説明

中空糸膜モジュール

【課題】樹脂隔壁の厚さを厚くすることなく、高いろ過圧力で長期間運転した際も樹脂隔壁の損傷を防ぐことができる中空糸膜モジュールを提供する。
【解決手段】
多数本の中空糸膜からなる中空糸膜束と、該中空糸膜束を収納するハウジングと、該中空糸膜束と該ハウジングの内壁とを固定するための樹脂隔壁と、流体の出入り口となるポートと、からなり、該中空糸膜束の一方の端部では中空糸膜の中空部が開口しており、該中空糸膜束の他方の端部のハウジング長手方向外側には樹脂隔壁の支持プレートが設けられており、該支持プレートと中空糸膜束とハウジング内壁とが樹脂隔壁を構成する樹脂により固定されていることを特徴とする中空糸膜モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体分離用中空糸膜モジュールに関わるものである。さらに詳しくは、河川水、湖沼水、地下水、海水、生活排水、工業用排水等を原水とし、膜ろ過により工業用水や水道水を大量に製造するのに好適な中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、精密ろ過膜や限外ろ過膜は、河川水、湖沼水、地下水、海水、生活排水、工業用排水から工業用水や水道水を製造する水処理プロセスへ適用が進められている。これら水処理プロセスでは、比較的濁質分の多い大量の原液を長期間処理するため、大量の原水を処理するための高ろ過膜面積、強いろ過圧に長期間耐えられる耐圧構造、濁質で汚れた中空糸膜を洗浄するためのエアースクラビング機能が求められている。
【0003】
このような水処理プロセスでは、被処理液を中空糸膜の外側から内側へろ過する外圧式中空糸膜モジュールが多用されている。中空糸膜モジュールは、膜ろ過前の原液と膜ろ過後の透過液とを隔てるシール構造が単純であること、運転管理が容易であることなど種々の利点を有しているが、その最大の特徴は、モジュールの単位容積当りのろ過膜面積を非常に大きく取れることである。モジュールの単位容積当りのろ過膜面積を大きくするための一つの方法は、中空糸膜の充填率を高くすることが挙げられる。また、大量の水を処理するためにモジュールは近年、大口径化している。
【0004】
外圧式中空糸膜モジュールの運転に際しては、エアースクラビングという、膜外表面側に吹き込んだエアーで中空糸膜表面を振動させ、原水をろ過する過程で膜外表面に付着した濁質分をはく離させる洗浄方法が間欠的に採用され得る。この方法では中空糸膜の中空部が封止されている側の樹脂隔壁部に1つ、または、複数の貫通孔を形成し、該貫通孔より中空糸膜束全域にエアーを吹き込む事で洗浄を効率的に行うことが出来る。このとき、予め中空糸膜束が外筒内で弛みを持つように中空糸膜束の両端をハウジング内壁に固着しておくことで、エアースクラビング時に揺れた中空糸膜同士が擦れ合い、洗浄をさらに効率的に行うことが出来る。また、エアースクラビング以外に、中空糸膜モジュールのろ過水側から原水側へと逆洗水を流し、膜の細孔を閉塞している濁質分を除去する洗浄方法も間欠的に採用され得る。
【0005】
このような中空糸膜モジュールは、長期間使用される中で高いろ過圧に曝される。また、上記したようなエアースクラビングや逆洗によって、樹脂隔壁に高い圧力が作用する。そのため、ハウジング内壁と中空糸膜束の両端部を固着した樹脂隔壁は、損傷が最も危惧される部位である。
【0006】
樹脂隔壁の強度は、多数本の中空糸膜を含有するため、樹脂隔壁を構成する樹脂自体の強度に比べ低くなる。また、その強度を決めるパラメータの一つは、樹脂隔壁を構成する樹脂の疎密さであり、これはハウジング内の中空糸膜の充填率のみならず、中空糸膜の分布という不確定要素を含む。さらに、樹脂隔壁は、重力や隣接し合う中空糸膜間に働く毛細管力の影響を受け、均一厚さに成形することが技術的に困難である。そのため、厚さの薄い箇所において樹脂隔壁の損傷が発生しやすい。
【0007】
