説明

乗り物酔い訓練装置

【課題】 確実かつ短期間で被験者の乗り物酔いに対する耐性を高める。
【解決手段】 乗り物酔い訓練装置1は、被験者2を乗せることができると共に揺れることが可能な基台10と、基台10に対して、擬似的な乗り物の揺れを発生させる駆動手段を備える枠体20と、所定の放射点から画面の手前方向に画像が移動する動画像を生成する動画像生成部32と、駆動手段により基台10に発生させられる揺れの方向及び大きさに応じて、動画像生成部32により生成される動画像の放射点を制御する動画像制御部33と、生成された動画像を被験者2が見ることが可能なように表示するディスプレー40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の乗り物酔いに対する耐性を高める乗り物酔い訓練装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車酔い等の乗り物酔いの酔いやすさには個人差があり、病気というより、むしろ正常な生理反応と考えられている。乗り物酔いに対して悩みを持つ人が数多くいるが、年齢と共に乗り物酔いしなくなることも多い。下記の特許文献1では、乗り物酔いに対する耐性を高めるため、乗り物に乗ったときの揺れを擬似的に発生させて被験者に揺れを体験させるトレーニング装置が提案されている。
【特許文献1】特願2002−205889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したトレーニング装置のように、被験者に対して単に揺れを体験させるだけでは、実際に乗り物に乗っている場合と同様に乗り物酔いするおそれがあり、乗り物酔いに対しての耐性を高める十分な効果は期待できない。また、特許文献1に記載されているように、揺れに加えて、被験者に対して、静かな湖面などの風景の映像や微風や木の葉の落ちる音等の、単に乗り物酔いを緩和させる映像や音楽を提供したとしても、物酔いに対しての耐性を高める十分な効果は期待できない。
【0004】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、確実かつ短期間で被験者の乗り物酔いに対する耐性を高めることを可能とする乗り物酔い訓練装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る乗り物酔い訓練装置は、被験者を乗せることができると共に揺れることが可能な基台と、基台に対して、擬似的な乗り物の揺れを発生させる駆動手段と、所定の放射点から画面の手前方向に画像が移動する動画像を生成する動画像生成手段と、駆動手段により前記基台に発生させられる揺れの方向及び大きさに応じて、動画像生成手段により生成される動画像の放射点を制御する動画像制御手段と、動画像生成手段により生成された動画像を被験者が見ることが可能なように表示する表示手段と、を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る乗り物酔い訓練装置では、駆動手段から基台に対して発生された揺れによって、基台に載った被験者に対して乗り物に乗ったときの揺れを体験させることができる。その一方、所定の放射点から画面の手前方向に画像が移動する動画像が動画像生成手段により生成され、表示手段によりされる。また、駆動手段により前記基台に発生させられる揺れの方向及び大きさに応じて、動画像制御手段によって、上記生成され表示される動画像の放射点及び動画像の向きが制御される。
【0007】
被験者がこの動画像を見ることにより、被験者の眼球を乗り物酔いしないように動かすことができる。このような眼球の動きとしては、例えば、眼球が乗り物の加速度の方向及び大きさに適した眼振の発生や、眼球の滑車動眼筋が過度に働くことの防止等が考えられる。これにより、本発明に係る乗り物酔い訓練装置では、乗り物による揺れがあっても乗り物酔いの起きない状態を体験させることができるので、確実かつ短期間に、被験者の乗り物酔いに対する耐性を高めることができる。
【0008】
動画像制御手段は、動画像の放射点の制御量を、表示手段による表示の時間に応じて小さくすることを特徴とする。この構成によれば、被験者に対して、乗り物酔いへの慣れをより早くかつ確実に誘導することができる。
【0009】
動画像制御手段は、動画像生成手段により生成される動画像に、駆動手段により基台に発生させられる揺れの方向及び大きさに応じて視点を誘導するマーカを表示させることを特徴とする。この構成によれば、上述した、乗り物による揺れがあっても酔いの起きない状態を、より確実に体験させることができ、本発明の効果をより確実に奏することができる。
【0010】
