説明

主蒸気湿分測定装置、主蒸気湿分測定方法及び原子力発電プラント

【課題】精度良く主蒸気中の湿分を測定することができる主蒸気湿分測定装置、主蒸気湿分測定方法及び原子力発電プラントを提供する。
【解決手段】給水ラインの二次冷却水にトレーサ元素を添加する薬剤注入部と、蒸気発生器と湿分分離加熱器との間に配置された機器に導入された蒸気の流量を計測する第1の蒸気流量計測部と、機器のドレンに導入された蒸気の流量を計測する第2の蒸気流量計測部と、蒸気発生器のブローダウン水に含まれるトレーサ元素濃度を計測する第1の計測部と、機器のドレン水に含まれるトレーサ元素濃度を計測する第2の計測部と、第1および第2の蒸気流量計測部で取得した蒸気の流量と、第1および第2の計測部で取得したトレーサ元素濃度と、に基づいて主蒸気中に含まれる湿分を算出する湿分算出部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントの主蒸気中の湿分を測定する主蒸気湿分測定装置、主蒸気湿分測定方法及び原子力発電プラントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントを構成する蒸気タービンには、原子炉内の蒸気発生器で生成される蒸気を用いる高圧タービンと、高圧タービンで一度使用した蒸気を再び用いる低圧タービンとがある。蒸気タービンの高効率化、及び蒸気タービンの品質を維持するためには、できるだけ湿分の少ない蒸気を蒸気タービンに送ることが望ましい。例えば、所定量以上の湿分が含有された蒸気を蒸気タービンに送った場合は、蒸気タービンのロータ等の耐久性が低下するおそれがある。
【0003】
特許文献1には、蒸気タービンに送られる蒸気中の湿分を低い値に管理するために、蒸気タービンの入口近傍、または蒸気発生器の出口近傍の湿分を、カロリーメータを用いて測定する湿分計測方法が記載されている。この湿分計測方法は、主蒸気管を流通する蒸気を断熱膨張させた過熱蒸気の温度を計測して、得られる蒸気のエンタルピーから蒸気中の湿分を算出する方法である。
【0004】
特許文献2には、主蒸気管内を流れる水蒸気から抽気された気体廃棄物処理系の排ガスをモニタする放射線モニタへのN−13の影響を軽減し、放射線モニタの放射性希ガスへの感度を高めるとともに、燃料破損により発生する放射性希ガスの検出感度を高めることができる燃料破損検出装置およびその検出方法が記載されている。この燃料破損検出方法は、非放射性アルゴンガスをトレーサガスとして原子炉内に導入し、放射化されたAr−41を排ガス放射線モニタにより検出して、原子炉内の核燃料の破損を監視するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭61−45469号公報
【特許文献2】特許第3592474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蒸気タービンに送られる蒸気中の湿分の値は好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.03%以下とすることが要求されている。しかしながら、特許文献1のカロリーメータ法による湿分計測方法は、±0.1%程度の測定誤差が生じてしまう。蒸気中の湿分測定では、この測定誤差は大きく、カロリーメータ法による精密な湿分測定を行うことが困難であるという問題があった。またカロリーメータ法は、高温・高圧配管近傍での作業を伴うため、作業安全性が悪いという問題があった。
【0007】
また、気体廃棄物処理系に設置される排ガス放射線モニタは、核燃料から発生する放射性希ガスと、水の主成分である酸素原子が原子炉内で放射化して生成するN−13の放射化ガス、およびインリーク空気に含まれる非放射性アルゴンガスが原子炉内で放射化されて生成するAr−41等からのγ線の総量を計測している。しかしながら、特許文献2の非放射性アルゴンガスをトレーサガスとして用いる方法では、核燃料の核分裂以外により生じるN−13,Ar−41の影響を補正するために装置が複雑になるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、精度良く主蒸気中の湿分を測定することができる主蒸気湿分測定装置、主蒸気湿分測定方法及び原子力発電プラントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の主蒸気湿分測定装置は、主蒸気中の湿分を測定する主蒸気湿分測定装置であって、給水ラインの二次冷却水にトレーサ元素を添加する薬剤注入部と、蒸気発生器と湿分分離加熱器との間に配置された機器に導入された蒸気の流量を計測する第1の蒸気流量計測部と、機器のドレンに導入された蒸気の流量を計測する第2の蒸気流量計測部と、蒸気発生器のブローダウン水に含まれるトレーサ元素濃度を計測する第1の計測部と、機器のドレン水に含まれるトレーサ元素濃度を計測する第2の計測部と、第1の蒸気流量計測部および第2の蒸気流量計測部が取得した蒸気の流量と、第1の計測部および前記第2の計測部が取得したトレーサ元素濃度と、に基づいて主蒸気中に含まれる湿分を算出する湿分算出部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、主給水ラインの二次冷却水に極微量のトレーサ元素を添加し、SGブローダウン(SGBD)水中および主蒸気ラインに設置されている機器のドレン水中に含まれるトレーサ元素濃度および主蒸気ラインに設置されている機器に導入された蒸気の流量を測定し、得られたトレーサ元素濃度および蒸気流量から主蒸気中の湿分を算定することができる。
【0011】
本発明の主蒸気湿分測定装置のトレーサ元素は、リチウム(Li)であることが、好ましい。
【0012】
この構成によれば、極微量のリチウム(Li)元素をトレーサに用いることで、主蒸気中の湿分を精度良く測定することができる。
【0013】
