説明

乗り物用シート

【課題】左側枠材と右側枠材の間に弾性布帛を張設して座面を構成したシートにおいて、機構が単純で実施し易く、姿勢が傾き加減になった際に沈込量が減って相対的に浮き上がり状態におかれる弾性布帛の左右片側から身体に作用する押上反力N1 を抑える反力抑制効果が充分な反力抑制手段を提供する。
【解決手段】シートフレーム16に支持される左側枠材11と右側枠材12の間に弾性布帛13を張設して座面14を構成する。その左側枠材11と右側枠材12に挟まれる弾性布帛13の中間部分の裏面の左右にそれぞれ弾性引込材15a・15bの一端を接合する。それら左右の弾性引込材15a・15bの各他端を、互いに逆向きとなる方向に向け、それぞれシートフレーム16に接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車、列車、航空機、船舶等に適用される乗り物用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シートフレームに支持される左側枠材と右側枠材の間に弾性布帛を張設して座面を構成したシートは、自動車、列車、航空機、船舶等に使用されている。
この種のシートでは、座面に身体を載せると弾性布帛が緊張し、その緊張状態にある弾性布帛からの反力Nに押し上げられるように身体が支えられる。
その載せた姿勢が左右片側に傾き加減になると、傾いた片側に体重G2 の多くが作用して弾性布帛が大きく沈み込み、その左右反対側では弾性布帛が相対的に浮き上がる。
【0003】
そのように片側が相対的に浮き上がるとは言え、姿勢が左右何れの片側に傾いても弾性布帛全体に加わる体重自体が変化することはないので、弾性布帛のテンション(張力)自体も然程変化せず、その沈込量が減って相対的に浮き上がった片側も依然として強い緊張状態におかれる。
このため、姿勢が傾いて沈込量が増えた片側では、弾性布帛からの強い反力N2 が身体に作用することになるが、沈込量が減って相対的に浮き上がった片側からも、依然として身体を押し上げようとする反力N1 が弾性布帛から身体に作用する(図1−a)。
そのバランスを失った状態では、僅かな外力が作用しても姿勢が大きく崩れる。
【0004】
このため、運行使用中の乗り物は左右に大きく揺れ動くことが多いこともあって、弾性布帛を張設してなるシートでは、姿勢を傾き加減になって相対的に浮き上がり状態におかれた弾性布帛の左右片側から身体に作用する押上反力N1 を抑えるための反力抑制手段が必要とされる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−149167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特開2001−149167号公報(特許文献1)には、座面を構成する弾性布帛の一部を一部材とし、座面の裏側の左右側枠材間にベルトを架設し、その弾性布帛の一部とベルトを繋いでエンドレスベルト状に構成した反力抑制手段が開示されている。
この反力抑制手段は、座面の左右に加わる外力(体重)G1 ・G2 に差異が生じると、その左右の外力(体重)の差(G1 〜G2 )がベルトを介して座面左右の片側から他の片側へと伝わり、その左右の外力(体重)の差(G1 〜G2 )が解消される構成になっている。
【0007】
しかし、この反力抑制手段では、左右の外力(体重)の差(G1 〜G2 )に起因する弾性布帛の左右のテンションの差が解消されるとしても、その左右の外力(体重)の差(G1 〜G2 )に起因して片側が相対的に浮き上がるのを防ぐ反力抑制手段としての効果は期待し難い。
加えて、この反力抑制手段の構造が複雑であり、又、乗り物用シートの座面の裏側にエンドレスベルトを配置するためのスペースを確保し難いケースが多いので、その反力抑制手段としての実用性は疑問視される。
【0008】
そこで本発明は、左側枠材と右側枠材の間に弾性布帛を張設して座面を構成したシートにおいて、機構が単純で実施し易く、弾性布帛の左右片側での相対的浮上を抑制する反力抑制効果が充分な反力抑制手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る乗り物用シートは、(a) シートフレーム16に支持される左側枠材11と右側枠材12の間に弾性布帛13が張設されて座面14が構成されており、(b)