樹脂隔壁の損傷を防ぐ方法として、特許文献1に、特定範囲の貯蔵弾性率を有する樹脂隔壁を設けるとともに、モジュールの内径に対する樹脂隔壁の厚みを適正化する方法が提案されている。樹脂隔壁の貯蔵弾性率は、その値が高いほど、大口径、高ろ過圧の中空糸膜モジュールに適用しても十分な樹脂隔壁強度を得ることができる。しかし、エアースクラビング時や逆洗時など中空糸膜が揺動した際、中空糸膜と樹脂隔壁の接着界面で中空糸膜に加わる力もまた大きくなり、中空糸膜を損傷、破断させる主原因となりうる。このことから樹脂隔壁の貯蔵弾性率は中空糸膜を損傷、破断させない値を上限値とするほかない。また、近年中空糸膜モジュールには高いろ過能力が求められており、その指標の一つにモジュール容積内の有効膜面積の割合が挙げられる。モジュール容積内の有効膜面積を大きくするためには、モジュール内の中空糸膜の充填率を増加させる方法と樹脂隔壁の厚さを薄く形成し、ろ過面積を大きくする方法が挙げられる。後者の方法は製造コストの増加を伴わない改善であり、そのメリットが前者に比べ大きいことが容易に想像できる。しかしながら、該背景技術では、樹脂隔壁の損傷を十分に防ぎつつ規定値以上に樹脂隔壁厚さの薄肉化を実現することは困難である。
【0008】
さらに、特許文献2には、特定の保護筒に収納された中空糸膜束を梁で複数区画に分割されたハウジング内に収納し、該梁とともに中空糸膜端部を樹脂封止することで、樹脂隔壁の貯蔵弾性率に頼ることなく耐圧性を向上する方法が記載されている。しかし、この方法では、中空糸膜を保護筒に収納したり梁を設ける分、中空糸膜と中空糸膜との間の間隙が狭くなり、該間隙に樹脂隔壁を構成する樹脂が浸透しないという欠点が発生し易い。そのため、中空糸膜末端の封止不良や樹脂隔壁の強度不足が懸念される。それを防ぐためには、ハウジングに収納する中空糸膜の本数を減らす他ない。しかしながら、それは結果として有効ろ過膜面積を低減させてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−66264号公報
【特許文献2】特開平7−148421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来の技術には次のような問題点があった。すなわち、樹脂隔壁の貯蔵弾性率は中空糸膜と樹脂隔壁の接着界面で中空糸膜を損傷、破断させない値が上限値となり、その結果、樹脂隔壁の厚さの下限値が決まる。これは樹脂隔壁の厚さを薄くして中空糸膜モジュール内の有効膜面積を増加させる方法での中空糸膜モジュールの高性能化がこれ以上できないことを意味する。対して、樹脂隔壁内の中空糸膜束間に梁を埋設する技術では、貯蔵弾性率に頼らない樹脂隔壁の強度安定、薄肉化方法を提案しているが、中空糸膜と中空糸膜との間の間隙が狭くなり、該間隙に樹脂隔壁を構成する樹脂が浸透しないという欠点が発生し易いという問題を伴う。
【0011】
そのため本発明は、樹脂隔壁の厚さを厚くすることなく、高いろ過圧力で長期間運転した際も樹脂隔壁の損傷を防ぐことができる中空糸膜モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を解決するために、以下のいずれかに述べる構成からなる。
(1) 多数本の中空糸膜からなる中空糸膜束と、該中空糸膜束を収納するハウジングと、該中空糸膜束と該ハウジングの内壁とを固定するための樹脂隔壁と、流体の出入り口となるポートと、からなり、該中空糸膜束の一方の端部では中空糸膜の中空部が開口しており、該中空糸膜束の他方の端部のハウジング長手方向外側には樹脂隔壁の支持プレートが設けられており、該支持プレートと中空糸膜束とハウジング内壁とが樹脂隔壁を構成する樹脂により固定されていることを特徴とする中空糸膜モジュール。
(2) 該支持プレートの外周形状が樹脂隔壁の外周形状と同一であることを特徴とする、前記(1)に記載の中空糸膜モジュール。
(3) 該支持プレートの外周とハウジングの内壁との間にシール材を備えていることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の中空糸膜モジュール。
(4) 該支持プレートは、中空糸膜束側の面に凹凸を備えていることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
