説明

乗客コンベアのオイルパン装置

【課題】乗客コンベアの主枠形状を変更することなく、また、オイルパンの形状も変更することもなく、主枠外へのオイル漏れを防止する乗客コンベアのオイルパン装置を提供する。
【解決手段】乗客コンベアの両側に設けられる縦部材1の下端に、主枠2が取り付けられており、この主枠2に横部材3が取り付けられている。横部材3の上面には、オイルパン4が取り付けられている。主枠2とオイルパン4の間には、両者の隙間を覆うように配置されるカバー部材5が設けられている。このカバー部材5は、複数のカバー部材片から構成されており、カバー部材片には、一端部に主枠2に係止する係止片5aを形成し、他端部にオイルパン4の折曲部4aをばね力で挟持するクリップ状部5bを設けることにより、着脱可能に取り付けられる構成になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアに設けられて、踏段を連結している踏段チェーンから滴下するオイルを受ける乗客コンベアのオイルパン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、乗客コンベアでは、多数の踏段が踏段チェーンで連結されて枠組内を循環している。また、乗客コンベアを円滑に運転するため、踏段チェーンには多量のオイルが所要のインターバルで定期的に給油される。このとき、余剰のオイルが踏段チェーンから滴下するため、乗客コンベアにはオイルパン装置が設けられている。
【0003】
この乗客コンベアのオイルパン装置として、従来、図5に示すように、乗客コンベアの両側に設けられる縦部材50の下端に主枠51を取り付け、この主枠51に横部材52を取り付けると共に、横部材3の上面に、オイルパン53を取り付けて構成されるものが知られている。しかし、図5に示す従来のオイルパン装置においては、オイルパン53と主枠51の間に隙間Sが形成され、乗客コンベア内部の踏段チェーンやレール等から飛散したオイルがこの隙間Sに溜まり、主枠51の外へ漏れ出すことがある。なお、図5の符号54は、乗客コンベアの電気配線を示している。
【0004】
そこで、主枠の外へオイルが漏れ出すのを防止する装置として、上部側に駆動部が装着されるエスカレータにおいて、トラスの下面に、トラスより幅広な上部油受けと、この上部油受け斜降端にトラスより幅狭な下部油受けを設け、更に、トラスの左右梁に伝わって流れる油を上部油受け上の斜降端寄り付近で上部油受けに落とす堰板を設けたエスカレータの油漏れ防止装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、オイルパンの幅方向の縁部を、乗客コンベアの両側に設けられる主枠の底面側の両端に設けた弦材の水平辺に重合して配置すると共に、弦材の主枠幅の中心寄り縁部に上向きフランジを設ける。そして、踏段チェーンに供給したオイルの滴下を、オイルパンおよび弦材の水平辺と上向きフランジにより形成した溝状部に誘導する。これにより、オイルパン自体の装着個所での油密性が不十分であっても、オイルの主枠外流出を防止する乗客コンベアのオイルパン装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
更に、オイルパンの幅方向中央部に峰を形成し、この峰からオイルパンの幅方向両端部へ向けて低くなるように峰の両端でオイルパンの断面を傾斜させ、かつオイルパンの幅方向両端部にオイル留まり部を形成したマンコンベアのオイルパン装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】実公昭61−16299号公報(実用新案登録請求の範囲の欄、第2図)
【特許文献2】特開2004―35168号公報(要約の欄、図2)
【特許文献3】特開平6−340393号公報(要約の欄、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のオイルパン装置は、上記特許文献1、特許文献2、あるいは特許文献3などにより提案されているように、主枠外へオイルを漏れ出さないためにオイルパン本体の形状を変更したり、主枠外部ヘオイルパンを設置するものである。しかし、上記のようなオイルパン装置では、新たな乗客コンベアにオイルパン装置を設置する場合は良いとしても、例えば、図5に示すようなオイルパンが設けられた乗客コンベアに対しては、一部におけるオイル漏れを補修するような場合であっても、オイルパン全体を設置し直すことになり、主枠外へのオイル漏れの可能性がない箇所をも補修対象とすることになる。従って、大幅な補修工事になり、また過剰仕様にもなる。
【0009】
更に、大幅な補修工事と過剰仕様を想定した上で、オイルパン全体を設置し直すとしても、新たに用意するオイルパンが、乗客コンベアの設置条件に必ずしも合致するとは限らず、この場合、主枠形状の変更、若しくはオイルパンの形状変更を余儀なくされ、一層大幅な補修工事が必要となる。
【0010】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、乗客コンベアの主枠形状を変更することなく、また、オイルパンの形状も変更することもなく、主枠外へのオイル漏れを防止することができる乗客コンベアのオイルパン装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る乗客コンベアのオイルパン装置は、多数の踏段が踏段チェーンにより連結されて循環移動する乗客コンベアのオイルパン装置であって、上記踏段チェーンに給油されるオイルの油滴を受けるオイルパンと、上記乗客コンベアに設けられる縦部材の下端に取り付けられる主枠と、上記オイルパンと上記主枠を跨ぐように設置されるカバー部材と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る乗客コンベアのオイルパン装置によれば、主枠の形状を変更することなく、また、オイルパンの形状も変更することもなく、主枠外へのオイル漏れを防止することができる乗客コンベアのオイルパン装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して、この発明に係る乗客コンベアのオイルパン装置について好適な実施の形態を説明する。なお、これらの実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
実施の形態1.