乗り物酔い訓練装置は、基台に被験者の頭部を固定して、基台に発生する揺れを打ち消す方向に動作させる頭部制御手段を更に備えることを特徴とする。この構成によれば、被験者の視覚や平衡器官を、更に乗り物酔いをしない状態にさせることができ、本発明の効果をより確実に奏させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、乗り物による揺れがあっても酔いの起きない状態を体験させることができるので、確実かつ短期間に、被験者の乗り物酔いに対する耐性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面とともに本発明による乗り物酔い訓練装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0013】
図1は、本発明に係る乗り物酔い訓練装置1の実施形態を概略的に示す構成図である。本実施形態に係る乗り物酔い訓練装置1は、被験者に乗り物に乗ったときの揺れを体験させることによって、被験者の乗り物酔いに対しての耐性を高めるための装置である。即ち、乗り物酔い訓練装置1は、被験者を乗り物酔いに慣れさせて、乗り物に乗ったときに乗り物酔いを発生させなくする装置である。本実施形態では、乗り物酔いの対象となる乗り物としては、自動車やバス等の車両である。それ以外の乗り物、例えば、電車や船舶、飛行機等の乗り物酔いが発生しうる乗り物を対象としてもよい。
【0014】
以下では、まず、被験者に対して、揺れを体験させるための構成を説明して、その後、揺れがある状態でも被験者に乗り物酔いを起こさせなくするための構成を説明する。なお、上、下、左、右等の方向を示す語は、図1に示した乗り物酔い訓練装置1を水平面に設置した場合を基準とする。
【0015】
図1に示すように、乗り物酔い訓練装置1は、被験者2を乗せることができる基台10を有している。基台10は、被験者2が入りうる小型の部屋として構成される。また、当該部屋の内部には、被験者2が座ることができる椅子11が設けられている。被験者2に与える揺れの体験が、実際の乗り物に乗ったときの同じような感覚になるように、乗り物である車両に設けられる椅子と同様のものを用いるのが好ましい。また、椅子11は、基台10の揺れによって動かないように、基台10の部屋(の下側の面)に固定されている。また、椅子11には、確実に被験者2に揺れを伝えるために、被験者2の胴体を固定するベルト12が設けられている。
【0016】
また、乗り物酔い訓練装置1は、基台10を揺れることが可能なように支持する枠体20を備えている。枠体20は、水平面に設置されて、基台10を支持できるように、基台10の側面と下面とに対向する部材により構成される枠体本体21を備えている。基台10は、以下のように、枠体20が備える部材22〜25によって支持されている。
【0017】
具体的には、基台10はその側面を伸縮可能な柱状の支持部材22によって支持されている。支持部材22は、枠体本体21と基台10とにその端部が固定されている。支持部材22が伸縮可能であることから、基台10は左右方向(図1に示す被験者2にとっては前後方向)に揺れることができる。
【0018】
また、基台10はその下側から、その一端が基台10に固定されたプッシュロッド等の伸縮可能な柱状の支持部材23,24によって支持されている。基台10の下方を支持する支持部材23,24が伸縮可能であることから、基台10は上下方向に揺れることができる。支持部材23,24の下方の一端は、板状部材25に固定されている。この板状部材25は、例えば、枠体本体21上に形成されるレール上に乗せられ、左右方向に平行移動が可能となっている。
【0019】
支持部材23,24は、枠体20に備えられる油圧ポンプ等の駆動源(図示せず)によって、伸縮して基台10に対して揺れを与える。図1に示すように、左右2本の支持部材23が、軸方向D1に交互に伸縮することによって、基台10に対して左右方向に傾く(図1において右側を前方とする被験者2にとっては前後方向に傾く)の揺れを与えることができる。また、2つの支持部材23の中央に設けられた支持部材24が軸方向D2に伸縮して上下することにより、基台10に対して上下方向の揺れを与えることができる。また、板状部材25は、枠体20に備えられる油圧ポンプ等の駆動源(図示せず)によって、左右方向D3に平行移動して支持部材23,24を介して基台10を左右方向に平行移動させる。即ち、板状部材25は、左右方向(被験者2にとっては前後方向)の揺れを与えることができる。
【0020】
上記のように、枠体20は基台10に対して三次元的な揺れを与えることができる。なお、揺れを与えるための駆動源は、乗り物酔い訓練装置1が備える情報処理装置30に電気的に接続されており、当該情報処理装置30からの制御を受ける。当該制御は、当該情報処理装置30に機能的な構成要素として備えられる駆動制御部31によって行われる。
【0021】