(5) 該支持プレートと該樹脂隔壁とは、ハウジング長手方向に連続した1つないしは複数の貫通孔を有することを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中空糸膜の中空部封止側の端部のハウジング長手方向外側に樹脂隔壁の支持プレートを備え、該支持プレートと中空糸膜束とハウジング内壁とが樹脂隔壁により固定されているので、大口径のモジュールに中空糸膜を高い充填率で充填した際も、樹脂隔壁の厚さを厚くして中空糸膜のろ過膜面積を低減させることなく、高いろ過圧力で長期間運転することが可能となる。また、樹脂隔壁自体に作用する荷重を低減することができるので、従来の中空糸膜モジュールと比較して、樹脂隔壁の厚さを薄くすること、さらには該樹脂隔壁に埋設される中空糸膜の長さを短くすることができる。そのため、一つの中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜の量を従来に比べて低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に関わる中空糸膜モジュールの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に関わる中空糸膜モジュールの一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明に関わる中空糸膜モジュールの一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明に関わる中空糸膜モジュールの一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明に関わる中空糸膜モジュールの一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明に関わる中空糸膜モジュールの一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明に関わる中空糸膜モジュールの一例を示す概略断面図である。
【図8】本発明に関わる中空糸膜モジュールの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明に関わる中空糸膜モジュールの概略断面図である。該中空糸膜モジュールは、中空糸膜1が数百本から数万本、一定長に揃えられた状態で束となった中空糸膜束がハウジング3に充填され、その両端部が樹脂隔壁4a、4bによりハウジングと固定されている。樹脂隔壁4aが設けられた領域(中空糸膜束の一方の端部)では中空糸膜1の中空部が開口しており、樹脂隔壁4bが設けられた領域(中空糸膜束の他方の端部)では中空糸膜1の中空部が封止されている。樹脂隔壁4a、4bに挟まれた空間が膜ろ過領域となる。中空糸膜束の中空部が開口している側のハウジング端には、流体の出入り口となるポートを有する上部キャップ31が装着されており、中空糸膜を透過した透過液が該ポートを通過する。
【0017】
そして、該中空糸膜モジュールにおいては、中空糸膜束の、中空糸膜1の中空部が封止されている側(樹脂隔壁4b側)のハウジング長手方向に関する外側に、樹脂隔壁よりも剛性の高い支持プレート5が設けられている。該支持プレートと中空糸膜束とハウジング内壁とは、樹脂隔壁を構成する樹脂により固定されている。
【0018】
ハウジング3の材質は、ステンレスなどの金属、FRP、ABS、AES、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスルホン、などのプラスチック類から便宜選択することができる。断面形状は、円形、楕円形、多角形、その他の形状を選択することができる。特には、ろ過圧力を均一に分散させることができ、耐圧性に優れると考えられる円形が好ましい。
【0019】
また、ハウジング3には流体の出入り口となる1つないしは複数の側面ポート6がある。該側面ポート6は、膜ろ過を行うための原液の供給、または、ろ過されずに残った残存液の排出、中空糸膜面洗浄を目的とした洗浄液、エアーの供給、排出などに使用することが出来る。該側面ポート6が2つ以上あることは、これらの供給、排出を同時に実行でき運転効率などが向上するため好ましい。さらに好ましくは、2つの側面ポートがハウジングを構成する筒状部の両端部で且つ樹脂隔壁4a、4bよりもハウジング長手方向内側に設置するとよい。また、複数の側面ポート6はその開口部が同方向を向いていても、向いていなくてもよい。側面ポート6の材質は、ハウジング1を構成する筒状部と同じであっても、異なっていてもよく、特に制約はない。
【0020】