図1〜図4はこの発明の実施の形態1に係る乗客コンベアのオイルパン装置を説明する図で、図1は乗客コンベア主枠とオイルパン装置の全体側面図、図2は図1のA−A方向断面図、図3は図2のB部拡大図、図4は図3を斜め上方から見た斜視図である。但し、図4では、図3の一部の構成部品を省略して図示している。
【0015】
図に示すように、多数の踏段が踏段チェーンにより連結されて循環移動する乗客コンベアの両側に設けられる縦部材1の下端に、主枠2が取り付けられており、この主枠2に横部材3が取り付けられている。そして、横部材3の上面には、オイルパン4が取り付けられている。このオイルパン4は、断面方向から見た両端部に、上方に折曲する折曲部4aが形成され(図3参照)、オイルパン4に滴下したオイルが、オイルパン4の両端部から漏れ出ないように構成されている。
【0016】
図3に示すように、主枠2とオイルパン4の間には、両者を跨いで両者の隙間を覆うように配置されるカバー部材5が設けられている。このカバー部材5は、複数のカバー部材片5pから構成されており、カバー部材片5pには、一端部に主枠2に係止する係止片5aを形成し、他端部にオイルパン4の折曲部4aをばね力で挟持する挟持部、例えばクリップ状部5bを設けることにより、着脱可能に取り付けられるように構成されている。また、カバー部材片5pの係止片5aとクリップ状部5bとの間には、主枠2からオイルパン4側に傾斜する傾斜部5cが形成されている。なお、上記係止片5aとクリップ状部5bは、主枠2をクリップ状部5bで挟持し、オイルパン4の折曲部4aに係止片5aを係止させても良く、主枠2とオイルパン4の折曲部4aの両者をクリップ状部5bで挟持するようにしても良い。
【0017】
そして、複数個のカバー部材片5pが、図4に示すように、オイルパン4の長手方向に一端部が重合するように並設されている。カバー部材片5pの縦部材1と重なる個所には、縦部材1を挿通する切り込み5dが形成されており、縦部材1を挿通した状態で切り込み5dに生じる隙間に、オイルが縦部材1の外へ漏れ出すことを防止するコーキング6が充填されている。なお、図中の符号7は乗客コンベアの電気配線を示している。
【0018】
実施の形態1に係る乗客コンベアのオイルパン装置は、上記のように構成されており、カバー部材片5pを、オイルパン4と主枠1を跨ぐように設置することにより、オイルパン4と主枠1の隙間にオイルが溜まることがなく、従って、主枠1の外ヘオイルが漏れ出すことを防止できる。
【0019】
また、新たな乗客コンベアにオイルパンを設置する場合に使用できることは勿論、既設乗客コンベアのオイルパンの一部にオイル漏れが生じ、これを補修するような場合に、オイルパン全体を設置し直すことなく、部分的にオイル漏れの補修工事ができ、大幅な補修工事が回避できるし、過剰仕様を防止する利点がある。
【0020】
更に、カバー部材片5pを複数個並設する構成としたので、主枠1の形状を変更することなく、既設のオイルパンの形状も変更することもなく、主枠1の外へのオイル漏れを防止することができる。
【0021】
また、カバー部材片5pに傾斜部が形成されており、縦部材1を伝わって滴下するオイルを容易にオイルパン4に流し込むことができる。
【0022】
また、カバー部材片5pにクリップ状部5bを有することにより、オイルパン4への装着が容易であり、清掃の為の取り外しも容易に行うことができ、乗客コンベアのオイル漏れを防止することも容易である。
【0023】
さらに、主枠1の外へのオイル漏れの原因のーつに、オイルパン4に溜まったオイルが溢れて主枠1の外へ漏れることがあるが、実施の形態1に係る乗客コンベアのオイルパン装置においては、クリップ状部5bにより、オイルパン4の内側に高い堰を設けるのと同等のオイルパン4となり、溜まったオイルが主枠1の外へ漏れることを防止しできる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この発明に係る乗客コンベアのオイルパン装置は、エスカレータや動く歩道などのオイルパン装置として適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベア主枠とオイルパン装置の全体側面図である。
【図2】図1のA−A方向断面図である。
【図3】図2のB部拡大図である。
【図4】図3を斜め上方から見た斜視図である。
【図5】従来のオイルパン装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1、50 縦部材
2、51 主枠
3、52 横部材
4、53 オイルパン
4a 折曲部
5 カバー部材
5a 係止片
5b クリップ状部
5c 傾斜部
5d 切り込み
5p カバー部材片
6 コーキング
7、54 電気配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の踏段が踏段チェーンにより連結されて循環移動する乗客コンベアのオイルパン装置であって、上記踏段チェーンに給油されるオイルの油滴を受けるオイルパンと、上記乗客コンベアに設けられる縦部材の下端に取り付けられる主枠と、上記オイルパンと上記主枠を跨ぐように設置されるカバー部材と、を備えたことを特徴とする乗客コンベアのオイルパン装置。
【請求項2】
上記カバー部材は、上記主枠と上記オイルパンに着脱可能に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアのオイルパン装置。
【請求項3】
上記カバー部材は、クリップ状部を備え、上記クリップ状部により上記主枠と上記オイルパンの少なくとも一方を挟持することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗客コンベアのオイルパン装置。
【請求項4】
上記カバー部材は、上記オイルパンと上記主枠を跨ぐ面に、上記主枠から上記オイルパン側に傾斜する傾斜部が形成されることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の乗客コンベアのオイルパン装置。
【請求項5】
上記カバー部材の上記縦部材と重なる個所に形成され、上記縦部材を挿通する切り込みと、上記縦部材を挿通した状態で上記切り込みに生じる隙間充填されるコーキングと、を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の乗客コンベアのオイルパン装置。
【請求項6】
上記カバー部材は、複数個のカバー部材片から構成されることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の乗客コンベアのオイルパン装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−18422(P2010−18422A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182747(P2008−182747)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】