本発明の主蒸気湿分測定装置の薬剤注入部は、復水脱塩装置と蒸気発生器との間の給水ラインに設置されて、ここを流れる二次冷却水にトレーサ元素を添加することが、好ましい。
【0014】
この構成によれば、既存の薬剤注入装置を利用してトレーサ元素を主給水ラインの二次冷却水に添加することができる。これにより、新たにトレーサ元素を添加するための装置等を設置する必要がない。
【0015】
本発明の主蒸気湿分測定装置の機器のドレンは、高圧タービンの高圧ドレンと湿分分離器のMSドレンと湿分分離加熱器のMSH加熱蒸気ドレンと、であることが、好ましい。
【0016】
この構成によれば、極微量のリチウム(Li)元素をトレーサに用いることで、主蒸気中の湿分を精度良く測定することが可能となった。これにより、原子力発電プラント設備に悪影響を与えない極低濃度のリチウム(Li)添加量でトレーサ元素濃度を測定することができる。
【0017】
本発明の主蒸気湿分測定装置の湿分算出部は、下記式(1)により主蒸気中に含まれる湿分Mを算出することが、好ましい。
【数1】


(上記式(1)中、Mは湿分(%)を表し、CMS−dはMSドレン水、高圧ドレン水、MSH加熱蒸気ドレン水の何れか一つに含まれるリチウム(Li)濃度を表し、QMS−dは上記CMS−dに対応する何れか一つのドレンに導入された蒸気の流量を表し、CSGはSGブローダウン水に含まれるリチウム(Li)濃度を表し、QMSR−inは上記CMS−dに対応する機器に導入された蒸気の流量を表す。)
【0018】
この構成によれば、主給水ラインの二次冷却水に極微量のトレーサ元素を添加し、SGブローダウン(SGBD)水中および主蒸気ラインに設置されている機器のドレン水中に含まれるトレーサ元素濃度および主蒸気ラインに設置されている機器に導入された蒸気の流量を測定し、得られたトレーサ元素濃度および蒸気流量から主蒸気中の湿分を算定することが可能となった。これにより、極微量のリチウム(Li)元素をトレーサに用いることで、主蒸気中の湿分を精度良く測定することができる。
【0019】
本発明の原子力発電プラントは、上記に記載の主蒸気湿分測定装置により算出された湿分に基づいて、蒸気発生器に給水する二次冷却水の給水流量を制御することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、主蒸気湿分測定装置により得られた測定値を蒸気発生器の熱出力(給水流量)の制御にフィードバックすることができる。
【0021】
本発明の主蒸気湿分測定方法は、主蒸気中の湿分を測定する主蒸気湿分測定方法であって、給水ラインの二次冷却水にトレーサ元素を添加する薬剤注入工程と、蒸気発生器と湿分分離加熱器との間に配置された機器に導入された蒸気の流量を計測する第1の蒸気流量計測工程と、機器のドレンに導入された蒸気の流量を計測する第2の蒸気流量計測工程と、蒸気発生器のブローダウン水に含まれるトレーサ元素濃度を計測する第1の計測工程と、機器のドレン水に含まれるトレーサ元素濃度を計測する第2の計測工程と、第1の蒸気流量計測工程および第2の蒸気流量計測工程が取得した蒸気の流量と、第1の計測工程および第2の計測工程が取得したトレーサ元素濃度と、に基づいて主蒸気中に含まれる湿分を算出する湿分算出工程と、を有することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、主給水ラインの二次冷却水に極微量のトレーサ元素を添加し、SGブローダウン(SGBD)水中および主蒸気ラインに設置されている機器のドレン水中に含まれるトレーサ元素濃度および主蒸気ラインに設置されている機器に導入された蒸気の流量を測定し、得られたトレーサ元素濃度および蒸気流量から主蒸気中の湿分を算定することができる。
【0023】
本発明の主蒸気湿分測定方法のトレーサ元素は、リチウム(Li)であることが、好ましい。
【0024】
この構成によれば、極微量のリチウム(Li)元素をトレーサに用いることで、主蒸気中の湿分を精度良く測定することができる。
【0025】
本発明の主蒸気湿分測定方法の薬剤注入工程は、復水脱塩装置と前記蒸気発生器との間の給水ラインに設置されて、ここを流れる二次冷却水に前記トレーサ元素を添加することが、好ましい。
【0026】
この構成によれば、既存の薬剤注入装置を利用してトレーサ元素を主給水ラインの二次冷却水に添加することができる。これにより、新たにトレーサ元素を添加するための装置等を設置する必要がない。
【0027】
本発明の主蒸気湿分測定方法の機器のドレンは、高圧タービンの高圧ドレンと湿分分離器のMSドレンと湿分分離加熱器のMSH加熱蒸気ドレンと、であることが、好ましい。
【0028】
この構成によれば、極微量のリチウム(Li)元素をトレーサに用いることで、主蒸気中の湿分を精度良く測定することが可能となった。これにより、原子力発電プラント設備に悪影響を与えない極低濃度のリチウム(Li)添加量でトレーサ元素濃度を測定することができる。
【0029】
本発明の主蒸気湿分測定方法の湿分算出工程は、下記式(1)により主蒸気中に含まれる湿分Mを算出することが、好ましい。
【数2】


(上記式(1)中、Mは湿分(%)を表し、CMS−dはMSドレン水、高圧ドレン水、MSH加熱蒸気ドレン水の何れか一つに含まれるリチウム(Li)濃度を表し、QMS−dは上記CMS−dに対応する何れか一つのドレンに導入された蒸気の流量を表し、CSGはSGブローダウン水に含まれるリチウム(Li)濃度を表し、QMSR−inは上記CMS−dに対応する機器に導入された蒸気の流量を表す。)
【0030】
この構成によれば、主給水ラインの二次冷却水に極微量のトレーサ元素を添加し、SGブローダウン(SGBD)水中および主蒸気ラインに設置されている機器のドレン水中に含まれるトレーサ元素濃度および主蒸気ラインに設置されている機器に導入された蒸気の流量を測定し、得られたトレーサ元素濃度および蒸気流量から主蒸気中の湿分を算定することが可能となった。これにより、極微量のリチウム(Li)元素をトレーサに用いることで、主蒸気中の湿分を精度良く測定することができる。