樹脂隔壁4a、4bは、中空糸膜束とハウジングの内壁とを固定すると同時に膜ろ過領域を区分するものである。樹脂隔壁4a、4bを構成する材料は、中空糸膜束とハウジングと支持プレートとを固定できれば特に限定されるものではない。エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、等の系統の接着剤や、種々の熱可塑性樹脂などを例示することができる。更に好ましくは、硬化後の樹脂隔壁の硬さが、樹脂隔壁と中空糸膜の接着界面にて中空糸膜を損傷、破断させない硬さがよい。なお、その損傷、破断に至る硬さは中空糸膜の材質等により異なる。
【0021】
中空糸膜束の一方の端部に設けられた樹脂隔壁4aにおいては、該樹脂隔壁4aにより中空糸膜束とハウジングの内壁とが固定されるとともに、中空糸膜の中空部が開口している。該中空糸膜の開口部は、処理する原液を中空糸膜の外側から内側へろ過する外圧式中空糸膜モジュールでは、ろ過した透過液が通過するためのものであるとともに、原液で汚れた中空糸膜を洗浄するために逆洗水を中空糸膜の開口部から他端に向かって流すためのものでもあり、流体の出入りなどに使用することができる。
【0022】
一方、中空糸膜束の他方の端部に設けられた樹脂隔壁4bにおいては、中空糸膜の中空部が封止されている。樹脂隔壁部4bは、中空糸膜束と、ハウジング内壁と、支持プレートとを固定している。
【0023】
支持プレート5は、樹脂隔壁のたわみを抑制し、樹脂隔壁が受ける荷重を分担するという機能を発現するため、樹脂隔壁より剛性が高いことが必要である。ここでいう剛性とは、変形抵抗の大きさを示す指標であり、具体的な剛性の測定には、中空糸膜モジュールから支持プレートと樹脂隔壁とをハウジング毎、輪切りで切り出して、支持プレートを含む中空糸膜モジュール片ならびに中空糸膜および樹脂膜壁を含む中空糸膜モジュール片を得る。それら各中空糸膜モジュール片について、ハウジングのみを支持、固定し、切断面の中央部に荷重を加える。このとき、荷重負荷面と反対側の面の中央部の変形量を計測する。そして剛性Dを、ハウジングの円相当半径aと該荷重Pに対する該変形量wの大きさとから下記関係式に基づいて算出する。
【0024】
【数1】

【0025】
支持プレート5の材質については、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィンや、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、エチレン・三フッ化塩化エチレン(ECTFE)、フッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、そしてポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素樹脂、さらにポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが単独または混合して用いられる。また、樹脂以外ではアルミニウム、ステンレス鋼などが好ましく、さらに、樹脂と金属の複合体や、ガラス繊維強化樹脂、炭素繊維強化樹脂などの複合材料を使用しても差し支えはない。
【0026】
支持プレート5は、樹脂隔壁のたわみを抑制し、樹脂隔壁が受ける荷重を分担するという機能を有するものであり、中空糸膜束のハウジング長手方向外側に備えていればよい。ただし、強度を高めるという観点から、支持プレート5は、その外周面の全面でハウジングに固定されていることが好ましい。そのため、図1に示すように該支持プレートの全てがハウジング内に位置していることが好ましい。
【0027】
支持プレート5の外周形状は、円形、楕円形、多角形、その他の形状を選択することができる。樹脂隔壁のたわみを抑制し、樹脂隔壁が受ける荷重を分担するという観点からは、特に、樹脂隔壁4bの外周形状、すなわち、ハウジングの内周形状と同一の形状をしていることが好ましい。なお、ここでいう同一形状とは、ハウジングの内周形状、樹脂隔壁4bの外周形状が例えば円形である場合には、支持プレートの外周形状が円形であることをいい、ハウジングの内周形状、樹脂隔壁4bの外周形状が例えば多角形の場合、支持プレートの外周形状が多角形であることをいう。
【0028】
ただし、図2に示すように支持プレート5は、ハウジング長手方向に断面形状が一定でなくても良い。その際、リブ等、該支持プレートの剛性を向上させるための構造を設けてもよい。その数、構成に特に制限はない。
【0029】
また、支持プレート5の外周面には図3に示すようにシール材7を備えてもよい。該シール材は支持プレートの外周とハウジングの内壁との両方に接することが好ましく、さらには、シール材の厚さよりも支持プレート外周とハウジングの内壁との距離がわずかに狭く、シール材を適当な力で押しつぶすようにハウジング内に収納されることがより好ましい。