左側枠材11と右側枠材12に挟まれる弾性布帛13の中間部分の裏面の左右にそれぞれ弾性引込材15a・15bの一端が接合されており、(c) それら左右の弾性引込材15a・15bの各他端が、互いに逆向きとなる方向に向けられて、それぞれシートフレーム16に接合されていることを第1の特徴とする。
【0010】
本発明に係る乗り物用シートの第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、左側枠材11と右側枠材12が向き合う方向Wにおける弾性布帛13の10%伸長時の伸長応力が100〜400N/5cmである点にある。
【0011】
本発明に係る乗り物用シートの第3の特徴は、上記第1および第2の何れかの特徴に加えて、弾性引込材15の弾性布帛裏面13との接合点21とシートフレーム16との接合点22が向き合う方向Xにおける弾性引込材15の10%伸長時の伸長応力が、左側枠材11と右側枠材12が向き合う方向Wにおける弾性布帛13の10%伸長時の伸長応力よりも大きい点にある。
【0012】
本発明に係る乗り物用シートの第4の特徴は、上記第1、第2および第3の何れかの特徴に加えて、左側枠材11と右側枠材12の弾性布帛13に向き合う表面が、それらの外側縁31・32から内側縁41・42に向けて低くなるように傾斜角度φが付けられた斜面になっている点にある。
【0013】
本発明に係る乗り物用シートの第5の特徴は、上記第1、第2、第3および第4の何れかの特徴に加えて、左側枠材11の内側縁41と右側枠材12の内側縁42が、それぞれ座面14の中央部に向けて突き出ており、弾性引込材15の弾性布帛裏面13との接合点21とシートフレーム16との接合点22が、それぞれ左右の側枠材11・12の内側縁41・42よりも外側縁31・32に偏った位置、つまり左右の側枠材11・12の下に隠れる位置に設定されている点にある。
【発明の効果】
【0014】
弾性布帛13の中間部分の裏面の左右にそれぞれ弾性引込材15a・15bの一端を接合し(図1−e)、それら左右の弾性引込材15a・15bの各他端を、互いに逆向きとなる方向に向けて、それぞれシートフレーム16に接合すると、弾性引込材15は、弾性布帛との接合点21とシートフレームとの接合点22の間で引き伸ばされて緊張し、弾性布帛との接合点21が弾性引込材15に引き込まれ、その分だけ接合点21・21での座面14が引き下げられる(図1−b)。
【0015】
その上に身体を載せると、座面14は更に窪むが、弾性引込材15は尚も緊張状態にある(図1−c)。
その状態において姿勢が傾き、片側の接合点21bに加わる体重が増えると、他の片側の接合点21aでは、その片側の接合点21bに体重が移動して減った分だけ浮上可能な状態となる。
【0016】
その場合、弾性引込材15は、身体を左右に傾けずに載せて座面(21a・21b)が窪んだ状態においても緊張状態にあるので(図1−c)、姿勢が左右に傾いて浮上可能な状態では接合点21aを引き下げるように作用する(図1−d)。
このため、左右何れの接合点(21b)に加わる体重が増えても、その他方の接合点21aから姿勢を不安定にしようとする強い反力Nは働かない。
【0017】
このように、左右の弾性引込材15a・15bが弾性布帛の左右片側での相対的浮上を抑制する反力抑制手段としての機能を発揮し、その反力抑制手段としての構造が単純なので実施が容易であり、弾性引込材15の伸縮・緊張変化が直接弾性布帛に伝わり、弾性布帛の左右片側での相対的浮上を抑制する反力抑制効果において即応性に優れた乗り物用シートが得られる。
【0018】
弾性引込材15は、弾性引込材15a・15bの一端を接合し、その他端をシートフレーム16に接合して接合点21・21を引き下げてシートを調製した状態でも(図1−b)、又、身体を載せて座面(21a・21b)が窪んだ状態においても緊張状態にあることが望ましい(図1−c)。