【0031】
本発明の原子力発電プラントは、上記に記載の主蒸気湿分測定方法により算出された湿分に基づいて、蒸気発生器に給水する二次冷却水の給水流量を制御することを特徴とする。
【0032】
この構成によれば、主蒸気湿分測定方法により得られた測定値を蒸気発生器の熱出力(給水流量)の制御にフィードバックすることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の主蒸気湿分測定装置、主蒸気湿分測定方法及び原子力発電プラントによれば、低濃度のリチウム(Li)元素をトレーサに用いることで、主蒸気中の湿分を精度良く測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本実施例に係る主蒸気湿分測定装置が適用される原子力発電プラントを模式的に表した概略構成図である。
【図2】図2は、本実施例に係る主蒸気湿分測定装置の構成図である。
【図3】図3は、本実施例に係る主蒸気湿分測定方法の流れを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本発明に係る主蒸気湿分測定装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0036】
図1は、本発明の実施例に係る主蒸気湿分測定装置が適用される原子力発電プラントを模式的に表した概略構成図である。
【0037】
本実施例が適用される原子力発電プラントの原子炉は、軽水を原子炉冷却材及び中性子減速材として使用し、一次系全体にわたって沸騰しない高温高圧水とし、この高温高圧水を蒸気発生器に送って二次冷却材と熱交換させることにより蒸気を発生させ、この蒸気をタービン発電機へ送って発電する加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)である。なお、本実施例は、このPWRに限らず、これを改良した改良型加圧水型原子炉(APWR:Advanced Pressurized Water Reactor)に適用することができる。また、蒸気発生器と蒸気タービンとを備えている他の発電プラントにも適用可能である。
【0038】
原子力発電プラントにおいては通常、原子炉の熱を利用した高温水を蒸気発生器に送り熱交換させた後に回収するいわゆる一次系と、蒸気発生器内で一次系の高温水を利用して蒸気を発生させ、この蒸気でタービンを回転させて発電し、その後、復水器で復水させた後、蒸気発生器に回収するいわゆる二次系とを備える。二次系には、蒸気発生器の器内水の一部を取り出して不純物を浄化した後に冷却水配管16へ回収するSG(Steam Generator)ブローダウン系(または蒸気発生器ブローダウン系)を備えている。SGブローダウン系では、必要に応じてブローダウンした流体の熱回収が行われる。
【0039】
図1に示すように、加圧水型原子力プラントの原子炉格納容器1内には、加圧水型原子炉2および蒸気発生器3が格納されている。加圧水型原子炉2と蒸気発生器3とは、冷却水配管4,5を介して連結されている。冷却水配管4には、加圧器6が設けられ、冷却水配管5には、冷却水ポンプ7が設けられている。
【0040】
原子炉2は、上記したように加圧水型原子炉であり、その内部は原子炉冷却材(一次冷却水)で満たされている。そして、原子炉2は、多数の燃料集合体を収容すると共に、燃料集合体の燃料棒内の核燃料の核分裂を制御する多数の制御棒が、各燃料集合体に対し挿入可能に設けられている。
【0041】
制御棒により核分裂反応を制御しながら燃料集合体の燃料棒内の核燃料を核分裂させると、この核分裂により熱エネルギーが発生する。発生した熱エネルギーは原子炉冷却材を加熱し、加熱された原子炉冷却材は、冷却水配管4を介して蒸気発生器3へ送られる。一方、冷却水配管5を介して各蒸気発生器3から送られてきた原子炉冷却材は、原子炉2内に流入して、原子炉2内を冷却する。
【0042】
蒸気発生器3は、高温高圧となった原子炉冷却材(一次冷却水)を二次冷却材(二次冷却水)と熱交換させることにより、二次冷却材を蒸発させて蒸気を発生させ、かつ、高温高圧となった原子炉冷却材を冷却している。加圧器6は、高温となった原子炉冷却材を加圧することにより、原子炉冷却材の沸騰を抑制している。冷却水ポンプ7は、原子炉冷却系において原子炉冷却材を循環させており、原子炉冷却材を蒸気発生器3から冷却水配管5を介して原子炉2へ送り込むと共に、原子炉冷却材を原子炉2から冷却水配管4を介して蒸気発生器3へ送り込んでいる。原子炉冷却材は、原子炉2と蒸気発生器3との間を循環している。なお、原子炉冷却材は、冷却材及び中性子減速材として用いられる軽水である。
【0043】
蒸気発生器3は、蒸気タービン10に冷却水配管11を介して連結されている。蒸気タービン10は、高圧タービン10Aおよび低圧タービン10Bを有すると共に、発電機が接続されている。また、高圧タービン10Aと低圧タービン10Bとの間には、湿分分離器26および湿分分離加熱器12が設けられている。湿分分離加熱器12は、高圧タービン10Aに低温再熱管13を介して連結されていると共に、低圧タービン10Bに高温再熱管14を介して連結されている。さらに、蒸気タービン10の低圧タービン10Bは、復水器15を有している。復水器15は、冷却水(例えば、海水)を給排するように構成されている。この復水器15は、冷却水配管16を介して脱気器17に連結されている。そして、冷却水配管16には、復水器15側から順に、復水ポンプ18、復水脱塩装置19、薬剤注入装置40、復水ブースターポンプ20、低圧給水加熱器21が設けられている。また、脱気器17は、冷却水配管22を介して蒸気発生器3に連結されている。冷却水配管22には、脱気器17側から順に、貯留槽23、給水ポンプ24および高圧給水加熱器25が設けられている。復水ポンプ18、復水ブースターポンプ20および給水ポンプ24は、二次冷却系として、二次冷却水(純水)を、復水ポンプ18により復水器15から冷却水配管16を介して復水脱塩装置19に送り、復水ブースターポンプ20により冷却水配管16を介して低圧給水加熱器21を経て脱気器17に送る。そして二次冷却水を、給水ポンプ24により冷却水配管22を介して高圧給水加熱器25を経て蒸気発生器3に送る。なお、脱気器17からは、冷却水配管22を介して脱気器17で脱気された二次冷却水が送られる。
