説明

乗客コンベアの機械室防水構造

【課題】駆動装置の高さが機械室の高さに迫る高さでカバーの設置高さ以上に高い場合であってもカバーを設置でき、機械室の上方開口部から侵入した水が駆動装置に滴下するのを防止できる乗客コンベアの機械室防水構造を提供する。
【解決手段】トラス構造体に設けられ、内部に駆動装置10が収容された機械室11と、機械室11の上方に敷設された複数の乗降板13と、乗降板13のすぐ下方に配置され、駆動装置10のフライホイール21aの位置する箇所に、立ち上がり側壁で囲まれた開口部を有するカバー22と、立ち上がり側壁の上面に被せられ、開口部を塞ぐ蓋部26とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアの機械室防水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアであるエスカレータは、上階床と下階床の間に亘って配置されたトラス構造体と、このトラス構造体内で、且つ、上階床と下階床の各近傍位置に配置された一対の踏段チェーン歯車と、この一対の踏段チェーン歯車の間に掛け渡された無限端の踏段チェーンと、この踏段チェーンに連鎖状に支持された複数の踏段と、トラス構造体2の上面の左右位置に立設された一対の欄干と、この一対の欄干の外周を移動軌跡とする一対の移動手摺と、一方の踏段チェーン歯車に駆動チェーンを介して連結された駆動装置とを備えている。
【0003】
トラス構造体の上階床側には、機械室が設けられている。この機械室には、駆動装置や一方の踏段チェーン歯車等の主要部品が収容されている。機械室の上方には、上方開口部が形成され、この上方開口部を塞ぐように複数の乗降板が敷設されている。各乗降板は、乗客が乗るため、これに耐え得る十分な強度が必要であると共に、上方開口部が保守・点検時等における機械室への出入口となるため、人力によって移動できる重さとする必要がある。このような理由から、複数枚の乗降板を用いて機械室の上方開口部を塞いでいる。
【0004】
しかし、隣接する乗降板の間には隙間ができるため、この隙間より機械室に水が侵入し易い。侵入した水が駆動装置に滴下されると、駆動装置に不具合が発生する恐れがあるため、上方開口部からの水の侵入を防止する必要がある。特に、屋外に設置されるエスカレータにあっては、機械室防水対策が必要である。
【0005】
従来の機械室防水構造としては、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1には、乗降板のすぐ下方にカバーを配置し、乗降板の隙間から侵入した水をカバーで受けて駆動装置に滴下しないようにする技術が開示されている。
【特許文献1】実開昭54−71389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来の機械室防止構造では、駆動装置の高さが機械室の高さに対して十分に低い場合には適用可能であるが、駆動装置の高さが機械室の高さに迫る高さで、カバーの設置高さ以上に高い場合には適用できない。駆動装置には種々の形式(平置形、トップマウント形、縦形等)があり、特に、縦寸法が大きい縦形を採用した場合にはカバーの設置が困難となる可能性が高く、その対策が必要である。
【0007】
そこで、本発明は、駆動装置の高さが機械室の高さに迫る高さで、カバーの設置高さ以上であってもカバーを設置でき、機械室の上方開口部から侵入した水が駆動装置に滴下するのを防止できる乗客コンベアの機械室防水構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴は、乗客コンベアの機械室防水構造であって、トラス構造体に設けられ、内部に駆動装置が収容された機械室と、前記機械室の上方に敷設された複数の乗降板と、前記乗降板のすぐ下方に配置され、前記駆動装置の上方部品の位置する箇所に、立ち上がり側壁で囲まれた開口部を有するカバーと、前記立ち上がり側壁の上面に被せられ、前記開口部を塞ぐ蓋部とを備えたを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カバーの開口部を利用してカバーより高い位置に駆動装置の上方部品を配置できるため、駆動装置の高さがカバーの設置高さ以上であってもカバーを設置できる。そして、隣接する乗降板の隙間から侵入した水は、カバーや蓋部に滴下されると共に、カバーの上面を流れる水が立ち上がり側壁によって開口部に落下することなく排水されるため、駆動装置に滴下することがない。以上より、駆動装置の高さが機械室の高さに迫る高さで、カバーの設置高さ以上であってもカバーを設置でき、機械室の上方開口部から侵入した水が駆動装置に滴下するのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0011】