しかし、そうすべきことは必ずしも必要ではなく、姿勢が左右に傾いてバランスを失い、片側の接合点21aが浮上可能な危険な状態になった場合に(図1−d,図1−a)、その浮上可能な状態の接合点21aに接合された弾性弾性引込材15が緊張状態になるのであれば、弾性引込材15は、それ以外の場合において(図1−b,図1−c)、無緊張(弛緩)状態におかれていてもよい。
【0019】
そのためには、左側枠材11と右側枠材12を扁平断面形状にし、それら左側枠材11の内側縁41と右側枠材12の内側縁42を、それぞれ座面14の中央部に向けて突き出し、弾性引込材15の弾性布帛裏面13との接合点21とシートフレーム16との接合点22を、それぞれ左右の側枠材11・12の内側縁41・42よりも外側縁31・32に偏った左右の側枠材11・12の下に隠れる位置に設定し、接合点21aと接合点21bの間の座面14に対してシートフレーム16に接合した弾性引込材15とが成す交差角度θが20〜60度になるようにするとよい。
【0020】
10%伸長時の伸長応力が100〜400N/5cmの弾性布帛13では、その上に身体を載せても座面14が大きく沈むことがなく、身体を多少左右に傾けても浮上可能な危険な状態の接合点21aから受ける反力Nも少なくなるので、シートから受ける安定感が大きくなる。
【0021】
10%伸長時の伸長応力が弾性布帛13の10%伸長時の伸長応力よりも大きい弾性材料を弾性引込材15に使用すると、片側の接合点21aが浮上可能な危険な状態になった場合に(図1−d)、浮上しないように弾性引込材15から接合点21aに作用する力Fも大きくなるので、弾性引込材15の反力抑制手段としての効用が高まる。
【0022】
左側枠材11と右側枠材12の弾性布帛13に向き合う表面を、それらの外側縁31・32から内側縁41・42に向けて低くなる斜面にすると、弾性布帛13の張設される左側枠材11と右側枠材12の間のスパンの寸法Pを大きくしても、その上に身体を載せて座面(21a・21b)が窪んだ状態においては弾性布帛13が左側枠材11と右側枠材12とに密着し、そのスパンの寸法Pは左側枠材の内側縁41から右側枠材12の内側縁42までのスパンの寸法Qに変化し、その結果、左側枠材11と右側枠材12の間のスパンの寸法Pよりも幅が実質的に狭い弾性布帛13を張設した場合と同然になる。
そのように、張設された弾性布帛13の幅が実質的に狭くなると、座面に身体を載せた弾性布帛13の使用状態において乗り物のフレームから伝わる振動を受けて姿勢が頻繁に揺れ動くことがあっても、その振動を受けて振動する弾性布帛13の振幅幅(範囲)も少なくなる。
その結果、使用中に頻繁に揺れ動いても身体が大きく傾くことはなく安定に支えられ、身体を安定に維持するための緊張感から解放され、使用中に受ける疲労感も軽減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
弾性布帛と弾性引込材15には、破断伸度が60%以上であり、15%伸長後の弾性回復率が90%以上の弾性糸条、例えば、ゴム糸、ポリウレタン(スパンデックス)繊維糸条、ポリエーテルエステル型合成繊維糸条を用いるとよい。
しかし、好ましい弾性糸条は、破断伸度が低いポリエーテルエステル型合成繊維糸条である。
【0024】
弾性布帛13と弾性引込材15は、弾性糸条の織編込まれた織物でも編物でもよく、その場合、弾性糸条は、その長さ方向を弾性布帛の経緯何れか一方向に向けて、織物や編物の全幅或いは全長にわたって、或いは、織物や編物の全幅或いは全長にわたって部分的且つ断続的に直線状に続くように織編み込んで織編する。
その弾性糸条に絡合する糸条には非弾性糸が使用される。例えば、織物では経糸と緯糸の何れか一方に弾性糸条を使用し、その他方に非弾性糸条を使用する。
弾性引込材には、ゴム紐等の紐状弾性体や、ゴムベルト等の弾性樹脂に成る平板な弾性体を使用することも出来る。
【0025】
弾性引込材15は、弾性布帛13との接合点21では、ミシン糸目17によって弾性布帛13に直接または当て布を介して縫合するとよい。