【0044】
蒸気発生器3で高圧高温の一次冷却水と熱交換を行って生成された二次冷却水の蒸気は、冷却水配管11を通して高圧タービン10Aと低温再熱管13とに分配される。この分配率は任意に設定される。高圧タービン10Aに分配された蒸気は、高圧タービン10Aを駆動した後に高圧ヒータ27に導入される。高圧ヒータ27で分離された液体は高圧ドレン(HPドレン)27aに回収される。また高圧タービン10Aの高圧排気は、湿分分離器26に導入され、分離された液体はMS(Moisture Separator)ドレン26aに回収され、気体は湿分分離加熱器12に送られる。湿分分離加熱器(MSH:Moisture Separator Heater)12は、低温再熱管13に分配されて導入した蒸気を加熱して液体と気体とに分離する。湿分分離加熱器12で分離された液体は、湿分分離加熱器加熱蒸気ドレン(MSH加熱蒸気ドレン)12aに回収される。湿分分離加熱器12で分離された気体と湿分分離器26から送られた気体とは、高温再熱管14を介して低圧タービン10Bに送られる。この蒸気(気体)により蒸気タービン10(高圧タービン10Aおよび低圧タービン10B)を駆動して発電機により発電を行う。つまり、蒸気発生器3からの蒸気は、高圧タービン10Aを駆動した後、湿分分離加熱器12で蒸気に含まれる湿分が除去されると共に、加熱されてから低圧タービン10Bを駆動する。
【0045】
蒸気タービン10(高圧タービン10Aおよび低圧タービン10B)を駆動した蒸気は、復水器15で冷却されて液体となる。復水脱塩装置19では復水に含まれる海水成分が除去される。復水(二次冷却水)は、薬剤注入装置40でpHが調整され、低圧給水加熱器21で低圧タービン10Bから抽気した低圧蒸気により加熱された後、脱気器17に送られて溶存酸素や不凝結ガス(アンモニアガス)などの不純物が除去される。その後、二次冷却水(復水)は、貯留槽23に一旦貯留され、高圧給水加熱器25で、高圧タービン10Aから抽気した高圧蒸気により加熱された後、蒸気発生器3に戻される。なお、二次冷却水(復水)のpH調整薬剤としては、例えばアンモニア、ヒドラジンなど公知の薬剤が適用できる。
【0046】
また、低圧給水加熱器21では、低圧蒸気が凝縮された凝縮水を、低圧給水加熱器ドレンポンプにより低圧給水加熱器ドレンを介して冷却水配管22に排水する。なお、低圧給水加熱器21の凝縮水を復水器15に排水してもよい。また、高圧給水加熱器25では、高圧蒸気が凝縮された凝縮水を、高圧給水加熱器ドレンポンプにより低圧給水加熱器ドレンを介して脱気器17に排水する。なお、高圧給水加熱器25の凝縮水を復水器15に排水してもよい。
【0047】
SGブローダウン系は以下のような主要構成を有する。蒸気発生器3はSGBD(Steam Generator Blow Down)管29を備える。SGBD管29の途中には、SGBD遮断弁32、SGBD絞り弁33が設けられている。SGBD絞り弁33の下流側で、SGBD管29はフラッシュタンク(F/T)30に接続される。フラッシュタンク30の下流側には、ブローダウン常用ライン34が配置されている。ブローダウン常用ライン34は、一端がフラッシュタンク30に接続され、途中にSGBD冷却器35及び第1のF/T水位制御弁36が設けられ、他端が復水ポンプ18の下流側で、かつ復水脱塩装置19の上流側の部分に接続される。また、フラッシュタンク30の下流側かつSGBD冷却器35の上流側でブローダウン常用ライン34からブローダウンバイパスライン37が分岐している。ブローダウンバイパスライン37は、途中に第2のF/T水位制御弁38が設けられている。このブローダウンバイパスライン37は、一端がフラッシュタンク30に接続され、他端が復水器15に接続される。ここで、第1のF/T水位制御弁36および第2のF/T水位制御弁38は、流量調節が可能な流量調節弁であり、流路決定手段を構成する。
【0048】
さらに、フラッシュタンク30には、低圧給水加熱器21の下流側であって脱気器17に接続される熱回収ライン31が設けられている。フラッシュタンク30で分離された蒸気は、この熱回収ライン31を介して脱気器17に送られる。
【0049】
このようなSGブローダウン系を備えた原子力発電プラントにおいては、通常運転時には、例えば、自動でSGBD遮断弁32および切替弁を制御し、蒸気発生器3でブローダウンされた流体を、SGブローダウンとしてフラッシュタンク30に導入する。フラッシュタンク30でフラッシュさせたフラッシュ蒸気は、脱気器17に回収する。残った液体は、SGブローダウン液体として、SGBD冷却器35に導入され、復水脱塩装置19の許容温度以下まで冷却された後、第1のF/T水位制御弁36を介して復水脱塩装置19に送られる。復水脱塩装置19の許容温度とは、復水脱塩装置19のイオン交換樹脂の耐熱温度から定まる値であって、例えば40℃程度である。
【0050】
<主蒸気湿分測定装置>
次に、本実施例の主蒸気湿分測定装置について説明する。
【0051】
本実施例の主蒸気湿分測定装置は、主給水ラインの二次冷却水に極微量のトレーサ元素を添加し、蒸気発生器ブローダウン(以下、SGブローダウンと記述する)水中および主蒸気ラインに設置されている機器のドレン水中に含まれるトレーサ元素濃度および主蒸気ラインに設置されている機器に導入された蒸気の流量を測定し、得られたトレーサ元素濃度および蒸気流量から主蒸気中の湿分を算定することに特徴がある。このようにすることで、極微量のリチウム(Li)元素をトレーサに用いても、主蒸気中の湿分を精度良く測定することが可能となった。またトレーサ元素濃度測定部に高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)を適用したことにより、原子力発電プラント設備に悪影響を与えない極低濃度のリチウム添加量でトレーサ元素濃度を測定することが可能となった。