駆動制御部31は、まず、基台10に対してどの向きにどの程度の大きさの揺れを発生させるのかを決定し、当該決定した揺れを発生させる制御信号を各駆動源に送信する。どのような揺れを発生させるかの決定は、例えば、予め、揺れを発生させるように作成されたプログラムに従って行われる。この揺れは、被験者2があたかも乗り物に乗っているような揺れ、即ち擬似的な乗り物の揺れとなるようにする。また、被験者2の乗り物酔いを強く引き起こすように、頭部を中心に回転するような動きを発生させることとするのがよい。また、例えば、揺れの大きさを徐々に大きくしていくこととしてもよい。駆動制御部31は、揺れを発生させる制御信号を各駆動源に送信すると共に揺れの向き及び大きさを示す情報を動画像制御部33に通知する。
【0022】
上記のように、枠体20及び情報処理装置30の駆動制御部31は、基台10に対して、擬似的な乗り物の揺れを発生させる駆動手段を構成する。
【0023】
なお、情報処理装置30は、CPU(Central ProcessingUnit)、メモリ等のハードウェアにより構成され、具体的にはPC(Personal Computer)等に相当する。これらのハードウェアが動作することにより、情報処理装置30の上述した機能及び後述する機能が発揮される。
【0024】
上記が、乗り物酔い訓練装置1における、被験者2に揺れを体験させるための構成である。なお、被験者2に揺れを体験させるための構成は、必ずしも上記のような構成をとる必要はなく、従来の乗り物のシミュレータの技術を利用した構成とすることとしてもよい。
【0025】
引き続いて、揺れがある状態でも被験者2に乗り物酔いを起こさせなくするための構成を説明する。基台10の内部には、被験者2が見ることができる位置に、ディスプレー40(ディスプレイ40a,40bの総称)が設けられる。例えば、図1に示すように、ディスプレー40aは、被験者2が椅子11に座ったときの前方(図1における右側)に、表示部分が被験者2に対向するように設けられる。また、前方だけでなく、被験者2の側面の位置にも、ディスプレー40bを設けることとしてもよい。
【0026】
ディスプレー40には、情報処理装置30と電気的に接続されており、情報処理装置30により生成された動画像が表示される。即ち、ディスプレー40は、動画像を被験者2が見ることが可能なように表示する表示手段である。ディスプレー40に表示される動画像は、基台10に揺れが発生した場合でも、被験者2に対して乗り物酔いを起きなくさせる動画像である。
【0027】
情報処理装置30は、動画像を生成してディスプレー40に出力するための構成要素として、動画像生成部32と、動画像制御部33と、出力部34とを備える。
【0028】
動画像生成部32は、所定の放射点から画面の手前方向に画像が移動する動画像を生成する動画像生成手段である。即ち、動画像生成部32は、乗り物が移動しているときにその進行方向を視点とした三次元的な表示がなされる動画像を生成する。そのような動画像は、具体的には図2に示すように、画像における乗り物が走行する地面を示す部分101と、左右の壁面を示す部分102,103と、例えば空等の上側の面を示す部分104とを透視図法によりそれぞれ平面的に表示し、それらの部分が図中の矢印で示すように手前方向に流れるように移動するものである。このように移動する各面を示す部分は、所定の放射点から移動しているものとする。また、各面を示す部分の色彩をそれぞれ異なるものとしてもよい。例えば、上側の面104は空の色を表す水色としてもよい。また、立体感を表すため、奥の方(放射点に近い部分)は色彩を濃くして影があるように示して、手前の方は色彩を薄くするようにしてもよい。
【0029】
ここで放射点(消失点)とは、透視図法における中心点を示すものである。放射点は、基台10に揺れが発生していないときは、図2に示すようにほぼ画面の中央に位置する。また、画像が手前方向に移動していることがより明確になるように、各面を示す部分101〜104に移動方向と垂直な帯105(全体としては筒状な表示となる)を表示させて、それが手前に迫ってくるようにしてもよい。
【0030】
このような動画像は、被験者2にしてみると、(乗り物に乗って)前に進んでいるような動画像となる。動画像生成部32により生成される動画像は、被験者2に対して前に進んでいるように感じさせる動画像であればよいので、上記のような地面や壁面を平面的に表示したものでなくてもよい。例えば、背景を暗くし光る星が放射点から手前に迫ってくるような動画像でもよい。動画像生成部32は、生成した動画像を出力部34に出力する。
【0031】
動画像制御部33は、駆動制御部31から基台10に発生させられる揺れの方向及び大きさの情報を取得して、動画像生成部32により生成される動画像の放射点、及び動画像の方向を制御する動画像制御手段である。上記のように駆動制御部31は枠体20の駆動源に対して、基台10を揺れさせる信号を送信する際に、揺れの方向及び大きさを示す情報を、動画像制御部33にもその出力を行う。