図1〜図6は本発明の機械室防水構造を乗客コンベアに適用した一実施の形態であり、図1はエスカレータの概略側面図、図2は機械室の側面図、図3は図2のA−A線の拡大断面図、図4(a)はカバーの平面図、図4(b)はカバーの側面図、図5(a)は蓋部の平面図、図5(b)は蓋部の側面図、図6はフライホイールの高さと蓋部の側壁の高さの関係を説明する側面図である。
【0012】
図1に示すように、乗客コンベアであるエスカレータ1は、上階床(図示せず)と下階床(図示せず)の間に亘って配置されたトラス構造体2と、このトラス構造体2内で、且つ、上階床と下階床の各近傍位置に配置された一対の踏段チェーン歯車3,4と、この一対の踏段チェーン歯車3,4の間に掛け渡された無限端の踏段チェーン(図示せず)と、この踏段チェーンに連鎖状に支持された複数の踏段6と、トラス構造体2の上面の左右位置に立設された一対の欄干7と、この一対の欄干7の外周を移動軌跡とする一対の移動手摺8と、一方の踏段チェーン歯車3に駆動チェーン9を介して連結された駆動装置10とを備えている。
【0013】
図2に詳しく示すように、トラス構造体2の上階床側には機械室11が設けられている。機械室11の上面には、くし板12と複数の乗降板13が敷設され、これらによって機械室11の上方開口部11aが塞がれている。各乗降板13は、乗客が乗っても十分に耐え得る強度を有し、人力で持ち上げることができる重さに設定されている。機械室11の内部には、駆動装置10や一方の踏段チェーン歯車3等の主要部品が収容されている。
【0014】
駆動装置10は、いわゆる縦形であり、減速機20と、この減速機20の上方に載置された駆動モータ21とから構成されている。駆動モータ21の上面には、駆動装置10の上方部品であるフライホイール21aが配置されている。
【0015】
図2及び図3に示すように、複数の乗降板13のすぐ下方で、且つ、駆動装置10に対応する位置には、カバー22が配置されている。カバー22は、図4(a)、(b)にも示すように、駆動装置10の上方からの投影面積以上の平板状で、且つ、一片側が開放された開口部23aを有するベース板23と、開口部23aの三辺の周縁より立設された立ち上がり側壁24とから構成されている。立ち上がり側壁24で囲まれた開口部23a内には、駆動装置10のフライホイール21aが配置されている。また、ベース板23は、図6に示すように、中央が若干高く、左右の周縁に向かうに従って徐々に低くなる湾曲形状である。なお、図6のHは水平面を示す。湾曲方向に対し直交方向の両側の周縁には立設縁部23bが折曲によって形成されている。つまり、カバー22に滴下した水は、立設縁部23bによってベース板23の左右の周縁より落下せずに、湾曲方向の両側の周縁より流れ落ちるようになっている。また、ベース板23の湾曲方向の両端部には、ネジ孔23cがそれぞれ形成されている。このネジ孔によって、ベース板23の湾曲方向の両端の下方には、樋部25(図3に示す)がそれぞれ付設される。各樋部25には、図示しない排水パイプが接続される。
【0016】
また、三方向の立ち上がり側壁24の内で、互いに対向する各側壁24には、ネジ螺入部24aが2カ所にそれぞれ設けられている。
【0017】
蓋部26は、カバー22の立ち上がり側壁24の上面に被せられ、開口部23aを塞いでいる。蓋部26は、図5(a)、(b)にも示すように、カバー22の開口部23aより若干だけ大きな方形状のプレート部27と、このプレート部27の四辺の周縁より下方に垂設された側壁28とから構成されている。互いに対向する一対の側壁28には、上下方向に長く、且つ、下端に開放されたネジ用切欠き28aが二カ所に形成されている。このネジ用切欠き28aに挿入した図示しないネジをネジ螺入部24aに螺入することによって蓋部26がカバー22に固定されている。
【0018】
また、図6に示すように、カバー22のベース板23から駆動装置10のフライホイール21aの上端までの高さをXとし、蓋部26の側壁28の高さをYとすると、X<Yに設定されている。
【0019】
上記構成において、駆動装置10の高さが機械室11の高さに迫る高さで、カバー22の設置高さ以上であっても、カバー22の開口部23a内に駆動装置10のフライホイール21aを配置することによってカバー22を設置できる。そして、隣接する乗降板13の隙間から侵入した水は、先ず、カバー22や蓋部26の上面に滴下される。蓋部26に滴下された水は側壁28を伝ってカバー22のベース板23上に流れ落ちる。ベース板23の上面の水は、立ち上がり側壁24によって開口部23aに落下することなく、湾曲形状によってベース板23の周縁に向かって流れ、樋部25等を介して排出される。以上より、駆動装置10の高さが機械室11の高さに迫る高さで、カバー22の設置高さ以上の高さであってもカバー22を設置でき、機械室11の上方開口部11aから侵入した水が駆動装置10に滴下するのを防止できる。