【0052】
図2は、本実施例に係る主蒸気湿分測定装置の構成図である。図1と同様な構成部分については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。なお以下では湿分分離器26およびMSドレン26aを例にして説明するが、これに限定されるものではない。
【0053】
実施例の主蒸気湿分測定装置100は、計測部101と制御部102と記憶部103と演算部104と出力部105と表示部106と薬剤注入部40と第1試料抽出部S1,第2試料抽出部S2,第3試料抽出部S3,第4試料抽出部S4と第1蒸気流量計測部f1,第2蒸気流量計測部f2,第3蒸気流量計測部f3,第4蒸気流量計測部f4とを含む。
【0054】
計測部101は、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、略称ICP)によってイオン化された原子を質量分析計(Mass Spectrometry、略称MS)に導入することで、元素の同定・定量を行うもので、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)である。本実施形態では、質量分析計を用いるために、pptレベルの超高感度分析が可能となっている。なお計測部101に適用する誘導結合プラズマ質量分析計は公知の装置が適用可能である。また、一般に原子力発電プラントには、水質管理などのために高周波誘導結合プラズマ質量分析装置が設置されているので、この既存の装置を計測部101として構成することも可能である。
【0055】
制御部102は、主蒸気湿分測定装置100全体を制御するものである。また制御部102は計測部101を構成する誘導結合プラズマ質量分析計と情報をやり取りして、誘導結合プラズマ質量分析計が測定したトレーサ元素濃度を記憶部103に格納し、演算部104に湿分を算出させる。また制御部102は、算出した値などの情報を出力部105および表示部106に出力させる。また制御部102は第1蒸気流量計測部f1,第2蒸気流量計測部f2,第3蒸気流量計測部f3,第4蒸気流量計測部f4と情報をやり取りして第1蒸気流量計測部f1,第2蒸気流量計測部f2,第3蒸気流量計測部f3,第4蒸気流量計測部f4が計測した蒸気流量を記憶部103に格納し、演算部104に湿分を算出させる。また制御部102は、薬剤注入部40を制御して主給水ラインの二次冷却水にトレーサ元素を添加させる。
【0056】
記憶部103は、計測部101で測定されたトレーサ元素濃度および第1蒸気流量計測部f1,第2蒸気流量計測部f2,第3蒸気流量計測部f3,第4蒸気流量計測部f4で計測された蒸気流量などを格納する。
【0057】
演算部104は、計測部101で測定されたトレーサ元素濃度および第1蒸気流量計測部f1,第2蒸気流量計測部f2,第3蒸気流量計測部f3,第4蒸気流量計測部f4で計測された蒸気流量に基づいて湿分を算出する。
【0058】
出力部105および表示部106は、各種の情報を出力および表示する。
【0059】
薬剤注入部40は、トレーサ元素濃度測定の対象となる主給水ラインの二次冷却水にトレーサ元素を添加する。なおトレーサ元素を添加したことにより変動するpHは公知の方法により調整することが可能である。添加するトレーサ元素としては、ナトリウム(Na)およびリチウム(Li)が好適に挙げられる。なお原子炉補機冷却水(CCW)に海水を利用している場合は、ナトリウム(Na)は海水リークを検出するためのトレーサ元素として測定対象となっているため、添加するトレーサ元素としてはリチウム(Li)がさらに好適である。特にリチウム(Li)は、自然界に一般的に存在しない元素なので、二次冷却水に混入しても測定誤差を生じさせるおそれは低い。トレーサ元素として添加するLiOHはアルカリ性であり、SGクレビスで濃縮する。SGクレビス周辺がアルカリ環境となることで伝熱管などが粒界腐食割れ(IGA:IntergranularAttack)を引き起こすおそれがあるため、リチウム(Li)の添加量は極微量であることが好ましい。ここでSGクレビスとは、蒸気発生器の伝熱管周囲と伝熱管を支持する管支持板との隙間を意味する。
【0060】
第1試料抽出部S1,第2試料抽出部S2,第3試料抽出部S3,第4試料抽出部S4は、添加されたトレーサ元素濃度を測定するための試料(サンプル水)を抽出する部分である。第1試料抽出部S1は、SGブローダウン水を抽出する部分である。第2試料抽出部S2は、高圧タービン10AのHPドレン27a水を抽出する部分である。第3試料抽出部S3は、湿分分離器26のMSドレン26a水を抽出する部分である。第4試料抽出部S4は湿分分離加熱器12のMSH加熱蒸気ドレン12a水を抽出する部分である。主給水ライン中に含まれるトレーサ元素濃度は、第1試料抽出部S1で測定することができる。本実施例において第1試料抽出部S1が第1の計測部である。第2試料抽出部S2,第3試料抽出部S3,第4試料抽出部S4で測定されるトレーサ元素濃度は、蒸気発生器3で発生した主蒸気中に含まれるトレーサ元素濃度である。本実施例において第2試料抽出部S2,第3試料抽出部S3,第4試料抽出部S4が第2の計測部に対応する。なお主蒸気が各機器に分配される分配率(蒸気流量)により、第2試料抽出部S2,第3試料抽出部S3,第4試料抽出部S4で測定されるトレーサ元素濃度レベルは異なる。例えば、分配率の高い湿分分離器26のMSドレン26a(第3試料抽出部S3)で測定されるトレーサ元素濃度は、高圧タービン10AのHPドレン27a(第2試料抽出部S2)で測定されるトレーサ元素濃度と比較して1桁高い値となることが分かっている。そこでトレーサ元素濃度を測定するための試料としては、第3試料抽出部S3の試料が好ましい。