【0030】
該シール材を適切な位置に保持させるためには、支持プレート外周もしくはハウジング内壁、またはそれら両方に溝を形成することが好ましい。該シール材は断面が円形、楕円形、多角形、V字型、U字型、その他の形状のものを選択することができる。また、該シール材の材質はゴム、エラストマー、樹脂等の弾性体で製作されていることが好ましい。
【0031】
そして、支持プレート5の中空糸膜側端面には、例えば図4に示すように凹凸構造や溝を設け、樹脂隔壁を構成する樹脂の流れを促す構造が好ましい。特に、樹脂隔壁4bを形成するにあたって樹脂が該支持プレートの該端面を伝って中空糸膜束の外側から中心側に浸透するのを促すような流路構造が好ましい。また、支持プレート5の中空糸膜側端面に隣接するようにメッシュ、スポンジ等、3次元的に孔が開口している構造を有する流路材を設置することも可能である。流路材は単数使用だけではなく、構造が同じ、または、孔径や線幅等が異なる流路材を複数枚重ね合わせて使用することもできる。
【0032】
さらに、図5に示すように、支持プレート5と中空糸膜の中空部封止側の樹脂隔壁4bには、1つ、または、複数の貫通孔を設けることも好ましい。そして、それら支持プレート5の貫通孔と樹脂隔壁部4bの貫通孔とは、互いに軸芯が延長線上になるように配置することが好ましい。
【0033】
軸芯が一直線上に配置されるように設けた支持プレート5と樹脂隔壁4bの貫通孔9は、被処理液(原液)などの流体の出入り口として使用することが可能である。該貫通孔9により、中空糸膜束の長手方向に対して、膜ろ過前の原液の流れ方向と膜ろ過後の透過液の流れ方向を平行にすることなどが可能になり、膜ろ過の圧力損失を低減することができる。該貫通孔9は1つよりも複数設ける方が好ましく、さらに複数の該貫通孔は、中空糸膜モジュールの径方向に均一に分散して穿設されることが好ましい。
【0034】
支持プレート5と樹脂隔壁4bの貫通孔を一直線上に配置するためには、樹脂隔壁を作製する際に、例えば、貫通孔を有する支持プレートを中空糸膜束とともにハウジング内に配置し、また、該支持プレートの貫通孔から、所望する樹脂隔壁の厚み以上の長さを有するピンを差し込む。その後、樹脂を供給・固化し、樹脂が固化した後に該ピンを除去する。なお、該貫通孔9は、中空糸膜モジュールの長手方向に亘り一定の径を保つ必要はない。例えば図6のように、テーパを設けてもよい。中空糸膜モジュールの中心に向かって径を小さくするようにテーパを設ける場合に、該ピンを除去する際に引抜き易く、工程の簡易化が実現できる。
【0035】
また、貫通孔を有する支持プレートを中空糸膜束と共にハウジング内に配置するとともに、該支持プレートの貫通孔に中空円筒10を内接するように、かつ、所望する樹脂隔壁の厚さ以上の長さが支持プレートから中空糸膜モジュール内側に突出するように挿入し、その後、樹脂を供給・固化してもよい。この方法によれば、図7に示すように、最終的に得られる中空糸膜モジュールにおいて支持プレート5および樹脂隔壁4bの内部に中空円筒10が残留することになる。中空円筒10は支持プレート5と一体成形されていてもよい。なお、中空円筒10は、支持プレートの内側端面からの長さが、所望する樹脂隔壁部4bの厚さよりも長くなるように突出させる必要がある。すなわち、樹脂隔壁4bの遠心成形、静置成形時に固着樹脂が貫通孔を塞がない長さにすることが必要である。また、該中空円筒10の外周は終端に向かってテーパを形成してもよい。周端部の面積は特に指定するものでない。
【0036】
本発明に用いる中空糸膜1の材質については、多孔質の中空糸膜であれば特に限定されるものではないが、ポリエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パ−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、およびクロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホン、その他の材質の限外ろ過膜または精密ろ過膜を適宜使用することができる。さらに、これらの高分子の焼結体からなるろ過材料も好ましく使用することができる。中空糸膜の内外径は特に限定されるものではなく、種々の内外径、断面構造、のものを使用することができる。