【0032】
例えば、動画像制御部33は、駆動制御部31からの信号により、被験者2にとって左側への揺れ(図1では、奥行き方向への揺れ)が発生したことを検出すると(その場合、被験者2は右側への加速度を感じる)、図3に示す画像のように、動画像生成部32に対して、動画像の放射点を中心から左側へ移動させる制御を行う。また、放射点を移動させる度合は、揺れの大きさに応じて決められる。揺れの大きさが大きければ大きく左側へ移動させ、揺れの大きさが小さければ小さく左側へ移動させる。動画像生成部32は、その制御に基づいて、動画像を生成する。また、動画像制御部33は、動画像生成部32に対して、画像の向きを左側に傾ける制御を行う。動画像生成部32は、動画像制御部33による上記の制御に基づいて、動画像を構成する画像を生成する。
【0033】
また、動画像制御部33は、駆動制御部31からの信号により、被験者2にとって右側への揺れ(図1では、手前方向への揺れ)が発生したことを検出すると(その場合、被験者2は左側への加速度を感じる)、動画像生成部32に対して、動画像の放射点を中心から右側へ移動させる制御を行う。
【0034】
また、動画像制御部33は、駆動制御部31からの信号により、被験者2にとって上側への揺れが発生したことを検出すると(その場合、被験者2は下側への加速度を感じる)、動画像生成部32に対して、動画像を放射点と共に動画像を上方へ平行移動させる制御を行う。また、動画像制御部33は、駆動制御部31からの信号により、被験者2にとって上側への揺れが発生したことを検出すると(その場合、被験者2は下側への加速度を感じる)、動画像生成部32に対して、動画像を放射点と共に動画像を上方へ平行移動させる制御を行う。
【0035】
また、動画像制御部33は、駆動制御部31からの信号により、被験者2にとって後方への揺れ(図1では、左側方向への揺れ)が発生したことを検出すると(その場合、被験者2は下側への加速度を感じる)、図4(a)に示すように、動画像生成部32に対して、動画像の放射点を中心から下方へ移動させる制御を行う。また、この場合、動画像生成部32に対して、被験者2の視点を誘導するマーカ106を動画像の上方に表示させる制御を行う。マーカ106は、被験者2の視点を引くような表示であれば足り、例えば、図4に示すように、手前に移動する画像と色彩の異なる立方体の画像を用いることができる。
【0036】
同様に、動画像制御部33は、駆動制御部31からの信号により、被験者2にとって前方への揺れ(図1では、右側方向への揺れ)が発生したことを検出すると(その場合、被験者2は上側への加速度を感じる)、図4(b)に示すように、動画像生成部32に対して、動画像の放射点を中心から上方へ移動させる制御を行う。また、この場合、動画像生成部32に対して、被験者2の視点を誘導するマーカ106を動画像の下方に表示させる制御を行う。
【0037】
このように動画像制御部33により制御されて動画像生成部32により生成された動画像は、基台10に加えられた揺れに対応したものとなり、被験者2に対して、乗り物に乗っていて自身の揺れに応じた視覚を与えることができる。これにより、被験者2の眼球が、被験者2に加わる加速度の方向及び大きさに適した眼振を起こす。また、被験者2の眼球の滑車動眼筋が過度に働くことを防止する。これらにより、揺れが発生しているにもかかわらず、被験者2が乗り物酔いを起こすことを防止することができる。
【0038】
また、被験者2の視線が表示されたマーカに注がれると、当該視線の変更による頭部の動きにより、被験者2の前庭器官や三半規管におけるリンパ液の流れや回転を少なくして、被験者2に加わる加速度を通常の重力加速度の方向のみにかかるようにすることができる。これにより、揺れに対する被験者2の乗り物酔いの防止効果を向上させることができる。
【0039】
また、動画像制御部33は、動画像の放射点の制御量を、ディスプレー40による表示の時間に応じて徐々に小さくする。これは、動画像による乗り物酔い防止の効果を徐々に減少させて、被験者2に乗り物の揺れに慣れさせて、乗り物酔いに対する耐性を高めるためである。
【0040】
出力部34は、動画像制御部33により制御されて動画像生成部32により生成された動画像をディスプレー40に出力する出力手段である。なお、上記の放射点が制御された動画像は、被験者2の正面のディスプレー40aに表示されるように出力される。被験者2の側面のディスプレー40bには、上述したように揺れに応じて制御された、乗り物の側面に表示されうる動画像が表示されることとするのがよい。
【0041】
