記の実施例1と同様にして、ハウジングの内部空間に水圧をかけたところ、水圧が0.9MPaとなったときに、ハウジング3と固定用樹脂部4との間に剥離が生じ破壊した。
【0052】
したがって、上記の実施例1と比較例との比較から、樹脂部に補強部材を設けたことにより、ハウジングの高強度化を特に行わずに、ハウジングに従来の汎用材料を用いて、ハウジングの撓みを抑制することができたことが分かる。そして、補強部材を設けたことにより、撓みによるハウジングと固定用樹脂の剥離を抑制ならびに封止樹脂自体の破損を防止して、耐圧性能を大幅に向上させることができたことが分かる。
【0053】
上述した各実施形態においては、本発明を特定の条件で構成した例について説明したが、本発明は種々の変更及び組み合わせを行うことができ、これに限定されるものではない。例えば、上述した実施例では、固定用樹脂部を形成するために用いるABS容器を補強部材として用いて製造した中空糸膜モジュールについて説明したが、本発明の中空糸膜モジュールはその製造方法によっては限定されない。本発明は、例えば、固定用樹脂部と補強部材を予め接着することなく、ハウジングへ固定用樹脂と補強部材を別々に入れてから封止用樹脂を流し込んで樹脂部とした中空糸膜モジュールにも適用される。
【0054】
また、上述した実施形態では、中空糸膜の集束体の両端にそれぞれハウジングを設けた例について説明したが、本発明は、集束体の一方の端部にのみハウジングを設けた中空糸モジュールにも適用される。
【0055】
また、上述した実施形態では、補強部材を、集束体の両側でそれぞれ、ハウジングの長手方向の実質的全長に沿って設けた例について説明したが、本発明では、補強部材の配置はこれに限定されない。例えば、集束体の両側にそれぞれ設けた補強部材とどうしをハウジングの端部付近で連結し、ハウジングの開口の全周に沿って集束体を囲むように補強部材を配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の中空糸膜モジュールは、繰り返し加圧、吸引を行う濾過に用いられ、高い耐圧性の要求される用途に好適であり、例えば、無菌水、飲料水、高純度純水の製造、空気の浄化等の用途に加えて、下水処理場における2次処理、3次処理や、浄化槽における固液分離、産業排水中のSS(懸濁物質)の固液分離等の高汚濁水の処理用途に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態の中空糸膜モジュールの概略斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の中空糸膜モジュールを構成するハウジングの断面図である。
【図3】本発明の実施形態の中空糸膜モジュールを構成するハウジングの断面図である。
【図4】本発明の実施形態の中空糸膜モジュールの一例であり、図1のA−A線に沿った部分断面図である。
【図5】(a)は、本発明の実施形態の中空糸膜モジュールの一例であり、図4のC−Cに沿った横断面図であり、(b)は、ハウジングの側面図である。
【図6】本発明の実施形態の中空糸膜モジュールの他の一例であり、ハウジングの長手方向に垂直な切り口に沿った部分断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 中空糸膜
2 集束体
3 ハウジング
4 固定用樹脂部
5 補強部材
30 開口
31 段差部
32 内部空間
33 通路
51 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空糸膜を束ねた集束体と、
前記収束体の端部が挿入される細長い開口を有する細長いハウジングと、
前記ハウジングの開口に挿入された前記収束体の前記中空糸膜の各々の端部を前記ハウジング内部の処理液の通過する内部空間に開口させた状態で固定するとともに、前記収束体と前記ハウジングの内壁との間を封止する固定用樹脂部とを備え、
前記固定用樹脂部に、前記ハウジングの長手方向に沿って延在する補強部材を設けた
ことを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記補強部材は、前記ハウジングを構成する材料のヤング率以上のヤング率を有する材料から構成される
ことを特徴とする請求項1記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記補強部材は、前記集束体と前記ハウジングの長手方向の内壁との間に、当該内壁に面して帯状に配置される
ことを特徴とする請求項1又は2記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記補強部材は、前記集束体に当接する突起部を有する
ことを特徴とする請求項3記載の中空糸膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−142583(P2008−142583A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329104(P2006−329104)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000176741)三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社 (90)
【Fターム(参考)】