【0061】
第1蒸気流量計測部f1,第2蒸気流量計測部f2,第3蒸気流量計測部f3,第4蒸気流量計測部f4は、蒸気発生器3で発生した主蒸気が分配されて各機器に導入された蒸気の流量を測定する部分である。第1蒸気流量計測部f1は、高圧タービン10Aの高圧排気から湿分分離器26に導入された蒸気の流量を測定する部分である。第2蒸気流量計測部f2は、高圧タービン10Aを駆動した蒸気からHPドレン27aに導入された蒸気の流量を測定する部分である。第3蒸気流量計測部f3は、湿分分離器26からMSドレン26aに導入された蒸気の流量を測定する部分である。第4蒸気流量計測部f4は、湿分分離加熱器12からMSH加熱蒸気ドレン12aに導入された蒸気の流量を測定する部分である。本実施例において第1蒸気流量計測部f1が第1の蒸気流量計測部である。また上述した第2蒸気流量計測部f2,第3蒸気流量計測部f3,第4蒸気流量計測部f4が第2の蒸気流量計測部に対応する。なお第1蒸気流量計測部f1,第2蒸気流量計測部f2,第3蒸気流量計測部f3,第4蒸気流量計測部f4で測定される蒸気流量は原子力発電プラントの運転状態により変動するため、予め設定されている蒸気流量分配比に基づいて算出される設計値を各機器に導入された蒸気の流量の値として用いて主蒸気中の湿分を算出することも可能である。
【0062】
<主蒸気湿分測定方法>
次に、図3を参照しながら、本実施例の主蒸気湿分測定方法について説明する。
【0063】
図3は、本実施例に係る主蒸気湿分測定方法の流れを示すフローチャート図である。なお以下では湿分分離器とMSドレンを例にして説明するが、これに限定されるものではない。
【0064】
計測部101は、主給水ラインの二次冷却水にトレーサ元素としてのリチウム(Li)を添加する前にSGブローダウン水(第1試料抽出部S1)の不純物濃度を測定する(ステップS10)。そして測定した不純物濃度に基づいて演算部104は、SGクレビスpHを算出する。次に演算部104は、リチウム(Li)を添加した後のSGクレビスpHを推定し、推定した値に基づいて制御部102は、リチウム添加量を設定する(ステップS11)。蒸気発生器が稼働している時において、SGクレビスは高温雰囲気となるため、この高温雰囲気下でのSGクレビスpHが4以上11以下になるようにリチウム添加量を設定することが好ましい。さらに好ましくはSGクレビスpHが5以上10以下になるようにリチウム添加量を設定することが好ましい。
【0065】
薬剤注入工程として制御部102は、トレーサ元素であるリチウム添加量を設定した後、薬剤注入部40を制御して主給水ラインの二次冷却水にリチウムを添加させる(ステップS12)。主給水ラインへのリチウムの添加は、例えば、図1の薬剤注入装置40の薬剤タンクを利用して行うことができる。これにより、新たにリチウムを添加するための装置等を設置する必要がない。薬剤注入装置40は、主給水ラインの二次冷却水のpHや溶存酸素濃度などの水質を管理するためのもので、ヒドラジンなどの薬剤を注入する装置である。本実施例では、ヒドラジン注入タンクにリチウムを混合して主給水ラインの二次冷水にトレーサ元素のリチウムを添加する。またヒドラジンと共にリチウムもpHを変動させる機能を有するが、ヒドラジン注入タンクにおけるリチウム濃度は、ヒドラジンの投入速度を調節することで調整することができる。
【0066】
計測部101は、リチウムを添加した後、所定時間経過後、主給水ラインの二次冷水中およびSGブローダウン水中のリチウム濃度が安定してから、第1の計測工程として蒸気発生器3のSGブローダウン水に含まれるリチウム濃度測定を行う(ステップS13)。リチウム濃度測定は、図2中の第1試料抽出部S1からSGブローダウン水をサンプリングチューブにて主蒸気湿分測定装置100の計測部101に導入して行うようになっている。計測部101で測定されたSGブローダウン水中に含まれるリチウム濃度は計測部101から制御部102に送信され、記憶部103に格納される。
【0067】
次に制御部102は、第1の蒸気流量計測工程として主蒸気から分配されて、湿分分離器26に導入された蒸気の流量および第2の蒸気流量計測工程として湿分分離器26からMSドレン26aに導入された蒸気の流量を測定する(ステップS14)。蒸気流量測定は、図2中の第1蒸気流量計測部f1(湿分分離器26に導入された蒸気の流量)と第3蒸気流量計測部f3(湿分分離器26からMSドレン26aに導入された蒸気の流量)に設置された、例えば公知の質量流量計で行うようになっている。測定された各蒸気流量計測部の蒸気流量は、主蒸気湿分測定装置100の制御部102に送信され、記憶部103に格納される。なお蒸気流量測定は上述した質量流量計に限ることはなく公知の流体の流量を計測できる装置であれば適用することができる。
【0068】
制御部102は、蒸気流量を測定すると同時に第2の計測工程として計測部101でMSドレン26a水に含まれるリチウム濃度測定を行う(ステップS15)。リチウム濃度測定は、図2中の第3試料抽出部S3からMSドレン26a水を、例えば、サンプリングチューブを介して主蒸気湿分測定装置100の計測部101に導入して行うようになっている。計測部101で測定されたMSドレン26a水中に含まれるリチウム濃度は計測部101から制御部102に送信され、記憶部103に格納される。
【0069】
次に制御部101は、湿分算出工程として上記のステップS13、S14、S15で取得した各リチウム濃度および各蒸気流量から演算部104にて、下記式(1)を用いて主蒸気中の湿分Mを算出する(ステップS16)。
【0070】
【数3】


上記式(1)中、Mは湿分(%)を表し、CMS−dはMSドレン水に含まれるリチウム(Li)濃度(ppm)を表し、QMS−dは上記CMS−dに対応するMSドレンに導入された蒸気の流量(kg/時間)を表し、CSGはSGブローダウン水に含まれるリチウム(Li)濃度(ppm)を表し、QMSR−inは上記CMS−dに対応する湿分分離器に導入された蒸気の流量(kg/時間)を表す。