【0037】
上記中空糸膜が引き揃えられてなる中空糸膜束は、樹脂隔壁部4a、4bでハウジングの内壁に固定する際、図8に示すようにハウジング長手方向に関して弛みを有するようにすることが好ましい。そのため、中空糸膜束を直線状に伸ばしたときの長さと支持プレート5の厚さの合計がハウジング3の長さよりも長いことが好ましい。
【0038】
なお、本発明においては、支持プレートを有さない中空糸膜モジュールと比較して、支持プレートの厚さ分、樹脂隔壁に埋設される中空糸膜の長さを短くすることが可能である。そのため、一つの中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜の量を従来に比べて低減することができる。
【0039】
さらに、一般的な中空糸膜モジュール組立工程では、中空糸膜に弛みを付与する際に、ハウジング内に収納されハウジング両端部から一定長傍出する中空糸膜束端を中空部封止側から他方に向かってハウジング内に押し込むことで中空糸膜束全体に均一な弛みを付与する。該作業において、ハウジング内に位置する中空糸膜束とハウジングから傍出した中空糸膜束では、前者は中空糸膜束の周囲をハウジングが拘束するため座屈抵抗が大きく座屈し辛く、後者は周囲を拘束されていないため座屈抵抗が小さく座屈し易い。このとき、両者の座屈抵抗の差が大きいと、座屈抵抗の値が大きく変化する位置で中空糸膜が局所的に座屈することになる。そして、該座屈部分が樹脂隔壁内に位置することになると、弛みを付与するための中空糸膜長があっても、最終的に得られる中空糸膜モジュールでは中空糸膜に弛みがないものとなってしまう。これに対して、本発明の支持プレートを有する中空糸膜モジュールにおいては、該支持プレートの厚さ分、長さの短い中空糸膜束を使用することが可能であり、延いて、組立工程においては、ハウジングから傍出する中空糸膜束の長さを短くすることが可能となるため、ハウジング内に位置する中空糸膜束の座屈抵抗とハウジングから傍出する中空糸膜束の座屈抵抗との差を低減させることができ、局所的に中空糸膜が座屈することを防ぐことができる。その結果、中空糸膜モジュールの組立工程を簡易化することが可能となり、組立精度を向上ことにも寄与する。
【符号の説明】
【0040】
1 中空糸膜
2 中空糸膜束
3 ハウジング
31 透過液ポート
32 原液ポート
4 樹脂隔壁
4a 樹脂隔壁(中空部開口側)
4b 樹脂隔壁(中空部封止側)
5 支持プレート
6 側面ポート
7 シール材
9 貫通孔
10 中空円筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の中空糸膜からなる中空糸膜束と、該中空糸膜束を収納するハウジングと、該中空糸膜束と該ハウジングの内壁とを固定するための樹脂隔壁と、流体の出入り口となるポートと、からなり、該中空糸膜束の一方の端部では中空糸膜の中空部が開口しており、該中空糸膜束の他方の端部のハウジング長手方向外側には樹脂隔壁の支持プレートが設けられており、該支持プレートと中空糸膜束とハウジング内壁とが樹脂隔壁を構成する樹脂により固定されていることを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項2】
該支持プレートの外周形状が樹脂隔壁の外周形状と同一であることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
該支持プレートの外周とハウジングの内壁との間にシール材を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
該支持プレートは、中空糸膜束側の面に凹凸を備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
該支持プレートと該樹脂隔壁とは、ハウジング長手方向に連続した1つないしは複数の貫通孔を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−205981(P2012−205981A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72018(P2011−72018)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】