上記の動画像を表示する機構に加えて、基台10の内部には、被験者2の頭部を固定する頭部固定器具50が設けられている。頭部固定器具50は、例えば、頭部の複数の点に圧力を加えて支持することにより、頭部を固定するものを用いることができる。当該頭部固定器具50には、駆動源51が接続されており、情報処理装置30の駆動制御部31による制御により頭部固定器具50を駆動させることができる(ヘッドマニピュレータ)。駆動源51は、例えば電動のモータ等を用いることができる。駆動制御部31による制御を受けた駆動源51よって、頭部固定器具50は、基台10に揺れが発生しても被験者2の頭部には揺れが発生しないように動作する。即ち、頭部固定器具50は、基台10の揺れを打ち消す方向に動作する。即ち、情報処理装置30の駆動制御部31、頭部固定器具50及び駆動源51は、基台10に被験者2の頭部を固定して、基台10に発生させられる揺れを打ち消す方向に動作させる頭部制御手段を構成する。これにより、被験者2の頭部は、基台10の揺れの影響を受けずにすみ、被験者2に対して乗り物酔いを起こさせなくする。
【0042】
また、基台10の内部には、被験者2の下腿を圧迫する圧迫装置52が設けられる。この装置は、例えば、血圧計等に用いられるような、下腿に巻いた帯に空気を流し込むことにより圧迫するものを用いることができる。また、下腿だけでなく、胴体(ベルト12に上記の機構を持たせてもよい)や、上腿や足底部を圧迫する装置を設けることとしてもよい。また、基台10の内部には、ユーザをリラックスさせるための音楽を流すためのスピーカ53が備えられていてもよい。
【0043】
引き続いて、図5のフローチャートを用いて、本実施形態に係る乗り物酔い訓練装置1の動作を説明する。まず、被験者2を基台10の椅子11に座らせ、ベルト12で被験者2の胴体を椅子11に固定する。また、被験者2の下腿を圧迫する圧迫装置52を用いて、被験者2の下腿を圧迫する。
【0044】
上記の被験者2に対する準備が整ったら、スイッチを入れること等をトリガとして、乗り物酔い訓練装置1の動作が開始される。まず、情報処理装置30では、駆動制御部31によって、基台10に加える揺れの向き及び大きさが決定される(S01)。駆動制御部31から当該向き及び大きさの揺れを基台10に発生させる制御信号が、枠体20の駆動源に送信される。枠体20では当該駆動源により支持部材23,24が駆動することにより、基台10に対する揺れが発生する(S02)。
【0045】
その一方で、情報処理装置30では、駆動制御部31から動画像制御部33に、決定された揺れの方向及び大きさを示す情報が通知される。動画像制御部33では、通知された揺れの方向及び大きさを示す情報に基づいて、動画像生成部32により生成される動画像の放射点及び動画像の方向が決定される(S03)。また、図4に示すようにマーカを表示するか否かも決定される。動画像制御部33により決定された動画像に係る情報は、動画像生成部32に送信される。
【0046】
動画像生成部32では、動画像制御部33により決定された動画像に係る情報に基づいて動画像が生成される(S04)。動画像生成部32により生成された動画像は、出力部34を介してディスプレー40に出力される。ディスプレー40では、情報処理装置30から入力された動画像が、被験者2に向けて表示される(S05)。動画像の表示は、動画像制御部33により制御された当該動画像の放射点及び当該動画像の方向が、当該制御の基礎となった揺れに対応するように行われる。
【0047】
また、動画像の表示に併せて、駆動制御部31からの制御による頭部固定器具50及び駆動源51によって、被験者2の頭部が基台10に発生する揺れを打ち消す方向に動作させられる。
【0048】
揺れの発生(S02)と動画像の表示(S05)とは、連続的に繰り返し行われる。例えば、駆動制御部31における揺れの方向及び大きさの決定が、例えば、0.01秒後毎等の一定間隔で行われて、上記の動作が行われる。揺れの発生は、上述したように、揺れの大きさを徐々に大きくしていくこととしてもよい。
【0049】
上述した乗り物酔い訓練装置1の動作により、乗り物に乗っているかのような揺れが被験者2に発生する。通常、揺れが発生すると、被験者2は乗り物酔いになるが、上述したように、乗り物酔いを防止する動画像の効果により、被験者2には乗り物酔いは発生しない。動画像の効果は、上述したように、被験者2の眼球や三半規管等の平衡器官に対する効果である。また、揺れがあるにもかかわらず被験者2の頭部が適切な姿勢を維持されている点も乗り物酔いを防止している。更に、被験者2の胴体や下腿を圧迫することも、乗り物酔いを引き起こさなくしている。
【0050】