弾性引込材15のシートフレーム16との接合点22となる端部には、フックその他の係止部材を取り付け、或いは、弾性引込材15の端縁を折り込んで縫製した筒状乃至袋状係合部等によってシートフレーム16に係合する係合部18を設ける。
図示する乗り物用シートの側枠材11・12とシートフレーム16は、別々に形成され、組み立てられて一体になっている。しかし、側枠材11・12とシートフレーム16は、一体不離に形成することも出来る。同様に、シートフレーム16も、乗り物本体フレームと一体不離に形成、即ち、乗り物本体フレームの一部材、例えば、乗り物の床フレームの一部として一体不離に形成することも出来る。
【0026】
左側枠材11と右側枠材12は、図1と図2に示すように扁平断面形状に構成し、それらの側縁を座面14の中央部側を突き出してシートフレーム16に設定すると、左側枠材11から右側枠材12に至る弾性布帛13の有効幅(P・Q)が実質的に短くなり、座面14に身体を載せて生じる弾性布帛13の窪み(沈込量)も少なくなり、身体が安定に支えられ、座り心地のよい乗り物用シートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る乗り物用シートの断面図である。
【図2】本発明に係る乗り物用シートの組み立て斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
11・12:側枠材
13:弾性布帛
14:座面
15:弾性引込材
16:シートフレーム
17:ミシン糸目
18:係合部
21・22:接合点
31・32:外側縁
41・42:内側縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) シートフレーム(16)に支持される左側枠材(11)と右側枠材(12)の間に弾性布帛(13)が張設されて座面(14)が構成されており、
(b) 左側枠材(11)と右側枠材(12)に挟まれる弾性布帛(13)の中間部分の裏面の左右にそれぞれ弾性引込材(15a・15b)の一端が接合されており、
(c) それら左右の弾性引込材(15a・15b)の各他端が、互いに逆向きとなる方向に向けられて、それぞれシートフレーム(16)に接合されている乗り物用シート。
【請求項2】
左側枠材(11)と右側枠材(12)が向き合う方向(W)における弾性布帛(13)の10%伸長時の伸長応力が100〜400N/5cmである前掲請求項1に記載の乗り物用シート。
【請求項3】
弾性引込材(15)の弾性布帛裏面(13)との接合点(21)とシートフレーム(16)との接合点(22)が向き合う方向(X)における弾性引込材(15)の10%伸長時の伸長応力が、左側枠材(11)と右側枠材(12)が向き合う方向(W)における弾性布帛(13)の10%伸長時の伸長応力よりも大きい前掲請求項1と2の何れかに記載の乗り物用シート。
【請求項4】
左側枠材(11)と右側枠材(12)の弾性布帛(13)に向き合う表面が、それらの外側縁(31・32)から内側縁(41・42)に向けて低くなる斜面になっている前掲請求項1と2と3の何れかに記載の乗り物用シート。
【請求項5】
左側枠材(11)の内側縁(41)と右側枠材(12)の内側縁(42)が、それぞれ座面(14)の中央部に向けて突き出ており、
弾性引込材(15)の弾性布帛裏面(13)との接合点(21)とシートフレーム(16)との接合点(22)が、それぞれ左右の側枠材(11・12)の内側縁(41・42)よりも外側縁(31・32)に偏った位置に設定されている前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載の乗り物用シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−93058(P2008−93058A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275891(P2006−275891)
【出願日】平成18年10月9日(2006.10.9)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)