【0071】
上述した実施例は蒸気流量測定とリチウム濃度測定は、湿分分離器26とMSドレン26aを測定対象とした例として説明した。蒸気流量測定とリチウム濃度測定は、高圧タービン10AとHPドレン27aを対象とした場合、蒸気流量は、主蒸気から分配されて高圧タービン10Aに導入された蒸気の流量が全量HPドレン27aに導入されるものとして湿分Mを算出する。また蒸気流量測定は第2蒸気流量計測部f2で測定する。リチウム濃度測定は、図2中の第2試料抽出部S2からHPドレン27a水を、例えば、サンプリングチューブを介して主蒸気湿分測定装置100の計測部101に導入して行うようになっている。また、蒸気流量測定とリチウム濃度測定は、湿分分離加熱器12とMSH加熱蒸気ドレン12aを対象とした場合、蒸気流量は、主蒸気から分配されて低温再熱管13に導入された蒸気の流量と湿分分離器26から導入された蒸気の流量を加算した値とする。この加算した蒸気流量が湿分分離加熱器12に導入されるものとして湿分Mを算出する。MSH加熱蒸気ドレン12aに導入された蒸気量は第4蒸気流量計測部f4が測定する。リチウム濃度測定は、図2中の試料抽出部S4からMSH加熱蒸気ドレン12a水を、例えば、サンプリングチューブを介して主蒸気湿分測定装置100の計測部101に導入して行うようになっている。
【0072】
なお上記の説明では、リチウム濃度測定は第1試料抽出部S1,第2試料抽出部S2,第3試料抽出部S3,第4試料抽出部S4からサンプリングチューブを介して主蒸気湿分測定装置100の計測部101に導入して行うとしたが、第1試料抽出部S1,第2試料抽出部S2,第3試料抽出部S3,第4試料抽出部S4で採取した試料(サンプル水)を主蒸気湿分測定装置100に持ち込んで、バッチ方式で計測部101に導入して測定する構成とすることも可能である。
【0073】
<主蒸気湿分測定方法の適用例>
次に、本実施例の主蒸気湿分測定方法を適用して湿分を算出した例について説明する。主給水ラインの二次冷却水にトレーサ元素としてのリチウム(Li)を添加する前にSGブローダウン水の不純物濃度を測定した。そして測定した不純物濃度に基づいてリチウムを添加した後のSGクレビスpHを9以下と推定してリチウム添加量を設定した。この時、リチウム添加前の主給水ラインの二次冷却水中のリチウムのバックグランド濃度は、0.2ppt以下であった。SGクレビスpHの設定および確認方法については従来の公知の方法が適用できる。
【0074】
次に、図1に示した薬剤注入装置40の薬剤タンク(ヒドラジンタンク)に上記で設定したリチウム添加量を添加した。この時、SGクレビスpHは4以上11以下となるように設定した。また、添加したリチウム添加原液のリチウム濃度は0.09質量%以上0.11質量%以下となるように調製した。またリチウム添加原液の不純物濃度はナトリウム(Na)、塩素(Cl)、硫酸イオン(SO)とも全て10ppm以下であった。
【0075】
リチウムを添加した後に所定時間経過後、主給水ラインの二次冷水中およびSGブローダウン水中のリチウム濃度が安定してから、各部のリチウム濃度測定を行った。測定されたリチウム濃度は以下に示すとおりである。
・SGブローダウン水のリチウム濃度: 1ppb
・HPドレン水のリチウム濃度 : 1ppt
・MSドレン水のリチウム濃度 :10ppt
【0076】
同時にHPドレンとMSドレンに導入される蒸気の流量を測定し、主蒸気の蒸気流量分配比を算出した。算出した蒸気流量分配比は以下に示すとおりである。
・HPドレン:MSドレン=1:10
【0077】
上記の結果から、上記式(1)を適用して算出した各部の主蒸気中の湿分は以下に示すとおりである。
・HPドレン 0.1%
・MSドレン 0.1%
【0078】
従って、各ドレンで検出された蒸気発生器(SG)で発生した主蒸気中に含まれる湿分としては、約0.1%程度であった。おおよその目安として、HPドレンで検出された湿分は、SGブローダウンの湿分の1/1000程度であり、MSドレンで検出された湿分は、SGブローダウンの湿分の1/100程度である。言い換えれば、MSドレンにおけるリチウム検出濃度はHPドレンよりも1桁高い値となることが分かる。ここで、上述した主蒸気の蒸気流量分配率がHPドレン:MSドレン-=1:10であるため、蒸気流量分配率を加味して主蒸気中の湿分を算出した場合、HPドレン=MSドレン=0.1%となる。例えば、SGブローダウン(SGBD)の湿分が100%であった場合、HPドレンやMSドレンでの湿分は約0.1%程度と見積もることができる。
【0079】
このように、本実施例によれば、主給水ラインの二次冷却水に極微量のトレーサ元素を添加し、SGブローダウン(SGBD)水中および主蒸気ラインに設置されている機器のドレン水中に含まれるトレーサ元素濃度および主蒸気ラインに設置されている機器に導入された蒸気の流量を測定し、得られたトレーサ元素濃度および蒸気流量から主蒸気中の湿分を算定することが可能となった。
【0080】
また、極微量のリチウム(Li)元素をトレーサに用いることで、主蒸気中の湿分を精度良く測定することが可能となった。
【0081】
またトレーサ元素濃度測定に高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)を適用したことにより、原子力発電プラント設備に悪影響を与えない極低濃度のリチウム(Li)添加量でトレーサ元素濃度を測定することが可能となった。
【符号の説明】
【0082】
2 加圧水型原子炉
3 蒸気発生器
10 蒸気タービン
10A 高圧タービン(HP−T)
10B 低圧タービン(LP−T)
12 湿分分離加熱器(MSH)
12a MSH加熱蒸気ドレン
13 低温再熱管
14 高温再熱管
15 復水器
16、22 冷却水配管
17 脱気器
18 復水ポンプ