このように被験者2は、乗り物酔いをせずに乗り物の揺れを体験することができ、乗り物の揺れに対して慣れることができ、乗り物酔いを起こさない神経回路を構築することができる。また、乗り物酔いを防止する動画像制御部33による、動画像の放射点の制御量をディスプレー40での表示の時間に応じて、徐々に小さくしていくことが望ましい。これにより、動画像による乗り物酔いを防止する効果を徐々に小さくすることができ、被験者2に対して乗り物酔いを防止する効果がない状態でも乗り物の揺れに対して慣れさせることができる。即ち、被験者2に対して、乗り物酔いへの慣れをより早くかつ確実に誘導することができる。なお、制御量を小さくする割合は、被験者2毎に、揺れに対する慣れ具合を判断して適切に設定することが望ましい。
【0051】
従って、本実施形態に係る乗り物酔い訓練装置1では、確実かつ短期間に、被験者2の乗り物酔いに対する耐性を高めることができる。また、乗り物酔い訓練装置1によれば、実際に乗り物に乗る必要が無く、乗り物酔いに対する耐性を高めることができる。
【0052】
なお、本実施形態では、基台10は小型の部屋として構成されていたが、必ずしもこのような構成をとる必要はない。被験者2に対して、擬似的な乗り物の揺れを体験させられればよいので、例えば、椅子11自体を本発明における基台として構成することとしてもよい。
【0053】
また、基台10に揺れを発生させる際に、乗り物酔いを防止させるものとして、上述したものに加えて、被験者2の動眼筋を刺激することのできる皮膚電極や磁気刺激装置等を乗り物酔い訓練装置1に備えることとしてもよい。また、前庭器官又は三半規管を電気刺激することのできる頭部電極や磁気刺激装置等を乗り物酔い訓練装置1に備えることとしてもよい。これらの装置は、被験者2が強度の病的な乗り物酔い体質の場合に併用することとするのがよい。
【0054】
また、本実施形態では、動画像制御部33は、駆動制御部31により決定された揺れの方向及び大きさに基づいて、動画像の制御を行っていたが、加速度センサ等を用いて基台10の揺れにより発生する加速度を検出して、当該加速度の情報に基づいて制御を行うこととしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態に係る乗り物酔い訓練装置の構成を示す図である。
【図2】乗り物酔い訓練装置が備えるディスプレーに表示される画面の例を示した図である。
【図3】乗り物酔い訓練装置が備えるディスプレーに表示される画面の別の例を示した図である。
【図4】乗り物酔い訓練装置が備えるディスプレーに表示される画面の別の例を示した図である。
【図5】本発明の実施形態に係る乗り物酔い訓練装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
1…乗り物酔い訓練装置、2…被験者、10…基台、11…椅子、12…ベルト、20…枠体、21…枠体本体、22〜24…支持部材、25…板状部材、30…情報処理装置、31…駆動制御部、32…動画像生成部、33…動画像制御部、34…出力部、40…ディスプレー、50…頭部固定器具、51…駆動源、52…圧迫装置、53…スピーカ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者を乗せることができると共に揺れることが可能な基台と、
前記基台に対して、擬似的な乗り物の揺れを発生させる駆動手段と、
所定の放射点から画面の手前方向に画像が移動する動画像を生成する動画像生成手段と、
前記駆動手段により前記基台に発生させられる揺れの方向及び大きさに応じて、前記動画像生成手段により生成される動画像の放射点を制御する動画像制御手段と、
前記動画像生成手段により生成された動画像を前記被験者が見ることが可能なように表示する表示手段と、
を備える乗り物酔い訓練装置。
【請求項2】
前記動画像制御手段は、前記動画像の放射点の制御量を、前記表示手段による表示の時間に応じて小さくすることを特徴とする請求項1に記載の乗り物酔い訓練装置。
【請求項3】
前記動画像制御手段は、前記動画像生成手段により生成される動画像に、前記駆動手段により前記基台に発生させられる揺れの方向及び大きさに応じて視点を誘導するマーカを表示させることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗り物酔い訓練装置。
【請求項4】
前記基台に前記被験者の頭部を固定して、前記基台に発生する揺れを打ち消す方向に動作させる頭部制御手段を更に備える請求項1〜3の何れか一項に記載の乗り物酔い訓練装置。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−225245(P2008−225245A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65713(P2007−65713)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【Fターム(参考)】