【0020】
また、カバー22より蓋部26を取り外せば、開口部23aより機械室11内を黙視できるため、保守・点検時に便利である。
【0021】
この実施の形態では、蓋部26の周縁には側壁28が下方に立設され、側壁28に上下方向に長いネジ用切欠き28aが設けられていると共に、カバー22の立ち上がり側壁24にはネジ螺入部24aが設けられ、ネジ用切欠き28aに挿入したネジをネジ螺入部24aに螺入することによって蓋部26がカバー22に固定される。従って、蓋部26の固定位置を高さをも含めて調整できるため、立ち上がり側壁24の上端より高い位置に位置するフライホイール21aに対しても干渉させないように固定できる。また、図6に示すように、カバー22の立ち上がり側壁24が水平方向Hに対して傾斜している場合にあっても、フライホイール21aの上面の水平に合わせて蓋部26を水平にカバー22に対して固定することができる。
【0022】
この実施の形態では、カバー22のベース板23から駆動装置10のフライホイール21aの上端までの高さをXとし、蓋部26の側壁28の高さをYとすると、X<Yに設定されているので、仮に蓋部26をネジ固定しなかった場合でも蓋部26がフライホイール21aに干渉するような事態を防止できる。
【0023】
この実施の形態では、カバー22の周縁の下方には樋部25が設けられているので、カバー22に滴下された水を機械室11に落下させることなく排水できる。
【0024】
なお、この実施の形態では、駆動装置10の上方部品がフライホイール21aであるが、フライホイール21a以外の部品であっても良いことはもちろんである。
【0025】
なお、この実施の形態では、乗客コンベアがエスカレータ1である場合を示したが、動く歩道に適用することもできることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態に係るエスカレータの概略側面図。
【図2】エスカレータの機械室の側面図。
【図3】図2のA−A線の拡大断面図。
【図4】(a)はカバーの平面図、(b)はカバーの側面図。
【図5】(a)は蓋部の平面図、(b)は蓋部の側面図。
【図6】フライホイールの高さと蓋部の側壁の高さの関係を説明する断面図。
【符号の説明】
【0027】
1 エスカレータ(乗客コンベア)
2 トラス構造体
10 駆動装置
11 機械室
13 乗降板
21a フライホイール(上方部品)
22 カバー
23 ベース板
23a 開口部
24 立ち上がり側壁
24a ネジ螺入部
25 樋部
26 蓋部
28a ネジ用切欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラス構造体に設けられ、内部に駆動装置が収容された機械室と、
前記機械室の上方に敷設された複数の乗降板と、
前記乗降板のすぐ下方に配置され、前記駆動装置の上方部品の位置する箇所に、立ち上がり側壁で囲まれた開口部を有するカバーと、
前記立ち上がり側壁の上面に被せられ、前記開口部を塞ぐ蓋部と、
を備えたことを特徴とする乗客コンベアの機械室防水構造。
【請求項2】
前記蓋部の周縁には側壁が下方に垂設され、前記側壁に上下方向に長いネジ用切欠きが設けられていると共に、前記カバーの前記立ち上がり側壁にはネジ螺入部が設けられ、前記ネジ用切欠きに挿入したネジを前記ネジ螺入部に螺入することによって前記蓋部が前記カバーに固定されることを特徴とする請求項1に記載された乗客コンベアの機械室防水構造。
【請求項3】
前記カバーのベース板から前記駆動装置の上方部品の上端までの高さをXとし、前記蓋部の前記側壁の高さをYとすると、X<Yに設定されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された乗客コンベアの機械室防水構造。
【請求項4】
前記カバーの周縁の下方には、樋部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載された乗客コンベアの機械室防水構造。
【請求項5】
前記駆動装置の上方部品は、フライホイールであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載された乗客コンベアの機械室防水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−239331(P2008−239331A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85720(P2007−85720)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】