19 復水脱塩装置
20 復水ブースターポンプ
21 低圧給水加熱器
24 給水ポンプ
25 高圧給水加熱器
26 湿分分離器
26a MSドレン
27 高圧ヒータ
27a 高圧ドレン(HPドレン)
29 SGBD管(SGブローダウン管)
30 フラッシュタンク(F/T)
32 SGBD遮断弁
34 ブローダウン常用ライン
40 薬剤注入装置
100 主蒸気湿分測定装置
101 計測部
102 制御部
103 記憶部
104 演算部
105 出力部
106 表示部
S1,S2,S3,S4 試料抽出部
f1,f2,f3,f4 蒸気流量計測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主蒸気中の湿分を測定する主蒸気湿分測定装置であって、
給水ラインの二次冷却水にトレーサ元素を添加する薬剤注入部と、
蒸気発生器と湿分分離加熱器との間に配置された機器に導入された蒸気の流量を計測する第1の蒸気流量計測部と、
前記機器のドレンに導入された蒸気の流量を計測する第2の蒸気流量計測部と、
前記蒸気発生器のブローダウン水に含まれる前記トレーサ元素濃度を計測する第1の計測部と、
前記機器のドレン水に含まれる前記トレーサ元素濃度を計測する第2の計測部と、
前記第1の蒸気流量計測部および前記第2の蒸気流量計測部が取得した前記蒸気の流量と、前記第1の計測部および前記第2の計測部が取得した前記トレーサ元素濃度と、に基づいて前記主蒸気中に含まれる湿分を算出する湿分算出部と、
を備えることを特徴とする主蒸気湿分測定装置。
【請求項2】
前記トレーサ元素は、リチウム(Li)であることを特徴とする請求項1に記載の主蒸気湿分測定装置。
【請求項3】
前記薬剤注入部は、復水脱塩装置と前記蒸気発生器との間の給水ラインに設置されて、ここを流れる二次冷却水に前記トレーサ元素を添加することを特徴とする請求項1に記載の主蒸気湿分測定装置。
【請求項4】
前記機器のドレンは、高圧タービンの高圧ドレンと湿分分離器のMSドレンと湿分分離加熱器のMSH加熱蒸気ドレンと、であることを特徴とする請求項1に記載の主蒸気湿分測定装置。
【請求項5】
前記湿分算出部は、下記式(1)により前記主蒸気中に含まれる湿分Mを算出することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の主蒸気湿分測定装置。
【数1】


(上記式(1)中、Mは湿分(%)を表し、CMS−dはMSドレン水、高圧ドレン水、MSH加熱蒸気ドレン水の何れか一つに含まれるリチウム(Li)濃度を表し、QMS−dは上記CMS−dに対応する何れか一つのドレンに導入された蒸気の流量を表し、CSGはSGブローダウン水に含まれるリチウム(Li)濃度を表し、QMSR−inは上記CMS−dに対応する機器に導入された蒸気の流量を表す。)
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の主蒸気湿分測定装置により算出された湿分に基づいて、蒸気発生器に給水する二次冷却水の給水流量を制御することを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項7】
主蒸気中の湿分を測定する主蒸気湿分測定方法であって、
給水ラインの二次冷却水にトレーサ元素を添加する薬剤注入工程と、
蒸気発生器と湿分分離加熱器との間に配置された機器に導入された蒸気の流量を計測する第1の蒸気流量計測工程と、
前記機器のドレンに導入された蒸気の流量を計測する第2の蒸気流量計測工程と、
前記蒸気発生器のブローダウン水に含まれる前記トレーサ元素濃度を計測する第1の計測工程と、
前記機器のドレン水に含まれる前記トレーサ元素濃度を計測する第2の計測工程と、
前記第1の蒸気流量計測工程および前記第2の蒸気流量計測工程が取得した前記蒸気の流量と、前記第1の計測工程および前記第2の計測工程が取得した前記トレーサ元素濃度と、に基づいて前記主蒸気中に含まれる湿分を算出する湿分算出工程と、
を有することを特徴とする主蒸気湿分測定方法。
【請求項8】
前記トレーサ元素は、リチウム(Li)であることを特徴とする請求項7に記載の主蒸気湿分測定方法。
【請求項9】
前記薬剤注入工程は、復水脱塩装置と前記蒸気発生器との間の給水ラインに設置されて、ここを流れる二次冷却水に前記トレーサ元素を添加することを特徴とする請求項7に記載の主蒸気湿分測定方法。
【請求項10】
前記機器のドレンは、高圧タービンの高圧ドレンと湿分分離器のMSドレンと湿分分離加熱器のMSH加熱蒸気ドレンと、であることを特徴とする請求項7に記載の主蒸気湿分測定方法。
【請求項11】
前記湿分算出工程は、下記式(1)により前記主蒸気中に含まれる湿分Mを算出することを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の主蒸気湿分測定方法。
【数2】


(上記式(1)中、Mは湿分(%)を表し、CMS−dはMSドレン水、高圧ドレン水、MSH加熱蒸気ドレン水の何れか一つに含まれるリチウム(Li)濃度を表し、QMS−dは上記CMS−dに対応する何れか一つのドレンに導入された蒸気の流量を表し、CSGはSGブローダウン水に含まれるリチウム(Li)濃度を表し、QMSR−inは上記CMS−dに対応する機器に導入された蒸気の流量を表す。)
【請求項12】
請求項7から11のいずれか1項に記載の主蒸気湿分測定方法により算出された湿分に基づいて、蒸気発生器に給水する二次冷却水の給水流量を制御することを特徴とする原子力発電プラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−194010(P2012−194010A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57297(P2011−57297)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】